(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184770
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】有機無機複合フィラー、及び該有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/80 20200101AFI20221206BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20221206BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K6/80
A61K6/15
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084961
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021092185
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA12
4C089BA13
4C089BE02
4C089BE03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】 歯科用硬化性組成物に配合したときに、重合収縮を低減し、硬化体の機械的強度を高め、更に、硬化前の歯科用硬化性組成物ペーストの操作性及び形態保持を長期に渡り良好に維持できる、有機無機複合フィラーを提供する。
【解決手段】
「有機樹脂成分と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子によって構成され、1~500nmの積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである有機無機複合フィラー」において、前記多孔質有機無機複合粒子として(1)少なくとも一部の面が曲面状である粒子と(2)曲面形状を有さない粒子と、が共存するように、夫々上記(1)及び(2)の粒子で構成される2種類の前記有機無機複合フィラーを混合して用い、更に全構成粒子中における5μm以下の粒子径の粒子の含有率を15vol%未満とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(a1)の硬化体からなる有機樹脂成分(A1)と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)との複合体からなり、少なくとも一部の面が曲面状である第1多孔質有機無機複合粒子(C1)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである第1有機無機複合フィラー(X1);及び
重合性単量体(a2)の硬化体からなる有機樹脂成分(A2)と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B2)との複合体からなり、曲面形状を有さない第2多孔質有機無機複合粒子(C2)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである第2有機無機複合フィラー(X2);の混合物からなり、
前記第1有機無機複合フィラー(X1)及び前記第2有機無機複合フィラー(X2)が、共に5~100μmの平均粒子径を有し、且つ
前記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び前記第2多孔質有機無機複合粒子(C2)の全体に占める5μm以下の粒子径の粒子の含有率が体積基準で15%未満である、
ことを特徴とする有機無機複合フィラー。
【請求項2】
前記第1有機無機複合フィラー(X1)と第2有機無機複合フィラー(X2)との合計質量に対する前記第2有機無機複合フィラー(X2)が10~85質量%である、請求項1に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項3】
前記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)における前記無機粒子(B1)の平均含有率が75~90質量%であり、
前記第2多孔質有機無機複合粒子(C2)における前記無機粒子(B2)の平均含有率が80~95質量%である、請求項1又は2に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項4】
前記無機粒子(B1)及び/又は(B2)が、X線造影性を有する無機粒子を含む、請求項1に記載の有機無機複合フィラー。
【請求項5】
重合性単量体:100質量部、フィラー:200~600質量部及び有効量の重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物であって、前記フィラーの30質量%以上が請求項1に記載の有機無機複合フィラーである、ことを特徴とする、歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
前記フィラーの30~70質量%が請求項1に記載された有機無機複合フィラーであり、残部のフィラーの主要部が10~1500nmの平均一次粒子径を有する無機粒子である、請求項5に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機無機複合フィラー、及び該有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用硬化性組成物は、一般に、重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合開始剤を主成分とするペースト状組成物であり、使用するフィラーの種類、形状、粒子径、及び充填量(率)等は、歯科用硬化性組成物の操作性や、硬化させて得られる硬化体の審美性及び機械的強度等に影響を与える。
【0003】
例えば、歯科用硬化性組成物に、粒子径が大きな無機フィラーを配合した場合には、硬化体の機械的強度が高くなる反面、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性が低下し、天然歯と同様の艶のある硬化体の仕上がり面が得難くなる。他方、平均粒子径が1μm以下の微細な無機フィラーを配合した場合には、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性を優れたものとすることができるが、微細無機フィラーは、比表面積が大きいので、粘度を大きく増加させる。また、無機フィラーの配合量を少なくした場合には、歯科用硬化性組成物が硬化する際のモノマーの重合収縮により硬化体の収縮量が増加したりするばかりでなく、硬化体の機械的強度の低下等を招く。
【0004】
このような言わばトレードオフの関係を回避するために、有機無機複合フィラーの使用が提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。有機無機複合フィラーは、微細な無機フィラーを有機樹脂中に含有する複合フィラーであり、これを用いることにより、微細な無機フィラーを用いる場合の優れた表面滑沢性や耐摩耗性を維持することができ、更に重合収縮率を少なくすることも可能となる。なお、有機無機複合フィラーの配合量が多くなりすぎる場合にはペーストの状態においてバサツキが生じてペーストの操作性が悪化してしまうが、平均粒子径が0.1~1μmの無機フィラー(無機粒子)と併用することによって上記操作性の低下を防止し、優れた操作性のペースト状歯科用硬化性組成物とすることができる(特許文献2参照。)。
【0005】
上記有機無機複合フィラーの製造方法としては、微細無機フィラーと重合性単量体とを予め混練したペースト状の硬化性組成物を重合させて硬化体を得、次いで前記硬化体を破砕する方法が一般的である。この方法で製造した有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物はマトリックスと有機無機複合フィラーとの界面の結合が弱いため歯科用硬化性組成物としては強度が低いことが問題であった。
【0006】
前記問題点を改善する有機無機複合フィラーとして、水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔経が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.01~0.30cm3/gの凝集間隙を有する有機無機複合フィラーが提案されている(特許文献3参照。)。そして、特許文献3には、このような多孔性有機無機複合フィラーと、重合性単量体と、重合開始剤とを含んでなる歯科用硬化性組成物は、凝集間隙を有する有機無機複合フィラーを用いることにより、硬化性組成物の重合性単量体が毛細管現象により滲入して硬化することにより、アンカー効果が生じ、有機無機複合フィラーが、該硬化性組成物の硬化体中に高い嵌合力で保持され、機械的強度が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-80013号公報
【特許文献2】国際公開第2015/125470号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/115007号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが検討したところ、特許文献3の方法で得られる凝集間隙を有する有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物の機械的強度は相当に高く、耐摩耗性、審美性に関しても優れた歯科用硬化性組成物を得ることができる。しかしながら、実施例に記載されている製造方法、具体的には、無機一次粒子が分散した水系懸濁液を噴霧乾燥により凝集させて無機一次粒子の凝集物を製造し、得られた無機凝集粒子に、重合開始剤を含有させた重合性単量体を含浸させて重合するという方法、によって得られた有機無機複合フィラーを含有する歯科用硬化性組成物のペースト性状や操作性について詳細に検討を行ったところ、硬化前のペースト状態においてベタツキが生じ操作性が良好でない場合があり、また、臼歯I級窩洞等に充填する際、形成した咬合面形態を保持する能力が低いことが判明した。すなわち、上記歯科用硬化性組成物には、ペーストの操作性および形態保持性に関して改善する余地があった。
【0009】
以上の背景にあって、本発明は、歯科用硬化性組成物に配合される有機無機複合フィラーであって、歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的強度を高めることができ、硬化前のペースト状態における操作性および形態保持性が良好であり、かつ長期間にわたって良好な操作性を維持することのできる有機無機複合フィラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、重合性単量体(a1)の硬化体からなる有機樹脂成分(A1)と、平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)と、の複合体からなり、少なくとも一部の面が曲面状である第1多孔質有機無機複合粒子(C1)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである第1有機無機複合フィラー(X1);及び重合性単量体(a2)の硬化体からなる有機樹脂成分(A2)と、平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B2)と、の複合体からなり、曲面形状を有さない第2多孔質有機無機複合粒子(C2)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである第2有機無機複合フィラー(X2);の混合物からなり、
前記第1有機無機複合フィラー(X1)及び前記第2有機無機複合フィラー(X2)が、共に5~100μmの平均粒子径を有し、且つ前記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び前記第2多孔質有機無機複合粒子(C2)の全体に占める5μm以下の粒子径の粒子の含有率が体積基準で15%未満である、ことを特徴とする有機無機複合フィラーである。
【0011】
上記形態の有機無機複合フィラー(以下、「本発明の有機無機複合フィラー」ともいう。)においては、前記第1有機無機複合フィラー(X1)と第2有機無機複合フィラー(X2)との合計質量に対する前記第2有機無機複合フィラー(X2)の質量の割合が10~85質量%である、ことが好ましい。
【0012】
また、前記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)における前記無機粒子(B1)の平均含有率が75~90質量%であり、前記第2多孔質有機無機複合粒子(C2)における前記無機粒子(B2)の平均含有率が80~95質量%である、ことが好ましい。
【0013】
さらに、前記無機粒子(B1)及び/又は(B2)が、X線造影性を有する無機粒子を含む、ことが好ましい。
【0014】
本発明の第二の形態は、重合性単量体:100質量部、フィラー:200~600質量部及び有効量の重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物であって、前記フィラーの30質量%以上が本発明の有機無機複合フィラーである、ことを特徴とする、歯科用硬化性組成物。
【0015】
上記形態の歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)においては、前記フィラーの30~70質量%が本発明の有機無機複合フィラーであり、残部のフィラーの主要部が10~1500nmの平均一次粒子径を有する無機粒子である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物の充填材として使用した場合に、特許文献3に記載された多孔性有機無機複合フィラーと配合した歯科用硬化性組成物と同様に、無機フィラーを直接配合した場合と比較して重合収縮を小さく抑えることができるばかりでなく、硬化体の表面滑沢性や耐摩耗性を良好なものとし、更に、有機無機複合フィラーの細孔内に滲入した重合性単量体が硬化することによって硬化体の機械的強度を向上させることができる。
【0017】
加えて、本発明の有機無機複合フィラーを用いた場合には、歯科用硬化性組成物のペースト性状を悪化させることなく、長期保管後においてもベタツキ感が抑制された良好な操作性を呈するペースト性状を維持できるようになるばかりでなく、たとえば歯科用充填材として使用して咬合面形態等の所望の形態に賦形したときにおける形態保持性を良好にすることも可能となる。また、5μm以下の微細粒子の存在割合が低いことにより、ペーストのバサツキを抑制することが可能となる。さらに、ペースト性状を良好な状態としたまま微細無機粒子を比較的多く追加配合できるようになるため、重合収縮をより低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明で使用する第1有機無機複合フィラー(X1)を構成する、少なくとも一部の面が曲面状である第1多孔質有機無機複合粒子(C1)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明で使用する第2有機無機複合フィラー(X2)を構成する、曲面形状を有さない第2多孔質有機無機複合粒子(C2)の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特許文献3に開示されている前記有機無機複合フィラーは、前記したような製造方法に由来して、有機無機複合フィラーを構成する個々の粒子の形状は基本的には無機凝集粒子と同様の形状であり、略球状である。本発明者等は、前記有機無機複合フィラーの形状を略球状から不定形状に変更すれば、ペースト性状を変えることができるができるのではないかと考え、鋭意検討を行った。その結果、重合性単量体の硬化体からなる有機樹脂成分と前記無機一次粒子との複合体からなる塊状微多孔体を得てからこれを粉砕した場合には、特許文献3に記載された多孔性有機無機複合フィラーが有する優れた特徴を維持しつつ、その欠点を補い、これを配合した歯科用硬化性組成物(ペースト)の操作性や形態保持性を改善することができることを見出した。そして、これら知見に基づき「重合性単量体(a)の硬化体からなる有機樹脂成分(A)と平均一次粒子径が10~1000nmである無機粒子(B)との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子の集合体からなり、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである有機無機複合フィラーであって、前記多孔質有機無機複合粒子における前記無機粒子(B)の含有率は、80~95質量%であり、前記有機無機複合フィラーを構成する個々の前記多孔質有機無機複合粒子は、不定形状を有する、ことを特徴とする有機無機複合フィラー」(以下、「不定形微多孔性有機無機複合フィラー」ともいう。)及びこれを含む歯科用硬化性組成物(以下、「既提案歯科用硬化性組成物」ともいう。)を既に提案している(特願2020-210301)。
【0020】
本発明者らは、不定形微多孔性有機無機複合フィラーの効果についてさらに検討を行ったところ、歯科用硬化性組成物に含まれる有機無機複合フィラーの全てを不定形微多孔性有機無機複合フィラーとしたときにバサツキ感が発生する場合があることを確認した。そこで、このような現象の発生を抑えるために更に検討を行った結果、(1)前記特許文献3に開示される略球状の微多孔性有機無機複合フィラーと不定形微多孔性有機無機複合フィラーとの混合フィラーを用いた場合には、ペーストのバサツキ感が低減され、更に歯科用硬化性組成物に配合できるフィラー充填率が向上することがあり、また、(2)微細粒子が多いときにバサツキ感が発生する傾向がある、と言う知見を得るに至った。本発明は、これら知見に基づき成されたものである。
【0021】
不定形微多孔性有機無機複合フィラーを用いた場合にペーストの操作性や形態保持性が良好となる理由は明らかではないが、多孔質有機無機複合粒子の形状が(略球状ではない)不定形、好ましくはエッジ部を有する不定形形状を有するためにベタツキが生じず、更に形態保持性が向上したものと推察される。さらに、ペーストのバサツキ感が抑制されることに関しては、有機無機複合フィラーを構成する多孔質有機無機複合粒子における無機成分の含有割合が高く、歯科用硬化性組成物中のマトリックスモノマーとの親和性が高い有機樹脂成分量が少ないこととに加えて、微細粒子の割合が非常に低い場合には上記モノマーとの接触面積が小さくなることから多孔質有機無機複合粒子による上記モノマーの経時的な吸収が抑制されたことによるものと考えられる。なお、特許文献3に開示されている前記有機無機複合フィラーには、取扱い中の衝撃などにより一部破断した破片粒子も含まれるものの、該破片粒子も曲面を有しているものが殆どであり、積極的に解砕しない限り、粒子径が5μm以下の微粒子は殆ど発生しないため、これを単独で用いた場合には、ペーストのバサツキ感は発生し難いものの、上記ペースト性状の改善効果が得られなかったものと考えられる。
【0022】
以下、本発明の有機無機複合フィラー、その製造方法及び本発明の歯科用硬化性組成物について詳しく説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0023】
1.本発明の有機無機複合フィラー
本発明の有機無機複合フィラーは、下記第1有機無機複合フィラー(X1)と、下記第2有機無機複合フィラー(X2)と、の混合物からなり、前記第1有機無機複合フィラー(X1)及び前記第2有機無機複合フィラー(X2)が、共に5~100μmの平均粒子径を有し、且つ前記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び前記第2多孔質有機無機複合粒子(C2)の全体に占める5μm以下の粒子径の粒子の含有率が体積基準で15%未満である、ことを特徴とする。
【0024】
第1有機無機複合フィラー(X1): 重合性単量体(a1)の硬化体からなる有機樹脂成分(A1)と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)との複合体からなり、少なくとも一部の面が曲面状である第1多孔質有機無機複合粒子(C1)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである有機無機複合フィラー。
【0025】
第2有機無機複合フィラー(X2): 重合性単量体(a2)の硬化体からなる有機樹脂成分(A2)と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B2)との複合体からなり、曲面形状を有さない第2多孔質有機無機複合粒子(C2)によって構成される、窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである有機無機複合フィラー。
【0026】
ここで、「少なくとも一部の面が曲面状である第1多孔質有機無機複合粒子(C1)」とは、多孔質有機無機複合粒子であって、走査型電子顕微鏡を用いて有機無機複合フィラーを観察した際、主要外表面が曲面で構成される曲面形状(球状、略球状、又はドーナツ状或いは粒子の表面に窪みが形成されたディンプル状等の所謂トーラス状)である粒子であるか、又はこれら形状の粒子が、外表面の少なくとも一部に上記曲面形状が残るように破断した破片粒子であることを意味する(
図1参照。)。そして、前記特許文献3に記載された有機無機複合フィラーを構成する球状或いは略球状の粒子又は、その破片粒子は、これに該当する。また、「曲面形状を有さない第2多孔質有機無機複合粒子(C2)」とは、多孔質有機無機複合粒子であって、上記第1多孔質有機無機複合粒子(C1)に該当せず、外表面の全てが基本的には破断面によって構成される所謂不定形粒子であり、好ましくはエッジ部を有する不定形形状である粒子であり(
図2参照。)、前記不定形微多孔性有機無機複合フィラーを構成する粒子がこれに該当する。
【0027】
これら第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び第2多孔質有機無機複合粒子(C2)は、何れも重合性単量体(a1、a2)の硬化体からなる有機樹脂成分(A1、A2)と平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1、B2)との複合体からなる多孔質有機無機複合粒子によって構成される。なお、上記重合性単量体及び無機粒子については各フィラーの製造方法を説明する際に詳述するが、両粒子において特に変わる点は無い。但し、夫々の有機樹脂(A1)及び(A2)の原料となる重合性単量体(a1)及び(a2)の種類は互いに異なっていてもよい。また、平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)及び(B2)の種類も互いに異なっていても良く、平均一次粒子径についても上記範囲内であれば互いに異なっていてもよい。
【0028】
第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び第2多孔質有機無機複合粒子(C2)の平均粒子径は、歯科用硬化性組成物に配合できるフィラーの充填率を低下させることがなく、更に良好なペースト性状をより確実に得ることができるという理由から、共に、5~100μmである必要があり、10~100μmであることがより好ましく、10~70μmであることが最も好ましい。平均粒子径は100μmを超える場合は、歯科用硬化性組成物の流動性が低下し、ペースト状態での滑らかさが低下する傾向がある。一方、平均粒子径が5μm未満の場合は、歯科用硬化性組成物に配合できるフィラーの充填率が低下する傾向があり、その結果、硬化物の機械的強度の低下や、歯科用硬化性組成物の粘着性が高くなり、操作性が悪くなり易い。特に粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合が高い場合には、ペーストにバサツキが発生する傾向がある。このため、第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び第2多孔質有機無機複合粒子(C2)全体に占める粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合は、体積基準で15%未満である必要がある。粒子径が5μm以下の微細粒子の存在割合は、体積基準で10%未満であることが好ましい。
【0029】
なお、有機無機複合フィラーの上記平均粒子径は、レーザー回折-散乱法による粒度分布を基にして求めたメディアン径を意味する。具体的には、0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mLに均一に分散させて調製したサンプルについてレーザー回折-散乱法により求めた粒度分布を基にして求めたメディアン径を意味する。
【0030】
また、重合収縮低減効果や耐摩耗性、審美性の観点から、第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び第2多孔質有機無機複合粒子(C2)における無機粒子(B1)及び(B2)の平均含有率は、75~95質量%であることが好ましい。第1多孔質有機無機複合粒子(C1)においては、製造上の理由から無機粒子(B1)の平均含有率は、75~90質量%、特に77~88質量%であることが好ましい。また、第2多孔質有機無機複合粒子(C2)においては、製造時における破砕により平均粒子径が5μm未満の粒子が発生し難く、分級により粒子径が5μm以下の微細粒子を除去したときの除去率を低くでき、更に平均粒子径が10~100μm、特に10~70μmの範囲に制御し易いという理由から、第2多孔質有機無機複合粒子(C2)における無機粒子(B2)の平均含有率は、80~95質量%、特に82~93質量%であることが好ましい。
【0031】
なお、無機粒子の上記平均含有率は、製造時に用いる重合性単量体と無機粒子との量比で制御することができるが、有機無機複合フィラーを燃焼して、重合性単量体の硬化体からなる有機樹脂成分を焼却除去した後、重量を測定することによっても確認することができる。
【0032】
本発明の有機無機複合フィラーでは、第1有機無機複合フィラー(X1)及び下記第2有機無機複合フィラー(X2)の窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積が0.01~0.30cm3/gである必要がある。但し、この範囲内であれば、両者の1~500nmの細孔の積算細孔容積は、互いに異なっていてもよい。
【0033】
第1有機無機複合フィラー(X1)及び下記第2有機無機複合フィラー(X2)がこのような積算細孔容積を有することにより、本発明の有機無機複合フィラーを配合して本発明の歯科用硬化性組成物とした場合に、該歯科用硬化性組成物の重合性単量体(モノマー)成分が第1多孔質有機無機複合粒子(C1)及び第2多孔質有機無機複合粒子(C2)が有する孔の中に浸透して硬化するアンカー効果により、硬化体の強度を高くすることができる。このような効果の観点から、第1有機無機複合フィラー(X1)及び第2有機無機複合フィラー(X2)の上記積算細孔容積は、夫々、0.01~0.20cm3/g、特に0.03~0.15cm3/gであることが好ましい。
【0034】
なお、特許文献3では、細孔径1~500nmの細孔の総細孔容積を水銀圧入法で測定しているが、同範囲の細孔径の細孔容積は窒素吸着法でも測定可能である。また、本発明者等の検討により、(X2)フィラーにおける細孔径1~500nmの細孔は、細孔径が50nm付近にピークを有する極めてシャープな細孔分布を有し、水銀圧入法では測定困難な細孔径が1nm未満の細孔や、窒素吸着法では測定困難な500nmを越える細孔径の細孔は実質的に存在しないことが確認された。このことから、本発明においては、取り扱いに注意を要する水銀を使用する必要のない、窒素吸着法により測定された、具体的には、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を計算することによって求めた細孔容積を採用することとしている。
【0035】
第1有機無機複合フィラー(X1)及び第2有機無機複合フィラー(X2)が有する細孔の平均細孔径は、特に制限されるものではないが、何れについても、3~300nmであることが好ましく、10~200nmであることがより好ましい。この平均細孔径の範囲の場合、上記細孔容積を有する多孔性有機無機複合フィラーを容易に形成できる。ここで、有機無機複合フィラーの細孔の平均細孔径は、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を計算することによって求めた細孔容積と、BET法により算出された比表面積とから算出した平均細孔径を意味する。
【0036】
第1有機無機複合フィラー(X1)のみを歯科用硬化性組成物に配合した場合には、重合収縮低減効果や硬化体の耐摩耗性、審美性及び強度の点で優れたものとなるが、硬化前のペースト状態においてベタツキが生じ操作性が良好でない場合があり、また、臼歯I級窩洞等に充填する際、形成した咬合面形態を保持する能力が低いという課題がある。本発明の有機無機複合フィラーでは、不定形微多孔性有機無機複合フィラーである第2有機無機複合フィラー(X2)を配合することにより、このようなペースト性状に関する課題を解決している。ペースト性状改善効果の高さの観点から、本発明の有機無機複合フィラーにおける第2有機無機複合フィラー(X2)は、第1有機無機複合フィラー(X1)と第2有機無機複合フィラー(X2)との合計質量に対する前記第2有機無機複合フィラー(X2)の質量の割合で表して、5~90質量%、特に10~85質量%であることが好ましい。
【0037】
既に説明したように、特許文献3に記載された有機無機複合フィラーを構成する粒子は第1多孔質有機無機複合粒子(C1)に該当し、該有機無機複合フィラーの窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積は、実質的に0.01~0.30cm3/gである。したがって、特許文献3に記載された有機無機複合フィラーは第1有機無機複合フィラー(X1)に該当し、本発明の有機無機複合フィラーにおけるは第1有機無機複合フィラー(X1)として好適に使用できる。また、本発明者等が特願2020-210301(先願)で提案した不定形微多孔性有機無機複合フィラー構成する粒子は第2有機無機複合粒子(C2)に該当し、該有機無機複合フィラーの窒素吸着法で測定したときの1~500nmの細孔の積算細孔容積は、0.01~0.30cm3/gである。したがって、不定形微多孔性有機無機複合フィラーは第2有機無機複合フィラー(X2)に該当し、本発明の有機無機複合フィラーにおけるは第2有機無機複合フィラー(X2)として好適に使用できる。
【0038】
そこで、第1有機無機複合フィラー(X1)及び第2有機無機複合フィラー(X2)の製造方法について、特許文献3に開示された事項及び先願に記載した事項に基づき、以下に説明する。
【0039】
2.第1有機無機複合フィラー(X1)の製造方法
第1有機無機複合フィラー(X1)は、特許文献3に記載された方法に準じ、「平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)の前記一次粒子が凝集してなる無機凝集粒子を、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体(a1)3~70質量部と有効量の重合開始剤とを含有する重合性単量体溶液に浸漬する浸漬工程と、浸漬した無機凝集粒子から有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程と、無機凝集粒子に含浸されている重合性単量体を重合硬化させる硬化工程と、を有する方法」によって好適に製造することができる。
【0040】
以下、上記方法で使用する各種原材料及び、各工程の詳細について説明する。
【0041】
2-1.重合性単量体(モノマー)
モノマー(a1)としては、従来の歯科用硬化性組成物において使用されるラジカル重合性単量体、カチオン重合性単量体などの重合性単量体が特に制限なく使用できる。中でも汎用されている(メタ)アクリレート系重合性単量体、具体的には酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体、水酸基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体、これら置換基を有さない単官能及び多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体等を使用することが好ましい。
【0042】
好適に使用できる(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すれば次のようなものを挙げることができる。すなわち、酸性基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸等を挙げることができる。また、水酸基含有(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン等をあげることができる。さらに、上記の置換基を有さない単官能及び多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、等を挙げることができる。
【0043】
これら重合性単量体の中でも、重合性の高さや硬化体の機械的強度が特に高くなる等の理由から、二官能以上、より好適には二官能~四官能の重合性単量体が好ましい。また、これら重合性単量体は、単独で使用しても、異種を混合して使用してもよい。
【0044】
なお、本発明の有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物のフィラーとして用いる場合は、モノマー(a1)は、その硬化体の屈折率と、無機粒子(B1)の屈折率との差が0.1以下になるように、選択することが好ましい。このような重合性単量体を選択することにより、得られる有機無機複合フィラーに十分な透明性を付与できる。
【0045】
2-2.平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子
平均一次粒子径が10~1500nmである無機粒子(B1)の平均一次粒子径は10~1500nmであればよいが、10~1000nmであることが好ましく、40~800nm、特に50~600nmであることがさらに好ましい。無機粒子の平均一次粒子径が10nm未満の場合、前記有機無機複合粒子の細孔の形成が困難になる。一方、無機粒子の平均一次粒子径が1500nmを超える場合、これを歯科用硬化性組成物に用いると、得られる硬化体の研磨性が低下し、滑沢な表面の硬化体が得難くなる。また、得られる硬化体の機械的特性、例えば、曲げ強さが低下する傾向にある。
【0046】
無機粒子の一次粒の形状は特に限定されず、球状、略球状あるいは不定形状粒子を用いることができる。耐摩耗性、表面滑沢性に優れ、且つ有機無機複合粒子に均一な細孔を付与できるという観点から、球状または略球状形が好ましい。なお、略球状とは、平均均斉度が0.6以上のものをいう。平均均斉度は0.7以上が好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。なお、ここで、無機粒子の平均一次粒子径は、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な、画像解析ソフトウエアを用いて行う画像解析により、無作為に選択した30個以上のn個の無機一次粒子の各々について、その一次粒子径(円相当直径)Xを求め、i番目の粒子のXをXiとして、これらに値に基づき下記式(平均粒径算定式)により決定される数平均粒子径を意味する。
【0047】
【0048】
また、平均均斉度は、同様にしてn個の無機一次粒子の各々について、粒子の数を(n)、各粒子の最大長である長径(L)、各粒子について長径に直交す方向の径を最小幅である短径(B)とし、i番目の粒子のL及びBを夫々Li及びBiとして、下記式(平均均斉度算定式)決定される値を意味する。
【0049】
【0050】
無機粒子の材質は、特に制限が無く、従来の歯科用硬化性組成物にフィラーとして使用されているものが特に制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ガラス等の無機酸化物が採用できる。また、これらの無機酸化物粒子は、緻密なものにするために高温で焼成されたものであることが好ましい。そして、高温焼結による緻密化効果を向上させるために、ナトリウム等の少量の周期律表第I族金属の酸化物を含有させても良い。また、必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用の無機充填材として公知のカチオン溶出性の無機充填材や三フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物を配合してもよい。
【0051】
これらの無機酸化物粒子の内、シリカ系複合酸化物粒子は、屈折率の調整が容易である他、表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等による表面改質が行い易いために特に好ましい。また、強いX線造影性を有していることから、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウムが好適である。更には、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られることから、シリカ-ジルコニアが最も好適である。
【0052】
無機粒子(B1)は、例えば、湿式法、乾式法、ゾルゲル法などにより好適に製造することができる。中でも、形状が球状で、単分散性に優れる微細粒子を工業的に製造する上で有利であり、さらには屈折率の調整や、X線造影性を付与することが容易であることから、ゾルゲル法によって製造するのが好適である。なお、ゾルゲル法により球状複合酸化物無機粒子を製造する方法は、例えば特開昭58-110414号公報、特開昭58-151321号公報、特開昭58-156524号公報、特開昭58-156526号公報等により公知である。
【0053】
2-3.浸漬工程
浸漬工程では、前記無機粒子(B1)の前記一次粒子が凝集してなる無機凝集粒子を、有機溶媒100質量部に対して前記モノマー(a1)3~70質量部と有効量の重合開始剤とを含有する重合性単量体溶液に浸漬する。該重合性単量体溶液には、有機無機複合フィラーに種々の機能を付与するため、紫外線吸収剤、顔料、染料、重合禁止剤、蛍光剤等の添加剤を配合してもよい。
【0054】
上記無機凝集粒子は、噴霧乾燥により造粒することにより得ることができる。ここで、噴霧乾燥法は、無機一次粒子を水などの揮発性の液状媒体に分散させたスラリーを、例えば高速気流などを用いて微細な霧状液滴に調製し、この霧状液滴を高温の気体と接触させることで液状媒体を揮発させ、液滴内に分散する多数の無機一次粒子を実質的に一個の凝集粒子に集めて無機凝集粒子を作る方法をいう。噴霧形式や噴霧条件に依存して凝集粒子の粒径や粒度分布が制御される。スラリー中の無機粒子の濃度は、高速気流や円盤状回転体により噴霧化可能である限り制限はないが、一般的には5~50質量%である。また、円盤状回転体の回転速度は一般的に1000~50000rpmである。噴霧されたスラリーを、高温の空気や不活性気体などによって直ちに乾燥すれば、粒度の揃った無機凝集粒子が得られる。乾燥に使用する気体の温度は、一般的には60~300℃である。上記噴霧乾燥により得られる無機凝集粒子には、僅かであるがスラリーを調製するために用いる溶媒が残留することがある。このため、噴霧乾燥の後に、得られる無機凝集粒子を真空乾燥することが好ましい。
【0055】
このようにして得られた無機凝集粒子は、次に、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体3~70質量部、好ましくは10~50質量部と有効量の重合開始剤とを含む重合性単量体溶液に浸漬される。その結果、無機凝集粒子の凝集間隙を通して、毛細管現象により、無機凝集粒子の内部に重合性単量体溶液が浸入する。この場合、重合性単量体は有機溶媒により希釈されているので、毛細管現象による液の浸入性は高い。その結果、凝集間隙の深部まで重合性単量体溶液が充填される。なお、重合性単量体に対する濡れ性を向上させるために、無機凝集粒子又は無機粒子(B1)は、シランカップリング材等の疎水化剤により表面処理されていることが好ましい。
【0056】
重合性単量体溶液に含有させる重合開始剤は、光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤のいずれであっても良いが、遮光下や赤色光下などの作業環境の制約無しに使用できる点で、熱重合開始剤がより好ましい。熱重合開始剤としては、過酸化物、アゾ化合物、ホウ素化合物、スルフィン酸塩類等が使用でき、操作上の安全性が高く、有機無機複合フィラーへの着色の影響が少ないアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が好適に使用される。重合開始剤の配合量は、重合を進行させるのに十分な有効量であれば良く、一般的には、重合性単量体100質量部に対して0.01~30質量部、好ましくは0.1~5質量部である。
【0057】
重合性単量体溶液に含有される有機溶媒としては、例えば、ハロゲン系有機溶媒、炭化水素化合物、アルコール化合物、エーテル化合物、ケトン化合物が使用でき、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタンなどが好適に使用される。
【0058】
重合性単量体溶液を無機凝集粒子に浸入させる方法としては、重合性単量体溶液中に無機凝集粒子を浸漬する方法が例示される。浸漬は、通常は常温常圧下で実施するのが好ましい。無機凝集粒子と重合性単量体溶液との混合割合は、無機凝集粒子100質量部に対して、重合性単量体溶液30~500質量部、より好ましくは50~200質量部が好ましい。混合後は、静置する場合は、30分以上放置することが好ましく、1時間以上放置することがより好ましい。凝集間隙に重合性単量体溶液が浸入することを促進するために、混合物を、振とう攪拌、遠心攪拌、加圧、減圧、加熱しても良い。
【0059】
2-4.有機溶媒除去工程及び硬化工程
有機溶媒除去工程では、凝集間隙に充填されている重合性単量体溶液から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去においては、加熱系乾燥や真空乾燥、真空凍結乾燥等により、無機凝集粒子の凝集間隙に浸入した有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)を除去する。視覚的には、互いに粘着する凝固物が無くなり、流動状態の粉体が得られるまで除去を行えば良い。
【0060】
有機溶媒を除去した後、用いた重合開始剤に応じて重合硬化を行う。熱重合を行う場合、重合温度は用いる重合開始剤によって異なるため、適宜最適な温度を選択すればよい。一般的には、重合温度は、30~170℃、好ましくは50~150℃である。
【0061】
3.第2有機無機複合フィラー(X2)の製造方法
第2有機無機複合フィラー(X2)は、下記のスラリー化工程、乾燥工程、硬化工程及び粉砕工程を有する方法により好適に製造することができる。
【0062】
(1)スラリー化工程: 平均一次粒子径10~1500nmの無機粒子(B2)と重合性単量体(a2)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして、有機溶媒の共存下に混合して、前記有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る工程;
(2)乾燥工程: 前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a2)と前記無機粒子(B2)の混合物からなる凝集塊状物を得る工程;
(3)硬化工程: 前記凝集塊状物に含まれる前記重合性単量体成分(a2)を重合硬化させて、前記重合性単量体(a2)の硬化体からなる有機樹脂成分(A2)と前記無機粒子(B2)との複合体からなる塊状微多孔体を得る工程;
(4)粉砕工程: 前記塊状微多孔体を粉砕して紛体化する粉砕工程。
【0063】
上記方法において、重合性単量体(a2)及び無機粒子(B2)としては、重合性単量体(a1)及び無機粒子(B1)と同じものが使用できる。また、有機溶媒としては2-3.浸漬工程で使用するのと同じ有機溶媒が使用できる。また、スラリー工程においては2-3.浸漬工程で使用するのと同じ重合開始剤を有効量、配合しておくことが好ましい。さらに、有機無機複合フィラーに種々の機能を付与するため、紫外線吸収剤、顔料、染料、重合禁止剤、蛍光剤等の添加剤を配合してもよい。
【0064】
前記(1)においては、必要に応じて表面処理された無機粒子(B2)と重合性単量体(a2)とを、目的とする有機無機複合フィラーの無機充填粒子含有率に応じて、両者の合計量に占める前記無機粒子(B2)の質量割合が80~95質量%、好ましくは82~93質量%となるような配合割合で、有機溶媒の共存下に混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る。
【0065】
無機粒子(B2)として前記噴霧乾燥法によりシランカップリング剤で表面処理され、かつ120℃以上の温度で加熱乾燥されたものを使用した場合には、略球状の凝集粒子となるが、適切な条件で表面処理および加熱乾燥されたものを有機溶媒の共存下で均一なスラリーとすることで、凝集粒子を解砕して個々の無機粒子(B2)が重合性単量体(a2)とまんべんなく接触して濡れるような状態とし、乾燥工程後において均質な凝集塊状物が得られるようになる。スラリー化工程に用いられる有機溶媒の使用量は、均一なスラリーが得られるような量であれば良いが、均一なスラリーが得られ且つ効率的に乾燥できるという理由から、無機粒子(B2)と重合性単量体(a2)の合計質量100質量に対し、20~500質量部、特に30~100質量部とすることが好ましい。
【0066】
スラリー化のための混合は1段階で行っても多段階に分けて行ってもよいが、均一なスラリーが得られ易いという理由から、無機粒子(B2)と重合性単量体成分(a2)とを、両者の合計質量に占める前記無機粒子の質量の割合が80~95質量%となるようにして混合し、前記無機粒子(B2)の表面に前記重合性単量体成分(a2)が付着した湿紛体からなる混合粉体を得る第一工程;と、前記混合粉体と有機溶媒とを混合して、該有機溶媒に不溶成分が均一に分散したスラリーを得る第二工程;とに分けて行うことが好ましい。
【0067】
このとき、第一工程における混合は、均一性の観点から混合装置を用いることが好ましい。例えば、揺動ミキサーや攪拌羽根により混合するプラネタリミキサー等を用いることができる。また、第二工程における混合方法としては、振とう攪拌や超音波攪拌、または混練機を用いた攪拌混合が好適に採用できる。
【0068】
前記(2)の乾燥工程では、前記スラリーから有機溶媒を除去して、前記重合性単量体成分(a2)と前記無機粒子(B2)の混合物からなる凝集塊状物を得る。この乾燥工程において無機粒子(B2)の個々の粒子が重合性単量体成分(a2)をバインダーとして相互に連結して凝集塊状物を形成すると共に、粒子間に(外部に開口した)細孔が形成される。有機溶媒の除去は、有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)が除去され、視覚的には塊状の固体が得られるまで実施するのが好ましい。有機溶媒の除去操作は、このような除去が可能の方法であれば特に限定されないが、所期の細孔形成の観点から、0.01~50ヘクトパスカル、特に0.1~10ヘクトパスカルといった減圧下で乾燥させる減圧乾燥(又は真空乾燥が)により行うことが好ましい。
【0069】
前記(3)の硬化工程における重合硬化は、使用する重合開始剤の種類に応じて好適な方法を適宜選択して行えばよい。重合硬化により得られた重合硬化物(塊状微多孔体)を前記(4)の粉砕工程で粉砕することで、本発明の有機無機複合フィラーを製造することができる。粉砕は、振動ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。更に必要に応じて、篩、エアー分級機、あるいは水簸分級機等を用いて分級してもよい。前記したように、第1有機無機複合フィラー(X1)に含まれる粒子径が5μm以下の第1多孔質有機無機複合粒子(C1)は少なく、本発明の機無機複合フィラーに含まれる粒子径が5μm以下の粒子のほとんどは第2多孔質有機無機複合粒子(C2)である。このため、本発明の有機無機複合フィラーに含まれる5μm以下の粒子の量は、第1有機無機複合フィラー(X1)の含有率に応じて低減し、特に分級を行わなくても、その含有量を体積基準で15%未満とすることができる。
【0070】
4.本発明の歯科用硬化性組成物
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体:100質量部、フィラー:200~600質量部及び有効量の重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物であって、前記フィラーの30質量%以上が本発明の有機無機複合フィラーである、ことを特徴とする。
【0071】
フィラー含有量が上記範囲外のときは、硬化体の強度が低くなり、また、フィラーに占める本発明の有機無機複合フィラーが上記下限値未満の場合には、重合収縮の低減効果、強度の向上効果及びペースト性状改良効果の少なくとも一つが得られなくなる。これら効果の観点から重合性単量体100質量部に対するフィラーの含有量は100~800質量部、特に200~600質量部である、ことが好ましい。
【0072】
重合性単量体としては、該用途に使用されるものが制限なく使用できる。通常は、本発明の有機無機複合フィラーを製造する際に使用する重合性単量体と同じものが使用できる。但し、使用する本発明の有機無機複合フィラーで実際に用いたものと全く同じものを使用する必要は無く、異なっていてもよい。
【0073】
重合開始剤としては、該用途に使用されるものが制限なく使用できる。一般に、歯科用硬化性組成物の硬化(重合)手段としては、その使用時の操作の簡便さから、光重合法が採用されることが多い。上記の理由により、本発明の歯科用硬化性組成物においても、重合開始剤として光重合開始剤を用いることが好ましい。好ましい光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類、α-ジケトン類、チオキサンソン化合物、ビスアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加される。還元剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルデヒド類、含イオウ化合物などが例示される。さらに、必要に応じてトリハロメチルトリアジン化合物、アリールヨードニウム塩等を添加することも出来る。重合開始剤は、上記重合性単量体100質量部に対して0.01~10質量部の範囲で配合させるのが一般的である。
【0074】
前記フィラーは、本発明の有機無機複合フィラーの含有率が30質量%以上であれば、無機フィラーや他の有機無機複合フィラー等のその他フィラーを含んでいてもよい。硬化体の審美性や重合収縮率低減効果の観点からは、その他フィラーの主要部が10~1500nmの平均一次粒子径を有する無機粒子であることが好ましい。該無機粒子としては前記(B1)及び(B2)と同じものが使用できる。但し、使用する本発明の有機無機複合フィラーで実際に用いたもの全く同じものを使用する必要は無く、異なっていてもよい。なお、主要部とは、その他フィラーの90質量%以上、好ましくは95質量%以上を占めること意味し、微量成分としてペーストにチクソトロピー性を付与する目的、或いは増粘目的で配合される不定形の微細フィラー等を含むこともできる。
【0075】
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物においては、その効果を著しく阻害しない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光剤等が挙げられる。
【実施例0076】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0077】
1.原材料とその略称・略号
以下に、実施例及び比較例で使用した各種原材料とその略号を示す。
【0078】
(1)重合性単量体
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2-4-トリメチルヘキサン
・HD:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート。
【0079】
(2)無機粒子(無機フィラー)
・F-1:ゾルゲル法で製造した球状シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:200nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-2:ゾルゲル法で製造した球状シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:400nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-3:ゾルゲル法で製造したシリカ-チタニア粒子(一次粒子の平均粒子径:70nm、一次粒子の平均均斉度:0.95)
・F-4:ゾルゲル法で製造した不定形シリカ-ジルコニア粒子(一次粒子の平均粒子径:1000nm)
・F-5:球状三フッ化イッテルビウム粒子(一次粒子の平均粒子径:50nm)
なお、一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)の各粒子について求めた一次粒子径(円相当直径)Xに基づき前記平均粒径算定式より算出した数平均粒子径を意味する。また、平均均斉度は、上記各粒子の最大径を長径(L)及び短径(B)基づき前記平均均斉度算定式より算出した値を意味する。
【0080】
(3)重合開始剤
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:N,N-ジメチル-p-安息香酸エチル。
【0081】
2.有機無機複合フィラーの評価方法
(1)有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)の測定方法
0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mlに分散させ、超音波を20分間照射した。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(「LS230」、ベックマンコールター製)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
【0082】
また、平均粒子径(粒度)測定の際に、得られた粒度分布から、0.04μm~5.0μmの範囲について体積基準での存在割合(微細粒子存在割合)を求めた。
【0083】
(2)有機無機複合フィラーの細孔容積および平均細孔径の測定方法
試料セルに有機無機複合フィラーを0.1g入れ、前処理装置(「バッキュプレップ061」株式会社島津製作所製)を用いて、120℃で3時間、真空排気により前処理を行った。その後、吸着ガスとして窒素、冷媒として液体窒素を用いて、ガス吸着法細孔分布測定装置(「トライスターII3020」株式会社島津製作所製)により、窒素吸着等温線を求め、BJH法により、細孔径1~500nmの範囲における積算細孔容積を求めた。また、細孔容積とBET法により算出された比表面積とから平均細孔径を算出した。
【0084】
3.第1有機無機複合フィラー(X1)の製造例(製造例1~4)
製造例1
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、ノズル先端で粒子化エアと衝突させることで微粒子とする噴霧乾燥機(スプレードライヤー「NL-5」、大川原化工機株式会社製)を用いて、噴霧圧力を0.08MPa、乾燥温度を230℃とし、噴霧乾燥法により乾燥した。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを12.0g、3Gを8.0g、重合開始剤としてAIBNを0.08g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子80gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
【0085】
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は20μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子は確認されず、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.04cm
2/g、平均細孔径は48nmであった。
図2に示す通り、曲面形状を有するX1)フィラーに該当することを確認した。
【0086】
製造例2及び4
有機無機複合フィラーに配合する重合性単量体成分の種類および無機フィラーおよび重合性単量体成分の配合量について、表1に示すように変更した以外は製造例1と同様にして有機無機複合フィラーを得、それぞれについて製造例1と同様に各物性を評価した。その結果を表1に併せて示した。
【0087】
製造例3
無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、高速で回転するディスク上に供給し、噴霧乾燥法により乾燥させた。用いた噴霧乾燥機は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)であった。ディスクの回転速度は10000rpm、噴霧乾燥温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥した無機粉体を120℃、18時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、重合性単量体としてGMAを9.0g、3Gを6.0g、重合開始剤としてAIBNを0.06g、有機溶媒としてエタノールを80g混合した重合性単量体溶液に対し、上記無機凝集粒子85gを浸漬させた。十分攪拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
【0088】
上記の混合物をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。
上記の粉体をロータリーエバポレーターで攪拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件で、2時間の加熱を行い、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。得られた有機無機複合フィラーは略球状であり、平均粒子径は50μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子は確認されず、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.10cm2/g、平均細孔径は50nmであった。
【0089】
4.第2有機無機複合フィラー(X2)の製造例(製造例5~13)
製造例5
スラリー化工程:
無機粒子の表面処理: 無機フィラーF-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミルを用いて無機フィラーを分散させた分散液を得た。次いで、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を水に加え撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機粒子分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を混合しながら、高速で回転するディスク上に供給し、噴霧乾燥法により乾燥させた。なお、噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)を使用し、ディスクの回転速度:10000rpm、噴霧乾燥温度:200℃で行った。その後、噴霧乾燥した無機粉体を80℃、18時間真空乾燥した。
第一工程: 得られた粉体(無機凝集粒子)90gに対し、重合性単量体としてGMAを6.0g、3Gを4.0g、重合開始剤としてAIBNを0.04g、を予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合し、混合粉体を得た。
第二工程: 上記の混合粉体に対し、有機溶媒としてエタノールを40g加え、さらに混合し流動性の高い均一なスラリーを得た。
【0090】
乾燥工程、硬化工程および粉砕工程:
上記スラリーを、真空乾燥機を用いて25℃条件下で真空乾燥し、エタノールを留去した後に、真空乾燥機を用いて100℃の条件で2時間加熱し、重合性単量体を重合硬化させ、ケーキ状の白色固体を得た。次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30分間粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。
【0091】
得られた破砕型有機無機複合フィラーの平均粒子径は37μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は13.5%であり、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.15cm
2/g、平均細孔径は62nmであった。また、得られた有機無機複合フィラーを構成する個々の粒子の形状を走査型電子顕微鏡にて確認したところ、
図1に示す通り、曲面形状を有さない、隣接する面が角度を有する不定形状の粒子である(X2)フィラーに該当することを確認した。
【0092】
製造例6~10、12および14
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量について、それぞれ表1に示すように変更した以外は、製造例5と同様にして有機無機複合フィラーを得、それぞれについて製造例5と同様にして各物性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0093】
製造例11
製造例5と同様にして得たγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子を76gと、無機フィラーF-5の19gに対し、重合性単量体としてGMAを3.0g、3Gを2.0g、重合開始剤としてAIBNを0.02g、を予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合し、混合粉体を得た。
【0094】
上記の混合粉体に対し、有機溶媒としてエタノールを40g加え、さらに混合し流動性の高い均一なスラリーを得た。
上記スラリーを、真空乾燥機を用いて25℃条件下で真空乾燥し、エタノールを留去した後に、真空乾燥機を用いて100℃の条件で2時間加熱し、重合性単量体を重合硬化させ、ケーキ状の白色固体を得た。
次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30分間粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーの平均粒子径は35μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は9.0%であり、窒素吸着法により求めた1~500nmにおける積算細孔容積は0.09cm2/g、平均細孔径は35nmであった。
【0095】
製造例13
有機無機複合フィラーに配合する無機フィラーの種類、重合性単量体成分の種類および無機フィラーと重合性単量体成分の配合量、および製造工程におけるスラリー化工程、乾燥程、硬化工程について、前記製造例5と同様にしてケーキ状の白色固体を得た。次いで、この硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で120分間粉砕し、粉砕物を目開き100μmの篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた破砕型有機無機複合フィラーについて、製造例5と同様に各物性を測定した。その結果、平均粒子径は37μmであり、粒度分布における5μm以下の粒子の体積基準での存在割合は20.2%であり、積算細孔容積は0.09cm2/gであり、平均細孔径は37nmであった。
【0096】
5.その他有機無機複合フィラーの製造例(比較製造例)
比較製造例
製造例5と同じγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したF-1の無機凝集粒子の75gに対し、重合性単量体としてGMAを15.0g、3Gを10.0g、重合開始剤としてAIBNを0.10g、を予め混合して調製した重合性単量体混合物を加え、遊星運動型撹拌機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて撹拌羽の回転数7~10rpmで30分間混合して、ペースト状の混合物を調製した。このペースト状混合物を減圧下で脱泡した後、100℃で2時間重合硬化させた。硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール径:5mm)で30分間粉砕し、粉砕物を篩にかけることで100μm以上の粒子を除去した。得られた有機無機複合フィラーは不定形であり、平均粒子径は45μm、窒素吸着法による測定において細孔は確認されなかった。
【0097】
【0098】
6.実施例及び比較例
実施例1~12及び比較例1~4
表1に示す各有機無機複合フィラーを用いて、本発明の有機無機複合フィラー組成物に該当するものを実施例とし、該当しないものを比較例として準備した。
【0099】
実施例に用いた有機無機複合フィラー組成物は、表2に示す配合割合にてX1フィラーおよびX2フィラーを予め混合し、製造例1と同様の方法にて、粒度分布における5μm以下の粒子の存在割合を求めた。
【0100】
これら有機無機複合フィラー組成物を使用して、次のようにして各例の歯科用硬化性組成物を調製した。すなわち、GMA:60質量部及び3G:40質量部からなる重合性単量体に重合開始剤としてCQ:0.20質量部、DMBE:0.35質量部を完全に溶解させた。その後、乳鉢内で、得られた溶液と無機フィラーF-1及び各有機無機複合フィラーとを表2に示す配合割合で均一になるまで混合、脱泡して、何れもペースト状の各例の歯科用硬化性組成物を調製した。
【0101】
得られた各歯科用硬化性組成物について、ペースト状態での操作性、形態保持性および硬化体における曲げ強さを以下に示す方法で評価した。その結果を表3に示した。
【0102】
(1)歯科用硬化性組成物のペースト状態での操作性の評価
硬化前の歯科用硬化性組成物のペースト性状について、操作性の観点から以下の基準に基づいて評価を行った。ベタツキが少ないものには○、特に少ないものには◎、ベタツキが強く操作しにくいペースト性状のものは×とした。さらに、バサツキが少ないものには○、特に少ないものには◎、バサツキが強く操作しにくいペースト性状のものは×の判定とした。評価は歯科用硬化性組成物を調製した直後および37℃で6カ月間保管した後に実施した。
【0103】
(2)ペーストの形態保持性の評価
硬化前の歯科用硬化性組成物のペーストの形態保持性は以下の方法にて評価を行った。右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ2mm)を再現した硬質レジン歯に硬化性組成物を充填し、充填されたペーストに咬合面形態を付与した。その後前記歯科用硬化性組成物を充填した硬質レジン歯を50℃のインキュベータ内に20分間静置し、付与した形態が保持されているか評価した。付与した形態に僅かに変化が確認されたものは○、全く変化しないものは◎、形態を保持できていないものは×と判定した。評価は歯科用硬化性組成物を調製した直後および37℃で6カ月間保管した後に実施した。
【0104】
(3)曲げ強さの評価
歯科用硬化性組成物のペーストについて、充填器を用いてステンレス製型枠に充填し、ポリプロピレンで圧接した状態で、可視光線照射器パワーライト(株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)を用いて一方の面から30秒×3回、全体に光が当たるように場所を変えてポリプロピレンに密着させて光照射を行なった。次いで、反対の面からも同様にポリプロピレンに密着させて30秒×3回光照射を行い硬化体を得た。#1500の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ破壊強度を測定した。試験片5個について評価し、その平均値を曲げ強さとした。荷重-たわみ曲線を得る。
【0105】
式:σB=(3PS)/(2WB2) より、曲げ強度を求めた。
なお上記中の記号は、夫々、σB:曲げ強度(Pa),P:試験片破折時の荷重(N),S:支点間距離(m),W:試験片の幅(m),B:試験片の厚さ(m)を表す。
【0106】
(4)収縮率
直径3mmの貫通孔が形成された、厚み7mmのステンレス鋼(SUS)製割型に、直径3mm弱、高さ4mmのSUS製プランジャーを若干の遊嵌状態で填入して、貫通孔の一方の開口を閉塞し、孔の深さを3mmに調整した。次に、この孔内に歯科用硬化性組成物を充填した後、孔の上端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、ガラス製台のガラス天板の中央下方に、可視光線照射器パワーライト(株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)を備え付けた。このガラス製台のガラス天板の中央上面に、上記SUS製割型を、そのポリプロピレンフィルムが張り付けられた面を下に向けた状態で乗せた。そして、更にSUS製プランジャーの上面に微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。この状態で、可視光線照射器によって歯科用硬化性組成物を重合硬化させ、照射開始より3分後の収縮率(%)を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
【0107】
【0108】
【0109】
実施例1~12の結果から理解されるように、本発明の有機無機複合フィラー組成物を配合する歯科用硬化性組成物は、硬化体において高い曲げ強さを示し、ペースト状態でベタツキおよびバサツキが少なく、良好な形態保持性を示す。また長期保存による操作性および形態保持性の変化が極めて小さい。さらに、重合時の収縮率が極めて小さい。
【0110】
比較例1の結果から理解されるように、多孔性曲面形状有機無機複合フィラー(X1)のみを有機無機複合フィラーとして配合した歯科用硬化性組成物は、ペースト状態でのベタツキが大きく、長期保存による操作性および形態保持性の変化が大きい。また、重合時の収縮率が大きい。
【0111】
比較例2の結果から理解されるように、微細粒子の存在割合が高い多孔性不定形有機無機複合フィラー(X2)のみを有機無機複合フィラーとして配合した歯科用硬化性組成物は、ペースト状態でのベタツキが少ないものの、バサツキが大きく、重合時の収縮率が大きい。
【0112】
比較例3、4の結果から理解されるように、細孔を有さない(非孔性)破砕型有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物は、ペースト状態でベタツキが少なく、比較的良好な形態保持性を有するものの、長期保存後にバサツキが大きく使用し難いペースト性状となる。また、硬化体の曲げ強さも低い。