(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184760
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】構造物保護シート及び補強された構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221206BHJP
B32B 13/12 20060101ALI20221206BHJP
E21D 11/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
E04G23/02 A
B32B13/12
E21D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082342
(22)【出願日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2021091849
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021103336
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】寺本 晃史
(72)【発明者】
【氏名】谷 知
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2D155AA02
2D155HA01
2D155HA02
2D155LA16
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4F100AA37B
4F100AE11B
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(57)【要約】
【課題】コンクリート等の構造物の表面に保護シートを設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができ、強度にも優れる構造物保護シートを提供する。
【解決手段】構造物の表面に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられていることを特徴とする構造物保護シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられている
ことを特徴とする構造物保護シート。
【請求項2】
接着層は、アクリル系粘着剤から構成されている請求項1に記載の構造物保護シート。
【請求項3】
JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上である請求項1又は2記載の構造物保護シート。
【請求項4】
構造物の表面に接着層を介して貼り付けた時の付着力が0.5N/mm2以上である請求項1又は2記載の構造物保護シート。
【請求項5】
接着層の厚さが20~500μmである請求項1又は2記載の構造物保護シート。
【請求項6】
ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1又は2記載の構造物保護シート。
【請求項7】
更にメッシュ層を有する請求項1又は2記載の構造物保護シート。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の構造物保護シートを使用した補強された構造物の製造方法であって、前記接着層を介して構造物の表面に前記構造物保護シートを貼り合わせることを特徴とする補強された構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物保護シート及び補強された構造物の製造方法に関する。さらに詳しくは、コンクリート等の構造物の表面に保護層を設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シート、及び、その構造物保護シートを用いた補強された構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、湾岸壁等の土木構造物は、その老朽化に伴い、補修工事や補強工事が行われる。補修工事は、欠損部分や脆弱部分を補修した後に塗装材を複数回重ね塗りして行われる。一方、補強工事は、補強すべき部分は全体に補強用塗装材を複数回重ね塗りして行われる。
【0003】
こうした補修工事や補強工事で施工する重ね塗りは、例えば、コンクリート上に、下塗り、中塗り、上塗りを順に行うが、通常は、中塗りやそれぞれの塗り工程は、塗装を乾燥させるために連続して行うことができず、例えば下塗り、中塗り1回目、中塗り2回目、上塗り1回目、上塗り2回目の計5層の塗装を行う場合は、少なくとも5日間の工期がかかる。しかも、屋外での塗装なので、天候に左右され、雨天では十分な乾燥ができなかったり、塗装工事自体ができないこともある。そのため、工期の短縮が難しく、その分の労務費がかかり、工事、塗工膜の品質(膜厚、表面粗さ、含水量等)が、塗り工程時の外部環境(湿度、温度等)によって影響を受ける結果安定したものとなりにくい。
【0004】
また、塗装はこて塗りやスプレー塗り等で行われるが、均一な塗工による安定した補修や補強は、職人の技量に寄るところが大きい。したがって、職人の技量によっても塗工膜の品質はばらつくことになる。さらに、建設従事者の高齢化及び人口の減少に伴い、コンクリートの補修作業や補強作業の従事者が減少している昨今、熟練した職人でなくとも行うことができるより簡易な補修工法が求められている。
【0005】
こうした課題を解決する技術として、例えば特許文献1では、簡便で、低費用で、工期が短くなり、確実にコンクリートの劣化を防ぐシート及び方法が提案されている。この技術は、樹脂フィルムを有する中間層とその両面に接着樹脂を介して積層された布帛材料からなる表面層とを備えたコンクリート補修用シートを、補修すべきコンクリート面に施工用接着剤で貼付し、その後、貼付したコンクリート補修用シートのコンクリート面とは反対側の表面層に塗料を塗布する、コンクリートの補修方法である。
【0006】
なお、塗装材についての改良も行われている。例えば特許文献2には、アルカリ骨材反応を防止し、コンクリート構造物のひび割れに対しても優れた追従性を有し、塗膜形成後の温度上昇によっても塗膜のふくれを発生させず、コンクリートの剥落を防止することを可能にする塗工材料を用いたコンクリート構造物の保護方法が提案されている。この技術は、コンクリート構造物の表面に、下地調整材塗膜を形成させ、その塗膜表面に塗膜を形成させる方法である。下地調整材塗膜は、カチオン系(メタ)アクリル重合体エマルション及び無機質水硬性物質を含有する組成物から形成される。下地調整材塗膜表面に形成される塗膜は、アルキル(メタ)アクリレート系エマルション及び無機質水硬性物質を含有する組成物から形成された塗膜であり、20℃における伸び率が50~2000%であり、遮塩性が10-2~10-4mg/cm2.dayであり、水蒸気透過性が5g/m・day以上であり、膜厚が100~5000μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-144360号公報
【特許文献2】特開2000-16886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1等の従来のコンクリート補修シートは、基材と他の層(例えば接着剤層や補強部材)との接着力の違い、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違い、接着剤層とコンクリートとの接着強度の問題等、解決すべき課題がある。具体的には、基材と補強部材とは接着剤層で貼り合わされているが、コンクリート補修シートの施工時や施工後のコンクリート補修シートに応力が加わった場合、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違いは、基材と接着剤層との接着力と接着剤層と補強部材との接着力との相違に基づいた層界面の剥離の原因になり得る。
【0009】
また、コンクリート補修シートに設けられた接着剤層は加熱等で軟化されてコンクリートに貼り合わされるが、十分な接着強度が得られない場合は、コンクリートの表面からコンクリート補修シートが剥がれて補修シートとして機能しないおそれがある。また、コンクリート補修シートを施工した後のコンクリートは、時が経つと膨れる現象が生じることがあったが、この現象は、コンクリート内部の水蒸気が水蒸気透過性の低い補修シートの存在によって逃げ場を失ったためであると考えられる。
【0010】
また、現場で塗工によって塗膜を形成する方法は、上記背景技術の欄で説明したように、1層塗工する毎に1日かかり、下塗りから上塗り層まで例えば、6層の塗工膜を形成する場合には6日もかかり、しかも膜厚がばらつき、表面粗さや含水量等の品質や特性も安定しにくいという課題がある。
【0011】
更に、コンクリート補修シートの補修対象は、通常、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、湾岸壁等の土木構造物等の大型コンクリート部材であるため、コンクリート補修シート自体にも十分な強度(引張強度、曲げ強度、硬度、表面強度、打ち抜き強度靱性等をいい、本明細書において以下同様とする。)が求められるが、従来のコンクリート補修シートでは十分な強度を備えているとは言い難いという課題がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、コンクリート等の構造物の表面に保護シートを設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができ、強度にも優れる構造物保護シート、及び、その構造物保護シートを用いた補強された構造物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、コンクリートの表面に塗工手段で層を形成する施工方法によらないで、コンクリートを長期間安定して保護できるコンクリート保護シートを研究した。
その結果、コンクリート保護シートに、コンクリートの特性に応じた性能を付与すること、具体的には、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従できる追従性、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる水蒸気透過性等をさらに備えるとともに、コンクリート保護シート自身の強度を担保する層を設けた。更に、このようなコンクリート保護シートのコンクリートの表面に貼り付ける側の表面に予め接着層を形成しておくことで、接着層を介したコンクリートへの貼り付けが可能となり、作業現場で接着剤をコンクリート構造物表面に塗布して接着剤層を形成する必要がないため作業効率が極めて優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、コンクリート用でない他の構造物に対しても構造物保護シートとして応用可能である。
【0014】
(1)本発明に係る構造物保護シートは、構造物の表面に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられていることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、構造物側に設けられるポリマーセメント硬化層は、構造物との密着性等に優れ、押し抜き強度等にも優れる性能を付与できる。
また、構造物保護シートは工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
更に、予めポリマーセメント硬化層の表面に接着層が形成されているので、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成することなく接着層を介した構造物の表面へ構造物保護シートの貼り付けが可能となり、作業効率が極めて優れたものとなる。
【0016】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、上記接着層は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。
【0017】
アクリル系粘着剤は、材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れており、本発明に係る構造物保護シートによる構造物の保護をより好適に行うことができる。
【0018】
本発明に係る構造物保護シートは、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上であることが好ましい。
【0019】
この発明によると、本発明に係る構造物保護シートにより構造物の表面からコンクリート等の剥落といった問題を好適に防止することができる。
【0020】
本発明に係る構造物保護シートは、構造物の表面に接着層を介して貼り付けた時の付着力が0.5N/mm2以上であることが好ましい。
【0021】
この発明によると、本発明に係る構造物保護シートによる構造物の表面の保護を長期にわたり強力に行うことができる。
【0022】
本発明に係る構造物保護シートは、接着層の厚さが20~500μmであることが好ましい。
【0023】
この発明によると、構造物表面へ貼り付けた際の付着力を優れたものにでき、本発明に係る構造物保護シートによる構造物の表面の保護を長期にわたり強力に行うことができる。
【0024】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、上記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている層であってもよい。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0025】
この発明によれば、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層であるので、層自体の密着性は優れている。さらに、構造物側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分はコンクリート等の構造物との密着性を高めるように作用する。
【0026】
本発明に係る構造物保護シートは、更にメッシュ層を有することが好ましい。
【0027】
この発明によれば、メッシュ層を有しているので強度等にも優れる性能を本発明に係る構造物保護シートに付与できる。
【0028】
(2)本発明に係る補強された構造物の製造方法は、上記本発明に係る構造物保護シートを使用した構造物の製造方法であって、上記接着層を介して構造物の表面に上記構造物保護シートを貼り合わせることを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、基材や補強部材を含まない層だけで構成された構造物保護シートを使用するので、構造物の表面に容易に貼り合わせることができ、また、作業現場で接着層を介して構造物の表面への構造物保護シートの貼り付けができる。その結果、熟練した作業者でなくても構造物の表面に強度に優れた構造物保護シートを安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、コンクリート等の構造物を長期にわたって保護することができる構造物保護シート、及びその構造物保護シートを用いた補強された構造物の製造方法を提供することができる。特に、構造物保護シートに構造物の特性に応じた性能を付与し、構造物に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、強度を向上させること等を実現し、構造物の表面への貼り付けが容易な構造物保護シートを提供することができる。さらに、これまで手塗りで形成されてきた層と比較して品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】(A)及び(B)は、本発明に係る構造物保護シートの一例を示す断面構成図である。
【
図2】(A)及び(B)は、本発明に係る構造物保護シートを構造物に貼り付ける様子を示す模式図である。
【
図3】(A)及び(B)は、本発明に係る構造物保護シートの別の一例を示す断面構成図である。
【
図4】(A)及び(B)は、本発発明に係る構造物保護シートのメッシュ層の一例を示す模式図である。
【
図5】現場打ち工法に構造物保護シートを適用した例を示す説明図である。
【
図6】本発発明に係る構造物保護シートの樹脂層にエンボス処理を施す一例を示す模式図である。
【
図7】構造物保護シートの樹脂層への凹凸形状の形成方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る構造物保護シート及びそれを用いた構造物の検査方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0033】
[構造物保護シート]
本発明に係る構造物保護シートは、構造物の表面に貼り合せて用いられるものであり、該構造物に貼り合せた状態で最も外側の面に樹脂層が設けられ、上記樹脂層の表面に変形検知用の模様が形成されている。
このような本発明に係る構造物保護シート1は、
図1に示すように、接着層5、ポリマーセメント硬化層2及び樹脂層3がこの順に設けられている。このポリマーセメント硬化層2と樹脂層3の両層が、
図1(A)に示したように、それぞれ単層で形成されてもよいし、
図1(B)に示したように積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との間に別の層を設けてもよい。
【0034】
本発明に係る構造物保護シート1は、水蒸気透過率が10~50g/m2.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層2はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層2上に設けられる樹脂層3は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、本発明においてはこのような問題は起きず、構造物保護シート1全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、コンクリート等の構造物に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止でき、更には接着性の低下も防止できる。水蒸気透過率が所定の範囲にあるメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、構造物中の金属(例えば鉄筋)の腐食の抑制ができる傾向になることが挙げられる。また、雨の日に構造物保護シート1を構造物に施工する場合には、構造物の表面が濡れると共に、構造物自体が水分を含んだ状態での施工となるが、構造物保護シート1が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された構造物の製造後)に構造物にしみこんだ水分が外部へと抜けやすくなる。さらに、硬化直後のコンクリートは内部に多くの水分を含むが、このようなコンクリートに対しても本発明に係る構造物保護シート1は好適に使用できる。
本発明に係る構造物保護シート1のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば構造物のセメントが硬化していないような状態でも当該構造物の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、セメントを成型して硬化させる際に急激に水分が抜けるとセメントがポーラスになって構造物の強度が落ちる傾向となるが、本発明に係る構造物保護シート1を硬化前のセメントに貼り付けることで、セメントの硬化時の水分除去のスピード等をコントロールでき、上記ポーラス構造になるのを避けやすくなるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m2.day未満であると、本発明に係る構造物保護シート1が十分に水蒸気を透過させることができず、構造物に貼り付けたあとの膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となることがある。50g/m2.dayを超えると、セメントの硬化時の水分除去のスピードが過剰に早くなり、セメントの硬化物がポーラスになる不具合が生じる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m2.dayである。
このような水蒸気透過率を有する本発明に係る構造物保護シート1は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層2と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層3に用いることにより得ることができる。
本発明における水蒸気透過率は、後述する方法で測定することができる。
【0035】
また、本発明に係る構造物保護シート1は、建築用コンクリート基本ブロックに包んだ状態で5%硫酸水溶液に30日間浸漬後の硫酸浸透深さが0.1mm以下であることが好ましい。上記硫酸浸透深さが0.1mmを超えると、本発明に係る構造物保護シート1の耐硫酸性が不十分となり、下水道コンクリート構造物といった硫酸に起因した腐食の生じる構造物に対して使用することができないことがある。上記硫酸浸透深さのより好ましい上限は0.01mmである。
本発明における硫酸浸透深さは、後述する実施例の方法で測定することができる。
【0036】
また、本発明に係る構造物保護シートは、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。本発明に係る構造物保護シートで保護した構造物に対し、更に重ねて保護を行うことができるため、例えば、2枚の本発明に係る構造物保護シートを並べて貼り付けた場合、これらの構造物保護シート同士の境目を覆うように別の本発明に係る構造物保護シートを貼り付けることができる。
本発明に係る構造物保護シート1は、ポリマーセメント硬化層2がセメントと樹脂成分とを含有するものであるため、先に構造物に貼り付けた本発明に係る構造物保護シート1の樹脂層3に対しても好適な接着性を示す。そのため、重ねた状態で本発明に係る構造物保護シート1は好適に使用できる。
【0037】
本発明に係る構造物保護シート1において、JIS K 6781にある引裂荷重試験の項目の記載に従って測定した引裂荷重が3~20Nであることが好ましい。このような引裂荷重を有することで、保護をした構造物の崩壊や崩落が生じた際に適切に引き裂かれるため連鎖的な崩壊や崩落を防止することができる。また、保護をした構造物の一部のみ撤去する必要が生じた場合等においても任意の場所で引き裂きが可能なため構造物の一部の撤去が可能となる。上記引裂荷重が3N未満であると、構造物の保護自体が難しくなり、20Nを超えると適切なタイミングでの引き裂きが生じない場合がある。上記引裂荷重のより好ましい範囲は5~15Nである。
本発明における引裂荷重は、後述する実施例の方法で測定することができる。
【0038】
本発明に係る構造物保護シート1は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。この構造物保護シート1は、厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設けることができる。また、厚さ分布を上記範囲内に制御することによって、構造物の補強を均一に行いやすくなる。 構造物側に設けられたポリマーセメント硬化層2は、構造物との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れた性質を容易に付与できる。
また、本発明に係る構造物保護シート1は、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
また、本発明に係る構造物保護シート1は、接着層5が設けられているので、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がなく、熟練の職人でなくても均一な厚さの接着層を介して構造物の表面への貼り付けが容易となる。その結果、構造物の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物を長期にわたって保護することができる。
【0039】
以下、各構成要素の具体例について詳しく説明する。
【0040】
(構造物)
構造物21は、
図2(B)に示したように本発明に係る構造物保護シート1が適用される相手部材である。
構造物21としては、コンクリートからなる構造物を挙げることができる。
上記コンクリートは、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたコンクリートは、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物として広く使用される。本発明では、コンクリートからなる構造物21に構造物保護シート1を適用することで、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート中の水分を水蒸気として排出させることもできる、という格別の利点がある。
【0041】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層2は、
図1、2に示すように、接着層5を介して構造物21側に配置されるである。このポリマーセメント硬化層2は、例えば、
図1(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、
図1(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層2は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層3側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層がコンクリート構造物と接着することとなり両者に対する接着性が極めて優れたものとなる。
【0042】
ポリマーセメント硬化層2は、セメント成分及び樹脂を含有する層であることが好ましい。より具体的には、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にし、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層2が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート構造物21への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0043】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層3を構成する樹脂成分と同じものであることが、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との密着性を高める観点から好ましい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層2の「硬化」の文言は、樹脂成分を熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化するような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0044】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計量に対して10質量%以上、40重量%以下とする。10重量%未満であると、樹脂層3に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層2を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、コンクリート構造物21に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0045】
ポリマーセメント硬化層2を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルジョンであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルジョンを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルジョンとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0046】
ポリマーセメント硬化層2は、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルジョンとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層2を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層2を形成した後に樹脂層3を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント硬化層2を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント硬化層2を形成してもよい。本発明においては、意匠性の付与を行う場合、例えば、離型シートにエンボス加工又はマット加工(凹凸形状の付与)をした上で、この上に樹脂層3(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)、ポリマーセメント硬化層2(単層であっても2層以上の複層であってもよい。)の順番で形成し、樹脂層3に意匠性を付与するという方法を用いて構造物保護シート1を製造してもよい。
【0047】
ポリマーセメント硬化層2の厚さは特に限定されないが、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川施設、下水道管渠、港湾岸壁、橋、欄干、高速道路の側壁、下水管(内面、外面、接手)、下水施設(下水処理施設、用水路)、水中施設、海に近い地域の配線のトンネル、ダム放水路、マンホール内壁面等の土木構造物等、コンクリート屋根、トタン屋根、コンクリート屋上、建築用配管、ALCパネル、屋内の床材、煙突の内面や外面等の建築物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層2の厚さとしては、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0048】
このポリマーセメント硬化層2は、セメント成分の存在により水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば20~60g/m
2.day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、
図1に示すように、本発明に係る構造物保護シート1は接着層5を有するが、セメント成分を含有するポリマーセメント硬化層2が接着層5に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント硬化層2は、延伸性があるので、構造物21にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0049】
(メッシュ層)
本発明は、更にメッシュ層を備えることが好ましい。
本発明に係る構造物保護シートを用いて、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、湾岸壁等の土木構造物等の大型コンクリート部材の補修を行う場合、本発明に係る構造物保護シート自体にも十分な強度(引張強度、曲げ強度、硬度、表面強度、打ち抜き強度靱性等をいい、本明細書において以下同様とする。)が求められるが、上記メッシュ層を更に備えることで、本発明に係る構造物保護シートは、上述のような大型コンクリート部材の補修に耐え得る十分な強度を備えることができる。
【0050】
図3(A)に示したように、本発明に係る構造物保護シート1は、付着強度が優れたものとなることからメッシュ層7をポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との界面に備えることが好ましい。
上記付着強度とは、本発明に係る構造物保護シート1のポリマーセメント硬化層2側の面をコンクリート表面に接着層5を介して貼り付け、樹脂層3の表面に引張治具を固定して該引張治具をコンクリート側と反対側に1500n/minの速度で引っ張ることで引張り層間剥離が生じる強度を測定することで得られる。
【0051】
また、メッシュ層7は、
図3(B)に示したようにポリマーセメント硬化層2の内部に存在していてもよい。メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の樹脂層3と接する面の反対側の面に配設されていてもよいが、メッシュ層7はポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていることが好ましい。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていることで、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との接触面積が増大し、両者の接着強度が優れたものとしやすくなり、ポリマーセメント硬化層2全体の強度も確保しやすくなる。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に埋設されていないと、該メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との界面で剥離が生じ易くなる。
また、メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2の内部に存在している場合、該メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の厚みの半分の位置に存在していればよいが、より樹脂層3側に存在することが望ましい。メッシュ層7がポリマーセメント硬化層2中で樹脂層3側に存在している場合、付着力は平均的に1.3倍向上する。
【0052】
本発明において、メッシュ層7にポリマーセメント硬化層2を構成する材料(例えばセメント成分又は樹脂成分)が含侵されていることが好ましい。
メッシュ層7にポリマーセメント硬化層2を構成する材料が含侵されている状態とは、メッシュ層7を構成する繊維間にポリマーセメント硬化層2を構成する材料が充填された状態にあることを意味し、このような含侵状態にあることで、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2との接着強度が極めて優れたものとしやすくなる。また、メッシュ層7とポリマーセメント硬化層2の材料との相互作用がより強固となりやすく、構造物保護シート1の強度をより良好にしやすくなる。
【0053】
メッシュ層7は、
図4に示したように、経糸、緯糸の繊維を格子状にした構造が挙げられる。
上記繊維としては、例えば、ポリプロピレン系繊維、ビニロン系繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維から構成されたものである好ましく、なかでも、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維を好適に使用することができる。
またその形状は、特に限定されず、
図6に示したような二軸組布のほか、例えば、三軸組布等任意のメッシュ層7を用いることができる。
なお、コンクリート剥落防止用のメッシュ層7には、土木用の高強度ビニロンメッシュや、農業用のビニロン、ポリエステルなどの寒冷紗などを用いることができる。
【0054】
メッシュ層7は、線ピッチ50mm~1.2mm(線密度0.2本~8.0本/cm)であることが望ましい。ピッチが1.2mm以下であると、メッシュの上下のポリマーセメント層の結合が不十分になり、構造物保護シート1の表面強度が不十分となることがある。また、線ピッチが50mmを超えると、構造物保護シート1の表面強度に悪影響はないが、引張強度が弱くなることがある。
本発明に係る構造物保護シート1において、引張強度と表面強度はトレードオフの関係にあり、本発明に適用するに適したメッシュ層7は、線ピッチ50mm~1.2mmの範囲にあるものである。
【0055】
メッシュ層7は、ポリマーセメント硬化層2の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層2の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層2よりも小さくてもよい。
すなわち、メッシュ層7の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層2の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、メッシュ層7の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層2の平面視面積に対し60%以上、95%以下であることが好ましい。60%未満であると本発明に係る構造物保護シートの強度が不十分となることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。95%を超えると、メッシュ層7を介してポリマーセメント硬化層2が積層された構成において、ポリマーセメント硬化層2同士の接着強度が劣ることがあり、本発明に係る構造物保護シートを構造物に施工したときに、ポリマーセメント硬化層2部分に剥離が生じる危険性が高まる。なお、上記メッシュ層7等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0056】
(樹脂層)
樹脂層3は、
図1、2示すように、構造物21とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層3は、例えば、
図1(A)に示すように単層であってもよいし、
図1(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0057】
樹脂層3は、柔軟性を有し、コンクリートに発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層3を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、上述したポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有す樹脂であることが好ましい。
【0058】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0059】
本発明に係る構造物保護シートにおいて、樹脂層3は優れた水蒸気透過率を示す樹脂から構成されることが好ましい。これらの樹脂からなる樹脂層3を備えることで、本発明に係る構造物保護シートの水蒸気透過率を上述した範囲にすることができる。
【0060】
樹脂層3を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層3を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層3を作製している。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層3、ポリマーセメント硬化層2の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層2、樹脂層3の順番であってもよい。
【0061】
樹脂層3の厚さは、構造物21の使用形態(道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物等)、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0062】
この樹脂層3は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、本発明に係る構造物保護シート1の水蒸気透過率が10~50g/m2.dayとなるように適宜調整することが望ましい。こうすることにより、構造物保護シート1に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層2と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層2との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0063】
また、樹脂層3は、本発明に係る構造物保護シート1のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層3は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層3に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
また、本発明に係る構造物保護シートは、樹脂層3のポリマーセメント硬化層2側と反対側の表面をカーボン粒子含有オイルで汚染した後垂直に設置し、2メートル程度離れた位置から汚染された面に水道水を、ホースを用いてほぼ水平に勢いよくかけることで清掃したときの汚染物の除去率が95%以上であることが好ましい。樹脂層3の表面の清掃性が優れたものとなり、例えば、高速道路の壁やトンネルの壁面といった汚染物質が容易に付着する構造物に対し極めて好適な補修シートとして用いることができる。上記汚染物の除去率が95%未満の場合、防汚性が不十分となり上記のような高速道路の壁やトンネルの壁面においては感覚的にも『汚れている』という印象を受けやすくなる。他方、汚染物の除去率は高ければ高い方がよいが、通常は98%以下となる。
なお、このような汚染物の除去率を有する本発明に係る構造物保護シート1は、例えば、樹脂層の樹脂として、アクリルシリコーン樹脂等の汚染物の除去をしやすい材料を選択するか、樹脂層にシリコン樹脂又はシリコン微粒子等の汚染物の除去をしやすい材料(防汚剤)を含有させる等によって得ることができる。
本発明における汚染性の評価は、後述する実施例の方法で実施することができる。
また、樹脂層3は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等が挙げられる。
【0064】
[意匠性付与処理]
本発明に係る構造物保護シートは、樹脂層3のいずれか一方の面に意匠性が付与されていることが好ましい。ここで、いずれか一方の面とは、ポリマーセメント硬化層2側の面又はその反対の面をいう。意匠性は凹凸形状を設けるか又は印刷によって付与されていることが好ましい。上記意匠性を付与する処理としては特に限定されず、例えば、上記樹脂層の表面に施されたエンボス処理又はマット処理(つや消し処理)、ミラー処理(光沢処理)、または上記樹脂層の表面に印刷を行う処理が好適に用いられる。
【0065】
上記エンボス処理は樹脂層3の表面に所望の凹凸形状を付与する処理であり、例えば、
図6に示したようなロール表面に付与すべき凹凸に対応する凹凸が形成されたエンボスロール10に未硬化の樹脂層3’を送り出し、未硬化の樹脂層3’の表面を押し付けてエンボスロール10の凹凸を未硬化の樹脂層3’の表面に転写し、その後未硬化の樹脂層3’を硬化させて樹脂層3とする方法が挙げられる。
上記エンボスロールの凹凸の形状は特に限定されず、所望する意匠に応じで適宜選択すればよい。
なお、エンボス処理のその他の条件等は樹脂フィルムに対するエンボス処理として従来公知の条件を採用できる。
また、上記樹脂層3の表面に凹凸形状を形成する方法としては、エンボス処理に限定はされず、他の方法を用いてもよく、エンボス加工と類似の方法でいわゆるマット加工を行うことも可能である。
例えば、
図7に示したように、離型シート4にディンプル形状(半球状)の凹凸形状を深さ1ミクロン程度に設け、その上に上記未硬化の樹脂層3’を塗布し、その後未硬化の樹脂層3’中の樹脂を硬化させ、さらにポリマーセメント硬化層2を設けた後に離型シート4を剥離すれば、樹脂層3の表面にマット状の意匠が形成された構造物保護シートを得ることができる。
【0066】
樹脂層3の表面を印刷する方法としては特に限定されず、例えば、溶剤と、バインダー樹脂(ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系等)と、各種顔料、体質顔料及び添加剤(可塑剤、乾燥剤、安定剤等)とを添加してなるインキにより印刷を行えばよい。
上記印刷する模様等は特に限定されず、構造物に付与する意匠に応じて適宜、文字、絵柄等が選択される。
また、上記インキの印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法が挙げられる。
なお、樹脂層3に対する密着性向上のため、上記インキを印刷する前に樹脂層3の表面にコロナ処理やオゾン処理等の処理が施されていてもよい。
本願発明の構造物保護シートは一例として、離型シートの表面にエンボス状もしくはマット状の凹凸面を設け、その凹凸面に印刷により意匠を形成し、さらに樹脂層、ポリマーセメント層の順に設けることで形成することができる。
また、上記離型シートと凹凸面との界面にアクリルシリコンなどの透明樹脂層を介在させることも好適である。
その場合、構造物を保護した後の最表面にアクリルシリコンなどの樹脂層が存在するため、耐候性の向上に大きく寄与する。
【0067】
上記意匠性の付与は、樹脂層3の少なくとも一方の面に施されていればよく、例えば、樹脂層3の一方のポリマーセメント硬化層2側と反対側の面(構造物保護シート1の表面となる面又は離型シート4と接する樹脂層3の表面)に施されている場合、より好的な意匠性を付与でき、特にエンボス処理等により凹凸形状を付与したときは立体感に優れた意匠性を付与できる。
また、樹脂層3のポリマーセメント硬化層2側の表面に意匠性の付与が施されている場合、付与された意匠が直接外気に接しないため長期間にわたり優れた意匠性を維持でき、また、エンボス処理を行った場合、立体的な意匠を付与しつつ樹脂層3の表面は平坦な構成が得られる。この場合、樹脂層3を透明又は半透明になるように形成してもよい。
更に、本発明に係る構造物保護シート1では、樹脂層3のポリマーセメント硬化層2側の表面に印刷層を設け、樹脂層3の反対側の表面にエンボス処理等により凹凸形状を設けた構造も好適である。印刷層による優れた意匠性とエンボス処理の凹凸形状による立体感とを同時に得ることができ、更に上記凹凸形状による防眩性、防音性や防汚性といった機能を付与することもできる。
【0068】
作製された構造物保護シート1は、
図1に示すように樹脂層3のポリマーセメント硬化層2側と反対側の面に離型シート4を備えてもよい。離型シート4は、例えば、施工現場への際に構造物保護シート1の表面を保護することができ、施工現場では、対象となる構造物21の上(又は下塗り層22又は接着層23を介して)離型シート4を貼り付けたままの構造物保護シート1を接着し、その後離型シート4を剥がすことで、施工現場での作業性が大きく改善される。なお、離型シート4は、構造物保護シート1の生産工程で利用する工程紙であることが好ましい。
【0069】
離型シート4として使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層やシリコーンを含有する層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工上、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0070】
(接着層)
本発明に係る構造物保護シート1は、ポリマーセメント硬化層2の樹脂層3と反対側面(構造物21側の面)に接着層5が設けられている。
接着層5がポリマーセメント硬化層2の表面に設けられていることで、本発明に係る構造物保護シート1を構造物21に貼り付ける際に、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がないため極めて作業効率に優れ、また、熟練の職人によらずに均一な厚みの接着層を介して本発明に係る構造物保護シート1を構造物21に貼り付けることができる。また、接着層5が設けられていることで、構造物21の表面に微細な凹み等が存在した場合であってもこの凹みに粘着層を埋め込んで本発明に係る構造物保護シート1の密着性を高めることができる。
【0071】
接着層5は、粘着剤を用いてなる粘着層であってもよく、接着剤を用いてなる接着層であってもよいが、接着層5のポットライフを考慮すると粘着層が好ましい。
上記粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等公知のものが挙げられるが、本発明において接着層5は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、構造物21に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れているため、本発明に係る構造物保護シート1による構造物21の保護をより好適に行うことができる。
上記アクリル系粘着剤としては特に限定されず市販品を使用するとことができ、例えば、オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0072】
上記アクリル系粘着剤からなる接着層5(以下、粘着層ともいう)の積層量としては、コンクリート等の構造物21表面への十分な付着力を発揮できることから、20g/m2以上250g/m2以下が好ましい。
また、上記粘着層を介して構造物21の表面に貼り付けた時の付着力が0.5N/mm2以上あることが好ましい。0.5N/mm2未満であると本発明に係る構造物保護シート1の構造物21表面に対する密着性が不十分となることがある。
【0073】
本発明に係る構造物保護シート1における接着層5が接着剤から構成される接着層である場合、上記接着剤としては特に限定されず、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等公知の接着剤が挙げられる。
このような接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等が挙げられる。なかでも、構造物保護シート1のポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤は、ポリマーセメント硬化層2との接着強度が高くなるのでより好ましい。
【0074】
本発明に係る構造物保護シート1において、接着層5は、硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤を含むことで構造物21に対するより優れた付着力を有するものとなり、また、本発明に係る構造物保護シート1の押し抜き強度も優れたものとなる。
本発明に係る構造物保護シート1は、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上であることが好ましい。上記押し抜き強度が1.5kN以上であることで、本発明に係る構造物保護シート1により構造物の表面からコンクリート等の剥落といった問題を好適に防止できる。
【0075】
上記硬化剤としては特に限定されず、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系硬化剤等公知の硬化剤を使用できる。
【0076】
本発明に係る構造物保護シート1において、構造物21に対する付着力及び本発明に係る構造物保護シート1の押し抜き強度に優れることから、接着層5はゲル分率が30%~70%であることが好ましく、より好ましい下限は40%、より好ましい上限は65%である。
【0077】
本発明に係る構造物保護シート1において、接着層5の厚さとしては20~500μmであることが好ましい。20μm未満であると本発明に係る構造物保護シート1の構造物21に対する付着力が不十分となることがあり、500μmを超えると、厚みにバラツキが生じやすく、また、施工時に平滑な施工面を得るためにローラー等で馴らした時に、端部から余分な接着剤がはみ出てしまうことがある。接着層5の厚みのより好ましい下限は90μm、より好ましい上限は200μmである。
【0078】
本発明に係る構造物保護シート1は、
図1に示したように接着層5の表面保護のために、接着層5のポリマーセメント硬化層2と反対側面に離型フィルム6が貼り付けられていることが好ましい。離型フィルム6としては特に限定されず、例えば、基材層と離型層とを有するフィルムが挙げられる。
上記基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネートなどの合成樹脂が挙げられる。また、上記基材層は、紙を主成分として形成されてもよい。さらに、上記基材層は、2層以上の積層体であってもよい。
【0079】
上記離型層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等が挙げられる。上記離型層は、上記離型層を構成する材料及び有機溶剤を含む塗工液を上記基材層上にグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の方法によって塗布し、乾燥及び硬化させる塗工法によって形成することができる。また、上記離型層の形成に当たっては、基材層の積層面にコロナ処理や易接着処理を施してもよい。
【0080】
以上説明した構造物保護シート1は、コンクリート等の構造物中の水分を排出でき、コンクリート構造物21を長期にわたって保護することができる。特に、構造物保護シート1にコンクリート構造物21の特性に応じた性能を付与し、コンクリート構造物21に生じたひび割れや膨張に追従させること、コンクリート構造物21に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、コンクリート構造物21中の劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした構造物保護シート1は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0081】
本発明に係る構造物保護シートの用途としては上述した道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁、橋、欄干等の土木構造物の表面補強以外にも種々な対象が挙げられ、種々の効果を得ることができる。具体的には、例えば、トタン屋根等の金属屋根へ貼り付けて金属防食性の付与、建築用配管等へ貼り付けて表面の補強、工場建屋等のALCパネルへ貼り付けて劣化軽減や補修、高速道路の側壁へ貼り付けて耐汚染性付与や表面形状による反射防止や情報付与、下水管(内面、外面、接手)へ貼り付けて耐硫酸性の付与、下水施設(下水処理施設、用水路)へ貼り付けて耐硫酸性の付与、屋内外の床やコンクリート屋上へ貼り付けて強度の向上、水中施設へ貼り付けて耐久性の向上、海に近い地域の配線のトンネルへ貼り付けて表面の補強、ダム放水路へ貼り付けて劣化防止や劣化部の補修、マンホール内壁面等の土木構造物、コンクリート屋根、コンクリート屋上、屋内の石や樹脂からなる床材、煙突の内面や外面等の建築物、住宅用建材に貼り付けて防コケ性や防カビ性の付与、煙突の内面、外面へ貼り付けて表面の補強、マンホール内壁面へ貼り付けて劣化防止や修繕等が挙げられる。
また、本発明に係る構造物保護シートにポリロタキサンを添加することで改質したり、樹脂組成や粒子を添加して表面強度の向上を図ったりすることもできる。
【0082】
[構造物保護シートを用いた構造物の製造方法]
本発明に係る構造物保護シートを用いた補強された構造物の製造方法は、
図2に示すように、上記本発明に係る構造物保護シート1を使用した施工方法であって、接着層5を介して構造物21の表面に構造物保護シート1を貼り合わせることを特徴とする。接着層5の表面に離型フィルム6が貼り付けられている場合、
図2(A)に示したように、離型フィルム6を剥離して接着層5を露出させた後、
図2(B)に示したように構造物21に構造物保護シート1を接着層5側から貼り合せる。
この施工方法は、構造物21の表面に構造物保護シート1を容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくとも厚さのバラツキの小さい層で構成された構造物保護シート1を、構造物21に設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物21を長期にわたって保護することができる。
【0083】
図5は、現場打ち工法に構造物保護シート1を適用した例を示す説明図である。現場打ち工法とは、作業現場で型枠24を形成し、その型枠24内にコンクリート組成物21’を流し込み、放置して硬化させてコンクリート構造物21得る工法である。この現場打ち工法において、硬化したコンクリート構造物21を形成した後、その表面に構造物保護シート1を貼り合わせることで、劣化が生じにくい構造物21とすることができる。構造物保護シート1を構造物21に貼り合せた後、通常、自然放放置して接着層5を乾燥硬化させて、構造物保護シート1を接着する。
【0084】
一方、既にひび割れ等が生じた構造物21に対しては、欠損部分を補修した後に、上記同様の施工方法により構造物保護シート1を貼り合わせる。こうしてコンクリート構造物21の寿命を延ばすことができる。
【0085】
構造物21の表面には、硬化性樹脂材料を含有するプライマー層が形成されていてもよい。
上記硬化性樹脂材料としては、熱硬化、光硬化その他の方法で硬化して樹脂となるような性質を有する材料であれば特に制限はないが、好ましくは、エポキシ化合物が挙げられる。この場合、上記プライマー層が硬化することで形成される硬化プライマー層は、エポキシ硬化物となる。エポキシ硬化物は、一般には、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を硬化剤により硬化させたものである。以下、エポキシ硬化物をプライマー層に用いる場合を例にとって説明する。
【0086】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物等が挙げられる。
また、硬化剤としては、多官能フェノール類、アミン類、ポリアミン類、メルカプタン類、イミダゾール類、酸無水物、含リン化合物等が挙げられる。これらのうち、多官能フェノール類としては、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ナフタレンジオール類、ビフェノール類、及び、これらのハロゲン化物、アルキル基置換体等が挙げられる。更に、これらのフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック、レゾールを用いることができる。アミン類としては、脂肪族又は芳香族の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩及び脂肪族環状アミン類、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられる。
上記例示のうち、プライマー層の材料(硬化性樹脂材料を含む。)としては、エポキシ樹脂系プライマーとして、例えば、ビスフェノールA型エポキシ又はビスフェノールF型エポキシの主剤と、ポリアミン類又はメルカプタン類の硬化剤とを用いるもの等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂系プライマーは、上記主剤と硬化剤以外に、例えば、カップリング剤、粘度調整剤及び硬化促進剤等を含んでもよい。このようなプライマー層として、例えば、東亞合成社製2液反応硬化形水系エポキシ樹脂エマルション「アロンブルコートP-300」(商品名・なお「アロンブルコート」は東亞合成社の登録商標である。)を用いることができる。
【0087】
上記プライマー層は、一般的には構造物21の下塗材として使用される。その塗布は、例えば、下塗材としては溶剤タイプのエポキシ樹脂溶剤溶液、又はエポキシ樹脂エマルション及びその他一般のエマルション、又は、粘着剤等を構造物21の表面に塗布すればよい。この場合、下塗材は通常の方法で施工することができ、例えば、劣化防止すべき構造物21の表面に、刷毛又はローラー等により塗布したり、又は、スプレーガン等で吹き付ける一般的な方法により塗布し、塗膜を形成させる。
上記プライマー層の厚さは特に限定されないが、好ましくはウエットの状態で50μm以上、300μm以下の範囲内とすることができる。50μm以上とすることでプライマー層の材料のコンクリート等の構造物21へのしみ込みを考慮した上でプライマー層の厚さを均一にしやすくなると共に、構造物と構造物保護シート1との接着性を確保しやすくなる。プライマー層の厚さの上限は特に制限はされないが、塗布のしやすさや接着時の両層のずれを最小化する意味、また材料の使用料の最適化から、300μm以下とすることが好ましい。構造物21の下塗り層として設けるプライマー層、構造物と構造物保護シート1との相互の密着を高めるように作用するので、プライマー層を上記厚さにすれば、構造物保護シート1は長期間安定して構造物21を補強し保護しやすくなる。
なお、構造物21にひび割れや欠損が生じている場合には、プライマー層を塗布する前に、上記ひび割れや欠損を補修した後にプライマー層を設けることが好ましい。補修の方法は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使って補修が行われる。
【実施例0088】
実施例、比較例、参考例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0089】
[実施例1]
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シート4を用いた。その離型シート4上に、アクリル系樹脂を含む樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ100μmの樹脂層3を形成した。その後、その樹脂層3上に、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ1.00mmのポリマーセメント硬化層2を形成した。
ポリマーセメント硬化層2の表面に、アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製))100質量部に対してイソシアネート系硬化剤(BHS8515(トーヨーケム社製)6質量部を混合し、ゲル分率が57%の粘着剤用混合液を調製した。この粘着剤用混合液を樹脂層3の表面に塗布、乾燥させて厚さ200μmの接着層5(粘着層)を形成した。
得られた構造物保護シート1の合計厚みは1300μmであった。
この構造物保護シート1は、約25℃に管理された工場内で連続生産され、離型シートを含んだ態様でロール状に巻き取った。
【0090】
ポリマーセメント硬化層形成用組成物は、セメント混合物を45質量部含む水系のアクリルエマルジョンである。セメント混合物は、ポルトランドセメント70±5質量部、二酸化ケイ素10±5質量部、酸化アルミニウム2±1質量部、酸化チタン1~2質量部を少なくとも含むものであり、アクリルエマルジョンは、アクリル酸エステルモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したアクリル酸系重合物53±2質量部、水43±2質量部を少なくとも含むものである。これらを混合したポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗布乾燥して得られたポリマーセメント硬化層2は、ポルトランドセメントをアクリル樹脂中に50質量%含有する複合層である。一方、樹脂層形成用組成物は、アクリルシリコーン系樹脂である。このアクリルシリコーン系樹脂は、アクリルシリコーン樹脂60質量部と、二酸化チタン25質量部と、酸化第二鉄10質量部と、カーボンブラック5質量部とを含有するエマルジョン組成物である。
【0091】
[実施例2]
アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製))100質量部に対してイソシアネート系硬化剤(BHS8515(トーヨーケム社製))3質量部を混合し、ゲル分率が46%の粘着剤用混合液を用いた以外は実施例1と同様にして構造物保護シート1を製造した。
【0092】
[実施例3]
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シート4を用いた。その離型シート4上に、アクリル系樹脂を含む樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ100μmの樹脂層3を形成した。その後、その樹脂層3上に、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ600μmのポリマーセメント硬化層2を形成した。次いで、厚さ600μmのポリマーセメント硬化層2上に150メッシュのビニロン製メッシュを積層し、メッシュ上に、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ400μmのポリマーセメント硬化層2を形成した。
その後、実施例1と同様にして構造物保護シート1を作製した。
【0093】
[実施例4]
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シート4を用いた。その離型シート4上に、アクリル系樹脂を含む樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ100μmの樹脂層3を形成した。その後、その樹脂層3上に、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ300μmのポリマーセメント硬化層2を形成した。次いで、厚さ300μmのポリマーセメント硬化層2上に510メッシュの寒冷紗を積層した。
その後、接着層5(粘着層)の厚さを100μmとした以外は実施例1と同様にして構造物保護シート1を作製した。
【0094】
[比較例1]
接着層5を設けなかった以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0095】
[参考例1]
接着層5(粘着層)のゲル分率が30%となるように、硬化剤量を調整した以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0096】
[参考例2]
接着層5(粘着層)のゲル分率が70%となるように、硬化剤量を調整した以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0097】
[参考例3]
接着層5の厚さを100μmとした以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0098】
[参考例4]
接着層5の厚さを50μmとした以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0099】
[参考例5]
アクリル系粘着剤(AST-8752(日本触媒社製))100質量部に対してイソシアネート系硬化剤(コロネートL(東ソー社製)6質量部を混合し、ゲル分率が57%の粘着剤用混合液を調製した。この粘着剤用混合液を用いた以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0100】
[参考例6]
ブチルゴム系粘着剤(スーパーブチルテープ両面5938(スリオンテック社製))を用いた以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを製造した。
【0101】
[参考例7]
接着層5(粘着層)の厚さを50μmとした以外は実施例4と同様にして構造物保護シートを作製した。
【0102】
[付着力]
JIS-A6909に準拠し実施例1、実施例3、4、参考例1~7に係る構造物保護シートの付着力の測定を行った。
なお、比較例1に係る構造物保護シートは接着層5を設けなかったので付着力の評価ができなかった。
・供試体の作製
(1)試験板は、JIS-A6909に規定するモルタル板(70×70×20mm)を使用する。
(2)得られた構造物保護シートの接着層5側をモルタル板に貼合し、離型シート4を剥離する。
・試験方法
JIS-A6909に準拠し測定を行う。
具体的には、
(1)構造物保護シートの樹脂層3側の表面に上部引張り用治具を接着剤で接着し、24時間静置する。
(2)養生後、治具の周り40mm×40mmの方形の4辺に、コンクリート基盤に達するまで切り込みを入れる。
(3)下部引張り用治具及びあて板を用いて、供試体を試験機に取付け、供試体面に対して鉛直方向に上部引張り用治具及び下部引張り用治具により引張力を加えて、最大引張り荷重T(N)を求める。
荷重速度は1500n/minとする。
(4)付着強度(N/mm2)=最大引張り荷重T(N)/1600とする。
【0103】
[押し抜き強度]
JSCE-K-533に準拠し測定を行った。
なお、比較例1に係る構造物保護シートは接着層5を設けなかったので押し抜き強度の評価ができなかった。
・供試体の作製
(1)試験板はJIS-A5372付属書Eに規定する上ぶた式U形側溝(400×600×60mm)を使用する。
(2)試験板の表面400×400mmの範囲を構造物保護シートで被覆する。
(3)被覆反対面の試験板の中央部において、直径約100mm、深さ55±3.0mmの範囲を削孔する。
・測定方法
(1)削孔を行った面を上にして載荷する。
(2)削孔部を1mm/minで破壊する。
(3)その後5mm/minの載荷速度で変位を与える。
(4)50mmまで載荷をし、その際の最大荷重を押し抜き強度とした。
【0104】
[施工性]
省施工性という観点から、接着剤の塗布工程があるものを施工性×。塗布工程がないものを〇とした。
【0105】
【0106】
本開示(1)は、構造物の表面に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
接着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられている
ことを特徴とする構造物保護シートである。
本開示(2)は、接着層は、アクリル系粘着剤から構成されている本開示(1)に記載の構造物保護シートである。
本開示(3)は、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上である本開示(1)又は(2)記載の構造物保護シートである。
本開示(4)は、構造物の表面に接着層を介して貼り付けた時の付着力が0.5N/mm2以上である本開示(1)又は(2)記載の構造物保護シートである。
本開示(5)は、接着層の厚さが20~500μmである本開示(1)、(2)、(3)又は(4)記載の構造物保護シートである。
本開示(6)は、ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている本開示(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載の構造物保護シートである。
本開示(7)は、更にメッシュ層を有する本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)記載の構造物保護シートである。
本開示(8)は、本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)に記載の構造物保護シートを使用した補強された構造物の製造方法であって、前記接着層を介して構造物の表面に前記構造物保護シートを貼り合わせることを特徴とする補強された構造物の製造方法である。