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特開2022-184750排出が低減された積層造形用のポリマーフィラメント
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  • 特開-排出が低減された積層造形用のポリマーフィラメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184750
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】排出が低減された積層造形用のポリマーフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20221206BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20221206BHJP
   D01F 6/22 20060101ALI20221206BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20221206BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221206BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20221206BHJP
【FI】
D01F1/10
C08L101/00
C08L3/00
C08L1/00
D01F6/18 C
D01F6/22
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077163
(22)【出願日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】17/335697
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ジュディス・ヴァンデウィンケル
(72)【発明者】
【氏名】マーク・メルカンデッティ
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ・シュニュルヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ウィンターズ
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F213AA03
4F213AA04
4F213AA11
4F213AA13
4F213AA15
4F213AA21
4F213AA23
4F213AA24
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4F213AA29
4F213AA31
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4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL27
4J002AB012
4J002AB042
4J002AJ002
4J002BB031
4J002BB111
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4L035AA05
4L035BB31
4L035GG03
4L035HH10
4L035KK05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】3D印刷中の揮発性有機化合物(VOC)の排出量を減少させる溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントを提供する。
【解決手段】ポリマーフィラメントは、熱可塑性ポリマーとバイオ系添加剤とを含み、バイオ系添加剤は、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されている。溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントを形成するための方法は、熱可塑性ポリマー及びバイオ系添加剤を含む融解混合物を形成することと、融解混合物を押出し及び冷却して、熱可塑性ポリマーと混和されたバイオ系添加剤を含むポリマーフィラメントを形成することとを含み得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントであって、
熱可塑性ポリマーと、
ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ前記熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、前記熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤と、を含む、ポリマーフィラメント。
【請求項2】
前記バイオ系添加剤が、総質量に基づいて約1重量%以上で前記熱可塑性ポリマーと混和される、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項3】
前記バイオ系添加剤が、約1重量%以下の水を含む、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項4】
前記バイオ系添加剤が、約14μm以下の平均粒径を有する、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項5】
前記バイオ系添加剤が、コーヒー滓、穀物廃棄物、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項6】
前記バイオ系添加剤が、ブリューワーの使用済み穀物を含む、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ(スチレン-イソプレン-スチレン)(SIS)、ポリ(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)(SEBS)、ポリ(スチレン-ブチレン-スチレン)(SBS)、耐衝撃性ポリスチレン、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(ABS)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(ビニルピロリジン-酢酸ビニル)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)、それらの任意のコポリマー、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)ポリマーである、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ乳酸ではない、請求項1に記載のポリマーフィラメント。
【請求項10】
溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントを形成するための方法であって、
熱可塑性ポリマー及びバイオ系添加剤を含む融解混合物を形成することと、
前記融解混合物を押出し及び冷却して、前記熱可塑性ポリマーと混和された前記バイオ系添加剤を含むポリマーフィラメントを形成することと、を含み、
前記バイオ系添加剤は、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ前記熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、存在する、方法。
【請求項11】
前記バイオ系添加剤が、約1重量%以下の水を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオ系添加剤が、約14μm以下の平均粒径を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオ系添加剤が、コーヒー滓、穀物廃棄物、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオ系添加剤が、ブリューワーの使用済み穀物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)ポリマーである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ乳酸ではない.請求項10に記載の方法。
【請求項17】
積層造形プロセスであって、
熱可塑性ポリマーと、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ前記熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、前記熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤と、を含むポリマーフィラメントを提供することと、
前記ポリマーフィラメントを前記熱可塑性ポリマーの軟化温度よりも高く加熱して軟化ポリマー材料を形成することと、
前記軟化ポリマー材料を一層ずつ堆積させて印刷部品を形成することと、を含む、プロセス。
【請求項18】
前記バイオ系添加剤が、コーヒー滓、穀物廃棄物、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオ系添加剤が、ブリューワーの使用済み穀物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)ポリマーである、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、積層造形に関し、より具体的には、印刷中の揮発性有機化合物(volatile organic compound、VOC)の排出量を減少させる溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
三次元(three-dimensional、3D)印刷としても知られる積層造形は、急速に成長している技法の分野である。積層造形は、伝統的にラピッドプロトタイピング活動に使用されてきたが、この技術は、任意の数の複雑な形状の商業部品及び工業部品を製造するためにますます採用されている。積層造形プロセスは、典型的には、例えば、1)連続フィラメントから得られる融解印刷材料の流れの堆積、又は2)レーザーを使用した、印刷材料の粉末微粒子の焼結によって、一層ずつ部品を構築することによって行われる。一層ずつの堆積は、通常、コンピュータの制御下で行われて、製造される部品のデジタル三次元「設計図」に基づいて、正確な位置に印刷材料を堆積させ、堆積と併せて行われる印刷材料の圧密化によって印刷部品を形成する。印刷部品の本体を形成する印刷材料は、本明細書において「ビルド材料」と呼ぶことがある。
【0003】
部品形成に融解印刷材料の流れを用いる積層造形プロセスは、「溶融堆積モデリング」プロセス又は「溶融フィラメント製造」プロセスと呼ばれることがある。融解印刷材料は、熱可塑性ポリマーフィラメントを加熱することによって形成され、次いでそれを層ごとに堆積させて合体させることで、特定の形状を有する圧密化部品が形成される。他の積層造形技術は、ポリマー微粒子を圧密化するための加熱に依存するもので、例えば、粉末床溶融(powder bed fusion、PBF)、選択的レーザー焼結(selective laser sintering、SLS)、電子ビーム融解(electron beam melting、EBM)、バインダー噴射及びマルチジェット溶融(multi-jet fusion、MJF)、液槽光重合、指向エネルギー堆積などを挙げることができる。
【0004】
積層造形技術が商業的、教育的、及び家庭的環境においてますます普及するにつれて、操作上の安全性を高めることにますます焦点が当てられている。これらの技術において遭遇し得る1つの問題は、特に、ポリマーフィラメント、ポリマー微粒子、又はポリマーシートなどの印刷材料を、少なくとも押出、印刷、及び積層造形並びに同様のプロセスの過程において、圧密化のためにそれらの軟化温度まで加熱している間に、揮発性有機化合物(volatile organic compound、VOC)が生成されることである。スチレン又はアクリルモノマー単位を含有する熱可塑性ポリマー、例えばポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(acrylonitrile-butadiene-styrene、ABS)は、特に有害なVOCを遊離し得る。潜在的な健康への影響を軽減するために、積層造形ユニットにエアフィルタを取り付けることができ、かつ/又は換気されたワークスペースで操作することができる。しかしながら、これらの手段は、煩雑であり、すべての環境で適用可能となるわけではない。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、積層造形中のVOC排出を低減するためのバイオ系添加剤と、バイオ系添加剤を含有する印刷材料を製造する方法とに関する。
【0006】
いくつかの態様では、溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントは、熱可塑性ポリマーと、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(total volatile organic compound、TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤と、を含む。
【0007】
いくつかの態様では、溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントを形成するための方法は、熱可塑性ポリマー及びバイオ系添加剤を含む融解混合物を形成することと、融解混合物を押出し及び冷却して、熱可塑性ポリマーと混和されたバイオ系添加剤を含むポリマーフィラメントを形成することとを含み、バイオ系添加剤は、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、存在する。
【0008】
いくつかの態様では、積層造形プロセスは、熱可塑性ポリマーと、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤とを含むポリマーフィラメントを提供することと、ポリマーフィラメントを熱可塑性ポリマーの軟化温度よりも高く加熱して軟化ポリマー材料を形成することと、軟化ポリマー材料を一層ずつ堆積させて印刷部品を形成することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の図は、本開示の特定の態様を例示するために含まれ、排他的な実施形態として見られるべきではない。開示される主題には、その形態及び機能において、当業者が想到し、しかも本開示の利益を有するような、相当な修正、変更、組み合わせ、及び等価物を考えることができる。
【0010】
図1】ビルド材料及び除去可能な支持体材料を使用して印刷部品を生産するための例示的な溶融フィラメント製造プロセスの図である。
【0011】
図2】張り出し部を有する例示的な印刷部品の図である。
【0012】
図3A】本開示の比較例及び実施例であるフィラメントのTEM画像を示す。
図3B】本開示の比較例及び実施例であるフィラメントのTEM画像を示す。
図3C】本開示の比較例及び実施例であるフィラメントのTEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、概して、積層造形に関し、より具体的には、印刷中の揮発性有機化合物(VOC)の排出量を減少させる溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントに関する。
【0014】
積層造形は、様々な粉末粒子状及びフィラメント系の印刷材料を利用し得る、成長している技法の分野である。利用可能な印刷材料の数は急速に拡大しているが、射出成形などの競合する製造技術に利用可能なものの範囲と比べると、好適なポリマーの種類は少ないままである。商業的、教育的、及び家庭的環境での使用が増えるにつれ、積層造形プロセスに関連する環境衛生及び安全性がますます重要視されている。積層造形プロセスは、堆積及び圧密化中にポリマー原料を劣化境界温度まで加熱することがあり得るため、エアロゾル化微粒子及び揮発性有機化合物(VOC)の排出が最近になって懸念されている。VOC及び粒子状の排出は、適切な換気及びフィルタリングで対処し得るが、場合によっては面倒であるか、又は費用がかかることもあり得る。更に、操作者は、そのような安全対策が一部の印刷材料に対して必要であることに気付かない場合があり、非工業的な環境では、換気が経済的に実現可能でなく、空気の質の監視及び制御がより困難な場合もある。
【0015】
本開示は、ポリマーフィラメント内に1つ以上のバイオ系添加剤を含めることによって、溶融フィラメント製造中などの積層造形中に、VOC排出が驚くほど低下し得ることを実証する。いかなる特定の理論によっても限定されるものではないが、バイオ系添加剤は、VOCを効果的に封じ込めてVOCが周囲へ排出されるのを減少させることが可能な炭素源を提供すると考えられる。有利なことに、好適なバイオ系添加剤として、さもなければ埋立地に廃棄されるか、又は堆肥化などの時間のかかるバイオリサイクル作業が必要となるかもしれない製造プロセスから大量に排出される様々なバイオ廃棄物の流れを挙げることができる。好適なバイオ系添加剤としては、例えば、コーヒー滓及び/又はブリューワーの使用済み穀物を挙げることができる。積層造形に適したポリマーフィラメント中にそのようなバイオ系添加剤を組み込むことによって、積層造形プロセスの環境への影響を改善し得るとともに、循環型経済及び資源のより効率的な使用への一歩を踏み出すことができる。更に別の利点として、それと組み合わせたバイオ系添加剤を有するポリマーフィラメントは、様々な積層造形プロセスでの使用に利用可能なポリマー材料の幅を拡大し続けることができる。
【0016】
本明細書の説明及び特許請求の範囲で使用される用語は、以下の説明によって修正される場合を除き、明白かつ通常の意味を有する。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「熱可塑性ポリマー」は、加熱及び冷却により、可逆的に軟化及び硬化するポリマー材料を指す。熱可塑性ポリマーは、熱可塑性エラストマーを包含する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「総揮発性有機化合物」(TVOC)という用語は、大気排出又は周囲空気中に存在する有機化合物の群を説明するために使用される。TVOCは、試料から排出された有機化合物の様々な種類の寄与を合計したものであり、有機物として、典型的な沸点が約0℃~約100℃であり、かつ炭素数が6未満である超揮発性有機化合物(very volatile organic compound、VVOC)と、典型的な沸点が約100℃~約260℃であり、かつ炭素数が6~16の範囲である揮発性有機化合物(VOC)と、典型的な沸点が約260℃~約400℃であり、かつ炭素数が16以上である半揮発性有機化合物(semi-volatile organic compound、SVOC)とが挙げられる。
【0019】
熱可塑性ポリマーの融点は、特に指定がない限り、10℃/分の昇温速度及び冷却速度で、ASTM E794-06(2018)によって決定される。
【0020】
熱可塑性ポリマーの軟化温度又は軟化点は、特に指定がない限り、ASTM D6090-17によって決定される。軟化温度は、1℃/分の加熱速度で0.50グラムの試料を使用して、Mettler-Toledoから入手可能なカップアンドボール装置を使用することで測定することができる。
【0021】
本明細書に開示されるポリマーフィラメント及び積層造形プロセスからのVOC排出は、材料及び製品からの排出を検出するための任意の好適な技術を使用して決定され得る。1つの方法では、VOCは、ガスクロマトグラフィー及び/又は質量分析によって検出され得、その間に、VOCは、部品の圧密化を促進するために使用される積層造形条件をシミュレートする加熱条件下で測定され得る。例えば、VOCを決定するために、3℃/分の昇温速度で230℃から260℃まで試料を加熱し、揮発性物質を収集し、この温度範囲にわたって分析することができる。得られたデータは、試料1グラムあたりのμg単位で総TVOCとして報告される。
【0022】
VOC排出量を測定する他の好適な方法としては、ASTM D5116-17及びUL 2904-「3Dプリンタからの粒子及び化学排出を試験及び評価するための方法(Method for Testing and Assessing Particle and Chemical Emissions from 3D Printers)」を挙げることができる。TVOCを測定するために利用され得る機器として、ハロカーボン、アルコール、テルペン、アルデヒド、ケトン、エーテル、シロキサンなどの揮発性有機物を定量化するための任意の好適なシステムが挙げられる。試験システムには、液体クロマトグラフィー-質量分析(liquid chromatography-mass spectrometry、LC-MS)、ガスクロマトグラフィー-質量分析(gas chromatography-mass spectrometry、GCMS)、タンデム質量分析による液体クロマトグラフィー(LC/MS/MS)、タンデム質量分析によるガスクロマトグラフィー(GC/MS/MS)、又はタンデム質量分析による高速液体クロマトグラフィー(HPLC-LC/MS/MS)、電子捕獲負イオン化モードでのタンデム質量分析によるガスクロマトグラフィー(GC/MSECNI)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
本開示の様々な態様を更に詳細に論じる前に、本開示の特徴がより良好に理解され得るように、積層造形プロセス、特に溶融フィラメント製造プロセスについての簡単な考察を最初に提供する。図1は、ビルド材料及び除去可能な支持体材料を使用して部品を生産するための例示的な溶融フィラメント製造プロセスの概略図である。図1に示すように、印刷ヘッド100は、第1の押出機102aと、第2の押出機102bとを含み、これらは各々、繊維状印刷材料を受容するように構成されている。具体的には、第1の押出機102aは、第1の繰出リール106aから第1のフィラメント104aを受容し、第1の印刷材料の融解流108aを提供するように構成されており、第2の押出機102bは、第2の繰出リール106bから第2のフィラメント104bを受容し、第2の印刷材料の融解流108bを提供するように構成されている。
【0024】
いずれの融解流も、最初に印刷床(図1に示さず)上に堆積され、支持された部品120の一層ずつの成長を促進する。第1の押出機102aによって供給される第1の印刷材料(ビルド材料)は、部品110を製造するために使用されるポリマーであってもよく、第2の押出機102bによって供給される第2の印刷材料(除去可能な支持体材料)は、張り出し部114の下で除去可能な支持体112を製造するために使用される犠牲材料である溶解性又は分解性ポリマーであってもよい。張り出し部114は、印刷床又はビルド材料から形成された下部印刷層と直接接触していない。図1に示す部品配置では、除去可能な支持体112は、張り出し部114と印刷床との間に介在するが、代替的に構成された部品では、除去可能な支持体114は、部品110の2つ以上の部分の間に介在してよいことを理解されたい。図2は、例えば、例示的な部品200を示しており、除去可能な支持体202が、部品200と印刷床204との間に画定された張り出し部の間に介在し、除去可能な支持体206は、部品200の2つの部分の間に介在する。
【0025】
再び図1を参照すると、印刷部品110及び除去可能な支持体112の印刷がひとたび完了すると、支持された部品120は、除去可能な支持体112の排除をもたらす支持体除去条件125(例えば、溶解又は崩壊条件など)に供され得、張り出し部114を有する印刷部品110をその上に支持されないままにしておく。支持体除去条件125は、例えば、除去可能な支持体112が溶解又は分解可能であり、かつ印刷部品110がそうではない溶媒又は他の液体媒体に、支持された部品120を接触させることを含み得る。除去可能な支持体112は、選択的溶解又は分解を支持するために、印刷部品110とは異なる熱可塑性ポリマーを含み得る。
【0026】
印刷部品が張り出し部又は同様の特徴部なしで形成されている場合、印刷部品の製造中に除去可能な支持材料を利用する必要はない。同様に、1つ以上のビルド材料が本質的に構造的であり、1つ以上のビルド材料が本質的に機能的である場合など、2つ以上の異なるビルド材料も同様に利用され得る。非限定的な例では、構造ポリマーは、本開示に従って、それと混和されたバイオ系添加剤で同時に印刷され得る。
【0027】
開示された溶融フィラメント製造に好適な本開示のポリマーフィラメントは、熱可塑性ポリマーと、溶融フィラメント製造中などの積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤とを含み得る。本明細書に開示される概念はまた、粒子圧密化を用いる積層造形プロセスにも適用可能であり得ることを理解されたい。減少したTVOC排出量は、熱可塑性ポリマー単独と比較して測定され得、TVOCの減少は重量ベースで少なくとも約10%である。TVOC測定値及びその減少は、積層造形条件をシミュレートする加熱条件下で、ガスクロマトグラフィー及び/又は質量分光法によって測定され得る。特に、TVOC測定値は、試料を230℃から260℃まで3℃/分の昇温速度で加熱し、この温度範囲にわたって排出される揮発性物質を収集及び分析することによって得られ得る。得られたデータは、試料1グラムあたりのμg単位で総TVOCとして報告され得る。
【0028】
積層造形に好適なポリマーフィラメントは、直径約0.5mm~約10mm、直径約1mm~約5mm、特に直径約1.5mm~約3.5mmの範囲であり得る。溶融フィラメント製造技法を用いる多くの三次元プリンタの標準的なフィラメント径は、1.75mm又は2.85mm(約3.0mm)である。いくつかの一般的な範囲が提供されるが、ポリマーフィラメント直径は、本開示の範囲から逸脱することなく、選択されたプリンタシステムのための駆動システムに従って寸法決めされ得る。同様に、本明細書に開示するプロセスにおいて、ポリマーフィラメントの長さ及び/又は色は、特に限定されないと考えられる。好ましくは、本明細書に開示されるポリマーフィラメントは、連続的かつスプール可能な長さ、例えば、少なくとも約0.3m、又は少なくとも約2m、又は少なくとも約3m、又は少なくとも約4m、又は少なくとも約10m、又は少なくとも約30m、又は少なくとも約60m、又は少なくとも約100m、又は少なくとも約200mである。
【0029】
ポリマーフィラメントが積層造形、特に溶融フィラメント製造に適しているかどうかを決定し得る他の特性には、フィラメントの押出に必要な温度が含まれ、この温度は不必要に高い温度ではない。溶融フィラメント製造のための適切なフィラメントは、印刷ノズルからの滲出又は印刷ノズルの目詰まりなどの印刷問題を最小限に抑えることができる。本明細書に開示されるポリマーフィラメントに含めるのに適する材料は、印刷床から容易に分離する部品を形成し、いったん印刷されると十分な機械的強度を有し、良好な層間接着を呈し得る。好適なポリマーフィラメントの追加の特性を以下に明記する。
【0030】
本明細書の開示のポリマーフィラメント内に含めるのに適する熱可塑性ポリマーは、バイオ系添加剤が、積層造形条件下でTVOCを減少させるのに有効な量で、融解混合のような好適な混合プロセスを通じてそれと混和され得ることを条件に、特に限定されないと考えられている。好適な熱可塑性ポリマーのいくつかの例は、約50℃~約400℃、又は約70℃~約275℃、又は約100℃~約200℃、又は約175℃~約250℃の範囲の温度での堆積を容易にするのに十分な軟化温度又は融点を呈してよい。融点は、10℃の昇温速度及び冷却速度でASTM E794-06(2018)を使用して決定され得、軟化温度は、ASTM D6090-17を使用して決定され得る。
【0031】
好適な熱可塑性ポリマーの例示的例としては、溶融フィラメント製造で一般的に用いられるもの、例えば、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ(スチレン-イソプレン-スチレン)(styrene-isoprene-styrene、SIS)、ポリ(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)(styrene-ethylene-butylene-styrene、SEBS)、ポリ(スチレン-ブチレン-スチレン)(styrene-butylene-styrene、SBS)、耐衝撃性ポリスチレン(high-impact polystyrene、HIPS)、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(acrylonitrile-butadiene-styrene、ABS)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(ビニルピロリジン-酢酸ビニル)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン))、ポリビニルピロリドン-co-ポリ酢酸ビニル(acrylonitrile-butadiene-styrene、PVP-co-PVA)、それらの任意のコポリマー、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられ得る。いくつかの例では、熱可塑性ポリマーは、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)などのスチレンポリマーであり得る。他の特定の例では、熱可塑性ポリマーは、ポリ乳酸ではない。
【0032】
本明細書に開示されるポリマーフィラメントに組み込むのに好適なバイオ系添加剤は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、タンパク質などを含むがこれらに限定されない、様々な組成及び濃度の炭素質化合物を有する生物学的に誘導された材料を含み得る。調達後、好適なバイオ系添加剤は、熱可塑性ポリマーと混合される前に、物理的又は化学的方法による除菌及び/又は滅菌、清澄化、粉砕、ふるい、選別、過剰な油を取り除くためのプレス、洗浄、有機物を取り除くための溶剤抽出、乾燥などの1つ以上の前処理操作を受け得る。
【0033】
バイオ系添加剤の前処理は、空気乾燥、真空乾燥、及び/又はフリーズドライ(凍結乾燥)による脱水を含む、過剰な流体及び水分を除去するために、任意の好適な方法によってそこから水を除去することを含み得る。好適なバイオ系添加剤は、任意で前処理後に、約0.1重量%以下、約0.5重量%以下、又は約1重量%以下の水分含量を含み得る。
【0034】
バイオ系添加剤の前処理は、追加的又は代替的に、切断、研削、極低温研削、ミル粉砕、破砕、微粉砕、超音波処理、均質化、及び同様の粒径低減技術などの任意の好適な方法によって、バイオ系添加剤の粒径を低減することを含み得る。粒径の低減は、融解混合中の熱可塑性ポリマー内のバイオ系添加剤の分散を増強するのに役立ち得る。本明細書の開示における使用に適するバイオ系添加剤は、マイクロメートル又はナノメートルサイズの範囲の平均粒子径を有し得る。特定の例では、好適なバイオ系添加剤は、約16μm以下、又は約14μm以下、又は約10μm以下の平均粒径(D50)を有し得る。バイオ系添加剤のいくつかの例は、約0.1μm~約20μm、約0.4μm~約14μm、又は約0.4μm~約10μmの範囲の平均粒径(D50)を有し得る。そのような平均粒径測定は、SEM分析を含む光学画像の分析によって、又はBeckman Coulter社によるMultisizer 3のオンボードソフトウェアを使用して行い得る。いくつかの粒径及び範囲が提供されるが、粒径は、選択された積層造形プラットフォームへの供給の要件、熱可塑性ポリマーの性質など、用途固有のニーズに応じて、より大きく又はより小さくなり得る。
【0035】
本明細書の開示における使用に適するバイオ系添加剤は、穀物、加工穀物、穀物廃棄物、及び穀物副生成物を含み得る。例としては、蒸留器産物、ブリューワーの使用済み穀物、コーングルテン、ソルガム胚芽ケーキ及びミール、落花生種皮、小麦ふすまが挙げられ得るが、これらに限定されない。好適な穀物、穀物廃棄物などは、大麦、トウモロコシ、オート麦、米、ソルガム、小麦、それらの任意の混合物などのいずれか1つ以上に由来し得る。本開示のいくつかのポリマーフィラメントは、ビール醸造プロセスに由来し得るブリューワーの使用済み穀物を含み得る。本明細書の開示における使用に適する追加のバイオ系添加剤は、コーヒー豆及びコーヒー豆滓(使用済みコーヒー滓を含む)を含み得る。これらのバイオ系添加剤は、単独で、又は本明細書に開示されるポリマーフィラメント中の穀物、穀物廃棄物などと組み合わせて使用され得る。
【0036】
更に他のバイオ系添加剤としては、カノーラミール、綿実ケーキ及びミール、サフラワーミール、大豆(有機大豆及び遺伝子組換え大豆を含む)飼料及びミールなどの植物性タンパク質製品と、アルファルファ、バーズフットトレフォイル、アブラナ科(例えば、ショーモリエ)、ケール、菜種(キャノーラ)、ルタバガ、及びカブ、草(例えば、ニセアカシア、フェスク、バミューダグラス、ブローム、ヒースグラス、メドウグラス、オーチャードグラス、ライグラス、及びチモシーグラス)、キビ、及び大豆などの植物材料のような繊維状材料と、草、籾殻、綿、ジュート、麻、亜麻、竹、サイザル麻、アバカ、藁、トウモロコシの穂軸、籾殻、ヤシ毛、藻類、海藻、ホテイアオイ、キャッサバ、バガス、アーモンド殻、挽き割り殻、そば殻、豆類、合成セルロースなどの外皮及び繊維状物質と、加工及び再生紙製品、木材、木材関連資材、パーティクルボードなどとが、挙げられ得る。
【0037】
本明細書に開示されるポリマーフィラメント中のバイオ系添加剤の充填は、所望の程度のTVOC低減を達成するように調整され得る。例示的例では、バイオ系添加剤は、少なくとも約10%のTVOC低減、又は約25%のTVOC低減、又は少なくとも約40%のTVOC低減、又は少なくとも約60%のTVOC低減、又は少なくとも約80%のTVOC低減を達成する有効量で存在し得る。低減率は、式│TVOCpoly-TVOCfil│/TVOCpolyで決定し得るもので、式中、TVOCpolyは、ポリマー単独のTVOCであり、TVOCfilは、バイオ系添加剤を含有するポリマーフィラメントのTVOCである。いくつかの例では、バイオ系添加剤は、本開示のポリマーフィラメント(又はポリマーフィラメントを形成するために使用されるポリマー融解物)を約0.5重量%以上、又は約1重量%以上、又は約2重量%以上、又は約5重量%以上、又は約10重量%以上で、含み得る。より具体的な例では、バイオ系添加剤は、約0.5重量%~約10重量%、又は約0.5重量%~約7.5重量%、又は約1重量%~約5重量%、又は約1重量%~約4重量%の範囲の量でポリマーフィラメント(又はポリマーフィラメントを形成するために使用されるポリマー融解物)中に存在し得る。いくつかの範囲が例として提供されるが、バイオ系添加剤の充填は、ポリマーフィラメントが連続フィラメントとして構造的完全性を維持し、本明細書で指定された場合、積層造形中のTVOC排出を依然として減少させながら、溶融フィラメント製造によって印刷可能なままであるように選択され得る。
【0038】
本開示のポリマーフィラメントは、融解混合プロセスによって形成され得る。好適な融解混合プロセスは、熱可塑性ポリマーとバイオ系添加剤との融解混合によって行われ、続いて、得られた融解混合物の押出が行われ得る。別の選択肢として、融解混合は、押出機での押出を介して直接行われ得る。フィラメント押出中、熱可塑性ポリマーは、単軸又は多軸押出機などの押出機内で、1つ以上のバイオ系添加剤及び追加の任意の添加剤と融解混合され、機械的にダイを通過し得る。融解ポリマー混合物は、ダイ内の1つ以上の開口に従って寸法決めされて連続ポリマーフィラメントを形成し得る。ポリマーフィラメントが冷却すると、溶融フィラメント製造のために印刷デバイスを供給するなどの最終使用用途に好適な形態に収集及びスプールされ得る。加えて、融解混合されたポリマー組成物はまた、本開示から逸脱することなく、用途に応じて、ペレット化形態を含む他の形態に変換され得る。
【0039】
したがって、本開示によるポリマーフィラメントを形成するための方法は、熱可塑性ポリマー及びバイオ系添加剤を含む融解混合物を形成することと、融解混合物を押出し及び冷却して、熱可塑性ポリマーと混和されたバイオ系添加剤を含むポリマーフィラメントを形成することとを含み、バイオ系添加剤は、積層造形条件下で、TVOC排出を、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、存在する。
【0040】
本開示による溶融フィラメント製造によって行われる積層造形プロセスは、本明細書に記載されるポリマーフィラメントを提供することと、ポリマーフィラメントを融点又は軟化温度を超える温度で加熱して軟化ポリマー材料を形成することと、軟化ポリマー材料を一層ずつ堆積させて印刷部品を形成することと、を含み得る。ポリマーフィラメントは、それ自体で一層ずつ堆積されるか、又は同じく連続フィラメントから堆積させた好適な除去可能な支持体材料(犠牲材料)と組み合わせて、印刷部品を形成し得る。好適なタイプの部品は、本開示において特に限定されないと考えられる。
【0041】
いくつかの溶融フィラメント製造方法では、印刷ヘッドは、ビルド材料を含む第1のポリマーフィラメントが第1の押出機から堆積されるように、1つ以上の押出機を含み得る。ビルド材料は、上記の開示によるポリマーフィラメントを含み得る。任意選択的に、除去可能な支持体材料(犠牲材料)を含む第2のポリマーフィラメントは、第2の押出機から堆積されて、ビルド材料から形成された印刷部品内の1つ以上の張り出し部を画定するための除去可能な支持体を形成し得る。第2のビルド材料も、本明細書に開示されるポリマーフィラメントと共に交互に堆積され得る。
【0042】
ポリマーフィラメントは、本明細書の開示に従って形成される場合に特に有利であり得るが、バイオ系添加剤を含むポリマー組成物は、融解混合後にペレット又は粒子を含む他の形状に形成され得るものとして理解されるべきである。例えば、熱可塑性ポリマー及び1つ以上のバイオ系添加剤を融解混合して、その後、押出して大きな繊維状にし、次いで、これを切断、細断、粉砕などすることで、ポリマーと混和されたバイオ系添加剤を各々含有するポリマーペレット又はポリマー粉末が得られ得る。ポリマーペレット又はポリマー粉末の形態は、積層造形に適したポリマーフィラメントの形態と同様であり得る。ポリマーフィラメントと同様に、ポリマーペレット又はポリマー粉末は、その後、好適な積層造形条件下で印刷部品に加工され得る。
【0043】
積層造形に加えて、熱可塑性ポリマーと、TVOC排出を減少させるのに有効な量でそれに混和されたバイオ系添加剤とを組み込んだポリマーペレット(又は他のポリマー組成物)は、例えば、押出成形、共押出成形、押出コーティング、射出成形、射出ブロー成形、射出ストレッチブロー成形、熱成形、キャストフィルム押出、ブローフィルム押出、発泡、押出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、回転成形、引抜成形、カレンダー加工、ラミネート加工などの他の製造技術に適用可能であり得る。
【0044】
本明細書に開示される実施形態は以下を含む。
【0045】
A.溶融フィラメント製造と適合性のあるポリマーフィラメント。ポリマーフィラメントは、熱可塑性ポリマーと、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤とを、含む。
【0046】
B.溶融フィラメント製造に適合するポリマーフィラメントを形成するための方法。本方法は、熱可塑性ポリマー及びバイオ系添加剤を含む融解混合物を形成することと、融解混合物を押出し及び冷却して、熱可塑性ポリマーと混和されたバイオ系添加剤を含むポリマーフィラメントを形成することとを含み、バイオ系添加剤は、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、存在する。
【0047】
C.積層造形プロセス。積層造形プロセスは、熱可塑性ポリマーと、ガスクロマトグラフィーによって決定され、かつ熱可塑性ポリマー単独に対して測定された場合、積層造形条件下で総揮発性有機化合物(TVOC)排出を重量ベースで少なくとも約10%減少させるのに有効な量で、熱可塑性ポリマーと混和されているバイオ系添加剤と、を含むポリマーフィラメントを提供することと、ポリマーフィラメントを熱可塑性ポリマーの軟化温度よりも高く加熱して軟化ポリマー材料を形成することと、軟化ポリマー材料を一層ずつ堆積させて印刷部品を形成することとを、含む。
【0048】
実施形態A、B、及びCの各々は、以下の追加要素のうちの1つ以上を任意の組み合わせで有し得る。
【0049】
要素1:バイオ系添加剤が、TVOC排出を重量ベースで少なくとも約25%減少させるのに有効な量で存在する。
【0050】
要素2:バイオ系添加剤が、総質量に基づいて約1重量%以上で熱可塑性ポリマーと混和される。
【0051】
要素3:バイオ系添加剤が、フリーズドライされる。
【0052】
要素4:バイオ系添加剤が、約1重量%以下の水を含む。
【0053】
要素5:バイオ系添加剤が、約14μm以下の平均粒径を有する。
【0054】
要素6:バイオ系添加剤が、約0.4μm~約14μmの平均粒径を有する。
【0055】
要素7:バイオ系添加剤が、コーヒー滓、穀物廃棄物、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0056】
要素8:バイオ系添加剤が、ブリューワーの使用済み穀物を含む。
【0057】
要素9:熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ(スチレン-イソプレン-スチレン)(SIS)、ポリ(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)(SEBS)、ポリ(スチレン-ブチレン-スチレン)(SBS)、耐衝撃性ポリスチレン、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(ABS)、ポリメチルメタクリレート、ポリ(ビニルピロリジン-酢酸ビニル)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)、それらの任意のコポリマー、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるポリマーを含む。
【0058】
要素10:熱可塑性ポリマーが、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)ポリマーである。
【0059】
要素11:熱可塑性ポリマーが、ポリ乳酸ではない。
【0060】
非限定的な実施例として、A、B、及びCに適用可能な例示的な組み合わせとしては、1と2;1と、3又は4;1と、5又は6;1と、7又は8;1と9;1と10;1と11;2と、3又は4;2と、5又は6;2と、7又は8;2と9;2と10;2と11;3又は4、及び5又は6;3又は4、及び7又は8;3又は4と、9;3又は4と、10;3又は4と、11;5又は6、及び7又は8;5又は6と、9;5又は6と、10;5又は6と、11;7又は8、及び9、7、8又は10;7又は8と、11;9と10;9及び11;並びに10及び11が挙げられる。
【0061】
本開示のより良好な理解を促進するために、好ましい又は代表的な実施形態の以下の実施例が与えられる。以下の実施例は、決して、本発明の範囲を制限するか、又は定義するように読解されるべきではない。
【実施例0062】
以下の実施例では、以下に更に指定されるように、選択されたバイオ系添加剤と混和されたポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(ABS)ポリマーを用いてポリマーフィラメントを調製した。185℃に加熱されたバレル内に単軸押出機を備えたFilabot EX6フィラメントデバイスを使用して、試料ポリマーフィラメントを調製した。試料成分をデバイス内に充填して混和し、フィラメントを2.85mmのダイを通して押出し、空冷して、スプールに巻き取った。
【0063】
比較試料。ABS単独を押出しすることによって、比較試料ポリマーフィラメントを調製した。フィラメントは白色であった。
【0064】
試料1:ABS-ブリューワーの使用済み穀物(ビール醸造廃棄物)。4重量%のブリューワーの使用済み穀物(ビール醸造廃棄物)を含有するABSから、試料1のポリマーフィラメントを作り出した。ABSと組み合わせる前に、ブリューワーの使用済み穀物を、3日間フリーズドライすることによって脱水し、含水量を1%未満にした。次いで、乾燥させた粉砕物をブレード粉砕機に移して粉砕し、58μmのふるいでふるいにかけた。Multisizer 3(Beckman Coulter)を使用した粒子分析によって決定されたように、粒子は、D50直径が14μm未満を呈した。得られたフィラメントは薄茶色で、表面にはバイオ系添加剤による斑点が観察された。
【0065】
試料2:ABS-使用済みコーヒー滓。4重量%の使用済みコーヒー滓を含有するABSから、試料2ポリマーフィラメントを作り出した。ABSと組み合わせる前に、使用済みコーヒー滓を、脱水機を使用して24時間乾燥させ、含水量を1%未満にした。次いで、乾燥させた粉砕物をブレード粉砕機に移して粉砕し、58μmのふるいでふるいにかけた。Multisizer 3(Beckman Coulter)を使用した粒子分析によって決定されたように、粒子は、D50直径が11μm未満を呈した。得られたフィラメントは薄茶色で、表面にはバイオ系添加剤による斑点が観察された。
【0066】
図3A図3B、及び図3Cは、比較試料、試料1、及び試料2のフィラメントの透過型電子顕微鏡(transmission electron microscopy、TEM)画像を示す。TEM画像の白色部分は、フィラメントの多孔性を示す。示されるように、バイオ系添加剤を含有する試料は、より低い程度の多孔性を呈し、試料2は、視覚的に最も低い多孔性を呈した。
【0067】
試験片。試料1、試料2、及び比較試料のドッグボーン試験片を、Ultimizer S5 3-Dプリンタを使用してASTM D638-14に従って生成した。印刷は、印刷ヘッド温度240℃、床温度80℃、及び線高0.2mmで実施した。ASTM D638によって、試験片の引張強度を測定した。どの試料も同様の機械的特性性能を示した。
【0068】
TVOC測定。ABSフィラメントを印刷するのに好適な積層造形条件を模倣することを意図した加熱条件下で、ポリマーフィラメントを分析した。シミュレートされた積層造形条件下で、3℃/分の昇温速度で230℃から260℃まで試料を加熱し、この温度範囲中に揮発物を収集して、TVOC排出を決定した。TVOCの排出は、ガスクロマトグラフィー/質量分析計を併用して測定した。
【0069】
測定されたTVOC排出を以下の表1にまとめる。比較試料のTVOCの測定値を使用して、試料1及び試料2のTVOC排出の差分率及び減少率を決定した。減少率は、式│TVOCpoly-TVOCfil│/TVOCpolyによって決定し、差分率は、式TVOCpoly-TVOCfil│/(TVOCpoly+TVOCfil)/2によって決定し、式中、TVOCpolyはポリマー単独のTVOC、及びTVOCfilは、バイオ系添加剤を含有するポリマーフィラメントのTVOCである。
【表1】
【0070】
比較試料に対するスチレンの個々の低減もGC/MSで分析し、表2に示すように、積層造形条件下で試料1及び2の各々について38%の減少率を示した。
【表2】
【0071】
本明細書に記載されるすべての文書は、そのような実施が許可されるすべての法域の目的のために、参照により本明細書に組み込まれ、このテキストと矛盾しない範囲で、任意の優先文書及び/又は試験手順を含む。前述の一般的な説明及び具体的な実施形態から明らかなように、本開示の形態が例示及び説明されてきたが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正を行うことができる。したがって、本開示はそれにより限定されることは意図されていない。例えば、本明細書に記載される組成物は、本明細書に明示的に列挙又は開示されていない任意の構成成分、又は組成物を含まなくてもよい。任意の方法は、本明細書に列挙又は開示されていないいかなる工程を欠いてもよい。同様に、用語「備える、含む(comprising)」は、用語「含む(including)」と同義であると考えられる。方法、組成物、要素又は要素の群が移行句「備える、含む(comprising)」で先行する場合はいつでも、本発明者らがまた、組成物、要素、又は複数の要素の列挙に先行する移行句「から本質的になる」、「からなる」、「からなる群から選択される」、又は「である」で同じ組成物又は要素の群を企図すること、及びその逆もまた同様であることは理解される。
【0072】
別途記載のない限り、本明細書及び関連する特許請求の範囲で使用される成分、分子量などの特性、反応条件などの量を表す全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明の実施形態によって得ることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではなく、それぞれの数値パラメータは、報告された有効数字の数に照らして、通常の四捨五入法を適用することによって解釈されるべきである。
【0073】
下限及び上限を有する数値範囲が開示されるときはいつでも、その範囲内にある任意の数及び任意の含まれる範囲が具体的に開示される。とりわけ、本明細書に開示される(「約a~約b(from about a to about b)」、又は等しく「約a~b(approximately a to b)」、又は等しく「約a~b(from approximately a-b)」という形態の)値の全ての範囲は、広範な値の範囲内に包含される全ての数及び範囲を記載するものと理解されるべきである。また、特許請求の範囲における用語は、特許権所有者によって明示的かつ明確に定義されない限り、平易な通常の意味を有する。加えて、請求項で使用するとき、不定冠詞「a」又は「an」は、本明細書において、それが導入する要素のうちの1つ又は1つ超を意味するように定義される。
【0074】
1つ以上の例示的な実施形態が本明細書に提示される。明確にするために、物理的実装の全ての特徴が本出願に記載又は表示されているわけではない。本開示の物理的な実施形態の開発では、システム関連、ビジネス関連、政府関連、及び他の制約によるコンプライアンスなど、実装によって及び随時に変化する開発者の目標を達成するために、数多くの実装固有の決定がなされなければならないことは理解される。開発者の努力に多くの時間が費やされる可能性があるが、それでも、そのような努力は、本開示の利益を有する当業者にとって日常的な仕事であろう。
【0075】
したがって、本開示は、言及された目標及び利点、並びにそれに固有の目標及び利点を達成するように十分に適合されている。上述の具体的な実施形態は例示的なものに過ぎず、本明細書に教示の利益を有する当業者にとって明らかである、異なるが同等の様式で本開示が修正及び実施され得る。更に、以下の特許請求の範囲に記載されるもの以外の、本明細書に示される構造又は設計の詳細に限定することを意図するものではない。したがって、上記に開示された具体的な例示的実施形態が、変更され、組み合わされ、又は修正され得、すべてのそのような変形が、本開示の範囲及び趣旨内で考慮されることは明らかである。好適に本明細書に例示的に開示される実施形態は、本明細書に具体的に開示されない任意の要素、及び/又は本明細書に開示される任意の任意選択の要素の不在下で実施されてもよい。
図1
図2
図3A
図3B
図3C