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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185153
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】生体電位測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/268 20210101AFI20221206BHJP
   A61B 5/257 20210101ALI20221206BHJP
【FI】
A61B5/268
A61B5/257
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166217
(22)【出願日】2022-10-17
(62)【分割の表示】P 2021555975の分割
【原出願日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2019206470
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三原 将
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】中西 孟徳
(57)【要約】
【課題】生体表面の装着面の凹凸に倣って変形して密着した電極層の密着状態を維持でき、且つ簡単に運搬・保管ができる生体用電極を用いた、生体電位測定方法を提供する。
【解決手段】生体電位測定方法は、生体表面に直接当接するフレキシブル電極12が、前記生体表面の装着面に倣って変形して密着する導電性高分子から成る電極層14,14と、電極層14,14の一面側に積層され、電極層14,14と共に前記装着面に倣って変形するエラストマー層16とから構成され、フレキシブル電極12は、その担持体としての水透過性層18に水溶性材料から成る水溶性犠牲層20を介して接合されている生体用電極10製造工程と、
前記水透過性層を前記フレキシブル電極から剥離する生体用電極の装着工程と、
前記生体用電極で電位を測定する工程とを、有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に直接当接するフレキシブル電極を含む生体用電極を、前記フレキシブル電極の担持層としてセルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュで形成されている厚さ0.03~3mmの水透過性層の一面側に、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールである水溶性材料から成っており前記水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過層から剥離するための水溶性犠牲層を積層した後、
前記フレキシブル電極を構成する前記生体表面の装着面に倣って変形して密着するものでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートである導電性高分子から成る電極層と、前記電極層の一面側に積層され、前記電極層と共に前記装着面に倣って変形するものでポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されているエラストマー層とのうち、前記水溶性犠牲層に、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記エラストマー層が前記電極層よりも大面積であり又は前記電極層と同面積にしつつ前記エラストマー層の厚さが5μm以下であり且つ前記電極層の厚さが0.3μm以上であって前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さが5.3μm以下となるように前記エラストマー層と前記電極層とを順次積層して形成することによる生体用電極の製造工程と、
前記生体用電極を生体表面の装着面に装着する際に、前記生体用電極を構成する前記フレキシブル電極の前記電極層が形成された一面側の全面を前記装着面に当接し、前記エラストマー層と前記電極層とを前記装着面に倣って変形しつつ、前記電極層を前記装着面に密着した後、前記水透過性層に水を供給して、前記水透過性層を透過した水で前記水溶性犠牲層を形成する水溶性材料を溶かして、前記水透過性層を前記フレキシブル電極から剥離する生体用電極の装着工程と、
前記生体用電極で電位を測定する工程と
を有することを特徴とする生体電位測定方法。
【請求項2】
前記生体用電極を、前記生体表面の装着面の少なくとも2箇所に装着することを特徴とする請求項1に記載の生体電位測定方法。
【請求項3】
前記生体用電極を、ポジティブ用電極、及びネガティブ用電極とすることを特徴とする請求項2に記載の生体電位測定方法。
【請求項4】
前記生体用電極を、さらにリファレンス用電極とすることを特徴とする請求項3に記載の生体電位測定方法。
【請求項5】
前記電位が、筋電位又は心電位であることを特徴とする請求項1に記載の生体電位測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体表面に装着され生体計測装置の接続端子に接続される生体用電極を用いた、生体電位測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体計測は疾病の予防や健康寿命増進やスポーツ医学向上に貢献できることから、生体計測装置の計測精度の向上は重要である。生体計測の精度向上には、生体計測装置の接続端子に接続される電極が優れた導電性を有することは勿論のこと、生体表面の装着面に十分に密着でき生体の電位差を正確に検知できることが必要である。金属板製の電極は、導電性は良好であるものの、柔軟性に欠けることから、生体表面の装着面に十分に密着させようとすると着圧を高めなければならず、生体への影響が懸念される。
【0003】
このような金属板製の電極に代えて導電性高分子から成る電極を用いた生体用電極が、下記特許文献1で提案されている。この生体用電極は、生体表面の肌と接触する電極部分が有機導電性ポリマーで形成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-68024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された生体用電極は、生体表面の肌と接触する電極部分が有機導電性ポリマーで形成されているものの、有機導電性ポリマーから成る電極部分の裏面側に金属電極が配されているため、生体用電極の柔軟性に欠けることから、生体表面の装着面に電極部分を十分に密着させるには着圧を高めることを要し、依然として被検者の負担が増加する。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、電極層が生体表面の装着面の凹凸に倣って変形して密着でき、且つ運搬・保管が簡単な生体用電極、その製造方法及び装着方法、並びにそれを用いた生体電位測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る生体用電極は、生体表面に直接当接するフレキシブル電極が、前記生体表面の装着面に倣って変形して密着するものでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートである導電性高分子から成る電極層と、前記電極層の一面側に積層され、前記電極層と共に前記装着面に倣って変形するものでポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されているエラストマー層とから構成され、
前記フレキシブル電極は、その担持体としてセルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュで形成されている厚さ0.03~3mmの水透過性層に、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールである水溶性材料から成っており前記水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過層から剥離するための水溶性犠牲層を介して、接合されており、
前記エラストマー層が、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記電極層よりも大面積であり、又は前記電極層と同面積であり、
前記エラストマー層の厚さが5μm以下であり且つ前記電極層の厚さが0.3μm以上であって、前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さが5.3μm以下である
ことを特徴とするものである。
【0008】
前記エラストマー層が、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記電極層よりも大面積であることにより、生体用表面の装着面に電極層が十分に密着した状態を維持できる。
【0009】
前記エラストマー層の厚さが5μm以下であり且つ前記電極層の厚さが0.3μm以上であって、前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さが5.3μm以下であることが、エラストマー層及び電極層の全体が生体表面の装着面に倣って簡単に変形して密着できる。
【0010】
前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート又はその類似化合物であることが、電極層に良好な導電性と柔軟性とを付与できる。
【0011】
前記エラストマー層が、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されていることが、生体表面や電極層との密着性を向上できる。
【0012】
前記水透過性層が、セルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュで形成されていることが、優れた強力担持性と水透過性とを併有できる。
【0013】
前記水溶性犠牲層が、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールで形成されていることにより、フレキシブル電極と水透過性層とを確実に接合でき、且つ水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過性層から確実に剥離できる。
例えば、前記エラストマー層の表面がコロナ放電処理及びジアミノ基含有シランカップリング剤処理表面であることによって、前記エラストマー層と前記電極層とが密着していてもよいというものである。
また、例えば、前記フレキシブル電極に、前記電極層及び前記エラストマー層を貫通するコネクター部が形成され、又は外部接続端子が前記電極層に接続可能に前記電極層を前記エラストマー層の縁まで延出していてもよいというものである。
さらに、例えば前記電極層と前記エラストマー層との面積比が1:2~1:18であってもよいというものである。
【0014】
前記エラストマー層を貫通するスルーホール内に導電材が充填され、前記電極層と前記エラストマー層の他面側に装着される外部接続電極とを電気的に接続するコネクター部が形成されていることにより、計測機器等の外部接続電極と電極層とを簡単に電気的に接続できる。
例えば、前記導電材が、金属フィラー又は金属がコートされたフィラーを含有する導電性シリコーンゴムであってもよいというものである。
【0015】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る生体用電極の製造方法は、生体表面に直接当接するフレキシブル電極を含む生体用電極を、前記フレキシブル電極の担持層としてセルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュで形成されている厚さ0.03~3mmの水透過性層の一面側に、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールである水溶性材料から成っており前記水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過層から剥離するための水溶性犠牲層を積層した後、前記フレキシブル電極を構成する前記生体表面の装着面に倣って変形して密着するものでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートである導電性高分子から成る電極層と、前記電極層の一面側に積層され、前記電極層と共に前記装着面に倣って変形するものでポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されているエラストマー層とのうち、前記水溶性犠牲層に、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記エラストマー層が前記電極層よりも大面積であり又は前記電極層と同面積にしつつ前記エラストマー層の厚さが5μm以下であり且つ前記電極層の厚さが0.3μm以上であって前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さが5.3μm以下となるように前記エラストマー層と前記電極層とを順次積層して形成することを特徴とするものである。
【0016】
前記エラストマー層を、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記電極層よりも大面積に形成することにより、生体用表面の装着面に電極層が十分に密着した状態を維持できる。
【0017】
前記エラストマー層の厚さを5μm以下に形成し、且つ前記電極層の厚さを0.3μm以上に形成し、前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さを5.3μm以下とすることにより、エラストマー層及び電極層の全体を生体表面の装着面の凹凸に倣って簡単に変形して密着することができる。
【0018】
前記導電性高分子として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートを用いることにより、電極層に良好な導電性と柔軟性とを付与できる。
【0019】
前記エラストマー層を、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成することにより、生体表面や電極層との密着性を向上できる。
【0020】
前記水透過性層として、セルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュを用いることにより、優れた強力担持性と水透過性とを併有できる。
【0021】
前記水溶性犠牲層を、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールで形成することにより、フレキシブル電極と水透過性層とを確実に接合でき、且つ水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過性層から確実に剥離できる。
例えば、コロナ放電処理を施した前記エラストマー層の表面にジアミノ基含有シランカップリング剤で処理してから、前記エラストマー層と前記電極層とを密着するというものであってもよい。
また、例えば、前記フレキシブル電極に、前記電極層及び前記エラストマー層を貫通するコネクター部を形成し、又は外部接続端子を前記電極層に接続可能に前記電極層を前記エラストマー層の縁まで延出するというものであってもよい。
さらに、例えば、前記電極層と前記エラストマー層との面積比を1:2~1:18にするというものであってもよい。
【0022】
前記エラストマー層及び前記電極層を貫通するスルーホール内に導電材を充填し、前記電極層と前記エラストマー層の他面側に装着される外部接続電極とを電気的に接続するコネクター部を形成することにより、計測機器等の外部接続電極と電極層とを簡単に電気的に接続できる。
例えば、前記導電材を、金属フィラー又は金属がコートされたフィラーを含有する導電性シリコーンゴムとするというものであってもよい。
【0023】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る生体用電極の装着方法は、前述したいずれかの生体用電極を生体表面の装着面に装着する際に、前記生体用電極を構成する前記フレキシブル電極の前記電極層が形成された一面側の全面を前記装着面に当接し、前記エラストマー層と前記電極層とを前記装着面に倣って変形しつつ、前記電極層を前記装着面に密着した後、前記水透過性層に水を供給して、前記水透過性層を透過した水で前記水溶性犠牲層を形成する水溶性材料を溶かして、前記水透過性層を前記フレキシブル電極から剥離することを特徴とするものである。
【0024】
前記生体用電極として、前記エラストマー層が前記電極層よりも大面積に形成されたものを用い、前記エラストマー層と前記電極層とを前記装着面に倣って変形し、前記電極層を前記装着面に密着しつつ、前記エラストマー層の前記電極層からの露出面を前記装着面に密着することにより、生体用表面の装着面に電極層が十分に密着した状態を維持できる。
前記の目的を達成するためになされたもので特許請求の範囲に記載の本発明に係る生体電位測定方法は、
生体表面に直接当接するフレキシブル電極を含む生体用電極を、前記フレキシブル電極の担持層としてセルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュで形成されている厚さ0.03~3mmの水透過性層の一面側に、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールである水溶性材料から成っており前記水透過層を透過した水で溶けてフレキシブル電極を水透過層から剥離するための水溶性犠牲層を積層した後、
前記フレキシブル電極を構成する前記生体表面の装着面に倣って変形して密着するものでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートである導電性高分子から成る電極層と、前記電極層の一面側に積層され、前記電極層と共に前記装着面に倣って変形するものでポリジメチルシロキサン、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されているエラストマー層とのうち、前記水溶性犠牲層に、前記電極層からの露出面が前記装着面に密着するように前記エラストマー層が前記電極層よりも大面積であり又は前記電極層と同面積にしつつ前記エラストマー層の厚さが5μm以下であり且つ前記電極層の厚さが0.3μm以上であって前記エラストマー層と前記電極層との合計厚さが5.3μm以下となるように前記エラストマー層と前記電極層とを順次積層して形成することによる生体用電極の製造工程と、
前記生体用電極を生体表面の装着面に装着する際に、前記生体用電極を構成する前記フレキシブル電極の前記電極層が形成された一面側の全面を前記装着面に当接し、前記エラストマー層と前記電極層とを前記装着面に倣って変形しつつ、前記電極層を前記装着面に密着した後、前記水透過性層に水を供給して、前記水透過性層を透過した水で前記水溶性犠牲層を形成する水溶性材料を溶かして、前記水透過性層を前記フレキシブル電極から剥離する生体用電極の装着工程と、
前記生体用電極で電位を測定する工程と
を有する。
この生体電位測定方法は、前記生体用電極を、前記生体表面の装着面の少なくとも2箇所に装着するというものであってもよい。
この生体電位測定方法は、前記生体用電極を、ポジティブ用電極、及びネガティブ用電極とするというものであってもよい。
この生体電位測定方法は、前記生体用電極を、さらにリファレンス用電極とするというものであってもよい。
この生体電位測定方法は、前記電位が、筋電位又は心電位であるというものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る生体用電極は、担持体としての水透過性層によって担持されていることから、その運搬及び保管が簡単である。また、生体用表面の装着面に倣って変形して装着したエラストマー層と電極層とから構成されるフレキシブル電極を、水透過性層に供給した水により水溶性犠牲層を溶かして、担持体としての水透過性層を簡単に剥離でき、フレキシブル電極を生体用表面の装着面に確実に装着できる。しかも、フレキシブル電極を構成するエラストマー層と電極層とは、その装着面が凹凸面であっても簡単に変形して、電極層が装着面に十分に密着されるから、着圧を高めることなく生体計測の精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明を適用する生体用電極の正面図及びA-A面での断面図である。
図2】本発明を適用する生体用電極の製造方法を説明する工程図である。
図3】本発明を適用する生体用電極の装着方法を説明する説明図である。
図4】本発明を適用する生体用電極を凹凸面に装着した状態を説明する断面図である。
図5】本発明を適用する生体用電極の他の例を説明する断面図及び正面図である。
図6】本発明を適用する生体用電極の他の例を説明する断面図である。
図7】本発明を適用する生体用電極の他の例を説明する断面図である。
図8】人工肌との密着を試験するクロスカット法を説明する説明図である。
図9】人工肌とエラストマー層としてのポリウレタンから成るウレタン層との密着状態の電子顕微鏡写真である。
図10】ウレタン層の表面処理と導電層の電気抵抗値との関係を示すグラフである。
図11】ウレタン層に積層した導電層の電気抵抗値の引張耐久性試験を説明する説明図である。
図12】ウレタン層の表面処理による導電層の電気抵抗値の引張耐久性を示すグラフである。
図13】本発明を適用する生体用電極のフレキシブル電極を腕に装着して筋電位の測定をするときの装着位置を説明する説明図と測定した筋電図、及び参考電極として市販されているゲル電極を用いて行った筋電位を測定した筋電図である。
図14】本発明を適用する生体用電極のフレキシブル電極を腕に装着して筋電位の測定状態を説明する説明図と測定した筋電図である。
図15】本発明を適用する生体用電極のフレキシブル電極を腕に装着して心電位の測定をするときの装着位置を説明する説明図である。
図16】本発明を適用する生体用電極のフレキシブル電極を腕に装着して測定した心電図と、この心電図を基にして求めるQT時間とQR時間とを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではない。
【0028】
本発明に係る生体用電極を図1に示す。図1(a)は生体用電極10の正面図であり、図1(b)は図1のA-A面での断面図である。生体用電極10は、図1に示すように四角形の電極層14,14と電極層14,14よりも大面積の四角形のエラストマー層16とから成るフレキシブル電極12と、フレキシブル電極12の担持体としての水透過性層18とが水溶性材料から成る水溶性犠牲層20を介して接合されている。
【0029】
この電極層14,14は、生体表面の装着面に倣って変形して密着できるように導電性高分子から形成されている。導電性高分子としては、市販されているものを用いることができるが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT-PSS(poly(3,4-ethylendioxythiophene)- polystyren sulfonate):以下、単にEDOT-PSSと言う)を用いることにより、電極層14に良好な導電性と柔軟性とを付与できる。
【0030】
エラストマー層16は、電極層14,14の一面側に積層され、電極層14,14よりも大面積で且つ電極層14,14と共に生体表面の装着面に倣って変形し、電極層14,14から露出する露出部が装着面に密着するものである。このエラストマー層16は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリウレタン又はスチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーで形成されていることが生体表面や電極層との密着性を向上できる。特に、電極層14,14をPEDOT-PSSを用いたとき、エラストマー層16をポリウレタンで形成することにより、両者を強固に密着でき好ましい。特に、エラストマー層16をポリウレタンで形成し且つ電極層14,14をPEDOT-PSSで形成した場合、コロナ放電処理を施したエラストマー層16の表面にジアミノ基含有シランカップリング剤で処理することにより、エラストマー層16と電極層14,14とを更に一層強固に密着できる。
【0031】
このような電極層14,14とエラストマー層16とから成るフレキシブル電極12は、生体表面の装着面の凹凸に倣って変形し、電極層14,14が装着面に密着した状態を、エラストマー層16の電極層14,14からの露出面が装着面に密着することにより保持できる。この電極層14及びエラストマー層16の厚さは、電極層14の厚さが0.3μm以上で且つエラストマー層16の厚さが5μm以下であって、電極層14とエラストマー層16との合計厚さを5.3μm以下、好ましくは5μm以下とすることにより、人体の肌のように細かな凹凸面であっても、細かな凹凸面に倣って変形して密着した状態の電極層14,14を、エラストマー層16の電極層14,14からの露出面が肌に十分に密着することにより確実に維持できる。更に、電極層14,14とエラストマー層16との面積比(電極層14,14の面積:エラストマー層16の面積)が1:2~1:18であることが、エラストマー層16の電極層14,14からの露出面が肌に密着して、肌に密着した電極層14,14の密着状態を十分に保持でき好ましい。
【0032】
このように装着面の形状に倣って変形する電極層14,14とエラストマー層16とから成るフレキシブル電極12は、図1(b)に示すように、担持体としての水透過性層18と水溶性材料から成る水溶性犠牲層20を介して接合されており、生体用電極10の運搬及び保管を簡単にしている。この水透過性層18としては、水を透過できる材料であればよく、具体的にはセルロース製又は樹脂製の不織布、或いは樹脂製のスポンジ又はメッシュを用いることができる。その厚さは、0.03~3mm程度とすることが生体用電極10の運搬や保管に適している。
【0033】
また、水溶性犠牲層20としては、フレキシブル電極12と水透過性層18とを接合でき、且つ水に溶ける水溶性材料で形成されていればよく、具体的には澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレングリコールで形成することにより、フレキシブル電極12と水透過性層18とを確実に接合でき、且つ水溶性透過層20を透過した水で溶けてフレキシブル電極12を水透過性層18から確実に剥離できる。
【0034】
図1に示すフレキシブル電極12には、エラストマー層16及び電極層14を貫通するスルーホール21内に導電材が充填されたコネクター部22が形成されている。コネクター部22の一部は電極層14上に薄く且つ幅狭のフランジ状に延出されている。このようなコネクター部22は、電極層14と生体計測機器等の外部接続電極とを電気的に接続するものである。スルーホール21に充填する導電材としては、導電性ゴムを好適に用いることができる。導電性ゴムとしては、銀及び/又は金、銅等の金属フィラー又はそれらの金属がコートされたフィラーを含有する導電性シリコーンゴムが他の導電性ゴムよりも電気抵抗値が低く好適である。コネクター部22を形成する導電材としては、導電性不織布と導電性粘着剤との組み合わせも用いることができる。
【0035】
図1に示す生体用電極10を装着面に装着する手順を図2で説明する。図2に示す装着面24は平坦面とした。まず、図2(a)に示すように生体用電極10を、その電極層14を装着面24に当接し、図2(b)に示すように電極層14の全面及び電極層14から露出するエラストマー層16の露出面を装着面24に密着させる。その際に、コネクター部22のフランジ状部が電極層14上に延出されているが、その厚さは薄く且つ幅狭であり、装着面24と電極層14との密着は十分である。次いで、図2(c)に示すように生体用電極10の水透過性層18に水26を供給し、水透過性層18を透過した水で水溶性犠牲層20を溶かして、図2(d)に示すように水溶性犠牲層20を除去し、エラストマー層16及び電極層14から成るフレキシブル電極12のみを装着面24に密着した状態で残すことができる。フレキシブル電極12のエラストマー層16の上面には、コネクター部22の端面が露出しており、生体計測機器等の外部接続電極が接続される。フレキシブル電極12は、そのエラストマー層16の面積が電極層14の面積よりも大きいことから、エラストマー層16の露出面が装着面24に直接密着しており、電極層14が装着面24に十分に密着した状態を維持できる。
【0036】
図2では、平坦な装着面24にフレキシブル電極12を装着した状態を示したが、図3に示すように凹凸状の装着面24にもフレキシブル電極12の電極層14及びエラストマー層16が装着面24の凹凸状の形状に倣って変形し、電極層14が装着面24に倣って変形して密着していると共に、エラストマー層16の電極層14からの露出面も装着面に倣って変形して密着している。従って、装着面24が凹凸面であっても、フレキシブル電極12の電極層14が装着面24の凹凸面に密着した状態を維持できる。
【0037】
図1図3に示すフレキシブル電極12を含む生体用電極10の製造工程を図4に示す。先ず、図4(a)に示すように、セルロース製又は樹脂製の不織布或いは樹脂製のスポンジ等の水透過性材料で形成された水透過性層18の一面側に、澱粉又はポリビニルアルコール等の水溶性材料から成る水溶性犠牲層20を形成する。更に、水溶性犠牲層20の全面にポリジメチルシロキサン(PDMS)又はポリウレタン等のエラストマーから成るエラストマー層16を形成する。エラストマー層16は、エラストマーを溶媒に溶かした溶液を塗布した後、所定温度で熱処理することにより得ることができる。エラストマー層16の膜厚は、溶液中のエラスマーの濃度を調整してコントロールできる。
【0038】
次いで、図4(c)に示すようにエラストマー層16に導電性高分子から成る電極層14を形成する。電極層14は、エラストマー層16の面積よりも小面積である。この電極層14は、水溶性犠牲層20に被着した所定面積の開口部を形成したマスク上に導電性高分子を溶媒に溶かした溶液を印刷した後、マスクを除去してから所定温度でキュアすることにより形成できる。電極層14の膜厚も、溶液中の導電性高分子の濃度を調整してコントロールできる。ここで、エラストマー層16をポリウレタンで形成し且つ電極層14,14をPEDOT-PSSで形成した場合、エラストマー層16の表面にコロナ放電処理を施した後、更にジアミノ基含有シランカップリング剤で処理することにより、エラストマー層16と電極層14,14とを更に一層強固に密着できる。このジアミノ基含有シランカップリング剤としては3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0039】
その後、図4(d)に示すように電極層14及びエラストマー層16を貫通するスルーホール21をレーザの照射等で形成した後、図4(e)に示すようにスルーホール21内に導電材としての導電性ゴムを充填してコネクター部22を形成して、生体用電極10を得ることができる。
【0040】
図1図4に示す生体用電極10のフレキシブル電極12には、電極層14及びエラストマー層16を貫通するコネクター部22が形成されていたが、図5(a)に示すようにコネクター部22が形成されていなくてもよい。この場合、図5(b)に示すように、外部接続端子28が電極層14に直接接続可能とすべく電極層14をエラストマー層16の縁近傍まで延出することが必要である。
【0041】
また、図6に示すようにスルーホール21内に導電材として、導電性不織布30と導電性粘着剤32との組み合わせを用いることもできる。この場合、導電性不織布30と導電性粘着剤32との合計厚さが100μm以下のものであることが好ましい。更に、図7に示すようにエラストマー層16の水溶性犠牲層20との境界面に導電材から成り、スルーホール21の開口面積よりも大面積のパッド34が形成されていてもよい。パッド34は、スルーホール21の開口面積よりも大面積であるから、外部接続端子と簡単に接続できる。このパッド34は、導電性高分子を印刷することにより形成できる。
【0042】
図1図7では、エラストマー層16が電極層14よりも大面積に形成されたフレキシブル電極12を具備する生体用電極10を示したが、エラストマー層16と電極層14とが同面積のフレキシブル電極を有する生体用電極であってもよい。このようなフレキシブル電極でも、生体表面の装着面に沿って変形し電極層14を装着面に密着でき、生体計測の精度を向上可能である。但し、電極層14と装着面との密着力は、エラストマー層16と装着面との密着力よりも若干低下するが、このようなフレキシブル電極を有する生体用電極であっても、使い捨て用としては十分に使用できる。
【実施例0043】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
本発明に係る生体用電極10のエラストマー層16に用いるポリウレタンシートの肌への密着性の厚さとの関係について調査した。
(ポリウレタンシートの作製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に、10質量%のポリビニルアルコール水溶液をバーコータで塗布した後、80℃で1時間熱処理してポリビニルアルコール(PVA)膜を作成した。次いで、二液硬化型ポリウレタンのDIC株式会社製パンデックスGCのAとBとを混合(A:B=100:17)し酢酸エチルで希釈した希釈溶液を、PVA膜上に塗布して80℃で1時間の熱処理を施してから室温まで冷却して所定厚さのポリウレタンシートを得た。その後、ポリウレタンシートとPVA膜とをPETシートから剥離し、PVA膜を水に溶かしてポリウレタンシートを得た。得られたポリウレタンシートの厚さの調整は、酢酸エチルで希釈した希釈溶液中のポリウレタン濃度を調整して行った。得られたポリウレタンシートの厚さの確認は、Bruker社製のDektak XTを使用して測定した。
【0045】
(ポリウレタンシートの人工肌への密着試験)
得られた所定厚さのポリウレタンシートの肌への密着程度を試験した。肌は人工肌を用いて評価した。人工肌としては、株式会社ビューラックス社製バイオスキンプレートP001-001を用いた。また、人工肌への密着程度は、JISK5600-5-6に記載されたクロスカット法に準拠して試験した。クロスカット法は、図8(a)に示すように人工肌40に密着したウレタンシート42に、図8(b)に示す格子状の切込み46(2mm間隔)を施した後、剥離強度が既知の粘着テープ44をウレタンシート42に付着した。次いで、粘着テープ44を付着してから5分以内に角度60°で0.5~1秒で引きはがした。引きはがした粘着テープ44の格子状の切込み44の剥離状態を観察し、図8(c)に示す0~5分類に分類した。判定として3以上を剥離とみなした。接着テープは3M社製スコッチNo.331(剥離強度0.29N/mm)、ダイアテック株式会社製Pioran cross Y-03-BL(剥離強度0.16N/mm)を用いた。結果を表1に記載した。
【0046】
【表1】
【0047】
(ポリウレタンシートの人工肌への密着確認)
得られた厚さ5.0μmと0.3μmのポリウレタンシートを人工肌に密着した後、その断面の電子顕微鏡写真(倍率230)を撮影した。その写真を図9に示す。図9(a)が厚さ5.0μmのポリウレタンシートと人工肌との密着状態を示す電子顕微鏡写真であり、図9(b)が厚さ0.3μmのポリウレタンシートと人工肌との密着状態を示す電子顕微鏡写真である。図9から明らかように、どちらの厚さでも人工肌に密着しているのが確認でき、特にポリウレタンシートが薄いほど人工肌の細かな凹凸にまで追従している様子が確認できた。
【0048】
表1、図9から明らかなようにポリウレタンシートの厚さが5μm以下では人工肌に充分に密着していることが確認できた。特に1μm以下ではさらに強く密着していることが確認できた。
【0049】
実施例2
次に生体用電極10の電極層14に用いる導電高分子としてPEDOT-PSSシートを作製し、その導電性能と厚さとの関係について調査した。
(PEDOT-PSSシートの作製)
PEDOT-PSSはナガセケムテック社製SP-801を用いた。まずポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に、所定の厚みになるようにエタノールで希釈したPEDOT-PSSをバーコータで塗布した後、80℃で1時間熱処理してPEDOT-PSSシートを作成した。厚みの確認は実施例1と同様にBruker社製のDektak XTを使用して測定した。
【0050】
(PEDOT-PSSシートの導電特性試験)
得られたPEDOT-PSSシートを、ANSI/AAMI EC12:2000を参考して導電特性試験を行った。導電性能は、電極インピーダンスにて2kΩ以下を良好と判定した。試験は、得られたPEDOT-PSSシートを10mm×10mmに加工し、オウオン社製マルチメータB35Tを使用して測定した。結果を表2に記載した。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から明らかなようにPEDOT-PSSシートが厚くなるごとに電極インピーダンスの低下が見られた。また、0.2μm以下で規定である2kΩを超える電極インピーダンスになることが確認できた。この結果から電極層14に用いるPEDOT-PSSシートとしては0.3μm以上であることが好ましい。
【0053】
実施例3
生体用電極について、図9に示すクロスカット法による人工肌への密着程度を試験した。
(生体用電極による人工肌への密着試験)
先ず、水透過性層として澱粉が予め塗布されている水透過紙(丸繁紙工株式会社製SP)の上にエラストマー層として酢酸エチルで希釈したポリウレタン混合液を所定の厚みになるように塗布し、80℃で1時間の熱処理を施してから室温まで冷却して積層した。次いで、エラストマー層の全面に、導電層としてエタノールで希釈したPEDOT-PSSを塗布し、80℃で1時間キュアして積層して生体用電極を得た。次いで、得られた積層体の不織布に水を供給して澱粉層を溶かして不織布を除去し、エラストマー層と電極層との二層積層体を得た。この二層積層体の電極層を人工肌に密着して30分程乾燥してから図8に示すクロスカット法による人工肌への密着試験に供した。試験に用いた粘着テープは実施例1と同様の物を使用した。比較のためエラストマー層と電極層単体でも同様の試験を実施した。結果を表3に記載した。
【0054】
【表3】
【0055】
表3の結果からは、エラストマー層と電極層の二層積層体でも人工肌に充分に密着していることが確認できた。特に全体的に薄いほど人工肌へ強く密着していることが確認できた。また、電極層単体では強度が弱く、人工肌上で破壊されてしまい試験を実施できなかった。したがってエラストマー層と複合して使用するのが良く、更に好ましくは電極層の保護のため、電極層よりもエラストマー層を大面積にすることで二層積層体の人工肌への密着及び強度安定性を良好と判定した。
【0056】
表1~表3及び図9から、エラストマー層の厚さが5μm以下で且つ電極層の厚さが0.3μm以上であって、両者の合計の厚さが5.3μm以下であることが人工肌への二層積層体の密着性が向上され好ましい。また、エラストマー層の面積が電極層よりも大面積であることが人工肌への二層積層体の密着程度を良好とすることができる。
【0057】
実施例4
二層積層体の耐久性の向上を目的とし、エラストマー層に表面処理を行い、その効果を確認した。
(表面処理による導電特性試験)
実施例3と同様に澱粉層を有する水透過紙上にエラストマー層として厚み0.3μmのポリウレタンを形成した。次いで、エラストマー層の全面に下記表4の左から右に示す処理を順次施した。
【0058】
【表4】
【0059】
表4中の「コロナ放電工程」は、空気中で距離1mmから17kvの放電を70mm/秒の速さで3回行った。「VSCA処理工程」は、ビニル基シランカップリング剤として複数ビニル基含有アルコキシシロキサン(アズマックス株式会社製VMM-010)の0.1質量%のエタノール溶液を塗布した。「加熱処理工程」は80℃で10分間の加熱を施した。「DASCA処理工程」はジアミノ基シランカップリング剤として3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(ダウ・東レ株式会社製OFS-6020)の0.1質量%のエタノール溶液を塗布した。
【0060】
このような各処理を施したエラストマー層上に、「電極層塗布工程」として電極層としてエタノールで希釈したPEDOT-PSSを塗布し、80℃で1時間キュアして面積が10mm×30mmで0.6μmの電極層を積層した。得られた電極層の10mm間の電気抵抗を測定した。結果を図10に示す。
【0061】
図10から明らかなように、エラストマー層に「DASCA処理」を施した層の電気抵抗値が最も低かった。エラストマー層に「DASCA処理」を施すことにより、エラストマー層の濡れ性が向上してPEDOT-PSSのエタノール溶液が均一に塗布されたことによるものと推察される。尚、表4に示すポリウレタンに施したいずれの処理でも、得られた電極層の電気抵抗値は電極として使用可能である。
【0062】
(表面処理による耐久性向上試験)
エラストマー層に各種処理を施した後、電極層を形成した二層構造体について引張耐久性について検討した。図11(a)(b)に示すように人工肌40の上面に銀ペーストで幅2mmの配線52を5mm間隔で二本印刷した。この配線52,52上に、エラストマー層16aの全面に電極層14aが積層された9mm×9mmの二層構造体11を、電極層14aと配線52,52とが密着するように張り付けて室温で乾燥した。次いで、図11(b)に示すように人工肌40を矢印方向に所定距離引張り、直ぐに戻して配線52,52間の電気抵抗値(R)を測定し、引張開始前の配線52,52間の電気抵抗値(RO)との比(R/RO)を求めた。その結果を図12に示す。
【0063】
図12から明らかなように、「DASCA処理」して得られた二層構造体は伸縮されてもR/RO比が小さく引張耐久性に優れていることが確認できた。また、耐久性が向上されることで繰り返し使用が可能である。電極層14aを形成するPEDOT-PSSのPSS(ポリスチレンスルホネート)が酸性であることから、アルカリ性のアミン基に引き付けられたものと推察される。
【0064】
実施例5
生体用電極を作製し、市販のゲル電極と比較を行い、筋電位の測定、心電位の測定を行った。
(生体用電極10の作製)
セルロース製の不織布から成る水透過性層18の一面側に、澱粉から成る水溶性犠牲層20を形成する。水溶性犠牲層20の全面に、二液硬化型ポリウレタンのDIC株式会社製パンデックスGCのAとBとを混合(A:B=100:17)し酢酸エチルで希釈した希釈溶液を塗布して80℃で1時間の熱処理を施してから室温まで冷却して厚さ0.3μmのポリウレタンから成るエラストマー層16を形成した。次いで、所定面積が開口されたPETシートをマスクとしてエラストマー層16を被着し、ナガセケムテック社製SP-801のPEDOT-PSSをエタノールで希釈した希釈溶液を印刷した後、80℃で1時間キュアして所定面積の厚さ0.6μmの電極層14を形成した。フレキシブル電極12を構成するエラストマー層16と電極層14との面積比(エラストマー層16:電極層14)は6:1であった。
【0065】
更に、電極層14及びエラストマー層16を貫通する直径5mmのスルーホールを形成した後、スルーホール内に銀及びアルミフィラーがシリコーン粘着剤に配合された導電性シリコーンを充填し、80℃で1時間の熱処理を施してコネクター部22を形成し図1に示す生体用電極10を得た。
【0066】
(筋電位の測定及びゲル電極との比較)
得られた生体用電極10の導電層側を図13(a)に示す左腕の〇印で示す箇所の肌に密着した後、水透過性層18に水を供給して水溶性犠牲層20を溶かして水透過性層18を除去しフレキシブル電極12のみとした。次いで、フレキシブル電極12のエラストマー層16の表面に露出するコネクター部22の露出端に筋電計の外部端子を装着し、左手に握った握力計で所定の握力を示すように握ったときの筋電位を測定した。測定はBitalinoを用いて行い、ソフトウェアOpensignalsでデータを保存した。その結果を図13(b)に示す。また、参考電極として、日本弘電工業株式会社製ゲル電極のディスポ電極Fビドロードを用いて同様に行った筋電位の測定結果も図13(c)に示す。更に、下記表5にフレキシブル電極12と参考電極との各シグナルノイズ比(活動時のMax値(S)/静止時のMax値(N))を示す。
【0067】
【表5】
【0068】
図13及び表5から明らかなようにフレキシブル電極12は、参考電極と同等のシグナルを得ることができた。
【0069】
(拳の動作と腕の筋電位との対応)
得られた生体用電極10の導電層側を図14(a)に示すように腕の肌に密着した後、水透過性層18に水を供給し水溶性犠牲層20を溶かして水透過性層18を除去しフレキシブル電極12のみとした。次いで、図14(a)に示すようにフレキシブル電極12のエラストマー層16の表面に露出するコネクター部22の露出端に筋電計の外部端子52,52を接続して筋電位の測定を行った。
【0070】
図14(a)に示すようにフレキシブル電極12を装着した腕の拳を握り閉めたり開いたりしたところ、図14(b)に示すように腕の筋電位が対応して変化していることが判る。
【0071】
(心電位の測定)
得られた生体用電極10のフレキシブル電極12を用いて心電位を測定した。フレキシブル電極12を装着した状態を図15(a)(b)に〇印で示す。ポジティブ用電極Pは図15(a)に示す左手の掌側手首に装着し、ネガティブ用電極Nは図15(a)に示すように右手の掌側手首に装着した。また、リファレンス用電極Rは図15(b)に示す左手の甲側手首に装着した。心電位の測定はBitalinoを用いて行い、ソフトウェアOpensignalsでデータを保存した。その結果を図16(a)に示す。また、参考電極として、日本弘電工業株式会社製ゲル電極のディスポ電極Fビドロードを用いて同様に行った心電位の測定結果も図16(b)に示す。測定した心電図を用いて、図16(c)に示すPQ時間とQT時間とを測定した。PQ時間は心房から心室への伝達時間であり、QT時間は心室興奮から終了までの時間である。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
図16(a)~(c)及び表6から明らかなようにフレキシブル電極12と参照電極とは同様な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る生体用電極によれば、生体計測の精度を向上でき、疾病の予防や健康寿命増進に貢献できる。
【符号の説明】
【0075】
10は生体用電極、11は二層構造体、12はフレキシブル電極、14,14aは電極層、16,16aはエラストマー層、18は水透過性層、20は水溶性犠牲層、21はスルーホール、22はコネクター部、24は装着面、26は水、28は外部接続端子、30は導電性不織布、32は導電性粘着剤、34はパッド、40は人工肌、42はウレタンシート、44は粘着テープ、46は切込み、52は配線、Pはポジティブ用電極、Nはネガティブ用電極、Rはリファレンス用電極である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16