(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184898
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】転移期前立腺癌を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20221206BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61P35/04
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022142833
(22)【出願日】2022-09-08
(62)【分割の表示】P 2020129022の分割
【原出願日】2009-02-10
(31)【優先権主張番号】61/027,741
(32)【優先日】2008-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】08250703.9
(32)【優先日】2008-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】61/147,956
(32)【優先日】2009-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507372198
【氏名又は名称】フエリング・インターナシヨナル・センター・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ペルソン,ボーエリック
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象の転移期前立腺癌の治療のための組成物を提供する。
【解決手段】デガレリクスを含む組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の転移期前立腺癌(metastatic stage prostate can
cer)を治療するためのデガレリクス(degarelix)を含む組成物。
【請求項2】
前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値(baseline l
evel)(治療前)が約150IU/L以上、例えば、約160IU/L以上である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記対象の血清アルカリホスファターゼの基準値が200IU/L以上である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
治療のおよそ第60日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファタ
ーゼ値が、前記基準値(S-ALP)より少なくとも50IU/L以上減少する、請求項
1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
治療の第364日から第450日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ
値が、前記基準値(S-ALP)より約50IU/L以上減少する、請求項1から4のい
ずれかに記載の組成物。
【請求項6】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ
値が、前記基準値(S-ALP)より約90IU/L以上減少する、請求項1から5のい
ずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記対象のヘモグロビン(Hb)値が130g/L以下である、請求項1から6のいずれ
かに記載の組成物。
【請求項8】
前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値が300IU/L以上で
ある、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ
値が、前記基準値(S-ALP)より約160IU/L以上減少する、請求項6および7
のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記対象は、50ng/mL以上のPSA値を有する、請求項1から9のいずれかに記載
の組成物。
【請求項11】
治療の第112日から第364日の間の期間において、前記対象の血清アルカリホスファ
ターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より、約60IU/L以上減少する、請求項10
に記載の組成物。
【請求項12】
デガレリクスを初回用量160~320mgで投与し、及びその後は維持用量60~16
0mgで20~36日ごとに1回投与するための、請求項1から11のいずれかに記載の
組成物。
【請求項13】
デガレリクスを、初回用量約240mgで投与し、及びその後は維持用量約80mgで約
28日ごとに1回投与するための、請求項1から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも95%の可能性で、前記対象が、治療の第28日までに、0.5ng/ml以
下という治療上低い血清テストステロン値を維持する、請求項1から13のいずれかに記
載の組成物。
【請求項15】
少なくとも95%の可能性で、前記対象が、治療の第28日から第365日まで、0.5
ng/ml以下という治療上低い血清テストステロン値を維持する、請求項1から14の
いずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記対象のPSAが、治療の第14日までに少なくとも60%減少する、例えば治療の第
28日までに少なくとも75%減少する、請求項1から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
少なくとも80%の可能性で、PSA値を、治療中5ng/ml未満に維持する治療のた
めの、請求項1から16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
PSA値が50ng/mL以上である対象の前立腺癌を治療するためのデガレリクスを含
む組成物。
【請求項19】
対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値が約150IU/L以上であ
り、例えば、約160IU/L以上である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-
ALP)基準値が、約60IU/L以上の負の変化をする、請求項18または19に記載
の組成物。
【請求項21】
前記対象は、130g/L以下のヘモグロビン(Hb)値を有する、請求項18から20
のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
対象の限局性または局所進行性前立腺癌(localized or locally
advanced prostate cancer)が転移期前立腺癌へ進行すること
を遅延または予防するためのデガレリクスを含む組成物。
【請求項23】
前記対象は、10~50ng/mLのPSA値を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象は、20~50ng/mLのPSA値を有する、請求項22または請求項23に
記載の組成物。
【請求項25】
前記対象は、44~147IU/Lの間の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値
を有する、請求項22から24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
前記対象は、160IU/L未満の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有す
る、請求項22から24のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
前記対象は、50~160IU/Lの血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有
する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
デガレリクス160~320mgの初回用量投与、及びその後20~36日ごとに1回ず
つのデガレリクス60~160mgの維持用量投与をするための、請求項18から27の
いずれかに記載の組成物。
【請求項29】
対象の転移性前立腺癌の治療のための薬剤の製造におけるデガレリクスの使用であって、
前記治療は、デガレリクスの、160~320mgの初回用量における投与と、その後、
20~36日ごとに1回ずつ60~160mgの維持用量における投与とを含む使用。
【請求項30】
対象の限局性または局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を遅延または予防する
ための薬剤の製造における、デガレリクスの使用であって、前記治療は、デガレリクスの
、160~320mgの初回用量における投与と、その後、20~36日ごとに1回で6
0~160mgの維持用量における投与とを含む使用。
【請求項31】
前記治療は、約240mgのデガレリクスの初回用量における投与と、その後、約28日
ごとに1回ずつ約80mgのデガレリクスの維持用量における投与とを含む、請求項29
から30のいずれかに記載の使用。
【請求項32】
対象の転移期前立腺癌を治療する方法であって、約240mgのデガレリクスの初回用量
を前記対象に投与するステップ、および、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデ
ガレリクスの維持用量を前記対象に投与するステップ等の、160~320mgのデガレ
リクスの初回用量を前記対象に投与するステップと、その後、20~36日ごとに1回ず
つ60~160mgのデガレリクスの維持用量を前記対象に投与するステップとを含む方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
前立腺癌は、男性の癌に関連した死亡の約9%を占める、先進工業国の男性の罹患率お
よび死亡率の主な原因である。前立腺癌は、肺癌に続く、米国人男性の癌死亡の2番目に
主な原因である。米国癌協会(American Cancer Society)は、
27,050人の米国の男性が2007年に前立腺癌で死亡したと推定している。欧州で
は、前立腺癌は、欧州の男性の癌による死亡の3番目に最も多い原因であり、2006年
に87,400例の死亡が推定されている(Ferlay et al. (2007)
Ann. Oncol.; 18:581-92; Lukka et al. (2
006) Curr. Oncol.; 13:81-93を参照)。
【0002】
10例中9例を超える前立腺癌が、限局期および局所進行期(localized a
nd locally advansed stages)に発見される。癌がない同じ
年齢および人種の男性と比較して(相対生存)、限局期および局所進行期癌があると診断
された男性の5年相対生存率は、ほぼ100%である。しかしながら、診断時に身体の遠
位部にすでに広がった転移期前立腺癌がある男性の5年相対生存率は、約32%しかない
(Cancer Trends Progress Report (http://
progress report.cancer.gov; SEER Program
、およびNational Center for Health Statistic
s;http://seer.cancer.gov/を参照)。この最後の転移期では
、生存率の急降下は、痛み(例えば、骨の痛み)、体重減少、および疲労を含む症状を伴
う。したがって、骨転移性腫瘍細胞成長の低減または延期につながる治療は、最大で約3
年以上となる場合がある、平均余命の増加を提供するだけでなく、これらの症状が改善さ
れるにつれて、生活の質(QoL)の向上も提供する。
【0003】
前立腺癌の大部分がテストステロン依存性に増殖するため、現在の進行前立腺癌の医療
管理は、両側精巣摘除によって、またはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体
作用薬の投与によって達成され得る、アンドロゲン遮断等のホルモンに基づいた治療を伴
う。精巣の摘出(去勢)が、長年、前立腺癌の成長を低減するための手段として、男性ホ
ルモンの分泌を防止する標準的方法であった。近年、男性ホルモンの分泌を、アンドロゲ
ンの合成を調節する、黄体形成ホルモン(LH)の産生を妨害することによる化学的手段
によって障害するようになってきている。無作為研究からの証拠は、リンパ節転移の有無
にかかわらず、非転移性局所進行疾患における早期の内分泌療法が、延命効果と関連する
ことを強く示唆している(Granfors et al. (1998) J. Ur
ol. 159:2030-34; Messing et al. (1999) N
. Eng. J. Med. 341:1781-88; and (1997) B
r. J. Urol. 79:235-46を参照)。
【0004】
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は、黄体形成ホルモン(LH)の産生を促進
するように下垂体の中の受容体と相互作用する、視床下部によって産生される天然ホルモ
ンである。LH産生を減少させるために、ロイプロリドおよびゴセレリン等の、GnRH
受容体(GnRH-R)の作用薬が開発されてきた。GnRH-R作用薬は、最初にLH放
出を促進するように作用し、長期治療後に初めて、LHがもはや産生されないように、G
nRH-Rを脱感作するように作用する。作用薬によるLH産生の初期刺激は、作用薬療
法に対する初期反応が、患者の症状の改善よりもむしろ悪化である(例えば、腫瘍成長が
増加する場合がある)ように、男性ホルモンの産生の初期急増につながる。「テストステ
ロン急増」または「発赤反応」として知られている、この減少は、2~4週間も持続し得
る。加えて、作用薬の各連続投与は、症状をさらに悪化させ得る、付加的な少量LH急増
(「急性増悪」現象として知られている)を引き起こし得る。テストステロン急増は、前
立腺癌を刺激して、現在の症状の悪化、または脊髄圧迫、骨の痛み、および尿道閉塞等の
新規症状の出現につながり得る(Thompson et al. (1990) J.
Urol. 140:1479-80; Boccon-Gibod et al. (
1986) Eur. Urol. 12: 400-402)。GnRH作用薬療法用
ロイプロリド(同様に、リュープリンまたはLUPRON DEPOT)の相対的効力お
よび安全性(副作用を含む)が、当技術分野において公知である(例えば、Persad
(2002) Int. J. Clin. Pract. 56:389-96;
Wilson et al. (2007) Expert Opin. Invest
. Drugs 16:1851-63;およびBerges et al. (200
6) Curr. Med. Res. Opin. 22:649-55を参照)。テ
ストステロン急増(発赤反応)を回避するために取られている1つのアプローチは、完全
アンドロゲン除去療法(AAT)として知られている、フルタミド等の抗アンドロゲンと
、GnRH-R作用薬の投与を組み合わせるものである。抗アンドロゲンと組み合わせた
、GnRH-R作用薬によるホルモン療法は、補助療法として知られている根治的前立腺
摘出術前の前治療として使用されてきた。しかしながら、抗アンドロゲンの使用は、重篤
な肝臓および胃腸の副作用と関連する。
【0005】
抗アンドロゲンと関連する欠点は、GnRH作用薬と関連する「テストステロン急増」
または「発赤反応」を克服するように、ゴナドトロピン放出ホルモン受容体(GnRH-
R)の拮抗薬の開発につながってきた。GnRH拮抗薬は、GnRH受容体に競争的に結
合し、それを遮断し、LHおよび卵胞刺激ホルモンホルモン(FSH)分泌の急速な減少
を引き起こし、それにより、初期刺激/急増を伴わずにテストステロン産生を低減する。
しかしながら、GnRH拮抗薬ペプチドが、しばしば、ヒスタミン放出活性と関連する。
ヒスタミン放出が浮腫および掻痒等の副作用をもたらすため、このヒスタミン放出活性は
、そのような拮抗薬の臨床的使用にとって深刻な障害を表す。
【0006】
改良されたGnRH拮抗薬の模索によって、アンチド(Antide)、セトロレリッ
クス(Cetrorelix)、およびアンタレリックス(Antarelix)(米国
特許第5,516,887号)の作製がもたらされてきた。5位および6位においてその
ような著しく修飾されたまたは非天然アミノ酸を有する、GnRH拮抗薬は、良好な生物
学的効果を示し、Aph上に構築されたものは、概して、特に効能があると見なされる。
特異に有用なものは、アザリンB(Azaline B)である。国特許第5,506,
207号はまた、5位および6位に残基のアシル化アミノ置換フェニルアラニン側鎖を伴
う、生物学的効能GnRH拮抗薬も開示している。そのようなデカペプチドの1つは、ア
シリン(Acyline)である。
【0007】
この一群のGnRH拮抗薬の魅力的な性質にもかかわらず、副作用が観察されている。
GnRH拮抗薬アバレリックス(PLENAXIS)の相対的効力および安全性(副作用
を含む)が報告されている(例えば、Mongiat-Artus et al. (2
004) Expert Opin. Pharmacother. 5:2171-9
;およびDebruyne et al. (2006) Future Oncol.
2:677-96を参照)。そのようなものとして、なおもさらに改良されたGnRH
拮抗薬、特に、生物学的作用の長い持続時間、および改良された安全性プロファイルを組
み合わせるものについて、模索が継続されている。
【0008】
前立腺癌の治療のためのGnRH拮抗薬、デガレリクスに関する、いくつかの交付済み
特許および特許出願において、これらの望ましい特徴が扱われている(例えば、その内容
が全体で参照することにより本明細書に組み込まれる、欧州特許第EP 1003774
号、米国特許第US 5,925,730号、米国特許第US6,214,798号、欧
州特許第EP 02749000.2号、および米国特許第U.S.S.N. 12/1
55,897号、および欧州特許第EP 08250703.9号を参照)。加えて、米
国特許第U.S.S.N. 61/027,742は、全身性アレルギー反応を伴わずに
、デガレリクスが良好な耐性を示すことを実証する、多施設無作為臨床研究における長期
評価の結果を開示している。デガレリクス治療はまた、テストステロン(T)急増を伴わ
ずに、テストステロンの急速かつ著しい持続的抑制、ならびに良好な効力および安全性所
見をもたらした。
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、継続的調査によって、前立腺および他の癌の一般予防および治療の進歩
を可能にしてきたが、癌の後期転移期において罹患している患者に対処することには、ほ
とんど、または全く焦点が当てられてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、部分的には、転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上の
PSA値を有する患者へのGnRH拮抗薬デガレリクスの投与が、血清アルカリホスファ
ターゼ(S-ALP)の顕著で長期的な減少を提供するという、驚くべき所見に基づく。
この減少は、(例えば、骨格)転移のより良好な制御を示す(実施例1、
図1-4、表2
を参照)。これらの結果はさらに、デガレリクスの投与が、限局性または局所進行期前立
腺癌(localized and locally advulansed stag
e prostate cancer)から転移期への進行を遅延または予防する場合が
あることを示す。さらに、これらの結果は、これらの患者へのデガレリクスの投与が、ホ
ルモン抵抗性期への進行を遅らせることに関連することを示す。とりわけ、このS-AL
Pの顕著な長期的減少は、GnRH作用薬ロイプロリド(leuprolide)の投与
後には示されない。
【0011】
一つの側面においては、本発明は、対象の転移期前立腺癌(metastatic s
tage prastate cancer)を治療する方法を提供する。この方法は、
転移期前立腺癌を有する適切な対象を同定する最初のステップと、次いで、160~32
0mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップとを含む。次いで、対象には
、その後、20~36日ごとに1回、60~160mgのデガレリクスの維持用量が投与
される。それにより、この方法は、対象の転移期前立腺癌を治療する。特定の側面では、
本発明は、転移期前立腺癌がある適切な対象を同定する最初のステップと、次いで、約2
40mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップとを含む、対象の転移期前
立腺癌を治療する方法を提供する。次いで、対象には、その後、20~36日ごとに1回
、60~160mgのデガレリクスの維持用量が投与される。それにより、この方法は、
対象の転移期前立腺癌を治療する。
【0012】
本発明の方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-AL
P)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値(baseline S-ALP le
vel)が150IU/L以上、例えば、160IU/L以上であれば、治療の対象とし
て選択することによって、対象を同定する。さらなる実施形態では、対象候補の血清アル
カリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が200I
U/L以上であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。なお
もさらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検
査し、次いで、そのS-ALP基準値が300IU/L以上であれば、治療対象として選
択することによって、治療対象を同定する。
【0013】
本発明の方法のさらなる実施形態では、対象候補のヘモグロビン(Hb)値を検査し、
次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象として選択することによって
、治療対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象候補の前立腺特異抗原(PS
A)値を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上であれば、対象として選択
することによって、対象を同定する。特定の実施形態では、対象のS-ALPは、治療の
第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも60IU/L減少する。
【0014】
本発明の方法のさらなる実施形態では、治療対象の血清アルカリホスファターゼ(S-
ALP)は、治療の第60日から第364日の間に、基準値から少なくとも50IU/L
低減される。他の実施形態では、対象のS-ALPは、治療の第364日から第450日
の間に、基準値から少なくとも50IU/L低減される。さらなる実施形態では、治療対
象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも90
IU/L低減される。なおもさらなる実施形態では、治療対象のS-ALPは、治療の第
112日から第364日の間に、基準値から少なくとも160IU/L低減される。
【0015】
本発明の方法のさらなる実施形態では、治療対象は、治療の第28日までに、0.5n
g/ml以下の治療上低い血清テストステロン値を維持するという、少なくとも95%の
可能性を有する。特定の実施形態では、治療対象は、治療の第28日から第365日に、
0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持するという、少なくと
も95%の可能性を有する。
【0016】
本発明の方法のなおもさらなる実施形態では、治療対象は、治療の第14日までに、前
立腺特異抗原(PSA)の値の少なくとも60%の減少を有する。ある実施形態では、治
療対象は、治療の第28日までに、PSAの値の少なくとも75%の減少を有する。さら
なる実施形態では、治療対象は、治療中、5ng/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)
値を維持するという、少なくとも80%の可能性を有する。
【0017】
さらなる側面では、本発明は、最初に、対象候補(potential subjec
t)の前立腺特異抗原(PSA)を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上
であれば、治療対象として選択することによって、前立腺癌を治療する方法を提供する。
この方法はさらに、60~320mgのデガレリクスの初回用量を、このようにして同定
された対象に投与するステップと、次いで、対象の前立腺癌を治療するよう、その後、2
0~36日ごとに1回、60~160mgのデガレリクスの維持用量を投与するステップ
とを含む。
【0018】
本発明の方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-AL
P)値を検査し、次いで、その基準S-ALP値が150IU/L以上、例えば、160
IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。あ
る実施形態では、治療対象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基
準値から少なくとも60IU/L低減される。さらなる実施形態では、対象候補のヘモグ
ロビン(Hb)値を検査し、次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象
として選択することによって治療する対象を同定する。
【0019】
別の側面では、本発明は、対象の転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを使用す
る方法を提供する。このデガレリクスの使用方法は、転移期前立腺癌がある適切な対象を
同定する最初のステップを含む。次いで、このようにして同定された対象には、160~
320mgのデガレリクスの初回用量が投与され、その後、20~36日ごとに1回ずつ
、60~160mgのデガレリクスの維持用量が投与され、それにより、転移期前立腺癌
の治療のためのデガレリクスを使用する。
【0020】
デガレリクスの使用方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ
(S-ALP)値を検査し、次いで、その基準S-ALP値が160IU/L以上であれば
、治療対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。さらな
る実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次
いで、その基準S-ALP値が200IU/L以上であれば、治療対象として選択するこ
とによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象
候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基
準値が300IU/L以上であれば、対象として選択することによって、転移期前立腺癌
がある対象を同定する。ある実施形態では、対象候補のヘモグロビン(Hb)値を検査し
、次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象として選択することによっ
て、転移期前立腺癌がある対象を同定する。他の実施形態では、対象候補の前立腺特異抗
原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上であれば、治療対
象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。
【0021】
別の側面では、本発明は、対象の局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を予防
するために、デガレリクスを使用する方法を提供する。局所進行性前立腺癌の進行を予防
するためのデガレリクスの使用方法は、局所進行性前立腺癌がある適切な対象を同定する
最初のステップを含む。次いで、このようにして同定された対象に、160~320mg
のデガレリクスの初回用量が投与され、その後、20~36日ごとに1回ずつ、60~1
60mgのデガレリクスの維持用量が投与される。それにより、このデガレリクスの使用
方法は、対象の局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を予防する。
【0022】
転移期前立腺癌を予防するためのデガレリクスの使用方法のある実施形態では、予防的
治療対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSAが10~50
ng/mLであれば、予防的治療の対象として選択することによって、局所進行性前立腺
癌がある対象を同定する。さらなる実施形態では、対象候補の前立腺特異抗原(PSA)
値を検査し、次いで、そのPSAが20~50ng/mLであれば、予防的治療対象とし
て選択することによって、局所進行性前立腺癌がある対象を同定する。なおもさらなる実
施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで
、そのS-ALP基準値が約160IU/L未満、例えば、44~147IU/Lの間お
よび/または50~160IU/Lの間であれば、予防的治療対象として選択することに
よって、局所進行性前立腺癌がある対象を同定する。
【0023】
一つの側面における本発明によれば、対象の転移期前立腺癌を治療するためのデガレリ
クスを含む組成物(例えば、医薬組成物、薬剤)が提供される。一つの側面における本発
明によれば、50ng/mL以上のPSA値を有する対象の前立腺癌の治療のためのデガ
レリクスを含む組成物(例えば、医薬組成物、薬剤)が提供される。
【0024】
本明細書で使用されるような、転移という用語は、癌が、発生部位から、身体のより遠
隔または遠位部、例えば、リンパ節、骨、および/または脳あるいは肝臓等の他の器官に
広がった時に形成する、悪性腫瘍の2次転移性成長を指す。したがって、「転移性」また
は「転移期前立腺癌」という用語は、腫瘍原発部位、例えば前立腺、から遠位器官に広が
った癌を指す。
【0025】
本明細書では、「転移期前立腺癌の治療」および「転移期前立腺癌を治療する」関連方
法は、例えば、骨、脳、肺、および/またはリンパ節における転移性病変等の、転移性病
変(腫瘍)の数および/またはサイズを低減することによって、癌組織の量を低減する治
療および関連方法を含む。本明細書で使用されるような、「転移期前立腺癌の治療」およ
び「転移期前立腺癌を治療する」関連方法は、骨格転移(例えば、骨のスキャンまたは他
の撮像技法によって、骨格で同定される転移性病変)を低減する治療および関連方法を含
む。
【0026】
本明細書では、「転移期前立腺癌の治療」および「転移期前立腺癌を治療する」関連方
法はさらに、転移期前立腺癌と関連する1つ以上の症状を低減および/または改善する治
療および関連方法、例えば、尿障害(例えば、閉塞、弱い、または断続排尿、頻尿、排尿
困難、排尿中の痛み、血尿)の症状を改善および/または低減する治療、(例えば、腰背
部、腰部、または大腿部における)骨の痛みを低減および/または改善する治療、および
/または体重減少、疲労を低減および/または改善する治療を含む。
【0027】
本発明の別の側面では、転移性病変の数および/またはサイズを低減するように、およ
び/または、転移期前立腺癌と関連する1つ以上の症状を低減および/または改善するよ
うに、転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む組成物が提供される。
【0028】
「転移期前立腺癌の予防」および「転移期前立腺癌を予防する」関連方法という用語は
さらに、局所進行期にある、前立腺癌の治療を受けている対象において、転移活性の発現
を予防する、または転移活性のレベルを維持する(例えば、投薬の開始時に分かっている
レベル、すなわち、基準(baseline)において)、または(例えば、S-ALP
によって測定されるような)転移活性の回復(return)を低減および/または遅延
する、治療および関連方法を含む。この文脈における「転移活性のレベル」という表現は
、対象における転移性腫瘍のサイズおよび/または数を指すが、対象の転移率を指すもの
ではない。
【0029】
したがって、本発明は、疾患の進行を遅延または予防する、および/または、疾患の退
行または寛解(regression or remission)をもたらすかまたは
増進する、治療および関連方法を含む。例えば、「転移期前立腺癌の予防」および「転移
期前立腺癌を予防する」関連方法という用語は、患者の寿命を延ばす、および/または生
活の質(QoL)を増加させる、治療および関連方法を含む。
【0030】
本明細書では、「転移性(期)前立腺癌の治療」および「転移性(期)前立腺癌を治療
する関連方法」、または「前立腺癌の治療」および「前立腺癌を治療する関連方法」とい
う用語はまた、ホルモン抵抗性疾患期(hormone-refractory dis
ease stage)の発現を遅延または予防する、治療および関連方法を含んでもよ
い。
【0031】
したがって、さらに別の側面における本発明によれば、対象の前立腺癌の治療のための
デガレリクスを含む組成物と、転移性腫瘍活性の回復の見込みを低減する、および/また
は回復を遅延する、および/または疾患の進行を遅延または予防する、および/または疾
患の退行または寛解をもたらすか、または増大させる、および/または、患者の寿命を延
ばす、および/または生活の質(QoL)を増加させる、および/またはホルモン抵抗性
疾患期の発現を遅延または予防する、関連治療方法とが、提供される。
【0032】
「前立腺癌の治療」および「前立腺癌を治療する関連方法」という用語はまた、前立腺
癌を治癒させる治療および関連方法も含む。
【0033】
ここで、出願人らは、転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上のP
SA値を有する患者へのGnRH拮抗薬デガレリクスの投与が、血清アルカリホスファタ
ーゼ(S-ALP)の顕著で長期的な低減を提供することを開示する(
図1および4、表
2を参照)。S-ALP値の低減が著しいだけでなく、より重要なことには、長期間にわ
たるS-ALP値の安定に維持された低値(
図3参照)は、(例えば、骨の)転移のより
良好な制御をも示すものである。このS-ALPの顕著な長期的低減は、GnRH作用薬
ロイプロリドの投与後には示されない。
【0034】
転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上のPSA値を有する患者へ
のGnRH拮抗薬デガレリクスの投与後の、S-ALPの顕著な長期的低減は、これらの
患者へのデガレリクスの投与が、ホルモン抵抗性期への癌の進行を遅延するかもしれない
ことを示す。
【0035】
対象は、約150IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値(
つまり、治療前、すなわち、テストステロンの初回用量の投与前のS-ALP値)、例え
ば、約160IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値、例えば
、約200IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値、例えば、
約300IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値を有してもよ
い(表2参照)。
【0036】
デガレリクス組成物は、デガレリクスの初回用量の投与後、約60~364日の間の期
間に、血清アルカリホスファターゼ値(S-ALP)を基準値より少なくとも約50IU
/L低減(または、言い換えれば、基準値からの負の変化)させてもよく、および/また
は、デガレリクスの初回用量の投与後、約112~364日の間の期間に、基準値より少
なくとも約90IU/L低減させてもよい(表2、
図1~3参照)。ある実施形態では、
血清アルカリホスファターゼ値(S-ALP)の基準値より少なくとも約50IU/Lの
低減は、364日を超える期間にわたって延長してもよい(治療の継続/維持用量に応じ
る、以下参照)。
【0037】
治療される対象は、約130g/L以下のヘモグロビン(Hb)値を有してもよい。S
-ALP基準値は、転移性疾患およびHb<130g/を伴う患者のサブグループにおい
て、特に上昇した。例えば、300IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-A
LP)基準値は、Hb<130g/Lを有する患者集団で見出された(表2参照)。上記
の低下したHb値を伴う対象はまた、デガレリクスの初回用量の投与後、約112~36
4日の間の期間にわたって、基準値を下回る少なくとも160IU/Lの血清アルカリホ
スファターゼ(S-ALP)の低減(或いは、基準値からの負の変化)を示す可能性があ
る(
図2参照)。骨転移は、骨髄に影響を及ぼし、骨転移がある患者は、貧血になるかも
しれないので、したがって、骨転移がある患者の正常よりも低いHbは、より程度の大き
い転移(より重篤な疾患)の指標となる。本明細書でさらに詳細に説明されるように、本
発明は、この正常よりも低いHb値を伴う患者の部分集団において、デガレリクスによる
、S-ALPの驚くべき長期的かつ効果的な抑制を提供する可能性がある。
【0038】
さらなる側面における本発明によれば、50ng/mL以上のPSA値を有する対象の
前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む、組成物が提供される(
図4参照)。前立腺
癌は、転移性前立腺癌であってもよい。
【0039】
組成物は、160~320mgの初回用量におけるデガレリクスの投与、及びその後、
20~36日ごとに1回ずつ60~160mgの維持用量における投与のためのもの、例
えば、約240mgのデガレリクスの初回用量における投与、およびその後、治療の約2
8日ごとに1回ずつ約80mgのデガレリクスの維持用量における投与のためのものであ
ってもよい。
【0040】
デガレリクスを含む組成物は、対象が、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日
までに0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持する、例えば、
対象が、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日から第364日まで0.5ng/
ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持する、という治療のためのものであ
ってもよい(例えば、
図7-8を参照)。
【0041】
デガレリクスを含む組成物は、転移性前立腺癌の治療のためのものであってもよく、治
療の第14日までにPSAの少なくとも60%の減少を提供してもよい。デガレリクスを
含む組成物(または薬剤)は、治療の第28日までに前立腺特異抗原(PSA)の少なく
とも60%の減少、例えば、少なくとも75%の減少を提供してもよい(例えば、
図9参
照)。
【0042】
組成物は、5ng/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)値を治療中維持する、少なく
とも80%、例えば95%、の可能性を伴う治療のためのものであってもよい。
【0043】
本発明の別の側面によれば、160~320mgのデガレリクスの初回用量を対象に投
与するステップと、その後、20~36日ごとに1回、60~160mgのデガレリクス
の維持用量を対象に投与するステップ、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量
を対象に投与するステップと、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデガレリクス
の維持用量を対象に投与するステップとを含む、対象の転移性前立腺癌を治療するための
方法が提供される。
【0044】
さらなる側面における本発明によれば、対象(例えば、限局性または局所進行性前立腺
癌を有する対象)の限局期または局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を遅延ま
たは予防するためのデガレリクスを含む、組成物が提供される。対象は、10~50ng
/mLのPSA、例えば、20~50ng/mLのPSA値を有してもよい。対象は、4
4~147IU/Lの間の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有してもよい
。対象は、160IU/L未満、例えば、50~160IU/Lの間の血清アルカリホス
ファターゼ(S-ALP)値を有してもよい。組成物は、160~320mgデガレリク
スの初回用量投与、及び、その後20~36日ごとに1回60~160mgデガレリクス
の維持用量投与のためのもの、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量投与、及
びその後、約28日ごとに1回約80mgのデガレリクスの維持用量投与のためのもので
あってもよい。
【0045】
局所進行性前立腺癌の進行の遅延または予防は、例えば、予防的治療対象候補の前立腺
特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSAが10~50ng/mL、例えば、
20~50ng/mLであれば、予防的治療対象として選択することによって、局所進行
性前立腺癌を有する適切な対象を同定する最初のステップを含んでもよい。予防的治療対
象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP
基準値が160IU/L未満、例えば、44~147IU/Lであれば、予防的治療対象
として選択することによって、局所進行性前立腺癌を有する対象を同定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】局所(限局性)、局所進行性、および転移性集団について、デガレリクス(degarelix)(240/80mg)およびロイプロリド(leuprolide)(7.5mg)治療による、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を比較するグラフ表示である。
【
図2】転移性(+Hb<130g/L)部分集団について、デガレリクス(240/80mg)、デガレリクス(240/160mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を示すグラフ表示である。
【
図3】S-ALP基準値の時間に対する平均変化を示すグラフ表示であり、デガレリクス(240/80mg)治療を、第364日後にデガレリクスに「切り替えられた」ロイプロリド(7.5mg)治療と比較し、低減したS-ALP基準値が基準値に戻る時間の差を示すものである。
【
図4】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、<10ng/mL、10~20ng/mL、20~50ng/mL、および>50ng/mLのPSA値を有する対象における、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を比較するグラフ表示である。
【
図5】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、基準の限局性、局所進行性、および転移性前立腺癌期の患者における、PSA再発(PSA failure)の発症率を示す、グラフ表示である。
【
図6】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、<10ng/mL、10~20ng/mL、20~50ng/mL、および>50ng/mLのPSA基準値を伴う対象における、PSA再発の発症率を示す、グラフ表示である。
【
図7】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのテストステロン値の中央値(median)の減少を示す、グラフ表示である。
【
図8】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第28日までのテストステロン値の変化率の中央値を示す、グラフ表示である。
【
図9】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第56日までのPSA値の変化率の中央値を示す、グラフ表示である。
【
図10】デガレリクス(240/160mg)、デガレリクス(240/80mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのLH値の中央値を示す、グラフ表示である。
【
図11】デガレリクス(240/160mg)、デガレリクス(240/80mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのFSH値の中央値を示す、グラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
用語および定義
本発明の特定の側面を、以下でより詳細に説明する。本明細書で明確にされるように本
願で使用されるような専門用語は、本発明の開示において出願人らの意図を表すことを目
的としている。本明細書で参照される特許および科学文献は、それらの全体として本明細
書に組み込まれる。
【0048】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈からそうでないことが明らかに指示
されない限り、複数形への言及も含む。
【0049】
用語「およそ(approximately)」および「約(about)」は、言及
する数または値とほぼ同じであることを意味する。本明細書で使用する場合、用語「およ
そ」および「約」は一般に、特定する量、頻度または値の±10%までを包含すると理解
されたい。「CI」という用語は、統計的信頼区間を指す。例えば、血清アルカリホスフ
ァターゼ(S-ALP)、前立腺特異抗原(PSA)、ヘモグロビン(Hb)、テストス
テロン、黄体形成ホルモン(LH)、および卵胞刺激ホルモン(FSH)の特定値に関し
て、対象集団(例えば、以下で説明される臨床研究CS21の対象)について本明細書で
説明される特定値は、例えば、中央値として特に記述がない限り、平均(すなわち、平均
値)を表す。したがって、対象のS-ALP、PSA、および/またはHb値の特定値を
必要とする本発明の側面は、本明細書において、実質的には集団データ(ここでは関係す
る数値データが対象集団の意味ある限界(meaningful delimitati
on)と評価される)によってサポートされる。
【0050】
概して、本発明は、対象の転移性前立腺癌を治療するためのデガレリクスGnRH拮抗
薬を含む組成物の使用と、関連治療方法とを提供する。本発明の開示は、臨床研究、具体
的には、デガレリクスについてのCS21研究(欧州特許出願第08250703.9号
、および米国仮出願第61/027,741号)から得られたデータによって例示されて
いる。ある患者の部分集団に対する安全性、効力、および選択的利点の分析を含む、本明
細書で説明される種類の比較臨床研究を行い、分析するための基本的方法が利用可能であ
る(Spilker (1991) Guide to Clinical Trial
s Raven Press, New York;およびSpilker (1996
) Quality of Life and Pharmacoeconomics
in Clinical Trials Lippincott - Raven Pu
blishers New Yorkを参照)。
【0051】
「前立腺癌」という用語は、前立腺の細胞が突然変異し、制御不能で増殖し始める、前
立腺の癌を指す。前立腺癌が患者において進行した程度は、臨床および病理組織学的情報
を考慮して評価される。癌の病期は、腫瘍サイズ(T)、リンパ節転移があるかどうか(
N)、転移の存在(M)、および腫瘍悪性度(tumour grading)(G)に
基づいて分類される。T1として分類される腫瘍は、前立腺に限定され、小さすぎて直腸
指診によって触知することができない。T1はさらに、T1a(組織サンプル中に5%未
満の癌細胞)およびT1b(5%以上)細分を含む。T1cは、患者が上昇した前立腺特
異抗原(PSA、以降の定義を参照)を有することを示す。腫瘍が直腸指診中に触知され
るほど大きければ、T2として分類される。T2aは、前立腺の片側のみ(左または右)
が関与することを意味し、T2bは、両側に腫瘍があることを意味する。T2は、一般的
に「限局性癌」と称される。癌がT3であれば、前立腺付近の結合組織(T3a)または
精嚢(T3b)に広がっている。T4は、癌が前立腺の隣の組織、例えば、膀胱括約筋、
直腸、または骨盤壁に広がっていることを示す。前立腺癌はまた、骨盤の所属リンパ節の
中へ広がる場合もあり、これは、前立腺癌のN1期として評価される。これらのT3、T
4、およびN1期は、まとめて、「局所進行」(locally advanced)ま
たは局所癌(regional cancer)と称される。癌が骨等の遠隔部位に広が
っている場合は、「転移した」またはM1期であると言われる。遠位リンパ節に広がった
前立腺癌がM1aとして分類される一方で、骨に広がったものはM1bであり、肝臓また
は脳等の器官に広がったものはM1cとして評価される。未治療で放置されると、前立腺
癌は、ほぼ例外なく骨に転移する。
【0052】
「骨転移」、「骨格転移」、「骨病変」、「転移性病変」等の、本願で使用されるよう
な用語は、転移期を指し、交換可能に使用されてもよい。痛み(例えば、骨の痛み)、体
重減少、および疲労がしばしば、M1期に付随して起こる。生存率も、転移性前立腺癌が
ある対象については有意に降下する。骨転移の低減につながる治療は、痛みの減少等の生
活の質(QoL)の向上、骨量の減少だけでなく、より重要なことには、最大で約3年以
上の平均余命の増加も示唆する。しかしながら、ある時点で、転移性患者は、ホルモンに
基づいた治療に応答できない場合があり、これは、「ホルモン抵抗性」病期として知られ
ている。この専門用語による、かつ本願で採用されるような「転移性前立腺癌の治療」と
いう用語は、M1a、M1bまたはM1c、および/またはN1として分類される対象の
治療を含む。
【0053】
一般に、アンドロゲン遮断は、進行前立腺癌がある男性の80~90パーセントにおい
て緩和(remission)を誘導し、中央値12~33ヶ月の無増悪生存率をもたら
す。その時に、アンドロゲン非依存性表現型が、通常は出現する。ホルモン抵抗性前立腺
癌(ホルモン耐性前立腺癌またはホルモン非依存性前立腺癌と呼ばれる場合もある)は、
ホルモン遮断療法によって引き起こされる、去勢レベルのテストステロン値(20ng/
dL未満のT)を有するにもかかわらず、患者の血中PSAが上昇している前立腺癌とし
て、本明細書で広く定義される。[Murphy D. (1993) Cancer
72: 3888-3895; Hellerstedt BA and Pienta
KJ (2002) CA Cancer J. Clin. 52: 154-17
9.]
【0054】
アルカリホスファターゼ(ALP)は、ヌクレオチド、タンパク質、およびアルカロイ
ドを含む、多くの種類の分子からリン酸基を除去することに関与する、加水分解酵素であ
る。ヒトでは、ALPは、身体全体を通した全ての組織に存在するが、肝臓、胆管、腎臓
、骨、および胎盤において特に濃縮されている。その濃度値は、診断ツールとして使用さ
れてもよく、異常に上昇した値(高ホスファターゼ血症)は、いくつかの疾患を示しても
よい。これらは、肝臓疾患、骨疾患、悪性腫瘍、骨軟化症、腎疾患(2次甲状腺機能低下
症)、および1次甲状腺機能低下症等の、他の原発性疾患の骨格関与を含む。一方で、A
LPの異常に低下した値(低ホスファターゼ血症)は、男性の重度貧血、または軟骨形成
不全症、クレチン病、または小児の重度腸炎等の、他の疾患を示すこともある。一般に、
対象の血清中に存在するALPの値(S-ALP値)は、本明細書で説明される治療方法
および組成物と関連して用いられる。
【0055】
S-ALP検査が当技術分野で周知である(Chernecky CC, Berge
r BJ (2008), Laboratory Tests and Diagno
stic Procedures, 5th ed., WB Saunders &
Company, Philadelphia)。それは、概して、肝臓機能の検査とし
て使用されるが、さまざまの悪性腫瘍(乳房、前立腺、および結腸)の骨の転移性病変の
指標として知られている。転移性前立腺癌では、S-ALP基準値(あるいは「ALP値
」)は、骨病変を反映して、限局性または局所進行疾患よりも一貫して高い。本発明で開
示されるように、対象は、約150IU/L以上、例えば、160IU/L以上の血清ア
ルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値(つまり、治療前、すなわち、テストステロ
ンの初回用量投与前のS-ALP値)、例えば、200IU/L以上の血清アルカリホス
ファターゼ(S-ALP)基準値を有してもよい。したがって、転移性前立腺癌患者の治
療におけるS-ALP基準値の減少は、ある状況下では、治療への肯定的応答を示すもの
である。
【0056】
前立腺癌の診断のための最も重要な技法のうちの1つは、血液検査であり、具体的には
、血液中の前立腺特異抗原(PSA)値の測定である。「前立腺特異抗原」または「PS
A」という用語は、健常男性の血清中に少量で存在する、前立腺の細胞によって産生され
るタンパク質を指すが、しばしば、前立腺癌の存在および他の前立腺疾患において上昇し
ている。PSAを測定する血液検査は、前立腺癌の早期検出のために現在利用可能な最も
効果的な検査である。正常よりも高いPSAの値は、限局性および転移性前立腺癌の両方
と関連する。本発明によれば、限局性または転移期前立腺癌を有する対象は、50ng/
mL以上のPSA値を有してもよい。
【0057】
デガレリクスおよび関連製剤処方
デガレリクスは、5位および6位においてp-ウレイド-フェニルアラニンを組み込むG
nRHデカペプチド(pGlu-His-Trp-Ser-Tyr-Gly-Leu-Arg-P
ro-Gly-NH2)の類似体である、強力なGnRH拮抗薬である(Jiang et
al. (2001) J. Med. Chem. 44:453-67)。それは
、アンドロゲン遮断が保証される前立腺癌の患者(前立腺切除術または放射線療法をすで
に受けた後にPSA値上昇を伴う患者を含む)の治療に適応される。
【0058】
デガレリクスは、下垂体GnRH受容体に競合的かつ可逆的に結合し、それにより、ゴ
ナドトロピン、その結果としてテストステロン(T)の放出を急速に低減する、選択的G
nRH受容体拮抗薬(遮断薬)である。前立腺癌は、ホルモン感受性前立腺癌の治療にお
ける中心原理である、テストステロン遮断に敏感である。GnRH作用薬とは異なり、G
nRH受容体遮断薬は、治療の開始後の後続テストステロン急増/腫瘍刺激および潜在的
症候性発赤を伴う黄体形成ホルモン(LH)急増を誘導しない。
【0059】
活性成分デガレリクスは、そのうちの5つがD-アミノ酸である7つの非天然アミノ酸
を含有する、合成直鎖デカペプチドアミドである。この薬剤物質は、酢酸塩であるが、こ
の物質の活性部分は、遊離塩基としてのデガレリクスである。デガレリクスの酢酸塩は、
低密度の白色からオフホワイトの非結晶粉末として凍結乾燥後に得られる。化学名は、D
-アラニンアミド,N-アセチル-3-(2-ナフタレニル)-D-アラニル-4-クロロ-D-フ
ェニルアラニル-3-(3-ピリジニル)-D-アラニル-L-セリル-4-[[[(4S)-ヘキ
サヒドロ-2,6-ジオキソ-4-ピリミジニル]カルボニル]アミノ]-Lフェニルアラニ
ル-4-[(アミノアルボニル)アミノ]-D-フェニルアラニル-Lロイシル-N6-(1-メ
チルエチル)-L-リシル-L-プロリルである。それは、C82H103N18O16Cl
の実験式および1,632.3Daの分子量を有する。デガレリクスの化学構造は、以前
に示されており(欧州特許第EP 1003774号、米国特許第US 5,925,7
30号、米国特許第U.S.6,214,798号)、以下の式によって表されてもよい
。
Ac-D-Nal-D-Cpa-D-Pal-Ser-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-
Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH2
【0060】
投与および投薬
デガレリクスは、以下でさらに詳細に説明されるように、一般に、腹部において(静脈
内とは異なり)皮下投与するために製剤化してもよい。皮下注射によって投与される他の
薬剤と同様に、注射部位を周期的に変えて、治療を注射部位の不快感に適応させるように
してもよい。一般に、患者が圧力にさらされないような部位、例えば、ウエストバンドま
たはベルトに近くなく、かつ肋骨に近くない部位、に注射すべきである。
【0061】
皮下または筋肉内注射によるデガレリクスの投与は有効であるが、毎日の注射は、一般
に受け入れられにくいから、デガレリクスのデポ製剤が、国際公開第WO 03/006
049号ならびに米国公報第20050245455号および第20040038903
号でさらに詳細に説明されるように利用されてもよい。簡潔に言えば、デガレリクスの皮
下投与に、(典型的には)1~3ヶ月の期間にわたってペプチドが生分解性ポリマー基質
から放出されるデポ技術を使用してもよい。デガレリクス(および関連GnRH拮抗薬ペ
プチド)は、GnRH受容体に対する高親和性を有し、他のGnRH類似体よりもはるか
に水中で可溶性である。デガレリクスおよびこれらの関連GnRH拮抗薬は、皮下注射後
にゲルを形成することが可能であり、このゲルは、数週間または数ヶ月もの期間にわたっ
てペプチドが放出されるデポとしての役割を果たすことができる。
【0062】
効果的なデガレリクスデポの形成のための鍵となる変数は、投与物質の量と組み合わさ
った溶液の濃度である。濃度は、機能を示す範囲内でなければならない。製剤が希薄すぎ
る場合は、与えられた薬剤物質の量にかかわらず、デポが形成されず、作用の持続性が失
われる。製剤が濃すぎる場合は、薬剤を投与できる前に、ゲル形成が生じる。デガレリク
スの効果的なデポ形成製剤は、概して、5mg/mL以上のデガレリクス、例えば、5~
40mg/mLのデガレリクス濃度を有する。
【0063】
したがって、デガレリクスは、注射(例えば、上記で説明されるようなデポを形成する
、例えば、皮下注射)用の溶液として(溶媒と)再構成するための粉末として提供されて
もよい。この粉末は、デガレリクス(例えば、酢酸塩として)およびマンニトールを含有
する凍結乾燥物として提供されてもよい。好適な溶媒は、水(例えば、注射用の水、また
はWFI)である。例えば、液剤各1mLが約40mgのデガレリクスを含有するように
、3mLのWFIを用いて再構成するために、120mgのデガレリクス(酢酸塩)を含
有するバイアル中に、デガレリクスを提供することができる。別の例では、80mgのデ
ガレリクス(酢酸塩)を含有するバイアル中に、デガレリクスを提供することができる。
約4mLのWFI、例えば、4.2mLのWFIを用いて再構成すると、液剤各1mLは
約20mgのデガレリクスを含有する。
【0064】
本発明によれば、160~320mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステ
ップと、その後、20~36日ごとに1回、60~160mgのデガレリクスの維持用量
を対象に投与するステップ、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量を対象に投
与するステップと、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデガレリクスの維持用量
を対象に投与するステップとを含む、対象の転移性前立腺癌を治療するための方法が提供
される。
【0065】
組成物は、初回用量160~320mgのデガレリクス、及びその後、20~36日ご
とに1回、維持用量60~160mgのデガレリクスを投与するためのものであってもよ
い。
【0066】
前立腺癌を有する成人男性を治療するための好ましい投薬計画は、単回開始用量240
mgのデガレリクスを120mgの2回の皮下注射として投与し、その後約28日または
1ヶ月後から、毎月のデガレリクス維持用量80mgを単回皮下注射として投与するもの
である。
【0067】
例えば、デガレリクス投与計画では、初回開始用量240mgを2回に分けて、各3m
Lの約40mg/mLデガレリクス製剤を注射して投与し、続いて、維持用量80mgを
、4mLの約20mg/mLデガレリクス製剤を月1回単回皮下注射して投与することが
できる。あるいは、例えば、約40mg/mLデガレリクスの4mLを月1回投与するこ
とで、月1回維持用量160mgを利用してもよい。
【0068】
再構成された溶液は、未溶解物質を含まない、透明な液体となるべきである。デガレリ
クスの単回用量240mg、それに続く月1回維持用量80mgによって、黄体形成ホル
モン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、それに続いて、テストステロンの濃度減少
が急速に引き起こる。ジヒドロテストステロン(DHT)の血漿濃度も、テストステロン
と同様に減少する。
【0069】
デガレリクスは、医学的去勢レベルである0.5ng/mLを十分下回るテストステロ
ン抑制を達成し、維持するのに効果的である。以下でさらに詳細に説明されるように、月
1回維持用量80mgの投与によって、97%の患者において、少なくとも1年間持続的
テストステロン抑制が得られた。特に、そのような治療1年後のテストステロンの中央値
は、0.087ng/mLであった。
【0070】
前立腺癌患者において評価したデガレリクスに関連する薬物動態パラメータを以下の表
1に要約する。
【表1】
【0071】
濃度20mg/mLで80mgの維持相におけるデガレリクス トラフ濃度の中央値は
、10.9ng/mLであった。
【0072】
前立腺癌患者への240mgデガレリクスの皮下投与(濃度40mg/mLで6mL)
後、デガレリクスは二相性で排除され、消失半減期(terminal half-li
fe)の中央値は約43日である。
【0073】
皮下投与後の長い半減期は、注射部位において形成されるデポからのデガレリクスの非
常に遅い放出の結果である。
【0074】
この薬剤の薬物動態挙動は、注射懸濁液中の薬剤濃度によって強い影響を受ける。
【0075】
健常高齢男性の分布容量は、約1L/kgである。血漿タンパク質結合は、約90%と
見積もられる。
【0076】
デガレリクスは、肝胆系の通過中に一般的なペプチド分解を受け、主に排泄物中にペプ
チド断片として排泄される。皮下投与後の血漿サンプル中に、顕著な代謝産物は検出され
なかった。インビトロ試験によって、デガレリクスがヒトCYP450(シトクロムP4
50)系に対する基質ではないことが示されている。したがって、他の薬剤との臨床的顕
著な薬物動態相互作用は起こりにくい。
【0077】
健常男性では、投与されたデガレリクスの約20%が腎臓で排泄されており、ヒトにお
いては約80%が肝胆系を介して排泄されると示唆するものである。健常高齢男性におけ
るクリアランスは、35~50mL/hr/kgである。
【0078】
有害事象(副作用)
デガレリクスは、臨床試験において、概して、良好な耐用性を示すことが見出されてい
る。治療中に最もよく観察された有害反応は、テストステロン抑制の予期された生理学的
効果によるものであり、主に、顔面紅潮および体重増加、ならびに注射部位に関連する有
害事象(注射部位に関連する副作用)、主に、注射部位の痛みおよび注射部位の紅斑であ
った。
【実施例0079】
実施例1:ロイプロリドと対比した、デガレリクスで治療された前立腺癌患者のS-AL
P値
実施例1は、デガレリクス(240/80mg)又はロイプロリド(7.5mg)治療
をした、前立腺癌の治療を受けた患者の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)分析
の結果を与える。
【0080】
方法:
アンドロゲン遮断療法が適応された、組織学的に確認された前立腺癌(全ての病期)の
患者を採用した。610名の患者(平均年齢72歳、PSAの中央値19.0ng/mL
)を、次の3つの投薬計画のうちの1つに無作為に割りつけた:1ヶ月間のデガレリクス
s.c.240mg(開始用量)、これに続く160mg(n=202)若しくは80m
g(n=207)のデガレリクスs.c.の月1回の維持用量又はロイプロリド デポ7
.5mg(n=201)の月1回の筋肉内注射。ロイプロリドを投与された患者にも、臨
床的発赤予防のためにビカルタミドを与えることができた。
S-ALP分析:
血液サンプルを採取してS-ALP分析をして、様々の時点におけるS-ALP値を、各
患者で測定した。S-ALP値は、p-ニトロフェニルリン酸塩AMP緩衝方法に基づく標
準化比色分析(standardised colorimetric assay)を
使用して測定した。S-ALPの正常範囲は、44~147IU/Lである。転移のない
患者のS-ALP値は、対照としての役割を果たす。治療および日数を要因(facto
r)とし、基準値を共変量(covariate)とするANOVA分析を、第364日
における治療差を判定するために使用した。治療および日数を要因とし、基準値を共変量
とする反復測定分析(第112日からの全ての時点を組み込む)を、第112日から第3
64日までの治療差を判定するために用いた。
結果:
進行前立腺癌患者における、デガレリクス240/80およびロイプロリド7.5mg
群の分析の結果を、表2および
図1に表す。基準特性は、群間で均衡が取れていた。患者
の約半分に、基準において局所進行性(29.2%)または転移性(20.5%)疾患が
あり、全体的な平均年齢は72歳、テストステロンの中央値は39.3ng/mL、PS
Aの中央値は19.0ng/mLであった。
限局性疾患では、S-ALP値は、治療群(ロイプロリドまたはデガレリクス)に関係
なく、研究期間にわたって正常範囲内でわずかだが漸増を示した。同様に、局所進行性疾
患では、両方の治療群において、研究の終了までにわずかな増加が観察された。表2は、
S-ALP基準値が転移性患者で高く、いずれの治療でも、Hb<130g/Lの患者で
はさらに高いことを示す。しかしながら、両群における初期ピーク後、ホルモン治療につ
いて前述したように、S-ALP値は、デガレリクス80mgおよびロイプロリドの両方
で基準値より下に抑制されたが、デガレリクスではより顕著に抑制された。S-ALPの
初期増加(ピーク)は、骨における活性増加と関連し、転移性患者は、骨格転移に影響を
及ぼす全ての治療法の開始時に、S-ALPの急増を経験する。これは、よく説明されて
いる現象であり、テストステロン急増とは完全に無関係である。
【0081】
図1は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療に
よる、時間に対するS-ALP基準値からの変化の平均値を、限局性、局所進行性、およ
び転移性集団について比較する。これらの結果は、デガレリクスを使用したS-ALPの
長期抑制を明確に例証する。前立腺癌に罹患している治療対象におけるS-ALP基準値
の減少は、例えば、骨格転移活性を低減することによって、治療への肯定的応答を示す。
逆に、S-ALPの増加は、増加した転移活性を示す。
図1は、デガレリクス治療が(初
期および予期される急増後に)S-ALPを有意に低減し、次いで、この研究の継続中、
低減を維持することを示す。最も顕著には、S-ALPは、研究の後期にロイプロリドに
より上昇しており、転移活性の回復を示している。このような回復は、デガレリクスでは
非常に後期になるまで観察されなかった(
図3)。したがって、
図1は、デガレリクスが
長期間にわたって骨格転移のレベルを低減する(または、少なくとも増加を伴わずに同じ
レベルを維持する)ことができることを示す。対照的に、ロイプロリドは、デガレリクス
と比べて、短期的にはあまり効果的ではなく、長期的にはかなり効果的ではなかった。同
様の結果が、デガレリクスの240/160mg用量についても得られた。
【0082】
この効果を転移性疾患全体と比較してみると、転移性疾患およびHb<130g/Lの
ヘモグロビン(Hb)含有量を伴う患者において、さらに増強されている(表2および図
2を参照)。骨転移は骨髄に影響を及ぼし、骨転移がある患者は貧血になる場合がある。
骨転移がある患者における正常より低いHbは、より程度の大きい転移の指標となる(言
い換えれば、より重篤な疾患の指標となる)。表2および
図2は、デガレリクスによるS
-ALPの長期抑制が、より重篤な疾患を有するこの部分集団において、さらに効果的で
あったことを示す。
【0083】
PSA基準値≦50ng/mLを伴う患者群では、S-ALP値がわずかな増加に向か
うという一般的傾向が、経時的に両治療群で観察された。しかしながら、PSA基準値≧
50ng/mLを伴う患者においては、異なる傾向が見られる。表2(第2区分)は、デ
ガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療をした、基準P
SA(<10ng/mL)、(10~20ng/mL)、(20~50ng/mL)、お
よび(>50ng/mL)集団のS-ALP値(IU/L)を比較する。
図1で説明した
S-ALP応答と同パターンが、基準PSA≧50ng/mLを伴う患者で見られた(図
4および表2の第2区分を参照)。初期低減はロイプロリドでは維持されず、研究終了ま
で(例えば、第364日に)基準値を上回っており、これらの患者における骨病変を反映
するものである。対照的に、ALP値の初期減少は、デガレリクス(240/80mg治
療計画)を使用した研究の全体を通して維持された。これらの結果は、デガレリクスが、
基準PSA≧50ng/mLで前立腺癌を有する対象(患者)を治療するのに、特に効果
的であり得ることを示す。
【表2】
【0084】
表2の区分(a)は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5
mg)治療をした、限局性、局所進行性、転移性集団、および転移性(Hb<30g/L
)部分集団のS-ALP値(IU/L)を示す。
【0085】
表2の区分(b)は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5
mg)治療をした、基準PSA(<10ng/mL)、(10~20ng/mL)、(2
0~50ng/mL)、(>50ng/mL)集団のS-ALP値(IU/L)を示す。
【0086】
結論:
転移性疾患の患者および/または基準においてPSA値≧50ng/mLを伴う患者は
、ロイプロリドよりもデガレリクスでS-ALP値の大きな低減を経験した。より重要な
ことには、転移活性の回復を示す、研究後期のロイプロリドによるS-ALPの上昇(ま
たは基準値への復帰)が、それよりずっと後期になるまでデガレリクス(240/80m
g)では観察されなかったことである。この所見は、第364日の著しく低いALP値に
よって示されるように、デガレリクス群の患者が治療の失敗の兆候を示さなかったという
観察から良く理解される。最後に、転移性疾患全体と比較すると、この効果は、転移性疾
患を有しHb<130g/Lのヘモグロビン含有量を示す患者において、さらに増強され
ている。したがって、これらの結果は、デガレリクスが、ロイプロリドよりも良好に骨格
転移のレベルを低減および/または維持することが可能であり得ることを示す。
【0087】
実施例2:ロイプロリドと対比した、デガレリクスで治療された前立腺癌患者におけるP
SA再発
この実施例は、前立腺癌治療の12ヶ月にわたってロイプロリドと比較してデガレリク
スの効力および安全性を検討した第3相臨床試験CS21(本明細書で説明される)から
の、追加のPSA値分析を提供する。具体的には、PSA再発と称される二次的エンドポ
イントの分析は、特に、転移期前立腺癌の患者について、ロイプロリド治療と比較すると
、デガレリクス治療の驚くべき有利な効果を明らかにした。
【0088】
前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺癌の診断における、一般的に使用されているマー
カーであり、近年では、治療への応答ならびに疾患の再発および進行を監視するためにも
使用されている(Fleming et al. (2006) Nat. Clin.
Pract. Oncol. 3: 658-67; Lilja, et al.
(2008) Nat. Rev. Cancer 8: 268-78)。一般に、P
SAのより高い値は、より重度の形の前立腺癌と関連し、転移期前立腺癌は、PSAの最
高値(例えば、>50ng/mL)と関連する。したがって、前立腺癌治療を受けている
患者の上昇するPSA値は、治療の不完全な、または失敗した効果と関連する。
【0089】
この分析について、PSA再発(二次的エンドポイント)は、最下点と比較して、2回
連続した50%の上昇および≧5ng/mLとして定義された。PSA再発までの時間は
、最初の投薬から、少なくとも2週間隔てた2つの連続した機会に測定された、最下点か
ら≧50%および≧5ng/mLの血清PSAの増加が認められたときまでの日数として
定義された。2つ目の機会は、この基準を満たした時点であった。PSA再発率も、病期
およびPSA基準値で分析された。これらの分析では、ロイプロリド7.5mgと対比し
たデガレリクス240/80mgの比較に焦点が当てられたが、これはこの用量が進行前
立腺癌の治療のために現在FDAによって承認されているデガレリクス用量だからである
。
【0090】
PSA再発の発症率は、他の2つの治療群と比較して、デガレリクス240/80mg
群でより低かった。第364日までにPSA再発を経験せずに研究を完了する確率は、デ
ガレリクス240/80mg群について最も高かった(91.1%;95%CI:85.
9~94.5)。ロイプロリド7.5mgの観察された第364日の確率は、85.9%
であった(95%CI:79.9~90.2)。
【0091】
PSA再発-病期基準別
PSA再発は、全治療群にわたって、進行性疾患の患者で発生頻度がより高く、PSA
再発の大部分は、基準(baseline)で転移性疾患であった患者で発生した(
図5
)。このサブグループの患者では、より少ない割合のPSA再発が、ロイプロリドと比較
してデガレリクス240/80mg治療中に観察された(21.6%対36.2%;p=
0.1559)。これらの結果は、デガレリクスが、PSA再発の発症率の低減によって
評価されるような転移期前立腺癌の効果的な治療を、提供することを示すものである。
【0092】
PSA再発-PSA基準値別
PSA再発は、全治療群にわたって、より高いPSA基準値の患者でより頻繁に発生し
、PSA再発の大部分は、基準PSA>50ng/mLの患者で発生した(
図6)。この
サブグループの患者では、ロイプロリドと比較してより少ない割合のPSA再発が、デガ
レリクス240/80mg治療中に観察された(29.2%対40.0%;p=0.10
)。同様に、基準PSA20~50ng/mLの患者では、デガレリクス治療中に、PS
A再発がより少なかった。したがって、これらの結果は、デガレリクスが、進行期前立腺
癌を有する対象(>50ng/mLのPSA基準値で反映されるような)におけるPSA
再発の発症率の低減によって評価されるような効果的な治療を、提供することを例証する
ものである。
【0093】
実施例3:前立腺癌の治療のためのデガレリクスの臨床研究
この実施例では、デガレリクスの1か月投薬計画の効力および安全性を調査するために
、非盲検多施設無作為並行群研究を行った。2つのデガレリクス治療群の患者は、約40
mg/mLの濃度で240mgのデガレリクス開始用量を投与され、その後に、160m
g(約40mg/mL)の月1回の投与及び80mg(約20mg/mL)の月1回の投
与の2つの異なる投与計画のうち、いずれか一方を受けた。これらのデガレリクス投薬計
画を、アンドロゲン除去療法を必要とする前立腺癌の患者における7.5mgのロイプロ
リドと比較した。
【0094】
また、この研究では、去勢値までのテストステロン抑制の達成および維持(12ヶ月間
の治療でテストステロン抑制0.5ng/mL以下の患者の割合として評価した)に関し
て、デガレリクスが安全かつ効果的であるかどうかも調査し、デガレリクス投薬計画を用
いた治療の最初の28日間のテストステロンおよび前立腺特異抗原(PSA)の血清値を
、ロイプロリド7.5mgで治療した場合と比較して評価した。この研究はさらに、デガ
レリクス投薬計画を使用した場合の安全性および耐性を、ロイプロリド7.5mgによる
治療の場合と比較し、さらに、デガレリクス投薬計画によるテストステロン、黄体形成ホ
ルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、およびPSA応答を、ロイプロリド7.
5mgと比較した。この研究はさらに、患者報告の結果(生活の質に関わる要因および顔
面紅潮)を、デガレリクス投薬計画で治療した場合とロイプロリド7.5mgで治療した
場合とで比較した。この研究はまた、デガレリクス投薬計画の薬物動態も評価した。最終
的に、この研究は、異なる病期の癌に罹患している患者に対するデガレリクス治療の効果
を検討した。
【0095】
研究デザイン
合計620名の患者を、3つの治療群のうちの1つに、1:1:1で無作為化した。こ
れらのうち、610名の患者(平均年齢72歳、平均PSA19.0ng/mL)に、デ
ガレリクスを投与した。10名の無作為化患者が投薬前に研究から離脱した。
【0096】
2つの治療群の患者は、第0日に40mg/mL(240@40)の濃度で240mg
のデガレリクス開始用量を、120mgずつの2回の同等皮下(s.c.)注射として投
与された。その後、患者は、28日ごとに、20mg/mLの濃度で80mg(80@2
0:デガレリクス240/80mg群)または40mg/mLの濃度で160mg(16
0@40:デガレリクス240/160mg群)のいずれか一方の追加単回デガレリクス
用量(s.c.)を、12回受けた。第3治療群では、患者は、第0日、および28日ご
とに、ロイプロリド7.5mgを単回筋肉内(i.m.)注射として投与される積極的治
療を受けた。ロイプロリド7.5mgによる治療を受ける患者に対して、研究者の判断で
、ビカルタミドを臨床的発赤予防として与えることができた。
【0097】
地理的地域(中央および東ヨーロッパ、西ヨーロッパおよび南北アメリカ)および体重
(<90kgおよび≧90kg)に従って、患者を階層化した。
【0098】
デガレリクス240/160mg群
この群は、第0日に40mg/mLの濃度で240mg(240@40)の初回用量を
受けた。この開始用量は、120mgずつの2回の同等皮下(s.c.)注射として投与
された。次いで、この群は、12回の維持用量を受けたが、28日ごとにデガレリクスの
単回s.c.用量として、40mg/mLの濃度で160mg(160@40)を投与さ
れた。
【0099】
デガレリクス240/80mg群
この群も、第0日に40mg/mLの濃度で240mg(240@40)の初回用量を
受けた。この開始用量は、120mgずつの2回の同等s.c.注射として投与された。
次いで、この群は12回の維持用量を受けたが、28日ごとにデガレリクスの単回s.c
.用量として、20mg/mLの濃度で80mg(80@20)を与えられた。
【0100】
ロイプロリド7.5mg群
この群は、参照療法用ロイプロリド7.5mgを受けた。この治療は、第0日から開始
して28日ごとに1回、単回筋肉内(i.m.)注射として投与された。これらの治療計
画を以下の表3に要約する。
【表3】
【0101】
患者は、継続的に監視され、最大で1年間、毎月診療所を訪れた。患者は、研究薬剤の
各投与後に少なくとも1時間にわたって臨床的に観察された。研究を完了し、適切な基準
を満たす患者には、延長研究における長期治療および支援を受ける機会が提供された。
【0102】
合計807名の患者をスクリーニングし、620名の患者を、デガレリクス240/1
60mg、デガレリクス240/80mg、およびロイプロリド7.5mgの3つの治療
群に、1:1:1で無作為化した。無作為化された620名の患者のうち、それぞれ、デ
ガレリクス240/160mg、デガレリクス240/80mg、およびロイプロリド7
.5mg治療群の202名、207名、および201名の患者を含む、610名の患者が
、実際に研究薬剤を投与された。合計504名の患者が研究を完了した。
【0103】
診断および研究対象基準
アンドロゲン除去治療が適応され(ネオアジュバントホルモン療法を除く)、(グリソ
ングレードにより)組織学的に確認された前立腺癌(全ての病期)がある、18歳以上の
男性に参加資格対象とした。研究に関連する活動を開始する前に、署名されたインフォー
ムドコンセントを得た。患者は、スクリーニング時に基準テストステロン値>1.5ng
/mLおよび2ng/mL以上のPSA値を有するものであった。根治目的で前立腺切除
術または放射線療法を受けた後に、PSA上昇を伴う患者を、この研究に含むことができ
た。患者は、≦2のECOGスコアおよび少なくとも12ヶ月の平均余命を有することが
要求された。以前または現在、前立腺癌のホルモン管理(外科的去勢または他のホルモン
操作、例えば、GnRH作用薬、GnRH拮抗薬、抗アンドロゲン、またはエストロゲン
)がある場合は、研究から除外された。しかしながら、根治目的で前立腺切除術または放
射線療法を受けたことのある患者で、ネオアジュバントホルモン療法がスクリーニング診
療前の少なくとも6ヶ月前に打ち切られていた場合には、ネオアジュバントホルモン療法
を最大6ヶ月にわたって受けている場合でも研究対象として認めた。5-α-還元酵素阻害
剤による併用治療もまた、研究から除外された。根治療法(すなわち、前立腺切除術また
は放射線療法)の候補者であった患者は除外された。研究者によって研究の結果に影響を
及ぼす場合があると判断されるような、重度の超過敏反応または臨床的顕著な障害(前立
腺癌以外)の既往歴がある患者には、研究に参入する資格がなかった。QT/QTcF間
隔(>450ミリ秒)の顕著な基準延長を伴う患者、またはQT/QTcF間隔を延長す
る場合がある併用薬を使用していた患者、またはトルサードドポアンツ心室性不整脈の追
加危険因子の既往歴があった患者は除外された。スクリーニングの来診時に正常範囲の上
限レベルを上回る血清ALTまたはビリルビン値を有した患者、あるいは、既知の、また
は疑わしい肝臓症候性胆道疾患があった患者も除外された。患者はまた、治験薬の任意の
成分に対して既知の過敏性があれば除外された。加えて、前立腺癌および外科的に摘出さ
れた皮膚の基底または扁平上皮細胞癌を除いて、過去5年以内にいずれかの形態の癌に罹
患した患者は、研究から除外された。十分な理解または協力を不可能にする精神的無能力
または言語障壁があった患者にも、研究に参加する資格がなかった。選別診療に先行する
28日以内に、他の研究中の薬剤は投与されないものとした。
【0104】
治療の持続時間
デガレリクス治療群の患者には、第0日に240@40の開始用量、および28日ごと
に、160@40(デガレリクス240/160mg群)または80@20(デガレリク
ス240/80mg群)ずつの維持用量を12回投与した。デガレリクスの投与は、第0
日に、およびその後、研究診療の終了、すなわち、第364日(±7日)まで28日(±
7日)ごとに行われた。研究を完了し、適切な基準を満たした患者には、延長研究におけ
る長期治療および支援を受ける機会が提供された。
【0105】
参照療法群の患者は、第0日にロイプロリド7.5mgによる治療を受け、その後、2
8日ごとに12回の維持用量による治療を受けた。研究を完了した患者は、合計で13回
の投与を受けた。研究を完了し、適切な基準を満たした患者には、継続研究においてデガ
レリクス治療への切り替えが提供された。これらの患者を、デガレリクス治療240/8
0mgまたは240/160mgに無作為化した。研究の第0日に、以前は研究CS21
においてロイプロリド7.5mgで治療された患者には、240mg(40mg/mL)
のデガレリクス開始用量を投与し、その後に、80mg(20mg/mL)または160
mg(40mg/mL)のいずれか一方の維持用量を月1回投与した。
【0106】
比較群の患者は、二重チャンバシリンジに充填済みのロイプロリド7.5mgを筋肉内
(i.m.)注射して治療された。患者は、第0日に、およびその後28日ごとに1回ず
つ、単回i.m.注射としてロイプロリド7.5mgを投与された。研究者の判断で、ビ
カルタミドを臨床的発赤予防として与えることができた。
【0107】
効力の評価のための基準
本発明の一側面では、組成物(または薬剤)は、治療のためのものであってもよく、治
療対象は、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日までに、0.5ng/ml以下
の治療的に低い血清テストステロン値を維持し、例えば、治療対象は、少なくとも95%
の可能性で、治療の第28日から第364日まで、0.5ng/ml以下の治療的に低い
血清テストステロン値を維持する。
【0108】
組成物(または薬剤)は、治療のためのものであってもよく、治療対象は、治療の第2
8日までに前立腺特異抗原(PSA)が少なくとも60%減少(例えば、少なくとも75
%の減少)する。組成物(または薬剤)は、少なくとも80%の可能性で治療中に5ng
/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)値を維持する治療のためのものであってもよい。
【0109】
一次有効性エンドポイントは、第28日から第364日まで、テストステロン値が≦0
.5ng/mLにとどまる可能性であった。
【0110】
二次有効性エンドポイントは、治療の最初の2週間にテストステロン急増を伴う患者の
割合;第3日にテストステロン値≦0.5ng/mLを伴う患者の割合;第28日までの
PSAの基準からの変化率;第56日から第364日までのテストステロン≦0.5ng
/mLの確率;研究を通した経時的な血清テストステロン、LH、FSH、およびPSA
の値;最下点と比較して2回連続した50%の上昇および少なくとも5ng/mLと定義
されるPSA再発(PSA failure)までの時間;最初の1ヶ月にわたるデガレ
リクス濃度ならびに第308日および第336日におけるトラフ値;第252日における
テストステロン値と比較した第255日および/または第259日におけるテストステロ
ン増加の頻度および大きさ;第0日、第28日、第84日、第168日、および研究診療
の終了時における生活の質;経験した顔面紅潮の頻度および強度(研究開始から研究診療
の終了まで毎日採点される)であった。加えて、第28日から第364日までの十分なテ
ストステロン応答の確率(患者が第28日以降に>1.0ng/mLのテストステロン値
を1回か、または>0.5ng/mLのテストステロン値を連続して2回示した場合に、
この患者は不十分なテストステロン応答を示したとみなした)、および第14日までのP
SAの基準からの変化率といった、2つのさらなる二次的エンドポイントが追加された。
【0111】
安全性の評価基準
有害事象(AE)の頻度および重篤性、検査パラメータ(臨床化学、血液学、および検
尿)の臨床的に有意な変化の存在、心電図(ECG)およびバイタルサインの変化、身体
検査によって検出される変化、および体重について、この研究の安全性変数を評価した。
【0112】
体重を、スクリーニング時および研究診療の終了時に測定した。身長(裸足で)を、ス
クリーニング時に測定した。体格指数(BMI)は、身長の二乗で割られた個人の体重と
して定義される。医学で広く使用されている公式は、kg/m2の測定単位を生じる。体
格指数は、当技術分野で公知の公式のうちのいずれかを使用して、正確に計算されてもよ
い。
【0113】
統計学的方法
統計的分析ソフトウェアSAS(商標)のバージョン9以上を使用して、全ての統計的
分析を行い、統計値の概要を計算した。分析のための集団は、以下の通りであった。
【0114】
包括解析(ITT)分析セットは、デガレリクスの少なくとも1つの用量を投与した全
ての無作為化患者を含んだ。
【0115】
パープロトコル(PP分析セット)は、主要なプロトコル違反がない全てのITT分析
セットを含んだ。
【0116】
安全性集団は、ITT分析セットと同一であり、したがって、全ての安全性分析は、I
TT分析セットで行われた。
【0117】
一次的有効性エンドポイントを、ITTおよびPP分析セットの両方について分析し、
ITT分析セットが一次と見なされた。一次的有効性エンドポイントを、カプラン・マイ
ヤー法を使用して分析した。3つの治療群のそれぞれについて、生存者関数の両対数変換
によって、95%信頼区間(CI)を伴うテストステロン応答率を計算した。デガレリク
ス治療群とロイプロリド7.5mgとの間の差異は、合併標準誤差(pooled st
andard error)を使用した正規近似によって計算された97.5%CIを使
用して評価した。
【0118】
デガレリクスの効力を評価するために、2つの仮説を検証した。
【0119】
(1)米国食品医薬品局(Food & Drug Administration/
FDA)基準は、第28日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの累
積確率に対する95%信頼区間(CI)の下限が90%以内であったかどうかを判定する
ことであった。
【0120】
(2)欧州医薬品庁(European Medicines Agency/EME
A)基準は、第28日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの累積確
率に関して、デガレリクスがロイプロリド7.5mgに劣らないかどうかを判定すること
であった。治療間(デガレリクス対ロイプロリド7.5mg)の差異に対する非劣性限界
(non-inferiority limit)は、-10パーセントであった。
【0121】
特に記述がない限り、全ての二次的有効性エンドポイントをITTおよびPP分析セッ
トの両方について分析した。フィッシャーの直接確率検定を使用して、治療の最初の2週
間にテストステロン急増を伴った患者の割合を分析した。第3日にテストステロン値≦0
.5ng/mLを示した患者の割合を分析するためにも、フィッシャーの直接確率検定を
使用した。第28日終点までのPSAの基準からの変化率を、ウィルコクソン検定によっ
て分析した。フィッシャーの直接確率検定およびウィルコクソン検定の両方について、治
療群別、地理的地域別、体重層(<90kg、≧90kg)別、およびロイプロリド7.
5mgサブグループについて、別個のデータを提示した。
【0122】
二次的エンドポイントである、第56日から第364日までのテストステロン≦0.5
ng/mLの確率、PSA再発までの時間、および第28日から第364日までの十分な
テストステロン応答の確率を、カプラン・マイヤー法によって分析した。
【0123】
有効性の結果
本研究の主要な目的は、治療の12ヶ月間にテストステロン抑制≦0.5ng/mLを
示した患者の割合として評価された、テストステロン抑制の去勢値までの達成および維持
における、デガレリクスの有効性を実証することであった。
【0124】
結果は、240/80mg投薬計画で供給されたデガレリクスが、テストステロン値の
急速かつ効果的な抑制を生じ、この値が治療の364日間の全体を通して低いままであっ
たことを示す(
図7)。
【0125】
第28日から第364日までにテストステロン≦0.5ng/mLとなる確率のカプラ
ン・マイヤー推定値は、それぞれ、デガレリクス240/160mg、デガレリクス24
0/80mg、およびロイプロリド7.5mg群について、98.3%、97.2%、お
よび96.4%であった。3つの治療群全てについて、95%CIの下限は、あらかじめ
特定された90%閾値を上回った。第28日から第364日までのテストステロン≦0.
5ng/mLとなる確率に関して、デガレリクスによる治療は、ロイプロリド7.5mg
療法に劣らないことが実証された。両方のデガレリクス治療群について、ロイプロリド7
.5mg群と比較した確率の差異についての全97.5%CIは、非劣性限界である-1
0パーセントよりも大きかった。したがって、この研究は、有効性についてのFDAおよ
びEMEA基準を満たした。
【0126】
一次的有効性エンドポイントの結果のロバスト性は、観察された症例分析によって裏付
けられた。この分析によって、第28日から第364日までに≦0.5ng/mLのテス
トステロンを示す患者の全体的な比率について類似の推定値が得られ、それらは、デガレ
リクス240/160mg群、デガレリクス240/80mg群およびリュープロリド7
.5mg群それぞれについて、98.2%、97.0%および96.0%であった。1次
分析の知見は、第56日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの確率
の2次の有効性分析によってさらに裏付けられた。
【0127】
予期されたように、治療の最初の2週間のテストステロン急増(基準から増加≧15%
)は、合併デガレリクス群(the pooled degarelix group)
(0.2%:1患者)と比較して、ロイプロリド7.5mg群の患者で有意に高い割合(
80.1%)で生じた(p<0.0001、フィッシャーの直接確率検定)。デガレリク
スで治療された患者は、基準値においてテストステロン値が低い(0.0065ng/m
L)から、したがって、そのような低い基準値からの急増は顕著とはならないため、これ
らの患者はアーチファクトと見なすことができる。逆に、第3日には、ロイプロリド7.
5mg群の患者はテストステロン抑制を示さなかったのと比較して、デガレリクスを投与
した患者の96%は、テストステロン抑制を示した(p<0.0001、フィッシャーの
直接確率検定)。
図7および8に示されるように、デガレリクス240/80mg投薬計
画が、テストステロン値を急速かつ効率的に抑制した一方で、ロイプロリド7.5mgは
、はるかに徐々に、最初のテストステロン急増後にようやく作用した。
【0128】
図9に示されるように、デガレリクス240/80mg投薬計画は、ロイプロリド7.
5mgによる治療よりも急速かつ効率的なPSA値の低減をも生じた。PSA値の急速な
低減は、デガレリクスで治療された患者について観察された。対照的に、ロイプロリド7
.5mg群のPSA値は、治療の最初の1週間でプラトーに達してから、抑制値まで指数
関数的に減少した。デガレリクス患者については、ロイプロリド7.5mg患者と比較し
て、PSA値の中央値の基準からの有意に大きな低下が(p<0.0001、ウィルコク
ソン検定)、第14日および第28日に観察された。合併デガレリクス群からのPSAが
1より小さい確率は、ロイプロリド7.5mg群から、第28日(0.70)よりも第1
4日(0.82)でわずかに高かった。PSA再発を経験せずに研究を完了する確率は、
デガレリクス240/80群で最も高く(91.2%)、デガレリクス240/160m
gおよびロイプロリド7.5mg群の両方についてはわずかに低かったが(約85.8%
)、この差異は統計的に有意ではなかった。
【0129】
プロトコル通りの抗アンドロゲン療法を、発赤予防のために、ロイプロリド7.5mg
群の22名の患者に治療の開始時に行った。これらの患者のPSAデータは、抗アンドロ
ゲン療法を受けなかったロイプロリド7.5mg群の患者と比較して、第14日(61.
7%低減)および第28日(89.1%)に、基準値からの変化率の中央値がより大きか
った。この場合、抗アンドロゲン療法を受けなかったロイプロリド7.5mg群の患者の
低減率は、それぞれ、第14日および第28日に15.3%および61.7%であった。
ロイプロリドに抗アンドロゲン薬を加えた患者におけるPSA値の変化率の中央値は、デ
ガレリクスで治療された患者に類似しており、したがって、これによって、治療の開始時
のPSAの抑制に関して、デガレリクスが従来のGnRH作用薬療法よりも効果的である
ことが確認されたことに留意されたい。デガレリクスは、発赤の予防として追加併用薬を
必要とせず、しかも240mgの開始用量は、PSA値に対して、GnRH作用薬と抗ア
ンドロゲンの組み合わせと同様の効果がある。
【0130】
経時的なLHの血清値のプロファイルは、テストステロンについて観察されたものと同
様であった。デガレリクスの投与後、ITT分析セットのLH値の中央値は急速に減少し
、第1日に<0.7IU/Lであり、これは基準値から約88%の減少であった。両方の
デガレリクス治療群について、LH値の中央値は、研究の終了時である第364日まで抑
制されたままであった。対照的に、ロイプロリド7.5mg群の患者については、LH値
の中央値の急増が観察され、第1日に31.0IU/Lでピークになった後(基準から>
400%増加)、第56日までに0.035IU/Lまで指数関数的に減少し、第364
日までこの値にとどまった(
図10参照)。
【0131】
FSH値の急速な減少も、デガレリクスで治療された患者で観察された。デガレリクス
を投与すると、第7日までに≦1.5IU/Lまでの平均FSH値の低減をもたらし、こ
れは基準から>80%減少であった。両方のデガレリクス治療群について、FSH値の中
央値は、第364日の研究の終了まで抑制されたままであった。ロイプロリド7.5mg
群の患者については、LH値について観察されたものと類似するFSH値の初期急増があ
り、第1日に22.5IU/Lでピークになり(基準から146%増加)、第14日まで
に2.0IU/Lまで指数関数的に減少し、それに続いてFSH値の中央値は、第56日
頃に約4.40IU/Lのプラトーまで増加し、第364日までそこにとどまった(
図1
1参照)。
【0132】
デガレリクスの薬力学的プロファイルは、GnRH拮抗薬に特徴的であり、テストステ
ロン、LH、およびFSHの血清値が急速に抑制された。対照的に、ロイプロリド7.5
mg群の患者については、テストステロン、LH、およびFSHの血清値は、治療の最初
の1週間以内に急速に増加してから、抑制値まで下がった(
図7、8、10、および11
を参照)。
【0133】
安全性の結果
安全性および耐容性は、観察および報告された治療中に発生したAEによって評価され
、これらは、注射部位反応、血液学、臨床化学、および検尿の検査パラメータ、生存兆候
/臨床的観察、ならびに体重測定および理学的検査、ECGおよび併用薬を含んだ。
【0134】
安全性パラメータを、ITT分析セットに含めた全患者について評価し、このセットは
、少なくとも研究薬剤の1用量を投与された610名の無作為化された患者全てを含んだ
。
対象の転移期前立腺癌(metastatic stage prostate cancer)を治療するためのデガレリクス(degarelix)を含む組成物。
局所進行性期前立腺癌(locally advanced stage prostate cancer)の治療に用いるための請求項1-7のいずれか一項に記載の組成物。
デガレリクスを初回用量160~320mgで投与し、及びその後は維持用量60~160mgで20~36日ごとに1回投与するための、請求項1-9のいずれか一項に記載の組成物。
デガレリクスを初回用量約240mgで投与し、及びその後は維持用量約80mgで約28日ごとに1回投与するための、請求項1-10のいずれか一項に記載の組成物。