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特開2022-184941デシタビン、5アザシチジンおよびテトラヒドロウリジンを含有する組成物およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184941
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】デシタビン、5アザシチジンおよびテトラヒドロウリジンを含有する組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20221206BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 9/26 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K31/706
A61K31/7072
A61P43/00 121
A61K9/20
A61K9/48
A61P35/00
A61P7/00
A61P35/04
A61P7/06
A61K9/26
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145598
(22)【出願日】2022-09-13
(62)【分割の表示】P 2018549129の分割
【原出願日】2016-12-05
(31)【優先権主張番号】62/429,292
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/262,839
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518196701
【氏名又は名称】エピデスティニー,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】518196712
【氏名又は名称】サウンサララジャ,ヨゲン
(71)【出願人】
【識別番号】518196723
【氏名又は名称】ヴァディヴェル,サントシュ
(71)【出願人】
【識別番号】518196734
【氏名又は名称】デシモン,ジョセフ
(71)【出願人】
【識別番号】518196745
【氏名又は名称】ラウ,ヘンリー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】サウンサララジャ,ヨゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァディヴェル,サントシュ
(72)【発明者】
【氏名】デシモン,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ヘンリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】癌および血液疾患治療用の組成物、および治療するための方法を提供する。
【解決手段】デシタビンとテトラヒドロウリジンまたは5-アザシチジンとテトラヒドロウリジンを含む癌治療用の組成物を開示する。丸剤の形態のこれらの組成物は、予測バイオマーカーの測定によって導かれ連続的にまたは交互にヒト対象へ投与される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-アザシチジン、
テトラヒドロウリジン、および
薬学的に許容される賦形剤、
を含む経口的投与のための組成物であって、
約10~約100mg/mの5-アザシチジンおよび約400~500mg/mのテトラヒドロウリジンを含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が約0.5μM~約5μMの5-アザシチジンのピーク血漿濃度を生成するのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が約0.5μM~約2μMの5-アザシチジンのピーク血漿濃度を生成するのに効果的である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中のテトラヒドロウリジンが2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体でありかつ5-アザシチジンの約1分~約180分前に生物学的に利用可能である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が約1mg/m~約10mg/mの範囲の量でデシタビンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が丸剤または錠剤またはカプセル剤の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が対象において癌または血液疾患を治療するのに効果的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
対象において癌または血液疾患を治療するための方法であって、
デシタビン、テトラヒドロウリジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の組成物を前記対象に投与すること、
5-アザシチジン、テトラヒドロウリジンおよび薬学的に許容される担体を含む第2の組成物を前記対象に投与すること、
を含み、
前記第1および前記第2の組成物が前記対象に連続してまたは交互にまたは同時に投与される、方法。
【請求項9】
前記対象に投与される前記第1の組成物が約1~約10mg/mのデシタビンおよび約400~500mg/mのテトラヒドロウリジンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象に投与される前記第2の組成物が約10~約100mg/mの5-アザシチジンおよび約400~500mg/mのテトラヒドロウリジンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1および前記第2の組成物の投与が前記対象において約0.5μm未満のピークデシタビン血漿濃度および多くても5μmのピーク5-アザシチジン血漿濃度をもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1および前記第2の組成物中のテトラヒドロウリジンがデシタビンまたは5-アザシチジンの約1分~約180分前に生物学的に利用可能である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記第1および前記第2の組成物中のテトラヒドロウリジンが2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体でありかつデシタビンまたは5-アザシチジンの約15分~約180分前に生物学的に利用可能である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の組成物が第1の丸剤中に存在しおよび前記第2の組成物が第2の丸剤中に存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記癌があらゆる組織の良性癌、転移癌または難治性癌を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記血液疾患が鎌状赤血球症、地中海貧血症またはヘモグロビン異常症を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
対象において癌を治療する方法であって、
デシタビン、テトラヒドロウリジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の組成物を投与すること、
5-アザシチジン、テトラヒドロウリジンおよび薬学的に許容される担体を含む第2の組成物を投与すること、
を含み、
前記第1および前記第2の組成物が前記対象において予測バイオマーカーを測定する後に投与される、方法。
【請求項18】
前記予測バイオマーカーの測定が前記対象におけるデオキシシチジンキナーゼのレベルを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が哺乳動物である、請求項8または17に記載の方法。
【請求項20】
デシタビン、テトラヒドロウリジンおよび少なくとも1種の薬学的に許与される賦形剤を含む前記対象において癌または血液疾患を治療するための二重放出丸剤であって、前記デシタビン、および前記テトラヒドロウリジンが前記丸剤表面に別々に位置されて前記対象によって経口摂取されるとき異なる時間での各薬物の放出を容易にする、二重放出丸剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月3日出願の米国仮出願第62/262,839号および2016年12月2日出願の同第62/429,292号に優先権を主張する。
【0002】
本出願は、全般的に、デシタビン(DEC)、5-アザシチジン(5AZA)とテトラヒドロウリジン(THU)を含有する組成物および対象における癌および血液疾患の治療のためにこの組成物を使用する方法に関する。具体的には、丸剤の形態の組成物は、対象における癌または他の血液疾患に対する非細胞毒性治療として、DECとTHUまたは5AZAとTHU、またはDEC、5AZAおよびTHUの組み合わせを含む。
【背景技術】
【0003】
癌に対する放射線療法および薬物療法は、細胞の増殖と分裂を終了させることができる生理的経路を使用することを目的とする。ほとんどすべての抗がん剤が使用しようとする特定の生理的経路は、p53/p16-媒介アポトーシス経路(細胞毒性)である。p53およびp16は癌における2つの最も一般的に不活性化される遺伝子であるので、抗がん剤と放射線療法のこのp53/p16依存性は、治療抵抗性および再発の基本的原理である。したがって、細胞増殖および癌細胞の分裂を終了させるためのp53/p16系を使用しない新規の治療法が必要である。
【0004】
前臨床試験および臨床試験は、デシタビン(DEC)および5-アザシチジン(5AZA)による酵素DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)の非細胞毒性除去がp53/p16系を必要としない、またはそれに依存しない効果的な治療形態であり得ることを示している(Negrotto S.,ら.2011 Cancer Res 71(4):1431-1441)。けれども、5AZAまたはDECはそれ自体、癌の前臨床試験in vivoモデルにおいても臨床試験においても治癒的でない。したがって、5AZAまたはDECによるp53非依存性治療への癌抵抗性のメカニズムを利用することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本開示が特定したことは、5AZAまたはDECによるp53非依存性治療に対する癌抵抗性が論理的、非毒性で臨床的に適用可能な解決策によって効果的に克服され得ることである。具体的には、本開示は、非毒性THU-DEC/THU-5AZAの組成物と、非毒性レベルのTHU-DECを含む組成物の投与によって癌抵抗性を克服するための方法、および交互レジメンで、すなわち、規定された期間の間、THU-DECおよびTHU-5AZAを含有する丸剤または錠剤の形態であり得る組成物の摂取を交互にするレジメンで組成物を投与するための方法とを提供する。
【0006】
したがって、一実施形態において、癌細胞の安全な、非細胞毒性の(p53/p16非依存的)分化によって媒介される細胞周期離脱を誘導するための経口組成物が提供される。
【0007】
酵素DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)を不可逆的に結合して枯渇できるヌクレオシド類似体、強力なシチジンデアミナーゼ(CDA)阻害剤および1種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を含む経口投与用の組成物であって、ヌクレオシド類似体薬物および強力なシチジンデアミナーゼ阻害剤が、正常組織への細胞毒性を伴わずに難治性で抵抗性の癌細胞の分化を誘導するのに十分な治療有効量で存在する、組成物。組成物中に存在するDNMT1酵素を枯渇させるヌクレオシド類似体薬物は、DECである。一実施形態においてヌクレオシド類似体薬物は、5AZAであってよい。組成物中のCDA阻害剤は、テトラヒドロウリジン(THU)または2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体などの特定のテトラヒドロウリジン誘導体であり得る。この実施形態において、DNMT1を枯渇させるヌクレオシド類似体薬物がDECである場合、DECは1~10mg/mの範囲の量で存在し得る。経口組成物中に存在するヌクレオシド類似体薬物が5AZAである場合、5AZAは10~100mg/mの範囲の量で存在し得る。経口組成物中のCDA阻害剤THUは、約400mg/m~約500mg/mの範囲の量で存在し得る。
【0008】
非細胞毒性分化を誘導するための治療組成物は、丸剤または錠剤またはカプセル剤の形態で存在してよい。一実施形態において治療組成物は、ヌクレオシド類似体薬物DECとTHU、および1種または複数種の薬学的に許容される担体を含み得る。別の実施形態において治療組成物は、5AZA、THUおよび1種または複数種の薬学的に許容される担体を含み得る。いくつかの実施形態において治療組成物は、単一丸剤中でTHUと組み合わされるヌクレオシド類似体薬物(DECまたは5AZA)の両方の治療有効量を含み得る。
【0009】
治療組成物は、癌細胞中のDCKを含むがこれに限定されない予測バイオマーカーの測定後に、対象に投与されてよい。予測バイオマーカーの開発は、対象における特に難治性で侵襲性が強い転移癌の治療がより効果的であるように治療する医師が適切な治療レジメンを選択するのを支援できる。この実施形態において、予測バイオマーカーは、癌細胞のピリミジン代謝酵素のデオキシシチジンキナーゼ(DCK)であり得る。DCK酵素は細胞中でDECをリン酸化し閉じ込めることが知られており、いくつかの癌細胞は代替のピリミジン代謝酵素UCK2に頼ることによってDECが誘導するDNMT-1枯渇を防止するが、これはしかし、癌細胞を薬物5-5AZAに対し脆弱にする。癌細胞のDCKの測定は、経口組成物の投与前にまたは投与中または後に、DCK依存性プローブを利用する陽電子放出断層撮影(PET)による機能性分子イメージングによって、または定量的リアルタイム(QRT)-PCRによって行うことができる。
【0010】
任意の哺乳動物の組織で癌細胞の非細胞毒性分化を誘導するための治療方法において、DEC、THUおよび1種または複数種の薬学的に許容される担体を含む第1の治療組成物、ならびに5-5AZA、THUおよび1種または複数種の薬学的に許容される担体を含む第2の治療組成物は、それを必要とする患者に各々、連続して、または交互に、または同時に投与され得る。この実施形態において、テトラヒドロウリジンは、2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体などの誘導体も含み得る。第1および第2の組成物は、癌細胞中の予測バイオマーカーを測定する後に、または測定中または前に投与されてよい。
【0011】
一実施形態において、第1および第2の治療組成物は、各々、丸剤の形態であってよく、またはこれらの組成物は単一丸剤内で組み合わされてもよい。本開示の組成物が丸剤の形態で存在するとき、THUまたはTHU誘導体は丸剤の表面にとりわけ位置し得るが、一方DECまたは5AZAは丸剤の内部に位置し得る。丸剤上のヌクレオシド類似体薬物、DECまたは5AZAとTHUのそのような差異的な位置は、THUまたはTHU誘導体がDECまたは5AZAのいずれかの約1分~180分または15分~約180分前に、およびより好ましくはDECまたは5AZAのいずれかの30分~約60分前に生物学的に利用可能であることを確実にし得る。別の実施形態において、DECまたは5AZAをポリマーで被覆されるかポリマーに包埋して、ポリマー被覆またはポリマー包埋されたTHUもしくはTHU誘導体と比較して、遅延した薬物放出を容易にしてもよい。
【0012】
治療組成物を経口投与するとすぐに、DECとTHUの組み合わせは、DECまたは5AZAによる非細胞毒性DNMT-1の枯渇のために必要とされる経口生物学的利用能、低Cmaxおよび複数時間のTmaxにおいて少なくとも約10倍の改善をもたらし得る。DECおよび5AZAの既知のオフターゲット効果または毒作用のために、in vivoでDNMT1を枯渇させるためにDECまたは5AZAを最適化することは、強力な治療効果を有し得る。したがって、治療組成物は、ヒト対象において約0.05μm~約0.5μmのピーク血漿DECレベル、または約0.5μm~約5μmのピーク血漿5AZAレベルをもたらすことができる。この実施形態において、癌に罹患した患者がDECとTHUを含有する丸剤を最初に摂取し、数日または数週間離して、5AZAとTHUを含有する丸剤を摂取する、またはその逆となるように、治療医師はDECとTHU(または)-5AZAとTHUを含有する丸剤を連続的または断続的な様式で処方してもよい。
【0013】
一実施形態において、対象の組織におけるあらゆる腫瘍、転移性腫瘍もしくはその組み合わせ、または対象における血液悪性腫瘍もしくは血液疾患を治療するための方法が提供される。(i)第1のヌクレオシド類似体薬物、シチジンデアミナーゼ阻害剤および薬学的に許容される担体を含む丸剤の形態での第1の組成物の治療有効量を投与するステップと、(ii)第2のヌクレオシド類似体薬物、シチジンデアミナーゼ阻害剤および薬学的に許容される担体を含む丸剤の形態での第2の組成物の治療有効量を投与するステップとを含む方法であって、第1の組成物中のヌクレオシド類似体薬物がDECであってよく、第2の組成物中のヌクレオシド類似体薬物が5AZAであってよく、および前述の第1の組成物と前述の第2の組成物中のシチジンデアミナーゼ阻害剤がTHUまたは2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体などのTHU誘導体である、方法。この実施形態において第1および第2の組成物は、連続して、または交互に、または同時に投与され得る。さらに、第1および第2組成物は、対象の癌細胞中の予測バイオマーカーのレベルを測定する前に、または測定中または後に投与され得る。
【0014】
治療選択は、治療を必要としている患者におけるDCKレベルの決定と、癌組織を分化経路の方向に導くような方法でTHUと組み合わせて適切なヌクレオシド類似体薬物(すなわち、DECとTHUまたは5AZAとTHUまたは両方)を処方することとを含む。丸剤の形態の薬物組成物は、癌または血液悪性腫瘍または血液疾患を罹患している患者に対し1週間に1回、もしくは2週間に1回、もしくは1週間に1~3回処方されてよい。さらに別の実施形態において、丸剤の形態の組成物は、血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍を発症するリスクがある患者、または血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍もしくは血液学的疾患もしくは血液疾患の以前の診断が再発するリスクがある患者において、2週間に1回~1週間に3回の間で処方されてよい。
【0015】
一実施形態において、腫瘍または難治性腫瘍または血液腫瘍または血液疾患を治療するためのキットが提供される。キットは、(i)DEC、THUまたはTHU誘導体および担体を含む丸剤、(ii)5AZA、THUまたはTHU誘導体および担体を含む丸剤、ならびに(ii)説明書、を含み得る。別の実施形態において、キットは、(i)DEC/THU細粒または微粒子と、5AZA/THU細粒または微粒子との混合物を含むカプセル剤、および(ii)説明書、を含み得る。丸剤またはカプセル剤は、THUまたはTHU誘導体がヌクレオシド類似体薬物、DECまたは5AZAの少なくとも1分~約60分前に常に生物学的に利用可能であるように調製され得る。一実施形態において、THUまたはTHU誘導体は、DECまたは5AZAの1分~約15分前または15分~30分前、30分~45分前、45分~60分前に生物学的に利用可能であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】腎細胞癌(RCC)での予後であるCDKN2AおよびTP53の欠失/変異のグラフ表示である。
図2】RCCにおける増殖または欠失した遺伝子VHL、PBRM1およびPax8のグラフ表示である。
図3】非対非癌性腎臓と比較して、RCCにおける過剰メチル化WT1プロモーターCpGを示すグラフである。
図4】RCCにおける分化ドライバーの高発現および重要な上皮分化標的遺伝子(例えばWT1およびGATA3)の逆説的にエピジェネティックな抑制のグラフ表示である。
図5】LC/MSMSによるPax8のコアクチベーターおよびコリプレッサーの相互作用を示す総括的なドキュメンテーションである。
図6】DECの非細胞毒性濃度によるDNMT1枯渇に起因するコアクチベーターおよびコリプレッサーに向かうPAX8相互作用のグラフ表示である。
図7】DECおよび5AZA感受性とそれぞれ相関するDCKおよびUCK2の発現レベルのグラフ表示である。
図8】低いDCKレベルおよび高いUCK2レベルを有するDecで治療された患者由来の、およびその逆の5-Azaで治療された患者由来のMDS/AML細胞の再発時のグラフ表示である。
図9】患者由来AMLの異種移植モデルにおけるTHU-55AZAを3×/週と交互するTHU-DECを3×/週の効果のグラフ表示である。
図10】バイオマーカーがどのように論理的対策を導いて応答を薬物およびサルベージ再発に広げられるのかを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、強力なシチジンデアミナーゼ阻害剤と組み合わせたヌクレオシド類似体薬物および薬学的に許容される賦形剤を含有する組成物に関する。組成物中に存在するヌクレオシド類似体薬物は、DEC、5AZA、ゲムシタビンなどを含むがこれらに限定されないDNA脱メチル化剤でもある任意の既知のヌクレオシドデオキシシチジン類似体薬物であり得る。
【0018】
「ヌクレオシド類似体」という用語は、リン酸化されると代謝阻害剤として作用する核酸類似体および糖を含有するあらゆるヌクレオシドを指す。具体的には、本開示のヌクレオシド類似体は、これに限定されないが無修飾糖および5AZAを有するDECを含むシチジン類似体を指す。DEC(5-5-aza-2’-デオキシシチジン)はDNAの天然成分を模倣し、酵素DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)に不可逆的に結合してそれを枯渇させることができ、および無修飾糖がDNA鎖伸長を停止せず、細胞毒性を伴わずにDNMT1の枯渇を可能にするという点でヌクレオシド類似体の大きなファミリーの中では比較的ユニークである。癌細胞において、薬物DECによるDNMT1の枯渇は、分化遺伝子の抑制を妨げ癌細胞の分化を再生する―癌細胞の異常な増殖は、DECによって軽減されるそれらの正常な分化過程でのブロックによって引き起こされる。さらには、正常な幹細胞におけるDNMT1の枯渇は、それらの自己複製を増加する、すなわち、DNMT1枯渇は、癌細胞に対するその効果と正反対に、正常な幹細胞の数を増加させる。したがって、DECによるDNMT1の枯渇は、効果的で、極めて安全で、忍容性が良好な癌療法であり得る。
【0019】
本発明の一実施例において、正常な分裂細胞の細胞毒性(アポトーシス)を誘発しない治療として定義される、非細胞毒性治療の薬理的目的は、in vivoでDNMT1を枯渇させるためのDECまたは5AZAの閾値を超える時間の(time-above-threshold)濃度(DECの場合≧0.05~0.2μM、5AZAの場合≧0.5~2μM)を最大にし、一方DNAに損傷を与える高ピークレベル(DECの場合≧0.5~1μM、5AZAの場合≧5~10μM)を避けることである。Cmaxは低いがTmaxが延長されたこの曝露は固形組織中でももたらされ、肝臓、腎臓、腸管および脳を含む固形組織での高いCDA発現のため、その中ではDECおよび5AZAの現在の製剤の分布は無視できるほどわずかである。DECまたは5AZAへの連続的な曝露は細胞毒性を誘導するレベルまで正常細胞中のDECまたは5AZAの蓄積を引き起こすので、本開示でのDECまたは5AZAのDNMT1を枯渇させる効果は断続的であることが意図される。例えば、DECまたは5AZAの現在知られている投与経路、レジメンおよび製剤は薬剤の高ピークレベルをもたらすことができ、このレベルは骨髄などの感受性が高い組織中の正常細胞を細胞毒性によって死滅させるが骨髄中で、特にCDAを高度に発現する固形組織中以外でDNMT1を枯渇させるための極めて短い閾値を超える時間の濃度をもたらす。また、DECまたは5AZAの現在知られている投与経路、レジメン、および製剤は、細胞毒性を引き起こすレベルへの正常骨髄細胞中のDECまたは5AZAの蓄積をもたらす連続曝露または持続的曝露を回避する一方でDNMT1の枯渇を増加させるために曝露時間を増加させたり分配しない。その代わりに、これらの現在の手法は、細胞毒性治療目的を意図した従来のパルス周期型投与による従来のレジメンを模倣する。重要なことに、酵素シチジンデアミナーゼ(CDA)によるDECおよび5AZAの破壊は、in vivoで<20分の短縮された半減期をもたらし(in vitroでの5~9時間の半減期に反して)(Liu,Z.,ら.2006 Rapid Common Mass Spectrum 20:1117-1126)、半減期におけるこの大幅な減少は、in vitro観察の効果的なin vivo変換への著しい障壁であり、特に、高レベルのCDAを内因的に発現する組織中に存在する固形組織癌にとって障壁である。血漿および骨髄中の高ピークレベルのDECまたは5AZAは、CDAの薬理ゲノム学的変化(Gilbert,J.A.,ら 2006 Clin.Cancer Res 12, 1794-1803;Kirch, H.C.,ら.1998 Exp. Hematol.26, 421-425;Yue,L.,ら.2003 Pharmacogenetics 13, 29-38)にも起因し、この薬理ゲノム学的変化は薬物動態(PK)および臨床効果において大きな個体間変動を生じる。また、悪性細胞はCDAでDECを破壊することによって抵抗性を発現させることがあり(Ohta,T.,ら.2004 Oncol Rep 12:1115-1120;Hubeek,I.,ら.2005 Br J Cancer 93:1388-1394;Huang,Y.,ら.2004 Cancer Res 64:4294-4301)、かつ悪性細胞は高レベルのCDAを有する組織中に存在することによってDEC治療効果から避難し得る(Ebrahem,Q., 2012 Oncotarget 3(10):1137-45)。
【0020】
DECおよび5AZAのこれらの複数の基本的な薬理学的制限に対処するために、CDA阻害剤THUとの組み合わせでのDECまたは5AZAの経口投与経路が本明細書では好ましい。THUとの併用でのDECまたは5AZAのそのような経口投与は、現在の非経口投与と比較してピークレベルを実質的に低下させるが、DNMT1を枯渇させるための閾値を超える時間の濃度を実質的に増加させる。経口投与は、慢性的で頻繁であるが、毎日ではない(すなわち、規則正しい)療法が生涯にわたる治療効果を維持できるようにし、一方で細胞を分裂させ細胞毒性を防ぎ:経口併用投与は、癌の部位である固形組織中にDECまたは5AZAを分布させることができ、かつ肝臓などのCDAの豊富な臓器における癌細胞避難所を除去する。手短に言えば、この組み合わせは固形組織癌の治療を可能にする。さらに、経口投与は、世界中でこれらの薬物の普及を容易にする[028]。シチジンデアミナーゼ(CDA)は、肝臓および腸管で高度に発現し体内でDECおよび5AZAを急速に破壊する酵素である。ヒトにおいて、CDA遺伝子は、酵素活性が3倍以上異なるシチジンデアミナーゼの変異体を産生する非同義の一塩基多型を起こしやすい(Gilbert,J.A.,ら.2006 Clin Cancer Res 12,1794-1803;Kirch,H.C.,ら.1998 Exp Hematol 26, 421-425;Yue,L.,ら.2003 Pharmacogenetics 13,29-38)。
【0021】
THUは、シチジンデアミナーゼまたはCDAを阻害することが知られており、多くの望ましい特性があり、それらは良性毒性プロファイルを示すこと、特徴がはっきりしたPK、DECと5AZAの経口バイオアベイラビリティに対する腸管および肝臓の初回通過障壁に打ち勝つ能力、1人の個人から他までDECまたは5AZA薬物用量のより予測可能な効果を作り出すこと、DNMT1を枯渇させるためのDECまたは5AZAの閾値を超える時間の濃度を増加させること、DECまたは5AZA治療効果からの悪性細胞の避難場所を除去することなどを含むがこれらに限定されない。したがって、一実施形態において、本発明は経口投与用の組成物を提供し、組成物は約400mg/m~約500mg/mの範囲の量でのCDA阻害剤THUとともに、約1~10mg/mのDEC、または10~100mg/mの範囲の量での5AZAを含む。本開示の組成物で使用されるCDA阻害剤はTHUであるが、THUの代わりにゼブラリンなどの他のCDA阻害剤が使用できるという事実を当業者は理解し得る。いくつかの他の実施形態において、治療組成物で使用されるCDA阻害剤は、CDAの阻害剤として合成された2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体などの一般的に知られるTHU誘導体であってよく、Ferrarisら.2014 J Med Chem.57(6):2582-88、または米国特許第8,329,665号もしくは欧州特許第EP2447272号に記載されている。
【0022】
悪性細胞は、DCKによるサルベージからUCK2によるサルベージにピリミジン代謝を移行することによってDEC-THUの組み合わせに対する抵抗性を発達させることができる、またはUCK2によるサルベージからDCKによるサルベージにピリミジン代謝を移行することによって5AZA-THU組み合わせに対する抵抗性を発達させることができるため、両薬物のそれぞれの抵抗性のメカニズムに論理的に取り組むために、両薬物が交互に、または連続して用いられることが考えられる。別の実施形態において、組成物の投与は、約約0.05~約0.5μMのDECの血漿濃度または約0.5~約5μMの5AZAの濃度をもたらす。さらに別の実施形態において、組成物は、転移癌を患っている患者に、1週間に1回、または2週間ごとに1回投与される。さらに別の実施形態において、組成物は癌患者に、週に1~3回で投与される。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍を発症するリスクがある患者、または血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍の以前の診断の再発のリスクがある患者において、2週間に1回~1週間に3回で投与される。
【0023】
5AZAはDNAよりもRNA中により広い範囲で統合し、その統合はタンパク質産生の抑制をもたらす。5AZAはDNA中に統合するとき、DNA合成およびそれに続く細胞毒性を妨げるDNAメチルトランスフェラーゼと共有結合する。好適な実施形態において、経口投与用の組成物中で用いられるDECおよび5AZAは、塩を含まない遊離薬物形態である。
【0024】
一実施形態において、本開示は、THUとDECまたはTHUと-5AZAを含む丸剤の形態で経口投与用の組成物を提供し、ここでTHUまたはTHU誘導体(2’-フッ化テトラヒドロウリジン誘導体)はDECまたは5AZAよりも急速に放出される。本開示の薬物のそのような差動放出および/または二重放出は当技術分野で知られている任意の方法で実現され得ることを、当業者は理解されよう。「差動放出または二重放出」とは、複数種の薬物を含有する丸剤中の「薬物」の異なる時点での放出、および/または摂取後の異なる時点での薬物のバイオアベイラビリティを指す。例えば差動放出製剤において、THUはより速い溶解速度の影響を受けやすく、またはTHUは丸剤の表面に位置し得るが、一方、DECまたは5AZAは丸剤の内部に位置する。THUの位置またはポリマーもしくは適切なビヒクルでの被覆もしくは包埋のいずれかのために、THUまたはTHU誘導体は、DECまたは5AZAの約1分~約180分前に生物学的に利用可能であり、別の場合は、DECまたは5AZAの約15分~約60分前に、別の場合は、DECまたは5AZAの約30分~約60分前に生物学的に利用可能である。THUは、最初にTHU、続いてDECまたは5AZAと連続して、別々に投与されてもよい。本明細書に称されるように、「生物学的に利用可能な」という用語は、活性薬剤(THUまたはDECまたは5AZA)が体内に吸収されて使用され得るときを指す。「経口的に生物学的に利用可能な」とは、活性薬剤が口から摂取され、体内に吸収され使用され得ることを指す。
【0025】
別の実施形態において、経口投与用の組成物は、単一丸剤(本明細書では「カプセル剤または錠剤」としても使用される)であってよく、THUまたはTHU誘導体および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤に加えてヌクレオシド類似体薬物、DECと5AZAの両方を含む。この実施形態において、DECまたは5AZAの少なくとも約1分~約180分前にTHUまたはTHU誘導体が生物学的に利用可能であるように、DECまたは5AZAおよびTHUは、前述の丸剤の表面に異なって位置する。この実施形態において、薬物DECまたは5AZAは、THUまたはTHU誘導体の後に薬物の放出を容易にする被覆型もしくは包埋型細粒または微粒子のいずれかでそれぞれ存在し得る。両シチジン類似体薬物を含むこの組成物は、侵襲性が強く難治性の癌を有する患者への1週間に1回~3回などの規定された期間で患者に投与される。さらに別の実施形態において、この組成物は、血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍を発症するリスクがある患者、または血液系腫瘍もしくは固形悪性腫瘍の以前の診断の再発のリスクがある患者において、2週間に1回~1週間に3回で投与される。
【0026】
組成物中に使用される「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、本発明の医薬組成物の有効成分(例えば、組成物の化合物)と適合し(および好ましくはそれを安定化させることができる)、ならびに治療される対象に有害でない担体およびビヒクルを指す。例えば、本発明の化合物と特定の、より可溶性の複合体を形成する可溶化剤は、化合物を送達するための医薬賦形剤として利用されてよい。好適な担体およびビヒクルは、当業者にとって既知である。本明細書で用いる場合「賦形剤」という用語は、担体、アジュバント、希釈剤、溶剤または他の不活性添加剤などをすべて包含する。好適な薬学的に許容される賦形剤は、水、食塩水、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドとジグリセリド、ペトロエスラル脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含むが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物は無菌化されてもよく、必要に応じて、助剤、例えば、滑沢剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響するための塩類、緩衝剤、着色剤、香味料および/または芳香剤などと混合されてもよく、これらは本発明の活性化合物と有害反応しない。
【0027】
別の実施形態では、本発明の組成物は、乾燥剤とともに保管される。これは、本発明の組成物の有効期間を延長し世界的規模でその分布と使用を容易にするのに役立ち得る。
【0028】
本明細書で用いる場合、「治療する」という用語は、治療される対象の疾患経過を変えることを指す。治療の治療効果として、これに限定されないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な病理的結果の減少、疾患進行速度の低下、病状の回復または緩和、および寛解または予後の改善が挙げられる。
【0029】
医薬組成物
本開示の医薬組成物は、その全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願第13/141,669号(米国特許第9,259,469号として発行される)および同第13/414,546号(米国特許第9,265,785号として発行される)に記載のように調製されてよい。一実施形態において、本発明の医薬組成物および非毒性剤形は、相対量で約0.1~約0.5mg/kgのCDECまたは1~約5mg/kgの5AZAおよび約10~約50mg/kgのTHUならびに薬学的に許容される賦形剤を含み、かつ所与の医薬組成物または剤形が腫瘍細胞中で分化経路の抑制を放出するように、または腫瘍細胞中で分化関連遺伝子の異常な抑制を低下するように調製される。本発明の医薬組成物の治療有効量および非毒性剤形は、以下の1または複数を示し得る、またはもたらし得る:(i)閾値以下である、患者の血漿中のDECまたは5AZAのピークレベル。その閾値を超えると正常な分裂細胞中のDNAにアポトーシス(細胞毒性)を引き起こすのに十分な損傷がある。(ii)癌細胞中のDNMT1を枯渇させるのに十分な曝露時間。それは数分~数時間に及ぶ(Tmaxの5~20倍の延長)(単独のDECまたは5AZAは数分の血漿曝露時間を有する)がそれでも、正常な分裂細胞中のDNAに対しアポトーシス(細胞毒性)を引き起こすのに十分な損傷を誘導するレベルまでDECまたは5AZAの細胞内レベルを蓄積させる閾値より低い。手短に言えば、DNMT1の非細胞毒性枯渇のために最適化された曝露時間。(iii)DECまたは5AZAの経口バイオアベイラビリティの5~20倍の増加。(iv)さもなければ癌細胞がDECまたは5AZA治療効果から避難し得る、CDAが豊富な組織中へのDECまたは5AZAの配分。これは経口バイオアベイラビリティの根底にある同じ原則であり、すなわち、腸管および肝臓を介して今度は分布するDECまたは5AZAの能力である。(v)癌細胞による分化による細胞周期離脱(p53/p16-非依存性細胞周期離脱)に必要な遺伝子およびタンパク質の発現を誘導する、および(v)正常な分裂細胞を残す、作用の非細胞毒性メカニズム。このようにして毒性を回避することは、頻繁な断続的治療を促進して、DNMT1を枯渇させる効果に曝される癌の割合を増加させる。
【0030】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物および剤形は、相対量で1~約5mg/kgの5AZAまたは0.1~約0.5mg/kgのDECおよび約10~約50mg/kgのTHUならびに薬学的に許容される賦形剤を含み、かつ所与の医薬組成物または剤形が腫瘍細胞中で分化経路の抑制を放出するように、または腫瘍細胞中で分化関連遺伝子の異常な抑制を低下するように調製される。
【0031】
医薬組成物または剤形は、当技術分野で知られている化学療法薬を含むさらなる活性薬剤を含んでもよい。医薬組成物は、哺乳動物の対象において癌を治療するために、単独でまたは他の既知の組成物と組み合わせて投与されてもよい。「組み合わせて」という用語は、本開示の組成物の同時投与、または連続投与を含み得る。連続投与は、本開示の治療組成物、それに続く任意の既知の組成物の投与、またはその逆も含み得る。
【0032】
組成物の投与は、単回投与または複数回投与で行われてよい。一般に、本開示の治療上の効果のある化合物は、約5.0重量%~約70重量%の範囲の濃度レベルでそのような剤形中に存在する。いくつかの実施形態において、腫瘍の治療を必要としている対象は、10mg/kgのTHUおよび0.2mg/kgのDECまたは2mg/kgの5AZAを含有する錠剤またはカプセル剤を1週間に2回連日で、または1週間に1回もしくは3日に1回で約1週間もしくは2週間の間、投与されてよい。
【0033】
THUまたはTHU誘導体とヌクレオシド類似体薬物の差動放出を可能にするため、差動的に分解可能なコーティング、例えばマイクロカプセル化、複合コーティングによって活性成分が誘導体化される徐放性組成物が、調製され得る。いくつかの実施形態において、医薬組成物のナノ粒子は、その全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願第14/046,343号に記載のように調製されてよい。これらの組成物は、DECおよび/または-5AZAの約1分~約180分前にTHUが生物学的に利用可能であることを確実にする。別の実施形態において、マイクロまたはナノ製剤は、DECおよび/または-5AZAの約15分~約60分前、または30~約60分前にTHUが生物学的に利用可能であることを確実にする。
【0034】
本開示の組成物は、活性化合物が分解する速度を低下させる他の薬剤をさらに含んでもよい。そのような薬剤としては、これに限定されないが、抗酸化剤、アスコルビン酸、pH緩衝剤または塩緩衝剤を含む安定剤が挙げられる。
【0035】
予測バイオマーカー
治療選択を導くための「予測またはコンパニオン」バイオマーカーを開発することは、それを必要とするあらゆる対象についての投与量およびスケジュールなどの有意義な個別治療レジメンを選択する際の強力で効果的なツールである。したがって、酵素プロファイルの形での予測バイオマーカーを治療レジメン中に測定して、治療医師が対象に対する適切な治療レジメンを決定するのを支援する。DNA合成および遺伝物質の再生は細胞増殖にとって不可欠であり、およびピリミジンサルベージ酵素DCKの高度な発現は増殖の汎癌ホールマークである。したがって、放射標識ヌクレオシド類似体を、DNA合成のサルベージ経路を介する腫瘍増殖を画像化するために用いることができる。1-(2’-デオキシ-2’-[18F]-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)シトシン(TFAC)は、DECのようなデオキシシチジン類似体であり、そのような放射性トレーサーの1つである。活性なDECはそのDNMT1を枯渇させる効果を生むためにDCKによって活性化される必要があるので、癌DCK発現は癌組織学および遺伝学の全範囲でDECに対する感受性を確実に予測する。したがって、TFAC-ポジトロン放出断層撮影法(PET)を用いて、DCK依存性癌細胞増殖を測定できる。
【0036】
いくつかの実施形態において、予測バイオアッセイは、開示された組成物による治療の前、間および後に行われてよい。このアッセイを行って、適切な治療レジメンを選択できる。例えば、治療の前または治療中のアッセイが経口THU-DECへの応答と相関する高FAC摂取を示す場合、治療医師はTHU-DECを含む丸剤または錠剤を処方し続けてよい。腫瘍サイズの増加と関連してFAC摂取が低いか低下している場合、DECに対する抵抗性のメカニズムである、代替のピリミジン代謝酵素UCK2を使用する癌細胞の優位性を示しており、次に医師はTHU-5AZAを含む錠剤またはカプセル剤を処方してよい。
【0037】
決定的には、これらの測定は抵抗性のメカニズムに対する科学的な洞察を単に提供するのでなく、抵抗に打ち勝ち応答を延長させるための合理的な臨床的対策の適用を導く:(i)この非細胞毒性治療の副作用がないことに関して分子PDを達成できないことは、経口THU-DECの投与量または頻度の合理的増加を導くことができる(図9)。(ii)分子PDの喪失およびピリミジン代謝酵素における移行と同時に起こる変異型対立遺伝子頻度の負担の再増加に伴う抵抗性は、治療の経口THU-5AZAへの合理的な切り替えを導くことができる(図9)。最適な適用はおそらく、投与される経口THU-DECを、翌週に投与される経口THU-55AZAと交互するものとして慢性的、長期的に組み込むであろう(図7~9)。
【0038】
治療の方法
一実施形態において、本開示の治療組成物を含む丸剤は、治療を必要とする癌患者に投与されてよい。癌は固形癌もしくは液体癌であってよく、または対象中のあらゆる既知の組織の侵襲性が強く難治性の癌であり得る。本開示の治療組成物は、血液系腫瘍または血液疾患、例えば、これに限定されないが、鎌状赤血球貧血、異常ヘモグロビン症、地中海貧血または米国特許出願第13/414,546号(現在、米国特許第9,265,785号として発行されており、その全体を本明細書に組み込む)に詳述されるあらゆる関連する状態の治療においても効果的であり得る。「治療または治療すること」は、癌組織中のあらゆる知られている物理的および/または生化学的および/または分子的な変化を指す。例えば、治療は、腫瘍のサイズもしくは正常細胞および悪性細胞中のDNMT1のレベルなどの既知の癌バイオマーカータンパク質の改善を指してよく、または特定の分化遺伝子または上記のすべての抑制解除でのような、分子であり得る。治療方法は、治療の前、間または後に予測バイオマーカーを測定することを含む。予測バイオマーカーは、治療する医師に患者へ処方するための適切な投与量およびスケジュールを知らせることができる。例えば、患者は以下の通りに本開示の薬物を投与され得る:経口THU10mg/kg、続いてTHU後60分に経口DEC0.2mg/kg、週に2回連日。治療は、THU-DECもしくはTHU-5AZAを含む丸剤、またはDECと5-5AZAの両方を含有する丸剤を投与することを含んでよく、THUまたはTHU誘導体はDECおよび/または5AZAの約1分~約180分前に、または15分~約180分前に生物学的に利用可能である。
【0039】
治療法は、DEC、THUまたはTHU誘導体および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む第1の組成物の投与と、数日または数週間離してそれに続く、5AZA、THUまたはTHU誘導体および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む第2の組成物の交互投与を含み得る。この連続的または交互の治療方法は、数週間~数カ月続けてもよい。
【0040】
いくつかの態様において、治療方法は、その全体が本明細書に組み入れられる、米国出願第14/046,343号に詳細に記載されるように、代謝拮抗剤、ドキソルビシン、HDAC阻害剤、抗ウイルス剤、抗レトロウイルス剤またはこれらの薬剤の任意の組み合わせなどの放射線療法または細胞毒性化学療法剤を含むがこれらに限定されない、さらなる治療法を含む。
【0041】
実施例
以下の実施例は例示目的にのみ提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0042】
実施例1:
現在の選択肢から機構的に異なる治療法の必要性
歴史的に、RCCで評価された大部分の薬物は、p53/p16アポトーシス系(細胞毒性)を使用して増殖を終了させることを試みた。数十年の間、そのような治療法は毒性であり効果のないことが判明した。なぜならば、ほとんどの癌細胞のように、RCC細胞は、CDKN2Aなどの重要なp53/p16系遺伝子における遺伝子異常によって、正常な細胞と比較してアポトーシス抵抗性であるからである。RCC治療のためFDAによって認可された最初の薬物は、細胞増殖および細胞分裂の主要なコーディネーターであるMYCタンパク質を安定化するシグナル伝達経路(例えばAKT/mTOR)を阻害した。このように、これらの薬物は、直接的にはMYCタンパク質に対する影響によって、また間接的にはRCC増殖を支持するために必要とされる血管新生を阻害することによってRCC増殖を妨げる。そのような療法は明らかな前進であるとはいえ、持続的応答はまれであり(生存期間中央値18~30ヵ月)、p53/p16の変化は依然として応答に影響を与え、多変量解析に対して強い(図1)。さらに、第2選択または第3選択での応答は、第1選択における応答よりもかなり持続性が少なく、認可された薬物に対する抵抗性のメカニズムがある程度重複していることを示唆している。したがってRCC細胞増殖および細胞分裂を終了させるためにp53/p16以外の経路を明確に使用する機構的に異なる治療方法を評価することが示唆され、および適している。
【0043】
RCCおよび上皮の分化療法におけるPBRM1不活性化
RCCゲノム遺伝子研究からの予想外の発見は、活性化補助因子サブユニット、特にPBRM1だけでなくその他(SETD2、SMARCC1、SMARCA2、ARID1A)の遺伝子の変化を本質的に普遍的に不活性化することである(図2)。これらの知見は、最近のものであり、正常な腎細胞中のこれらの共調節因子の経路の機能、またはそれにより機能喪失がクローンの利点をもたらす経路は不明であった。おそらく関係のある知見は、RCCにおける重要な上皮末端分化遺伝子(例えばGATA3、WT1)のエピジェネティック抑制であるとが推測された(図3、4)。後期分化遺伝子のこのエピジェネティック抑制は特に興味深かった。なぜならばRCC細胞は、比較的保存されたmRNAおよび高タンパク質のレベルで上皮分化(例えばPAX8、PAX2)を行わせる未変異のマスター転写因子を発現するからである(図4)。別の関連する知見は、複数のRCC研究におけるクロマチン抑制マークの増加と予後不良との相関であった。最後のファンディングサイクルにおいて、我々はこれらの知見を実験的に関連させ、PBRM1/BAFが、RCC17-22で高度に発現される間葉上皮移行11-16の主要なドライバーであるPAX8による転写活性を媒介することを発見した。PBRM1喪失は、PBRM1/BAF(例えば、DNMT1)へのコリプレッサー対応物のPAX8への不均衡な補充を引き起こし、増殖を終了する上皮分化標的遺伝子を活性化する代わりに抑制する(図5)。重要なことに、これらの特定のコレプレッサー(例えば、DNMT1)を阻害することは複数のPAX8標的遺伝子の発現を回復させ、上皮分化および生理的な、p53/p16非依存性細胞周期離脱を再生した(図6)。
【0044】
実施例2:
メカニズムベースの予測バイオマーカーの必要性
DNA合成および遺伝物質の再生は細胞増殖にとって不可欠であり、ピリミジンサルベージ酵素DCKの高度な発現は汎癌の増殖のホールマークである。したがって、放射性同位元素標識ヌクレオシド類似体が、DNA合成のサルベージ経路を介する腫瘍増殖を画像化するために開発された。1-(2’-デオキシ-2’-[18F]-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)シトシン(FAC)は、デオキシシチジン類似体Decの様に、そのような放射性トレーサーの1つである。しかし、Decと同様に、FACは、CDAによる急速な脱アミノ化のために、肝臓および腎臓などの固形組織中に適切に分布しなかったことが記述されている。次いで、THU-FAC(TFAC)の同時注入がこの問題を解決し、原発性肝細胞癌を誘発したウイルス感染のウッドチャック動物モデルにおいてバックグラウンドの肝臓に対して肝細胞癌でFACの高い取り込みをもたらすことが判明した。図10に示すように、予測バイオマーカーアッセイの使用は、THU-Decの頻度または投与量を増加する必要があるかどうかを決定するのに役立つ。
【0045】
このように、TFAC-PETは、合理的なサルベージ療法を示唆できた。検証される場合、それは、THU-Dec対THU-5Aza間の先行治療の選択にも関与し得る。さらに、TFAC-PETが他のRCC薬(スニチニブなど)に対する応答および結果と十分に相関するRCC生物学の一側面をとらえていることもあり得る。換言すれば、FDG-PETが達成できなかった広範な予測バイオマーカーの役割をTFAC-PETが成し遂げ得ることが考えられる。本明細書で示した潜在的有用性は、そのような広範な目的のための評価を正当化できる。
【0046】
実施例3:
DECで治療された患者中の治療抵抗性の悪性細胞はUCK2を増加させかつDCKを減少させ、および5AZAで治療された患者では逆である
骨髄穿刺液検体を、DECまたは5AZAでの治療中に再発の前と再発時に患者から採取し、かつピリミジン代謝酵素DCKおよびUCK2の発現を定量的リアルタイムPCRで測定した。図8に示すように、再発中、Decで治療された患者からのMDS/AML細胞は、より低いDCKおよびより高いUCK2を有し、5Azaで治療された患者においては逆である。
【0047】
実施例4:
THU-DECを3X/週で、THU-5AZAを3X/週と交互に使用する非細胞毒性治療は、患者由来AMLの異種移植モデルにおいて、DEC単独またはTHU-DEC単独と比較して、応答を著しく延長する
AML患者の骨髄からの初代AML細胞(1×10細胞)をNSGマウスに異種移植した。接種の5日後に、マウスをビヒクル、DEC単独を0.2mg/kgで皮下に3X/週で、THU-DEC(THU8mg/kgとDEC0.1mg/kg)を皮下に3X/週で、またはTHU-5AZAを3X/週(THU8mg/kgと5AZA1mg/kg)と交互するTHU-DECを3X/週で、治療した。治療群当たりn=5。図9から明らかなように、THU-DecとTHU-5Azaの交互のレジメンは、患者由来AMLのこれらの異種移植モデルでの生存確率を有意に増加させる。
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