IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サークル33 エルエルシーの特許一覧

特開2022-185053腸内消化に対する改善された安定性を有する抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185053
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】腸内消化に対する改善された安定性を有する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221206BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221206BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20221206BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/24
C12P21/08
A61P1/04
A61K39/395 U
A61K9/19
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156598
(22)【出願日】2022-09-29
(62)【分割の表示】P 2018536696の分割
【原出願日】2016-09-29
(31)【優先権主張番号】62/237,270
(32)【優先日】2015-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518116352
【氏名又は名称】サークル33 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バートン,ランダル,エドワード
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロテアーゼおよび腸内消化に対する抵抗性を与える反芻動物初期初乳抗体の特色を有する組換え抗体を提供する。
【解決手段】(a)非ウシ抗体からの重鎖および軽鎖CDRと(b)ウシIgG1定常領域の全てまたは一部を含む定常領域とを含む単離された組換えモノクローナル抗体であって、前記組換え抗体を含む医薬組成物は、ヒトを含む動物に投与されると、プロテアーゼおよび腸内消化に対する抵抗性を有利に示すことが、本発明の特色である。したがって、本発明の組換え抗体の医薬組成物は、特に経口送達が有利な場合に胃腸管への経口送達により、抗体治療薬を送達するために用いられ得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体。
【請求項2】
(a)非ウシ抗体からの重鎖および軽鎖CDRと(b)ウシIgG1定常領域の全てまたは一部を含む定常領域とを含む単離された組換えモノクローナル抗体であって、
前記定常領域が、ウシIgG1ヒンジ領域の全てまたは一部を含み、前記ウシIgG1ヒンジ領域の全てまたは一部が、共通のプロテアーゼへの感受性が低いアミノ酸配列を含み、前記プロテアーゼが、模擬腸液、パパイン、ペプシン、MMP-7を含むマトリックスメタロプロテイナーゼ、好中球エラスターゼ(HNE)、ストロメリシン(MMP-3)、マクロファージエラスターゼ(MMP-12)、トリプシン、およびキモトリプシンの群から選択される、抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸または請求項4に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体と担体とを含む医薬組成物。
【請求項7】
経口投与用に配合される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
防腐剤をさらに含む、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
凍結乾燥される、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
それを必要とする個体に請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体を経口投与することを含む消化管の疾患を処置する方法。
【請求項11】
前記疾患が、潰瘍性大腸炎である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患が、クローン病である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項5に記載の細胞中で前記抗体を発現させることおよび前記細胞から前記抗体を単離することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され全体として参照により本明細書に組み入れられる配列表を含む。2016年11月18日に作成された上記ASCII原稿は、11020-005408-WO0_SL.txtと命名され、162,872バイトのサイズである。
【背景技術】
【0002】
背景
経口投与されるウシ初乳抗体は、消化管中の感染および炎症を処置および予防するために実験で用いられてきた(Jones et al.,Crit Rev Biotechnol 2015;July 15:1-15)。ウシ初乳抗体は、容易に消化される他のタイプの抗体とは対照的に、腸内消化に自然に抵抗し、それにより経口的な、消化管中での局所使用に比類なく適する。ウシ初乳抗体の研究は、それらがヒトの消化管中で存続することを矛盾なく示している(Jaison et al.Nutrition Journal 2015;14:1-8)。しかし、血清から単離されたウシ抗体についての消化抵抗の研究は、一致せず(Jaison et al.,上掲;Kuribayashi et al.,Comparative Medicine 2009;59:163-7)、ウシ血清抗体が初乳抗体の消化抵抗を欠くことを示唆する。経口投与される薬物としての初乳抗体の実験的成功にもかかわらず、それらは、自然に生成されるポリクローナル抗体であり、それゆえ薬物として組換えモノクローナル抗体を設計および製造するのに用いられる日常的方法を利用できない。
【0003】
ウシ初乳は、IgG1、IgG2、IgM、およびIgAを含む免疫グロブリンの混合物を含有する。初乳は、タンパク質に加えて、多量の脂質、糖、および小分子を含有する。要するに、ウシ初乳は生物活性物質の複合的混合物であり、そのことが消化抵抗性を付与する関連因子の解明を非常に困難にしている。
【0004】
ウシ初乳中の免疫グロブリンは、分娩後短時間のうちに血清から乳房に移動される。ほとんどのIgG移動は、初乳中へ物質を分泌する乳腺上皮細胞を介する能動輸送により起こる。これらの細胞を通した輸送の間に、IgGは、グリコシル化または他の手段によって修飾され得る。この工程は、消化抵抗性をウシ初乳抗体に付与する因子を同定する試みの複雑さに加わる。さらにこの試みを複雑にするのが、ウシ抗体のプロテアーゼ抵抗を評定した過去の研究の矛盾する結果である。
【0005】
1997年まで遡る数多くの研究は、異なるウシ抗体アイソタイプが特定のプロテアーゼに異なる抵抗性パターンを示すことを示した、いくつかのアイソタイプは、特定のプロテアーゼに対して他よりも大きな抵抗性を示したが、不一致の結果および矛盾する結果がある(Butler et al.,Biochim Biophys Acta 1978;535:125-37;Brock et al.,Annales de Recherches Veterinaires 1978;9:287-94)。de Rhamらによる研究(Int Archs Allergy Appl Immun 1997;55:61-9)は、初乳IgG1と血清IgG1の間でトリプシンまたはペプシンへのプロテアーゼ抵抗性の差異がないことを示した。対照的に後の研究は、ウシ初乳抗体と血清抗体の間で消化抵抗性における顕著な差異を見出し、初乳抗体が血清抗体よりもプロテアーゼ消化に対してより抵抗性であった(Jaison et al.,上掲;Kuribayashi et al.,上掲)。これらの結果は、初乳抗体のみに関連する別の因子が、消化抵抗性を担うに違いないことを示唆する。時間を経て、ウシ初乳抗体の明白なプロテアーゼ抵抗性を説明する2つの主な仮説が出現した。
【0006】
一方の仮説は、初乳中に存在する因子がタンパク質分解を阻害するということであった。例えば、Pinieroら(Ann Rech Vet 1978:9:287-94)は、ウシ初乳からトリプシンインヒビターを単離し、Quigleyら(J Dairy Sci 1995;78:1573-7)は、このトリプシンインヒビターの量が初乳中の免疫グロブリン量と概ね相関することを見出した。このトリプシンインヒビターと、おそらく初乳中の他のプロテアーゼインヒビターが、ウシ初乳抗体の消化抵抗を担う可能性がある。
【0007】
もう一方の仮説は、ウシ初乳抗体に特異的なグリコシル化が、それらをプロテアーゼから防御する、ということであった。1つの研究において、ウシ初乳免疫グロブリンのジャカリン結合画分と関連するO-結合型グリコシル化が、ジャカリンを結合しない画分と比較して、ペプシン消化に抵抗した(Porto et al.,J Dairy Sci 2007;90:955-62)。さらに、米国特許第8,647,626号もまた、グリコシル化がウシ抗体に安定性を付与することを開示している。
【0008】
総括すると、今日までの研究は、ウシ初乳抗体のプロテアーゼ抵抗性の根底にある因子および分子基盤の決定的理解の不足を指摘している。これらの決定事項を解明することは、均一で消化抵抗性があり経口投与可能な組換えモノクローナル抗体組成物の製造を可能にし、それにより免疫療法分野で未だ適えられていない長年の要望に取り組むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
要約
本発明は、少なくとも一部が、プロテアーゼおよび腸内消化に対する抵抗性を与える反芻動物初期初乳抗体の同定に基づく。本明細書に記載される組換え抗体を含む医薬組成物は、ヒトを含む動物に投与されると、プロテアーゼおよび腸内消化に対する抵抗性を有利に示す。したがってこれらの医薬組成物は、消化管の疾患の処置のために特に、胃腸管に送達され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態において、組換え抗体は、少なくとも親(非ウシ)抗体からのCDRまたは可変領域(VR)に結合する抗原を保持し、ウシIgG1定常領域(例えば、ウシIgG1 CH1および/またはヒンジドメイン)の全てまたは一部を含む。そのような抗体は、本明細書では「ウシ化抗体」と称される。
【0011】
別の実施形態において、抗体は、親(非ウシ)抗体の可変領域と、ウシIgG1抗体の定常領域(即ち、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン)と、を含む。そのような抗体は、本明細書では「ウシキメラ抗体」と称される。
【0012】
一態様において、本明細書で提供されるのは、(a)非ウシ抗体からの重鎖および軽鎖CDR領域と、(b)ウシIgG1定常領域の全てまたは一部を含む定常領域(例えば、SEQ ID NO:1~3のいずれかから選択されるウシIgG1定常領域)と、を含む単離された組換えモノクローナル抗体である。一実施形態において、非ウシ抗体は、ヒト抗体である。
【0013】
一実施形態において、定常領域は、ウシIgG1ヒンジ領域の全てまたは一部を含む。別の実施形態において、定常領域は、ウシIgG1 CH1ドメインの全てまたは一部を含む。別の実施形態において、定常領域は、ウシIgG1 CH2ドメインの全てまたは一部を含む。別の実施形態において、定常領域は、ウシIgG1 CH3ドメインの全てまたは一部を含む。別の実施形態において、定常領域は、ヒト定常領域(例えば、ヒトIgG1またはIgG2定常領域)の一部をさらに含む。
【0014】
一態様において、本明細書で提供されるのは、ウシ化抗体にプロテアーゼ抵抗性を与えるウシIgG1中に見出される以下の構造的特色:
1)CH1ドメインのN末端をヒンジドメインのN末端に連結するジスルフィド結合(「ウシCH1-ヒンジジスルフィド連結(linkage)」)、
2)CH1ドメインのN末端を軽鎖のC末端に連結するジスルフィド結合(「ウシCH1-軽鎖ジスルフィド連結」)、
3)2つの重鎖のヒンジ領域を共に連結する3つのジスルフィド結合のクラスター(「ウシ重鎖-重鎖ジスルフィド連結」)、および/または
4)共通のプロテアーゼへの感受性が低いヒンジ配列(「ウシ化ヒンジ」)、
の1つまたは複数を組み入れるウシ化抗体である。
【0015】
一実施形態において、親(非ウシ)抗体は、ヒトIgGヒンジを含み、ここで酵素的なまたは自然なタンパク質分解に感受性であるヒンジ内の部位が、同等のウシヒンジ領域配列で置き換えらる。別の実施形態において、親(非ウシ)抗体は、ウシ化ヒンジ領域を含み、そこでヒンジ領域のアミノ酸残基の一部または全てが、ウシIgG1ヒンジ領域配列の同等部分で置き換えられる。
【0016】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、単離された組換えモノクローナルヒト抗体であり、ここで抗体の定常領域は、ウシIgG1中に見出される以下の特色:
a)CH1ドメインのN末端をヒンジ領域のN末端に連結するジスルフィド結合、
b)CH1ドメインのN末端を軽鎖のC末端に連結するジスルフィド結合、および
c)2つの重鎖のヒンジ領域を共に連結する3つのジスルフィド結合のクラスター、
の1つまたは複数を含む。
【0017】
言い換えれば抗体は、プロテアーゼ抵抗性を付与するウシIgG1中に存在するこれらの構造的特色(または他の反芻動物もしくはウサギからのIgG1の構造的に同等の特色)のうちの1つまたは複数を除き、完全にヒトの配列を有する。
【0018】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、以下の置換(カバットナンバリング):252の位置でトレオニンがメチオニンと置換される;255の位置でグリシンがアルギニンと置換される;309の位置でグルタミンがロイシンと置換される;314の位置でトレオニンがロイシンと置換される;および315の位置でグリシンがアスパラギンと置換される、の1つまたは複数を含む定常領域を含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるウシ化または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体は、生物学的抗原(例えば、TNF-α)に結合する。一実施形態において、抗体は、インフリキシマブの重鎖および軽鎖可変領域配列を含む。
【0020】
本明細書に記載されるウシ化抗体は、親抗体に比較してより大きなプロテアーゼ抵抗性を示す。幾つかの実施形態において、ウシ化抗体はまた、親抗体に比較してプロテアーゼ消化後により大きな抗原結合活性を保持する。幾つかの実施形態において、GI管中でプロテアーゼ消化を受けた後、ウシ化抗体は、抗原結合活性を保持する。
【0021】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体、およびこれらの抗体を分泌する宿主細胞である。
【0022】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、二重特異性のウシ化抗体または二重特異性の完全にウシの組換えIgG1抗体である。
【0023】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、ウシ化抗体または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体を含む免疫コンジュゲートである。
【0024】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載される組換え抗体をコードする核酸分子である。別の態様において、本明細書で提供されるのは、これらの核酸を含む発現ベクターである。さらに別の態様において、本明細書で提供されるのは、これらの核酸または発現ベクターを含む宿主細胞である。
【0025】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、経口投与用に配合された、ウシ化抗体または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体またはウシ化抗体、および場合により担体(例えば、医薬的に許容できる担体)を含有する(例えば、含む、それからなる、または本質的にそれからなる)医薬組成物である。幾つかの実施形態において、組成物は、防腐剤をさらに含む。幾つかの実施形態において、組成物は、凍結乾燥される。
【0026】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、それを必要とする対象にウシ化抗体または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体を投与することを含む、疾患(特に消化管に関わるもの)を処置するための方法である。一実施形態において、疾患は、潰瘍性大腸炎である。別の実施形態において、疾患は、クローン病である。幾つかの実施形態において、抗体は、TNF-αに特異的に結合する。
【0027】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載されるウシ化抗体または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体を含むキットである。
【0028】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、抗体を宿主細胞において発現させること、およびその細胞から抗体を単離すること、を含む、本明細書に記載されるウシ化抗体または完全にウシの組換えIgG1モノクローナル抗体を生産する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例2で議論される条件下でパンクレアチン消化に供されたAVX-470の還元SDS-PAGE分析である。
図2】実施例2で議論される条件下でパンクレアチン消化に供されたインフリキシマブの還元SDS-PAGE分析である。
図3】実施例2で議論される条件下でパンクレアチン消化に供されたヒトIgG1の還元SDS-PAGE分析である。
図4図1~3に示されたAVX-470、インフリキシマブ、およびヒトIgG1の抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図5】示された期間のパンクレアチン消化後のAVX-470およびインフリキシマブのTNF結合活性をプロットした折れ線グラフである。
図6】精製された初乳および血清IgGのSDS-PAGE分析である。
図7】示された期間のパンクレアチン消化に供された血清IgGおよび乳IgGのSDS-PAGE分析である。
図8】示された期間のパンクレアチン消化に供された初乳IgGのSDS-PAGE分析である。
図9】血清IgG、初乳IgG、および乳IgGの抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図10】AVX-470およびヒトIgGのグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図11】AVX-470のグリコシル化パターンを示し、オリゴ糖種を主なピークに割り付けたクロマトグラムである。
図12】AVX-470、雌牛血清IgG、および子牛血清IgGのグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図13】血清IgG(12月2日採血、12月18日採血)および初乳IgG(M1、M2およびM3)試料のグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図14】血清IgG、初乳IgG、および乳IgGのグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図15】ノイラミニダーゼを用いて、または用いずに処置された初乳IgGの抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図16】バンドの分子量およびLC/MS/MS分析に基づいて抗体断片を主なバンドに割り付ける、血清IgGおよび初乳IgGのパンクレアチン消化の還元SDS-PAGE分析である。
図17】初乳試料からのIgG1濃縮画分を示したクロマトグラムである。
図18】血清試料からのIgG2濃縮画分を示したクロマトグラムである。
図19】AVX-470、IgG1、およびIgG2抗体の抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図20】血清からのIgG1およびIgG2のグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図21】初乳からのIgG1およびIgG2のグリコシル化パターンを比較したクロマトグラムである。
図22】ウシIgG1およびIgG2のCH1ヒンジ領域(表示の順にそれぞれSEQ ID NO:95~97)を比較した図式である。
図23】ヒトIgG1(SEQ ID NO:98)およびウシIgG1(SEQ ID NO:99)のCH1ヒンジ領域を比較した図式である。ヒトIgG1における潜在的な酵素的タンパク質分解および自然なタンパク質分解の部位を示す。
図24】ELISAにより決定された、ウシ化インフリキシマブ、インフリキシマブ、AVX-470、およびウシ抗テストステロンモノクローナル抗体の抗原結合活性を比較した折れ線グラフである。
図25】パンクレアチンで消化された抗テストステロン抗体のウェスタンブロット分析である(抗ウシIgG抗体でプローブ)。
図26】ELISAにより決定された、表示のアジュバントで免疫化された子牛から採取されたプール血清からのTNF結合抗体の力価を示した折れ線グラフである。
図27】ELISAにより決定された、表示の群の子牛から採取されたプール血清からのTNF結合抗体の力価を示した折れ線グラフである。
図28】L929細胞に基づくアッセイにより決定された、表示の群の子牛から採取されたプール血清のTNF中和活性を示した折れ線グラフである。
図29】親抗体としてインフリキシマブを用いるウシ化構築物の図式である
図30】インフリキシマブ、最小限にウシ化されたインフリキシマブ、およびウシ初乳IgG1の抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図31】野生型ウシIgG1およびC127S/C215S変異体の予測されるジスルフィド結合構造の略図である。
図32】野生型ウシIgG1およびC128S/C215S変異体の予測されるジスルフィド結合構造の略図である。
図33】野生型ウシIgG1およびC127S/C128S変異体の予測されるジスルフィド結合構造の略図である。
図34】インフリキシマブ、ウシ初乳IgG1、野生型ウシ化インフリキシマブ、およびC127S/C215S、C128S/C215SまたはC127S/C128S置換を有するウシ化インフリキシマブの抗体重鎖のパンクレアチン介在性分解をプロットした折れ線グラフである。
図35】インフリキシマブ、ウシ化インフリキシマブ、およびウシ抗テストステロン抗体の発現レベルを示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
他に定義がなければ、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、本明細書で用いられる命名法、ならびに細胞培養、分子遺伝子学、有機化学、核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける実験手順は、当該技術分野において周知で、一般に用いられるものである。標準の技術が、核酸およびペプチド合成に用いられる。技術および手順は一般に、本文書全体で示される当該技術分野の従来法および様々な一般的参考資料(例えば、Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.)に従って実施される。本明細書で用いられる命名法、ならびに以下に記載される分析化学および有機合成で用いられる実験手順は、当該技術分野において周知で、一般に用いられるものである。標準の技術またはその改良が、化学合成および科学分析に用いられる。
【0031】
冠詞「a」および「an」は、その冠詞の文法上の目的の1つまたは1つより多く(即ち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で用いられる。例として、「an element(要素)」は、1つの要素または1つより多くの要素を意味する。
【0032】
本明細書で用いられる用語「抗体」は、最も広い意味で参照され、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗原結合断片を含む抗体断片を包含する。本明細書で用いられる「抗体断片」としては、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFab断片;(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)単一可変領域からなるdAb断片;(v)単離されたCDR領域;(vi)2つの連結されたFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;(vii)VHドメインおよびVLドメインがこの2つのドメインを結合させるペプチドリンカーによって連結されて抗原結合部位を形成する、一本鎖Fv分子(scFv);(viii)二重特異性一本鎖Fv二量体ならびに(ix)遺伝子融合によって構築される多価または多重特異性断片である「ダイアボディー」または「トリアボディー」、が挙げられるが、これらに限定されない。抗体断片は、修飾され得る。例えば分子は、VHドメインとVLドメインを連結するジスルフィド架橋の組み入れにより安定化され得る。
【0033】
抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来するインタクト免疫グロブリンであり得、インタクト免疫グロブリンの免疫反応性部分であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。本発明の抗体は、例えばポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含む、多様な形態で存在し得る。単数形の用語「a」または「an」または「the」antibody(抗体)の使用は、1つより多くの抗体が組成物または調製物中に存在することが明らかであれば、単一抗体に限定することを意味しない。加えて、他に示されない限り、「抗体」についての単数形態は、他に示されない限りそれらの構造または特異性が必ずしも異種性でない抗体の集合を包含し得る。
【0034】
抗体は一般に、ジスルフィド結合によって相互に連結される2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質であり、即ち、異なる遺伝子にコードされる2つの同一IgH鎖および2つの同一L鎖で構成される共有結合のヘテロ四量体である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVと略される)および重鎖定常領域で構成される。例えば、免疫グロブリンのIgGサブクラスの重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2およびCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。VおよびV領域は、より保存されたフレームワーク領域(FR)と称される領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分され得る。各VおよびVは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列される、3つのCDRおよび4つのFRで構成される。
【0035】
重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を仲介し得る。成熟した機能性抗体分子の形成は、2つのタンパク質が理論量で発現され、適切な構成で自己組織化すると成就され得る。
【0036】
本明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す抗体、またはその中の全ての抗体が特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す抗体の組成物を指す。
【0037】
本明細書で用いられる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。
【0038】
本明細書で用いられる「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、およびIgE抗体)を指す。好ましい実施形態において、本発明の抗体の組換え抗体は、IgG抗体、例えばIgG1、IgG2である。別の好ましい実施形態において、本発明の組換え抗体は、IgG1抗体である。
【0039】
本明細書で用いられる「Fc」または「Fc領域」は、第一の定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがってFcは、IgA、IgD、およびIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメインと、IgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメインと、これらのドメインに対してN末端側のフレキシブルなヒンジと、を指す。IgAおよびIgMについては、Fcは、J鎖を含み得る。IgGでは、Fcは、免疫グロブリンドメインCH2およびCH3と、CH1とCH2の間のヒンジと、を含む。
【0040】
本明細書で用いられる、抗体の「ヒンジ領域」は、抗体のCH1ドメインとCH2ドメインの間の一続きのペプチド配列を指す。ヒンジ領域は、抗体のFab部分とFc部分の間に存在する。ヒンジ領域は一般に、特有のエキソンによりコードされ、抗体の2つの重鎖断片を連結するジスルフィド結合を含有する。ヒンジ領域のアミノ酸配列は一般に、プロリン、セリン、およびトレオニン残基が豊富であり得る。例えばIgG、IgDおよびIgAのCH1およびCH2ドメインの間で伸びるペプチド配列は、プロリンが豊富である。IgMおよびIgE抗体は、ヒンジ様の特色を有する約110のアミノ酸のドメインを含み、本明細書で用いられる用語「ヒンジ領域」に含まれる。
【0041】
本明細書で用いられる用語「反芻動物抗体のヒンジ領域と同等の領域」は、任意のアイソタイプの反芻動物(例えば、ウシ)免疫グロブリンのヒンジ領域の天然由来の対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失を生じるが酵素消化に抵抗する免疫グロブリンの能力を実質的に低減しない改変を有する変異体を包含すると意図される。そのような変異体は、当該技術分野で知られる一般的ルールに従って、活性に対して最小限の影響を有するように選択され得る。
【0042】
CH1ドメインは、免疫グロブリン重鎖定常領域ドメインである。好ましいのは、ウシ、ヒツジまたはヤギなどの反芻動物免疫グロブリンCH1ドメインであり、ウシCH1ドメインが好ましい。様々な種の免疫グロブリンCH1ドメインのアミノ酸配列は、公知であるか、または当業者に一般に入手可能である(Kabat et al.,Sequences of proteins of immunological interest Fifth Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。好ましい実施形態において、CH1ドメインは、ウシIgG1 CH1ドメインである。さらに好ましい実施形態において、免疫グロブリンCH1ドメインは、dアロタイプのものである。
【0043】
本明細書で用いられる用語「反芻動物抗体のCH1ドメインと同等の領域」は、任意のアイソタイプの反芻動物(例えば、ウシ)免疫グロブリンのCH1ドメインの天然由来の対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失を生じるが酵素消化に抵抗する免疫グロブリンの能力を実質的に低減しない改変を有する変異体を包含すると意図される。そのような変異体は、当該技術分野で知られる一般的ルールに従って、活性に対して最小限の影響を有するように選択され得る。
【0044】
CH2ドメインは、免疫グロブリン重鎖定常領域ドメインである。本発明によれば、CH2ドメインは、好ましくは先に示された5つの免疫グロブリンサブタイプのうちの1つのCH2ドメインである。好ましいのは、ウシ、ヒツジまたはヤギなどの反芻動物免疫グロブリンCH2ドメインであり、ウシCH2ドメインが好ましい。様々な種の免疫グロブリンCH2ドメインのアミノ酸配列は、公知であるか、または当業者に一般に入手可能である(Kabat et al.,Sequences of proteins of immunological interest Fifth Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。本発明の状況における好ましい免疫グロブリンCH2ドメインは、ウシIgGであり、好ましくはウシIgG1またはIgG2、より好ましくはウシIgG1である。反芻動物抗体分子に関連して、N-連結オリゴ糖がFc領域のCH2ドメインの内面のAsnのアミノ側鎖に結合されたIgGクラスを参照する。この部位は、ヒトIgG1免疫グロブリン分子のAsn297と同等である。少なくとも1つのCH2ドメインを含むこと、または含むように修飾されることが、本発明の組換え抗体の特徴である。
【0045】
本明細書で用いられる用語「反芻動物抗体のCH2ドメインと同等の領域」は、任意のアイソタイプの反芻動物(例えば、ウシ)免疫グロブリンのCH2ドメインの天然由来の対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失を生じるが酵素消化に抵抗する免疫グロブリンの能力を実質的に低減しない改変を有する変異体を包含すると意図される。そのような変異体は、当該技術分野で知られる一般的ルールに従って、活性に対して最小限の影響を有するように選択され得る。
【0046】
CH3ドメインは、免疫グロブリン重鎖定常領域ドメインである。本発明によれば、CH3ドメインは、好ましくは先に示された5つの免疫グロブリンサブタイプのうちの1つのCH3ドメインである。好ましいのは、ウシ、ヒツジまたはヤギなどの反芻動物免疫グロブリンCH3ドメインであり、ウシCH3ドメインが好ましい。様々な種の免疫グロブリンCH3ドメインのアミノ酸配列は、公知であるか、または当業者に一般に入手可能である(Kabat et al.,Sequences of proteins of immunological interest Fifth Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。本発明の状況における好ましい免疫グロブリンCH3ドメインは、ウシIgG CH3ドメインであり、好ましくはウシIgG1 CH3ドメインまたはウシIgG2 CH3ドメイン、より好ましくはウシIgG1 CH3ドメインである。
【0047】
本明細書で用いられる用語「反芻動物抗体のCH3ドメインと同等の領域」は、任意のアイソタイプの反芻動物(例えば、ウシ)免疫グロブリンのCH3ドメインの天然由来の対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失を生じるが酵素消化に抵抗する免疫グロブリンの能力を実質的に低減しない改変を有する変異体を包含すると意図される。そのような変異体は、当該技術分野で知られる一般的ルールに従って、活性に対して最小限の影響を有するように選択され得る。
【0048】
本明細書で用いられる、反芻動物抗体のFc領域と同等の領域、という用語は、任意のアイソタイプの反芻動物免疫グロブリンのFc領域の天然由来の対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失を生じるが酵素消化に抵抗する免疫グロブリンの能力を実質的に低減しない改変を有する変異体を包含すると意図される。そのような変異体は、当該技術分野で知られる一般的ルールに従って、活性に対して最小限の影響を有するように選択され得る。
【0049】
本明細書で用いられる用語「宿主細胞」は、本明細書で開示される抗体を作製するように操作され得る任意の種類の細胞系を含む。宿主細胞としては、培養細胞、例えば、ほんの数例を挙げれば、CHO細胞、HEK293T細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞またはハイブリドーマ細胞などの哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、真菌細胞、および昆虫細胞に加え、トランスジェニック動物または培養組織内に含まれる細胞が挙げられる。幾つかの実施形態において、宿主細胞は、非限定的に、ウシ細胞株BMEC+H(ホルモンを適合させたウシ乳腺上皮細胞(Bovine Mammary Epithelial Cells of the Hormone-adapted))、HH2A(自然に不死化されたウシ乳腺上皮細胞株)、ET-C(上皮および筋上皮様の特徴)およびMac-T(乳腺腺房細胞)などの反芻動物乳腺上皮細胞株を含む反芻動物乳腺上皮細胞である。
【0050】
本明細書で用いられる「単離された抗体」または「単離された抗体(複数)」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すと意図される。単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学薬品を実質的に含まない場合がある。本明細書の定義のいずれかにおける用語「実質的に」は一般に、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、またはより好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%を意味する。「単離された」はまた、酵素、ホルモン、および他の材料などの、抗体の診断的または治療的使用を典型的に妨害し得る抗体の自然環境の混入成分からの分離の意味する。当業者に明白な通り、非天然由来抗体は、それを天然由来の同等物と区別するのに「単離」を必要としない。加えて、「濃縮された」、「分離された」または「希釈された」抗体は、容量あたりの濃度または分子の数が一般に天然由来の同等物よりも大きい点で、天然由来の同等物と区別可能である。一般に、組換え手段により作製され宿主中で発現される抗体は、「単離された」と見なされる。
【0051】
本明細書で用いられる「特異的結合」は、抗原の所定のエピトープ、アイソフォームまたは変異体への抗体結合を指す。典型的には抗体は、所定の抗原または密接に関係する抗原以外の非特異的抗原への結合に関する親和性よりも少なくとも2倍大きい親和性で結合する。それゆえ、本明細書で提供される抗体は、幾つかの実施形態において、標的抗原を特異的に結合する。
【0052】
本明細書で用いられる「親和性」または「結合親和性」は、抗体とその標的抗原との相互作用の強度を意味する。親和性の強度は多くの場合、kに対するkの比率(即ち、k/k)から得られる平衡解離定数Kで報告され、モル濃度(M)として表される。抗体のK値は、当該技術分野で確立された方法(例えば、Biacore表面プラスモン共鳴、フローサイトメトリー、スキャッチャード解析)を用いて決定され得る。より低いK値は、より緊密な結合およびより高い親和性に対応する。より高いK値は、より弱い結合およびより低い親和性に対応する。
【0053】
本明細書で用いられる「標的抗原」は、所与の抗体の可変領域により特異的に結合される分子を指す。標的抗原は、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の化学物質であり得る。
【0054】
本明細書で用いられる用語「ウシキメラ抗体」または「ウシ化抗体」は、親(非ウシ)抗体からの抗原を結合するCDRまたは可変領域(VR)を少なくとも保持し、かつウシIgG1定常領域(例えば、ウシIgG1 CH1および/またはヒンジドメイン)の少なくとも一部を含む、組換え抗体を指す。例えば一実施形態において、ウシ化抗体は、親抗体(例えば、ヒト抗体)の可変領域ならびにCH2およびCH3ドメインと、ウシIgG1抗体のヒンジ領域およびCH1ドメインと、を含む。別の実施形態において、ウシ化抗体は、ウシ定常領域、例えばウシIgG1定常領域の同等の残基(複数可)で置き換えられた親抗体中の1つまたは複数のアミノ酸残基を含む。さらに別の実施形態において、ウシ化抗体は、親抗体の可変領域と、ウシIgG1抗体のCH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインと、を含む(即ち、「ウシキメラ抗体」)。
【0055】
「親抗体」は、最も広い意味で用いられ、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、およびFc融合タンパク質などの抗原結合断片を含む抗体断片を特に包含し、この場合の「親抗体」は、本明細書では「ウシ化抗体」とも称される本発明の変異体を作製する修飾のための土台である。親抗体という用語は、親抗体そのもの、親抗体あるいは親抗体をコードするアミノ酸配列または核酸配列を含む組成物を指し得る。
【0056】
用語「完全にウシの組換えモノクローナル抗体」は、ウシ生殖系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する組換え抗体を包含すると意図される。本発明の完全にウシの抗体は、ウシ生殖系免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発により、またはインビボで体細胞突然変異により導入される突然変異)を含み得る。しかし、本明細書で用いられる用語「完全にウシの抗体」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系由来のCDR配列がウシフレームワーク配列上に移入された抗体を包含すると意図されない。
【0057】
幾つかの実施形態において、抗体は、全長抗体である。幾つかの実施形態において、全長抗体は、重鎖および軽鎖を含む。
【0058】
本明細書で用いられる場合の「治療性組換え抗体」は、処置を必要とする対象に投与されると、疾患、障害または病気を予防するまたは改良する上で有用である組換え抗体である。
【0059】
本明細書で用いられる用語「組換え抗体」は、非限定的に宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現される抗体、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、または他のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作出もしくは単離された抗体を含む、組換え手段によって調製、発現、作出または単離された抗体を包含すると意図される。
【0060】
「N-連結」オリゴ糖は、アスパラギン-N-アセチルグルコサミン連結により、アスパラギンを通してペプチドバックボーンに連結されるそれらのオリゴ糖である。N-連結オリゴ糖はまた、「N-連結グリカン」とも呼ばれる。全てのN-連結オリゴ糖は、ManGlcNAcの共通の五糖コアを有する。それらは、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、フコースおよびシアル酸など末梢の糖の分枝(アンテナとも呼ばれる)の存在および数が異なる。場合によりこの構造はまた、コアフコース分子および/またはキシロース分子を含有し得る。
【0061】
「O-連結」オリゴ糖は、本明細書では「O-連結グリカン」とも称されるそれらのオリゴ糖であり、トレオニン、セリン、ヒドロキシプロリン、チロシン、または他のヒドロキシ含有アミノ酸を通してペプチドバックボーンに連結される。
【0062】
用語「シアル酸(SA)」は、炭素9個のカルボキシル化糖のファミリーの任意のメンバーを指す。シアル酸ファミリーの最も一般的なメンバーは、N-アセチル-ノイラミン酸(2-ケト-5-アセトアミド-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクトノヌロピラノス-1-オン酸(多くの場合、Neu5Ac、NeuAc、またはNANAと略される))である。そのファミリーの第二のメンバーは、NeuAcのN-アセチル基がヒドロキシル化されたN-グリコリル-ノイラミン酸(Neu5GcまたはNeuGc)である。第三のシアル酸ファミリーメンバーは、2-ケト-3-デオキシ-ノヌロソン酸(KDN)である(Nadano et al.,JBC 1986;261:11550-7;Kanamori et al.,JBC 1990;65:21811-9)。同じく含まれるのは、9-O-ラクチル-Neu5Acまたは9-O-アセチル-Neu5Acのような9-O-C~Cアシル-Neu5Ac、9-デオキシ-9-フルオロ-Neu5Acおよび9-アジド-9-デオキシ-Neu5Acなどの9-置換されたシアル酸である。シアル酸ファミリーの論評については、例えばVarki,Glycobiology 1992;2:25-40;Sialic Acids Chemistry,Metabolism and Function,R.Schauer,Ed.(Springer-Verlag,New York(1992))を参照されたい。
【0063】
用語「シアリル化された」または「シアリル化」は、抗体などのグリコシル化ペプチド上に存在するオリゴ糖基へのシアル酸基の付加を指す。そのような付加は、例えば細胞の中で起こる自然な酵素的工程によるもの、または化学的糖鎖工学を介したものであり得る。
【0064】
「単離された核酸」は、天然に存在する状態でそれに隣接する配列から分離された核酸セグメントまたは断片を指し、例えば通常はその断片に隣接する配列、例えばその中にそれが天然に存在するゲノム中の断片に隣接する配列から取り出されたDNA断片を指す。この用語はまた、核酸、例えばRNAもしくはDNAまたはタンパク質を自然に伴い、細胞中でそれを自然に伴う他の成分から実質的に精製された核酸にも適用される。それゆえこの用語は、例えば、ベクター中に、自己複製するプラスミドもしくはウイルス中に、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられた組換えDNA、あるいは他の配列と独立して別の分子として(例えば、PCRもしくは制限酵素消化により産生されたcDNAまたはゲノム断片またはcDNA断片として)存在する組換えDNAを包含する。それはまた、さらなるペプチド配列をコードするハイブリッド核酸の一部である組換えDNAを包含する。
【0065】
「ポリヌクレオチド」は、核酸の一本鎖または平行のおよび逆平行の鎖を意味する。したがってポリヌクレオチドは、一本鎖核酸または二本鎖核酸のいずれかであり得る。
【0066】
用語「核酸」は、大きなポリヌクレオチドを典型的に指す。用語「オリゴヌクレオチド」は、一般に約50ヌクレオチド以下の、短いポリヌクレオチドを典型的に指す。ポリヌクレオチド配列を記載するために、従来の表記法が本明細書で用いられ:一本鎖ポリヌクレオチド配列の左側末端は5’-末端であり;二本鎖ポリヌクレオチド配列の左側方向は5’-方向と称される。新生RNA転写産物へのヌクレオチドの5’から3’への付加方向は、転写方向と称される。mRNAと同じ配列を有するDNA鎖は、「コード配列」と称され;DNA上の参照点に対して5’側に配置されるDNA鎖上の配列は、「上流の配列」と称され;DNA上の参照点に対して3’側にあるDNA鎖上の配列は、「下流の配列」と称される。
【0067】
「コードする」は、定義されたヌクレオチド配列(即ち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸配列のいずれかおよびそれから生じる生物学的特性を有する生物学的工程において他のポリマーおよび巨大分子の合成のためのテンプレートとして働く、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどの、ポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特異的配列の本質的特性を指す。したがって核酸配列は、その核酸に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物系においてタンパク質を産生するならば、タンパク質をコードする。コード鎖、つまりmRNA配列と同一であり通常配列表に示されるヌクレオチド配列と、遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして用いられる非コード鎖と、の両方は、その核酸またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称されてよい。
【0068】
他に断りがなければ、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重バージョンであり同じアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを包含し得る。
【0069】
本明細書で用いられる「相同な」は、2つのポリマー分子の間の、例えば2つの核酸分子の間の、例えば2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子の間の、または2つのペプチド分子の間のサブユニット配列類似性を指す。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が同じモノマーサブユニットに占有される場合、例えば2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンに占有されていれば、それらは、その位置で相同である。2つの配列の間の相同性は、マッチングまたは相同的位置の数の一次関数であり、例えば2つの化合物の配列中の位置の半数(例えば、ポリマーの10サブユニット長のうちの5つの位置)が、相同であれば、2つの配列は、50%相同であり、位置の90%、例えば10のうち9が、マッチするまたは相同であれば、2つの配列は、90%の相同性を有する。例として、DNA配列の3’ATTGCC5’および3’TATGGCは、50%の相同性を有する。
【0070】
本明細書で用いられる「相同性」は、「同一性」と同義的に用いられる。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の同一性%の決定は、数学的アルゴリズムを用いて成就され得る。例えば2つの配列を比較するのに有用な数学的アルゴリズムは、KarlinおよびAltschul(PNAS 199390:5873-7)において改変されたKarlinおよびAltschul(PNAS 1990;87:2264-8)のアルゴリズムである。このアルゴリズムは、Altschulら(JMB 1990;215:403-10)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれ、例えばユニバーサル・リソース・ロケーター“http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/”を有するNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のワールドワイドウェブサイトでアクセスできる。本明細書に記載される核酸に相同なヌクレオチド配列を得るために、BLASTヌクレオチドサーチを、以下のパラメータを用いて、NBLASTプログラム(NCBIウェブサイトでは「blastn」と呼称)で実施できる:ギャップペナルティ=5;ギャップ伸長ペナルティ=2;ミスマッチペナルティ=3;マッチリワード=1;予測値10.0;ワードサイズ=11。本明細書に記載されるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、BLASTタンパク質サーチを、以下のパラメータを用いて、XBLASTプログラム(NCBIウェブサイトでは「blastn」と呼称)またはNCBI「blastp」プログラムで実施できる:予測値10.0、BLOSUM62スコアリングマトリックス。比較目的のためにギャップありアライメントを得るために、ギャップありBLASTを、Altschulら(Nucleic Acids Res 1997;25:3389-402)に記載された通り利用できる。あるいはPSI-BlastまたはPHI-Blastを用いて、分子間の距離的関連(Id.)、および共通パターンを共有する分子間の関連を検出する反復サーチを実施できる。BLAST、ギャップありBLAST、PSI-Blast、およびPHI-Blastプログラムを用いる場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを利用できる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0071】
2つの配列間の同一性%は、ギャップを許容して、または許容せずに、上記のものと類似の技術を用いて決定され得る。同一性%を計算する際には、典型的には厳密なマッチが、計数される。
【0072】
ペプチドをコードする「異種核酸発現単位」は、プロモーターおよび/またはリプレッサー配列などの1つまたは複数の発現制御配列に動作可能に連結された目的のペプチドのコード配列を有する核酸として定義され、ここで配列の少なくとも1つが異種である、即ち宿主細胞中で通常は見出されない。
【0073】
2つのポリヌクレオチドを「動作可能に連結された」と記載することは、2つのポリヌクレオチドのうちの少なくとも一方が他方で特徴づけられる生理学的効果を発揮することができるように、一本鎖または二本鎖核酸部分が核酸部分内に配列された2つのポリヌクレオチドを含むことを意味する。例として、核酸のコード領域に動作可能に連結されたプロモーターは、コード領域の転写を促進できる。
【0074】
本明細書で用いられる用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に動作可能に連結された遺伝子産物の発現に必要とされる核酸配列を意味する。幾つかの例において、この配列はコアプロモーター配列であり得、他の例では、この配列は、エンハンサー配列と、遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節エレメントと、を含み得る。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的様式で遺伝子産物を発現するものであり得る。
【0075】
「構成的」プロモーターは、細胞中で持続する様式で、それに動作可能に連結される遺伝子の発現を誘導するプロモーターである。例として、細胞内ハウスキーピング遺伝子の発現を誘導するプロモーターは、構成的プロモーターであると見なされる。
【0076】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドと動作可能に連結されると、実質的にはそのプロモーターに対応するインデューサーが細胞中に存在する場合に限り、生細胞中で遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0077】
「組織特異性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドと動作可能に連結されると、実質的には細胞がそのプロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合に限り、生細胞中で遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0078】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、かつ単離された核酸を細胞の内部に送達するのに用いられ得る、組成物である。非限定的に、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合されたポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含む数多くのベクターが、当該技術分野で公知である。したがって用語「ベクター」は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを包含する。この用語はまた、例えばポリリジン化合物、リポソームなど、細胞中への核酸移入を容易にする非プラスミドおよび非ウイルス化合物を包含すると解釈すべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に動作可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシスエレメントを含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞により、またはインビトロ発現系において供給され得る。発現ベクターは、コスミド、プラスミド(例えば、裸のプラスミド、またはリポソームに含まれるプラスミド)および組換えポリヌクレオチドを組み入れるウイルスなど、当該技術分野で公知の全てのものを包含する。
【0080】
「遺伝子操作された」または「組換え」細胞は、細胞の遺伝子材料への1つまたは複数の修飾を有する細胞である。そのような修飾は、非限定的に、遺伝子材料の挿入、遺伝子材料の欠失、および遺伝子材料が安定して維持されるか否かにかかわらず染色体外にある遺伝子材料の挿入を包含すると見なされる。
【0081】
本明細書で用いられる「天然形態」は、その中でそれが天然に見出される細胞および/または生物体によって産生される場合のペプチドの形態を意味する。ペプチドが、複数の細胞および/または生物体によって産生される場合、ペプチドは、多様な天然形態を有し得る。
【0082】
「ペプチド」は、その中のモノマーがアミノ酸でありかつアミド結合を通して互いに接続され、代わりにペプチドと称される、ポリマーを指す。加えて、非天然アミノ酸、例えば、β-アラニン、フェニルグリシンおよびホモアルギニンもまた、包含される。核酸コードされないアミノ酸もまた、本発明で用いられ得る。さらに、反応基、グリコシル化部位、ポリマー、治療性部分、生体分子などを含むように修飾されたアミノ酸もまた、本発明で用いられれる。本発明で用いられるアミノ酸の全ては、そのD-またはL-異性体のいずれかであり得る。L-異性体が、一般に好ましい。加えて、他のペプチド模倣体もまた、本発明で有用である。「ペプチド」は、例えば、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質、または糖タンパク質を包含する。
【0083】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」は、鎖の長さに上限がない、少なくとも2つの連続して連結されたアミノ酸残基を含む鎖を指す。タンパク質中の1つまたは複数のアミノ酸残基は、非限定的にグリコシル化、リン酸化またはジスルフィド結合などの修飾を含み得る。「タンパク質」は、1つまたは複数のポリペプチドを含み得る。
【0084】
本発明はまた、先に同定されたタンパク質を含むタンパク質またはペプチドの類似体を提供する。類似体は、保存的アミノ酸配列の差異により、または配列に影響を及ぼさない修飾により、またはそれらの両方により、天然由来のタンパク質またはペプチドと異なり得る。例えば、保存的アミノ酸の変更が行われてよく、それらはタンパク質またはペプチドの一次配列を改変するが、通常はその機能を改変しない。保存的アミノ酸置換は、典型的には以下の群内の置換を含む:
o グリシン、アラニン;
o バリン、イソロイシン、ロイシン;
o アスパラギン酸、グルタミン酸;
o アスパラギン、グルタミン;
o セリン、トレオニン;
o リシン、アルギニン;
o フェニルアラニン、チロシン。
【0085】
修飾(通常は一次配列を改変しない)は、インビボまたはインビトロでのペプチドの化学的誘導体化、例えばアセチル化、またはカルボキシル化を含む。グリコシル化の修飾もまた含まれ、例えばペプチドの合成および加工の間に、またはさらなる加工ステップにおいて、ペプチドのグリコシル化パターンを修飾することにより;例えば、グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば哺乳類のグリコシル化または脱グリコシル化酵素にペプチドを暴露することにより、生成されるものである。同じく包含されるのは、リン酸化アミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有する配列である。
【0086】
もちろん、ペプチドが、活性に影響を及ぼさずに修飾されるアミノ酸残基を組み入れ得ることは、理解されよう。例えば、末端が、ブロッキング基、即ち「望ましくない分解」(化合物の機能に影響を及ぼす可能性がある、その末端での化合物の任意のタイプの酵素的、化学的または生化学的破壊、即ちその末端での化合物の連続分解を包含することを意味する用語)からN-およびC-末端を保護する、および/または安定化するのに適した化学的置換基、を含むように誘導体され得る。
【0087】
本明細書で用いられる用語「MALDI」は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法の略語である。イオン化の間に、SA-PEG(シアル酸-ポリ(エチレングリコール))は、糖タンパク質のN-グリカン構造から一部排除され得る。
【0088】
本明細書で用いられる「反芻動物」は、ラクダ、シカ、雌牛(ウシ)、羊(ヒツジ)および山羊(ヤギ)を含む家畜を包含する反芻動物亜目の任意の哺乳動物である。
【0089】
本明細書で用いられる「初期初乳」または「初期初乳の」は、反芻動物が出産した後1日~7日に生産される初乳を包含する。好ましい実施形態において、初期初乳は、出産後1~3日以内に生産される初乳である。最も好ましい実施形態において、初期初乳は、出産後24~36時間以内に生産される初乳である。
【0090】
本明細書で用いられる「消化管」は、口、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)および肛門からなる。1つの好ましい実施形態において、消化管は、ヒトの消化管である。
【0091】
本明細書で用いられる「口腔」は、口、咽頭および食道を含む。抗体の「口内分解(oral degradation)」という用語は、口腔中に存在する内因性または外因性の酵素による口腔での抗体の分解を意味するために本明細書で用いられる。
【0092】
本明細書で用いられる「胃腸管」または「GI管」は、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)および肛門を包含する。
【0093】
本明細書で用いられる「腸内消化」は、小腸および/または大腸での消化を指す。
【0094】
本明細書で用いられる、抗体の「腸内分解」は、小腸および大腸中に存在する内因性もしくは外因性酵素による、または腸内消化の間の酸性条件への暴露による、小腸および/または大腸での抗体の分解を指す。
【0095】
本明細書で用いられる、哺乳動物における腸内消化中のプロテアーゼによる切断に抵抗する「増強された」もしくは「上昇した」能力、および/または消化もしくは分解に対する増強された、もしくは上昇した抵抗性は、抗体が切断および消化に抵抗できるようにする反芻動物初期初乳IgG抗体の特有の性質を与えない方法によって生産された組換え抗体またはその組成物に比較して、抗体にそのような性質を与える本発明の方法により生産されたプロテアーゼ切断または腸内消化に対してより大きな抵抗性を示す組換え抗体またはその組成物を指すと意図される。
【0096】
本発明の性質を有さない抗体に比較して、本発明のウシ化抗体変異体がそれに対し上昇した抵抗性を有するプロテアーゼは、模擬腸液、パパイン、ペプシン、MMP-7を含むマトリックスメタロプロテイナーゼ、好中球エラスターゼ(HNE)、ストロメリシン(MMP-3)、マクロファージエラスターゼ(MMP-12)、トリプシン、キモトリプシン、および他のプロテアーゼを含み得るが、これらに限定されない。
【0097】
本明細書で用いられる用語「抗体調製物」は、本発明の抗体を含む組成物を定義するために用いられ、ここで抗体の診断的または治療的使用を妨害する材料などの混入成分は実質的に低減される。任意選択による実施形態において、本発明の抗体調製物は、(1)ローリー法による測定で抗体が95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで、(2)スピニングカップ配列決定装置(Spinning Cup Sequenator)の使用によって、N-末端もしくは内部のアミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な度合いまで、または(3)クーマシーブルー染色もしくは好ましくは銀染色を用いて還元条件下もしくは非還元条件下でSDS-PAGEによって均質になるまで、精製される。
【0098】
本明細書で用いられる「処置」または「処置すること」または「軽減すること」または「改良すること」は、本明細書では互換的に用いられる。これらの用語は、非限定的に治療上の利益および/または予防上の利益を含む有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチを指す。治療上の利益は、処置される根本の障害の根絶または改良を意味する。治療上の利益はまた、対象が依然として根本の障害に苦しんでいる場合でも改善が対象において観察されるような、根本の障害に関連する生理学的症状の1つまたは複数の根絶または改良で実現される。予防上の利益に関しては、組成物は、特定の疾患を発症するリスクのある対象に、またはこの疾患の診断がなされていないとしても、疾患の生理学的症状の1つもしくは複数を報告する対象に、投与され得る。
【0099】
本明細書で用いられる「治療有効性」は、非限定的に、ヒトもしくは他の動物の疾患の治癒、鎮静、改良もしくは予防を含む生理学的効果、さもなければヒトもしくは動物の生理学的もしくは精神的安寧を増進するための生理学的効果を指し、そのような治療有効性は本発明の組換え抗体により促進される。治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示に照らせば、当業者の能力で十分である。
【0100】
本明細書で用いられる用語「治療有効量」および「治療有効用量」は、対象に単回または反復用量で投与されると、疾患状況または状態の任意の症状、態様、測定パラメータまたは特徴に対して任意の検出可能な有益効果を有することが可能な、単独での、または他の治療薬と組み合わせた本発明の組換え抗体の量を指す。そのような効果は、有益であることが絶対である必要はない。
【0101】
本明細書で用いられる用語「治療有効用量レジメン」は、単独での、または他の治療薬との組み合わせの一部としての、本発明の組換え抗体の連続投与用量のための計画を指し、ここで用量が治療有効量で与えられて、疾患状況または状態の任意の症状、態様、測定パラメータまたは特徴に対し持続する有益な効果をもたらす。
【0102】
本明細書に記載される方法による初期初乳IgGの特性を与えるための「抗体または抗体組成物の性質を改変すること」は、個々の抗体、組成物中の抗体の一部、または組成物中の全ての抗体の性質の改変が反芻動物の初期初乳IgG抗体(例えば、ウシ初乳IgG1抗体)の特有の性質を与えるためになされた例を包含すると意図される。タンパク質分解への抗体抵抗性は、当該技術分野で公知の標準的タンパク質分解アッセイのいずれかにより測定され得る。
【0103】
用語「患者」および「対象」は、予防的または治療的処置のいずれかを受ける任意のヒトまたは非ヒト動物を指す。例えば、本明細書に記載される方法および組成物は、胃腸障害を有する対象を処置するために用いられ得る。用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば非ヒト霊長類、羊、犬、雌牛、鶏、両生類、爬虫類などの哺乳動物および非哺乳動物を包含する。
【0104】
本明細書で用いられる「畜牛」は、ウシ亜科のメンバーを指し、ボース・インディカス種およびボース・タウルス種を包含する。本明細書で用いられる「畜牛」は、子牛、成熟した雌牛、去勢牛、および雄牛を包含すると意図される。
【0105】
本明細書に記載された様々な態様を、以下の小節にさらに詳細に記載する。
【0106】
概要
本明細書に記載されるのは、哺乳動物の消化管における消化の間に(例えば、ヒトの消化の間に)プロテアーゼによる切断に抵抗し分解に抵抗する上昇された能力を有する組換え抗体、およびそれを調製するための方法である。
【0107】
ウシ抗体、詳細には初期初乳ウシIgGは、ヒト胃腸管での消化に対する自然な抵抗性を有することが知られている(Warny et al.,Gut 1999;44:212-217)。この抵抗性の原理は、これまで知られていなかった。本発明は、少なくとも一部が、インビトロおよびインビボで、消化器官に存在するプロテアーゼおよび他の消化酵素に対する増強された抵抗性をウシIgG1に与える、巨大分子主成分の発見に基づく。
【0108】
分娩時、または分娩前後の乳腺に存在する初期分泌物は、初乳と称され、乳腺の乳生産という主たる役割とは完全に異なる乳腺発達の異なる生理学的および機能的段階の間に生じる。家畜反芻動物において、初乳形成時に、母体循環系から母乳分泌物への免疫グロブリンの移動は、分娩の数週間前に始まり分娩後に停止する。この時期に500g~3kgのIgGが乳腺分泌物中に移動され、初期の研究は、初乳免疫グロブリンの供給源が母体循環系であることを確定した。
【0109】
初乳は、その組成および機能が独特である。家畜反芻動物において、初乳と乳との根本的な違いは、高濃度の初乳免疫グロブリン、詳細にはIgG1である。IgG1は、血清の5~10倍のレベルに濃縮されており、全初乳タンパク質の90%より多くを占める。免疫グロブリンが母体循環系から乳腺へ移動する工程は、トランスサイトーシス、つまり免疫グロブリンを含む様々な巨大分子が内部ウシ乳腺上皮細胞を横切って輸送される工程の結果である。免疫グロブリンは、乳腺上皮細胞の基底-側面で小胞中に捕捉され、細胞を横切って引き込まれ、頂端膜表面で初乳中へ放出される。
【0110】
以下にさらに詳細に議論される通り、初めて本明細書に記載されるのは、ウシ初乳抗体にプロテアーゼ抵抗性を与える、ウシ血清と初乳中に見出されるIgG間の、特にIgGアイソタイプ間の複数の構造的差異である。本明細書に記載される抗体は、プロテアーゼ抵抗性抗体を生成するためにこれらの構造的差異を利用する。
【0111】
ウシ化抗体
本明細書で提供されるのは、増強されたプロテアーゼ抵抗性を与えるウシIgG1抗体に関連する特有の構造的性質を有し、消化管の処置疾患のために経口投与され得る、組換え抗体である。
【0112】
したがって本明細書で提供されるのは、少なくとも親(非ウシ)抗体からの抗原結合CDRまたは可変領域(VR)を保持し、かつウシIgG1定常領域(例えば、ウシIgG1 CH1および/またはヒンジドメイン)の全てまたは一部を含む、組換え抗体である。そのような抗体は、本明細書では「ウシ化抗体」と称される。同じく本明細書で提供されるのは、親抗体の可変領域と、ウシIgG1抗体の定常領域(即ち、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン)と、を含むウシ化抗体である。これらの抗体は、「ウシキメラ抗体」と称される。
【0113】
一態様において、本明細書で提供されるのは、親(即ち、非ウシ)抗体の1つまたは複数の定常領域ドメイン(複数可)を、同等のウシIgG1定常領域ドメイン(複数可)で全体的または部分的に置き換えたウシ化抗体である。
【0114】
例示的なウシIgG1抗体定常領域を、表1に示す。
【表1】
【0115】
一実施形態において、提供されるのは、抗体にプロテアーゼ抵抗性を与えるウシIgG1で見出される以下の構造的性質の1つ、2つ、3つ、または全てを組み入れるウシ化抗体である:
1)CH1ドメインのN末端をヒンジドメインのN末端に連結するジスルフィド結合(「ウシCH1-ヒンジジスルフィド連結」)、
2)CH1ドメインのN末端を軽鎖のC末端に連結するジスルフィド結合(「ウシCH1-軽鎖ジスルフィド連結」)、
3)2つの重鎖のヒンジ領域を共に連結する3つのジスルフィド結合のクラスター(「ウシ重鎖-重鎖ジスルフィド連結」)、および/または
4)共通のプロテアーゼへの感受性が低いヒンジ配列(「ウシ化ヒンジ」)。
【0116】
幾つかの実施形態において、ウシ化抗体は、親抗体の可変ドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインと、ウシIgG1 CH1および/またはヒンジドメインの少なくとも一部(即ち、1つまたは複数のアミノ酸残基)と、を含む。幾つかの実施形態において、抗体のCH1ドメインは、ウシIgG1 CH1および/またはヒンジドメインと少なくとも85%同一、例えば少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%同一である。
【0117】
特定の実施形態において、本明細書に記載されるウシ化抗体は親抗体からのCH1ドメイン(例えば、ヒトCH1ドメイン)を含み、ここでウシIgG1中のCys127およびCys128(カバットナンバリングによる)と同等なアミノ酸残基が、親抗体中でシステインと置き換えられる。例えば一実施形態において、抗体は、S127Cおよび/またはS128C置換(カバットナンバリングによる)を有するヒトCH1ドメインを含む。別の実施形態において、抗体はS127Cおよび/またはS128Cアミノ酸置換を有するヒトCH1ドメインを含み、ここでアミノ酸残基127および128の上流(N-末端側)の1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個のアミノ酸および/または下流(C-末端側)の1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個のアミノ酸が同等のウシIgG1 CH1残基で置き換えられる。
【0118】
別の実施形態において、ウシ化抗体は、ウシ化ヒンジ領域を含む。例えば一実施形態において、抗体はヒトIgGヒンジを含み、ここで酵素的または自然なタンパク質分解に感受性であるヒンジ内の部位が同等のウシヒンジ領域配列で置き換えられる。図23に示される通り、ウシIgG1ヒンジ領域配列は、プロテアーゼ消化に感受性であることが知られる部位でヒトIgG1ヒンジ領域配列と異なる。
【0119】
さらなる実施形態において、ウシ化抗体はウシ化ヒンジ領域を含み、そこでヒンジ領域のアミノ酸残基の一部または全てがウシIgG1ヒンジ領域配列の同等の部分で置き換えられる。
【0120】
さらなる実施形態において、ウシ化抗体は、ウシ重鎖-重鎖連結を含むウシ化ヒンジ領域を含み、ここで3つのジスルフィド結合の集団が2つの重鎖のヒンジ領域を共に連結する。したがって一実施形態において、抗体は親抗体のヒンジを含み、ここで以下のウシヒンジ領域中の下線のシステイン残基と同等のアミノ酸残基が親抗体のヒンジでシステインと置き換えられる(既にシステインでなければ)。
DKAVDPRKPSPCDCCPPPELPGGP(SEQ ID NO:4)
【0121】
一実施形態において、抗体はヒトヒンジ領域配列を含み、ここでPro241(カバットナンバリング)がシステイン残基で置き換えられる(即ち、P241C置換)。
【0122】
幾つかの実施形態において、ウシ化抗体は、親抗体に比較してより大きなプロテアーゼ抵抗性を示す。
【0123】
幾つかの実施形態において、ウシ化抗体は、親抗体に比較してプロテアーゼ消化後により大きな抗原結合活性を保持する。
【0124】
幾つかの実施形態において、ウシ化抗体は、GI管でのプロテアーゼ消化を受けた後、抗原結合活性を保持する。特定の実施形態において、ウシ化抗体は、GI管でのプロテアーゼによる消化後に二価のままである。一実施形態において、ウシ化抗体は、GI管でプロテアーゼによりF(ab’)断片へと消化される。
【0125】
幾つかの実施形態において、ウシIgG1ヒンジを含むウシ化抗体のプロテアーゼ抵抗性は、ウシIgG3ヒンジ領域をIgG1ヒンジ領域中に部分的に組み入れることにより上昇する。理論に縛られるものではないが、推定O-グリコシル化部位を有するウシIgG3ヒンジドメインを、ウシIgG1定常領域に付加することにより、ペプシン切断が予防され得る。
【0126】
特定の実施形態において、ウシ化抗体の抗原結合領域は、プロテアーゼ感受性配列を欠く。そのような決定は、可変領域(例えば、CDR領域)の一次配列を既知のプロテアーゼコンセンサス配列と比較することにより行うことができ、または実施例に記載されるパンクレアチン消化法を用いて実験的にテストできる。
【0127】
幾つかの実施形態において、プロテアーゼ安定性を与えるウシ定常領域と構造類似性を共有する他の反芻動物の定常領域の一部を、本明細書に記載される組換え抗体中に組み入れることができる。例えば実施例9は、対応するウシ配列と構造類似性を共有する他の反芻動物種のCH1ヒンジ領域配列を示す。特定の実施形態において、これらの構造的に類似した配列は、ウサギIgG1定常領域に由来する。
【0128】
幾つかの実施形態において、ウシ化抗体は、抗体エフェクター活性および/またはFcRn結合活性を上昇または低下させるヒンジまたはFc領域中の1つまたは複数の追加的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸置換)を含む。
【0129】
特定のアミノ酸置換としては、(a)増加もしくは減少された抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)を有する、(b)増加もしくは減少された補体介在性細胞毒性(CDC)を有する、(c)上昇もしくは低下されたClqへの親和性を有する、および/または(d)親Fcに比較してFc受容体への上昇もしくは低下された親和性を有する、Fc変異体を作製するものが挙げられる。
【0130】
以下の一節は、ヒトFc領域中の置換および位置に関係するが、当業者は、他の種のFc領域の均等な位置での対応する置換を容易に導入できる。
【0131】
幾つかの実施形態において、抗体のエフェクター機能(複数可)を改変するために少なくとも1つのアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置き換えることにより、Fc領域が改変され得る。例えば、抗体が、エフェクターリガンドに対して改変された親和性を有しながら親抗体の抗原結合能力を保持するように、アミノ酸残基234、235、236、237、297、318、320および322から選択される1つまたは複数のアミノ酸を、異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。それに対する親和性が改変されるエフェクターリガンドは、例えばFc受容体または補体のC1成分であり得る。例えば米国特許第5,624,821号および同第5,648,260号を参照されたい。
【0132】
別の例において、抗体が、改変されたC1q結合および/または低減もしくは消失された補体依存性細胞毒性(CDC)を有するように、アミノ酸残基329、331および322から選択される1つまたは複数のアミノ酸を、異なるアミノ酸残基で置き換えることができる。例えば、米国特許第6,194,551号を参照されたい。
【0133】
別の例において、アミノ酸位置231および239の内の1つまたは複数のアミノ酸残基を改変して、それにより補体を固定する抗体の能力を改変する。例えば、PCT公開WO94/29351を参照されたい。
【0134】
さらに別の例において、Fc領域は、以下の位置の1つまたは複数のアミノ酸を修飾することにより、抗体依存性細胞毒性(ADCC)を増加させるように、および/またはFcγ受容体への親和性を上昇させるように、修飾され得る:234、235、236、238、239、240、241、243、244、245、247、248、249、252、254、255、256、258、262、263、264、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、298、299、301、303、305、307、309、312、313、315、320、322、324、325、326、327、329、330、331、332、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、433、434、435、436、437、438または439。例示的な置換としては、236A、239D、239E、268D、267E、268E、268F、324T、332D、および332Eが挙げられる。例示的変異体としては、239D/332E、236A/332E、236A/239D/332E、268F/324T、267E/268F、267E/324T、および267E/268F/324Tが挙げられる。FcyRおよび補体の相互作用を増強するための他の修飾としては、置換298A、333A、334A、326A、247I、339D、339Q、280H、290S、298D、298V、243L、292P、300L、396L、305I、および396Lが挙げられるが、これらに限定されない。これらのおよび他の修飾は、Strohl,2009,Current Opinion in Biotechnology 20:685-691に論評されている。
【0135】
Fcγ受容体への結合を増強するFc修飾としては、Fc領域のアミノ酸位置238、239、248、249、252、254、255、256、258、265、267、268、269、270、272、279、280、283、285、298、289、290、292、293、294、295、296、298、301、303、305、307、312、315、324、327、329、330、335、337、3338、340、360、373、376、379、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438または439の任意の1つまたは複数でのアミノ酸修飾が挙げられる(Fc領域における残基のナンバリングは、カバットと同様にEUインデックスのものである)(WO00/42072)。
【0136】
Fcsに作製され得る他のFc修飾は、FcγRおよび/または補体タンパク質への結合を低減または除去し、それによりADCC、ADCP、およびCDCなどのFc介在性エフェクター機能を低減または除去するためのものである。例示的修飾としては、位置234、235、236、237、267、269、325、および328での置換、挿入、および欠失が挙げられるが、これらに限定されない(ナンバリングはEUインデックスに従う)。例示的置換としては、234G、235G、236R、237K、267R、269R、325L、および328Rが挙げられるが、これらに限定されない(ナンバリングはEUインデックスに従う)。Fc変異体は、236R/328Rを含み得る。FcyRおよび補体の相互作用を低減するための他の修飾としては、置換297A、234A、235A、237A、318A、228P、236E、268Q、309L、330S、331 S、220S、226S、229S、238S、233P、および234V、ならびに突然変異的もしくは酵素的手段による、またはタンパク質をグリコシル化しない細菌などの生物体中での産生による、位置297でのグリコシル化の除去が挙げられる。例えば、Strohl,2009,Current Opinion in Biotechnology 20:685-691を参照されたい。
【0137】
場合によりFc領域は、当業者に公知の追加的および/または代替的位置に非天然由来アミノ酸残基を含み得る(例えば、米国特許第5,624,821号;同第6,277,375号;同第6,737,056号;同第6,194,551号;同第7,317,091号;同第8,101,720号;PCT特許公開 WO00/42072;WO01/58957;WO02/06919;WO04/016750;WO04/029207;WO04/035752;WO04/074455;WO04/099249;WO04/063351;WO05/070963;WO05/040217;WO05/092925およびWO06/020114参照)。
【0138】
阻害性受容体FcyR11bへの親和性を増強するFc変異体もまた、用いられ得る。そのような変異体は、例えばB細胞および単球を含むFcyR11b細胞に関連する免疫調整活性を有するFc融合タンパク質を提供し得る。一実施形態において、Fc変異体は、1つまたは複数の活性化受容体に比較して選択的に増強されたFcyR11bへの親和性を提供する。FcyR11bへの結合を改変するための修飾としては、EUインデックスによる234、235、236、237、239、266、267、268、325、326、327、328、および332からなる群から選択される位置での1つまたは複数の修飾が挙げられる。FcyR11b親和性を増強するための例示的置換としては、234D、234E、234F、234W、235D、235F、235R、235Y、236D、236N、237D、237N、239D、239E、266M、267D、267E、268D、268E、327D、327E、328F、328W、328Y、および332Eが挙げられるが、これらに限定されない。例示的置換としては、235Y、236D、239D、266M、267E、268D、268E、328F、328W、および328Yが挙げられる。FcyR11bへの結合を増強する他のFc変異体としては、235Y/267E、236D/267E、239D/268D、239D/267E、267E/268D、267E/268E、および267E/328Fが挙げられる。
【0139】
幾つかの実施形態において、ヒンジはウシ化ヒンジであり、かつ実施例10に記載されるアミノ酸置換の1つまたは複数を含む。
【0140】
加えて、B細胞悪性腫瘍および乳癌のモデルにおいてヒトFcyRIIIaを発現するトランスジェニックマウスでFcyRIIIaへの増強された結合および同時に増強されたADCC活性を示した、L235V、F243L、R292P、Y300LおよびP396L突然変異を含むIgG1突然変異体が、同定された(Stavenhagen et al.,2007;Nordstrom et al.,2011)。他のFc突然変異体としては、S298A/E333A/L334A、S239D/I332E、S239D/I332E/A330L、L235V/F243L/R292P/Y300L/ P396L、およびM428L/N434Sが挙げられる。
【0141】
スタフィロコッカス・アウレウス由来のプロテインAへの親和性を増強するFc変異体もまた、用いられ得る。過去の研究(米国特許出願公開第US20140154270A1号)は、反芻動物種からのIgGが製造に典型的に用いられる条件下で、非常に低い親和性でプロテインAに結合することを示した。ウシ配列の変異体は、生物学的治療薬の製造に一般に用いられる方法によって精製され得るFc融合タンパク質を提供し得る。幾つかの実施形態において、抗体は、位置250~255、288、307~317、または430~436にて、高い親和性でプロテインAを結合することが知られるIgG分子に見出されるアミノ酸に変更され得る。これらの実施形態の一部において、置換は、ヒトFcRnへの弱い結合を保持しながら、プロテインA結合を増強するように選択され得る。メカニズムに結びつけるものではないが、これらの置換は、抗体が消化器官から全身循環系へ輸送されるのを防ぐ。したがって特定の実施形態において、Fcドメインは、以下の置換:T252M、G255R、Q309L、T314L、およびG315Nの1つまたは複数(即ち、1、2、3、4、または5個)を含む。一実施形態において、Fcドメインは、T252M/G255R置換を含む。別の実施形態において、Fcドメインは、Q309L/T314L/G315N置換を含む。さらに別の実施形態において、Fcドメインは、T252M/G255R/Q309L/T314L/G315N置換を含む。
【0142】
一実施形態において、親抗体は、ウシIgG1(S22080): DKAVDPRCKPSPCDCCPPPELPGGP(SEQ ID NO:4)のアミノ酸配列を含むヒンジ領域の同等部分と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるヒンジ領域を含む、または含むように改変される。別の実施形態において、親抗体は、以下の表2のヒンジ領域アミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含むヒンジ領域の同等部分と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるヒンジ領域を含む、または含むように改変される。
【表2】
【0143】
一実施形態において、組換え抗体は、反芻動物抗体ヒンジ領域の同等部分(例えば、ウシIgG1ヒンジ領域)のアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であるヒンジ領域の全てまたは一部を含み、場合により反芻動物抗体の同等部分(例えば、ウシIgG1ヒンジ領域)のアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%同一であるCH1ドメインの全てまたは一部を含み、さらに場合により反芻動物抗体の同等部分(例えば、ウシIgG1ヒンジ領域)のアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%同一であるCH1ドメインの全てまたは一部を含む。例示的ウシヒンジ領域を、表3に表す。
【表3】
【0144】
一実施形態において、親抗体は、ヒンジ領域を含むか、または含むように改変されており、CH1ドメインは、ウシCH1ドメインアミノ酸配列の同等部分(例えば、ウシIgG1 CH1ドメイン)と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である。例示的ウシIgG1 CH1ドメインを、表4に表す。
【表4】
【0145】
一実施形態において、親抗体は、ヒンジ領域を含むか、または含むように改変されており、CH2ドメインは、ウシCH2ドメインアミノ酸配列の同等部分(例えば、ウシIgG1 CH2ドメイン)と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である。例示的ウシIgG1 CH2ドメインを、表5に表す。
【表5】
【0146】
一実施形態において、親抗体は、ヒンジ領域を含むか、または含むように改変されており、CH3ドメインは、ウシCH3ドメインアミノ酸配列の同等部分(例えば、ウシIgG1 CH3ドメイン)と少なくとも85%、少なくとも90%など、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である。例示的ウシIgG1 CH3ドメインを、表6に表す。
【表6】
【0147】
幾つかの実施形態において、親抗体は、所望の抗原への特異的結合を有するVLドメインとウシCLドメインの間の融合を含むか、または含むように改変されている。好ましい実施形態において、親抗体は、ウシIGLC1、IGLC2、IGLC3またはIGLC4遺伝子座からのコードされたタンパク質に対応するCLドメインを含む。
【0148】
一実施形態において、組換え抗体は、消化に耐えて消化管中の標的抗原に到達することができる。別の実施形態において、組換え抗体は、プロテアーゼによる切断に対する抵抗性を上昇させヒト消化の間など、哺乳動物の消化管での消化の間の分解に抵抗するように修飾された、本明細書に記載された通りウシ化された治療抗体または既存の治療抗体の変異体である。
【0149】
一実施形態において、組換え親抗体は、標的抗原に特異的である。幾つかの実施形態において、標的抗原は、本明細書にさらに記載される抗原などの生物学的抗原(例えば、ヒトタンパク質、ヒトペプチド、またはヒトに特異的な他の抗原性分子)である。別の実施形態において、標的抗原は、染色剤などの合成抗原ではない。一実施形態において、抗体は、抗ダンシル抗体ではない。一実施形態において、組換え親抗体は、標的抗原による反芻動物の免疫化の非存在下で反芻動物中に通常存在しない抗原を標的とする。一実施形態において、組換え親抗体は、別の哺乳動物に由来するタンパク質、ペプチド、または他の抗原性分子である標的抗原に特異的である。
【0150】
特定の実施形態において、標的抗原は、治療性標的抗原であり、ウシ化抗体は、対象に投与されると、対象への治療的影響を促進する。
【0151】
表7は、本明細書に記載されるウシ化抗体の産生のための親抗体として適する様々な治療性融合タンパク質の部分的リストを提供する。
【表7】
【0152】
表8は、本発明によるウシ化のための適切な親抗体である融合タンパク質の非限定的リストを提供する。
【表8】
【0153】
ウシ化抗体は、標準の組換え技術を用いて調製され得る。例えば目的の標的タンパク質の特異的結合部位を含む抗体断片が、公知の技術で作製され得る。例えば、そのような断片は、抗体分子のペプシン消化により生成され得るF(ab’)断片、およびF(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することにより作製され得るFab断片を含むが、これらに限定されない。あるいはFab発現ライブラリーは、目的の標的タンパク質に対し所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の急速かつ容易な同定を可能にするように構築され得る(Huse et al.,Science 1989;246:1275-81)。
【0154】
本明細書でまた提供されるのは、参照抗体(例えば、治療抗体)として目的の標的上の同じエピトープに結合する、または目的の標的への結合について参照抗体と競合する、抗体(ウシ化抗体および完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体)である。特定の抗体が、参照抗体として標的抗原上で同じエピトープに結合するか、または参照抗体として標的抗原上で同じエピトープへの結合と競合するかどうかは、それぞれ当該技術分野で認められたエピトープマッピングおよび競合アッセイを用いて、当業者により容易に決定され得る。
【0155】
本明細書に記載されたる抗体(ウシ化抗体および完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体)を用いて、二重特異性分子を作製できる。例えば抗体は、当該技術分野で公知の方法を用いて、別の機能的分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば、別の抗体または受容体のリガンド)に誘導体化または連結されて、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を作製できる。
【0156】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、治療性部分、例えば細胞毒素、薬物、または放射性同位体にコンジュゲートされた、本明細書に記載の抗体(ウシ化抗体および完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体)を含む免疫コンジュゲートである。例示的な細胞毒素としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミスラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにその類似体または相同体が挙げられる。
【0157】
イムノコンジュゲートを形成する適切な治療薬としては、例えばアルキル化剤(例えば、メクロールエタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、ならびにシス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、代謝拮抗薬(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン(decarbazine))、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、および抗有糸分裂剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。
【0158】
本明細書に記載される抗体(ウシ化抗体および完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体)は、放射性同位体、例えばヨウ素-131、イットリウム-90またはインジウム-111にコンジュゲートされて、癌を処置するための細胞毒性放射性医薬品を作製できる。本発明の抗体コンジュゲートを用いて、所与の生体応答を修飾でき、薬物部分は、従来の化学的治療薬に限定されると解釈されない。例えば薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであり得る。そのようなタンパク質としては、例えば、酵素的に活性な毒素、またはその活性断片、例えばアブリン、リシンA、緑膿菌外毒素、もしくはジフテリア毒素;タンパク質、例えば腫瘍壊死因子もしくはインターフェロン-γ;または生体応答調節剤、例えばリンフォカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、もしくは他の成長刺激因子を挙げることができる。治療性部分を抗体にコンジュゲートするための方法は、当該技術分野で周知である。
【0159】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、全身投与される。好ましい実施形態において、抗体は、処置される対象において免疫原性ではない。そのような抗体は、例えば当該技術分野で認められたアルゴリズムおよびデータベースを用いる評定で、T細胞エピトープに対する予測されたリスクの増加を回避するように設計され得る(例えば、Vita et al.,Nucleic Acids Res 2015;43:D405-12;Vita et al.,Nucleic Acids Res 38:D854-62,Nielsen et al.,Protein Sci 2003;12:1007-17;Bui et al.,Immunogenetics 2005;57:304-14;Lundegaard et al.,J Immunol Methods 2011;374:226-34参照)。特定の実施形態において、例えば、米国特許第8,871,204号、カナダ特許第2,822,366号、および米国特許出願公開第2013/0011386号に記載された通り、突然変異を本明細書に記載される抗体のFc領域中に作製して、宿主のプロテアーゼに対する抵抗性を上昇させる。
【0160】
完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体
本明細書でまた提供されるのは、完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体および関連する経口組成物である。そのような抗体は、実施例11に記載された方法を用いて、畜牛(子牛もしくは成熟した雌牛、去勢牛、または雄牛)を目的の抗原で免疫付与することにより作製され得る。特定の実施形態において、畜牛は、目的の抗原をコードするDNAで免疫付与される。動物を遺伝子ワクチン(例えば、DNAワクチン)で免疫付与するための一般的方法は、当該技術分野で公知である(例えば、米国特許第8,927,508号、WO2003/012117、WO2003/048371、WO1997/040839参照)。
【0161】
特定の実施形態において、畜牛(ホルスタイン種)は、アジュバントと共に配合された目的の抗原を注射される(例えば、皮下へ)。任意の当該技術分野で認められたアジュバントを用いることができる。適切なアジュバントとしては、Emulsigen-D、Carbigen、Quil A、およびSeppic ISAが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、アジュバントは、Quil Aである。
【0162】
幾つかの実施形態において、畜牛は、特異的免疫応答を誘導するために、抗原を1、2、3、4、5もしくは6回、またはより多く接種される。幾つかの実施形態において、接種は、1、2、3、4、または5週間間隔で実施され得る。一実施形態において、畜牛は、2~3週間間隔で4回接種される。
【0163】
一実施形態において、免疫付与のための抗原は、標的の表面リンパ節(リンパ球を採取するための標的)が流入するエリアに注射される。
【0164】
幾つかの実施形態において、畜牛は、次のハイブリドーマ産生のための標的リンパ節の摘出の1、2、3、4、または5日前に免疫付与される。
【0165】
免疫付与で用いられる標的抗原の最適濃度は、当業者により容易に決定され得る。
【0166】
好ましい実施形態において、抗原は、Quil Aアジュバントと共に配合されるTNFαである。
【0167】
ハイブリドーマ細胞を形成するために、リンパ節(または脾臓)を免疫付与された畜牛から採取したら、リンパ球を単離して適切な融合剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)を用いて免疫化細胞株と融合する(例えば、Goding(1986) Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,pp.59-103参照)。ハイブリドーマを作製するための他の適切な方法は、例えば米国特許第5,026,646号、米国特許第5,087,693号、Tuckerら(Hybridoma 1984;3:171-6)、Kennedyら(Journal of General Virology 1988;69:3023-32)、Srikumaranら(Veterinary Immunology and Immunopathology 1984;5:323-42)、Raybouldら(American Journal of Veterinary Research 1985;46:426-7)、およびLevingsら(Veterinary Immunology and Immunopathology 2014;159:58-73)に記載されている。
【0168】
不死化細胞株は、形質転換された哺乳動物細胞、特にげっ歯類、ウシ、およびヒト起源の骨髄腫細胞であり得る。ラットまたはマウス骨髄腫細胞株を用いることができる。ハイブリドーマ細胞は、非融合の不死化細胞の成長または生存を阻害する1種または複数の物質を好ましくは含む適切な培地中で培養される。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマのための培地は、HGPRT欠損細胞の成長を予防するヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを典型的に含むであろう(「HAT培地」)。
【0169】
使用に適した不死化細胞株は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベル発現を支持し、かつHAT培地などの培地に対し感受性であるものである。好ましい不死化細胞株はネズミ骨髄腫細胞株であり、これは例えばカリフォルニア州サンディエゴ所在のSalk Institute Cell Distribution Center、およびバージニア州マナサス所在のAmerican Type Culture Collectionから得られる。
【0170】
ハイブリドーマ細胞が培養される培地を、その後、目的の標的(例えば、TNF)に対するモノクローナル抗体の存在についてアッセイできる。ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降法またはインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素免疫測定法(ELISA)により決定され得る。そのような技術およびアッセイは、当該技術分野で周知である。モノクローナル抗体の結合親和性は、スキャッチャード解析およびBiacore表面プラスモン共鳴アッセイなどの、当該技術分野で認められたアッセイを用いることにより決定され得る。
【0171】
所望のハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によりサブクローニングし標準法により生育できる。適切な培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地およびRPMI-1640培地が挙げられる。あるいはハイブリドーマ細胞を、インビボで哺乳動物の腹水として生育できる。
【0172】
特定の実施形態において、ハイブリドーマ細胞を、標的特異的モノクローナルIgG1抗体の分泌についてスクリーニングする。抗体アイソタイプを、当該技術分野で公知の標準的シークエンシング手順を用いて決定できる。
【0173】
サブクローンにより分泌された完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体を、従来の免疫グロブリン精製手順、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーにより培地または腹水から単離または精製できる。
【0174】
ハイブリドーマ培養物または腹水から精製されるモノクローナル抗体はまた、当該技術分野で公知の標準的組換えDNAを用いて作製できる。ウシモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、ネズミ抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離およびシークエンシングできる。本発明のハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として働く。単離したら、DNAを発現ベクター中に配置し、これをその後、他の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しないサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクトして、組換え宿主細胞中でのモノクローナル抗体の合成を得ることができる。他の適切な宿主細胞としては、心筋細胞(アスペルギルス)、昆虫細胞、酵母細胞、細菌細胞、および他の当該技術分野で認められた宿主細胞が挙げられる。
【0175】
特定の実施形態において、完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体は、実施例14に記載された通り、当該技術分野で認められた単一B細胞シークエンシングおよびクローニング法を通して作製される。例えば、全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2011/0312505号、米国特許出願公開第2012/030855号、Murugan et al.,Eur J Immunol 2015;45:2698;700、Liao et al.,J Virol Methods 2009;158:171-9、Busse et al.,Eur J Immunol 2014;44:597-603を参照されたい。
【0176】
一実施形態において、完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体は、防腐剤とともに配合される。別の実施形態において、完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体は、凍結乾燥される。
【0177】
核酸分子
本明細書でまた提供されるのは、本明細書に記載されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体をコードする核酸分子である。プロテアーゼに対し上昇された抵抗性を有する抗体が同定されたら、コードする核酸配列を、当該技術分野で認められた技術を用いて同定および単離できる。
【0178】
核酸は、全細胞(例えば、ハイブリドーマ、腹水、安定した細胞株)中に、細胞溶解物中に、または部分的精製形態もしくは実質的に純粋な形態で存在し得る。核酸は、アルカリ/SDS処置、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、制限酵素、アガロースゲル電気泳動および当該技術分野で周知の他の技術を含む標準的技術により、他の細胞成分または他の混入物、例えば他の細胞内核酸(例えば、他の染色体DNA,例えば本来は単離されるDNAに連結される染色体DNA)またはタンパク質から精製されると、「単離される」、または「実質的に純粋になる」。F.Ausubel,et al.,ed.(1987) Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New Yorkを参照されたい。本明細書に記載される核酸は、例えば、DNAまたはRNAであり得、イントロン配列を含む場合、または含まない場合がある。特定の実施形態において、核酸は、cDNA分子である。
【0179】
本明細書に記載される核酸は、標準の分子生物学的技術を用いて得ることができる。ハイブリドーマにより発現される抗体については、ハイブリドーマにより作製された抗体の軽鎖および重鎖をコードするcDNAを、標準のPCR増幅またはcDNAクローニング技術により得ることができる。
【0180】
VHおよびVL区分をコードするDNA断片が得られたら、これらのDNA断片を標準の組換えDNA技術によってさらに操作して、例えば可変領域遺伝子を、全長抗体鎖遺伝子に、Fab断片遺伝子に、またはscFv遺伝子に変換できる。これらの操作において、VL-またはVH-コードDNA断片は、抗体定常領域またはフレキシブルリンカーなどの別のタンパク質をコードする別のDNA断片に動作可能に連結される。この文脈で用いられる用語「動作可能に連結される」は、2つのDNA断片によってコードされるアミノ酸配列がインフレームのままであるように、2つのDNA断片が接続されることを意味すると意図される。
【0181】
VH領域またはVL鎖をコードする単離されたDNAは、VHコードDNAまたはVLコードDNAを、重鎖または軽鎖定常領域をコードする別のDNA分子に動作可能に連結することにより、全長重鎖または軽鎖遺伝子に変換され得る。これらの領域のヌクレオチド配列は、当該技術分野で公知であり、これらの領域を包含するDNA断片は、標準のPCR増幅により得ることができる。また提供されるのは、例えばコドン最適化のための、保存的置換(即ち、核酸分子の翻訳の際に得られるアミノ酸配列を変更しない置換)を有する核酸分子である。
【0182】
生産方法
本明細書でまた提供されるのは、本明細書に記載されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗体を生産するための宿主細胞発現系である。そのような宿主細胞発現系は、抗体鎖遺伝子の転写または翻訳を制御するプロモーター、エンハンサー、および他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含む、当該技術分野で認められた調節配列に動作可能に連結された、本明細書に記載されるウシ化抗体またはウシモノクローナル抗体をコードする組換え核酸分子を含むように設計され得る。例示的な調節配列は、例えばGoeddel(Gene Expression Technology. Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990))に記載される。調節配列の選択を含む発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存し得ることは、当業者に認識されよう。哺乳動物宿主細胞発現に好ましい調節配列は、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルスの主要後期プロモーター(AdMLP))およびポリオーマに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサーなど、哺乳動物細胞中で高レベルのタンパク質発現を誘導するウイルスエレメントを含む。あるいは、ユビキチンプロモーターまたはβ-グロビンプロモーターなどの、非ウイルス調節配列を用いることができる。さらに、ヒトT細胞白血病ウイルス1型のSV40初期プロモーターおよびロングターミナルリピートからの配列を含む、SRαプロモーターシステムなどの、異なる供給源からの配列で構成される調節エレメント(Takebe,Y.et al.(1988) Mol.Cell.Biol.8:466-472)。
【0183】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞中でベクターの複製を調節する追加の配列(例えば、複製起点)および選択マーカー遺伝子を含み得る。選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にし(例えば、全てがAxelらによる、米国特許第4,399,216号、同第4,634,665号および同第5,179,017号参照)、かつ安定な細胞株(後の使用のために貯蔵され得る)の樹立を可能にする。典型的には選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物への耐性を付与する。好ましい選択マーカー遺伝子としては、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅によるdhfr-宿主細胞での使用のため)およびneo遺伝子(G418選択のため)が挙げられる。
【0184】
抗体の重鎖および軽鎖を発現するために、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクター(複数可)が、当該技術分野で認められた技術を用いて宿主細胞中にトランスフェクトされる。本明細書で用いられるトランスフェクションは、原核生物または真核生物の宿主細胞中への外因性DNAの導入に一般に用いられる非常に多様な技術、例えば電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクションなどを包含すると意図される。原核生物または真核生物のいずれかの宿主細胞において抗体を発現することが可能であるが、真核生物細胞、最も好ましくは哺乳動物宿主細胞での抗体の発現が、最も好ましく、なぜならそのような真核生物細胞、特に哺乳動物細胞は、正しく折りたたまれ免疫学的に活性な抗体を組み立て分泌する可能性が原核生物細胞よりも高いためである。
【0185】
一般に、非限定的にCHO細胞(例えば、DHFR選択マーカーと共に用いられるdhfr-CHO細胞)、BHK細胞、NSO骨髄腫細胞、COS細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞もしくはハイブリドーマ細胞、酵母細胞(例えば、ピキア・パストリス、S.セレビシエ)、細菌細胞(例えば、大腸菌)、真菌細胞(例えば、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ニガー変種アワモリ)、昆虫細胞(SF9、SF21、High Five(商標))、または植物細胞(例えば、タバコ)を含む任意のタイプの培養細胞株を、本発明の宿主細胞株を設計するためのバックグランドとして用いることができる。特定の実施形態において、組換えにより生成された抗体をグリコシル化できる宿主細胞系が用いられる。さらなる実施形態において、これらの宿主細胞は、抗体の大規模生産に用いられる。抗体の大規模生産のための方法はまた、例えばアスペルギルス(Ward et al.,Appl Environ Microb 2004;70:2567-576)、酵母(例えば、ピキア・パストリス、S.セレビシエ)、哺乳動物細胞(Sinacore et al.,Biotechnol Bioeng 1996;52:518-28;Li et al.mAbs 2010;2:466-77;Wurm et al.,Nat Biotechnol 2004;22:1393-8;Birch et al.,Adv Drug Delivery Rev 2006;58:671-85;Jayapal et al.,Chem Eng Prog 2007;103:40-7;Mammalian Cell Culture fwor biopharmacuetical Production.Chapter 12 of Manual of Industrial Microbiology and Biotechnology,3rd Edition.pp.157-178(2010))、および昆虫細胞(Liang et al.,J Immunol Methods 2001;247;119-30;Tan and Lam,Biotechnol Appl Biochem 1999;30:59-64;米国特許第7,795,015号)中でなど、当該技術分野で公知である(そして実施例19に記載される)。特定の実施形態において、例えば経口投与の場合など、抗体の純度が絶対に必須でない場合、真菌細胞(例えば、アスペルギルス種)が、抗体の迅速なグラム規模の生産に適する。
【0186】
安定な発現はより再現性のある結果を典型的に実現し、かつ大規模生産をより行い易いため、本明細書に記載される抗体を生産する方法では、安定な発現が一過性発現よりも一般に好ましい。ウイルス性の複製起点を含む発現ベクターを用いるよりもむしろ、宿主細胞を、適当な発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)、および選択マーカーにより制御された、それぞれのコード核酸で形質転換できる。外来DNAの導入に続いて、設計された細胞を濃縮培地中で1~2日間生育させ、その後、選択培地に切り替えることができる。組換えプラスミド中の選択マーカーは、選択に対する抵抗性を付与し、プラスミドをそれらの染色体に安定に組み込み、生育して順次クローニングされて細胞株へと拡大し得る細胞増殖巣を形成する、細胞の選択を可能にする。
【0187】
抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターが哺乳動物宿主細胞中に導入されると、宿主細胞中での抗体の発現を、またはより好ましくは宿主細胞が生育される培地中への抗体の分泌を可能にするのに十分な時間、宿主細胞を培養することにより、抗体が生産される。抗体は、標準のタンパク質精製法を用いて培地から回収され得る。
【0188】
組成物
本明細書で提供されるのは、本明細書に記載されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗体を含む組成物(例えば、経口医薬組成物)である。
【0189】
本明細書に記載される医薬組成物は、場合により1種または複数の医薬的に許容できる担体または賦形剤が共に配合される、治療有効量のウシ化および/または完全にウシの組換えモノクローナル抗体を含む。
【0190】
したがって幾つかの実施形態において、本明細書で提供されるのは、ウシ化および/または完全にウシの組換えモノクローナル抗体、および場合により担体(例えば、医薬的に許容できる担体および/または防腐剤)を含む、または本質的にそれらからなる医薬組成物である。他の実施形態において、組成物は、他の(即ち、非ウシIgG1またはウシ化)抗体を実質的に含まない、例えば少なくとも90%、95%、または99%含まない。特定の実施形態において、医薬組成物は、経口投与用に配合される。
【0191】
口腔の障害を処置するために、組成物は、洗口液、リンス、ペースト、ゲル、または他の適切な配合剤中で送達され得る。本明細書に記載される抗体は、口腔パッチ、口腔テープ、粘膜付着性フィルム、舌下錠、ロゼンジ、ウエハース、チュワブル錠、急速もしくは即時溶解錠、発泡錠、または口腔もしくは舌下固形剤など、活性抗体と粘膜表面との接触を増大するように設計された配合剤を用いて送達され得る。消化管の障害を処置するために、抗体は、薬物を消化管へ導入するように設計されたカプセル、錠剤、液体配合剤または類似の形態で、経口摂取により送達され得る。あるいは抗体は、より下部の消化管への送達のために、坐剤または浣腸により投与され得る。そのような配合剤は、当業者に周知である。特定の実施形態において、抗体は、ヒドロラーゼ阻害剤、抗生物質、および/またはプロテアーゼインヒビターの前に、および/またはそれと同時に投与される。
【0192】
本明細書で用いられる用語「医薬的に許容できる担体または賦形剤」は、任意のタイプの非毒で不活性の固形、半固形、または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または配合助剤を意味する。医薬的に許容できる担体として働き得る材料の幾つかの例は、水、滅菌水;ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオ脂および坐剤ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張生理食塩水;リンガー液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液、ならびにラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性の適合性滑沢剤、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、防腐剤および抗酸化剤もまた、配合者の判断に応じて組成物中に存在し得る。
【0193】
医薬組成物はまた、医薬的に許容できる抗酸化剤を含み得る。医薬的に許容できる抗酸化剤の例としては、(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなどの脂溶性抗酸化剤;および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が挙げられる。
【0194】
経口投与用の液体投与剤形としては、医薬的に許容できるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシルが挙げられる。液体投与剤形は、活性化合物に加えて、例えば水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤などの当該技術分野で一般に用いられる不活性希釈剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(詳細には、綿実油、ピーナッツ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物を含有し得る。経口組成物はまた、不活性希釈剤の他に、湿潤剤、乳化および懸濁剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などのアジュバントを含み得る。
【0195】
直腸投与用の組成物は好ましくは、本発明の化合物を、周囲温度では固体であるが体温では液体でありそれゆえ直腸または膣腔中で溶解して活性化合物を放出する適切な非刺激性の賦形剤または担体、例えばカカオ脂、ポリエチレングリコールまたは坐剤ワックスと混合することにより調製され得る坐剤である。一実施形態において、直腸投与用の組成物は、浣腸の形態である。
【0196】
経口投与用の固体投与剤型としては、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、および顆粒が挙げられる。そのような固体投与形態においては、活性化合物は、少なくとも1種の不活性で薬学的に許容できる賦形剤または担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、ならびに/またはa)充填剤もしくは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸、b)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアラビアゴム、c)保湿剤、例えばグリセロール、d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、e)溶解遅延剤、例えばパラフィン、f)吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物、g)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール、h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイトクレイ、ならびにi)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物と混合される。カプセル、錠剤、および丸薬の場合、投与剤形はまた、緩衝剤を含み得る。類似のタイプの固体組成物を、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を用いて、ソフト充填およびハード充填ゼラチンカプセル中の充填材として使用することもできる。
【0197】
本明細書に記載される抗体は、腸内分解に対する増強された安定性を示すが、腸内分解に対するさらなるレベルの保護を提供することが、幾つかの条件下で望ましい場合がある。これが望ましい場合、腸溶性コーティングに関して多くの選択肢がある(例えば、米国特許第4,330,338号および同第4,518,433号参照)。一実施形態において、腸溶性コーティングは、pHの腸管後変化(post-intestinal change)を利用してフィルムコーティングを溶解し有効成分を放出する。コーティングおよび配合剤は、タンパク質治療薬を小腸に送達するよう開発され、これらのアプローチは、本発明の抗体の送達に適合され得る。例えばインスリンの腸溶性コーティング形態が、経口送達用に開発された(Toorisaka et al.,J Control Release 2005;107:91-6)。腸溶性コーティングのさらなる選択肢は、例えば米国特許第5,225,202号および同6,306,900号、ならびに米国特許出願公開第2008/0020041号に記載される。加えて、錠剤、糖衣錠、カプセル、丸薬、および顆粒の固体投与剤型を、医薬配合の技術分野で周知の他のコーティングおよびシェルと共に調製できる。それらは場合により、不透明化剤を含有することがあり、かつ有効成分(複数可)を腸管の特定部分のみで、または優先的にそこで、場合により遅延的様式で、放出する組成物のものでもあり得る。用いられ得る埋入組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。好ましい実施形態において、抗体は、液体懸濁物として送達される腸溶性コーティングされた微粒子中に配合される。別の好ましい実施形態において、抗体は、カプセルとして送達される腸溶性コーティングされた微粒子中に配合される。
【0198】
本明細書に記載される組成物(例えば、経口医薬組成物)はまた、湿潤剤、乳化剤および分散剤を含有し得る。微生物の存在の予防が、上述の滅菌手順、ならびに様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの含有の両方により確実になり得る。砂糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが、望ましい場合もある。
【0199】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体を含む医薬組成物はまた、防腐剤を含む。
【0200】
有効用量は、投与経路ならびに、他の薬剤の同時使用の可能性に応じて変動するであろう。しかし本発明の化合物および組成物の1日の総使用量が、健全な医学的判断の範囲内で担当の医師により決定されることは、理解されよう。任意の個々の患者に対する特異的治療有効用量レベルは、処置される障害および障害の重症度;用いられる特異的化合物の活性;用いられる特異的組成物;患者の年齢、体重、一般的健康状態、性別および食事;用いられる特異的化合物の投与時間、投与経路および排泄速度;食物摂取に関する化合物の送達のタイミング;処置の期間;用いられる特異的化合物と組み合わせて、または同時に用いられる薬物;ならびに医薬業界で周知の類似因子を含む多種の因子に依存するであろう。
【0201】
本発明の特定の実施形態は、本発明の抗体を含む医薬組成物を、約1mg/日~約1g/日、より好ましくは約10mg/日~約500mg/日、最も好ましくは約20mg/日~約100mg/日の投与量で対象に投与することを含む。一実施形態において、ポリクローナル抗体調製物が、約100mg/日~約50g/日、より好ましくは約500mg/日~約10g/日、最も好ましくは約1g/日~約5g/日の投与量で対象に投与され、ここでポリクローナル抗体調製物は、標的抗原に特異的な抗体が濃縮されていない。
【0202】
処置レジメンは、本発明の抗体組成物を1日1回、1日2回、または1日3回以上投与して、本明細書に開示される医療障害を処置することを含む。一実施形態において、本発明の抗体組成物は、1日4回、1日6回、または1日8回以上投与されて、本明細書に開示される医療障害を処置する。一実施形態において、本発明の抗体組成物は、週1回、週2回、または週3回以上投与されて、本明細書に開示される医療障害を処置する。
【0203】
本発明の方法および組成物は、患者を苦しめる病気を処置するのに有用な1種または複数の追加的治療薬と組み合わせた、本発明の抗体の使用を含む。そのような薬剤の例としては、タンパク質性および非タンパク質性の両方の薬物が挙げられる。複数の治療薬が共投与される場合、投与量は、適切な技術分野で認識される通り、相応に調製され得る。「共投与」および「併用療法」は、同時投与に限定されず、少なくとも1種の他の治療薬を患者に投与することを含む処置の過程で本発明の抗体が少なくとも1回投与される処置レジメンも包含する。
【0204】
インビボ投与に用いられる抗体は、滅菌されなければならない。これは、凍結乾燥および再構成の前または後に、滅菌ろ過膜でのろ過により容易に成就される。配合剤は通常、凍結乾燥形態で、噴霧乾燥粒子として、または溶液で貯蔵されよう。
【0205】
使用方法
消化管は局所適用された抗体を分解および消化するため、消化管への抗体の局所投与は難題である。口腔中の酵素は、主に口腔内で生存する共生菌および病原菌に由来し、口腔中で抗体を分解する。胃の中では、低pHおよびプロテアーゼのペプシンが、摂取された免疫グロブリンを分解する。小腸では、とりわけ酵素トリプシンおよびキモトリプシンが、摂取された抗体を分解する。大腸では、細菌に由来するプロテアーゼが、摂取された抗体を分解する。口腔での改善された安定性ならびに胃および腸内消化に対する改善された安定性を有する抗体(例えば、本明細書に記載されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗体)は、例えば、消化管を含む疾患(例えば、炎症性腸疾患)の処置において、数多くのインビボ適用を有する。
【0206】
本明細書に記載される抗体は、細菌、原虫、寄生虫、ウイルス、および真菌を含む微生物の制御のため、あるいはサイトカインもしくはケモカインに、またはサイトカインもしくはケモカインの受容体に特異的な抗体の使用を通した炎症の制御のために、米国特許第5,759,544号;同第4,689,221号;同第4,324,782号;同第4,693,888号;同第4,725,428号;同第6,143,330号;同第5,240,704号および同第5,352,446号に記載された通り、う歯の予防のために、および歯周疾患の処置または予防のために口腔中で用いられ得る。口腔中で使用されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗体は、口腔の頂端膜表面で発現される受容体もしくは他の抗原に対し、口腔の粘膜バリアの側底面で発現される受容体もしくは他の抗原に対し、または粘膜、粘膜下層、もしくは局所適用された抗体に接近し易い身体の任意の別の領域で発現される受容体もしくは他の抗原に対し、特異的であり得る。そのような抗体は、非限定的に粘膜炎、口腔の癌、ニコチン性口内炎、白板症、毛舌症、再発性アフタ性口内炎、地図状舌、義歯性口内炎、胃食道逆流、好酸球性食道炎、および扁平舌癬を含む、口腔感染または口腔疾患の処置に用いられ得る。抗体はまた、米国特許第7,175,430号に記載された通り、診断試薬として口腔に局所的に適用され得る。
【0207】
口腔中に存在するプロテアーゼの多くは、細菌起源のものである。一実施形態において、局所用抗生物質は、抗体の局所投与の前に口腔に投与される。別の実施形態において、プロテアーゼインヒビターは、抗体の局所投与の前、またはそれと同時に、口腔に投与される。口腔中の微小生物(microbes)もまた、抗体から炭水化物を除去しそれによりタンパク質分解に対する抗体の感受性をより高める、ヒドロラーゼを産生する。したがって一実施形態において、ヒドロラーゼ阻害剤が、抗体の局所投与の前、またはそれと同時に、口腔に投与される。抗生物質、プロテアーゼインヒビターおよびヒドロラーゼ阻害剤が、組み合わせて与えられ得る。
【0208】
本明細書に記載される抗体は、非限定的に、外傷、手術、放射線照射、感染または自己免疫疾患の結果としての胃腸管の細菌、ウイルスまたは寄生虫感染、胃腸管の癌、および胃腸管の炎症を含む疾患の処置または予防のためにGI管中で用いられ得る。
【0209】
本明細書に記載される抗体は、栄養受容体、栄養輸送体、パターン認識受容体、ケモカイン受容体、サイトカイン受容体、胆汁酸塩輸送体、無機イオン輸送体、ミネラル輸送体、ペプチダーゼ、サッカラーゼおよび成長因子受容体を含む消化管における頂端膜受容体(apical receptors)の調整に有用である。
【0210】
本明細書に記載される抗体は、セリアック病を含む食物アレルギーまたは不耐症の処置または予防に有用である。一実施形態において、抗体は、グルテンまたはグルテン由来ペプチドに特異的であり、セリアック病を処置するのに用いられる。
【0211】
本明細書に記載される抗体は、消化管の管腔中で発現される受容体、サイトカイン、ケモカイン、もしくは類似のメディエーターの機能を調整するのに、または局所適用された抗体を消化管に透過可能にする疾患もしくは状態の場合は、抗体に接近し易い粘膜バリアの下の身体部分で発現される受容体、サイトカイン、ケモカイン、もしくは類似のメディエーターの機能を調整するのに、有用である。本明細書に記載される抗体は、免疫不全の処置にも有用である。
【0212】
本明細書に記載される抗体は、消化管の外側で最小限の活性を有し、中和免疫応答の誘導を最小限にする。治療性組成物は、消化管の管腔表面に局所的に送達される抗体を含む。本明細書に記載される抗体は、例えば経口投与、直腸投与、および頬内、粘膜付着性フィルムなどの口腔への全投与形態により、消化管に局所投与され得る。抗体は、消化管の粘膜バリアを通過して粘膜下の空間に進入しそれらのターゲットと相互作用するが、臨床的に関連するのに十分なレベルで全身循環系に進入しない。
【0213】
特定の実施形態において、本明細書に記載される抗体は、疾患の病理または疾患の処置に関連する抗原に結合する。例えば、本明細書に記載される抗体組成物は、消化管の管腔表面上もしくは管腔付近で、および上皮の基底側などの粘膜バリアの下で発現される生物学的ターゲット、粘膜下で発現されるターゲット、側面の細胞間空間内で発現されるターゲット、および粘膜固有層で発現されるターゲットに向けられ得る。
【0214】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、予め存在する粘膜バリアへの損傷の結果として、患者の粘膜バリアを通過する。一実施形態において、消化管の粘膜バリアは、非限定的に、部分的な消化器官摘出、空腸瘻造設術、回腸瘻造設術、人工肛門形成術または他の外科的処置による歯および口の創傷、食道の創傷、または手術による外傷を含む、機械的外傷により破壊または損傷される場合がある。消化管の粘膜バリアはまた、虚血または再灌流障害により破壊される場合がある。消化管の粘膜バリアは、癌化学療法、癌放射線療法、または治療環境の外部での高線量放射線暴露により引き起こされた損傷によっても破壊され得る。消化管の粘膜バリアは、非限定的に、歯周病、アフタ性口内炎、消化管の細菌、ウイルス、真菌または寄生虫感染、消化性潰瘍、ストレスまたはH.ピロリ感染に関連する潰瘍、食道逆流により引き起こされる損傷、炎症性腸疾患、消化管の癌により引き起こされる損傷、セリアック病などの食物不耐症、あるいは非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)または他の摂取もしくは全身送達される薬物に誘発された潰瘍を含む、著しい炎症および/または潰瘍を通して破壊または損傷され得る。消化管の粘膜バリアはまた、遺伝的に決定される腸透過性上昇の素因によっても破壊され得る。
【0215】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、粘膜バリアを通した抗体の移動を容易にする配合剤の特定の態様の結果として粘膜バリアを通過する。例示的透過増進剤としては、キトサン、ポリ-L-アルギニンおよびCarbopolが挙げられるが、これらに限定されない。
【0216】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、炎症標的ハイドロゲル(IT-ハイドロゲル)に装填されて全身暴露を減少させ炎症性腸疾患(クローン病および潰瘍性大腸炎)の患者の炎症を起こした結腸を抗体に標的化させる(Zhang et al.,Sci Transl Med 2015;7:300ra128参照)。本明細書に記載される抗体に結腸中の炎症組織を標的化させるのに適するものはまた、ナノデリバリシステム、例えばHua et al.,Nanomedicine:Nanotechnology,Biology,and Medicine 2015;11:1117-32に記載されたものである。
【0217】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される抗体は、非限定的にTNF、TNF-カッパ、INF-ガンマ、IL-1ベータ、IL-2、IL-6、IL-23、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27、IL-32、IL-33、およびIL-35を含む、炎症を調節するサイトカインなどの標的抗原に特異的である。他の実施形態において、本明細書に記載される抗体は、消化器官において発現されるセロトニンの受容体(5-HT1A、5-HT1B/B、5-HT2A、5-HT2B、5-HT3、5-HT4、5-HT7、5-HT1P)を含む、消化管の粘膜バリアの下で発現される腸内神経伝達物質またはその受容体もしくは輸送体である標的抗原に特異的である。さらなる実施形態において、本明細書に記載される抗体は、食物摂取を調節するペプチドまたはそのようなペプチドの受容体である標的抗原に特異的である。そのようなペプチドとしては、CCK、GLP1、GIP、オキシントモジュリン、PYY3-36、エンテロスタチン、APOAIV、PP、アミリン、GRPおよびNMB、胃のレプチン、ならびにグレリンが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、本明細書に記載される抗体は、オクルジン、クラウジン、接合部接着分子、ZO-1、E-カドヘリン、コクサッキーアデノウイルス受容体、およびクラウジンの放出に関与するエラスターゼなどのセリンプロテアーゼなど、密着結合の機能を変更する、創傷治癒を増進する生物学的ターゲットである標的抗原に特異的である。
【0218】
一実施形態において、本明細書に記載される抗体は、大腸癌細胞上のEGFRに特異的である。
【0219】
別の実施形態において、本明細書に記載される抗体は、粘膜上皮細胞の基底面で発現されたToll様受容体に特異的であり、腸炎症性疾患の患者の消化管の粘膜に適用される。
【0220】
一実施形態において、本明細書に記載される抗体は、腸内頂側膜受容体である標的抗原に特異的である。本明細書で用いられる「腸内頂端膜受容体」は、腸管の管腔側に面した細胞の細胞膜で発現される内在性膜貫通タンパク質である。腸内頂端膜受容体の分類としては、栄養受容体および輸送体(糖受容体および輸送体、風味受容体、アミノ酸輸送体、ならびに遊離脂肪酸受容体など);パターン認識受容体(Toll様受容体など);ケモカインおよびサイトカイン受容体;胆汁酸塩輸送体;カルシウム、鉄および他のイオンおよびミネラルの輸送体;ペプチダーゼ;ジサッカリダーゼ;成長因子受容体(上皮成長因子受容体など)、ならびにGI管内の癌細胞の表面で発現されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。腸内頂端膜受容体は、胃、小腸または結腸において発現され得る。
【0221】
好ましい実施形態において抗体は、腫瘍壊死因子-α(TNF)に特異的である。幾つかの実施形態において、そのような抗TNF抗体を含む組成物は、炎症、詳細にはクローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患の処置における使用に適する。
【0222】
幾つかの実施形態において、抗TNF抗体を含む組成物は、口腔または腸粘膜炎の処置における使用に適する。粘膜炎は、例えば放射線療法、化学療法またはそれらの任意の組合せによって引き起こされ得る。粘膜炎は、放射線療法でない場合の、全身放射線照射を含む、高線量の放射線への暴露によっても引き起こされ得る。単独で、または組み合わせて用いられる場合に粘膜炎を誘導し得る化学療法薬としては、プラチナ、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、アザチオプリン、メルカプトプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、エトポシドおよびテニポシド、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、テニポシド、5-フルオロウラシル、ロイコボリン、メトトレキサート、ゲムシタビン、タキサン、ロイコボリン、マイトマイシンC、テガフール・ウラシル、イダルビシン、フルダラビン、ミトキサントロン、イフォスファミド、およびドキソルビシンが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる薬剤としては、非限定的にラパマイシン、エベロリムス、テムシロリムス、およびデフォロリムスを含む、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物ターゲット)の阻害剤が挙げられる。一実施形態において、抗TNF抗体を含む組成物は、再発性アフタ性口内炎、好酸球性食道炎、好酸球性胃炎、および胃腸管の一部における好酸球増加活性に関わる他の病気の処置における使用に適する。組成物は、例えば、口腔粘膜炎およびアフタ性口内炎を処置するために口腔へ局所投与され得、または例えば、腸粘膜炎を処置するために消化管に経口もしくは直腸投与され得る。
【0223】
一実施形態において、アフタ性口内炎(RAS)の処置のために、本明細書に記載される抗体は、潰瘍の最も初期の症状発現時に投与され得る。あるいは抗体は、潰瘍の症状発現の過程全体で規則的に投与され得る。あるいは抗体は、潰瘍形成の再発を予防するために規則的に投与され得る。好ましい実施形態において、本明細書で提供されるのは、TNFに特異的である抗体(抗TNF抗体)を含む組成物の治療有効量を、口腔への局所適用により患者に投与することを含む、患者における再発性アフタ性口内炎(RAS)を処置する方法である。一実施形態において、抗TNF抗体は、本明細書に記載されるウシ化または完全にウシの組換えモノクローナル抗体である。一実施形態において、抗TNF抗体は、高い粘膜透過性を有する抗体である。別の実施形態において、抗TNF抗体は、本明細書に記載される通り口腔に局所投与される。
【0224】
幾つかの実施形態において、抗TNF抗体は、例えば炎症性腸疾患を処置する、追加の治療薬と共投与される。共投与に適する例示的薬剤としては、経口ステロイド、IFN-β、ブデノシド;上皮成長因子;コルチコステロイド;シクロスポリン、スルファサラジン;アミノサリチラート;6-メルカプトプリン;アザチオプリン;メトロニダゾール;リポキシゲナーゼインヒビター;メサラミン;オルサラジン;バルサラジド;抗酸化剤;トロンボキサンインヒビター;IL-l受容体アンタゴニスト;抗IL-1βモノクローナル抗体;抗IL-6モノクローナル抗体;成長因子;エラスターゼインヒビター;ピリジニル-イミダゾール化合物;CDP-571/BAY-10-3356(ヒト化抗TNF抗体;Celltech/Bayer);75kdTNFR-IgG(75kD TNF受容体-IgG融合タンパク質;Immunex;例えば、Arthritis & Rheumatism 1994;37:5295;J Invest Med 1996;44:235A参照);55kdTNFR-IgG(55kD TNF受容体-IgG融合タンパク質;Hoffmann-LaRoche);インターロイキン-10(SCH 52000;Schering Plough);IL-4;IL-10および/またはIL-4アゴニスト(例えば、アゴニスト抗体);インターロイキン-11;プレドニゾロン、デキサメタゾンまたはブデソニドのグルクロニド-またはデキストラン-コンジュゲートプロドラッグ;ICAM-1アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド(ISIS 2302;Isis Pharmaceuticals,Inc.);可溶性補体受容体1(TP10;T Cell Sciences,Inc.);徐放性メサラジン;メトトレキサート;血小板活性化因子(PAF)のアンタゴニスト;シプロフロキシン;ならびにリグノカインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0225】
TNF調整疾患(例えば、IBD)を処置するのに適した追加の潜在的共治療薬は、市販されるか、または現在臨床開発中であり、以下のものが挙げられる:5-ASA(ジェネリック);MMXメサラジン(Cosmo);MMXブデソニド(Cosmo);MMX LMWヘパリン(Cosmo);ERメサラジン(Salix);アザチオプリン(ジェネリック);6-メルカプトプリン;インフリキシマブ(Centocor,J&J);アダリムマブ(Abbott);セルトリズマブペゴル(UCB);アトロサブ(Atrosab)(BalioPharma);ナタリズマブ(Elan);ゴリムマブ(Centocor J&J);デルサラジン(Palau);HMPL-004(Hutchinson Medi Pharma);オゾラリズマブ(Ablynx);TNF-a Kinoid(Neovacs);アピリモド(Synta);ウステキヌマブ(Centocor J&J);ブリアキヌマブ(Abbott);SCH-900222(Schering Plough);FM202およびFM303;MP-196;バシリキシマブ(Cerimon);ダクリズマブ(Roche);フォントリズマブ(PDL);C326(Avidia);シルクマブ(Centocor J&J);オロキズマブ(UCB);サリルマブ(Centocor J&J);BMS-945429(Alder);トシリズマブ(Chugai);アンルキンズマブ(Wyeth);QAX567(Novartis);GSK1070806(GSK);PF-05230900(Pfizer);ビドフルジムス(4SC);トファシチニブ(Tofactinib)(Pfizer);ビジリズマブ(PDL);リツキシマブ(Genentech);アバタセプト(BMS);フィルグラスチム(Amgen);サルグラモスチム(Immunex,Amgen);ベドリズマブ(Takeda);エトロリズマブ(Genentech);AJM-300(Ajinimoto);ASP-2002(Mitsubishi);アリカホルセン(Isis);PF-547659(Pfizer);CCX282(GSK1605786);レメステムセル-L(Osiris);PDA-001(Celgene);OvaSave(TxCell);セクキヌマブ;MDX-1100(Medarex);テトミラスト(Otsuka);LT-02(Lipid Therapeutics);オザニモド(Receptos/Celgene);アプレミラスト(Celgene);ベルチリムマブ(bertilumumab)(Immune Sciences);アブリルマブ(AstraZeneca);ABT-494(AbbVie);BI655066(Boehringer Ingelheim);モンジャーセン(Mongersen)(Celgene);MT-1303(Mitsubishi Tanabe);およびPF-00547659(Pfizer)。
【0226】
一実施形態において、可溶性サイトカインに特異的である、消化管に送達される抗体は、消化管中のそれらのサイトカインのレベルを低下させるが、全身循環系では低下させない。サイトカインのレベルは、サイトカインの直接の測定により、またはサイトカインに応答する代用マーカーの分析により、決定され得る。一態様において、可溶性サイトカインに特異的である、消化管に送達される抗体は、消化管および全身循環系の両方においてそれらのサイトカインのレベルを低下させる。
【0227】
一実施形態において、臨床上の利益を有する、消化管に送達される抗体は、抗体の次の投与への応答を阻害するのに、または抗体の次の投与に対して傷害性の応答を引き起こすのに十分である、投与された抗体への抗体応答を誘導しない。
【0228】
別の実施形態において、誘導された抗体応答の欠如が、維持療法後に認められる。さらなる実施形態において、誘導された抗体応答の欠如は、発症時投与(episodic dosing)の後に認められる。抗体応答は、治療性抗体に特異的である抗体の直接の測定により、または治療性抗体の反復投与への生理学的応答の評定により、測定され得る。
【0229】
好ましい実施形態において、2%未満の患者が、本発明の治療性抗体に対する抗体を治療性抗体の3回以上の投与量への暴露後に発現する。別の好ましい実施形態において、3回以上の抗体の投与は、抗体の有効性を低下させない。一実施形態において、抗体の有効性は、抗体の初回投与日から約1ヶ月間にわたり、好ましくは抗体の初回投与日から約6ヶ月間にわたり、より好ましくは抗体の初回投与日から約1年間にわたり、より好ましくは抗体の初回投与日から約10年間にわたり、1、2、3またはより多くの回数の投与後に減弱されない。
【0230】
治療抗体(TA)への抗体応答の測定は、RIAおよび固相RIAなどの、先行技術で知られる標準的アッセイを用いて行われ得る。治療性抗体への抗体応答を評定するためのアッセイは、詳細な状況に適合させることができ、方法および検討事項は、十分に理解されている(Gorovits,The AAPS Journal,Vol.11,No.1,March 2009)。本明細書に記載される抗体への抗体応答をアッセイするために、所与の患者についての処置前と処置後の試料の結果の直接比較が好ましい。抗TA抗体レベルが治療性抗体での処置の過程で有意に上昇すれば、患者は、治療性抗体に対し誘導された抗体応答を有すると定義される。抗体応答の事前の存在が検出されない治療性抗体では、抗体応答がバックグランドよりも2倍大きければ、患者は、治療性抗体に対し誘導された抗体応答を有すると定義される。
【0231】
本明細書に記載される抗体は、消化管に加えて、泌尿生殖器系および呼吸器系を含む、粘膜バリアを有する他の組織に適用されてもよい。本明細書に記載される抗体は、目および皮膚を含む、上皮系を有する他の組織に適用されてもよい。
【0232】
キット
同じく本発明の範囲内に含まれるのは、本明細書に記載される抗体組成物(医薬組成物)(例えば、ウシ化抗体、完全にウシの組換えモノクローナル抗体、二重特異性抗体、または免疫コンジュゲート)および使用説明書を含むキットである。幾つかの実施形態において、キットは、少なくとも1種の追加的試薬をさらに含む。キットは、キットの内容物の意図される使用を示すラベルを典型的に含む。ラベルという用語は、任意の文書、またはキットの表面に、もしくはキットと共に供給される任意の記録材料、または他の方法でキットに付随するものを包含する。
***********
【0233】
本開示は、以下の実施例によりさらに例示されるが、それはさらなる限定と解釈されてはならない。本出願全体に引用された全ての数字および全ての参照、Genbank配列、ならびに特許および公開された特許出願の内容は、明白に参照により本明細書に組み入れられる。
【0234】
実施例
実施例1 - ウシ初乳抗体は腸内消化に対し抵抗性である
AVX-470は、ヒト腫瘍壊死因子(TNF)に結合するウシ初乳ポリクローナル抗体である。潰瘍性大腸炎(UC)の患者に、遅延放出性で腸溶性コーティングされたカプセル配合剤の中のAVX-470を投与して、ウシ免疫グロブリン(Ig)に特異的なサンドイッチELISAアッセイを用いて糞便中のAVX-470の存在を評価した。
【0235】
およそ1gの糞便試料(0.8~1.2g)を、8mL抽出緩衝溶液(プロテアーゼインヒビターカクテルを含むPBS)中に添加した。試料中のウシIg濃度を、比色サンドイッチELISAを用いて分析した。マイクロタイタープレートを、捕捉抗体としての市販のポリクローナルヒツジ抗ウシIgG(H+L)抗体(Bethyl Laboratories、cat#A10-115A)でコーティングして、1.5時間インキュベートした。プレートを洗浄して、PBS-Tween0.05%(PBST)でブロックした。ブロッキングの後、ウェルを洗浄して、2種の異なる希釈率の糞便試料およびウシ参照血清(BRS)からのウシIg標準物質をプレートに三箇所ずつ添加した。全ての試料を、ホモジネート後にさらに希釈せずに、およびホモジネート後に1:5に希釈して、テストした。1時間後に、プレートを洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bethyl Laboratories、cat#A10-115P)に連結されたポリクローナルヒツジ抗ウシIg(H+L)抗体を、さらに1時間のインキュベーションの間、添加した。プレートを再度洗浄して、TMB発色基質を全てのウェルに添加した。15分後に希硫酸を添加することにより、反応を停止させた。ウシIgの存在下で、ウェルがブルーに変化した。光学密度(OP)を、450nmの波長でGen5ソフロウエア(バーモント州ウィヌースキー所在)を用いるEpoch Biotek Microプレートリーダーで読み取った。
【0236】
ウシIgを、32の投与前糞便試料のうち6試料(19%)で検出した。試験終了時に、患者から採取されたより多数の糞便試料、即ち32試料のうち合計15試料(47%)が、投与の28日後にウシIgについて陽性であった。低用量AVX-470(0.2g/日)を受けた患者8名のうち3名(38%)が糞便中のウシIgについて陽性であり、これはプラセボ群での陽性試料の数と同等であった。1.6g/日を受けた患者では、10の糞便試料のうち6試料(60%)が、ウシIgについて陽性であった。最高用量群(3.5g/日)において、6つの糞便試料のうち4試料(67%)が、検出可能なウシIgを有した。したがって、糞便中の検出可能なウシIgの頻度には、用量依存性の増加があった。
【0237】
試料の全てを、直接ELISAによりTNF結合について分析した。ELISAプレートを、100ng/ウェルの濃度にて市販の組換えヒトTNF(Cell Sciences:マサチューセッツ州カントン所在、cat#CRT100C)でコーティングした。室温で1時間インキュベートした後、ELISAプレートを洗浄して、Superblock(ThermoFisher、cat# 37515)でブロックした。追加の洗浄ステップの後、AVX-470の系列希釈物(陽性対照として使用)または1:5および1:25の両方で希釈された糞便試料を、ELISAプレートに添加した。AVX-470および糞便試料を、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bethyl Laboratories、cat#A10-115P)に連結されたポリクローナルヒツジ抗ウシIg(H+L)抗体を、さらに1時間のインキュベーションの間、添加した。最後の洗浄ステップの後、TMB発色基質を全てのウェルに添加した。希硫酸を添加することにより、15分後に反応を停止させた。光学密度(OP)を、450nmの波長にてEpoch Biotek Microプレートリーダーで読み取り、結果をGen5ソフロウエア(バーモント州ウィヌースキー所在)を用いて解析した。
【0238】
ウシIgに関連するTNF結合活性が、最高レベルのウシIgを有する3つの糞便試料においてELISAアッセイで検出され、TNF結合活性は、全てのプラセボおよび投与前試料には存在しなかった。これは、糞便中の活性AVX-470の存在を実証し、AVX-470の腸内安定性を裏付け、より一般にはウシ初乳抗体が腸内消化に対し抵抗性であることを確証する。
【0239】
実施例2 - ヒトIgGおよびインフルキシマブと比較したAVX-470のパンクレアチン消化
パンクレアチンによる消化へのAVX-470(ポリクローナルウシ初乳抗体)の感受性を、ヒト血清IgG1(Athens Research &Technology cat #16-16-090707-1)およびインフリキシマブ(ヒトTNFに特異的な組換えヒト-マウスキメラ抗体)のそれと比較した。
【0240】
ヒトIgG1、インフリキシマブ、およびAVX-470の溶液を希釈し、模擬腸液(SIF)中の5mg/mLパンクレアチンを調製した。AVX-470、インフリキシマブおよびヒトIgG1を、SIFを含有する試験管に添加し、様々な時点を選択してプロテアーゼインヒビター(Lot#P8340-5mL、Sigma Aldrich)で反応を停止させた。パンクレアチン:基質比は、10:1であった。
【0241】
還元ゲルでは、SDS(4×)(5.25μL)+DTT(10×)(2.1μL)の混合物7.35μLを添加した。試料を95℃で10分間、加熱処置した。ゲルを180ボルトで50分間泳動させて、EZBlue Commassieキット(Sigma-Aldrich)で染色した。これらの試料中の最も目立つ2つのタンパク質バンドは、50kDa(IgG重鎖に対応)および23kDa(IgG軽鎖)の見かけ分子量を有する。50kDa(重鎖)バンドの強度をImageJソフトウエア(NIH)で定量して、インキュベーション時間の関数としてプロットした。
【0242】
図1~4に示される通り、AVX-470は、ヒトIgGおよびインフリキシマブに比較してパンクレアチンでの消化に対してより抵抗性であった。
【0243】
ELISAによるタンパク質分解反応の抗原結合分析
先に記載されたパンクレアチン消化試料を、ELISAにより抗原結合活性について評定した。ELISAプレートを10μg/mL組換えヒトTNFでコーティングして、SuperBlockでブロックした。試料を、PBS+0.05%ポリソルベート20+2%SuperBlock中の1:10および1:20(AVX-470)または1:100,000および1:200,000(インフルキシマブ)のいずれかの希釈率で、選択されたウェルに適用した。未消化のAVX-470またはインフリキシマブの参照標準を、別のウェルに添加した。試料および標準物を、プレートに1時間結合させた。プレートをその後洗浄して、HPR-ウサギ抗ウシIgG(H+L)またはHRP-マウス抗ヒトIgG二次抗体のいずれかでプローブした。プレートを1時間インキュベートし、洗浄し、TMBでプローブして、結合された抗体を検出した。
【0244】
初乳の抗TNF抗体(AVX-470)のTNF結合活性に比較して、インフリキシマブのTNF結合活性は、パンクレアチンとのインキュベーション後、急速に降下した(図5)。
【0245】
実施例3 - 同じ雌牛からの血清、乳、および初乳ウシIgGのパンクレアチン消化
実施例2の結果は、ヒトIgGおよびインフリキシマブが、AVX-470よりもプロテアーゼ消化への高い感受性を示すことを実証し、ウシ初乳抗体のタンパク質分解を制限する分子的な差異が、これらの酵素の間に存在することを示唆する。プロテアーゼに対する安定性を付与し得る初乳抗体の特徴をさらに決定するために、一連の実験を、初乳、乳、および血清からのウシIgGで実施した。IgG試料は全て、妊娠期間の最後の3ヶ月間に組換えヒトTNFで免疫付与された雌牛の体液から、プロテインGアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。血清IgGは、分娩日に採取された血清試料から精製した。初乳IgGは、分娩日に得られた最初の搾乳から単離した。乳IgGは、分娩後12~30日目に得られたプール乳試料から精製した。SDS-PAGEに供した精製初乳IgGおよび血清IgG試料を、図6に示す。
【0246】
0.4mg/mL IgG溶液を、模擬腸液(SIF)中で調製した。試料を37℃に予備加温し、その後、以下の通りブタパンクレアチンと混和した:
混合物:1260μL 0.4mg/mL IgG
140μL 10mg/mL SIF中のパンクレアチン
【0247】
各時点で、反応混合物をプロテアーゼインヒビターと混和した:
混合物:150μL 反応混合物
3μL プロテアーゼインヒビターカクテル
【0248】
以下の時点で、各試料を回収した:
【表9】
【0249】
試料を、以下の通りSDS-PAGE分析用に調製した:
SDSロード混合物:528μL 水
330μL 4×LDS緩衝液
132μL 10×DTT

混合物:10μL 試料
30μL SDSロード混合物
【0250】
試料を95℃に15分間加熱し、その後、手短にスピンして各試験管の上部の濃縮物を採取した。10μLの各試料を、12%アクリルアミドゲル(Novex)にロードして、120Vで100分間電気泳動した。ゲルを、キットの使用説明書に従ってEZ-Blueで染色した。これらの試料中の最も主要な2つのタンパク質バンドは、50kDa(IgG重鎖に対応)および23kDa(IgG軽鎖)の見かけ分子量を有する。50kDa(重鎖)バンドの強度をImageJソフトウエア(NIH)で定量し、インキュベーション時間の関数としてプロットした。
【0251】
図7~9に示される通り、初乳IgGは、タンパク質分解に対して最も安定である。乳IgGは、若干より急速に分解され、血清IgGは、初乳IgGおよび乳IgGよりも顕著に速くタンパク質分解される。
【表10】
【0252】
このデータは、初乳抗体のみに関連する因子が、パンクレアチン抵抗性を担うことを示唆する。理論的上、この抵抗性を付与し得る潜在的因子としては、グリコシル化、初乳中に存在する安定化物質、およびウシ免疫グロブリンアイソタイプが挙げられる。
【0253】
実施例4 - 血清、乳、および初乳抗体の炭水化物プロファイル
先に議論された通り、初乳抗体へのプロテアーゼ抵抗性を付与し得る一因子は、グリコシル化である。この目的のために、AVX-470とヒトIgGの間で、および初乳からのウシIgGと血清からのウシIgGの間でグリコシル化パターンを、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)-超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)分析により比較した。図10に示される通り、AVX-470およびヒトIgGは異なるグリコシル化パターンを示し、ウシ初乳IgGは高度にシアル化されていた。最も豊富な種についてのピークの同一性を、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により確認した(表11および図11)。
【0254】
UPLCカラムは、放出された試料中の55の個別のピークを分解できた。各種の保持時間を、グルコースホモポリマーからなる較正標準で観察されたものと比較して、ピークの保持時間をグルコース単位(GU)に変換した。GU値を、その後、既知のオリゴ糖種の参照データベースと比較して、各ピーク中の可能性のある種を同定する。表11に示される通り、クロマトグラム中の10%を超える存在率を有するピーク(太線で強調)のほとんどを、この方法により割り付けることができる。
【表11】
【0255】
HILIC分析もまた、血清、初乳、および乳に由来するウシIgGの間のグリコシル化パターンの差を評定するのに用いた。IgGをプロテインGアフィニティークロマトグラフィーにより調製し、各試料からの関連するN-グリカンをPNGase Fで放出し、2-ABで標識し、GlycoSep Nカラムで分離した。図12に示される通り、子牛(妊娠したことがない)の血清から精製されたIgGのN-グリコプロファイルは、妊娠した雌牛の血清からのIgGよりもわずかに低レベルの末端ラクトシル化種G1F(rt=45分)およびG2F(rt=48分)を有する。両方の血清IgGは、初乳IgG試料(AVX-470)よりも実質的に低い後期溶出種(おそらくモノ-またはジシアル化オリゴ糖)を有する。
【0256】
経時的なIgG N-グリコシル化の変動もまた、1頭の雌牛(ACICC-2免疫化試験の雌牛#6003)から得られた試料でHILICにより評定した。2種の血清試料、つまり2013年12月2日(抗TNF結合活性に関して最大力価)に採取された試料と、2013年12月18日(分娩日)に採取された他方の試料を分析した。この雌牛からの最初の3回の搾乳(分娩後1.5日にわたり採取)で採取された初乳から精製されたIgGもまた、分析した。図13に示される通り、血清試料のN-グリコシル化パターンは、互いにほとんど同一である。同様に、3種の初乳IgG試料は、非常に類似したプロファイルを有している。しかし、血清および初乳のIgG集団のN-グリコシル化パターンは明らかに異なり、初乳IgG試料中では後期に溶出する種の存在率が実質的に増加している。各クロマトグラムにおける主要なピークの積分(表12)は、血清試料と初乳試料の間の主な差異が、初乳IgG中のシアル酸含有オリゴ糖の存在率の実質的増加であることを示す。加えて、血清試料と初乳試料の間で、コアのフコシル化および末端のガラクトシル化に小さな変化が存在する。
【表12】

(フコシル化種の合計)(全ての同定されたピークの合計)として算出
(ガラクトシル化種の合計)/(全てのピークの合計)として算出
(シアル化種の合計)/(全てのピークの合計)として算出
【0257】
初乳から乳への移行は、総免疫グロブリン濃度の実質的低下およびN-グリコシル化の変動を含む、組成物中の複数の変動に対応することが知られている。図14に示される通り、血清、初乳および乳IgG試料のHILIC分析は、初乳IgGグリコシル化が他の液と最も異なることを実証する。血清および乳IgGは、シアル化オリゴ糖として仮に同定された、低レベルの後期溶出種を同様に有する。
【0258】
上記の知見はまとめて、血清および乳抗体と比較してウシ初乳抗体が特有の炭水化物プロファイルを有することを示唆する。
【0259】
この特有の炭水化物プロファイルがパンクレアチン安定性と相関するか否かを決定するために、デンシトメトリーを用いて、血清、初乳、および乳IgGの消化についてIgG重鎖バンドを定量した。図9に示される通り、初乳抗体は、血清および乳IgGよりもパンクレアチンに対しより抵抗性であった。
【0260】
実施例5 - グリコシル化は初乳抗体へプロテアーゼ抵抗性を付与しない
前の実施例はウシ血清抗体と初乳抗体の間のグリコシル化パターンの差異を示し、初乳抗体が初乳抗体のFcドメインに連結された高シアル化N-連結オリゴ糖を有した。本実験を、この差異が初乳抗体の特有のプロテアーゼ抵抗性の付与を担うか否かを決定するために実施した。
【0261】
初乳IgGのパンクレアチン消化を、パンクレアチン:基質比が2.5:1であった以外は、実施例2に記載された通り実施した。一組の試料を、ノイラミニダーゼ(シアリダーゼA)でも処置した。この試料のN-グリカン分析は、末端シアル酸基の完全な除去を確認した。
【0262】
図15に示される通り、ノイラミニダーゼ処置は抗体をさらに安定化したため(t1/2=13.9時間)、初乳IgGの増強された安定性は、N-連結オリゴ糖上の末端シアル酸基の存在に非依存である。この結果は、シアル化が初乳抗体のタンパク質分解安定性の上昇に関与しないことを示唆する。
【0263】
実施例6 - 初乳中の安定化物質は初乳抗体のプロテアーゼ抵抗性に関与しない
初乳中に存在する安定化物質が初乳抗体へプロテアーゼ抵抗性を付与するという仮説を、次に検討した。
【0264】
複数の観察が、この可能性の不利を示唆する。第一に、図3に示される通り、精製された初乳IgG抗体は、パンクレアチン消化に対し抵抗性であり、パンクレアチン抵抗性が初乳中に見出される潜在的な安定化物質に非依存である可能性を示唆する。第二に、同じ日に一頭の動物から採取された血清および初乳から抗体が精製された場合、SDS-PAGEは、初乳試料中に何らかの特有のタンパク質種を検出せず、即ち、関連分子は存在しなかった(図6参照)。最後に、プロテアーゼ抵抗性を付与し得る精製された初乳IgG調製物中の安定化物質の証拠は、質量分析により見出されなかった。
【0265】
これらの知見は、プロテアーゼ消化に対する初乳抗体の抵抗性が、安定化物質により付与される見込みがないことを示唆する。
【0266】
実施例7 - 初乳および血清からのIgG1およびIgG2の精製
過去の試験は、異なるウシ抗体アイソタイプの特定のプロテアーゼに対する抵抗性のパターンに関する不一致の結果および矛盾した結果を報告した。これは、先に議論された2つの仮説、即ち、初乳抗体へのプロテアーゼへ抵抗性を付与したグリコシル化または安定化因子の寄与、を導いた。
【0267】
ウシ血清および初乳抗体に関するパンクレアチン消化経路の差異をよりよく理解するために、初乳および血清からのIgGを、還元SDS-PAGEにより分析した(図16)。複数のバンドが、初乳または血清のいずれかのIgG消化反応の後期の時点で特有であると同定された。血清IgGの分解のための1時間の時点は、20kDaで目立つバンドを有し、8時間の時点は、10kDaで強いバンドを有した。これらのバンドをゲルから切り出し、変性条件下でトリプシンによりゲル内消化し、その後LC/MS/MS分析に供して、各バンド中のタンパク質を同定した(表13)。
【表13】
【0268】
還元SDS-PAGEにより観察された各断片の見かけ分子量と共に、表13で同定されたペプチドを基にして、各バンドを本来の抗体の断片に割り付けた。8時間の時点で観察された8kDaおよび17kDaのバンドは軽鎖に位置し、40kDaのバンドは重鎖からの定常ドメインである可能性が最も高い。これらの結果は、最初の切断イベントが重鎖および軽鎖のN-およびC-末端付近で起こるが、ヒンジの周辺のコア構造はインタクトのままであることを示唆する。反対に、血清IgG消化の初期(1時間)の時点の20kDaのバンドはFcドメインに位置し、ヒンジでの切断と一致する。血清IgG消化反応の後期に出現する10kDaは、CH3ドメイン中のペプチドのみに位置し、Fcが経時的にさらに分解されることを示唆する。これらの結果は、初乳IgGのヒンジ領域が、血清IgG抗体に比較して、タンパク質分解から防御されることを示す。加えて、初乳IgG配列は、主にIgG1サブタイプに位置するが、血清IgG試料は、IgG2配列に位置する。
【0269】
プロテアーゼ感受性に及ぼすIgGサブタイプの影響を具体的に研究するために、IgGをプロテインGアフィニティークロマトグラフィーにより初乳および血清から調製し、DEAE-SepharoseカラムでIgG1濃縮画分およびIgG2濃縮画分に分離した(それぞれ図17および18)。妊娠した雌牛の血清から十分量のIgG1を精製できなかったため、子牛の血清を、血清IgG1の供給源として使用した。
【0270】
表14に示される通り、DEAE通過画分は、サブタイプ特異性抗体を用いたサンドイッチELISA法による決定では、純粋なIgG2であった。塩勾配で溶出された画分はIgG1を濃縮したが、多くは、微量のIgG2を含有した。他の研究者も、この現象を観察し、通常は低等電点を有する可変ドメインの存在に関連づけていた(Butler et al.,1987)。この混入を除去するために、固定された抗IgG2を含むカラムにDEAE溶出液を通して、混入するIgG2を除去し、純粋なIgG1画分を得た(表14;6003M1 DEAE+抗IgG2および子牛#24 DEAE+抗IgG2)。
【表14】
【0271】
実施例8 - ウシIgG1およびIgG2のパンクレアチン消化
この実験において、血清(子牛#24)または初乳(6003M1=雌牛#6003からの初期初乳;AVX-470=雌牛20匹からプールされた初乳)から精製されたウシIgG1およびIgG2をパンクレアチンで消化し、実施例3に記載された通り還元SDS-PAGEに供した。
【0272】
図19に示される通り、IgG1画分は、パンクレアチン消化に対して比較的安定であり、7.7~8.8時間の範囲の半減期を有した。反対に、血清および初乳の両方からのIgG2画分は急速に分解され、0.8~0.9時間の半減期を有した。したがってIgG1は、IgG2に比較して10倍長い半減期を示した。このデータは、IgGアイソタイプ、特にIgG1アイソタイプが、ウシ初乳抗体のプロテアーゼ抵抗性を付与する重要な決定因子であることを示唆する。
【0273】
血清からのウシアイソタイプ上の炭水化物もまた、IgG1とIgG2の間で比較した。N-連結グリカンを酵素で放出し、2-アミノベンズアミジンで蛍光標識し、定量のために親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)により分離した。各HILICピーク中に存在するオリゴ糖種を、既知の標準物質を用いる質量分析と保持時間比較との組み合わせにより決定した。図20に示される通り、血清からのウシIgG1とウシIgG2の間に、フコシル化、ガラクトシル化、およびシアル化における顕著な差はなかった。初乳からのウシIgG1とウシIgG2を比較すると、いずれのアイソタイプもシアル化されており、IgG1でより高いシアル化およびより低いフコシル化が見出された(図21)。
【0274】
この結果は、これまでの実施例の結果と合わせて、抗体の供給源(即ち、初乳または血清)がグリコシル化パターンを決定し、IgGアイソタイプがプロテアーゼ抵抗性を決定することを示唆する。
【0275】
実施例9 - ウシIgG1、ウシIgG2、およびヒトIgG1の間のアミノ酸配列の差異、ならびに他の反芻動物IgG1配列との比較
ウシIgG1抗体の安定性に寄与する因子へのさらなる見識を得るために、ウシIgG1、ウシIgG2、およびヒトIgG1の一次構造を比較した。
【0276】
図22は、ウシIgG1およびウシIgG2からのCH1ヒンジ領域配列の比較を示す。ウシIgG1は、ヒンジ領域中に4つのシステイン残基を有するが、ウシIgG2のA1およびA2アロタイプは、それぞれ2つまたは3つのシステイン残基を有する。さらに、ウシIgG1は、IgG2配列よりも高い出現率でプロリン残基を有する。プロリン残基は、多くのエンドプロテアーゼによる切断を阻害することが知られており、ヒンジに対してより剛直な構造を誘導し得る。IgG2のアッパーヒンジは二残基挿入「GV」も有し、これが追加の構造的フレキシビリティーを導入し得る。
【0277】
図23は、ヒトIgG1とウシIgG1のCH1ヒンジ領域の比較を示す。ヒトIgG1とウシIgG1の間の複数の配列差は、ヒトプロテアーゼによる分解(Brezski et al.,mAbs 2011;3:558-67)または酸性pHでの自然なペプチド結合切断(Cordoba et al.,J Chromatography b 2005;818:115-21)に対し不安定であると知られる部位で起こる。ウシIgG1ヒンジにおけるこれらの部位の非存在もまた、ウシIgG1のタンパク質分解安定性に寄与し得る。
【0278】
他の反芻動物種のヒンジ配列を、以下のペプチドへの相同性についてサーチした:
ウシIgG1(AAB37381.2):DKAVDPRCKTTCDCCPPPELPGGP(SEQ ID NO:91)。
【0279】
この配列を、完全なノンリダンダントタンパク質配列データベースに対するBLASTサーチのクエリーとして用いた。このサーチのトップヒットは、以下の通りであった:
【表15】
【0280】
3つのボース・タウルス配列は、個々のアロタイプを反映している。最も密接に関連する配列はヒツジIgG1であり、これはウシヒンジの重要な特色(3つのHC間ジスルフィド結合、既知のタンパク質分解部位の欠失)を保持する。ヒトコブラクダIgG2配列(ラマ、アルパカおよびラクダ)もまた、非常に類似している。次に密接なヒットは、アレチネズミおよびネコのIgG1由来のものであるが、これらは十分に配列しない。ネコの配列は、2つの重鎖間ジスルフィド結合のみを有する。アレチネズミ配列は3つのシステインを含有するが、最もN-末端側のシステインがHC間ジスルフィド結合、またはHC-LC連結を形成するか否かは不明である。ウサギIgG配列は、1つのみのHC間ジスルフィド結合および他の種のIgG1で観察されるものよりも有意に短いヒンジ以外に、CH1ドメインのN-末端とアッパーヒンジの間にジスルフィド連結を含む。
【0281】
実施例10 - ウシIgG1抗テストステロンモノクローナル抗体の発現およびパンクレアチン安定性
ウシIgG1抗テストステロン抗体を、Jacksonら(Molecular Immunology 1992;29:667-76)に記載されたヘテロハイブリドーマにより産生された抗テストステロン抗体に基づいて作製した。重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、以下の通りである。
ウシ抗テストステロンIgG1抗体(軽鎖):
QAVLGQPSSVSGSLGQRVSITCSGSSSNIGTYGVEWYQQVPGSGLRTIIYGSNSRPSGVPDRFSGSKSGNTATLTISSLQAEDEADYFCAAGDSSSRGAVFGSGTLTALGQPKSPPSVTLFPPSTEELNGNKATLVCLISDFYPGSVTVVWKADGSTITRNVETTRASKQSNSKYAASSYLSLTSSDWKSKGSYSCEVTHEGSTVTKTVKPSECS (SEQ ID NO: 23)

ウシ抗テストステロンIgG1抗体(重鎖):
QVQLRESGPSLVKPSQTLSLTCTVSGFSLSSYALTWVRQAPGKALEWVGGITSGGTTYYNPALKSRLSITKENSKSQVSLSVSSVTPEDTATYYCARSTYGEVGDGAIADAWGQGLLVTVSSASTTAPKVYPLSSCCGDKSSSTVTLGCLVSSYMPEPVTVTWNSGALKSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSMVTVPGSTSGQTFTCNVAHPASSTKVDKAVDPTCKPSPCDCCPPPELPGGPSVFIFPPKPKDTLTISGTPEVTCVVVDVGHDDPEVKFSWFVDDVEVNTATTKPREEQFNSTYRVVSALRIQHQDWTGGKEFKCKVHNEGLPAPIVRTISRTKGPAREPQVYVLAPPQEELSKSTVSLTCMVTSFYPDYIAVEWQRNGQPESEDKYGTTPPQLDADSSYFLYSKLRVDRNSWQEGDTYTCVVMHEALHNHYTQKSTSKSAGK (SEQ ID NO: 24)
【0282】
上記の重鎖および軽鎖をコードするDNA構築物を産生および発現し、得られた抗体(50μg/mL)をパンクレアチン消化(1mg/mL)に供し、ELISAにより抗テストステロン活性についてテストした。パンクレアチン消化は、実施例3に記載された通り実施した。
【0283】
図24に示される通り、パンクレアチン消化された抗テストステロン抗体は、AVX-470およびウシ化インフリキシマブよりもかなり急速にテストステロンへの結合活性を消失した。この結果は、ウシIgG1が腸内プロテアーゼによる消化に対し安定であることと不一致のように思われる。しかし、図25に示される通り消化した抗テストステロン抗体試料をSDS-PAGE(抗ウシIgG1でプローブする)に供すると、複数のバンドがわずかに低い分子量にて出現しており、おそらく抗原結合領域において、小さな抗体片がプロテアーゼにより切り取られることを示唆する。これは、安定なウシIgG1抗体を作製する際に、抗原結合領域中の潜在的プロテアーゼ切断部位も考慮すべき事項であることを示唆する。
【0284】
実施例11 - TNFおよびアジュバントによる雌牛の免疫付与
第Ib相臨床試験のためのAVX-470薬物製品の生産に用いられる現行の免疫付与法は、出産前の妊娠ホルスタイン乳牛における2~3週間間隔での組換えヒトTNF+Quil Aアジュバントの一連の3回皮下注射からなる。これらの条件は、以下に議論される通り、複数のアジュバント、抗原レベル、および投与頻度を評価した、子牛で実施された短期試験の結果に基づいて選択した。
【0285】
子牛試験#1
最初の試験では、一連のアジュバントを、皮下注射により免疫賦活化rhTNF(Cell Sciences、マサチューセッツ州カントン所在)で免疫付与された3~5ヶ月齢の雄ホルスタイン子牛で評価した。4種の異なるアジュバント(Emulsigen-D、Carbigen、Quil AおよびSeppic ISA)を0.05mgのrhTNFと組み合わせて評価した。血清試料を、各免疫付与の前および最後の免疫付与の14~21日後に採取した。
【表16】
【0286】
血清を、表16に示される通り個々の子牛から、免疫付与前の採血物(「プレブリード」)から、および4回の接種それぞれの後に調製した。したがって5種の異なる子牛試験1試料セットを各アジュバントについて作製したが、試料セット1(プレブリード)、セット4(3回の接種後)およびセット5(4回の接種後)のみを、rhTNFコーティングプレートでの直接ELISAによりrhTNF結合活性について、および米国特許出願公開第2012/0258118号に記載された通り実施された、L929細胞傷害性アッセイでrhTNF中和活性について、分析した。
【0287】
セット4(3回接種)およびセット5(4回接種)からの各群の個々の子牛血清およびプール血清を、1:10~1:10の範囲の希釈で、抗TNF ELISAアッセイにおいてTNF結合活性について分析した。TNF結合力価を、最大結合の50%を与える希釈率の逆数(1/EC50)として算出した。
【0288】
図26および27、ならびに表17および18(2回の独立した実験からのデータを示す)のデータは、プール血清の力価がQuil A群で最高であり、次いでEmulsigen-D、MontanideおよびEmulsigen-BCLであったことを示している。重要なこととして、Quil AおよびMontanide群においては4回目の接種後に力価はほとんど、または全く上昇しなかったが、Emulsigen-D群では上昇し、Emulsigen-BCL群では低下した。
【表17】
【0289】
子牛血清をその後、L929細胞傷害性アッセイでTNF中和抗体力価について分析した。表18に示される通り、Quil Aは、他のアジュバント群に比較して最高のTNF中和抗体力価を示した。
【表18】
【0290】
ELISAデータからの別の重要な特徴は、Quil A群のセット4(3回接種)とセット5(4回接種)の間での3~4倍の能力増加であるが、ELISAデータは、追加のブーストが結合抗体力価を顕著に上昇させなかったことを示した(5000から5500へ;図26および表17)。
【0291】
子牛試験#2
この試験では、Quil Aを含むrhTNF0.05mgを、10倍高い抗原用量(0.5mg/注射)と比較した。0.5mg rhTNF用量を、3種の異なるアジュバント(Quil A、Montanide ISA-25、およびMontanide ISA-201)でテストした。追加の子牛群が、より高用量のrhTNF(1mg)およびQuil Aを受けた。3週間間隔で3回のワクチン接種を実施し、4回目および5回目のワクチン接種でのより長期の免疫付与も含めた。
【0292】
3~5ヶ月齢の雄ホルスタイン(13匹)またはホルスタイン雑種(2匹)の乳用子牛15匹を用いた。0.05~1.0mgの範囲で異なる用量の組換えヒト腫瘍壊死因子(rhTNF;Cell Sciences、マサチューセッツ州カントン所在)+3種のアジュバントのうちの1種(Quil A(群1~3)、Montanide ISA-25(群4)またはMontanide ISA-201(群5))の3週間間隔での皮下注射により、3匹/群で5回免疫付与することにより、血清を作製した(表19)。
【表19】
【0293】
血清を、免疫付与前の採血物(「プレブリード」)から、および5回接種それぞれの後3週間目に個々の子牛から調製した。個々の子牛からの血清および各群からのプール血清を、子牛試験1と同様に、rhTNFコーティングプレートでの直接ELISAによりrhTNF結合活性について、およびL929細胞傷害性アッセイでrhTNF中和活性について分析した。
【0294】
0.5mg rhTNF+Quil Aからなった群2で用いられた免疫付与レジメンは、TNF ELISAアッセイでの測定により、最初の3回の免疫付与それぞれの後に抗TNF抗体の最高力価を(図27)生じ、かつL929細胞系アッセイで最高のTNF中和能力を生じること(図28)が見出された。群3、4および5の間の比較は、Quil Aが最も効果的なアジュバントであることを示した。群1と2の間のTNF結合力価および中和能力の両方の差異は、3回のワクチン接種後に重要でないと見なされた。それゆえ、より少量の抗原(0.05mg rhTNF)を、3回のワクチン接種を含む免疫付与レジメン用に選択した。
【0295】
妊娠した雌牛における単回免疫付与レジメン
この試験は、子牛試験1および2からの結果に基づき妊娠した雌牛での単回免疫付与レジメンを評価し、子牛データが妊娠した雌牛に外挿され得るか否かを評価した。
【0296】
妊娠したホルスタイン雌牛(分娩の80~85日前)5頭を、Quil Aアジュバントと混合された組換えヒトTNF(0.5mg/免疫付与)で、75日の期間にわたる4回の皮下投与により免疫付与した。
【0297】
表20に示される通り、雌牛5頭の初乳試料それぞれについての最大抗TNF ELISA力価(AU/mL)は、搾乳1で認められた。類似の結果が、0.05mg rhTNFで3回免疫付与された雌牛20頭で観察された。5頭の雌牛(0.5mg rhTNFでの4回接種)または20頭の雌牛(0.05mg rhTNFでの3回接種)試験の間にTNF結合抗体力価の顕著な差はなかった。
【表20】
【0298】
実施例12 - 様々な抗原での子牛の免疫付与
5種の異なる抗原または抗原混和物を用いて、雄の乳用子牛を免疫付与して、消化器官標的治療薬としての潜在的使用のためのポリクローナルウシ初乳抗体を作製した。IL-6Rα、IL-12/23p40およびMAdCAM-1などの特定の抗原を、特に炎症性腸疾患の患者における、胃腸組織における既知の発現、および抗体に基づく治療のターゲットとしてのそれら潜在的な見込みに基づいて選択した(Veldman,2006;Reenaers et al.,2012)。グルテン/グリアジン由来ペプチド抗原PT-グリアジン(van de Wal et al.,1998)およびグリアジン三十三量体(ペプチド56~88;Shan et al.,2002)は、セリアック病患者での消化器官の管腔における微量レベルのグルテンの減少のためにグルテン中和抗体を作製するという概念に関する。グリアジン三十三量体ペプチドは、セリアック病患者においてグルテン/グリアジン分子中の免疫優性ペプチドであることが示されている(Shan et al.,2002;Matysiak-Budnik et al.,2003)。
【0299】
実施例11に記載された試験に基づいて、Quil Aアジュバントを、以下に記載される免疫試験に用いた。
【0300】
抗原調製
6種の異なるペプチド/タンパク質抗原溶液を、市販の供給源から調製した。
【0301】
グリアジンのペプシン/トリプシン消化物(PT-グリアジン)を、van de Wal et al,1998から適合された方法論を用いて所内で調製した。手短に述べると、グリアジン(Sigma、Cat#G3375)1グラムを、1M酢酸10mL中に室温で3日間溶解し、その後10分間煮沸し、ペプシン(Sigma、Cat# P6887)10mgにより37℃で4時間処置した。pHをNaOHで7.8に調整し、その後トリプシン(Sigma、Cat#T1426-50)10mgにより37℃で4時間処置した。トリプシンインヒビター(Sigma、Cat#T6522)10mgを添加し2~4℃で一晩インキュベートすることにより、消化を停止させた。微粒子を遠心分離により除去して、8~10kDalカットオフのSpectra/Por Float-a-Lyzer G2デバイスを使用して、溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4で透析した。最終的なPT-グリアジン調製物は、SDS-PAGEにより20kDalおよびそれ未満のバンドを示し、一方で未消化グリアジン中の最も主要なバンドは、40~50kDalであった。ペプチド量を、グリアジンで較正されたビシンコニン酸(BCA)アッセイにより測定した。
【0302】
グリアジン三十三量体(H-Leu-Gln-Leu-Gln-Pro-Phe-Pro-Gln-Pro-Gln-Leu-Pro-Tyr-Pro-Gln-Pro-Gln-Leu-Pro-Tyr-Pro-Gln-Pro-Gln-Leu-Pro-Tyr-Pro-Gln-Pro-Gln-Pro-Phe-NH2;SEQ ID NO:25)ペプチドは、Bachem(カリフォルニア州トーランス所在、カタログ#4077401)により合成され、グリアジン分子中の56~88の残基を表す(Shan et al.,2002)。
【0303】
他のタンパク質抗原は、R&D Systemsの組換えマウスIL-6Rα(担体不含)(Cat#1830-SR/CF,lot#ITY141301A;ミネソタ州ミネアポリス所在);Cell Sciencesの組み換えマウスIL-6(Cat# CRI130C,lot# 3201610;マサチューセッツ州カントン所在); R&D Systemsの担体不含組換えマウスIL-12/IL-23 p40ホモダイマー(Cat# 499-ML/CF,lot# RH041212A;ミネソタ州ミネアポリス所在)およびR&D Systemsの組換えマウスMAdCAM-1 Fcキメラ(Cat# 993-MC-050,lot# EOH1312101;ミネソタ州ミネアポリス所在)であった。
【0304】
動物/免疫付与の群分け
9~11月齢去勢雄ホルスタイン乳用子牛15匹を試験に用い、それらをそれぞれ3匹からなる5群に分けた。子牛群を、表21に要約する。
【表21】
【0305】
全ての群が、同じ免疫付与レジメンを受けた。免疫付与を、0日目(V1)、21日目(V2)、42日目(V3)、および63日目(V4)に実施した。各用量は、およそ2cc容量であり、免疫付与物を、肩または首のエリアに皮下送達した。血液試料を、各免疫付与の前に採取し、最後の試料を、最後の免疫付与の21日後に採取した。およそ40ミリリットルの血液を、各時点で静脈穿刺により採取した。血液を凝固させ、必要であればその後遠心分離して標準手順により血清を分離した。血清を2本ずつの試料に分取して、-20℃で貯蔵した。大容量の血清採取(血液約100mlから血清40~50ml)を、最後の採取日に実施した。
【0306】
試料のELISAおよび分析
子牛が、抗原に対する抗体を産生したか否かを決定するために、血清試料を直接ELISAでテストした。ELISA条件を、表22に示す。マルチチャネルマトリックスピペットを用いて、プレートをPBS-T(0.05%Tween-20を含むPBS pH7.4)で3回洗浄した。プレート中のウェルを、ウェルあたり300μLの2%Superblock溶液(Thermo Fisher #37515)を室温で30分間~1時間添加することによりブロックした。血清試料を最初に、1:200の初期希釈率に希釈し、7点曲線用に3倍系列希釈を用いて96ウェルのV底希釈プレートに滴下した。参照曲線(reference curve)を、ELISAに応じて適当な開始濃度に希釈し、7点曲線用に3倍系列希釈を用いてプレートに滴下した。希釈物は、PBS-T中の2%Superblockで作製した。ブロッキング溶液をELISAプレートから除去し、プレートをPBS-Tで3回洗浄した。希釈された血清試料および参照曲線をELISAプレートに移し、1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、血清試料についてはウェルあたり100μLのウシIgに対する西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識二次抗体(ヒツジ抗ウシIgG(H+L))を添加し、参照曲線については適当なHRP標識抗体を添加して、抗体を検出した。二次抗体を、1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、ウェルあたり100μLのTMB基質をプレートに添加し、20分間発色させた後、1%硫酸100μLをウェルに添加した。450nmでBiotek Epoch(バーモント州ウィヌースキー所在)マイクロプレートリーダーを用いてプレートを読み取った。試薬緩衝液のみを含有するウェルからのバックグランド吸光度値を平均し、最終のブランクA450nmデータのために全てのウェルから差し引いた。試料曲線および参照曲線用にコンピュータが作成した4-PL曲線フィットと共にGen5ソフトウエアを用いて、データを解析した。0.2OD(y=0.2)をもたらす希釈率と定義された抗体力価を、各試料曲線について算出し、その値を用いて、各子牛血清および群ごとのプール血清について曲線を作成して、異なる免疫付与による血清中の抗体濃度の増加を表した。
【表22】
【0307】
ELISA発色
免疫原性エピトープを異なる程度に示し得るグリアジンの異なる形態を比較するために、群AをPT-グリアジンペプチドで免疫付与し、血清群をPT-グリアジン、尿素中のグリアジン、および酢酸中のグリアジンへの結合についてELISAを用いて評価した。群Bを、グリアジン三十三量体ペプチドで免疫付与し、血清群をグリアジン三十三量体、尿素中のグリアジン、および酢酸中のグリアジンのELISAを用いて評価した。ポリクローナルウサギ抗グリアジン(Sigma#G9144)を、グリアジンELISA形式の全ての参照曲線として用いた。4種の標準曲線は全て類似するように見え、全てが低いバックグランドを有し、用量に関連した抗体結合を示し、高い抗体濃度で高い吸光度に達し、二重測定でのウェル間で低い変動性を有した。群C、DおよびEのELISAで用いられたIL-6、IL-6Rα、IL-12/23 p40、およびMAdCAM-1の参照曲線は、類似した結果を示した。
【0308】
表23に、様々なELISAでテストされた5群のそれぞれからの個々の子牛血清およびプールした子牛血清の最大抗体力価の概要を示す。
【表23】
【0309】
群Aでは、子牛28は、2回目、3回目および4回目の免疫付与後に高い応答者であったが、子牛33は、いずれの時点でもPT-グリアジン免疫付与に明確な応答を示さなかった。子牛26は、PT-グリアジンへの弱い応答者であり、抗体力価は、2回の免疫付与後にわずかに上昇した。子牛26、28および33のプール血清は、予測通り、個々の子牛に対し中間の抗体力価を有した。
【0310】
群Bの血清を、抗体がグリアジン三十三量体ペプチドでコーティングされたプレートに、ならびに酢酸中および尿素中で調製された全グリアジンに結合するか否かを決定するために分析した。子牛22および32では、酢酸中または尿素中のいずれかのグリアジンと比較してグリアジン三十三量体に対する顕著に高い力価があり、三十三量体ペプチド上の主要な免疫原性エピトープが露出されないか、グリアジン分子のいずれの形態でも立体構造的に存在し得ないことを示唆する。子牛30の血清は、3種のグリアジン調製物のいずれに対してもほとんど、または全く抗体力価を有さなかった。
【0311】
群C血清を、子牛の免疫付与で用いられたものと同じ抗原をELISAで用いて、IL-6Rαへの直接ELISAを用いて分析した。子牛34は、ELISAにおいて高応答者であったが、子牛21および27は、より低い抗体力価を示した。
【0312】
群Dの子牛をIL-6およびIL-6Rの両方で免疫付与し、血清を、子牛の免疫付与で用いられたものと同じ抗原をELISAで用いて、IL-6およびIL-6Rαへの別々の直接ELISAを用いて分析した。子牛36は、IL-6およびIL-6Rαの両方への2回目の免疫付与後に3頭の子牛のうち最も高いピーク抗体応答を有したが、その抗体応答は、特にIL-6に対しては、続く免疫付与で減少した。IL-6に対する3頭の子牛の免疫応答は、IL-6Rαに対するよりも大きな範囲を有したが、3頭全ての子牛は、両抗原を一緒に投与した場合に両抗原に対し明確に応答した。IL-6Rαに対する群Dのプール血清の抗体力価は、群Cのプール血清のものと同等であり、群D中のIL-6の存在がIL-6Rαへの応答に大きく影響しないことを示唆する。
【0313】
群Eの子牛を、IL-6Rα、IL-12/IL-23 p40、およびMAdCAM-1のカクテルで免疫付与した。血清をIL-6Rα、IL-12/IL-23p 40、MAdCAM-1、IL-12p70、およびIL-23への結合について、別々の直接ELISAで分析した。子牛31は、IL-6Rα、IL-12/IL-23 p40、およびMAdCAM-1に対して最も高い抗体応答を有した。しかし、IL-6Rαへの応答の規模は、群CおよびDでのIL-6Rαに対するものよりも概ね小さかった。個々の動物間の免疫応答の変動性を仮定すると、IL-6Rαに対するこれらのより低い力価は、単にその変動性を反映している可能性がある。子牛3頭は全て、ヘテロダイマー分子IL-12p70およびIL-23に対して同等の抗体力価を有したが、その力価は、IL-12/23 p40鎖のみに対してよりも低かった。
【0314】
これらの結果はまとめて、セリアック病、IBDおよび他のGI適応症の動物モデルおよびヒトでの治療における評価のために、グリアジン、IL-6Rα、IL-6およびMAdCAM-1に対する治療的ウシ抗体を作製することの実行可能性を示す。
【0315】
実施例13 - ウシ抗体の作製のためのDNAワクチン接種
タンパク質抗原への強い抗体応答を、所望の抗原をコードする遺伝子を含むDNAベクターによる子牛のワクチン接種により誘導できる(例えば、van Drunen Little-van den Hurk et al.,Clin Vaccine Immunol 2013;20:166-73参照)。個々の動物の右大殿筋に、1mL中のプラスミドDNA 1.5mgを注射し、その後、TriGrid電極アレイ(Ichor Medical Systems)を用いて、10%デューティサイクルで400ms間に250-V/cmの電場を加える。免疫付与は、21日あけて2回または3回繰り返され、顕著な抗体応答を誘導すると予測される。
【0316】
実施例14 - 免疫付与後のモノクローナルウシ抗体を産生するハイブリドーマの作製
本質的には米国特許第5,026,646号に記載される通り、ウシ抗体分泌細胞株を樹立するために、免疫付与された子牛からハイブリドーマを作製できる。
【0317】
実施例11および12に記載された通り免疫付与された雌牛の右前肩甲骨、左前肩甲骨、および右大腿骨前の浅リンパ節を、一般的な麻酔の下で手術により摘出し、切片に切り分け、80メッシュのふるいに通す。抽出された細胞を洗浄して、融合に用いる。およそ1の骨髄腫細胞:リンパ節細胞比を用いて、PEGプロトコル(Van Deusen et al.,Am Assoc Vet Lab Diagnost 24th Annual Proc 1981:211-228)の変法で融合を実施し、96ウェルプレートに播種する。細胞を、10%ウマ血清を含むDMEMおよび高グルコース対融合パートナー培養物からのコンディションメディウムの1:1比で培養する。メトトレキサート感受性のための融合パートナー選択を、6-チオグアニンおよび8-アザグアニンを含有する培地中の継代により実施する。
【0318】
SP2/0ネズミ骨髄腫細胞を、子牛右前肩甲骨リンパ節細胞と3:1の混合物中で融合して、ウシIgG分泌一次細胞株を作製する。分泌が止まったら、細胞株を、6-チオグアニンおよび8-アザグアニンを含有する培地での継代によりメトトレキサート感受性について選択する。メトトレキサート感受性ウシ:ネズミヘテロハイブリドーマを、先に1:1比で用いられた同じ子牛からの免疫付与および抽出された左前肩甲骨リンパ節からのリンパ節細胞と1:1比で組み合わせ混合した。この融合により、一過性にウシIgを分泌する細胞株が得られ、それをその後、分泌が終了したらメトトレキサート感受性について選択する。メトトレキサート感受性ウシ×ネズミヘテロハイブリドーマからの細胞を、それぞれ、1:2混合での前回と同じ子牛からの免疫付与された右大腿骨前リンパ節からの新しいリンパ節細胞と1:1比で組み合わせ融合する。融合により、ウシ抗体を分泌するウシ×ネズミ一次ヘテロハイブリドーマが得られる。目的の機能(例えば、TNFへの結合)を有する抗体を分泌する安定なヘテロハイブリドーマを同定し、クローン化し、およびサブクローン化する。
【0319】
ヘテロハイブリドーマを、日常的方法を用いるシークエンシングにより、IgG1抗体を産生するものについてさらにスクリーニングできる。
【0320】
実施例15 - 単一B細胞シークエンシングおよび組換え抗体生産
単一のB細胞は、本質的にはTillerら(J Immunol Methods 2008;329:122-4)に記載された通りシークエンシングされる。単核細胞を、実施例11および12に記載された通り免疫付与された雌牛の末梢静脈血または血清から単離し、Ficoll-Paque密度勾配遠心分離により精製し、場合により続いて抗CD19磁気ビーズを用いてB細胞を濃縮する。単一の単核細胞をフローサイトメトリーにより96ウェルPCRプレート中に選別する。cDNAを、各ウェル中で直接合成する。単一細胞からの総RNAを、Supersctipt III逆転写酵素キットを用いてランダムヘキサマーで逆転写し、単離されたcDNAをテンプレートとして用いてIgG、IgλおよびIgκV転写産物を遺伝子特異性プライマーで増幅する。VH、VκおよびVλ鎖PCR産物のアリコートを精製し、シークエンシングする。配列をGenBankでのIgBLAST比較により分析して、最も高い同一性を有する生殖系V(D)J遺伝子セグメントを同定する。
【0321】
PCR産物を、Qia-Quick 96 PCR Purification Kit(Qiagen)を用いて精製する。PCR試料を消化して、ヒトIgγl、IgκおよびIgλ発現ベクターの多重クローニング部位にライゲートする。ライゲーション産物をコンピテントDH10B細菌細胞中に形質転換し、コロニーを、予測されたサイズのバンドの存在についてPCRスクリーニングする。プラスミドDNAを、QIAprep Spinカラム(Qiagen)を用いて細菌培養物から単離し精製する。
【0322】
抗体を、150mmプレートで培養されたHEK293細胞または293T細胞中に一過性に精製されたプラスミドをトランスフェクトすることにより、生産する。トランスフェクションの6日後に、培養上清を回収し、プロテインGビーズを用いて抗体を精製する。組換え抗体の濃度をその後、ELISAにより決定する。
【0323】
実施例16 - 組換えウシモノクローナルIgG1抗体の選択
実施例14または15に従って生産された抗体をシークエンシングして、それらが本明細書に記載された通りプロテアーゼに対する抵抗性を付与する構造特性を有するか否かを決定し、上記の実施例に記載された方法を用いて機能的活性(例えば、標的抗原への結合)および安定性についてテストする。さらに、先に議論された通り、安定なウシIgG1抗体を作製する場合には、抗原結合領域中の潜在的プロテアーゼ切断部位も検討する。したがって抗体を、実施例2および10に記載された方法を用いて抗原結合とパンクレアチン安定性の両方についてテストして、それらが抗原結合およびパンクレアチン消化からの安定性を保持することを確認する。
【0324】
所望の特性(構造的および機能的の両方)を有することが見出された抗体の重鎖および軽鎖を、標準の組換え法を用いて、発現ベクター中にクローニングし、発現し、回収しおよび精製する。
【0325】
実施例17 - 完全にウシの組換えモノクローナル抗体およびウシ化抗体の構築物設計
修飾された抗体がプロテアーゼ消化に対して増強された抵抗性を有するように、親抗体を修飾してウシ初期初乳抗体の特色を付与できる。図29は作製でき(例示的親抗体としてインフリキシマブを用いて)、発現のためにMAC-Tなどの任意の哺乳動物宿主細胞または反芻動物乳腺上皮細胞株であり得る宿主細胞中の発現ベクターに挿入できる様々な構築物を示す。
【表24】
【0326】
例示的なウシ化抗体の重鎖および軽鎖配列を、以下に示す(ウシ配列に下線を引いている)。
【表25】
【0327】
最小限のウシ化
以下に提供されるのは、プロテアーゼ抵抗性を示し親抗体に組み入れられて(例えば、親抗体の可変領域と組み合わせて)経口投与できる安定性の高い消化抵抗性の抗体を作り出す、最小限にウシ化されたIgG1、2および4の定常領域配列である。親抗体の定常領域を、日常的な組換え技術を用いて、最小限にウシ化された配列と置き換える。プロテアーゼ抵抗性をその後、本明細書に記載された当該技術分野で認められた方法を用いてテストできる。例えば、最小限にウシ化されたヒトIgG1構築物を、実施例3に記載された通りパンクレアチン消化により精製およびテストし、ウシ初乳IgG1と同等のプロテアーゼ安定性、および親ヒトIgG1分子(インフリキシマブ)よりも顕著に大きなプロテアーゼ安定性を有することを示した(図30)。
【表26】
【表27】
【表28】
【0328】
また提供されるのは、重鎖が特定のジスルフィド結合の連結を除去するアミノ酸置換を含む、ウシ定常領域を含むウシ化抗体である。そのような抗体は、親抗体へプロテアーゼ抵抗性を付与するためのCH1ヒンジジスルフィド連結およびCH1軽鎖ジスルフィド連結の寄与をテストするのに有用である。図34に示される通り、ウシ化インフリキシマブ構築物は、インフリキシマブよりも腸内プロテアーゼによってより緩やかに分解される。C127S/C215S、C128S/C215SおよびC127S/C128S変異体(全て図31~33に示される)は、インフルキシマブとウシ化インフリキシマブの中間の安定性を有する。いずれかのジスルフィド結合の除去はこの分子を不安定化させるため、前述のことは、ウシIgG1抗体がCH1ヒンジとCH1-LCジスルフィド結合の組み合わせにより安定化されるという仮説を裏づける。
【表29】
【0329】
キメラ(ヒト/反芻動物およびヒト/ウサギ)抗体
本明細書でまた提供されるのは、親可変領域を他の反芻動物(例えば、ヒツジ、ヤギ)またはウサギからのIgG1定常領域に融合するキメラ抗体(例えば、キメラインフリキシマブ)である。
【0330】
インフリキシマブのVHドメインを、実施例8で用いられたウシIgG1d配列と最も密接な配列一致を有するCH1-ヒンジ-CH2-CH3配列と融合することにより、以下の構築物の重鎖配列を設計した。各構築物のVLドメインとCLドメインの間の好適な相互作用を最大にするために、軽鎖配列は、インフルキシマブCLドメインに最も密接な配列一致を有するCLドメインに融合されるインフリキシマブのためのVlドメインを含む。
【表30】
【表31】
AAX45026.1からのヤギCH1および上流ヒンジ配列を用い、ウシIgGd配列(CAA44699.1)からの下流ヒンジ、CH2、およびCH3ドメインに融合した。
【表32】
【0331】
生物活性を調整するための修飾を有するウシ化抗体
また提供されるのは、生物活性を調整するアミノ酸置換を有するウシ化抗体である。詳細には、以下に示されるのは、FcR結合活性を調整するためのウシIgG1ヒンジ領域へのアミノ酸置換である。
【表33】
【0332】
ペプシン切断は、推定O-グリコシル化部位を有するウシIgG3ヒンジドメインをウシIgG1定常領域に付加することにより予防され得る。
【表34】
【0333】
タンパク質分解に対するさらなる安定化は、表35に記載される通り、下流ヒンジ中のアミノ酸置換により実現され得る。代わりのヒンジ#1は下流ヒンジに関してより短い配列を含み、ウシIgG2配列を模倣する。代わりのヒンジ#2は、ウシIgG1ヒンジと同じ長さを有するが、ロワーヒンジ領域をプロリン残基で置き換え、これはほとんどのプロテアーゼによる分解を阻害する。代わりのヒンジ#3は、下流ヒンジ領域を交互のグリシンおよびセリン残基で置き換え、これは潜在的なタンパク質分解部分を除去しながら本来の配列の立体構造的フレキシビリティーを維持する親水性のフレキシブルな配列を提供する。
【表35】
【0334】
組換えIgG治療薬は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーステップによって一般に精製される。しかしウシIgG1配列は、CH2およびCH3ドメインのアミノ酸配列の差異により、プロテインA樹脂に結合しない。プロテインA結合は、プロテインAとヒトIgG1の間の結合面を再現するウシCH2およびCH3ドメイン中のアミノ酸置換を導入することにより、回復され得る。好ましくは、作製される置換はヒト新生児Fc受容体へ強い結合を導入することを回避しなければならない。なぜならばこれはインビボで抗体の生体分布に影響を及ぼし得るからである。プロテインA結合を増強し得るがヒトFcRnへの結合は増強し得ない、ウシIgG1配列への例示的アミノ酸置換としては、T252M、G255R、Q309L、T314L、G315N、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0335】
実施例18 - ウシ化インフリキシマブの発現
HEK293細胞で発現されるウシ化インフリキシマブおよびインフリキシマブの発現を、比較した。図35に示される通り、HEK293細胞でのウシ化インフリキシマブおよびインフリキシマブの発現は、同等であった。
【0336】
実施例19 - ウシIgG1モノクローナル抗体およびウシ化抗体の大規模生産
実施例16および17に記載されるようなウシモノクローナル抗体およびキメラ抗体(例えば、ウシ抗TNF抗体)は、以下に記載される通り、研究および臨床現場での使用に向けて様々な宿主生物体で組換え技術により大規模に生産できる。
【0337】
酵母における生産
目的の抗体(例えば、抗TNF抗体)の重鎖および軽鎖をコードする核酸を、適当な酵母発現ベクター中にクローニングする。酵母細胞を、振とう器で4~6時間30℃にて2%グルコースを含有するYEPD培地中で生育して、原液を作製する。同じ培地100mlにこの原液を接種して、1.3~1.5のOD600まで生育させる。細胞を遠心分離により回収し、水で洗浄し、4℃にて滅菌1Mソルビトールで洗浄する。細胞を1Mソルビトール100μl中に再懸濁し、細胞懸濁液40μlを添加する。プラスミドDNA(一方が重鎖をコードし他方が軽鎖をコードする2つのプラスミド、あるいは重鎖と軽鎖の両方をコードする配列を含む1つのプラスミド)およそ1μgを、細胞に添加する。細胞およびプラスミドDNAを、氷上で5分間インキュベートし、0.2cm電気穿孔用キュベットに移す。Bio-Rad Gene Pulser(カリフォルニア州リッチモンド所在)を用いて、電気穿孔を実施する。形質転換体を、ウラシルを含まないYNB培地で選択する。
【0338】
予備培養物を、YNB培地(ura-、leu+)+2%グルコース100ml中、30℃で24時間生育し、続いて0.5ODで発酵培地(ura-、leu-)+2%グルコース200ml中に接種する。培養物を生育し回収し、試料を様々な時点で得て、2%ガラクトースを導入する。細胞を遠心分離により培地から分離し、培養上清を限外濾過によりCentricon30フィルターで濃縮し、SDS-PAGE分析に用いる。濃縮された上清をSDS-PAGEで泳動することにより、抗体の純度および収率を検出できる。
【0339】
上記の手順を、大規模発酵用の2~10L発酵槽を利用して規模拡大できる。
【0340】
アスペルギルスにおける生産
目的の抗体(例えば、抗TNF抗体)の重鎖および軽鎖をコードする核酸を、当該技術分野で公知の選択マーカーを有する別個の発現ベクター(例えば、pGAMpR、またはSambrook et al.,1989およびAusubel FM et al.,1989で糸状菌について記載されたもの)中にクローニングする。
【0341】
アスペルギルス・ニガーまたはアスペルギルス・ニガー変種アワモリ菌株(主な分泌アスパルチルプロテアーゼをコードする遺伝子中に欠失を有する)を、宿主細胞として用いる。形質転換および大規模発酵を、Wardら(Appl Environ Microb 2004;70:2567-576)に記載された通り実施する。Wardらに記載されたプロトコルを用いる収量は、0.2~0.9g/Lに達し得る。
【0342】
手短に述べると、細胞を振とう器上のフラスコ中で37℃にて2日間インキュベートする。2日齢の培地を移し振とう器上で30℃にて5日間インキュベートする。高レベルの抗体ならびにバランスのとれた量の軽鎖および重鎖を産生する形質転換体を、SDS-PAGEまたはELISAにより同定し、次に大規模生産に用いる。
【0343】
選択された形質転換体を、大型の(即ち、14リットルの)発酵槽で生育する。振とう器上で30℃にて48~60時間インキュベートした後、培養物を移し振とう器上で30℃にて一晩インキュベートする。培養上清中の抗体を、ELISAにより定量する。抗体を、セルロースパッドを通すろ過による真菌細胞の除去および上清のろ過により、培養上清から精製する。疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(HCIC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて上清を精製する。濃縮された上清をSDS-PAGEで泳動にかけることにより、抗体の純度および収率を検出する。
【0344】
哺乳動物細胞における生産
哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびNSOネズミ骨髄腫細胞)を、抗体の大規模生産に用いる。目的の抗体(例えば、抗TNF抗体)の重鎖および軽鎖をコードする核酸を、適当な哺乳動物発現ベクター中にクローニングして、細胞にトランスフェクトする。必要に応じて、接着細胞株を大規模生産のための懸濁培養様式に適合させる(例えば、Sinacore et al.,Biotechnol Bioeng 1996;52:518-28参照)。
【0345】
培養物を、血清を含まない培地(例えば、DMEM)中で37℃にて生育する。安定な細胞株のクローンを、メトトレキサート(MTX)を含む代謝マーカーを介するなどの、当該技術分野で公知の方法を用いて選択する。高生産量のクローンを同定するために、細胞を遠心分離により培地から分離し、培養上清を限外濾過により濃縮しSDS-PAGE分析に用いる。濃縮された上清をSDS-PAGEで泳動することにより、抗体の純度および収率を検出できる。大規模バイオリアクター(例えば、2000リットル)でのさらなる評価のために最も多く生産するクローンを選択して最終的な生産クローンを決定する。
【0346】
昆虫細胞における生産
昆虫細胞(例えば、Sf-9細胞)を、目的の抗体の大規模生産に用いることができる。目的の抗体(例えば、抗TNF抗体)の重鎖および軽鎖をコードする核酸を、バキュロウイルス発現ベクター中にクローニングする。細胞をグレース補充(Grace’s Supplemented)(TNH-FH)培地中で25~30℃にて培養し、一晩生育する。細胞をバキュロウイルスで感染し、様々な時点で回収して抗体生産を測定する。
【0347】
抗体の生産を測定するために、上清を清澄化した後カートリッジ膜または限外ろ過膜を用いてさらに処理する。膜ろ過またはクロマトグラフィー技術は、上清からバキュロウイルスを除去するために用いられる。得られた上清を限外濾過により濃縮し、SDS-PAGE分析に用いる。濃縮された上清をSDS-PAGEで泳動することにより、抗体の純度および収率を検出できる。
【0348】
実施例20 - 抗体の精製
本明細書に記載される抗体は、硫酸アンモニウムによる沈殿、抗原アフィニティークロマトグラフィー、チオアフィニティークロマトグラフィー、または哺乳動物の免疫グロブリンに高い親和性を有する細菌タンパク質への結合を含む、組換え抗体の生産に一般に用いられる複数の手順により精製できる。組換えストレプトコッカスのプロテインGに連結するビーズを用いて、本明細書に記載されるIgG分子を精製した。5mLプロテインGセファロースHiTrapカラム(GE Healthcare cat #17-0405-01)を、1×PBS(10mMリン酸ナトリウム、150mm塩化ナトリウム pH7.4)で平衡化した。試料をカラムにロードし、PBSで洗浄し、抗体をカラムの5倍容量の100mMグリシン(pH2.7)で溶出した。溶出画分を中和するために、画分回収試験管は1M TrisCl(pH9)100μLを含んだ。溶出画分をプールし、Amicon 10k MWCOスピンフィルターで濃縮して、抗体を精製した。
【0349】
実施例21 - ウシ組換えモノクローナルIgG1またはウシ化抗TNF抗体でのDSSおよびDNBSマウス大腸炎モデルの処置
本質的にWO2012/058769に記載された通り、C57BL/6マウスを用いて人工的な大腸炎を誘導した。
【0350】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎のために、DSSを合計で5日間、最終濃度5%(重量/容量)で飲料水に添加する。マウスにウシ化もしくは完全にウシの化組換えモノクローナル抗TNF抗体(実施例14~16に記載された通り選択および生産される)またはアイソタイプ対照抗体(例えば、IgG1抗体)を、DSSへの暴露の1日前に開始して6日間投与する。大腸炎の発症を、疾患活性指数(DAI)を用いて評定する。DAIは、重量減少、糞便の粘稠性、および血便を組み合わせたスコアである。スコアリングシステムは、以下の通りである:体重減少:0、減少なし;1、1~5%;2、5~10%;3、10~20%;4、20%を超える;糞便:0、正常;2、軟便;4、下痢;および出血:0、血液なし;2、Hemoccult陽性;および4、肉眼的出血(肛門周辺の血液)。DAIを、DSS処置の5日全体で測定する。
【0351】
DNBS誘導性大腸炎では、C57BL/6マウスを麻酔にかけ、大腸炎を誘導するために、ツベルクリンシリンジに取り付けられた10cm長の管を結腸中に3.5cm直腸内挿入する。50%エタノール中に溶解されたDNBS 5mgの溶液100μLを投与し、3日間放置する。対照は、ビヒクル(50%エタノール)を同じ期間、受ける。
【0352】
巨視的損傷を評定するために、マウスをDSS投与の5日後、またはDNBS投与の3日後に殺処分し、腹腔を開き、結腸の膨張、体液量、うっ血、および紅斑についての観察を記録する。結腸を摘出し、巨視的損傷を結腸の全区分で評定する。巨視的スコアを、DSS大腸炎(Cooper et al.Lab Invest 1993;69:238-49)およびDNBS(Khan et al.,Infect Immun 2002;70:5931-5937)について過去に記載されたスコアリングシステムを用いて実施する。
【0353】
結腸の組織学的評定のために、結腸切片をホルマリン中で固定し、パラフィンに包埋し、続いて切り出し、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色する。結腸の損傷を、先に記載されたDSS大腸炎スコアリングシステムに基づいて盲検でスコアリングする。スコアリングシステムは、構造の喪失(0、正常~3、重度)、細胞浸潤(0、正常~3、重度)、筋肉肥厚(0、正常~3、重度)、杯細胞の枯渇(0、なし;1、あり)、腺窩膿瘍(0、なし;1、あり)を判断する。
【0354】
MPO活性の測定を、Khanら(Infect Immun 2002;70:5931-7)に記載された通り実施する。結腸組織試料を、0.5%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを含有する氷冷50mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中でホモジナイズし、ホモジネートを遠心分離し、上清を取り出し、アリコートを、リン酸カリウム緩衝液、O-ジアニシジン、および過酸化水素を含有する溶液に添加する。吸光度を、分光光度計を用いて450nmで測定する。MPO活性を、単位/ミリグラム湿潤組織で表し、ここで1単位は、室温で1分間に過酸化水素1μmolを水に変換できる酵素量である。
【0355】
DAIスコア、組織学的検査、およびMPO活性を、処置群間で比較する。
【0356】
実施例22 - 経口の完全にウシの組換えモノクローナルIgG1またはウシ化抗TNF抗体でのTNBS誘導性大腸炎のマウスモデルの処置
C57BL/6マウス((8~9週齢)Charles River Laboratories、マサチューセッツ州ウィルミントン所在)に、50%エタノール中の0.1mL TNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸塩)(4mg)を直腸内投与する。TNBSモデルは、炎症性腸疾患の広く受け入れられたモデルである。対照動物は、エタノールのみを投与される。12匹をTNBS処置群で用い、8匹を他の群それぞれで用いる。動物は、0.05mg、0.015mg、もしくは0.005mgのウシ化もしくは完全にウシの組換えモノクローナル抗TNF抗体(実施例14~16に記載された通り選択および生産される)、0.015mgのアイソタイプ対照抗体(例えば、IgG1抗体)、または生理食塩水を、0.1mlで強制経口投与により1日2回投与される。試料は全て、0.2mgオボアルブミンを賦形剤として含有する。抗体を、-1日目~3日目に投与する。
【0357】
各マウスを、5日目の殺処分の直前にイソフルラン麻酔の下で、ビデオ内視鏡を用いて分析する。各内視鏡操作の間、静止画像およびビデオを記録して、大腸炎の程度および処置への応答を評価する。大腸炎の重症度を、0~4スケール(0=正常;1=血管分布状態の喪失;2=血管分布状態の喪失および脆弱性;3=脆弱性およびびらん;4=潰瘍および出血)を用いて盲検で観察者がスコア付けする。群間の差を、分析する。
【0358】
実施例23 - 完全にウシの組換えモノクローナルIgG1またはウシ化抗TNF抗体での慢性大腸炎の養子移植モデルの処置
慢性CD45RBhigh移植大腸炎を、本質的には米国特許第8,119,401号に記載された通り誘導する。手短に述べると、BALB/c脾細胞を、赤血球細胞溶解および、以下のB220(クローンRA3-6B2)、Mac-1(クローンM1/70)、およびCD8αに対するラット抗マウスmAbを用いる負の選択により、CD4細胞について最初に濃縮する。MAb染色細胞を、ヒツジ抗ラットIgGコーティング磁気ビーズ(Dynal、ドイツ、ハンブルグ所在)を用いて磁場中で取り出す。得られたCD4濃縮細胞を、サイクローム(cychrome)(Cy)コンジュゲートCD4およびフルオレセインイソチオシアナート(FITC)コンジュゲートCD45RB mAbで染色する。CD4細胞の亜集団を、FACSソーター(Becton Dickinson)での二色選別(two color sorting)により作製する。
【0359】
C.B-17 SCIDマウスに、PBS中の選別されたCD4細胞亜集団を腹腔内注射する。大腸炎を誘導するために、CD45RBhighCD4細胞(1~4×10)をSCIDマウスに移植する。移植日に開始して、マウスに、生理食塩緩衝液中の0.1mgのウシ化もしくは完全にウシの組換えモノクローナル抗TNF IgG1抗体(実施例14~16に記載された通り選択および生産される)、またはアイソタイプ対照抗体(例えば、IgG1)を、1日1回投与する。抗体は、ウシ血清アルブミン10mgに配合される。
【0360】
マウスを週に2回計量し、基底体重からの体重減少の割合%により、消耗性疾患を決定する。血漿サイトカイン測定のために、末梢血を後眼窩静脈叢穿刺により異なる時点で採取する。
【0361】
マウスを移植のおよそ4~6週間後に殺処分し、組織学的等級付けのために、結腸を単離し4%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、切り出し、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色する。炎症を、処置の割り付けを知らされていない経験のある病理医により、Powrieら(Coico R,ed.Current protocols in immunology.Vol.4:John Wiley & Sons,Inc.,1999:15.3.1-0.3.0の中のInduction of inflammatory bowel disease in immunodeficient mice by depletion of regulatory T cells)に記載された通り、変化なし~重度の変化を表す0~4のスケールにスコア付けする。
【0362】
実施例24 - 抗体の有効性
本明細書に記載される抗体の有効性を、ELISA、TNF中和、および実施例2、3および11に記載されたパンクレアチン消化アッセイを用いてインビトロでテストできる。抗体のインビボ有効性を、目的のターゲットに関連する動物モデルを用いてテストできる。例えばウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗TNF IgG1抗体の場合、実施例21~23に記載された動物モデル系を用いることができる。これらの抗体の有効性を、AVX-470および/またはインフリキシマブの有効性と並行して決定し、比較できる。所望の特性(例えば、ELISA結合、TNF中和能力、およびパンクレアチン抵抗性)を有する抗体を、選択する。
【0363】
実施例25 - 抗体の生体分布
本明細書に記載されるウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗体を、マウスにおけるそれらの生体分布を評価するために、標準法(例えば、D’Alessandria et al.,Q J Nucl Med Mol Imaging 2007;51:334-42参照)を用いて検出可能な標識(例えば、99mTcなどの放射性標識)にコンジュゲートする。手短に述べると、マウスに標識された抗体を経口投与し、マウスを抗体投与後の異なる時点(例えば、注射の30分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後、および24時間後)で殺処分する。殺処分後に、血清を採取する。胃腸管を摘出し、一定容量の生理食塩水で灌流し、切り出し、計量し、標識が放射性であれば放射能を評定する。臓器活性を、投与された活性の割合(%AD)/組織gまたは/血清mLまたは/消化器官灌流液mLとして表す。本明細書に記載される抗体の生体分布を、既知の抗体と並行して決定できる。例えばウシ化および完全にウシの組換えモノクローナル抗TNF IgG1抗体について、これらの抗体の生体分布を、AVX-470および/またはインフリキシマブの生体分布と並行して決定し比較できる。
【0364】
***************
本明細書で参照される特許および科学文献は、当業者に入手可能な知識を確証する。本明細書で引用された全ての米国特許および公開または未公開の米国特許出願は、参照により組み入れられる。本明細書で引用された全ての公開された外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書で引用された全ての他の発表された参考資料、文書、原稿および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0365】
本発明を、好ましい実施形態を参照して詳細に図示および記載したが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が可能であることは、当業者に理解されよう。本明細書に記載された実施形態が互いに排他的でないこと、および様々な実施形態の特色を本発明に従って全体または一部として組み合わせ得ることも、理解されなければならない。
【0366】
均等物
当業者は、本明細書に開示された具体的実施形態の多くの均等物を、日常的実験法を利用するだけで認識する、または確認できよう。
【0367】
本出願は、以下の発明を含み得る。
(1)
(a)非ウシ抗体からの重鎖および軽鎖CDRと(b)ウシIgG1定常領域の全てまたは一部を含む定常領域とを含む単離された組換えモノクローナル抗体。
(2)
前記非ウシ抗体が、ヒト抗体である、(1)に記載の抗体。
(3)
前記定常領域が、ウシIgG1ヒンジ領域の全てまたは一部を含む、(1)または(2)に記載の抗体。
(4)
前記定常領域が、ウシIgG1 CH1ドメインの全てまたは一部を含む、(1)~(3)のいずれか一項に記載の抗体。
(5)
前記定常領域が、ウシIgG1 CH2ドメインの全てまたは一部をさらに含む、(3)または(4)に記載の抗体。
(6)
前記定常領域が、ウシIgG1 CH3ドメインの全てまたは一部をさらに含む、(3)または(4)に記載の抗体。
(7)
ウシIgG1中に見出される以下の特色:
a)前記CH1ドメインのN末端を前記ヒンジ領域のN末端に連結するジスルフィド結合、
b)前記CH1ドメインのN末端を前記軽鎖のC末端に連結するジスルフィド結合、および
c)2つの重鎖のヒンジ領域を共に連結する3つのジスルフィド結合のクラスター、
の1つまたは複数を含む、(1)~(6)のいずれか一項に記載の抗体。
(8)
前記ウシIgG1定常領域が、SEQ ID NO:1~3のいずれかから選択される、(1)~(7)のいずれか一項に記載の抗体。
(9)
前記定常領域が、ヒト定常領域の一部をさらに含む、(1)~(8)のいずれか一項に記載の抗体。
(10)
前記ヒト定常領域が、IgG1またはIgG2である、(9)に記載の抗体。
(11)
前記抗体の定常領域が、ウシIgG1中に見出される以下の特色:
a)前記CH1ドメインのN末端を前記ヒンジ領域のN末端に連結するジスルフィド結合、
b)前記CH1ドメインのN末端を前記軽鎖のC末端に連結するジスルフィド結合、および
c)2つの重鎖のヒンジ領域を共にに連結する3つのジスルフィド結合のクラスター、
の1つまたは複数を含む、単離された組換えモノクローナルヒト抗体。
(12)
生物学的抗原に結合する、(1)~(11)のいずれか一項に記載の抗体。
(13)
前記抗原が、TNF-αである、(12)に記載の抗体。
(14)
インフリキシマブの重鎖および軽鎖可変領域配列を含む、(13)に記載の抗体。
(15)
プロテアーゼ消化後に抗原結合を保持する、(1)~(14)のいずれか一項に記載の抗体。
(16)
以下の置換(カバットナンバリング):252の位置でトレオニンがメチオニンと置換される;255の位置でグリシンがアルギニンと置換される;309の位置でグルタミンがロイシンと置換される;314の位置でトレオニンがロイシンと置換される;かつ315の位置でグリシンがアスパラギンと置換される、の1つまたは複数を含む定常領域を含む、(1)~(15)のいずれか一項に記載の抗体。
(17)
完全にウシの組換えモノクローナルIgG1抗体。
(18)
(1)~(17)のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸。
(19)
(18)に記載の核酸を含む発現ベクター。
(20)
(18)に記載の核酸または(19)に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
(21)
(1)~(17)のいずれか一項に記載の抗体と担体とを含む医薬組成物。
(22)
経口投与用に配合される、(21)に記載の組成物。
(23)
防腐剤をさらに含む、(21)または(22)に記載の組成物。
(24)
凍結乾燥される、(21)~(23)のいずれか一項に記載の組成物。
(25)
それを必要とする個体に(1)~(17)のいずれか一項に記載の抗体を経口投与することを含む消化管の疾患を処置する方法。
(26)
前記疾患が、潰瘍性大腸炎である、(25)に記載の方法。
(27)
前記疾患が、クローン病である、(25)に記載の方法。
(28)
請求項20に記載の細胞中で前記抗体を発現させることおよび前記細胞から前記抗体を単離することを含む、(1)~(17)のいずれか一項に記載の抗体を生産する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
【配列表】
2022185053000001.app