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特開2022-184927表面が機能化されたインプラントおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184927
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】表面が機能化されたインプラントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/02 20060101AFI20221206BHJP
   A61L 27/28 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20221206BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61L27/02
A61L27/28
A61L27/34
A61L27/06
A61L27/04
A61L27/12
A61L27/10
A61L27/18
A61L27/16
A61L27/14
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/38 111
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L27/52
A61F2/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】69
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144240
(22)【出願日】2022-09-12
(62)【分割の表示】P 2019507321の分割
【原出願日】2017-08-10
(31)【優先権主張番号】62/372,985
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/412,177
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/440,911
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514136314
【氏名又は名称】ニューヨーク ステム セル ファウンデーション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デ ペッポ ジュゼッペ マリア
(72)【発明者】
【氏名】エンクヴィスト ハカン
(72)【発明者】
【氏名】スラドコバ マルティナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】骨組織に移植したときにオッセオインテグレーションを促進するよう医療用インプラントの表面を機能化するための方法、および機能化された表面を有する医療用インプラントを提供する。
【解決手段】(a)インプラントの表面に間葉前駆(MP)細胞を播種する工程、(b)該表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該細胞を培養および増殖する工程、ならびに(c)該表面を除細胞化する工程であって、それによってインプラントの表面を機能化する、工程を含む、方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨組織に移植されたときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化するための方法であって、
(a)インプラントの表面に間葉前駆(MP)細胞を播種する工程、
(b)該表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該細胞を培養および増殖する工程、ならびに
(c)該表面を除細胞化する工程であって、それによってインプラントの表面を機能化する、工程
を含む、方法。
【請求項2】
除細胞化する工程が、ECMを維持しつつ表面から細胞を除去する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
除細胞化する工程が、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中で表面をインキュベートすることを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
処理溶液が、脱イオン水からなる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
処理溶液が、エタノールと水との混合物である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
処理溶液が、次式:
を有する非イオン性界面活性剤を含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
非イオン性界面活性剤が、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100(商標))である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
表面が、37℃で約30~60分間インキュベートされる、請求項3記載の方法。
【請求項9】
除細胞化する工程が、生理学的緩衝液中で表面を凍結させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
生理学的緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
表面が、-80℃で30分間超凍結され、その後に解凍される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
除細胞化する工程の後に、表面をヌクレアーゼで処理する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
表面が、DNAseおよびRNAseで処理される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
エタノール-水溶液の連続適用により表面を脱水する工程をさらに含み、ここで、連続適用される各々の溶液は、より高濃度のエタノールを含み、その最終回の適用は、100%エタノールの適用である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
表面にMP細胞を播種する前に、生細胞の接着を補助する少なくとも1種類の分子で表面をコーティングする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記分子が、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲルおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
除細胞化後に表面に再播種する工程をさらに含み、再播種する工程が、表面にMP細胞を播種することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
再播種されたMP細胞を培養および増殖する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
(b)の培養する工程が、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日超である、または約2~14日間である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
インプラントを滅菌する工程、および任意でインプラントをパッケージングする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
インプラントを対象の骨組織に移植する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
除細胞化後に表面上のECMを分析する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
(a)の前に、MP細胞を生成するよう多能性幹(PS)細胞を分化および増殖する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
PS細胞が、対象から収集された細胞を再プログラムすることにより生成される人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項1~25のいずれか一項記載の方法により製造される、インプラント。
【請求項26】
生体適合性金属または生体適合性材料から構成される、請求項25記載のインプラント。
【請求項27】
チタン、鋼鉄、PMMA、シリコーン、PEEK、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの材料から構成される、請求項26記載のインプラント。
【請求項28】
歯科用インプラントとして設計される、請求項25記載のインプラント。
【請求項29】
ネジ山を含む、請求項25記載のインプラント。
【請求項30】
(a)請求項25~29のいずれか一項記載のインプラント、および
(b)三次元足場を有する骨組織移植片
を含む、ハイブリッド骨インプラント。
【請求項31】
骨組織移植片が人工物である、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項32】
足場上に播種されかつ細胞とインプラントとのオッセオインテグレーションを促進するよう培養された細胞を、足場が含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項33】
インプラント材料が、チタン、鋼鉄、PMMA、シリコーン、PEEK、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウムまたはそれらの1つもしくは複数の組み合わせを含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項34】
移植片が、幹細胞由来または前駆細胞由来の細胞を含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項35】
移植片が、人工多能性幹細胞由来の細胞を含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項36】
足場が、除細胞化された骨組織から本質的になる、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項37】
骨組織が、ウシ骨組織である、請求項36記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項38】
骨組織が、ヒト骨組織である、請求項37記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項39】
足場が、1種類または複数種類の合成材料を含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項40】
合成材料が、セラミック、セメント、複合ポリマーまたはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項39記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項41】
足場が、機能化されている、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項42】
足場が、インプラント材料を収容する1つまたは複数の開口部を含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項43】
移植片が、骨移植片である、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項44】
移植片が、血管形成されている、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項45】
移植片が、2種類またはそれ以上の細胞型を含む、請求項30記載のハイブリッド骨インプラント。
【請求項46】
(a)対象から細胞を得る工程、
(b)人工多能性幹(iPS)細胞を生成するよう(a)の細胞を再プログラムする工程、
(c)間葉前駆(MP)細胞を生成するよう該iPS細胞を分化および増殖する工程、
(d)該MP細胞をインプラントの表面に播種する工程、
(e)表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該MP細胞を培養および増殖する工程、
(f)表面を除細胞化する工程であって、それによって、骨組織に移植したときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化する、工程、ならびに
(g)インプラントを対象の骨組織に移植する工程
を含む、医療処置を行うための方法。
【請求項47】
除細胞化する工程が、ECMを維持しつつ表面から細胞を除去する、請求項46記載の方法。
【請求項48】
除細胞化する工程が、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中で表面をインキュベートすることを含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
処理溶液が、脱イオン水からなる、請求項48記載の方法。
【請求項50】
処理溶液が、エタノールと水との混合物である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
処理溶液が、次式:
を有する非イオン性界面活性剤を含む、請求項48記載の方法。
【請求項52】
非イオン性界面活性剤が、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100(商標))である、請求項51記載の方法。
【請求項53】
表面が、37℃で約30~60分間インキュベートされる、請求項48記載の方法。
【請求項54】
除細胞化する工程が、生理学的緩衝液中で表面を凍結させることを含む、請求項46記載の方法。
【請求項55】
生理学的緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、請求項54記載の方法。
【請求項56】
表面が、-80℃で30分間超凍結され、その後に解凍される、請求項54記載の方法。
【請求項57】
除細胞化する工程の後に、表面をヌクレアーゼで処理する工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項58】
表面が、DNAseおよびRNAseで処理される、請求項57記載の方法。
【請求項59】
エタノール-水溶液の連続適用により表面を脱水する工程をさらに含み、ここで、連続適用される各々の溶液は、より高濃度のエタノールを含み、その最終回の適用は、100%エタノールの適用である、請求項57記載の方法。
【請求項60】
表面にMP細胞を播種する前に、生細胞の接着を補助する少なくとも1種類の分子で表面をコーティングする工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項61】
前記分子が、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲルおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項60記載の方法。
【請求項62】
除細胞化後に表面に再播種する工程をさらに含み、再播種する工程が、表面にMP細胞を播種することを含む、請求項46記載の方法。
【請求項63】
再播種されたMP細胞を培養および増殖する工程をさらに含む、請求項62記載の方法。
【請求項64】
(b)の培養工程が、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日超である、請求項46記載の方法。
【請求項65】
培養が、約14日間である、請求項46記載の方法。
【請求項66】
インプラントを対象の骨組織に移植する工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項67】
除細胞化後に表面上のECMを分析する工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項68】
インプラントを移植する工程の前に、インプラントを滅菌する工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項69】
インプラントを移植する工程の前に、インプラントをパッケージングする工程をさらに含む、請求項46記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2016年8月10日に出願された米国仮特許出願番号62/372,985、2016年10月24日に出願された米国仮特許出願番号62/412,177および2016年12月30日に出願された米国仮特許出願番号62/440,911からの優先権の恩典を主張し、それらの内容全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、組織工学、より具体的には表面が機能化された医療用インプラントを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
歯科および整形外科において、補綴インプラントは、歯のない人および骨格異常を患った患者を処置するために使用されており、世界市場は、毎年数十億ドルに値する。チタン(Ti)は、好ましい治癒条件下で骨と構造的機能的結合を形成する良好な生体適合性、強い機械的特性および能力を有していることから、補綴分野で最も研究され使用されている材料の1つである。オッセオインテグレーションは、移植部位および患者の健康に依存するものであるが、インプラント材料の化学およびトポグラフィーも非常に重要な役割を果たす。したがって、補綴インプラントの表面を修飾し、それらの治療能を強化するために熱心な研究が行われている。Tiインプラントを機能化する伝統的な試みは、インプラント表面の機械的、物理的および化学的修飾を含む。これらの修飾は、補綴インプラントの骨伝導性を強化するが、組織応答および治癒を能動的に調節することはできない。周囲組織環境を調整するため、オッセオインテグレーションを促進するため、および移植後のあらゆる潜在的有害組織応答を軽減するために、研究者は最近、Tiインプラントを含む補綴デバイスの表面上に構造的および生物学的に機能的な分子を固定する可能性を調査している。生体分子の固定化はオッセオインテグレーションの改善をもたらし得るが、これらの修飾は、典型的にヒト組織においてマイクロおよびナノスケールで見出される複雑さを欠いており、治癒能力が重度に損なわれた危険な患者を処置するのには適さない場合がある。Tiインプラントの治療能力をさらに強化するため、研究者はまた、これらのデバイスを幹細胞と組み合わせ、それによって見込みのある結果が得られている。しかし、研究室で操作された生細胞の使用は、多くの安全面の懸念を伴い、それらの細胞は移植後に効果的でなくなるまたは有害になる可能性があり、かつ深刻な副作用、例えば腫瘍、攻撃的な免疫反応または望まれない組織の増殖をもたらす可能性がある。
【0004】
除細胞化法により、研究者は、細胞外マトリクス(ECM)を構成するタンパク質の構造的および機能的混合物を維持しつつ組織および器官から細胞を除去することが可能になる。除細胞化された組織は、移植後の組織応答を調整することができる伝導および誘導特性を示すため、組織工学用途で首尾よく使用されている。同様に、除細胞化法は、マイクロおよびナノスケールでの高い分子的複雑さの生物学的手掛かりにより補綴インプラントの表面を機能化する可能性を切り開く。
【発明の概要】
【0005】
幹細胞生物学、材料科学および工学の進歩は、人工多能性幹(iPS)細胞由来の前駆細胞を用いた機能的な組織代替物の開発を促進した。これらの発見の下、本発明は、一部、iPS細胞由来の間葉前駆(MP)細胞(iPSC-MP)を播種されたインプラント表面の異なる除細胞化処理が、ヒトiPSC-MPの増殖および遺伝子発現に影響する多様な表面修飾をもたらすという発見に基づいている。除細胞化プロトコルは、骨特異的遺伝子の発現に影響し、今までなかった、強化されたオッセオインテグレーション能力を有する個人向け医療用インプラントの開発の可能性を切り開く。
【0006】
したがって、1つの局面において、本発明は、骨組織に移植されたときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化するための方法を提供する。この方法は、(a)インプラントの表面に間葉前駆(MP)細胞を播種する工程、(b)表面上に細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう細胞を培養および増殖する工程、ならびに(c)表面を除細胞化する工程であって、それによってインプラントの表面を機能化する、工程を含む。態様において、除細胞化する工程は、ECMを維持しつつインプラント表面から細胞を除去する。例えば、除細胞化は、細胞を溶解させインプラント表面から除去することができる任意の薬剤、化学的試薬または機械的もしくは物理的プロセスに細胞を接触させることによって実施され得る。いくつかの態様において、除細胞化は、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中でインプラント表面をインキュベートすることによって、あるいは、インプラント表面を、生理学的緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で凍結/解凍サイクルに供することによって達成される。いくつかの態様において、除細胞化は、細胞を溶解および除去する物理的または機械的プロセス、例えば高圧および/または高温滅菌、電磁放射の適用、凍結、加熱、高圧液またはガス、機械力、例えば剥離力の適用等によって達成される。
【0007】
様々な態様において、インプラント表面は、播種前に生細胞の接着を補助する少なくとも1種類または複数種類の分子でコーティングされ得る、例えば、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲルまたはそれらの組み合わせでコーティングされ得る。
【0008】
様々な態様において、播種された細胞は、任意の時間培養され得る。いくつかの態様において、細胞は、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日間またはそれより長く、例えば21または28日間培養される。1つの態様において、細胞は、約7~14日間培養される。
【0009】
別の局面において、本発明は、本開示の方法を通じて機能化された表面を有する医療用インプラントを提供する。
【0010】
さらに別の局面において、本発明は、本開示の表面が機能化されたインプラントと三次元足場を有する骨組織移植片とを含むハイブリッド骨インプラントを提供する。足場は、ハイブリッドインプラントのレシピエントとなる対象由来のiPS細胞から作製および生成され得る。
【0011】
さらに別の局面において、本発明は、医療処置を行う方法を提供する。この方法は、(a)対象から細胞を得る工程、(b)人工多能性幹(iPS)細胞を生成するよう(a)の細胞を再プログラムする工程、(c)間葉前駆(MP)細胞を生成するよう該iPS細胞を分化および増殖する工程、(d)該MP細胞をインプラントの表面に播種する工程、(e)表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該MP細胞を培養および増殖する工程、(f)表面を除細胞化する工程であって、それによって骨組織に移植したときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化する、工程、ならびに(g)インプラントを対象の骨組織に移植する工程を含む。
[本発明1001]
骨組織に移植されたときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化するための方法であって、
(a)インプラントの表面に間葉前駆(MP)細胞を播種する工程、
(b)該表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該細胞を培養および増殖する工程、ならびに
(c)該表面を除細胞化する工程であって、それによってインプラントの表面を機能化する、工程
を含む、方法。
[本発明1002]
除細胞化する工程が、ECMを維持しつつ表面から細胞を除去する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
除細胞化する工程が、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中で表面をインキュベートすることを含む、本発明1002の方法。
[本発明1004]
処理溶液が、脱イオン水からなる、本発明1003の方法。
[本発明1005]
処理溶液が、エタノールと水との混合物である、本発明1003の方法。
[本発明1006]
処理溶液が、次式:
を有する非イオン性界面活性剤を含む、本発明1003の方法。
[本発明1007]
非イオン性界面活性剤が、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100(商標))である、本発明1006の方法。
[本発明1008]
表面が、37℃で約30~60分間インキュベートされる、本発明1003の方法。
[本発明1009]
除細胞化する工程が、生理学的緩衝液中で表面を凍結させることを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
生理学的緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、本発明1009の方法。
[本発明1011]
表面が、-80℃で30分間超凍結され、その後に解凍される、本発明1009の方法。
[本発明1012]
除細胞化する工程の後に、表面をヌクレアーゼで処理する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1013]
表面が、DNAseおよびRNAseで処理される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
エタノール-水溶液の連続適用により表面を脱水する工程をさらに含み、ここで、連続適用される各々の溶液は、より高濃度のエタノールを含み、その最終回の適用は、100%エタノールの適用である、本発明1012の方法。
[本発明1015]
表面にMP細胞を播種する前に、生細胞の接着を補助する少なくとも1種類の分子で表面をコーティングする工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記分子が、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲルおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1015の方法。
[本発明1017]
除細胞化後に表面に再播種する工程をさらに含み、再播種する工程が、表面にMP細胞を播種することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1018]
再播種されたMP細胞を培養および増殖する工程をさらに含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
(b)の培養する工程が、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日超である、または約2~14日間である、本発明1001の方法。
[本発明1020]
インプラントを滅菌する工程、および任意でインプラントをパッケージングする工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1021]
インプラントを対象の骨組織に移植する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1022]
除細胞化後に表面上のECMを分析する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1023]
(a)の前に、MP細胞を生成するよう多能性幹(PS)細胞を分化および増殖する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1024]
PS細胞が、対象から収集された細胞を再プログラムすることにより生成される人工多能性幹(iPS)細胞である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
本発明1001~1025のいずれかの方法により製造される、インプラント。
[本発明1026]
生体適合性金属または生体適合性材料から構成される、本発明1025のインプラント。
[本発明1027]
チタン、鋼鉄、PMMA、シリコーン、PEEK、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの材料から構成される、本発明1026のインプラント。
[本発明1028]
歯科用インプラントとして設計される、本発明1025のインプラント。
[本発明1029]
ネジ山を含む、本発明1025のインプラント。
[本発明1030]
(a)本発明1025~1029のいずれかのインプラント、および
(b)三次元足場を有する骨組織移植片
を含む、ハイブリッド骨インプラント。
[本発明1031]
骨組織移植片が人工物である、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1032]
足場上に播種されかつ細胞とインプラントとのオッセオインテグレーションを促進するよう培養された細胞を、足場が含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1033]
インプラント材料が、チタン、鋼鉄、PMMA、シリコーン、PEEK、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウムまたはそれらの1つもしくは複数の組み合わせを含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1034]
移植片が、幹細胞由来または前駆細胞由来の細胞を含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1035]
移植片が、人工多能性幹細胞由来の細胞を含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1036]
足場が、除細胞化された骨組織から本質的になる、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1037]
骨組織が、ウシ骨組織である、本発明1036のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1038]
骨組織が、ヒト骨組織である、本発明1037のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1039]
足場が、1種類または複数種類の合成材料を含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1040]
合成材料が、セラミック、セメント、複合ポリマーまたはそれらの任意の組み合わせを含む、本発明1039のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1041]
足場が、機能化されている、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1042]
足場が、インプラント材料を収容する1つまたは複数の開口部を含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1043]
移植片が、骨移植片である、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1044]
移植片が、血管形成されている、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1045]
移植片が、2種類またはそれ以上の細胞型を含む、本発明1030のハイブリッド骨インプラント。
[本発明1046]
(a)対象から細胞を得る工程、
(b)人工多能性幹(iPS)細胞を生成するよう(a)の細胞を再プログラムする工程、
(c)間葉前駆(MP)細胞を生成するよう該iPS細胞を分化および増殖する工程、
(d)該MP細胞をインプラントの表面に播種する工程、
(e)表面上で細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう該MP細胞を培養および増殖する工程、
(f)表面を除細胞化する工程であって、それによって、骨組織に移植したときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化する、工程、ならびに
(g)インプラントを対象の骨組織に移植する工程
を含む、医療処置を行うための方法。
[本発明1047]
除細胞化する工程が、ECMを維持しつつ表面から細胞を除去する、本発明1046の方法。
[本発明1048]
除細胞化する工程が、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中で表面をインキュベートすることを含む、本発明1047の方法。
[本発明1049]
処理溶液が、脱イオン水からなる、本発明1048の方法。
[本発明1050]
処理溶液が、エタノールと水との混合物である、本発明1048の方法。
[本発明1051]
処理溶液が、次式:
を有する非イオン性界面活性剤を含む、本発明1048の方法。
[本発明1052]
非イオン性界面活性剤が、ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル(トリトンX-100(商標))である、本発明1051の方法。
[本発明1053]
表面が、37℃で約30~60分間インキュベートされる、本発明1048の方法。
[本発明1054]
除細胞化する工程が、生理学的緩衝液中で表面を凍結させることを含む、本発明1046の方法。
[本発明1055]
生理学的緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、本発明1054の方法。
[本発明1056]
表面が、-80℃で30分間超凍結され、その後に解凍される、本発明1054の方法。
[本発明1057]
除細胞化する工程の後に、表面をヌクレアーゼで処理する工程をさらに含む、本発明1046の方法。
[本発明1058]
表面が、DNAseおよびRNAseで処理される、本発明1057の方法。
[本発明1059]
エタノール-水溶液の連続適用により表面を脱水する工程をさらに含み、ここで、連続適用される各々の溶液は、より高濃度のエタノールを含み、その最終回の適用は、100%エタノールの適用である、本発明1057の方法。
[本発明1060]
表面にMP細胞を播種する前に、生細胞の接着を補助する少なくとも1種類の分子で表面をコーティングする工程をさらに含む、本発明1046の方法。
[本発明1061]
前記分子が、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲルおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1060の方法。
[本発明1062]
除細胞化後に表面に再播種する工程をさらに含み、再播種する工程が、表面にMP細胞を播種することを含む、本発明1046の方法。
[本発明1063]
再播種されたMP細胞を培養および増殖する工程をさらに含む、本発明1062の方法。
[本発明1064]
(b)の培養工程が、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21日超である、本発明1046の方法。
[本発明1065]
培養が、約14日間である、本発明1046の方法。
[本発明1066]
インプラントを対象の骨組織に移植する工程をさらに含む、本発明1046の方法。
[本発明1067]
除細胞化後に表面上のECMを分析する工程をさらに含む、本発明1046の方法。
[本発明1068]
インプラントを移植する工程の前に、インプラントを滅菌する工程をさらに含む、本発明1046の方法。
[本発明1069]
インプラントを移植する工程の前に、インプラントをパッケージングする工程をさらに含む、本発明1046の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の1つの態様においてインプラントを製造するための方法を説明する概要図である。
図2】本発明の1つの態様におけるチタン(Ti)ディスクインプラントの特徴づけを示す、一連のグラフおよび画像である。図2Aは、Tiディスクインプラントの写真である。図2Bは、1000倍(スケールバー=50μm)、5000倍(スケールバー=10μm)および15,000倍(スケールバー=1μm)の倍率で撮影されたTiディスクインプラントの、一連のSEM画像である。図2Cは、Tiディスクの3D形状分析を表面粗さの値(Ra、RqおよびRt)と共に示す。図2Dは、表面元素組成を示すTiディスクのEDS分析を示す(スケールバー=25μm)。
図3】本発明の1つの態様におけるインプラントの細胞播種(第2日)および増殖(第14日)を示す、一連の画像である。
図4A】様々な除細胞化プロトコルにより処理されたインプラントの表面の、一連のSEM画像である。
図4B】様々な除細胞化プロトコルにより処理されたインプラントの表面の、一連のSEM画像である。
図4C】様々な除細胞化プロトコルにより処理されたインプラントのEDS分析を示す、一連のグラフである。
図5】本発明の態様におけるインプラント上での細胞増殖データを示すグラフである。
図6A】本発明の態様における再播種されたインプラントのナノストリング分析を示す、一連のグラフである。
図6B】本発明の態様における再播種されたインプラントのナノストリング分析を示すクラスタリンググラフである。
図7図7Aは、本発明の態様におけるインプラント上での培養細胞の遺伝子発現を示す、一連のグラフである。図7Bは、対照および再播種インプラントサンプルのアルカリホスファターゼレベルを示す、一連のグラフである。
図8】本発明の態様における遺伝子発現分析を示す図である。
図9】XPS分析を示すグラフである。
図10】対照および再播種インプラントサンプルのアルカリホスファターゼレベルを示すグラフである。
図11】本発明の態様における除細胞化プロトコルを示す図である。
図12】本発明の1つの態様における再播種プロトコルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、骨組織に移植されたときにオッセオインテグレーションを促進するよう医療用インプラントの表面を機能化するための方法を提供する。
【0014】
チタンインプラントは、オッセオインテグレーションとして知られているプロセスである、移植後に周囲の骨と安定な結合を形成することができることから、歯科および整形外科分野で広く使用されている。しかし、補綴インプラントの完全な融合には時間がかかり、骨の質の低さ、損なわれた再生能および今なお不明である他の要素によって特徴づけられる臨床状況(すなわち、糖尿病患者)においてはしばしば失敗する。したがって、費用効果が高く、安全であり、かつ各臨床状況下の各患者に最適である新しいインプラントを開発するために熱心な研究努力がなされている。
【0015】
本明細書に示される実施例に開示されるように、本発明者らは、幹細胞を用いてTiインプラントの表面を機能化する可能性を試験した。ヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆(iPSC-MP)細胞を、Tiモデルディスクにおいて、骨形成条件下で2週間培養した。次いでこのサンプルを、細胞を洗い流しマトリクスを露出させるよう、脱イオン水、エタノール、凍結解凍サイクルおよびトリトンによる処理を含む4つの異なる除細胞化法を用いて除細胞化した。処理後、各方法の除細胞化能を試験および比較するために、サンプルを、走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散X線分光分析(EDS)およびX線光電子分光分析(XPS)を用いて特徴づけた。最後に、細胞増殖、遺伝子発現および分化に対するTiインプラントの幹細胞を通じた機能化の効果を調査するため、機能化されたサンプルを滅菌し、新しいヒトiPSC-MP細胞を播種した。
【0016】
その結果は、異なる除細胞化処理が、ヒトiPSC-MPの増殖および遺伝子発現に影響する様々な表面修飾を提供することを示している。興味深いことに、除細胞化プロセスは、骨特異的遺伝子の発現に影響し、このことは、ECMが幹細胞の分化に影響することを示唆している。細胞を通じた機能化は、Tiインプラントの表面を修飾する生物学的妥当性のある興味深い手段であり、今までなかった、強化されたオッセオインテグレーション能力を有する個人向けインプラントの開発の可能性を切り開く。
【0017】
したがって、1つの局面において、本発明は、骨組織に移植されたときにオッセオインテグレーションを促進するようインプラントの表面を機能化するための方法を提供する。この方法は、(a)インプラントの表面に間葉前駆(MP)細胞を播種する工程、(b)表面上に細胞外マトリクス(ECM)を生成するよう細胞を培養および増殖する工程、ならびに(c)表面を除細胞化する工程であって、それによってインプラントの表面を機能化する、工程を含む。態様において、除細胞化する工程は、ECMを維持しつつインプラント表面から細胞を除去する。除細胞化は、水、アルコールまたは非イオン性界面活性剤を含む処理溶液中でインプラント表面をインキュベートすることによって、あるいは、インプラント表面を、生理学的緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で凍結/解凍サイクルに供することによって達成される。様々な態様において、除細胞化は、図10に示されるプロトコルを含む。例えば、除細胞化は、脱イオン水、エタノールまたは非イオン性界面活性剤、例えばトリトン(商標)X-100を含む処理溶液中での表面のインキュベートを含み得る。典型的に、このインキュベートは、約37℃で最大10、20、30、40、50、60、70、80もしくは90分間または10、20、30、40、50、60、70、80もしくは90分間超行われる。インキュベート後、表面は、生理学的緩衝液、例えばPBSで洗浄され得る。
【0018】
態様において、インプラント表面は、処理溶液と共にインキュベートした後にヌクレアーゼで処理され得る。態様において、表面は、DNAse、RNAseまたはそれらの組み合わせで処理される。
【0019】
理解されている通り、インプラントは、患者への移植に適した様々な材料から構成され得る。多くの生体適合性材料が、当技術分野で周知であり、本発明において使用するのに適している。1つの態様において、インプラントは、生体適合性金属または合金、例えばチタン、アルミニウム合金、ニッケル合金、チタン合金、コバルト-クロム合金または医療等級の鋼鉄から構成される。
【0020】
様々なインプラント材料料の非限定的な例は、除細胞化された組織(例えば、除細胞化された骨)および天然または合成ポリマーまたは複合材料(例えば、セラミック/ポリマー複合材料)を含む。いくつかの態様において、インプラント材料は、細胞により吸収可能なもの(例えば、再吸収性材料)であるが、他の態様においては、非再吸収性インプラント材料が使用され得る。いくつかの態様において、インプラントは、上記材料のいずれかまたはそれらの任意の組み合わせを含み得る、それらからなり得るまたはそれらから本質的になり得る。
【0021】
1つの態様において、本発明は、本開示の表面機能化インプラントと三次元足場を有する骨組織移植片とを含むハイブリッド骨インプラントを提供する。1つの態様において、機能化インプラントの材料は、生体適合性金属、例えばチタンまたは医療等級の鋼鉄であり、組織移植片は、天然または合成骨を含む足場材料を含む。
【0022】
様々な態様において、足場は、使用目的に適した孔サイズ、空隙率、および/または機械的特性を有する任意の適切な材料から作製され得る。そのような適切な材料は、典型的に、非毒性、生体適合性および/または生分解性であり、所望の組織移植片タイプの細胞、例えば、骨組織移植片の場合は骨形成細胞が浸潤可能なものである。そのような材料の非限定的な例は、除細胞化された組織(例えば、除細胞化された骨)、1種類または複数種類の細胞外マトリクス(「ECM」)成分、例えばコラーゲン、ラミニンおよび/またはフィブリンを含む材料、ならびに天然または合成ポリマーまたは複合材料(例えば、セラミック/ポリマー複合材料)を含む。いくつかの態様において、足場材料は、細胞により吸収可能なもの(例えば、再吸収性材料)であり得るが、他の態様においては、非再吸収性足場材料が使用され得る。いくつかの態様において、足場は、上記材料のいずれかまたはそれらの任意の組み合わせを含み得る、それらからなり得るまたはそれらから本質的になり得る。
【0023】
いくつかの態様において、足場の寸法および形状は、組織部分の三次元モデル、例えばデジタルモデルのそれに対応する。いくつかの形態において、足場の寸法および形状は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる国際出願番号PCT/US2016/25601およびPCT/US2015/064076にさらに記載されるようなバイオリアクター内での足場上での細胞、例えば本明細書に記載される組織形成細胞または他の細胞の培養を促進するモデルに基づき設計または選択され得る。これは、例えば、三次元モデルのそれに対応するサイズおよび形状を有する組織移植片または組織移植片セグメントを製造するために行われ得る。
【0024】
いくつかの態様において、足場は、国際出願番号PCT/US2016/25601およびPCT/US2015/064076に記載されるようにして作製される。例えば、足場は、コンピュータ支援製法を用いて生成またはカスタマイズされ得る。例えば、組織モデルセグメントファイルが、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて幾何学的に定義された足場を製作するCAMソフトウェア、またはその組み合わせ、例えば、コンピュータ制御フライス加工法、高速プロトタイピング法、レーザ切断法、三次元印刷、および/もしくは注型技術とともに使用され得る。いくつかの態様において、足場の製造は、高速プロトタイピング、フライス盤、注型技術、レーザ切断および/もしくは三次元印刷、またはこれらの任意の組み合わせの使用を含む。いくつかの態様において、足場の製造は、例えばその製造がレーザ切断またはフライス盤の使用を含む場合、コンピュータ数値制御の使用を含む。例えば、デジタルモデル、例えば上記のようなCADソフトウェアを用いて生成されたものが、コンピュータ数値制御(CNC)フライス盤(例えば、Tormach(商標)、Bridgeport(商標))を稼働させるための適切なコード(例えば、「Gコード」)を生成するため、ならびに足場材料を所望の(例えば、組織セグメントのデジタルモデルのそれに対応する)形状およびサイズに切断するために適切な機械加工ツールビットおよびプログラム機械加工パスを選択するために処理され得る。
【0025】
本発明によって提供される足場は、本明細書に記載されるように設計および製造され得るが、当業者は、本発明にしたがう足場を作製するために様々な他の設計および製造方法が使用され得ることを理解するであろう。
【0026】
いくつかの態様において、足場は、インビトロで骨発生の生物模倣アプローチを用いて人工多能性幹細胞からから作製される(de Peppo et al., PNAS 110 (21): 8680-5 (2013);ならびに国際出願番号PCT/US2016/25601およびPCT/US2015/064076)。
【0027】
本発明において、任意の適切なまたは所望のタイプの細胞または細胞群が使用され得る。典型的に、インプラント表面を機能化するために、間葉前駆(MP)細胞が使用される。態様において、MP細胞は、患者から単離された細胞から生成されるiPS細胞から生成される。さらに、組織移植片、例えば本発明のハイブリッド骨インプラントを製造するために、細胞型が組み合わされ得る。典型的に、選択される細胞は、所望の組織移植片(例えば、血管形成骨移植片の場合、本明細書でさらに説明される、間葉前駆細胞および内皮前駆細胞または骨および血管の形成に適したもしくは形成することができる任意の他の細胞型)を形成することができるもの、または所望の組織形成細胞に分化することができる任意の細胞(例えば、多能性細胞)である。使用され得る細胞の非限定的な例は、多能性細胞、幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、前駆細胞、組織形成細胞、または分化細胞を含む。
【0028】
使用される細胞は、任意の適切な供給源から取得され得る。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞であり得る。いくつかの態様において、細胞は、非ヒト霊長類、ヒツジまたはげっ歯類(例えば、ラットもしくはマウス)由来の細胞を含むがこれらに限定されない、哺乳動物細胞であり得る。例えば、細胞は、組織バンク、細胞バンクまたはヒト対象から取得され得る。いくつかの態様において、細胞は、自己細胞、例えば、調製された組織移植片を後に移植する対象から取得される細胞であるか、または細胞はそのような自己細胞由来であり得る。いくつかの態様において、細胞は、「適合」ドナーから取得され得、または、細胞は、「適合」ドナーから取得される細胞由来であり得る。細胞および組織移植片の場合、ドナーとレシピエントの細胞は、当技術分野で周知の方法によって適合され得る。例えば、ヒト白血球抗原(HLA)タイピングが、組織または細胞ドナーとレシピエントを適合させ、移植片拒絶反応の危険を減らすために広く使用されている。HLAは、体内のほとんどの細胞で見出されるタンパク質マーカーであり、免疫系によって、身体に属する細胞と属さない細胞とを検出するために使用される。HLA適合は、レシピエントが移植片を異物と認識する可能性が低いことから、移植の成功の可能性を高める。したがって、本発明のいくつかの態様において、使用される細胞は、HLA適合細胞またはHLA適合細胞由来の細胞、例えば、組織移植片を受け入れるレシピエント対象とHLA適合したドナー対象から得られる細胞である。いくつかの態様において、使用される細胞は、レシピエントの免疫系による認識を回避するよう改変された細胞(例えば、ユニバーサル細胞)であり得る。いくつかのそのような態様において、細胞は、遺伝的に改変されたユニバーサル細胞である。例えば、いくつかの態様において、ユニバーサル細胞は、MHCユニバーサル細胞、例えば、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI発現抑制細胞(すなわち、Figueiredo et al., Biomed Res Int (2013)を参照のこと)であり得る。ヒトMHCタンパク質は、それらが最初に白血球で発見されたことから、HLAと呼ばれる。ユニバーサル細胞は、あらゆるレシピエントにおいて使用される能力を有し、したがって、適合細胞の必要性を回避する。
【0029】
いくつかの態様において、本発明を実施する上で使用される細胞は、多能性幹細胞、例えば人工多能性幹細胞(iPSC)であるか、またはそれを含む。いくつかのそのような態様において、多能性幹細胞は、インプラントを受け入れる対象から得られる細胞(すなわち、自己細胞)から生成され得る。他のそのような態様において、多能性幹細胞は、異なる個体、すなわち、インプラントを受け入れる対象ではない個体から得られる細胞(すなわち、同種異系細胞)から生成され得る。いくつかのそのような態様において、多能性幹細胞は、異なる個体である、すなわち、組織移植片を受け入れる対象ではないが、例えば上記のように、「適合」ドナーである異なる個体から得られる細胞から生成され得る。いくつかの態様において、使用される細胞は、分化した細胞、例えば骨細胞である。いくつかの態様において、分化した細胞は、多能性幹細胞、例えば人工多能性幹細胞由来である。いくつかの態様において、分化した細胞は、分化した体細胞の分化転換によって、または、多能性細胞(例えば、多能性幹細胞または人工多能性幹細胞)、例えば、体細胞から生成された人工多能性幹細胞の分化転換によって得られる。
【0030】
多能性幹細胞は、(a)自己複製すること、ならびに(b)3つすべての胚葉(すなわち、外胚葉、中胚葉および内胚葉)の細胞を生成するよう分化することが可能な細胞である。「人工多能性幹細胞」という用語は、胚性幹細胞(ESC)のように、3つすべての胚葉の細胞に分化する能力を維持しつつ長期間培養することができるが、(胚盤胞の内部細胞塊由来である)ES細胞とは異なり、体細胞由来、すなわち、より狭く、より定義された能力を有し、実験的操作なしでは3つすべての胚葉の細胞を生じさせることができない細胞由来である多能性幹細胞を包含する。iPSCは、通常、hESC様形態を有し、大きな核-細胞質比、明確な境界および顕著な核を有する平らなコロニーとして増殖する。さらに、iPSCは通常、アルカリホスファターゼ、SSEA3、SSEA4、Sox2、Oct3/4、Nanog、TRA160、TRA181、TDGF 1、Dnmt3b、FoxD3、GDF3、Cyp26a1、TERT、およびzfp42を含むがこれらに限定されない、当業者に公知の1つまたは複数の鍵となる多能性マーカーを発現する。さらに、iPSCは、他の多能性幹細胞と同様に、一般に、奇形腫を形成し得る。さらに、それらは一般に、生物の外胚葉、中胚葉または内胚葉組織を形成することができるまたはそれらに寄与することができる。
【0031】
例示的なiPSCは、高橋および山中(その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、Cell 126(4):663-76(2006))に記載されるように、遺伝子Oct-4、Sox-2、c-Myc、およびKlfが形質導入された細胞を含む。他の例示的なiPSCは、OCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28が形質導入された細胞である(その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、Yu et al., Science 318:1917-1920(2007))。当業者は、再プログラム因子、例えばOCT4、SOX2、KLF4、MYC、NanogおよびLin28からなる群より選択される因子の様々な異なるカクテルがiPSCを製造するために使用され得ることを理解しているであろう。本明細書に記載されるiPSC製造方法は、例示にすぎず、限定を意図したものではない。そうではなく、当技術分野で公知の任意の適切な方法または再プログラム因子のカクテルを使用することができる。再プログラム因子を使用する態様において、そのような因子は、当技術分野で公知の任意の適切な手段を用いて送達され得る。例えば、いくつかの態様において、任意の適切なベクター、例えばセンダイウィルスベクターが使用され得る。いくつかの態様において、再プログラム因子は、改訂版RNA法およびシステムを用いて送達され得る。再プログラム因子の送達に関しては様々な異なる方法およびシステムが当技術分野で公知となっており、任意のそのような方法またはシステムが使用され得る。
【0032】
細胞、例えば多能性幹細胞の培養に適した任意の培養培地が、本発明にしたがい使用され得、様々なそのような培地が当技術分野で公知である。例えば、多能性幹細胞の培養のための培養培地は、Knockout(商標)DMEM、20% Knockout(商標)Serum Replacement、非必須アミノ酸、2.5% FBS、Glutamax、ベータメルカプトエタノール、10ng/マイクロリットル bFGF、および抗生物質を含み得る。使用される培地はまた、この培地のバリエーション、例えば、2.5% FBSを含まないもの、より高%もしくはより低%のノックアウトセラムリプレースメントを含むもの、または、抗生物質を含まないものであり得る。使用される培地はまた、未分化状態でのヒト多能性幹細胞の増殖を支援する任意の他の適切な培地、例えば、mTeSR(商標)(STEMCELL Technologiesから入手可能)、Nutristem(商標)(Stemgent(商標)から入手可能)もしくはES培地、または当技術分野で公知の他の適切な培地であり得る。対象から得られる細胞集団から多能性幹細胞を生成/取得する他の例示的な方法は、本願の実施例で提供される。
【0033】
いくつかの態様において、多能性幹細胞は、所望の細胞型、例えば、骨形成細胞、または任意の他の所望の細胞型に分化させられる。本発明によって提供される分化した細胞は、例えば成体幹細胞、胚性幹細胞(ESC)、胚盤葉上層幹細胞(EpiSC)、および/または人工多能性幹細胞(iPSC;多能性状態に再プログラムされた体細胞)を用いて、当技術分野で公知の様々な方法によって取得され得る。例えば、様々な分化因子を使用することによる、多能性幹細胞の有向分化または自然分化の方法が、当技術分野で公知である。多能性幹細胞の分化は、当技術分野で公知の様々な方法によってモニタリングされ得る。幹細胞と分化因子により処理された細胞の間のパラメータの変化は、処理された細胞が分化したことを示し得る。分化中の細胞の形態を直接モニタリングするために顕微鏡観察が使用され得る。
【0034】
本発明の態様の各々において、多能性幹細胞もしくは前駆細胞または分化した細胞を含むがこれらに限定されない、任意の適切なまたは所望の細胞型が、本明細書に記載されるインプラントおよび/または足場を製造するために使用され得る。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞であり得る。人工多能性幹細胞が使用される態様において、そのような細胞は、対象から得られた分化した体細胞から、例えば、そのような分化した体細胞を1つまたは複数の再プログラム因子と接触させることによって取得され得る。いくつかの態様において、多能性細胞は、所望の系統、例えば、間葉系または内皮系に誘導されたものであり得る。いくつかの態様において、分化した細胞は、任意の適切なタイプの分化細胞であり得る。いくつかの態様において、分化した細胞は、多能性幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞)から、例えば、そのような多能性細胞を1つまたは複数の分化因子と接触させることによって取得され得る。いくつかの態様において、分化した細胞は、別の分化細胞型の分化転換によって、例えば、該細胞を1つまたは複数の再プログラミング因子と接触させることによって、取得され得る。分化した細胞に関連する本発明の様々な態様において、そのような分化した細胞は、骨細胞および血管細胞を含むがこれらに限定されない任意の所望の分化細胞型であり得る。
【0035】
任意の適切なまたは所望の細胞型、例えば、本明細書に記載される細胞型が、本発明にしたがうインプラントまたはハイブリッドインプラントを作製するために、インプラント表面または足場に適用または播種され得る。
【0036】
いくつかの態様において、ECMを産生および蓄積する細胞、例えばiPSC-MPが、インプラントまたは足場に播種するために使用され得る。細胞接着を促進するために、インプラントまたは足場の表面は、例えば、該表面に細胞を接触させる前に生細胞の接着または増殖を支持するよう、表面を修飾する少なくとも1種類の分子でコーティングされ得る。そのような分子は、例として、ヒアルロン酸(HA)、リン酸カルシウム、ポリペプチド、ゼラチン、マトリゲル、エンタクチン、糖タンパク質、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、多糖類、ヒドロゲル、およびそれらの組み合わせを含む。
【0037】
様々な態様において、インプラントの表面は、細胞の播種前に処理される。1つの態様において、表面は、表面を修飾するよう処理される。これは、表面修飾剤または技術を適用することによって達成され得る。この様式で、以下の特性の1つまたは複数が修飾され得る:粗さ、親水性、表面電荷(正または負電荷を与える)、表面エネルギー、生体適合性および反応性。
【0038】
いくつかの態様において、細胞は、足場に適用される前に分化した状態にされ得る。例えば、いくつかの態様において、分化した細胞が取得され直接使用され得る。同様に、いくつかの態様において、分化していない細胞が、当技術分野で公知の任意の適切な方法にしたがい、例えば培養皿もしくはマルチウェルプレートにおいてまたは懸濁状態で、適切な期間または時間、例えば所望レベルの細胞増殖もしくは分化または他のパラメータが達成されるまで、培養され得、次いで、分化した細胞が足場に移され、その後に、細胞/足場構築物が、組織移植片の発生を促進するようバイオリアクターに設置され得る。いくつかの態様において、分化していない細胞(例えば、幹細胞(例えば、iPSC)または前駆細胞)が足場に適用され得る。そのような態様において、分化していない細胞は、足場上で培養されている間に分化を起こし得る。
【0039】
いくつかの態様において、細胞/足場構築物を作製するために、2種類またはそれ以上の異なる細胞集団が、足場に播種され得る。いくつかの態様において、2種類またはそれ以上の細胞集団は、細胞/足場構築物がバイオリアクターに設置される前に、適切な時間、例えば所望のレベルの増殖もしくは分化または他のパラメータが達成されるまで足場で共培養される。細胞集団は、任意の増殖または分化段階の、任意の所望の細胞型およびそれらの任意の組み合わせを含み得る、それらから本質的になり得る、またはそれらからなり得る。例えば、いくつかの態様において、各細胞集団は、異なる組織を形成することができる細胞、例えば、血管形成骨移植片の作製においては、骨を形成することができる細胞、例えば間葉前駆細胞を含む第1の集団、および血管を形成することができる細胞、例えば内皮前駆細胞を含む第2の集団を含み得る。いくつかの態様において、各細胞集団は、同じ組織(例えば、骨)を形成することができる細胞を含み得るが、各細胞集団は、異なる分化段階(例えば、間葉幹細胞および骨髄間質細胞)にあり得る。共培養される細胞集団は、所望の場合、同時にまたは異なる時点で足場に適用され得る。2種類またはそれ以上の細胞集団が異なる時点で適用される場合、共培養の順序または序列(例えば、どの集団が最初に足場に適用され、どの集団が2番目に足場に適用されるか、等)は、例えば、所望の場合、使用される細胞型、細胞集団の状態もしくは増殖もしくは分化、または、任意の他のパラメータに基づき、望ましいように選択され得る。2種類またはそれ以上の細胞集団が足場に適用される場合、それらは、望まれるように任意の適切な細胞比で適用され得る。例えば、いくつかの態様において、2種類の異なる細胞集団は、約1:1の比または約2:8~約8:2の任意の比で播種され得る。いくつかの態様において、細胞集団は、約2:8、約3:7、約4:6、約5:5、約6:4、約7:3、または約8:2の比で播種され得る。
【0040】
当業者は、多数の細胞および培養方法のバリエーションおよび組み合わせが本発明の範囲に含まれることを理解するであろう。例えば、細胞の播種比、分化因子の濃度、および共培養の順序を含む細胞培養法は、典型的に、使用される所望の細胞型または作製される組織移植片にしたがい決定される。
【0041】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的上、それ以外のことが示されていない限り、量(amount)、サイズ、寸法、特性、形状、配合、パラメータ、百分率、パラメータ、量(quantity)、特徴ならびに本明細書および特許請求の範囲で使用されるその他の数値を表すすべての数字は、「約」という用語がそれらの値、量または範囲と共に明示的に示されていない場合があったとしても、すべての例において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、そうでないことが示されていない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に示される数的パラメータは正確なものではなくかつ正確である必要はなく、本明細書に開示される技術によって得ようとされる望まれる特性に依存して許容差、変換係数、端数切捨て、測定誤差等および当業者に公知のその他の因子を反映する近似であり得るおよび/または所望の場合それより大きいもしくは小さい場合がある。例えば、「約」という用語は、ある値を参照する場合、指定される量から、いくつかの態様において±100%、いくつかの態様において±50%、いくつかの態様において±20%、いくつかの態様において±10%、いくつかの態様において±5%、いくつかの態様において±1%、いくつかの態様において±0.5%、およびいくつかの態様において±0.1%のばらつきを包含することを、そのようなばらつきが開示される方法を実施するまたは開示される組成物を利用する上で適切である限り意味し得る。
【0042】
さらに、「約」という用語は、1つまたは複数の数字または数的範囲に関連して使用される場合、その範囲内のすべての数字を含むすべてのそのような数字を参照しているものと理解されるべきであり、かつ示されている数値の上下に境界を増殖することによってその範囲を修飾する。終点による数的範囲の指定は、すべての数字、例えばその範囲内に含まれるその分数を含む全整数(例えば、1~5という指定は、1、2、3、4および5ならびにそれらの分数、例えば1.5、2.25、3.75、4.1等を包含する)ならびにその範囲内の任意の範囲を包含する。
【0043】
以下の実施例は、本発明の態様をさらに説明するために提供されるものであるが、本発明の範囲を限定することは意図されていない。それらは使用され得るものの典型例であるが、当業者に公知の他の手法、方法または技術も代替的に使用され得る。
【実施例0044】
実施例1
医療用インプラントの作製
補綴インプラントは、歯のない人を処置するためおよび骨格異常を患った患者において運動能を回復させるために日常的に使用されている。チタン(Ti)は、移植後に周囲の骨と安定な結合を形成することができる(オッセオインテグレーションとして公知となっているプロセス)ことから、補綴分野で好まれる材料である。しかし、補綴インプラントの完全な融合には時間がかかり、限定的な骨の量および/または損なわれた再生能によって特徴づけられる臨床状況においてはならびに危険にさらされている患者では失敗する。したがって、費用効果が高く、安全であり、かつ各臨床状況下の各患者に適する新しいインプラントを開発するために多大な研究努力がなされている。本研究において、幹細胞を用いてTiインプラントを機能化する可能性を調査した。ヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆(iPSC-MP)細胞を、骨形成条件下で2週間、Tiモデルディスク上で培養した。次いでサンプルを、細胞を洗い流しマトリクスを露出させる4つの異なる除細胞化法を用いて処理した。最後に、機能化されたディスクを滅菌し、細胞の挙動に対する幹細胞を通じた表面の機能化の効果を調べるために新しいヒトiPSC-MP細胞を播種した。その結果は、異なる除細胞化法が多様な表面修飾を提供すること、およびこれらの修飾がヒトiPSC-MP細胞の増殖を促進し、発生および分化に関与する遺伝子の発現に影響し、アルカリホスファターゼの放出を刺激することを示している。細胞を通じた機能化は、補綴インプラントの表面を修飾する生物学的妥当性のある魅力的な戦略であり、今までなかった、強化された治療能力を有する新しいデバイスの開発の可能性を切り開く。
【0045】
材料および方法
チタンディスクの製造および特徴づけ
付属クッションと共に9 mmパンチツールを装備したAmada CNCパンチを用いて、平面シート(グレード2チタン, Edstraco, Sweden)からチタンディスク(面積:0.694 cm2、厚み 0.5 mm)を切り抜いた。70%エタノール(v/v)中でリンスした後、サンプルをアセトン中で30分間超音波処理し、SEM、表面形状測定、EDSおよびXPSを通じて表面特性を調べるために特徴づけた。SEM分析のために、以下の設定でFEI Helios NanoLab(商標)660(FEI, Hillsboro, OR)を用いてサンプルを画像化した:10 kV、0.8 nAおよび5.4 mmの作業距離。表面プロフィールおよび粗さは、0.5倍の倍率でWyko T1100(商標)表面形状測定装置VSIモード(Bruker, Billerica, MA)およびVisionソフトウェアを用いて測定した。表面化学は、10 keVおよび40~60%の範囲のデッドタイムでFEI Helios NanoLab(商標)660(FEI)および補助的なAZtec(商標)ソフトウェアを用いて調べた。XPSデータは、45°のテイクオフ角で取得した。Multipak(Physical Electronics, Inc. (PHI))を、さらなる定量的化学分析に使用した。200 x 200μmのサイズの領域からC1、N1、O1、P2pおよびCa2pスペクトルを取得した。
【0046】
チタンディスクの準備
播種の前に、ディスクを滅菌ポーチ(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)に入れ、オートクレーブした。次に、滅菌した鉗子を用いて、ディスクを24ウェルプレート(Thermoscientific, Roskilde, Denmark)内に設置し、高グルコースKnockOut(商標)ダルベッコ改変イーグル培地(KO-DMEM; Gibco, Grand Island, NY)、10%(v/v)HyCloneウシ胎仔血清(GE Life Sciences, Pittsburgh, PA)、ベータ線維芽細胞成長因子(1 ng/ml;R&D systems, Minneapolis, MN)、GlutaMax(商標)(1X;Gibco)、非必須アミノ酸(1X;Gibco)、0.1 mM β-メルカプトエタノール(Gibco)および抗菌抗真菌剤(1X;Gibco)からなる1 mlの増殖培地と共に37℃で一晩調整を行った。この処理の後、ディスクを滅菌したキムワイプ(Roswell, CA)で吸い取り、およそ10分間、風乾した。細胞接着性を向上させるために、ディスクを37℃でゼラチン(0.1%;EmbryoMax(登録商標), Millipore, Billerica, MA)により90分間処理した。細胞播種の前に、過剰なゼラチンをディスクから吸い取って除去し、新しい24ウェルプレートに移した。
【0047】
Tiディスク上での細胞播種
ヒトiPSC由来間葉前駆細胞(1013A株)を以前に記載されたようにして得た[27]。播種前に、細胞を、増殖培地中、ゼラチン(0.1%;EmbryoMax(登録商標), Millipore)コーティングされたプラスチック上で増殖し、その後にトリプシン/EDTA(0.25%;Thermoscientific)を用いて剥離させ、遠心分離し、2 x 104細胞/mlの密度で再懸濁させた。次いで1 mlの細胞懸濁物を各ディスクに添加した。増殖培地中で2日間の後、サンプルを、10%(v/v)HyClone(商標)ウシ胎仔血清(GE Life Sciences)、L-アスコルビン酸(50μM;Sigma-Aldrich, St Louis, MO)、デキサメタゾン(1μM;Sigma-Aldrich)およびβ-グリセロリン酸二ナトリウム塩(10 mM;Sigma-Aldrich)を補充した高グルコースDMEM(Gibco)からなる骨形成培地中でさらに12日間培養した。
【0048】
Tiディスク上での細胞の増殖
Tiディスク上での細胞の分布および増殖を、生/死アッセイ(Life Technologies, Frederick, MD)を用いてモニタリングした。播種から2日および2週間後、サンプルを、37℃で35分間、カルセイン(10 mlのPBS中5μlのカルセイン)を用いて染色した。インキュベート後、臭化エチジウムを各ウェルに添加し(1 mlのPBSあたり2μl)、サンプルをさらに10分間インキュベートした。インキュベート後、サンプルを、フェノールレッド非含有Roswell Park Memorial Institute培地1640(RPMI; Gibco)に移し、落射蛍光および共焦点顕微鏡を通じて画像化した。モザイク画像を作製するため、画像化プログラムOlympus DP2-BSWを備えたOlympus IX71顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)を用いて倍率4倍で連続する蛍光画像を撮影した。サンプル全体の画像を得るため、MosaicTJ(商標)およびTurboReg(商標)プラグインを導入したImageJ(商標)(National Institute of Health)を用いて連続する蛍光画像からモザイク像を構築した。共焦点画像は、Zen 9000(商標)コンピュータプラットフォームを用いてZeiss(商標)顕微鏡(Zeiss, Oberkochen, Germany)により撮影した。
【0049】
サンプルの除細胞化
14日間の培養後、サンプルを収集し、4つの異なる除細胞化プロセスを用いて細胞を溶解および除去するよう処理した。処理前に、すべてのサンプルを、24ウェルプレート内で、0.1% EDTA(w/v)を含む10 mM Tris緩衝液を用いて室温(RT)で30分間処理した。次いでサンプルをRTで5分間、PBSで二度洗浄し、以下に記載されるプロトコルを用いて除細胞化した。
【0050】
蒸留水:サンプルを、1 mlの滅菌蒸留H2Oに浸し、Benchrocker(商標)2Dチルター(Benchmark Scientific, Sayreville, NJ)上で37℃で45分間インキュベートした。1回目のサイクル後、サンプルをRTで5分間PBSで洗浄し、その後、2回目の除細胞化サイクルのために再度、1 mlの滅菌蒸留H2Oに浸した。
【0051】
エタノール:サンプルを1 mlの70%エタノール(v/v)に浸し、上記のようにBenchrocker(商標)2Dチルター上で37℃で45分間インキュベートした。1回目のサイクル後、サンプルをRTで5分間PBSで洗浄し、その後、2回目の除細胞化サイクルのために再度、1 mlの70%エタノール(v/v)に浸した。
【0052】
凍結解凍:サンプルを1 mlのPBSに浸し、-80℃に45分間置いた。その後、サンプルを37℃で20分間解凍した。この凍結解凍サイクルを、1 mlのPBSに浸したサンプルを用いて二度繰り返した。
【0053】
トリトン:サンプルを1 mlの0.01%(v/v)トリトン(100倍; Sigma)に浸し、上記のようにBenchrocker(商標)2Dチルター上で37℃で45分間インキュベートした。1回目のサイクル後、サンプルをRTで5分間PBSで洗浄し、その後、2回目の除細胞化サイクルのために再度、1 mlの0.01%(v/v)トリトンに浸した。
【0054】
処理後、すべてのサンプルを5分間PBSで二度洗浄し、特徴づけのために脱水した。
【0055】
機能化されたチタンディスクの特徴づけ
特徴づけの前に、サンプルを、各々10分間、漸増濃度、すなわち20、40、50、70、90および100%(v/v)のエタノール溶液を用いて脱水した。次いでサンプルを風乾し、各方法の除細胞化能を試験するためにSEM、EDSおよびXPSを通じて特徴づけた。非除細胞化サンプルをパラホルムアルデヒド4%(v/v)中4℃で一晩固定し、対照として使用した。SEM分析のために、サンプルの伝導度を増加させるようサンプルを10~50 nm金層を用いてスパッタし、その後にFEI Helios NanoLab(商標)660(FEI)を5~10 kVの電圧、0.8 nAの電流および4.9~5.4 mmの作業距離で用いて画像化した。サンプルの側面画像のために、脱水したサンプルを15分間100%イソプロパノール中で二度インキュベートし、15分間キシレン中で二度洗浄し、そしてEMBed-812キット(Electron Microscopy Sciences, Hatfield, PA)を製造元の説明書にしたがい用いてポリメチルメタクリレート樹脂に包埋し、低速切断機(Isomet(商標), Buehler, Lake Bluff, IL, USA)を用いて垂直に切片化した。およそ300 pm厚の切片を、10 nm金層を用いてスパッタコーティングし、以下の設定でSEMを用いて画像化した:3 kV、80 pAおよび作業距離5 mm。
【0056】
EDSを使用して、FEI Helios NanoLab(商標)660(FEI)を用いて画像化したサンプルの表層組成を調べた。各サンプルを3ヵ所で分析し、定量的評価のためにマッピングした。EDSは、10 keV、40~60%の範囲のデッドタイムで記録した。XPS分析は、上記の作製および特徴づけの節に記載されるようにして行った。
【0057】
機能化されたチタンディスク上での細胞の培養
機能化されたTiディスクに対する細胞の応答を、増殖ならびに中胚葉分化に関与する発生遺伝子およびマーカーの発現を調べることによって調査した。未処理のTiディスクを対照として使用した。漸減濃度のエタノール溶液を用いた再水和後、上記のようにサンプルを24ウェルプレートに移し、1013A-MP細胞(P6)を増殖培地中2 x 104細胞/mlの密度で播種した。播種から2日後、サンプルを新しい24ウェル超低接着性プレートに移し、骨形成培地中でさらに8日間培養した。
【0058】
細胞の増殖
細胞の増殖を定量化するため、サンプルを、骨形成培地中10%(v/v)のPrestoBlue(商標)試薬(Life Technologies)と共に2時間インキュベートした。処理後、200μlの培養培地を、黒色、透明、平底96ウェルプレート(Corning)に移した。蛍光を、Gen 5 1.09ソフトウェアを装備した蛍光読み取り装置SYNERGYMx(商標)(BioTek(登録商標), Winooski, VT)を用いて励起560 nmおよび発光590 nmで測定した。
【0059】
遺伝子の発現
発生遺伝子の発現レベルを、NanoString nCounter(商標)システム(Nanostring Technologies(登録商標), Seattle, WA)を用いて同時に調査し、データを、nSolver(商標)2.5ソフトウェアを用いて分析した(すべての調査した遺伝子のリストについては表S1を参照のこと)。簡単に説明すると、サンプルをRLT緩衝液(Qiagen, Venlo, NE)に溶解し、RNeasy(商標)ミニキット(Qiagen)を製造元の説明書にしたがい用いて総RNAを抽出した。次いで抽出したRNAを、NanoDrop(商標)8000(Thermo Scientific)を用いて定量し、100 ngのサンプルをハイブリダイゼーション(65℃で18時間)に使用した。調査した遺伝子の発現レベルは、nCounter(商標)多重アッセイにおいて検出された、対数スケールの、蛍光数量として表されている。階層的クラスター分析を、R(R-project.orgのワールドワイドウェブで入手可能)のRStudio(商標)パッケージを用いて正規化されたデータから行った。
【0060】
中胚葉分化に関与する遺伝子の発現を、リアルタイムPCRを通じて調べた。簡単に説明すると、サンプルをPBSで洗浄し、RNAを上記のようにRNeasy(商標)ミニキット(Qiagen)を用いて抽出した。精製されたRNAを定量し、GoScript(商標)逆転写システム(Promega, Madison, WI)を製造元のプロトコルにしたがい用いてランダムヘキサマーにより逆転写した。リアルタイムPCRは、TaqMan(商標)ユニバーサルPCRマスターミックスならびにrunt関連転写因子2(RUNX2; Hs00231692_m1)、コラーゲンI型アルファ1(COL1A1;Hs00164004_m1)、オステオポンチン(SPP1; Hs00959010_m1)、SRY-Box 9(SOX9; Hs00165814_m1)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPAR-γ; Hs01115513_m1)に対するFAM色素標識TaqMan(商標)MGBプローブおよびPCRプライマーならびにハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH; Hs02758991_g1)に対するVIC色素標識TaqMan MGBプローブおよびプライマーから構成されるTaqMan(商標)遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を用いて、20μl量の反応物中で、StepOnePlus(商標)PCRシステムサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。反応は、95℃サイクルを10分間、その後に変性(95℃で15秒間)ならびにアニールおよび伸長(60℃で60秒間)を40サイクルからなるものとした。結果は、ハウスキーピング遺伝子GAPDHの発現レベルに正規化されて表されている。
【0061】
アルカリホスファターゼ活性
放出されたアルカリホスファターゼ(ALP)の活性は、アルカリホスファターゼ活性アッセイキット(商標)(Biovision Inc., Milpitas, CA)を製造元のプロトコルにしたがい用いて定量した。反応は、室温の暗所で、150分間かけて行った。蛍光を、Gen 5 1.09ソフトウェアを装備したプレートリーダーSYNERGYMx(商標)(BioTek(登録商標), Winooski, VT)を用いて450 nmで測定し、データを、(2.7.1節に記載される)Prestoアッセイを用いて推定される細胞数あたりで正規化した。ALP活性は、「反応時間あたりに切断されるPNPのモル量」で表される。
【0062】
統計学的分析
分析前に、データを、Prismソフトウェア(Graphpad, La Jolla, CA)を用いて正規性について試験した。ガウス分布を、コルモゴロフ・スミルノフ検定を用いて検出した。有意差を、多重比較のためにボンフェローニ補正を用いるANOVAを用いて評価した。すべての結果が、平均±標準偏差で示されている。各グループの平均値間の差は、そのP値が0.05未満であった場合に、統計学的に有意とみなした。
【0063】
結果
チタンディスクの表面トポグラフィーおよび組成
Tiディスクのトポグラフィーおよび元素組成を、SEM、表面形状測定、EDS(図2)およびXPSを用いて調べた。SEM顕微鏡写真は、Tiディスクが、ディスク領域を通じて全体に広がるフレーク様構造が存在する滑らかなトポグラフィー(図2B)、ならびにRa = 511.6 nm、Rq = 649.9μmおよびRt = 7.05μmの粗さパラメータ(図2C)を示すことを示している。EDSを通じた元素分析は、このディスクのTi組成を確認し、サンプル内に微量の炭素が存在することを明らかにしている(図2D)。Si、Al、Mo、Ca、P、NaおよびFeを含む他の元素は、無視できる量しか存在しない。同じサンプルから得られたXPSの結果は、Ti、CおよびOならびにN、CaおよびSiの典型的なスペクトルピークを示している。
【0064】
チタンディスク上での細胞の播種、分布および増殖
Tiディスク上での細胞の播種および増殖は、生/死アッセイを通じて示された。図3は、播種から2日後に、細胞が生存していること、健常な形態を示すことおよびディスク領域を通じて均等に分布していることを示している。骨形成条件下での14日間の培養後には、細胞が増殖し、ディスク領域全体を覆う単層組織を形成する。誘導培養条件下での細胞の分化を示す、細胞形態の変化も観察される。
【0065】
機能化されたチタンディスクの特徴づけ
マトリクスの完全性を維持しつつ細胞を溶解および除去する異なる方法の能力を調べるため、除細胞化の後、サンプルを特徴づけた。非除細胞化サンプルを対照として使用した。SEM画像は、異なる除細胞化法が異なる表面修飾をもたらすことを示している(図4)。diH2Oによるサンプルの処理および凍結解凍サイクルの繰り返しは、細胞を完全に除去しないようである(図4A)。細胞残留物が依然としてディスクの表面上に存在し得るようである。これらのサンプルのトポグラフィーは、実際、非除細胞化サンプルのトポグラフィーと非常に類似しており、密な細胞層がTiディスクの表面を覆っている(図4A)。他方、エタノールおよびトリトンによる処理は、細胞物質の洗浄および繊維マトリクスの露出により効果的なようである(図4A)。興味深いことに、このマトリクスの見た目は異なっており、このことは、異なる化学物質がマトリクスの組成および完全性に異なる影響を及ぼすことを強調している。エタノール処理されたサンプルは、異なるサイズの組織化された繊維の存在によって特徴づけられるマトリクスを示すのに対して、トリトン処理された細胞は、粒状の特徴および孔を有するマトリクスを示す(図4A)。サンプルを側面から画像化したときにも、違いが観察される(図4B)。この結果は、異なる除細胞化法が、異なる見た目および厚みを有する生物学的コーティングの形成をもたらすことを示している。EDS分析により、生物学的物質によるTiディスクの機能化が確認される。図4Bは、除細胞化および非除細胞化の両方のサンプルがC、NおよびOについて陽性であることを示しており、これはディスクの表面を覆う生物学的物質の存在を示している。同様のデータが、XPSを通じて同じサンプルを分析したときに観察されている(図9)。対照Tiディスクとは異なり、すべての除細胞化サンプルは、C、NおよびOのピークを示し、これによりTiディスクの表面上に位置する生物学的物質の存在が実証されている。
【0066】
機能化されたTiディスクに対する細胞の応答
細胞の増殖、遺伝子の発現およびアルカリホスファターゼの放出に対する、細胞を通じた表面機能化の効果を調べるため、除細胞化の後、機能化されたサンプルに、新鮮な1013A-MP細胞を播種した。Prestoブルーの結果(図5)は、2日後に、機能化グループと対照グループとの間で細胞数に関して有意差がないことを示している。しかし、誘導培養条件下で7および10日後、すべての機能化されたディスクは、対照グループと比較して有意に増加した細胞数を示しており、これにより、細胞を通じたTiディスクの機能化が1013A-MP細胞の生存または増殖のいずれかに影響することが示唆されている。興味深いことに、異なる細胞化法が異なる表面修飾をもたらすにもかかわらず、4つすべての機能化グループを比較した場合、有意差は観察されない。
【0067】
発生遺伝子の発現を、Nanostring技術を用いて同時に調べた(図6)。全体として、その結果は、細胞を通じたTiディスクの機能化が、1013A-MP細胞における発生遺伝子の発現に影響することを示している。1013A-MP細胞を機能化および対照の両方のグループで培養したとき、調査した88個の遺伝子のうち、44個の遺伝子が発現される。発現される遺伝子の中で、11個は、機能化グループと対照グループと比較したときに有意な差を示す。外胚葉分化に関与する遺伝子のうち、CRABP2、PDGFRAおよびSNAI2は、対照ディスクと比較して機能化ディスクにおいて細胞を培養したときに、発現増加を示す。中胚葉分化に関与する遺伝子のうち、対照ディスクと比較して機能化ディスクにおいて細胞を培養したときに、ANPEPは発現増加を示すが、ITGAVは発現減少を示す。これらの遺伝子と異なり、MMEは、細胞が凍結解凍法を用いて機能化されたサンプル上で培養されたときのみ発現増加を示し、STAT3は、トリトンを用いて機能化されたサンプル上でのみ発現増加を示す。内胚葉分化に関与する遺伝子については、CTNNB1は、機能化サンプルにおいて細胞を培養したときに発現増加を示す。複数の胚葉の形成に関与する遺伝子については、対照グループと比較して機能化サンプルにおいて細胞を培養したときに、ICAM1の発現は減少し、一方、APOEの発現は増加する。興味深いことに、CRABP2、SNAI2、ITGAV、STAT3およびAPOEの発現は、他の方法を用いて除細胞化されたサンプルと比較してエタノールを用いて除細胞化されたサンプルにおいて細胞を培養したときに、有意に低くなる。階層的クラスター化の結果は、すべての機能化グループが一カ所にクラスター化し、対照グループと相違することを示している(図6B)。
【0068】
脂質形成(PPAR-γ)、軟骨形成(SOX9)ならびに骨形成(RUNX2、COLA1AおよびSPP1)分化に関与する中胚葉遺伝子の発現を調べると、機能化グループと対照グループとの間で有意差は見られない(図7A)。しかし、機能化されたTiディスクにおいて細胞を培養したときに、PPAR-γ、SOX9、RUNX2およびSPP1が発現増加を示し、COL1A1が発現減少を示すという一定の傾向が観察される。
【0069】
培地中に放出されるALPの活性を、2、7および10日後に測定した(図7B)。その結果は、2日後に、エタノールおよびトリトンを用いて機能化されたサンプルにおいて培養された細胞が、対照グループにおいて培養された細胞よりも有意に多量のALPを放出することを示している。7日後に、すべてのグループでALPの放出が低下し、機能化グループと対照グループの間で有意差が観察されなくなる。他方、サンプルあたりの測定されるALPの活性は、対照と比較して機能化ディスクにおいて細胞を培養したときに2日後および7日後に高くなる(図10)。
【0070】
選択された図面の説明
図2。チタンディスクの特徴づけ。A - チタン(Ti)ディスク(直径:9 mm;面積:0.68 cm2)の写真。B - 1000倍(スケールバー = 50μm)、5000倍(スケールバー = 10μm)および15,000倍(スケールバー = 1μm)の倍率で撮影されたTiディスクのSEM画像。C - Tiディスクの3D形態分析および表面粗さの値(Ra、RqおよびRt)。D - 表面の元素組成を示すTiディスクのEDS分析(スケールバー = 25μm)。
【0071】
図3。チタンディスク上での細胞の接着、生存および増殖。播種から2および14日後のチタンディスク上でのヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆体(1013A-MP)の分布、生存および増殖を示す落射蛍光顕微鏡写真(左、モザイク)および高倍率共焦点画像(右)。サンプルを生/死アッセイにより染色した(緑色=生細胞;赤色=死細胞)。スケールバー = それぞれ2 mmおよび100μm。
【0072】
図4。機能化されたチタンディスクの特徴づけ。A - 1000倍(スケールバー = 50μm)および15000倍(スケールバー = 1μm)の倍率で撮影された非除細胞化サンプル(対照)および除細胞化サンプルのSEM画像。B - チタンディスク(Ti)とポリメチルメタクリレート(樹脂)の間にある人工的に作られた生物学的コーティングを示す非除細胞化サンプル(対照)および除細胞化サンプルの側面SEM画像。スケールバー = 10μm。C - チタンディスクの表面上の生物学的物質の存在を確認する非除細胞化サンプル(対照)および除細胞化サンプルのEDS分析。
【0073】
図5。細胞の増殖。機能化されたチタンディスクおよび対照チタンディスク上で培養されたヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆体(1013A-MP)のPrestoBlue(商標)アッセイを用いた定量。データは、平均±SDを表す(2元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較検定、n = 4、アルファ = 0.05、P < 0.0001;*は対照サンプルに対する有意差を示す;$は、第2日に対する有意差)。
【0074】
図6。発生遺伝子の発現。A - 機能化されたチタンディスクおよび対照チタンディスク上での培養から10日後のヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆体(1013A-MP)のNanostring分析。発現された遺伝子のみが示されている(88個中44個)。データは、平均±SDを表す(2元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較検定、n = 3、アルファ = 0.05、P < 0.0001;*は対照サンプルに対する有意差を示す;a、diH2Oに対する有意差;b、エタノールに対する有意差;c、凍結解凍に対する有意差;d、トリトンに対する有意差)。B - 除細胞化サンプルおよび対照グループに播種された細胞の階層的クラスター化。ピンク色は正規化されたしきい値と比較して高い発現を表し、青色は低い発現を表す。
【0075】
図7。中胚葉マーカーの発現および産生。A - 機能化されたチタンディスクおよび対照チタンディスク上で培養されたヒト人工多能性幹細胞由来間葉前駆体(1013A-MP)の骨形成、軟骨形成および脂質形成分化に関与する遺伝子の発現。データは、平均±SDを表す(ANOVAおよびボンフェローニの多重比較検定、n = 4、アルファ = 0.05、それぞれP = 0.3651、0.3282、0.8297、0.2361および0.2227)。B - 機能化されたチタンディスクおよび対照チタンディスク上で培養された1013A-MP細胞からのアルカリホスファターゼ(ALP)放出。データは、平均±SDを表す(2元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較検定、n = 3、アルファ = 0.05、P = 0.0005;*は対照サンプルに対する有意差を示す;$は、第2日に対する有意差)。
【0076】
考察
Ti補綴インプラントは、修復歯科および整形外科において広く利用されている。骨空洞部への移植後、および望ましい治癒条件下で、これらのデバイスは、周囲組織に完全に融合し、機能を回復する。しかし、オッセオインテグレーションは、高度に組織化された生体力学的プロセスであり、これは時間がかかり、再生能が損なわれた危険な患者において失敗し、緩みおよび感染等の合併症を引き起こし得る。したがって、融合プロセスにおいて好ましい特徴により補綴インプラントの表面を機能化するよう、学術界および産業界の両方で多大な研究努力がなされている。補綴インプラントの物理的および化学的修飾は、例えば体液分子の接着を調整し、骨-インプラント接触面積を増加させることによって、これらのデバイスの表面エネルギーおよび骨伝導特性を変化させるが、細胞応答および組織再生を能動的に制御することはできない。周囲組織環境をさらに良くするよう調整するため、研究者らは最近、「生物学的に活性な」分子(例えば、ECMタンパク質、サイトカイン、成長因子)の固定化または幹細胞の組み込みを通じて補綴インプラントの表面を機能化することを試みており、見込みのある結果が得られている。しかし、生物学的に活性な分子を(それらの機能的な形態で)固定化することは困難であり、表面の活性化を必要とし得、天然組織に典型的な複雑な分子の組織化を模倣することができない。他方、幹細胞の組み込みは、治癒を誘導し、骨形成を促進することが証明されているが、予期せぬ細胞の挙動を伴う潜在的な臨床的リスクを抱えている。これは特に、その細胞をエクスビボで操作するまたはクローニングもしくは再プログラムを通じて多能性幹細胞から誘導する場合に当てはまる。したがって、安全であり、個人向けにすることができかつ向上した骨伝導および骨誘導特性を示す高い生物学的信頼性を有するコーティングで補綴インプラントを機能化する新しい戦略が構築されなければならない。
【0077】
除細胞化法は、研究者が、ECMを構成する構造的および機能的に活性なタンパク質の混合物を維持しつつ組織および器官から細胞を除去することを可能にする。この知見に基づき、本発明者らは、幹細胞を用いて天然組織に典型的な分子的複雑さを示す生物学的コーティングを作製する可能性を調査した。標準的な表面トポグラフィーおよび化学を有するモデルTiディスクに1013A-MP細胞(センダイウイルスを用いて皮膚線維芽細胞から生成された間葉前駆体)を播種し、サンプルを、ディスクの表面を覆う均一な単層組織が形成されるまで骨形成誘導条件下で培養した。ヒトiPS細胞は、あらゆる患者から多量に得ることができ、かつヒトの体を構成するすべての細胞を生成することができ、したがって、多様な生物医学用途で生物学的コーティングを作製することを可能にする。
【0078】
物理的、化学的および酵素的方法ならびにそれらの組み合わせを含む様々な除細胞化法が存在する。各々の方法は、残存する細胞外マトリクスの生化学的組成および完全性に影響することが分かっており、そのような細胞外マトリクスは、それにさらされた細胞および組織の応答に影響し得る。この仮説を試験するため、この研究において、物理的(蒸留水および凍結解凍サイクル)ならびに化学的(エタノールおよびトリトン)方法の除細胞化能、ならびにインビトロでの細胞の挙動に対する方法特異的な機能化の影響を比較した。各々の方法は、費用を最小限に抑え、変換および商業化を妨げ得る毒性化合物の使用を制限するという目的の下で、選択し、適切に適合させた。
【0079】
含水環境下での即時凍結は、細胞内および細胞外氷晶の形成を通じて細胞膜を破壊し得る。しかし、このプロセスはまた、ECMの完全性および特性にも影響し得る。
【0080】
蒸留水による処理は、浸透圧衝撃を与え、細胞を膨潤させ、それによって細胞膜を破壊する。それはECMの完全性を保存することができるが、この方法は、潜在的に免疫学的特性を保持している生物学的コーティングを形成する細胞物質を容易に除去することができない。
【0081】
エタノールは、サンプルを脱脂し同時に滅菌するために使用され得る揮発性溶媒である。他方、処理にともなうサンプルの脱水は、ECMの完全性および機械的特性に影響し得、その機能的特性を低下させ得る。
【0082】
トリトンは、脂質-脂質および脂質-タンパク質相互作用を妨害するが、タンパク質-タンパク質相互作用はそのままの状態で維持する非イオン性界面活性剤である。それは、ECMの完全性に実質的に影響しないことが知られているが、グリコサミノグリカン含量を減少させ得る。
【0083】
この研究において、機能化されたTiディスクのSEM、EDSおよびXPSによる特徴づけにより、異なる処理が、異なる除細胞化能を有し、異なる特徴を示す生物学的コーティングの形成をもたらすことが実証された。diH2Oによる浸透圧衝撃は、細胞を効果的に除去しないようであり、細胞残留物が依然としてTiディスクの表面上に存在し得るようである。SEM分析は、これらのdiH2O処理サンプルのトポグラフィーが、滑らかな細胞の地勢がTiディスクの表面を覆っているという非除細胞化サンプルのトポグラフィーに非常に類似することを実証している。含水環境下での凍結解凍処理は細胞物質を効果的に除去するようであるが、側面画像は、おそらく凍結解凍プロセスの間に形成された氷晶に起因する孔の存在を明らかにしている。エタノールおよびトリトンによる処理は、より細胞物質を洗い流し、マトリクスを露出させるようである。興味深いことに、このマトリクスの見た目は、これらの2つの処理の間で相違しており、このことは、異なる化合物がマトリクスの組成および完全性に異なる影響を及ぼすという事実と合致する。エタノールで処理されたサンプルは、異なるサイズの組織化された繊維の存在により特徴づけられるマトリクスを示し、トリトンで処理されたサンプルは、粒状の特徴および孔を有するマトリクスを示す。しかし、異なる処理が脂質およびタンパク質の含量にどのように影響するのかは依然として明確でない。幹細胞に基づくコーティングの組成を解明し、プロトコルの最適化を進めるためにさらなる特徴づけ研究が必要とされる。実質的な組織の分解およびTiディスクの表面からの剥離を回避するために、この研究において、各除細胞化処理を短時間かつ穏やかな攪拌の下で適用した。各除細胞化サイクルの回数および期間を変化させることでより良い結果がもたらされ得る可能性があり、この戦略を用いて機能化されるインプラントのさらなる開発および変換に関する最適化研究が重要である。細胞を通じた機能化の生物学的効果を調べるため、除細胞化の後に、サンプルに新しい1013A-MP細胞を播種し、構築物を10日間培養した。
【0084】
結果は、使用した除細胞化法に関係なく、すべての機能化グループが骨マーカーALPの増殖、遺伝子発現および放出に影響したことを示している。興味深いことに、細胞増殖は、細胞を機能化されたディスク上で培養したときに、対照ディスクと比較して有意に増加した。機能化はまた、胚葉の特化に関与する特定の遺伝子の発現にも影響し、細胞を機能化されたディスク上で培養したときに、対照ディスクと比較していくつかの遺伝子が有意に上方調節され(CRABP2、PDGFRA、SNAI2、ANPEP、CTNNB1およびAPOE)、いくつかが有意に下方調節された(ITGAV、ICAM1およびMCAM)。細胞増殖とは対照的に、これらの遺伝子のいくつかの発現レベルは、異なる方法を用いて除細胞化されたサンプル間でも有意な相違を示し、これにより各々の方法が異なる機能的特性を有する生物学的コーティングを生成することが示された。遺伝子発現に対する表面の機能化の効果はまた、中胚葉遺伝子を含む他の遺伝子についても観察された。これらの相違は有意ではなかったが、1013A-MP細胞を機能化されたディスク上で培養したときに、対照ディスクと比較してPPAR-γ、SOX9、RUNX2およびSPP1は発現増加を示し、COL1A1は発現を減少させた。これらの遺伝子の発現の増加は、この戦略を用いて作製される生物学的コーティングがインビボ移植後にオッセオインテグレーションを促進し得ることを示唆している。これと同様に、播種から2日後に、細胞は、エタノールおよびトリトン処理により機能化されたサンプルにおいて培養されたとき、対照グループと比較してより多くのALPを放出した。ALPは、ECMの石灰化を担う、骨形成分化の早期マーカーである。興味深いのは、これが、細胞を増殖培養条件下(すなわち、骨誘導因子の非存在下)で維持したときに、培養の第1日の間に起こることである。移植部位におけるALPの放出および活性の増加は、組織-インプラント界面の骨化を促進し、インプラントの融合および安定性を強固にし得る。
【0085】
まとめると、本発明者らは、幹細胞を使用して高い分子的複雑性を有する生物学的コーティングで補綴インプラントの表面を機能化することに成功した。この結果は、Tiインプラントの幹細胞ベースの機能化が、細胞の増殖、遺伝子発現およびALPの放出に影響すること、ならびに強化された治療特性を有する新世代の補綴インプラントの開発を可能にし得ることを示している。興味深いことに、幹細胞を通じた機能化の効果は、処理特異的なようであり、このことは、プロトコルの最適化により、向上した機能的特性を有する生物学的コーティングの開発が可能となり得ることを示唆している。したがってこの技術の能力を具現化する上で重要な課題が残っており、さらなる研究が必要とされる。最適な細胞培養および除細胞化プロトコルを開発すること、機能化されたインプラントに対する異なる細胞型(すなわち、オッセオインテグレーションプロセスの異なる時期に役割を果たす細胞)の反応を評価すること、インプラント表面の特徴とコーティングの質との間の関係を理解すること、ならびにインビボ試験はすべて、補綴インプラントの治療能力を向上させるために細胞を通じた機能化が使用され得る前に検討されなければならない重要な局面である。
【0086】
結論
補綴インプラントのバイオ機能化は、強化された治療能を有するデバイスの開発を推進することが期待される。この研究において、本発明者らは、ヒト幹細胞を使用して高い生物学的複雑性および異なる機能的特性を有するコーティングを作製することができることを実証した。この技術は、より安全であり、規制要件を満たし、高度な歯科整形外科再建のために個人向けにすることができる、新世代の補綴インプラントを開発する可能性を切り開く。
【0087】
本発明は、上記の実施例を参照しつつ説明されているが、改変および派生も本発明の精神および範囲内に包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12