(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185192
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】燃料電池船
(51)【国際特許分類】
B63H 21/20 20060101AFI20221207BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04664 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04694 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221207BHJP
H01M 8/04955 20160101ALI20221207BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20221207BHJP
B63H 20/00 20060101ALI20221207BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20221207BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20221207BHJP
B63J 2/06 20060101ALI20221207BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221207BHJP
【FI】
B63H21/20
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/249
H01M8/04 Z
H01M8/04 J
H01M8/04664
H01M8/04313
H01M8/04694
H01M8/04858
H01M8/04955
H01M8/04 H
B63B35/00 T
B63H20/00 600
B63H21/17
B63B11/04 B
B63J2/06
B63B11/04 A
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092702
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 安美
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛広
(72)【発明者】
【氏名】平岩 琢也
(72)【発明者】
【氏名】品川 学
(72)【発明者】
【氏名】木村 行彦
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB14
5H127AB17
5H127AB29
5H127AC17
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA59
5H127BB02
5H127DB49
5H127DB66
5H127DB88
5H127DB96
5H127DC41
5H127DC42
5H127DC46
5H127EE04
(57)【要約】
【課題】燃料電池船の航行中に、燃料電池の故障が発生した場合、あるいは、燃料電池が機器寿命に達した場合でも、燃料電池船が航行中の海上で停止する事態を回避する。
【解決手段】燃料電池船は、電力によって船体に推進力を発生させる推進装置と、推進装置に電力を供給する電力供給部と、劣化率を調整する劣化率制御部を備える。電力供給部は、燃料の電気化学反応により発電を行う複数の燃料電池と、少なくとも1つの蓄電池と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力によって船体に推進力を発生させる推進装置と、
前記推進装置に前記電力を供給する電力供給部と、を備える燃料電池船であって、
前記電力供給部は、燃料の電気化学反応により発電を行う複数の燃料電池と、少なくとも1つの蓄電池と、を有する、燃料電池船。
【請求項2】
前記推進装置と前記電力供給部との組を複数有する、請求項1に記載の燃料電池船。
【請求項3】
前記燃料を収容する複数の燃料タンクをさらに備え、
前記複数の燃料タンクは、前記複数の燃料電池のうちで2以上の同じ燃料電池と接続される複数の個別タンクを含む、請求項1または2に記載の燃料電池船。
【請求項4】
前記複数の燃料電池のそれぞれの劣化の度合いを示す劣化率を調整する劣化率制御部をさらに備え、
各燃料電池の劣化率が各燃料電池の劣化による交換に適した劣化率に到達する時期を交換目安時期とし、予め設定された各燃料電池の交換時期を交換予定時期としたとき、
前記劣化率制御部は、各燃料電池のそれぞれについて、前記交換目安時期が前記交換予定時期に近づくまたは一致するように、少なくとも1つの前記燃料電池の劣化率を調整する、請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池船。
【請求項5】
前記劣化率制御部は、前記燃料電池船で消費される電力負荷が、前記燃料電池の劣化の進行速度が所定値以下となる前記燃料電池の発電出力の下限値と、前記燃料電池の搭載数とに応じて決まる第1閾値以下になったときに、前記燃料電池の劣化率を調整し、前記第1閾値以下の状態が継続される予想時間に応じて、劣化率の調整の仕方を異ならせる、請求項4に記載の燃料電池船。
【請求項6】
前記劣化率制御部は、前記燃料電池船で消費される前記電力負荷が、前記燃料電池の定格出力と、前記燃料電池の搭載数とに応じて決まる第2閾値以上であるときに、前記燃料電池の劣化率を調整するとともに、前記複数の燃料電池のうち、劣化を抑制する対象となる燃料電池の発電出力を前記定格出力以下に設定する、請求項5に記載の燃料電池船。
【請求項7】
前記複数の燃料電池のそれぞれが別々に設置される複数の燃料電池区画と、
前記複数の燃料電池区画のそれぞれの内部に給気する複数の電池区画給気装置と、
前記複数の燃料電池の発電を制御する発電制御部と、をさらに備え、
前記発電制御部は、前記複数の電池区画給気装置の少なくとも1つが停止したときに、停止した前記電池区画給気装置が給気する前記燃料電池区画に設置される前記燃料電池の発電を停止させる、請求項1または2に記載の燃料電池船。
【請求項8】
前記燃料を収容する燃料タンクが設置される少なくとも1つのタンク区画と、
前記タンク区画の内部に給気するタンク区画給気装置と、をさらに備え、
前記発電制御部は、前記タンク区画給気装置が停止したときに、前記複数の燃料電池のうち、停止した前記タンク区画給気装置が給気する前記タンク区画に設置される前記燃料タンクから前記燃料が供給される燃料電池の発電を停止させる、請求項7に記載の燃料電池船。
【請求項9】
前記複数の燃料電池のそれぞれが別々に設置される複数の燃料電池区画と、
前記複数の燃料電池区画の内部にそれぞれ配置され、前記燃料の気体状態である燃料ガスを検知する複数の電池区画内部ガス検知器と、
前記複数の燃料電池区画の外部にそれぞれ配置され、前記燃料電池区画の内部に流入する可燃ガスを検知する複数の電池区画外部ガス検知器と、
前記複数の燃料電池の発電を制御する発電制御部と、をさらに備え、
前記発電制御部は、前記複数の電池区画内部ガス検知器および前記複数の電池区画外部ガス検知器の少なくともいずれかが前記燃料ガスまたは前記可燃ガスと反応し、または故障したときに、前記複数の燃料電池のうち、反応または故障した前記電池区画内部ガス検知器または前記電池区画外部ガス検知器が配置された燃料電池区画内の燃料電池の発電を停止させる、請求項1または2に記載の燃料電池船。
【請求項10】
前記燃料を収容する燃料タンクが設置される少なくとも1つのタンク区画と、
前記タンク区画の内部に配置され、前記燃料の気体状態である燃料ガスを検知するタンク区画内部ガス検知器と、
前記タンク区画の外部に配置され、前記タンク区画の内部に流入する可燃ガスを検知するタンク区画外部ガス検知器と、をさらに備え、
前記発電制御部は、前記タンク区画内部ガス検知器および前記タンク区画外部ガス検知器の少なくともいずれかが前記燃料ガスまたは前記可燃ガスと反応し、または故障したときに、前記複数の燃料電池のうち、反応または故障した前記タンク区画内部ガス検知器または前記タンク区画外部ガス検知器が配置された前記タンク区画内の前記燃料タンクから前記燃料が供給される燃料電池の発電を停止させる、請求項9に記載の燃料電池船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクから燃料電池に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給し、燃料電池で発生する電力によって推進装置を駆動する燃料電池船が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の構成では、燃料電池船が搭載している燃料電池は1台であるため、燃料電池船の航行中に燃料電池に故障が発生すると、または、燃料電池が機器寿命に達すると、航行を続けることができず海上で停止してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、航行中に燃料電池の故障が発生した場合、あるいは、燃料電池が機器寿命に達してしまうことで、燃料電池船が航行中の海上で停止する事態を回避することができる燃料電池船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る燃料電池船は、電力によって船体に推進力を発生させる推進装置と、前記推進装置に前記電力を供給する電力供給部と、を備える燃料電池船であって、前記電力供給部は、燃料の電気化学反応により発電を行う複数の燃料電池と、少なくとも1つの蓄電池と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、燃料電池船の航行中に、燃料電池の故障が発生した場合、あるいは、燃料電池が機器寿命に達した場合でも、燃料電池船が航行中の海上で停止する事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る燃料電池船の概略の構成を示す説明図である。
【
図2】上記燃料電池船の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】上記燃料電池船の他の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】上記燃料電池船の運用計画としての各燃料電池の交換計画を模式的に示すタイムチャートである。
【
図5】上記燃料電池の運転時間とセル電圧との関係を、劣化を抑制した低負荷運転を行ったときと、劣化を促進させた高負荷運転を行ったときとで示すグラフである。
【
図6】上記燃料電池1台当たりの発電出力と劣化の進行速度との関係を示すグラフである。
【
図7】上記燃料電池の劣化率の調整の流れを示すフローチャートである。
【
図8】上記燃料電池船の電力負荷の時間経過に対する推移の一例を示すグラフである。
【
図9】上記燃料電池の運転時間に対する劣化率の変化を模式的に示すグラフである。
【
図10】上記燃料電池の他の劣化率の調整の流れを示すフローチャートである。
【
図11】上記燃料電池船の内部構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本明細書では、方向を以下のように定義する。まず、燃料電池船の船尾から船首に向かう方向を「前」とし、船首から船尾に向かう方向を「後」とする。そして、前後方向に垂直な横方向を左右方向とする。このとき、燃料電池船の前進時に操船者から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。
【0010】
〔1.燃料電池船の概略の構成〕
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る燃料電池船SHの前提となる構成について説明する。
図1は、燃料電池船SHの概略の構成を示す説明図である。燃料電池船SHは、船体1と、キャビン2と、を備える。キャビン2は、船体1の上面に配置される。
【0011】
燃料電池船SHは、燃料電池システム3と、燃料ガス貯留部4と、蓄電池システム5と、推進装置6と、複数の周辺機器11と、制御装置12と、をさらに備える。なお、
図1では、制御信号または高電圧での電力供給ラインを実線で示し、制御信号または低電圧の電力供給ラインを一点鎖線で示す。
【0012】
燃料電池システム3は、主電源として機能する。燃料電池システム3は、燃料ガスを消費して電力(具体的には直流電力)を発生する。燃料ガスは、可燃ガスである。典型的には、燃料ガスは、水素ガスである。燃料電池システム3は、発生した電力を、推進装置6および周辺機器11に供給する。また、燃料電池システム3は、蓄電池システム5に電力を供給して、蓄電池システム5を充電することもできる。
【0013】
燃料ガス貯留部4は、燃料電池システム3に供給する燃料ガスを貯留する燃料貯留部である。燃料ガス貯留部4から燃料電池システム3への燃料ガスの供給は、後述する燃料ガス供給配管32(
図11参照)を介して行われる。
【0014】
蓄電池システム5は、蓄電した電力(具体的には直流電力)を、推進装置6および周辺機器11に供給する補助電源として機能する。このように、蓄電池システム5が補助電源として機能することにより、燃料電池システム3から推進装置6等への電力の供給不足を補うことができる。なお、蓄電池システム5は、適切な電圧に変換して制御装置12に電力を供給してもよい。
【0015】
推進装置6は、燃料電池システム3および蓄電池システム5の少なくとも一方から供給される電力によって駆動され、船体1に推進力を発生させる。つまり、燃料電池船SHは、電力によって船体1に推進力を発生させる推進装置6を備える。
【0016】
推進装置6は、電力変換装置6aと、推進モータ6bと、プロペラ6cとを有する。電力変換装置6aは、燃料電池システム3から供給される電力を、推進モータ6bの規格に応じた電力に変換する。例えば、電力変換装置6aは、直流電力を交流電力に変換する。この場合、電力変換装置6aは、例えばインバータを有する。推進モータ6bは、電力変換装置6aから供給される電力(例えば交流電力)によって駆動される。推進モータ6bが駆動されると、推進モータ6bの回転力がプロペラ6cに伝達される。その結果、プロペラ6cが回転して、船体1に推進力が発生する。なお、推進モータ6bとプロペラ6cとの間にマリンギアを有する構成としても良い。
【0017】
周辺機器11としては、例えば、コンプレッサ、電磁弁、ポンプなどが含まれる。なお、周辺機器11には、照明機器、空調機器などの電気機器も含まれるが、周辺機器11の種類は特に限定されない。
【0018】
制御装置12は、燃料電池システム3、燃料ガス貯留部4、蓄電池システム5、推進装置6、および複数の周辺機器11を制御する。制御装置12は、例えば、1つまたは2以上のコンピュータによって構成される。コンピュータは、例えば、PLC(Programable Logic Controller)であるが、ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。制御装置12には、図示しないバッテリ(例えば鉛電池)、または蓄電池システム5から適切な電圧に変換する装置を介して電力が供給される。
【0019】
制御装置12は、制御部12aと、記憶部12bと、を有する。制御部12aは、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを含む。記憶部12bは、記憶装置を含み、データおよびコンピュータプログラムを記憶する。具体的には、記憶部12bは、半導体メモリのような主記憶装置と、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ、および/または、ハードディスクドライブのような補助記憶装置と、を含む。記憶部12bは、リムーバブルメディアを含んでいてもよい。記憶部12bは、非一時的コンピュータ読取可能記憶媒体の一例に相当する。
【0020】
制御部12aのプロセッサは、記憶部12bの記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、燃料電池システム3、燃料ガス貯留部4、蓄電池システム5、推進装置6、および複数の周辺機器11を制御する。
【0021】
〔2.燃料電池船の主要部の構成〕
図2は、本実施形態の燃料電池船SHの主要部の構成を模式的に示すブロック図である。なお、同図において、破線の経路は、燃料ガスの供給経路を示し、実線の経路は、電力の供給経路、または制御部12aが出力する制御信号の供給経路を示す。燃料電池船SHは、電力供給部100を備える。電力供給部100は、上記した推進装置6に電力を供給する。
【0022】
電力供給部100は、燃料電池システム3を含む。燃料電池システム3は、複数の燃料電池31を含む。燃料電池31は、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力(具体的には直流電力)を発生させる。燃料ガスは、燃料ガス貯留部4の後述する燃料タンク41から燃料電池31に供給される燃料の一例である。酸化剤ガスは空気であり、酸化剤は酸素である。つまり、電力供給部100は、燃料の電気化学反応により発電を行う複数の燃料電池31を有する。
【0023】
燃料電池31は、積層された複数のセルによって構成される燃料電池スタックである。例えば、燃料電池31の各セルは、固体高分子電解質膜と、アノード極と、カソード極と、一対のセパレータとを有する。アノード極とカソード極とは、固体高分子電解質膜を挟む。アノード極は、負極(燃料極)である。アノード極は、アノード触媒層およびガス拡散層を含む。カソード極は、正極(空気極)である。カソード極は、カソード触媒層およびガス拡散層を含む。アノード極と固体高分子電解質膜とカソード極とは、膜-電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を構成する。一対のセパレータは、膜-電極接合体を挟む。各セパレータは複数の溝を有する。一方のセパレータの各溝は、燃料ガスの流路を形成する。他方のセパレータの各溝は、酸化剤ガスの流路を形成する。
【0024】
燃料電池31の上記構成において、アノード極側では、燃料ガスに含まれる水素が触媒によって水素イオンと電子とに分解される。水素イオンは固体高分子電解質膜を透過してカソード極側に移動する。一方、電子は外部回路を通ってカソード極側に移動する。これにより、電流が発生する(発電する)。カソード極側では、酸化剤ガスに含まれる酸素が、外部回路を流れてきた電子と、固体高分子電解質膜を通過した水素イオンと結合して、水を生成する。生成された水は、排出配管31a(
図11参照)を介して船外に排出される。
【0025】
燃料電池31は、発電した電力を、推進装置6および周辺機器11に供給する。なお、燃料電池31は、発電した電力を、DC/DCコンバーター等の回路を介して間接的に、推進装置6および周辺機器11に供給してもよい。
【0026】
電力供給部100は、蓄電池システム5をさらに含む。蓄電池システム5は、電力を蓄える蓄電池51を含む。蓄電池51は、例えばリチウム二次電池であるが、ニッケル-カドミウム蓄電池、ニッケル-水素蓄電池などであってもよい。蓄電池51の個数は特に限定されず、1個であってもよいし、複数個であってもよい。つまり、電力供給部100は、少なくとも1個の蓄電池51を有する。
【0027】
なお、蓄電池51の容量は適宜設定可能である。また、蓄電池51が複数個である場合、蓄電池51は直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。蓄電池51は、蓄電した電力を推進装置6および周辺機器11に供給する。
【0028】
上記のように、電力供給部100が複数の燃料電池31と少なくとも1つの蓄電池51とを有することにより、燃料電池船SHの航行中に、複数の燃料電池31のいずれかが何らかの原因で故障した場合でも、または機器寿命に達した場合でも、残りの燃料電池31で発電を継続させ、その燃料電池31で発生した電力を推進装置6に供給して推進装置6を稼働させることができる。また、全ての燃料電池31における発電が何らかの原因で停止した場合、または機器寿命に到達して停止した場合でも、少なくとも1つの蓄電池51に蓄えられた電力を推進装置6に供給して推進装置6を稼働させることができる。つまり、燃料電池船SHの航行中に、少なくともいずれかの燃料電池31の故障が発生した場合、または機器寿命に達した場合でも、燃料電池船SHが航行中の海上で停止してしまう事態を回避することができる。
【0029】
燃料電池船SHの燃料ガス貯留部4は、燃料タンク41を有する。燃料タンク41は、燃料電池31に供給する燃料としての燃料ガスを収容する。本実施形態では、燃料タンク41は複数個設けられる。つまり、燃料電池船SHは、燃料を収容する複数の燃料タンク41を備える。上記した複数の燃料電池31のそれぞれは、少なくとも1つの燃料タンク41と燃料ガス供給配管32(
図11参照)を介して接続される。そして、各燃料電池31には、少なくとも1つの燃料タンク41から燃料ガスが供給される。
【0030】
ここで、
図2に示すように、燃料電池船SHに、燃料タンク41が例えば5個設けられるとする。説明の便宜上、各燃料タンク41を、個別タンク41a~41eとも称する。つまり、複数の燃料タンク41は、燃料ガスを収容する複数の個別タンク41a~41eを含む。
【0031】
本実施形態では、複数の燃料タンク41は、特に、個別タンク41aおよび41bを含む。個別タンク41aおよび41bは、複数の燃料電池31のうちで2以上の同じ燃料電池31(
図2では例えば燃料電池31aおよび31b)と接続される。
【0032】
この構成では、燃料電池船SHの航行中に、複数の燃料電池31のいずれか(例えば燃料電池31a)が何らかの原因で故障した場合でも、または機器寿命に達した場合でも、残りの燃料電池31(例えば燃料電池31b)に対して個別タンク41aおよび41bから燃料ガスを供給して発電を継続させ、燃料電池船SHを継続して航行させることができる。したがって、この場合、各個別タンク41aおよび41bに収容された燃料ガスを有効利用することができる(他の燃料電池31bの駆動のために使い切ることができる)。
【0033】
複数の燃料タンク41のうち、個別タンク41cおよび41dは、それぞれ同じ燃料電池31cに接続されて同じ燃料電池31cに燃料ガスを供給する。個別タンク41eは、1つの燃料電池31dと接続されて1つの燃料電池31dにのみ燃料ガスを供給する。
【0034】
図3は、燃料電池船SHの他の構成を模式的に示すブロック図である。なお、同図では、便宜上、
図2で示した燃料ガス貯留部4の図示を省略している。同図に示すように、推進装置6と電力供給部100とを1セットの推進動力装置60としたとき、燃料電池船SHは、推進動力装置60を2セット有していてもよいし、図示はしないが3セット以上有していてもよい。つまり、燃料電池船SHは、推進装置6と電力供給部100との組を複数有していてもよい。なお、各推進動力装置60を特に区別する必要がある場合、各推進動力装置60を推進動力装置60aおよび推進動力装置60bと呼ぶ。推進動力装置60aおよび推進動力装置60bにおける電力供給部100の構成は、
図2と同じとする。
【0035】
この構成では、燃料電池船SHの航行中に、いずれかの組(例えば推進動力装置60a)で燃料電池31または推進装置6に何らかの原因で故障が発生した場合でも、他の組(例えば推進動力装置60b)の稼働によって燃料電池船SHの航行を継続させることができる。その結果、燃料電池船SHが航行中に停止する事態を回避することができる。
【0036】
〔3.燃料電池船の運用計画について〕
次に、燃料電池船SHの運用計画について説明する。なお、ここでは、例として、燃料電池船SHが燃料電池31を6台搭載しているとし、燃料電池船SHの運用開始時点で搭載している燃料電池31を、燃料電池A0、B0、C0、D0、E0およびF0とする。
【0037】
図4は、燃料電池船SHの運用計画としての各燃料電池31の交換計画を模式的に示すタイムチャートである。各燃料電池31の交換は、典型的には、燃料電池船SHがメンテナンスのためにドッグ入りする際に実施される。ここで、中型船舶または大型船舶がドッグ入りする時期は、1年~3年に1回程度であることが一般的である。航行途中で燃料電池31が寿命に達したとき、燃料電池31の交換のためだけにドック入りすることは、船の運用計画に影響し、著しく経済性が損なわれてしまう。このため、燃料電池31の寿命による交換のタイミングは、予め設定された運用計画に基づく、燃料電池船SHのドック入りのタイミング(メンテナンス時期)に合わせることが望ましい。
【0038】
本実施形態では、
図4に示すように、予め計画されている2年ごとのドック入りのタイミングで、2台または3台の燃料電池31を交換しながら、常に全台が運転可能な状態を維持する。例えば、燃料電池A0は、運用開始から2年後には、燃料電池A1に交換され、さらに4年後(運用開始から6年後)には、燃料電池A2に交換される。燃料電池B0についても同様に、運用開始から2年経過後に燃料電池B1に交換され、さらに4年後に燃料電池B2に交換される。燃料電池C0は、運用開始から4年経過後に燃料電池C1に交換され、さらに4年後に燃料電池C2に交換される。燃料電池D0も同様に、運用開始から4年経過後に燃料電池D1に交換され、さらに4年後に燃料電池D2に交換される。燃料電池E0は、運用開始から4年経過後に燃料電池E1に交換される。燃料電池F0は、運用開始から6年経過後に燃料電池F1に交換される。
【0039】
なお、図中の「高負荷」は、燃料電池31の劣化を促進させる運転、つまり、運転時間に対する燃料電池31の劣化の進行速度が相対的に速い運転(高負荷運転)を示す。一方、「低負荷」は、燃料電池31の劣化を抑制する運転、つまり、運転時間に対する燃料電池31の劣化の進行速度が相対的に遅い運転(低負荷運転)を示す。燃料電池31の劣化とは、例えば、燃料電池31の電極(アノード極、カソード極)に含まれる触媒(例えば白金)の劣化を指す。
【0040】
各燃料電池31の運転パターン(高負荷運転/低負荷運転)は、燃料電池31の仕様と燃料電池船SHの運用計画とに基づいて予め設定される。運転パターンの設定は、メンテナンスごとに確認される実際の燃料電池31の劣化状態に応じて更新される。なお、燃料電池船SHの運航パターンを機械学習し、実際の燃料電池31の劣化状況から最適な交換計画を制御部12aが自動的に判断してもよい。
【0041】
〔4.燃料電池の劣化率について〕
本実施形態では、上記した燃料電池31の劣化の度合いのことを、「劣化率」とも呼ぶ。劣化率は、燃料電池31のスタックを構成するセルに単位面積当たり所定値の電流を流したときのセル電圧に対応し、0~100%の値をとる。劣化率0%は、燃料電池31の初期状態での上記セル電圧(劣化なしの状態)に対応する。劣化率100%は、燃料電池31が劣化して交換が必要になるときの上記セル電圧に対応する。
【0042】
図5は、燃料電池31の運転時間T(hour)とセル電圧Vc(V)との関係を模式的に示している。縦軸のセル電圧Vcは、燃料電池スタックのセルの単位面積当たり0.6Aの電流(すなわち0.6A/cm
2)を流した際の、セル1枚当たりの電圧を示す。ここでは、燃料電池31の初期状態(運転時間0時間)において、Vc=V0=0.75Vとする。すなわち、セル電圧VcがV0である燃料電池31は、劣化率が0%であることを示す。なお、上記の電流値および電圧値などは例示であり、上記の値に限定されるわけではない。なお、
図5において、実線のグラフは、劣化を抑制した低負荷運転を行ったときのセル電圧の変化を示し、破線のグラフは、劣化を促進させた高負荷運転を行ったときのセル電圧の変化を示す。
【0043】
燃料電池31は、運転時間が長くなるにつれて劣化が進行する。そして、燃料電池31の劣化の進行に伴い、
図5に示すように、セル電圧Vは低下していく。ここでは、セル電圧Vが初期状態から10%低下した値(V=VL=0.67V)に到達したときの燃料電池31の状態を、劣化率100%としている。前述の通り、V=VLに到達するタイミングは、メンテナンス日時と一致することが望ましい。なお、劣化率100%となるセル電圧の低下量およびセル電圧は、燃料電池31の電極(触媒)の材料および表面積等に応じて適宜設定可能であり、上記の「10%」および「0.67V」に限定されるわけではない。
【0044】
〔5.燃料電池の劣化率の調整について(低出力側)〕
図6は、燃料電池1台当たりの発電出力Pと劣化の進行速度Dv(%/h)との関係を示している。劣化の進行速度Dvは、単位時間あたりの燃料電池31の劣化率の変化量(低下量)を指す。
【0045】
上記した低負荷運転とは、
図6の曲線において、燃料電池31の劣化の進行速度Dvの低い領域で燃料電池31を発電させることを指す。例えば、燃料電池31の発電出力Pが20kW以上110kW以下となるような運転は、燃料電池31の劣化の進行速度Dvが所定値Dth以下となるため、低負荷運転となる。なお、燃料電池船SHが完全に停止し、燃料電池31の発電出力P=0(kW)であるとき、燃料電池31の劣化の進行速度Dvは、最も低いゼロとなる。
【0046】
一方、高負荷運転とは、
図6の曲線において、燃料電池31の劣化の進行速度Dvの高い領域で燃料電池31を発電させることを指す。例えば、燃料電池31の発電出力Pが20kW未満となる運転、または発電出力Pが110kWを超える運転は、燃料電池31の劣化の進行速度Dvが所定値Dthよりも大きくなるため、高負荷運転となる。
【0047】
また、例えば、燃料電池船SHが完全に停止しても、照明機器などの周辺機器11を駆動する目的で、発電出力Pが0<P≦20kWとなる範囲内で燃料電池31の発電を続けた場合、
図6より、燃料電池31の劣化の進行速度Dvは所定値Dthを上回る。この状態では、燃料電池31は高負荷運転となり、燃料電池31の劣化が促進される。さらに、燃料電池31の起動と停止とを頻繁に繰り返すことは、発電出力Pが20kW未満となるような燃料電池31の運転を続けることになるため、燃料電池31の劣化を促進させる高負荷運転となる。
【0048】
燃料電池31の劣化の進行速度Dvが所定値Dthとなるときの燃料電池31の発電出力Pを、ここではPdegと定義する。
図6より、発電出力Pdegは、燃料電池31の劣化の進行速度Dvが所定値(所定値Dth)以下に収まる燃料電池31の発電出力Pの範囲(20≦P≦110kW)の下限値(例えば20kW)であるとも言える。
【0049】
ここで、
図6のように、Pdeg=20kWとした場合、燃料電池31を6台搭載した燃料電池船SHでは、船内で消費される電力(電力要求)が20kW×6=120kW以下であれば、その120kW以下の電力が6台で均等に分割されるように各燃料電池31を運転したときに、全ての燃料電池31で劣化が促進されることになる。つまり、低負荷運転で運用される燃料電池31であっても、高負荷運転となる。この場合、低負荷運転で運用される燃料電池31の交換が必要となる交換目安時期が、当初の交換予定時期(メンテナンス時期)から早まる虞がある。
【0050】
また、燃料電池船SHの停泊時間の長さによっては、発電を停止させることが、劣化を抑制する場合もあり得るし、劣化を促進させる場合もあり得る。例えば、燃料電池船SHの停泊時間が短いと、発電停止から短時間で燃料電池31の発電が再開されることになる。燃料電池31の発電および停止を繰り返すことは、上記したように、発電出力Pが20kW未満となるような燃料電池31の運転を続けるために燃料電池31の劣化を促進させる。一方、燃料電池船SHの停泊時間が長い場合、燃料電池31の発電停止期間が長くなるため、燃料電池31の劣化の進行速度がゼロとなる時間が長くなり、結果的に、燃料電池31の劣化が抑制される。
【0051】
そこで、本実施形態では、1台の燃料電池31の発電出力PがPdegを下回ったときに、少なくともいずれかの燃料電池31の発電を停止させて、燃料電池31の劣化の進行速度Dvおよび劣化率を調整する。これにより、燃料電池31の劣化を促進または抑制して、燃料電池31の交換目安時期を交換予定時期に近づける、または一致させることができる。
【0052】
上述した本実施形態の制御部12aは、複数の燃料電池31のそれぞれの劣化率を調整する劣化率制御部として機能する。すなわち、本実施形態の燃料電池船SHは、複数の燃料電池31のそれぞれの劣化の度合いを示す劣化率を調整する劣化率制御部としての制御部12aを備える。
【0053】
以下、制御部12aによる燃料電池31の劣化率の調整の手順について、具体的に説明する。
図7は、燃料電池31の劣化率の調整の流れを示すフローチャートである。
【0054】
まず、制御部12aは、燃料電池船SHで消費される電力負荷W(kW)が、第1閾値Wth1以下になっているか否かを判断する(S1)。ここで、第1閾値Wth1は、燃料電池1台の上記した発電出力Pdeg(kW)と、燃料電池31の搭載数Nfc(個)とに応じて決まる値であり、具体的には、Wth1=Pdeg×Nfcである。
【0055】
図8は、燃料電池船SHの電力負荷Wの時間経過に対する推移を示すグラフである。燃料電池船SHの電力負荷Wは、燃料電池船SHで消費される電力負荷のトータルであり、これには周辺機器11で消費される電力も含まれる。同図に示すように、W≦Wth1となった時点t1で、制御部12aは燃料電池31の劣化率の調整を開始する。なお、S1にて、W>Wth1である場合、制御部12aは、劣化率の調整を行わずにそのまま待機する。
【0056】
S1にて、W≦Wth1である場合、次に、制御部12aは、燃料電池船SHが停泊中であるか否かを判断する(S2)。例えば、燃料電池船SHの運用計画に基づき、船内で要求される電力が一定期間(例えば48時間)の間、所定値よりも小さくなることが予想される場合、制御部12aは、燃料電池船SHが停泊中であると判断することができる。一方、上記の予想ができない場合、制御部12aは、燃料電池船SHが停泊中ではないと判断することができる。
【0057】
S2にて、燃料電池船SHが停泊中であると判断した場合、制御部12aは、停泊予想時間Tsが所定時間T1(例えば48時間)以上であるか否かを判断する(S3)。上記の停泊予想時間Tsは、予め操船者が入力部を操作することによって設定される時間であってもよいし、燃料電池船SHの運用計画に基づく機械学習によって取得される時間であってもよい。
【0058】
S3にて、Ts≧T1である場合、制御部12aは、劣化を抑制したい燃料電池31、つまり、低負荷運転で運用される燃料電池31の発電を停止させる(S4)。この場合、上述したように、燃料電池31の発電停止期間が長いことから、低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化が抑制される。一方、高負荷運転で運用される燃料電池31は、発電し続けるため、劣化が進行し、結果的に劣化が促進される。S2にて、燃料電池船SHが停泊中でない場合もS4に進む。その結果、低負荷運転で運用される燃料電池31については劣化が抑制され、高負荷運転で運用される燃料電池31については劣化が促進される。高負荷運転で運用される燃料電池31が複数存在する場合、制御部12aは、S1の電力負荷Wを、上記燃料電池31の台数で均等に割り、上記燃料電池31から、分担した電力を出力させる(S5)。
【0059】
一方、S3にて、Ts<T1である場合、制御部12aは、劣化を促進させたい燃料電池31、つまり、高負荷運転で運用される燃料電池31の発電を停止させる(S6)。この場合、高負荷運転で運用される燃料電池31は、発電停止後に短期間で発電が再開される(予定である)ため、結果的に劣化が促進される。一方、低負荷運転で運用される燃料電池31は、発電が継続されるが、短期間での発電および停止が繰り返されないため、劣化の促進が起こらず、相対的に劣化が抑制される。低負荷運転で運用される燃料電池31が複数存在する場合、制御部12aは、S1の電力負荷Wを、上記燃料電池31の台数で均等に割り、上記燃料電池31から、分担した電力を出力させる(S7)。
【0060】
図9は、燃料電池31の運転時間Tに対する劣化率Dの変化を模式的に示す。なお、図中の実線のグラフは、劣化を抑制した低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化率Dの変化を示し、破線のグラフは、劣化を促進させた高負荷運転で運用される燃料電池31の劣化率Dの変化を示す。また、燃料電池31の交換に適した劣化率DをDexで表す。本実施形態では、Dex=100%とする。
【0061】
制御部12aが、上記のように所定の燃料電池31の発電を停止させることにより、燃料電池31の劣化の進行速度Dvを調整して、劣化率Dを調整することができる。これにより、高負荷運転で運用される燃料電池31の交換目安時期Tc1を、ドッグ入りのタイミングである交換予定時期Tm1に近づける、または一致させることが可能となり、その交換予定時期Tm1のメンテナンスの際に、高負荷運転で運用される燃料電池31を交換することが可能となる。また、同様に、低負荷運転で運用される燃料電池31の交換目安時期Tc2を、ドッグ入りのタイミングである交換予定時期Tm2に近づける、または一致させることが可能となり、その交換予定時期Tm2のメンテナンスの際に、低負荷運転で運用される燃料電池31を交換することが可能となる。
【0062】
つまり、各燃料電池31の劣化率Dが各燃料電池31の劣化による交換に適した劣化率Dexに到達する時期を交換目安時期Tcとし、予め設定された各燃料電池31の交換時期を交換予定時期Tmとしたとき、劣化率制御部としての制御部12aは、各燃料電池31のそれぞれについて、交換目安時期Tcが交換予定時期Tmに近づくまたは一致するように(上記の例では、Tc1がTm1に、Tc2がTm2に近づくまたは一致するように)、(運用開始から所定期間(例えば10年)の間で少なくとも1つの燃料電池31の劣化率Dを調整する。これにより、燃料電池船SHのドッグ入り(メンテナンス)のタイミングで、各燃料電池31の交換作業を行うことができ、燃料電池船SHの効率的な運用が可能となる。また、燃料電池船SHの航行途中で各燃料電池31が劣化して寿命を迎え、航行途中で各燃料電池31の交換が必要となる事態を回避することもできる。
【0063】
また、制御部12aは、燃料電池船SHで消費される電力負荷Wが、燃料電池31の劣化の進行速度Dvが所定値Dth以下となる燃料電池31の発電出力Pの下限値Pdegと、燃料電池31の搭載数Nfcとに応じて決まる第1閾値Wth1以下になったときに、燃料電池31の劣化率を調整する(S1~S5)。しかも、制御部12aは、第1閾値Wth1以下の状態が継続される予想時間(停泊予想時間Ts)に応じて、劣化率の調整の仕方を異ならせる(S3、S4、S6)。
【0064】
船内の電力負荷Wが第1閾値Wth1以下になったときに各燃料電池31を均等の出力で発電させると、全ての燃料電池31の劣化が促進される。W≦Wth1のときに劣化率調整を行い、停泊予想時間Tsに応じて劣化率の調整の仕方を異ならせることにより、低負荷運転で運用される燃料電池31については劣化を抑制して、その交換目安時期Tc2を交換予定時期Tm2に近づける、または一致させることができる。また、高負荷運転で運用される燃料電池31についてはそのまま劣化を促進させて、その交換目安時期Tc1を交換予定時期Tm1に近づける、または一致させることができる。
【0065】
また、複数の燃料電池31は、燃料電池船SHの運用計画に基づいて、高負荷運転で運用される燃料電池31と、低負荷運転で運用される燃料電池31と、を含む。そして、制御部12aは、燃料電池船SHが運用計画に基づいて停泊することが予想される状態であるか否かを判断し(S2)、上記停泊が予想されない場合には、低負荷運転で運用される燃料電池31の発電を停止させる(S4)。この場合、低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化が抑制されるため、上記燃料電池について、交換目安時期Tc2と交換予定時期Tm2とが大きくずれる事態を低減することができる。
【0066】
また、制御部12aは、燃料電池船SHの停泊予想時間Tsが、運用計画に応じて決まる所定時間T1以上である場合に、低負荷運転で運用される燃料電池31の発電を停止させる(S3、S4)。長時間の発電停止により、低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化が抑制される。これにより、上記燃料電池31について、交換目安時期Tc2と交換予定時期Tm2とが大きくずれる事態を低減することができる。
【0067】
また、制御部12aは、燃料電池船SHの電力負荷Wを、高負荷運転で運用される複数の燃料電池31の台数で均等に分担し、高負荷運転で運用される各燃料電池31から、分担した電力を出力させる(S5)。この場合、高負荷運転で運用される複数の燃料電池31の劣化を同程度で進行させて、上記各燃料電池31が寿命を迎えるタイミングを揃えることができる。これにより、上記各燃料電池31をまとめて交換する作業が非常に有効となる。
【0068】
また、制御部12aは、燃料電池船SHの停泊予想時間Tsが所定時間T1未満である場合に、高負荷運転で運用される燃料電池31の発電を停止させる(S6)。短期間での燃料電池31の発電停止および起動は、却って燃料電池31の劣化を進行させる要因となる。Ts<T1である場合、高負荷運転で運用される燃料電池31の発電が停止してから短期間で(停泊予想時間Tsが所定時間T1に到達した後に)、上記燃料電池31が起動されることが予想される。短期間での上記燃料電池31の停止および起動による劣化の促進により、運用計画に基づく適切な交換予定時期Tm1に、高負荷運転で運用される燃料電池31の交換目安時期Tc1を近づけて(または一致させて)、適切なタイミングで交換作業を行うことができる。
【0069】
また、制御部12aは、燃料電池船SHの電力負荷Wを、低負荷運転で運用される燃料電池31の台数で均等に分担し、低負荷運転で運用される各燃料電池31から、分担した電力を出力させる(S7)。この場合、低負荷運転で運用される複数の燃料電池31の劣化を同程度で進行させて、上記各燃料電池31が寿命を迎えるタイミングを揃えることができる。これにより、上記各燃料電池31をまとめて交換する作業が非常に有効となる。
【0070】
なお、高負荷運転で運用される燃料電池31の劣化が想定以上に進み、交換目安時期Tc1よりも早く寿命に到達すると判断した場合、上記燃料電池31を一時的に低負荷運転に切り替えて、上記燃料電池31の劣化率を調整してもよい。
【0071】
〔6.燃料電池の劣化率の調整について(高出力側)〕
先の説明で参照した
図6に示すように、燃料電池31の劣化の進行速度Dvは、燃料電池31の発電出力Pが高くなっても増大する。これは、燃料電池31の各セルに電流を多く流すと、燃料電池31を冷却媒体によって冷却したとしても、燃料電池31の温度が局所的に高くなるためである。このため、例えば、低負荷運転で運用される燃料電池31から、定格出力Prated(kW)を超える電力を出力させると、劣化を抑制したいにもかかわらず、劣化を促進させることとなる。
【0072】
そこで、本実施形態では、燃料電池船SHの電力負荷Wが大きい場合には、劣化率制御部としての制御部12aは以下の制御を行うことにより、低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化を抑制するようにしている。以下、この点について説明する。
【0073】
図10は、燃料電池31の他の劣化率の調整の流れを示すフローチャートである。まず、制御部12aは、燃料電池船SHで消費される電力負荷Wが、第2閾値Wth2以上であるか否かを判断する(S11)。ここで、第2閾値Wth2は、燃料電池1台の定格出力Pratedと、燃料電池31の搭載数Nfc(個)とに応じて決まる値であり、具体的には、Wth2=Prated×Nfcである。
【0074】
なお、Pratedは、例えば80(kW)であるが(
図6参照)、この値に限定されるわけではなく、燃料電池31の電極の材料、表面積等に応じて適宜設定可能である。なお、燃料電池31の最大出力をPmax(kW)としたとき、Prated<Pmaxである。
【0075】
S11にて、W≧Wth2である場合、制御部12aは、少なくとも1つの燃料電池31の劣化率を調整する(S12)。例えば、制御部12aは、劣化を抑制したい燃料電池31、つまり、低負荷運転で運用される燃料電池31の発電出力Preq(kW)を、定格出力Prated以下に設定する(S12)。言い換えれば、低負荷運転で運用される燃料電池31を、Preq≦Pratedを満足する発電出力Preqで運転させる。これにより、低負荷運転で運用される燃料電池31の発電出力がPreqに抑えられるため、上記燃料電池31の劣化が抑制され、その劣化率が低下する。このとき、制御部12aは、高負荷運転で運用される燃料電池31の発電出力を、定格出力Prated以上に設定してもよい。この場合、高負荷運転で運用される燃料電池31の劣化率を増大させて、その劣化を促進させることができる。
【0076】
このように、制御部12aは、燃料電池船SHで消費される電力負荷Wが、燃料電池31の定格出力Pratedと、燃料電池31の搭載数Nfcとに応じて決まる第2閾値Wth2以上であるときに、(少なくとも1つの)燃料電池31の劣化率を調整する。これにより、燃料電池船SHの電力負荷Wが大きい場合でも、低負荷運転で運用される燃料電池31については、劣化率を低下させて、劣化を抑制することができる。したがって、低負荷運転で運用される燃料電池31について、劣化を抑制したいにもかかわらず、劣化が促進される事態を回避することができる。一方、高負荷運転で運用される燃料電池31については、上述のように劣化率を増大させて劣化を促進させることができる。
【0077】
また、制御部12aは、複数の燃料電池31のうち、低負荷運転で運用される燃料電池31、つまり、劣化を抑制する対象となる燃料電池31の発電出力Preqを、定格出力Prated以下に設定する(S12)。これにより、燃料電池船SHの電力負荷Wが大きい場合でも、低負荷運転で運用される燃料電池31の劣化を確実に抑制することができる。
【0078】
〔7.燃料電池船の内部構造について〕
次に、上述した燃料電池船SHの内部構造の詳細について説明する。
図11は、燃料電池船SHの内部構造を模式的に示す説明図である。なお、
図11では、空気の流れを、破線の矢印で示す。
図11では、図面右側を船首側とし、図面左側を船尾側とした上で、各部材を図示しているが、各部材の接続関係が維持されるのであれば、各部材の位置は
図11で示した位置には限定されない。
【0079】
燃料電池船SHは、機関室13と、燃料室14と、を備える。機関室13および燃料室14は、船体1の甲板1aの下部に配置される。言い換えると、機関室13および燃料室14は、船体1の甲板1aと底板1bとの間に配置される。なお、底板1bは、甲板1aと船底部1c(
図1参照)との間に位置する。
【0080】
機関室13は燃料室14に対して船首側に位置する。甲板1aの下部には、船首側から船尾側に向かって順に隔壁W1、W2およびW3が位置している。機関室13は、隔壁W1およびW2によって他の空間から仕切られている。燃料室14は、隔壁W2およびW3によって他の空間から仕切られている。隔壁W1~W3は、例えば繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で構成されるが、鉄板であってもよい。
【0081】
(7-1.燃料電池システムの構成)
燃料電池船SHの燃料電池システム3は、機関室13内に位置する。燃料電池システム3は、上述した燃料電池31と、燃料ガス供給配管32と、燃料電池側遮断弁33と、を有する。燃料電池側遮断弁33は、周辺機器11(
図1参照)の一例である。
【0082】
燃料ガス供給配管32は、燃料ガス貯留部4の後述する燃料タンク41に収容された燃料ガスを、燃料電池31のアノード極に供給するための燃料供給配管である。
【0083】
燃料電池側遮断弁33は、燃料ガス供給配管32の流路を開放または閉塞する遮断弁SVの一例である。燃料電池側遮断弁33の開閉は、制御部12a(
図1参照)によって制御される。具体的には、燃料電池側遮断弁33は、制御部12aの制御に基づき、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給と供給停止とを切り替える。燃料電池側遮断弁33は、後述する燃料電池区画30内で、燃料ガス供給配管32に1つだけ設けられているが、2つ以上設けられてもよい。
【0084】
燃料電池船SHは、燃料電池区画30をさらに備える。燃料電池区画30は、燃料電池31を収容する収容体であり、機関室13に配置される。なお、
図11では、便宜上、燃料電池区画30を1つのみ図示しているが、本実施形態の燃料電池船SHは、上述したように燃料電池31を複数有しているため(
図2等参照)、燃料電池区画30も各燃料電池31に対応して複数設けられる。
【0085】
燃料電池区画30は、中空の形状を有する。例えば、燃料電池区画30は、中空の略直方体形状を有する。この場合、燃料電池区画30を構成する外壁は、例えば、天壁30a、底壁30b、正面壁(不図示)、背面壁(不図示)、側壁30c、および側壁30dを有する。ただし、燃料電池区画30の天面、底面、正面、背面、および側面は、任意に定めることができる。また、燃料電池区画30の形状は、燃料電池31を収容できる空間を有する限り、特に限定されない。燃料電池区画30は、燃料電池31を収容する、容器、チャンバー、またはボックスと捉えることもできる。燃料電池区画30の外壁の素材は、例えばFRPであるが、鉄板であってもよい。
【0086】
燃料電池区画30の側壁30dには、電池区画給気口30eが開口して設けられている。電池区画給気口30eは、後述する電池区画給気管35と接続される。なお、電池区画給気口30eは、燃料電池区画30において、側壁30d以外の外壁に設けられてもよい。
【0087】
一方、燃料電池区画30の側壁30cには、電池区画排気口30fが開口して設けられている。電池区画排気口30fは、後述するダクト区画90と連通している。なお、電池区画排気口30fは、燃料電池区画30において、側壁30c以外の外壁に設けられてもよい。
【0088】
燃料電池区画30は、電池区画給気口30eおよび電池区画排気口30fを除いて密閉された空間を内部に有する。
【0089】
燃料電池区画30内には、前述した燃料ガス供給配管32の一部と、燃料電池側遮断弁33と、が収容される。また、燃料電池区画30内には、さらに、電池区画内部ガス検知器34aと、電池区画内部火災検知器34bと、が収容される。
【0090】
電池区画内部ガス検知器34aは、燃料電池区画30の内部に配置される燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、電池区画内部ガス検知器34aは、水素ガス検知センサで構成される。
【0091】
電池区画内部ガス検知器34aは、燃料電池区画30の上部に位置する天壁30aの内面に配置される。燃料ガスとしての水素ガスは、空気よりも軽く、上昇する。このため、燃料電池区画30の天壁30aに電池区画内部ガス検知器34aが配置されることにより、燃料電池区画30内で燃料ガスが漏れた場合でも、漏れた燃料ガスを電池区画内部ガス検知器34aによって確実に検知することができる。なお、電池区画内部ガス検知器34aの設置位置は、燃料電池区画30内で燃料ガスが漏れたときに、上記燃料ガスが流れる流路の最も下流側に位置する構成でも良い。
【0092】
電池区画内部ガス検知器34aが燃料電池区画30内で燃料ガスを検知したとき、その検知信号は、電池区画内部ガス検知器34aから制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、燃料ガス供給配管32に設けられた燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。
【0093】
電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の内部に配置される火災検知器である。電池区画内部火災検知器34bは、例えば、煙を検知する煙センサ、熱を検知する熱センサ、炎を検知する炎センサのうち、1つ以上のセンサを含む。電池区画内部火災検知器34bは、熱電対式の火災検知器で構成されてもよい。
【0094】
電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の上部に位置する天壁30aの内面に配置される。電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の内部で火災が万が一発生したときに、その火災を検知して、火災が発生したことを示す検知信号を制御部12a(
図2参照)に出力する。この場合、制御部12aは、燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。これにより、燃料電池区画30において、上記燃料ガスへの引火による爆発の危険性を極力低減することができる。
【0095】
燃料電池区画30には、電池区画給気管35が接続される。電池区画給気管35は、燃料電池区画30の電池区画給気口30eから甲板1aまで延びており、甲板1aの上面から露出する。
【0096】
電池区画給気管35の甲板1a側の端部には、電池区画給気装置36と、電池区画外部ガス検知器37と、が配置される。電池区画給気装置36および電池区画外部ガス検知器37は、甲板1aの上部に位置する。
【0097】
電池区画給気装置36は、例えば安価な非防爆型の給気ファンで構成されるが、防爆型の給気ファンで構成されてもよい。電池区画給気装置36の駆動は、制御部12aによって制御される。電池区画給気装置36には、1つ以上のフィルタ(不図示)が配置されてもよい。上記フィルタは、例えば、塵埃または海塩粒子を除去する。
【0098】
電池区画給気装置36は、燃料電池区画30の外部の空気を、電池区画給気管35および電池区画給気口30eを介して、燃料電池区画30の内部に供給する。燃料電池区画30の内部の空気は、電池区画排気口30fを介してダクト区画90に排出される。これにより、燃料電池区画30の内部が換気される。その結果、燃料電池区画30内で可燃ガス(例えば燃料電池31から漏れた燃料ガス)が滞留することを抑制することができる。
【0099】
電池区画外部ガス検知器37は、燃料電池区画30の外部から内部に流入する可燃ガス(例えば船体1の周囲に漂う水素ガスなど)を検知する。電池区画外部ガス検知器37は、例えば水素ガスセンサなどの可燃ガスセンサである。電池区画外部ガス検知器37は、電池区画給気装置36に対して電池区画給気管35とは反対側、つまり、燃料電池区画30の外部から内部に向かう空気の流れの上流側に配置される。なお、電池区画外部ガス検知器37は、水素ガス以外の可燃ガスを検知するガスセンサで構成されてもよい。水素ガス以外の可燃ガスには、例えばメタン、エタン、プロパン、一酸化炭素などが含まれる。
【0100】
電池区画外部ガス検知器37は、例えば、可燃ガスの濃度を示す検知信号を制御部12aに出力する。これにより、制御部12aは、上記検知信号に基づいて、可燃ガスの濃度が規格値以上であるか否かを判断することができる。そして、制御部12aは、上記濃度が規格値以上である場合には、燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。なお、上記規格値は、実験および/または経験に基づいて定められればよい。
【0101】
燃料電池船SHは、冷却媒体タンク38と、冷却媒体配管39と、さらに備える。冷却媒体タンク38は、燃料電池31を冷却するための冷却媒体を貯留する。冷却媒体は、例えば電気伝導率の低い不凍液である。不凍液は、例えば、純水とエチレングリコールとを所定割合で混合した液体である。冷却媒体タンク38は、密閉されているが、上部が開放されていてもよい。
【0102】
冷却媒体配管39は、燃料電池31と図示しない熱交換器の間で冷却媒体を循環させるための配管である。なお、冷却媒体配管39の途中には、図示しない循環ポンプも設けられる。循環ポンプを駆動して、熱交換器から冷却媒体配管39を介して燃料電池31に冷却媒体を供給することにより、燃料電池31が冷却される。燃料電池31の冷却に供された冷却媒体は、冷却媒体配管39を介して冷却媒体タンク38にも供給され、そこで、冷却媒体の温度変化に伴う容積変化が吸収されるとともに、冷却媒体の液量が監視される。
【0103】
冷却媒体タンク38内の上部には、冷却タンク内部ガス検知器38aが設けられている。冷却タンク内部ガス検知器38aは、冷却媒体タンク38内に存在する燃料ガスを検知する燃料ガス検知器である。冷却媒体タンク38内に存在する燃料ガスとしては、例えば、燃料電池31で漏洩し、冷却媒体配管39を介して冷却媒体タンク38内に侵入した燃料ガスが考えられる。冷却タンク内部ガス検知器38aによる燃料ガスの検知結果(例えば燃料ガスの濃度の情報)は、制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、冷却タンク内部ガス検知器38aでの検知結果に基づいて、燃料電池31での燃料ガスの漏洩の有無を判断し、漏洩ありの場合には、例えば燃料電池31での発電を停止させる制御を行うことができる。
【0104】
(7-2.燃料ガス貯留部の構成)
燃料電池船SHの燃料ガス貯留部4は、上述した燃料タンク41と、ガス充填配管42と、タンク側遮断弁43と、を有する。タンク側遮断弁43は、周辺機器11の一例である。
【0105】
燃料タンク41は、燃料電池31に供給する燃料としての燃料ガスを収容する。
図11では、便宜上、燃料タンク41を1つのみ図示しているが、燃料タンク41の個数は特に限定されず、複数個であってもよい(
図2参照)。
【0106】
ガス充填配管42は、燃料タンク41に燃料ガスを補給する、または不活性ガスを充填するための配管である。ガス充填配管42の一端側は、燃料タンク41に接続される。ガス充填配管42の他端側は、2つに分岐しており、それぞれ燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84と接続される。燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84は、後述するダクト区画90(特に上部ダクト区画80)に設けられる。
【0107】
上記の不活性ガスは、例えば窒素ガスである。例えば、ドック(船渠)内で燃料電池船SHの点検または修理などのメンテナンスを行う際に、燃料タンク41に燃料ガスが残っていると、何らかの原因で燃料ガスに引火したときに爆発が生じる危険性がある。そこで、燃料電池船SHのメンテナンス時には、燃料タンク41に不活性ガスを充填し、燃料タンク41から燃料ガスを取り除く。これにより、上記爆発の危険性を回避することができる。
【0108】
前述した燃料ガス供給配管32において、燃料電池31との接続側とは反対側は、燃料タンク41に接続される。つまり、燃料タンク41と燃料電池31とは、燃料ガス供給配管32を介して接続される。
【0109】
タンク側遮断弁43は、燃料ガス供給配管32の流路を開放または閉塞する遮断弁SVの一例である。タンク側遮断弁43の開閉は、制御部12aによって制御される。具体的には、タンク側遮断弁43は、制御部12aの制御に基づき、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給と供給停止とを切り替える。タンク側遮断弁43は、後述するタンク区画40内で、燃料ガス供給配管32に1つだけ設けられているが、2つ以上設けられてもよい。
【0110】
つまり、燃料タンク41と燃料電池31とを接続する燃料ガス供給配管32は、少なくとも2つの遮断弁SVを有する、と言える。上記少なくとも2つの遮断弁SVは、燃料電池側遮断弁33およびタンク側遮断弁43を含む。
【0111】
燃料電池船SHは、タンク区画40をさらに備える。タンク区画40は、少なくとも1つの燃料タンク41を収容する収容体である。タンク区画40は、燃料室14に配置される。タンク区画40の個数は特に限定されず、1個であってもよいし、複数個であってもよい。
【0112】
タンク区画40は、中空の形状を有する。例えば、タンク区画40は、中空の略直方体形状を有する。この場合、タンク区画40を構成する外壁は、例えば、天壁40a、底壁40b、正面壁(不図示)、背面壁(不図示)、側壁40c、および側壁40dを有する。ただし、タンク区画40の天面、底面、正面、背面、および側面は、任意に定めることができる。また、タンク区画40の形状は、少なくとも1つの燃料タンク41を収容できる空間を有する限り、特に限定されない。タンク区画40は、燃料タンク41を収容する、容器、チャンバー、またはボックスと捉えることもできる。タンク区画40の外壁の素材は、例えばFRPであるが、鉄板であってもよい。
【0113】
タンク区画40の側壁40cには、タンク区画給気口40eが開口して設けられている。タンク区画給気口40eは、後述するタンク区画給気管45と接続される。なお、タンク区画給気口40eは、タンク区画40において、側壁40c以外の外壁に設けられてもよい。
【0114】
一方、タンク区画40の天壁40aには、タンク区画排気口40fが開口して設けられている。タンク区画排気口40fは、ベント管10と連通している。ベント管10は、タンク区画40の内部の空気を船外に導くための配管である。なお、タンク区画排気口40fは、タンク区画40において、天壁40a以外の外壁に設けられてもよい。
【0115】
タンク区画40は、タンク区画給気口40eおよびタンク区画排気口40fを除いて密閉された空間を内部に有する。
【0116】
タンク区画40内には、前述した燃料ガス供給配管32の一部と、タンク側遮断弁43と、が収容される。また、タンク区画40内には、さらに、タンク区画内部ガス検知器44aと、タンク区画内部火災検知器44bと、が収容される。
【0117】
タンク区画内部ガス検知器44aは、タンク区画40の内部に配置される燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、タンク区画内部ガス検知器44aは、水素ガス検知センサで構成される。
【0118】
タンク区画内部ガス検知器44aは、タンク区画40の上部に位置する天壁40aにおいて、タンク区画排気口40fに近い位置またはタンク区画排気口40fの内部に配置される。タンク区画40内で、燃料タンク41から燃料ガスが万が一漏れた場合、漏れた燃料ガスは、タンク区画排気口40fを通ってベント管10に向かう。つまり、タンク区画排気口40fは、タンク区画40内で燃料ガスが漏れたときに、上記燃料ガスが流れる流路の最も下流側に位置する。したがって、タンク区画排気口40fに近い位置またはタンク区画排気口40fの内部にタンク区画内部ガス検知器44aが配置されることにより、タンク区画40内で燃料ガスがどの位置で漏れた場合でも、漏れた燃料ガスを、流路の最も下流側に位置するタンク区画内部ガス検知器44aで確実に検知することができる。
【0119】
タンク区画内部ガス検知器44aがタンク区画40内で燃料ガスを検知したとき、その検知信号は、タンク区画内部ガス検知器44aから制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、燃料ガス供給配管32に設けられたタンク側遮断弁43および燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができるとともに、放出弁72を開放することにより、配管内部に残留する高圧水素を放出することもできる。
【0120】
タンク区画内部火災検知器44bは、タンク区画40の内部に配置される火災検知器である。タンク区画内部火災検知器44bは、例えば、煙を検知する煙センサ、熱を検知する熱センサ、炎を検知する炎センサのうち、1つ以上のセンサを含む。タンク区画内部火災検知器44bは、熱電対式の火災検知器で構成されてもよい。
【0121】
タンク区画内部火災検知器44bは、タンク区画40の上部に位置する天壁40aの内面に配置される。タンク区画内部火災検知器44bは、タンク区画40の内部で火災が万が一発生したときに、その火災を検知して、火災が発生したことを示す検知信号を制御部12aに出力する。この場合、制御部12aは、タンク側遮断弁43および燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させるとともに、放出弁72を開放することにより、配管内部に残留する高圧水素を放出することもできる。これにより、タンク区画40において、上記燃料ガスへの引火による爆発の危険性を極力低減することができる。
【0122】
タンク区画40には、タンク区画給気管45が接続される。タンク区画給気管45はタンク区画40のタンク区画給気口40eから甲板1aまで延びており、甲板1aの上面から露出する。
【0123】
タンク区画給気管45の甲板1a側の端部には、タンク区画給気装置46と、タンク区画外部ガス検知器47と、が配置される。タンク区画給気装置46およびタンク区画外部ガス検知器47は、甲板1aの上部に位置する。
【0124】
タンク区画給気装置46は、例えば安価な非防爆型の給気ファンで構成されるが、防爆型の給気ファンで構成されてもよい。タンク区画給気装置46の駆動は、制御部12aによって制御される。タンク区画給気装置46には、1つ以上のフィルタ(不図示)が配置されてもよい。上記フィルタは、例えば、塵埃または海塩粒子を除去する。
【0125】
タンク区画給気装置46は、タンク区画40の外部の空気を、タンク区画給気管45およびタンク区画給気口40eを介して、タンク区画40の内部に供給する。タンク区画40の内部の空気は、タンク区画排気口40fを介してベント管10に排出される。これにより、タンク区画40の内部が換気される。その結果、タンク区画40内で燃料タンク41から燃料ガスが漏れた場合でも、その燃料ガスの滞留を抑制することができる。
【0126】
タンク区画外部ガス検知器47は、タンク区画40の外部から内部に流入する可燃ガス(例えば船体1の周囲に漂う水素ガスなど)を検知する。タンク区画外部ガス検知器47は、例えば水素ガスセンサなどの可燃ガスセンサである。タンク区画外部ガス検知器47は、タンク区画給気装置46に対してタンク区画給気管45とは反対側、つまり、タンク区画40の外部から内部に向かう空気の流れの上流側に配置される。なお、タンク区画外部ガス検知器47は、水素ガス以外の可燃ガスを検知するガスセンサで構成されてもよい。
【0127】
タンク区画外部ガス検知器47は、例えば、可燃ガスの濃度を示す検知信号を制御部12aに出力する。これにより、制御部12aは、上記検知信号に基づいて、可燃ガスの濃度が規格値以上であるか否かを判断することができる。そして、制御部12aは、上記濃度が規格値以上である場合には、タンク側遮断弁43および燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができるとともに、放出弁72を開放することにより、配管内部に残留する高圧水素を放出することもできる。なお、上記規格値は、実験および/または経験に基づいて定められればよい。
【0128】
(7-3.ダクト区画について)
燃料電池船SHは、下部ダクト区画70および上部ダクト区画80をさらに備える。ここでは、下部ダクト区画70および上部ダクト区画80をまとめて、ダクト区画90とも呼ぶ。ダクト区画90は、各種の配管を収容する収容体である。例えば、ダクト区画90は、燃料ガス供給配管32の一部を収容する。下部ダクト区画70の内部と上部ダクト区画80の内部とは、ダクト連通部91を介して連通している。以下、下部ダクト区画70および上部ダクト区画80の詳細について説明する。
【0129】
《7-3-1.下部ダクト区画》
下部ダクト区画70は、甲板1aの下方に配置される。具体的には、下部ダクト区画70は、機関室13に配置される。機関室13内では、下部ダクト区画70は、燃料電池区画30よりも船尾側に位置する。つまり、下部ダクト区画70は、甲板1aの下方において、燃料電池区画30とタンク区画40との間に位置する。下部ダクト区画70は、燃料ガス供給配管32の一部を収容するとともに、ガス充填配管42の一部を収容する。
【0130】
ここで、下部ダクト区画70が収容する「燃料ガス供給配管32の一部」とは、燃料ガス供給配管32のうち、燃料電池区画30とタンク区画40との間に位置する部分を指す。また、下部ダクト区画70が収容する「ガス充填配管42の一部」とは、ガス充填配管42のうち、タンク区画40と上部ダクト区画80との間に位置する部分を指す。
【0131】
下部ダクト区画70の素材は、例えばFRPであるが、鉄板であってもよい。下部ダクト区画70は中空の形状を有する。例えば、下部ダクト区画70は、中空の略直方体形状を有する。この場合、下部ダクト区画70を構成する外壁は、例えば、天壁70a、底壁70b、正面壁(不図示)、背面壁(不図示)、側壁70cおよび側壁70dを有する。ただし、下部ダクト区画70の天面、底面、正面、背面および側面は、任意に定めることができる。また、下部ダクト区画70の形状は、燃料ガス供給配管32の一部等を収容できる空間を有する限り、特に限定されない。下部ダクト区画70は、燃料ガス供給配管32の一部等を収容する、容器、チャンバー、またはボックスと捉えることもできる。
【0132】
下部ダクト区画70の側壁70dには、下部ダクト区画給気口70eが開口して設けられている。下部ダクト区画給気口70eは、後述する下部ダクト区画給気管74と接続される。なお、下部ダクト区画給気口70eは、下部ダクト区画70において、側壁70d以外の外壁に設けられてもよい。
【0133】
一方、下部ダクト区画70の天壁70aには、下部ダクト区画連通口70fが開口して設けられている。下部ダクト区画連通口70fは、上述したダクト連通部91と連通している。なお、下部ダクト区画連通口70fは、下部ダクト区画70において、天壁70a以外の外壁に設けられてもよい。
【0134】
また、下部ダクト区画70の側壁70dには、電池区画連通口70gが開口して設けられている。電池区画連通口70gは、前述した燃料電池区画30の電池区画排気口30fと、連通管92を介して接続される。これにより、燃料電池区画30の内部の空気は、電池区画排気口30f、連通管92および電池区画連通口70gを介して下部ダクト区画70内に流れる。なお、電池区画連通口70gは、下部ダクト区画70において、側壁70d以外の外壁に設けられてもよい。
【0135】
なお、連通管92は、例えば内管と外管との二重管で構成される。内管は、例えば燃料ガス供給配管32で構成される。外管は、内管の径方向外側に位置する。燃料電池区画30の内部の気体は、電池区画排気口30fから、連通管92の内管と外管との間を通り、下部ダクト区画70の電池区画連通口70gに向かう。
【0136】
下部ダクト区画70は、下部ダクト区画給気口70e、下部ダクト区画連通口70fおよび電池区画連通口70gを除いて密閉された空間を内部に有する。
【0137】
下部ダクト区画70は、燃料ガス排出配管71の一部を収容する。燃料ガス排出配管71は、下部ダクト区画70内に位置する燃料ガス供給配管32から分岐して設けられる配管である。例えば、燃料ガス排出配管71は、2つの遮断弁SVの間において、燃料ガス供給配管32から分岐して設けられる。
【0138】
より具体的には、燃料ガス排出配管71は、タンク区画40内のタンク側遮断弁43と、燃料電池区画30内の燃料電池側遮断弁33との間において、燃料ガス供給配管32から分岐して設けられる。燃料ガス排出配管71は、下部ダクト区画70の内部から、下部ダクト区画連通口70fおよびダクト連通部91を介して、上部ダクト区画80の内部に延び、さらにベント管10の内部に連通する。したがって、下部ダクト区画70が収容する「燃料ガス排出配管71の一部」とは、燃料ガス排出配管71において、燃料ガス供給配管32との分岐部と、上部ダクト区画80との間に位置する部分を指す。
【0139】
下部ダクト区画70は、放出弁72をさらに収容する。放出弁72は、燃料ガス排出配管71に設置されて、燃料ガス排出配管71の流路を開放または閉塞する開閉弁である。放出弁72は、周辺機器11の一例である。放出弁72の開閉は、制御部11によって制御される。なお、放出弁72は、上部ダクト区画80に設置されていてもよい。
【0140】
下部ダクト区画70は、下部ダクト区画内部ガス検知器73をさらに収容する。下部ダクト区画内部ガス検知器73は、下部ダクト区画70の内部に配置される燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、下部ダクト区画内部ガス検知器73は、水素ガス検知センサで構成される。
【0141】
下部ダクト区画内部ガス検知器73は、下部ダクト区画70の上部に位置する天壁70aにおいて、下部ダクト区画連通口70fに近い位置、または下部ダクト区画連通口70fの内部に配置される。下部ダクト区画70内で、燃料ガス供給配管32から燃料ガスが万が一漏れた場合、漏れた燃料ガスは、下部ダクト区画連通口70fを通って上部ダクト区画80に向かう。つまり、下部ダクト区画連通口70fは、下部ダクト区画70内で燃料ガスが漏れたときに、上記燃料ガスが流れる流路の最も下流側に位置する。したがって、下部ダクト区画連通口70fに近い位置または下部ダクト区画連通口70fの内部に下部ダクト区画内部ガス検知器73が配置されることにより、下部ダクト区画70内で燃料ガスがどの位置で漏れた場合でも、漏れた燃料ガスを、流路の最も下流側に位置する下部ダクト区画内部ガス検知器73で確実に検知することができる。
【0142】
下部ダクト区画内部ガス検知器73が下部ダクト70内で燃料ガスを検知したとき、その検知信号は、下部ダクト区画内部ガス検知器73から制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、燃料ガス供給配管32に設けられた遮断弁SVを制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。
【0143】
なお、下部ダクト区画70は、下部ダクト区画70の内部での火災を検知する火災検知器をさらに収容してもよい。
【0144】
下部ダクト区画70には、下部ダクト区画給気管74が接続される。下部ダクト区画給気管74は、下部ダクト区画70の下部ダクト区画給気口70eから甲板1aまで延びており、甲板1aの上面から露出する。
【0145】
下部ダクト区画給気管74の甲板1a側の端部には、下部ダクト区画給気装置75と、下部ダクト区画外部ガス検知器76と、が配置される。下部ダクト区画給気装置75および下部ダクト区画外部ガス検知器76は、甲板1aの上部に位置する。
【0146】
下部ダクト区画給気装置75は、例えば安価な非防爆型の給気ファンで構成されるが、防爆型の給気ファンで構成されてもよい。下部ダクト区画給気装置75の駆動は、制御部12aによって制御される。下部ダクト区画給気装置75には、1つ以上のフィルタ(不図示)が配置されてもよい。上記フィルタは、例えば、塵埃または海塩粒子を除去する。
【0147】
下部ダクト区画給気装置75は、下部ダクト区画70(ダクト区画90)の外部の空気を、下部ダクト区画給気管74および下部ダクト区画給気口70eを介して、下部ダクト区画70の内部に供給する。下部ダクト区画70の内部の空気は、下部ダクト区画連通口70fを介して上部ダクト区画80に排出される。これにより、下部ダクト区画70の内部が換気される。その結果、下部ダクト区画70内で燃料ガス供給配管32から燃料ガスが漏れた場合でも、その燃料ガスの滞留を抑制することができる。
【0148】
下部ダクト区画外部ガス検知器76は、ダクト区画90の外部から内部に流入する可燃ガス(例えば船体1の周囲に漂う水素ガスなど)を検知する。下部ダクト区画外部ガス検知器76は、例えば水素ガスセンサなどの可燃ガスセンサである。下部ダクト区画外部ガス検知器76は、下部ダクト区画給気装置75に対して下部ダクト区画給気管74とは反対側、つまり、ダクト区画90の外部から内部に向かう空気の流れの上流側に配置される。なお、下部ダクト区画外部ガス検知器76は、水素ガス以外の可燃ガスを検知するガスセンサで構成されてもよい。
【0149】
下部ダクト区画外部ガス検知器76は、例えば、可燃ガスの濃度を示す検知信号を制御部12aに出力する。これにより、制御部12aは、上記検知信号に基づいて、可燃ガスの濃度が規格値以上であるか否かを判断することができる。そして、制御部12aは、上記濃度が規格値以上である場合には、遮断弁SVを制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。なお、上記規格値は、実験および/または経験に基づいて定められればよい。
【0150】
《7-3-2.上部ダクト区画》
上部ダクト区画80は、甲板1aの上部に配置される。具体的には、上部ダクト区画80は、甲板1a上で、下部ダクト区画70からタンク区画40にまたがって配置される。上部ダクト区画80は、燃料ガス排出配管71の一部を収容するとともに、ガス充填配管42の一部を収容する。
【0151】
ここで、上部ダクト区画80が収容する「燃料ガス排出配管71の一部」とは、燃料ガス排出配管71のうち、下部ダクト区画70から出てベント管10に向かって延びた部分を指す。また、上部ダクト区画80が収容する「ガス充填配管42の一部」とは、ガス充填配管42のうち、下部ダクト区画70から出て、後述する燃料ガス充填口82まで延びた部分を指す。
【0152】
上部ダクト区画80の素材は、例えばFRPであるが、鉄板であってもよい。上部ダクト区画80は中空の形状を有する。例えば、上部ダクト区画80は、中空の略直方体形状を有する。この場合、上部ダクト区画80を構成する外壁は、例えば、天壁80a、底壁80b、正面壁(不図示)、背面壁(不図示)、側壁80cおよび側壁80dを有する。ただし、上部ダクト区画80の天面、底面、正面、背面および側面は、任意に定めることができる。また、上部ダクト区画80の形状は、燃料ガス排出配管71の一部等を収容できる空間を有する限り、特に限定されない。上部ダクト区画80は、燃料ガス排出配管71の一部等を収容する、容器、チャンバー、またはボックスと捉えることもできる。
【0153】
なお、燃料ガス排出配管71は、上述の通り、ベント管10の内部に連通する。これにより、放出弁72を開放したとき、燃料ガス排出配管71の内部の気体(例えば燃料ガス)は、燃料ガス排出配管71の端部71aからベント管10の内部に流れ、ベント管10から船外に放出される。ここで、燃料ガス排出配管71の端部71aは、ベント管10の内部で上向きに、つまり、ベント管10の開放口側を向くように位置していることが望ましい。この場合、燃料ガス排出配管71の端部71aから放出される気体の吐出方向は、上向きとなる。
【0154】
例えば、燃料ガス排出配管71の端部71aから燃料ガスを横向きに吐出すると、吐出された燃料ガスがベント管10の内部の壁面に当たって下方に流れ、その結果、タンク区画40内のタンク区画内部ガス検知器44aが誤作動する可能性がある。上記のように燃料ガス排出配管71の端部71aを、ベント管10の内部で上向きに位置させることにより、端部71aから吐出される燃料ガスに起因して、タンク区画内部ガス検知器44aが誤作動する虞を低減することができる。
【0155】
上部ダクト区画80の底壁80bには、上部ダクト区画給気口80eが開口して設けられている。上部ダクト区画給気口80eは、ダクト連通部91と連通する。したがって、上部ダクト区画80は、上部ダクト区画給気口80e、ダクト連通部91、および下部ダクト連通口70fを介して下部ダクト区画70と連通する。なお、上部ダクト区画給気口80eは、上部ダクト区画80において、底壁80b以外の外壁に設けられてもよい。
【0156】
上部ダクト区画80は、ベント管連通部81を有する。ベント管連通部81は、上部ダクト区画80の内部とベント管10とを連通する配管である。
図11では、ベント管連通部81は、水平方向から上方に屈曲した形状で図示されているが、ベント管連通部81の形状は
図11の形状には限定されない。なお、ベント管連通部81が上方に屈曲している理由は、燃料ガス排出配管71の端部71aが上方に屈曲している理由と同様であり、ベント管連通部81から吐出される後述の燃料ガスに起因して、タンク区画内部ガス検知器44aが誤作動する虞を低減するためである。
【0157】
ベント管10は、タンク区画40から上方に延び、上部ダクト区画80の内部を通って位置する。より詳しくは、ベント管10は、上部ダクト区画80の底壁80bを貫通してベント管10の内部に入り、天壁80aを突き抜けて位置する。上記のベント管連通部81は、上部ダクト区画80内で、ベント管10の側壁を貫通して設けられる。これにより、上部ダクト区画80は、ベント管連通部81を介してベント管10と連通する。
【0158】
したがって、上部ダクト区画80の内部の空気は、ベント管連通部81およびベント管10を介して船外に排出される。これにより、上部ダクト区画80の内部の換気を行うことができる。また、上部ダクト区画80内で、燃料ガス排出配管71から燃料ガスが漏れた場合でも、漏れた燃料ガスは、ベント管連通部81およびベント管10を介して船外に排出される。これにより、漏れた燃料ガスが上部ダクト区画80内で滞留することを抑制することができる。
【0159】
さらに、上部ダクト区画80と下部ダクト区画70とは、ダクト連通部91を介して連通している。これにより、(1)下部ダクト区画給気管74を介して下部ダクト70の内部に取り込まれた空気、(2)下部ダクト70内の燃料ガス供給配管32から何らかの原因で漏れた燃料ガス、(3)燃料電池区画30から連通管92を介して下部ダクト区画70に排出された空気または燃料ガスを、上部ダクト区画80およびベント管10を介して船外に放出することができる。これにより、下部ダクト区画70の内部および燃料電池区画30の内部での燃料ガスの滞留を抑制することができる。
【0160】
上部ダクト区画80には、燃料ガス充填口82と、燃料ガス逆止弁83と、が設けられる。燃料ガス充填口82は、ガス充填配管42と接続されている。燃料ガス逆止弁83は、ガス充填配管42に設けられている。より詳しくは、燃料ガス逆止弁83は、ガス充填配管42と後述の不活性ガス配管87との分岐部と、燃料ガス充填口82との間に位置する。
【0161】
燃料ガス充填口82から燃料ガスが供給されると、上記燃料ガスは、燃料ガス逆止弁83を介してガス充填配管42を通り、タンク区画40内の燃料タンク41に供給される。これにより、燃料タンク41に燃料ガスが充填され、貯留される。燃料ガス逆止弁83は、燃料タンク41側から燃料ガス充填口82への燃料ガスの逆流を防止するために設けられている。
【0162】
上部ダクト区画80には、不活性ガス充填口84と、開閉弁85と、不活性ガス逆止弁86と、不活性ガス配管87と、がさらに設けられる。不活性ガス充填口84は、不活性ガス配管87と接続されている。不活性ガス配管87は、上部ダクト区画80内でガス充填配管42から分岐して設けられる。開閉弁85および不活性ガス逆止弁86は、不活性ガス配管87に設けられる。不活性ガス配管87において、開閉弁85は、不活性ガス充填口84と不活性ガス逆止弁86との間に位置する。
【0163】
開閉弁85は、不活性ガス配管87の流路を開放または閉塞する。なお、不活性ガス配管87に不活性ガス逆止弁86が設けられる構成では、開閉弁85の設置は省略されてもよい。
【0164】
燃料ガス充填口82に燃料ガスが供給されていない状態において、不活性ガス充填口84に不活性ガスが供給され、開閉弁85が不活性ガス配管87の流路を開放すると、上記不活性ガスは、不活性ガス逆止弁86を通り、不活性ガス配管87およびガス充填配管42を介して、タンク区画40内の燃料タンク41に供給される。更に、タンク側遮断弁43が燃料ガス供給配管32の流路を開放し、燃料電池側遮断弁33が燃料ガス供給配管32の流路を閉塞し、放出弁72が燃料ガス排出配管71の流路を開放することにより、燃料タンク41内に残存する燃料ガスは、燃料ガス供給配管32および燃料ガス排出配管71を介してベント管10に排出される。これにより、燃料タンク41から燃料ガスを取り除くことができる(パージ処理)。
【0165】
なお、ガス充填配管42から直接、燃料タンク41とタンク側遮断弁43との間の燃料ガス供給配管32に繋がる配管が存在していてもよい(タンク方式)。この構成では、燃料タンク41の不活性ガスのパージ処理の際に、タンク側遮断弁43を閉塞した状態で燃料タンク41内に不活性ガスを充填し、その後、不活性ガスを燃料タンク41から放出することを容易にする目的でタンク側遮断弁43を開放することが必要である。
【0166】
なお、燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84は、上述の通り、上部ダクト区画80に設けられる。詳しくは、燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84は、上部ダクト区画80の内外の境界面に位置する。つまり、「燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84が上部ダクト区画80に設けられる」とは、燃料ガス充填口82および不活性ガス充填口84が上部ダクト区画80の上記境界面に設けられる場合を含む。
【0167】
また、上部ダクト区画80内には、上部ダクト区画内部ガス検知器88が収容される。上部ダクト区画内部ガス検知器88は、上部ダクト区画80の内部に配置される燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、上部ダクト区画内部ガス検知器88は、水素ガス検知センサで構成される。
【0168】
上部ダクト区画内部ガス検知器88は、上部ダクト区画80の上部に位置する天壁80aに配置される。燃料ガスとしての水素ガスは空気よりも軽く、上昇する。このため、上部ダクト区画80内で燃料ガスが漏れた場合でも、漏れた燃料ガスを上部ダクト区画内部ガス検知器88で確実に検知することができる。なお、上部ダクト区画80内で漏れた燃料ガスをより確実に検知するために、上部ダクト区画内部ガス検知器88は、ベント管連通部81に近い位置に配置されてもよい。
【0169】
上部ダクト区画内部ガス検知器88が上部ダクト区画80内で燃料ガスを検知したとき、その検知信号は、上部ダクト区画内部ガス検知器88から制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、燃料ガス供給配管32に設けられた遮断弁SVを制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。
【0170】
なお、上部ダクト区画80は、上部ダクト区画80の内部での火災を検知する火災検知器をさらに収容してもよい。
【0171】
(7-4.ベント管についての補足)
ベント管10の内部において、ベント管連通部81の排出口81aよりも下流側には、ベント管内部ガス検知器10aが設けられる。なお、上記の下流側とは、タンク区画40の内部の空気がベント管10の内部を流れて船外に排出されるときの空気の流れ方向の下流側を指す。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、ベント管内部ガス検知器10aは、拡散式または吸引式の水素ガス検知センサで構成される。ベント管内部ガス検知器10aの検知信号は、制御部12aに送られる。
【0172】
例えば、制御部12aが放出弁72を閉塞させる信号(閉止信号)を出力している状態で、タンク区画内部ガス検知器44aおよび上部ダクト区画内部ガス検知器88が燃料ガスを検知していないにもかかわらず、ベント管内部ガス検知器10aが燃料ガスを検知した場合、放出弁72が燃料ガス排出配管71の流路を完全に閉塞していない、つまり、放出弁72が故障していると判断することができる。この場合、制御部12aは、例えば外部に報知することにより、放出弁72の点検、修理、交換、などをメンテナンス者に促すことができる。なお、外部への報知には、モニタ表示、警報音の出力、外部端末への情報発信などが含まれる。
【0173】
〔8.異常検知に基づく燃料電池の発電制御について〕
上述のように、本実施形態の燃料電池船SHは、複数の燃料電池31を備えるとともに、燃料電池31を収容する燃料電池区画30を複数備えている。このため、燃料電池区画30内に給気する電池区画給気装置36も、各燃料電池区画30に対応して複数設けられる。したがって、本実施形態の燃料電池船SHは、以下の構成であるとも言える。すなわち、燃料電池船SHは、複数の燃料電池31のそれぞれが別々に設置される複数の燃料電池区画30と、複数の燃料電池区画30のそれぞれの内部に給気する複数の電池区画給気装置36と、を備える。
【0174】
本実施形態の上述した制御部12aは、複数の燃料電池31の発電を制御する発電制御部としても機能する。特に、制御部12aは、複数の電池区画給気装置36の少なくとも1つが停止したときに、停止した電池区画給気装置36が給気する燃料電池区画30に設置される燃料電池31の発電を停止させる。
【0175】
なお、電池区画給気装置36が停止したか否かの判断は、電池区画給気装置36が稼働時に出力する信号を制御部12aが常時または定期的に監視することによって行うことができる。例えば、制御部12aは、燃料電池31が稼働(発電)しているにもかかわらず、上記信号を受信していないとき、電池区画給気装置36が故障などによって停止していると判断することができる。つまり、制御部12aは、電池区画給気装置36が稼働時に出力する上記信号に基づいて、電池区画給気装置36が停止したか否を判断することができる。
【0176】
この制御では、電池区画給気装置36が何らかの原因(例えば故障)によって停止すると、停止した電池区画給気装置36が給気する燃料電池区画30内の換気を行うことができず、燃料電池区画30内での燃料ガス漏れに対処することができなくなる。そこで、電池区画給気装置36が停止したときには、発電制御部としての制御部12aが、停止した電池区画給気装置36が給気する燃料電池区画30内の燃料電池31の発電を停止させる。これにより、上記燃料電池31の稼働に起因する、上記燃料電池区画30内での燃料ガス漏れの発生の危険性を少しでも低減して、安全確保に努めることができる。
【0177】
また、本実施形態の燃料電池船SHは、上述したように、燃料ガスを収容する燃料タンク41が設置される少なくとも1つのタンク区画40と、タンク区画40の内部に給気するタンク区画給気装置46と、を備える。この構成において、制御部12aは、タンク区画給気装置46が停止したときに、複数の燃料電池31のうち、停止したタンク区画給気装置46が給気するタンク区画40に設置される燃料タンク41から燃料ガスが供給される燃料電池31の発電を停止させる。
【0178】
例えば、
図2で示した構成において、燃料タンク41aを収容するタンク区画40内に給気するタンク区画給気装置46が故障により停止した場合、発電制御部としての制御部12aは、燃料タンク41aから燃料ガスが供給される燃料電池31aおよび31bの発電を停止させる。
【0179】
なお、タンク区画給気装置46が停止したか否かの判断は、タンク区画給気装置46の消費電力を監視するか、稼働時に出力する信号を制御部12aが常時または定期的に監視することによって行うことができる。例えば、制御部12aは、燃料電池31が稼働(発電)しているにもかかわらず、上記信号を受信していないとき、タンク区画給気装置46が故障などによって停止していると判断することができる。つまり、制御部12aは、タンク区画給気装置46が稼働時に出力する上記信号に基づいて、タンク区画給気装置46が停止したか否を判断することができる。
【0180】
タンク区画給気装置46が何らかの原因(例えば故障)によって停止すると、停止したタンク区画給気装置46が給気するタンク区画40内の換気を行うことができない。この場合、上記タンク区画40内での燃料ガス漏れに対処することができなくなる。そこで、タンク区画給気装置46が停止したとき、制御部12aは、複数の燃料電池31のうち、停止したタンク区画給気装置46が給気するタンク区画40内の燃料タンク41から燃料ガスが供給される燃料電池31の発電を停止させる。これにより、上記燃料電池31への燃料ガスの供給に起因して、上記タンク区画40内で上記燃料ガスが漏れる可能性を少しでも低減して、安全確保に努めることができる。
【0181】
本実施形態の燃料電池船SHは、上述のように、燃料電池区画30を複数備えている。このため、電池区画内部ガス検知器34aおよび電池区画外部ガス検知器37も、各燃料電池区画30に対応して複数設けられる。すなわち、燃料電池船SHは、複数の燃料電池31のそれぞれが別々に設置される複数の燃料電池区画30と、複数の燃料電池区画30の内部にそれぞれ配置され、燃料ガスを検知する複数の電池区画内部ガス検知器34aと、複数の燃料電池区画30の外部にそれぞれ配置され、燃料電池区画30の内部に流入する可燃ガスを検知する複数の電池区画外部ガス検知器37と、を備える。
【0182】
本実施形態の発電制御部としての制御部12aは、複数の電池区画内部ガス検知器34aおよび複数の電池区画外部ガス検知器37の少なくともいずれかが燃料ガスまたは可燃ガスと反応し、または故障したときに、複数の燃料電池31のうち、反応または故障した電池区画内部ガス検知器34aまたは電池区画外部ガス検知器37が配置された燃料電池区画30内の燃料電池31の発電を停止させる。
【0183】
なお、電池区画内部ガス検知器34aおよび電池区画外部ガス検知器37が故障したか否かの判断は、電池区画内部ガス検知器34aおよび電池区画外部ガス検知器37から稼働時(正常時に)出力される信号を制御部12aが常時または定期的に監視することによって行うことができる。例えば、制御部12aは、燃料電池31が稼働(発電)しているにもかかわらず、上記信号を受信していないとき、電池区画内部ガス検知器34aまたは電池区画外部ガス検知器37が故障している(停止している)と判断することができる。つまり、制御部12aは、電池区画内部ガス検知器34aおよび電池区画外部ガス検知器37が稼働時に出力する上記信号に基づいて、電池区画内部ガス検知器34aまたは電池区画外部ガス検知器37が故障(または停止)したか否を判断することができる。
【0184】
電池区画内部ガス検知器34aが燃料ガスを検知すると(燃料ガスと反応すると)、燃料電池区画30内で燃料ガス漏れが発生している可能性が高くなる。また、電池区画外部ガス検知器37が可燃ガスを検知すると(可燃ガスと反応すると)、燃料電池区画30の外部から内部に可燃ガスが流入して内部で滞留する可能性が高くなる。これらの場合に、上記燃料電池区画30に設置された燃料電池31を駆動することは、安全を確保する上で好ましくはない(何らかの原因で爆発が生じる危険性がある)。また、電池区画給気装置36が防爆仕様でない場合、電池区画給気装置36に爆発が生じる危険性がある。
【0185】
さらに、電池区画内部ガス検知器34aまたは電池区画外部ガス検知器37が故障すると、燃料電池区画30の内部での燃料ガスの漏れ自体、または、燃料電池区画30の外部から内部への可燃ガスの流入を検知することができない。このため、この状態で燃料電池31を駆動することは、安全を確保する上で好ましくはない。
【0186】
複数の電池区画内部ガス検知器34aおよび複数の電池区画外部ガス検知器37の少なくともいずれかが反応または故障したときに、発電制御部としての制御部12aが、複数の燃料電池31のうち、反応または故障した電池区画内部ガス検知器34aまたは電池区画外部ガス検知器37が(内部または外部に)対応して配置された燃料電池区画30内の燃料電池31の発電を停止させることにより、安全確保に努めることができる。
【0187】
また、本実施形態の燃料電池船SHは、上述したように、燃料ガスを収容する燃料タンク41が設置される少なくとも1つのタンク区画40と、タンク区画40の内部に配置され、燃料ガスを検知するタンク区画内部ガス検知器44aと、タンク区画40の外部に配置され、タンク区画40の内部に流入する可燃ガスを検知するタンク区画外部ガス検知器47と、を備える。この構成において、制御部12aは、タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47の少なくともいずれかが燃料ガスまたは可燃ガスと反応し、または故障したときに、複数の燃料電池31のうち、反応または故障したタンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が配置されたタンク区画40内の燃料タンク41から燃料ガスが供給される燃料電池31の発電を停止させる。
【0188】
例えば、
図2で示した構成において、燃料タンク41cを収容するタンク区画40に対応して配置されるタンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が燃料ガスまたは可燃ガスと反応したとき、発電制御部としての制御部12aは、燃料タンク41cから燃料ガスが供給される燃料電池31cの発電を停止させる。また、例えば、燃料タンク41cを収容するタンク区画40に対応して配置されるタンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が故障したときも、制御部12aは、燃料タンク41cから燃料ガスが供給される燃料電池31cの発電を停止させる。
【0189】
なお、タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47が故障したか否かの判断は、タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47の消費電力を監視するか、タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47から稼働時(正常時に)出力される信号を制御部12aが常時または定期的に監視することによって行うことができる。例えば、制御部12aは、燃料電池31が稼働(発電)しているにもかかわらず、上記信号を受信していないとき、タンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が故障している(停止している)と判断することができる。つまり、制御部12aは、タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47が稼働時に出力する上記信号に基づいて、タンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が故障(または停止)したか否を判断することができる。
【0190】
タンク区画内部ガス検知器44aが燃料ガスを検知すると(燃料ガスと反応すると)、タンク区画40内で燃料ガス漏れが発生している可能性が高くなる。また、タンク区画外部ガス検知器47が可燃ガスを検知すると(可燃ガスと反応すると)、タンク区画40の外部から内部に可燃ガスが流入して内部で滞留する可能性が高くなる。これらの場合に、上記タンク区画40から燃料ガスが供給される燃料電池31を駆動することは、安全を確保する上で好ましくはない(何らかの原因で爆発が生じる危険性がある)。また、タンク区画給気装置46が防爆仕様でない場合、タンク区画給気装置46に爆発が生じる危険性がある。
【0191】
さらに、タンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が故障すると、タンク区画40の内部での燃料ガスの漏れ自体、または、タンク区画40の外部から内部への可燃ガスの流入を検知することができない。このため、この状態で燃料電池31を駆動することは、安全を確保する上で好ましくはない。
【0192】
タンク区画内部ガス検知器44aおよびタンク区画外部ガス検知器47の少なくともいずれかが反応または故障したときに、発電制御部としての制御部12aが、複数の燃料電池31のうち、反応または故障したタンク区画内部ガス検知器44aまたはタンク区画外部ガス検知器47が(内部または外部に)対応して配置されたタンク区画40内の燃料タンク41から燃料ガスが供給される燃料電池31の発電を停止させることにより、安全確保に努めることができる。
【0193】
また、本実施形態では、ダクト区画90は、燃料電池船SHの右舷側および左舷側に一対設けられる。この構成では、制御部12aは、少なくとも1つのダクト区画90において、下部ダクト区画内部ガス検知器73、上部ダクト区画内部ガス検知器88および下部ダクト区画外部ガス検知器76の少なくともいずれかが燃料ガスまたは可燃ガスと反応し、または故障したときに、複数の燃料電池31のうち、反応または故障した下部ダクト区画内部ガス検知器73、上部ダクト区画内部ガス検知器88または下部ダクト区画外部ガス検知器76が配置されたダクト区画90を通って、燃料タンク41から燃料ガスが供給される燃料電池31の発電を停止させることが望ましい。
【0194】
下部ダクト区画内部ガス検知器73または上部ダクト区画内部ガス検知器88が燃料ガスを検知すると(燃料ガスと反応すると)、ダクト区画90内で燃料ガス漏れが発生している可能性が高くなる。また、下部ダクト区画外部ガス検知器76が可燃ガスを検知すると(可燃ガスと反応すると)、ダクト区画90の外部から内部に可燃ガスが流入して内部で滞留する可能性が高くなる。これらの場合に、上記ダクト区画90を通ってタンク区画40から燃料ガスが供給される燃料電池31を駆動することは、安全を確保する上で好ましくはない(何らかの原因で爆発が生じる危険性がある)。また、下部ダクト区画給気装置75が防爆仕様でない場合、下部ダクト区画給気装置75に爆発が生じる危険性がある。上記のように対象となった燃料電池31の発電を停止させることにより、安全確保に努めることができる。
【0195】
〔9.推進装置に入力する電力の制限について〕
複数の燃料電池31を搭載した燃料電池船SHにおいて、航行中に船体1内での燃料ガスの漏洩等の事象により、少なくとも1台の燃料電池31が緊急停止した場合でも、他の燃料電池31から出力される電力と、蓄電池51から供給される電力との少なくとも一方により、推進装置6を駆動して、航行を継続することができることは前述の通りである。
【0196】
ここで、燃料電池31が緊急停止して推進装置6への入力電力が急激に低減した場合、蓄電池51からの出力電力が低い状態では、燃料電池船SHの航行速度が急激に低下し、乗船者が転倒し易くなる。これは、海上や河川を航行する燃料電池船SHは、道路を走行する車両とは異なり、航行時に水面から受ける抵抗が大きいことによる。
【0197】
そこで、本実施形態のように、複数の燃料電池31と、少なくとも1つの蓄電池51と、推進装置6と、を搭載した燃料電池船SHでは、制御部12aは、蓄電池51の温度情報およびSOC(State Of Charge:充電率)データを監視し、上記温度情報およびSOCデータに基づいて、蓄電池51から出力可能な電力を算出し、上記電力の上限値を、推進装置6への入力電力値(回転数およびトルクの少なくとも一方に比例)の上限値に設定してもよい。
【0198】
例えば、
図2で示した構成において、燃料タンク41bを収容するタンク区画40内で燃料ガス漏れが検知された場合、上述したように、制御部12aは、上記燃料タンク41bから燃料ガスが供給される燃料電池31aおよび31bの発電を停止させる。この場合、残りの燃料電池31c、31dおよび31eと、蓄電池51とで、推進装置6を稼働する電力を賄う必要がある。さらに、何らかの原因で燃料電池31c、31dおよび31eが停止した場合、蓄電池51だけで推進装置6を稼働する電力を賄う必要がある。
【0199】
そこで、通常運転(通常の航行)において、制御部12aは、各燃料電池31および蓄電池51の少なくともいずれかから推進装置6(特に推進モータ6b)に入力する電力値の上限値を、蓄電池51の出力上限値に設定することが望ましい。この場合、例えば全ての燃料電池31が何らかの原因によって緊急停止しても、燃料電池船SHの航行速度を急激に低下させることなく、蓄電池51から出力される電力で推進装置6の稼働を継続させることができる。つまり、航行中に燃料電池31が緊急停止した場合でも、航行速度の急低下を防止することができる。その結果、燃料電池31の緊急停止時における乗船者の転倒の危険性を低減することができる。
【0200】
〔10.その他〕
本実施形態では、燃料タンク41から燃料電池31に供給する燃料として、気体の燃料ガスを用いているが、上記燃料は気体に限定されず、液体であってもよい。液体燃料を用いた場合、配管から液体燃料が漏れると、漏れた液体燃料は気化して気体(燃料ガス)となる。
【0201】
本実施形態では、燃料電池船SHがダクト区画90を有する構成について説明したが、ダクト区画90は設置されなくてもよい。例えば、タンク区画40および燃料電池区画30のそれぞれに対応してベント管を設ければ、ダクト区画90の設置を省略することができる(燃料電池区画30からベント管10への流路を確保する必要がないため)。
【0202】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明は、例えば燃料電池船に利用可能である。
【符号の説明】
【0204】
1 船体
6 推進装置
12a 制御部(劣化率制御部、発電制御部)
31 燃料電池
41 燃料タンク
41a 個別タンク(燃料タンク)
41b 個別タンク(燃料タンク)
51 蓄電池
100 電力供給部
SH 燃料電池船