(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185191
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】排水パイプ及びそれを用いた工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02D17/20 104B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092701
(22)【出願日】2021-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月8日に、論文「吹付法面に適用する水抜きパイプの基礎的な検討」が、第56回地盤工学研究発表会で発表される論文として、社団法人地盤工学会に提出された。
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391047514
【氏名又は名称】緑興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390025243
【氏名又は名称】ポップリベット・ファスナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】巴 直人
(72)【発明者】
【氏名】内田 涼介
(72)【発明者】
【氏名】細澤 太郎
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DC04
2D044EA03
(57)【要約】
【課題】地山からの排水効率が高く、施工性が良好な吹付工法及びそれに用いられる排水パイプの提供。
【解決手段】本発明の排水パイプ(1)は、一端部(自由端1E:施工の際に地山Gとは反対側の端部)に複数の第1の突起(1A)が形成され、第1の突起(1A)とは最大径寸法が異なる複数の第2の突起(1B)が、第1の突起(1A)が形成されている一端部(自由端1E)よりも他端側(地山G側端部の側)の領域に形成されており、第2の突起(1B)が形成されている領域よりも前記他端側(地山G側)の領域には集水用の貫通孔(1C)が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向外方に延在する突起と、集水用の貫通孔が形成されていることを特徴とする排水パイプ。
【請求項2】
一端部に複数の第1の突起が形成され、
第1の突起とは最大径寸法が異なる複数の第2の突起が、第1の突起が形成されている一端部よりも他端側の領域に形成されており、
第2の突起が形成されている領域よりも他端側の領域には集水用の貫通孔が形成されていることを特徴とする排水パイプ。
【請求項3】
第1の突起は第2の突起よりも最大径が大きく設定されている請求項2の排水パイプ。
【請求項4】
前記集水用の貫通孔は、排水パイプが施工された際に上方となる領域に形成されている請求項1~3の何れか1項の排水パイプ
【請求項5】
排水パイプが施工された際に上方となる方向に、排水パイプの長手方向に延在する第3の突起が形成されている請求項2~4の何れか1項の排水パイプ。
【請求項6】
隣接する第1の突起の間の領域が、本体部と半径方向外方に延在する複数の突出部を有する支持部材により保持される請求項1~5の何れか1項の排水パイプ。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項の排水パイプを用いる工法であって、
モルタル層に、地山に到達する孔を削孔する工程と、
当該孔に前記排水パイプを挿入する工程を有することを特徴とする工法。
【請求項8】
請求項1~5の何れか1項の排水パイプを用いる吹付工法であって、
斜面に吹き付けられたモルタルが硬化した後に、前記排水パイプを挿入するための孔を硬化したモルタル層に削孔する工程と、
前記排水パイプの第1の突起或いは第2の突起は前記排水パイプを挿入するための孔に嵌合されて、前記排水パイプが固定される工程を有することを特徴とする工法。
【請求項9】
斜面に既に吹き付けられて固化している既存のモルタル層に新たに吹付材を吹き付ける工程を有する請求項8の何れかの工法。
【請求項10】
既存のモルタル層と地山に前記排水パイプを挿入するための孔を削孔する工程と、
削孔された孔に前記排水パイプを挿入する工程を含み、
前記削孔された孔の内径は、前記排水パイプにおける第2の突起の最大外径に等しく、挿入された排水パイプの第2の突起が削孔された孔と嵌合して、排水パイプが削孔された孔に固定され、
排水パイプが既存のモルタル層で固定された後、新たに吹付材を吹き付ける工程を有する請求項8の工法。
【請求項11】
既存のモルタル層を有する地山に新たに吹付材を吹き付ける工程と、
新たに吹き付けられたモルタルが固化した後に、重ね吹付されたモルタル層、既存のモルタル吹付層、地山に前記排水パイプを挿入するための孔を削孔する工程を含み、
前記削孔された孔の内径は、前記排水パイプにおける第1の突起の最大外径に等しく、挿入された排水パイプの第1の突起が削孔された孔と嵌合して、排水パイプが削孔された孔に固定される請求項8の工法。
【請求項12】
請求項1~5の何れか1項の排水パイプを用いる工法において、
モルタル層に配置されている既存の水抜きパイプの内側に地山に到達する孔を削孔する工程と、
当該孔に請求項1~5の何れか1項の排水パイプを挿入して固定する工程を有することを特徴とする工法。
【請求項13】
前記挿入して固定する工程では、
前記排水パイプの地山から離隔した側の領域を、前記支持部材の本体部により支持し、
前記本体部に排水パイプを保持した前記支持部材を前記水抜きパイプ内に配置し、前記支持部材の前記突出部を前記水抜きパイプの内周面に接触させることにより、前記支持部材を前記水抜きパイプの内側に保持する請求項12の工法。
【請求項14】
前記排水パイプは、一端部に複数の第1の突起が形成され、複数の第2の突起が第1の突起が形成されている一端部よりも他端側の領域に形成されており、
前記支持部材の本体部は、隣接する第1の突起間の領域を支持する請求項13の吹付工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山斜面の崩落等を防止して安定化するため、当該斜面に設置される排水パイプと、その排水パイプを用いた工法(吹付材料を噴射する吹付工法等)に関する。ここで、排水パイプは、地山中の水を排出するためのパイプである。
【背景技術】
【0002】
従来の吹付工法を示す
図30において、斜面を有する地山Gの崩落を防止するために、地山Gの法面に図示しない金網を敷設し、その上にモルタルを吹き付けて、吹付モルタル層Mを形成している。
図30で示す様に、吹付モルタル層Mが削孔され、削孔された孔Hに水抜きパイプ11が挿入されている。ここで、水抜きパイプ11とは、水抜孔を作るためのパイプである。
水抜きパイプ11内の水が自重により流出する様に(矢印PW)、吹付モルタル層Mに削孔された孔H(水抜きパイプ11が挿入される孔)は地山Gに向かって斜め上方に削孔される。換言すると、水抜きパイプ11は、地山Gから空中に向かって(
図30では、右から左に向かって)水平方向に対して斜め下に向かう様に延在している。
前記孔Hは、吹付モルタル層Mが固化した後に削孔される。
【0003】
図30において、水抜きパイプ11の地山G側端部11E(
図30では右端)は、地山Gの法面と概略平行になる様に加工されている。
従来技術では、慣例的に、吹付工法を施工する斜面2m
2~4m
2当たり水抜きパイプが1本配置される。
【0004】
従来技術で用いられる水抜きパイプ11は例えば外径60mmであるが、その様な比較的大径の水抜きパイプ11が挿入される孔Hを削孔するためには、φ60mm以上のコアドリルで固化したモルタル層Mを削孔しなければならない。そのため、孔Hを削孔する作業は施工性が悪く、且つ、作業者に不安定な姿勢を強いる不安全行動となる。
また、水抜きパイプ11は吹付モルタル層M内にしか配置されていないので、地山Gの内部を流れる地下水を排水することは出来ない。
さらに、従来技術では2m2~4m2に水抜きパイプ11を1本配置していたが、植物や木の根が侵入して水抜きパイプ11を閉塞する場合がある。
【0005】
その他の従来技術として、地山内部の地下水を排水して、崩落等を防止する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、係る従来技術(特許文献1)は、上述した問題を解決することを意図してはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地山からの排水効率が高い排水パイプと、その様な排水パイプを用いる吹付工法であって、施工性が良好な工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排水パイプ(1、101)は、半径方向外方に延在する突起(1A、1B、101A)と、集水用の貫通孔(1C、101C)が形成されていることを特徴としている。
また本発明の排水パイプ(1)は、
一端部(自由端1E:施工の際に地山Gとは反対側の端部)に複数の第1の突起(1A)が形成され、
第1の突起(1A)とは最大径寸法が異なる複数の第2の突起(1B)が、第1の突起(1A)が形成されている一端部(自由端1E)よりも他端側(地山G側端部の側)の領域に形成されており、
第2の突起(1B)が形成されている領域よりも前記他端側(地山G側)の領域には集水用の貫通孔(1C)が形成されていることを特徴としている。
ここで、本発明の排水パイプ(1)の内径が(従来の水抜きパイプの内径1/2以下、或いは)30mm以下であるのが好ましい。
【0009】
本発明において、第1の突起(1A)は第2の突起(1B)よりも最大径が大きく設定されているのが好ましい。
また本発明において、前記集水用の貫通孔(1C)は、排水パイプ(1)が施工された際に上方となる領域に形成されているのが好ましい。
ここで、排水パイプ(1)が施工された際に上方となる方向に、排水パイプ(1)の長手方向に延在する第3の突起(1D)を形成されているのが好ましい。
【0010】
本発明の排水パイプ(1)は、隣接する第1の突起(1A)の間の領域が、
(例えば切欠き部4Bを有する概略中空円筒状の)本体部(4A)と半径方向外方に延在する複数の突出部(4C)を有する支持部材(4)により保持されるのが好ましい。
【0011】
本発明の工法は、上述した排水パイプ(1:請求項1~5の何れか1項の排水パイプ)を用いる吹付工法であって、
(湧水量が多い箇所の)モルタル層(M)に、地山(G)に到達する孔(H)を削孔する工程と、
当該孔(H)に前記排水パイプ(1)を挿入する工程を有することを特徴としている。
また本発明の吹付工法は、上述した排水パイプ(1:請求項1~5の何れか1項の排水パイプ)を用いる吹付工法であって、
斜面に吹き付けられたモルタルが硬化した後に、前記排水パイプ(1)を挿入するための孔(H)を硬化したモルタル層(M)に削孔する工程と、
前記排水パイプ(1)の第1の突起(1A)或いは第2の突起(1B)が前記排水パイプ(1)を挿入するための孔(H)に嵌合され、前記排水パイプ(1)が固定される工程を有することを特徴としている。
本発明の工法において、前記排水パイプ(1)は、例えば2m2に1本以上、或いは、1m2に1本以上配置されるのが好ましい。
【0012】
また本発明の工法において、斜面に既に吹き付けられて固化している既存のモルタル層(M1:既設モルタル層)に新たに吹付材(例えばモルタル)を吹き付ける(重ね吹付を行う:新たなモルタル層M2を形成する)工程を有するのが好ましい。
その場合、既存のモルタル層(M1)と地山(G)に前記排水パイプ(1)を挿入するための孔(H1)を削孔する工程と、
削孔された孔(H1)に前記排水パイプ(1)を挿入する工程を含み、
前記削孔された孔(H1)の内径は、前記排水パイプ(1)における第2の突起(最大外径が小さい突起1B)の最大外径に等しく、挿入された排水パイプ(1)の第2の突起(1B)が削孔された孔(H1)と嵌合して(いわゆる「締り嵌め」となり)、排水パイプ(1)が削孔された孔(H1)に固定され、
排水パイプ(1)が既存のモルタル層(M1)で固定された後、新たに吹付材(例えばモルタル)を吹き付ける(重ね吹付を行う)工程を有するのが好ましい。
或いは、既存のモルタル層(M1:既設モルタル層)を有する地山(G)に新たに吹付材(例えばモルタル)を吹き付ける(重ね吹付を行う)工程と、
新たに吹き付けられた(重ね吹付された)モルタルが固化した後に、重ね吹付されたモルタル層(M2)、既存のモルタル吹付層(M1)、地山(G)に前記排水パイプ(1)を挿入するための孔(H2)を削孔する工程を含み、
前記削孔された孔(H2)の内径は、前記排水パイプ(1)における第1の突起(最大外径が大きい突起1A)の最大外径に等しく、挿入された排水パイプ(1)の第1の突起(1A)が削孔された孔(H2)と嵌合して(いわゆる「締り嵌め」となり)、排水パイプ(1)が削孔された孔(H2)に固定されるのが好ましい。
【0013】
さらに、上述した排水パイプ(1:請求項1~5の何れか1項の排水パイプ)を用いる工法において、モルタル層(M)に配置されている既存の水抜きパイプ(11)の内側に地山(G)に到達する孔(H3)を削孔する工程と、
当該孔(H3)に前記排水パイプ(1、101:請求項1~5の何れか1項の排水パイプ)を挿入して固定する工程を有することを特徴としている。
【0014】
ここで、前記挿入して固定する工程では、
前記排水パイプ(1)の地山(G)から離隔した側の領域を、支持部材(4)の本体部(4A)(の切欠き部4Bから中空部に挿入すること)により支持し、
前記本体部(4A)(の中空部)に排水パイプ(1)を保持した前記支持部材(4)を水抜きパイプ(11)内に配置し、前記支持部材(4)の前記突出部(4C)を前記水抜きパイプ(11)の内周面に接触させることにより、前記支持部材(4)を前記水抜きパイプ(11)の内側に保持するのが好ましい。
その場合、前記水抜きパイプ(1)は、一端部(自由端1E:施工の際に地山Gとは反対側の端部)に複数の第1の突起(1A)が形成され、複数の第2の突起(1B)が第1の突起(1A)が形成されている一端部(自由端1E)よりも他端側(地山G側端部の側)の領域に形成されており、
前記支持部材(4)の本体部(4A)は、(中空部の切欠き部4Bに)隣接する第1の突起(1A)の中間領域(を挿入することにより、前記水抜きパイプ1の一端部1E)を支持するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上述の構成を具備する本発明によれば、従来技術における水抜きパイプ(11)よりも細径(内径30mm以下)の排水パイプ(1)が用いられ、係る細径の排水パイプ(1)の外径も従来技術で用いられた水抜きパイプの外径(例えば60mm)よりも細い。そのため、固化したモルタル層(M1、M2)に、本発明で用いられる排水パイプ(1)を挿入する孔(H)を削孔する場合には径寸法の小さい孔を削孔すれば良いので、コアドリル等の重量機械を使用する必要がなく、足場の悪い作業現場でも安全に削孔することが出来る。
また、本発明では、排水パイプ(1)は地山(G)内に挿入される領域を有するため、地山(G)内を流れる地下水を排水することが出来る。
さらに本発明では、細径の排水パイプ(1)を、従来技術に比較して、単位面積当り多数配置(例えば、2m2に1本以上、或いは、1m2に1本以上の割合で配置)するので、排水性能が高くなり、地下水流が存在する斜面の崩落を防止することが出来る。そして、排水パイプ(1)を多数配置することにより、植物や木の根が侵入して閉塞する排水パイプ(1)が存在しても、閉塞していない多数の排水パイプ(1)により、地山(G)から十分に排水することが出来る。
【0016】
そして本発明の排水パイプ(1、101)によれば、集水用の貫通孔(1C、101C)を地山(G)の地下水流に到達させることにより、地山(G)中の地下水を効果的に排水することが出来る。
そして、半径方向外方に延在する突起(1A、1B、101A)により、地山(G)中の地下水が、排水パイプ(1、101)の外周面を伝って漏出することを抑制することが出来る。
【0017】
また本発明によれば、排水パイプ(1)に突起(1A、1B)を形成し、当該突起(1A、1B)の最大径は削孔された孔(H1、H2)の内径と同一であり、いわゆる「締り嵌め」の嵌合状態になるので、当該突起(1A、1B)により排水パイプ(1)は固化したモルタル層(既設モルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2)に削孔された孔(H1、H2)に対して確実に固定される。
ここで、排水パイプ(1)に最大径が異なる複数種類の突起(1A、1B)を形成することにより、本発明によれば、既存のモルタル層(M1)に新たにモルタルを吹き付ける(重ね吹付を行う)前の段階で排水パイプ(1)を設置する場合と、重ね吹付を行った後(新たなモルタル層M2を形成した後)の段階で排水パイプ(1)を設置する場合の何れについても、同一の排水パイプ(1)で施工することが出来る。
【0018】
本発明の工法において、モルタル層(M)に配置されている既存の水抜きパイプ(11)の内側に地山(G)に到達する孔(H3)を削孔し、当該孔(H3)に前記排水パイプ(1、101:請求項1~5の何れか1項の排水パイプ)を挿入して固定すれば、集水用の貫通孔(1C、101C)が地山(G)の地下水流に到達すれば、地山(G)中の地下水が排水パイプ(1、101)により効果的に排水される。
そして、既存の水抜きパイプ(11)の内側を削孔するので、固化したモルタル層(M)を削孔する必要がない。ここで、前記排水パイプ(1、101)は既存の水抜きパイプ(11)に比較して細径であるため、地山(G)で削孔するべき孔(H3)も細径であり、削孔作業に費やされる労力が少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】
図2のA3矢視図であり、排水パイプの横断面を示す説明図である。
【
図4】
図2とは異なるタイプの排水パイプの横断面を示す説明図である。
【
図5】内径の異なる水抜きパイプの排水量と排水パイプの排水量を比較して示す排水量-経過時間特性図である。
【
図6】
図2で示す排水パイプの地山と反対側端部を示す説明図である。
【
図7】
図6で示すのとは異なる地山と反対側端部を示す説明図である。
【
図8】排水パイプを挿入するために用いられるパンチの説明図である。
【
図9】
図8のパンチを用いて排水パイプを挿入する態様を示す部分説明図である。
【
図11】重ね吹付を行う前に排水パイプを設ける場合の1工程を示す説明図である。
【
図14】重ね吹付をした後に排水パイプを設ける場合の1工程を示す説明図である。
【
図17】排水パイプの地山側端部の一例を示す説明図である。
【
図18】既存の水抜きパイプ内を削孔して排水パイプを挿入する工法の施工現場を示す説明図である。
【
図19】既存の水抜きパイプ内を削孔して排水パイプを挿入する孔を形成する工程を示す説明図である。
【
図20】
図19で削孔された孔内に排水パイプを挿入した状態の説明図である。
【
図22】
図21で示す支持部材を用いる場合において、
図20に相当する工程を示す説明図である。
【
図23】
図10で示す排水パイプの変形例を用いた工法の説明平面図である。
【
図24】
図23で示す工法において、
図10で示す排水パイプを設置した状態の説明平面図である。
【
図25】
図3で示す貫通孔に代えて、排水パイプに形成された集水用溝を示す説明斜視図である。
【
図26】
図3の貫通孔、
図25の溝に代えて、排水パイプに形成された集水用の微小な貫通孔を示す説明斜視図である。
【
図27】
図18~
図22の工法の変形例において、既存の水抜きパイプ内を削孔する工程を示す説明図である。
【
図28】
図27で削孔された孔内に排水パイプを挿入した状態の説明図である。
【
図30】従来技術に係る水抜きパイプの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図示の簡略化のため、実施形態を示す図面においても、地山法面に敷設される金網の表示は省略している。
図1は本願発明の実施形態を適用した斜面の説明図である。
図1において、地山Gの斜面には既設モルタル層M1が形成されており、既設モルタル層M1に対して地山Gとは反対側(空中側)にはさらに、既設モルタル層M1に重ね吹付されたモルタル層M2が存在する。
既設モルタル層M1は以前に斜面に吹き付けられたモルタル層であり、時間経過等により老朽化している。そのため、新たに吹付材としてモルタルを吹き付けて(重ね吹付して)老朽化した既設モルタル層M1を補修、補強している。既設モルタル層M1の上(地上側)から重ねる様に吹き付けて形成するモルタル層を、本明細書では「重ね吹付されたモルタル層」と記載する場合があり、重ね吹付されたモルタル層は図中では符号M2で示されている。
そして、既設モルタル層M1及び重ね吹付されたモルタル層M2が設けられている地山Gには、複数の排水パイプ1が配置されている。図示の簡略化のため、
図1では排水パイプ1を1本のみ示す。
【0021】
図1において、排水パイプ1を斜面(地山G、既設モルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2)に挿入して配置するため、硬化したモルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2及び地山Gに孔Hが削孔されている。
孔Hは、地山Gに向かって(
図1では、左から右に向かって)斜め上方に延在する様に削孔される。換言すれば、排水パイプ1は、地山Gから空中に向かって(
図1では、右から左に向かって)水平方向に対して斜め下に向かって延在している。地山Gから空中に向かって水平方向に対して斜め下に向かう様に排水パイプ1が延在しているため、排水パイプ1内に集水された水PW(地下水等)は、重力により排水パイプ1内を流れ、排水パイプ1の自由端1E(排水パイプ1の地山の反対側端部)から流出する。
ここで、排水パイプ1には第1の突起1A、第2の突起1B、集水用の貫通孔1Cが形成されているが、それらについては
図2を参照して詳述する。
【0022】
図1で示す工法では、老朽化した既設モルタル層M1にモルタル層M2を構成するモルタルが重ね吹付するので、多大な労力を費やして既存のモルタル層M1を除去する必要がない。
ここで、図示の実施形態に係る排水パイプ1は、
図1で示す様に既設モルタル層M1及び重ね吹付させたモルタル層M2が設けられている場合のみならず、地山に対して単一のモルタル層のみが形成されている場合にも適用することが出来る。
【0023】
図1において、地山Gの斜面よりも深度が深い領域に地下水GWが流れている。そのため、斜面に吹付材を吹き付けてモルタル層M1、M2を形成するだけでは、地下水GWの作用により崩落等が生じる可能性がある。そのため、地下水GWを地山Gから排水して、崩落等を防止する必要がある。図示の実施形態では、係る排水のために、施工斜面(地山G、既設モルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2)に排水パイプ1が設けられている。
図示の実施形態で用いられる排水パイプ1について、
図2を参照して説明する。
【0024】
図2で示す排水パイプ1の長手方向における領域L1は重ね吹付されたモルタル層M2(
図1)に配置され、領域L2は既設モルタル層M1(
図1)に配置され、長手方向L3の領域は地山G(
図1)に配置される。排水パイプ1の地山G方向の端部は、例えば地下水GW(
図1)が流れる位置に相当する。
重ね吹付されたモルタル層M2に配置される領域L1は地山Gとは反対側の端部を含む領域であり、領域L1における空中側端部(
図2で左側端部)は排水パイプ1の開口された自由端1Eである。
排水パイプ1において、領域L1の自由端1Eの近傍には複数(図示の実施形態では3箇所)の第1の突起1Aが形成されており、領域L2にも複数(図示の実施形態では3箇所)の第2の突起1Bが形成されている。第1の突起1A及び第2の突起1Bは排水パイプ1の円周方向全域に亘って形成され、第1の突起1Aの最大径は、第2の突起1Bの最大径よりも大きく設定されている。
【0025】
第1の突起1Aの最大径は、重ね吹付をした後に排水パイプ1を設ける工法(
図14~
図16を参照して後述)において削孔される孔H2(
図15、
図16)の内径と同一に設定されている。
また、第2の突起1Bの最大径は、重ね吹付をする前に排水パイプ1を設ける工法(
図11~
図13を参照して後述)において削孔される孔H1の内径と同一に設定される。
そして第1の突起1A及び第2の突起1Bは、モルタル層M2或いはM1に排水パイプ1を固定する作用を奏する。
【0026】
図2において、排水パイプ1における領域L1と領域L2に跨って、排水パイプ1の上側(斜面に配置した際に上側:
図2で紙面に垂直な方向における看者側)に第3の突起1Dが形成されている。第3の突起1Dの突出量は、第2の突起1Bよりも小さく設定されている。
図3を参照して説明する様に、集水用の貫通孔1Cは排水パイプ1の上方に設けられている。しかし、排水パイプ1を既設モルタル層M1、或いは重ね吹付されたモルタル層M2に挿入する際に、排水パイプ1が回転すると、後述する集水用の貫通孔1Cを設けた排水パイプ1の上下方向が不明になる。それに対して、第3の突起1Dを上側にすることにより、集水用の貫通孔1Cは確実に上側に配置される。すなわち、第3の突起1Dは、排水パイプ1の上下方向を明確にするために形成されている。
排水パイプ1に第3の突起1Dを設けることに代えて、排水パイプ1の上方を表示する様に着色することも可能である。ただし、排水パイプ1は金型等を用いて製造するため、当該金型に第3の突起1Dと相補形状の溝を設けることにより、第3の突起1Dを容易に形成することが出来る。
【0027】
図2、
図3で示す様に、排水パイプ1の領域L3の全域に亘って集水用の貫通孔1Cが形成されている。図示の実施形態において、
図3で示す様に、集水用の貫通孔1Cは上方(
図3で上方)の領域に2箇所形成されている。ただし、1個所のみ形成しても、3か所以上形成しても良い。
ここで、集水用の貫通孔1C-1は、
図4で示す様に形成することも可能である。ただし、
図4で示す様に貫通孔1C-1を形成した排水パイプ1では、下側の貫通孔は集水に寄与せず、排水パイプ1内を流過する水が下側の貫通孔1C-1から地山側に流出してしまう。そのため、集水用の貫通孔1Cとしては、
図3で示す様に、排水パイプ1の上方のみに形成することが好適である。
【0028】
排水パイプ1で集水用の貫通孔1Cを形成した有孔区間は、小径の第2の突起1Bに隣接する地山側の領域から地下水流GWに亘る領域(
図2の長手方向L3の領域)であり、当該有孔区間の長さは排水パイプ1の長さ(
図2の長手方向の領域L3の長さ)や地下水流GWの流れる深さ(地山Gにおける法面からの深さ寸法)が変わると変動する。
地下水GWが流れる領域の地山G表面からの距離(深度)が施工現場により異なるが、排水パイプ1の長手方向寸法を変えることにより対応することが出来る。排水パイプ1が地下水流GWの領域に到達する様に、排水パイプ1の長手方向寸法及び有孔区間が設定される。
【0029】
ここで、排水パイプ1内に進入した水が排水パイプ1外に流出してしまうと、流出した水は、排水パイプ1に沿ってモルタル吹付層M1、M2の境界を流れ、当該流出した水と、モルタル中のコンクリートにより石灰が生じ、その石灰が大きくなって成長することにより、排水パイプ1の自由端1Eを閉塞する恐れがある。
それに対して、
図3で示す様に排水パイプ1の上方にのみ集水用の貫通孔1Cを設けた場合には、水が排水パイプ1から流出することが防止されるので、水とモルタルが混合する恐れはなく、仮に水とモルタルが接触して石灰が生成されても、石灰は排水パイプ1の下側の領域(水が流れる領域)に生成するので、排水パイプ1の自由端1Eが石灰により閉塞してしまうことが防止できる。
図3において、集水用の貫通孔1Cは長円形状をしているが、円形その他の形状に形成することが出来る。また、
図25で示す様に、貫通孔1Cに代えて、複数の集水用溝1CAを形成しても良い。
集水用溝1CAは排水パイプ1の円形断面の上半分の領域に半円形に延在しているが、集水用溝1CAの範囲は排水パイプ1断面の上半分に限定される訳ではない。集水用溝1CAから排水パイプ1内に侵入した地下水が集水用溝1CAから排水パイプ1外に流出しない限り、排水パイプ1断面のどの範囲に集水用溝1CAを形成可能である。
さらに、
図26で示す様に、
図3で示す長円形の排水用の貫通孔1Cに代えて、多数の微細な貫通孔1CBにより、集水用の貫通孔を構成しても良い。
【0030】
図2~
図4、
図25、
図26を参照して上述した排水パイプ1の内径d、第1の突起1Aの最大径、第2の突起1Bの最大径は、例えば、
第1の突起1A(最大径の大きい突起)の最大径 19mm
第2の突起1B(最大径の小さい突起)の最大径 17mm
排水パイプ1の内径d 11.7mm
とすることが出来る。
従来の水抜きパイプの外径は例えば60mm、内径は40mm~50mmであり、図示の実施形態に係る排水パイプ1の内径は、従来の水抜きパイプの1/3程度である。発明者の実験により、本発明の排水パイプの内径は、従来の水抜きパイプの内径1/2以下、或いは30mm以下であれば良いことが判明している。
【0031】
上述した様に、従来技術では施工斜面2m
2~4m
2に水抜きパイプが1本の割合で、設置されていた。しかし、従来技術における「2m
2~4m
2に水抜きパイプが1本」という割合は慣例であり、技術的根拠は少ない。
図示の実施形態に係る排水パイプ1は、例えば、施工斜面1m
2に1本の割合で配置される。
発明者は、従来の水抜きパイプ(内径51mm)と図示の実施形態に係る排水パイプ1(内径11.7mm)における排水量の比較実験を行った。図示の実施形態に係る排水パイプ1(内径11.7mm)は、同一の範囲に1本配置した場合と3本配置した場合の双方について実験を行った。ここで、従来の水抜きパイプ(内径51mm)は図示の実施形態に係る排水パイプを配置したのと同一の範囲に1本配置した。
発明者による実験の結果を
図5の排水量-経過時間特性図で示す。
図5で示す様に、図示の実施形態に係る細径(内径11.7mm)の排水パイプ1を3本配置して排水した場合には、従来の水抜きパイプ(内径51mm)1本で排水した場合よりも排水量は遥かに多く、2倍以上であった。また、図示の実施形態に係る細径(内径11.7mm)の排水パイプ1を1本だけ配置して排水した場合も、従来技術における水抜きパイプ(内径51mm)1本で排水した場合よりも排水量が多かった。
図5で示す実験結果から、図示の実施形態に係る排水パイプ1を、従来の水抜きパイプ配置の割合(1本/2m
2~4m
2)よりも、単位面積当たりの本数を多くする(例えば1本/1m
2)ことによって、吹付工法が施工される斜面(地山)からの排水量が確実に増加することが明らかになった。
【0032】
図6に、図示の実施形態に係る排水パイプ1の空中側端部(地山G側端部と反対側端部:自由端1E)を示す。
図6において、排水パイプ1における大径の第1の突起1Aは空中側端部(自由端1E)に設けられているため、排水パイプ1の自由端1Eは第1の突起1Aで補強される。
ここで、
図7で示す様に、排水パイプ1の空中側端部(自由端1E)の近傍に第1の突起1Aが位置しない構造も考えられる。しかし、
図7で示す構造では、第1の突起1Aが自由端1Eを補強しないため、図示の実施形態では用いていない。
図8、
図9をも参照して、以下に説明する。
【0033】
排水パイプ1をモルタル層M1、M2に挿入する際に、
図8で示す様なパンチ2を使用する。
図8において、パンチ2はパイプ内挿入部2A、パイプ突き当て部2B、打撃部2Cを有している。
パンチ2を用いてモルタル層M1、M2に排水パイプ1を挿入する際は、モルタル層M(M1、M2)に排水パイプ1を挿入する最後の段階で、
図9で示す様に、パンチ2のパイプ内挿入部2Aを排水パイプ1に挿入し、パイプ突き当て部2Bを排水パイプ1の自由端1E(空中側端部)に突き当てた上、打撃部2Cを打撃する(矢印S)。
その際に、
図7に示す形状では、パンチ2の打撃により、パンチ2で打撃される排水パイプ1の自由端1Eは破損してしまう恐れが存在する。
それに対して、
図6で示す様に、排水パイプ1の自由端1E(空中側端部)を第1の突起1A(大径の突起)で構成すれば、
図9で示す様にパンチ2で排水パイプ1の自由端1E(空中側端部)の打撃部2Cを打撃しても、第1の突起1Aにより自由端1Eが補強されているため、排水パイプ1の自由端1E(空中側端部)は破損し難い。
【0034】
図10を参照して、
図1~
図9で示す排水パイプ1の変形例を説明する。
変形例に係る排水パイプは全体を符号101で示す。排水パイプ101の開口された自由端101E近傍の領域には、半径方向外方に延在する突起101Aが形成され、突起101Aよりも地山側の領域に集水用の貫通孔101Cが形成されている。排水パイプ101は、
図1~
図9の排水パイプ1と同様に、モルタル層に削孔された孔(地山Gの地下水流に到達する様に削孔された孔)に挿入される。
第1の突起101Aの最大径は、モルタル層に削孔された前記孔の内径と同一に設定されており、第1の突起101Aは排水パイプ101をモルタル層に固定する作用を奏する。集水用の貫通孔101Cが地山Gの地下水流に到達することにより、地山G中の地下水を効果的に排水することが出来る。
集水用の貫通孔101Cは、地山側の領域において地下水流GW(
図1)が流れる領域に到達する様に設けられており、排水パイプ101の上方に、例えば2箇所設けられている。
半径方向外方に突出する突起101Aは、地山G中の地下水が排水パイプ101の外周面を伝って漏出しようとした場合に、それを抑制する作用を奏する。
図10において、突起101Aは自由端101Eの近傍(
図10で右端部近傍、地山Gから離隔した側の端部近傍)に設けられているが、それよりも地山G側の領域であって、集水用貫通孔101Cが形成されていない領域に設けることも可能である。
図1~
図9の排水パイプ1と同様に、地下水を確実に集水して排水するためには、集水用の貫通孔101Cは上方(設置時に上方)に設ける必要がある。そのため、排水パイプ101の上下を明確にする必要があり、そのために第3の突起101Dが形成されている。
【0035】
図1~
図9を参照して説明した排水パイプ1は、自由端1E側の近傍に配置された大径の第1の突起1Aと、第1の突起1Aより集水用孔1C側(地山G側)に配置された第2の突起1B(小径の突起)を設けることにより、モルタル層M2を重ね吹付する前であっても、或いはモルタル層M2を重ね吹付する後であっても、排水パイプ1を斜面に設けることが出来る。
以下、
図11~
図16を参照して、既存のモルタル層M1に新たにモルタルM2を吹き付ける(重ね吹付を行う)前の段階で図示の実施形態に係る排水パイプ1を設置する場合と、重ね吹付を行った以降に排水パイプ1を設置する場合の双方について説明する。
【0036】
最初に
図11~
図13を参照して、重ね吹付を行う前に排水パイプ1を設置する場合を説明する。
図11で示す工程では、既存のモルタル層M1と地山Gを削孔して、孔H1を削孔する。孔H1は、地山Gに向かって(
図11では、左から右に向かって)斜め上方に削孔される。なお、既存のモルタル層M1は孔H1を削孔する時点で既に硬化している。
削孔された孔H1の内径は、次工程(
図12で示す工程)で孔H1に挿入される排水パイプ1の第2の突起1B(小径の突起)の最大径部と同寸法に設定されている。そのため、既存のモルタル層M1(及び地山G)に削孔された孔H1の内径と、排水パイプ1の第2の突起1Bは、いわゆる「締り嵌め」の嵌合関係となる。
【0037】
図12に示す工程では、既存のモルタル層M1及び地山Gに削孔された孔H1に、排水パイプ1を挿入する。
図11を参照して説明した様に、孔H1の内壁は、排水パイプ1の第2の突起1B(小径の突起)と「締り嵌め」の嵌合関係となり、それにより、排水パイプ1は(第2の突起1Bと孔H1内壁との締り嵌めにより)既存のモルタル層M1で固定される。ここで、排水パイプ1における地山Gへの挿入箇所には、集水用の貫通孔1Cが設けられている。
排水パイプ1が既存のモルタル層M1、地山Gに挿入され、既存のモルタル層M1に固定された
図12の状態では、排水パイプ1の自由端1E(空中側端部)近傍であって第1の突起1A(大径の突起)が形成されている領域(
図2に示す排水パイプ1の長手方向L1の領域)には重ね吹付は行われていない。
図12の工程に続く
図13の工程において、既存のモルタル層M1に新たな吹付材を重ね吹付し、以て重ね吹付されたモルタル層M2を形成する。
なお、
図13でモルタル層M2を重ね吹付する際には、重ね吹付されたモルタル層M2により排水パイプ1の自由端1Eが閉鎖されない様に施工する。
【0038】
次に、
図14~
図16を参照して、重ね吹付後に排水パイプ1を設置する場合を説明する。
図14で示す工程では、既存のモルタル層M1を有する地山Gに新たな吹付材を重ね吹付し、モルタル層M2(重ね吹付されたモルタル層)を形成する。
重ね吹付されたモルタル(重ね吹付されたモルタル層M2)が固化した後、
図15で示す様に、重ね吹付されたモルタル層M2、既存のモルタル層M1、地山Gに孔H2を削孔する。
図15で示す工程で削孔された孔H2の内径は、排水パイプ1の第1の突起1Aの最大径部と同寸法に設定されており、以て、孔H2の内径と第1の突起1Aを、いわゆる「締り嵌め」の嵌合関係となる様にせしめている。換言すれば、
図15の工程で削孔される孔H2は、
図11の工程で削孔される孔H1よりも内径寸法が大きい。
【0039】
図15で示す工程において、排水パイプ1を挿入するための孔H2を削孔する作業は、重ね吹付されたモルタル層M2が固化した後に行われる。孔H2を削孔した後、
図16で示す工程が行われる。
図16で示す工程では、
図15の工程で削孔された孔H2に排水パイプ1を挿入する。上述した様に、孔H2の内径と第1の突起1Aは「締り嵌め」の嵌合関係となる。そして排水パイプ1は、第1の突起1A(大径の突起)と孔H2との締り嵌めにより、モルタル層M2で固定される。
【0040】
ここで、重ね吹付を行う前に排水パイプ1を設置する場合(
図11~
図13)のメリットとデメリット、重ね吹付後に排水パイプ1を設置する場合(
図14~
図16)のメリットとデメリットについて説明する。
重ね吹付を行う前に排水パイプ1を設置する場合(
図11~
図13)には、削孔するべき長さ、削孔長を短くすることが出来る。そして、排水パイプ1が重ね吹付されたモルタル層M2により確実に固定される。
一方、
図11~
図13の場合には、吹付の施工により排水パイプ1の向きが変わってしまう恐れがある。また、背面空洞注入のセメントミルクが排水パイプ1内に流入する可能性がある。さらに、重ね吹付をする以前の段階では排水パイプ1がモルタル層M1から突出しているので、工事で使用されるロープ等が突出した排水パイプ1に引っ掛かり、作業の邪魔となる恐れがある。
【0041】
これに対して、重ね吹付後に排水パイプ1を設置する場合(
図14~
図16)には、重ね吹付後に、背面空洞注入工を施工しても、排水パイプ1内にセメントミルクが流入することはない。
一方、重ね吹付後に削孔をするので削孔長が長くなってしまう。また、既存のモルタル層M1と重ね吹付されたモルタル層M2があるため、モルタル層の厚さ(吹付厚さ)が厚くなってしまうので、排水パイプ1の地山貫入長さが短くなってしまう恐れが存在する。
これ等のメリット及びデメリットをも比較考量しつつ、重ね吹付を行う前に排水パイプ1を設置するか(
図11~
図13)、或いは、重ね吹付後に排水パイプ1を設置するか(
図14~
図16)を適宜設定する必要がある。
【0042】
図17で示す様に、図示の実施形態に係る排水パイプ1においては、地山側端部(
図17で右側端部)にキャップ3を被せ、キャップ3に微細な貫通孔3Aを複数(多数)形成し、以てキャップ3にフィルターとして機能を持たせている。キャップ3を設けることにより、排水パイプ1を地中(地山G、モルタル層)に挿入した際に、挿入方向先端の地山側端部から排水パイプ1内に土砂、礫等の異物が侵入することを防止している。
キャップ3を排水パイプ1の地山側端部へ固定する態様として、排水パイプ1の地山側端部を開放端部とし、当該開放端部にキャップ3を被せても良いし、或いは、排水パイプ1の地山側端部を閉塞し、当該閉塞した端部に微細貫通孔3Aを複数穿孔しても良い。微細貫通孔3Aの寸法(貫通孔3Aの内径寸法)は、排水パイプ1内に土砂、礫等の異物等の排水パイプ1を閉塞する異物が侵入しない様に設定される。
図17で示す様に、図示の実施形態に係る排水パイプ1では、キャップ3の近傍に至るまで集水用の貫通孔1Cが形成されている。
なお、
図17で示すキャップ3は、
図10の変形例に係る排水パイプ101に設けることも出来る。
【0043】
次に、
図18~
図22を参照して、図示の実施形態に係る排水パイプ1、101を用いる工法であって、
図11~
図17で説明する吹付工法とは異なる工法について説明する。
図18~
図22で示す工法では、地山Gに既にモルタルが吹き付けられて既存のモルタル層Mが形成されており、既存のモルタル層Mには水抜きパイプ11が設けられており、係る既存の吹付法面に排水パイプ1或いは排水パイプ101が設置される。
図18で示す地山Gを被覆するモルタル層Mには、水抜きパイプ11が既に設置されている。水抜きパイプ11は、地山Gから空中に向かって(
図18では、右から左に向かって)水平方向に対して斜め下に向かって配置されている。
ここで、水抜きパイプ11の設置時から時間が経過している場合もあり、水抜きパイプ11内に植物や木の根、或いは土砂が侵入して水抜きパイプ11を閉塞している場合もある。
【0044】
図18で示す既存の吹付法面に対して、先ず、
図19で示す様に、既存の水抜きパイプ11の内側に孔H3を削孔する。孔H3は水抜きパイプ11が延在する方向に削孔され、地山Gに向かって(
図19では、左から右に向かって)斜め上方に延在する様に削孔されており、地山Gの地下水流(
図1参照)まで到達する様に削孔される。
削孔された孔H3の内径は、次工程(
図20の工程)で排水パイプ1を孔H3に挿入する場合には、排水パイプ1の第2の突起1B(小径の突起)の最大径部と同寸法に設定されるのが好ましい。これにより、削孔された孔H3の内径と、排水パイプ1の第2の突起1Bは、いわゆる「締り嵌め」の嵌合関係となる。
【0045】
図20に示す工程では、既存の水抜きパイプ11の内側から地山G中を延在して削孔された孔H3に、排水パイプ1を挿入する。ここで、排水パイプ1に代えて排水パイプ101(
図10)を挿入することも可能である。
図20及び
図22においては、図示の煩雑を回避するため孔H3の図示を省略している。
排水パイプ1の地山G側の領域に形成された第2の突起1B(小径の突起)が孔H3に締り嵌めすることにより、排水パイプ1は地山Gに固定される。
図20で示す様に、排水パイプ1の第2の突起1Bよりもさらに地山G側の領域に形成された集水用の貫通孔1Cは、地山Gの地下水流GWに位置している。そのため、地山G中の地下水流GWは、集水孔1Cから排水パイプ1内を流れ(PW)、排水パイプ1の自由端1Eから排出される。
【0046】
ここで、例えば地山Gが軟弱で第2の突起1Bのみでは排水パイプ1が地山Gに安定して固定されない場合、或いは、排水パイプ101(第2の突起1Bを備えていない排水パイプ)を使用する場合には、孔H3に挿入した排水パイプ1或いは排水パイプ101を固定するため、
図21に示す支持部材4を使用する。
図21において、支持部材4は、切欠き部4Bを有する概略中空円筒状の本体部4Aと、複数の突出部4C(
図21では3個)を有しており、複数の突出部4Cは本体部4Aの外周方向に概略等間隔で配置されて半径方向外方に延在している。
切欠き部4Bを備えることにより、中空円筒状の本体部4Aは、その内径が排水パイプ1の外径程度に拡径する程度の可撓性を有している。換言すれば、本体部4Aの内径が排水パイプ1の外径程度に拡径する程度の可撓性を有する様な材料、寸法、仕様で、支持部材4は構成されている。
一方、支持部材4の複数(例えば3個)の突出部4Cの半径方向先端が形成する仮想的な外接円は、水抜きパイプ11の内径寸法よりも若干大きい曲率半径を有している。支持部材4が水抜きパイプ11に挿入されると、複数の突出部4Cの半径方向先端が水抜きパイプ11の内周面に当接し、前記仮想円の曲率半径が水抜きパイプ11の内径と等しくなる様に弾性変形する。係る弾性変形による弾性反発力により突出部4Cの半径方向先端が水抜きパイプ11内周面を押圧して、支持部材4は水抜きパイプ11の内側に保持される。
【0047】
図21に示す支持部材4を使用する場合(すなわち、第2の突起1Bのみでは排水パイプ1が地山Gに安定して固定されない場合、或いは第2の突起1Bを備えていない排水パイプ101を使用する場合)は、先ず、支持部材4の本体部4Aの切欠き部4Bを拡げて、排水パイプ1(或いは101)の第1の突起1A(或いは101A)が形成されている領域(自由端1E近傍の領域)を中空部に挿入する。挿入に際して、排水パイプ1(或いは101)の複数の第1の突起1A(或いは101A)の内、隣接する2箇所の第1の突起1A(或いは101A)の間の領域が、支持部材4の本体部4Aの中空部に挿入される。
図29を参照して後述する様に、支持部材4は
図21に示す構造には限定されない。
【0048】
次に、隣接する第1の突起1A(或いは101A)間の領域が支持部材4の本体部4Aの中空部に挿入された排水パイプ1(或いは101)を、水抜きパイプ11内に配置する。上述した様に、支持部材4の複数(例えば3個)の突出部4Cの半径方向先端が水抜きパイプ11の内周面に当接し、排水パイプ1(或いは101)を保持した支持部材4は水抜きパイプ11の内側に保持される。そして、排水パイプ1(或いは101)の隣接する第1の突起1A(或いは101A)が支持部材4の本体部4Aに挟み込まれているので、排水パイプ1(或いは101)がその中心軸方向(長手方向)に移動することが防止される。
支持部材4を用いて、水抜きパイプ11の内側から地山Gに亘って削孔された孔H3に排水パイプ1(或いは101)を挿入した状態が、
図22に示されている。
【0049】
図27、
図28を参照して、
図18~
図22を参照して説明した工法の変形例を説明する。
図19の工程で削孔された孔H3の内径は、排水パイプ1(101)の外形と概略等しいが、
図27の工程で削孔される孔H3Aの内径は、既存の水抜きパイプ11の内径と概略等しい。
そして、
図28の工程では排水パイプ1が孔H3A内に挿入されるが、孔H3Aの内径は排水パイプ1の外形よりも大きく、
図22で示す様に孔H3と第2の突起1Bとの締り嵌めで排水パイプを支持することが出来ない。そのため、
図28の工程では、
図22の工程で示す様に、第1の突起1Aの間の領域に支持部材4を配置して、支持部材4により水抜きパイプ11の内周面に排水パイプ1を支持する。
図28では
図1~
図9で説明した排水パイプ1が示されているが、
図10で示す排水パイプ101(第2の突起1Bを有しない排水パイプ)を用いることが出来る。
図1~
図9で示す排水パイプ1の第2の突起1Bは、
図27、
図28の変形例では排水パイプ1を支持する機能を発揮しないからである。
【0050】
図29を参照して、支持部材4(
図21)の変形例を説明する。
なお、
図21の支持部材4は全体を合成樹脂で製造することが出来るが、金属製であっても良い。
図29で示す支持部材41、41A1、42は何れも金属製である。
図29(A)で示す支持部材41は金属板(例えば板バネ)で構成されており、折曲されて凹部41Cが形成されており、凹部41Cから水抜きパイプ11の半径方向外側に符号41L、41Rで示す部分が延在しており、部分41L、41Rに矢印41Pで示す方向に押圧することにより、支持部材41は水抜きパイプ11内に挿入することが出来る。そして部分41L、41Rの端部を水抜きパイプ11の内周面に当接し、凹部41Cに排水パイプ1(或いは排水パイプ101)を配置する。
水抜きパイプ11内に配置することにより、矢印41Pと反対方向に作用する弾性反発力が作用するので、支持部材41は水抜きパイプ11内で確実に保持され、排水パイプ1を支持することが出来る。
【0051】
図29(B)で示す支持部材41A1は、
図29(A)の支持部材41の変形例であり、部分41L、41R(
図29(A)参照)の端部41LE、41REを断面U字状に湾曲させている。
図29(B)の支持部材41A1におけるその他の構成及び作用効果は、
図29(A)の支持部材41と同様である。
図29(A)、
図29(B)の支持部材41、41A1は板状の部材(金属板、板バネ等)で構成されているが、
図29(C)の支持部材42は、金属製の線状部材で構成されている。
【0052】
図29(C)において、支持部材42は金属製線状部を折り曲げて湾曲させることにより円形部分42Cを構成する。そして、両端42EをU字状に湾曲している。
図29(C)における矢印42P方向に押圧することにより、支持部材42は水抜きパイプ11内に挿入される。そして円形部分42Cに排水パイプ1を挿入する。
支持部材42を水抜きパイプ11内に挿入することにより、矢印42Pとは逆方向の弾性反発力が生じるので、支持部材42は水抜きパイプ11内で確実に保持され、排水パイプ1が支持される。
【0053】
次に、
図23、
図24を参照して、
図10で示す排水パイプ101を用いた工法を説明する。
図23、
図24で示す工法では、
図18~
図22、
図27、
図28で示す工法とは異なり、既存の水抜きパイプ11とは無関係に施工される。なお、
図23、
図24において、紙面に垂直な方向の手前側が看者側である。
図23において、地下湧水量の多い箇所Kは既存の水抜きパイプ11から離隔した位置に存在する。
図23で示す工程では、地下湧水量の多い箇所Kにおけるモルタル層Mに、地山(G:
図23、
図24では図示せず)に到達する孔H4を削孔する。
明確には図示されていないが、孔H4の内径は、孔H4の内周面と排水パイプ101の第1の突起101A(
図10)とが「締り嵌め」の嵌合関係となる様に設定されている。
【0054】
図24で示す工程では、孔H4に排水パイプ101(
図10)を挿入する。挿入された排水パイプ101は、モルタル層Mにおいて、第1の突起101A(
図10)と孔H4の内周面との「締り嵌め」により確実に固定される。なお、図示の煩雑さを回避するため、
図24では孔H4の図示を省略している。
なお、
図23、
図24の工法の実施に際して、排水パイプ101に限定せず、排水パイプ1(
図1~
図9等)を用いることも可能である。
図23、
図24で示す工法によれば、排水パイプ101(或いは排水パイプ1)の集水用貫通孔101C(或いは1C)が地山Gの地下水流GWに到達すれば、地山G中の地下水GWを集水し、排水パイプ101(或いは排水パイプ1)を介して効果的に排水することが出来る。
また、排水パイプ101(或いは排水パイプ1)の突起101A(或いは1A、1B)により、地山G中の地下水が、排水パイプ101(或いは排水パイプ1)と地山G或いはモルタル層Mの境界(排水パイプ101、1の外周面)を流れて、モルタル層M内に漏出することを抑制することが出来る。
【0055】
図示の実施形態に係る吹付工法によれば、排水パイプ1は従来技術で用いられる水抜きパイプよりも細径(内径30mm以下)であり、係る細径の排水パイプ1の外径も従来技術で用いられた水抜きパイプの外径(例えば60mm)よりも細い。そのため、図示の実施形態に係る排水パイプ1を挿入する孔H(H1、H2)を固化したモルタル層M(既存のモルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2)に削孔する場合に、径寸法の小さい孔を削孔すれば良いため、コアドリル等の重量機械を使用する必要がなく、足場の悪い作業現場でも安全に削孔することが出来る。
また、図示の実施形態では、細径の排水パイプ1を、従来技術に比較して、単位面積当り多数配置する(少なくとも、1本/1m2以上の割合で配置)するので、排水性能が高くなり、地下水流が存在する斜面の崩落を防止することが出来る。そして、排水パイプ1を多数配置することにより、植物や木の根が侵入して閉塞する排水パイプ1が存在しても、閉塞していないその他の多数の排水パイプ1により、地山Gから十分に排水することが出来る。
【0056】
また図示の実施形態において、排水パイプ1に第1及び第2の突起1A、1Bを形成し、第1及び第2の突起1A、1Bは最大径が異なっていれば、第1及び第2の突起1A、1Bの最大径は削孔された孔H1、H2の内径とそれぞれ同一であり、いわゆる「締り嵌め」の嵌合状態になるので、排水パイプ1は固化した既存のモルタル層M1、重ね吹付されたモルタル層M2に削孔された孔H1、H2に対して確実に固定される。
さらに、排水パイプ1に最大径が異なる第1の突起1A及び第2の突起1Bを形成することにより、既存のモルタル層M1に新たにモルタルを吹き付ける(重ね吹付を行う)前の段階で排水パイプ1を設置する場合と、重ね吹付を行った後の段階で排水パイプ1を設置する場合の何れにおいても、同一種類の排水パイプ1を使用することが出来る。
【0057】
さらに、図示の実施形態の工法において、モルタル層Mに配置されている既存の水抜きパイプ11の内側に地山Gに到達する孔H3を削孔し、当該孔H3に前記排水パイプ1、101を挿入して固定すれば、集水用の貫通孔1C、101Cが地山Gの地下水流GWに到達するので、地山G中の地下水GWが排水パイプ1、101により効果的に排水される。
そして、既存の水抜きパイプ11の内側を削孔するので、固化したモルタル層Mを削孔する場合に比較して、削孔作業の労力が軽減される。また、前記排水パイプ1、101は既存の水抜きパイプ11に比較して細径であるため、地山Gで削孔するべき孔H3も細径であり、孔H3削孔の労力は、従来技術における削孔作業の労力に比較して減少される。
それに加えて、排水パイプ1を使用する場合であって第2の突起1Bのみでは排水パイプ1が地山Gに安定して固定されない場合(例えば地山Gが軟弱な場合)や、(第2の突起
図1Bを備えない)排水パイプ101を使用する場合であっても、支持部材4(
図21)を用いることにより、孔H3に挿入した排水パイプ1(或いは排水パイプ101)を固定することが出来る。
【0058】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0059】
1、101・・・排水パイプ(地山中の水を排出するためのパイプ)
1A、101A・・・第1の突起
1B・・・第2の突起
1C、1CB、101C・・・集水用の貫通孔
1CA・・・集水用溝
1D・・・第3の突起
1E・・・自由端
4、41、41A1、42・・・支持部材
11・・・水抜きパイプ(従来技術において、水抜孔を作るためのパイプ)
G・・・地山
H、H1、H2、H3、H3A・・・孔
M1・・・既存のモルタル層
M2・・・重ね吹付されたモルタル層