(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185158
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電動機および電気機器
(51)【国際特許分類】
H02K 23/38 20060101AFI20221207BHJP
H02K 23/04 20060101ALI20221207BHJP
H02K 13/04 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H02K23/38
H02K23/04
H02K13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019203482
(22)【出願日】2019-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】中野 圭策
(72)【発明者】
【氏名】水上 裕文
【テーマコード(参考)】
5H613
5H623
【Fターム(参考)】
5H613AA02
5H613BB04
5H613BB15
5H613PP07
5H623BB07
5H623GG13
5H623JJ03
(57)【要約】
【課題】電動機の回転数の検知精度を向上させることができる電動機等を提供する。
【解決手段】電動機1は、複数の磁極を有する固定子10と、回転軸21と第1のスロットを含む複数のスロット24を含むコア22とコア22に巻回された巻線コイル23とを有する回転子20と、複数の整流子セグメント41を有する整流子40とを備え、巻線コイル12は、複数のティース22aの各々に巻回された主コイル23aと、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2とを含み、固定子10の複数の磁極の数は6の倍数であり、回転子20の複数のスロット24の数は偶数であり、第1のスロットにおいて、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、固定子10から受ける逆起電力の方向が互いに逆であり、当該逆起電力が打ち消されるように引き回される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を有する固定子と、
軸心方向に延伸する回転軸と、
軸心と直交する径方向において、前記軸心を中心として放射状に延在する複数のティースと、
前記複数のティースのうち隣り合うティース間の各々に位置する、第1のスロットを含む複数のスロットと、
を含み、前記回転軸に取り付けられるコアと、
前記コアに巻回された巻線コイルと、
を有する回転子と、
前記回転軸に取り付けられるとともに、前記軸心を中心とする周方向に亘って、第1の整流子セグメント、第2の整流子セグメント、第3の整流子セグメントおよび第4の整流子セグメントを含む複数の整流子セグメントを有する整流子と、
を備え、
前記巻線コイルは、
前記複数のティースの各々に巻回された主コイルと、
前記第1の整流子セグメントから前記第2の整流子セグメントへと前記第1のスロットを介して電気的に接続された第1渡り線と、
前記第3の整流子セグメントから前記第4の整流子セグメントへと前記第1のスロットを介して電気的に接続された第2渡り線と、
を含み、
前記固定子が有する前記複数の磁極の数は6の倍数であり、
前記回転子が有する前記複数のスロットの数は偶数であり、
前記第1のスロットにおいて、前記第1渡り線および前記第2渡り線は、前記固定子から受ける逆起電力の方向が互いに逆であり、前記逆起電力が打ち消されるように引き回される、
電動機。
【請求項2】
前記第1渡り線および前記第2渡り線の各々は、前記複数のティースのうち1つを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線と、前記複数のティースのうち2つを跨ぐように引き回された第2跨ぎ線と、を含む、
請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記第1渡り線および前記第2渡り線の各々は、前記複数のティースを2巻き以上引き回されている、
請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記固定子は、複数の磁石によって構成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電動機を備える、
電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機および電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、電気掃除機等の家庭用電気機器分野をはじめとして、自動車等の電装分野にも広く用いられている。例えば、自動車では、ESC(Electronic Stability Control)またはエアサスペンション等に電動機が用いられている。電動機としては、ブラシを用いる整流子電動機、および、ブラシを用いないブラシレス電動機が知られている。
【0003】
整流子電動機は、例えば、固定子と、回転子と、回転子が有する回転軸に取り付けられた整流子と、整流子に摺接するブラシとを備える。整流子は、回転軸が含む軸心を中心とする周方向において等間隔に設けられた複数の整流子セグメントを有する。
【0004】
従来、電動機の回転速度を制御するために、起動時の誘起電圧から電動機の回転数を推測する方法が知られている。しかしながら、この方法では、推測する回転数のばらつきが大きく、電動機の回転数を精度良く検知することが難しい。
【0005】
そこで、回転速度の制御性をより一層高めるために、電流リプルを有する電流波形から電動機の回転数を検知する技術が提案されている。電流リプルは、整流子セグメントの数次成分に起因した周波数を持っている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の整流子電動機では、整流子セグメントの数次成分に起因した電流リプルが不均一であるので、電動機の回転数を精度よく検知することが難しい。
【0008】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、電動機の回転数の検知精度を向上させることができる電動機およびこれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示に係る電動機の一態様は、複数の磁極を有する固定子と、軸心方向に延伸する回転軸と、軸心と直交する径方向において、前記軸心を中心として放射状に延在する複数のティースと、前記複数のティースのうち隣り合うティース間の各々に位置する、第1のスロットを含む複数のスロットとを含み、前記回転軸に取り付けられるコアと、前記コアに巻回された巻線コイルとを有する回転子と、前記回転軸に取り付けられるとともに、前記軸心を中心とする周方向に亘って、第1の整流子セグメント、第2の整流子セグメント、第3の整流子セグメントおよび第4の整流子セグメントを含む複数の整流子セグメントを有する整流子とを備え、前記巻線コイルは、前記複数のティースの各々に巻回された主コイルと、前記第1の整流子セグメントから前記第2の整流子セグメントへと前記第1のスロットを介して電気的に接続された第1渡り線と、前記第3の整流子セグメントから前記第4の整流子セグメントへと前記第1のスロットを介して電気的に接続された第2渡り線とを含み、前記固定子が有する前記複数の磁極の数は6の倍数であり、前記回転子が有する前記複数のスロットの数は偶数であり、前記第1のスロットにおいて、前記第1渡り線および前記第2渡り線は、前記固定子から受ける逆起電力の方向が互いに逆であり、前記逆起電力が打ち消されるように引き回される。
【0010】
また、本開示に係る電気機器の一態様は、上記の電動機を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電動機の回転数の検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施の形態に係る電動機のブラケットを外した状態を示す上面図である。
【
図3】実施の形態に係る電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【
図4A】1つのティースを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線を説明するための図である。
【
図4B】2つのティースを跨ぐように引き回された第2跨ぎ線を説明するための図である。
【
図5】比較例の電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【
図6】変形例1に係る電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【
図7】変形例2に係る電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【
図8】変形例3に係る電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【
図9】変形例4に係る電動機における巻線コイルの巻線展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0014】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0015】
(実施の形態)
まず、実施の形態に係る電動機1の全体の構成について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、実施の形態に係る電動機1の半断面図である。
図2は、同電動機1の第1ブラケット61を外した状態を示す上面図である。
【0016】
電動機1は、整流子電動機であり、
図1および
図2に示すように、固定子10と、回転子20と、第1軸受け31および第2軸受け32と、整流子40と、ブラシ50と、第1ブラケット61および第2ブラケット62とを備える。
【0017】
本実施の形態における電動機1は、直流により駆動する直流電動機(DCモータ)であり、固定子10として磁石11が用いられているとともに、回転子20として巻線コイル23を有する電機子が用いられている。また、本実施の形態における電動機1は、例えば自動車のESCまたはエアサスペンション等に用いられる。
【0018】
以下、電動機1の各構成部材について詳細に説明する。
【0019】
固定子10(ステータ)は、回転子20に作用する磁力を発生する。固定子10は、電機子である回転子20とともに磁気回路を構成している。固定子10は、複数の磁極を有する。具体的には、固定子10は、エアギャップを介して、回転子20の外周面に沿ってN極とS極とが交互に存在するように構成されている。本実施の形態において、固定子10は、トルクを発生するための磁束を作る界磁であり、例えば複数の磁石11(マグネット)からなる界磁石によって構成されている。各磁石11は、例えばS極およびN極を有する永久磁石である。
【0020】
固定子10を構成する複数の磁石11は、周方向においてN極とS極とが交互に均等に存在するように配置されている。したがって、本実施の形態において、固定子10(磁石11)が発生する主磁束の向きは、回転軸21が含む軸心Cが延伸する方向と直交する方向である。本実施の形態において、複数の磁石11は、回転子20を囲むようにして周方向において等間隔で配置されており、回転子20が有するコア22の径方向において、外周側に位置している。具体的には、N極およびS極が着磁された複数の磁石11は、N極の磁極中心とS極の磁極中心とが周方向において等間隔となるように配置されている。
【0021】
複数の磁石11は、固定子10の磁極数が6の倍数となるように構成されている。本実施の形態において、固定子10の磁極数は6であり、3つの磁石11が配置されている。一例として、各磁石11は、上面視において厚さが略一定の円弧形状であり、第2ブラケット62に固定されている。具体的には、複数の磁石11の相互間には固定バネ63が配置されている。各磁石11は、第2ブラケット62の内周面に接着固定されている。3個の磁石11は、1個当たりN極およびS極の一対の界磁極に着磁されている。したがって、3個の磁石11は、全周では界磁極数が6で着磁されている。
【0022】
回転子20(ロータ)は、固定子10に作用する磁力を発生する。本実施の形態において、回転子20が発生する主磁束の向きは、回転軸21が含む軸心Cが延伸する方向と直交する方向である。そして、回転子20は、固定子10の磁力によって回転軸21を回転中心として回転する。より具体的には、回転子20は、回転軸21が含む軸心Cを回転中心として回転する。
【0023】
また、回転子20は、インナーロータであり、固定子10の内側に配置されている。具体的には、回転子20は、固定子10を構成する複数の磁石11に囲まれている。回転子20は、固定子10との間にエアギャップを介して配置されている。具体的には、回転子20の外周面と各磁石11の内面との間には微小なエアギャップが存在する。
【0024】
回転子20は、回転軸21を有する。本実施の形態における回転子20は、電機子であり、さらに、コア22と巻線コイル23とを有する。
【0025】
回転軸21は、回転子20が回転する際の中心となるシャフトである。回転軸21は、軸心C方向である長手方向に延伸している。回転軸21は、例えば金属棒であり、回転子20に固定されている。具体的には、回転軸21は、回転子20の両側に延在するように回転子20が有するコア22の中心を貫いた状態で、コア22に固定されている。回転軸21は、コア22に形成された中心孔に圧入したり、焼き嵌めしたりすることでコア22に固定されている。
【0026】
回転軸21が含む第1部位21aは、コア22の一方から突出しており、第1軸受け31に支持されている。本実施の形態において、回転軸21が含む第1部位21aは、回転軸21の出力側の部位(出力軸)である。具体的には、回転軸21の第1部位21aは、第1軸受け31から突出している。第1軸受け31から突出した回転軸21の先端部(出力側の端部)である第1部位21aには、例えば負荷が取り付けられる。
【0027】
一方、回転軸21が含む第2部位21bは、第2軸受け32に支持されている。本実施の形態において、回転軸21が含む第2部位21bは、回転軸21の反出力側の部位(反出力軸)である。
【0028】
一例として、第1軸受け31および第2軸受け32は、回転軸21を回転自在に支持するベアリングである。このように、回転軸21は、回転自在な状態で第1軸受け31と第2軸受け32とに保持されている。なお、第1軸受け31は、第1ブラケット61に固定されており、第2軸受け32は、第2ブラケット62に固定されている。
【0029】
回転子20が含むコア22は、回転するロータコア(回転子鉄心)である。また、コア22は、巻線コイル23が巻回される電機子コアである。コア22は、例えば、所定形状に形成された複数の打ち抜き電磁鋼板が、回転軸21が含む軸心Cが延伸する方向に積層された積層体である。なお、コア22は、電磁鋼板の積層体に限るものではなく、磁性材料によって構成されたバルク体であってもよい。コア22の外周面と固定子10の各磁石11の内面との間には微小なエアギャップが存在する。
【0030】
また、コア22は、複数のティース22aを有する。複数のティース22aは、回転軸21が含む軸心Cと直交する方向(ラジアル方向)、すなわち、径方向に軸心Cを中心とする放射状に延在している。また、複数のティース22aは、回転軸21の回転方向に亘って等間隔に存在している。本実施の形態では、
図2に示すように、T1~T8で示される8個のティース22aがコア22に設けられている。隣り合う2つのティース22aの間には、各々が第1のスロットであるスロット24が形成されている。回転子20において、コア22が含むスロット数は、偶数である。本実施の形態では、コア22には、8個のティース22aが設けられている。つまり、コア22は8個のスロット24を有するので、コア22が含むスロット数は8である。
【0031】
回転子20が有する巻線コイル23は、コア22に巻回されている。巻線コイル23は、複数のティース22aの各々に巻回された主コイル23a(本巻線)を有する。主コイル23aは、ティース22aに複数回巻回されている。本実施の形態において、主コイル23aは、集中巻きである。具体的には、主コイル23aは、インシュレータを介して各ティース22aに集中巻きで巻回された集中巻コイルである。また、ティース22aに巻回される主コイル23aは、コア22が含むスロット24に収納されている。本実施の形態では、コア22に8個のティース22aが設けられている。よって、
図2中、W1~W8で示される8個の主コイル23aが、コイルユニットとして配置されている。
【0032】
巻線コイル23は、整流子40と電気的に接続されている。具体的には、巻線コイル23は、整流子40が有する整流子セグメント41と電気的に接続される。整流子40を介して巻線コイル23に電流が流れることで、回転子20は、固定子10に作用させる磁力を発生させる。
【0033】
また、巻線コイル23は、主コイル23a以外に、整流子セグメント41の相互間を結線して電気的に接続する渡り線23bを含む。本実施の形態において、渡り線23bは、主コイル23aと一体に構成されている。つまり、渡り線23bと主コイル23aとは、途中で切断されることなく連続する1本の導電線となっている。この場合、渡り線23bは、1本の導電線のうち、隣り合う2つの主コイル23a同士を接続する部分であってもよいし、主コイル23aを巻き始める前の部分であってもよいし、主コイル23aを巻き終わった後の部分であってもよい。なお、渡り線23bと主コイル23aとは連続する1本の導電線ではなく、整流子セグメント41等において連結された別体の導電線であってもよい。
【0034】
整流子40は、回転軸21に取り付けられている。したがって、整流子40は、回転軸21が回転することで回転子20とともに回転する。本実施の形態において、整流子40は、回転軸21が含む第1部位21a側に取り付けられている。
【0035】
整流子40は、複数の整流子セグメント41を有する。複数の整流子セグメント41は、回転軸21の周方向に亘って配置されている。具体的には、複数の整流子セグメント41は、回転軸21を囲むように円環状に等間隔で配列されている。本実施の形態において、整流子40は、24個の整流子セグメント41を有する。
【0036】
複数の整流子セグメント41の各々は、回転軸21の長手方向に延伸した整流子片であり、回転軸21の外周面に沿って取り付けられる。各整流子セグメント41は、例えば銅等の金属材料によって構成された導電端子であり、回転子20に巻き回された巻線コイル23と電気的に接続されている。一例として、整流子40は、モールド整流子であり、複数の整流子セグメント41が樹脂モールドされた構成になっている。この場合、複数の整流子セグメント41は、表面が露出するようにモールド樹脂42に埋め込まれている。
【0037】
また、複数の整流子セグメント41は、互いに絶縁分離されているが、複数の整流子セグメント41同士は、巻線コイル23によって電気的に接続されている。具体的には、各整流子セグメント41に設けられたフック41aに、主コイル23aおよび渡り線23bの一方または両方が結線されている。複数の整流子セグメント41は、主コイル23aおよび渡り線23bによって電気的に接続されている。フック41aは、例えば、整流子セグメント41の先端に設けられている。
【0038】
整流子40には、ブラシ50が接している。具体的には、ブラシ50は、整流子40が有する整流子セグメント41に摺接する。ブラシ50は、回転子20に巻き回された巻線コイル23に電力を供給する給電ブラシ(通電ブラシ)である。具体的には、ブラシ50には、電源から供給される電流が流れるピグテール線等の電線が接続されている。ブラシ50が整流子セグメント41に接することで、電線を介してブラシ50に供給される電流(電機子電流)が、整流子セグメント41を介して回転子20の巻線コイル23に流れる。一例として、ブラシ50は、カーボンによって構成されたカーボンブラシである。具体的には、ブラシ50は、銅等の金属を含むカーボンブラシであり、四角柱状に形成されている。ブラシ50は、ブラシ50が移動する長手方向が回転軸21と直交する方向となるように配置される。言い換えれば、ブラシ50は、径方向に移動する。
【0039】
ブラシ50は、ブラシホルダによって保持されている。例えば、ブラシ50は、ブラシ箱等のブラシ収納部に収納されている。この場合、ブラシ50は、ブラシ収納部の内部を摺動する。また、電動機1には、ブラシ50を整流子40に押し当てるために圧縮コイルバネ等のブラシバネ51が配置されている。ブラシバネ51は、ブラシ50の後端部に接しており、バネ弾性を利用してブラシ50に押圧を付与する。ブラシ50は、ブラシバネ51からの押圧力を受けて、常にブラシ50の先端側に位置する端面に整流子40が有する整流子セグメント41が接触する状態となっている。ブラシバネ51に押し付けられたブラシ50は、ブラシ50の先端部分が摩耗するにつれて、ブラシ収納部内を整流子40に向かって移動する。
【0040】
本実施の形態において、ブラシ50は、複数配置されている。具体的には、ブラシ50は、2つ配置されている。例えば、ブラシ50は、整流子40を挟むように一対設けられている。つまり、一対のブラシ50は、整流子40を間にして対向して配置されている。具体的には、一対のブラシ50は、同一平面上において、回転軸21が含む軸心Cを中心に線対称となる位置関係で配置されている。つまり、一対のブラシ50は、機械角で180度間隔に配置されている。一対のブラシ50は、直流電源に接続されている。一対のブラシ50の一方は、直流電源の正極側に接続された正極側ブラシであり、一対のブラシ50の他方は、直流電源の陰極側に接続された陰極側ブラシである。
【0041】
第1ブラケット61は、第1軸受け31を保持している。本実施の形態において、第1ブラケット61は、蓋体であり、第2ブラケット62の開口部を覆っている。第1ブラケット61は、例えば、金属板をプレス加工することによって所定形状に形成されている。なお、第1ブラケット61には、回転軸21が貫通する貫通孔が設けられている。
【0042】
第2ブラケット62は、第2軸受け32を保持している。本実施の形態において、第2ブラケット62は、固定子10および回転子20を収納する筐体(ケース)である。具体的には、第2ブラケット62は、開口部および底部を有する略有底円筒状のフレームである。一例として、第2ブラケット62は、アルミニウムまたは鉄系材料等の金属材料によって構成されているが、樹脂材料によって構成されていてもよい。なお、第2ブラケット62は、固定子10の一部であってもよい。
【0043】
本実施の形態において、第1ブラケット61および第2ブラケット62は、電動機1の外郭筐体を構成している。なお、第1ブラケット61および第2ブラケット62で構成される外郭筐体には、固定子10および回転子20だけではなく、整流子40およびブラシ50等の電動機1を構成するその他の部品も収納されている。
【0044】
以上のように構成される電動機1では、ブラシ50に供給される電流が電機子電流(駆動電流)として整流子40を介して回転子20に巻き回された巻線コイル23に流れることで、回転子20に磁束が発生する。そして、この回転子20に生じた磁束と固定子10から生じる磁束との相互作用によって生成された磁気力が回転子20を回転させるトルクとなる。このとき、整流子セグメント41とブラシ50とが接する際の位置関係によって電流が流れる方向が切り替えられる。このように、電流が流れる方向が切り替えられることで、固定子10と回転子20との間に発生する磁力の反発力と吸引力とで一定方向の回転力が生成され、回転子20が回転軸21を中心として回転する。
【0045】
次に、本実施の形態に係る電動機1の巻線コイル23の巻き方の具体例について、
図2を参照しつつ、
図3を用いて説明する。
図3は、同電動機1における巻線コイル23の巻線展開図である。
【0046】
上述のとおり、巻線コイル23は、ティース22aに巻回された主コイル23aと、整流子セグメント41の相互間を結線する渡り線23bとを含んでいる。渡り線23bは、整流子セグメント41の相互間を結線するだけではなく、主コイル23aの相互間も結線している。
図2および
図3に示すように、渡り線23bは、通電される電流の方向が互いに逆方向となる第1渡り線23b1と第2渡り線23b2とを含んでいる。
【0047】
また、本実施の形態において、固定子10の磁極数は6であり、回転子20におけるコア22のスロット数は8である。したがって、
図2および
図3では、6極8スロットの場合が例示されている。具体的には、コア22は、T1~T8で示される8個のティース22aを有している。また、本実施の形態において、整流子40は、
図3に示すように、回転軸21の回転方向に沿って連続する1番から24番の番号で示される24個の整流子セグメント41を有している。
【0048】
図3では、2つのブラシ50のうちの正極側のブラシ50が5番の整流子セグメント41と6番の整流子セグメント41とに跨って接しており、2つのブラシ50のうちの負極側のブラシ50が17番の整流子セグメント41と18番の整流子セグメント41とに跨って接している場合を例示している。
【0049】
この場合、T2とT6のティース22aに巻回された主コイル23aは、短絡しているので、磁束を発生せず、T2とT6のティース22aは無極になっている。また、T1、T4、T7のティース22aは、これらのティース22aに巻回された主コイル23aに生じる磁束によって磁石11側がN極になっている。一方、T3、T5、T8のティース22aは、これらのティース22aに巻回された主コイル23aに生じる磁束によって磁石11側がS極になっている。
【0050】
図3において、主コイル23aは、実線で示されており、第1渡り線23b1は、点線で示されており、第2渡り線23b2は、一点鎖線で示されている。また、各線の矢印の向きは、電流が流れる向きを示している。
図3において、点線で示される第1渡り線23b1は、第1の整流子セグメント411から第2の整流子セグメント412へと第1のスロット241を介して電気的に接続している。第1渡り線23b1は、左周り通電であり、N極成分の磁束を発生させる。一方、一点鎖線で示される第2渡り線23b2は、第3の整流子セグメント413から第4の整流子セグメント414へと第1のスロット241を介して電気的に接続している。第2渡り線23b2は、右周り通電であり、S極成分の磁束を発生させる。つまり、第1のスロット241において、第1渡り線23b1と第2渡り線23b2とは、固定子10(磁石11)の界磁から受ける逆起電力が互いに逆となるように引き回されている。
【0051】
そして、本実施の形態における電動機1では、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、コア22のスロット24ごとに当該逆起電力が打ち消されるよう引き回されている。本実施の形態において、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、
図3に示される巻き方で引き回されて各整流子セグメント41に接続されている。
【0052】
具体的には、
図3の下段の表に示すように、T1のティース22aに対応する1番目のスロットでは、右周り通電の第2渡り線23b2(
図3の表で「右」と記載)と左周り通電の第1渡り線23b1(
図3の表で「左」と記載)とが1つずつ存在している。これにより、T1のティース22aに対応するスロット24では、磁石11の界磁によって第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力が打ち消される。
【0053】
同様に、T2~T8の各ティース22aに対応するスロットにおいても、右周り通電の第2渡り線23b2(
図3の表で「右」記載)と左周り通電の第1渡り線23b1(
図3の表で「左」と記載)が1つずつ存在している。これにより、T2~T8の各ティース22aに対応するスロット24でも、磁石11の界磁によって第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力が打ち消されることになる。
【0054】
なお、本実施の形態において、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、いずれも、1つのティース22aを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)231になっている。
【0055】
ここで、第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)231とは、例えば、
図4Aに示すように、第1渡り線23b1が1つのティース22aを跨ぐように引き回された渡り線23bのことである。一方、本実施の形態では用いられていないが、
図4Bに示すように、第1渡り線23b1が2つのティース22aを跨ぐように引き回された渡り線23bは、第2跨ぎ線(2つ跨ぎの渡り線)232である。なお、第2渡り線23b2についても、同様であり、第2渡り線23b2が1つのティース22aを跨ぐように引き回された渡り線23bは、第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)231であり、第2渡り線23b2が2つのティース22aを跨ぐように引き回された渡り線23bは、第2跨ぎ線(2つ跨ぎの渡り線)232である。
【0056】
次に、本実施の形態に係る電動機1の作用効果について、
図5を用いて、本開示に至った経緯も含めて説明する。
図5は、比較例の電動機における巻線コイル23の巻線展開図である。
【0057】
従来、電動機では、回転数を検知することによって回転速度を制御する技術が知られている。近年、回転速度の制御性をより一層高めるために、整流子セグメントの数に応じた整流子セグメントの数次成分に起因した周波数を持つ電流リプルを有する電流波形から電動機の回転数を検知する技術が検討されている。
【0058】
しかしながら、従来の電動機における巻線コイルの巻き方では、界磁石によって巻線コイルが含む主コイルまたは渡り線に生じる逆起電力が不均一になる。特に、低電流での使用範囲において、界磁石によって主コイルまたは渡り線に生じる逆起電力が不均一になる。
【0059】
具体的には、比較例の電動機では、巻線コイル23(主コイル23a、第1渡り線23b1、第2渡り線23b2)は、
図5に示される巻き方で引き回されている。
図5に示される比較例の電動機と
図3に示される本実施の形態における電動機1とでは、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の巻き方のみが異なり、それ以外の構成は同じである。なお、
図5に示す従来の電動機が有する巻線コイル23の渡り線23bには、
図4Bに示されるように、2つのティース22aを跨ぐように引き回された第2跨ぎ線(2つ跨ぎの渡り線)が存在している。
【0060】
ここで、
図5に示される従来の比較例となる電動機が有する巻線コイル23の巻き方では、
図5中、下段の表に示すように、T1のティース22aに対応する1番目のスロットでは、右周り通電の2つの第2渡り線23b2(
図5の表で「右」と記載)と左周り通電の1つの第1渡り線23b1(
図5の表で「左」と記載)とが存在している。つまり、第2渡り線23b2と第1渡り線23b1とがアンバランスで存在している。この結果、T1のティース22aに対応するスロットにおいて、磁石11の界磁によって第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力は、2つ存在する第2渡り線23b2の方が支配的となる。つまり、T1のティース22aに対応するスロットでは、磁石11の界磁によって渡り線23bに生じる逆起電力が不均一になっている。
【0061】
同様に、T2~T8のティース22aに対応する各スロットにおいても、右周り通電の第2渡り線23b2(
図5の表で「右」と記載)と左周り通電の第1渡り線23b1(
図5の表で「左」と記載)とがアンバランスで存在している。この結果、T2~T8の各ティース22aに対応するスロットでも、磁石11の界磁によって渡り線23bに生じる逆起電力が不均一になっている。
【0062】
このように、
図5に示される巻線コイル23の巻き方では、界磁石によって渡り線23bに生じる逆起電力がスロットごとで不均一になっている。この結果、整流子セグメントの数次成分が低下し、整流子セグメントの数次成分に起因した周波数を持つ電流リプルの振幅が乱れ、電動機の回転数の検知精度が低下する。
【0063】
そこで、本発明者らは、この課題を解決するために鋭意検討した結果、巻線コイル23が含む渡り線23bの巻き方を工夫することで、界磁石によって渡り線23bに生じる逆起電力が不均一になることを抑制できることを見出した。
【0064】
具体的には、本実施の形態における電動機1では、
図3に示すように、整流子セグメント41の相互間を結線する複数の渡り線23bのうち固定子10(磁石11)から受ける逆起電力方向が互いに逆である第1渡り線23b1と第2渡り線23b2とを、コア22のスロット24ごとにその逆起電力が打ち消されるように引き回している。つまり、第1渡り線23b1は、第1の整流子セグメント411から第2の整流子セグメント412へと第1のスロット241を介して電気的に接続している。同様に、第2渡り線23b2は、第3の整流子セグメント413から第4の整流子セグメント414へと第1のスロット241を介して電気的に接続している。第1のスロット241において、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、固定子10から受ける逆起電力の方向が互いに逆になり、逆起電力が打ち消されるように引き回されている。
【0065】
これにより、界磁石によって渡り線23bに生じる逆起電力がスロット24ごとで均一になるので、整流子セグメントの数次成分に起因した周波数を持つ電流リプルの振幅が乱れることを抑制できる。この結果、安定した整流子セグメントの数次成分を有する電流波形を得ることができるので、電動機の回転数の検知精度を向上させることができる。
【0066】
なお、
図3では、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の各々には、1つのティース22aを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)のみが含まれていたが、これに限らない。
【0067】
例えば、
図6に示すように、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の各々には、1つのティース22aを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)と、2つのティース22aを跨ぐように引き回された第2跨ぎ線(2つ跨ぎの渡り線)とが含まれていてもよい。
【0068】
この場合、例えば、巻線コイル23を複数のティース22aに1巻きで引き回すのではなく2巻きで引き回すことで、界磁石によって渡り線23bに生じる逆起電力をスロット24ごとで打ち消して均一にすることができる。例えば、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2を
図6に示される巻き方で引き回すことで、界磁石によって第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力をスロット24ごとで打ち消すことができる。具体的には、
図6では、1巻き目の第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力と、2巻き目の第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力とがスロット24ごとで打ち消し合うように渡り線23bを引き回している。
【0069】
なお、1巻き目の巻線コイル23と2巻き目の巻線コイル23とは、並列回路を構成している。具体的には、1巻き目の主コイル23aと2巻き目の主コイル23aとは並列回路になっている。同様に、1巻き目の第1渡り線23b1と2巻き目の第1渡り線23b1とが並列回路になっているとともに、1巻き目の第2渡り線23b2と2巻き目の第2渡り線23b2とが並列回路になっている。
【0070】
また、巻線コイル23を複数のティース22aに2巻きで引き回す場合、
図7に示すように、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の各々には、1つのティース22aを跨ぐように引き回された第1跨ぎ線(1つ跨ぎの渡り線)のみが含まれていてもよい。
【0071】
この場合も、1巻き目の第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力と2巻き目の第1渡り線23b1および第2渡り線23b2に生じる逆起電力とがスロット24ごとで打ち消し合うように渡り線23bを引き回せばよい。
【0072】
なお、
図6および
図7では、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の各々が複数のティース22aを2巻きのみで引き回されていたが、これに限らない。例えば、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2の各々は、複数のティース22aを2巻き以上で引き回されてもよい。
【0073】
(変形例)
以上、本開示に係る電動機1について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0074】
例えば、上記実施の形態では、6極8スロットの場合について説明したが、これに限らない。具体的には、
図8に示すように6極10スロットの電動機であってもよいし、
図9に示すように6極16スロットの電動機であってもよい。そして、
図8および
図9に示される変形例においても、第1渡り線23b1および第2渡り線23b2は、コア22が含むスロット24ごとに磁石11から受ける逆起電力が打ち消されるように引き回されている。
【0075】
また、固定子10の磁極は、6極に限るものではないが、少なくとも固定子10の磁極数は、6の倍数であるとよい。なお、回転子20が有するコア22のスロット数は、偶数であればよい。
【0076】
また、上記実施の形態において、固定子10は、磁石11によって構成されていたが、これに限らない。例えば、固定子10は、固定子コアと、固定子コアに巻回された巻線コイルとによって構成されていてもよい。ブラシ50は、一対のブラシ50を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、二対のブラシ以上を用いる構成としても、上述した効果を奏することができる。
【0077】
また、上記実施の形態において、電動機1は、自動車に用いられる場合について説明したが、これに限らない。つまり、上記実施の形態における電動機1は、自動車に搭載される電装機器に限らず、種々の電気機器に用いることができる。例えば、電動機1は、電気掃除機またはエアタオル等に搭載される電動送風機等の家庭用電気機器に用いられてもよいし、電動工具等に用いられてもよい。
【0078】
その他、上記実施の形態に対して当業者が思い付く各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示は、自動車等をはじめとして、電動機が搭載される種々の製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 電動機
10 固定子
11 磁石
20 回転子
21 回転軸
21a 第1部位
21b 第2部位
22 コア
22a ティース
23 巻線コイル
23a 主コイル
23b 渡り線
23b1 第1渡り線
23b2 第2渡り線
24 スロット
31 第1軸受け
32 第2軸受け
40 整流子
41 整流子セグメント
41a フック
42 モールド樹脂
50 ブラシ
51 ブラシバネ
61 第1ブラケット
62 第2ブラケット
63 固定バネ
231 第1跨ぎ線
232 第2跨ぎ線
241 第1のスロット
411 第1の整流子セグメント
412 第2の整流子セグメント
413 第3の整流子セグメント
414 第4の整流子セグメント