(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185166
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】抄紙体、同抄紙体を備える摩擦プレート、同摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、同抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 13/00 20060101AFI20221207BHJP
F16D 13/62 20060101ALI20221207BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20221207BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20221207BHJP
D21F 3/00 20060101ALI20221207BHJP
D21F 9/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
D21H13/00
F16D13/62 A
F16D69/00 G
F16D69/02 J
D21F3/00
D21F9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092647
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩
(72)【発明者】
【氏名】片山 信行
【テーマコード(参考)】
3J056
3J058
4L055
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA02
3J056BE09
3J056CA04
3J056CA17
3J056EA02
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3J056EA13
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3J056FA09
3J056GA02
3J056GA13
3J058AA59
3J058BA61
3J058CA42
3J058GA54
3J058GA67
3J058GA92
3J058GA93
3J058GA94
4L055AF01
4L055AF13
4L055BE10
4L055CE45
4L055CE71
4L055EA12
4L055EA15
4L055FA14
4L055FA22
4L055GA33
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】製造負担を軽減することができる抄紙体、同抄紙体を備える摩擦プレート、同摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、同抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法を提供する。
【解決手段】抄紙体製造装置300は、繊維基材Fを支持する平滑ベルト304を備えている。平滑ベルト304は、液体および気体が透過しない不透過性でかつ表面が平滑に形成された支持表面304aを有した帯状体を環状に形成して構成されている。抄紙体製造装置300は、押圧ローラ302c,303b,303c,303a,305b,305cをそれぞれ有して繊維基材Fにおける基材加工面Fkを支持表面304aに押し付けることで平滑面211aを有した抄紙体211を製造する。平滑面211aは、表面が擦れ接触を受けておらず同表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑面に形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体であって、
表面が擦れ接触を受けておらず同表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑面に形成されていることを特徴とする抄紙体。
【請求項2】
請求項1に記載した抄紙体において、
前記平滑面の算術平均高さSaが2μm以下であり、かつ極点高さSxpが4μm以下であることを特徴とする抄紙体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した抄紙体において、
前記抄紙体は、
熱硬化性樹脂が含侵されており、
前記平滑面が他の物体と摩擦する摩擦摺動面を構成する摩擦材であることを特徴とする抄紙体。
【請求項4】
請求項3に記載された抄紙体と、
平板環状に形成された芯金とを備え、
前記抄紙体は、
前記芯金の周方向に沿って設けられていることを特徴とする摩擦プレート。
【請求項5】
請求項4に記載した複数の摩擦プレートと、
前記複数の摩擦プレートに対してそれぞれ押し当てまたは離隔される平板環状の複数のセパレータプレートとを備えることを特徴とする多板クラッチ装置。
【請求項6】
有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体の製造装置であって、
前記有機繊維および前記無機繊維のうちの少なくとも一方を含むスラリー状の原料を濾したシート状の繊維基材を支持する平滑ベルトと、
前記平滑ベルトに支持された前記繊維基材を押圧する押圧体とを備え、
前記平滑ベルトは、
前記繊維基材を支持する支持表面が液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されていることを特徴とする抄紙体の製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載した抄紙体の製造装置において、
前記平滑ベルトは、
前記支持表面の算術平均高さSaが0.03μm以下であり、かつ極点高さSxpが0.07μm以下の平滑な面に形成されていることを特徴とする抄紙体の製造装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載した抄紙体の製造装置は、さらに、
前記平滑ベルトに支持された前記繊維基材の水分を除去する水分除去装置を備えることを特徴とする抄紙体の製造装置。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載した抄紙体の製造装置は、
前記平滑ベルトは、
前記支持表面が下方に向いた姿勢で前記繊維基材を支持することを特徴とする抄紙体の製造装置。
【請求項10】
有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体の製造方法であって、
前記有機繊維および前記無機繊維のうちの少なくとも一方を含むスラリー状の原料を濾してシート状の繊維基材を平滑ベルトに支持させる工程と、
前記平滑ベルトに支持された前記繊維基材を押圧体によって押圧する工程とを含み、
前記平滑ベルトは、
前記繊維基材を支持する支持表面が液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されていることを特徴とする抄紙体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体、同抄紙体を備える摩擦プレート、同摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、同抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クラッチ装置またはブレーキ装置においては、互いに対向配置される2つのプレートを互いに押し付け合うことで回転駆動力の伝達または制動が行われている。この場合、2つのプレートのうちの一方のプレートは、平板環状の芯金の表面に周方向に沿って複数の摩擦材が設けられた摩擦プレートで構成されている。例えば、下記特許文献1には、芯金としてのコアプレートに接着される前のペーパー摩擦材の表面に研磨加工を施すことで平滑性を向上させた湿式摩擦板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された湿式摩擦板においては、ペーパー摩擦材の平滑性を向上させるために研磨作業が必要であり、ペーパー摩擦材および湿式摩擦板の製造過程が煩雑であるという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、製造負担を軽減することができる抄紙体、同抄紙体を備える摩擦プレート、同摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、同抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体であって、表面が擦れ接触を受けておらず同表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑面に形成されていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、抄紙体は、表面が擦れ接触を受けていない状態であって同表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑面を有して構成されているため、製造工程における研磨作業などの製造負担を軽減することができる。ここで、抄紙体の表面が擦れ接触を受けていない状態とは、抄造工程において抄紙体の含水率が10%以下まで乾燥された抄紙体の表面に対して表面の粗さまたは平面度などの平滑性に関する調整のために行われる研磨加工または他の物体との間で摩擦接触を受けていない状態である。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記抄紙体において、平滑面の算術平均高さSaが2μm以下であり、かつ極点高さSxpが4μm以下であることにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、抄紙体は、平滑面の算術平均高さSaが2μm以下であり、かつ極点高さSxpが4μm以下に形成されているため、製造工程における研磨作業などの製造負担を軽減することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記抄紙体において、抄紙体は、熱硬化性樹脂が含侵されており、平滑面が他の物体と摩擦する摩擦摺動面を構成する摩擦材であることにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、抄紙体は、抄紙体に熱硬化性樹脂が含侵されており、平滑面が他の物体と摩擦する摩擦摺動面を構成する摩擦材であるため、摩擦材の製造負担を軽減することができる。
【0012】
また、本発明は、抄紙体の発明として実施できるばかりでなく、この抄紙体を備える摩擦プレート、この摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、この抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法の発明としても実施できるものである。
【0013】
具体的には、摩擦プレートは、請求項3に記載された抄紙体と、平板環状に形成された芯金とを備え、抄紙体は、芯金の周方向に沿って設けられているとよい。これによれば、摩擦プレートは、前記抄紙体と同様の作用効果を期待することができる。
【0014】
また、多板クラッチ装置は、請求項4に記載した複数の摩擦プレートと、複数の摩擦プレートに対してそれぞれ押し当てまたは離隔される平板環状の複数のセパレータプレートとを備えるとよい。これによれば、多板クラッチ装置は、前記抄紙体と同様の作用効果を期待することができる。
【0015】
また、抄紙体の製造装置は、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体の製造装置であって、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方を含むスラリー状の原料を濾したシート状の繊維基材を支持する平滑ベルトと、平滑ベルトに支持された繊維基材を押圧する押圧体とを備え、平滑ベルトは、繊維基材を支持する支持表面が液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されているとよい。ここで、平滑な面とは、少なくとも人の爪が引っ掛からない程度の滑らかな面である。これによれば、抄紙体の製造装置は、前記抄紙体と同様の作用効果を期待することができる。
【0016】
この場合、抄紙体の製造装置は、平滑ベルトは、支持表面の算術平均高さSaが0.03μm以下であり、かつ極点高さSxpが0.07μm以下の平滑な面に形成されているとよい。これによれば、抄紙体の製造装置は、抄紙体に高精度な平滑面を形成することができる。
【0017】
この場合、抄紙体の製造装置は、さらに、平滑ベルトに支持された繊維基材の水分を除去する水分除去装置を備えるとよい。これによれば、抄紙体の製造装置は、繊維基材に含まれる水分を強制的に除去することができる。
【0018】
また、これらの場合、抄紙体の製造装置は、平滑ベルトは、支持表面が下方に向いた姿勢で繊維基材を支持するとよい。これによれば、抄紙体の製造装置は、繊維基材を下方に向けて支持することで繊維基材に含まれる水分を自然落下によって除去することもできる。
【0019】
また、抄紙体の製造方法は、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方が絡み合う集合で構成された抄紙体の製造方法であって、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方を含むスラリー状の原料を濾してシート状の繊維基材を平滑ベルトに支持させる工程と、平滑ベルトに支持された繊維基材を押圧体によって押圧する工程とを含み、平滑ベルトは、繊維基材を支持する支持表面が液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されているとよい。これによれば、抄紙体の製造方法は、前記抄紙体と同様の作用効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置の全体構成を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す多板クラッチ装置内に組み込まれる本発明の一実施形態に係る摩擦プレートの外観の概略を示す平面図である。
【
図3】
図2に示す摩擦材を構成する抄紙体の主要な製造工程を模式的に示す説明図である。
【
図4】(A)~(F)は、
図2に示す摩擦材、従来の摩擦材であって表面の研磨加工を行っている摩擦材および従来の摩擦材であって表面の研磨加工を行っていない摩擦材の3種類の摩擦材の各一部の写真画像および三次元測定画像をそれぞれ示しており、(A)は
図2に示す摩擦材の写真画像であり、(B)は(A)に示す摩擦材の三次元測定画像であり、(C)は従来の摩擦材(研磨有り)の写真画像であり、(D)は(C)に示す従来の摩擦材(研磨有り)の三次元測定画像であり、(E)は従来の摩擦材(研磨無し)の写真画像であり、(F)は(E)に示す従来の摩擦材(研磨無し)の三次元測定画像である。
【
図5】
図4(A)~(F)に示した3つの種類の摩擦材をそれぞれ16枚ずつ用意して
図4(B),(D),(F)に示した三次元測定を行った結果に基づいて算術平均高さSaをグラフ化したものである。
【
図6】
図4(A)~(F)に示した3つの種類の摩擦材をそれぞれ16枚ずつ用意して
図4(B),(D),(F)に示した三次元測定を行った結果に基づいて極点高さSxpをグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る抄紙体、同抄紙体を備える摩擦プレート、同摩擦プレートを備えた多板クラッチ装置、同抄紙体の製造装置および同抄紙体の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る摩擦プレート200を備えた多板クラッチ装置100の全体構成の概略を示す断面図である。この多板クラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達または遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
【0022】
(多板クラッチ装置100の構成)
多板クラッチ装置100は、アルミニウム合金製のハウジング101を備えている。ハウジング101は、有底円筒状に形成されており、多板クラッチ装置100の筐体の一部を構成する部材である。このハウジング101における図示左側側面には、入力ギア102がトルクダンパ102aを介してリベット102bによって固着されている。入力ギア102は、エンジンの駆動により回転駆動する図示しない駆動ギアと噛合って回転駆動する。ハウジング101における内周面には、複数枚(本実施形態においては8枚)のセパレータプレート103がハウジング101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同ハウジング101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。
【0023】
セパレータプレート103は、後述する摩擦プレート200に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。この場合、セパレータプレート103の外周部には、前記ハウジング101の内周面に形成された内歯状のスプラインに嵌合する外歯状のスプラインが形成されている。これらのセパレータプレート103における各両側面(表裏面)には、後述する潤滑油を保持するための深さ数μm~数十μmの図示しない油溝が形成されている。また、セパレータプレート103における油溝が形成された各両側面(表裏面)には、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。なお、セパレータプレート103におけるこれらの油溝および表面硬化処理は省略されていてもよいものであり、本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。
【0024】
ハウジング101の内部には、略円筒状に形成された摩擦板ホルダ104がハウジング101と同心で配置されている。この摩擦板ホルダ104の内周面には、摩擦板ホルダ104の軸線方向に沿って多数のスプライン溝が形成されており、同スプライン溝にシャフト105がスプライン勘合している。シャフト105は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示右側)の端部側がニードルベアリング105aを介して入力ギア102およびハウジング101を回転自在に支持するとともに、前記スプライン勘合する摩擦板ホルダ104をナット105bを介して固定的に支持する。すなわち、摩擦板ホルダ104は、シャフト105とともに一体的に回転する。一方、シャフト105における他方(図示左側)の端部は、二輪自動車における図示しない変速機に連結されている。
【0025】
シャフト105の中空部には、軸状のプッシュロッド106がシャフト105における前記一方(図示右側)の端部から突出した状態で貫通して配置されている。プッシュロッド106は、シャフト105における一方(図示右側)の端部から突出した端部の反対側(図示左側)が二輪自動車における図示しないクラッチ操作レバーに連結されており、同クラッチ操作レバーの操作によってシャフト105の中空部内をシャフト105の軸線方向に沿って摺動する。
【0026】
摩擦板ホルダ104の外周面には、複数枚(本実施形態においては7枚)の摩擦プレート200が前記セパレータプレート103を挟んだ状態で、摩擦板ホルダ104の軸線方向に沿って変位可能、かつ同摩擦板ホルダ104と一体回転可能な状態でスプライン嵌合によってそれぞれ保持されている。
【0027】
一方、摩擦板ホルダ104の内部には、所定量の潤滑油(図示しない)が充填されているとともに、3つの筒状支持柱104aがそれぞれ形成されている(図においては1つのみ示す)。潤滑油は、摩擦プレート200とセパレータプレート103との間に供給されてこれらの摩擦プレート200とセパレータプレート103との間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材210の摩耗を防止する。
【0028】
また、3つの筒状支持柱104aは、摩擦板ホルダ104の軸線方向外側(図示右側)に向って突出した状態でそれぞれ形成されており、摩擦板ホルダ104と同心の位置に配置された押圧カバー107がボルト108a,受け板108bおよびコイルバネ108cを介してそれぞれ組み付けられている。押圧カバー107は、摩擦プレート200の外径と略同じ大きさの外径の略円板状に形成されており、前記コイルバネ108cによって摩擦板ホルダ104側に押圧されている。また、押圧カバー107の内側中心部には、プッシュロッド106における図示右側先端部に対向する位置にレリーズベアリング107aが設けられている。
【0029】
(摩擦プレート200の構成)
摩擦プレート200は、詳しくは
図2に示すように、平板環状の芯金201上に油溝203および摩擦材210をそれぞれ備えて構成されている。芯金201は、摩擦プレート200の基部となる部材であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を略環状に打ち抜いて成形されている。この場合、芯金201の内周部には、摩擦板ホルダ104とスプライン勘合させるための内歯状のスプライン202が形成されている。
【0030】
この摩擦プレート200における前記セパレータプレート103に対向する側面、すなわち、芯金201におけるセパレータプレート103に対向する側面には、複数(本実施形態においては32枚)の小片状の摩擦材210が芯金201の周方向に沿って隙間からなる油溝203を介してそれぞれ設けられている。
【0031】
油溝203は、摩擦プレート200の芯金201の内周縁と外周縁との間で潤滑油を導く流路であるとともに摩擦プレート200とセパレータプレート103との間に潤滑油を存在させておくためのオイル保持部でもある。この油溝203は、小片状の複数の摩擦材210の各間にそれぞれ径方向に沿って延びる直線状に延びて形成されている。
【0032】
摩擦材210は、前記セパレータプレート103に対する摩擦力を向上させるものであり、シート状の抄紙体211に熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させた紙材で構成されている。この場合、摩擦材210の表面は、セパレータプレート103と摩擦接触する平滑な摩擦摺動面210aとして形成されている。より具体的には、摩擦摺動面210aは、表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑な面に形成されている。この場合、摩擦摺動面210aは、算術平均高さSaが2μm以下であり、かつ極点高さSxpが4μm以下であることが好ましい。
【0033】
ここで、抄紙体211は、有機繊維および無機繊維のうちの少なくとも一方の繊維が絡み合う集合体に充填材を添加して構成されている。ここで有機繊維としては、木材パルプ、合成パルプ、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、炭素繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維およびセルロース繊維などを一種または複数種で構成することができる。また、無機繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維および金属繊維などを一種または複数種で構成することができる。
【0034】
また、充填材は、摩擦調整剤および/または固体潤滑剤としての機能を発揮させるものであり、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化珪素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化珪素、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、ジルコニア、カシューダスト、ラバーダスト、珪藻土、グラファイト、タルク、カオリン、酸化マグネシウム、二硫化モリブデン、ニトリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンゴムおよびフッ素ゴムなどの一種または複数種で構成することができる。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂およびシリコーン樹脂などがある。
【0035】
この抄紙体211の2つの表面のうちの一方の表面は、表面の算術平均高さSaが2.5μm以下であり、かつ極点高さSxpが5μm以下の平滑面211aが形成されている。この場合、平滑面211aは、算術平均高さSaが2μm以下であり、かつ極点高さSxpが4μm以下であることが好ましい。すなわち、平滑面211aは、前記摩擦摺動面210aを構成する面である。
【0036】
(抄紙体211の製造方法)
次に、摩擦プレート200に貼り付けられた摩擦材210を構成する抄紙体211の製造方法について
図3を用いて説明する。この抄紙体211は、抄紙体製造装置300によって製造される。
【0037】
抄紙体製造装置300は、主として、フローボックス301、引出し搬送機構302、平滑ベルト搬送機構303、カバーベルト搬送機構305および脱水装置306a,306bをそれぞれ備えて構成されている。フローボックス301は、スラリー状の原料を濾して引出し搬送機構302に対してシート状の繊維基材Fを出力する機械装置である。ここで、スラリー状の原料とは、抄紙体211の原料であって水の中に前記有機繊維および/または前記無機繊維、充填材および凝集剤を投入して撹拌したものである。このフローボックス301は、ヘッドボックスとも称される公知の機械装置である。
【0038】
引出し搬送機構302は、フローボックス301から排出された繊維基材Fをフローボックス301から離隔させて平滑ベルト搬送機構303に搬送するための機械装置であり、主として、引出し搬送ベルト302a、搬送ローラ302bおよび押圧ローラ302cをそれぞれ備えて構成されている。引出し搬送ベルト302aは、フローボックス301から排出された繊維基材Fを載置した状態で支持して搬送する部品であり、金属線を格子状に編んだ帯状体の両端部を連結した環状の無端ベルトで構成されている。ここで、以降、繊維基材Fにおいて、フローボックス301から排出されて引出し搬送ベルト302a上に載置される側の面を基材裏面Fuと称し、この基材裏面Fuの裏側の面であって最終的に抄紙体211の平滑面211aに加工される面を基材加工面Fkと称する。
【0039】
搬送ローラ302bは、環状の引出し搬送ベルト302aを無限軌道状に回転駆動させるための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。この搬送ローラ302bは、環状の引出し搬送ベルト302aの内側において押圧ローラ302cに対して対向配置されており、引出し搬送ベルト302aを水平方向に張っている。
【0040】
押圧ローラ302cは、環状の引出し搬送ベルト302aを無限軌道状に回転駆動させるとともに繊維基材Fを押圧するための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。この場合、押圧ローラ302cは、繊維基材Fを押圧する表面層がエラストマなどの弾性体で構成されている。
【0041】
この押圧ローラ302cは、環状の引出し搬送ベルト302aの内側において搬送ローラ302bに対して対向配置されており、引出し搬送ベルト302aを水平方向に張っている。また、押圧ローラ302cは、後述する押圧ローラ303aに対しても対向配置されておりこの押圧ローラ303aと協働して繊維基材Fを押圧する。なお、搬送ローラ302bおよび押圧ローラ302cは、少なくとも一方が電動機(図示せず)によって回転駆動することで引出し搬送ベルト302aに張力を加えた状態で回転駆動させる。
【0042】
平滑ベルト搬送機構303は、引出し搬送機構302から繊維基材Fを受け取って繊維基材Fを搬送しながら抄紙体211を成形していく機械装置である。この平滑ベルト搬送機構303は、主として、平滑ベルト304、押圧ローラ303a,303b,303cおよび10個の搬送ローラ303d1~10をそれぞれ備えて構成されている。
【0043】
平滑ベルト304は、繊維基材Fにおける2つの表面のうちの基材加工面Fkに平滑面211aを形成するための部品であり、平滑に延びる帯状体の両端部を連結した環状の無端ベルトで構成されている。具体的には、平滑ベルト304は、PETなどの樹脂繊維を編んだ帯状のベルト体にフッ素樹脂などの樹脂材を含侵させることで液体および気体が透過しない不透過性でかつ表面が平滑に形成されている。これにより、平滑ベルト304は、撓み変形可能な可撓性を有しつつ長手方向に伸縮しない非伸縮性を有して構成されている。
【0044】
また、この平滑ベルト304の表面、すなわち、支持表面304aおよびこの支持表面304aの裏側の面である裏面304bは、算術平均高さSaが0.03μm以下であり、かつ極点高さSxpが0.07μm以下の平滑な面に形成されている。本実施形態においては、支持表面304aおよび裏面304bは、算術平均高さSaが0.003μmであり、かつ極点高さSxpが0.008μm以下の平滑な面に形成されている。
【0045】
ここで、算術平均高さSaは、ISO25178に規定された表面粗さの高さパラメータであり、表面の平均値からの高さの絶対値の算術平均である。また、極点高さSxpは、ISO25178に規定された表面粗さの機能パラメータであり、負荷曲線におけるある負荷面積率p%(例えば、2.5%)と負荷面積率q%(例えば、50%)との高さの差分であり、表面の中で特に高い山を除外した後の表面の平均面と表面の山部の高さとの差である。
【0046】
押圧ローラ303a,303b,303cは、環状の平滑ベルト304を無限軌道状に回転駆動させるとともに繊維基材Fを押圧するための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。この場合、各押圧ローラ303a,303b,303cは、繊維基材Fを押圧する表面層がエラストマなどの弾性体で構成されている。これの押圧ローラ303a,303b,303cは、環状の平滑ベルト304の内側において押圧ローラ302c,305b,305cに対してそれぞれ対向配置されており、これらの各押圧ローラ302c,305b,305cと協働して繊維基材Fを押圧する。この場合、押圧ローラ303aは、押圧ローラ302cに対して上方側に配置されている。
【0047】
10個の搬送ローラ303d1~10は、環状の平滑ベルト304を無限軌道状に回転駆動させるための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。これらの各搬送ローラ303d1~10は、環状の平滑ベルト304の内側または外側に配置されて平滑ベルト304に張力を掛けている。また、押圧ローラ303aに対して平滑ベルト304の回転駆動方向の上流側に隣接する搬送ローラ303d1は、押圧ローラ303aよりも上方に配置されており、平滑ベルト304が搬送ローラ303d1から押圧ローラ303a側に向かって徐々に繊維基材Fに接近するように構成されている。
【0048】
なお、押圧ローラ303a,303b,303cおよび搬送ローラ303d1~10は、少なくとも一方が電動機(図示せず)によって回転駆動することで平滑ベルト304に張力を加えた状態で回転駆動させる。
【0049】
カバーベルト搬送機構305は、平滑ベルト304上に支持されている繊維基材Fに対してカバーベルト305aを被せるための機械装置であり、主として、カバーベルト305a、押圧ローラ305b,305cおよび5つの搬送ローラ305d1~5をそれぞれ備えて構成されている。
【0050】
カバーベルト305aは、繊維基材Fにおける2つの表面のうちの基材裏面Fuに被せられる部品であり、通気性を有する帯状体の両端部を連結した環状の無端ベルトで構成されている。具体的には、カバーベルト305aは、フェルト生地で構成されている。なお、
図3においては、カバーベルト305aの図示を明確にするために繊維基材Fに密着しない状態で示している。
【0051】
押圧ローラ305b,305cは、環状のカバーベルト305aを無限軌道状に回転駆動させるとともにカバーベルト305aを介して繊維基材Fを押圧するための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。この場合、各押圧ローラ305b,305cは、繊維基材Fを押圧する表面層がエラストマなどの弾性体で構成されている。また、押圧ローラ305cは、加熱した状態で繊維基材Fを押圧することで繊維基材Fの含水率を減少させる。これらの押圧ローラ305b,305cは、環状のカバーベルト305aの内側において押圧ローラ303b,303cに対してそれぞれ対向配置されており、これらの各押圧ローラ303b,303cと協働してカバーベルト305aを介して繊維基材Fを押圧する。
【0052】
5つの搬送ローラ305d1~5は、環状のカバーベルト305aを無限軌道状に回転駆動させるための部品であり、円柱状または円筒状に形成されている。これらの各搬送ローラ305d1~5は、環状のカバーベルト305aの内側または外側に配置されてカバーベルト305aに張力を掛けている。
【0053】
なお、押圧ローラ305b,305cおよび搬送ローラ305d1~5は、少なくとも一方が電動機(図示せず)によって回転駆動することでカバーベルト305aに張力を加えた状態で回転駆動させる。
【0054】
脱水装置306a,306bは、平滑ベルト304に支持されている繊維基材Fおよび平滑ベルト304自体からそれぞれ水分を除去するための機械装置であり、サクションボックスによって構成されている。ここで、サクションボックスは、繊維基材Fおよび平滑ベルト304にそれぞれ含まれている水分を負圧によって吸引して脱水する機械装置である。
【0055】
この場合、脱水装置306aは、平滑ベルト304に支持されている繊維基材Fの水分をカバーベルト305aを介して除去するものであり、押圧ローラ305bと押圧ローラ305cとの間のカバーベルト305aの内側に配置されている。また、脱水装置306bは、平滑ベルト304の水分を除去するものであり、押圧ローラ305bと押圧ローラ305cとの間の平滑ベルト304の内側における脱水装置306aに対向する位置に配置されている。
【0056】
抄紙体211を製造する作業者は、抄紙体製造装置300を作動させる。これにより、抄紙体製造装置300は、抄紙体211の製造を開始する。具体的には、抄紙体製造装置300は、フローボックス301、引出し搬送機構302、平滑ベルト搬送機構303、カバーベルト搬送機構305および脱水装置306a,306bの各作動を開始させる。
【0057】
これにより、抄紙体製造装置300は、フローボックス301がシート状の繊維基材Fを引出し搬送ベルト302a上に出力させるとともに、引出し搬送機構302がシート状の繊維基材Fを押圧ローラ302c,303a側に水平状態で搬送する。この場合、引出し搬送ベルト302a上の繊維基材Fは、押圧ローラ302c,303a側に近づくに従って上方から平滑ベルト304が次第に接近してきた後、最終的に重ねられた状態で押圧ローラ302c,303aに移送される。
【0058】
押圧ローラ302c,303aに移送された繊維基材Fは、押圧ローラ302c,303aによって挟まれて押圧される。これにより、繊維基材Fは、内部に含まれる水分が押し出されて脱水されるとともに平滑ベルト304が密着する側の表面である基材加工面Fkが平滑ベルト304によって平滑に形成される。この場合、繊維基材Fは、含水率が概ね70%~60%まで低下する。
【0059】
また、繊維基材Fは、水分を有しているとともに平滑ベルト304が液体および気体が不透過性を有していることで平滑ベルト304の表面に密着する。このため、繊維基材Fは、押圧ローラ302c,303aの通過後は平滑ベルト304とともに平滑ベルト304に密着した状態で搬送ローラ303d2側に移送され、搬送ローラ303d2,303d3を介して305d1に移送される。そして、搬送ローラ305d1に移送された繊維基材Fは、搬送ローラ305d1に掛けられているカバーベルト305aが繊維基材Fの基材裏面Fu上に重ねられた状態で押圧ローラ303b,305bに移送される。
【0060】
押圧ローラ303b,305bに移送された繊維基材Fは、押圧ローラ303b,305bによって挟まれて押圧される。これにより、繊維基材Fは、基材裏面Fuにカバーベルト305aが密着する。また、繊維基材Fは、平滑ベルト304が密着する基材加工面Fkが平滑ベルト304によって平滑に形成される。なお、この場合、繊維基材Fは、押圧ローラ303b,305bによって挟まれて押圧されることで内部に含まれる水分が押し出されて脱水されることはあるが、この押圧ローラ303b,305bは繊維基材Fの含水率を大きく低下させることを目的とするものではないため、繊維基材Fの含水率は概ね70%~60%の範囲が維持される。
【0061】
平滑ベルト304とカバーベルト305aとで挟まれた状態の繊維基材Fは、脱水装置306a,306bを通過することで脱水処理が行われる。この場合、脱水装置306aは繊維基材Fの水分をカバーベルト305aを介して除去し、脱水装置306bは平滑ベルト304の水分を除去する。これにより、繊維基材Fは、含水率が概ね60%~50%まで低下する。脱水装置306a,306bを通過した繊維基材Fは、押圧ローラ303c,305cに移送される。
【0062】
押圧ローラ303c,305cに移送された繊維基材Fは、押圧ローラ303c,305cによって挟まれて押圧される。これにより、繊維基材Fは、内部に含まれる水分が押し出されて脱水されるとともに平滑ベルト304が密着する基材加工面Fkが平滑ベルト304によって平滑に形成されて平滑面211aが形成される。この場合、繊維基材Fは、含水率が概ね10%以下まで低下する。この場合、繊維基材Fの含水率は、3%以上が好ましい。すなわち、繊維基材Fは、押圧ローラ303c,305cを通過することで抄紙体211として完成する。
【0063】
押圧ローラ303c,305cを通過した抄紙体211は、押圧ローラ303c,305cを通過する際にカバーベルト305aが剥がされて搬送ローラ303d4に移送される。そして、搬送ローラ303d4に移送された抄紙体211は、平滑ベルト304が剥がされて巻き取り装置(図示せず)に巻き取られて抄紙体211の製造作業が終了する。一方、抄紙体211が剥がされた平滑ベルト304は、搬送ローラ303d5~303d10を介して再び搬送ローラ303d1に移動して再び抄紙体211の製造に用いられる。
【0064】
(摩擦材210および摩擦プレート200の製造方法)
次に、摩擦プレート200に貼り付けられた摩擦材210および摩擦プレート200の製造方法について説明する。この摩擦材210は、前記した抄紙体211を原材料として製造される。
【0065】
具体的には、作業者は、含水率が10%以下まで乾燥させたシート状の抄紙体211に熱硬化性樹脂を含浸させた後、この抄紙体211を加熱しつつプレスして熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、作業者は、抄紙体211における平滑面211aを摩擦摺動面210aとして使用するこができる摩擦材210を製造することができる。
【0066】
次に、作業者は、摩擦材210の貼付工程を実施する。具体的には、作業者は、別工程のプレス加工などの機械加工で製作した芯金201の表面に摩擦材210の小片を周方向に沿って接着剤を用いて貼り付ける。この場合、作業者は、抄紙体211における平滑面211aの裏面を芯金201の表面に貼り付けることで平滑面211aを摩擦摺動面とすることができる。
【0067】
また、これらの場合、作業者は、予め小片状に切断した摩擦材210を芯金201に貼り付けてもよいし、芯金201に貼り付ける際に摩擦材210を小片状に切断することもできる。これにより、作業者は、芯金201の両面に周方向に沿って油溝203を介して小片状の摩擦材210が貼り付けられた摩擦プレート200を製造することができる。なお、摩擦プレート200の製造工程においては、上記した以外の機械加工工程、摩擦特性の調整工程および検査工程などがあるが、本発明に直接関わらないためそれらの説明は省略する。
【0068】
ここで、本発明者らによる抄紙体211の表面における算術平均高さSaおよび極点高さSxpの各測定結果について説明しておく。
図4(A)~(F)は、上記した抄紙体の製造方法、摩擦材210および摩擦プレート200の製造方法で製造した摩擦材210、従来の抄紙体の製造方法、摩擦材および摩擦プレートの製造方法で製造した摩擦材(研磨無し)およびこの摩擦材の表面を研磨して平滑面とした摩擦材(研磨有り)の3つの摩擦材の各表面の写真画像および三次元測定画像(株式会社キーエンス社製3D測定マイクロスコープVR-3000)である。この場合、三次元測定画像は、前記した3つの各摩擦材の各表面の高さを色の違いで表現した画像をグレースケール画像に変換したものである。また、
図5および
図6は、前記した3つの各摩擦材の各表面に対して算術平均高さSaおよび極点高さSxpについて測定した結果である。
【0069】
ここで、従来の抄紙体の製造方法は、例えば、特開平8-188656または特開2020-79648に開示されているように、引出し搬送ベルト302aのような金網状の搬送ベルト上に繊維基材Fを載置した搬送過程においてローラで押圧することで抄紙体を製造する方法である。また、従来の摩擦材および摩擦プレートの製造方法は、上記した摩擦材210および摩擦プレート200の製造方法と実質的に同じ方法である。なお、従来の摩擦材(研磨無し)における摩擦摺動面は抄紙体の製造工程において金網状の搬送ベルトに載置された面であり、従来の摩擦材(研磨有り)における摩擦摺動面は従来の摩擦材(研磨無し)における摩擦摺動面を研磨した面である。また、本発明に係る摩擦材210と、従来の摩擦材(研磨無し)および従来の摩擦材(研磨有り)とは摩擦材表面の気孔率および気孔径に顕著な差はなく実質的に同じと言える。
【0070】
図5に示す測定結果によれば、本発明に係る摩擦材210(抄紙体211)は、算術平均高さSaの平均値が1.9μmであり、従来の摩擦材(研磨無し)の算術平均高さSaの平均値が(2.9μm)および従来の摩擦材(研磨有り)の算術平均高さSaの平均値が(1.4μm)と比較すると、従来の摩擦材(研磨無し)に対して摩擦摺動面の平滑度が優位である。また、本発明に係る摩擦材210(抄紙体211)は、従来の摩擦材(研磨無し)および従来の摩擦材(研磨有り)に対して摩擦摺動面の平滑度のバラツキが少なく製造効率が優位である。なお、従来の摩擦材(研磨有り)の算術平均高さSaの平均値が本発明に係る摩擦材210(抄紙体211)の算術平均高さSaの平均値よりも低い理由は、従来の摩擦材(研磨有り)は表面が研磨加工されているからである。
【0071】
また、
図6に示す測定結果によれば、本発明に係る摩擦材210(抄紙体211)は、極点高さSxpの平均値が3.7μmであり、従来の摩擦材(研磨無し)の極点高さSxpの平均値(4.8μm)および従来の摩擦材(研磨有り)の極点高さSxpの平均値(7.5μm)と比較すると、従来の摩擦材(研磨無し)および従来の摩擦材(研磨有り)に対して摩擦摺動面の平滑度が優位である。なお、従来の摩擦材(研磨有り)の極点高さSxpの平均値のバラツキが大きい理由は、研磨加工によって摩擦材の表層の繊維の一部が表面から立ち上がる所謂毛羽立ちが生じているためである。
【0072】
(摩擦プレート200の作動)
次に、上記のように構成した摩擦プレート200の作動について説明する。この摩擦プレート200は、前記したように多板クラッチ装置100内に組み付けられて用いられる。そして、この多板クラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の操作者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
【0073】
すなわち、車両の操作者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作してプッシュロッド106を後退(図示左側に変位)させた場合には、プッシュロッド106の先端部がレリーズベアリング107aを押圧しない状態となり、押圧カバー107がコイルバネ108cの弾性力によってセパレータプレート103を押圧する。これにより、セパレータプレート103および摩擦プレート200は、摩擦板ホルダ104の外周面にフランジ状に形成された受け部104b側に変位しつつ互いに押し当てられて摩擦連結された状態となる。この結果、入力ギア102に伝達されたエンジンの駆動力がセパレータプレート103、摩擦プレート200、摩擦板ホルダ104およびシャフト105を介して変速機に伝達される。
【0074】
一方、車両の操作者がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作してプッシュロッド106を前進(図示右側に変位)させた場合には、プッシュロッド106の先端部がレリーズベアリング107aを押圧する状態となり、押圧カバー107がコイルバネ108cの弾性力に抗しながら図示右側に変位して押圧カバー107とセパレータプレート103とが離隔する。これにより、セパレータプレート103および摩擦プレート200は、押圧カバー107側に変位しつつ互いに押し当てられて連結された状態が解除されて互いに離隔する。この結果、セパレータプレート103から摩擦プレート200への駆動力の伝達が行われなくなり、入力ギア102に伝達されたエンジンの駆動力の変速機への伝達が遮断される。
【0075】
このセパレータプレート103と摩擦プレート200とが摩擦接触したクラッチON状態においては、摩擦プレート200は摩擦摺動面210aがセパレータプレート103に押し付けられて摩擦接触する。この場合、摩擦摺動面210aは、算術平均高さSaが1.9μm程度かつ極点高さSxpが3.7μm程度の平滑面に形成されているため、セパレータプレート103に対して精度よく安定した状態で密着することができ良好な摩擦特性を得ることができる。
【0076】
また、セパレータプレート103と摩擦プレート200とが離隔したクラッチOFF状態においては、摩擦プレート200は摩擦摺動面210aがセパレータプレート103に対して離隔する。この場合、摩擦摺動面210aは、前記した平滑面に形成されているため、僅かな変位でもセパレータプレート103に対して精度よく離隔して潤滑油を精度良く引き込むことで良好な駆動力の遮断特性を得ることができる。
【0077】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、抄紙体211は、表面が擦れ接触を受けていない状態であって同表面の算術平均高さSaが1.9μmであり、かつ極点高さSxpが3.7μmの平滑面211aを有して構成されているため、製造工程における研磨作業などの製造負担を軽減することができる。また、この抄紙体211で構成された摩擦プレート200によって良好な摩擦特性および駆動力の遮断特性を得ることができる。
【0078】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態における摩擦プレート200と同様の構成部分には摩擦プレート200に付した符号に対応する符号を付して、その説明は省略する。
【0079】
例えば、上記実施形態においては、抄紙体211は、平滑面211aを算術平均高さSaが1.9μmであり、かつ極点高さSxpが3.7μmに形成した。しかし、本発明者らの実験によれば、平滑面211aは、算術平均高さSaが2.5μm以下でかつ極点高さSxpが5μm以下がよく、より好ましくは算術平均高さSaが2μm以下でかつ極点高さSxpが4μm以下が好適である。なお、平滑面211aにおける算術平均高さSaおよび極点高さSxpの各下限は特に限定されないが、生産性を考慮すれば、算術平均高さSaが1μm以上かつ極点高さSxpが3μm以上が好ましい。
【0080】
また、上記実施形態においては、平滑ベルト304は、支持表面304aおよび裏面304bを算術平均高さSaが0.003μmであり、かつ極点高さSxpが0.008μmに形成した。しかし、平滑ベルト304は、少なくとも支持表面304aが液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されていればよい。この場合、本発明者らの実験によれば、支持表面304aは、算術平均高さSaが0.02μm以下でかつ極点高さSxpが0.05μm以下がよく、より好ましくは算術平均高さSaが0.01μm以下でかつ極点高さSxpが0.01μm以下が好適である。なお、支持表面304aにおける算術平均高さSaおよび極点高さSxpの各下限は特に限定されないが、生産性を考慮すれば、算術平均高さSaが0.001μm以上かつ極点高さSxpが0.005μm以上が好ましい。
【0081】
また、上記実施形態においては、平滑ベルト304は、樹脂材で構成した。しかし、平滑ベルト304は、少なくとも支持表面304aが液体および気体を透過させない不透過性を有する平滑な面に形成されていればよい。したがって、平滑ベルト304は、例えば、金属製の薄板で構成することもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、平滑ベルト304は、引出し搬送ベルト302aに対向する領域において支持表面304aが下方を向くように配置した。これにより、平滑ベルト304は、繊維基材Fを下方に向けた姿勢で支持することで繊維基材Fに含まれる水分を効果的に除去することができる。しかし、平滑ベルト304は、支持表面304aが上方を向くように配置することもできる。
【0083】
また、上記実施形態においては、抄紙体211を製造する抄紙体製造装置300は、押圧ローラ302cと押圧ローラ303a、押圧ローラ303bと押圧ローラ305bおよび押圧ローラ303cと押圧ローラ305cの3対の押圧ローラによって繊維基材Fを平滑ベルト304に押圧して平滑面211aを形成した。すなわち、これら3対の押圧ローラが本発明に係る押圧体に相当する。しかし、抄紙体製造装置300は、少なくとも1つの押圧体を備えて構成されていればよい。この場合、押圧体は、押圧ローラに代えてまたは加えて、金属製、樹脂製またはセラミック製の板状体で繊維基材Fを押圧するように構成することもできる。
【0084】
また、上記実施形態においては、抄紙体製造装置300は、押圧ローラ302cと押圧ローラ303a、押圧ローラ303bと押圧ローラ305b、押圧ローラ303cと押圧ローラ305cおよび脱水装置306a,306bを備えて構成した。すなわち、これらの押圧ローラ302cと押圧ローラ303a、押圧ローラ303bと押圧ローラ305b、押圧ローラ303cと押圧ローラ305cおよび脱水装置306a,306bが本発明に係る水分除去装置に相当する。この場合、水分除去装置は、繊維基材Fに含まれる水分を減少させることができればよく、押圧ローラまたはサクションボックス以外の装置で構成することもできる。また、脱水装置306bは、平滑ベルト304の表面に付着している水分を除去するためのものであるため、省略することもできる。
【0085】
また、上記実施形態においては、抄紙体製造装置300は、カバーベルト搬送機構305を備えて構成した。これにより、抄紙体製造装置300は、抄紙体211にカバーベルト305aが被せられることで精度良く脱水を行うことができる。しかし、抄紙体製造装置300は、サクションボックスを用いない場合にはカバーベルト搬送機構305を省略して構成することもできる。また、カバーベルト305aについてもフェルト以外の生地を用いることもできる。
【0086】
また、上記実施形態においては、摩擦材210は、略長方形状および略扇形状の2つの形状で構成した。しかし、摩擦材210の形状は、特に限定されるものではなく、略長方形状または略扇形状以外の形状を単体でまたは複数種類の形状を含んで構成されていてもよいことは当然である。
【0087】
また、上記実施形態においては、摩擦プレート200は、シャフト105と一体的に回転駆動する摩擦板ホルダ104に保持されている。すなわち、摩擦プレート200は、エンジンの回転駆動力によって回転駆動するセパレータプレート103に対向配置されて多板クラッチ装置100における出力軸であるシャフト105と一体的に回転駆動する対向側プレートに適用した。しかし、摩擦プレート200は、エンジンの回転駆動力によって回転駆動する駆動側プレートとしてのセパレータプレート103に適用することもできる。
【0088】
また、上記実施形態においては、本発明に係る摩擦プレートを二輪自動車における湿式の多板クラッチ装置100に用いられる摩擦プレート200に適用した例について説明した。しかし、本発明に係る摩擦プレートは、潤滑油を用いない乾式の摩擦プレートであってもよい。また、本発明に係る摩擦プレートは、四輪自動車における多板クラッチ装置に適用することもできる。この場合、本発明に係る摩擦プレートは、オートマティックトランスミッションにも適用できることは当然である。また、本発明に係る摩擦プレートは、多板クラッチ装置100ほかに、原動機による回転運動を制動するブレーキ装置に用いられる摩擦プレートにも適用できるものである。
【0089】
また、上記実施形態においては、本発明に係る抄紙体を多板クラッチ装置100に用いられる摩擦プレート200に適用した例について説明した。しかし、本発明に係る抄紙体は、摩擦材以外にもフィルタまたはセラミック紙としても使用することができる。
【符号の説明】
【0090】
F…繊維基材、Fk…基材加工面、Fu…基材裏面、
100…多板クラッチ装置、101…ハウジング、102…入力ギア、102a…トルクダンパ、102b…リベット、103…セパレータプレート、104…摩擦板ホルダ、104a…筒状支持柱、104b…受け部、105…シャフト、105a…ニードルベアリング、105b…ナット、106…プッシュロッド、107…押圧カバー、107a…レリーズベアリング、108a…ボルト、108b…受け板、108c…コイルバネ、
200…摩擦プレート、201…芯金、202…スプライン、203…油溝、
210…摩擦材、210a…摩擦摺動面、211…抄紙体、211a…平滑面、
300…抄紙体製造装置、301…フローボックス、302…引出し搬送機構、302a…引出し搬送ベルト、302b…搬送ローラ、302c…押圧ローラ、
303…平滑ベルト搬送機構、303a,303b,303c…押圧ローラ、303d1~303d10…搬送ローラ、
304…平滑ベルト、304a…支持表面、304b…裏面、
305…カバーベルト搬送機構、305a…カバーベルト、305b,305c…押圧ローラ、305d1~305d5…搬送ローラ、
306a,306b…脱水装置。