(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184803
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/00 20060101AFI20221206BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20221206BHJP
G11B 5/70 20060101ALI20221206BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20221206BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G11B5/00 D
G11B5/84 C
G11B5/70
G11B5/82
G11B5/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087791
(22)【出願日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021092117
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】工藤 史人
(72)【発明者】
【氏名】平井 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 将行
(72)【発明者】
【氏名】山中 謙亮
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006DA03
5D006FA09
5D112AA01
5D112AA05
5D112AA24
5D112BB01
5D112JJ07
5D112JJ09
(57)【要約】
【課題】熱アシスト磁気記録媒体を構成する磁性層の実効的な磁気特性が評価できる磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体の磁気特性を測定するための磁気特性測定装置は、前記磁気記録媒体を回転させる回転機構と、前記磁気記録媒体を加熱又は冷却する加熱冷却機構と、前記磁気記録媒体の温度を測定する温度測定機構と、前記磁気記録媒体の測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で加熱するレーザー加熱機構と、前記測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で磁化する磁気書き込み部と、前記測定部位に対向配置され、前記測定部位の漏洩磁界を非接触で読み取る磁気読み取り部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体の磁気特性を測定するための磁気特性測定装置であって、
前記磁気記録媒体を回転させる回転機構と、
前記磁気記録媒体を加熱又は冷却する加熱冷却機構と、
前記磁気記録媒体の温度を測定する温度測定機構と、
前記磁気記録媒体の測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で加熱するレーザー加熱機構と、
前記測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で磁化する磁気書き込み部と、
前記測定部位に対向配置され、前記測定部位の漏洩磁界を非接触で読み取る磁気読み取り部と、
を備える、磁気特性測定装置。
【請求項2】
前記温度測定機構は、前記磁気記録媒体に対向配置され、前記磁気記録媒体の温度を非接触で測定する、請求項1に記載の磁気特性測定装置。
【請求項3】
サスペンションと、
前記磁気書き込み部と前記磁気読み取り部を含み、前記サスペンションに取り付けられた磁気ヘッドと、
前記サスペンションを介して前記磁気ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動機構と、
をさらに備え、
前記レーザー加熱機構は、前記磁気ヘッドに取り付けられている、請求項1または2に記載の磁気特性測定装置。
【請求項4】
磁気記録媒体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、
回転機構により前記磁気記録媒体を回転する工程Aと、
レーザー加熱機構、磁気書き込み部、及び磁気読み取り部を前記磁気記録媒体の表面から浮上して走査させる工程Bと、
加熱冷却機構及び温度測定機構により前記磁気記録媒体をキュリー温度未満の温度Xに保持する工程Cと、
前記レーザー加熱機構及び前記磁気書き込み部により、前記磁気記録媒体の測定部位を飽和状態に磁化する工程Dと、
前記工程Dで前記飽和状態に磁化した前記測定部位を、前記レーザー加熱機構により加熱することで減磁し、減磁個所の漏洩磁界を前記磁気読み取り部により読み取る工程Eと、
前記工程Eにおけるレーザー加熱量を変化させて前記工程Dと前記工程Eを繰り返し、前記工程Eにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める工程Fと、
前記加熱冷却機構及び前記温度測定機構により前記磁気記録媒体をキュリー温度未満で前記温度Xと異なる温度Yに保持する工程Gと、
前記レーザー加熱機構と前記磁気書き込み部により、前記磁気記録媒体の測定部位を飽和状態に磁化する工程Hと、
前記レーザー加熱機構により、前記工程Hで前記飽和状態に磁化した前記測定部位を加熱することで減磁し、前記磁気読み取り部により減磁個所の漏洩磁界を読み取る工程Iと、
前記工程Iにおけるレーザー加熱量を変化させて前記工程Hと前記工程Iを繰り返し、前記工程Iにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界の関係を求める工程Jと、
前記工程Fと前記工程Jで求められたレーザー加熱量と漏洩磁界の関係から、前記磁気記録媒体の磁気特性を算出する工程Kと、
を含む、磁気特性測定方法。
【請求項5】
前記磁気特性は、前記磁気記録媒体の前記キュリー温度及び前記キュリー温度の分散を含む、請求項4に記載の磁気特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)の記録容量を更に増大させるため、磁気記録媒体の高密度化の開発が行われている。特に、次世代のHDDとして期待される熱アシスト磁気記録方式で情報を記録する磁気記録媒体(または、熱アシスト磁気記録媒体)の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式は、磁気ヘッドに搭載されたレーザー光発生部から発生したレーザー光によって磁気記録媒体に近接場光を照射し、磁気記録媒体の表面を局所的に加熱することにより、磁気記録媒体の保磁力を低下させて情報を磁気的に記録方式である。
【0004】
熱アシスト磁気記録媒体は、磁性層、熱勾配や熱散逸性を高めるために高熱伝導率材料からなるヒートシンク層、磁性層を効果的に加熱するために磁性層の下に設けられる熱バリア層、磁気記録媒体からの熱反射を抑制するための反射制御層等を備える。
【0005】
熱アシスト磁気記録媒体の磁気特性を測定する方法として、例えば、非特許文献1には、熱アシスト磁気記録媒体に照射するレーザー光の出力を変化させることで、熱アシスト磁気記録媒体の磁気特性を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Douglas A. Saunders et al., Magnetic Field Strength Measurements in Heat-Assisted Magnetic Recording", IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 55, NO. 12, DECEMBER 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、熱アシスト磁気記録媒体を構成する層の積層構造は、レーザー光による加熱温度、熱の広がり等を制御するように設計されている。熱アシスト磁気記録媒体の積層構造を設計する上で、磁性層のキュリー温度及びキュリー温度の分散を把握することが重要である。
【0008】
キュリー温度は、強磁性体が常磁性体に変化する転移温度である。熱アシスト磁気記録方式では、磁気ヘッドに搭載されたレーザー光発生部からのレーザー光で磁気記録媒体の表面を局所的に加熱し、磁性層の反転磁界を低下させて情報を記録する。
【0009】
磁性層に含まれる磁性材料のキュリー温度は、一般に加熱機構を設けた振動試料型磁力計(VSM)によって測定される。しかしながら、得られたキュリー温度を用いて熱アシスト磁気記録媒体を設計しても、熱アシスト磁気記録媒体が予測した磁気特性を発揮しない場合があるという問題があった。即ち、熱アシスト磁気記録媒体の磁性層の基板側には、ヒートシンク層、熱バリア層、反射制御層等が設けられる場合が多いため、熱アシスト磁気記録媒体の積層構造内での熱の流れは複雑である。また、磁性層は、柱状の磁性粒子と非磁性粒界物によるグラニュラー構造を有し、熱伝導異方性を有するため、熱アシスト磁気記録媒体の積層構造内での熱の流れはさらに複雑になる。そのため、熱アシスト磁気記録媒体は予測通りの磁気特性を発揮し難い場合がある。
【0010】
本発明の一態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱アシスト磁気記録媒体を構成する磁性層の実効的な磁気特性を測定できる磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁気特性測定装置の一態様は、磁気記録媒体の磁気特性を測定するための磁気特性測定装置であって、前記磁気記録媒体を回転させる回転機構と、前記磁気記録媒体を加熱又は冷却する加熱冷却機構と、前記磁気記録媒体の温度を測定する温度測定機構と、前記磁気記録媒体の測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で加熱するレーザー加熱機構と、前記測定部位に対向配置され、前記測定部位を非接触で磁化する磁気書き込み部と、前記測定部位に対向配置され、前記測定部位の漏洩磁界を非接触で読み取る磁気読み取り部と、を備える。
【0012】
本発明に係る磁気特性測定方法の一態様は、磁気記録媒体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、回転機構により前記磁気記録媒体を回転する工程Aと、レーザー加熱機構、磁気書き込み部、及び磁気読み取り部を前記磁気記録媒体の表面から浮上して走査させる工程Bと、加熱冷却機構及び温度測定機構により前記磁気記録媒体をキュリー温度未満の温度Xに保持する工程Cと、前記レーザー加熱機構及び前記磁気書き込み部により、前記磁気記録媒体の測定部位を飽和状態に磁化する工程Dと、前記工程Dで前記飽和状態に磁化した前記測定部位を、前記レーザー加熱機構により加熱することで減磁し、減磁個所の漏洩磁界を前記磁気読み取り部により読み取る工程Eと、前記工程Eにおけるレーザー加熱量を変化させて前記工程Dと前記工程Eを繰り返し、前記工程Eにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める工程Fと、前記加熱冷却機構及び前記温度測定機構により前記磁気記録媒体をキュリー温度未満で前記温度Xと異なる温度Yに保持する工程Gと、前記レーザー加熱機構と前記磁気書き込み部により、前記磁気記録媒体の測定部位を飽和状態に磁化する工程Hと、前記レーザー加熱機構により、前記工程Hで前記飽和状態に磁化した前記測定部位を加熱することで減磁し、前記磁気読み取り部により減磁個所の漏洩磁界を読み取る工程Iと、前記工程Iにおけるレーザー加熱量を変化させて前記工程Hと前記工程Iを繰り返し、前記工程Iにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界の関係を求める工程Jと、前記工程Fと前記工程Jで求められたレーザー加熱量と漏洩磁界の関係から、前記磁気記録媒体の磁気特性を算出する工程Kと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、熱アシスト磁気記録媒体を構成する磁性層の実効的な磁気特性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る磁気特性測定装置の構成の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】レーザー加熱量と漏洩磁界/飽和磁化量との関係の一例を示す図である。
【
図3】入力電流値と漏洩磁界/飽和磁化量との関係の一例を示す図である。
【
図4】入力電流値に対する漏洩磁界/飽和磁化量の測定データに基づくプロットと、回帰させた累積分布関数の関係を示す図である。
【
図5】熱アシスト磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は、以下に示す例のみに限定されるものではなく、特に制限のない限り、数量、構成、位置、材料等を変更してもよい。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合があり、縮尺は図面間で異なる場合もある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
[磁気特性測定装置]
【0016】
本実施形態に係る磁気特性測定装置について説明する。なお、本実施形態では、磁気特性測定装置が熱アシスト記録方式を用いて磁気記録媒体に情報磁気的に記録する(以下、「情報を書き込む」とも言う)場合について説明する。磁気記録媒体から情報を磁気的に再生することを、磁気記録媒体から「情報を読み取る」とも言う。本明細書では、熱アシスト記録方式を用いて情報が磁気的に書き込まれる磁気記録媒体を熱アシスト磁気記録媒体という。
【0017】
図1は、本実施形態に係る磁気特性測定装置の構成の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、磁気特性測定装置1は、回転機構10、加熱冷却機構20、温度測定機構30、レーザー加熱機構40及び磁気ヘッド50を備える。磁気特性測定装置1は、HDDが用いる熱アシスト磁気記録媒体(または、測定サンプル)2の磁気特性を測定する。磁気特性測定装置1は、上記各構成要素の他に、磁気ヘッド駆動機構60を備えてよい。
【0018】
回転機構10は、熱アシスト磁気記録媒体2を回転させる。熱アシスト磁気記録媒体2は、通常は中央に開口部を有する円盤状であるため、
図1の例では、回転機構10は熱アシスト磁気記録媒体2の中央の開口部を介して熱アシスト磁気記録媒体2保持するスピンドルシャフトを有する。回転機構10は、熱アシスト磁気記録媒体2を、好ましくは例えば5000rpm~10000rpmの範囲内で回転させる。
【0019】
加熱冷却機構20は、熱アシスト磁気記録媒体2を加熱又は冷却する。加熱又は冷却の温度域は、HDDの使用温度下限値の0℃(273K)から、熱アシスト磁気記録媒体2に使用される磁性材料のキュリー温度未満とすることが好ましい。
【0020】
加熱冷却機構20としては、セラミックヒータ、ペルチェ素子等の一般的なものが使用可能で、加熱冷却機構20は熱アシスト磁気記録媒体2を接触式又は非接触式の何れで加熱又は冷却してもよい。加熱冷却機構20が接触式の場合は熱伝導によって、加熱冷却機構20が非接触式の場合は熱輻射によって、熱アシスト磁気記録媒体2が加熱又は冷却されることが好ましい。
【0021】
温度測定機構30は、熱アシスト磁気記録媒体2の温度を測定する。温度測定機構30は、熱アシスト磁気記録媒体2の温度を一定に保つために使用される。温度測定機構30としては、熱アシスト磁気記録媒体2の温度を測定できるものであればよく、公知のものが使用可能である。温度測定機構30としては、例えば、接触式の場合は熱電対を用いることができ、非接触式の場合は放射温度計を用いることができる。磁気特性測定装置1は、熱アシスト磁気記録媒体2を裏面から加熱冷却し、測定は熱アシスト磁気記録媒体2の表面で行うため、熱アシスト磁気記録媒体2の表裏で温度差が生ずることが考えられる。そのため、温度測定機構30は、熱アシスト磁気記録媒体2と対向する位置に配置され、熱アシスト磁気記録媒体2の表面を非接触で測定することが好ましい。
【0022】
レーザー加熱機構40は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を非接触で局所的に加熱する。レーザー加熱機構40は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を表層側から加熱するため、熱アシスト磁気記録媒体2と対向する位置に配置させる。つまり、レーザー加熱機構40は、
図1に示すように、磁気ヘッド50に取り付けられ、磁気ヘッド駆動機構60により熱アシスト磁気記録媒体2の表面を走査させられる。レーザー加熱機構40は、回転機構10により回転駆動される熱アシスト磁気記録媒体2との間に生ずる空気渦により、熱アシスト磁気記録媒体2の表面から浮上して走査する。
【0023】
磁気特性測定装置1は、熱アシスト磁気記録媒体2の実効的な磁気特性を測定することを目的とするため、レーザー加熱機構40は、熱アシスト磁気記録方式HDDの磁気ヘッドで使用されるレーザー加熱機構と同じ或いはできるだけ類似した構成を有することが好ましい。即ち、レーザー加熱機構40としては、光源として波長が780nm~980nmの範囲内のレーザー光を出射する半導体レーザーを用いることが好ましい。レーザー光のビーム径は、HDDのトラック幅以上であることが好ましく、具体的には40nmφ以上であることが好ましい。この例では、レーザー光が照射される熱アシスト磁気記録媒体2の部位が、測定部位である。また、レーザー加熱機構40は、熱アシスト磁気記録方式HDDの磁気ヘッドと同様に、近接場変換器(NFT)及び光導波路を用いてもよい。
【0024】
磁気ヘッド50は、磁気書き込み部51及び磁気読み取り部52を有する。
【0025】
磁気書き込み部51は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位と対向する位置に配置され、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を磁化する。磁気書き込み部51は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を磁化するため、熱アシスト磁気記録媒体2と対向する位置に配置される。即ち、磁気書き込み部51は、
図1に示すように、サスペンション70に取り付けられ、磁気ヘッド駆動機構60により熱アシスト磁気記録媒体2の表面を走査させられる。磁気書き込み部51は、回転機構10により回転駆動される熱アシスト磁気記録媒体2との間に生ずる空気渦により、熱アシスト磁気記録媒体2の表面から浮上して走査する。
【0026】
磁気特性測定装置1は、熱アシスト磁気記録媒体の実効的な磁気特性を測定することを目的とするので、磁気書き込み部51は熱アシスト磁気記録方式のHDDの磁気ヘッドで使用される磁気書き込み部とできる限り同じ構成を有することが好ましい。即ち、磁気書き込み部51は、コイルと磁性体を組み合わせた電磁石とし、書き込み領域を微小化するため、コイルをエッチングによって磁性体の表面に生成した薄膜ヘッドを用いることが好ましい。
【0027】
磁気書き込み領域は、HDDのトラック幅程度とすることが好ましく、具体的には40nm程度とすることが好ましい。
【0028】
磁気読み取り部52は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位に対向する位置に配置され、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位の漏洩磁界を読み取る。磁気読み取り部52は、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位の漏洩磁界を読み取るため、熱アシスト磁気記録媒体2に対向する位置に配置される。即ち、磁気読み取り部52は、
図1に示すように、サスペンション70に取り付けられ、磁気ヘッド駆動機構60により熱アシスト磁気記録媒体2の表面を走査させられる。磁気読み取り部52は、回転機構10により回転駆動される熱アシスト磁気記録媒体2との間に生ずる空気渦により、熱アシスト磁気記録媒体2の表面から浮上して走査する。
【0029】
磁気読み取り部52は、熱アシスト磁気記録媒体2の実効的な磁気特性を測定することを目的とするので、熱アシスト磁気記録方式のHDDの磁気ヘッドで使用される磁気読み取り部と同じ或いはできるだけ類似した構成を有することが好ましい。即ち、磁気読み取り部52としては、磁気抵抗効果の利用により高い感度を持つMR(Magneto Resistive)ヘッド、巨大磁気抵抗効果を利用したGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッド、トンネル磁気抵抗効果を利用したTMR(Tunneling Magneto Resistive)ヘッド等を用いることが好ましい。
【0030】
磁気読み取り領域は、HDDのトラック幅程度とすることが好ましく、具体的には40nm程度とすることが好ましい。
【0031】
このように、本実施形態に係る磁気特性測定装置1は、回転機構10、加熱冷却機構20、温度測定機構30、レーザー加熱機構40及び磁気ヘッド50を備える。また、レーザー加熱機構40及び磁気ヘッド50は、熱アシスト磁気記録方式のHDDの磁気ヘッドで使用されるレーザー加熱機構及び磁気ヘッド(磁気書き込み部及び磁気読み取り部)と同じ或いはできるだけ類似した構成にすることができる。これにより、磁気特性測定装置1は、熱アシスト磁気記録媒体2の実効的な磁気特性を測定することができる。よって、磁気特性測定装置1は、熱アシスト磁気記録媒体2の積層構造の設計をより効率的に行うことを可能にすることができる。
【0032】
磁気特性測定装置1は、温度測定機構30を、熱アシスト磁気記録媒体2に対向配置し、熱アシスト磁気記録媒体2の温度を非接触で測定できる。熱アシスト磁気記録媒体2は、加熱冷却機構20により熱アシスト磁気記録媒体2の裏面側から加熱又は冷却され、熱アシスト磁気記録媒体2の表面側で測定されるため、熱アシスト磁気記録媒体2の表裏で温度差が生ずる可能性がある。磁気特性測定装置1は、温度測定機構30を熱アシスト磁気記録媒体2の温度を非接触で測定することで、熱アシスト磁気記録媒体2の表裏で温度差が生ずることを抑制できるため、熱アシスト磁気記録媒体2の温度をより高精度に測定できる。
[磁気特性測定方法]
【0033】
本実施形態に係る磁気特性測定方法を、熱アシスト磁気記録媒体に用いる場合を例として説明する。本実施形態に係る磁気特性測定方法は、本実施形態に係る磁気特性測定装置を用いる。
【0034】
本実施形態に係る磁気特性測定方法では、磁気記録媒体である熱アシスト磁気記録媒体2を回転機構10を構成するスピンドルシャフトに載置して回転させる(工程A)。
【0035】
次に、レーザー加熱機構40と、磁気書き込み部51及び磁気読み取り部52を備える磁気ヘッド50を熱アシスト磁気記録媒体2の表面から浮上して走査させる(工程B)。
【0036】
次に、熱アシスト磁気記録媒体2の裏面直下に設けた加熱冷却機構20、及び熱アシスト磁気記録媒体2の表面に非接触で対向配置した温度測定機構30により、熱アシスト磁気記録媒体2をキュリー温度未満の温度Xに保持する(工程C)。なお、温度Xは、熱アシスト磁気記録媒体2の基板の温度であってもよい。
【0037】
次に、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を、磁気ヘッド50に設けられたレーザー加熱機構40と磁気書き込み部51により、飽和状態に磁化する(工程D)。
【0038】
即ち、熱アシスト磁気記録媒体2に用いられる磁性材料は保磁力が高いので、レーザー加熱機構40により熱アシスト磁気記録媒体2の表面を局所的に加熱し、磁性材料の反転磁界を低下させて書き込みを行う。
【0039】
次に、飽和状態に磁化した測定部位を、レーザー加熱機構40により加熱することで熱アシスト磁気記録媒体2の加熱した測定部位の磁性材料を減磁し、この減磁個所の漏洩磁界を磁気ヘッド50に設けた磁気読み取り部52により読み取る(工程E)。
【0040】
次に、工程Cの熱アシスト磁気記録媒体2を所定の温度(温度X)に保持した状態で、工程Eにおけるレーザー加熱量を変化させ、工程Dと工程Eを繰り返し、工程Eにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める(工程F)。
【0041】
ここで、工程Fにおいては、工程Dと工程Eを繰り返すことが重要である。工程Dを一回のみとし、その後レーザー加熱量を徐々に高めながら工程Eを繰り返すことも考えられる。しかし、このような方法とした場合は、各工程Eには磁気ヘッド50の浮上高さの僅かな変動等の誤差要因が加わることとなる。そのため、最終的に得られる熱アシスト磁気記録媒体2のキュリー温度及びキュリー温度の分散も誤差が大きくなる。
【0042】
漏洩磁界の比率は、測定部位の飽和磁化量に対する漏洩磁界の比「(漏洩磁界/飽和磁化量)」である。後述する
図2に示すように、磁性層の温度がレーザー加熱機構40による加熱によりキュリー温度付近に達すると、飽和磁化状態の磁性層が徐々に減磁される。
図2の曲線が示す熱アシスト磁気記録媒体2の磁気特性で重要なのは、漏洩磁界の比率が1から下がり始める点と、漏洩磁界の比率が0.5となる点と、ゼロとなる点であり、特に重要なのは漏洩磁界の比率が0.5となる点である。
【0043】
漏洩磁界の比率が0.5となる点は、磁性膜層を構成する磁性粒子の半分がレーザー加熱機構40による加熱で減磁した点を示し、この熱アシスト磁気記録媒体2のキュリー温度Tc(例えば、平均値)を示す。なお、漏洩磁界の比率がゼロとなる点は、この磁性層を構成する磁性粒子の全てが減磁した点を示し、この熱アシスト磁気記録媒体2の最大キュリー温度を示す。なお、工程Fでレーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める際、測定誤差が生ずる場合があるので、レーザー加熱量と漏洩磁界の測定は数回(例えば、3回)繰り返し、測定結果の平均値を用いることが好ましい。
【0044】
次に、加熱冷却機構20及び温度測定機構30により熱アシスト磁気記録媒体2の温度を、キュリー温度未満で温度Xと異なる基板温度Yに保持する(工程G)。なお、温度Yは、温度Xと同様、熱アシスト磁気記録媒体2の基板の温度であってもよい。
【0045】
次に、温度Xの場合と同様の方法で、レーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める。
【0046】
即ち、先の工程Dから工程Fと同様に、熱アシスト磁気記録媒体2の測定部位を、磁気ヘッド50に設けられたレーザー加熱機構40と磁気書き込み部51により、飽和状態まで磁化する(工程H)。
【0047】
次に、飽和状態まで磁化した測定部位を、レーザー加熱機構40により加熱することで減磁し、この減磁個所の漏洩磁界を磁気ヘッド50に設けた磁気読み取り部52により読み取る(工程I)。
【0048】
次に、工程Gの熱アシスト磁気記録媒体2を所定の温度(温度Y)に保持した状態で、工程Iにおけるレーザー加熱量を変化させ、工程Hと工程Iを繰り返し、工程Iにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界との関係を求める(工程J)。
【0049】
工程Jにおいて、工程Hと工程Iを繰り返すことが重要な点は、前述の通りである。
【0050】
図2及び
図3は、工程Jで求められた基板温度Yにおけるレーザー加熱量と漏洩磁界/飽和磁化量との関係の一例を説明する図である。
図2は、レーザー加熱量と漏洩磁界/飽和磁化量との関係の一例を示し、縦軸が漏洩磁界/飽和磁化量を示し、横軸がレーザー加熱量を任意単位で示す。
図3は、レーザー加熱機構40に印加する入力電流値と漏洩磁界/飽和磁化量との関係の一例を示し、縦軸が漏洩磁界/飽和磁化量を示し、横軸が入力電流値(mA)を示す。
図2及び
図3に示すように、2つの曲線は、相対的に横軸と平行にシフトした曲線となっており、シフト量が温度X(K)と温度Y(K)の差を表す。
【0051】
漏洩磁界の測定時間は非常に短いため、漏洩磁界の測定中に測定部位から拡散する熱を無視することができる。そのため、レーザー加熱機構40への入力電流値と、測定部位の温度上昇量とは、比例関係にあるとみなすことができる。即ち、基板温度をT0(K)、レーザー加熱機構40への入力電流値をLP(mA)、測定部位の温度をTL(K)で表すと、次式(1)の関係が成り立つ。
【0052】
TL=CE×LP+T0 ・・・(1)
式(1)中、CE(K/mA)は、レーザー加熱機構40への入力電流値をLP(mA)を1(mA)増加させることで上昇する温度に相当する加熱効率を表す。加熱効率CE(K/mA)は、熱アシスト磁気記録媒体2、磁気特性測定装置1等の条件によって決まる定数であり、以下のように求めることができる。
【0053】
具体的には、漏洩磁界/飽和磁化量=0.5となる温度は、熱アシスト磁気記録媒体2によって決まる一定の値である。そのため、基板温度Xの状態でレーザー加熱機構40からレーザー光を照射して漏洩磁界/飽和磁化量=0.5となったときのレーザー加熱機構40への入力電流値をLP1(mA)、基板温度Yの状態でレーザー加熱機構40からレーザー光を照射して漏洩磁界/飽和磁化量=0.5となったときのレーザー加熱機構40への入力電流値をLP2(mA)、漏洩磁界/飽和磁化量=0.5となる熱アシスト磁気記録媒体2の温度(実効的なキュリー温度)をT0.5(K)で表すと、次式(2),(3)が成り立つ。
【0054】
T0.5=CE×LP1+X ・・・(2)
T0.5=CE×LP2+Y ・・・(3)
上記の式(2),(3)中、X,Y,LP1,LP2は、いずれも既知の値である。未知の値はCE及びT0.5の2つであるから、これらの式(2),(3)により加熱効率CE及び温度T0.5を求めることができる。
【0055】
例えば
図3に示す例の場合、基板温度Xは348(K)であり、基板温度Yは298(K)である。基板温度Xで温度T
0.5(漏洩磁界/飽和磁化量=0.5)となるときのレーザー加熱機構40への入力電流値が16(mA)であり、基板温度Yで温度T
0.5となるときのレーザー加熱機構40への入力電流値が14(mA)である場合、上記の式(2),(3)から、レーザー加熱機構40の加熱効率C
Eは25(K/mA)と求められ、温度T
0.5は698(K)と求められる。
【0056】
レーザー加熱機構40への入力電流値と測定部位の温度との関係が求まると、当該関係をレーザー加熱機構40による熱アシスト磁気記録媒体2のレーザー加熱量(または、レーザー加熱機構40への入力電流値)と測定部位の温度との関係に変換できる。
【0057】
上記の方法は、測定データに基づくプロットから温度T0.5を直接求める方法であるが、温度T0.5となる入力電流値に近いところで局所的に測定誤差が生じた場合、求められる温度T0.5の誤差が大きくなる。
【0058】
そこで、以下に説明するように、測定データから関数に回帰させる方法によれば、温度T0.5(実効的なキュリー温度)をより正確に求めることができ、さらに、磁性層の磁性粒子が有するキュリー温度Tcの分布における標準偏差σを求めることもできる。
【0059】
測定される熱アシスト磁気記録媒体2の漏洩磁界は、磁性層の各磁性粒子が発生する磁界の和に相当すると考えられる。そして、磁性層の磁化されている各磁性粒子が発生する磁界は等しくMであり、測定部位の温度TLでキュリー温度Tcに達していない磁性層の磁性粒子(即ち、Tc>TLである磁性粒子)の割合がP1であり、キュリー温度Tcに達している磁性層の磁性粒子(即ち、Tc≦TLである磁性粒子)の割合がP2(ここで、P1+P2=1)であるとすると、熱アシスト磁気記録媒体2の漏洩磁界/飽和磁化量は、P1M/(P1+P2)M=P1で表せる。
【0060】
測定部位の温度でキュリー温度Tcに達している磁性層の磁性粒子の割合P2は、測定部位の温度以下のキュリー温度Tcである磁性層の磁性粒子の割合の総和である。即ち、測定部位の温度TLにおける熱アシスト磁気記録媒体2の漏洩磁界/飽和磁化量は、磁性層の磁性粒子のキュリー温度の分布における0(K)から測定部位の温度TLまでの累積値を1から引いた値(1-P2)である。
【0061】
図3における、入力電流値(mA)に対する漏洩磁界/飽和磁化量の変化を表す曲線形状を見ると、1.0から正規分布の累積分布関数Φを引いた関数(1-Φ)に従うと推定できる。
【0062】
上記の通り、レーザー加熱機構40への入力電流値と測定部位の温度とは比例関係にある。従って、レーザー加熱量LPと漏洩磁界/飽和磁化量との関係f(LP)が関数(1-Φ)に従うならば、測定部位の温度TLにおけるキュリー温度Tcに達した磁性層の磁性粒子(即ち、Tc≦TLである磁性粒子)の割合P(TL)(=P2=1-P1=1-f(LP))も正規分布の累積分布関数Φに従う。そのため、キュリー温度Tc有する磁性層の磁性粒子の割合を表す関数P(Tc)は正規分布に従うと推定できる。
【0063】
図4は、基板温度X(=298K)において、入力電流値(mA)に対する漏洩磁界/飽和磁化量の測定データに基づくプロットと、回帰させた関数との関係を示す図である。回帰させる関数は、[1-Φ{(x-μ
1)/σ
1}]であり、Φ{(x-μ
1)/σ
1}は正規分布の累積分布関数、xはレーザー加熱量L
Pの値、μ
1は正規分布における中央値、σ
1は正規分布における標準偏差を表す。
図4に示すプロットは、
図3における基板温度Xでの測定データに相当する。
図4中、縦軸は漏洩磁界/飽和磁化量を示し、横軸は入力電流値(mA)を示す。測定データから累積分布関数への回帰は、最小二乗法によって行われた。測定データを回帰させることで正規分布の累積分布関数が決定されれば、中央値μ
1(mA)及び標準偏差σ
1が求められる。ここで、求められた中央値μ
1(mA)は、基板温度Xにおいて、測定部位が温度T
0.5となるときの入力電流値L
P1(mA)である(即ち、μ
1=L
P1)。
【0064】
基板温度Y(348K)においても、同様の方法で[1-Φ{(x-μ2)/σ2}]に回帰させて、中央値μ2(mA)、及び標準偏差σ2が求められる。中央値μ2は、基板温度Yにおいて、測定部位がT0.5となるときの入力電流値LP2(mA)である(即ち、μ2=LP2)。
【0065】
上記の方法により、求められたL
P1を上記の式(2)に代入し、求められたL
P2を上記の式(3)に代入し、連立方程式を解くことで、加熱効率C
E及び実効的なキュリー温度T
0.5が求まる。
図3に示すデータから、この方法によって、入力電流値L
P1=16.0mA及び入力電流値L
P2=14.0mAが求められる。また、これらの入力電流値L
P1,L
P2に基づいて、加熱効率C
E=25.0(K/mA)及び実効的なキュリー温度T
0.5=698(K)が求められる。
【0066】
磁性層の評価項目として、磁性層を構成する磁性粒子のキュリー温度の分布は、上記の方法によって求められた標準偏差を温度に変換した値σTが用いられる。具体的には、CE×σ1及びCE×σ2のいずれかまたは両方が用いられる。より具体的には、CE×σ1及びCE×σ2の算術平均値(σT=(CE×σ1+CE×σ2)/2)であるが、値σTはこれに限定されない。
【0067】
なお、上記の説明では、基板温度X及び基板温度Yにおける2つの測定データに基づいて、加熱効率CE及び実効的なキュリー温度T0.5を求めたが、3点以上の基板温度における測定データに基づいて加熱効率CE及び実効的なキュリー温度T0.5を求めてもよい。この場合、例えば、それぞれの基板温度において、キュリー温度T0.5に対応するレーザー加熱機構40への入力電流値LP1,LP2,...,LPkを測定し(kは3以上の自然数)、基板温度とキュリー温度T0.5に対応するレーザー加熱機構40への入力電流値との関係をプロットし、最小二乗法等により、直線に回帰させる。回帰させた直線の傾きにマイナス(例えば、負の係数)を乗じた値が加熱効率CEとなる。これらのプロットは多い方がより正確な加熱効率CEが求められる。
【0068】
なお、回帰させた直線からプロットが離れていることがある。この場合、例えば、上記の式(2)に加熱効率CEを代入して得られるキュリー温度T0.5の値と、上記の式(3)に加熱効率CEを代入して得られるキュリー温度T0.5の値とが違う場合がある。この場合、例えば、それぞれの基板温度X,Yに対応する上記の式(2),(3)に加熱効率CEを代入して得られた値T0.5(1),T0.5(2),...,T0.5(k)の算術平均値を用いたプロットとすることができるが、プロットの方法これに限定されない。
【0069】
このようにして、工程F及び工程Iにおいて求められる、レーザー加熱量と漏洩磁界との関係から、磁気特性として、熱アシスト磁気記録媒体2のキュリー温度及びキュリー温度の分散を算出することができる(工程K)。
【0070】
なお、本実施形態に係る磁気特性測定方法で測定される熱アシスト磁気記録媒体(または、測定サンプル)2の一例を
図5に示す。
図5に示すように、熱アシスト磁気記録媒体2は、基板201上に、密着層202及び配向制御層203が形成されている。また、熱アシスト磁気記録媒体2は、配向制御層203上に、第1のヒートシンク層204、第1のバリア層205、第2のヒートシンク層206及び第2のバリア層207が順次積層されている。ここで、第1のバリア層205は、酸化物、窒化物または炭化物を主成分とする。さらに、熱アシスト磁気記録媒体2は、第2のバリア層207上に、L1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層208、保護層209及び潤滑剤層210を順次積層されている。
【0071】
熱アシスト磁気記録媒体2は、上記構成を有することで、信号雑音比(SNR)を維持しつつ、磁気ヘッド50から照射されるレーザーパワーを低減することが可能となる。よって、熱アシスト磁気記録媒体2は、記録密度を高めることができると共に、磁気ヘッド50の寿命を延ばすことができる。
【0072】
このような効果が得られるのは、第1のバリア層205が、第1のバリア層205よりも熱伝導率が高い第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206で挟まれることで、磁気ヘッド50から照射されるレーザー光の熱を効率的に使用できるからである。このとき、薄い第1のバリア層205が、厚い第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206で挟まれていることが好ましい。これにより、ヒートシンク層(第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206)の効果を損なうことを抑制しつつ、第1のバリア層205と、第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206との間に、熱伝導率の差が大きい界面を形成できる。これらの2つの界面によって、第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206の内部により大きい熱勾配が生じ、この熱勾配によって、熱アシスト磁気記録媒体2の記録面に対して垂直な方向への熱の移動量をより高められると考えられる。
【0073】
このように、本実施形態に係る磁気特性測定方法は、上記の各工程を含むことで、熱アシスト磁気記録媒体2の実効的な磁気特性を測定することができる。よって、本実施形態に係る磁気特性測定方法を用いれば、熱アシスト磁気記録媒体2のヒートシンク層(第1のヒートシンク層204及び第2のヒートシンク層206)、バリア層(第1のバリア層205及び第2のバリア層207)、磁性層208及び保護層209の設計をより効率的に行うことができる。
【0074】
本実施形態に係る磁気特性測定方法は、磁気特性として、熱アシスト磁気記録媒体2のキュリー温度及びキュリー温度の分散を算出することができる。これにより、本実施形態に係る磁気特性測定方法を用いれば、熱アシスト磁気記録媒体2の積層構造をより正確に設計することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、温度Yを複数の異なる温度(例えば、温度Y1、Y2、Y3等)として、それぞれの異なる温度Y毎に、工程G~工程Kを行ってもよい。これにより、レーザー加熱機構40の加熱効率をより正確に求めることができる。
【0076】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 磁気特性測定装置
2 熱アシスト磁気記録媒体(測定サンプル)
10 回転機構
20 加熱冷却機構
30 温度測定機構
40 レーザー加熱機構
50 磁気ヘッド
51 磁気書き込み部
52 磁気読み取り部
60 磁気ヘッド駆動機構
70 サスペンション