(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184852
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】改変ナチュラルキラー細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/24 20060101AFI20221206BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221206BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221206BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221206BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N15/24
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
A61K35/17 Z
A61P35/02
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022137956
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2020074650の分割
【原出願日】2015-05-14
(31)【優先権主張番号】61/993,494
(32)【優先日】2014-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507421865
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティ オブ シンガポール
(71)【出願人】
【識別番号】516092670
【氏名又は名称】セント ジュード チルドレンズ リサーチ ホスピタル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】カンパナ ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】シュック デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】イマムラ マサル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】in vitro及び/又はin vivoでのNK細胞の増殖及び活性を促進する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、特定の態様において、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞及びそのような細胞を作製する方法を提供する。本発明は、患者においてがんを治療するために又はNK細胞の増殖及び/若しくは生存を強化するためにインターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を使用する方法をさらに提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞。
【請求項2】
前記IL-15が膜結合ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとして発現される、請求項1に記載のNK細胞。
【請求項3】
前記IL-15の全て又は機能性部分が膜貫通タンパク質の全て又は一部に融合される、請求項1及び2のいずれか一項に記載のNK細胞。
【請求項4】
インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞の作製方法であって、
(a)IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸をNK細胞に導入すること、及び
(b)前記NK細胞を、前記IL-15の全て又は機能性部分が発現される条件下で維持すること
を含み、これによりIL-15の全て又は機能性部分を発現するNK細胞を作製することを含む、前記方法。
【請求項5】
前記NK細胞に導入される前記核酸が、CD8αのシグナルペプチド、IL-15の全て又は機能性部分、及びCD8αの膜貫通ドメインの全て又は一部を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記NK細胞を、前記膜貫通ドメインの全て又は一部に連結された(例えば、融合された)前記IL-15の全て又は機能性部分を発現するベクターで形質導入する、請求項4及び5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の方法により作製されるナチュラルキラー(NK)細胞。
【請求項9】
請求項1~3又は8のいずれか一項に記載のNK細胞を含む組成物。
【請求項10】
請求項1~3又は8のいずれか一項に記載のNK細胞を含む医薬組成物。
【請求項11】
IL-2の全て又は機能性部分をさらに含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
がんを治療することを必要とする個体においてがんを治療する方法であって、前記個体にインターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
前記がんが、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病)、骨髄異形成症候群、リンパ腫(例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞リンパ芽球性リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫)、固形腫瘍(例えば、乳がん、前立腺がん、胃がん、結腸がん、肝細胞がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、高悪性度グリオーマ)、肉腫(例えば、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、非横紋筋肉腫軟部肉腫、骨肉腫)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
IL-2を前記個体に投与することをさらに含む、請求項12及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記がんを対象とした1つ以上の抗体を前記個体に投与することをさらに含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
NK細胞の増殖及び/又は生存を強化する方法であって、
(a)IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸を導入すること、及び
(b)NK細胞を、前記IL-15の全て又は機能性部分が発現され且つ前記NK細胞が増殖する条件下で維持すること
を含み、これにより前記NK細胞の増殖及び/又は生存を強化することを含む、前記方法。
【請求項17】
前記NK細胞に導入される前記核酸が、CD8αのシグナルペプチド、IL-15の全て又は機能性部分、及びCD8αの膜貫通ドメインの全て又は一部を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記NK細胞を、前記膜貫通ドメインの全て又は一部に連結された(例えば、融合された)前記IL-15の全て又は機能性部分を発現するベクターで形質導入する、請求項16及び17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターがレトロウイルスベクターである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記NK細胞をIL-2と接触させることをさらに含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2014年5月15日に出願の米国仮特許出願第61/993494号の利益を主張するものである。上記の出願の教示は全て参照により本願に援用される。
【背景技術】
【0002】
in vivoでのNK細胞の生存及び増殖は、サイトカイン、例えばIL-2及びIL-15による刺激を必要とする。例えば、免疫不全マウスへの注射後、活性化されたNK細胞は1週間後には検出不可能となったが、ヒトIL-2も投与すると最高で1ヶ月にわたって残った。ゆえに、NK細胞の注入を用いた臨床プロトコルは典型的には、患者の体内でのNK細胞の生存を長引かせるのにIL-2の投与に依存している。しかしながら、IL-2では少なからぬ副作用が起きる場合がある。発熱及び悪寒に加えて、IL-2の投与は、より深刻で場合によっては命にかかわる結果、例えば毛細管漏出症候群につながる可能性がある。IL-2の用量を減らせば副作用のリスクは抑えられるが、NK細胞の機能を阻害し場合によってはその抗ガン作用を無効にする制御性T細胞を刺激しかねない。
【発明の概要】
【0003】
したがって、in vitro及び/又はin vivoでのNK細胞の増殖及び活性を促進する代替の方法を開発することが重要であると考えられる。
【0004】
特許又は出願ファイルにはカラーで描かれた少なくとも1枚の図面が含まれる。カラーの図面が付属するこの特許又は特許出願公報の写しは、請求及び所要の費用の納付により特許庁から入手可能である。
【0005】
上記の内容は、添付の図面に描かれた後出の本発明の実施形態例のより具体的な説明から明らかとなる。図面において、異なる図であっても同様の参照符号は同じ部分を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、本発明の実施形態を図示することを重視している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1A-1C:IL-15コンストラクトの設計及び発現。1A:本研究で使用する野生型及び膜結合型IL-15コンストラクトの概略図(「wtIL15」及び「mbIL15」)。1B:mbIL15を形質導入したNK細胞の表面でのIL-15の発現。増殖したNK細胞の形質導入をwtIL15、mbIL15又はGFPだけを含むベクター(「Mock」)で行った。フローサイトメトリのドットプロットは、抗IL15抗体(R&D Systems)及びフィコエリトリンにコンジュゲートさせたヤギ-抗マウス二次抗体(Southern Biotechnology Associates)で検出したGFP及びIL-15の発現示す。各クワドラントにおける細胞の割合(>98% CD56+CD3-NK細胞)を示す。1C:wtIL15を形質導入したNK細胞によるIL-15の分泌。3人の異なるドナーからのNK細胞を三重で試験した。バーは、IL-2不在下での培養から24時間及び48時間後に回収した上清において行ったELISA測定の平均±SDを示す。mock形質導入細胞の上清においてIL-15は検出されなかった。
【
図2】
図2A-2C:in vitroでのIL-15を発現するNK細胞の生存及び増殖。2A:15人のドナーからのmock及びmbIL15形質導入細胞の場合(左のパネル)並びに9人のドナーからのmbIL15又はwtIL15形質導入細胞の場合(右のパネル)のIL-2不在下での7日間の並行培養後の、投入した細胞と比較したNK細胞回収率。水平方向のバーは中央値を示す。対応t検定の結果を示す。IL-2(10及び100IU/mL)を加えた培養の結果を補足的な
図S1に示す。2B:低用量のIL-2(10IU/mL)存在下での、6人のドナーからのmock及びmbIL15形質導入NK細胞の生存及び増殖。2C:IL-2不在下又は低用量のIL-2の存在下で培養した1人のドナーからのmbIL15、wtIL15を形質導入したNK細胞又はmock形質導入NK細胞の増殖及び長期生存(100IU/mLのIL2での結果は
図6に示す)。指定した培養日数でのNK細胞回収率を示す。
【
図3】
図3A-3C:mb-IL15を発現するNK細胞のin vivoでの生存及び増殖。3A:mock又はmbIL15形質導入NK細胞をIL-2存在下又は不在下で注射したマウス(全部で16匹)の末梢血における注入から7日目及び11日目のヒトCD45+細胞の絶対数(7日目はP=0.004(IL-2不在下)、P=0.021(IL-2存在下)。11日目はP=0.044及び0.026)。3B:フローサイトメトリのドットプロットは、IL-2処置なし(上)及びあり(下)の場合のマウス末梢血におけるヒトCD45+、GFP+NK細胞の存在を示す。GFP発現がある又はないヒトCD45+細胞の割合を示す。3C:注射から11日後に回収された、IL-2を伴って又は伴わずにmock又はmbIL15形質導入NK細胞を注射されたマウスの様々な組織におけるヒト45+細胞の割合。全体的に、ヒトCD45+細胞の割合はmbIL15で有意に高かった(P<0.001(IL-2不在)、P=0.002(IL-2存在))。
【
図4】
図4A-4C:mbIL15を発現するNK細胞の性質。4A:mbIL15を形質導入したNK細胞集団又はmock形質導入NK細胞集団における、培養前及び培養から7日後のGFP+細胞の相対的な割合。13人のドナーからのNK細胞での結果を示す。mbIL15の場合はP<0.001であり、mockと比較して有意ではなかった。4B:mbIL15形質導入NK細胞の免疫表現的な特徴。IL-2不在下で48時間にわたって培養したNK細胞に、フローサイトメトリによる細胞マーカー分析を行った。全ての結果を表4Cにまとめた。mock及びmbIL15形質導入NK細胞を48時間にわたってIL-2不在下で培養し、細胞ライセートをKinex Antibody Microarray(Kinexus)により分析した。試験した809個の抗リン酸化タンパク質抗体のうち、Z比>0.5及び%エラー範囲<100のシグナルのものを示した。バーは、mock形質導入NK細胞における正規化された強度と比較した、mbIL15を発現するNK細胞における%シグナル変化を示す。
【
図5】
図5A-5D:mbIL15を発現するNK細胞の抗腫瘍能。9人のドナーからのmbIL15及びmock形質導入NK細胞のNalm-6、U937、K562、Daudi、SK-BR-3及びES8細胞株に対する1:4及び1:1のE:T比での(各比での15の実験。両方についてP<0.001)24時間細胞障害性アッセイの結果。4時間及び24時間細胞障害性アッセイにおける個々の細胞株について得られた結果を
図7.5Bに示す。mbIL15を発現するNK細胞は標的細胞の存在下、細胞障害顆粒をより多く放出する。1:1での4時間細胞障害性アッセイ後のCD107a+NK細胞の割合。2つの細胞株に対する3人のドナーからのNK細胞の結果を示す(P=0.007)。5C:mbIL15を発現するNK細胞は抗腫瘍活性をin vivoで発揮する。NOD-SCID-IL2RGnullマウスに、ルシフェラーゼで標識した1x10
4のU937細胞を腹腔内注射した。3匹のマウスにおいて、処置は行われず(「NKなし」)、4匹のマウスはmock形質導入NK細胞を3日目及び7日目に投与され(1x10
7腹腔内)、4匹の別のマウスはmbIL15形質導入NK細胞を同じ用量及びスケジュールで投与された。腫瘍成長のin vivoイメージングの結果を示す(腹側の画像)。5D:異なる処置グループにおけるマウスの全体的な生存率比較。バイオルミネセンスが1x10
11光子/秒に達した時にマウスを安楽死させた。3つの曲線のログランク検定及び2つの曲線のそれぞれの間での比較についてのP値を示す。
【
図6】
図6A-6C:in vitroでのIL-15を発現するNK細胞の生存及び増殖。6A:IL-2の不在下でのmbIL15を発現するNK細胞の増殖は、抗IL-15中和抗体により抑制された。記号は、mbIL15を形質導入したNK細胞での実験における投入細胞と比較した場合の、培養中の平均(±SD、n=3)NK細胞回収率を示す。6B:6人のドナーからのmock、mbIL15及びwtIL15形質導入細胞についての、低用量(10IU/mL)及び高用量(100IU/mL)のIL2存在下での7日間の並行培養後の投入細胞と比較したNK細胞回収率。水平方向のバーは中央値を示す。対応t検定の結果を示す。6C:mbIL15又はwtIL15を形質導入し、100IU/mLのIL-2存在下で培養した1人のドナーからのNK細胞の増殖及び長期生存。指定した培養日数でのNK細胞回収率を示す。
【
図7】
図7A-7B:mbIL15を発現するNK細胞の抗腫瘍能。Nalm-6、U937、K562、Daudi、SK-BR-3及びES8細胞株に対する1:4、1:2及び1:1のE:T比でのmbIL15及びmock形質導入NK細胞についての4時間(7A)及び24時間細胞障害性アッセイ(7B)の結果を示す。各記号は、U937、K562、ES8についての3人の異なるドナー、Nalm-6、Daudi及びSK-BR-3についての2人のドナーからのNK細胞での実験における平均±SD細胞障害性を示し、実験は全て三重で行われた(全ての実験についてP<0.001)。
【
図8】
図8A-8C:mbIL15を発現するNK細胞の抗腫瘍能。NOD-SCID-IL2RGnullマウスに、ルシフェラーゼで標識した1x10
5のES8細胞を腹腔内注射した。7匹のマウスにおいて、処置は行われず(「NKなし」)、11匹のマウスはmock形質導入NK細胞を3日目に投与され(1x10
7腹腔内)、12匹の別のマウスはmbIL15形質導入NK細胞を同じ用量及びスケジュールで投与された。腫瘍成長のin vivoイメージングの結果。各グループにおける腫瘍シグナルが最も高い4匹のマウスの腹側画像を示す。8B:腫瘍成長のin vivoイメージングの結果。各記号は1回のバイオルミネセンス測定に対応する(光子/秒、各マウスにおける相対的3日目測定)。8C:異なる処置グループにおけるマウスの全体的な生存率比較。バイオルミネセンスが1x10
10光子/秒に達した時にマウスを安楽死させた。3つの曲線のログランク検定及び2つの曲線のそれぞれの間での比較についてのP値を示す。
【
図9】膜結合IL-15のヌクレオチド配列(SEQ ID NO:1)及びアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)を示す。
【
図10】ヒトIL-15(NCBIリファレンス配列:NM_000585.4)のヌクレオチド配列(SEQ ID NO:3)及びアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)を示す。
【
図11】
図11A-11C:mbIL15はNK細胞をシス提示により刺激する。11A:NK92細胞にmbIL15(左)又はwtIL15(右)をGFPを含むベクターで形質導入し、選別して100%GFP+細胞を得て、非形質導入NK92細胞と1:1の比で共培養した。GFP+及びGFP-細胞についての、培養開始時の細胞数に対する培養後の細胞回収率を示す(±SD、n=3)。11B:mbIL15を発現するNK92細胞又は非形質導入細胞を、mbIL15を形質導入したK562細胞(「K」)又は非形質導入細胞と1:2の比で、示した組み合わせで共培養した。K562細胞をPKH26(Sigma)で標識し、Streck cell preservative(Streck、オマハ、ネブラスカ州)で処理することで培養前の細胞分裂を防止した。培養開始時の細胞数に対する、培養後のNK92細胞回収率(±SD、n=3)を示す。11C:高くなる濃度の外来性のIL-15の存在下での非形質導入NK92細胞のものと比較した、mbIL15を発現するNK92細胞の増殖。培養を、IL-2(左)の不在下又は10IU/mL(中央)若しくは100IU/mL(右)のIL-2の存在下で行った。培養開始時の細胞数に対する、培養後の細胞回収率(±SD、n=3)を示す。
【
図12】
図12A-12C:mb15-NK細胞におけるKIRの発現及び機能。形質導入前、mock又はmb15形質導入後のそのKIR発現により定義されるNK細胞サブセット。フローサイトメトリのドットプロットは、2人のドナーからのCD56+CD3-細胞における抗KIR抗体での染色の結果を示す。KIR+細胞の割合を示す。12B:CD158aポジティブ及びcD158aネガティブサブセットにおける、721.221細胞又はCD158a結合Cw6 HLAを発現する同じ細胞との4時間の培養後のCD107a発現の結果。3人のドナーからのNK細胞での独立した4つの実験の平均(±SD)を示す(
**P<0.0001、
*P=0.0002)。12C:12Bに示す同じ実験におけるIFNγ分泌の結果(
**P<0.0001)。
【
図13】
図13A-13B:mbIL15を発現するNK細胞の抗体依存性細胞障害性(ADCC)。それぞれリツキシマブ又はトラスツズマブの存在下での(13A)Daudi及び(13B)SK-BR-3に対するmbIL15及びmock形質導入NK細胞での4時間ADCCアッセイ。同じ濃度の免疫療法抗体(1μg/mL)でのIgGをコントロールとして使用した。各記号は、各ドナーからのNK細胞での三重の実験における平均±SD細胞障害性を示す。免疫療法抗体の存在下、mbIL15-NK細胞はmock形質導入細胞より有意に高いADCCを発揮した(Daudi又はSK-BR-3での試験における各ドナーについてP<0.001)。抗体なしのmbIL15-NK細胞による細胞障害性も有意に高かった(Daudi又はSK-BR-3での試験における各ドナーについてP<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態例について説明する。
【0008】
ナチュラルキラー(NK)細胞の定評のある抗白血病活性は、NK細胞の注入を治療に用い得ることを示している。NK細胞の生存及びそれゆえの細胞障害性はサイトカインによる支援を必要とする。本明細書では、非分泌、膜結合型のインターロイキン15(IL-15)の発現がNK細胞の成長を持続させることができるかを調査した実験について説明する。ヒトIL15遺伝子を、CD8α膜貫通ドメインをコードするものに連結した(「mbIL15」)。レトロウイルスによる形質導入後、ヒトNK細胞はmbIL-15を細胞表面で発現したが、IL-15の分泌はごくわずかであった。IL-2を使用しないmbIL15-NK細胞の生存及び増殖は、mock形質導入細胞のもの(7日間にわたる培養後、P<0.0001、n=15)、また非膜結合IL-15を分泌するNK細胞のもの(P=0.025、n=9)よりはるかに良好であった。生存mbIL15-NK細胞は2ヶ月もの間、検出可能であった。免疫不全マウスにおいて、mbIL15-NK細胞はIL-2がなくとも増殖され、検査した全ての組織(脳以外)で、mock形質導入NK細胞よりはるかに多い数で検出可能であった(P<0.001)。in vitro及びin vivoでの増殖はIL-2を用いるとさらに増大した。mbIL15刺激の基本的なメカニズムはオートクリンである。mbIL15はIL-15シグナル伝達及び抗アポトーシスシグナル伝達を活性化させる。白血病、リンパ腫及び固形腫瘍細胞株に対する細胞障害性はmbIL15-NK細胞で一貫して高かった。1:4E:Tでの24時間細胞障害性中央値は、mock形質導入細胞の22%に対して71%であり、1:1E:Tでは54%に対して99%であった(P<0.0001)。上昇した抗腫瘍能は、白血病(U937)又は肉腫(ES8)細胞を移植した免疫不全マウスでも明白であった。したがって、mbIL15によりNK細胞は独立した成長ができ、またその抗腫瘍能は増強された。mbIL15-NK細胞の注入は、IL-2の有害作用を伴うことのないNK細胞療法を可能にする。
【0009】
したがって、本発明で提供するのは、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現する(1つ以上の、複数の)細胞であり、この細胞は、IL-15に応答する細胞である。IL-15に応答する細胞には、その活性の1つ以上がIL-15により制御される細胞が含まれる。そのような細胞の例には、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、樹状細胞及び単球が含まれる。1つ以上の(例えば、単離された)細胞は、IL-15の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチド、分泌タンパク質又はこれらの組み合わせとして発現することができる。
【0010】
一態様において、本発明は、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分)を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を対象としている。1つ以上の(例えば、単離された)NK細胞は、IL-15の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチド、分泌タンパク質又はこれらの組み合わせとして発現することができる。
【0011】
本明細書において、「ナチュラルキラー細胞」(「NK細胞」)とは、免疫系の細胞障害性リンパ球の1つのタイプのことである。NK細胞は、ウイルス感染した細胞に迅速に応答し、またトランスフォーム細胞に応答する。典型的には、免疫細胞は、主要組織適合抗原複合体(MHC)分子が感染細胞の表面上で提示する病原体からのペプチドを検知し、サイトカインの放出を誘発し、溶解又はアポトーシスを引き起こす。しかしながら、NK細胞は病原体由来のペプチドがMHC分子上に存在するか否かに関係なくストレス細胞を認識する能力を有し、他に類を見ない。最初は標的を殺すのに事前の活性化を必要としないと考えられたため、「ナチュラルキラー」と名付けられた。NK細胞は大型顆粒リンパ球(LGL)であり、骨髄で分化、成熟し、次にそこから血液循環に入ると知られている。
【0012】
幾つかの態様において、NK細胞は哺乳類NK細胞である。「哺乳類」の例には、霊長類(例えば、ヒト)、イヌ、ネコ、齧歯類、ブタ、反芻動物等が含まれる。具体例には、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、雌牛、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ラット及びマウスが含まれる。特定の態様において、哺乳類NK細胞はヒトNK細胞である。
【0013】
本明細書において、「インターロイキン15」(「IL-15」)とは、T細胞及びNK細胞の活性化及び増殖を制御するサイトカインのことである。このサイトカイン及びインターロイキン2は数多くの生物学的活性を共有している。これらのサイトカインは共通の受容体サブユニットに結合すると判明しており、同じ受容体を巡って競合して互いの活性を負に制御する場合がある。CD8+メモリー細胞の数は、IL-15とIL-2とのバランスにより制御されると判明している。このサイトカインはJAKキナーゼの活性化、また転写アクチベータSTAT3、STAT5及びSTAT6のリン酸化及び活性化を誘発し、またアポトーシス阻害物質BCL2L1/BCL-x(L)の発現をおそらくはSTAT6の転写活性化活性を通して増加させることでアポトーシスを防止する。
【0014】
IL-15の「機能性部分」(「生物学的に活性な部分」)とは、全長又は成熟IL-15の1つ以上の機能を保持するIL-15の一部のことである。そのような機能にはNK細胞の生存の促進、NK細胞及びT細胞の活性化及び増殖の制御、また造血幹細胞からのNK細胞の発達の支援が含まれる。
【0015】
当業者ならばわかるように、多種多様なIL-15分子の配列は当該分野で公知である。一態様において、IL-15は野生型IL-15である。幾つかの態様において、IL-15は哺乳類IL-15(例えば、ホモ・サピエンスインターロイキン15(IL15)、転写変異体3、mRNA、NCBIリファレンス配列:NM_000585.4;イヌインターロイキン15(IL15)、mRNA,NCBIリファレンス配列:NM_001197188.1;ネコインターロイキン15(IL15)、mRNA、NCBIリファレンス配列:NM_001009207.1)である。「哺乳動物」の例には、霊長類(例えば、ヒト)、イヌ、ネコ、齧歯類、ブタ、反芻動物等が含まれる。具体例には、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、雌牛、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ラット及びマウスが含まれる。特定の態様において、哺乳類IL-15はヒトIL-15である。
【0016】
IL-15の全て又は機能性部分は、1つ以上のNK細胞により様々な形で発現させることができる(膜結合及び/又は分泌ポリペプチドとして)。例えば、IL-15の全て又は機能性部分をNK細胞内で発現させ、NK細胞から分泌させる及び/又は当該分野で公知の多種多様なリンカーのいずれかを使用して(Hermanson,G.,Bioconjugate Techniques,Academic Press 1996)NK細胞の表面(例えば、NK細胞の表面又は膜内で)に直接若しくは間接的に(例えば、イオン、非イオン、共有結合)連結(共役、融合)することができる。特定の態様においては、IL-15の全て又は機能性部分を膜貫通タンパク質の全て又は一部に連結する。一態様において、NK細胞は、膜貫通タンパク質の全て又は一部に融合したIL-15の全て又は一部を含む融合タンパク質を発現する。特定の態様において、膜貫通タンパク質のこの部分は、膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインの全て又は一部を含む。
【0017】
本明細書において、「膜貫通タンパク質」又は「膜タンパク質」は、生体膜のリン脂質二重層等の膜(例えば、細胞の膜等の生体膜)に及び/又は内に位置するタンパク質である。膜タンパク質が、膜によるその膜特有の活動の実行を可能にする。膜に付着したタンパク質の補体は、細胞型及び細胞内位置に応じて異なる。一部のタンパク質は膜表面にのみ結合するが、他は膜及び/又は膜の片面若しくは両面上のドメイン内に埋没している1つ以上の領域を有する。細胞外膜表面上のタンパク質ドメインは一般に、細胞間シグナル伝達又は相互作用に関与している。膜の細胞質側に沿って広がっているドメインは、細胞骨格タンパク質の膜へのアンカリングから細胞内シグナル伝達経路の誘発に及ぶ幅広い機能を有している。本明細書において「膜貫通ドメイン」と称される膜内のドメイン、特にはチャネル及びポアを形成するものは、分子を膜内外に移動させる。「膜貫通ドメイン」は三次元タンパク質構造体であり、膜において熱力学的に安定している(例えば、細胞等の小胞の膜)。膜貫通ドメインの例には、一重アルファへリックス、幾つかの膜貫通アルファへリックスの安定した複合体、膜貫通ベータバレル、グラミシジンAのベータへリックス又は他の構造体が含まれる。膜貫通へリックスは通常、約20アミノ酸長である。
【0018】
典型的には、膜タンパク質は、膜-タンパク質相互作用の性質に基づいて、2つの広いカテゴリ:内在性(内因性)及び周辺(外因性)膜タンパク質に分類される。殆どの生体膜は両方のタイプの膜タンパク質を含む。
【0019】
内因性タンパク質とも称される内在性膜タンパク質は、リン脂質二重層に埋め込まれた1つ以上のセグメントを有する。内在性膜タンパク質には膜貫通タンパク質及び脂質アンカータンパク質が含まれる。殆どの内在性タンパク質は、膜リン脂質の脂肪酸アシル基と相互作用する疎水性側鎖を有する残基を含むため、タンパク質は膜にアンカリングされる。殆どの内在性タンパク質はリン脂質二重層全体をまたぐように広がる。これらの膜貫通タンパク質は1つ以上の膜貫通ドメイン、また二重層の各面上の水性媒質内へとのびる4~数百残基長のドメインを含む。典型的には、膜貫通ドメインは、1つ以上(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上)のαへリックス及び/又はβストランドである。膜貫通αへリックスドメインは典型的には、二重層の脂質内部との疎水性相互作用、またおそらくはリン脂質の極性頭部基(例えば、グリコホリン)とのイオン相互作用により膜に埋め込まれる。βストランドの構造は典型的には、膜貫通バレル(例えば、ポリン)の形態である。一部の内在性タンパク質は、共有結合された脂肪酸により膜を構成している層の1つにアンカリングされる。これらのタンパク質において、結合している脂肪酸は膜に埋め込まれるが、ポリペプチド鎖はリン脂質二重層には進入しない。一部の細胞表面タンパク質は、C末端に連結している複合グリコシル化リン脂質により細胞膜の細胞外(exoplasmic)側にアンカリングされる(例えば、グリコシルホスファチジルイノシトール、アルカリホスファターゼ)。一部の細胞質タンパク質は、C末端近くのシステインに共有結合した炭化水素部分により膜の細胞質側にアンカリングされる(例えば、プレニル、ファルネシル及びゲラニルゲラニル基)。別の脂質アンカー細胞質タンパク質群において、脂肪酸アシル基(例えば、ミリステート又はパルミテート)はアミド結合によりN末端グリシン残基に連結している。
【0020】
周辺膜タンパク質又は外因性タンパク質はリン脂質二重層の疎水性コアと相互作用しない。ただし周辺膜タンパク質は通常、内在性膜タンパク質との相互作用により間接的に又は脂質極性頭部基との相互作用により直接、膜に結合している。細胞膜の細胞質側に局在している周辺タンパク質には、赤血球中の細胞骨格タンパク質スペクトリン及びアクチン並びに酵素であるタンパク質キナーゼCが含まれる。この酵素はサイトゾルと細胞膜の細胞質側との間での輸送を行い、またシグナル伝達において役割を果たす。細胞外マトリックスの特定のタンパク質を含めた他の周辺タンパク質は、細胞膜の外面(細胞外)に局在している。
【0021】
膜貫通タンパク質の例には、受容体、リガンド、免疫グロブリン、グリコホリン又はこれらの組み合わせが含まれる。膜貫通タンパク質の具体例には、CD8α、CD4、CD3ε、CD3γ、CD3δ、CD3ζ、CD28、CD137、FcεRIγ、T細胞受容体(TCRα及び/又はTCRβ等のTCR)、ニコチン性アセチルコリン受容体、GABA受容体又はこれらの組み合わせが含まれる。免疫グロブリンの具体例にはIgG、IgA、IgM、IgE、IgD又はこれらの組み合わせが含まれる。グリコホリンの具体例には、グリコホリンA、グリコホリンD又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0022】
膜貫通タンパク質の全て又は一部に連結されていることに加えて、IL-15の全て又は機能性部分を他の構成成分、例えばシグナルペプチド(例えば、CD8αシグナル配列)、リーダー配列、分泌シグナル、標識(例えば、レポーター遺伝子)等に連結し得る。特定の態様においては、IL-15の全て又は機能性部分をCD8αのシグナルペプチド並びにCD8αの膜貫通ドメインの全て又は一部に融合させる。
【0023】
別の態様において、本発明はインターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を作製する方法を対象とする。IL-15の全て又は一部を、膜結合ポリペプチド、分泌ポリペプチド又はこれらの組み合わせとして発現させ得る。この方法は、IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸を1つ以上のNK細胞に導入することを含む。一態様においては、IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸を、膜貫通タンパク質の全て又は一部に連結する(例えば、融合)。あるいは又は加えて、IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸をNK細胞(例えば、野生型IL-15)に導入する。当業者には明白であるように、IL-15の全て又は機能性部分及び膜貫通タンパク質の全て若しくは一部に融合させたIL-15の全て若しくは機能性部分をコードする核酸をNK細胞に導入する態様は、1つの核酸又は複数(例えば、別々、2つ)の核酸を使用して実行し得る。NK細胞を、IL-15の全て又は機能性部分が膜結合ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとして発現される条件下で維持し、これにより、IL-15の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとして発現するNK細胞を産生する。特定の態様においては、IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸をCD8αのシグナルペプチドに融合させ、CD8αの膜貫通ドメインの全て又は一部をNK細胞に導入する。
【0024】
さらに別の態様において、本発明は、NK細胞の増殖及び/又は生存を強化する方法を対象とする(例えば、in vitro、ex vivo及び/又はin vivo)。この方法は、IL-の全て又は機能性部分をコードする核酸を導入することを含む。IL-15(例えば、野生型IL-15)の全て若しくは一部及び/又は膜貫通タンパク質の全て若しくは一部に融合させたIL-15の全て若しくは機能性部分をコードする核酸をNK細胞に導入し得る。したがって、NK細胞は、IL-15の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチド、分泌ポリペプチド又はこれらの組み合わせとして発現させることができる。NK細胞を、IL-15の全て又は一部が膜結合ポリペプチド、分泌ポリペプチド又はこれらの組み合わせとして発現され、またNK細胞が増殖する条件下で維持する。特定の態様においては、IL-15の全て又は機能性部分をコードする核酸をCD8αのシグナルペプチドに融合させ、CD8αの膜貫通ドメインの全て又は一部をNK細胞に導入する。幾つかの態様において、この方法はさらに、膜結合IL-15及び/又は分泌IL-15を含むNK細胞をIL-2と接触させることを含み得る。幾つかの態様において、IL-2の濃度は約10~約1000IU/mlである。他の態様において、IL-2の濃度は、約20、40、60、80、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680、700、720 740、760、780、800、820、840、860、880、900、920、940、960、980IU/mlである。
【0025】
当業者には明白であるように、IL-15の全て又は機能性部分を膜貫通ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとしてコードする核酸をNK細胞に導入するための多種多様な方法(例えば、トランスフェクション、形質導入及び/又はトランスポゾン系)を用い得る。そのような方法の例には、化学的方法(例えば、リン酸カルシウム、高度に分岐した有機化合物(例えばデンドリマー)、リポソーム(リポフェクション法)及び/又はカチオンポリマー(例えば、DEAEデキストラン、ポリエチレンイミン)の使用を伴う)、非化学的方法(例えば、エレクトロポレーション、セルスクイージング(Cell Squeezing)、ソノポレーション(sonoporation)、光学的トランスフェクション、インペールフェクション(impalefection)、ハイドロダイナミック法(hydrodynamic delivery)、粒子を利用した方法(例えば、遺伝子銃、マグネトフェクション、微粒子銃)、ベクターを利用した方法(例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターその他等のウイルスベクターを含めたベクター)、ヌクレオトランスフェクション(nucleotransfection)、トランスポゾンを利用した方法(例えば、Sleeping Beuaty、PiggyBAC等)及び/又はRNAトランスフェクションが含まれる。
【0026】
当業者には、(i)IL-15の全て又は機能性部分が膜結合ポリペプチド及び/若しくは分泌ポリペプチドとして発現される、並びに/又は(ii)膜結合IL-15及び/若しくは分泌IL-15を含むNK細胞が増殖する条件下でNK細胞を維持する多種多様な方法を用い得ることも明白である。例えば、NK細胞は、適切な温度及びガス混合物下で成長させ及び/又は維持し得る(例えば、細胞インキュベータにおいて約25~約37℃、約5%CO2)。培養条件は幅広く変化し得て、特定の細胞型について条件を変化させると表現型が異なるものになる場合がある。温度及びガス混合物に加えて、培養系において通常異なる要素は細胞増殖培地である。増殖培地の処方はpH、グルコース濃度、増殖因子及び他の栄養素の存在により変化し得る。培地の補充に使用する増殖因子は動物の血液の血清由来であることが多く、例えばウシ胎仔血清(FBS)、仔ウシ血清、ウマ血清、ブタ血清及び/又はヒト血小板ライセート(hPL)である。細胞を維持するにあたって考慮すべき他の要素には、プレーティング密度(培地の1単位体積あたりの細胞数)及び懸濁又は付着培養における細胞の成長が含まれる。
【0027】
この方法は、本発明で提供する方法により作製される1つ以上のNK細胞を単離又は分離することをさらに含み得る。加えて、この方法は、この1つ以上のNK細胞を培養することをさらに含み得る。幾つかの態様においては、NK細胞株を作製する。
【0028】
本発明は、本明細書に記載の方法により作製した(1つ以上の)ナチュラルキラー(NK)細胞又は細胞株及び本発明で提供するNK細胞を含む組成物も包含する。特定の態様において、組成物は、本発明で提供するNK細胞又は細胞株の1つ以上を含む医薬組成物である。医薬組成物は、IL-2の全て又は機能性部分(例えば、(1つ以上の)IL-2タンパク質の全て又は機能性部分;IL-2の全て又は機能性部分をコードする核酸)をさらに含み得る。
【0029】
本明細書において、「IL-2」とは、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15及びIL-21も含むサイトカインファミリーのメンバーのことである。IL-2は、アルファ、ベータ及びガンマと名付けられた3本の鎖から成る受容体複合体を通してシグナル伝達を行う。ガンマ鎖はこのファミリーのサイトカイン受容体の全てのメンバーが共通して有する。IL-15と同様のIL-2はB細胞によりつくられる免疫グロブリンの産生を促進し、またNK細胞の分化及び増殖を誘発する。IL-2とIL-15との主な違いは、適応免疫応答に見られる。例えば、IL-2は外から来る病原体に対する適応免疫に必要である。免疫記憶の発達の基本だからである。他方、IL-15は、CD8メモリーT細胞の生存を支援することによる高度に特異的なT細胞応答の維持に必要である。
【0030】
別の態様において、本発明は、それを必要とする個体において、NK細胞療法が関わる疾患及び/又は状態を治療する方法を対象とし、個体に、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を投与することを含む。特定の態様において、NK細胞は、IL-15の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとして発現する。当該分野で公知であるように、NK細胞療法が関わる疾患及び/又は状態には、NK細胞欠乏症、がん、自己免疫疾患、感染性疾患等が含まれる。
【0031】
特定の態様において、本発明は、それを必要とする個体において、がん(例えば、腫瘍)を治療する方法を対象とし、この方法は、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現するナチュラルキラー(NK)細胞を個体に投与することを含む。IL-15の全て又は機能性部分は、膜結合ポリペプチド及び/又は分泌ポリペプチドとして発現させることができる。
【0032】
この方法は、がん(例えば、腫瘍)に特異的な1つ以上の抗体、抗原フラグメント及び/又はこれらの融合物を投与することをさらに含み得る。例えば、この方法は、1つ以上の腫瘍抗原を対象とした1つ以上の抗体を投与することをさらに含み得る。当業者ならばわかるように、1つ以上の抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多価(例えば、二価、三価)抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体等及びこれらの組み合わせになり得る。多種多様な抗原フラグメント及び/又は融合体も当該分野で公知であり、またFab’、F(ab’)2、単鎖可変フラグメント(scFv)、多価scFv(例えば、ジ-scFv、トリ-scFv)、シングルドメイン抗体(ナノボディ)等が含まれる。
【0033】
幾つかの態様において、がんは白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病)、骨髄異形成症候群、リンパ腫(例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞リンパ芽球性リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫)、固形腫瘍(例えば、乳がん、前立腺がん、胃がん、結腸がん、肝細胞がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、高悪性度グリオーマ)、肉腫(例えば、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、非横紋筋肉腫、軟部肉腫、骨肉腫)である。
【0034】
がんを治療する方法は、IL-2(IL-2タンパク質の全て又は機能性部分;IL-2の全て又は機能性部分をコードする核酸)を個体に投与することをさらに含み得る。一態様において、IL-2は哺乳類IL-2、例えばヒトIL-2である。特定の態様においては、低用量のIL-2を個体に投与する。本明細書において、IL-12の「低用量」とは、約100万IU/m2以下(例えば、約800,000IU/m2、600,000IU/m2、400,000IU/m2、200,000IU/m2、100,000IU/m2、80,000IU/m2、60,000IU/m2、40,000IU/m2、20,000IU/m2、10,000IU/m2、8,000IU/m2、6,000IU/m2、4,000IU/m2、2,000IU/m2、1,000IU/m2、800IU/m2、600IU/m2、400IU/m2、200IU/m2、100IU/m2)のIL-2の用量のことである。対照的に、IL-2の通常の用量は、約100万~約500万IU/m2である。
【0035】
インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を発現する1つ以上のナチュラルキラー(NK)細胞(例えば、治療化合物、医薬組成物)を、治療有効量(すなわち、例えばガンに関係する症状を改善する、がんの発症を予防若しくは遅延させる、また、がんの症状の重症度若しくは頻度を低下させる及び/又はがんの転移を予防、遅延若しくは克服することでがんを治療するのに十分な量)で投与する。特定の個体の治療において治療的に有効な量は、その状態(例えば、がん)の症状及び重篤度に左右され、また標準的な臨床技法により求めることができる。加えて、in vitro又はin vivoアッセイを任意で用いることは最適な用量範囲の割り出しに役立ち得る。処方で用いる精確な用量は投与経路及びがんの重症度にも左右され、また従事者の判断及び各患者の環境により決定すべきである。有効な用量は、in vitro又は動物モデル試験系で得た用量反応曲線から推定し得る。
【0036】
治療化合物は、上述したように、組成物にして(例えば、医薬組成物)又はそれだけで送達し得る。治療化合物は全身投与し得て、あるいは特定の組織を標的にし得る。治療化合物は多種多様な手段で製造し得て、例えば化学合成、組み換えによる製造、in vivoでの製造(例えば、Meadeらによる米国特許第4,873,316号等のトランスジェニック動物)が含まれ、また本明細書に記載するような標準的な手段を用いて単離し得る。上記治療方法のいずれの組み合わせも用い得る。
【0037】
本明細書に記載の方法で使用するための化合物を生理学的に許容可能な担体又は賦形剤と共に処方することで医薬組成物を調製し得る。担体及び組成物は無菌になり得る。処方は、投与様式に沿ったものでなくてはならない。
【0038】
適切な医薬的に許容可能な担体には、以下に限定するものではないが、水、食塩水(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭水化物、例えば乳糖、アミロース又はデンプン、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等及びこれらの組み合わせが含まれる。所望するならば、医薬製剤は助剤、例えば滑沢剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変えるための塩、バッファ、着色料、香味料及び/又は芳香物質並びに活性化合物と有害な形で反応することのない同様のものと混合し得る。
【0039】
所望するならば、組成物は少量の湿潤剤又は乳化剤又はpH緩衝剤も含有し得る。組成物は溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤又は粉末になり得る。組成物は、慣用のバインダ及び担体、例えばトリグリセリドと共に坐薬として処方し得る。経口製剤は標準的な担体、例えば医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を含み得る。
【0040】
これらの組成物の導入方法には、以下に限定するものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、局所、経口及び鼻腔内投与が含まれる。他の適切な導入方法は、(後述するような)遺伝子療法、再装填式又は生分解性のデバイス、粒子加速デバイス(「遺伝子銃」)及び徐放性ポリマーデバイスも含み得る。本発明の医薬組成物は、他の化合物との併用療法の一部として投与することもできる。
【0041】
組成物は、ヒトへの投与向けに適合させた医薬組成物としてルーチンの手順にしたがって処方し得る。例えば、静脈内投与用の組成物は典型的には滅菌等張水性バッファ中の溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるための局所麻酔剤も含み得る。概して、成分は、単位剤形、例えばアンプル又はサシェ等の有効成分の量を示す密封容器に入った凍結乾燥粉末又は水非含有濃縮物として別々に又は混合して供給する。組成物を注入で投与する場合は、医薬品グレードの滅菌水、生理食塩水又はブドウ糖/水のはいった点滴容器で分注し得る。組成物を注射で投与する場合は、成分を投与前に混合できるように注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルを用意し得る。
【0042】
局所的に適用する場合は、局所適用可能であり且つ好ましくは水より高い動的粘性を有する担体を含む非噴霧形態、粘性~半固形又は固形形態を利用できる。適切な製剤には、以下に限定するものではないが、望むならば滅菌され又は助剤(例えば、保存料、安定剤、湿潤剤、バッファ又は浸透圧等を変化させるための塩等)と混合する溶液、懸濁液、エマルション、クリーム、軟膏、粉末、浣腸剤、ローション、ゾル、リニメント剤、膏薬、エアゾール剤等が含まれる。
【0043】
本明細書に記載の化合物は、中性又は塩の形態で処方し得る。医薬的に許容可能な塩には遊離アミノ基と生成されたものが含まれ、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等由来のもの、遊離カルボキシル基と生成されたもの、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等由来のものである。
【0044】
さらに別の態様において、本発明は、インターロイキン15(IL-15)の全て又は機能性部分を膜結合ポリペプチドとして発現する1つ以上のNK細胞を含む医薬組成物を対象とする。本発明は、療法において薬物として使用するための組成物(例えば、医薬組成物)も対象とする。例えば、本明細書で同定した物質はがんの治療で使用し得る。加えて、本明細書で同定した物質は、がん治療用の薬物の製造に使用し得る。
【0045】
本明細書において、「個体」とは動物、また特定の態様において哺乳動物のことである。哺乳動物の例には、霊長類、イヌ、ネコ、齧歯類等が含まれる。具体例には、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、雌牛、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ラット及びマウスが含まれる。「それを必要とする個体」とは、研究者、獣医、医師又は他の臨床家が治療又は予防を必要とすると判断した個体のことである。一実施形態において、それを必要とする個体は哺乳動物、例えばヒトである。
【0046】
本明細書における(1つ以上の)「単離した」、「実質的に純粋な」又は「実質的に純粋な単離した」NK細胞は、NK細胞が自然に生じる複合細胞環境又は組み換え技法で作製する場合に培地又は化学的に合成する場合に化学的前駆体若しくは他の化学物質から分離される(から実質的に単離される)ものである。一部の例において、単離した材料は組成物(例えば、他の物質を含有する粗抽出物)、緩衝系又は試薬混合物の一部となる。他の状況においては、材料を、例えばアガロースゲル電気泳動又はHPLC等のカラムクロマトグラフィで確認するように、本質的に均質になるまで精製し得る。好ましくは、NK細胞は、存在する全ての巨大分子種の少なくとも約50%、80%、90%、95%、98%又は99%を含む(モル基準)。
【0047】
「a」や「an」、「the」等の冠詞は、別段の定めがない限り又はそうではないことが文脈から明らかでない限り1又は1以上を意味し得る。
【0048】
本明細書及び請求項で用いる「及び/又は」という表現は、そのように等位結合した要素の「一方又は両方」を意味すると理解すべきである。「及び/又は」を用いて列挙する複数の要素も同じように、すなわちそのように等位結合した要素の「1つ以上」であると解釈すべきである。「及び/又は」節で具体的に挙げた要素以外の他の要素も任意で存在し得る。本明細書及び請求項で使用の「又は」とは、上で定義した「及び/又は」と同じ意味を有すると理解すべきである。例えば、要素の一覧で使用する場合、「又は」又は「及び/又は」は包括的である、すなわち要素の一覧の少なくとも1つ、ただし任意で2つ以上、また任意で一覧にない追加の要素を含んでいると解釈される。そうではないことを明確に示す語句、例えば「~の1つだけ」又は「~のきっかり1つ」だけが、多数の又は一覧にした要素のきっかり1つの要素を含むことを示す。したがって、別段の定めがない限り、ある群の1つ以上の構成要素の間に「又は」を含む請求項は、その群の構成要素の1つ、2つ以上又は全てが所与の産物又は工程に存在する、用いられる又は別の形で関係するならば満たされたとみなされる。群のきっかり1つの構成要素が所与の産物又は工程に存在する、用いられる又は別の形で関係する実施形態を提供する。所与の産物又は工程において群の構成要素の2つ以上又は全てが存在する、用いられる又は別の形で関係する実施形態を提供する。いずれの1つ以上の請求項も、任意の実施形態、態様、構成、要素、特徴又はこれらの任意の組み合わせを明示的に除外するように補正し得る。いずれの1つ以上の請求項も、任意の物質、組成物、量、用量、投与経路、細胞型、標的、細胞マーカー、抗原、標的部分又はこれらの組み合わせを除外するように補正し得る。
【実施例0049】
材料及び方法
腫瘍細胞株
ヒト細胞株Nalm-6(B系列急性リンパ芽球性白血病)、Daudi(B細胞リンパ腫)、K562及びU937(急性骨髄性白血病)並びにSK-BR-3(乳がん)をAmerican Type Culture Collectionから入手し、ユーイング肉腫細胞株ES8をSt.Jude Children’s Research Hospitalの組織レポジトリから入手した。全ての細胞株を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むMSCV配列内リボソーム進入部位(IRES)-GFPレトロウイルスベクター(St.Jude Vector Development and Production Shared Resourceから入手)で形質導入した。形質導入細胞を、MoFlo(Beckman Coulter、マイアミ、フロリダ州)又はFACSAria(BD Biosciences、サンホセ、カリフォルニア州)でそのGFPの発現に関して選択した。10%ウシ胎仔血清(FBS、Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州)及び抗生物質を補充したRPMI-1640(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)を使用して全ての細胞株を維持した。細胞株は、供給元により分子及び/又は遺伝子発現の特色について特徴づけられた。白血病及びリンパ腫細胞株の細胞マーカープロファイルを定期的にフローサイトメトリで試験することで何の変化も起きていないことを確認し、ES8をDNAフィンガープリント法によりDSMZ(ブラウンシュヴァイク、ドイツ)で検証した。
【0050】
ヒトNK細胞増殖
末梢血サンプルを、健康な成人ドナーからの血小板採取物の不要な副産物から得た。単核細胞をAccu-Prepデンシティステップ(Accurate、ウェストバリー、ニューヨーク州)での遠心分離により精製し、RPMI-1640中で2回洗浄した。CD56+CD3-NK細胞を増殖するために、末梢血単核細胞及び遺伝子組み換えK562-mb15-41BBL細胞株を、過去にFujisaki et al.,Cancer Res,69(9):4010-4017(2009);Imai et al.,Blood,106:376-383(2005))に記載されたように共培養した。簡単に説明すると、末梢血単核細胞を100Gy照射K562-mb15-41BBL細胞と1.5:1の比で、10%FBS、抗生物質及び10IU/mLの組み換えヒトインターロイキン2(IL-2、Roche、マンハイム、ドイツ)を含有するSCGM(CellGenix、フライブルグ、ドイツ)中、6ウェル組織培養プレートで培養した。組織培地を部分的に2日毎に交換した。共培養7日後に、残存T細胞をDynabeads CD3(Invitrogen)で除去すると、>95%CD56+CD3-NK細胞を含む細胞集団が得られた。
【0051】
プラスミド、ウイルス作製及び遺伝子導入
pMSCV-IRES-GFP、pEQ-PAM3(-E)及びpRDFをSt.Jude Vector Development and Production Shared Resourceから入手した。長いシグナルペプチド付きインターロイキン15(IL-15)をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりテンプレートとして使用したヒト脾臓cDNAライブラリ(Dr G.Neale、St Jude Children’s Research Hospitalから入手)からサブクローニングした。CD8αのシグナルペプチドをコードするcDNA、IL-15の成熟ペプチド及びCD8αの膜貫通ドメインを、SOE-PCR(splicing by overlapping extension by PCR)法によりアセンブルすることで膜貫通型のIL-15をコードした(「mbIL15」)。野生型のIL-15(CD8α膜貫通ドメインに連結させていない。「wtIL15」)も試験し、用意した。得られた発現カセットをマウス幹細胞ウイルス配列内リボソーム進入部位緑色蛍光タンパク質(MSCV-IRES-GFP)のEcoRI及びXhoI部位にサブクローニングした。
【0052】
RD144シュードタイプ化レトロウイルスを作製するために、3.0x106個の293T細胞のトランスフェクションをX-tremeGENE 9 DNA(Roche、マンハイム、ドイツ)を使用して行い、10cm組織培養皿で18時間にわたってmbIL15コンストラクトをコードする3.5μgのcDNA、3.5μgのpEQ-PAM3(-E)及び3μgのpRDFと共に維持した。培地を10%FBS及び抗生物質を補充したRPMI-1640と24時間後に交換した後、レトロウイルスを含む馴化培地を36~96時間後に回収し、RetroNectin(Takara、オオツ、日本)をコーティングしたポリプロピレン管に加え、1400gで10分間にわたって遠心分離にかけ、37℃、5%CO2で4時間にわたってインキュベートした。さらに遠心分離し、上清を除去した後、増殖したNK細胞(0.5~1x106)を管に加え、37℃で12時間にわたって静置した。これらのステップを最高6回、2~3日かけて繰り返した。次に、細胞を、FBS、抗生物質及び100IU/mlのIL-2を加えたRPMI-1640で維持した。形質導入から3~29日後、形質導入細胞をアッセイした。
【0053】
mbIL-15の表面発現をフローサイトメトリにより抗ヒトIL-15抗体(R&D、ミネアポリス、ミネソタ州)及びフィコエリトリンコンジュゲートヤギ抗マウスIgG1(Southern Biotech、バーミンガム、アラバマ州)を使用して分析した。抗体染色を、Fortessaフローサイトメータ(Becton Dickinson)で検出した。培養上清におけるIL-15のレベルをQuantikine Immunoassay(R&D)で測定した。
【0054】
in vitroでのNK細胞の機能分析
in vitroでのNK細胞の生存及び成長を推定するために、形質導入NK細胞(1x106細胞/mL)を10%FBS及び抗生物質を補充したRPMI-1640に再懸濁させ、24又は96ウェルプレートのウェル(Costar、コーニング、ニューヨーク州)に入れ、IL-2(10~100IU/ml)不在下又は存在下で培養した。ヨウ化プロピジウムでの染色後、多数の生存GFP+細胞がAccuri C6フローサイトメータ(Becton Dickinson)で確認された。幾つかの実験においては、培養前に細胞を10分間にわたって中和抗IL-15抗体(R&D)又はアイソタイプにマッチした非反応性の抗体と共にインキュベートした。
【0055】
NK細胞免疫表現型検査を表に挙げた抗体を使用して行い、Fortessaフローサイトメータで可視化し、Diva(Becton Dickinson)及びFlowJo(TreeStar、アッシュランド、オレゴン州)ソフトウェアで分析した。リン酸化タンパク質分析の場合、mock及びmbIL15形質導入NK細胞(1x107)をIL-2不在下で48時間にわたって培養した。細胞ライセートを、20mMの3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸、2mMのEGTA、5mMのEDTA、30mMのフッ化ナトリウム、60mMのβ-グリセロホスフェート、20mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム、1%のTriton X-100、Complete Miniプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche、マンハイム、ドイツ)及び1mMのジチオスレイトールを含有する溶解バッファを使用して用意した。超音波処理後、ライセートを-80℃で凍結させ、Kinex Antibody Microarray解析のためにドライアイスに入れてKinexus(バンクーバー、カナダ)に輸送した。
【0056】
細胞障害性アッセイについては、ルシフェラーゼ標識標的細胞及びNK細胞(IL-2不在下で48時間にわたって培養)を96ウェル平底黒色Viewplates(Corning)に様々なエフェクタ:標的(E:T)比でプレーティングし、4又は24時間にわたって培養した。付着細胞株を37℃、5%CO2で4時間にわたってインキュベートしてからNK細胞を加え、細胞を付着させた。抗体依存性細胞障害性アッセイについては、リツキシマブ(Rituxan、Roche、マンハイム、ドイツ)、トラスツズマブ(Herceptin、Roche)又は精製ヒトIgG(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)を、NK細胞に先立って加えた(全て1μg/mL)。培養終了時、次に等量のBright-Gloルシフェラーゼ試薬(Promega、マディソン、ウィスコンシン州)を各試験ウェルに加え、5分後、発光をプレートリーダを使用して測定し、Gen5 2.00ソフトウェア(共にBioTek、ツーソン、アリゾナ州)で分析した。各プレートにおいて、標的細胞の生存率を、標的細胞のみが入ったウェルからの発光シグナルを用いて計算した。すべての実験を三重で行った。
【0057】
細胞障害顆粒の放出を測定するために、NK細胞(IL-2不在下で48時間にわたって培養)をK562、U937細胞又は721.221細胞及びそのCw6発現変異体と4時間にわたって共培養した。PE-又はPE-Cy7コンジュゲート抗CD107a抗体(BD Biosciences)を培養開始時に添加し、GolgiStop(0.15μL、BD Biosciences)を1時間後に添加した。CD107a+NK細胞の割合をフローサイトメトリにより求めた。
【0058】
免疫不全マウスにおけるNK細胞の増殖及び細胞障害性
NK細胞の増殖をin vivoで試験するために、mbIL15を形質導入したヒトNK細胞又はmock形質導入NK細胞(6~9x106細胞/マウス)をNOD.Cg-PrkdcscidIL2rgtm1Wjl/SzJ(NOD/scid IL2RGnull)マウス(Jackson Laboratories、バーハーバー、メイン州)の尾静脈に注射した。一部のマウスには、20000IUのIL-2を1週間に3回腹腔(i.p.)内注射した。7日目及び11日目に、セルカウンタ(Beckman Coulter)で血液細胞を数えた。細胞を赤血球溶解液(Invitrogen)で処理し、アロフィコシアニンコンジュゲートマウス抗ヒトCD45及びフィコエリトリンコンジュゲートラット抗マウスCD45抗体(共にBD Biosciences)で染色後、ヒト及びマウスCD45+細胞をフローサイトメトリにより数えた。安楽死後、骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺及び脳におけるヒトNK細胞を上記のように数えた。全ての動物実験を、National University of Singapore Institutional Animal Care and Use Committeeに認められたプロトコルに準拠して行った。
【0059】
マウスにおける腫瘍細胞の死滅を試験するために、2つの異種移植モデルを用意した。1つ目のモデルにおいては、ルシフェラーゼを発現するU937細胞をNOD.Cg-PrkdcscidIL2rgtm1Wjl/SzJ(NOD/scid IL2RGnull)マウス(1x104細胞/マウス)に腹腔内注射した。3日後、GFPのみ又はmbIL15を含むMSCVベクターで形質導入したNK細胞を腹腔内注射した(1x107細胞/マウス)。NK細胞注射を7日目に繰り返した。コントロールとして、あるマウス群はNK細胞の代わりに組織培地を注射された。第2のモデルにおいては、マウスにES8細胞を移植し(腹腔内。1x105細胞/マウス)、続いて上記のように1本のNK細胞注射を3日目に行った。腫瘍移植及び進行をXenogen IVIS-200システム(Caliper Life Sciences、ホプキントン、マサチューセッツ州)を用いて評価し、イメージングはD-ルシフェリンカリウム塩の水溶液(3mg/マウス)の腹腔内注射から5分後に開始した。ルシフェラーゼ発現細胞から放出された光子をLiving Image 4.3.1ソフトウェアプログラムを用いて定量化した。
【0060】
結果
IL-15コンストラクトの設計及びNK細胞における発現
ここで説明したように、2つの形態のIL15遺伝子がヒトNK細胞で発現した。ヒトIL15遺伝子をCD8αの膜貫通ドメインをコードする遺伝子に連結したコンストラクトから得られる膜貫通形態(「mbIL15」)、そして野生型無修飾形態(「wtIL15」)である。両方のコンストラクトを、GFPを含むMCSVレトロウイルスベクターに挿入し(
図1A)、ベクターを使用して、末梢血単核細胞を刺激細胞株K562-mb15-41BBL.28との培養後に得られた増殖NK細胞の形質導入に使用した。培養終了時、レトロウイルスによる形質導入前に、残存T細胞を抗CD3免疫磁気ビーズにより枯渇させると、>95%の純粋なCD56+CD3-細胞が得られた。GFP発現中央値はmbIL15を含むコンストラクトで71%(23~97%、n=60)であり、wtIL15を含むコンストラクトで69%(レンジ、20~91%、n=25)であった。GFPだけを含むベクターでも形質導入した同一ドナーからのNK細胞はGFP発現中央値84%(53~98%、n=60)を有した(
図1B)。
【0061】
mbIL15の形質導入後、IL-15はNK細胞膜上で発現した。40~63%(中央値、52;n=7)のGFP+NK細胞が、抗IL15抗体で検出したところ、IL-15を有した(
図1B)。対照的に、wtIL15を形質導入した細胞(n=4)又はmock形質導入NK細胞(n=7)においてIL-15は検出不可能であった。形質導入NK細胞による可溶性IL-15の産生は、培養から24時間後及び48時間後に回収した上清を試験することとで確認した。
図1Cに示すように、wtIL15を発現する細胞はかなりの量のIL-15を分泌したが、mbIL15-NK細胞においては最小限であり、mock形質導入NK細胞では検出不可能であった。
【0062】
IL-15を発現するNK細胞は自律的な生存及び増殖能を有する
IL-15の発現がNK細胞の生存の維持において外来のIL-2の代わりになるか否かを確認するために、15人のドナーから得たNK細胞にmbIL15コンストラクトを形質導入し、IL-2の不在下で培養した。次に、培養後の細胞数をmock形質導入NK細胞での並行培養におけるものと比較した。
図2Aに示すように、mbIL-15の発現はNK細胞の生存率を劇的に上昇させた。培養から7日後、細胞回収率中央値は85%であったが、生存mock形質導入NK細胞は事実上検出不可能であった(<1%、P<0.0001、対応t検定)。抗IL-15中和抗体を培養物に加えると、mbIL15の効果は有意に低下した(
図6A~6B)。15人のドナーのうち9人では、mbIL15 NK細胞の回収率をwtIL15を発現するNK細胞のものとも比較した。回収率は前者で有意に高かった(中央値、85%対56%、P=0.026、
図2A)。
【0063】
並行実験において、外来性のIL-2の存在下でのIL15発現の支持的作用を確認した。培養物が10IU/mLのIL-2を含む場合、mbIL15又はwtIL15を発現するNK細胞の7日目回収率はmock形質導入細胞の回収率より有意に高いままであった。これらの条件下、2つの形態のIL15の間で有意な差は見られなかった(
図6A~6B)。外来性のIL-2が高濃度(100IU/mL)で存在した場合のみ、mock形質導入NK細胞の7日目回収率が、IL15を形質導入したNK細胞のものに匹敵した(
図6A)。
【0064】
9人のドナーのうち6人からの増殖NK細胞を用いた実験において、低用量のIL-2(10IU/mL)でmbIL15がNK細胞の生存を7日を超えて支援する能力について確認した。14日目、mbIL15 NK細胞数はそのままであるか、あるいは6個の培養物のうち4個においては増加した。これらの細胞のうち2つは21日目までにさらに増殖した。同一ドナーからのmock形質導入NK細胞の6個の培養物のうち2つだけが14日目及び21日目に細胞数を維持しており、細胞成長は観察されなかった。21日目の細胞回収率中央値はmbIL15 NK細胞で205%、mock形質導入NK細胞で80%であった。したがって、低用量のIL-2の存在下であっても、mbIL15の発現は、生存及び成長に関して大きな利点をもたらした。
【0065】
1人のドナーからのNK細胞の培養物において、特に高い細胞回収率は、IL15が発現した場合の7日目に観察された(IL-2の不在下、mbIL15で261%、wtIL15で161%。10IU/mLのIL-2で266%及び188%)。これらの培養物を2ヶ月にわたってモニタしたところ、mbIL15の発現によりもたらされた細胞増殖及び生存における目覚しい改善が観察された(
図2C)。IL-2の不在下であっても、mbIL-15 NK細胞は21日目まで生存し続け、培養開始から75日後も依然として検出可能であったが、mock形質導入細胞は7日目には検出不可能となり、wtIL15形質導入NK細胞は42日目に検出不可能になった。低濃度(10IU/mL)のIL-2の存在下、mbIL15発現NK細胞の数は培養開始から2ヶ月後、最初に播種したものと同じであったが、生存mock形質導入及びwtIL15形質導入NK細胞はもっと早くに減少した。補足の
図6Bに示すように、IL-2を高用量(100IU/mL)で培養物に加えると、mbIL15又はwtIL15を形質導入したNK細胞は同様の持続性プロファイルを有し、両方の細胞型が、これらの条件下であっても、mock形質導入NK細胞より長く生存した。
【0066】
mbIL15 NK細胞のin vivoでの増殖及びホーミング
in vitroで行った実験は、IL15の発現によりNK細胞の生存及び増殖が改善されること、またmbIL15が全体的により良好な刺激を生み出すことを示した。mbIL15の発現がNOD/scid IL2RGnullマウスにおいてヒトNK細胞の増殖を持続させるか否かを次に確認した。4人のドナーからの活性化NK細胞にmbIL15(52~74%GFPポジティブ)を形質導入し、4匹のマウス(ドナー1人あたり1匹のマウス)に注射した。4匹のコントロールマウスに、同一ドナーからのmock形質導入NK細胞を注射した。mbIL15を発現するNK細胞はmock形質導入NK細胞よりはるかに多く増殖した。注射から7日後、血液のmbIL15NK細胞数/μl中央値は44.5(レンジ、42~60)であるのに対して、mock形質導入NK細胞は6.5(0~12)であった(P=0.004)(
図3A)。並行実験を同じ細胞で行い、今回は20,000IUヒトIL-2も2日毎に腹腔内投与した(
図3A)。これらの条件下、mbIL15 NK細胞はより一層増殖し(NK細胞/μl中央値、101;レンジ、60~167)、mock形質導入細胞は低いままであった(中央値、18;レンジ、6~20;P=0.021)。
【0067】
注射から11日目、mbIL15 NK細胞はIL-2の不在下で168.5細胞/μl(レンジ、94~355)の末梢血単核細胞を含み、IL-2も投与すると、382細胞/μl(151~710)を含んだ(
図3A、B)。対照的に、mock形質導入NK細胞を注射したマウスにおいて、ヒトCD45細胞は、IL-2不在下では事実上検出不可能であり、IL-2も注射した場合は低レベルで存在した(中央値、27;レンジ9~207;P=0.026)。ヒトCD45+細胞もCD56を発現し、CD3を欠く(図示せず)。注目すべきは、GFP+の割合が注射前の66.5%±9.9%から7日目の93.8%±4.4%、11日目の94.8%±3.4%に上昇したことである(両方の比較に関してP<0.01)。
【0068】
11日目の安楽死後、4匹のマウスのうち3匹を、各種組織におけるヒトCD45+細胞の存在について調べた。mbIL15が発現したならば、かなりの数のヒトNK細胞が骨髄、肝臓、脾臓、腎臓及び肺で検出された。全ての組織において、数はmock形質導入細胞で見られたものより際立って多かった(
図3C)。mbIL15を発現するCD45+細胞の割合の平均(±SD)はIL-2不在下で1.2%±1.5%、IL-2存在下で3.0%±4.3%であり、それに対してmock形質導入細胞では0.04%±0.09%及び0.4%±0.6%であった(それぞれP<0.001及びP=0.002)。唯一の例外は脳であり、mbIL15 NK細胞もmock形質導入NK細胞も検出されなかった。
【0069】
mbIL15刺激のメカニズム
mbIL15が主にトランス(1つのNK細胞上に提示されたIL-15が隣接細胞を刺激(生理学的に起きると報告されているメカニズム))で刺激するかシス(同じ細胞で発現した受容体へのmbIL15の直接結合による)で刺激するかを確認するために、培養物におけるGFP+及びGFP-NK細胞の割合を培養から7日後に評価した。トランスメカニズムが優勢であるならば、GFP+及びGFP-NK細胞間の比は培養中、変化しないはずであった。シスが優勢であるならば、GFP+細胞の割合が増加するはずであった。
図4Aはそのような分析の結果を示す。IL-2不在下での培養7日後に調べたNK細胞中のGFP+細胞の割合は、mbIL15が発現したならば一貫して上昇し、mock形質導入細胞の培養物では上昇しなかった。GFP+細胞は、0日目の80.5%±17.1%に対する71.2%±19.0%と比較すると、7日目に57.5%±18.6%に対して細胞集団全体の95.9%±3.3%を構成した(P<0.0001)。したがって、NK細胞で発現したmbIL-15による優勢な刺激メカニズムはオートクリンである。
【0070】
mbIL15を発現する細胞は本質的に、活性化されたNK細胞の免疫表現型を保持した。しかしながら、IL-2離脱から2日後にmock形質導入NK細胞と比較して調べたところ、mbIL15 NK細胞は、やや高いレベルの活性化受容体NKG2D、NKp44(CD336)及びNKp30(CD337)、またCD16及びCD56を発現したが、NKp46(CD335)の発現は低下し、他の分子、例えばDNAM-1(CD226)の発現は変化しないままであった(
図4B、表)。mbIL15の発現により活性化されたシグナル伝達経路も確認した。
図4Cに示すように、mock形質導入NK細胞と比較して、mbIL-15 NK細胞は幾つかの高度にリン酸化された分子を有した。これらにはIL-15シグナル伝達に応答してリン酸化されると知られる分子、例えば転写因子STAT1、STAT3及びSTAT5、キナーゼのsrc、Erk1/2及びMek1が含まれた。とりわけ、Badの際立ったリン酸化、またカスパーゼ7及び9のリン酸化(抗アポトーシス効果を集合的に示す)が観察された。IL-15シグナル伝達におけるその役割が不明なmbIL15 NK細胞における他の高度にリン酸化された分子にはCDK6及びRafAが含まれた。
【0071】
in vitro及びin vivoにおけるmbIL-15がNK細胞抗腫瘍細胞障害性に及ぼす作用
mbIL15の発現によりもたらされるNK細胞の生存及び増殖における改善は、NK介在性の腫瘍の死滅も増加するであろうことを示した。この考えをまず、mbIL15-NK細胞が発揮する腫瘍細胞障害性を同一ドナーからのmock形質導入NK細胞のものと比較することで試験した。白血病細胞株Nalm-6(B系列急性リンパ芽球性白血病)、U937及びK562(急性骨髄性白血病)、またDaudi(B細胞リンパ腫)、SKBR3(乳がん)及びES8(ユーイング肉腫)を標的とした異なるE:T比及び共培養時間の実験を、9人のドナーからのNK細胞を用いて全部で90通り行った。
図5Aは24時間アッセイの結果を示す。mock形質導入NK細胞の場合、1:4のE:Tで細胞障害性中央値は22%であり、1:1のE:Tでは54%であった。mbIL15 NK細胞の場合は、それぞれ71%及び99%であった(P<0.0001)。個々の細胞株での結果を
図7A~7Bに示す。上昇した細胞障害性は培養におけるNL細胞の生存率の上昇に関係しているようではあったが、K562又はU937細胞との培養後のCD107a染色で明らかになったように、mbIL15-NK細胞による細胞障害顆粒の放出の増加も観察された(P=0.0067、
図5B)。
【0072】
mbIL15の発現と関連したin vitro細胞障害性における向上は、ヒト腫瘍細胞を移植したNOD/scid IL2RGnullマウスでの実験に反映された。一連の実験においては、マウスにヒト急性骨髄性白血病(AML)細胞株U937を注射し、次にmbIL15-又はmock形質導入NK細胞で処置した。
図5C及び5Dに示すように、mbIL15形質導入NK細胞を与えられたマウスは無処置のマウス及びmoc形質導入NK細胞で処置したマウスより腫瘍成長が緩慢で、有意に長く生存した(P=0.014、トレンドに関するログランク検定)。細胞を第2の異種移植モデルでも試験し、このモデルにおいてはNOD/scid IL2RGnullマウスに、成長速度がはるかに緩慢なユーイング肉腫細胞株ES8を注射し、マウスに1本のNK細胞注射を処置した。補足の8A~8Cに示すように、mbIL15 NK細胞で処置したマウス(n=12)の成績は、mock形質導入NK細胞(n=11)及び無処置のマウス(n=7)のものより良好であった。生存日数中央値はそれぞれ162、49及び21日であった(P=0.005)。
【0073】
論考
がんのNK細胞をベースにした療法の成功を決める要素の中でも、おそらく最も基本的なものは、NK細胞が、腫瘍細胞切除を引き起こしやすいE:T比を達成するのに十分な数で持続することである。32 ここで実証されたことは、ヒトNK細胞における膜結合型のIL-15の発現がその自律的増殖を支援し且つIL-2の不在下で生存期間を延ばすことであった。mbIL15を発現するNK細胞は、外来性のIL-2不在下で最高2ヶ月にわたってin vitroで維持できた。mbIL15を発現するNK細胞は免疫不全マウスで増殖し、また様々な組織に浸潤でき、組織においてはmock形質導入細胞よりはるかに多量に見られた。mbIL-15 NK細胞の増殖は、in vitro及びin vivoの両方において、低濃度のIL-2によりさらに増大した。mbIL15の発現はNK細胞の細胞障害能を損なわなかった。実際、異種移植モデルにおいて、mbIL15 NK細胞は、mock形質導入細胞のものより強力な抗がん活性を発揮し、これはこのアプローチが、IL-2投与の副作用を回避しつつNK細胞注入の抗腫瘍能を改善し得ることを示している。
【0074】
本発明における発見は、ヒトNK細胞におけるIL-15の異所性発現が、IL-15が膜結合型で提示された場合に、分泌型より強力な生存促進作用を引き起こすことを示す。しかしながら、とりわけ、NK細胞で発現したmbIL15は、IL-15が他の細胞で提示された場合、トランスではなく優先的にシスで刺激を行う。すなわち、mbIL15は同じ細胞上のIL-15受容体に優先的に結合し、オートクリン刺激を引き起こすと考えられる。mbIL15形質導入NK細胞を抗IL-15抗体で標識した場合に一貫して観察された、GFPを強力に発現しているがIL-15をはっきりと欠いている細胞の割合がかなり高いことを示すIL-15発現パターンはこのメカニズムで説明される(
図1B)。これらの細胞においてIL-15は発現するもののその受容体に結合してしまう及び/又は内部移行してしまうため抗体にはアクセスできないという仮説がたてられる。特には24時間in vitroアッセイ及びin vivoにおいて、これらの細胞が発揮するより高い細胞障害性は、mbIL15がNK細胞の生存能を増進できることで説明されると思われる。しかしながら、mbIL15-NK細胞の優位は短期(4時間)アッセイでも明らかであり、これらの細胞はCD107a試験でより多くの細胞障害顆粒も放出した。したがって、mbIL15の発現はNK細胞の細胞障害性を、他の方法、おそらくはその活性化状態を強化することで上昇させると考えられる。
【0075】
NK細胞の臨床投与は典型的にはIL-2に依存してin vivoでのその生存及び増殖を支援している。しかしながら、IL-2の投与に関係した複数の副作用は重いものになる可能性があり、またこのサイトカインの投与を耐容性不良なものにしてしまうことが多い。IL-2の投与を停止する又はその用量を減らすことでNK細胞の増殖が低下し、抗腫瘍作用が不十分なものとなる可能性があり、抗腫瘍作用は制御性T細胞の刺激によりさらに阻害され得る。そのため、IL-2をIL-15で置き換えることは潜在的に魅力ではあるものの、IL-15の臨床用の製剤化は依然として試験中である。アカゲザルに投与した場合、全体的に耐容性は良好であったものの、一部のサルでは、下痢、嘔吐、体重減少、一過性の好中球減少、トランスアミナーゼの増加及び低ナトリウム血症を含めた有害作用が観察された。T及びNK細胞の増殖に加えて、制御性T細胞の増殖が観察された。wtIL15を形質導入したNK細胞とは異なり、mbIL15を形質導入したNK細胞は極めて少量のIL-15を上清において放出した。このため、IL-15のNK細胞以外の細胞との相互作用により引き起こされ得る潜在的な副作用はこのアプローチにより最小限に抑えられる。注目すべきは、マウス大型顆粒リンパ球のIL-15への長時間にわたる曝露がその白血病の増殖につながることである。これは患者へのIL-15の投与、またIL-15を発現するNK細胞の使用に関わる潜在的な安全性に関わる懸念を、特にはそのような細胞を再発のリスクが低い患者に投与する場合に生む。しかしながら、本明細書に記載の実験において、mbIL15を発現するNK細胞の生存期間は概して、可溶性IL-15を発現するT細胞クローンに関して報告されている1年以上よりはるかに短い。さらに、免疫不全マウスにおいて、9ヶ月を超える追跡調査で、持続的なNK増殖は観察されなかった。
【0076】
NK細胞の抗がん能力をサポートする多くの臨床的エビデンスがある。NK細胞は、モノクローナル抗体を処置された患者における抗体依存性細胞障害性の媒介においても極めて重要な役割を果たしている。したがって、NK細胞の注入は多種多様な状況で有益となる可能性がある。ex vivoでのヒトNK細胞の大量増殖は実現可能である。これを目的としたロバストで大規模な方法は確立されており、臨床試験で用いられている。レトロウイルスによる形質導入又はエレクトロポレーションによるNK細胞の遺伝子組み換えも可能である。したがって、本明細書に記載のアプローチの臨床グレード条件への変換は現実的であり、またmbIL15-NK細胞の優れた増殖及び細胞障害性により保証されている。
【0077】
【0078】
1細胞マーカーを、IL-2不在下の培養から48時間後に分析した。抗体はBD Biosciences(CD56 PE、CD16 PE-Cy7、CD69 PE、CD25 PE-Cy7、CD122 BV421、CD158b PE)、Beckman Coulter(CD335 PE、CD336 PE、CD337 PE、CD158ah PE、CD159a PE)、Miltenyi Biotech(CD226 PE、CD158e APC)、R&D Systems(NKG2D PE)及びBiolegend(CD132 APC)から入手した。
【0079】
2割合とは、マーカーを発現するGFP+細胞のことである。
【0080】
3過剰発現したマーカーは太字で強調している。
【0081】
MFIは蛍光強度を意味する。
【0082】
本明細書で引用した全ての特許、公開出願及び参考文献の教示は参照により全て本明細書に援用される。
【0083】
本発明をその実施形態例に言及しながら詳しく示し、説明してきたが、当業者ならば、添付の請求項が包含する本発明の範囲から逸脱することなく形態及び細部において様々な変更を加え得ることがわかる。