(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184780
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】水性分散体、および塗膜
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20221206BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20221206BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20221206BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20221206BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221206BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L23/06
C08F210/02
C09D175/04
C09D5/02
C09D123/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085370
(22)【出願日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021091513
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 和史
(72)【発明者】
【氏名】大藤 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】志波 賢人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB072
4J002BB092
4J002CK021
4J002CK031
4J002CK041
4J002GH01
4J002HA07
4J038CB032
4J038DG001
4J038MA10
4J038NA04
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4J038PB04
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC02
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4J100AA02P
4J100AK32R
4J100AL03Q
4J100CA05
4J100EA09
4J100FA20
4J100JA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】各種基材への密着性や耐溶剤性、樹脂塗液等を塗工したときの濡れ性に優れる塗膜を形成可能である水性分散体を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂粒子(A)と、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)と、水を主成分とする水性媒体と、を含む水性分散体である。樹脂粒子(A)100質量部に対する、樹脂粒子(B)の割合が、0.5~10質量部である。ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01~15質量%であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂粒子(A)と、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)と、水を主成分とする水性媒体と、を含む水性分散体であって、樹脂粒子(A)100質量部に対する、樹脂粒子(B)の割合が、0.5~10質量部である、水性分散体。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01~15質量%である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分が無水マレイン酸である、請求項1又は2に記載の水性分散体。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の水性分散体から形成された、塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材との密着性や耐溶剤性、樹脂塗液等を塗工したときの濡れ性に優れる塗膜を形成し得る、水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂を含む水性分散体は、基材への密着性、耐摩耗性、耐衝撃性等に優れていることから、塗料、インク、接着剤、各種コーティング剤として、紙、プラスチックス、フィルム、金属、ゴム、エラストマー、繊維製品等に幅広く使用されている。例えば、特許文献1には、平滑性に優れる塗膜を形成し得るポリウレタン樹脂水性分散体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、実際の使用環境に応じ、水性分散体から得られた塗膜に対し、ポリエチレンやポリプロピレン等の低極性材料からなる基材との密着性や耐溶剤性、上層に樹脂塗液等を塗工する際の濡れ性に優れることが求められている。
【0005】
本発明は、これらの課題を解消するものである。すなわち、各種基材への密着性や耐溶剤性、樹脂塗液等を塗工したときの濡れ性に優れる塗膜を形成可能である水性分散体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂粒子を、特定の割合で含有するポリウレタン樹脂粒子の水性分散体は、上記課題を解決し得ることを突き止め、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の水性分散体は、下記(1)~(4)の通りである。
(1)ポリウレタン樹脂粒子(A)と、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)と、水を主成分とする水性媒体と、を含む水性分散体であって、樹脂粒子(A)100質量部に対する、樹脂粒子(B)の割合が、0.5~10質量部である、水性分散体。
(2)ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01~15質量%である、(1)の水性分散体。
(3)ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分が無水マレイン酸である、(1)又は(2)の水性分散体。
(4)(1)~(3)の何れかの水性分散体から形成された、塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性分散体は、各種基材への密着性や耐溶剤性に優れ、樹脂塗液等を塗工したときの濡れ性に優れる塗膜を形成することができる。さらに、本発明の水性分散体は、バインダー、インキ、塗料、接着剤等の用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、ポリウレタン樹脂粒子(A)と、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)と、水を主成分とする水性媒体とを含むものである。樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)は、水性媒体中に分散して存在している。
本発明の水性分散体において、樹脂粒子(A)100質量部に対する樹脂粒子(B)の割合は0.5~10質量部である。
【0010】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。
【0011】
ポリウレタン樹脂の分子量は限定されず、目的の物性に応じて適宜選択することができる。
【0012】
ポリウレタン樹脂は、水性媒体に分散するか、または溶解するものが好ましい。水性媒体に分散または溶解させるための方法としては限定されず、強制乳化、自己乳化、転相乳化、コア/シェル複合粒子化、マイクロカプセル化、粉砕等の公知の方法を用いることができる。
【0013】
ポリウレタン樹脂の種類は、限定されず、目的の物性に応じて適宜選択することができる。具体例としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等のポリウレタン樹脂が挙げられ、中でも、塗膜とした際の基材追随性や密着性に優れることから、ポリエステル系、ポリエーテル系のポリウレタン樹脂が好ましい。
【0014】
本発明の水性分散体は、基材密着性や耐溶剤性を向上させるために、不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)を含有する。
本発明の水性分散体において、ポリウレタン樹脂粒子(A)100質量部に対する、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子(B)の割合が、0.5~10質量部であり、1~8質量部であることが好ましく、2~5質量部であることがより好ましい。0.5質量部未満であると、基材密着性や耐溶剤性に劣るものとなる。一方、10質量部を超えると、樹脂塗液の濡れ性が低下する。なお、樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)の含有量は、分散体中の固形分で算出する。
【0015】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂は、主成分としてオレフィン成分を含有するものである。
ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが好ましく、これらの混合物でもよい。中でも、密着性を良好とするために、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
オレフィン成分の含有量は、オレフィン由来の特性を十分に発現させるために、70質量%以上であることが好ましい。
【0016】
ポリオレフィン樹脂は、密着性を向上させるとともに、水性分散体とした場合の樹脂の分散性を向上させるために、不飽和カルボン酸成分を含有することが必要である。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましい。なお、「(無水)~酸」とは、「~酸または無水~酸」を意味する。すなわち、(無水)マレイン酸とは、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。
【0017】
不飽和カルボン酸成分は、オレフィン成分と共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0018】
ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.01~15質量%であることが好ましく、0.1~15質量%であることがより好ましく、0.5~8質量%であることがさらに好ましく、1~5質量%であることが特に好ましく、2~4質量%であることが最も好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01質量%未満であると、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子を水性媒体に分散させることが困難となる場合がある。また、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%を超えると、塗膜とした場合の密着性が低下する場合がある。
【0019】
ポリオレフィン樹脂は、各種基材との密着性にいっそう優れるために、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有してもよい。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられる。中でも、入手し易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物でもよい。中でも、入手の容易さと密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0022】
ポリオレフィン樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.1~22質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、3~18質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満であると、得られる塗膜の密着性が低下する場合があり、含有量が22質量%を超えると、塗膜の耐溶剤性、密着性や耐熱性が低下する場合がある。
【0023】
ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体等が挙げられる。
中でも、密着性に優れることから、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体が好ましい。
【0024】
ポリオレフィン樹脂は塩素化されていてもよい。
また、ポリオレフィン樹脂は、N,N-ジメチルアミノエチル基、N,N-ジメチルアミノプロピル基、N,N-ジメチルアミノブチル基、N,N-ジエチルアミノエチル基、N,N-ジエチルアミノプロピル基、N,N-ジエチルアミノブチル基等の、N-置換イミド単位を含有していてもよい。
【0025】
ポリオレフィン樹脂の融点は、水性媒体への分散性を向上させるために、70℃以上であることが好ましく、75~200℃がより好ましく、80~170℃がさらに好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート値(JIS K7210:1999に準ずる)は、300g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。分子量の目安となるメルトフローレート値が300g/10分を超えると、得られる塗膜は、密着性が低下する傾向にあり、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート値が0.001g/10分未満であると、水性媒体への分散が困難となる傾向にある。
【0027】
(水性媒体)
本発明における水性媒体は、水を主成分とするものである。「水を主成分とする」とは、水性媒体中の水の含有量が50質量%以上であるものをいい、中でも、70質量%以上であることが好ましい。水性媒体中の水の含有量が50質量%未満であると、水性分散体の安定性や分散性が低下してしまう。
水性媒体には、本発明の効果を阻害しない範囲で、後述する塩基性化合物や有機溶剤を含有してもよい。
【0028】
(添加剤)
本発明の水性分散体は、塗膜の耐熱性や強度を向上させるために、架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、アミン系架橋剤、ポリオール等の、ポリオレフィン樹脂またはポリウレタン樹脂と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する化合物が挙げられる。架橋剤の含有量は、本発明の効果を損ねない範囲で勘案して適宜選択すればよい。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の水性分散体は、上述した樹脂や架橋剤以外の樹脂や添加剤(他の樹脂や添加剤)を含有してもよい。
他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン-マレイン酸樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂等が挙げられる。
【0030】
他の添加剤としては、例えば、金属酸化物微粒子、粘着付与剤、ワックス類、紫外線吸収剤、レベリング剤、ヌレ剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料、染料、分散剤等が挙げられる。
【0031】
他の樹脂や他の添加剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また混合安定性に優れることから、これらは水溶性または水分散性のものが好ましく、水性分散体または水溶液に加工して用いることがより好ましい。
【0032】
本発明の水性分散体における樹脂の固形分濃度は特に限定されないが、塗工時の厚み調整が容易になることから、1~40質量%であることが好ましく、2~35質量%であることがより好ましく、5~30質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の水性分散体の粘度は、3000mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以下であることがより好ましく、500mPa・s以下であることが特に好ましい。水性分散体の粘度が3000mPa・sを超えると、分散体の長期安定性が低下したり、低温での乾燥が困難となる場合がある。
【0034】
(水性分散体の製造方法)
本発明の水性分散体の製造方法としては、特に限定されない。例えばポリウレタン樹脂と、ポリオレフィン樹脂を主成分とする樹脂と、水性媒体とを、公知の手法で混合する方法が挙げられる。または、ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体に、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子の水性分散体や溶液を添加し、混合して製造する方法が挙げられる。
【0035】
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体を製造する方法は特に限定されず、自己乳化法や強制乳化法等の公知の方法を用いることができる。
【0036】
ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子の水性分散体を製造する方法は特に限定されず、自己乳化法や強制乳化法等の公知の方法を用いることができる。
【0037】
ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子の水性分散体を製造するための、公知の方法の中でも、不揮発性水性分散化助剤を実質的に使用しない方法を採用することが好ましい。不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0038】
「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(ポリオレフィン樹脂の水性分散化時)に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は、ポリオレフィン樹脂成分に対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%未満であり、0質量%であることが最も好ましい。
【0039】
不揮発性水性分散化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子等が挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子の水性分散体は、水性媒体中でポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸成分を塩基性化合物によって中和することで得られる、アニオン性の水性分散体であることが好ましい。このような水性分散体は、中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集を抑制することができ、安定性が付与される。
【0041】
塩基性化合物は、カルボキシル基を中和できるものであればよいが、本発明の効果を損なわないために、揮発性であることが好ましい。
塩基性化合物としては、水性分散体の乾燥性に優れることから、アンモニアまたは有機アミン化合物が好ましく、中でも沸点が30~250℃、さらには沸点が50~200℃の有機アミン化合物がより好ましい。沸点が30℃未満であると、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると、乾燥によって塗膜を形成する際に、塩基性化合物を飛散させることが困難となり、密着性が低下する場合がある。
【0042】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0043】
塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5~3.0当量であることが好ましく、0.8~2.5当量であることがより好ましく、1.0~2.0当量であることが特に好ましい。塩基性化合物の添加量が0.5当量未満では、塩基性化合物の添加効果が見られず、添加量が3.0当量を超えると、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色したりする場合がある。
【0044】
ポリオレフィン樹脂を含む樹脂粒子の水性分散体を製造する際に、有機溶剤を添加してもよい。
有機溶剤としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0045】
本発明の水性分散体は、接着剤、コーティング剤、プライマー、塗料、インキ等として好適に使用できる。
本発明の水性分散体から塗膜を得ることができる。本発明の塗膜は、金属製品用途、電子機器用途、包装材料用途、自動車部品用途等に特に好適に用いられる。
【0046】
これら用途の具体例としては、PP押出ラミ用アンカーコート剤、二次電池セパレータ用コーティング剤、UV硬化型コート剤用プライマー、靴用プライマー、自動車バンパー用プライマー、クリアボックス用プライマー、PP基材用塗料、包装材料用接着剤、紙容器用接着剤、蓋材用接着剤、インモールド転写箔用接着剤、PP鋼板用接着剤、太陽電池モジュール用接着剤、植毛用接着剤、二次電池電極用バインダー用接着剤、二次電池外装用接着剤、自動車用ベルトモール用接着剤、自動車部材用接着剤、異種基材用接着剤、繊維収束剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の水性分散体から塗膜を形成する方法としては、例えば、本発明の水性分散体を、紙、プラスチックス、フィルム、金属、ゴム、エラストマー、繊維製品の各種基材表面に均一に塗布し、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供する方法が挙げられる。これにより、均一な塗膜を各種基材表面に形成できる。
【0048】
基材への水性分散体の塗布には、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
【0049】
基材への水性分散体の塗布量は特に限定されず、その用途によって適宜選択されるものであり、乾燥後の塗布量として0.01~100g/m2であることが好ましい。
【0050】
なお、塗布量を調節するためには、塗布に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする塗膜の厚さに応じて濃度調整された水性分散体を使用することが好ましい。水性分散体の濃度は、調製時の仕込み組成により調整することが可能であり、また、一旦調製した水性分散体を、適宜希釈したり、あるいは濃縮したりして調整してもよい。
【0051】
塗布後の加熱処理のための加熱装置として、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用することができる。加熱温度や加熱時間は、基材の特性または水性分散体中に任意に配合しうる各種成分の含有量により適宜選択される。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各種の構成や特性は、以下の方法により測定または評価した。
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて、1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行って樹脂構成を分析した。
【0053】
(2)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0054】
(3)ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径(動的光散乱法)
日機装社製、Nanotrac Wave-UZ152粒度分布測定装置を用いて測定した。樹脂の屈折率は1.5とした。
【0055】
(4)塗膜の密着性
厚み50μmのLDPEフィルム(三井化学東セロ社製、FC-S)のコロナ処理面に、水性分散体を塗布し、80℃で1分間乾燥することにより、厚さ3μmの塗膜を形成した。塗膜を形成した2枚のフィルムの塗膜面と塗膜面を重ね合わせ、85℃、0.3MPaで10秒間加圧処理をおこなうことによって、貼り合わせフィルムを作製した。貼り合わせフィルムサンプルを15mm幅に切り出し、T型剥離試験(剥離速度100mm/分)によって剥離強度を測定した。比較例1の剥離強度を1とした際の相対剥離強度によって密着性を評価した。
【0056】
(5)塗膜の耐溶剤性
SUS板に、水性分散体を塗布し、100℃で1分間乾燥することにより、厚さ3μmの塗膜を形成した。メチルエチルケトンを染ませた綿棒で塗膜を擦り、目視によって基材露出が確認できるまでの往復回数を測定し、以下の基準によって耐溶剤性を評価した。
◎:11回以上
〇:7~10回
△:4~6回
×:1~3回
【0057】
(6)塗膜の濡れ性
(4)の試験と同様の方法で形成した塗膜上に、表面エネルギー値の異なるダインテストペン(Corona Supplies Ltd.社製)で線を引き、2秒経過後に目視で確認した。引いた線が水滴にならず保持されており、濡れ状態が良好だった最大ダインレベルをもとに、以下の基準によって濡れ性を評価した。
○:ダインレベル 50mN/m以上
×:ダインレベル 50mN/m未満
【0058】
(製造例1)
ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-1の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの酸変性ポリオレフィン樹脂(樹脂組成:エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%、MFR63g/10分)、80gのイソプロパノール、4.0gのN,N-ジメチルエタノールアミン、および220gの水をガラス容器内に仕込み、120℃で60分間加熱撹拌をおこなった。その後、撹拌しつつ室温まで冷却したのち、150gの水を加え、エバポレータを用いて水およびイソプロパノールを減圧留去することによって、乳白色のポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-1(固形分濃度25質量%、体積平均粒子径110nm)を得た。
【0059】
(製造例2)
ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-2の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂として、樹脂組成がエチレン85質量%、アクリル酸エチル13質量%、無水マレイン酸2質量%、であり、MFR3g/10分である樹脂を用いた以外は、製造例1と同様の方法にて、乳白色のポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-2(固形分濃度25質量%、体積平均粒子径90nm)を得た。
【0060】
(製造例3)
ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-3の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂として、樹脂組成がエチレン76質量%、アクリル酸ブチル19質量%、無水マレイン酸5質量%、であり、MFR8g/10分である樹脂を用いた以外は、製造例1と同様の方法にて、乳白色のポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-3(固形分濃度25質量%、体積平均粒子径100nm)を得た。
【0061】
(製造例4)
ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-4の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂として、樹脂組成がエチレン97質量%、無水マレイン酸3質量%である樹脂を用いた以外は、製造例1と同様の方法にて、乳白色のポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-4(固形分濃度25質量%、体積平均粒子径170nm)を得た。
【0062】
(製造例5)
ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-5の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂として、樹脂組成がエチレン70質量%、アクリル酸エチル28質量%、無水マレイン酸2質量%、であり、MFR7g/10分である樹脂を用いた以外は、製造例1と同様の方法にて、乳白色のポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-5(固形分濃度25質量%、体積平均粒子径130nm)を得た。
【0063】
(実施例1)
ポリウレタン樹脂粒子の水性分散体(PLASTARK E、北広ケミカル社製、媒体:水)50gに、ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散体E-1を3.0g、水10gを添加し、室温で撹拌・混合することにより、水性分散体M-1(固形分濃度25質量%)を作製した。得られた水性分散体および塗膜についての特性値を表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例2~7、比較例1~3
表1記載の水性分散体中の樹脂粒子割合になるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様の方法にて、水性分散体(いずれも固形分濃度25質量%)を作製した。得られた水性分散体および塗膜についての特性値を表1に示す。
【0066】
実施例1~7の水性分散体では、密着性や耐溶剤性に優れ、濡れ性に優れる塗膜が得られた。一方、比較例1の水性分散体では、密着性や耐溶剤性に劣る塗膜しか得られなかった。また、比較例2および3の水性分散体から形成された塗膜は、濡れ性に劣るものであった。