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特開2022-184794炭素繊維前駆体の製造のための単段階プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184794
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体の製造のための単段階プロセス
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20221206BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
D01F6/18 E
C08F220/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087250
(22)【出願日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】102021000014159
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】518090672
【氏名又は名称】モンテフィブレ マエ テクノロジーズ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランコ フランカランチ
(72)【発明者】
【氏名】アナ パウラ ヴィディガル
【テーマコード(参考)】
4J100
4L035
【Fターム(参考)】
4J100AB07Q
4J100AG04R
4J100AJ02Q
4J100AJ08Q
4J100AL03R
4J100AM02P
4J100BA56Q
4J100CA03
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA28
4J100GB02
4J100GD02
4J100GD03
4J100JA11
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB04
4L035BB07
4L035BB11
4L035BB15
4L035GG01
4L035LB05
4L035MB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製品品質及び製造コストの観点で重要な利点を得ることを可能にする繊維前駆体の調製方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維前駆体の製造のための統合され(integrated)改善された単段階プロセス、具体的には、コモノマーから開始し紡糸ステップに到達し、最終繊維前駆体を得るプロセスを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維前駆体の製造方法であって:
i)存在する酸基に対して少なくとも化学量論量のアンモニアを含有する水中でイタコン酸及びアクリル酸から選択される酸コモノマー溶液を調製するステップ、ここで、水中の前記酸コモノマーの濃度は3~50重量%の範囲内で可変であり、反応器に供給される水の総量がステップii)で前記反応器に投入される物質(the mass)の総重量に対して1~5重量%の範囲である、調製ステップ;
ii)アクリロニトリル又はアクリロニトリル及び中性ビニルコモノマーの混合物〔ここで、前記2種のコモノマーであるアクリロニトリル/中性ビニルコモノマーが95:5~99.5:0.5の範囲の重量比で存在する〕と、ステップi)で調製した前記酸コモノマーのアンモニウム塩の水溶液と、DMSOと、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルAIBNと、ドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンと、を前記反応器に供給するステップ;
iii)こうして得られた混合物を50~80℃の範囲の温度で、10~20時間、好ましくは12~15時間の範囲の時間、撹拌下で維持するステップ;
iv)前記反応器の内容物を35~40℃の範囲の温度に保たれたタンクに排出して、反応を遅くするか、又は中断するステップ;
v)こうして得られた混合物を40~80℃の範囲の温度及び5~30mbar absの範囲の圧力で作動する薄膜蒸発システム(TFE)に供給するステップ;
vi)前記TFEの上部からアクリロニトリル、水、及びDMSOの混合物を回収するステップであって、前記混合物が新しい反応バッチの調製に再利用される、回収ステップ;
vii)前記TFEの底部からDMSO中のポリマー溶液を回収するステップであって、前記溶液は新鮮な(fresh)DMSOで希釈されて前記溶液の総重量に対して15~25重量%、好ましくは18~22重量%の範囲の濃度に達する、回収ステップ;及び、
viii)ステップvii)の終わりに得られた均質な紡糸溶液を紡糸ステップ又は貯蔵タンクに供給するステップ、
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記紡糸ステップが、湿式紡糸プロセス又はドライジェット湿式紡糸プロセスによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップvii)で得られた前記均質な紡糸溶液が、ステップviii)に供給される前に、水及び溶媒の混合物からなる凝固浴中の凝固ステップに送られ、得られたフィラメントのバンドルが連続的に延伸及び洗浄されて最初の長さの約10倍の長さにされ、続いて水を用いた最終洗浄ステップに供されて溶媒が除去される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
得られた前記フィラメントのバンドルが、糸巻き又は箱に回収される、請求項3に記載の方法 。
【請求項5】
前記酸コモノマー溶液を調製するステップi)において、水中の前記酸コモノマーの濃度が5~30重量%の範囲内で可変であり、前記反応器に供給される水の総量が、本発明に係る方法のステップii)で前記反応器に投入される物質(the mass)の総重量に対して1~5重量%の範囲である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップi)において、前記中性ビニルコモノマーがアクリル酸メチル又は酢酸ビニルから選択され得る、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップii)において、90~150重量部のアクリロニトリル又はアクリロニトリル及び中性ビニルコモノマーの混合物〔ここで、前記2種のコモノマーであるアクリロニトリル/中性ビニルコモノマーが95:5~99.5:0.5の範囲の重量比で存在する〕と;2~15重量部のステップi)で調製された前記酸コモノマーのアンモニウム塩の水溶液と;300~500重量部のDMSOと;0.2~0.5重量部の2,2’-アゾビスイソブチロニトリルAIBNと;0.05~0.15重量部のドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンと、が供給される、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップii)において、100重量部のアクリロニトリル又はアクリロニトリル及び中性ビニルコモノマーの混合物〔ここで、前記2種のコモノマーであるアクリロニトリル/中性ビニルコモノマーが95:5~99.5:0.5の範囲の重量比で存在する〕と;10重量部のステップi)で調製された前記酸コモノマーのアンモニウム塩の水溶液と;400重量部のDMSOと;0.3重量部の2,2’-アゾビスイソブチロニトリルAIBNと;0.1重量部のドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンと、が供給される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップii)で得られた混合物を撹拌下で維持するステップiii)において、前記温度が65~75℃の範囲であり、10~20時間、好ましくは12~15時間の範囲の時間である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体の製造のための統合され(integrated)改善された単段階プロセス、具体的には、コモノマーから開始し紡糸ステップに到達し、最終繊維前駆体を得るプロセスに関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、アクリロニトリルから開始するポリマー、又は、主としてアクリロニトリル(ポリマーの総重量に対して95~99.5重量%)とポリマーの総重量に対して一般に0.5~5重量%の範囲の量の1種又は複数種の他のコモノマーとで構成されるコポリマーの調製を規定する繊維前駆体の製造に関連する分野の一部を形成する。
【0003】
好ましいコモノマーは、アクリル酸、イタコン酸、スルホン化スチレン及び類縁体等の1又は複数の酸基を有する分子、並びに所望により、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、アクリルアミド及び類縁体等の中性ビニル分子である。
【0004】
こうして調製されたポリマー及びコポリマーは続いて紡糸に供され、糸巻又は箱に回収されるトウ(tow)の形態の繊維前駆体が製造される。
【0005】
続いて、これらポリアクリロニトリル系の繊維「前駆体」の適切な熱処理によって炭素繊維が得られる。
【0006】
アクリル繊維の作製には様々な工業プロセスがあり、種々の重合方法及び紡糸方法を用いる。
【0007】
現在の技術は次のように分類及び体系化できる。
【0008】
A.バッチプロセス(2ステップ)
2ステップのバッチプロセスでは、炭素繊維の場合、ポリマーは一般に水性懸濁液中で製造され、単離され、続いて適切な溶媒に溶解されて紡糸され、繊維又は繊維前駆体へと変換される。紡糸溶液の調製に最も一般的に使用される溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)の水溶液、そして、最近特許EP2894243B1に記載されるように、ジメチルスルホキシド(DMSO)と可変量の水との混合物である。
【0009】
B.連続プロセス(1ステップ)
一方、連続プロセスでは、重合は溶媒中で起こり、こうして得られた溶液はポリマーの中間的な分離をすることなく直接紡糸に使用される。これらのプロセスで最も一般的に使用される溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化亜鉛(ZnCl)の水溶液、及びチオシアン酸ナトリウム(NaSCN)の水溶液である。
【0010】
バッチプロセスは管理上の点で有利だが、2つの重合ステップ及び紡糸ステップが独立しているので、主に大規模なプラントの場合、高性能炭素繊維を得る際は一般に単段階プロセスが好まれる。
【0011】
単段階プロセスは、連続重合プロセス及びバッチ重合プロセスにさらに分類できる。
【0012】
連続的な重合プロセスの場合、溶媒中のコモノマーの溶液及び適切な触媒が、一般に、1又は連続して接続された複数の反応器に連続的に供給される。所定の滞留時間の後、反応中に生成した高分子量コポリマー、未反応のモノマー又はコモノマー、及び分解していない(non-decomposed)触媒を含有する溶液が、単一の反応器から、又は、連続して接続されたうち最後の反応器から回収される。
【0013】
このタイプのプロセスに歴史的に使用されてきた溶媒は、主にDMF又はチオシアン酸ナトリウムの水溶液であり、最近では、好ましい溶媒は、環境への影響が小さく毒性が極めて低いという特性からDMSOである。これらのプロセスに使用される触媒は、一般に、熱分解によってラジカル型連鎖反応を開始する過酸化物又はアゾ化合物である。
【0014】
これらの連続的な単段階プロセスは非常に効率的であり、優れた品質で高性能な繊維前駆体及び炭素繊維の製造を可能にするが、問題及び制約(contraindications)がないわけではない。
【0015】
特に、連続プロセスはその性質上、工業レベルで管理することが困難である。プロセス中の一点で生じるあらゆる問題がプロセスのその他のステップにも直接かつ即座に影響を与え、その結果、製造プロセス全体に損害を与えるためである(例えば、重合における問題は紡糸にも即座に影響を与え、逆もまた然りである)。
【0016】
さらに、操作条件を変更すると定常状態に達するまで長い移行時間を要し、その結果、規格から外れた物質(non-specification material)が生成する。
【0017】
連続プロセスの別の制約は、長い滞留時間、及び、反応器内又は連続した反応器内でゲルを形成させがちな、装置全体における停滞領域の可能性に関連する。これらのゲルは的確な熱交換を妨げ、したがって必要な反応熱の除去を妨げる。これらのゲルの形成は、関連する運転コストと生産ロスを伴うゲル自体を機械的に除去するために、プラントを頻繁に止めることを要求する。
【0018】
連続プロセスの上記の制約は、例えばJP2018084002Aに記載されるように、溶媒、好ましくはDMSO、コモノマー、及び触媒が反応の開始時に冷却システムを備えた撹拌した反応器に供給され、制御された温度で所定の時間撹拌下におかれるバッチモードの重合プロセスを用いることで克服される。反応の終わりに、反応器の内容物、すなわち、溶液中のポリマー、未反応のコモノマー、及び分解していない触媒が排出され、続いてこの内容物がプロセスの次ステップに供給される一方、当該反応器は新しいサイクルに備える。このようにして、反応器の内容物は、時間経過とともにゲルを形成させがちなポリマー溶液の停滞領域をつくり出すことなく各サイクルで新しくされる(renewed)。
【0019】
さらに、バッチモードで運転することにより、プラントの管理が容易になり、例えば故障又は運転エラーの場合に、下流の紡糸プラントを問題に巻き込むことなく、反応器の内容物を廃棄物処理セクションに迂回させることができる。実際に、これらの紡糸プラントは中間タンクに貯蔵されたドープ(すなわち、繊維前駆体の均質な溶液)による供給を受け続けることができるか、又は規格から外れた(out of specification)繊維を生成することなく待機することができる。
【0020】
しかし、繊維調製プロセスはその全体を考慮すると、得られる製品の性能最適化及び製造コストの両観点で改良の余地がある種々の弱点を有する。
【0021】
最新技術に従って記述されるプロセスの第1の不利な点は、アンモニア、第1級アミン又は第2級アミンを加えることが難しいことであり、これは、ガス状アンモニア等の反応物質の攻撃的な性質とその均質な分散物を高粘性媒体中で得ることの困難性の両方に起因する。これらの添加剤は、前駆体の製造及び高性能炭素繊維を得るための紡糸プロセスの改善に大きく貢献することで知られている。実際、EP3783132A1及びそこに含まれる参考文献に記載されるように、存在し得るコモノマー(例えばアクリル酸又はイタコン酸など)の酸末端基を各々アンモニウム塩へと変換することにより、特に紡糸の凝固段階、及び、炭素繊維製造のための後続の処理における酸化段階を容易にすることが知られている。従来技術は、例えばJP2017186682に記載されるように、アンモニアを含有するドープを紡糸機に供給する前の段階で、ドープ又はDMSO溶媒をドープに添加されるガス状アンモニアを用いて処理することによってこの問題の解決を試みる。
【0022】
ガス状アンモニアの使用を避け、より高い親水性を備えたポリマーをいかなる場合でも得るために、コモノマーとしてのイタコン酸アンモニウムの使用が権利主張されている(CN105624819A)。
【0023】
CN104558397A、CN104558395A及びCN106589223Aにおいて教示されるように、一般的な有機溶媒に対する塩の溶解度が低いことを考慮して水溶液中で使用することも権利主張されている。この場合、イタコン酸のアンモニウム塩は、システム中の水の量を可能な限り少なく(<0.5重量%)保つために、水溶液中、最大限可能な濃度で重合反応器に供給される。
【0024】
同様の理由で、アクリロニトリルも使用前に蒸留されて、そこに含まれる水分(一般に約0.5%)が除去される。
【0025】
したがって、プロセスの最後に水を含まない紡糸溶液を得るには、反応物質の混合物中の水の存在が技術的不利になる。
【0026】
出願人は、意外なことに、それなりの量(反応混合物の重量に対して1~5重量%)の水が存在しても重合反応に悪影響を及ぼさないことを見出した。さらに、EP2,894,243(CN104,775,174B)に教示されるように、当該量の水を含有するDMSOドープは有利に紡糸され、優れた結果を有する繊維前駆体を製造することができる。
【0027】
従来のプロセスのさらなる欠点は、ドープを後続のろ過(filtration)及び紡糸ステップに供給する前に未反応の揮発性モノマー又はコモノマーをドープから除去することが難しいことである。既存のプロセスでは、例えば薄膜蒸発器(TFE)又はストリッピングカラムを用いて未反応のアクリロニトリルのほとんどを効果的に除去する。しかしながら、完全な除去は、相当な量の溶媒を蒸留することによって達成できるに過ぎない。残留アクリロニトリル含有量が1,000ppm(0.1%)未満の良好な紡糸ドープを製造するには実際上問題がある。アクリロニトリルの発がん性を考慮すると、この制限を超えるアクリロニトリル含有量では後続の処理ステップ中での特別な予防措置を要する。
【0028】
したがって、本発明の目的は、既知の技術における上述の制約及び欠点を克服し、製品品質及び製造コストの観点で重要な利点を得ることを可能にする繊維前駆体の調製方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、炭素繊維前駆体の製造方法であって:
i)存在する酸基に対して少なくとも化学量論量のアンモニアを含有する水中でイタコン酸及びアクリル酸から選択される酸コモノマー溶液を調製するステップ、ここで、水中の前記酸コモノマーの濃度は3~50重量%の範囲内で可変であり、反応器に供給される水の総量がステップii)で前記反応器に投入される物質(the mass)の総重量に対して1~5重量%の範囲である、調製ステップ;
ii)アクリロニトリル又はアクリロニトリル及び中性ビニルコモノマーの混合物〔ここで、前記2種のコモノマーであるアクリロニトリル/中性ビニルコモノマーが95:5~99.5:0.5の範囲の重量比で存在する〕と、ステップi)で調製した前記酸コモノマーのアンモニウム塩の水溶液と、DMSOと、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルAIBNと、ドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンと、を前記反応器に供給するステップ;
iii)こうして得られた混合物を50~80℃の範囲の温度で、10~20時間、好ましくは12~15時間の範囲の時間、撹拌下で維持するステップ;
iv)前記反応器の内容物を35~40℃の範囲の温度に保たれたタンクに排出して、反応を遅くするか、又は中断するステップ;
v)こうして得られた混合物を40~80℃の範囲の温度及び5~30mbar absの範囲の圧力で作動する薄膜蒸発システム(TFE)に供給するステップ;
vi)前記TFEの上部からアクリロニトリル、水、及びDMSOの混合物を回収するステップであって、前記混合物が新しい反応バッチの調製に再利用される、回収ステップ;
vii)前記TFEの底部からDMSO中のポリマー溶液を回収するステップであって、前記溶液は新鮮な(fresh)DMSOで希釈されて前記溶液の総重量に対して15~25重量%、好ましくは18~22重量%の範囲の濃度に達する、回収ステップ;及び、
viii)ステップvii)の終わりに得られた均質な紡糸溶液を紡糸ステップ又は貯蔵タンクに供給するステップ、
を含む、製造方法に関する。
【0030】
特に、重合段階中により多くの水が存在することでプロセスを簡素化し、既知の技術に比べて様々な理由で製造コストを削減できる:
-微量の水を除去するためにバージンアクリロニトリルを初期蒸留することを回避できる;
-ガス状アンモニアの使用が省略される;
-より高価なアンモニウム塩を使用する代わりに、一般的なイタコン酸又はアクリル酸が使用できる;
-それでいて、イタコン酸又はアクリル酸がアンモニアとの塩酸塩の形態で存在することによりポリマーの親水性が改善され、均質な再現可能なドープ(dope)が得られる;
-未反応のアクリロニトリルを水及びDMSOとの混合物の形態で除去することが可能なため当該除去が効果的であり、重合反応器で回収されたすべての生成物を再利用することが出来る。
【0031】
紡糸ステップは湿式紡糸プロセス又はドライジェット湿式紡糸プロセスを用いて実施され、水及び溶媒の混合物からなる凝固浴中の凝固段階の後、こうして得られたフィラメントのバンドルが連続的に延伸及び洗浄されて最初の長さの約10倍の長さにされ、続いて水を用いた最終洗浄ステップに供されて最後に残った微量の溶媒が除去される。
【0032】
ドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンは、分子量調整剤として機能する。
【0033】
酸コモノマー溶液を調製するステップi)において、水中の酸コモノマーの濃度は好ましくは3~50重量%、より好ましくは5~30重量%の範囲内で可変であり、反応器に供給される水の総量が、本発明に係る方法のステップii)で反応器に投入される物質(the mass)の総重量に対して1~5重量%の範囲である。
【0034】
実際上、反応器に投入される物質(the mass)の総重量は、本発明に係る方法のステップii)で反応器に供給される成分の総重量を指す。
【0035】
ステップi)において、中性ビニルコモノマーはアクリル酸メチル又は酢酸ビニルから選択され得る。
【0036】
反応器に供給するステップii)において、90~150重量部、より好ましくは100重量部のアクリロニトリル又はアクリロニトリル及び中性ビニルコモノマーの混合物〔ここで、2種のコモノマーであるアクリロニトリル/中性ビニルコモノマーは95:5~99.5:0.5の範囲の重量比で存在する〕と;2~15重量部、より好ましくは10重量部のステップi)で調製された酸コモノマーのアンモニウム塩の水溶液と;300~500重量部、より好ましくは400重量部のDMSOと;0.2~0.5重量部、より好ましくは0.3重量部の2,2’-アゾビスイソブチロニトリルAIBNと;0.05~0.15重量部、より好ましくは0.1重量部のドデシルメルカプタン又はオクチルメルカプタンと、が供給される。
【0037】
ステップii)で得られた混合物を撹拌下で維持するステップiii)において、温度は65~75℃で好ましくは可変であり得、10~20時間、好ましくは12~15時間の範囲の時間である。
【0038】
本発明は、ゲルを含まず不溶性凝集物が形成されないアクリロニトリルコポリマーの溶液を得ることを可能にし、溶液重合に関連する利点を増大させるが、それでいて、改善された紡糸性及び後続の酸化段階及び炭化段階において改善された性能を備えるポリマー溶液を得るのに必要な、ガス状アンモニアでドープ又は溶媒を処理する危険で高価なステップを省略する。
【0039】
さらに、ステップvi)及びステップvii)は、ポリマー溶液及び未反応のコモノマーにおいて水が存在するため、重合試薬の回収及び再利用プロセスを脅かす(jeopardize)ことがない。また、低レベルの残留コモノマー(特にアクリロニトリル)に到達し、200~300ppmのオーダーの残留物に到達し、その結果、後続の処理ステップにおける環境条件の安全性を向上させることも可能である。
【0040】
本発明に係る方法のさらなる利点は、紡糸ステップにその後供給される紡糸溶液又はドープ溶液に含まれる特定量の水によって決定される:本発明に係る方法で得られるアクリル繊維の製造のための均質な溶液中に残存する水の割合は、実際、乾式紡糸技術又は湿式紡糸技術、及び、DJWS技術(ドライジェット湿式紡糸又はエアギャップ)のどちらに従うアクリル繊維紡糸技術とも完全に適合可能である:したがって、紡糸用の溶液から水を完全に除去する必要がない。
【0041】
さらに、US3,932,577において権利主張されているように、アクリル繊維紡糸溶液中の低割合の水の存在は、溶液自体の凝固浴との適合を容易にし、空胞及び亀裂のない繊維をもたらす。
【0042】
重合プロセスにおける水の存在の別の利点は、一般に少量の水(約0.5重量%)を含有するが精製に進むことが不要な新鮮な(fresh)アクリロニトリルと、脱モノマー化(demonomerization)プロセスから回収されやはり少量の水を含むアクリロニトリルを、両方とも使用できることである。主要コモノマーにおける少量だが可変量の水の存在は問題を呈さない。アンモニアで塩化された酸コモノマーの水溶液をシステム中で同じ含水量を常に保証する量で加えることによって、反応システムの水の総量が所望の値に調整され、種々のバッチで正確に再現可能だからである。
【0043】
本明細書において、ポリマーという用語は、アクリロニトリル及び1種又は複数種の他のコモノマー(ポリマーの総重量に対して95~99.5重量%の範囲の量のアクリロニトリル及びポリマーの総重量に対して一般に0.5~5重量%の範囲の量の1種又は複数種の他のコモノマーモノマー(other co-monomers monomers)から出発して得られるコポリマーを指す。
【0044】
好ましいコモノマーは、アクリル酸、イタコン酸、スルホン化スチレン及び類縁体等の1又は複数の酸基を有する分子、並びに所望により、アクリル酸メチル、メチルメチルアクリレート(methyl methyl acrylate)、酢酸ビニル、アクリルアミド及び類縁体等の中性ビニル分子である。
【0045】
特に、ポリマーは、100,000~300,000Daの範囲の高分子量ポリマーである。
【0046】
ジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒は、環境への影響が小さく、毒性が低いという特性のため選択される。
【0047】
ステップvii)の終わりに得られた紡糸溶液又はドープ溶液は、適切な紡糸ラインへの供給にすぐ使用することができるか、又は加熱されたタンクに貯蔵することもできる。
【0048】
溶液は、あらゆる粒子を除去するために40μm~5μmの選択性クロスを備えたフィルタープレスのバッテリー(battery)に送られ、続いて紡糸ラインに送られる。
【0049】
使用される紡糸ラインは、水及び溶媒の混合物からなる凝固浴に紡糸口金を入れた湿式紡糸タイプのものであってもよい。凝固後、フィラメントのバンドルは、既知の技術に従って連続して延伸及び洗浄されてトウ(tows)を生成し、トウは糸巻又は箱に回収され、続いて炭素繊維の製造のために炭化ラインに送られる。
【0050】
あるいは、使用される紡糸ラインは、水及び溶媒の混合物からなる凝固浴の表面からわずかな距離で空中に保持された紡糸口金を備えたドライジェット湿式紡糸タイプ(エアギャップ紡糸)のものであってもよい。凝固後、フィラメントのバンドルは、既知の技術に従って連続して延伸及び洗浄されてトウ(tows)を生成し、トウは糸巻又は箱に回収され、続いて炭素繊維の製造のために炭化ラインに送られる。
【0051】

本発明の非限定的な例により、本発明に係る方法のいくつかの例を以下に提示する。
【0052】
例1
99kgのアクリロニトリル、400kgのDMSO、0.1kgのn-オクチルメルカプタン、及び、1kgのイタコン酸と0.25kgのアンモニアと13.75kgの水とを含有する15kgの水溶液を、スターラー及び冷却ジャケットを備えたステンレス鋼反応器に室温で導入した。続いて、こうして得られた溶液を65℃の温度に加熱し、0.3kgの2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えた。反応器の冷却ジャケット中に冷水を循環させることにより反応熱を除去し、溶液を65℃で7時間、撹拌下で維持し;続いて温度を72℃に上げ、システム(system)をさらに7時間、撹拌下で維持した。示した条件下で、供給されたアクリロニトリルの90.4%に等しい変換が得られた。
【0053】
上記段階の終わりに、反応器の内容物を35℃の温度に保ったタンクに排出して、続いて、80℃の温度で25mbarの残圧に保った薄膜蒸発器(TFE)に供給した。
【0054】
TFEの上部から、アクリロニトリル、水、及びDMSOを含有する混合物を回収し、反応器への供給混合物に取り込んだ。
【0055】
TFEの底部から、60℃で450ポアズの粘度を有し、0.03重量%に等しい残存アクリロニトリルを含有するコポリマーの均質な溶液を回収した。
【0056】
こうして製造したドープを、60%のDMSO及び40%の水が入った55℃で維持した凝固浴に24,000孔紡糸口金を入れた湿式紡糸ラインに供給した。こうして得られたフィラメントのバンドルを連続的に延伸して最初の長さの10倍の長さにし、洗浄した。延伸及び洗浄セクションの終わりに、70m/minの速度でトウ(tow)を糸巻に回収し、以下の特性:
・繊度(titer):1.22dtex;
・テナシティ(tenacity):59.5cN/tex:
・伸び(elongation):14.5%;
を有し炭素繊維の製造に適した24kの前駆体の糸巻を得た。
【0057】
例2
97kgのアクリロニトリル、2kgのメチルアクリレート、400kgのDMSO、0.1kgのドデシルメルカプタン、及び、1kgのイタコン酸と0.250kgのアンモニアと13.75kgの水とを含有する15kgの水溶液を、スターラー及び冷却ジャケットを備えたステンレス鋼反応器に室温で導入した。続いて、こうして得られた溶液を65℃の温度に加熱し、0.3kgの2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えた。反応器の冷却ジャケット中に冷水を循環させることにより反応熱を除去し、溶液を65℃で10時間、撹拌下で維持し;続いて温度を70℃に上げ、システム(system)をさらに10時間、撹拌下で維持した。示した条件下で、供給されたアクリロニトリルの91.8%に等しい変換が得られた。
【0058】
上記段階の終わりに、反応器の内容物を35℃の温度に保ったタンクに排出して、続いて、80℃の温度で25mbarの残圧に保った薄膜蒸発器(TFE)に供給した。
【0059】
TFEの上部から、アクリロニトリル、水、及びDMSOを含有する混合物を回収し、反応器への供給に送った。
【0060】
TFEの底部から、60℃で420ポアズの粘度を有し、0.03重量%に等しい残存アクリロニトリルを含有するコポリマーの均質な溶液を回収した。
【0061】
こうして製造したドープを、60%のDMSO及び40%の水が入った55℃で維持した凝固浴に48,000孔紡糸口金を入れた湿式紡糸タイプのラインに供給した。こうして得られたフィラメントのバンドルを連続的に延伸して最初の長さの10倍の長さにし、洗浄した。延伸及び洗浄セクションの終わりに、適切なクロスラッパーを用いて60m/minの速度でトウ(tow)を回収し、以下の特性:
・繊度(titer):1.25dtex;
・テナシティ(tenacity):56.2cN/tex:
・伸び(elongation):13.6%;
を有し炭素繊維の製造に適した48Kの前駆体の箱を得た。
【0062】
例3
DMSO中の紡糸溶液を例1に記載の手順に従って製造した。
【0063】
こうして製造したドープを、35%のDMSO及び65%の水が入った5℃の温度の凝固浴表面から4mmの距離に3,000個の孔を有する紡糸口金を配置したドライジェット湿式紡糸ラインに供給した。凝固後に得られたフィラメントのバンドルを水中で延伸し、続いて蒸気中で最初の長さの9倍に延伸し(蒸気延伸)、最後に洗浄して残存する溶媒を除去した。延伸及び洗浄セクションの終わりに、単一の紡糸口金から来る3Kトウ(tows)を4つ重ねることにより、12Kの前駆体の糸巻を得た。得られた繊維は、240m/minの速度で糸巻に回収され、完全に丸い断面を有し、コンパクトで、亀裂がなく、以下の特性:
・繊度(titer):1.0dtex;
・テナシティ(tenacity):65.3cN/tex:
・伸び(elongation):14.1%;
を示し炭素繊維の製造に適している。