(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185075
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】多層フィルム、包装材及び包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221206BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160336
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2022548158の分割
【原出願日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021091365
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 大輔
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
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3E086BB51
3E086CA03
3E086DA01
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK33A
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4F100GB15
4F100JL12A
4F100JN30
(57)【要約】
【課題】内容物から生じる硫黄臭に対する消臭性、及び内容物の視認性に優れる多層フィルムを提供すること。
【解決手段】本開示は、プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する、ヒートシール層である第一の外層と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する内層と、プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する第二の外層と、をこの順に備え、第一の外層、内層及び第二の外層の少なくともいずれかの層がポリフェノール化合物を更に含有する、多層フィルムに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する、ヒートシール層である第一の外層と、
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する内層と、
プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する第二の外層と、をこの順に備え、
前記第一の外層、前記内層及び前記第二の外層の少なくともいずれかの層がポリフェノール化合物を更に含有する、多層フィルム。
【請求項2】
前記ポリフェノール化合物の含有量が、前記多層フィルムの全量を基準として1.5~8.0質量%である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記内層が、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量部及び前記エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量部を含有し、かつ前記ポリフェノール化合物を更に含有する、請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記第一の外層及び第二の外層が、前記プロピレン単独重合体(A)70~30質量部、及び前記プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)30~70質量部を含有し、かつ前記ポリフェノール化合物を更に含有する、請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記ポリフェノール化合物が縮合型タンニンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記第一の外層及び前記第二の外層の総厚が、前記多層フィルムの厚さを基準として25~42%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記内層の厚さが30μm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の多層フィルムと、基材と、を備える包装材。
【請求項9】
請求項8に記載の包装材から製袋された包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多層フィルム、包装材及び包装体に関する。詳しくは、本開示は、包装体用シーラントフィルムとして、沸水処理やレトルト処理等の過酷な処理にも好適に使用できる、ポリプロピレン系多層フィルム、並びに当該ポリプロピレン系多層フィルムを用いて得られる包装材及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系フィルムは、剛性及び耐熱性に優れ、かつ安価であることから、食品包装等の種々の包装用材料における、シーラントフィルムとして使用されることがある。当該ポリプロピレン系フィルムの主な用途としては、高温での加圧処理により殺菌又は滅菌を行う、レトルト食品向けの包装用途が挙げられる。
【0003】
レトルト食品等の高温での殺菌、滅菌処理を行う包装食品では、製造中の加熱殺菌や長期保管によって内容物が劣化・変性し、変性臭が発生する場合がある。この変性臭の発生源は、炭水化物、油脂、たんぱく質等であり、その中でも、肉、魚、大豆、玉子等に含まれているたんぱく質の変性臭、特に硫黄化合物由来の硫黄臭が問題になることが多い。
【0004】
特許文献1では、基材フィルム上に形成されたポリカルボン酸系重合体を含む樹脂層からなるフィルムである酸素バリア性材料の表面に、亜鉛化合物と溶媒又は分散媒体とからなるコーティング剤を塗布することを特徴とする包装体が提案されている。
【0005】
特許文献2では、ヒートシール性樹脂と、SiO2/Al2O3モル比が30/1~8000/1の疎水性ゼオライトとを含むシーラント層を備える、加熱殺菌処理用積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-018551号公報
【特許文献2】特開2019-177521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載されている包装体は、硫黄臭に対する消臭効果が発現されるものの、内容物の視認性に関して改善の余地がある。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、内容物から生じる硫黄臭に対する消臭性、及び内容物の視認性に優れる多層フィルムを提供することを目的とする。本開示はまた、当該多層フィルムを用いて得られる包装材及び包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリプロピレン系多層フィルムを構成する複数のポリプロピレン系の層の内の少なくとも1層にポリフェノール化合物を配合させることが重要であることを発明者らが見出し、以下の多層フィルムを完成させるに至った。
【0010】
本開示の一側面に係る多層フィルムは、プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する、ヒートシール層である第一の外層と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する内層と、プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する第二の外層と、をこの順に備え、第一の外層、内層及び第二の外層の少なくともいずれかの層がポリフェノール化合物を更に含有する。
【0011】
上記多層フィルムでは、ポリプロピレンフィルム中にポリフェノール化合物を配合することで、ポリフェノール化合物が有する水酸基による強い還元力により、硫黄化合物由来の硫黄臭に対する優れた消臭効果を得ることができる。また、消臭効果を付与する材料に有機系化合物であるポリフェノール化合物を用いることで、無機系化合物を配合する場合と比較して、フィルム内での光の乱反射を抑制することができ、優れた透明性を得ることができる。このようなフィルムは、酸化亜鉛粒子を含むコーティング剤を用いた場合(例えば、上記特許文献1)や、疎水性ゼオライトを含むシーラント層を用いた場合(例えば、特許文献2)に比して、内容物の視認性をより向上しつつ、消臭効果を得ることができる。当該効果は、特に硫黄臭が発生し易い食品レトルト処理用途において好適である。また、ポリフェノール化合物は、天然物由来ではない他の有機系又は無機系の消臭剤に比して、環境や人体の健康への影響が少ないという利点がある。
【0012】
一態様において、ポリフェノール化合物の含有量が、多層フィルムの全量を基準として1.5~8.0質量%であってよい。これにより、より優れた消臭性及び視認性を両立することができる。
【0013】
一態様において、内層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量部及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量部を含有し、かつポリフェノール化合物を更に含有してよい。内層がプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量部及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量部を含有することにより、フィルムの柔軟性が維持され、優れた耐寒衝撃性が得易い。更に、内層がポリフェノール化合物を含有することにより、多層フィルムに消臭機能を付与することができる。特に、外層よりも層厚が厚くなる傾向にある内層にポリフェノール化合物を含有させることにより、見かけ上の存在量が少なくなり透明性を確保し易い。
【0014】
一態様において、第一の外層と第二の外層は、プロピレン単独重合体(A)70~30質量部及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)30~70質量部を含有し、かつポリフェノール化合物を更に含有してよい。平滑性の高いプロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を用いることにより、フィルムの透明性を低下させる要因である表面の凹凸を抑制し易くなる。これにより、より優れた耐熱性と透明性の両立が可能となる。更に、外層がポリフェノール化合物を含有することにより、多層フィルムに消臭機能を付与することができる。
【0015】
一態様において、ポリフェノール化合物は縮合型タンニンであってよい。これにより、より優れた消臭性及び視認性を両立することができる。
【0016】
一態様において、第一の外層及び第二の外層の総厚が、多層フィルムの厚さを基準として25~42%であってよい。これにより、透明性及びヒートシール性を両立し易い。
【0017】
一態様において、内層の厚さは30μm以上であってよい。これにより、フィルムの柔軟性を維持し易く、優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0018】
本開示の一側面に係る包装材は、上記の多層フィルムと、基材と、を備える。
【0019】
本開示の一側面に係る包装体は、上記の包装材から製袋される。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、内容物から生じる硫黄臭に対する消臭性、及び内容物の視認性に優れる多層フィルムを提供することができる。本開示はまた、当該多層フィルムを用いて得られる包装材及び包装体を提供することができる。本開示によれば、ポリフェノール化合物に代えて例えば同量の無機系粒子を用いた場合に比して、高い硫化水素減少率を維持しながら透明性を大幅に改善できる多層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る多層フィルムの断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る包装材の断面図である。
【
図3】
図3は、実施例にて使用したプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)の総融解熱量と135℃で融解熱量を分割した結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<多層フィルム>
図1は、本開示の一実施形態に係る多層フィルムの断面図である。多層フィルム10は、第一の外層1aと、内層2と、第二の外層1bと、をこの順に備える。多層フィルムはポリプロピレン系多層フィルムであり、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムとして用いることができる。
【0023】
[第一の外層及び第二の外層]
第一の外層及び第二の外層は、プロピレン単独重合体(A)、及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有する。第一の外層及び第二の外層は、プロピレン単独重合体(A)、及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)から形成されてよい。第一の外層及び第二の外層をまとめて、単に外層という場合がある。第一の外層及び第二の外層は同一の組成を有していてもよく、異なる組成を有していてもよい。包装材として用いられる場合、第一の外層がヒートシール層としての役割を有し、内容物に接するように配置される。
【0024】
(プロピレン単独重合体(A))
プロピレン単独重合体(A)は、その製造方法が特に制限されるものではないが、例えばチーグラー・ナッタ型触媒、メタロセン触媒、又はハーフメタロセン触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法により得ることができる。外層がプロピレン単独重合体(A)を含有することにより、外層に優れた耐熱性を付与することができる。
【0025】
プロピレン単独重合体(A)としては、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が150℃以上、融解ピーク温度が155℃以上であるものを用いることができる。融解開始温度及び融解ピーク温度が共にこの範囲内であるものは、優れた耐熱性を有し、例えば高温でのレトルト処理を行った後に、包装体の内面で融着が発生し難い。
【0026】
プロピレン単独重合体(A)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が2.0~7.0g/10分であるものを用いることができる。メルトフローレートは高分子材料の溶融時の流動性を示すパラメーターであり、また分子量を示すパラメーターでもある。そのため、メルトフローレートが高すぎると高分子材料の耐衝撃性が低下し易く、また、低すぎると成形加工時の押出機負荷が大きくなり、加工速度が低下し、生産性が低下し易い。これらの観点から、メルトフローレートは2.0~6.0g/10分とすることができ、2.0~5.0g/10分であってよい。
【0027】
(プロピレン・エチレンランダム共重合体(B))
プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)は、その製造方法が特に制限されるものではないが、例えばチーグラー・ナッタ型触媒、メタロセン触媒、又はハーフメタロセン触媒を用いて、プロピレンからなる主モノマー中にコモノマーとしてエチレンを共重合することにより得ることができる。外層がプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)を含有することにより、優れた透明性と柔軟性を有する多層フィルムを得ることができる。
【0028】
プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)としては、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が140℃以上、融解ピーク温度が145℃以上であるものを用いることができる。融解開始温度及び融解ピーク温度が共にこの範囲内であるものは、優れた耐熱性を有し、例えば135℃で40分間の過酷なレトルト処理を行った後に、包装体の内面で融着が発生し難い。
【0029】
プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)としては、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、測定温度135℃より高温側の融解熱量ΔHhと、低温側の融解熱量ΔHlとの比率ΔHh/ΔHlが1.5~2.5であるものを用いることができる。上記比率が上限値以下であることで、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にヒートシール部のエッジ切れを抑制でき、ヒートシール強度が低下し難い。上記比率の下限値は、レトルト処理後に包装体の内面で融着が発生し難い観点から1.5とすることができる。
【0030】
プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)のエチレン含有量は5.0質量%以下とすることができる。エチレン含有量が上限値以下であることで、透明性を維持しつつも耐熱性が過度に低下せず、レトルト処理後に包装体の内面における融着を抑制し易くなる。この観点から、当該エチレン含有量は4.5質量%以下であってよく、4.0質量%以下であってよい。エチレン含有量の下限は特に限定されないが、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にヒートシール部でエッジ切れを抑制でき、ヒートシール強度が低下し難い観点から、2.0質量%とすることができる。
【0031】
プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)のエチレン含有量は、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷)の412~413ページに記載の、エチレン含有量の定量方法(IR法)に従い測定することができる。
【0032】
外層は、プロピレン単独重合体(A)70~30質量部、及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)30~70質量部を含有してよい。プロピレン単独重合体(A)の含有割合が30質量部以上であることで、優れた耐熱性を維持し易い。また、プロピレン単独重合体(A)の含有割合が70質量部以下であることで、すなわち、プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)の含有量が少なくとも30質量部以上であることで、優れた透明性、ヒートシール性を発現し易い。これらの観点から、外層は、プロピレン単独重合体(A)60~40質量部、及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)40~60質量部を含有してよい。
【0033】
[内層]
内層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する。内層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)から形成されてよい。
【0034】
(プロピレン・エチレンブロック共重合体(C))
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、第一工程でプロピレン重合体(C1)を製造し、次いで、第二工程で気相重合によりエチレン-プロピレン共重合体(C2)を製造することで得ることができる共重合体である。プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、プロピレン重合体末端とエチレン-プロピレン共重合体末端が結合されたブロック共重合体ではなく、一種のブレンド系の共重合体である。内層がプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)を含有することにより、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にヒートシール部のエッジ切れを抑制でき、優れたヒートシール性を得易く、また、優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0035】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.5~2.5g/10分であるものを用いることができる。メルトフローレートが高くなりすぎるとフィルムの耐衝撃性が低下し易く、また、低すぎると成形加工時の押出機負荷が大きくなり、加工速度が低下し、生産性が低下し易い。これらの観点から、メルトフローレートは1.0~2.5g/10分とすることができ、1.0~2.0g/10分であってよい。
【0036】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、上記プロピレン重合体(C1)90~60質量%及びエチレン-プロピレン共重合体(C2)10~40質量%を含有してよい。各成分がこの範囲であることにより、優れたヒートシール性が得易く、また、優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0037】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)に含まれている、エチレン-プロピレン共重合体(C2)のエチレン含有量は、特に制限はないが、20~40質量%とすることができる。エチレン含有量が上限値以下であることで、生成物のタック性を抑制することができ、製造時に生成物のタックによる汚染が生じ難く優れた生産性を維持し易い。エチレン含有量が下限値以上であることで、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にヒートシール部のエッジ切れを抑制でき、優れたヒートシール性を得易く、また、優れた耐寒衝撃性が得易い。
【0038】
(エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D))
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)は、例えばヘキサン、ヘプタン、灯油等の不活性炭化水素、又はプロピレン等の液化α-オレフィン溶媒の存在下で行うスラリー重合法、無溶媒下の気相重合法などにより得ることができる。具体的には、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)は、公知の多段重合法を用いて得られる。すなわち、第1段の反応でプロピレン及び/又はプロピレン-α-オレフィン重合体を重合した後、第2段の反応でプロピレンとα-オレフィンとの共重合により得ることができる、重合型高ゴム含有ポリプロピレン系樹脂である。内層がエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有することにより、フィルムに柔軟性を付与し易く、ヒートシール部のエッジ切れを抑制でき、優れたヒートシール性を得易く、また優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0039】
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.5~3.5g/10分であるものを用いることができる。メルトフローレートが下限値以上であることで、成形加工時の押出機負荷が小さくなり、加工速度が低下し難く優れた生産性を維持し易い。メルトフローレートが上限値以下であることで、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)との相容性が良好となり、透明性が低下し難い。
【0040】
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)としては、プロピレン含有量とエチレン含有量の質量比(プロピレン含有量/エチレン含有量)が1.5~4.0であるものを用いることができる。上記比が下限以上であることで、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にヒートシール部のエッジ切れを抑制でき、優れたヒートシール性を得易い。上記比が上限値以下であることで、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)との相容性が良好となり、透明性が低下し難い。
【0041】
内層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量部及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量部を含有してよい。プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)の含有割合が50質量部以上であることで、優れたヒートシール性を維持し易い。また、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)の含有割合が90質量部以下であることで、すなわち、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の含有量が少なくとも10質量部以上であることで、さらに優れたヒートシール性及び優れた耐寒衝撃性を発現することができる。これらの観点から、内層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)80~60質量部、及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)20~40質量部を含有してよい。
【0042】
[ポリフェノール化合物]
第一の外層、内層及び第二の外層の少なくともいずれかの層は、ポリフェノール化合物を更に含有する。内層が、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)に加えて、ポリフェノール化合物を更に含有する場合、フィルムの透明性を維持できると共にフィルムに消臭機能を付与することができる。外層が、プロピレン単独重合体(A)及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)に加えて、ポリフェノール化合物を更に含有する場合、フィルムに消臭機能を付与することができる。
【0043】
ポリフェノール化合物の含有量は、多層フィルムの全量を基準として1.5~8.0質量%とすることができ、1.5~5.0質量%であってよく、2.0~4.5質量%であってよく、3.0~4.0質量%であってよい。ポリフェノール化合物の含有量が下限以上であることで、硫黄化合物由来の硫黄臭に対して優れた消臭効果を得易くなり、上限以下であることで、優れた透明性を発現し易くなる。
【0044】
ポリフェノール化合物としては、タンニン、タンニン酸、没食子酸、また高分子ポリフェノールである縮合型タンニン等が挙げられる。縮合型タンニンは、柿の実(渋柿)、未熟バナナ、ブドウの果皮及び種子等に含まれ、圧搾や溶媒抽出により、濃縮物として得ることができる。これらのポリフェノール化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
優れた消臭性確保の観点から、縮合型タンニンとしてはカキタンニンを特に用いることができる。カキタンニンを多量に含むものとしては柿渋が知られている。柿渋には、縮合型タンニンの1種であるカキタンニンが多量に含まれている。カキタンニンは、エピカテキン、カテキン-3-ガレート、エピガロカテキン、及びガロカテキン-3-ガレートを構成成分とする、高分子のプロアントシアニジンポリマーである。カキタンニンは、反応性の強いヒドロキシ基を多く有する。このため、臭い成分と結合して包み込むことで、消臭作用を発揮することができると考えられる。また、カキタンニンは、天然物由来ではない他の有機系又は無機系の消臭剤や抗菌剤に比して、環境や人体の健康への影響が少なく、特にレトルト食品向けの包装材に好適である。
【0046】
多層フィルムにカキタンニンを含ませる場合、例えば精製して得られるカキタンニンを用いてもよく、カキタンニンを含有する柿渋それ自体を用いてもよい。柿渋を用いる場合、熱可塑性樹脂でタンニン量を調整することができる。柿渋を用いることでカキタンニンを精製する工程を省略することができ、経済的により優れる。
【0047】
多層フィルムの厚さは、例えば包装材料用のフィルムとして使用可能な範囲であれば特に制限されることはないが、フィルムが厚すぎる場合にはコストデメリットとなる。このため、多層フィルムの厚さは100μm以下とすることができ、50~70μmであってよい。
【0048】
外層の厚さ(すなわち第一の外層及び第二の外層の総厚)は、多層フィルムの厚さを基準として25~42%であってよい。外層の厚さの割合が下限値以上であることで、優れた透明性を得易く、また上限値以下であることで、フィルムのヒートシール性の低下を抑制することができ、実用性が得られ易い。
【0049】
外層の厚さ(すなわち第一の外層及び第二の外層の総厚)は、10μm以上であってよく、15μm以上であってよい。これにより、フィルムの透明性が確保し易く、またヒートシール強度が低下し難い。外層の厚さ上限は特に制限されないが、耐寒衝撃性が確保され易いよう、40μm以下とすることができ、30μm以下であってよく、20μm以下であってよい。
【0050】
内層の厚さは30μm以上であってよく、35μm以上であってよい。これにより、フィルムの柔軟性が維持され、レトルト処理後にフィルムが破断し難くなり、ヒートシール強度が低下し難い。内層の厚さ上限は特に制限されないが、例えばコストの観点から、80μm以下とすることができ、70μm以下であってよく、50μm以下であってよい。
【0051】
<多層フィルムの製造方法>
多層フィルムを製造する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用することが可能である。例えば、熱成形加工の方法としては、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解又は分散混合後、溶剤を加熱除去する方法等が挙げられる。作業性を考慮した場合、単軸スクリュー押出機又は2軸スクリュー押出機を使用することができる。単軸押出機を用いる場合、スクリューとしては、フルフライトスクリュー、ミキシングエレメントを持つスクリュー、バリアフライトスクリュー、フルーテッドスクリュー等が挙げられ、これらを特に制限なく使用することができる。2軸押出機としては、同方向回転2軸スクリュー押出機、異方向回転2軸スクリュー押出機等を用いることができ、またスクリュー形状としてはフルフライトスクリュー、ニーディングディスクタイプのスクリュー等特に限定なく用いることができる。
【0052】
上記方法において、多層フィルムを単軸押出機又は2軸押出機等により溶融したのち、フィードブロック又はマルチマニホールドを介しTダイで製膜する方法を用いることが可能である。
【0053】
得られた多層フィルムには、必要に応じて後工程適性を向上する表面改質処理が施されてよい。例えば、単体フィルム使用時の印刷適性向上や、積層使用時のラミネート適性向上のために、印刷面や基材と接触する面に対して表面改質処理を行ってよい。表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させることにより官能基を生じさせる処理や、コーティングにより易接着層を形成するウェットプロセスによる改質処理が挙げられる。
【0054】
<包装材>
多層フィルムは、単体フィルムとして用いてもよく、基材と積層して用いてもよく、その包装材としての使用方法は特に制限されるものではない。
【0055】
多層フィルムを基材と積層して用いる場合、包装材は、上記の多層フィルムと基材とを備えることができる。そのような包装材は、具体的には上記の多層フィルムに、二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)、二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)、印刷紙、金属箔(AL箔)、透明蒸着フィルム等の基材を少なくとも1層積層し、積層体を形成することで得ることができる。
図2は、本開示の一実施形態に係る包装材の断面図である。同図に示す包装材100は、多層フィルム10、接着層3、基材フィルム4、接着層5、及び透明蒸着フィルム6をこの順に備える。積層体の製造方法としては、このように多層フィルムに基材フィルム等を接着剤を用いて貼合せる通常のドライラミネート法の他、必要に応じて多層フィルムを基材フィルム等の上に直接押出ラミネートする方法が挙げられる。
【0056】
積層体の積層構造は、包装体の要求特性、例えば包装する食品の品質保持期間を満たすバリア性、内容物の重量に対応できるサイズ・耐衝撃性、内容物の視認性等に応じて適宜調整することができる。
【0057】
<包装体>
包装体(包装袋)は上記の包装材から製袋されてよく、その製袋様式に関しては特に制限されない。例えば上記の包装材(積層体)は、多層フィルムをシール材とする、平袋、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スタンディングパウチ、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等に用いることが可能である。
【実施例0058】
以下、本開示を実施例を用いて詳細に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
<各種材料の準備>
以下に示すプロピレン単独重合体(A)、プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)、消臭剤マスターバッチ(E)を準備した。
【0060】
(プロピレン単独重合体(A))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が153℃、融解ピーク温度が159℃であり、かつメルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が3.0g/10分であるプロピレン単独重合体。
【0061】
(プロピレン・エチレンランダム共重合体(B))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が142℃、融解ピーク温度が147℃、ΔHh/ΔHlが1.84であり、かつエチレン含有量が3.4質量%であるプロピレン・エチレンランダム共重合体。
【0062】
エチレン含有量の測定は、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷)の412~413ページに記載の、エチレン含有量の定量方法(IR法)に従い行った。
ΔH
h/ΔH
lは、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、測定温度135℃より高温側の融解熱量ΔH
hと、低温側の融解熱量ΔH
lとの比率である。
図3は、プロピレン・エチレンランダム共重合体(B)の総融解熱量と135℃で融解熱量を分割した結果を表す図である。
【0063】
(プロピレン・エチレンブロック共重合体(C))
メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が2.0g/10分であり、プロピレン重合体77.1質量%及びエチレン-プロピレン共重合体22.9質量%を含有し、エチレン-プロピレン共重合体に含まれるエチレン含有量が28.7質量%であるプロピレン・エチレンブロック共重合体。
【0064】
(エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D))
メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.6g/10分であり、かつプロピレン含有量/エチレン含有量(質量比)が2.7であるエチレン・プロピレン共重合体エラストマー。
【0065】
(消臭剤マスターバッチ(E))
消臭剤マスターバッチ(E)として、リリース科学工業株式会社製のMB-FPW-PEを用いた。
【0066】
<多層フィルム(ポリプロピレン系多層フィルム)の作製>
(実施例1)
外層形成用に、プロピレン単独重合体(A)50質量部及びプロピレン・エチレンランダム共重合体(B)50質量部をペレット状態で混合した樹脂混合体を調製した。
内層形成用に、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)67.8質量部及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)32.2質量部をペレット状態で混合し、更に消臭剤マスターバッチ(E)をプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の合計100質量部に対して3.09質量部(多層フィルム中のカキタンニン含有量が2.0質量%になるように調整)混合した樹脂混合体を調製した。
それぞれの樹脂混合体を250℃に温調した押出機に供給し、溶融状態にて混錬して、フィードブロックを持つTダイ押出機にて第一の外層及び第二の外層の厚さがそれぞれ10μm、内層の厚さが40μmとなるように積層し、実施例1のフィルムを作製した。
【0067】
(実施例2)
消臭剤マスターバッチ(E)の配合割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2のフィルムを作製した。
【0068】
(実施例3)
消臭剤マスターバッチ(E)の配合割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3のフィルムを作製した。
【0069】
(実施例4)
消臭剤マスターバッチ(E)の配合割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4のフィルムを作製した。
【0070】
(比較例1)
消臭剤マスターバッチ(E)を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のフィルムを作製した。
【0071】
<各種評価>
各例で得られたフィルムに対し以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
[レトルト後ヘーズ測定]
各例で得られた多層フィルムの第一の外層同士を対向させて、テスター産業株式会社製のヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒間、シール幅5mm、シール温度200℃の条件でヒートシールし、包装体(3方袋)を作製した。その後、包装体に水を充填し、135℃で40分間レトルト処理を行った。JIS K 7136に記載されているヘーズの測定方法に則り、日本電色工業株式会社製の分光色彩・ヘーズメーター(型番COH7700)を用いて、レトルト処理を行ったフィルムの評価を実施した。
【0073】
[硫化水素減少率]
厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)と、厚さ7μmのAL箔と、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)と、各例で得られた多層フィルムとを、ウレタン系接着剤を用いて通常のドライラミネート法で貼り合せ、次の構成の積層体を形成した。
積層体構成:PET/接着剤/AL箔/接着剤/ONy/接着剤/多層フィルム。
この積層体の、多層フィルム(第一の外層)同士を対向させて、テスター産業株式会社製のヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒間、シール幅5mm、シール温度200℃の条件でヒートシールし、包装体(3方袋)を作製した。その後、L-システインを0.03質量%含むシステイン水溶液を包装体に充填し、135℃で40分間レトルト処理を行った。レトルト処理後、包装体中の溶液を採取し、株式会社共立理化学研究所製のパックテスト(型番WAK-S)を用いて、硫化水素減少率の測定を行った。硫化水素減少率は、採取した溶液とパックテスト試薬を反応させた後、分光光度計で波長668nmの吸光度を測定し、消臭剤を配合していない多層フィルムを用いて測定した吸光度(比較例1)に対する、各例で得られた多層フィルムを用いて測定した吸光度の減少率から算出した。
【0074】
本開示のポリプロピレン系多層フィルムは、レトルト食品から発生する硫黄臭に対して、優れた消臭効果を有するとともに、内容物を視認するのに必要な高い透明性に優れたレトルト包装用のシーラントフィルムに好適に使用できる。