(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184765
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】歯付プーリ、同期伝動ベルトシステム、及び歯付ベルトの装着方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/46 20060101AFI20221206BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16H55/46
F16H7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083799
(22)【出願日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021091592
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄司
【テーマコード(参考)】
3J031
3J049
【Fターム(参考)】
3J031AC07
3J031BA03
3J031BA07
3J031CA04
3J049AA03
3J049BF01
3J049BH01
3J049BH10
(57)【要約】
【課題】従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高いベルトを装着する場合であっても、ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設定可能に、ベルトをプーリ間に装着できる、歯付プーリ等を提供する。
【解決手段】歯付ベルト2の歯部21とかみ合う溝部14が外周に形成された歯付プーリ1であって、回転軸に接続可能なボス部111と、ボス部111の外周側に取り付けられ、ボス部111の円周方向に2つに分割された、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13と、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の回転軸方向の位置関係を固定するベース部材11とを備え、第1分割プーリ12は、第2分割プーリ13がボス部111の外周側に取付けられていない状態で、ボス部111の外周側に取付可能になっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯付ベルトの歯部とかみ合う溝部が外周に形成された歯付プーリであって、
回転軸に接続可能なボス部と、
前記ボス部の外周側に取り付けられ、当該ボス部の円周方向に複数に分割された形状を有する、複数の分割プーリと、
前記複数の分割プーリの前記回転軸方向の位置関係を固定する固定手段と、
を備え、
前記複数の分割プーリのうち、一部の前記分割プーリは、残りの前記分割プーリが前記ボス部の外周側に取付けられていない状態で、前記ボス部の外周側に取付可能又は一体化されている、歯付プーリ。
【請求項2】
前記複数の分割プーリの数は、2個である、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項3】
前記溝部は、前記回転軸方向に延びた形状をしている、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項4】
前記固定手段は、前記ボス部と、当該ボス部の片側から径方向外側に延びたフランジ部とが一体形成された構成をしており、
更に、前記複数の分割プーリと前記フランジ部とを締結する締結部材を有する、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項5】
前記フランジ部は、前記ボス部の片側から少なくとも前記溝部の外縁まで延びている、請求項4に記載の歯付プーリ。
【請求項6】
前記分割プーリと前記固定手段とは、一方に形成された凹形状の凹部と他方に形成された凸形状の凸部とが同心状に嵌合される構造である、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項7】
前記分割プーリは片側に前記凸部を有し、前記固定手段は片側に前記凹部を有し、前記凸部と前記凹部とが同心状に嵌合可能に構成されている、請求項6に記載の歯付プーリ。
【請求項8】
前記複数の分割プーリは、前記溝部の底面で円周方向に分割されている、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項9】
ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトと、当該歯付ベルトの装着対象である、互いに離隔配置された2以上の歯付プーリからなるプーリレイアウトと、を備えた同期伝動ベルトシステムであって、
前記2以上の歯付プーリの少なくとも1つは、請求項1~8の何れかに記載の歯付プーリであり、
前記一部の分割プーリは、残りの前記分割プーリが前記ボス部の外周側に取付けられていない状態で、前記ボス部の外周側に取付可能又は一体化された状態で、前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する際に用いられるベルト装着用プーリとして機能し、
前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する前に、前記回転軸方向に見て、前記一部の分割プーリの外周に形成された前記溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含む前記プーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様に配設可能に構成されている、同期伝動ベルトシステム。
【請求項10】
前記2以上の歯付プーリの1つだけが、請求項1~8の何れかに記載の歯付プーリである、請求項9に記載の同期伝動ベルトシステム。
【請求項11】
前記回転軸方向に見た、前記円弧部分の中心角は、当該歯付プーリに対する前記歯付ベルトの巻付け角度以上であり、且つ、前記円弧部分の中心角は、前記回転軸方向に見て、当該歯付プーリを含む前記プーリレイアウトの周の前記内側領域に前記円弧部分が留まる態様に設けられた状態で、前記プーリレイアウトの周長が、前記歯付ベルトのベルト基準周長未満となる範囲内である、請求項9に記載の同期伝動ベルトシステム。
【請求項12】
請求項9に記載の同期伝動ベルトシステムにおいて、前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する方法であって、
前記ボス部を回転軸に接続し、前記ボス部の外周側に取り付けた、又は、前記ボス部の外周側に一体化されている、前記一部の分割プーリの回転軸方向に見て、前記一部の分割プーリの外周に形成された前記溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様に前記プーリレイアウトを設ける準備ステップと、
前記準備ステップで設けた前記プーリレイアウトに前記歯付ベルトを懸架する懸架ステップと、
前記一部の分割プーリを含む当該歯付プーリを回転させ、前記歯付ベルトに装着時張力を付与する張力付与ステップと、
前記固定手段を介して、前記残りの分割プーリを前記ボス部の外周側に取付ける組付ステップと、を含む、歯付ベルトの装着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付プーリ、これを用いる同期伝動ベルトシステム、及び、同期伝動ベルトシステムにおける歯付ベルトの装着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンや一般産業機械のベルトシステムには、歯付ベルトをはじめとするかみ合い伝動ベルトが広く用いられている。かみ合い伝動ベルトは、プーリの溝部とベルトの歯部との機械的なかみ合いにより動力を伝達する。このようなかみ合い伝動ベルトでは、同期伝動システムを確保するため、走行中に上記かみ合いを維持する必要がある。
【0003】
しかし、走行中にベルトが伸びて緩むとかみ合い不良となる(歯飛び等の不具合が発生する)ため、基本的には引張弾性率(以下、ベルト弾性率)が比較的高く、ほとんど伸びないベルトが必要になる。
【0004】
従来、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルト(以下、単に「ベルト」と略する場合あり、なお、ベルトの幅は20mmを想定)をプーリ間に装着する方法としては、以下の方法が適用されている。
【0005】
(A)ベルトを2つ以上のプーリに懸架した弛緩状態で、ベルトをテンショナ(テンションプーリ)で押す、または引っ張ることで、ベルトに張力を付与する。
(B)ベルトを2つ以上のプーリに懸架した弛緩状態で、少なくとも1つのプーリ軸を移動させて、プーリの軸間距離を拡げることで、ベルトに張力を付与する。
(C)上記張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトにベルトを装着する方法であって、プーリレイアウト周長(後述の定義参照)がベルト基準周長(後述の定義参照)と同じか又は若干短いプーリレイアウト(2つ以上のプーリ)にベルトを懸架し、ベルトにほとんど装着時張力が付与されない状態でベルトをプーリ間に装着する。
【0006】
特に、上記(C)の方法の採用により、上記(A)(B)のような、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)が不要になり、同期伝動ベルトシステムの軽量化やコストダウンに貢献する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56-31557号公報
【特許文献2】特開平08-24249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ベルト弾性率が比較的高い水準(例えばベルト幅20mmで200~400KN程度)にあるベルトの場合、上記(C)の方法、つまり、従来慣用な上記張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに対して、人間の手(治工具なし)でベルトを装着可能であるものの、ベルトにほとんど装着時張力(初張力)が付与されない(例えば100N程度の装着時張力しか付与されない)装着方法であっても、ベルトシステムがかみ合い伝動である為、一定水準の伝動能力は有している。
【0009】
しかしながら、より高負荷な用途に対応しベルトの伝動性能(耐歯飛び性能等)を底上げするためには、ベルトに付与される装着時張力(初張力)の底上げが不可欠である。
【0010】
上記(C)の方法で、ベルト弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にあるベルトの装着時張力(初張力)を比較的高い水準(例えば200~400N程度)に設けるには、プーリレイアウト周長がベルト基準周長よりも若干(例えば0.05%~0.1%程度)長くなるようにプーリレイアウトを設ける必要がある。
【0011】
しかしながら、ベルト弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にあるベルトを基本とするため、ベルトをプーリレイアウトに装着するのが困難であり、対応できなかった。
【0012】
この点、上記課題を解決し得る手段として、従来の歯付プーリに係る文献等を調査し、特許文献1及び特許文献2を見つけたが、これらの文献には、上記課題、解決手段、それらの示唆等は見当たらなかった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高いベルトを装着する場合であっても、ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設定可能に、ベルトをプーリ間に装着できる、歯付プーリ等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、歯付ベルトの歯部とかみ合う溝部が外周に形成された歯付プーリであって、
回転軸に接続可能なボス部と、
前記ボス部の外周側に取り付けられ、当該ボス部の円周方向に複数に分割された形状を有する、複数の分割プーリと、
前記複数の分割プーリの前記回転軸方向の位置関係を固定する固定手段と、
を備え、
前記複数の分割プーリのうち、一部の前記分割プーリは、残りの前記分割プーリが前記ボス部の外周側に取付けられていない状態で、前記ボス部の外周側に取付可能又は一体化されていることを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、ボス部を回転軸に接続し、ボス部の外周側に取り付けた、又は、ボス部の外周側に一体化されている、一部の分割プーリの回転軸方向に見て、一部の分割プーリの外周に形成された前記溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様にプーリレイアウトを設けることにより、予め、歯付ベルトのベルト基準周長(L0)に対して、歯付ベルト装着前の当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周長(L1)を短くすることができる。このため、一部の分割プーリを含む当該歯付プーリを含むプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルトを容易に懸架することができる。
そして、一部の分割プーリを含む当該歯付プーリを回転させ、歯付ベルトに装着時張力を付与することができる。このため、当該歯付プーリは、歯付ベルトをプーリレイアウトに装着する際に、張力付与機構として機能する。
そして、固定手段を介して、残りの分割プーリをボス部の外周側に取付けることで、通常の歯付プーリと全く同じ外観形状(円環状)、及び、機能を有する歯付プーリとして、同期伝動ベルトシステムに適用することができる。
したがって、上記構成によれば、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルトを装着する場合であっても、歯付ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設けることができる。
【0016】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記複数の分割プーリの数が、2個であることを特徴としてもよい。
【0017】
上記構成によれば、複数の分割プーリの数が3以上の場合と比較し、当該歯付プーリの製造の手間、ならびに歯付ベルトのプーリ間への装着(残りの分割プーリの組付け)の手間を軽減できる。
【0018】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記溝部が、前記回転軸方向に延びた形状をしていることを特徴としてもよい。
【0019】
上記構成によれば、溝部は、プーリ幅方向に平行に延びている。当該歯付プーリが直歯歯付プーリ以外の歯付プーリ(例えば、当該歯付プーリが、プーリ幅方向に対して斜めに配置されている溝部を有する、はす歯歯付プーリ)と比べ、歯付ベルトの装着が容易となる(詳細には、一部の分割プーリに対して、残りの分割プーリをプーリ幅方向(回転軸方向)に沿って当てがう動作が容易となる)。また、その分、歯付ベルト巻付け角度の許容範囲を拡げることができるため、プーリレイアウトの自由度をより高めることができる。
【0020】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記固定手段は、前記ボス部と、当該ボス部の片側から径方向外側に延びたフランジ部とが一体形成された構成をしており、
更に、前記複数の分割プーリと前記フランジ部とを締結する締結部材を有することを特徴としてもよい。
【0021】
上記構成によれば、ボス部の外周側(径方向外側)における、複数の分割プーリの回転軸方向の位置関係をより確実に固定できる。また、当該歯付プーリの設計(構成)の自由度を高めることができる。
【0022】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記フランジ部が、前記ボス部の片側から少なくとも前記溝部の外縁まで延びていることを特徴としてもよい。
【0023】
上記構成によれば、当該歯付プーリから歯付ベルトが脱落するのを防止できるとともに、プーリレイアウト(歯付ベルトの経路)に沿った、歯付ベルトの走行安定性を高めることができる。
【0024】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記分割プーリと前記固定手段とは、一方に形成された凹形状の凹部と他方に形成された凸形状の凸部とが同心状に嵌合される構造であることを特徴としてもよい。
【0025】
上記構成によれば、分割プーリと固定手段とを、インロー構造にすることができる。これにより、複数の分割プーリと固定手段とを組付けた後の歯付プーリ(最終形状)を、通常の歯付プーリと全く同じ外観形状(円環状)、機能を有する歯付プーリとして、より寸法精度の高いものにすることができる。
【0026】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記分割プーリは片側に前記凸部を有し、前記固定手段は片側に前記凹部を有し、前記凸部と前記凹部とが同心状に嵌合可能に構成されていることを特徴としてもよい。
【0027】
本構成とは逆に、分割プーリの片側に凹部を有し、固定手段の片側に凸部を有する構成にすると、ボス部の外周側に一部の分割プーリのみを取り付けた状態の歯付プーリを用いて、歯付ベルトをプーリレイアウトに装着する際(仮掛け)、特に、歯付ベルトに張力が付与される過程で、固定手段の片側に突出した凸部に歯付ベルトが不用意に乗り上げてしまい、歯付ベルトが損傷する虞がある。
しかし、本構成によれば、固定手段の片側に突出した凸部は無いことから、歯付ベルトをプーリレイアウトに装着する際に、歯付ベルトが損傷する虞がないものにできる。
【0028】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記複数の分割プーリは、前記溝部の底面で円周方向に分割されていることを特徴としてもよい。
【0029】
本構成に反し、複数の分割プーリが、溝部の底面以外の部分(例えばベルトの歯元部や歯底部に対向する部分)で円周方向に分割される構成にすると、ボス部の外周側に一部の分割プーリのみを取り付けた状態の歯付プーリを用いて、歯付ベルトをプーリレイアウトに装着する際(仮掛け)、特に、歯付ベルトに張力が付与される過程で、歯部以外の比較的肉厚が薄いベルト部分(歯元部や歯底部)が分割面の外周側端部(角部)と接触することで歯付ベルトが屈曲し、クラックが生じたり破断してしまう虞がある。
しかし、本構成によれば、溝部の底面を起点に分割面が形成されて、プーリが円周方向に分割されるため、歯付ベルトをプーリレイアウトに装着する際に、分割面の外周側端部(角部)と接触するのは、歯付ベルトの歯先部分であるため、上記不具合(クラック等)が生じるのを防止できる。
【0030】
また、本発明は、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトと、当該歯付ベルトの装着対象である、互いに離隔配置された2以上の歯付プーリからなるプーリレイアウトと、を備えた同期伝動ベルトシステムであって、
前記2以上の歯付プーリの少なくとも1つは、請求項1~8の何れかに記載の歯付プーリであり、
前記一部の分割プーリは、残りの前記分割プーリが前記ボス部の外周側に取付けられていない状態で、前記ボス部の外周側に取付可能又は一体化された状態で、前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する際に用いられるベルト装着用プーリとして機能し、
前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する前に、前記回転軸方向に見て、前記一部の分割プーリの外周に形成された前記溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含む前記プーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様に配設可能に構成されていることを特徴としている。
【0031】
上記構成によれば、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しない同期伝動ベルトシステムのプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルトを装着する場合であっても、歯付ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設けることができる。
【0032】
また、本発明は、上記同期伝動ベルトシステムにおいて、前記2以上の歯付プーリの1つだけが、上記に記載の歯付プーリであることを特徴としてもよい。
【0033】
上記構成によれば、同期伝動ベルトシステム(特にプーリレイアウト)の製造コスト、ならびに歯付ベルトのプーリレイアウトへの装着の手間を最小限に留めることができる。
【0034】
また、本発明は、上記同期伝動ベルトシステムにおいて、前記回転軸方向に見る、前記円弧部分の中心角は、当該歯付プーリに対する前記歯付ベルトの巻付け角度以上であり、且つ、前記円弧部分の中心角は、前記回転軸方向に見て、当該歯付プーリを含む前記プーリレイアウトの周の前記内側領域に前記円弧部分が留まる態様に設けられた状態で、前記プーリレイアウトの周長(L1)が、前記歯付ベルトのベルト基準周長(L0)未満となる範囲内であることを特徴としてもよい。
【0035】
上記構成によれば、歯付ベルトの装着性(特に、残りの分割プーリをボス部の外周側に取付ける作業性)を確実に確保することができる。
【0036】
また、本発明は、上記同期伝動ベルトシステムにおいて、前記歯付ベルトを前記プーリレイアウトに装着する方法であって、
前記ボス部を回転軸に接続し、前記ボス部の外周側に取り付けた、又は、前記ボス部の外周側に一体化されている、前記一部の分割プーリの回転軸方向に見て、前記一部の分割プーリの外周に形成された前記溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様に前記プーリレイアウトを設ける準備ステップと、
前記準備ステップで設けた前記プーリレイアウトに前記歯付ベルトを懸架する懸架ステップと、
前記一部の分割プーリを含む当該歯付プーリを回転させ、前記歯付ベルトに装着時張力を付与する張力付与ステップと、
前記固定手段を介して、前記残りの分割プーリを前記ボス部の外周側に取付ける組付ステップと、を含むことを特徴としている。
【0037】
上記方法によれば、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルトを装着する場合であっても、歯付ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態(実施例1)の歯付プーリの斜視図である。
【
図2】本実施形態(実施例1)の歯付プーリの6面図である。
【
図3】本実施形態(実施例1)の歯付プーリの分解図である。
【
図4】第1分割プーリ(実施例1)の斜視図である。
【
図5】ベルト装着用プーリ(ベース部材に第1分割プーリが取り付けられた状態の歯付プーリ)(実施例1)の斜視図である。
【
図6】(A)第1分割プーリとベース部材との好ましい嵌合形態を説明する図である。(B)第1分割プーリとベース部材との好ましくない嵌合形態を説明する図である。
【
図7】実施例及び比較例の同期伝動ベルトシステムに使用される、歯付ベルトの一部の斜視図である。
【
図9】本実施形態(実施例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、準備ステップの状態を示す概略図である。
【
図10】本実施形態(実施例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、懸架ステップの状態を示す概略図である。
【
図11】本実施形態(実施例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、張力付与ステップの状態を示す概略図)である。
【
図12】本実施形態(実施例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、張力付与ステップの状態を示す概略図)である。
【
図13】本実施形態(実施例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、組付ステップの状態を示す概略図である。
【
図14】他の実施形態(実施例2)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、(A)準備ステップ、(B)張力付与ステップ、及び(C)組付ステップの状態を示す概略図である。
【
図15】他の実施形態(実施例2)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、(D)張力付与ステップ、及び(E)組付ステップの状態を示す概略図である。
【
図16】他の実施形態(実施例3)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムにおける、準備ステップ及び組付ステップの状態を示す概略図である。
【
図17】他の実施形態(実施例2)の歯付プーリの6面図である。
【
図18】他の実施形態(実施例3)の歯付プーリの6面図である。
【
図19】従来(比較例1、2)の歯付プーリの斜視図である。
【
図20】(A)従来(比較例1)の歯付プーリを用いた同期伝動ベルトシステムの概略図である。(B)従来(比較例2)の歯付プーリの課題(問題点)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態(後述の実施例1)の歯付プーリ1、当該歯付プーリ1を備えた同期伝動ベルトシステム100、及び、同期伝動ベルトシステム100に歯付ベルト2について説明する。
【0040】
(歯付プーリ1)
歯付プーリ1は、
図1に示すように、回転軸に接続可能なボス部111と、ボス部111の外周側に、歯付ベルト2の歯部21とかみ合う溝部14が形成された駆動プーリである。
【0041】
歯付プーリ1は、
図3に示すように、ボス部111の外周側に取り付けられ、ボス部111の円周方向に2つに分割された形状を有する、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13と、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の回転軸方向の位置関係を固定するベース部材11(固定手段に相当)とを備えた構造をしている。そして、第1分割プーリ12は、第2分割プーリ13がボス部111の外周側に取付けられていない状態で、ボス部111の外周側に取付可能となっている。即ち、歯付プーリ1は、
図5に示すように、ボス部111の外周側に第1分割プーリ12のみが取り付けられた状態を維持可能としている。
【0042】
(第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13)
本実施形態では、ボス部111の円周方向に2つに分割された、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13を備えた構成をしているが、分割する数は、3でも4でもよい。もっとも、分割されたプーリの数は、本実施形態に示すように2つであることが好ましい(
図3参照)。分割されたプーリの数が2つの場合、分割された数(分割プーリの数)が3以上の場合と比較し、歯付プーリ1の製造の手間、ならびに歯付ベルト2の歯付プーリ1と従動プーリ102との間への装着の手間、ベース部材11への分割プーリの組付けの手間を軽減できる。
【0043】
また、第1分割プーリ12の分割面12a及び第2分割プーリ13の分割面13aは、本実施形態のように歯付プーリ1の半径方向に沿って延びるように形成してもよく(
図3参照)、歯付プーリ1の半径方向に対し傾斜した方向に延びる面を含んで形成してもよい。
【0044】
また、第1分割プーリ12の外周及び第2分割プーリ13の外周に形成された、溝部1
4は、回転軸方向に延びた形状をしている。即ち、第1分割プーリ12の外周及び第2分割プーリ13の外周には、直歯が形成されている(例えば、一般的な直歯(スグバ)に対応した形状)。
【0045】
なお、溝部14の形状は同期伝動(かみ合い伝動)が可能な限りにおいて、装着される歯付ベルト2の歯形状に対応した形状に形成されていればよく、溝部14は、回転軸方向に対し傾斜した方向に延びた形状をしていてもよい(例えば、はす歯(歯面の接触角が斜めとなる歯)に対応した形状)。
【0046】
ここで、本実施形態のように、第1分割プーリ12の外周及び第2分割プーリ13の外周に形成された、溝部14が回転軸方向に延びた直歯形状をしている場合、歯付ベルト2の装着時に、第1分割プーリ12の分割面12a及び第2分割プーリ13の分割面13aの外周側の端部(角部C)が、歯付ベルト2に接触することによる損傷を抑制する観点、ならびに、歯付ベルト2の装着性(後述する組付ステップでの作業性)を向上させる観点から、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13は、
図2に示すように、溝部14の底面14aで円周方向に分割されている。即ち、第1分割プーリ12と第2分割プーリ13とは、
図2に示すように、対向する底面14a同士を結んだ面で分割されている。このように、溝部14の形状は、底面14aに分割面12a及び分割面13aの起点となりやすい形状である直歯にすることが好ましい。
【0047】
なお、溝部14の形状をはす歯とした場合でも、分割面12a及び分割面13aの外周側の端部(角部C)を面取りすることで、歯付ベルト2の装着時に、分割面12a及び分割面13aの外周側の端部(角部C)との接触による歯付ベルト2の損傷をある程度抑制可能である。
【0048】
第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13が、溝部14の底面14a以外の部分(例えば歯付ベルト2の歯元部や歯底部に対向する部分)で円周方向に分割される構成にすると、第1分割プーリ12のみをベース部材11に取り付けた状態のベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を用いて、歯付ベルト2をプーリレイアウトに装着する際(仮掛け)、特に、歯付ベルト2に張力が付与される過程で、歯部21以外の比較的肉厚が薄い歯付ベルト2の部分(歯元部や歯底部)が分割面12aの外周側の端部(角部C)と接触することで歯付ベルト2が屈曲し、クラックが生じたり破断してしまう虞がある。
【0049】
しかし、上記構成によれば、溝部14の底面14aを起点に分割面12a・分割面13aが形成されて、歯付プーリ1が円周方向に分割されるため、歯付ベルト2をプーリレイアウトに装着する際に、分割面12aの外周側の端部(角部C)と接触するのは、歯付ベルト2の歯先部分であるため、上記不具合(クラック等)が生じるのを防止できる。
【0050】
(ベース部材11)
ベース部材11は、ボス部111と、ボス部111の片側から径方向外側に延びた円状のフランジ112とが一体形成された構造をしている。ボス部111の内周には、回転軸にキー溝嵌合する溝111aが形成されており、回転軸と歯付プーリ1とが相対回転不能に固定可能とされている。フランジ112は、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13が取り付けられた状態で、ボス部111の片側から少なくとも溝部14の外縁まで延びており、本実施形態では、フランジ112は、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の外縁よりも若干大きな形状をしている(
図2参照)。
【0051】
また、フランジ112には、ボス部111の外側に円環状に8つの孔114が形成されている。第1分割プーリ12に形成された4つの孔12b(
図4参照)と、フランジ112に形成された4つの孔114とをリベットやネジ部材(締結部材に相当)を通して締結することにより、フランジ112に第1分割プーリ12を固定可能としている。同様に、第2分割プーリ13に形成された4つの孔13b(不図示)と、フランジ112に形成された4つの孔114とをリベットやネジ部材を通して締結することにより、フランジ112に第2分割プーリ13を固定可能としている。このように、リベットやネジ部材を通してフランジ112に第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13を固定可能にすることにより、ベース部材11のボス部111の外周側において、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の回転軸方向の位置関係をより確実に固定することができる。また、歯付プーリ1の設計(構成)の自由度を高めることができる。
【0052】
なお、フランジ112と第1分割プーリ12、或いは、フランジ112と第2分割プーリ13を固定する手段としては、例えば、回転軸とボス部111とをキー溝嵌合させて相対回転不能に固定する構成と同様に、第2分割プーリ13とボス部111とをキー溝嵌合させて相対回転不能とし、リベットやネジ部材で締結して、周方向に隣り合う、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の位置関係を固定する構成としてもよい(不図示)。
【0053】
(インロー構造)
図3及び
図4に示すように、第1分割プーリ12において、フランジ112に相対する側面には、半円環状の凸部12cが形成されている。同様に、第2分割プーリ13において、フランジ112に相対する側面には、半円環状の凸部13cが形成されている。一方、
図3に示すように、フランジ112において、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13に相対する側面には、ボス部111の外周に沿った円環状の凹部113が形成されている。そして、第1分割プーリ12の凸部12cとフランジ112の凹部113とが同心状に嵌合され、同様に、第2分割プーリ13の凸部13cとフランジ112の凹部113とが同心状に嵌合可能とされている。即ち、第1分割プーリ12とフランジ112、及び、第2分割プーリ13とフランジ112とは、インロー構造になっている。これにより、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13をベース部材11に取り付けた後の歯付プーリ1(最終形状)を、通常の歯付プーリと全く同じ外観形状(円環状)、機能を有する歯付プーリとして、より寸法精度の高いものにすることができる。
【0054】
なお、インロー構造の凸部と凹部は逆に配置されていてもよい。即ち、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13において、フランジ112に相対する側面に、半円環状の凹部が形成され、フランジ112において、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13に相対する側面に円環状の凸部を形成した、インロー構造にしてもよい。ただし、フランジ112側に凸部を形成した構成にすると、ボス部111の外周側に第1分割プーリ12のみを取り付けた状態の歯付プーリ1を用いて、歯付ベルト2をプーリレイアウトに装着する際(仮掛け)、特に、歯付ベルト2に張力が付与される過程で、
図6(B)に示すように、フランジ112から突出した凸部に歯付ベルト2が不用意に乗り上げてしまい、歯付ベルト2が損傷する虞がある。このため、本実施形態のように、フランジ112側に凹部113を形成した構成にすると(
図6(A)参照)、フランジ112から突出した凸部は無いことから、歯付ベルト2をプーリレイアウトに装着する際に、歯付ベルト2が損傷する虞がないものにできる。
【0055】
なお、第1分割プーリ12とフランジ112、及び、第2分割プーリ13とフランジ112とのインロー構造は、必須ではなく、インロー構造に構成しなくてもよい(不図示)。
【0056】
(歯付プーリ1の使用材料)
歯付プーリ1(ベース部材11、第1分割プーリ12、第2分割プーリ13の各構成要素)の材質は特に限定されない。鉄、鉄合金、アルミニウム合金、等の金属でも、樹脂(キャストナイロン樹脂、等)でもよい。温度変化による熱膨張(寸法変化)を抑制する観点からは、線膨張係数が比較的小さい鉄合金(例えばニッケル-鉄合金)とするのが好ましい。
【0057】
(歯付プーリ1の製造方法)
歯付プーリ1(ベース部材11、第1分割プーリ12、第2分割プーリ13の各構成要素)は、機械加工(切削加工等)の他、冷間鍛造及び熱間鍛造、金型鋳造(ダイカスト等)、粉末冶金(金属粉末を圧縮成形した圧粉体を焼結する方法)、あるいは、これらを併用した公知の方法、等で製造できる。
【0058】
第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13は、上記方法で、第1分割プーリ12と第2分割プーリ13とを個別に製造してもよいが、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13を含む歯付プーリ1の製造品質(外径真円度等)をより高い水準に確保する観点から、通常の歯付プーリと同様に一体形状(分割無し)で製造後、ワイヤーカット放電加工、レーザー加工、超音波加工等の切断加工法を用いて、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13の2つに分割する加工を施すのが好ましい。
【0059】
(同期伝動ベルトシステム100)
同期伝動ベルトシステム100は、2以上の歯付プーリに歯付ベルト2が巻き掛けられるプーリレイアウトにおいて、2以上の歯付プーリの少なくとも1つが、上記歯付プーリ1で構成されている。なお、複数の歯付プーリを有する同期伝動ベルトシステムにおいて使用される、本実施形態に係る歯付プーリ1の数は、2以上でも良いが、1つであることが好ましい。
【0060】
具体的には、本実施形態の同期伝動ベルトシステム100は、
図13に示すように、互いに離隔配置(位置固定)された駆動プーリ101(歯付プーリ1)と従動プーリ102(従来の歯付プーリ)からなるプーリレイアウトをしており、駆動プーリ101に本実施形態の歯付プーリ1を使用している。
【0061】
歯付プーリ1は、
図5に示すように、第1分割プーリ12だけがフランジ112に取り付けられた状態(第1分割プーリ12だけがボス部111の外周側に取り付けられた状態)で回転軸に取り付けられ、駆動プーリ101(歯付プーリ1)と従動プーリ102との間に歯付ベルト2を装着する際に用いられるベルト装着用プーリとして機能する。別の見方をすれば、歯付プーリ1は、第2分割プーリ13がフランジ112に取り付けられていない状態(第2分割プーリ13がボス部111の外周側に取付けられていない状態)で回転軸に取り付けられ、ベルト装着用プーリとして使用される。具体的には、駆動プーリ101(歯付プーリ1)と従動プーリ102との間に歯付ベルト2を装着する前に、
図9に示すように、回転軸方向に見て、第1分割プーリ12の外周に形成された溝部14の外縁を繋げた円弧部分12dが、歯付プーリ1を含むプーリレイアウトの周の内側領域に留まる態様に配設される。
【0062】
(歯付ベルト2)
同期伝動ベルトシステム100で使用される歯付ベルト2は、
図7に示すように、心線22が埋設された背部23と、背部23の一方の表面にベルト長手方向に沿って所定間隔で配置される複数の歯部21と、歯部21を含む歯付ベルト2の内周側を被覆する歯布24を有している。
【0063】
(心線22)
心線22は、歯付ベルト2の背部23に埋設されている。心線22は、複数本のストランドを撚り合わせて形成された撚りコードで構成される。1本のストランドは、フィラメント(長繊維)を束ねて引き揃えて形成されていてよい。
【0064】
心線22は、本実施形態のように、比較的高いベルト弾性率(例えば200~400KN程度)を要求される場合は、フィラメントの材質を例えば高強度ガラス繊維のような高強度かつ低伸度なものとし、フィラメントの太さ、フィラメントの収束本数、ストランドの本数、および撚り方などの撚り構成を適宜選択し、心線22(撚りコード)を狙いのベルト弾性率に見合う太さ(例えば1mm程度の直径)となるように構成する。心線22として用いる撚りコードには、背部23との接着性を高めるために接着処理が施されるのが好ましく、例えば、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成する方法で接着処理が施される。
【0065】
(背部23及び歯部21を構成するゴム状弾性体)
歯付ベルト2の背部23及び歯部21を構成するゴム状弾性体は、ゴム組成物を架橋して形成されるものである。このゴム組成物のゴム成分としては、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等が用いられる。これらのゴム成分は、単独または組み合わせて使用できる。詳細は省略するが、背部23及び歯部21を構成するゴム組成物は、必要に応じて、カーボンブラック、可塑剤、架橋剤、その他必要に応じた慣用の各種添加剤(または配合剤)を配合して調製されるものである。
【0066】
(歯布24)
歯部21の表面、及び背部23の一方の表面の一部(つまり歯部21の歯底部21aの表面)を被覆する歯布24は、6ナイロン、6,6ナイロンなどの脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)を素材とする織布に接着処理をしたものが一般的に用いられる。この場合、歯布24として、経糸(ベルト幅方向)を6ナイロンとし、緯糸(ベルト長手方向)を、伸縮性を有する弾性糸(材質自体が伸縮性を有するウレタン弾性糸、あるいは繊維を伸縮加工したウーリー加工)を含む6ナイロンとし、織構成を綾織物とした繊維織物が用いられる。上記の繊維織物をRFL液によって浸漬処理したものが歯布24として用いられる。歯布24の厚さ(歯付ベルト2の断面での厚さ)は、例えば約0.2mmである。なお、歯布24は上記のものに限られない。歯布24として用いられる繊維織物は、ベルトシステム毎の負荷の大きさに応じ、ポリエステル、アラミド繊維等の素材を単独であるいは混合して用いたものであってもよい。
【0067】
(歯部21の歯形状)
歯部21の歯形状は同期伝動(かみ合い伝動)が可能な限りにおいて、一般的な直歯(スグバ)と称される歯形状でも、はす歯(歯面の接触角が斜めとなる歯)と称される歯形状でもよい。本実施形態の同期伝動ベルトシステム100に用いた歯付ベルト2は、直歯としている。
【0068】
直歯に属する歯形状としては、以下に挙げた公知の歯形状をはじめ、それらの変形形状、あるいは特殊形状など、適宜ベルトシステムの用途に適合した歯形状を選択可能である。例えば、H歯形と呼ばれる、断面が略半丸形の形状、T歯形と呼ばれる、断面が台形の形状、S歯形(STPDタイプ)と呼ばれる、それぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面を平坦面でつないだ形状(
図8参照)などが挙げられる。
【0069】
(ベルト基準周長)
まず、以下の説明で使用する用語を説明する。
装着時張力とは、プーリレイアウトにベルトを装着した直後におけるベルト長手方向にかかる張力のことをいう。
プーリレイアウト周長とは、ベルトの装着対象である互いに離隔配置された2以上のプーリにおける、各プーリの外周を連結するように当該外周に沿って環状に形成された線(プーリレイアウト周)(即ち、ベルトの経路)の長さをいう。
ベルトの基準周長とは、歯部が形成された面を外側にした状態でベルトを2つの平プーリ(外周面に溝が形成されていないプーリ)に巻回しつつこれらの間に架渡されるように装着し、ベルト長手方向の撓みが除去される程度の張力(実施例の評価に用いた、ベルト幅20mmの歯付ベルトの場合、上記ベルトの長手方向の撓みが除去される程度の張力の水準は、100N程度)をベルトに付加したときの、ベルト長手方向の長さをいう。
【0070】
本実施形態の歯付ベルト2の基準周長(L0)は、(1)ベルト弾性率(ベルト引張剛性)、(2)装着時張力、(3)ベルト装着後(装着時張力付与後)のベルト周長(L)(プーリレイアウト周長(L2))の兼ね合いにより、上記(3)ベルト装着後(装着時張力付与後)のベルト周長(L)(ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)に相当)からの短縮長さ(短縮長さ率)が見積もられることで、決定される。
【0071】
例えば、同期伝動ベルトシステム100として、ベルト幅が20mmで、(1)ベルト弾性率が200~400KN程度、(2)装着時張力が200~400N程度、(3)ベルト装着後(装着時張力付与後)のベルト周長(L)(ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)に相当)が840mmである場合、ベルト種毎のベルト弾性率の測定履歴(データ)、つまり、ベルト張力T(N)と、ベルト伸長量(L-L0)(mm)との関係を示す応力-歪み曲線(S-S線図)に基づいて、プーリ間に装着後のベルト周長(L)からの短縮長さ(短縮長さ率)が0.4mm(0.05%)~0.8mm(0.1%)程度と見積もられることで、歯付ベルト2の基準周長(L0)(ベルトの長手方向の撓みが除去される程度の張力が付加された時のベルト周長に相当)は、839.2mm~839.6mm程度に決定される。
【0072】
(ベルト弾性率)
歯付ベルト2のベルト弾性率は、より高負荷な用途に対応可能な水準として、ベルト幅が20mmで、200~400KN程度である。ベルト弾性率が200kNを下回ると、駆動プーリ101の回転軸と従動プーリの回転軸の位相ずれ角が大きくなり(例えば2°より大きくなり)、同期性を損なう虞がある。一方、ベルト弾性率が400kNを上回ると、自動車エンジン用途などシステムの本体が熱膨張するベルトシステムに同期伝動ベルトシステム100を使用する場合、軸間距離変化に伴うベルト張力が過度に上昇した状態でベルトが走行してしまい、心線の屈曲疲労あるいは歯布の摩耗が促進され、ベルトの耐久性が早期に低下する虞がある。ここで、ベルト弾性率は、以下の測定方法によるものである。
【0073】
(ベルト弾性率の測定方法)
オートグラフ(例えば(株)島津製作所製「AGS-J10kN」)の下側固定部と上側ロードセル連結部に一対のプーリ(30歯)を取り付け、歯付ベルト2をプーリ間に掛ける。次に、上側プーリを上昇させて、歯付ベルト2の長手方向の撓みが除去される程度に初張力T0(100N程度)を掛ける。この状態にある上側プーリの位置を初期位置とし、このときのベルト周長をベルト基準周長(L0)(mm)として、10mm/分の速度で上側プーリを上昇させる。このとき測定されたベルト張力T(N)と、ベルト伸長量(L-L0)(mm)との関係を示す応力-歪み曲線(S-S線図)において、比較的直線関係にある領域(直線部分)を対象に、初張力状態からのベルト張力T(N)の増加分(T-T0)(N)を、ベルト基準周長(L0)に対するベルト伸長量(L-L0)の割合[(L-L0)/L0](無次元)で除した値(N)(所謂「ベルトの引張剛性」に相当)を算出し、これをベルト弾性率(N)とする。
【0074】
(装着時張力)
本願目的とする、より高負荷な用途に対応可能な歯付ベルト2として要求される装着時張力の水準としては、張力付与機構としてベルトシステムに慣用されているオートテンショナの作動時にベルトに付与される張力と同等の水準が要求され、ベルト幅が20mmの場合、200~400N程度である。装着時張力が200Nを下回ると、高負荷時のベルトの伝動能力に支障をきたし、高負荷時に歯飛び(ジャンピング)等の不具合が発生する虞がある。一方、装着時張力が400Nを上回ると、ベルト張力が過度に上昇した状態でベルトが走行してしまい、心線の屈曲疲労あるいは歯布の摩耗が促進され、ベルトの耐久性が早期に低下する虞がある。
【0075】
なお、例えばエンジンの組み立て工程で、人間の手(冶工具なし)で、1つの駆動プーリと1つの従動プーリとで構成される、軸間固定の2軸レイアウトに対して、ベルト幅20mmの歯付ベルトを取り付ける作業形態の場合、人間の手(冶工具なし)で装着可能な装着時張力の上限の水準は、せいぜい100N程度である。
【0076】
(歯付プーリ1のベルト装着用プーリとしての使用方法)
(1)まず、要求されるベルト装着時張力の水準(例えば200~400N程度)に応じ、ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)がベルト基準周長(L0)よりも長く(例えば0.05~0.1%程度長く)なるように、歯付プーリ1(駆動プーリ101)の回転軸と従動プーリ102の回転軸とを軸間固定に設ける(軸間距離が固定されたプーリレイアウト)。
【0077】
(2)従動プーリ102を回転軸に接続する。次に、第1分割プーリ12が取り付けられたベース部材11(或いは、第1分割プーリ12がベース部材11に一体形成されていてもよい)を、歯付プーリ1(駆動プーリ101)の回転軸に接続する。即ち、第2分割プーリ13がベース部材11に取り付けられていない状態の歯付プーリ1を、歯付ベルト2を歯付プーリ1(駆動プーリ101)と従動プーリ102との間に装着する際に用いるベルト装着用プーリとして、歯付プーリ1(駆動プーリ101)の回転軸に接続する。
【0078】
そして、
図9に示すように、歯付プーリ1の回転軸方向に見て、第1分割プーリ12の外周に形成された溝部14の外縁を繋げた円弧部分12dが、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を含むプーリレイアウトの周(ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1及び従動プーリ102の外周を連結するように、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1及び従動プーリ102の外周に沿って環状に形成された線)の内側領域に留まる態様になるように、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を回転させる。このようなプーリレイアウトにすることにより、予め、ベルト基準周長(L0)に対して、ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1)を短くすることができる(準備ステップ:
図9)。
【0079】
(3)次に、歯付ベルト2が、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1と従動プーリ102との間に巻き掛けられる。これにより、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を含むプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルト2を容易に懸架することができる(懸架ステップ:
図10)。
【0080】
(4)次に、
図11に示すように、必要に応じテコの原理を用いて(例えば、六角レンチ等L字状の治工具を歯付プーリ1の回転軸の端部に接続して)、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を回転させる。具体的には、
図12に示すように、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を半回転させる、つまり、回転軸方向に見て、第1分割プーリ12の円弧部分12dがプーリレイアウト周と略重なる位置まで、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を回転させることで、ベルト基準周長(L0)に対して、ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)を長く(例えば0.05~0.1%程度長く)することができる。このため、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1は、歯付ベルト2を、歯付プーリ1(駆動プーリ101)と従動プーリ102との間に装着する際に、張力付与機構として機能する(張力付与ステップ:
図11、
図12)。
【0081】
(5)最後に、
図13に示すように、第2分割プーリ13を、ボス部111及び第1分割プーリ12に当てがいつつ、回転軸と平行な方向に沿って、第2分割プーリ13の凸部13cをフランジ112の凹部113に嵌合し、第2分割プーリ13とフランジ112とをリベットやネジ部材で締結することで、ベース部材11を介して、第2分割プーリ13をボス部111の外周側に取り付ける。即ち、ベース部材11、第1分割プーリ12、及び、第2分割プーリ13が一体となった歯付プーリ1を形成する。これにより、通常の歯付プーリと全く同じ外観形状(円環状)、機能を有する、駆動プーリ101としての歯付プーリ1を、同期伝動ベルトシステム100に適用することができる(組付ステップ:
図13)。
【0082】
上記構成によれば、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い歯付ベルト2を装着する場合であっても、歯付ベルト2の装着時張力を比較的高い水準に設けることができる。
【0083】
(その他の実施形態)
(1)上記実施形態では、第1分割プーリ12とベース部材11とを別部材として取付可能な構成としているが、第1分割プーリ12とベース部材11とが一体化された1つの部材であってもよい(
図5の状態のベルト装着用プーリ)。即ち、ボス部111の外周側に第1分割プーリ12が固定された状態で、第1分割プーリ12、ボス部111、フランジ112が一体無垢(分解不能)に形成し、リベットやネジ部材を介して、第2分割プーリ13を固定する構成としてもよい。
【0084】
(2)上記実施形態では、フランジ112は、歯付プーリ1の一方の側面にしか設けていないが、他方に設けてもよい。例えば、第1分割プーリ12及び第2分割プーリ13において、フランジ112に対向する側と反対側に、少なくとも溝部14の外縁まで延びるフランジを形成してもよい。即ち、歯付プーリ1の一方の側面にのみフランジ112を有する構成(片フランジ付きプーリ)としてもよく、ベース部材11に備わるフランジ112と併設した構成(両フランジ付きプーリ)としてもよい。後者の構成(両フランジ付きプーリ)とした場合は、歯付ベルト2の歯付プーリ1からの脱落を確実に抑制できる。
【0085】
(3)上記実施形態では、回転軸方向に見た、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角α(α=180°)は、歯付プーリ1に対する歯付ベルト2の巻付け角度(以下、単に巻付け角度)と略同じで、且つ、円弧部分12dの中心角αは、回転軸方向に見て、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を含むプーリレイアウトの周の内側領域に円弧部分12dが留まる態様に設けられた状態で、プーリレイアウトの周長(L1)が、歯付ベルト2のベルト基準周長(L0)より短くしている。
【0086】
本発明の実施形態としては、
図14(A)に示すように、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αを巻付け角度未満としてもよい。
この場合、残りの分割プーリの組付作業性を良好(組付ステップでの作業の容易化)にする観点から、残りの第2分割プーリ13は、更に複数(2~3)に分割された構成(
図15(E)参照)とするのが望ましい(
図14及び
図15では、第2分割プーリ13を、更に、第2分割プーリ131と第2分割プーリ132とに分割した構成)。さらに、歯付プーリ1の溝部14が直歯に対応した形状であり、歯付プーリ1を介した歯付プーリ1(駆動プーリ101)と従動プーリ102との間の距離(スパン長)が比較的長いプーリレイアウトに適用するのが望ましい。さらに、歯付プーリ1(駆動プーリ101)の巻付け角度が180°よりも小さい同期伝動ベルトシステム(例えば、駆動プーリ101の径よりも従動プーリ102の径の方が大きい2軸レイアウト)に適用するのが望ましい。
【0087】
もっとも、第2分割プーリ13の組付作業性(組付ステップでの作業性)を良好にする観点から、回転軸方向に見る、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αは、巻付け角度以上であり、且つ、円弧部分12dの中心角αは、回転軸方向に見て、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1を含むプーリレイアウトの周の内側領域に円弧部分12dが留まる態様に設けられた状態で、プーリレイアウトの周長(L1)が、歯付ベルト2のベルト基準周長(L0)未満となる範囲内にあることが好ましい。この場合、歯付プーリ1(駆動プーリ101)の巻付け角度が180°よりも大きい同期伝動ベルトシステム(例えば、駆動プーリ101の径よりも従動プーリ102の径の方が小さい2軸レイアウト)にも適用することができる。
【0088】
即ち、プーリレイアウト周長(L)をベルト装着前後で変更可能にできる効果(大きさ)と、残りの第2分割プーリ13の組付作業性(組付ステップでの作業性)と、を両立する観点からは、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αを、巻付け角度と同じか(上記実施形態:
図13)、
図16(A)に示すように若干大きい角度範囲に設けるのがより好ましい。
【0089】
図14(A)に示すように、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αを巻付け角度未満に設けた場合、仮に残りの第2分割プーリ13の数が1個の構成(不図示)にすると、組付ステップにおいて、第2分割プーリ13を、ボス部111及び第1分割プーリ12に当てがいつつ、回転軸と平行な方向に沿って、第2分割プーリ13の凸部13cをフランジ112の凹部113に嵌合させる際に、歯付ベルト2の張力に抗して歯付ベルト2を歯付プーリ1の径方向外側に押し広げながら作業を行なわなければならなくなる。そのため、第2分割プーリ13のベース部材11への組付作業性が阻害される場合がある。
そこで、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αを巻付け角度未満に設ける場合は、第2分割プーリ13のベース部材11への組付作業性(組付ステップでの作業性)が阻害されるのを防ぐために、詳細は後述するが、残りの第2分割プーリ13を更に複数(2~3)に分割された構成とし(
図15(E)参照)、且つ、組付ステップにおいて、第2分割プーリ13を、ボス部111及び第1分割プーリ12に当てがいつつ、回転軸と平行な方向に沿って、第2分割プーリ13の凸部13cをフランジ112の凹部113に嵌合させる際に、歯付ベルト2の張力に抗して歯付ベルト2を歯付プーリ1の径方向外側に押し広げなくても済む、ベルト装着用プーリとしての歯付プーリ1の回転角度毎に、張力付与ステップ及び組付ステップを段階的に(
図14(B)~
図15(E)に示すように、例えば2段階に分けて)繰り返す作業とするのが望ましい。
【0090】
一方、本実施形態(
図9~
図13参照)や、
図16に示すように、第1分割プーリ12の円弧部分12dの中心角αを巻付け角度以上に設けた場合、ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1)が、歯付ベルト2のベルト基準周長(L0)未満となる範囲内に、円弧部分12dの中心角αが設けられている限りにおいて、わざわざ残りの第2分割プーリ13を更に複数(2~3)に分割された構成としなくても、第2分割プーリ13の組付作業性(組付ステップでの作業性)が阻害されることはない。
【0091】
(4)上記実施形態では、歯付プーリ1を駆動プーリ101として使用しているが、歯付プーリ1は、同期伝動ベルトシステム100において、駆動プーリ101及び/又は従動プーリ102のいずれに適用してもよい。しかし、複数(2つ以上)のプーリを有する同期伝動ベルトシステム100(プーリレイアウト)において、1つのプーリだけが上記歯付プーリ1であることが好ましい。この場合、同期伝動ベルトシステム100(特にプーリレイアウト)の製造コスト、ならびに歯付ベルト2のプーリレイアウトへの装着の手間を最小限に留めることができる。
【実施例0092】
本発明の歯付プーリにおいては、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトにベルト弾性率が比較的高いベルトを装着する場合であっても、ベルトの装着時張力を比較的高い水準に設定可能に、ベルトをプーリ間に装着できる必要がある。
【0093】
そこで、本実施例では、実施例1~3及び比較例1~2に係る歯付プーリ(以下、各供試体)を作製し、ベルト装着時張力の測定を行い、比較検証を行った。なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0094】
[歯付プーリ]
(各供試体共通)
・実施例1(
図2)、実施例2(
図17)、実施例3(
図18)、比較例1~2(
図19)の歯付プーリは、ともに、歯数30歯の直歯歯付プーリとした。
・使用材料:鉄合金(ニッケル-鉄合金)とした。
・プーリの製造方法:機械加工(切削加工等)により製作した。なお、複数(2ケ又は3ケ)の分割プーリは、通常の歯付プーリと同様に一体形状(分割無し)で製作後、ワイヤーカット放電加工法により、複数の分割プーリに分割する切断加工を施し、製作した。
【0095】
(実施例1~3:
図1、
図2、
図17、
図18)
(複数の分割プーリ)
・複数の分割プーリの数および円弧部分の中心角α:実施例1は2(α=180°のものが2個)、実施例2は3(α=84°のものが1個、α=96°のものが1個、α=180°のものが1個)、実施例3は2(α=84°のものが1個、α=276°のものが1個)
・分割面は、当該歯付プーリの半径方向に沿って延びるように形成した。
・各分割プーリは、溝部の底面で円周方向に分割されている。
【0096】
(ベース部材11)
・ベース部材は、ボス部と、ボス部の片側から径方向外側に延びた円状のフランジとが一体形成された構造をしており、各分割プーリとベース部材とを締結する締結部材(ねじ部材)(不図示)とを有する。
なお、フランジには、締結部材(ボルト)が挿通可能な貫通孔が複数(8カ所)形成され、分割プーリのベース部材が取り付く側の側面には、孔が締結部材(ねじ部材)と蝶合可能に複数(各々2~6カ所)形成されている。
・フランジは、ボス部の片側から少なくとも溝部の外縁(詳細には、歯付ベルトの背部の側面全体が当接可能な位置)まで延びている。
・分割プーリとベース部材とは、インロー構造(分割プーリ側の凸部と、ベース部材側の凹部とが同心状に嵌合可能)に構成されている。
【0097】
(一部の分割プーリ)
・上記構成により、複数(2体又は3体)の分割プーリのうち、一方(一部)の分割プーリ(1体)は、他方(残り)の分割プーリ(1体又は2体)がベース部材に取り付けられていない状態(他方(残り)の分割プーリがボス部の外周側部分に取り付けられていない状態)で、ベース部材(ボス部)と一体に形成可能(つまり回転軸に接続可能)な構成になっている。
【0098】
(比較例1~2:
図19)
・比較例1~2の歯付プーリは、回転軸に接続可能に構成されたボス部と、該ボス部の外周側部分に歯付ベルトの歯部とかみ合う溝部とが形成された、通常の歯付プーリとした。
・ボス部の外周側部分は、円周方向に複数に分割された形状を有していない。
【0099】
[同期伝動ベルトシステム]
(各供試体共通)
(歯付ベルト:
図8)
・歯付ベルトの呼称:105S8M20
歯部の形状:歯形状は、直歯に属するS歯形(STPDタイプ)で、歯ピッチが8mmのS8Mとした(
図8参照)。
歯数:105
歯ピッチ:8mm
ベルト幅20mm
・ベルト基準周長(L0):839.37mm(このとき付加されているベルト張力は100N程度)
・ベルト弾性率:285KN
算出式:(T-T0)/[(L-L0)/L0]より、
(312N-98N)/[(840.00-839.37)mm/839.37mm]
=285KN
【0100】
・使用材料
(背部及び歯部を構成するゴム状弾性体)
・ゴム組成物のゴム成分:水素化ニトリルゴム(HNBR)
・ゴム組成物の配合成分:表1参照
【0101】
【0102】
(歯布)
・構成:表2参照
・歯布の厚さ(ベルト断面での厚さ):0.2mm
【表2】
【0103】
【0104】
【0105】
・心線(撚りコード)は、以下の手順で作成した。
JIS R 3413(2012)に記載されている呼称KCE-225の高強度ガラス繊維(Kガラス繊維)のフィラメント(7ミクロン径)を600本束ねて引き揃えて、3本のストランドとした。この3本のストランドを、表4に示す組成のRFL液(18~23℃)に3秒間通過させることにより浸漬した後、200~280℃で3分間加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成した。この接着処理の後に、3本のストランドを、撚り数12回/10cmで下撚りし、これを11本引き揃えて下撚りと反対方向に撚り数8回/10cmで撚り(上撚り)を掛け、諸撚りで径が約0.9mmの撚りコードを用意した。
【0106】
(歯付ベルトの製造方法)
・まず、表1に示す組成のゴム組成物をバンバリーミキサーで混練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの圧延ゴムシートとして、歯付ベルトの背部及び歯部形成用の未加硫ゴムシートを作製した。
・調製したゴム組成物(未加硫ゴムシート)を165°C、30分間の条件でプレス加硫することによって得られた加硫ゴムシートの硬度は、タイプAデュロメータ硬さ(JIS K6253:2012準拠)で約70であった。
・続いて、表2に示す構成の、歯布として用いる織布を製織し、表4に示すRFL液に浸漬、乾燥、熱処理した後、表1に示した未加硫ゴムシートと同じゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊に浸漬、乾燥させる接着処理を実施した。
・上記使用材料である、心線(接着処理品)、歯布(接着処理品)、ならびにゴム組成物(未加硫ゴムシート)をそれぞれ使用し、次に示す方法にて、所定の呼称の歯付ベルトを作製した。
・まず、歯布を形成する繊維織物を、歯付ベルトの歯部に対応する複数の溝部(凹条)を有する円筒状モールドの外周面に巻き付ける。続いて、巻き付けた繊維織物の外周面に、表3の組成及び構成からなる、心線を構成する撚りコードを螺旋状に所定のピッチで(円筒状モールドの軸方向に所定のピッチを有するように)巻き付ける。さらにその外周側に、背部及び歯部を形成する上記未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫のベルト成形体(未加硫積層体)を形成する。
・次に、未加硫のベルト成形体が、円筒状モールドの外周に配置された状態で、更にその外側に、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。続いて、ジャケットが被せられたベルト成形体および円筒状モールドは、加硫缶等の加硫装置の内部に収容される。そして、加硫装置の内部でベルト成形体を加熱加圧すると、未加硫ゴムシートのゴム組成物と繊維織物が円筒状モールドの溝部(凹条)に圧入されて、所望の形状の歯部が形成されるとともに、未加硫ゴムシートのゴム組成物が加硫されて、ゴム組成物と繊維織物と心線とが一体化したスリーブ状の加硫成形体(加硫ベルトスリーブ)が形成される。この時、繊維織物は歯部の輪郭形状に沿った形態に伸張して、歯部の表面に配置された歯布となっている。そして、円筒状モールドから脱型した加硫ベルトスリーブを所定の幅に切断することにより、複数の所定の呼称の歯付ベルトが得られる。
【0107】
(プーリレイアウト)
・実施例1(
図13)、実施例2(
図14、
図15)、実施例3(
図16)、及び、比較例1、2(
図20)のベルトシステムは、ともに、従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しない、軸間固定の2軸レイアウトとし、一方(駆動プーリ)の回転軸に接続可能な軸荷重検知器(ロードセル)を備えたものとした。
・駆動プーリの歯数/プーリ径(心線ラインを想定):30歯/76.394mm
・従動プーリの歯数/プーリ径(心線ラインを想定):30歯/76.394mm
・実施例1~3(
図2、
図17、
図18)、比較例1~2(
図19)の歯付プーリは、ともに、上記レイアウトにおける駆動プーリとして用いた。なお、適用するプーリが、駆動プーリでも従動プーリでも、得られる効果に差はなく、本課題は解決可能と考えられる。
【0108】
(実施例1:
図13)
・要求されるベルト装着時張力:300N程度の水準とした。
・分割プーリを有する当該歯付プーリの数:1(駆動プーリに適用した)
・回転軸の中心軸方向に見て、一部の分割プーリにおける溝部の外縁を繋げた円弧部分の中心角αは、180°で、当該歯付プーリに対する歯付ベルトの巻付け角度(180°)と同じに設けた。
・ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1):796.39mm
(回転軸の回転軸方向に見て、当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周の内側領域に前記円弧部分が留まる態様に設けられた状態でのプーリレイアウトの周長)
・ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2):840.00mm
【0109】
(実施例2:
図14、
図15)
・要求されるベルト装着時張力:300N程度の水準とした。
・分割プーリを有する当該歯付プーリの数:1(駆動プーリに適用した)
・回転軸の中心軸方向に見て、一部の分割プーリにおける溝部の外縁を繋げた円弧部分の中心角αは、84°で、当該歯付プーリに対する歯付ベルトの巻付け角度(180°)よりも小に設けた。
・ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1):740.21mm
・ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2):840.00mm
【0110】
(実施例3:
図16)
・要求されるベルト装着時張力:300N程度の水準とした。
・分割プーリを有する当該歯付プーリの数:1(駆動プーリに適用した)
・回転軸の中心軸方向に見て、一部の分割プーリにおける溝部の外縁を繋げた円弧部分の中心角αは、276°で、当該歯付プーリに対する歯付ベルトの巻付け角度(180°)よりも大に設けた。
・ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1):835.12mm
・ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2):840.00mm
【0111】
(動作:実施例1~3)
(1)予め、上記実施例の当該歯付プーリを駆動プーリとして供したプーリレイアウトにおいて、要求されるベルト装着時張力の水準(300N程度)に応じ、ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)(所定のステップを経て装着時張力が付与された後のベルト周長)が、ベルト基準周長(L0:839.37mm)に対して0.63mm(0.075%)長い840.00mmとなるように、2つのプーリ(2軸)間を固定した(軸間距離300.00mm)。
【0112】
(2)準備ステップ(実施例1は
図9、実施例2は
図14(A)、実施例3は
図16(A))
回転軸に接続可能に構成された、一方(一部)の分割プーリを、他方(残り)の分割プーリがボス部の外周側の部分に取り付けられていない状態で、歯付ベルトをプーリ間に装着する際に用いるベルト装着用プーリとして、固定手段(ベース部材)を介して、駆動プーリの回転軸に接続し、そして、回転軸の中心軸方向に見て、一方(一部)の分割プーリにおける溝部の外縁を繋げた円弧部分が、当該歯付プーリを含むプーリレイアウトの周(各プーリの外周を連結するように各プーリの外周に沿って環状に形成された線)の内側領域に留まる態様にプーリレイアウトを設けた。
これにより、ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1)は、ベルト基準周長(L0:839.37mm)に対して、実施例1が796.39(mm)、実施例2が740.21(mm)、実施例3が835.12(mm)まで短くなっている。
【0113】
(3)懸架ステップ(実施例1は
図10、実施例2、3は不図示)
そのため、ベルト弾性率が比較的高い水準(285KN)にある歯付ベルトを当該プーリレイアウトに容易に懸架することができた。
【0114】
(4)張力付与ステップ(実施例1は
図11、
図12、実施例2は
図14(B)、
図15(D)、実施例3は不図示)
(実施例1、3)
テコの原理を用いて(六角レンチを当該一部の分割プーリの回転軸の端部に接続して)、当該ベルト装着用プーリ(ボス部の外周側部分が一部の分割プーリのみで構成されたプーリ)を半回転、つまり、回転軸の中心軸方向に見て、前記円弧部分がプーリレイアウト周と略重なる位置まで当該ベルト装着用プーリを回転させて、ベルト基準周長(L0:839.37mm)に対して、ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)を0.63mm(0.075%)長い840.00mmとし、懸架した歯付ベルトに張力を付与しつつ、ベルトをプーリ間に装着した。
【0115】
(実施例2)
下記に詳細するように、張力付与ステップ、及び後述の組付ステップを2段階に分けて繰り返す作業とした。
つまり、まずテコの原理を用いて(六角レンチを当該一部の分割プーリの回転軸の端部に接続して)、当該ベルト装着用プーリ[ボス部の外周側部分が一部の分割プーリ(円弧部分の中心角α:84°)のみで構成されたプーリ]を略132°回転、つまり、回転軸の中心軸方向に見て、前記円弧部分がプーリレイアウト周と略重なる位置、且つ、組付ステップにおいて、歯付ベルトの張力に抗して歯付ベルトを歯付プーリの径方向外側に押し広げなくても済む位置まで当該ベルト装着用プーリを回転させて、懸架した歯付ベルトに1段階目の張力を付与した(
図14(B)参照)。
この状態で後述する組付ステップの一部の作業[当該ベルト装着用プーリの回転軸に残りの分割プーリ(2分割)の1個目(円弧部分の中心角αが96°の方)を接続する作業]を行った(
図14(C)参照)。
さらに、テコの原理を用いて、当該ベルト装着用プーリを略96°回転、つまり、組付ステップにおいて、歯付ベルトの張力に抗して歯付ベルトを歯付プーリの径方向外側に押し広げなくても済む位置まで当該ベルト装着用プーリを回転させて、最終的に、ベルト基準周長(L0:839.37mm)に対して、ベルト装着後のプーリレイアウト周長(L2)を0.63mm(0.075%)長い840.00mmとし、懸架した歯付ベルトに最終的な装着時張力を付与しつつ、ベルトをプーリ間に装着した(
図15(D)参照)。
この状態で組付ステップでの残りの作業[当該ベルト装着用プーリの回転軸に残り1個の分割プーリ(円弧部分の中心角αが180°の方)を接続する作業]を行った(
図15(E)参照)。
【0116】
(5)組付ステップ(
図13、
図14(C)、
図15(E)、
図16(B))
最後に、固定手段を介して、当該ベルト装着用プーリの回転軸に他方(残り)の分割プーリを接続することで、一方(一部)の分割プーリと他方(残り)の分割プーリとを円環状に一体に形成させ、通常の歯付プーリと全く同じ、外観形状、機能を有する歯付プーリとした。
【0117】
(比較例1、2:
図20)
(比較例1:
図20(A))
・プーリレイアウト周長(L):839.37mm(固定)
(比較例2:
図20(B))
・プーリレイアウト周長(L):840.00mm(固定)
【0118】
(動作:比較例1、2)
(比較例1)
(1)予め、上記比較例1の歯付プーリを駆動プーリとして供したプーリレイアウトにおいて、プーリレイアウト周長(L)(固定)がベルト基準周長(L0: 839.37mm)と同じ長さになるように、2つのプーリ(2軸)間を固定した(軸間距離299.69mm)。
【0119】
(2)当該プーリレイアウト(プーリレイアウト周長がベルト基準周長と同じプーリレイアウト)に対し、人間の手(治工具なし)で上記歯付ベルトを懸架し、プーリ間に装着した。
【0120】
(比較例2)
(1)予め、上記比較例2の歯付プーリを駆動プーリとして供したプーリレイアウトにおいて、プーリレイアウト周長(L)(固定)がベルト基準周長(L0: 839.37mm)よりも若干長い長さ(840.00mm)になるように、2つのプーリ(2軸)間を固定した(軸間距離300.00mm)。
【0121】
(2)当該プーリレイアウト(プーリレイアウト周長がベルト基準周長よりも若干長いプーリレイアウト)に対し、人間の手(治工具なし)で上記歯付ベルトを懸架し、プーリ間に装着した。
【0122】
[歯付プーリの評価:項目、方法、基準]
各供試体(実施例1~3、比較例1~2)について、本願課題を解決し得る歯付プーリが得られたかどうかを見極めるために、ベルトの装着性、及びベルト装着時張力を検証した。
【0123】
[ベルトの装着性]
(方法、判定基準)
ベルトを弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にある歯付ベルトを人間の手(100N程度の力、治工具なし)でプーリレイアウトに懸架でき、プーリ間に装着できた場合は、ベルトの装着性は良好(実用上問題ないもの)と評価し、a判定とした。
ベルトを弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にある歯付ベルトを人間の手(100N程度の力、治工具なし)でプーリレイアウトに懸架できず、プーリ間に装着できなかった場合は、ベルトの装着性を満足しないものと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(ベルトの装着性)の観点から、a判定の歯付プーリを合格レベルとした。
【0124】
[ベルト装着時張力]
(方法)
ベルト装着時張力は、一方(駆動プーリ)の回転軸に接続した軸荷重検知器(ロードセル)によって検知される軸荷重から算出した。
【0125】
(判定基準)
ベルト弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にある歯付ベルトの装着時張力(初張力)を比較的高い水準(例えば200~400N程度)に設定できた場合をa判定とした。
ベルト弾性率が比較的高い水準(例えば200~400KN程度)にある歯付ベルトの装着時張力(初張力)を比較的高い水準(例えば200~400N程度)に設定できなかった場合をb判定とした。
本用途での実使用に対する適正(ベルト装着時張力)の観点から、a判定の歯付プーリを合格レベルとした。
【0126】
[総合判定]
本課題を解決し得る歯付プーリとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記2つの試験項目(ベルトの装着性、ベルト装着時張力)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記評価(ベルトの装着性、ベルト装着時張力)で、いずれもa判定であった場合は、本課題の解決策として充分に満足できるランク(合格)とした。
ランクB:上記評価(ベルトの装着性、ベルト装着時張力)で、1つでもb判定があった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
【0127】
【0128】
(得られた効果)
・以上の検証結果から、実施例1~3の歯付プーリを従来慣用な張力付与機構(軸間距離の移動、テンションプーリ、テンショナ等)を有しないプーリレイアウトに適用した場合は、ベルト装着前のプーリレイアウトの周長(L1:実施例1が796.39mm、実施例2が742.83mm、実施例3が834.02mm)を、ベルト基準周長(L0:839.37mm)よりも短くすることができる構成を備えているため、当該プーリレイアウトに、ベルト弾性率が比較的高い水準(実施例は285KN)にある歯付ベルトを容易に懸架することができるとともに、ベルト装着後のプーリレイアウトの周長(L2:840.00mm)を、難なくベルト基準周長(L0:839.37mm)よりも長くすることができる構成を備えているため、ベルトに付与される装着時張力を、ベルトにほとんど装着時張力が付与されなかった従来の水準(比較例1は98N)よりも顕著に高い水準(実施例1~3は312N)に底上げしつつ、ベルトをプーリ間に装着できることがわかった。ひいては、より高負荷な用途に対応できることが伺えた。