(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184754
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】気体の分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079189
(22)【出願日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2021090857
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水野 耀介
(72)【発明者】
【氏名】広沢 洋帆
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA01
4D006HA41
4D006HA61
4D006HA62
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4D006PB66
4D006PB68
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】目的成分を高い分離効率で精製可能な気体の分離方法を提供すること。
【解決手段】 水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の成分を富化するための気体分離膜ユニットを用いた気体の分離方法であって、
前記混合気体を前記気体分離膜ユニットに供給する工程(以下、供給工程という)と、
前記気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する工程(以下、昇温工程という)を含み、
前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が0.5kPa以上10kPa以下であり、
前記昇温工程における昇温によって、前記気体分離膜ユニット内部における混合気体の飽和水蒸気圧を高くする、気体の分離方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の成分を富化するための気体分離膜ユニットを用いた気体の分離方法であって、
前記気体分離膜ユニットは、昇温設備及び気体分離膜モジュールを含み、
前記混合気体を前記気体分離膜ユニットに供給する工程(以下、供給工程という)、
前記気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する工程(以下、昇温工程という)、
及び、気体分離膜モジュールにて前記混合気体を分離する工程(以下、分離工程という)を有し、
前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が0.5kPa以上20kPa以下であり、
前記昇温工程における昇温によって、前記気体分離膜モジュール内部における混合気体の飽和水蒸気圧を高くする、気体の分離方法。
【請求項2】
前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が、前記気体分離膜モジュール内部の混合気体温度における飽和水蒸気圧の0.90倍以下である、請求項1に記載の気体の分離方法。
【請求項3】
前記供給工程における混合気体の水蒸気圧が、前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧に対して0.80倍以上である、請求項1または2に記載の気体の分離方法。
【請求項4】
前記昇温工程において、気体分離膜モジュール内部の混合気体温度が前記供給工程の混合気体温度よりも3℃以上高くなるように昇温する、請求項1または2に記載の気体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも一種の成分を効率的に分離する、気体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年クリーンなエネルギー源として、水素が注目されている。水素製造では、天然ガス及び石炭等の化石燃料を用いた水蒸気改質、水性気体シフトが一般的に行われている。また、近年では、光エネルギーや電気エネルギーを利用した水の分解によって、水素を得る技術が注目されている。特に水の分解によって水素を得る場合、水素と酸素が同時に発生し、さらには水蒸気も発生するため、水素と酸素および水蒸気の混合気体となる。水素が目的成分である場合、水蒸気の存在下で、水素と酸素を分離する必要がある。
【0003】
低コストで混合気体から特定の気体を濃縮させる方法として、素材の持つ気体透過性の違いを利用して目的成分を選択的に透過させる膜分離法が注目されている。混合気体が水蒸気を多く含む場合、膜への水の凝集および吸着による分離効率の低下が生じる。そこで、水蒸気を含む混合気体から高い分離効率で目的成分を分離可能な技術が求められている。
【0004】
特許文献1には、気液分離膜を用いて水蒸気を含む混合気体を処理した後、気体分離膜によって目的成分を分離回収する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、水蒸気を含む混合気体を分離膜へ導入するための流路に球状脱湿剤が充填された分離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/021508号
【特許文献2】特開2018-202413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の気体分離膜を備える気体の分離方法では、水蒸気への対策が不十分であり、高い分離効率を維持することが難しい。
【0008】
特許文献1で開示されている、気液分離膜を用いた分離方法では、凝集した水の除去は可能だが、水蒸気の除去はできないため、気体分離膜の分離効率低下を抑制するための対策としては不十分である。
【0009】
また、特許文献2で開示されている、球状脱湿剤を用いた分離装置では、脱湿剤の吸着容量には限りがあるため、長期の連続運転を行うと除湿が行われず、気体分離膜の分離効率低下を避けることができない。
【0010】
そこで本発明は、これらの問題を低減しつつ目的成分を高い分離効率で精製可能な気体の分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、以下である。
(1) 水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の成分を富化するための気体分離膜ユニットを用いた気体の分離方法であって、
前記気体分離膜ユニットは、昇温設備及び気体分離膜モジュールを含み、
前記混合気体を前記気体分離膜ユニットに供給する工程(以下、供給工程という)、
前記気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する工程(以下、昇温工程という)、
及び、気体分離膜モジュールにて前記混合気体を分離する工程(以下、分離工程という)を有し、
前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が0.5kPa以上20kPa以下であり、
前記昇温工程における昇温によって、前記気体分離膜モジュール内部における混合気体の飽和水蒸気圧を高くする、気体の分離方法。
(2) 前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が、前記気体分離膜モジュール内部の混合気体温度における飽和水蒸気圧の0.90倍以下である、(1)に記載の気体の分離方法。
(3) 前記供給工程における混合気体の水蒸気圧が、前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧に対して0.80倍以上である、(1)または(2)に記載の気体の分離方法。
(4) 前記昇温工程において、気体分離膜モジュール内部の混合気体温度が前記供給工程の混合気体温度よりも3℃以上高くなるように昇温する、(1)または(2)に記載の気体の分離方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の気体に対して良好な分離効率で気体分離を行うことができる気体分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の、気体分離ユニットを用いた気体の分離方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の成分を富化するための気体分離膜ユニットを用いた気体の分離方法であって、前記気体分離膜ユニットは、昇温設備及び気体分離膜モジュールを含み、前記混合気体を前記気体分離膜ユニットに供給する工程(以下、供給工程という)、前記気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する工程(以下、昇温工程という)、及び、気体分離膜モジュールにて前記混合気体を分離する工程(以下、分離工程という)を有し、前記供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が0.5kPa以上10kPa以下であり、前記昇温工程における昇温によって、前記気体分離膜モジュール内部における混合気体の飽和水蒸気圧を高くする、気体の分離方法である。
【0015】
以下、このような本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0016】
<気体分離膜ユニット>
図1に示す通り、本発明の気体分離膜ユニット(1)は、昇温設備(2)と気体分離膜モジュール(3)で構成される。
【0017】
気体分離膜ユニット(1)は、気体分離膜モジュール(3)を1本のみ含んでいてもよく、あるいは複数本の気体分離膜モジュールが並列または直列に配列されていてもよく、それら気体分離膜モジュールに循環流を設けられていてもよい。
【0018】
気体分離膜モジュールに搭載される分離膜の形態は、平膜や中空糸膜を用いることができ、モジュール化して圧力容器に収納して使用される。
【0019】
気体分離膜ユニット(1)の内部へ混合気体を導入する際は、気体分離膜ユニットの混合気体入口(4)に接続された気体分離膜ユニットの混合気体供給管(11)より混合気体を導入する。
【0020】
気体分離膜モジュール(2)は、(気体分離膜モジュールの)混合気体入口(5)に接続された混合気体供給管(12)より混合気体を導入し、目的気体の分離を行う。透過気体は、(気体分離膜モジュールの)透過気体出口(7)に接続された透過気体回収菅(14)より回収され、非透過気体は、(気体分離膜モジュールの)非透過気体出口(6)に接続された非透過気体回収菅(13)より回収される。目的気体は、非透過気体中に高濃度化して分離回収しても、透過気体中に濃縮して分離回収してもよい。
【0021】
昇温設備は、気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する工程で用いられるものであり、昇温工程において昇温可能であれば特に限定されず、混合気体の通る配管の外周と、気体分離膜モジュールの内部または外周部にヒーターを取り付ける方法、高温流体との熱交換、気体分離膜モジュールと配管を恒温槽で加熱する方法が挙げられる。
【0022】
<気体分離膜モジュール>
気体分離膜モジュールでは、入口から濃縮出口に向かって連続的にろ過が行われる。ろ過が進む膜を透過する成分の分圧が低下するため、気体分離膜モジュールの濃縮出口に近づくほど気体が透過しがたくなる。そのため、透過抵抗となる膜面での濃度分極を供給気体の高流速化により解消させることが好ましい。その手段としては供給側流路材を薄型化する方法や、平膜の場合では気体分離膜モジュールの端面から供給気体を送り込み外周部から排出する方法が挙げられる。
【0023】
気体分離膜モジュール内は、供給気体の進行方向に対し、透過気体の進行方向が向流方向となる構造を有していてもよく、供給気体と透過気体の流れ方向が90°異なる十字流構造や供給気体と透過気体の流れ方向が一致する構造を有していてもよい。
【0024】
<分離膜>
気体分離膜モジュール中の分離膜は、富化される気体の種類に応じて適宜選択できる。分離膜としては、当該技術分野においてこれまで用いられているものと同様のものを特に制限なく用いることができる。例えばシリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂などのゴム状ポリマー材料、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、炭素などの高分子膜や、ゼオライトやシリカ、パラジウムなどの無機膜が挙げられる。
【0025】
また分離膜は、均質膜、均質層と多孔層とからなる非対称膜、微多孔質膜などいずれであってもよい。分離膜の圧力容器への収納形態も、プレートアンドフレーム型、スパイラル型、中空糸型などいずれであってもよい。水素やヘリウムなどの比較的サイズの小さい気体を透過させる場合、ポリアミド膜やシリカ膜、炭素膜、ゼオライト膜、グラフェン膜を用いることができる。
【0026】
<気体の分離方法>
本発明の気体の分離方法は、供給工程、昇温工程、及び分離工程を含む。
【0027】
(供給工程)
本発明は、混合気体を気体分離膜ユニットに供給する供給工程を有する。この供給工程は、分離対象となる混合気体を気体分離膜ユニットの混合気体入口(4)に供給する工程である。
【0028】
混合気体は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む。その他1種以上の気体は特に限定されず、ヘリウム、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴン、メタン、二酸化炭素といった気体が挙げられる。なお、本明細書における「混合気体は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む」とは、質量分析計を用いた分析によって、混合気体が水蒸気及びその他気体をそれぞれ0.1mol%以上含むことを意味する。
【0029】
本発明の気体の分離方法は、供給工程における混合気体の水蒸気圧が、供給工程の混合気体の温度における飽和水蒸気圧に対して0.80倍以上が好ましく、0.90倍以上がより好ましく、0.95倍以上がさらに好ましい。なお、供給工程における混合気体の水蒸気圧は、供給工程の混合気体の温度における飽和水蒸気圧に対して1.00倍以下であることが好ましい。
【0030】
供給工程における水蒸気圧が、飽和水蒸気圧に対して0.80倍以上の場合、気体分離膜の表面への水の凝縮や水分子の吸着が生じやすく、昇温せずに運転した場合には気体分離膜の性能低下が起き、分離効率が低下することがある。昇温することによって、この性能低下が解消されることが本発明における大きな効果である。したがって、飽和水蒸気圧に対する水蒸気圧の割合が高い混合気体の分離を対象とするほうが、本発明の効果が容易に発現される。供給工程における水蒸気圧が、飽和水蒸気圧の1.00倍以下であることで、混合気体中の水蒸気が過飽和となるのを防止し、配管内での凝縮による配管圧損の急激な上昇を防ぐことができる。
【0031】
供給工程における混合気体の温度における飽和水蒸気圧は、0.5kPa以上20kPa以下である。そして供給工程における混合気体の温度における飽和水蒸気圧は、1kPa以上10kPa以下が好ましく、2kPa以上5kPa以下がより好ましい。飽和水蒸気圧が0.5kPa以上であることで、気体分離膜への水吸着が生じやすく、本発明の効果がより発現しやすくなる。混合気体の飽和水蒸気圧が20kPa以下であることで、気体分離膜の供給側における水蒸気分圧が小さくなり、水蒸気の透過駆動力が小さくなることで透過気体に含まれる水蒸気量が少なくなり、透過気体の目的気体純度を高くすることができる。なお、飽和水蒸気圧は、混合気体の温度を用いて、ISO 760:1978記載の計算式にて求めることができる。
【0032】
供給工程における混合気体の温度における飽和水蒸気圧を0.5kPa以上20kPa以下とするため、供給工程における混合気体の温度は常温近傍であることが好ましい。具体的には、供給工程における混合気体の温度は-3℃以上60℃以下が好ましく、7℃以上46℃以下がより好ましく、18℃以上32℃以下がさらに好ましい。
【0033】
供給工程において、混合気体を気体分離膜ユニットへ供給する方法は、特に限定されない。もともと高圧の混合気体を供給する場合には、特に昇圧装置を設けず、バルブやマスフローコントローラを用いて流量制御する方法が挙げられる。分離効率を高める目的で、コンプレッサー等の昇圧装置を用いて混合気体を高圧にしてもよい。
【0034】
また、昇圧装置を用いて混合気体の昇圧を行う場合には、昇圧後の混合気体における水蒸気圧を、供給気体の水蒸気圧とする。
【0035】
(昇温工程)
本発明は、気体分離膜ユニット内部に供給された混合気体温度を昇温する昇温工程を有する。そして本発明は、昇温工程における昇温によって、気体分離膜モジュール内部における混合気体の温度を高くすることで、気体分離膜モジュール内部における混合気体の飽和水蒸気圧を高くする点が特徴である。これについて以下で説明する。
【0036】
混合気体の昇温方法としては、気体分離膜モジュールのみを昇温してもよく、気体分離膜モジュールの混合気体供給管と気体分離膜モジュールの両方を昇温してもよい。気体分離膜モジュールの混合気体供給管のみを昇温すると、気体分離膜モジュールにおける放熱によって、気体分離膜モジュール内部の混合気体温度が低下し、昇温が不十分となるため、好ましくない。
【0037】
昇温された気体分離膜モジュール内部の混合気体は、供給工程における混合気体よりも高温であり、その結果、昇温工程にて昇温された混合気体は飽和水蒸気圧が高い。このとき、供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧が、気体分離膜モジュール内部の混合気体温度における飽和水蒸気圧の0.90倍以下が好ましく、0.70倍以下がより好ましく、0.50倍以下がさらに好ましい。また供給工程の混合気体温度における飽和水蒸気圧は、気体分離膜モジュール内部の混合気体温度における飽和水蒸気圧の0.20倍以上であることが好ましい。0.90倍以下であることで、昇温工程における混合気体の相対湿度が純分に低下し、気体分離膜に水が凝縮あるいは吸着することを防ぎ、分離効率を高く保つことができる。0.20倍以上であることで気体分離膜の性能向上に必要な昇温以上をすることによるエネルギー浪費を防ぐことができる。
【0038】
気体分離膜モジュール内部の混合気体の温度における飽和水蒸気圧は、気体分離膜モジュール内部の混合気体の温度を用いて、ISO 760:1978記載の計算式から求めることができる。また、「気体分離膜モジュール内部の混合気体の温度」とは、気体分離膜モジュールの供給入口側末端における混合気体の温度と、気体分離膜モジュールの非透過気体回収出口末端における混合気体の温度の平均値であり、気体分離膜モジュール内部に熱電対など公知の温度測定器を設置することで測定される。
【0039】
昇温工程では、気体分離膜モジュール内部の混合気体の温度が、供給工程における混合気体の温度よりも、3℃以上高くなるように昇温することが好ましく、5℃以上高くなるように昇温することがより好ましく、10℃以上高くなるように昇温することがさらに好ましい。また、気体分離膜モジュール内部の混合気体の温度は、供給工程における混合気体温度に対し、20℃以下の範囲で高くすることが好ましい。
【0040】
(分離工程)
本発明は、気体分離膜モジュールにて混合気体を分離する分離工程を有する。
【0041】
分離工程において、気体分離膜を気体が透過する際の分離駆動力は、気体分離膜の非透過側と透過側の分圧差である。供給工程での混合気体の加圧や、分離工程での透過気体の減圧、もしくはその両方を行うことで、目的の分離効率を得るために必要な分圧差を生み出すことができる。
【0042】
本発明は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から、少なくとも1種の成分を富化するための気体分離膜ユニットを用いた気体の分離方法の発明である。そのため目的気体は、非透過気体中に富化されてもよく、透過気体中に富化されてもよい。目的気体を非透過気体中に富化する場合は、目的気体以外の気体を選択的に透過する気体分離膜を使用する。目的気体を透過気体中に富化する場合は、目的気体を選択的に透過する気体分離膜を使用する。
【実施例0043】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0044】
(気体分離膜の作製)
抄紙法で製造されたポリエステル繊維からなる不織布(通気度1.0cc/cm2/秒)上に、ポリスルホンの18質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を室温(25℃)、塗布厚み190μmでキャストした後、直ちに純水中に5分間浸漬することによって、基材である不織布上に多孔性支持層を形成した。
【0045】
次に、2-エチルピペラジンが5.5質量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが500ppm、リン酸3ナトリウムが2.0質量%になるように溶解した水溶液に、多孔性支持層を形成した基材を10秒間浸漬した後、エアーノズルから窒素を吹き付けて、余分な水溶液を除去した。続いて70℃に加温した0.2質量%のトリメシン酸クロリドを含むn-デカン溶液を、多孔性支持体の表面に均一塗布し、60℃の膜面温度で3秒間保持した後に、膜面温度を10℃まで冷却し、この温度を維持したまま空気雰囲気下で1分間放置し、分離機能層(ポリアミド膜)を形成した。得られた分離膜を垂直に保持して液切りし、60℃の純水で2分間洗浄して分離膜を得た。
【0046】
(気体分離膜のヘリウム/酸素選択性)
25℃の温室下で風乾した分離膜を有効膜面積25cm2の円形に切り取り、供給側と透過側の2つのチャンバに隔てられた透過セルに取り付け、ヘリウム60モル%、酸素40モル%を含む供給気体を圧力0.1MPa、100mL/minにて供給し、透過側を-0.05MPaに減圧して運転した。運転開始から30分間後に透過気体をサンプリングし、TCD(熱伝導度検出器)を有するガスクロマトグラフィーへ透過気体を送り、この混合気体における透過気体の濃度を分析し、ヘリウムおよび酸素の透過度を算出した。また、ヘリウム透過度を酸素透過度で除して、ヘリウム/酸素選択性を算出した。その結果、ヘリウム透過度は10nmol/m2/s/Pa、酸素透過度は0.5nmol/m2/s/Pa、ヘリウム/酸素選択性は20であった。
【0047】
(気体分離膜モジュール)
気体分離膜を幅300mmに裁断した後、25℃の温室下で風乾後に折り畳み、供給側流路材(Diomesh PET-Screen 100-55PT(innovex社製))を折り畳まれた分離膜に挟んだ。気体分離膜の透過側面に、透過側流路材(Diomesh PET-Screen 100-55PT(innovex社製))を配置し、透過側流路材の端部3辺に接着剤を塗布し、これらの積層物(リーフ数:5枚、有効膜面積1.0m2)を、ABS樹脂製集水管(幅:300mm、径:17mm、孔数80個×直線2列)にスパイラル状に巻囲し、直径2.5インチの分離膜モジュールを作製した。
【0048】
(乾燥条件における分離性能)
気体分離膜モジュールによるヘリウム60モル%及び酸素40モル%を含む混合気体(7L/分)の分離を行った。気体分離膜モジュールは1本(有効膜面積1.0m2)使用し、運転圧力は0.1MPa、透過側は真空ポンプを用いて0.01MPaに減圧した。混合気体は水蒸気を含まず、相対湿度は0kPaであった。
【0049】
運転開始から1時間後の透過気体を質量分析計(ULVAC SOLUTIONS社製 CGM2-051)でサンプリングし、ヘリウムと酸素の体積を分析し、下記式からヘリウム純度を算出した。
【0050】
ヘリウム純度(体積%)=透過ヘリウム量(mL/分)/透過気体(ヘリウムと酸素および水蒸気の合計)量(mL/分)×100
引き続き、透過気体を石鹸膜式流量計(堀場エステック社製 VP-1U)に送り込み、得られた測定値を透過気体量(mL/分)とし、下記式からヘリウム回収率を算出した。
【0051】
ヘリウム透過量(mL/分)=透過気体(ヘリウムと酸素および水蒸気の合計)量(mL/分)×(ヘリウム純度/100)
(水蒸気条件における性能低下)
混合気体をバブリングタンクに通過させ、混合気体に水蒸気を含ませた以外は、乾燥条件における分離性能と同様にしてヘリウム純度とヘリウム透過量を求めた。
【0052】
(ヘリウム純度、ヘリウム透過量減少率)
下記式からヘリウム純度減少率、ヘリウム透過量減少率を求めた。
【0053】
ヘリウム純度減少率(%)=100-水蒸気存在下、昇温時のヘリウム純度(体積%)/乾燥下でのヘリウム純度(体積%)×100
ヘリウム透過量減少率(%)=100-水蒸気存在下、昇温時のヘリウム透過量(mL/分)/乾燥下でのヘリウム透過量(mL/分)×100
(昇温による性能向上率)
昇温を行わずに気体分離膜モジュールの運転を行い、ヘリウム純度、ヘリウム透過量を測定し、下記式からヘリウム純度向上率、ヘリウム透過量向上率を求めた。
【0054】
ヘリウム純度向上率(%)=水蒸気存在下、昇温時のヘリウム純度(体積%)/水蒸気存在下、昇温なしのヘリウム純度(体積%)×100-100
ヘリウム透過量向上率(%)=水蒸気存在下でのヘリウム透過量(mL/分)/水蒸気存在下、昇温なしのヘリウム透過量(mL/分)×100-100
(実施例1)
図1の気体の分離方法を表1の条件で運転し、気体分離膜ユニットの性能を評価したところ、結果は表のとおりであった。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
(実施例2~9)
運転条件を表の通りに変更したこと以外は全て実施例1と同様にして、気体分離膜ユニットの性能を評価したところ、結果は表のとおりであった。
【0059】
(比較例1)
昇温工程を設けず、混合気体の昇温を行わなかったこと以外は全て実施例1と同様にして気体分離ユニットを運転したところ、結果は表のとおりであった。すなわち、昇温を行わなかったことで、気体分離膜への水分子の吸着や水の凝集を抑えることができず、乾燥条件での性能から大きく低下してしまっている。
【0060】
(比較例2)
昇温工程を設けず、混合気体の昇温を行わなかったこと以外は全て実施例3と同様にして気体分離ユニットを運転したところ、結果は表のとおりであった。比較例1と同様に昇温を行わなかったことで乾燥条件での性能から大きく低下してしまっている。また、混合気体の相対湿度が比較例1よりも大きいため、性能の低下がより大きくなっている。
【0061】
(比較例3)
運転条件を表の通りに変更したこと以外は全て実施例1と同様にして、気体分離膜ユニットの性能を評価したところ、結果は表のとおりであった。供給気体温度が高く、水蒸気量が非常に多いため、昇温を行っても性能の大きな低下を抑制することができなかった。
【0062】
(比較例4)
昇温工程を設けず、混合気体の昇温を行わなかったこと以外は全て実施例7と同様にして気体分離ユニットを運転したところ、結果は表のとおりであった。比較例1、2と同様に昇温を行わなかったことで乾燥条件での性能から大きく低下してしまっている。また、混合気体の相対湿度が比較例1よりも大きいため、性能の低下がより大きくなっている。
【0063】
(比較例5)
昇温工程を設けず、混合気体の昇温を行わなかったこと以外は全て実施例8と同様にして気体分離ユニットを運転したところ、結果は表のとおりであった。比較例1、2、4と同様に昇温を行わなかったことで乾燥条件での性能から大きく低下してしまっている。
【0064】
(比較例6)
昇温工程を設けず、混合気体の昇温を行わなかったこと以外は全て実施例9と同様にして気体分離ユニットを運転したところ、結果は表のとおりであった。比較例1、2、4、5と同様に昇温を行わなかったことで乾燥条件での性能から大きく低下してしまっている。
【0065】
表1~3に示す結果から明らかなように、実施例1~9における気体の分離方法は、水蒸気とその他1種以上の気体を含む混合気体から少なくとも一種を富化する分離に優れているといえる。