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特開2022-184926外部誘導による目標温度管理中に患者の内因性温度設定点の変化を検出する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184926
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】外部誘導による目標温度管理中に患者の内因性温度設定点の変化を検出する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
A61F7/00 310F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022144165
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2018550544の分割
【原出願日】2017-03-28
(31)【優先権主張番号】62/313,928
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510034982
【氏名又は名称】ゾール サーキュレイション インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Circulation,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パラディス、ノーマン、エー.
(72)【発明者】
【氏名】トレンブリー、ビー.、スチュワート
(57)【要約】      (修正有)
【課題】患者の体温を制御し、患者の内因性設定点温度のあらゆる変化を判定するための改良された方法及びシステムを提供する。
【解決手段】制御された低体温又は正常体温の維持にTTM装置が利用されている場合、患者の発熱は、追加の冷たい又はより冷たい流体を熱交換サブシステム13に提供する必要性として、及びTTM2の冷却モジュール10の関連したエネルギー必要量の増加として検出可能になる。発熱が緩和されれば、これらの事象の反対の事象によって検出される。同様に、TTM装置が制御された高体温の維持に利用されている場合、患者の発熱は、あまり温かくない流体3を熱交換サブシステム13に提供する必要性として、及びTTM装置の関連したエネルギー消費量の低下として検出可能になる。発熱が緩和されれば、これらの事象の反対の事象によって検出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体温を制御し、患者の内因性設定点温度のあらゆる変化を判定するためのシステムであって、前記システムは、
前記患者の身体と熱を交換し合う体熱交換器と、
前記熱交換装置を制御し、前記患者の体温を既定の目標温度又は既定の目標温度範囲に維持するための制御装置と、
前記患者の内因性設定点温度の変化を判定するための装置と
を備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
この特許出願は、2016年3月28日出願の「外部誘導による目標温度管理中に患者の内因性温度設定点の変化を検出する方法(A Method To Detect Changes In A Patient's Endogenous Temperature Set-Point During Externally Induced Targeted Temperature Management)」と題する同時係属中の米国仮特許出願第62/313,928号に基づく優先権を主張する。さらに、この特許出願は、2015年3月9日出願の「外部誘導による目標温度管理中に患者の内因性温度設定点の変化を検出する方法」と題する同時係属中の米国特許出願第14/642,259号の一部継続出願であり、2014年3月10日出願の「外部誘導による目標温度管理中に患者の内因性温度設定点の変化を検出する方法」と題する米国仮特許出願第61/950,294号に基づく優先権を主張する。そのような各出願の開示全体は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0002】
本開示は概して、内科医学及び生体医工学の分野に関し、より具体的には、患者の内因性温度状態の代わりとして、熱伝達又はエネルギー消費量の測定を用いる方法、システム、及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
米国特許法施行規則(37CFR)第1.71条(e)項に従って、この特許文献は、著作権保護を受ける材料を含み、この特許文献の所有権者は著作権の権利をなんであろうとも全て留保する。
【0004】
内因性の患者設定点温度は、生理的設定点温度を変更する環境的な必要性及び内因性の必要性を感知する複雑な求心系、及びミトコンドリア呼吸のシバリング及び脱共役などのプロセスを通じて、生理的なエネルギー出力を変更する遠心性エフェクタ系の機能である(Crawshaw他、19~30)。生理的設定点温度の確立に非常に重要な臓器は視床下部であり、これは、中枢神経系と内分泌系との間を橋渡しする脳の領域である。
【0005】
患者の内因性温度設定点の温度は臨床的に重要であり、典型的なバイタルサインの1つである。これは一般に、感染症の最も重要な早期指標とみなされる。早期診断及び早期治療が、重い感染症における最も重要なアウトカム予測指標である(Gaieski他、1045~53)。
【0006】
健全な患者と病気の患者では、設定点温度と身体が温度の摂動に反応するパターンとが複雑である(Mekjavic及びEiken、2065~72)。具体的で一般的な不変の内因性温度設定点の概念は、過度の単純化である。具体的な温度よりはむしろ、閾値間域がある可能性が高く、この範囲内で身体の深部体温が維持される。この閾値間域は個人によって様々であり、特定の個人の中では概日周期がある。以下、内因性温度設定点に言及する場合は、そのような言及が閾値間域に対してなされ得ることを理解されたい。
【0007】
身体の深部体温が閾値間域より下に外れた場合、とりわけ表層の血管収縮、シバリング、代謝熱発生を含む一連の協調反応が起こる。身体の深部体温が閾値間域より上に外れた場合、とりわけ表層の血管拡張及び発汗を含む一連の協調反応が起こる。閾値間域からの逸脱は、環境熱を求める又は避けるなどの行動パターンとも関連付けられる。
【0008】
内科医学において、目標温度管理(以下、TTMと呼ぶ)とは、病気の治療又は別の治療の補助として、特定の深部体温を人工誘導し維持することである。誘導維持される温度は、低体温、正常体温、又は高体温でもよい。低体温は正常より低い体温である(およそ37.6℃より低い)。正常体温は平均的な体温(およそ37.0±0.4℃)である。高体温又は超高熱は超正常体温である(およそ37.4度より高い)。
【0009】
低体温、正常体温、及び高体温のTTMは、様々な病状の内科的治療において、ますます重要になっている。例えば、治療のための低体温は、心拍停止、脳卒中、及び急性心筋梗塞などの病気において臓器損傷を防ぐのに利用される。外因的に誘導される人工の低体温は、心拍停止後の昏睡を治療するのに一般に用いられる(Holzer、1256~64)。
【0010】
低体温法は、虚血再灌流又は急性炎症を含むあらゆる病状に、病理生理学の構成要素として臨床的有用性を有することがある。低体温法は、脳損傷の治療にも利用される。正常体温に制御し高体温を防ぐことは、虚血再灌流の治療に効果的な場合がある。さらに、治療のための高体温は、癌の化学療法剤などの薬剤の有効性向上及び感染症の治療に重要な場合がある。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、TTMを受けている患者の内因性温度設定点の変化を検出するのに用いられる方法及びシステムを提供し、そのような内因性温度設定点の変化は、発熱、興奮状態を示すか、又はどちらもないことを示す。特定の実施形態において、一定の目標温度に患者を維持するのに必要なエネルギー要件又は熱要件の測定、変換、及び/又は説明が提供される。代替的に、いくつかの実施形態では、熱入力又は熱出力、環境温度に加えて冷却/加熱伝達サブシステムの温度、及び患者の詳細を組み合わせたアルゴリズムが利用されることがある。
【0012】
特定の態様に従って、患者の体温を制御し、患者の内因性設定点温度のあらゆる変化を判定するための方法及びシステムが提供される。そのような態様によるシステムは、被験者の身体と熱を交換する熱交換装置と、患者の体温を既定の目標温度又は既定の目標温度範囲内に維持するために1つ又は複数のセンサと組み合わせて熱交換装置を制御するための制御装置と、患者の体温を既定の目標温度又は既定の目標温度範囲内に維持するのに必要なエネルギー量の変化を判定するための装置とを備えてよい。そのような変化は、患者の内因性設定点温度の変化を示すものである。体熱交換装置は、あらゆる種類の体熱交換装置であってよく、限定されないが、体表面熱交換システム(例えば、ブランケット、パッド、衣類など)又は血管内熱交換装置(例えば、熱交換カテーテルシステム)を含む。体表面熱交換システムの例には、STx Surface Pad System(ZOLL Circulation, Inc.(カリフォルニア州サンノゼ))、ARCTIC SUN 5000 Temperature Management System(Bard Medical Division(ジョージア州コビントン))、Criticool System(MTRE Advanced Technologies, Ltd.(ペンシルベニア州フェスタービルトレボース))、及びBAIR HUGGER, BAIR PAWS and POLAR AIR Systems(3M、ミネソタ州セントポール)が含まれる。商品化された血管内熱交換システムの例には、Thermogard XP Temperature Management System(ZOLL Circulation, Inc.(カリフォルニア州サンノゼ))、及びInnerCool RTx Endovascular Temperature Modulation System(ZOLL Circulation, Inc.(カリフォルニア州サンノゼ))が含まれる。
【0013】
さらに、検出された患者の内因性設定点温度の変化は、患者の発熱状態の変化を診断する基礎として用いられてよい。患者の「発熱状態」の潜在的変化には、a)以前に発熱していなかった患者の発熱、b)以前に発熱した患者の発熱の中断、c)以前に発熱した患者の発熱の重症度増加、及び/又はd)以前に発熱した患者の発熱の重症度低下が含まれる。特定の実施形態において、システムは、感知した患者の設定点温度の変化を分析し、これらの変化を患者の発熱状態の変化と関連付け、任意選択で、患者の発熱状態の変化についての表示、警報、又は他の通知を出すようにプログラムされたプロセッサを含んでよい。さらに、以下に記載される詳細な説明及び例を読むと、本発明のさらなる態様及び詳細が理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下の図はこの特許出願に含まれており、以下の詳細な説明及び例において参照される。この図は、本発明の特定の態様又は実施形態を示すことだけを意図しており、どんな形であれ本発明を限定することはない。
【0015】
図1】本発明の方法に関する1つの実施形態の図式表現である。
【0016】
図2】本発明のシステムに関する1つの実施形態の図式表現である。
【0017】
図3】本発明のシステムで用いられるプロセッサ構成の一例を示す。
【0018】
図4】本発明のシステムで用いられるプロセッサ構成の別の例を示す。
【0019】
図5】平均的な患者及び神経障害を持つ患者の深部体温がTTM設定点温度の急激な低下に応答して反応する、図式的な例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の詳細な説明及び参照する添付図面は、本発明の例又は実施形態の一部を説明することを意図しており、必ずしも全てを説明するものではない。説明される実施形態は、あらゆる点で単なる例示的なものとみなされるべきであり、限定的なものとみなされるべきではない。この詳細な説明及び添付図面の内容は、どんな形であれ本発明の範囲を限定することはない。
【0021】
低体温、正常体温、又は高体温を誘導維持するTTMの方法は複数ある。典型的なTTM装置は、TTM装置と患者との間の熱伝達に作用するサブシステムと、熱伝達を管理するための感知・制御機構と、加熱/冷却部とから構成される。
【0022】
熱伝達に作用するサブシステムは、カテーテル、ブランケット、又は粘着性パッドなどの1つ又は複数の構成部分と、熱伝達流体とを含んでよい。このサブシステムのこれらの構成部分は概して、熱伝達の効率を最適化するように設計されており、水又は生理食塩水などの温度制御された流体を利用してよく、これらの流体はカテーテル、ブランケット、又は粘着性パッドなどの1つ又は複数の構成部分に供給される。
【0023】
制御サブシステムは概して、負帰還機構を利用する。患者の体温が予定目標温度から外れるという事象が起きた場合、その事象は感知サブシステムによって検出される。加熱/冷却サブシステム及び熱伝達サブシステムは次に、患者の体温を目標温度に戻すように調整される。制御システムは、変動を避けるためにフィードフォワード型減衰アルゴリズムを含んでよい。
【0024】
制御システムは概して、コンピュータベースのシステムであり、感知サブシステム、フィードバック制御・減衰機構、並びに熱伝達サブシステム及び加熱/冷却サブシステムと接続するためのインタフェースから構成されてよい。概して、回路基板、半導体チップ、及びトランジスタを組み込んだ標準的な電気デバイスが、これらの機能を実行するのに利用できる。
【0025】
感知サブシステムは概して、患者の内部又は表面に設ける温度計又はサーミスタと、制御サブシステムへの電気接続部とを含む。
【0026】
典型的なTTM装置の加熱/冷却部は概して、広く利用できる加熱・冷却装置の変形版である。
【0027】
低体温法は、虚血再灌流又は急性炎症を含むあらゆる病状に、病理生理学の構成要素として臨床的有用性を有することがある。低体温法は、脳損傷の治療にも利用される。正常体温に制御し高体温を防ぐことは、虚血再灌流の治療にも場合によっては効果的である。さらに治療のための高体温は、薬剤の有効性向上に重要な場合がある。
【0028】
TTMは、様々な病状を患う患者のアウトカムを向上させ得るが、患者を看護する臨床医に、重要な臨床的バイタルサインである患者の内因性設定点温度を利用できなくさせる。TTMを提供する装置の応答性、能力、精巧さに応じて、測定できる患者の体温は臨床医が発見できない量だけ目標温度から外れることがある。
【0029】
患者の内因性設定点温度の変化を検出できないと、患者の臨床的アウトカムに悪影響を与え得る。感染症の発症を告げる炎症は、一般に発熱によって検出される。患者の内因性温度設定点の変化を検出できないと、発熱の検出と、その後の感染症の診断及び治療とが遅れることがある。現在は、命に関わる感染症のアウトカムに関して最も重要な1つの決定要素は、感染発症から適切な抗生物質による治療を開始するまでの時間であると考えられている。
【0030】
一般に、患者が内因性温度設定点の変化と関連した感染症又は他の病状を経験した場合、TTMは内因性温度の変化をマスクするか又はその変化の検出をより難しくする。例えば、敗血症は内因性低体温症と関連付けられることが多い。内因性低体温症を検出できないと、敗血症の診断が遅れ、より悪いアウトカムをもたらすことがある。
【0031】
TTMの間に、適切な鎮静剤の投与と共に神経筋遮断を誘導する薬剤を投与することが一般的である。これらの薬物は温度制御を支援するが、シバリングをマスクするか又は完全に除去するようにも作用する。これにより、発熱の検出がより難しくなる。
【0032】
患者のESPT(閾値間域)と実際の体温とTTMを提供するデバイスとの間の関係は複雑であり、以下のパラメータを多かれ少なかれ含む。
1.ESPT又は閾値間域。
2.温度の概日リズム。
3.特定の病気又は負傷。
4.神経損傷の程度。
5.鎮静の程度。
6.神経筋遮断の程度。
7.周囲の室温。
8.局所対流及び/又は輻射加熱若しくは冷却。
9.換気装置加熱の有無及び程度。
10.皮膚又は気道からの気化冷却の程度。
11.ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無。
12.患者の体重又は体質。
13.患者のシバリング耐力。
14.投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却。
15.とりわけアスピリン又はアセトアミノフェンなどの、ESPTに作用する薬剤を用いた薬物療法。
【0033】
医学診断法の発展には大きな進歩があった。特定の関連性のうち、複数の個人パラメータの測定から構成される機械学習由来の多変数アルゴリズムが広く適用されてきた(Kato、248~51)。有益な数学的診断アルゴリズムが、とりわけ機械学習、データマイニング、ビッグデータと様々に呼ばれるコンピュータを使った技法を用いて開発されるかもしれない。
【0034】
機械学習由来のアルゴリズムの性能が主に入力された測定値に依存し、アルゴリズムの導出に用いられるコンピュータを使った特定のソフトウェアルーチンと無関係であるという現象がある。同じトレーニング用データセットが用いられる場合、教師あり学習、教師なし学習、相関ルール学習、階層的クラスタリング、及び多重線形ロジスティック回帰と同じくらい異なる技法が、臨床性能が区別できないアルゴリズムを生み出す可能性がある。
【0035】
TTMは患者の体温を効果的に制御するので、患者が発熱することがあるが、そのような発熱が測定可能な患者の体温上昇によって明らかになることはない。その結果、TTMを受けている患者の場合、通常の体温測定が、患者の内因性設定点温度のバイタルサインの指標として当てにできないことがある。結果として、感染症などの発熱症状の発症又は悪化に関する検出及び診断が遅れることがある。
【0036】
本明細書において開示される実施形態は、内因性設定点温度の変化に関連した病気を検出し、診断し、治療する臨床医の能力を回復させる。具体的には、外部冷却を受けている患者の発熱及び感染症の診断に有益である。これにより、抗生物質の早期投与が可能になれば、それが患者アウトカムの向上に結び付けられるであろう。
【0037】
特定の実施形態において、内因性温度設定点の変化の代わりとして、TTM装置のエネルギー又は熱伝達パラメータを用いること、又はそれらを発熱及び感染症に早期診断に用いることが本明細書に説明されている。
【0038】
図1を参照すると、TTMの間に、体温のバイタルサインの測定が、患者の内因性設定点温度の指標として当てにできないことがある。しかしながら、患者の内因性温度設定点の変化が、1)治療の目標温度を維持するのに必要な加温/冷却部10のエネルギー、2)熱伝達流体3の流量及び/又は温度、3)加熱冷却サブシステム9及び10のエネルギー消費量、又はこれらの組み合わせの変化として検出されてよい。
【0039】
患者の内因性温度調節及び設定点の変化が、まずTTM装置2に戻される流体4の温度変化によっても検出されるかもしれない。
【0040】
臨床適用の一例として、制御された低体温又は正常体温の維持にTTM装置が利用されている場合、患者の発熱は、追加の冷たい又はより冷たい流体を熱交換サブシステム13に提供する必要性として、及びTTM2の冷却モジュール10の関連したエネルギー必要量9の増加として検出可能になる。発熱が緩和されれば、つまり解熱があれば、これらの事象の反対の事象によって検出されることになる。
【0041】
同様に、TTM装置が制御された高体温の維持に利用されている場合、患者の発熱は、あまり温かくない流体3を熱交換サブシステム13に提供する必要性として、及びTTM装置の関連したエネルギー消費量の低下として検出可能になる。ここでも、発熱が緩和されれば、これらの事象の反対の事象によって検出されることになる。
【0042】
感染発症時及び発熱時の、より冷たい又はより温かい熱伝達流体に対して変化する要件、及びそれに関連したTTM装置2のエネルギー必要量の差異が、臨床医を支援するデータとして提示されてよい。さらに、冷たい又は温かい流体を提供するための異なる要件、又はTTM装置が必要とするエネルギーの差異が、時間又はベースラインからの変化に対してプロットされ、図式的に表示(11)され得る。
【0043】
より冷たい又はより温かい流体を提供するための異なる要件、又はTTM装置が必要とするエネルギーの差異は、例えば、代謝又は生理機能の測定値といった他のデータと組み合わされて、患者の内因性温度調節のより早期の又はより正確な評価を導き出すことができる。
【0044】
より冷たい又はより温かい流体3を提供するための異なる要件、又はTTM装置2が必要とするエネルギーの差異は、他のデータと組み合わせて、又は他のデータと組み合わせずに、アルゴリズム11に利用されてよく、その結果、差し迫ったシバリングが予測され、抗シバリング治療が展開される。これらの治療は、TTM装置自体を制御してTTMの変更が行われる速さを変更することを含んでよい。
【0045】
より冷たい又はより温かい流体を提供するための異なる要件、又はTTM装置が治療の目標温度を維持するのに必要なエネルギーの差異は、他のデータと組み合わせて、又は他のデータと組み合わせずに、臨床医を支援するために視覚的に提示(11)されてよい。この視覚的提示に関する特定の実施形態には、限定されないが、時間の関数又はベースラインからの変化の関数として変数が含まれてよい。
【0046】
患者の内因性設定点温度の変化を検出する場合のシステムの精度を向上させるために、環境温度14又は環境温度14の変化が、利用されるアルゴリズムに組み込まれてよい。
【0047】
測定されたエネルギー消費量又は伝達流体温度から患者の体温変化の人工代用物への変換は、典型的な熱伝達の変形である。
Q=mcΔT
熱伝達=(質量)×(比熱)×(温度変化)
Q=熱含量(ジュール)
m=質量
c=比熱
T=温度
ΔT=温度の変化
【0048】
システムに汎用コンピュータを含めると、この問題を解決することが可能になる。より高度な非線形の多変数モデルを利用すると、利用されるアルゴリズムの性能向上に結び付けられる可能性があるであろう。
【0049】
例として、限定されないが、モードが以下の構成要素を含んでよい。
1.TTMを提供する装置の熱伝達サブシステムが利用する流体の温度及び流量を測定する構成要素。温度を測定する技法はよく知られており、とりわけ温度計、サーミスタ、及び赤外線検出器が含まれる。流量を測定する技法もよく知られており、様々な設計の流量計が含まれる。概して、回路基板、半導体チップ、及びトランジスタを組み込んだ標準的な電気デバイスが、これらの機能を実行するのに利用できる。
2.TTMを提供する装置の冷却サブシステム又は加温サブシステムが利用するエネルギーを測定する構成要素。概して、サーミスタと共に回路基板、半導体チップ、及びトランジスタを組み込んだ標準的な電気デバイスが、必要な機能を実行するのに利用できる。
3.上記測定値を、患者の内因性設定点温度及びこのパラメータの経時的な変化を表す臨床的に有益な代用物に変換する構成要素。後者は、発熱の代用診断として機能するであろう。これらの結果は、図式的に提示され得る。概して、汎用コンピュータ及び映像表現技術と共に回路基板、半導体チップ、及びトランジスタを組み込んだ標準的な電気デバイスが、これらの機能を実行するのに利用できる。
【0050】
流体の伝達温度、流体の伝達流量、加熱若しくは冷却エネルギー必要量の測定値、又はこれらのパラメータの組み合わせに基づいて、内因性設定点温度の変化を検出する多変数アルゴリズムを導出する方法は、熱伝達及び数学的モデリングの当業者であれば考案できるであろう。例として、構成され得る追加の改善点には、限定されないが以下のものが含まれる。
1)神経損傷の診断に用いる生体指標、又はTTM装置のエネルギー若しくは熱伝達パラメータ又はパターンに基づいて神経学的アウトカムを予測する予後の生体指標。さらに、これらの測定値は、多変数アルゴリズムにおいて他の測定値と組み合わされてよい。
2)神経損傷の診断に用いる生体指標、又はTTM装置が既知の熱負荷を用いて患者のESPTに摂動を起こさせようと試みた後に、この装置のエネルギー若しくは熱伝達パラメータ又はパターンに基づいて神経学的アウトカムを予測する予後の生体指標。ここでも、これらの測定値は、多変数アルゴリズムにおいて他の測定値と組み合わされてよい。
3)患者のESPTの変化を、エネルギー又は熱伝達パラメータのみよりも正確に検出する多変数アルゴリズム。そのようなアルゴリズムに用いられ得るその他のパラメータには、以下のものがあってよい。
【0051】
神経損傷の程度に関する指標。これは、とりわけ脳波図又は誘発電位などの代替手段で測定される。
【0052】
鎮静の程度に関する指標。これは、とりわけバイスペクトラルインデックス、皮膚伝導、表面筋電図、誘発電位などの代替手段で測定される。
【0053】
連続4回刺激法又は他の同様な技法などによる、神経筋遮断の程度に関する指標。
皮膚の血管収縮又は血管拡張の測定値。
発汗の測定値。
筋電図検査法又は他の同様な技法などによる、シバリングの程度に関する指標。
周囲の室温に関する指標。
換気装置加熱に関する指標。
皮膚又は気道からの気化冷却の程度に関する指標。
患者の体重又は体質。
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却に関する測定値。
とりわけアスピリン又はアセトアミノフェンなどの、ESPTに作用する薬剤を用いた薬物療法。
皮膚又は気道からの気化冷却の程度。
ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無。
患者の体重又は体質。
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却。
実際の病状に固有の変更因子。
【0054】
図2は、目標温度管理(TTM)システムで治療されている患者を示す。そのようなシステムの慣例として、センサSがその位置から、例えば、患者の体内、患者の膀胱内、食道内又は直腸内から患者の深部体温を測定する。他の実施形態において、センサSは患者の血管内に、例えば、患者の血管内に配置された熱交換カテーテルの末端又はその付近に配置されてよい。TTMシステムは、患者の深部体温の値を、患者を治療する医師が指定したTTM設定点温度の値と比較した後に、患者の深部体温と設定点温度との間の差異を縮小するように、患者の大静脈内に配置された熱交換カテーテルを通って流れる冷却剤の温度を調整する。
【0055】
例えば、本明細書に開示されるように、医師は体温より低い設定点温度を選択して、患者に低体温治療を提供できる。そのような治療の始めに、患者の深部体温が設定点温度よりはるかに高い場合、TTMシステムが内蔵の冷却装置に大きな電力を印加して、患者の体内の熱交換カテーテルを通って流れる冷却剤の温度を大きく下げる。冷却剤温度の低下の程度は、制御理論で知られているアルゴリズム、例えば、比例制御、比例積分制御、比例積分微分制御などに従って実現される(Bishop、2011)。このような自己訂正方式が、制御ループ、又は同じ意味でフィードバックループとして知られている。
【0056】
次の熱交換プロセス及び制御プロセスは、患者の深部体温を、深部体温が設定点温度と実質的に等しくなるまで下げる。この低体温の深部体温は次に、医師が判定する間は維持される。これは、室温の変化、患者の被覆及び除覆、場合によっては変化する患者の神経状態、及び患者の発熱などの摂動作用にもかかわらず起こる。
【0057】
1つの実施形態において、センサS図2)が患者の体内に流入するTTMシステムの冷却剤温度を測定し、センサSが患者の体内から流出するTTMシステムの冷却剤温度を測定する。センサS及びSがそれぞれ、患者の体内に流入するTTM冷却剤の体積流量と、患者の体内から流出するTTM冷却剤の体積流量とを測定する。代替的に、これらのセンサの一方が、冷却剤流路に漏れがないという仮定の下に、システムから取り除かれてもよい。これらのセンサは、その性質からして、連続したアナログ電圧を生み出すことがある。その場合プロセッサは、既知の電子サブシステムであるアナログ/デジタル変換器(ADC)を含むことになる。センサからのアナログ信号を符号化するADCは、一定の時間間隔でデジタルデータを生み出す。定常的に生じるデジタルデータは、デジタルデータを用いた計算を行うために、中央処理装置(CPU)又は同等の電子サブシステムによって操作されてよい。このように、図3に図示されたプロセッサ構成は、既知の式に従って、患者に与えられる冷却電力Pcoolを周期的に計算する(Mills、1999)。
cool=cρw(Toutflow-Tinflow
ここで、cは定圧における冷却剤の比熱(単位は、J/(kg℃))であり、ρは冷却剤の密度(単位は、kg/m)であり、wは冷却剤流量(単位は、m/sec)であり、TinflowはセンサSで測定された冷却剤の流入温度(単位は、℃)であり、ToutflowはセンサSで測定された冷却剤の流出温度(単位は、℃)である。
【0058】
代替的な実施形態において、センサからの信号はアナログ形式のままであり、次に演算増幅器などの既知のアナログ電子デバイスによってプロセッサ内で操作され、上に定義した計算が行われる。
【0059】
パラメータc及びρは既知の定数として扱われてよく、これらの値はシステムメモリ(図3)に格納される。代替的に、これらの物理量c及びρは、もう少し正確な計算を行うために、実際の場合と同じように、ゆっくりと変化する温度の関数として扱われてもよい(Mills、1999)。次に、Pcoolを計算するたびに、システムメモリに格納されたルックアップテーブルを調べて、c及びρの値を冷却剤の現在の平均温度、つまり、Taverage=(Tinflow+Toutflow)/2に等しい温度と関連付ける。代替的に、経験式を用いて現在のTaverageの値からc及びρの値を計算してもよい。
【0060】
現在のPcoolの値はシステムメモリに格納され、医師に見えるパネルの計器に数値形式で表示されてよく、1つの実施形態において計器はデジタル形式であり、別の実施形態において計器はアナログ形式である。より大きなコンテキストを医師に提供するために、Pcoolの現在及び過去の値が、システムの表示装置、コンピュータ画面、及び/又は、遠隔の受信機装置(遠隔配置されたコンピュータ、タブレット、又はスマートフォンデバイスなど)に図式的に表示されてよい。また過去の値は、医師の選択で数時間又は数日間まで遡ることができる。1つの実施形態において、Pcoolの値のグラフに表示された別のラインが、通常の発熱と関連することが知られている一定値に配置されてよい。この値は、患者のPcoolのベースライン値より何らかの既知のワット数だけ高い値と等しくなるが、±10%などの特定の最大偏差内の定数であることが条件である。ここで、ベースライン値は、直近の数時間、例えば4時間続いている値として定義されてよい。
【0061】
本明細書に開示されるように、TTMシステムは、発熱した患者のあらゆる測定可能な深部体温上昇を防ぐことができる。しかしながら、TTMシステムでそうするには、新たに発熱した患者が発する大きな増分の熱を取り除く必要がある。このように、Pcoolの値を図式的に表示することで、特に、発熱と関連することが知られている値を超える量だけPcoolの値が急増した場合には、患者の発熱を明確に知らせることができる。発熱と関連した加熱電力は、エネルギーの保存に関する既知の式、すなわち、Pfever=McdTcore/dtから計算されてよい(Mills、1999)。ここで、Mは患者の質量であり、cは体組織全ての有効比熱であり、dTcore/dtは発熱時の患者の深部体温の増加率である。dTcore/dtの典型的な値は、(Hall、1996、図の73-11を参照)によって、およそ1.5℃/時間として与えられ、典型的な患者の質量は70kgであり、体組織はおよそ水の比熱を有するが、正確な値はそれよりいくらか小さい。次に発熱と関連した電力はおよそ122ワットに等しく、正常な生物学的変動によって、診療所では様々な値の発熱電力が生み出されることが理解される。
【0062】
1つの実施形態において、患者の内因性温度設定点及び/又は発熱状態の変化などの事象が起きた場合、患者の病室内で目に見える、聞こえる、又は他のやり方で感知できる警報又は警告インジケータが作動することになる。代替的に又は追加的に、そのような警報又は警告は、患者の病室内及び/又は遠隔位置で感知できる1つ又は複数の警報発報器に有線接続又は無線接続で送信され、それらの警報発報器によって発報されてよい。警報発報器又は警告発報器の種類に関する非限定的な例には、限定されないが、以下のうち1つ又は複数が含まれてよい。
・TTMシステムに含まれている表示装置若しくは発報器
・TTMシステムの構成要素である携帯型警報モジュール
・別個の電子モニタ
・患者のベッドサイドモニタ
・患者のベッドサイドから遠隔配置されたモニタ
・中央ユニット監視室
・遠隔配置されたコンピュータ、タブレット型コンピュータ機器、ページャ、又はスマートフォン別の実施形態において、そのような事象が起きた場合、電気警報信号が電子通信システムに送られる。特定の実施形態において、警報又は警告は、例えば視覚信号、聴覚信号、又は電気信号であってよく、これらの信号は、例えば、電話、スマートフォン、腕時計、又は患者に対して手元にある又は遠隔にある他のコンピュータといった機械又は装置に送られる。警報信号又は警告信号は、患者の病室、又は病院内のどこか他の位置、又は病院外の遠隔位置で、医師、看護師、又は他の介護者によって受け取られてよい。
【0063】
1つの実施形態において、センサS、S、S、及びSのうち1つ又は複数が、例えば、商用ブランドのルアーロック(Luer Lock)コネクタといったワンタッチコネクタを用いて、TTM冷却剤の流路に取り付けられる。そのようなワンタッチコネクタが商用TTMシステムに用いられるのは、各患者が治療されるときに、新たな熱伝達カテーテルをTTMシステムそのものに接続しなければならないからである。具体的には、センサとTTMシステムそのものとの間の接続はワンタッチコネクタで行われ、センサと熱伝達カテーテルとの間の接続もワンタッチコネクタで行われる。そのようなコネクタはそれぞれ、商用TTMシステムに用いられる特定のタイプに適合するように選択される。このように、センサS、S、S、及びSは、商用TTMシステムの既存の要素に沿って、商用TTMシステムのオペレーションを妨害することなく、また商用TTMシステムの機械的修正を行わずに取り付けられてよい。例えば、センサS、S、S、及びS、並びに本開示で教示される他のシステム要素は、TTMシステムとは別に販売され得る独立したシステムを形成し得る。
【0064】
1つの実施形態において、センサSは、静脈血からの熱伝達が起こることが意図されているカテーテルの部分の上流端に近接した位置で、熱伝達カテーテル内に取り付けられ、その近接度の1つの例は1mmの隔たりであり、近接度の別の例は10mmの隔たりである。同様に、センサSは、静脈血からの熱伝達が起こることが意図されているカテーテルの部分の下流端に近接した位置で、熱伝達カテーテル内に取り付けられ、その近接度の1つの例は1mmの隔たりであり、近接度の別の例は10mmの隔たりである。この実施形態において、センサS及びSで測定された温度差は実質的に真値に等しく、これは、既知の対向流熱交換の現象では、測定された温度差が真値より小さな値に下がらなかったからである(Mills、1999)。
【0065】
1つの実施形態において、熱交換カテーテルのそれぞれの特定のモデルにおける対向流熱交換の実験研究が、2つの温度差の関係を説明するために行われた。1つは(a)静脈血からの熱交換が起こることが意図されているカテーテルの部分に近接してセンサS及びSが配置された場合に、それらのセンサで測定された温度差であり、もう1つは(b)静脈血からの熱交換が起こることが意図されているカテーテルの部分に近接してセンサS及びSが配置されなかった場合に、それらのセンサで測定された温度差である。後者のセンサS及びSの位置に関する一例が、熱交換カテーテルの近位端であり、ここでカテーテルがTTMシステムに接続する。この近位の位置にセンサS及びSを設置することは、カテーテルの大部分の長さに沿ってセンサの電気リード線を張る必要がないので有利である。
【0066】
別の利点は、既存の商用熱交換カテーテルの全て又は多くが、温度測定センサを内部に全く取り付けていないことである。同じこれらのカテーテルを本明細書に開示されたシステムと共に用いるには、上に定義した温度差がどのように関連しているかを認識することが望ましい。熱交換カテーテルの明確な形状、熱交換カテーテル内の明確な冷却剤流量、及び静止周囲空気の固定温度に対して、上に定義した2つの温度の間の関係は、実験によって決定され得る単調関係である(Mills、1999)。
【0067】
代替的な実施形態において、熱交換カテーテルは、冷却剤の流入経路と冷却剤の流出経路との間に断熱層を含む。この層は、隣接する流路間の対向流熱伝達を抑制するので、この層がない場合よりも、熱交換カテーテルとTTMシステムとの接続点付近に配置されたセンサS及びSによる温度差の測定が正確になる。
【0068】
代替的な実施形態において、熱交換カテーテルの一部は患者の外側にあるが、その部分は断熱材で覆われるので、周囲空気からの熱伝達が抑制される。これにより、熱交換カテーテルとTTMシステムとの接続点付近に配置されたセンサS及びSによる温度差の測定に対する、周囲空気の温度変化のスプリアス効果が抑制されるので有利である。
【0069】
上に定義したように、Pcool=cρw(Toutflow-Tinflow)であることが知られている。Pcoolの与えられた値に対して、冷却剤流量wの値が小さくなると、温度差(Toutflow-Tinflow)の値は大きくなるという関係にあり(他の条件は全て等しいものとする)、その反対のことも成り立つということになる。1つの実施形態において、TTMシステムのwの値は最小実用値に等しいか、又は例えば最小実用値の20%以内に設定され、これにより温度差(Toutflow-Tinflow)が増加する。これには、発熱をより確実に検出する目的がある。wの最小実用値は、以下の段落で定義される。Toutflow及びTinflowの各測定値にはノイズに起因するランダム成分が含まれているはずと仮定すると、確かにこれらの測定値の差異にもランダム成分が含まれているはずである。この差異(Toutflow-Tinflow)を大きくすることで、そこに含まれるランダムなノイズの寄与が比例的に減少するので、発熱を正確に診断できる可能性が大きくなる。このことは、大きい信号対雑音比(SNR)に関する既知の利点から導かれる(Schafer、1989)。
【0070】
SNRの値の増加における冷却剤流量wの役割を十分に理解するためには、wの値が小さいのでTinflowの値が冷却剤の凝固点付近の値に低下するということではないことを理解しなければならない。凍結した冷却剤で冷却剤流路が内部で遮断されたとしたら、患者冷却の中断が起こることになる。あるいは、TTMシステムの冷却装置内の別の流路が、同じ影響で遮断されることになり得る。一般に、Pcoolの値を増加させるには、Tinletの値を低下させなければならず、特に、Toutletの値が患者の深部体温にほぼ等しいと理解されている場合にはそうである。このことは、冷却剤が熱伝達カテーテルを通過する間に実質的に熱平衡状態を達成したとすれば、当てはまることになる。TTMシステムの制御アルゴリズムは、発熱が起こるとTTM冷却剤温度(患者に関連したTinletとして定義される)を急激に低下させる必要があり、これにより発熱に関連した熱が相殺されるということになる。wの値が小さいほどTinletの低下が大きくなるという事実は、上述したように、発熱の検出に有利である。しかしながら、wの値は最小実用値より低く設定してはならない。最小実用値は、Tinletを冷却剤の凝固点付近まで減少させる値である。
【0071】
簡単さで評価されている代替的な実施形態において、センサSは、TTMシステムから患者の体内にある熱交換カテーテルに向かって流れるTTM冷却剤の温度を測定する。冷却電力Pcoolの計算はプロセッサで行われない。上述したように、TTM冷却剤温度の値はメモリに格納されており、TTM冷却剤温度の現在の値及び最近の値が表示される。任意選択で、プロセッサはTTM冷却剤温度の値を適切な低域フィルタで選別し、これにより、急速に変化する瞬時値とは異なり、直近数分の特性値が取り出される。医師は、冷却剤温度Tinletの急激な低下が患者の発熱を知らせ得るという理解でこの表示を解釈する。プロセッサは、臨床患者の発熱に関連した値であることが理論計算及び臨床観察から知られている冷却剤温度の値を表示することになる。上述した警報機能は、発熱に関連していると一般に知られている値より下にTTM冷却剤温度が減少した場合に起動するようになる。この実施形態において、冷却剤温度Tinletは、TTMシステム及び熱交換カテーテルのコネクタに適合するように選択されたワンタッチコネクタを用いて、TTMシステムと熱交換カテーテルとの間に接続された温度測定センサで測定される。
【0072】
基礎的な物理学的考察によって、患者を冷却している間にPcoolの値が大きくなることが示唆されることを理解されたい。このことは、患者のエネルギー保存の説明、つまりMcdTcore/dt=-Pcool+Pmetabolic-(Tcore-Tambient)/Rから導かれる。ここで、Mは患者の質量であり、cは患者の体組織全ての定圧における比熱であり、dTcore/dtは患者の体温の時間変化率であり、PcoolはTTMシステムによって患者に与えられる冷却電力であり、Pmetabolicは患者の体内の代謝発熱であり、Tambientは患者周辺の大気温度であり、Rは患者の深部と周囲空気との間の総熱抵抗であり、これらは、患者の表層及び患者の被覆物において及びそれらの近くで生じる伝導プロセス及び対流熱伝達プロセスによって決定される。TTMが始まる前の平衡状態では、dTcore/dt=0且つPcool=0であり、このことからPmetabolic=(Tcore-Tambient)/Rということになる。ここでTcore=37°C、つまり平均的な体温である。この式は、運動に起因した発汗、シバリング、又は発熱がない場合に、平均的な体温を維持するPmetabolicの値を単に定義するにすぎない。
【0073】
低体温症に対してTTMを適用した後の瞬間に、Pcoolは物理量McdTcore/dtによって決定される値に等しくなければならず、それは、Tcoreが平均的な体温より低い値に達する前でも、Pmetabolic=(Tcore-Tambient)/Rの式が依然として適用されるからである。このPcoolの初期値は、臨床研究で報告されているように、dTcore/dt=0.4℃/時間の値を用いてMcdTcore/dtから計算することができる(Knapik他、2011)。M=70kg、水に対してc=4180J/(kg℃)という近似値を用いると、およそPcool=32ワットとなる。より高い冷却率を用いる別のプロトコルでは、関連するPcoolの値は比例的に大きくなる。
【0074】
上述したように、Pcoolの値の増加が見られると、一般に発熱を知らせることになり得る。1つの実施形態において、時間のどの瞬間にもMcdTcore/dtの値を示すことで、存在しない発熱を診断する可能性が低くなり、任意選択で、上述したように適切な低域フィルタで選別される。別に示されたMcdTcore/dtの値に等しい量だけPcoolがある瞬間に増加した場合、Pcoolの増加は、正しくは患者を安定して冷却することが理由と考えられ得る。したがって、存在しない発熱には関係しないことになる。
【0075】
1つの実施形態において、治療の一部として患者がいくらか低い温度に冷却されるべきときには、冷却剤流量は上述した最小実用値より実質的に大きい値に増加することになる。上述したように、冷却電力が大きくなると、McdTcore/dtはゼロ以外の負の値に関連付けられる。さらに、冷却電力の値は上に定義したように、Pcool=cρw(Toutflow-Tinflow)で与えられる。Tinflowを冷却剤の凝固点に近づけることなく、患者の深部体温を安定して低下させるのに十分な冷却電力を生み出すために、冷却剤流量wの値が増加し得ることは有利である。患者が所望の低体温温度に達した場合、冷却剤流量wの値は上述したように、発熱を検出する可能性を高めるために減少してよい。
【0076】
1つの実施形態において、物理量Pcoolの推定値が、センサS及びS図2)の測定値から計算されることになる。これらのセンサはそれぞれ、TTMシステムの内部に存在する冷却装置にかかる電圧及び冷却装置を流れる電流を測定する。冷却装置が消費する電力は、既知の公式Pchiller=VDCchillerDCchillerに等しい。ここで、VDCchillerは冷却装置にかかるDC電圧であり、IDCchillerは冷却装置を流れるDC電流である。また、DCは一極性(直流)の信号を意味する。正弦波信号(AC信号、交流)が冷却装置に適用される場合、既知の公式はPchiller=(1/2)VACchillerACchillerである。ここで、VACchillerは冷却装置にかかる正弦波電圧のゼロからピークまでの振幅であり、IACchillerは冷却装置を流れる正弦波電流のゼロからピークまでの振幅である。患者に提供される熱冷却電力はPcool=εPchillerで与えられるので、冷却装置は完全に効率的でなくてもよい。ここで、εは効率因子と一般に呼ばれ、1より小さい数値に等しい。不十分な効率を説明するために、プロセッサは直前の公式と、例えば冷却装置の製造業者が提供するεの既知数とを用いて、PchillerからPcoolの推定値を計算する。これらのPcoolの推定値は、メモリ(図4)に格納され、すぐ上の段落で説明されたように示されてよい。
【0077】
1つの実施形態において、センサS図2)は患者の近くの代表的な位置で周囲空気の温度を測定する。これらの大気温度の値は処理を必要とせずにメモリに格納された後、冷却電力Pcoolの現在の値及び過去の値の表示に関して上述したように表示される。医師は、現在及び過去の大気温度値の表示が有益であることが分かるであろう。それは例えば、周囲空気温度が急激に上昇すると、温かくなった病室の空気から患者への熱伝達が必然的に大きくなることに応答して、TTMシステムは冷却電力を増加させなければならないからである。冷却電力及び周囲空気温度の過去及び現在の値を同時に表示することで、医師は原因と結果を関連付けることができるので、冷却電力Pcoolの増加を存在しない発熱と誤って関連付けることはあり得ない。
【0078】
1つの実施形態において、センサS図2)は患者の筋組織の上にある皮膚に固定された筋電図検査用のセンサである。筋組織は例えば胸筋であり、ここは仰向けに寝た患者でも容易に利用しやすく、シバリングに関わっていることで知られている(van Ooijen他、2005)。いくつかの実施形態において、このセンサからの電気信号はプロセッサの適切な低域フィルタで選別されてよく、これにより、各筋組織の収縮の瞬間的な大きさとは異なり、分刻みでシバリングの有無が強調される。センサSから発した過去及び現在の信号はメモリ(図4)に格納され、TTMの冷却電力信号Pcoolについて上述したように表示される。センサSからの信号の値が表示されると医師にとって有益なのは、シバリングによって熱エネルギーが患者に加えられ、それが刺激となってTTMシステムが生成する冷却電力Pcoolの値が補償的に増加するからである。過去にシバリングが発生し、そのときにシバリングの直接的な臨床観察ができなかった場合、センサSが生成した過去の値が表示されることで、医師が原因と結果を関連付けることが可能になってよく、したがってPcoolの過去の増加を存在しない発熱と誤って関連付けることがない。代替的な実施形態において、センサSは、センサを固定した皮膚の下にある筋組織の変位、速度、又は加速度を検出できるセンサである。本明細書に開示されたように、薬剤は一般にシバリングを阻止するために投与され、これにより、センサSからの信号は通常、実質的にゼロに等しくなるので、医師によって解釈される必要はない。
【0079】
1つの実施形態において、センサS10図2)は温度測定センサであり、これはセンサが固定されている患者の皮膚の局部温度を測定する。皮膚温は一般に、TTM設定点温度に実質的に等しい患者の深部体温を維持する上述したTTM制御ループ(フィードバックループ)に直接関わる信号ではない。しかしながら、皮膚温信号は医師に有益な情報を与え得る。基本的に、皮膚温はヒトの体温調節系の重要な信号としての役割を果たす。例えば、皮膚温はシバリングを抑制すると考えられている。同様に、皮膚温の時間変化率は、ヒトのシバリング抑制に寄与する明確な信号であると考えられている(Fiala他、2001)。任意選択で、センサS10からの信号は適切な低域フィルタを有するプロセッサによって処理され、秒単位で実質的に一定な信号がもたらされてよく、したがって、毎秒何回もの速さであっても変動を含まない。上述したように、この処理された信号はメモリに格納されてから表示される。
【0080】
別の実施形態において、温度測定センサは患者の皮膚の1つより多くの位置に配置される。次に、これらの温度の値は共に平均化されることで処理され、これにより、患者全体の平均皮膚温に関してより意味のある推定値が与えられる。任意選択で、身体の異なる位置で測定された個々の温度の値には、ヒトの体温調節系が異なる皮膚温に与える異なる加重を近似する目的で、異なる加重係数が割り当てられてよい(Tanabe他、2002)。
【0081】
1つの実施形態において、患者の指の皮膚温がセンサS10で測定される。指の温度は被験者の深部組織の血管収縮の程度と密接に関連していることが報告されている(Akata他、2004)。したがって指の温度は、ヒトの体温調節において、より深部の生理的変数の代わりとなるものである。そのような生理的変数の挙動は、後述される機械学習プロセスを含むために重要でる。この機械学習プロセスは、変化する内因性設定点温度及び患者の生理的状態を定義する他の基礎的な値を推定しようとするものである。
【0082】
1つの実施形態において、経時的に測定された皮膚温の値は時間に関して微分されることになり、これにより、ヒトの体温調節系において重要と考えられる明確な物理量が与えられる(Fiala他、2001)。この微分法は、既知の有限差分式を適用して近似的に行うことができ、そのような式の1つがdTskin/dt=(Tskin(n)-Tskin(n-1))/tである。ここで、Tskin(n)は、センサS10からプロセッサに流れるそのような値の一様な流れにおけるTskinの任意の測定値であり、Tskin(n-1)は、その流れにおける直前の値であり、tはTskinの各サンプリング値の間の時間間隔であり、これはADCによって決定される。dTskin/dtをより正確に示すより複雑な式が、数値法の分野で知られている(Hornbeck、1975)。上述したように、計算されたdTskin/dtの推定値は、メモリに格納されてから表示される。
【0083】
skin及びdTskin/dtの両方の現在及び過去の値を個々に又は共に表示することは、両方の物理量がヒトの体温調節に重要であることが知られているので、患者のシバリングの発症を医師が予測するのに役立ち得る。シバリングはここでも、低体温設定点温度を維持するのに機能するので、医師はシバリングを予期し、次に薬剤を投与してシバリングを阻止したいと思うだろう。Tskin及びdTskin/dtの両方の現在及び過去の値をメモリに格納し表示することで、一般に、特定の患者の体温調節と同様にヒトの体温調節を理解しようとする取り組みが支えられている。上に開示したように、機械学習技法は一般に、入力信号と出力信号のセット間の複雑な関係を導出することができる(Kato、2009)。目標温度管理の臨床環境において、機械学習技法は、上述のセンサを用いて、未処理及び処理済みの信号値の流れから、患者の内因性設定点温度(ESPT)の変化を推定するのに適用され得る。
【0084】
1つの実施形態において、センサS12は患者の呼気の体積流量を測定し、センサS13は患者の呼気の酸素濃度を測定する。プロセッサ内のADCは、例えば、患者の呼気ごとに100個のサンプルを取り出すような割合で、これらの測定値をサンプリングする。プロセッサは、(a)呼気の流量と、(b)呼気の酸素濃度とを対にしたサンプルの積を計算する。この積は呼気の継続期間で数的に積分され、それぞれの呼吸の間に吐き出される酸素のモル数に等しい物理量がもたらされる。数値積分法が既知のアルゴリズムに従って行われてよく、そうしたアルゴリズムの1つが台形公式である(Hornbeck、1975)。別の計算において、体積流量が一呼吸で数的に積分され、呼気の流量に等しい物理量が与えられる。
【0085】
次に、患者が吸い込んだ酸素のモル数が、以下の通り計算される。吸気量は、上に定義した計算された呼気量に等しいと仮定される。吸い込まれた酸素の濃度は、地球大気の標準値に等しいと仮定される。吸い込まれた酸素のモル数は、直前に定義されたように、流量と濃度の積に等しいはずであり、プロセッサは、深呼吸のたびに患者が吸い込んだ酸素のモル数を計算する。
【0086】
プロセッサは、深呼吸するたびに患者が消費した酸素のモル数を、吸い込まれた酸素のモル数から吐き出された酸素のモル数を差し引くことで計算する。プロセッサは、深呼吸するごとに消費されるこのモル数を、各深呼吸と関連する時間で割ることによって消費速度に変換する。この時間は、連続する呼気時間の終了の差異によって定義され、呼気時間の終了は、流速が実質的にゼロに等しい値に低下した時間によって定義される。
【0087】
プロセッサは、単位時間当たりに消費された酸素のモル値を、既知の変換係数を適用することによって、標準温度及び標準気圧において単位時間当たりに消費された酸素のリットル値に変換する。具体的には、標準温度及び標準気圧において1リットルの酸素を消費すると、平均的食事を取っている被験者では、4.825キロカロリーのエネルギーが生み出されることが知られており(Hall、1996、p907)、このエネルギーは、20.188キロジュールと等しい。一例として、ヒトの典型的な安静時酸素消費速度は、3.5mL/(min・kg)に等しく、これは70kgの人における82ワットのエネルギー消費量に相当する。
【0088】
代替的な実施形態において、患者の食事の中に実際に存在している炭水化物、タンパク質、及び脂肪の特定の割合について説明が行われ、これにより、平均的食事に対して上述されたものとは異なる酸素1リットル当たりに消費されるキロカロリー値が計算される。
【0089】
これらの等価性によって、プロセッサは、測定された酸素消費速度を患者によるエネルギー生成速度に変換する。このエネルギー生成速度は、いかなる機械的な仕事も行わない患者の代謝エネルギー生成に実質的に等しい。任意選択で、エネルギー生成値は適切な低域フィルタで処理され、各呼吸とは反対に数分又は数時間の期間のエネルギー生成特性値がもたらされる。上述したように、エネルギー生成速度の値はメモリに格納され表示される。
【0090】
代替的な実施形態において、酸素センサS13は、酸素の濃度ではなく酸素の分圧を測定する。この実施形態において、センサS14は、酸素の分圧が測定されるのと同時に、呼気の温度を測定する。プロセッサは、酸素の分圧値及び酸素の温度値から酸素の濃度値を計算するのに理想気体の法則を適用する。具体的には、n/V=P/(R・T)である。ここで、n/Vは単位体積当たりの酸素のモル数でり、Pは酸素の分圧であり、Rは普遍気体定数であり、Tは酸素の温度である。濃度値が知られていると、前の段落で説明された処理が行われて、代謝エネルギー生成値がもたらされることになる。
【0091】
代替的な実施形態において、吐き出された酸素の濃度は、簡単にするために、呼気のどの瞬間にも定数として扱われる。次の処理は、この定数に体積流量の積分値を乗じるだけであり、これにより、呼吸のたびに吐き出される酸素のモル数の値がもたらされる。次に続く処理段階は、上述した通りである。
【0092】
1つの実施形態において、プロセッサは各呼気の熱エネルギーを以下の通り計算する。呼気の間の各瞬間において、呼気の熱エネルギー輸送の速度は、ρcwTairで与えられる。センサS12で測定された呼気の体積流量の値は、プロセッサによって、センサS14で測定された呼気の温度の値と対にされる。これにより、測定の各瞬間に2つの物理量の積が形成される。その結果生じる一連の値は、上述した既知の方法に従って数的に積分され、次に、空気の比熱と空気の密度を乗じる(簡単にするために、両方とも定数に等しいと仮定する)。この結果は、呼気の総熱エネルギーである。
【0093】
各吸気に関連する熱輸送の速度は、吸気量が呼気量に等しいと仮定することで計算され、後者は上述したように計算される。吸気の温度は一定値、すなわち周囲空気の温度に等しく、これはセンサSで測定される。各吸気の総熱エネルギーは、ρcVTairに等しい。ここで、Vは呼吸の流量であり、説明したように呼気の流量に等しいとみなされる。呼吸のたびに患者が失う熱エネルギーを定量化するために、プロセッサは、直近の呼気の熱エネルギーから直近の吸気の熱エネルギーを差し引く。エネルギー損失の速度は、先ほど定義されたエネルギー損失を直近の深呼吸(吸気と呼気を加えたものを意味する)の継続期間で割ることにより計算される。深呼吸の継続期間は、上に定義したように計算される。呼吸によるエネルギー損失の速度に関する現在及び過去の値は、上述したように表示される。任意選択で、これらの値はプロセッサ内の適切な低域フィルタによって処理されてよく、これにより、各呼吸の値ではなく、過去数分間又は数時間の呼吸による熱エネルギーの損失が定量化される。
【0094】
1つの実施形態において、空気の密度は、定数としてではなく、変化する大気温度の関数として扱われる。その結果、呼気の流量及び体温が測定される瞬間ごとに、三重積ρ(T)wTairが計算される。ここで、空気密度の温度に対する既知の関数依存性がルックアップテーブルとして、又は線形関数若しくは二次関数などの簡単な関数として示されている(Mills、1999)。前述したように、この結果に定数cを乗じ、そのような積が全て数的に積分され、上述したように各呼気の熱エネルギーが計算される。
【0095】
上述したシステムの変形が可能であり、例えば、吸気の間の多くの瞬間に、変化する吸気の体積流量を測定するといった不必要且つ無駄な変形が含まれることを理解されたい。これが不必要且つ無駄であるのは、これらの測定が呼気に対して行われ、また正常な肺をもつ患者では、呼気の流量は吸気の流量に等しいはずだからである。
【0096】
1つの実施形態において、呼気の水蒸気分圧が、各呼気の間の多くの瞬間にセンサS15で測定される。1つの例では呼気の間に10回の瞬間であり、別の例では呼気の間に100回の瞬間である。上に説明されたように、その瞬間にセンサ14で測定された呼気温度の値を用いて、プロセッサは理想気体の法則に基づいて計算を行い、水蒸気分圧を水蒸気濃度に変換する。水蒸気濃度のそのような各測定値は、センサ12で同時に行われた空気流量の測定値と対にされ、次に、プロセッサが2つの物理量を乗じて、その結果が最後にメモリに格納される。同じ呼気からのそのような結果全てが、上述したように数的に積分され、これにより、呼気に含まれる水の総質量が示される。
【0097】
吸気の水分量を計算するために、上述したように、吸気の流量は呼気の流量と等しいとみなされる。次に、センサS11で測定された周囲空気の水蒸気分圧の値は、センサSで測定された周囲空気温度の値を用いて、理想気体の法則を適用することにより水蒸気濃度の値に変換される。プロセッサは吸気の呼吸流量に水蒸気濃度を乗じ、各吸気の総水分量を示す。プロセッサは、呼気の水分量から吸気の水分量を差し引いて、患者が呼吸で失った水の質量を示す。この水の質量は、既知の水の気化熱である2256J/gを乗じることでエネルギーに変換される(Halliday、1966、p563)。プロセッサは上述したように、呼吸ごとに失われるこのエネルギーの値を、深呼吸の継続期間で割ることによりエネルギー損失の速度に変換する。肺における気化に起因したエネルギー損失のこれらの値は、上述したように表示される。任意選択で、これらの値は上述したように、低域フィルタで処理されてよい。上述した他のエネルギー消費量と組み合わせると、呼吸で失われた熱エネルギーのこの表示は、患者のエネルギー状態を定義するのに役立つことになり、より好ましいのは、このエネルギー状態の変化を検出することが可能になることである。さらに、上述したように機械学習技法を適用すると、診療所においてESPTの変化を自動で検出することが可能になり得る。
【0098】
1つの実施形態において、患者の皮膚に配置されたセンサS16が、例えば、狭い間隔で並んだ電極間の導電率の値によって発汗を検出する。上述したように、この信号はADCによってサンプリングされて、メモリに格納され、任意選択で、過去数分間又は過去数時間にわたる信号の平均値を表示するように設計された低域フィルタによって選別され、次に表示される。低体温TTMを受けている患者が発汗することは、考えられていない。しかしながら、センサS16からの無発汗と一致する信号が連続して表示されると、患者の期待される生理的状態が医師のために確認されることになる。一方、高体温TTMの場合には、発汗は患者による期待される応答であってよい。
【0099】
1つの実施形態において、患者の神経状態が以下の通り間接的に評価される。特定の期間が経過した後に、例えば、4時間ごとに、TTMシステムの設定点温度は、場合によらず変わらない事前に決められた値だけ、例えば3℃だけ減少する。設定点を意図的に減少させる時間の継続期間が短すぎると(例えば、5分)、患者の深部体温が新たな設定点温度に達することができない。新たな設定点温度は、前述した新たな低い値を有する矩形波形として表示される。上述したように、神経障害を持つ患者はこの問題に応答して、実質的に完全な神経機能を持つ患者よりも急速な深部体温の低下を示すことを、臨床医が観察した。図5は、TTM設定点温度の急激な低下に応答した、平均的な患者及び神経障害を持つ患者の深部体温の応答を簡略化して示す。TTM設定点温度はTからTへ急激に低下している。図示したように、平均的な患者の深部体温は通常、顕著な神経障害を持つ患者のより大きい量ΔTより小さい量ΔTだけ低下する。図5において、Δtは、より低い設定点温度Tが適用される時間の継続期間であり、Δtは、設定点温度の変わり目と次の変わり目との間の時間の継続期間である。
【0100】
Δtで定義される期間の終了時に、プロセッサはΔT/Δtで定義される傾きを計算し、次にその値を、TTMの設定点がTからTに急激に低下した以前の全てのときと比較するために、格納して表示する。患者の神経状態は事前に分からないので、傾きを定義する式は同様に、図4の用語を用いてΔT/Δtと記述することもできる。この手順によって生じる一連の傾き値は、時間に対して有効にプロットされてよく、これにより、傾向が医師にとって明らかになる。傾きがより大きな負の値になる傾向があると、神経障害の増加が示唆され、傾きがより小さな負の値になる傾向があると、反対のことが示唆される。
【0101】
本明細書に開示される特定の実施形態は、患者の体内に配置される血管内カテーテルではなく、患者の胴又は手足に付ける外部パッドで患者を冷却する異なる種類のTTMシステムで具体化され得ることを理解されたい。最も重要なことは、TTMシステムによって患者に加えられる冷却電力を定義する式は変わらないということである。上述したように、
cool=cρw(Toutflow-Tinflow
であり、ここで、Tinflowは冷却パッドに流入する冷却剤の温度であり、Toutletは冷却パッドから流出する冷却剤の温度である。この物理的等価性が与えられると、血管内カテーテルを用いるTTMシステムに関する上記の開示は、外部冷却パッドを用いるTTMシステムにも当てはまることになる。
【0102】
1つの実施形態において、計算又は表示の目的で関連情報をメモリに手動入力することが、キーパッド又は同等のデバイスによって可能になる。上述したセンサを用いて都合よく測定できない関連情報を格納するために、手動入力が行われることになる。具体的には、患者治療を管理する医師によってTTM設定点温度が変更されるようなときに、TTM設定点温度の値を入力することが有益である。この温度の値はメモリに格納され、その後、患者の深部体温の現在及び最近の値と共に表示される。このように表示されると、TTM治療が維持できていることを医師は常に確認できる。上に開示したように、TTM設定点温度に周期的な一時的変化があった直後のときに、患者の神経状態が評価されてよい。
【0103】
処理及び表示のために手動でメモリに入力され得る他の関連情報は、(a)患者の体重及び体質(一般に患者からの熱伝達に影響を与えるパラメータである)、(b)患者のシバリング反応を阻止する薬剤の種類、量、及び投与時間、(c)他の全ての薬剤の種類、量、及び投与時間、(d)全ての静脈内輸液の温度、流量、及び投与時間(これらは患者との間の熱伝達を表す)、並びに(e)患者の被覆、除覆、及び位置移動(これらは、患者の保温状態の変化によって患者からの熱伝達に影響を与える因子である)である。
【0104】
代替的な実施形態において、設定点温度の値は、TTMシステムの内部で電子的に得られるものであり、手動入力によって得られるものではない。その後、上述したように、この値はメモリに格納され表示される。
【0105】
本発明の実施形態は下記態様を含んでよい。
(態様1)
患者の体温を制御し、患者の内因性設定点温度のあらゆる変化を判定するためのシステムであって、前記システムは、
前記患者の身体と熱を交換し合う体熱交換器と、
前記熱交換装置を制御し、前記患者の体温を既定の目標温度又は既定の目標温度範囲に維持するための制御装置と、
前記患者の内因性設定点温度の変化を判定するための装置と
を備える、システム。
(態様2)
前記患者の内因性設定点温度の変化を判定するための前記装置は、前記体熱交換装置が前記患者の体温を前記既定の目標温度又は前記既定の目標温度範囲に維持するのに必要なエネルギー量を判定する装置を含み、そのような変化は前記患者の内因性設定点温度の変化によって生じる、態様1に記載のシステム。
(態様3)
熱交換流体が前記体熱交換器を通って循環し、前記患者の体温を維持するのに必要なエネルギー量の変化を判定するための前記装置は、前記熱交換流体が前記体熱交換器を通って循環するときに、前記熱交換流体が得た又は失った熱量を測定するためのセンサを含む、態様2に記載のシステム。
(態様4)
前記体熱交換装置は血管内熱交換装置を含む、態様1から3のいずれか一項に記載のシステム。
(態様5)
前記血管内熱交換装置は血管内熱交換カテーテルシステムを含む、態様1から4のいずれか一項に記載のシステム。
(態様6)
前記体熱交換装置は体表面熱交換システムを含む、態様1から3のいずれか一項に記載のシステム。
(態様7)
前記体表面熱交換システムはパッド、ブランケット、又は衣類を含む、態様6に記載のシステム。
(態様8)
感知された前記患者の内因性設定点温度の前記変化を分析するようにプログラムされているプロセッサをさらに備える、態様1から7のいずれか一項に記載のシステム。
(態様9)
前記プロセッサは、判定された前記患者の内因性設定点温度の前記変化を分析し、そのような変化が、a)以前に発熱していなかった患者の発熱、b)以前に発熱した患者の発熱の中断、c)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度増加、及び/又はd)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度低下の中から選択される前記患者の発熱状態の変化をいつ示すかを判定する、態様8に記載のシステム。
(態様10)
前記プロセッサはさらに、前記変化が前記患者の内因性設定点温度又は発熱状態の変化に関連すると判定された場合、警報又は警告を出すようにプログラムされている、態様8に記載のシステム。
(態様11)
前記警報又は警告は、
前記システムに含まれている表示装置又は発報器、
前記システムの構成要素である携帯型警報モジュール、
別個の電子モニタ、
患者のベッドサイドモニタ、
前記患者のベッドサイドから遠隔配置されたモニタ、
中央ユニット監視室、及び
遠隔に配置されたコンピュータ、タブレット型コンピュータ機器、ページャ、又はスマートフォン
の中から選択される1つ又は複数の警報発報器に有線接続又は無線接続で送信される、態様10に記載のシステム。
(態様12)
前記患者の内因性設定点温度の変化を判定するための前記装置は、治療の目標温度を維持するのに必要な、前記熱交換流体の温度の変化又は前記熱伝達流体の流量の変化の中から選択される1つ又は複数の変数を測定するための、1つ又は複数のセンサを含む、態様3から7のいずれか一項に記載のシステム。
(態様13)
前記システムは、感知された前記患者の体温、前記目標温度を維持するのに必要なエネルギー消費量、前記患者に送られる前記熱伝達流体の温度、前記患者に送られる前記熱伝達流体の流量、戻ってくる熱伝達流体の温度、戻ってくる熱伝達流体の流量、環境温度、又は前記患者の体重のうち2つ又はそれより多くを含む多変数の方程式を用いるようにプログラムされたプロセッサを備える、態様12に記載のシステム。
(態様14)
前記多変数の測定値のうち1つ又は複数は数学的に又はアルゴリズム的に、前記患者の内因性設定点温度の変化又は変化がないことに対して臨床的に有益な生体指標である数値又は視覚表現に変換される、態様13に記載のシステム。
(態様15)
前記患者の神経損傷の程度を評価するのにさらに用いられるシステムであって、前記システムは、前記患者の内因性設定点温度の変化のみに基づいて、又は他のデータと組み合わせて、神経損傷の重症度を判定するようにさらにプログラムされているプロセッサを備える、態様1に記載のシステム。
(態様16)
前記患者の内因性設定点温度の変化を判定するための前記装置はさらに、一定の熱負荷を加えることで前記患者の体温に摂動を起こさせようとする試みの後に、データを受け取って利用するようにプログラムされているプロセッサを備える、態様12に記載のシステム。
(態様17)
前記システムはさらに、前記患者の内因性設定点温度に作用し得る1つ又は複数の追加パラメータを表示するか又は考慮するように適合され、これらの追加パラメータは、
ESPT又は閾値間域、
温度の概日リズム、
特定の病気又は負傷、
神経損傷の程度、
鎮静の程度、
神経筋遮断の程度、
周囲の室温、
局所対流及び/又は輻射加熱若しくは冷却、
換気装置加熱の有無及び程度、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度、
ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無、
患者の体重又は体質、
患者のシバリング耐力、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却、及び
アスピリン又はアセトアミノフェンを含む、患者の内因性設定点温度に作用する薬剤を用いた薬物療法
の中から選択される、態様1から16のいずれか一項に記載のシステム。
(態様18)
前記システムは、1つ又は複数の追加変数を利用する多変数の方程式又はアルゴリズムを実行するようにプログラムされたプロセスを備え、これらの追加変数は、
とりわけ脳波図又は誘発電位などの代替手段で測定される神経損傷の程度に関する指標、
とりわけバイスペクトラルインデックス、皮膚伝導、表面筋電図、誘発電位などの代替手段で測定される鎮静の程度に関する指標、
連続4回刺激法又は他の同様な技法などによる、神経筋遮断の程度に関する指標、
皮膚の血管収縮又は血管拡張の測定値、
発汗の測定値、
筋電図検査法又は他の同様な技法などによる、シバリングの程度に関する指標、
周囲の室温に関する指標、
換気装置加熱に関する指標、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度に関する指標、
患者の体重又は体質、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却に関する測定値、
とりわけアスピリン又はアセトアミノフェンなどの、ESPTに作用する薬剤を用いた薬物療法、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度、
ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無、
患者の体重又は体質、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却、及び
実際の病状に固有の変更因子
の中から選択される、態様15に記載のシステム。
(態様19)
患者の内因性設定点温度又は内因性閾値間域の変化又は変化がないことを検出するための方法であって、特定の例が治療のための低体温、正常体温、又は高体温を誘導又は維持するために目標温度の管理を利用している間の発熱の前記検出であり、
前記方法は、
前記目標温度の管理装置の1つ又は複数の構成要素の状態、すなわち前記状態の変化又は変化がないことを検出して測定することと、
前記患者の内因性設定点温度の変化又は変化がないことの代わりとして、これらの測定値又はこれらの測定値を数学的に変換した形を利用することと
を備える、方法。
(態様20)
前記測定値のうち1つ又は複数は、1)送り出された若しくは戻ってくる熱伝達流体、又は2)前記患者の前記目標温度を維持するのに必要な前記熱伝達流体の温度、のいずれかの前記温度又は温度変化を含む、態様19に記載の方法。
(態様21)
前記測定値のうち1つは、治療の前記目標温度を維持するのに必要なエネルギー消費量又は前記エネルギー消費量の変化を含む、態様19に記載の方法。
(態様22)
前記測定値のうち1つは、治療の前記目標温度を維持するのに必要な前記熱伝達流体の流量又は前記熱伝達流体の前記流量の変化を含む、態様19に記載の方法。
(態様23)
導出される代用式は多変数の方程式であり、前記方程式には、感知された前記患者の体温、前記目標温度を維持するのに必要なエネルギー消費量、前記患者に送られる熱伝達流体の温度、前記患者に送られる前記熱伝達流体の流量、戻ってくる熱伝達流体の温度、戻ってくる熱伝達流体の流量、環境温度、又は前記患者の体重のうち2つ又はそれより多くが含まれる、態様19に記載の方法。
(態様24)
導出される代用式は多変数の方程式であり、前記方程式には、前記多変数のうち2つ又はそれより多くの変化、又は変化がないことが含まれる、態様23に記載の方法。
(態様25)
前記測定値のうち1つ又は複数は数学的に又はアルゴリズム的に、前記患者の内因性設定点温度の変化又は変化がないことに対して臨床的に有益な生体指標となる数値又は視覚表現に変換される、態様19に記載の方法。
(態様26)
前記患者の内因性設定点温度の変化又は変化がないことに対して臨床的に有益な生体指標となる前記数値又は視覚表現が、時間の関数として、ベースラインからの変化の程度として、又はその両方としてプロットされるかグラフで示される、態様25に記載の方法。
(態様27)
TTMを受けている患者の神経損傷の程度を評価するための方法であって、
前記方法は、
目標温度の管理装置の1つ又は複数の構成要素の状態、すなわち前記状態の変化又は変化がないことを測定することと、
これらの測定値を、単独で又は他の測定値と組み合わせて、又はこれらの測定値を数学的に変換した形で、神経損傷を示す生体指標として利用することと
を備える、方法。
(態様28)
測定された前記1つ又は複数の構成要素のうち1つは、前記TTMの装置のエネルギー又は熱伝達パラメータである、態様27に記載の方法。
(態様29)
測定された前記1つ又は複数の構成要素のうち1つは、一定の熱負荷を加えることで前記患者の体温に摂動を起こさせようとする試みの影響である、態様27に記載の方法。
(態様30)
ESPTに作用し得る1つ又は複数の追加パラメータも時間の関数として表示され、
前記1つ又は複数の追加パラメータは、
ESPT又は閾値間域、
温度の概日リズム、
特定の病気又は負傷、
神経損傷の程度、
鎮静の程度、
神経筋遮断の程度、
周囲の室温、
局所対流及び/又は輻射加熱若しくは冷却、
換気装置加熱の有無及び程度、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度、
ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無、
患者の体重又は体質、
患者のシバリング耐力、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却、及び
とりわけアスピリン又はアセトアミノフェンなどのESPTに作用する薬剤を用いた薬物療法
のうち1つ又は複数を含む、態様27に記載の方法。
(態様31)
患者のESPTの変化を検出することには、多変数の方程式又はアルゴリズムがさらに含まれ、
前記多変数の方程式又はアルゴリズムは、
とりわけ脳波図又は誘発電位などの代替手段で測定される神経損傷の程度に関する指標、
とりわけバイスペクトラルインデックス、皮膚伝導、表面筋電図、誘発電位などの代替手段で測定される鎮静の程度に関する指標、
連続4回刺激法又は他の同様な技法などによる、神経筋遮断の程度に関する指標、
皮膚の血管収縮又は血管拡張の測定値、
発汗の測定値、
筋電図検査法又は他の同様な技法などによる、シバリングの程度に関する指標、
周囲の室温に関する指標、
換気装置加熱に関する指標、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度に関する指標、
患者の体重又は体質、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却に関する測定値、
とりわけアスピリン又はアセトアミノフェンなどの、ESPTに作用する薬剤を用いた薬物療法、
皮膚又は気道からの気化冷却の程度、
ブランケット、衣類、又は他の被覆物の有無、
患者の体重又は体質、
投与された静脈内輸液を介した、体温より高い又は低い温度への加熱又は冷却、及び
実際の病状に固有の変更因子
のうち1つ又は複数を含む、態様27に記載の方法。
(態様32)
態様19又は20に記載の方法を実行するための装置を備えるシステム。
(態様33)
上に開示された関連性のある変数のうち少なくとも1つを測定するセンサと、
当該変数の現在の値を表示するための表示装置と
を備える、態様32に記載のシステム。
(態様34)
関連性のある1つ又は複数の前記変数の値を処理するプロセッサと組み合わされた、態様33に記載のシステム。
(態様35)
前記センサで測定された関連性のある1つ又は複数の前記変数の過去の値を格納するメモリデバイスを備えた、態様34に記載のシステム。
(態様36)
前記センサで測定され、前記プロセッサで処理された関連性のある1つ又は複数の前記変数の現在及び過去の処理された値を格納するメモリデバイスを備えた、態様35に記載のシステム。
(態様37)
センサで測定されない関連性のある変数をメモリに手動入力する手段を備えた、態様36に記載のシステム。
本発明の特定の例又は実施形態を参照して本発明を説明してきたが、説明されたこれらの例又は実施形態に対して、本発明が意図した精神及び範囲から逸脱することなく、様々な追加、削除、変更、及び修正を行うことができる。例えば、1つの実施形態又は例の任意の要素、段階、部材、構成要素、構成、反応物質、部品、又は部分が、別の実施形態又は例に組み込まれても、又はこれらと共に用いられてもよい。ただし、別途規定された場合、又は上記のようにすることで当該実施形態又は例がその意図した用途に適さなくなる場合を除く。また、方法又はプロセスの各段階が特定の順序で説明又は列挙されているが、そのような各段階の順序は変更されてもよい。ただし、別途規定された場合、又は順序を変更することで方法又はプロセスがその意図した目的に適さなくなる場合を除く。さらに、本明細書に説明された任意の発明又は例の要素、段階、部材、構成要素、構成、反応物質、部品、又は部分は、別途断りがない限り、任意の他の要素、段階、部材、構成要素、構成、反応物質、部品、若しくは部分がない場合又は実質的にない場合にも、任意選択で存在しても利用されてもよい。全ての合理的な追加、削除、修正、及び変更は、説明された例及び実施形態の均等物とみなされるべきであり、以下の特許請求の範囲内に含まれることになる。
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図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の身体と熱を交換するよう構成された体熱交換器と、
1または複数のセンサと、
前記体熱交換器を制御して目標体温範囲を維持し、且つ、前記1または複数のセンサにより送信される感知情報に基づき、前記患者の機能を調節する内因性体温が前記患者の身体を温めまたは冷却して、システムによって維持されている前記目標体温範囲とは異なる体温にすることを試みているか否かを判定するようプログラムされたコントローラと、を備えるシステム。
【請求項2】
前記体熱交換器は、血管内ビート交換装置を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記体熱交換器は、体表面熱交換システムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラはさらに、前記患者の機能を調節する前記内因性体温が前記患者の身体を温めまたは冷却して、前記システムによって維持されている目標体温または前記目標体温範囲とは異なる体温にすることを試みていると判定すると、前記コントローラは前記患者の身体を温めまたは冷却しようとするかかる試みが、a)以前に発熱していなかった患者の発熱、b)以前に発熱した患者の発熱の中断、c)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度増加、および/またはd)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度低下、から選択される発熱状態の変化を示すか否かをさらに判定するようプログラムされている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラはさらに、前記コントローラが前記発熱状態の変化のうちの1つを判定したときを示す警報または警告を出すようプログラムされている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
体熱交換器と、
患者の体温を感知するための第1のセンサと、
前記第1のセンサからの信号を受信し、且つ、前記体熱交換器を制御して前記第1のセンサにより感知される前記体温を目標体温または目標体温範囲に維持するようプログラムされたコントローラと、
前記体熱交換器と前記患者の身体との間で交換されている熱量の変化を直接にまたは間接に感知するための少なくとも1つの第2のセンサと、
前記少なくとも1つの第2のセンサと通信するプロセッサであって、前記プロセッサは、前記少なくとも1つの第2のセンサから受信される情報に基づき、前記体熱交換器と前記患者の身体との間で交換されている熱量の変化を判定するようプログラムされており、前記熱量の変化は、前記患者の身体の機能を調節する内因性体温が前記患者の体温を温めまたは冷却することを試みている結果、前記患者の体温がシステムによって維持されている前記目標体温または目標体温範囲とは異なり得ることを示す、システム。
【請求項7】
前記患者の身体の機能を調節する前記内因性体温が前記患者の体温を温めまたは冷却することを試みている結果、前記患者の体温が前記システムによって維持されている前記目標体温または目標体温範囲とは異なり得ることを判定すると、前記プロセッサはさらに、前記患者の身体を温めまたは冷却するかかる試みが、
a)以前に発熱していなかった患者の発熱、
b)以前に発熱した患者の発熱の中断、
c)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度増加、または
d)以前に発熱した患者の前記発熱の重症度低下、から選択される発熱状態の変化を示すか否かをさらに判定するように前記プロセッサはさらにプログラムされている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムは、前記プロセッサが発熱状態の変化が生じたことを判定したときに警報または警告を出す、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記警報または警告は、有線接続または無線接続により、
前記システムに含まれる表示装置または発報器
前記システムのコンポーネントである携帯型警報モジュール、
別個の電子モニタ、
患者のベッドサイドモニタ、
前記患者のベッドサイドから遠隔に配置されたモニタ、
中央ユニット監視室、および
遠隔に配置されたコンピュータ、タブレット型コンピュータ機器、ページャまたはスマートフォンから選択される1または複数のデバイスに送信される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
熱負荷を前記患者の身体に加えるための熱負荷装置をさらに備え、前記少なくとも1つの第2のセンサは、前記熱負荷装置による熱負荷を加えた後に、前記体熱交換器と前記患者の身体との間で交換されている熱量の変化を感知する、請求項6に記載のシステム。
【外国語明細書】