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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185103
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】クレーン用情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/00 20060101AFI20221206BHJP
   B66C 13/46 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B66C13/00 D
B66C13/46 G
B66C13/46 A
B66C13/46 F
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163090
(22)【出願日】2022-10-11
(62)【分割の表示】P 2022555519の分割
【原出願日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020171200
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505199739
【氏名又は名称】株式会社五合
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】小川 宏二
(72)【発明者】
【氏名】澤田 輝彦
(57)【要約】      (修正有)
【課題】稼働実績データに基づいて、所定の評価が向上するよう施設内のレイアウトを改善する情報処理装置の提供。
【解決手段】天井クレーンのホイストに、カメラ、レーザレーダを装着し、稼働中の画像データ、3次元点群を取得可能とし、逐次、稼働実績データとして蓄積する。情報処理装置は、稼働実績データに基づいて、端末にクレーンの移動軌跡を表示させ、またメンテナンス時期を予測する。また、クレーンおよび作業者の位置関係等に基づいて、危険度を評価したり、事故の発生を検出する。さらに、移動経路の最適化、複数の吊荷の運搬シーケンスの最適化、施設内のレイアウトの最適化などの処理を行う。また、事後的にクレーンの運転について、危険度や運転効率の診断を行う。さらに、施設終業後などには、クレーンで施設内をスキャンさせ、火災や不審者などの異常を検出する。これらの処理によって、クレーンの有用性を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に関する情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンが使用される施設内の設備および障害物のレイアウトを記憶するレイアウトデータベースと、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の移動軌跡を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づいて、所定の評価が向上するよう前記レイアウトを改善するレイアウト最適化部を備える情報処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の情報処理装置であって、
前記レイアウト最適化部は、前記設備の移動について予め設定された拘束条件を考慮して前記レイアウトを求める情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の情報処理装置であって、
前記稼働実績データベースは、複数の吊荷に対する運搬経路を記憶しており、
前記レイアウト最適化部は、該複数の吊荷に対する運搬経路の総和が最短となるよう前記レイアウトを求める情報処理装置。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の情報処理装置であって、
前記レイアウト最適化部は、
前記吊荷の発着地を変更することで前記改善を試み、
その後、前記設備を移動することで前記改善を試みることで前記レイアウトを求める情報処理装置。
【請求項5】
請求項1~3いずれか記載の情報処理装置であって、
前記レイアウト最適化部は、前記所定の評価を報酬とする強化学習によって前記レイアウトを求める情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、倉庫などの施設において、重量物の運搬等に天井クレーンが利用されている。天井クレーンは、建物に設けられた走行レールに沿って、ホイスト、トロリなど吊荷を吊り下げるための吊上装置を水平方向に移動させることによって、吊荷の運搬を行う。
近年、特に天井クレーンについて、その有用性を高めるための種々の提案がなされている。例えば、特許文献1は、クレーンとともに移動するカメラで撮影した画像に基づいてクレーンの水平方向の位置を特定する技術を開示している。クレーンの位置が特定できれば、これによってクレーンを種々の用途に活用することが可能となる。また、特許文献2は、クレーンに取り付けたカメラによって、吊荷周辺の危険領域に人がいないかを判断する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6630881号公報
【特許文献2】特許第6601903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、天井クレーンについては、以下に示すように、まだ有用性を高めるための改良の余地が残されていた。
(1)クレーンを稼働させた実績を客観的かつ視覚的に把握することができなかった。そもそも、クレーンの移動距離がどれだけになるのか、クレーンでどれだけの吊荷を運搬したのか、などの実績を客観的なデータとして記憶されてはいなかった。
【0005】
(2)クレーンについては、定期的な点検は行われているものの、実際のクレーンの損耗状況に応じたメンテナンスは行われていなかった。クレーンの使用状況によっては、定期点検を待たずに故障等を招くおそれもある。従って、クレーンの稼働実績を踏まえて、メンテナンスの要否を判断することが望まれていた。
【0006】
(3)クレーンを安全に稼働させることは、重要な課題である。しかし、特許文献2では、吊荷周辺の危険領域における人の有無を利用しているが、吊荷の吊り上げ前、降下時などにはこの方法では判断できなかった。また、運搬中であっても、吊荷の進行方向や速度によって、危険領域は異なるため、その判断には改善の余地があった。
【0007】
(4)クレーンで吊荷を運搬する場合、その運搬経路についてはあまり考慮されていなかった。吊荷をA地点からB地点に運搬する際には、両地点を結ぶ直線経路で運搬することが最短距離になるはずであるが、こうした考慮すらなされておらず、結果として、無用に経路が長くなるなどの非効率的な運搬がなされていた。
【0008】
(5)クレーンを稼働するシステムにおいて、事後的に、危険な場面、非効率的な運搬場面などを確認等することができなかった。従って、作業者が、日々の稼働を踏まえて、クレーンの操作技術を効果的に向上させることができなかった。
【0009】
(6)クレーンで吊荷を運搬する場合、その運搬の順序については、あまり考慮されていなかった。吊荷の運搬順序によっては、クレーンを無駄に移動させることが生じ得るため、無駄な運転コストを生じさせるおそれがあり、また、クレーン自体の無駄な損耗を招くおそれもあった。
【0010】
(7)クレーンによって、日常的に繰り返し同様の吊荷を運搬する場合が少なからず存在する。しかし、従来、かかる状況を踏まえて、運搬効率の向上を図るための工夫などは、あまり考慮されてこなかった。
【0011】
(8)従来、クレーンは、吊荷の運搬にのみ用いられており、それ以上の用途については、あまり考慮されていなかった。特に、クレーンが、高所に取り付けられているという利点を活かすことについては、検討されてこなかった。
【0012】
(9)従来、吊荷に取り付けられたワイヤをクレーンのフックに引っかけて、吊荷を吊り上げるとき、重心の上方を正確に吊り上げることは困難であり、フックの位置と重心とは若干ながらずれがあることが多かった。従って、従来、このずれに起因して、地切、即ち吊荷が床から離れる瞬間に、吊荷が左右または前後に移動することがあり、吊荷の近傍で作業をしていた作業員に衝突するなどの危険があった。
【0013】
これらの課題は、必ずしも施設内に設置されたクレーンに限らず、固定された領域内を移動するタイプのクレーンに共通の課題であった。また、重量物の運搬用に限らず、例えば、介護用のクレーンなどにおいても共通の課題であった。
本発明は、上述した種々の点で、固定の領域内で移動するクレーンについて、その有用性を高めるために、クレーンの稼働中に取得される情報を処理する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、課題(1)に対応する第1の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の水平方向の位置情報を検出する位置検出部と、
該位置情報を時系列で記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースから、前記位置情報を読み出し、前記吊上装置の移動軌跡を表示する表示制御部とを備える情報処理装置とすることができる。
【0015】
第1の構成によれば、吊上装置の移動軌跡を確認することができ、クレーンの稼働実績を視覚的に把握することが可能となる。例えば、一日の全移動軌跡を表示させれば、クレーンがどの領域で主として稼働していたか、総移動距離が平常通りか否かなどを視覚的に把握できる。
第1の構成では、位置情報を時系列で記憶しているため、移動軌跡の表示は、吊上装置を移動軌跡に沿って移動させた動画の形で提供することもできる。
【0016】
第1の構成において、稼働実績データベースを含む情報処理装置は、吊上装置と一体に設けても良いし、吊上装置と接続された制御装置、コンピュータ、またはインターネットを介して接続されたウェブ上のサーバなどに設けてもよい。
移動軌跡の表示先も種々の選択が可能である。例えば、情報処理装置とネットワーク等で接続されたコンピュータのディスプレイや、タブレット、スマートフォンなどを用いることができる。
【0017】
第1の構成において、位置情報は、種々の方法で特定することができる。
(1)吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラを備え、
クレーンが設置された場所について予め壁、設備や障害物などの基準物の位置をデータベースとして記憶しておき、
カメラで撮影された画像を解析して、前記基準物との位置関係を特定することにより、カメラの位置、ひいては吊上装置の位置情報を特定するようにしてもよい。
(2)吊上装置が移動する走行レールに、位置を特定するためのマーキングを施し、
吊上装置とともに移動するセンサによって、当該マーキングを読み取り、
該読み取り結果に基づいて、走行レール上の位置、ひいては吊上装置の位置情報を特定するようにしてもよい。
(3)吊上装置とともに移動し、該吊上装置から水平方向に周囲の障害物までの距離を測定可能な測距センサを備え、
クレーンが設置された場所について予め壁、設備や障害物などの基準物の位置をデータベースとして記憶しておき、
前記測距センサにより計測された前記吊上装置と基準物との距離に基づいて、前記測距センサの位置、ひいては吊上装置の位置情報を特定するようにしてもよい。
上述の方法に限らず、種々の方法をとることが可能である。
【0018】
第1の構成において、位置情報を、稼働実績データベースに「時系列で」記憶するとは、位置情報の時間的な順序が特定できる態様で記憶されていることを意味している。必ずしも稼働実績データベースにおいて、時系列でソートされた位置情報が、メモリ領域に順に記憶されている状態に限定するものではない。位置情報は、種々の態様で記憶させることができる。
位置情報は、クレーンが設置された施設内のいずれかの点を基準とするxy座標、緯度経度などとすることができる。
また、時系列の態様としては、(1)位置情報と時効とを対応づけて記憶する態様、(2)位置情報を所定の時間間隔で取得するものとしておき、開始時刻と位置情報を記憶し、その後は、位置情報とその順序を対応づけて記憶する態様、などとすることができる。
吊上装置は、比較的直線的に移動することから、位置情報を取得した後、直線とみなせる位置情報は省略する前処理を施した上で記憶させるようにしてもよい。こうすることにより、データ量の削減を図ることができる。
【0019】
第1の構成においては、
前記稼働実績データベースは、前記位置情報とともに、前記吊荷を運搬中か否かを示す運搬情報を記憶しており、
前記表示制御部は、前記吊荷を運搬中の移動軌跡と、その他の移動軌跡とを視覚的に判別可能に表示するものとしてもよい。
【0020】
こうすることにより、移動軌跡において、運搬中か否かを容易に判別することができる。
表示態様としては、例えば、運搬中と空荷の状態で、移動軌跡を表示させる際の色、線種、線の太さなどを変える方法が挙げられる。また、運搬開始および運搬終了地点に、所定のマークを表示させてもよい。
また、上記態様においては、運搬中、その他を選択的に表示させてもよい。さらに、運搬中の1回目、2回目というように、特定の運搬のみ、または空荷の状態のみを表示させてもよい。
【0021】
第1の構成においては、
該吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像データを、時系列で記憶する画像データベースとを有し、
前記表示制御部は、前記移動軌跡に加えて、該移動軌跡上の各位置において撮影された画像とを表示させるものとしてもよい。
【0022】
上記態様によれば、カメラで撮影した画像と、その撮影位置とを容易に把握することができる。画像は、静止画、動画像のいずれであってもよい。
画像データは、吊上装置の位置情報または時刻と関連づけて記憶する。
画像の表示は、種々の態様で行うことができる。例えば、移動軌跡の一点をマウスその他で指示したときに、その点に対応する画像を表示させてもよい。この場合、指示された位置または時刻に完全に対応する画像が存在しない場合には、最も位置または時刻が近接する画像を抽出して表示させればよい。また別の態様として、画像の表示は、吊上装置を移動軌跡に沿って移動させる動画と併せ、それぞれの地点で撮影された画像を表示させてもよい。
【0023】
第1の構成においては、
前記稼働実績データベースは、さらに、前記吊上装置に対する操作を時系列で記憶しており、
前記表示制御部は、前記移動軌跡に加えて、該移動軌跡上の各位置における操作を表示させるものとしてもよい。
【0024】
こうすることにより、作業者が行った操作と、吊上装置の動作とを対応づけて確認することができる。例えば、吊上装置が、本来の移動方向と異なる方向に移動したとき、作業員の操作とを対応づけて確認することにより、操作の誤りなのか、装置の故障なのかの判断に役立てることができる。また、操作には、吊上装置の移動だけでなく、吊荷の上げ下げの操作も含めてよい。こうすることにより、吊上装置が単に停止しているのか、吊荷の上げ下げのために停止しているのかを容易に判別することが可能となる。
上記態様において、稼働実績データベースにおいて、操作の内容を表す操作データの記憶は種々の態様で行うことができる。例えば、吊上装置の位置情報と操作データとを対応づけて記憶させてもよい。また、位置情報とは別途、操作データを記憶させてもよい。吊荷の上げ下げを行う場合には、吊上装置の位置情報は変化しないはずであるから、操作データを個別に記憶させるものとすれば、無用な位置情報を記憶させる必要がなくなり、全体としてデータ量を抑制することが可能となる。
上記態様において、操作の表示は、種々の態様で行うことができる。移動軌跡上の一点をマウスその他で指示したときに、その点に対応する操作内容を表示させてもよい。また別の態様として、画像の表示は、吊上装置を移動軌跡に沿って移動させる動画と併せ、それぞれの地点で撮影された画像を表示させてもよい。
【0025】
第1の構成においては、
さらに、前記稼働実績データベースに基づいて、前記吊上装置の稼働について、所定の統計処理を行う統計処理部を有し、
前記表示制御部は、前記移動軌跡に加えて、前記統計処理の結果を表示させるものとしてもよい。
【0026】
統計処理としては、例えば、情報処理装置の稼働時間の算出、吊荷の総運搬時間、平均運搬時間、総移動距離、平均移動距離などの算出、吊荷装置の平均移動速度、吊荷の上げ下げに要した総時間、平均値の算出、コントローラの操作回数の集計などが挙げられる。
一日単位の統計処理だけでなく、週または月単位での統計処理を行い、または、日、週、月ごとの対比などの処理を行っても良い。
これらの情報を表示させることにより、クレーンの稼働実績を客観的に把握することができる。また、統計処理の結果を移動軌跡と併せて表示することにより、両者の相関を把握することができ、稼働実績の改善に役立てることができる。
【0027】
本発明は、課題(2)に対応する第2の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンの稼働実績を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づいて、前記クレーンのメンテナンス時期を判断するメンテナンス時期判断部とを備える情報処理装置とすることができる。
【0028】
第2の構成によれば、稼働実績に基づいてメンテナンス時期を判断することができるため、定期点検前に生じ得る故障を早期に回避することが可能となる。メンテナンス時期の判断には、メンテナンスの要否の判断も含まれる。
第2の構成において記憶すべき稼働実績は、メンテナンス時期の判断方法に応じて決めることができる。稼働実績としては、例えば、吊上装置の移動距離、運搬した吊荷の総重量、クレーンのコントローラの操作回数、吊上装置の移動/停止回数、定期点検後の経過日数などが挙げられる。
メンテナンス時期の判断方法は、後述する通り機械学習を利用する方法、および機械学習によらない方法のいずれを用いても良い。機械学習によらない方法としては、過去の稼働実績データベースに基づく統計処理などによって、故障が生じる可能性、時期などを予測する方法が挙げられる。また、稼働実績データベースに基づいて、解析的に故障が生じる可能性、時期を予測する方法をとってもよい。
第2の構成における稼働実績データベースは、第1の構成と同様、種々の態様をとることができる。また、メンテナンス時期判断部も、吊上装置と接続された制御装置、コンピュータ、インターネットを介して接続されたサーバなどにソフトウェア的に設けることができる。ハードウェア的に構成しても差し支えない。
【0029】
第2の構成においては、
前記メンテナンス時期判断部は、前記クレーンの過去の稼働実績に基づいて機械学習によって得られたメンテナンス時期を判断するための学習モデルを用いて前記メンテナンス時期の判断を行うものとしてもよい。
【0030】
一般に、メンテナンス時期は、先に述べた種々の稼働実績のうち単一の要素で決まるものではなく、複数の要素の相互作用によって影響を受けるものと考えられる。上記態様によれば、機械学習によって得られた学習モデルを利用することにより、こうした相互作用も含めて判断することが可能となり、メンテナンス時期の判断精度を向上させることが可能となる。
学習モデルの生成は、後述する通り、種々の方法をとることができる。また、メンテナンス時期を判断するために用いられる稼働実績と、学習モデルを生成するために用いられる稼働実績とは異なっていても差し支えない。即ち、別途用意された稼働実績に基づいて学習モデルを生成し、それを情報処理装置に適用するものとしてもよい。
また、クレーンの稼働によって得られた稼働実績を反映して学習モデルを再学習させる機能を組み込んでもよい。
【0031】
第2の構成においては、
前記稼働実績には、前記クレーンに対する操作指示の実績が含まれ、
前記学習モデルは、前記クレーンに対する操作指示の実績に基づいて得られる、該クレーンのコントローラのメンテナンス時期を判断するための学習モデルであるものとしてもよい。
【0032】
クレーンにおいては、作業者がコントローラを操作して、吊上装置による吊荷の上げ下げ、移動が行われるため、コントローラの故障が比較的多く発生する。上記態様によれば、操作指示の実績に基づいて得られる学習モデルを用いるため、コントローラのメンテナンス時期を精度良く判断することが可能となる。
【0033】
第2の構成においては、
前記稼働実績データベースは、 前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置に対する操作と、該吊上装置の移動または停止の反応との関係を記憶しており、
前記学習モデルは、当該関係に基づいて、前記吊上装置を移動させるモータまたは該吊上装置のコントローラのメンテナンス時期を判断する学習モデルであるものとしてもよい。
【0034】
クレーンでは、故障の前兆として、コントローラを操作してから移動開始または停止までの反応に異常が生じることがある。例えば、モータが故障する前兆の場合は、移動または停止までに時間を要したり、移動または停止開始後の速度変化が鈍くなったりする。また、コントローラの接点の接触不良や癒着などが生じる前兆においても、同様の異常が生じることがある。
上記態様では、このように、操作と移動または停止の反応との関係に基づいて、モータまたはコントローラのメンテナンス時期を精度良く判断することが可能となる。上記態様において用い得る稼働実績としては、例えば、操作から移動開始または停止開始までの反応時間、操作に対する加速度または減速度、操作中に到達した最大速度、移動中の速度の安定性などとすることができる。
【0035】
第2の構成においては、
前記稼働実績データベースは、前記吊荷の振動、前記吊上装置の巻上げ量と吊荷高さとの関係の少なくとも一方を記憶しており、
前記学習モデルは、当該データに基づいて、前記吊上装置のワイヤのメンテナンス時期を判断する学習モデルであるものとしてもよい。
【0036】
クレーンにおいてワイヤのメンテナンスは重要であるが、効率的な方法は見いだされていないのが現状である。一方、ワイヤが破損等する場合には、その前兆として、ワイヤの伸びや緩みによる弾力性の低減などの現象が現れることがある。かかる現象は、クレーンで吊り上げた吊荷の挙動に表れることがある。上記態様によれば、吊荷の振動、吊上装置の巻き上げ量と吊荷高さとの関係といった吊荷の挙動を用いることにより、ワイヤのメンテナンス時期を精度良く判断することが可能となる。
上記態様において、吊荷の挙動は種々の方法で検知することができる。例えば、吊上装置に吊荷を撮影可能なカメラまたはレーザレーダなどの3次元点群を取得可能な装置を装着し、撮影した画像または3次元点群の解析によって振動を求めても良い。ワイヤ自体に歪みゲージを装着し、ワイヤ自体の振動を検出してもよい。また、吊荷高さは、吊荷装置に装着したレーザレーダなどによって、吊荷までの距離を計測することによって求められる。
【0037】
第2の構成において、学習モデルを利用する場合には、本発明は、学習モデルを生成するためのシステムとして構成することもできる。
即ち、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンのメンテナンス時期を判断するための学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、
前記クレーンの稼働実績を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースの稼働実績に対して、予め設定された所定の処理を施して学習用データを生成する学習用データ生成部と、
前記学習用データを用いて機械学習により、前記クレーンのメンテナンス時期を判断するための学習モデルを生成するメンテナンス時期判断モデル生成部とを備える学習モデル生成システムとすることができる。
【0038】
上記学習モデル生成システムによれば、稼働実績から学習用データを生成し、これに基づいて学習モデルを生成することができる。
学習データの生成は、学習モデルの内容に応じて種々の態様で行うことができる。例えば、稼働実績に基づいて操作指示の実績、操作と吊荷の移動または停止の反応との関係、吊荷の振動、吊上装置の巻き上げ量と吊荷高さとの関係などを表すデータを生成し、これを学習データとすることができる。
学習モデルの生成については、過去に故障が生じた稼働実績が十分に得られている場合には、教師あり学習、特に回帰分析を利用することができる。また、次に示す通り、教師なし学習も有用である。クレーンの稼働実績は、ほとんどが正常運転下でのデータになると考えられる。従って、教師なし学習によって、正常運転を示すデータのクラスタを判断する学習モデルを生成すれば、このクラスタから外れる傾向にある稼働実績が得られた場合には、異常が生じつつあることを意味すると考えられる。これによって、メンテナンス時期を判断することが可能となる。
【0039】
本発明は、課題(3)に対応する第3の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンの稼働中における前記吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係を特定し、該位置関係を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づいて、前記クレーンの稼働についての危険の有無またはその程度を判断する危険度評価部を備える情報処理装置とすることができる。
【0040】
第3の構成によれば、位置関係に基づいて、危険の有無またはその程度を判断することが可能となる。
位置関係は、種々の方法で取得することができる。例えば、吊上装置に下方を撮影可能なカメラまたはレーザレーダなどの3次元点群を取得可能な装置を装着し、撮影した画像または3次元点群の解析によって位置関係を求めても良い。位置関係には、吊荷とその周辺の人または障害物との距離、吊荷の移動方向を基準とした人等の方向などが挙げられる。また、これらの位置関係は、ある時点における静的な情報として取得してもよいし、一定期間の位置関係の変化という動的な情報として取得してもよい。動的な情報として取得する場合には、例えば、作業者が吊荷に接近し、一定期間、接触した後、離れたというように、一連の作業手順を把握することが可能となる。
危険の有無またはその程度の判断方法は、後述する通り機械学習を利用する方法、および機械学習によらない方法のいずれを用いても良い。機械学習によらない方法としては、吊荷と所定の位置関係にある場合は危険であるというように判断する方法や、過去の位置関係などと事故発生との統計処理によって、危険が生じる可能性などを予測する方法などが挙げられる。
第3の構成における危険とは、必ずしも吊荷と人または障害物との衝突に限るものではない。例えば、吊荷の落下や、吊荷の異常な挙動なども含まれる。これらの危険の判断については、例えば、吊荷とワイヤの位置関係、吊荷に対してワイヤが所定の手順で取り付けられたか、などに基づいて判断することができる。
【0041】
第3の構成においては、
前記危険度評価部は、前記吊荷の運搬を、所定の複数の場面に分け、場面ごとに、使用するデータおよび方法を変えて、前記判断を行うものとしてもよい。
【0042】
クレーンで吊荷を運搬する場面は、吊荷へのワイヤの取り付け、吊り上げ、運搬開始、運搬、吊荷降下、ワイヤ取り外しなどのいくつかの場面に分けられる。それぞれの場面において、作業の内容は異なるから、危険の判断基準も変えることが好ましい。上記態様によれば、これらの場面ごとに、使用するデータおよび方法を変えるため、精度良く判断を行うことが可能となる。なお、上述の場面は、例示に過ぎず、一部を省略してもよいし、さらに多くの場面に分けても良い。
【0043】
第3の構成においては、
前記吊荷の運搬に携わる作業者が予め設定された所定の基本動作を行ったか否かを判断する基本動作判断部を有し、
前記危険度評価部は、前記基本動作の実施の程度を考慮して前記判断を行うものとしてもよい。
【0044】
クレーンの扱いには、危険を抑制するために行うべき点検その他の基本動作が存在する。これらの基本動作を怠った場合、必ず危険が発生するとは限らないまでも、危険の可能性が高くなる。かかる観点から、上記態様では、基本動作の実施の程度を用いることにより、危険が生じる可能性を判断する。
基本動作の判断は、種々の方法で行うことができる。後述する通り、機械学習を用いてもよい。また、例えば、指さし確認のような動作であれば、作業者が、当該動作に特徴的な姿勢をとったか否かを画像等に基づいて判断してもよい。また、作業者が吊荷と一定期間接触していることが確認できた場合には、そのことに基づいて、吊荷に対する所定の点検がなされたものと判断してもよい。
【0045】
第3の構成においては、
前記危険度評価部は、前記クレーンの過去の稼働実績に基づいて機械学習によって得られた、危険を判断するための学習モデルを用いて前記危険の有無またはその程度の判断を行うものとしてもよい。
【0046】
危険の有無やその程度は、吊荷との位置関係など種々の稼働実績のうち単一の要素で決まるものではなく、複数の要素の相互作用によって影響を受けるものと考えられる。上記態様によれば、機械学習によって得られた学習モデルを利用することにより、こうした相互作用も含めて判断することが可能となり、危険の有無およびその程度の判断精度を向上させることが可能となる。
学習モデルの生成は、後述する通り、種々の方法をとることができる。また、危険を判断するために用いられる稼働実績と、学習モデルを生成するために用いられる稼働実績とは異なっていても差し支えない。即ち、別途用意された稼働実績に基づいて学習モデルを生成し、それを情報処理装置に適用するものとしてもよい。
また、クレーンの稼働によって得られた稼働実績を反映して学習モデルを再学習させる機能を組み込んでもよい。
【0047】
第3の構成においては、
前記危険度評価部は、前記危険の有無またはその程度の判断について、その理由を合わせて特定するものとしてもよい。
【0048】
こうすることにより、危険と判断された原因を特定しやすくなる。理由の判断は、種々の方法で行うことができる。例えば、機械学習を利用せずに危険を判断する場合には、当該判断に用いられる判断基準に従い、危険と判断された原因を特定すればよい。例えば、A,B,C,D,Eという5つの判断基準が用意されている場合に、吊荷と人との距離を基準として用いる判断基準Aによって危険と判断されたときには、当該判断基準Aに該当する要素、即ち「吊荷との距離が基準値よりも近い」など、が「理由」ということになる。
一方、機械学習を利用して危険を判断する場合は、その学習モデルに利用される稼働実績データを、理由として示してもよい。また、学習モデルとして、決定木のように判断過程を追跡しやすいモデルを用いている場合には、当該判断過程において、危険と判断される方向が選択されたノードに基づいて、理由を求めるようにしてもよい。
【0049】
第3の構成においては、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の水平方向の位置情報を検出する位置検出部を有し、
前記稼働実績データベースは、前記位置情報を時系列で記憶しており、
さらに、前記稼働実績データベースから、前記位置情報を読み出し、前記吊上装置の移動軌跡を表示するとともに、前記危険度評価部による判断結果を該移動軌跡上の各位置と対応づけて表示する表示制御部を備えるものとしてもよい。
【0050】
こうすることにより、移動軌跡のどの位置で危険が発生したかを視覚的に認識することが可能となる。また、その位置が特定できることにより、危険と判断された理由についても把握しやすくなる。
【0051】
第3の構成においては、
該吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像データを、時系列で記憶する画像データベースとを有し、
前記表示制御部は、前記移動軌跡に加えて、該移動軌跡上の各位置において撮影された画像とを表示させるものとしてもよい。
【0052】
こうすることにより、危険と判断された時点の画像を確認することができる。従って、危険と判断された理由について、より把握しやすくなる。
【0053】
第3の構成においては、
前記吊上装置を稼働する際に本来行われるべき前記基本動作を表す画像データを記憶する基本動作データベースを有し、
前記危険度評価部は、危険と判断した場合には、前記基本動作データベースから、本来行われるべき基本動作を選択し、
前記表示制御部は、前記基本動作データベースを用いて、前記選択された基本動作を表す画像を表示するものとしてもよい。
【0054】
こうすることにより、本来とるべき基本動作を提示することができる。この結果、作業者は、どのようにすれば危険を回避できるかを理解しやすくなる。
【0055】
第3の構成において、学習モデルを利用する場合には、本発明は、学習モデルを生成するためのシステムとして構成することもできる。
即ち、固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンを稼働させるための基本動作が行われているか否かを判断するための学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、
本来行われるべき前記基本動作を表した教師データを記憶する基本動作データベースと、
前記教師データに基づいて、前記基本動作が行われているか否かを判断するための学習モデルを生成する基本動作判断用学習モデル生成部とを備える学習モデル生成システムとすることができる。
【0056】
上記態様によれば、予め基本動作を行った教師データに基づいて学習モデルを生成することができる。実際に行われている動作が、この基本動作に該当するか否かを判断するための学習モデルであるから、分類問題を扱うモデルとなる。
教師データとしては、基本動作を表す一連の静止画像の集合として用意することができる。また、作業者の動作のみを抽出した画像としておくことが好ましい。
実際の判断は、吊上装置に取り付けたカメラ等で撮影した画像に基づいて行われることになるため、教師データも、同様の条件で撮影した画像データを用いることが好ましい。
【0057】
第3の構成において危険の判断に利用する学習モデルは、以下に示す学習モデル生成システムで生成してもよい。
即ち、固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中における危険の有無およびその程度を判断するための学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、
前記クレーンの過去の稼働実績を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースを読み込み、前記吊荷の運搬を、所定の複数の場面に分け、場面ごとに、予め設定された所定の処理を施して学習用データを生成する学習用データ生成部と、
前記学習用データを用いて機械学習により、前記場面ごとに、前記危険の有無およびその程度を判断するための学習モデルを生成する危険度判断モデル生成部とを備える学習モデル生成システムである。
【0058】
上記態様によれば、吊荷の運搬を、種々の場面に分けて、場面ごとに危険を判断する学習モデルを生成することができる。このように場面に分けて学習モデルを生成することにより、その精度向上を図ることができる。
場面ごとに分けて学習モデルを生成するのであるから、それに用いる稼働実績も、場面ごとに異なるものとしてもよい。
学習モデルの生成については、過去に危険が生じた稼働実績が十分に得られている場合には、教師あり学習を利用することができる。また、教師なし学習も有用である。クレーンの稼働実績は、ほとんどが危険のない正常運転下でのデータになると考えられる。従って、教師なし学習によって、危険のない正常運転を示すデータのクラスタを判断する学習モデルを生成すれば、このクラスタから外れる傾向にある稼働実績が得られた場合には、異常が生じつつあることを意味すると考えられる。これによって、危険の有無およびその程度を判断することが可能となる。
【0059】
本発明は、課題(4)に対応する第4の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働に関する情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の発着地の位置情報を入力する入力部と、
前記発着地を結び、所定の評価が最適となる最適経路を求める最適経路設定部を備える情報処理装置とすることができる。
【0060】
従来は、クレーンを稼働する際に、吊荷が周囲の障害物に対して十分に余裕を確保できる経路、吊荷を運搬しやすい経路などを選択して運搬していることが多かった。これに対し、第4の構成によれば、最適な経路を求めることができるため、クレーンの稼働効率を向上させることができる。
第4の構成において、最適経路を求めるための「評価」は、種々考えられる。例えば、吊上装置の移動距離を短くするほど評価を高くしてもよい。吊上装置が移動方向を変える回数が少ないほど評価を高くしてもよい。
最適経路を求める方法は、機械学習を利用する方法、および機械学習によらず解析的に求める方法のいずれを用いても良い。機械学習を用いる場合には、所定の「評価」を報酬とする強化学習を利用することができる。
第4の構成は、クレーンの移動後に、その移動軌跡を踏まえて最適な経路を求めるものとしてもよい。また、クレーンを稼働させる前の計画段階で、最適経路を設定するようにしてもよい。
【0061】
第4の構成においては、
前記最適経路設定部は、前記吊上装置の移動について予め設定された拘束条件を考慮して前記最適経路を求めるものとしてもよい。
【0062】
こうすることにより、実用的な最適経路を求めることができる。
拘束条件としては、例えば、クレーンが設置された施設内の設備および障害物の移動の可否が挙げられる。こうすることにより、設備等が移動できず実現不能な経路が、最適経路として出力されることを回避できる。
障害物等の考慮は、吊荷の有無によって変えてもよい。例えば、吊荷の運搬中は、吊荷自体が設備や障害物に衝突しないよう最適経路を求め、空荷の状態では、吊荷装置は天井付近を移動するから、高さの低い設備等は無視して最適経路を求めることができる。
【0063】
第4の構成においては、
前記最適経路設定部は、前記吊上装置を操作する操作者の通路の位置を、前記拘束条件として考慮するものとしてもよい。
【0064】
クレーンにおいては、コントローラを手にした作業者が、吊上装置とともに移動しながら操作するタイプがある。かかるタイプでは、操作者の通路の位置から遠方のところは、吊上装置が移動することができない。上記態様によれば、操作者の通路を考慮するため、実用的な最適経路を求めることが可能となる。
【0065】
第4の構成においては、
前記最適経路設定部は、前記吊上装置の移動方向が予め設定された所定数の方向に限定されていることを、前記拘束条件として考慮するものとしてもよい。
【0066】
クレーンにおいては、例えば、東西南北の4方向の操作ボタンしかないものがある。かかるクレーンは、これらの操作ボタンを組合せて操作したとしても、8方向にしか移動することはできない。上記態様によれば、このようにクレーンの移動方向の制限を考慮した上で、最適経路を求めることが可能となる。
【0067】
第4の構成においては、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の水平方向の位置情報を時系列で記憶する稼働実績データベースを有し、
前記最適経路設定部は、前記稼働実績データベースに蓄積された前記吊上装置の移動軌跡と前記最適経路のそれぞれに対して、前記評価のための指標を算出するものとしてもよい。
【0068】
こうすることにより、最適経路によって、どれだけの最適化が図られたかを判断することができる。例えば、吊上装置の移動距離が最短になることで「評価」する場合には、従前の経路と最低経路との移動距離に基づき、比または差などの指標を算出すればよい。指標は、「評価」に応じて種々設定可能である。
【0069】
第4の構成においては、
前記稼働実績データベースに蓄積された前記吊上装置の移動軌跡と、前記最適経路とを対比して表示する表示制御部とを備えるものとしてもよい。
【0070】
こうすることにより、両経路を視覚的に比較することができ、最適化による効果を直感的に認識することができる。上記態様においては、対比しやすいよう、従前の移動軌跡と最低経路との表示態様を変えることが望ましい。
また、最適経路の表示に合わせて、拘束条件として考慮した設備、障害物、作業者の通路などを表示してもよい。こうすることで、最適経路が求められた理由を理解しやすくなる。
【0071】
本発明は、課題(5)に対応する第5の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンの稼働実績として、前記クレーンの稼働中における危険の有無またはその程度の判断結果、および前記クレーンの運転効率の少なくとも一方を、時系列的に記憶する稼働実績データベースと、
前記危険の程度が所定以上となる時点、または前記運転効率が所定以下となる時点を特定可能な態様で、前記稼働実績を表示する表示制御部とを備える情報処理装置とすることができる。
【0072】
第5の構成によれば、クレーンの操作において改善すべき事項を提供することが可能となる。即ち、第5の構成では、危険の程度が所定以上となる時点、運転効率が所定以下となる時点を容易に認識することができ、当該時点の操作を事後に確認することができる。こうすることにより、危険を回避するためにはどうすればよいか、運転効率を向上させるためにはどうすればよいかを比較的容易に認識することが可能となる。
第5の構成において、対象となる時点は、種々の方法で決めることができる。例えば、危険の程度が高い時点は、危険が発生する確率としての「危険度」が所定値以上となる時点を特定すればよい。危険度は、吊荷と周囲との距離、位置関係などに応じて予め設定しておいてもよい。
運転効率については、例えば、吊荷の移動軌跡と最適経路との移動距離の比などに基づいて算出することができる。
【0073】
第5の構成においては、
前記表示制御部は、前記稼働実績の時間変化を表すグラフを表示するものとしてもよい。
【0074】
こうすることにより、危険の程度が高い時点や、運転効率が低い時点を容易に特定できる。また、その前後の動向も知ることができる。さらに、全体に危険の程度が高い傾向にあるのか、ある特定の時点においてのみ危険であったのか、という全体の傾向も知ることができる。運転効率についても同様である。
【0075】
第5の構成においては、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像データを、時系列で記憶する画像データベースとを有し、
前記表示制御部は、前記稼働実績データとともに、各時点において撮影された画像を表示させるものとしてもよい。
【0076】
こうすることにより、危険の程度が高い時点や運転効率が低い時点における画像を確認することができ、その原因を把握しやすくなる。
【0077】
第5の構成においては、
前記表示制御部は、前記稼働実績データのうち、類似したケースに対応するものを関連付け、該関連づけられたケースについて、対比できる態様で、前記表示を行うものとしてもよい。
【0078】
こうすることにより、例えば、同様のケースを対比することができ、改善すべき点、改善の程度などを確認することができる。「類似」したケースは、例えば、吊荷の種別、重量、移動軌跡などに基づいて判断することができる。
【0079】
本発明は、課題(6)に対応する第6の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンによる運搬に関する情報を処理する情報処理装置であって、
複数の吊荷の運搬ケースに対して、運搬順序および前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の移動軌跡を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づいて、所定の評価が向上するように前記吊荷の運搬順序を改善した運搬シーケンスを求める運搬シーケンス最適化部を備える情報処理装置とすることができる。
【0080】
第6の構成によれば、複数の吊荷を運ぶ順序を最適化することができ、運搬効率を向上させることができる。
評価は、例えば、吊上装置の移動距離とすることができる。複数の吊荷を運搬する場合、その順序によっては、吊上装置が空荷での移動距離が長くなり無駄が生じる。第6の構成によれば、移動距離が短くなるように、吊荷の運搬順序を最適化する。この結果、移動距離の無駄を抑制できる。最適化を図る際の評価は、移動距離に限らず、種々の設定が可能である。
【0081】
第6の構成においては、
前記運搬シーケンス最適化部は、前記吊荷の運搬順序に対して予め設定された拘束条件を考慮して前記運搬シーケンスを求めるものとしてもよい。
【0082】
ある部品を運搬し、当該部品を用いた組立作業をした後、その完成品を運搬するという場面を考える。この場合、吊荷の運搬は、部品、完成品という順序でなくてはならない。このように吊荷の運搬には、何らかの拘束条件が生じることがある。上記態様によれば、かかる拘束条件を考慮するため、実用的な運搬シーケンスを求めることができる。
【0083】
第6の構成においては、
前記稼働実績データベースに蓄積された前記吊上装置の移動軌跡に対して、所定の評価が向上するよう該吊上装置の移動を改善した最適経路を求める最適経路設定部を有し、
前記運搬シーケンス最適化部は、前記最適経路を反映して前記運搬シーケンスを求めるものとしてもよい。
【0084】
上記態様によれば、吊荷の移動軌跡自体を最適化した上で、運搬シーケンスを求めるため、一層の最適化を図ることができる。最適経路を求める方法については、先に説明した種々の方法を適用可能である。
また、運搬シーケンスに影響を与えるのは、空荷の状態での移動軌跡であるから、かかる移動軌跡に対してのみ最適経路を求めるようにしてもよい。
【0085】
本発明は、課題(7)に対応する第7の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に関する情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンが使用される施設内の設備および障害物のレイアウトを記憶するレイアウトデータベースと、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の移動軌跡を記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づいて、所定の評価が向上するよう前記レイアウトを改善するレイアウト最適化部を備える情報処理装置とすることができる。
【0086】
第7の構成によれば、クレーンが設置された施設内の設備および障害物のレイアウトの最適化を図ることができる。
第7の構成において、最適レイアウトを求めるための「評価」は、種々考えられる。例えば、吊上装置の移動距離を短くするほど評価を高くしてもよい。吊荷の運搬経路を最短にするためには、発着地を結ぶ直線状の経路を運搬すればよい。この経路上に、施設内の設備または障害物が存在する場合には、これらを移動させれば、当該吊荷の運搬経路が最適になるレイアウトが得られることになる。最適レイアウトを求めるときには、吊荷の発着地自体も変更してもよい。頻繁に運搬する吊荷を、近くに置けるように場所を確保すれば、運搬経路が最適となるレイアウトが得られることになる。吊荷が複数存在する場合には、これらの要素を総合的に考慮して、最適のレイアウトを求めればよい。
最適経路を求める方法は、機械学習を利用する方法、および機械学習によらず解析的に求める方法のいずれを用いても良い。機械学習を用いる場合には、所定の「評価」を報酬とする強化学習を利用することができる。
【0087】
第7の構成においては、
前記レイアウト最適化部は、前記設備の移動について予め設定された拘束条件を考慮して前記レイアウトを求めるものとしてもよい。
【0088】
設備の中には移動可能なものと、移動できないものとがある。また、工場などでは、効率的な加工を実現するために、ある設備とある設備を近接して配置しなくてはならない場合もある。このように設備の配置には、種々の拘束条件が存在する。上記態様では、これらの拘束条件を考慮するため、実用的なレイアウトを求めることができる。
【0089】
第7の構成においては、
前記稼働実績データベースは、複数の吊荷に対する運搬経路を記憶しており、
前記レイアウト最適化部は、該複数の吊荷に対する運搬経路の総和が最短となるよう前記レイアウトを求めるものとしてもよい。
【0090】
先に説明した通り、レイアウトが最適か否かの「評価」は種々の基準に基づいて行うことができる。上記態様は、吊上装置の移動距離に基づいて評価する場合に相当する。移動距離は、吊荷の運搬時間短縮にもつながり、情報処理装置の損耗も抑制することができるため、上記態様によれば、多くの面で効果的な最適レイアウトを得ることができる。
【0091】
第7の構成においては、
前記レイアウト最適化部は、
前記吊荷の発着地を変更することで前記改善を試み、
その後、前記設備を移動することで前記改善を試みることで前記レイアウトを求めるものとしてもよい。
【0092】
第7の構成において、最適レイアウトを求める方法の一つとして、解析的に求める方法が挙げられる。上記態様は、その一つの方法である。
最適レイアウトを求める場合には、吊荷の発着地の変更と、設備等の移動の2つの要素が考えられる。上記態様では、この2つの要素のうち、より自由度の高い、吊荷の発着地の変更を優先するのである。こうすることにより、現状のレイアウトから移動しやすい最適レイアウトを求めることが可能となる。
【0093】
第7の構成においては、
前記レイアウト最適化部は、前記所定の評価を報酬とする強化学習によって前記レイアウトを求めるものとしてもよい。
【0094】
最適レイアウトを求めるために、機械学習の一つである強化学習を用いる態様である。上記態様における強化学習では、高い「評価」が得られるようにレイアウトの最適化が図られることになる。吊荷装置の移動距離を「評価」の基準とする場合には、移動距離が短くなるようレイアウトの最適化が図られるのである。このように強化学習を適用することにより、解析的な方法では得られなかった解を得る可能性があり、より効果の高い最適レイアウトが得られる可能性もある。
【0095】
本発明は、課題(8)に対応する第8の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置とともに移動し、前記吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢を特定するためのデータを取得するデータ取得部と、
前記吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢に基づき、事故が発生したか否かを判断する事故判断部とを備える情報処理装置とすることができる。
【0096】
クレーンでは、吊荷の異常な挙動、作業者の操作ミスなど種々の要因によって事故が発生し得る。また、重量物を運搬する場合には、吊荷と設備や障害物との間に作業者が挟まれるといった事故が発生することもある。しかも、クレーンを単独で操作している場合には、事故が発生しても、誰も気づかないこともあり得る。
第8の構成では、吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢を特定可能とすることにより、これらに基づいて、事故の発生を判断することができるため、事故への対処を速やかに行うことが可能となる。
第8の構成において、位置関係および姿勢の特定は、第3の構成で説明した種々の方法をとることができる。
事故の発生は、後述する通り機械学習を利用する方法、および機械学習によらない方法のいずれを用いても良い。機械学習によらない方法としては、所定の位置関係や姿勢にある場合は事故であるというように判断する方法などが挙げられる。
第8の構成において、事故への対処を速やかに行うという目的を考えれば、事故が発生していないのに事故であると判断する誤りは許容され、事故が発生しているのに事故ではないと判断する誤りは十分に回避されるべきである。従って、第8の構成においては、事故の発生の判断方法は、事故が発生しているのに事故ではないと判断する誤りを回避することを重視して設定することが好ましい。こうすることにより、システムの信頼性を向上させることができる。
第8の構成において、事故が発生したと判断されるときには、種々の通報動作を行うようにしてもよい。例えば、大きな警報音や警報ランプで周囲の作業者に事故の発生を報知する態様、予め設定されたアドレス等を利用して事故発生のメールを送信する態様などが挙げられる。
【0097】
第8の構成においては、
前記事故判断部は、前記吊荷から所定の範囲内に、倒れている人の姿を検出したときに事故が発生したと判断するものとしてもよい。
【0098】
吊荷の近くに人が倒れている状況は、一般に、事故である可能性が高い。また、吊上装置に取り付けたカメラ、レーザレーダ等で下方の画像等を取得する場合、立っている人と、倒れている人は、比較的精度良く判別しやすい。従って、上記態様によれば、高い精度で事故を発見することができる。
【0099】
第8の構成においては、
前記吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢を特定するためのデータを稼働実績として記憶する稼働実績データベースと、
前記事故判断部は、前記稼働実績データベースに基づく教師なし機械学習によって得られる学習モデルを用いて、事故の発生を判断するものとしてもよい。
【0100】
事故の発生は、吊荷と作業者の位置関係や作業者の姿勢などの単一の要素で判断できる場合は少なく、多くの場合では、複数の要素を総合的に考慮することで判断できるものと考えられる。上記態様によれば、機械学習によって得られた学習モデルを利用することにより、こうした複数の要素を総合的に考慮して判断することが可能となり、判断精度を向上させることが可能となる。
学習モデルの生成は、後述する通り、種々の方法をとることができる。また、事故の発生を判断するために用いられる稼働実績と、学習モデルを生成するために用いられる稼働実績とは異なっていても差し支えない。即ち、別途用意された稼働実績に基づいて学習モデルを生成し、それを情報処理装置に適用するものとしてもよい。
【0101】
第8の構成においては、
前記事故判断部は、事故が発生したと判断されるときに、予め設定された通報先への通報を行うものとしてもよい。
【0102】
予め設定されたアドレスにメールを送信する方法や、予め設定された電話番号に架電し、自動音声で事故の発生を告げる方法などが考えられる。こうすることにより、事故への速やかな対処が可能となる。また、クレーンが設置された場所に人が存在しない場合であっても、事故への対処が可能となる。
【0103】
第8の構成においては、
該吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像データを、時系列で記憶する画像データベースとを有し、
前記事故が発生したと判断された場合に、該事故発生時点と前記画像データとを関連づけて記憶し、要求に応じて、当該関連づけられた画像データを出力する異常時画像提供部を備えるものとしてもよい。
【0104】
上記態様によれば、事故が発生したときの状況を容易に画像で確認することが可能となる。
上記態様においては、事故発生時点の画像データを、画像データベースとは別に記憶しておくものとしてもよい。また、事故発生時点の時刻情報を記憶しておくなど、当該時点の画像データを、画像データベース上で特定する情報を記憶しておいてもよい。この場合には、特定された画像データを、画像データベースから読み出して出力すればよい。
上記態様において、出力とは、ディスプレイ等への表示、および画像データの提供の双方を含む。
【0105】
第8の構成において、学習モデルを利用する場合には、本発明は、学習モデルを生成するためのシステムとして構成することもできる。
即ち、固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中における事故の発生を判断するための学習モデルを生成する学習モデル生成システムであって、
前記吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢を特定するためのデータを稼働実績として記憶する稼働実績データベースと、
前記稼働実績データベースに基づきクラスター分析を行い事故の発生を判断するための学習モデルを生成する事故判断モデル生成部とを備える学習モデル生成システムである。
【0106】
クレーンの稼働実績は、ほとんどが事故ではない正常運転下でのデータになると考えられる。従って、教師なし学習によって、正常運転を示すデータのクラスタを判断する学習モデルを生成すれば、吊荷と、その周辺の人または障害物との位置関係および姿勢が、このクラスタから外れている場合には、事故の可能性が高いことを意味すると考えられる。従って、事故の発生を判断することが可能となる。
【0107】
本発明は、さらに課題(8)に対応する第9の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置とともに移動し、画像、赤外線、および3次元点群の少なくとも一つを取得するデータ取得部と、
前記吊上装置を予め設定されたスキャンパターンで駆動するとともに、該駆動中に前記データ取得部により取得されたデータに基づいて、異常の有無を判断し、異常発生時には予め設定された警備動作を実行する警備動作部とを備える情報処理装置とすることができる。
【0108】
第9の構成によれば、クレーンを、単に吊荷の運搬という用途以外に、異常発見という用途に活用することが可能となる。特に、クレーンは、上方を移動する装置であるから、施設内を広範に監視することができ、有用性が高い。
上述のスキャンパターンは、施設内を均等に監視できるように予め設定した移動軌跡を言う。吊上装置の駆動装置に対して、かかるスキャンパターンに従って動くよう制御信号を出力する制御装置を用意することによって、このスキャンパターンを実現することができる。
第9の構成において、データ取得部は、発見する異常の種類に応じて備えればよい。画像を取得する装置としてはカメラを用いることができる。赤外線を取得する装置としては赤外線カメラまたは赤外線センサを用いることができる。3次元点群を得る装置としてはレーザレーダを用いることができる。
第9の構成における警備動作は、警報音の発生や、所定のアドレスへのメール送信など、種々の動作を取り得る。
【0109】
第9の構成において、
前記警備動作部は、前記異常を発見したときには、前記吊上装置のスキャンパターンを変更するものとしてもよい。
【0110】
異常を発見する前は、施設内を均等に監視できるスキャンパターンを採用することが好ましい。しかし、異常を発見した後も、このスキャンパターンを継続していては、異常に対する情報を十分に得られないおそれがある。上記態様によれば、異常発見に伴って、スキャンパターンを変更するため、異常発見時の有用性を向上させることができる。
【0111】
第9の構成において、
前記警備動作部は、
前記画像または赤外線に基づいて、火災発生の有無を判断し、
火災発生と判断されるときには、該発生の場所に前記吊上装置を、移動させるものとしてもよい。
【0112】
火災の発生時には、炎と煙が発生する。例えば、撮影した画像を、平常時の画像と比較することにより、炎や煙で視認性が悪くなっている領域や、炎特有の色スペクトルが含まれる領域が見つかれば、火災の発生と判断することができる。また、赤外線によって、高熱部分が検知できれば、同様に火災の発生と判断することができる。画像と赤外線の双方を用いてもよい。
上記態様では、火災発生と判断されるときには、発生の場所に吊上装置を移動させる。従って、火災の状況を、継続的に監視することが可能となる。
上記態様において、一端、火災発生と判断した後、それが誤りであると判断された場合には、当初のスキャンパターンに戻るようにしてもよい。
【0113】
第9の構成において、
前記警備動作部は、
前記データ取得部により取得されたデータに基づいて、人物の有無を判断し、
人物がいると判断されるときには、該吊上装置が装備された施設の出入口に前記吊上装置を移動させるものとしてもよい。
【0114】
上記態様は、施設の終業後など、原則として人が存在しないときに動作させることを想定している。
人物の有無は、種々の方法で判断できる。画像や3次元点群に基づいて判断してもよい。赤外線によって判断してもよい。
人物を発見したとき、十分に追随できるのであれば、それが好ましい。しかし、一般に、吊上装置の移動速度は、人物が走る速度に至らないことが多いため、人物を完全に追随することは困難である。そこで、上記態様では、人物の存在を検知すると、出入口に吊上装置を移動させる。発見された人物は、出入口から退出すると考えられるため、このように出入口に吊上装置を移動させることにより、退出時の人物の様子を撮影等することが可能となる。
出入口が複数存在する場合には、これらの出入口を順次巡回するように移動させればよい。また、発見した人物の位置に最も近い出入口に優先的に移動させるようにしてもよい。
【0115】
第9の構成において、
該吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像データを、時系列で記憶する画像データベースとを有し、
前記異常が発生したと判断された場合に、該異常の発生時点と前記画像データとを関連づけて記憶し、要求に応じて、当該関連づけられた画像データを出力する異常時画像提供部を備えるものとしてもよい。
【0116】
上記態様によれば、異常を発見したときの状況を容易に画像で確認することが可能となる。画像データの提供については、第8の構成で説明したのと同様である。
【0117】
本発明は、さらに課題(9)に対応する第10の構成として、
固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報を処理する情報処理装置であって、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げるための装置であって水平方向に移動可能に設置された吊上装置の水平方向の位置情報を検出する位置検出部と、
前記クレーンにおいて前記吊荷を吊り上げる際に、地切時の安全を支援するための地切安全支援部を備え、
該地切安全支援部は、
前記吊荷を着床させたときに、前記吊上装置の位置情報を該吊荷と対応づけて登録し、
前記着床した吊荷を改めて搬送する際に、前記登録した位置情報に一致するよう前記吊上装置を移動させる情報処理装置としてもよい。
【0118】
第10の構成によれば、以下に述べる通り吊荷が床から離れる地切の瞬間に、吊り上げる点が重心からわずかにずれていることにより、吊荷が左右または前後に揺れるという危険性を抑制することができる。
即ち、第10の構成では、吊荷を着床させたときに、吊上装置の位置情報を吊荷と対応づけて登録しておく。着床の時点では、吊上装置は吊荷の重心上を正確に吊り上げている状態であるから、このときの吊上装置と吊荷との位置関係を正確に再現できれば、次に同じ吊荷を吊り上げるときに、正確に重心上を吊り上げることが可能となるはずである。かかる考え方に基づき、第10の構成では、着床した吊荷を改めて搬送する時には、登録してあった位置情報に一致するように吊上装置を移動させるのである。この移動は、例えば、登録してある位置情報を読み出して、その位置に吊上装置を移動させるようにしてもよいし、作業員が、吊荷の近くまで目視等で移動させた上で、登録してある位置情報に基づいて吊上装置の位置を修正するようにしてもよい。
このように着床時の位置情報を利用することにおり、着床時の吊上装置と吊荷との位置関係を再現することが可能となり、地切時の吊荷の振動を抑制することが可能となるのである。
【0119】
なお、第10の構成においては、吊荷の重心を正確に吊り上げるために、さらに付加的な要素を追加してもよい。
例えば、クレーンでは、吊荷にワイヤをかけ、これをクレーンのフックに引っかけて吊り上げることが多いが、厳密に言えば、フックへのワイヤの引っかけ方によっても、吊り上げる位置と吊荷の重心位置とにずれが生じるおそれもある。そこで、これを回避するため、吊荷へのワイヤの取り付け位置と、フックにワイヤを引っかける順序が再現される工夫を施しても良い。例えば、吊荷のそれぞれのワイヤの取り付け位置に数字その他の識別マークを表示しておき、この識別マークで特定される順序でフックにワイヤを引っかけるようにしてもよい。
また、別の態様として、クレーン側から吊荷に対してレーザ照射を行っても良い。着床するときにレーザ照射されるスポットに対応するマーカを吊荷の上面に貼り付けたり、吊の上面に印を描くなどしておくのである。こうすれば、次に吊荷を吊り上げる時には、レーザ照射のスポットが、このマーカまたは印に一致するよう吊上装置の位置を調整すれば、より精度良く適正な位置関係を再現することが可能となる。
【0120】
第10の構成においては、
前記地切安全支援部は、
前記吊荷を着床させた後、該吊荷を外した状態で前記吊上装置の巻上が開始された時点で前記登録を行うようにしてもよい。
【0121】
こうすることにより、特別な操作を要することなく、着床時の位置情報を正確に記憶することが可能となる。
もちろん、上述の態様によらず、作業員の操作によって位置情報を登録する態様をとっても差し支えない。
【0122】
第10の構成においては、
前記地切安全支援部は、
前記着床した吊荷を改めて吊上げたときには、前記登録された位置情報を抹消するようにしてもよい。
【0123】
第10の構成では、吊上装置と着床した吊荷との位置関係を再現するために着床時の位置情報を登録しているのであり、この位置情報は、同一の吊荷に対して利用されなくては位置関係の再現には役立たない。即ち、着床した吊荷を吊り上げた場合には、登録してあった位置情報は無用のものとなる。また、このような無用な位置情報が誤って利用された場合、吊荷の重心上を正確に吊り上げることができず、危険を招くこともある。
上記態様では、かかる意味で無用となった位置情報を抹消することができる。こうすることにより、無用な位置情報を保持しておく記憶容量などを抑制することができるとともに、誤って無用な位置情報が利用される危険を抑制することができる。
【0124】
上記態様において、登録した位置情報の抹消は、例えば、作業員の操作に基づいて行うようにしてもよい。また、吊上装置の荷重を検出する方法、吊上装置に取り付けたカメラの撮影画像を解析する方法などによって、吊荷の有無を検出し、着床していた吊荷を吊り上げたと判断されるときには、対応する位置情報を自動的に抹消するようにしてもよい。
【0125】
第10の構成においては、
該吊上装置とともに移動し、下方の画像を撮影するカメラを有し、
前記地切安全支援部は、
前記吊荷を着床させたときに、さらに、前記カメラで撮影した画像データを登録し、
前記着床した吊荷を改めて搬送する際に、前記画像データも利用して、前記吊上装置の移動を行うようにしてもよい。
【0126】
画像データは、種々の態様で利用可能である。例えば、着床した吊荷を改めて吊り上げるために、登録された位置情報のいずれかを作業者が選択する際、位置情報とともに画像データを提供すれば、位置情報を選択する際の誤りを抑制することができる。
また、別の態様として、着床した吊荷を吊上装置で吊り上げる際にカメラで画像を撮影し、登録されている画像データとマッチングすることにより、吊荷の正誤、吊荷と吊上装置との位置のずれの有無などの検出を行うこともできる。こうすれば、吊荷と吊上装置の位置関係の再現精度を一層向上させることができる。
【0127】
第10の構成においては、
前記地切安全支援部は、
前記吊荷を吊り下げていない状態で、前記吊上装置に対して巻下げの指示がなされた場合には、その時点における前記吊上装置から所定範囲内の前記登録された位置情報に基づいて、前記吊上装置の位置を修正するようにしてもよい。
【0128】
上記態様では、作業員が吊上装置を着床した吊荷の近くまで目視等によって移動させ、巻下げの指示を行うと、自動的に吊荷に応じて登録されていた位置に吊上装置の位置が修正される。こうすることにより、登録されていた位置情報を作業員が選択する手間を省くことができる。また、誤った位置情報を選択してしまう危険性を抑制することができる。
【0129】
本発明は、上述した特徴を必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりしてもよい。
また、上述した情報処理装置において実現される種々の情報処理を、コンピュータによって実行する情報処理方法として構成してもよいし、かかる方法をコンピュータに行わせるためのコンピュータプログラムとして構成してもよい。さらに、かかるコンピュータプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体として構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0130】
図1】情報処理装置の構成を示す説明図である。
図2】天井クレーン100の構造を示す説明図である。
図3】位置検出機構の構成を示す説明図である。
図4】情報処理装置200、学習モデル生成システム500の構成を示す説明図である。
図5】軌跡表示処理のフローチャートである。
図6】軌跡表示画面の例(1)を示す説明図である。
図7】軌跡表示画面の例(2)を示す説明図である。
図8】メンテナンス時期判断処理のフローチャートである。
図9】メンテナンス時期判断用データ生成処理のフローチャートである。
図10】メンテナンス時期判断モデル生成処理のフローチャートである。
図11】変形例としてのメンテナンス時期判断処理のフローチャートである。
図12】危険度評価処理のフローチャートである。
図13】吊り上げ前の場面例を示す説明図である。
図14】基本動作判断用学習モデル生成処理のフローチャートである。
図15】危険度判断モデル生成処理のフローチャートである。
図16】最適経路設定の考え方を示す説明図である。
図17】最適経路設定処理のフローチャートである。
図18】最適経路の例を示す説明図である。
図19】運転診断処理のフローチャートである。
図20】運転診断の表示例を示す説明図である。
図21】運搬シーケンスの最適化の考え方を示す説明図である。
図22】運搬シーケンス最適化処理のフローチャートである。
図23】レイアウト最適化の考え方を示す説明図である。
図24】レイアウト最適化処理のフローチャートである。
図25】事故判断処理のフローチャートである。
図26】事故判断モデル生成処理のフローチャートである。
図27】事件画像提供処理のフローチャートである。
図28】警備処理のフローチャートである。
図29】地切安全支援処理の概要を示す説明図である。
図30】クレーンによる吊荷の吊上状態を示す説明図である。
図31】地切安全支援処理における位置登録処理のフローチャートである。
図32】地切安全支援処理における登録情報管理処理のフローチャートである。
図33】地切安全支援処理における荷物吊上処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0131】
本発明の実施例について、工場または倉庫内で重量物を運搬する天井クレーンを例にとって説明する。本発明は、この例に限らず種々の情報処理装置として構築可能であり、例えば、被介護者を運搬するための介護クレーンとして構成することもできる。情報処理装置が設置されている場所は、屋内に限らない。また、本発明は、固定の領域内で吊荷を移動させる情報処理装置であれば、必ずしも天井クレーンのように固定の走行レールを利用して移動するものに限らず適用可能である。
実施例については、以下の順序で説明する。
A.システム構成:
B.軌跡表示機能:
C.メンテナンス時期通知機能:
D.危険度評価機能:
E.最適経路設定機能:
F.運転診断機能:
G.運搬シーケンス最適化機能:
H.レイアウト最適化機能:
I.事故判断機能:
J.警備機能:
K.地切安全支援機能:
L.効果および変形例:
【0132】
A.システム構成:
図1は、情報処理装置の構成を示す説明図である。
天井クレーン100は、工場内に設置された走行レール上を作業者の操作に応じて移動して、重量物を運搬する装置である。その構造については、後述する。
天井クレーン100は、無線LAN20を介して、情報処理装置200に接続されている。情報処理装置200は、ハードウェアとしてはサーバによって構築されており、天井クレーン100の稼働中には、種々の情報が取得され、情報処理装置200に蓄積される。情報処理装置200は、これらの情報の解析、天井クレーン100の動作の制御などの機能を奏する。
無線LAN20には、この他、端末としてのコンピュータ30が接続されている。コンピュータ30は、情報処理装置200に蓄積されたデータや解析結果などの閲覧、天井クレーン100の動作指示などに利用される。コンピュータ30の他、タブレット、スマートフォンなどを端末として利用してもよい。
【0133】
情報処理装置200は、インターネットを介して学習モデル生成システム500と接続されている。学習モデル生成システム500は、ハードウェアとしてはインターネットに接続されたサーバによって構築されており、情報処理装置200が種々の機能を実現する際に活用する機械学習の学習モデルを生成する役割を奏する。
実施例では、このように学習モデル生成システム500を、情報処理装置200とは別個のシステムとして構築しているが、両者を同一の施設内に設置してもよいし、学習モデル生成システム500を、情報処理装置200に組み込んで、一体のシステムとして構成してもよい。
また、逆に、後述する情報処理装置200の種々の機能の一部または全部を、インターネットを介して接続された外部サーバによって提供するものとしてもよい。この意味で、情報処理装置200は、必ずしも一つの工場敷地内のみで構成されるシステムに限定されるものではない。
【0134】
図2は、天井クレーン100の構造を示す説明図である。天井クレーン100には、吊荷を運搬するための吊上装置にあたるホイスト120が設けられている。ホイスト120は、先端に吊荷を引っかけるためのフック122が取り付けられたワイヤ121の巻上げ、巻下げによって、吊荷の上昇/降下を行うことができる。
ホイスト120におけるワイヤ121の巻上げ/巻下げ、ホイスト120の移動などの操作は、ケーブル131で接続されたコントローラ130によって行うことができる。図中の左下に、コントローラ130の拡大図を示した。図示する通り、コントローラ130には、電源をオン・オフするための押ボタン132、ワイヤ121の巻上げ/巻下げのための押ボタン133、東西南北の4方向に移動させるための4つの押ボタン134が設けられている。実施例において、コントローラ130は、かかる方式に限定されるものではない。例えば、4つの押ボタン134に代えて、コントローラ自体を円筒状の筐体の中心軸周りに回転させることにより、ホイスト120の移動方向を指示可能な構成としてもよい。コントローラ130は、ケーブル131で接続された有線式のものに代えて、無線式のものを利用してもよい。
【0135】
ホイスト120には、カメラ124が取り付けられている。カメラ124は、動画像を撮影可能であり、鉛直下方を撮影できるよう下向きに固定されている。カメラ124としては、静止画像を撮影するスチルカメラを用いても良い。撮影した画像データは、図1で説明した無線LAN20を介して情報処理装置200に送信される。
【0136】
ホイスト120には、またレーザレーダ125が取り付けられている。レーザレーダ125は、本体からレーザを照射し、周囲の人や物に当たって反射してくるまでの時間に基づいて、当該人や物までの距離を測定する装置である。レーザを一定範囲でスキャンさせることにより、3次元点群の形で、周囲の人や物の形状および距離を得ることができる。本実施例では、ホイスト120の下方の3次元点群を得られるようにレーザレーダ125を下向きに取り付けた。得られた3次元点群は、無線LAN20を介して情報処理装置200に送信される。
【0137】
ホイスト120には、表示器123が下向きに取り付けられている。表示器123としては、本実施例では、液晶ディスプレイを用いたが、他に有機EL、LEDその他のディスプレイを用いることができる。表示器123は、ホイスト120の移動方向その他、クレーンの稼働中に有用な情報を作業者等に表示する。
図中には示していないが、ホイスト120には、表示器123の表示内容を撮影可能なカメラをさらに取り付けても良い。例えば、下方を撮影するカメラ124の向きを変更可能に取り付けておくことにより、表示器123を撮影するためのカメラを兼用させてもよい。このように表示器123を撮影するカメラを設けることにより、その画像から、表示器123の表示内容、表示状態の異常を判断することができ、表示器123の故障の未然防止や故障への迅速な対応が可能となる。
【0138】
ホイスト120が移動する機構について、以下、説明する。
クレーンが設置された施設には、建物の天井近傍に、走行レール101、102が平行かつ水平に敷設されている。
走行レール101、102の上には、モータの動力によって、矢印aのように走行できるようサドル111、112が取り付けられている。サドル111、112には、両者にまたがるようにクレーンガーダ110が固定されている。クレーンガーダ110は、水平かつ走行レール101、102に直交する方向に設けられている。サドル111、112が矢印a方向に移動すると、これに伴ってクレーンガーダ110も一体として移動することができる。
ホイスト120は、モータによって、クレーンガーダ110に沿って矢印b方向に移動できるよう、クレーンガーダ110に取り付けられている。
従って、矢印a方向のクレーンガーダ110の移動と、矢印b方向のホイスト120の移動の組合せによって、ホイスト120は、走行レール101、102の間の空間を任意に移動することが可能となる。
【0139】
本実施例では、ホイスト120の位置を検出する機構が設けられている。
図示する通り、走行レール102には、位置を検出するためのマーカ103が描かれている。サドル112に固定されたセンサ113によって、光学的にマーカ103を読み取ることにより、サドル112の移動量、ひいてはサドル112のa方向の位置を検出することができる。同様に、クレーンガーダ110にも位置検出用のマーカ114が描かれている。ホイスト120の移動時には、ホイスト120に固定されたセンサ127によって、光学的にマーカ114を読み取ることにより、ホイスト120の移動量、ひいてはホイスト120のb方向の位置を検出することができる。この結果、センサ113、127で読み取った結果に基づき、ホイスト120の水平方向の位置座標(x、y)を検知することが可能である。位置座標は、無線LAN20を介して情報処理装置200に送信される。
【0140】
位置検出機構の詳細について説明する。
図3は、位置検出機構の構成を示す説明図である。走行レール102において、サドル112のa方向の位置、即ち図2におけるX座標を検出するための機構を示した。図3中では、右方向がX座標のプラス方向、左方向がマイナス方向であるとする。原点は、任意の場所に設定することができる。
【0141】
位置検出機構では、図2で説明したマーカ103が走行レール120に描かれている。図3に具体的に示す通り、このマーカ103は、位置検出用マーカ103a、座標検出用マーカ103bを備えている。
位置検出用マーカ103aは、白および黒の領域を交互に描いたものである。黒の領域の幅wbは一定である。また、白の領域の幅wwも一定である。両者wb、wwは同じ幅としても良いし、異なっていてもよい。位置検出用マーカ103aは、走行レール120全般にわたって描かれている。本実施例では、予め図示するパターンを描いたテープを用意し、これを走行レール120に貼付する方法をとった。
座標検出用マーカ103bは、走行レール120の適宜の位置に描かれている短いマーカである。走行レール120の1カ所に設けても良いし、複数箇所に設けても良い。座標検出用マーカ103bは、白と黒の領域で形成されるが、その本数および幅は、設けられている箇所ごとに異なっている。即ち、白と黒の本数および幅で構成される一つのパターンによって、走行レール120の特定の位置を表すものとなっている。
【0142】
位置検出機構には、位置検出用マーカ103aを検出するための光センサ113a、113bおよび座標検出用マーカ103bを検出するための光センサ113cが備えられる。光センサ113a、113bは、走行方向に対して位相をずらして設置されている。従って、右側に移動する時には、光センサ113aが黒、白のパターンを検出した後、少し遅れて光センサ113bが黒、白のパターンを検出することになる。逆に左側に移動する時には、光センサ113bが黒、白のパターンを検出した後、少し遅れて光センサ113aが黒、白のパターンを検出することになる。このように、光センサ113a、113bによる検出の時間差によって、右側に移動しているのか、左側に移動しているのかを判断することが可能となる。
【0143】
位置検出機構によってホイスト120のX座標を特定する方法は、次の通りである。ホイスト120が右方向に移動しているときは、光センサ113aまたは光センサ113bによる黒の検出回数Nb、白の検出回数Nwに基づき、Nb×wb+Nw×wwを従前の座標値に加えればよい。また、左方向に移動しているときは、Nb×wb+Nw×wwを従前の座標値から引けばよい。
【0144】
本実施例の場合、光センサ113a、113bが位相差を設けて設置されているから、両者の出力状態は、(1)光センサ113a、113bが共に黒、(2)光センサ113aが黒、光113bが白、(3)光センサ113a、113bが共に白、(4)光センサ113aが白、光113bが黒という4通りが、wb+wwの区間内に周期的に出力されることになる。従って、この4通りの出力を利用すれば、黒の領域の幅wb、白の領域の幅wwよりも高い解像度で位置の特定を実現することも可能である。
【0145】
なお、座標検出用マーカ103bの信号が検出されたときは、黒、白の領域の数および幅に基づいてパターンを特定し、予め記憶されたパターン情報を参照することにより、X座標値を特定することができる。位置検出用マーカ103aによって算出された座標値には、誤差が含まれる可能性があるため、座標検出用マーカ103bによって座標値が特定された場合には、この値で位置検出用マーカ103aによって算出された座標値を更正する。こうすることにより、位置検出の精度向上を図ることができる。
【0146】
位置情報の検出は、他の方法をとってもよい。
例えば、予め施設内の設備等の位置をデータベースとして用意しておき、カメラ124で撮影された下方の画像を解析し、設備等との相対的な位置関係を求めることにより、カメラ124の位置座標、ひいてはホイスト120の位置座標を検出する方法をとってもよい。この場合、設備の代わりに、検出しやすい所定形状のマーカを用いるようにしてもよい。
また、レーザレーダ125によって、施設周囲の壁までの距離を計測し、これによって、壁に対する位置、ひいてはホイスト120の位置座標を検出するようにしてもよい。レーザレーダ125に代えて、周囲までの距離を測定するためのレーザ測距装置を別途、ホイスト120に取り付けてもよい。
施設内で電波が良好に受信できる場合には、GPSを併用することも有用である。
【0147】
図4は、情報処理装置200、学習モデル生成システム500の構成を示す説明図である。情報処理装置200、学習モデル生成システム500は、それぞれハードウェアとしては、CPU、メモリを備えたコンピュータ、特にサーバによって構成されており、図示する各機能部が、ソフトウェア的に構築されている。これらの機能部の一部または全部は、ハードウェア的に構築してもよい。
以下、それぞれの機能部について説明する。
【0148】
情報処理装置200の機能部について説明する。
稼働実績データベース201は、天井クレーン100の稼働中の種々の情報を格納するデータベースである。格納するデータとしては、ホイスト120の位置座標、コントローラの操作データ、吊荷の種別や運搬スケジュールなどの作業データなどが含まれる。位置座標、操作データ等は、それぞれのデータが得られた時刻情報と関連づけることにより、時系列に格納されている。本実施例では、位置座標、操作データは、別々に記憶するものとした。各時刻、位置座標および操作データを一組のデータとして逐次記憶する方法をとってもよい。この方法では、位置座標と操作との関係は容易に照合できる利点があるが、例えば、吊荷の吊り上げ、降下の操作中は、ホイスト120が移動しないにも関わらず、同じ位置座標が繰り返し記憶されることになり、無駄なデータ量が生じやすい。データの記憶形式は、このようなメリット・デメリットを総合的に考慮して、選択すればよい。
以下、稼働実績データベース201に格納されたデータを、「稼働実績データ」と総称することがある。
【0149】
3次元点群データベース202は、レーザレーダ125で得られた3次元点群のデータを格納する。3次元点群データは、所定の時間間隔で繰り返し取得され、3次元点群データベース202には、それぞれ取得した時刻と対応づけて格納される。
【0150】
画像データベース203は、カメラ124で得られた画像データを格納する。本実施例では、画像データは動画像である。画像データも、それぞれの場面が時刻と対応づけた形で格納されている。
【0151】
事件データベース204は、クレーンが設置された施設内で異常が検出された場合の時刻および位置座標、およびその前後の3次元点群データ、画像データを特定する情報を記憶する。後述する通り、本実施例のクレーンは、吊荷を運搬する通常の稼働以外に、無人の状態で、施設内の監視を行う機能を有している。また、通常の稼働時には、事故の発生の有無を判断する機能を有している。事件データベース204に格納される「異常」とは、監視によって発見された異常、具体的には火災および不審者であり、また、事故を意味する。上述の通り、事件データベース204には、異常の発生前後にわたる所定期間の3次元点群データ、画像データを特定する情報が記憶される。これは、3次元点群データベース202、画像データベース203から、該当するデータを読み出すためのパスその他の情報を意味する。こうすることにより、事件データベース204に格納されるデータ量を抑制しながら、異常の発生前後にわたるこれらのデータを容易に出力することが可能となる。もちろん、該当するデータを、3次元点群データベース202、画像データベース203からコピーし、事件データベース204に格納する方法をとっても差し支えない。
【0152】
基本動作データベース205は、クレーンの稼働中に、作業者が行うべき基本動作を表す画像データを格納する。このデータは、稼働中に、作業者がこれらの基本動作を行ったか否かの判断に用いることができる。また、作業者に対して、本来、行うべき基本動作を教示するために用いることもできる。本実施例では、前者の判断に利用するため、基本動作を、カメラ124と同様に、上から下方に向けて撮影した動画像を用いた。作業者に教示するためのデータとして、人物を正面から撮影した画像を用意してもよい。なお、各画像データは、作業者が行うべき基本動作の名称等と対応づけて格納される。
【0153】
クレーン移動制御部210は、クレーンの移動を制御する機能を奏する。クレーンは、吊荷を運搬する通常の稼働状態では、主として作業者がコントローラ130(図1参照)の操作によって移動する。ただし、本実施例では、この他に、クレーンは、無人で施設内を所定のスキャンパターンで移動し、異常の有無を監視することができる。クレーン移動制御部210は、この監視のためにクレーンの移動を制御するのである。スキャンパターンとしては、例えば、図2において、ホイスト120がクレーンガーダ110の端に位置した状態で、図2中の走行レール101、102の一端から他端までa方向にクレーンを走行させて主走査を行い、その後、ホイスト120の位置をb方向にずらす副走査を行って、主走査を繰り返すというジグザグパターンとすることができる。逆に、b方向に主走査を行い、a方向に副走査を行っても良い。
【0154】
これらのスキャンは、監視だけでなく、クレーンが設置された施設の床面全体の画像を得るために活用することもできる。つまり、上述のスキャンパターンにおいて、カメラ124で撮影された画像を合成するのである。複数の画像を相互に位置合わせをしながら合成する方法には、種々の周知の技術を適用可能である。施設内には、設備や障害物などの固定の対象物以外に人物なども存在するから、画像を合成する際には、人物が写っていない部分を選択して合成してもよい。異なる時間帯にスキャンを行って得られた画像を用いることにより、人物が写っている画像を除外しても、床面を十分に表し得るだけの画像を得ることができる。
以上で説明した処理によって、床面全体の画像を得れば、施設内の設備や障害物の配置を把握することができる。かかる画像に基づいて、設備や障害物の位置座標を特定し、施設内の設備等の配置を表すデータを作成してもよい。
【0155】
位置検出部211は、クレーンの稼働中にホイスト120の位置座標を検出する。検出方法については、図1で説明した通りである。位置検出部211は、天井クレーン100から送信されるデータを受信し、これに基づいて位置座標を求める。得られた位置座標は、稼働実績データベース201に格納する。
実施例では、一定の時刻ごとに位置座標を検出するものとした。一方、クレーンは、比較的直線的に移動するため、例えば、一定の速度で移動している間は、細かく位置座標を検出する必要性はそれほど高くない。そこで、位置検出部211は、一定期間の位置座標を一時的に蓄積し、ほぼ一定の速度で直線的に移動していると判断される区間については、取得したデータを省略して稼働実績データベース201に格納するようにしてもよい。こうすることにより、位置座標のデータ量を抑制することが可能となる。
【0156】
データ取得部212は、天井クレーン100から種々のデータを取得する機能を奏する。取得するデータの中には、カメラ124で撮影された画像データ、レーザレーダ125で得られた3次元点群データ、コントローラ130に対する操作などが含まれる。取得されたデータは、稼働実績データベース201に格納される。
【0157】
メンテナンス時期判断部220は、稼働実績データベース201に記憶された稼働実績データに基づいて、クレーンのメンテナンスの要否およびメンテナンス時期を判断する。これらの判断に機械学習を用いる場合には、メンテナンス時期判断部220は、学習モデル生成システム500で生成された学習モデルを保持しておき、これを用いて判断を行う。メンテナンスの判断対象としては、ホイスト120を移動させるためのモータ、巻上げ/巻下げ用のモータ、ワイヤ121、コントローラ130などが挙げられる。
【0158】
基本動作判断部221は、クレーンの稼働中に作業者が所定の基本動作を行ったか否かを判断する。本実施例では、カメラ124で撮影された画像データと、基本動作データベース205との対比に基づいて判断する。レーザレーダ125で得られた3次元点群から、人物の点群のみを抽出し、これに基づいて基本動作が行われているか否かを判断するようにしてもよい。画像データまたは3次元点群データと基本動作データベース205との対比は、パターンマッチングによって行うことも可能ではあるが、機械学習を利用することがより効果的である。機械学習を利用する場合には、基本動作判断部221は、学習モデル生成システム500で生成された学習モデルを保持しておき、これを用いて判断することになる。
【0159】
統計処理部222は、クレーンの稼働に関する種々の統計処理を行う。統計処理としては、例えば、情報処理装置の稼働時間の算出、吊荷の総運搬時間、平均運搬時間、総移動距離、平均移動距離などの算出、吊荷装置の平均移動速度、吊荷の上げ下げに要した総時間、平均値の算出、コントローラの操作回数の集計などが挙げられる。一日単位の統計処理だけでなく、週または月単位での統計処理を行い、または、日、週、月ごとの対比などの処理を行っても良い。
統計処理の結果は、メンテナンス時期の判断や運転診断などに用いることができる。統計処理の結果も、稼働実績データベース201に格納してもよい。
【0160】
危険度評価部223は、クレーンの稼働中および事後に危険の有無およびその程度を評価する。本実施例では、吊荷へのワイヤの取り付け、吊り上げ、運搬開始、運搬中、吊荷降下、ワイヤ取り外しのように、吊荷の運搬のための一連の作業を場面に分け、それぞれの場面について危険を評価するものとした。危険の評価は、吊荷と人、設備等との位置関係などに基づいて行う。危険の評価に機械学習を利用する場合には、危険度評価部223は、学習モデル生成システム500で生成された学習モデルを保持しておき、これを用いて判断することになる。
【0161】
事故判断部224は、クレーンの稼働中に、事故の発生の有無を判断する。本実施例では、吊荷と人、設備等との位置関係、人の姿勢などに基づいて行う。事故発生の判断に機械学習を利用する場合には、危険度評価部223は、学習モデル生成システム500で生成された学習モデルを保持しておき、これを用いて判断することになる。
【0162】
警備動作部225は、クレーンによって無人で設備内の監視を行うとともに、異常を発見したときには、それに対処する機能を奏する。異常としては、火災、不審者の発見などが挙げられる。対処としては、クレーンのスキャンパターンの変更、および通報などが挙げられる。
【0163】
運転診断部230は、作業者に対して、クレーンの稼働後に、その運転の診断を行う機能を奏する。診断内容としては、危険の有無およびその程度、および運転効率が挙げられる。
【0164】
運搬シーケンス最適化部231は、クレーンによる吊荷の運搬順序を最適化した結果を提供する。複数の吊荷を運搬する場合、その順序によっては、クレーンが空荷で移動する距離が長くなり無駄が生じる。運搬シーケンス最適化部231は、空荷での移動距離移動距離が短くなるように、吊荷の運搬順序を最適化するのである。
【0165】
最適経路設定部233は、クレーンによる吊荷の搬送経路を最適化した最適経路を提供する。例えば、吊荷をA地点からB地点に運搬する場合、両地点を結ぶ直線が、移動距離が最短の経路、即ち最適経路となる。本実施例では、種々の拘束条件を踏まえて、このように最適経路を求めるのである。
【0166】
レイアウト最適化部234は、クレーンが設置された施設内の設備および障害物のレイアウトの最適化を図る。例えば、吊荷の運搬経路は、発着地を結ぶ直線状の経路が最短となる。レイアウト最適化部234は、これを実現するよう、例えば、経路上の設備または障害物を移動させたレイアウトを提供する。また、吊荷の発着地自体の変更も考慮する。
【0167】
表示制御部232は、以上で説明した種々の機能におけるアウトプットを、情報処理装置200に接続されたコンピュータ30の画面に表示させる。クレーンに取り付けられた表示器123に表示させてもよい。表示内容は、各機能に応じて異なる。
【0168】
異常時画像提供部235は、事故、火災、不審者などの異常が発生したときに、その発生時刻の前後にわたる所定期間の画像データ、3次元点群データを提供する。具体的には、事件データベース204を参照して、指定された異常に対応する画像データ等の格納場所を特定し、画像データベース203または3次元点群データベース202から、これを読み出すのである。提供は、コンピュータ30の画面に表示させる他、一連の動画データとして記録媒体等に出力する方法をとることができる。
【0169】
地切安全支援部250は、クレーンでつり上げた吊荷が床面から離れる瞬間、即ち地切の瞬間における安全性の向上を支援する機能を奏する。クレーンが正確に吊荷の重心をつり上げる場合には、クレーンの巻き上げとともに、吊荷はほとんど揺れることなく上昇していくが、吊り上げ位置が重心から少しでもずれていると、地切の瞬間に吊荷が前後左右に揺れることがある。この結果、重量物を吊り上げるときには、作業員が吊荷と衝突するなどの事故が生じるおそれがある。
地切安全支援部250は、こうした事故を抑制するため、吊荷を床においた時のクレーンの位置を記憶しておき、その吊荷を再度吊り上げる時には、記憶しておいて位置を正確に再現するのである。こうすることにより、クレーンは、吊荷の重心を正確に吊り上げることが可能となる。
地切安全支援部250は、かかる機能に伴い、記憶しておいた位置を管理する機能、重心位置を精度良く再現するための種々の機能、位置の登録または再現などの利便性を向上する機能なども併せて実現する。もちろん、これらの機能は、その一部を省略しても差し支えない。
【0170】
送受信部240は、無線LAN20およびインターネットを介して、天井クレーン100、コンピュータ30、学習モデル生成システム500等とのデータの授受を行う。送受信部240は、コンピュータ30から、最適経路、最適シーケンス、最適レイアウトの設定などにおいて情報処理装置200へのコマンドを受け付ける入力部としての機能も提供する。
【0171】
次に、学習モデル生成システム500の機能部について説明する。学習モデル生成システム500は、情報処理装置200が提供する種々の機能において利用する学習モデルを機械学習によって生成し、情報処理装置200に提供するためのシステムである。本実施例では、情報処理装置200とは別のシステムとして構築しているが、情報処理装置200に組み込む形で構築してもよい。
また、本実施例では、以下、情報処理装置200に固有の学習モデルを提供するものとして説明するが、学習モデル生成システム500は、複数のクレーンに共通する汎用の学習モデルを生成するシステムとすることもできる。
【0172】
稼働実績データベース501、3次元点群データベース502、画像データベース503は、情報処理装置200における稼働実績データベース201、3次元点群データベース202、画像データベース203にそれぞれ対応する。本実施例では、情報処理装置200の各データベースを適宜、学習モデル生成システム500にコピーし、更新するものとした。こうすることにより、機械学習を繰り返し行えば、クレーンの稼働実績を反映させた再学習を行わせることができ、学習モデルの精度をより向上させることが可能となる。
稼働実績データベース501、3次元点群データベース502、画像データベース503の内容は、学習モデルの生成を考慮して、情報処理装置200における各データベースと異ならせてもよい。例えば、以下で説明する機械学習に不要なデータは省略してもよい。また、情報処理装置200で学習モデルを用いてなされた判断結果を、稼働実績データの一つとして記憶してもよい。
【0173】
送受信部540は、インターネットを介して情報処理装置200とデータの授受を行う。本実施例では、授受されるデータとしては、各データベースに記憶された稼働実績データその他のデータ、および学習モデルなどが挙げられる。
【0174】
学習用データ生成部510は、稼働実績データベース501、3次元点群データベース502、画像データベース503に記憶された各データに基づいて、機械学習用のデータを生成する。例えば、コントローラの操作を行った時刻と、ホイスト120の位置情報に基づいて、操作開始からクレーンが移動を開始するまでの時刻のデータを生成する場合が挙げられる。その他、機械学習の内容に応じて、種々のデータを生成することになる。
【0175】
メンテナンス時期判断モデル生成部521は、クレーンのメンテナンスの時期を判断するための学習モデルを生成する。メンテナンスの判断対象としては、ホイスト120を移動させるためのモータ、巻上げ/巻下げ用のモータ、ワイヤ121、コントローラ130などが挙げられる。メンテナンス時期判断モデル生成部521は、これらの対象ごとに学習モデルを生成すればよい。
【0176】
危険度判断モデル生成部522は、クレーンの稼働状況について危険の有無およびその程度を評価ための学習モデルを生成する。本実施例では、種々の場面に対して、危険の有無およびその程度を示した教師データを用意し、これに基づく教師あり機械学習を用いるものとした。他の方法を用いてもよい。
【0177】
事故判断モデル生成部523は、クレーンの稼働中に事故が発生したか否かを判断するための学習モデルを生成する。本実施例では、教師あり機械学習を用いるものとした。他の方法を用いてもよい。
【0178】
基本動作判断用学習モデル生成部520は、クレーンの稼働中に作業者が所定の基本動作を行ったか否かを判断するための学習モデルを生成する。本実施例では、本来の基本動作を行った場合の画像データ、およびこれらの基本動作を行わなかった場合の画像データを基本動作データベース505に用意し、これらを教師データとして機械学習分類を行わせるものとした。基本動作データベース505の画像は、カメラ124と同様に、上から下方に向けて撮影した動画像に基づき、これをフレームごとの一連の静止画像の集まりとした上で、それぞれの静止画像データから、対象となる人間の部分のみを切り出したものとした。
【0179】
情報処理装置200および学習モデル生成システム500は、上述した機能部によって、後述する種々の機能を提供する。図4で説明した機能部の構成は、一例に過ぎず、これら以外の機能部を用意してもよいし、ここに示した機能部を複数の機能部に分割したり、複数の機能部を統合したりしてもよい。
【0180】
B.軌跡表示機能:
実施例の情報処理装置200が提供する機能の一つとして軌跡表示機能について説明する。
図5は、軌跡表示処理のフローチャートである。主として図4に示した位置検出部211および表示制御部232が稼働実績データベース201に記憶された稼働実績データを用いて行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、表示対象の日時の指定を入力する(ステップS10)。この指定は、コンピュータ30などの端末から行うことができる。日付を指定したときは、該当する一日分の移動軌跡が表示される。開始日時、終了日時を指定した場合には、該当する期間の移動軌跡が表示される。一日のうち特定の時間帯の移動軌跡を表示させたい場合などに有用である。複数の日時を指定したときは、該当する日の移動軌跡が表示される。これらの移動軌跡を対比したい場合などに有用である。日時の指定は、他にも種々の態様を用意してもよい。
【0181】
日時が指定されると、情報処理装置200は、対応する稼働実績データおよび画像データを読み込む(ステップS11)。
そして、これらに基づいて統計データを算出する(ステップS12).本実施例では、走行レール101、102方向の移動距離である走行距離、クレーンガーダ110方向の移動距離である横行距離、コントローラの押ボタンの操作回数、吊荷の運搬距離、クレーンの稼働時間などを求めるものとした。この他の統計処理を行うものとしてもよい。
【0182】
情報処理装置200は、これらのデータを用いて、表示モードに応じて移動軌跡の表示を行う(ステップS13)。表示モードとしては、移動軌跡のみを表示するモード、移動軌跡と併せて画像データを表示するモードなどが挙げられる。情報処理装置200は、表示モードの変更指示がなされた場合には(ステップS14)、指示に従って再度、移動軌跡の表示を行う(ステップS13)。また、表示対象となる日時の変更が指示されたときは(ステップS15)、改めてステップS10以降の処理を実行する。
その他の場合、即ち、表示の終了が指示されたときは、軌跡表示処理は終了する。以上の処理により、情報処理装置200は、指定された日時における移動軌跡を表示する。
【0183】
図6は、軌跡表示画面の例(1)を示す説明図である。コンピュータ30に表示される画面D1には、対象となる表示時間の設定(d11)が表示され、それに該当する移動軌跡(d14)が表示される。移動軌跡は、施設内でクレーンが移動した時系列の位置情報を結ぶ直線または曲線である。図中、破線は、空荷での移動軌跡を示し、実線は吊荷を運搬している状態での移動軌跡を示している。このように、空荷と運搬中とで表示態様を変えることにより、クレーンの稼働実績を視覚的に容易に把握することが可能となる。
【0184】
移動軌跡の一箇所をマウスなどで指定すると(d15)、その時点でのコントローラの操作内容が領域d16に表示される。こうすることにより、コントローラの操作の適否を確認することが可能となる。
【0185】
右上には、統計データの表示を指示するためのボタンd12が用意されている。ボタンd12をクリックすると、走行距離などの統計データd17が表示される。
また、ボタンd13をクリックすると、移動軌跡を動画で表示させることができる。動画は、例えば、移動軌跡上を、クレーンを表すシンボルが移動する態様としてもよい。また、クレーンの移動に応じて移動軌跡を描くようにしてもよい。動画表示する際には、クレーンの移動に応じて、コントローラの操作(d16)も変化させることが好ましい。
【0186】
図7は、軌跡表示画面の例(2)を示す説明図である。コンピュータ30に表示される画面D2には、領域d21に移動軌跡が表示され、移動軌跡にそってクレーンを表すシンボルd23が移動する。また、シンボルd23の位置に対応する画像が領域d22に表示される。この表示モードによれば、クレーンの移動中の状態を画像で容易に確認することができる。
シンボルd23を移動させる動画表示の他、領域d21で移動軌跡上の一点d23をクリックすると、それに対応する静止画像が領域d22に表示されるようにしてもよい。
移動軌跡の表示は、図6図7に示した他、種々の態様をとることができる。
【0187】
以上で説明した移動軌跡の表示機能によれば、クレーンのユーザは、クレーンの稼働実績を視覚的に把握することができる。
また、移動軌跡と操作または画像とを対応づけて表示することにより、クレーンの運転が適切になされていたか否かも含めて状況を確認しやすくなる。
さらに、統計処理の結果も表示することにより、稼働実績を客観的に把握することが可能となる。
【0188】
C.メンテナンス時期通知機能:
次に、情報処理装置200が提供する機能の一つとして、クレーンのメンテナンス時期を通知する機能について説明する。
(1)機械学習に依らない処理:
図8は、メンテナンス時期判断処理のフローチャートである。主として図4に示したメンテナンス時期判断部220が稼働実績データベース201に記憶された稼働実績データを用いて行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、稼働実績データを読み込み(ステップS20)、前回のメンテナンス以降の各種の累計データを生成する(ステップS21)。メンテナンスには、定期点検を含めてもよい。メンテナンス以降としたのは、メンテナンスによってクレーンの不具合などは解消されていると考えられるからである。もっとも、メンテナンスにおいて、必ずしも全ての部品交換などが行われる訳ではないから、メンテナンスの対象とされていない箇所については、前回に当該箇所が対象とされたメンテナンス以降の累計データを生成するようにしてもよい。これらのメンテナンス実績は、稼働実績データとともに記憶させておけばよい。表示器の画像をカメラで撮影している場合には、その画像データも、コントローラの操作内容またはクレーンの動作と関連づけて記憶しておいてもよい。こうすることにより、表示器の異常の検出に活用することができる。また、無線式のコントローラを利用している場合には、バッテリの充電履歴などをメンテナンス実績として蓄積しておくようにしてもよい。こうすることで、バッテリの消耗の予測に活用することができる。
累計データとしては、例えば、コントローラの押ボタンの操作回数、クレーンの走行距離・横行距離、吊荷の運搬距離などが挙げられる。この他の累計データを生成してもよい。
【0189】
次に、情報処理装置200は、メンテナンスの要否を判定するための判定閾値を読み込む(ステップS22)。図中に判定閾値の設定方法について示した。例えば、コントローラの押ボタンのメンテナンス時期を判断する場合を考える。横軸は、操作回数、縦軸に故障が生じた件数をとって過去の実績を描くと、図示するような分布が得られる。ここで、「件数」というのは、一つのコントローラで故障が発生した回数という意味ではない。過去の実績において、操作回数N回目で故障が発生した件数がn件、M回目で故障が発生した件数がm件というように集計することを意味する。こうして故障件数の分布が得られると、平均値および標準偏差を求めることができる。判定閾値は、「平均値-係数×標準偏差」で設定すればよい。係数は、3~5を用いることができる。判定閾値は、このような方法によって予め設定された値である。判定閾値は、コントローラ、モータ、表示器など、メンテナンス時期を判定する対象ごとに設定すればよい。なお、上述の方法は、判定閾値の設定例に過ぎず、判定閾値は、任意に設定可能である。
また、無線式のコントローラを利用する場合、そのバッテリの消耗も判定の対象となり得る。ただし、無線コントローラの場合は、クレーンの稼働中にバッテリの消耗によりコントロールできなくなる状態が生じることは回避する必要があるため、バッテリの残量が低下した場合でも、吊り荷の着地やクレーンの待機位置への移動など、危険のない状態まで稼働させる必要がある。従って、バッテリに対する判定閾値の設定は、これらの操作が可能な残量を確保できる範囲で設定することが好ましい。
【0190】
情報処理装置200は、累計データと判定閾値との比較により、メンテナンス時期を予測する(ステップS23)。既に累計データが判定閾値を超えている場合には、速やかにメンテナンスが必要と判断することになる。累計データが判定閾値を超えていないときのメンテナンス時期の予測は、種々の方法で行うことができる。図中に一例を示した。横軸に前回のメンテナンス以降の経過時間をとり、縦軸に操作回数をとる。原点と現在の経過時間、操作回数とを結ぶ線を延長して、操作回数が判定閾値に至る時間を求める。こうすることにより、現在に至るまでと同様の傾向で、操作回数が増大すれば、いつ閾値に至るかを予測することができ、メンテナンス時期を予測することができる。
情報処理装置200は、メンテナンスの判断対象ごとに、上述の判断処理を行う。判断方法は、判断対象ごとに変えてもよい。また、メンテナンス時期の予測は、上述以外の方法を用いても構わない。
【0191】
情報処理装置200は、こうして得られた結果を出力し(ステップS24)、メンテナンス時期判定処理を終了する。結果の出力方法としては、コンピュータ30への画面表示、担当者へのメールの送信などの態様をとることができる。既に累計データが判定閾値を超えており、速やかなメンテナンスが必要と判断されるときは、クレーンの表示器123への表示その他の警報を行うものとしてもよい。
【0192】
(2)変形例~機械学習の適用:
メンテナンス時期の判断は、機械学習を利用してもよい。以下では、変形例として、機械学習を適用する例について説明する。
図9は、メンテナンス時期判断用データ生成処理のフローチャートである。稼働実績として蓄積されているデータに基づいて、機械学習用のデータを生成する処理である。主として図4に示した学習用データ生成部510が行う処理であり、ハードウェア的には学習モデル生成システム500のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、学習モデル生成システム500は、稼働実績データベース501から稼働実績データを読み込み(ステップS30)、モータ作動状況のデータを生成する(ステップS31)。
図中にデータ生成の内容を示した。上のグラフは、コントローラの押ボタンのオン・オフの状態を示した。押ボタンは、複数あるが、ここでは、そのうちの一つのみを例として示している。図示する通り、押ボタンをオンにしているtopの間、クレーンは移動する。中段には、モータの電流を示した。押ボタンをオンにしてから、時間td経過後からモータに電流が流れ始める。その後、電流は、若干のノイズによる変化を挟みながら、押ボタンがオフになるまで流れる。この例では、途中、押ボタンがオンになっているtopの期間内に、時間ti0、ti1の間、モータ電流が不意に落ち込む箇所が現れている。下段には、クレーンの移動速度の変化を示した。押ボタンの操作後、モータの電流変化に応じて、クレーンは移動する。モータ電流が落ち込む箇所では、クレーンの移動速度も同様に低下している。クレーンの平均速度からは、クレーンの平均速度が求められる。
上述の通り、データの生成処理(ステップS31)では、モータおよび押ボタンのメンテナンスの要否およびその時期を判断するためのデータとして、押ボタンをオンにしている時間間隔top、モータ電流が立ち上がるまでの時間td、モータ電流が落ち込む時間ti0,ti1、クレーンの平均速度などを生成する。モータの作動状況に関しては、機械学習の内容に応じて、他にも種々のデータを生成してもよい。
【0193】
次に、学習モデル生成システム500は、吊荷状況のデータを生成する(ステップS32)。
図中にデータ生成の内容を示した。左側は、クレーンの巻き上げ量と吊り荷高さとの関係である。クレーンを巻き上げるにつれて、吊荷の高さは比例的に上昇する。吊荷を吊り上げるためのワイヤ121に緩みが生じてくると、吊り上げ時に伸びが生じやすくなるため、このグラフの傾きが緩やかになったり、直線からずれたりすることがある。こうした現象を考慮し、データ生成処理(ステップS32)では、ワイヤ121のメンテナンス時期を判断するためのデータとして、クレーン巻き上げ量に対する吊荷の上昇を表すデータ、例えば、図示したグラフの傾きなどが算出される。
図の右側には、搬送中の吊荷高さの変化を示した。搬送中は、吊荷の高さは、振動しながら、ほぼ一定の高さを維持する。ところが、ワイヤ121に緩みが生じてくると、弾性力が低下するため、この振動の周波数が低下し、また、振幅が大きくなる傾向が現れることがある。こうした現象を考慮し、データ生成処理(ステップS32)では、ワイヤ121のメンテナンス時期を判断するためのデータとして、クレーン搬送中の吊荷高さの振動について、振幅および周波数が算出される。
モータの作動状況に関しては、機械学習の内容に応じて、他にも種々のデータを生成してもよい。例えば、作業者のヘルメットにカメラを装着しておき、吊荷を撮影するとともにその状況を画像解析して、機械学習用のデータを生成してもよい。吊荷の高さ、振動などのデータを取得してもよいし、荷物を吊り下げるときのワイヤの角度およびその変化などを取得してもよい。
また、表示器については、表示器を撮影した画像に基づき、表示の欠損の有無や数量、表示のちらつきの有無や程度などを数値化して機械学習用のデータとすることができる。
【0194】
図10は、メンテナンス時期判断モデル生成処理のフローチャートである。主として図4に示したメンテナンス時期判断モデル生成部521が行う処理であり、ハードウェア的には学習モデル生成システム500のCPUが実行する処理である。本実施例では、教師なし機械学習を用いるものとした。
処理を開始すると、学習モデル生成システム500は、メンテナンス時期判断用データ生成処理(図9)で生成された学習データを読み込む(ステップS40)。
【0195】
そして、これらの学習データに基づいて教師なし機械学習を実行する(ステップS41)。具体的には、メンテナンス時期の判断対象である押ボタン、モータ、ワイヤのそれぞれについて、学習データのクラスタを生成するのである。
例えば、押ボタンについてクラスタを生成する例を考える。押ボタンの操作に関係する学習データとしては、先に示した通り、押ボタンをオンにしている時間間隔top、モータ電流が立ち上がるまでの時間td、モータ電流が落ち込む時間ti0,ti1、クレーンの平均速度などが挙げられる。クレーンを稼働しているときは、ほとんどが、メンテナンスを要しない正常状態にあると考えられるから、学習データが、集中する領域は、正常な状態を表していると考えられる。一方、この集中する領域から外れたデータは、異常が生じつつある状態、即ち、メンテナンスを要する状態にあると言える。従って、学習データに基づいて、正常と考えられる領域をクラスタとして認識させるための学習モデルを生成すれば、メンテナンスの要否に活用することができるのである。
図中に、処理のイメージを示した。白丸で示したデータが、正常状態の学習データを表している。×で表したデータが、異常状態の学習データを表している。クラスタを生成するとは、図中の破線の領域を判断する学習モデルを生成する処理に相当する。クラスタは、例えば、その中心CGと、距離Rで表される。判断対象となる学習データが、中心CGからの距離Rを超える場合には、クラスタ外にあると判断され、メンテナンスが必要であると判断されることになる。
なお、図中の例では、3次元空間で学習データを表しているが、学習データの種類および数によって、この空間の次元は変動する。
【0196】
学習モデル生成システム500は、こうして生成された学習モデル、即ちメンテナンス時期判断モデルを出力して(ステップS42)、メンテナンス時期判断モデル生成処理を終了する。
【0197】
図11は、変形例としてのメンテナンス時期判断処理のフローチャートである。主として図4に示したメンテナンス時期判断部220が稼働実績データベース201に記憶された稼働実績データを用いて行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、稼働実績データを読み込み(ステップS50)、メンテナンス時期判断処理用データ生成処理を実行する(ステップS51)。この処理内容は、図9で説明した通りである。学習モデルを生成するときに行った処理と同様の処理を実行するのである。
そして、情報処理装置200は、予め生成されたメンテナンス時期判断モデルを利用して、クラスタ中心からの距離DCを算出する(ステップS52)。図中にイメージを示した。先に説明した通り、学習モデルは、稼働実績が「正常」と判断されるクラスタの中心CGおよびその距離Rを与える。従って、稼働実績が、クラスタ内に存在するか否かを判定するために、距離DCを算出するのである。
【0198】
算出された距離DCがクラスタの境界までの距離Rより大きい場合には(ステップS53)、稼働実績が正常から外れた状態にあることを意味する。従って、情報処理装置200は、メンテナンスが必要であると判断し、その旨、を通知する(ステップS54)。通知は、種々の方法で行うことができる。
【0199】
一方、距離DCが距離R以下である場合(ステップS53)には、現時点では、未だメンテナンスは必要ではないと判断される。そこで、現状に基づき、メンテナンスの時期を予測する(ステップS55)。図示する通り、前回のメンテナンス以降の経過時間と現時点での距離DCを延長することにより、これが距離Rに到達する時刻を求め、これをメンテナンス時期とする。情報処理装置200は、こうして予測されたメンテナンス時期を通知する(ステップS56)。メンテナンス時期の予測方法および通知方法は、この他にも種々の方法をとることができる。
【0200】
(3)効果:
以上で説明したメンテナンス時期判断処理(図8図11)によれば、クレーンについて、定期点検を迎える前に、メンテナンス時期を判断することができ、故障を早期に回避することが可能となる。
また、機械学習を利用する場合には、複数の要素を総合的に考慮することができ、メンテナンスの要否およびその時期の判断を精度良く行うことが可能となる。本実施例では、正常な稼働状態における稼働実績データに基づいて教師なし機械学習を用いているため、故障が生じた実績を多量に集めなくとも、機械学習を適用することができる利点がある。
【0201】
D.危険度評価機能:
(1)運搬場面の判断:
図12は、危険度評価処理のフローチャートである。主として図4に示した危険度評価部223および基本動作判断部221が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。この処理は、クレーンの稼働後に、稼働実績データ、3次元点群データ、画像データに基づいて、危険の有無およびその程度を判断するために実行される処理である。作業者のヘルメット、軍手、作業着などにセンサを付したり、画像解析によって認識を容易にするための特徴的なマーカを貼付するなどして、作業者の姿勢を特定しやすくしてもよい。
以下の説明において、「危険度」とは、危険の有無およびその程度を表すための指標を意味する。
【0202】
処理を開始すると、情報処理装置200は、危険の有無等を評価する稼働実績が、いずれの運搬場面に該当するかを判断する(ステップS60)。本実施例では、吊荷の吊り上げ前、吊り上げ中、運搬開始、運搬中、吊荷降下中、吊荷降下後の6つの場面に分ける。吊り上げ中を、地切り、および地切後というように細分化してもよい。稼働実績データとして、これらの場面のいずれに対応するかを示すステータスデータを記憶している場合には、ステータスデータに基づいて容易に判断することができる。ステータスデータを用いない場合であっても、クレーンの位置情報、巻き上げ/巻き下げの情報、クレーンが吊荷を運搬しているか否かの情報などに基づいて、判断することが可能である。例えば、クレーンが空荷で移動し、停止した後の状態は、吊荷の吊り上げ前と判断される。巻き上げ中の状態は、吊荷の吊り上げ中と判断される。巻き上げが終了した場合は、運搬開始と判断される。クレーンが移動を開始した後は、運搬中と判断される。その後、クレーンが停止し、巻き下げを開始したときは、吊荷降下中と判断される。巻き下が完了した後は、吊荷降下後と判断される。他にも種々の方法で場面を判断することが可能である。例えば、画像データまたは3次元点群データにより、吊荷の有無などを解析し、運搬場面を判断してもよい。
吊荷の運搬場面を判断すると、情報処理装置200は、場面ごとに以下の処理によって、危険の有無およびその程度を評価する。
【0203】
(2)吊荷の吊り上げ前、吊り上げ中:
情報処理装置200は、吊荷形状、ワイヤの位置、クレーン位置等を検出する(ステップS61)。これらの検出は、3次元点群データおよび画像データの解析によって行うことができる。画像データは、平面的でありカメラ124から対象物までの距離の特定が困難なのに対し、3次元点群データは、3次元的に位置が把握できているため、この解析に有用である。作業員のヘルメットにカメラを装着し、そのカメラによって荷物を撮影した画像データに基づく解析結果を利用してもよい。このカメラでは、荷物を吊り上げる際のワイヤの角度やワイヤの伸び、荷物の回転、振動などを捕捉することができる。
【0204】
情報処理装置200は、基準の位置関係に基づいて危険度を算出し、その理由を判断する(ステップS62)。危険度を判断するための基準の位置関係は、以下に示す通り、運搬場面ごとに予め設定しておく。
例えば、吊り上げ前に対しては、吊荷にワイヤを取り付けるまでの手順が対象となる。従って、例えば、
a) 作業開始前に、吊荷の周囲の状況を確認できる位置に作業者が存在したか?
b) フックは、吊荷の形状から推定される重心に対して安全な位置に掛けられているか?;
c) 作業者が、ワイヤの点検をできる位置にいたか?;
など、危険を判断するための所定の項目に基づいて、それぞれの項目に特徴的な位置関係を基準の位置関係として用いることができる。
また、作業者だけでなく、吊荷の周囲で、作業者を補助する補助者の位置などを考慮に入れても良い。
さらに、吊荷にワイヤを取り付ける作業のみでなく、かかる作業にとりかかる前にヘルメットの装着具合などの安全点検を行っているか、といった基本動作を危険度の判断要素として考慮してもよい。
【0205】
図13は、吊り上げ前の場面例を示す説明図である。吊荷の一端に操作者がコントローラを手にして作業しており、他端に作業者がいることが分かる。吊荷にはワイヤが掛けられている。この場面の画像データまたは3次元点群データを解析することにより、操作者、作業者、吊荷、ワイヤなどの位置関係を把握することができる。そして、吊荷とワイヤとの位置関係に基づいて、項目b)が満たされているか否かを判断することができる。また、作業者は、吊荷に覆い被さるようにいることが確認できるから、項目c)のワイヤの点検を行っているものと判断される。
このように画像データおよび3次元点群データの解析により、上述の項目を判断することができる。
【0206】
また、各項目が危険に与える影響を考慮して、その指標として、項目ごとに危険度を設定しておく。危険回避のために必ず行われなくてはならない項目に対しては、危険度100(%)、影響度が低い項目に対しては危険度50(%)のように設定する。危険度は、任意に設定可能であるが、例えば、過去の実績から、当該項目を行わなかったときに事故が発生する確率などに基づいて設定してもよい。また、危険度は、必ずしも%で表す必要はなく、何らかの点数などで表しても良い。
【0207】
ステップS62では、検出された位置関係等に基づいて、上述の基準の位置関係がどの程度満たされているかを判断し、危険度を求める。例えば、項目a)の危険度が値A(%)と設定されているとき、この項目に対応する位置関係が満たされているときは危険度0(%)、全く満たされていないときはA(%)と判断される。その間の場合は、その程度に応じて、A×係数で危険度を算出する。
同様の計算を、全項目に対して行う。そして、得られた危険度の平均値または最大値に基づいて、全体の危険度を算出する。
また、この計算過程で、最大の危険度となった項目は、全体の危険度に与える影響が大きいことになる。従って、当該項目の内容を、危険度に対する「理由」として選択することができる。
危険度の判断要素としては、他に作業環境を考慮するようにしてもよい。例えば、吊荷にワイヤを取り付ける作業が暗い場所で行われるとミスの原因となり得ると考えられるため、作業をしている現場の照度が基準以上か否かを考慮するようにしてもよい。
【0208】
同様に、吊り上げ中については、例えば、次のような項目が挙げられる。
a) 吊り上げ前に、ワイヤを掛けた作業者が、クレーンを操作する作業者に準備が整った旨の合図をしたか?;
b) ワイヤの付近に作業者が存在しないか?;
c) 吊荷の周囲に作業者が存在しないか?;
などである。危険度およびその理由は、吊り上げ前と同様の方法で算出および選択することができる。また、クレーンを操作する者以外に、吊荷の周辺で合図等をする補助の作業者の位置、動作などを考慮してもよい。
さらに、吊り上げ中に荷物が水平を保っているか、地切の際に荷物が水平方向に移動したか否か、荷物の振動の程度などを考慮してもよい。
荷物を吊り上げる際のクレーンの巻上速度を考慮してもよい。巻上速度には予め定めた推奨値または上限値があるため、これを超えると危険度が高くなる。こうした観点で、巻上速度に基づく危険度判定を行うものとしてもよい。
【0209】
情報処理装置200は、以上の処理で得られた危険度および理由を結果として出力し(ステップS69)、危険度評価処理を終了する。結果出力は、後述する通り、図20のように、危険度、理由とそれに対応する画像データとを表示する態様をとることができる。この表示内容については、後で詳述する。かかる表示に加えて、危険度の評価結果を、稼働実績データに追加して記憶してもよい。
【0210】
なお、ステップS61で検出すべき形状、位置関係等は、上述の基準の位置関係を判断するためのものである。従って、検出されるべき内容は、吊り上げ前、吊り上げ中のそれぞれにおける基準の位置関係に基づいて、決定すればよい。吊り上げ前、吊り上げ中のそれぞれ運搬場面で、ステップS61で検出すべき内容は異なっていてもよい。
危険度評価処理は、稼働実績データに基づいて事後に行うものとして説明したが、クレーンの稼働中に、可能な限りリアルタイムで行っても良い。この場合、危険度が所定値を超える場合には、結果出力(ステップS69)として、通報を行うようにしてもよい。通報としては、例えば、クレーンの表示器123への警告を表示する方法、操作中の現場に警報音を鳴らす方法、管理者にメール等で通知する方法などをとることができる。
【0211】
(3)運搬開始
次に、運搬場面が、運搬開始であると判断された場合(ステップS60)について説明する。
情報処理装置200は、吊荷とクレーンの操作者や周囲の障害物との位置関係などを検出し、基本動作等がなされているか否かを検出する(ステップS63)。
そして、この検出結果に応じて、危険度を算出し、その理由を作成し(ステップS64)、結果を出力する(ステップS69)。
【0212】
これらの処理の考え方は、吊り上げ前、吊り上げ中と基本的に同じである。運搬開始前においては、基準の位置関係を設定するための項目として、次の事項が挙げられる。
a)吊荷を運搬する移動経路内に、人物および障害物が存在しないか?;
b)吊荷の付近に人物がいないか?;
c)吊荷が揺れていないか?;
などである。
これらに基づいて基準の位置関係および危険度を設定しておき、ステップS62で説明したのと同様の方法で、項目ごとの危険度を算出することができる。
【0213】
また、運搬開始では、基本動作についても検出を行う(ステップS63)。上述した基準の位置関係が、比較的、静的な位置関係を意味するのに対し、基本動作は、作業者の動きを意味する。基本動作としては、例えば、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の進行方向の確認動作;
b)運搬開始前の合図;
などである。本実施例では、基本動作のうち指さしの姿勢など特徴的な複数の姿勢を、予めデータベースとして抽出しておき、判断対象となる画像データまたは3次元点群データを解析して、これらの特徴的な姿勢が検出されるか否かを判定するものとした。
基本動作は、クレーンを有する企業ごとに異なる場合もある。従って、基本動作については、カスタマイズ機能を設けても良い。即ち、各企業が、予め用意された基本動作を取捨選択したり、独自に用意した基本動作を追加可能としてもよい。かかる機能を設けることで、各企業の規則に従った評価を実現することができる。
このようにカスタマイズ機能を設ける場合には、独自の基本動作を追加するための支援機能を加えても良い。例えば、カメラで撮影した状態で当該基本動作を作業員が実演することにより、その基本動作に特徴的な複数の姿勢を切り出して、データベースに登録する機能などが挙げられる。
基本動作についての考え方は、他の場面においても同様である。
【0214】
(4)運搬中:
次に、運搬場面が、運搬中であると判断された場合(ステップS60)について説明する。
情報処理装置200は、吊荷とクレーンの操作者や周囲の障害物との位置関係、クレーンの移動速度などを検出し、基本動作等がなされているか否かを検出する(ステップS65)。
そして、この検出結果に応じて、危険度を算出し、その理由を作成し(ステップS66)、結果を出力する(ステップS69)。
【0215】
これらの処理の考え方は、吊り上げ前、吊り上げ中と基本的に同じである。運搬中においては、基準の位置関係を設定するための項目として、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の付近に人物および障害物が存在しないか?;
b)吊荷の揺れや傾きはないか?;
c)移動速度は適正か?;
などである。
これらに基づいて基準の位置関係および危険度を設定しておき、ステップS62で説明したのと同様の方法で、項目ごとの危険度を算出することができる。
また、運搬中には、通路の状況などを合わせて考慮してもよい。例えば、通路に油などの異物が付着している状況では操作者が転倒し、クレーンが危険な状態になるおそれがある。従って、カメラで撮影した画像に基づいて、通路上の異物の有無などを解析し、これに基づいて危険度を算出するようにしてもよい。
【0216】
運搬中の基本動作としては、例えば、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の進行方向の確認動作;
b)方向を変える場合の確認動作;
などである。基本動作の検出は、ステップS63,S64で説明したのと同様の方法で行うことができる。
【0217】
(5)吊荷降下中:
次に、運搬場面が、吊荷降下中であると判断された場合(ステップS60)について説明する。
情報処理装置200は、吊荷とクレーンの操作者や周囲の障害物との位置関係、基本動作等がなされているか否かを検出する(ステップS67)。
そして、この検出結果に応じて、危険度を算出し、その理由を作成し(ステップS68)、結果を出力する(ステップS69)。
【0218】
これらの処理の考え方は、吊り上げ前、吊り上げ中と基本的に同じである。吊荷降下中においては、基準の位置関係を設定するための項目として、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の着地場所、吊荷の下に人物および障害物が存在しないか?;
b)吊荷の向きは適正か?;
などである。
これらに基づいて基準の位置関係および危険度を設定しておき、ステップS62で説明したのと同様の方法で、項目ごとの危険度を算出することができる。
【0219】
運搬中の基本動作としては、例えば、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の着地場所の安全確認動作;
b)巻下前の合図;
などである。基本動作の検出は、ステップS63,S64で説明したのと同様の方法で行うことができる。
【0220】
(6)吊荷降下後
最後に、運搬場面が、吊荷降下後であると判断された場合(ステップS60)について説明する。
情報処理装置200の処理としては、吊り上げ前、吊り上げ中と同じである(ステップS61,S62,S69)。
【0221】
吊荷降下後においては、基準の位置関係を設定するための項目として、次の事項が挙げられる。
a) フックは、吊荷から確実に外されているか?;
c) 作業者が、ワイヤの付近にいないか?;
などである。即ち、吊荷降下後に、確実にワイヤを外すことなく巻き上げを行うと、思わぬ事故を招くこともあるため、これらの危険の有無を判断することになる。
これらに基づいて基準の位置関係および危険度を設定しておき、ステップS62で説明したのと同様の方法で、項目ごとの危険度を算出することができる。
【0222】
以上の処理により、それぞれの運搬場面に応じて、危険度およびその理由を判定することができる。
なお、上述の例では、吊り上げ前、吊り上げ中、吊荷降下後における判断(ステップS61、S62)においては、基本動作の検出を省略した。これらの場面において基本動作が存在しないという意味ではなく、これらの場面では、基本動作よりも基準の位置関係の方が危険に対する影響が大きいと考えられるからである。従って、これらの運搬場面についても、他と同様、基本動作の検出、判断を行ってもよい。
【0223】
(7)変形例~機械学習の適用:
危険度評価には、機械学習を適用することも有用である。危険度評価においては、先に説明した基本動作が行われているか否かの判断、および危険度の評価のそれぞれに対して、機械学習の適用が可能である。以下、順に説明する。
【0224】
図14は、基本動作判断用学習モデル生成処理のフローチャートである。主として図4に示した基本動作判断用学習モデル生成部520が行う処理であり、ハードウェア的には学習モデル生成システム500のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、学習モデル生成システム500は、基本動作リストおよび学習データを読み込む(ステップS70)。これらは、基本動作データベース505に格納されているデータである。
図中にデータ構造のイメージを示した。例えば、「巻き下げ前の周囲確認」という基本動作に対しては、この名称と対応づけて、一連の動作データが格納されているのである。動作データは、基本動作を表す一連の静止画像の集合である。「巻き下げ前の合図」およびその他の基本動作に対しても同様である。
【0225】
次に学習モデル生成システム500は、基本動作ごとに学習モデルを生成する(ステップS71)。判断対象となる画像データが、この基本動作を表したものであるか否かを判断するための学習モデルであるから、教師あり学習の一種としての機械学習分類を行わせることになる。基本動作データベース505には、基本動作とは異なる動作のデータを含めても良い。また、「巻き下げ前の周囲確認」のための学習モデルを生成する際には、この基本動作に対する動作データを「正解」の教師データとし、その他の基本動作に対する動作データを「誤り」の教師データとして利用してもよい。
【0226】
学習モデル生成システム500は、こうして生成された学習モデルを、基本動作リストと対応づけて格納する(ステップS72)。この学習モデルを、情報処理装置200の基本動作判断部221に記憶させておくことにより、学習モデルを活用して、基本動作が行われたか否かを判断することが可能となる。
【0227】
図15は、危険度判断モデル生成処理のフローチャートである。主として図4に示した危険度判断モデル生成部522が行う処理であり、ハードウェア的には学習モデル生成システム500のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、学習モデル生成システム500は、稼働実績データを読み込む(ステップS80)。
そして、学習モデル生成システム500は、運搬場面に応じて、学習用データを生成する(ステップS81)。図中に運搬場面と学習データの内容を示した。それぞれ先に図12で説明した内容と同様である。
【0228】
学習モデル生成システム500は、運搬場面に応じて機械学習によって学習モデルを生成し(ステップS82)、運搬場面と対応づけて格納する(ステップS83)。機械学習は、種々の方法を適用可能であるが、本実施例では教師あり学習を行うものとした。また、危険度を算出するという目的にも合わせるため、機械学習回帰を適用するものとした。具体的には、用意された多数の学習用データに対して、危険度を付したものを教師データとするのである。危険度は、過去の事故の実績などに0~100%で設定すればよい。もっとも、このように危険度を設定するのは、困難な点もあるため、それぞれの学習用データに対して、危険(100%)、少し危険(50%)、危険でない(0%)という程度の3段階で評価するようにしてもよい。個々の学習用データに対しては、3段階程度で評価がなされているとしても、多くの学習用データに対して、危険度の分布が得られることにより、0~100%の範囲で危険度を与える学習モデルの生成も可能となる。
【0229】
生成された学習モデルは、情報処理装置200の危険度評価部223に記憶させる。機械学習を適用した場合でも、危険度評価処理としては、図12で説明したのと同様である。それぞれステップS62、S64、S66、S68において、運搬場面に応じた学習モデルを利用して、危険度を求めることになる。
なお、学習モデルを利用する場合、そのロジックが不明であることが多いため、理由の選択は、困難である場合がある。学習モデルを、決定木のようにロジックが追い求めやすい方法で生成している場合は、危険度の結果に影響を与えたノードに対応する説明を理由として選択する方法が考えられる。
【0230】
(8)効果:
以上で説明した処理により、情報処理装置200は、クレーンの稼働について、危険度およびその理由を判定することができる。クレーンの稼働は、種々の運搬場面に分けられ、全てに共通の判断基準を定めることは困難である。実施例では、かかる点を考慮し、運搬場面に分けて危険度を評価するため、各運搬場面で危険度を適切に評価することが可能となる。
また、基本動作が行われたか否かの判断に、機械学習を適用することにより、危険度の判定自体に機械学習を適用しない場合であっても、その精度を向上させることができる。
さらに、危険度の評価は、種々の要素が関係し合うため、機械学習を適用すれば、より適切な評価を実現することが可能となる。
【0231】
E.最適経路設定機能:
(1)最適経路設定の考え方:
クレーンで吊荷を運搬する場合、従来、運搬効率については、あまり考慮されていなかった。しかし、吊荷をA地点からB地点に移動させるとき、両地点を直線で結ぶ経路が最短距離となり、最も効率が良くなる。そこで、情報処理装置200は、運搬効率が高くなるよう最適経路を設定する機能を提供する。実際には、設備や障害物を避ける必要があるため、最適経路は、これらの拘束条件を考慮して設定される。以下、最適経路設定の考え方を示し、その処理について説明する。
【0232】
図16は、最適経路設定の考え方を示す説明図である。施設内の平面図を模式的に示した。吊荷を吊荷地点1から着地地点1まで運搬する場合を考える。最適化を行うの移動経路は、細い実線で示す通りクレーンの操作者の通路に沿った経路となっている。この経路に対する最適化経路の設定方法を示す。本実施例では、以下の拘束条件を考慮するものとした。
拘束条件1は、施設内の設備または障害物に衝突しないこと、である。図中の例では、ハッチングを付した障害物を回避できる経路を設定する必要がある。拘束条件をさらに厳しくし、設備および障害物に対して所定の距離をあけること、と設定してもよい。
拘束条件2は、操作者の通路から所定の距離内を移動すること、である。図中に通路の境界線から距離Wの位置を破線で示した。この範囲内がクレーンの移動可能エリアとなる。
拘束条件3は、クレーンの移動方向の規制である。移動方向は、クレーンの仕様に応じて定まるものであり、本実施例では、図示する通り、クレーンは8方向に移動可能とした。東西南北の4方向にのみ移動可能なクレーンにおいては、4方向となる。かかるクレーンにおいて、東と北というように2方向のボタンを同時に操作することにより、クレーンを斜め方向に移動させることも技術的には可能であるが、危険な操作であるため、行わないことを前提とする。
【0233】
上述の拘束条件の下で、吊荷地点1から着地地点1への移動距離が最短となる最適経路を設定する。この例では、図中に太線で示すように、最適経路は、吊荷地点1から着地地点1方向に近い斜め方向の移動を含む経路となる。図示した最適経路は、一例に過ぎず、この例では、他にも同じ距離となる移動経路は種々存在する。最適経路が複数得られる場合、これらの経路を操作者に提示した上で、操作者がいずれかを選択するようにしてもよいし、他の評価基準を考慮して、いずれかを選択してもよい。かかる場合の評価基準としては、例えば、進行方向を変える回数が少ないもの、障害物からの間隔が大きいもの、などが挙げられる。
【0234】
着地地点1から吊荷地点2までの移動、および吊荷地点2から着地地点2までの移動についても、同様に最適経路を得ることができる。図中では、細線で示したL字状の移動経路に対して、太線で示した直線経路が最適経路として設定されている。
なお、着地地点1から吊荷地点2までの移動時には、クレーンは空荷の状態で、天井付近を移動することができる。従って、この状態では、施設内の設備または障害物に衝突しないことという拘束条件1を省略したり、天井付近に存在する障害物等のみを考慮するようにしてもよい。このように、吊荷の有無によって拘束条件を変えることにより、一層、最適な経路を得ることが可能となる。
【0235】
(2)最適経路設定処理:
図17は、最適経路設定処理のフローチャートである。主として図4に示した最適経路設定部233が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。この処理は、例えば、クレーンの稼働後に、稼働実績データを読み込み、その事後評価および経路の改善のために行うことができる。また、クレーンの稼働前に、吊荷地点、着地地点の位置座標を指定し、運搬計画を立案する作業として、最適経路を設定させる処理として行うこともできる。
【0236】
処理を開始すると、情報処理装置200は、吊荷地点、着地地点を読み込む(ステップS90)。複数の吊荷がある場合には、複数の吊荷地点、着地地点を運搬順序に従って読み込むことになる。これらは、稼働実績データから読み込むものとしてもよいし、コンピュータ30を介して作業者の指示を読み込むものとしてもよい。
情報処理装置200は、また、拘束条件を読み込む(ステップS91)。本実施例では、障害物の位置座標、操作者通路の位置座標、クレーンの移動可能方向を読み込むものとした。これらの条件は、設備内で概ね固定されているから、予めデータベースとして設定しておき、これを読み込むようにしてもよい。
情報処理装置200は、上述の各条件に従って、最適経路を設定する(ステップS92)。最適経路の考え方は、図16で説明した通りである。
【0237】
最適経路設定処理を、事後評価として実行している場合は(ステップS93)、情報処理装置200は、稼働実績データベースから、最適化前の移動軌跡を読み込む(ステップS94)。
そして、最適化による運転効率を算出する(ステップS95)。本実施例では、移動経路の「移動距離」で評価するものとした。従って、最適化前の移動距離と最適経路の移動距離の比を運転効率と定義している。運転効率は、任意に定義することができる。
運搬計画を実行しているときは(ステップS93)、ステップS94、S95の処理はスキップされる。
情報処理装置200は、以上で求めた最適経路および運転効率を出力して(ステップS96)、最適経路設定処理を終了する。
【0238】
図18は、最適経路の例を示す説明図である。施設内の平面図を示した。図6で示した移動軌跡の表示における領域d14の表示に相当する。破線が稼働実績としての移動軌跡を示し、実線が最適経路を示している。図の例によれば、最適化によって移動軌跡がシンプルになり、移動距離が短くなっていることが直感される。先に図6で示したように、移動軌跡の周囲に、種々の情報を表示する欄を設けても良い。運転効率は、この周囲の領域に表示することができる。運転効率を表示すれば、移動距離がどの程度短くなっているかを客観的に把握することができる。
図18の例において、施設内の設備および障害物、操作者の通路などを表示してもよい。こうすることにより、最適経路が設定された理由を理解することが可能となる。
【0239】
(3)効果:
以上で説明した最適経路設定処理によれば、クレーンの移動経路の最適化を図ることができ、運転効率を向上させることができる。
なお、本実施例では、移動距離が最短となることを評価指標として最適経路を設定するが、最適経路は、他の評価に基づいて設定してもよい。例えば、進行方向を曲げる回数が少ない経路を最適経路として求めるものとしてもよい。
また、本実施例では、解析的に最適経路を設定するものとしたが、機械学習を利用してもよい。例えば、移動距離を「報酬」とする強化学習を利用することが考えられる。
【0240】
上述の実施例では、移動距離を最短とする例を検討したが、移動時間を最短とする経路を設定してもよい。クレーンの移動速度が通路に依らずに一定の上限値で規制されている場合、移動時間を最短とする経路は、移動距離を最短とする経路と一致する。これに対し、クレーンの移動速度の上限が通路幅によって異なる場合には、両者は異なる結果となり得る。移動時間を最短とする経路を設定する場合は、上述の実施例において、移動距離に代えて、移動距離/移動速度で算出される移動時間を用いればよい。
【0241】
F.運転診断機能:
クレーンの稼働中は、事故に至らないまでも危険な場面が生じることがある。また、運転効率を向上させる余地がある場合もある。クレーンを稼働した後、事後的に危険や運転効率の診断を行うことができれば、これらの改善を図ることができる。情報処理装置200は、かかる観点から、以下に説明する通り、クレーンの運転を事後的に診断する運転診断機能を提供する。
【0242】
図19は、運転診断処理のフローチャートである。主として図4に示した運転診断部230が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、稼働実績データを読み込む(ステップS100)。読み込み対象となる稼働実績データは、軌跡表示処理(図5)のステップS10と同様、種々の方法で指定することができる。
【0243】
次に、情報処理装置200は、類似ケースの関連づけ処理を行う(ステップS101)。例えば、毎日、同様の運搬作業を繰り返し実行しているときは、これらを対比して表示させることにより、危険度や運転効率が改善されている状況を把握することが可能となる。類似ケースの関連づけは、このように複数の稼働実績を対比するための処理である。
類似ケースの判断は、種々の基準で行うことができる。本実施例では、吊荷の発着地が共通する運搬を類似ケースとして関連づけるものとした。
【0244】
こうして、データを読み込む対象となる稼働実績が決まると、情報処理装置200は、これらの稼働実績に関する危険度判定結果を読み込む(ステップS102)。危険度判定結果とは、先に図12で示した危険度評価処理によって得られた結果である。危険度は、クレーンの稼働中の判定結果が時系列で記憶されているものとする。
そして、情報処理装置200は、最適経路および運転効率を読み込む(ステップS103)。最適経路等は、図17で説明した最適経路設定処理で得られた結果である。運転効率は、吊荷ごとの発着地間の運搬効率、空荷での移動時の運搬効率などに分けて算出し、また、全体の移動経路に対する総合運転効率を算出する。
また、情報処理装置200は、各種統計データを算出する(ステップS104)。統計データとしては、コントローラの押ボタンの操作回数、吊荷の運搬回数、運搬距離、総合の危険度などが挙げられる。この他の統計データを求めても良い。
【0245】
情報処理装置200は、表示モードに応じて、以上で得られた結果を表示する(ステップS105)。本実施例では、3つの表示モードを用意した。危険度時間変化モードでは、稼働中における危険度の時間変化をグラフで表示する。軌跡表示モードでは、稼働実績に基づく移動軌跡と、最適経路を対比して表示する。統計レポートモードでは、ステップS104で得られた種々の統計結果を表示する。これらの表示モードは併用してもよい。また、これら以外の表示モードを設けても良い。
【0246】
図20は、運転診断の表示例を示す説明図である。危険度時間変化モードの例を示した。図の右側にはクレーンによる運搬時の運搬画像が表示される。画像データベース203に格納されている画像データを、動画の形で表示しているのである。その下には、危険度の時間変化を表す危険度グラフが表示される。画像データと危険度との対応関係は、スライドバーの位置によって把握できる。図の例では、危険度が最も高くなった時点の画像を表していることが分かる。マウス等を用いてスライドバーを移動させることにより、特定の時点の画像データを表示させることもできる。
【0247】
画像データの左側には、全体を通じた総合の危険度が表示されている。統計レポートモードとしての表示と共通する部分である。
また、その下には、過去の事例1、過去の事例2のボタンが表示されている。これらをクリックすると、それぞれ関連づけられた過去の事例が表示される。本実施例では、過去の事例に表示を切り替えるものとしたが、危険度のグラフについては、過去の事例を、重畳して表示できるようにしてもよい。こうすることにより、危険度が改善された状況を客観的に把握することができる。
また、図20の例では、危険度のグラフのみを示しているが、運転効率を合わせて表示してもよい。
【0248】
最下段には、総合の危険度に対応して、その理由が表示されている。先に危険度評価処理(図12)で説明した通り、危険度と併せてその理由が判断されているから、これらを寄せ集め、危険度の高い順にソートすることにより、総合の危険度に対する理由も作成することが可能である。
【0249】
また、「正常時操作」をクリックすると、本来、行うべき基本動作が表示される。正常時操作は、稼働実績の全ての場面に対応して用意する必要はない。例えば、総合の危険度に関する理由として、基本動作が行われていない、という項目が含まれている場合には、それに対応する基本動作を表示する方法をとることができる。また、正常時操作をクリックした後、基本動作のプルダウンメニューを表示し、作業者がこれらから選択してもよい。
【0250】
軌跡表示モードでは、例えば、図6に示した表示を行うことができる。即ち、クレーンの移動軌跡を表示し、その周囲の領域に、危険度および運転効率を表示させるのである。図7に示したように、稼働状況の画像を併せて表示させてもよい。また、軌跡の一点を指示することにより、その地点に対応する危険度、運転効率、画像データなどを表示させてもよい。
【0251】
以上で説明した運転診断処理によれば、クレーンの稼働後に、その危険や運転効率を客観的に診断することができる。また、過去の事例との対比を行うこともできる。これらの診断および対比は、クレーンの操作の改善に役立てることができる。
【0252】
事故例の統計によれば、コントローラのボタンの押し間違いや操作者が移動させるべき方向を勘違いさせるミスに起因する事故が多いとされている。また、吊荷に作業員が挟まれたり、吊荷の下敷きになるなど、吊荷に関係する事故も多いとされている。従って、運転診断処理においては、これらのミスが見いだされたときに、特に重点的に注意喚起する機能を設けてもよい。例えば、これらのミスに対しては、危険度を判断する際の評価値として高い値を設定しておいてもよい。また、危険度の評価に関わらず、これらのミスが生じた時点を、強調して表示するようにしてもよい。
なお、ボタンの押し間違いなどの検出は、種々の方法が考えられる。例えば、操作者がある方向の押しボタンを押した後、非常に短い時間内にその操作を中止し、逆方向のボタンを操作した場合に、押し間違いが発生したと判断するようにしてもよい。また、吊荷周囲の壁や人などに接触する方向に移動をした場合には、それが短い時間であっても押し間違いが発生したと判断するようにしてもよい。
【0253】
G.運搬シーケンス最適化機能:
クレーンによって、複数の吊荷を運搬する場合、その順序によって、運搬効率が異なる。吊荷を下ろした後、空荷で移動する距離が変化するからである。情報処理装置200は、かかる観点から、運転効率が高くなる搬送順序を、最適運搬シーケンスとして提供する。以下、この機能について説明する。
【0254】
図21は、運搬シーケンスの最適化の考え方を示す説明図である。図21(a)は、3種類の吊荷A~Cについて、丸囲みのA~Cで吊荷地点を表し、四角囲みのA~Cで着地地点を表している。以下、これらを吊荷地点A~C、着地地点A~Cと称する。吊荷A~Cは、図中に矢印で示すように、吊荷地点A~Cと着地地点A~C間を運搬されることになる。実際の運搬経路は、施設内の設備の配置等に応じた経路となるが、図中では模式的に示した。吊荷の運搬経路自体は、運搬シーケンスの最適化に影響を与えない。
図中の破線で示した経路は、クレーンが空荷で移動する際に生じ得る経路を表している。経路Lacは、着地地点Aから吊荷地点Cに移動する際の経路である。同様に、経路Lab、Lba、Lbc、Lca、Lcbが得られる。
【0255】
図21(b)は、吊荷A~Cの運搬シーケンスと、それぞれにおける空荷での移動距離を示している。吊荷A、B、Cの順に運搬する場合には、空荷での移動距離は、着地地点Aから吊荷地点Bまでの経路Lab、着地地点Bから吊荷地点Cまでの経路Lbcの合計となる。同様にして、全ての運搬シーケンスに対して空荷での移動距離を求めることができる。最適の運搬シーケンスは、これらの中から、空荷での移動距離が最短となるものを選択すればよい。
【0256】
吊荷の運搬順序には、拘束条件が存在する場合がある。図21(b)には、「AはBよりも先に運搬しなくてはならない」という拘束条件を例示した。例えば、吊荷Aが部品、吊荷Bがその部品を用いた完成品である場合などに、このような拘束条件が生じることになる。
拘束条件がある場合には、これを満たす運搬シーケンスのみが選択対象となる。図21(b)の例では、×を付した3つのケースは、拘束条件を満たさないため、選択対象から除外される。従って、最適化運搬シーケンスは、残った運搬シーケンスから選択すればよい。
【0257】
図22は、運搬シーケンス最適化処理のフローチャートである。主として図4に示した運搬シーケンス最適化部231が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。この処理は、吊荷の運搬を開始する前の計画段階で実行することができる。運搬を行った後の診断として実行しても良い。
【0258】
処理を開始すると情報処理装置200は、まず、運搬情報が既知か否かを判断する(ステップS110)。運搬情報とは、運搬すべき吊荷の数およびそれぞれの吊荷の発着地の位置情報を言う。作業者が、これらを全て指定した場合や、稼働実績の診断を行う場合には、運搬情報は既知ということになる。既知の場合には、運搬情報を読み込む(ステップS111)。
【0259】
運搬情報が既知でない場合(ステップS110)には、以下に説明する通り、運搬情報を推定する処理を行う。例えば、日常的に多量の吊荷を運搬しており、全ての運搬情報を入力するのが負担である場合や、工場などにおいて運搬すべき吊荷の種類や発着地は決まっているが、運搬数量は工場の稼働状況により変動するような場合が、該当する。
運搬情報を推定するため、情報処理装置200は、現在運搬中の吊荷の形状及び発着地点についての情報を入力する(ステップS112)。計画段階であれば、運搬すべき吊荷の一部について、運搬情報を入力するようにしてもよい。
情報処理装置200は、稼働実績データを読み込み(ステップS113)、類似の運搬実績を検索する(ステップS114)。類似の運搬実績は、ステップS112で入力した吊荷、発着地点と、同一の運搬情報を含むものを言う。そして、検索された運搬実績に基づいて、一日の吊荷、発着地点を推定する(ステップS114)。
【0260】
以上で運搬情報が得られると、情報処理装置200は、運搬の拘束条件を読み込む(ステップS115)。図中に拘束条件の例を示した。「吊荷Aは、吊荷Bよりも先に運搬する」、「吊荷Cは、○個連続で運搬する」などの拘束条件が挙げられる。その他の拘束条件を設定してもよい。
【0261】
次に情報処理装置200は、運搬情報および拘束条件を踏まえて、図21で説明した考え方により、クレーンの得同距離が最短となる最適運搬シーケンスを設定し(ステップS116)、結果を出力する(ステップS117)。図中には、吊荷OBJ1、OBj2のように運搬順序のリストを出力するものとした。それぞれの吊荷に対応づけて、吊荷地点、着地地点が併せて出力される。
【0262】
以上で説明した運搬シーケンス最適化処理によれば、クレーンの移動距離を最短にする運搬シーケンスを得ることができ、クレーンの運転効率を向上させることができる。
また、上述の例では、運搬情報を推定することもできるため、運搬情報の入力を省略することも可能である。
【0263】
H.レイアウト最適化機能:
図16図17において、クレーンで吊荷を運搬する場合の経路の最適化を説明した。ただし、この最適経路は、施設内の設備および障害物は移動させない状態のものである。更なる最適化を図るためには、設備等を移動させたり、吊荷の発着地を変更したりすることが好ましい。かかる観点から、情報処理装置200は、レイアウトを最適化する機能を提供する。以下、この機能について説明する。
【0264】
図23は、レイアウト最適化の考え方を示す説明図である。ある吊荷を、吊荷地点から運搬する場合を考える。吊荷の着地地点としては、候補1~候補3が考えられるものとする。
この状態で、まず、最適経路設定処理(図16図17)を利用して、それぞれの候補1~3まで運搬するための最適経路を求める。このとき、施設内の設備および障害物のうち、移動可能なものについては、存在しないものとして経路を求める。図の例において候補1までの経路については、移動可能な可動障害物1については存在しないものと考え、移動できない不動障害物1を考慮して、経路を求める。この結果、運搬経路1が得られたとする。同様に候補2までの運搬経路としては、可動障害物2は存在しないものとして扱うことにより、運搬経路2が得られたとする。候補3までの運搬経路は、不動障害物2を考慮し、運搬経路3が得られたとする。
そして、これらの運搬経路1~3のうち、移動距離が最短となるものを選択する。図の例で、運搬経路1が選択されたとすると、吊荷の着地地点としては、候補1が選択されることとなり、可動障害物1は運搬経路1を実現できるよう移動することになる。
こうして、吊荷の着地点および可動障害物のレイアウトの最適化を図ることができる。
【0265】
図23では、一つの吊荷について例示したが、この処理を繰り返すことにより、複数の吊荷に対する最適レイアウトを設定することができる。また、図23の例では、吊荷地点を固定としたが、吊荷地点として、複数の候補を設けてもよい。この場合は、図23で説明した処理を、それぞれの吊荷地点の候補について行い、移動距離が最短となるものを選択すればよい。
【0266】
図24は、レイアウト最適化処理のフローチャートである。主として図4に示したレイアウト最適化部234が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。この処理は、計画段階で行うことも可能であるし、稼働実績を踏まえてレイアウトの改良として行うことも可能である。
処理を開始すると情報処理装置200は、吊荷の運搬情報、施設の配置情報を入力する(ステップS120)。これらの情報としては、例えば、吊荷の発着地点、拘束条件、必要スペース、数量などが挙げられる。拘束条件は、経路最適化処理、運搬シーケンスの最適化処理で説明した通りである。必要スペースとは、着地点として必要な広さを意味する。
他に入力する情報としては、障害物の位置および可動/不動の種別、吊荷と設備との拘束性などが挙げられる。例えば、ある部品を加工のために特定の装置付近に運搬するような場合には、当該部品の着地点は、当該装置の位置に拘束されることになる。別の例として、完成品をトラックで施設外に発送する場合には、施設内での完成品の運搬先は、トラックへの積み込みヤードに拘束されることになる。拘束性とは、このように吊荷の吊荷位置または着地点が施設によって拘束される場合の拘束関係を意味する。
【0267】
これらの情報が入力されると、情報処理装置200は、複数の吊荷のうち、処理対象となる吊荷を選択する(ステップS121)。選択方法は、任意であるが、例えば、必要スペースの大きいものを優先的に選択するようにしてもよい。
そして、情報処理装置200は、その発着候補地点を抽出する(ステップS122)。発着候補地点は、対象となる吊荷に対する必要スペースおよび設備との拘束性を考慮して抽出することになる。
【0268】
次に、これらの発着候補地点のうち、運搬経路が最短となる地点を選択する(ステップS123)。このとき、図23で説明した通り、不動障害物は、回避して運搬経路を決定し、可動障害物については、存在を無視して経路を設定することになる。この処理により、対象となる吊荷の発着地の候補が定まることになる。
次に、情報処理装置200は、選択された候補地点および運搬経路に応じて、可動障害物を移動する(ステップS124)。図23において、可動障害物1を移動させた処理に相当する。
ただし、可動障害物を移動するスペースが存在しない場合など、可動障害物が移動できない場合もある。そこで、情報処理装置200は、可動障害物の移動可否を判断し(ステップS125)、移動できない場合には、当該可動障害物の種別を不動障害物に変更して(ステップS126)、再度、ステップS123、S124の処理を実行する。こうすることにより、実現可能な発着地候補が定まり、レイアウトが得られる。
【0269】
情報処理装置200は、全吊荷について処理が完了するまで(ステップS127)、以上の処理を繰り返し実行し、結果を出力して(ステップS128)、レイアウト最適化処理を終了する。
【0270】
以上で説明したレイアウト最適化処理によれば、吊荷の発着地およびレイアウトを最適化することができるため、一層、運搬効率を向上させることができる。
実施例では、解析的に最適レイアウトを求める方法を示したが、機械学習を利用して最適レイアウトを求めるものとしてもよい。例えば、吊荷の移動距離を「報酬」とする強化学習を利用することができる。こうすることにより、機械学習によって、移動距離が短くなる発着地、レイアウトを求めることが可能となる。
実施例では、「移動距離」を最適化のための評価としたが、その他の評価に基づいて最適化を行うようにしてもよい。
【0271】
I.事故判断機能:
クレーンの稼働時には、種々の事故が発生することがある。稼働中に事故の発生を検出できれば、通報などの対処を速やかに行うことができる。また、本実施例のシステムは、カメラ124を搭載しているため、事故の画像を記録することができるから、事故発生時の画像を速やかに特定することができれば、事故原因の解析などに活用することができる。かかる観点から、情報処理装置200は、事故の発生を判断する機能を提供する。以下、この機能について説明する。
【0272】
(1)運搬場面の判断:
図25は、事故判断処理のフローチャートである。主として図4に示した事故判断部224が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。この処理は、クレーンの稼働中に、稼働実績データ、3次元点群データ、画像データに基づいて、事故の発生を判断するために実行される処理である。画像データ等に加えて、作業者のヘルメット、軍手、作業着などにセンサを付したり、画像解析によって認識を容易にするための特徴的なマーカを貼付するなどして、作業者の姿勢を特定しやすくしてもよい。また、この処理は、クレーンの稼働後に、事故発生の場面を特定するために実行してもよい。
【0273】
処理を開始すると、情報処理装置200は、クレーンの稼働状況が、いずれの運搬場面に該当するかを判断する(ステップS130)。本実施例では、吊荷の吊り上げ、運搬中、吊荷降下中、吊荷降下後の巻き上げの4つの場面に分ける。危険度の評価(図12)と同様に細分化してもよい。
運搬画面の判断は、例えば、コントローラの押ボタンの操作内容によって判断することができる。例えば、クレーンが一定の場所に所定時間停止していた状態から、巻き上げの操作が行われた場合は「吊り上げ」と判断できる。また、移動の操作が行われているときは「運搬中」と判断できる。移動後、巻き下げの操作が行われた場合は、「吊荷降下」と判断できる。その後、再度、巻き上げの操作が行われた場合は、吊荷を下ろした後の「巻き上げ」と判断できる。
吊荷の運搬場面を判断すると、情報処理装置200は、場面ごとに以下の処理によって、危険の有無およびその程度を評価する。危険度の評価(図12)と同様の方法で判断してもよい。
【0274】
(2)吊荷の吊り上げ中および巻き上げ:
情報処理装置200は、吊荷形状、操作者や障害物の位置、人の姿勢、接触の有無を検出する(ステップS131)。これらの検出は、3次元点群データおよび画像データの解析によって行うことができる。画像データは、平面的でありカメラ124から対象物までの距離の特定が困難なのに対し、3次元点群データは、3次元的に位置が把握できているため、この解析に有用である。
【0275】
そして、情報処理装置200は、吊り上げ、巻き上げ時用の判断基準に基づいて事故の発生を判断する(ステップS132)。
例えば、吊り上げ前に対しては、吊荷にワイヤを取り付けるまでの手順が対象となる。従って、例えば、
a) 吊荷が極端に傾いているか?;
b) 吊荷の付近で人が倒れているか?;
などを判断基準とすることができる。
【0276】
情報処理装置200は、これらの基準に従い、事故が発生したと判断されたときは(ステップS137)、その判断結果を時刻とともに事件データベース204に格納し、通報を行う(ステップS138)。通報は、例えば、施設内に警報音で報知する方法、クレーンの表示器123に事故発生の表示を行う方法、予め指定されたアドレスにメールを発信する方法、架電し音声メッセージを流す方法などで行うことができる。
【0277】
(3)運搬中:
次に、運搬場面が、運搬中であると判断された場合(ステップS130)について説明する。
情報処理装置200は、吊荷とクレーンの操作者や周囲の障害物との位置関係、クレーンの移動速度などを検出する(ステップS133)。
そして、この検出結果に応じて、運搬中の判断基準に基づいて事故の発生を判断し(ステップS134)、その結果に応じて、結果格納および通報を行う(ステップS137、S138)。
【0278】
運搬中の判断基準としては、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の付近に人物が倒れていないか?;
b)吊荷に極端な揺れや傾きはないか?;
c)移動速度が異常値でないか?;
などである。
【0279】
(4)吊荷降下中:
次に、運搬場面が、吊荷降下中であると判断された場合(ステップS130)について説明する。
情報処理装置200は、吊荷とクレーンの操作者や周囲の障害物との位置関係、人の姿勢等を検出する(ステップS135)。
そして、この検出結果に応じて、吊荷降下用の判断基準に基づいて事故の発生を判断し(ステップS136)、その結果に応じて、結果格納および通報を行う(ステップS137、S138)。
【0280】
吊荷降下中の判断基準としては、次の事項が挙げられる。
a)吊荷の下に人物および障害物が存在しないか?;
b)吊荷に極端な傾きが生じていないか?;
などである。なお、吊荷の下の人物等は、吊荷降下中の画像データ等のみでは判断し難いが、吊荷降下に至るまでの一連の画像に基づいて判断することができる。即ち、吊荷降下前の画像データにおいて、吊荷近傍に人が存在しており、その後、画像の範囲外に移動したことが確認できず、吊荷降下時に当該人物が確認できない場合には、吊荷の下に当該人物が存在する可能性が高いかを判定することができる。
【0281】
(5)変形例~機械学習の適用:
事故の発生の判断には、機械学習を適用することも有用である。
図26は、事故判断モデル生成処理のフローチャートである。主として図4に示した事故判断モデル生成部523が行う処理であり、ハードウェア的には学習モデル生成システム500のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、学習モデル生成システム500は、稼働実績データを読み込む(ステップS140)。
そして、学習モデル生成システム500は、運搬場面に応じて、学習用データを生成する(ステップS141)。図中に運搬場面と学習データの内容を示した。それぞれ先に図25で説明した内容と同様である。
【0282】
そして、学習モデル生成システム500は、運搬場面に応じて機械学習によって学習モデルを生成し(ステップS142)、運搬場面と対応づけて格納する(ステップS143)。機械学習は、種々の方法を適用可能であるが、本実施例では教師あり学習を行うものとした。具体的には、用意された多数の学習用データに対して、事故が発生していないという情報を付したものを教師データとするのである。
運搬場面の多くは、事故が発生していない状態であることを考慮し、教師なし学習を行うものとしてもよい。この方法では、稼働実績データに基づいて、図10で説明したようにクラスタを生成するための学習を行わせるのである。こうすることで、稼働時のデータが、クラスタに属するか否かを判断すれば、事故の発生を判断することが可能となる。
【0283】
生成された学習モデルは、情報処理装置200の事故判断部224に記憶させる。機械学習を適用した場合でも、事故判断処理としては、図25で説明したのと同様である。それぞれステップS132、S134、S136において、運搬場面に応じた学習モデルを利用して、事故の発生を判断することになる。
【0284】
(6)事故発生時の画像提供:
図27は、事件画像提供処理のフローチャートである。主として図4に示した異常時画像提供部235が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、事件データベース204に記憶された事件データを読み込み、コンピュータ30にその一覧を表示する(ステップS150)。事件データには、今までに生じた事故その他の異常の発生日時が記憶されている。
【0285】
作業者が、リストの中からいずれかを選択すると、情報処理装置200は、その選択指示を入力し(ステップS151)、指示された事件発生日時を含む期間の画像データを読み込む(ステップS152)。事件データベース204には、事件ごとに、その発生日時を含む前後の期間の画像データの格納場所を表すデータが記憶されている。情報処理装置200は、当該データに従って、画像データベース203から、該当する画像データを読み込むのである。
【0286】
情報処理装置200は、読み込んだ画像データに基づき、コンピュータ30に動画像を表示する(ステップS153)。表示には、図示するように、動画像の標準的なビューワを用いることができる。作業者は、スライドバーを利用して、動画像の一部を繰り返し閲覧したり、静止させたりすることができる。
【0287】
作業者が、画像データの変更を指示した場合(ステップS154)、情報処理装置200は、作業者がより時間帯の長さや、開始/終了時刻の変更を指示したときは、ステップS152、S153の処理を繰り返す。作業者が、事件自体の変更を指示したときは、ステップS150以降の処理を繰り返す。
【0288】
作業者が、画像データの変更を指示せず(ステップS154)、出力を指示したときは(ステップS155)、情報処理装置200は、該当する画像データを主力して(ステップS156)、事件画像提供処理を終了する。この場合の出力は、画像を、コンピュータ30以外でも見られるよう、媒体等に画像データを記録したり、ネットワークを介して送信したりする処理となる。作業者が、出力を指示しなかったときは(ステップS155)、情報処理装置200は、この処理をスキップして、終了する。
事件画像提供処理においては、当時の画像データだけでなく、そのときの種々の稼働実績データ、例えば、クレーンの位置、どのような動作状態であったか、またコントローラの操作内容など、を併せて出力してもよい。
【0289】
(7)効果:
以上で説明した事故判断処理によれば、情報処理装置200は、クレーンの稼働中の事故の発生を判断することができ、通報などの対処を行う。従って、クレーンの管理者は、事故への対処を速やかに行うことができる。
また、事故の発生した時刻等が記憶されているため、当時の状況を画像で容易に確認することが可能となる。また、この画像データは、外部に提供することも可能であるため、外部の機関が、事故の状況を分析等するのに役立てることができる。
【0290】
J.警備機能:
クレーンは、通常の稼働時は、吊荷の運搬に利用される。しかし、施設の終業後などには、クレーンにカメラ124が搭載されていることを活用して、監視などに利用することができる。以下では、クレーンを火災および不審者の監視に活用する例について説明する。
【0291】
図28は、警備処理のフローチャートである。主として図4に示した警備動作部225が行う処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200のCPUが実行する処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、正常時のスキャンパターンを読み込み(ステップS160)、スキャンパターンでクレーンを移動させる(ステップS161)。図の右側に、正常時のスキャンパターンを示した。正常時には、図中の左側に示すように、施設内をジグザグに折り返すパターンでスキャンを行う。こうすることにより、施設内全体の画像をカメラ124で順次、撮影することができる。
【0292】
情報処理装置200は、カメラ124で撮影された画像およびレーザレーダ125で得られる3次元点群を解析し、特徴点および色分布を正常時と比較する(ステップS162)。特徴点は、施設内の設備等のエッジなどの形状を表すデータである。特徴点が正常時と異なる場合には、施設内の設備等が移動している、障害物や煙などで鮮明に見えないなどの異常が発生していると判断される。また、色分布が正常時と異なる場合には、火災の炎の影響が現れていると判断できる。
【0293】
情報処理装置200は、ステップS162の比較に基づいて異常ありと判断される場合には(ステップS163)、火災が発生した可能性があると判断し、異常が発生している地点を特定する(ステップS164)。異常地点は、例えば、画像内で特徴点や色分布が平常時と異なる箇所を特定し、当該箇所が対応する設備を特定することで特定できる。
異常地点を特定すると、情報処理装置200は、正常時のスキャンパターンを中止し、異常地点にクレーンを移動する(ステップS165)。
こうすることにより、クレーンのカメラ124およびレーザレーダ125で、異常地点の様子を記録することができる。情報処理装置200は、その結果を事件データベース204に格納するとともに、通報を行う(ステップS169)。通報は、事故の発生時(図25のステップS138)と同様の方法をとることができる。
【0294】
一方、ステップS162の比較で異常なしと判断された場合(ステップS163)、情報処理装置200は、取得されたデータに基づいて人間の検出を行う(ステップS166)。実施例では、レーザレーダ125によって得られる3次元点群を、正常時と比較するものとした。両者の3次元点群の差違を抽出し、これが人間の形状と認定できるかを判断するのである。
人間が検出できなかったときは(ステップS167)、火災についても不審者についても異常なしと判断されるため、正常時のスキャンパターンを継続する(ステップS161)。
一方、人間が検出されたときは(ステップS167)、不審者がいると判断されるため、情報処理装置200は、正常時のスキャンパターンを中止し、出口重点スキャンに変更する(ステップS168)。図の右側に、出口重点スキャンを例示した。施設内に出口1~3の3箇所の出口が存在する場合、図中に矢印で示すように、これらの出口を巡回するパターンでクレーンを移動させるのである。クレーンの移動速度は、一般的には人間の移動速度ほど速くないため、不審者を完全に追随することは困難である。一方、不審者は、施設から逃走するためには、いずれかの出口を利用しなくてはならない。そこで、出口重点スキャンに切り換えることにより、不審者の姿を補足することができる可能性を向上させることができる。出口重点スキャンにおいて、出口付近に不審者を検出したときは、スキャンを停止し、当該出口を重点的に撮影等するようにしてもよい。
情報処理装置200は、不審者を検出したときも、その結果を事件データベース204に格納するとともに、通報を行う(ステップS169)。
【0295】
以上で説明した警備処理によれば、クレーンを吊荷の運搬以外に、監視に活用することができる。また、異常を発見したときに、スキャンパターンを変更することにより、その状況を記録できる可能性が向上する。
異常の情報は、事件データベース204に格納されているため、事件画像提供処理(図27)を活用することにより、異常時の画像データ等を提供することができ、その状況を事後的に検証しやすい利点もある。
【0296】
警備処理において、建物に固定のカメラが設置されている場合には、これらのカメラとの連携を考慮してもよい。例えば、固定のカメラで得られる画像には、それぞれ死角が存在する。従って、クレーンの正常時スキャンパターンは、これらの死角をつぶすように設定してもよい。固定のカメラの死角は、床に置いてある装置、荷物などの状況によっても変動するため、それに応じて正常時スキャンパターンを変化させてもよい。
また、異常を発見した場合のクレーンの移動も、固定のカメラでカバーされている領域を踏まえて設定してもよい。例えば、出入り口付近が固定のカメラでカバーされている場合には、可能な限り不審者を追随するよう移動させることが考えられる。
【0297】
K.地切安全支援機能:
吊荷に取り付けられたワイヤをクレーンのフックに引っかけて、吊荷を吊り上げるとき、重心の上方を正確に吊り上げることは困難であり、フックの位置と重心とは若干ながらずれがあることが多かった。従って、従来、このずれに起因して、地切、即ち吊荷が床から離れる瞬間に、吊荷が左右または前後に移動することがあり、吊荷の近傍で作業をしていた作業員に衝突するなどの危険があった。
本実施例では、かかる危険を抑制するための機能として地切安全支援機能を備えている。以下、当該機能について説明する。
【0298】
図29は、地切安全支援処理の概要を示す説明図である。吊荷Ba、Bbを搬送する際の様子を示している。
まず、クレーンで吊荷Baを左上の位置Pa0から、下方のPa1に搬送する場合を考える。位置Pa0の近傍に、吊り上げる際の側面から見た状態を模式的に示した。吊荷Baにワイヤを取り付け、矢印Uaのように吊り上げる時、その重心CGの位置は目測等で判断することになるため、正確に重心CGの上方を吊り上げることは困難である。従って、矢印Uaのようにクレーンを巻き上げると吊荷Baが床から離れる瞬間に、矢印Sのように振動するおそれがある。これが地切時の振動である。
【0299】
こうして吊荷Baを搬送1と示した矢印のように位置Pa1まで搬送し、巻下げる。位置Pa1の近傍に、巻下げの際の側面から見た状態を模式的に示した。搬送されている間、クレーンは、ワイヤで矢印Ua1のように吊荷Baの重心CG上を正確に吊り上げていることになる。従って、巻下げを行い吊荷Baが着床した時点のクレーンの位置は、次に吊荷Baを吊り上げる時に、吊荷Baの重心CG上を正確に吊り上げることができる位置であることになる。そこで、実施例の情報処理装置200は、このときの座標CG1(X1,Y1)を吊荷Baと対応づけて記憶しておくのである。
【0300】
吊荷Baを着床した後、クレーンは、移動1と示した破線矢印のように空荷の状態で、吊荷Bbが置いてある位置Pb0に移動する。この時点では、先に吊荷Baで説明したのと同様、地切時の振動が生じるおそれがある。
そして、クレーンは、吊荷Bbを吊上げ、搬送2と示した矢印のように、位置Pb1まで搬送する。位置Pb1で着床する際には、クレーンは吊荷Bbの重心上を正確に吊り上げているから、着床時のクレーンの位置座標は、次に吊荷Bbを吊り上げる際に、重心上を正確に吊り上げるために有用である。そこで、実施例の情報処理装置200は、このときの座標CG2(X2,Y2)を吊荷Bbと対応づけて記憶しておく。
【0301】
その後、クレーンが、吊荷Baを再度搬送する場合を考える。例えば、吊荷Ba、吊荷Bbが工場内で使用する金型であるような場合には、金型を機械に設置し、加工が終わると、機械から外して所定の位置に保管するという繰り返しになるから、このように吊荷を何度も搬送するという事態が生じる。
【0302】
先に説明した通り、吊荷Baを最初に搬送して着床した時点で、その位置座標C1(X1,Y1)が登録されている。従って、作業員が、登録された位置情報から、位置座標C1を呼び出すと、クレーンは、移動2の矢印で示すように、位置座標C1まで移動する。作業員が目視で位置座標C1付近まで移動させた後、位置座標C1に一致するように位置を修正してもよい。
【0303】
こうして移動が完了すると、クレーンを巻下げて、荷物Baを吊り上げる。位置座標C1で吊り上げれば、クレーンと荷物Baの重心との位置関係は正確に再現できており、地切時の振動は抑制できることになる。
このように吊荷を着床させたときのクレーンの位置情報を登録しておき、これを利用することによって、次に吊荷を吊り上げる際に、その重心位置とクレーンとの位置関係を正確に再現するというのが、実施例における地切安全支援機能の考え方である。
【0304】
上述した考え方による地切安全支援機能において、重心位置とクレーンとの位置関係を正確に再現するために、次のような工夫を設けてもよい。
図30は、クレーンによる吊荷の吊上状態を示す説明図である。吊荷の4隅にワイヤW1~W4を取り付け、これをホイスト120のフック122に引っかけることによって吊荷を吊り上げている。このとき、厳密に言えば、ワイヤW1~W4をフック122に引っかける順序によって、それぞれのワイヤへの張力のかかり具合が変わるため、その合力が吊荷の重心位置からずれる可能性がある。かかる誤差を抑制するため、例えば、図中に示すように吊荷の4隅に、1~4の数字を描いておき、ワイヤW1~W4をこの数字に従った順序でフック122に引っかけるようにしてもよい。こうすることにより、ワイヤの引っかけ方も正確に再現することができるため、より正確にホイスト120と重心との位置関係を再現することが可能となる。
上記態様において、吊荷の4隅に描くのは、数字に限らず、フック122へのワイヤの引っかけ方を特定可能な識別表示であれば、何であってもよい。
【0305】
また、ホイスト120に下向きに照射するレーザ124aを取り付けてもよい。吊荷を搬送しているときは、その上面にレーザ124aによるスポットMが表されることになる。着床時に、このスポットMの位置を吊荷の上面にマーキングしておくのである。シールなどを貼付する方法でも良いし、ペン等で印をつけてもよい。
次に吊荷を搬送するとき、ホイスト120と吊荷の重心との位置関係が正確に再現されていれば、レーザ124aは、先にマーキングしたスポットMを照射するはずである。従って、レーザ124aによる照射とマーキングしたスポットMとの位置関係を見れば、ホイスト120の位置をより正確に再現することができる。
本実施例では、ホイスト120にカメラ124が取り付けられているから、その撮影画像に基づいて、レーザ124aによる照射とマーキングしたスポットMとのずれを検出し、ずれがなくなるようにホイスト120の位置を制御してもよい。
【0306】
カメラ124による撮影画像は、別の態様で用いることもできる。
まず、着床時の位置座標の登録時に撮影画像も関連づけて登録しておく態様である。こうすることで、着床後に改めて吊荷を搬送するために位置座標を呼び出すときに、撮影画像に基づいて直感的に誤りなく位置情報を呼び出すことができる。
また、吊荷を吊り上げる際に、カメラ124で撮影した撮影画像と、登録してある撮影画像とをマッチングし、両者のずれに基づいてホイスト120と重心との位置関係を一致させるように制御してもよい。こうすることで、両者の位置関係をより正確に再現することが可能となる。
【0307】
以下、地切安全支援機能のために実行される処理について説明する。この処理は、地切安全支援部250(図4参照)が実行する処理であり、ハードウェア的には情報処理装置200が実行する処理である。
【0308】
図31は、地切安全支援処理における位置登録処理のフローチャートである。この処理は、クレーンで吊荷を搬送しているときに繰り返し実行される処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、吊荷の搬送中であるかを判断する(ステップS180)。搬送中でないときは、特に何も行わず、この処理を終了する。搬送中か否かの判断は、例えば、クレーンにかかる荷重に基づいて判断してもよいし、カメラ124で撮影した画像に基づいて判断してもよい。
【0309】
吊荷を搬送中の場合(ステップS180)、次に、その吊荷が着床したかを判断する(ステップS181)。搬送中で未だ着床していない場合は、着床するまで待つ。
【0310】
そして、吊荷が着床すると、作業員によって位置座標の登録操作が行われたかを判断する(ステップS182)。登録操作は、種々の態様をとることができる。
例えば、クレーンのコントローラに、登録用のボタン等を設けてもよい。
また、吊荷が着床した後、ワイヤが取り外されて空荷の状態で巻上の操作がなされたときに、これを登録操作と判断するようにしてもよい。空荷か否かに関わらず巻上の操作がなされたときに、登録操作と判断する方法をとってもよい。ただし、吊荷を一旦着床させた後、位置の微修正のために再度巻上を行った場合が生じ得ることを考慮し、これを除外する処理を加えることが好ましい。
【0311】
登録操作が行われると、情報処理装置200は、吊荷情報を取得する(ステップS183)。吊荷情報とは、吊荷を特定するための情報である。例えば、作業員が、吊荷の名称、種別、サイズなどを登録できるようにしたり、予め登録されている吊荷情報から選択するようにしてもよい。クレーン用のコントローラでは、これらの複雑な情報を特定するのに適さないことが多いため、例えば、情報処理装置200と作業員が所持するスマートフォン、タブレットその他の端末とを接続して登録可能としてもよい。
また、吊荷情報とは、位置情報と吊荷との関係を特定できれば良いから、情報処理装置200が吊荷に対して識別情報、即ち吊荷IDを付与するようにしてもよい。この場合、吊荷IDを吊荷側に描いておけば、これによって吊荷を特定することが可能となる。また、吊荷IDに、日付時刻などを含めるようにしておけば、吊荷を搬送した作業履歴によって吊荷を概ね特定することも可能となる。
このように吊荷情報を用いることにより、誤り等によって、異なる吊荷に対する位置情報が利用される危険性を抑制することができる。
【0312】
次に、情報処理装置200は、クレーンの位置座標およびカメラ124で撮影した画像を取得する(ステップS184)。そして、吊荷情報、クレーンの位置座標、画像を関連づけて登録する(ステップS185)。図中に登録の例を示した。吊荷ID1は吊荷情報を表し、(X1,Y1)は位置座標を表し、Image1は画像を表す。
なお、画像については、省略しても差し支えない。
【0313】
そして、情報処理装置200は、重複した位置座標の登録を抹消する(ステップS186)。本実施例では、吊荷を着床させたときの位置座標を登録するため、重複した位置座標は登録されていないはずである。ここで重複とは、2つの位置座標間の距離が、吊荷のサイズを考慮して設定した値よりも小さいことを意味する。重複した位置座標が存在するということは、既に吊荷が存在しているところに別の吊荷が着床したことになるが、このようなことはあり得ないため、従前の位置座標が誤っていることになる。従って、情報処理装置200は、かかる位置座標を抹消するのである。
具体的な処理としては、登録済みのデータから、ステップS185で登録される位置座標から所定の距離内に存在する位置座標を検索し、これを抹消すればよい。
なお、重複が生じないように位置座標が適切に管理されている場合には、ステップS186の処理を省略しても差し支えない。
【0314】
図32は、地切安全支援処理における登録情報管理処理のフローチャートである。既に登録された位置情報を管理する処理であり、主として無用となった位置情報を抹消することを目的とする処理である。
登録済みの位置情報が無用となる場合とは、即ち、着床した吊荷が移動された場合である。吊荷は、必ずしもクレーンのみによって移動されるとは限らない。吊荷の種類によっては、フォークリフトなど別の手段によって移動される場合もあるし、別のクレーンで移動させることもあり得る。また、吊荷によっては、廃棄等で処分されることもある。
このようなときに、登録済みの位置情報を残しておくと記憶容量を浪費することになるだけでなく、他の吊荷を搬送する際に誤って利用されるおそれもある。そこで、無用となった位置情報は適宜、抹消していくことが好ましい。
本実施例では、作業員が無用な位置情報を個別に指定して抹消する方法と、情報処理装置200が自動的に抹消する方法を併用するものとした。
【0315】
この処理を開始すると、情報処理装置200は、解除指示がなされたかを判断する(ステップS190)。解除指示とは、登録済みの位置情報を抹消するための指示である。コントローラに解除ボタンを設けるようにしてもよいし、情報処理端末200に接続するスマートフォンその他の端末で指示するようにしてもよい。
【0316】
解除処理がなされたときは、情報処理装置200は、解除情報の指定を受け付ける(ステップS192)。指定の方法としては、いくつかの態様が考えられる。例えば、端末に登録済みの位置情報を一覧表示し、この中から解除すべきものを選択するようにしてもよい。また、位置情報は吊荷情報と関連づけて登録されているから、解除すべき位置情報を吊荷情報で指定してもよい。
また、クレーンの位置情報に基づいて指定してもよい。例えば、吊荷を搬送しようとして登録済みの位置情報を呼び出し、クレーンを移動させたところ、吊荷が存在しない場所に移動してしまったというような状況では、簡易に無用な位置情報を解除対象とすることができる。
【0317】
一方、解除指示がなされていない場合(ステップS190)、情報処理装置200は、適宜、クレーンの位置情報を読み込む(ステップS191)。
【0318】
そして、情報処理装置200は、ステップS192で指示された解除情報に対応する登録情報、またはステップS191で読み込んだ位置情報に対応する登録情報を検索する(ステップS193)。対応する登録情報が見つからない場合は(ステップS194)、特に何も行うことなく、登録情報管理処理を終了する。
【0319】
対応する登録情報が見つかった場合、情報処理装置200は、次のいずれかの条件が満たされる場合に登録情報を抹消する(ステップS195)。
条件1は、抹消指示を受け付けることである。解除情報の指定を受けた場合でも、誤った位置情報を抹消しないよう、再度確認するのである。
条件2は、登録情報に対応する位置に、荷物が存在しないことが確認されることである。解除指示を受けない場合、ステップS191で読み込んだクレーンの位置座標に対応する登録情報が見つかったからといって、必ずしもその情報が誤りとは限らない。吊荷が置いてある場所の上を空荷のクレーンが移動しているだけのこともあるからである。そこで、カメラ124の画像などに基づいて、その登録情報に荷物があるか否かを判断し、荷物が存在しないときには、誤った登録情報であると判断して抹消するのである。
これらの条件を用いることにより、無用な位置情報の登録を抹消することができる。
【0320】
図33は、地切安全支援処理における吊荷吊上処理のフローチャートである。登録された位置情報を用いて吊荷を搬送する際の処理である。
処理を開始すると、情報処理装置200は、登録情報の呼出指示がなされたかを判断する(ステップS200)。呼出指示がなされたときには、登録情報の指定を受け付ける(ステップS205)。この指定は、解除指示(図32のステップS192)と同様、3通りの方法をとることができる。
そして、登録情報が指定されると、その位置情報に基づいてクレーンを移動する(ステップS206)。
【0321】
一方、呼出指示がなされていないとき(ステップS200)、クレーンは作業員の操作に従って移動等していることになるが、情報処理装置200は、クレーンが停止したときにその座標を読み込む(ステップS201)。そして、これに対応する登録情報を検索する(ステップS202)。対応する登録情報が見つからないときは(ステップS203)、何も行わず処理を終了する。
【0322】
対応する登録情報が見つかったときは(ステップS203)、クレーンの停止位置あたりに置いてある吊荷を吊り上げようとしているものと判断されるため、登録情報に基づきクレーンの位置を修正する(ステップS204)。作業員の操作を伴わずにクレーンを動かすことは危険を伴うため、位置合わせのための移動を行ってよいか、作業員の確認を待ってから移動させることが好ましい。
【0323】
以上の処理により、登録情報を呼び出した場合(ステップS205、S206)、および作業員が目視等で吊荷の近傍までクレーンを移動させた場合(ステップS201~S204)のそれぞれにおいて、吊荷の重心の上方にクレーンが移動しているはずである。
そこで、情報処理装置200は、作業員の指示に従って、吊荷の吊上を行う(ステップS207)。このとき、重心を正確につりあげるため、情報処理装置200は、登録されていた画像と、カメラ124で撮影される画像のマッチングを行い、ずれの有無を判断するようにしてもよい。所定以上のずれがある場合には、地切時の振動が生じるおそれがあるため、吊上を停止したり、警報を発するなどすることが好ましい。
【0324】
吊荷の吊上が行われると、登録してあった位置情報は無用なものとなるため、情報処理装置は、位置情報の登録を抹消する(ステップS208)。こうすることにより、無用になった位置情報が誤って利用されることを回避できる。
【0325】
以上で説明した地切安全支援機能によれば、吊荷を吊り上げる際に、地切時に振動が生じる危険性を抑制することができる。
【0326】
L.効果および変形例:
以上、実施例としての情報処理装置200、学習モデル生成システム500について説明した。上述の種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。
また、本発明については、実施例の他、種々の変形例を構成可能である。実施例では、施設内で吊荷を運搬するクレーンを例示したが、介護施設において被介護者を運搬するための介護クレーンに適用しても良い。その他、種々の変形例が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0327】
本発明は、固定の領域内で吊荷を移動させるクレーンの稼働中に取得される情報の処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0328】
30 コンピュータ
100 天井クレーン
101、102 走行レール
103 マーカ
110 クレーンガーダ
111、112 サドル
113 センサ
114 マーカ
120 ホイスト
121 ワイヤ
122 フック
123 表示器
124 カメラ
125 レーザレーダ
127 センサ
130 コントローラ
131 ケーブル
132、133、134 押ボタン
200 情報処理装置
201 稼働実績データベース
202 3次元点群データベース
202 3次元点群データベース
203 画像データベース
204 事件データベース
205 基本動作データベース
210 クレーン移動制御部
211 位置検出部
212 データ取得部
220 メンテナンス時期判断部
221 基本動作判断部
222 統計処理部
223 危険度評価部
224 事故判断部
225 警備動作部
230 運転診断部
231 運搬シーケンス最適化部
232 表示制御部
233 最適経路設定部
234 レイアウト最適化部
235 異常時画像提供部
240 送受信部
250 地切安全支援部
500 学習モデル生成システム
501 稼働実績データベース
502 3次元点群データベース
503 画像データベース
505 基本動作データベース
510 学習用データ生成部
520 基本動作判断用学習モデル生成部
521 メンテナンス時期判断モデル生成部
522 危険度判断モデル生成部
523 事故判断モデル生成部
540 送受信部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図18
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図30
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図33