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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185199
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】燃料電池船
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20221207BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/04955 20160101ALI20221207BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20221207BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20221207BHJP
   B63H 20/00 20060101ALI20221207BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20221207BHJP
   B63B 11/04 20060101ALI20221207BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20221207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221207BHJP
【FI】
H01M8/04 H
H01M8/00 Z
H01M8/0444
H01M8/04746
H01M8/04 Z
H01M8/04 J
H01M8/0438
H01M8/04955
H01M8/0432
B63B35/00 T
B63H20/00 600
B63H21/17
B63B11/04 B
B63B25/16 A
B63B25/16 H
B63B25/16 G
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092709
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岩 琢也
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛広
(72)【発明者】
【氏名】山口 安美
(72)【発明者】
【氏名】品川 学
(72)【発明者】
【氏名】木村 行彦
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H126DD05
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB29
5H127AC02
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA59
5H127BB02
5H127CC07
5H127DB03
5H127DB72
5H127DB74
5H127DB82
5H127DB96
5H127DC42
5H127DC75
5H127EE04
(57)【要約】
【課題】燃料電池において燃料ガス漏れが発生したときに、漏れた燃料ガスが冷却媒体タンクに侵入して滞留することを抑制することができる燃料電池船を提供する。
【解決手段】燃料電池船は、燃料電池を冷却する冷却システムを備える。冷却システムは、冷却媒体を収容する冷却媒体タンクと、燃料電池と冷却媒体タンクとの間で冷却媒体を循環させる冷却媒体循環用配管と、冷却媒体タンク内に設置される冷却タンク内部ガス検知器と、冷却媒体タンクに接続される冷却タンク内部ガス放出配管と、冷却タンク内部ガス放出配管に設置される冷却タンク内部ガス放出バルブと、を有する。燃料電池船は、冷却タンク内部ガス放出バルブの開閉を制御する制御部を備える。制御部は、冷却媒体タンク内での燃料ガスの濃度が予め定められた規格値以上であることを冷却タンク内部ガス検知器が検知したときに、冷却タンク内部ガス放出バルブを開放する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の電気化学反応により発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池から供給される電力によって、船体に推進力を発生させる推進装置と、を備える燃料電池船であって、
前記燃料電池を冷却する冷却システムをさらに備え、
前記冷却システムは、
冷却媒体を収容する冷却媒体タンクと、
前記燃料電池と前記冷却媒体タンクとの間で前記冷却媒体を循環させる冷却媒体循環用配管と、
前記冷却媒体タンク内に設置される冷却タンク内部ガス検知器と、
前記冷却媒体タンクに接続される冷却タンク内部ガス放出配管と、
前記冷却タンク内部ガス放出配管に設置される冷却タンク内部ガス放出バルブと、を有し、
前記燃料電池船は、前記冷却タンク内部ガス放出バルブの開閉を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記冷却媒体タンク内での前記燃料の気体状態である燃料ガスの濃度が予め定められた規格値以上であることを前記冷却タンク内部ガス検知器が検知したときに、前記冷却タンク内部ガス放出バルブを開放する、燃料電池船。
【請求項2】
前記冷却媒体タンクが設置される冷却媒体タンク設置区画をさらに備え、
前記冷却タンク内部ガス放出配管のガス放出口は、前記冷却媒体タンク設置区画内の電気機器よりも上方に位置する、請求項1に記載の燃料電池船。
【請求項3】
前記冷却媒体タンク設置区画は、船外と連通する換気口を有し、
前記換気口は、前記ガス放出口の上方に位置する、請求項2に記載の燃料電池船。
【請求項4】
前記燃料を収容する燃料タンクと、
前記燃料タンクから前記燃料電池に前記燃料を供給する燃料供給配管と、をさらに備え、
前記燃料供給配管は、前記冷却媒体タンク設置区画を通る、請求項2または3に記載の燃料電池船。
【請求項5】
前記冷却媒体タンクは、前記冷却媒体循環用配管を流れる前記冷却媒体の循環経路の最上部に位置する、請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池船。
【請求項6】
前記燃料電池に供給される前記燃料の圧力を検知する供給側燃料圧力検知部と、
前記燃料電池に供給される前記冷却媒体の圧力を検知する供給側冷却媒体圧力検知部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記燃料の圧力が前記冷却媒体の圧力よりも大きくなったときに、前記燃料電池の発電を停止させる、請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池船。
【請求項7】
前記燃料電池に供給される前記燃料の圧力を検知する供給側燃料圧力検知部と、
前記燃料電池に供給される前記冷却媒体の圧力を検知する供給側冷却媒体圧力検知部と、
前記燃料電池から排出される前記燃料の圧力を検知する排出側燃料圧力検知部と、
前記燃料電池から排出される前記冷却媒体の圧力を検知する排出側冷却媒体圧力検知部と、をさらに備え、
前記供給側燃料圧力検知部によって検知される前記燃料の圧力と、前記供給側冷却媒体圧力検知部によって検知される前記冷却媒体の圧力との差を第1圧力差とし、
前記排出側燃料圧力検知部によって検知される前記燃料の圧力と、前記排出側冷却媒体圧力検知部によって検知される前記冷却媒体の圧力との差を第2圧力差としたとき、
前記制御部は、前記第1圧力差と前記第2圧力差とのうちの少なくとも一方が所定値以上になったときに、前記燃料電池の発電を停止させる、請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池船。
【請求項8】
前記制御部は、前記冷却媒体タンク内での前記燃料ガスの濃度が予め定められた規格値未満であることを前記冷却タンク内部ガス検知器が検知したときに、前記冷却タンク内部ガス放出バルブを閉塞して前記冷却媒体タンクを密閉する、請求項1から7のいずれかに記載の燃料電池船。
【請求項9】
前記燃料電池に供給される前記冷却媒体の温度、および前記燃料電池から排出される前記冷却媒体の温度の少なくとも一方が、100℃以上である、請求項8に記載の燃料電池船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクから燃料電池に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給し、燃料電池で発生する電力によって推進装置を駆動する燃料電池船が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-92815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池は、電力の発生とともに発熱する。燃料電池の適切な発電効率を維持するためには、例えば冷却媒体(例えば冷却水)の供給によって燃料電池を冷却することが望ましい。しかし、このような構成では、燃料電池において何らかの原因で燃料ガス漏れが発生したときに、漏れた燃料ガスが冷却媒体の循環用の配管を介して冷却媒体タンクに侵入する虞がある。燃料ガスが可燃ガスであり、爆発の危険性があることを考慮すると、漏れた燃料ガスが冷却媒体タンク内で滞留することは望ましくはない。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、燃料電池において燃料ガス漏れが発生したときに、漏れた燃料ガスが冷却媒体タンクに侵入して滞留することを抑制することができる燃料電池船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る燃料電池船は、燃料の電気化学反応により発電を行う燃料電池と、前記燃料電池から供給される電力によって、船体に推進力を発生させる推進装置と、を備える燃料電池船であって、前記燃料電池を冷却する冷却システムをさらに備え、前記冷却システムは、冷却媒体を収容する冷却媒体タンクと、前記燃料電池と前記冷却媒体タンクとの間で前記冷却媒体を循環させる冷却媒体循環用配管と、前記冷却媒体タンク内に設置される冷却タンク内部ガス検知器と、前記冷却媒体タンクに接続される冷却タンク内部ガス放出配管と、前記冷却タンク内部ガス放出配管に設置される冷却タンク内部ガス放出バルブと、を有し、前記燃料電池船は、前記冷却タンク内部ガス放出バルブの開閉を制御する制御部をさらに備え、前記制御部は、前記冷却媒体タンク内での前記燃料の気体状態である燃料ガスの濃度が予め定められた規格値以上であることを前記冷却タンク内部ガス検知器が検知したときに、前記冷却タンク内部ガス放出バルブを開放する。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、燃料電池において燃料ガス漏れが発生したときに、漏れた燃料ガスが冷却媒体タンクに侵入して滞留することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の一形態に係る燃料電池船の概略の構成を示す説明図である。
図2】上記燃料電池船の内部構造を模式的に示す説明図である。
図3】上記燃料電池船が備える燃料電池の概略の構成を模式的に示す説明図である。
図4】上記燃料電池船が備える冷却タンク内部ガス放出バルブの開閉制御による処理の流れを示すフローチャートである。
図5】上記燃料電池船の主要部の構成を模式的に示す説明図である。
図6】上記燃料電池船の主要部の他の構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本明細書では、方向を以下のように定義する。まず、燃料電池船の船尾から船首に向かう方向を「前」とし、船首から船尾に向かう方向を「後」とする。そして、前後方向に垂直な横方向を左右方向とする。このとき、燃料電池船の前進時に操船者から見て左側を「左」とし、右側を「右」とする。さらに、前後方向および左右方向に垂直な重力方向の上流側を「上」とし、下流側を「下」とする。
【0010】
〔1.燃料電池船の概略の構成〕
まず、図1を参照して、本実施形態に係る燃料電池船SHについて説明する。図1は、燃料電池船SHの概略の構成を示す説明図である。燃料電池船SHは、船体1と、キャビン2と、を備える。キャビン2は、船体1の上面に配置される。
【0011】
燃料電池船SHは、燃料電池システム3と、燃料ガス貯留部4と、蓄電池システム5と、推進装置6と、冷却システム7と、複数の周辺機器11と、制御装置12と、をさらに備える。なお、図1では、制御信号または高電圧での電力供給ラインを実線で示し、制御信号または低電圧の電力供給ラインを一点鎖線で示す。
【0012】
燃料電池システム3は、主電源として機能する。燃料電池システム3は、燃料ガスを消費して電力(具体的には直流電力)を発生する。燃料ガスは、燃料の一例であり、例えば可燃ガスである。典型的には、燃料ガスは、水素ガスである。燃料電池システム3は、発生した電力を、推進装置6および周辺機器11に供給する。また、燃料電池システム3は、蓄電池システム5に電力を供給して、蓄電池システム5を充電することもできる。なお、燃料電池システム3の詳細については後述する。
【0013】
燃料ガス貯留部4は、燃料電池システム3に供給する燃料ガスを貯留する。具体的には、燃料ガス貯留部4は、燃料としての燃料ガスを収容する燃料タンク41(図2参照)を有する。燃料タンク41から燃料電池システム3への燃料ガスの供給は、後述する燃料ガス供給配管32(図2参照)を介して行われる。
【0014】
蓄電池システム5は、蓄電池を有する。蓄電池は、例えばリチウム二次電池であるが、ニッケル-カドミウム蓄電池、ニッケル-水素蓄電池などであってもよい。蓄電池システム5は、蓄電した電力(具体的には直流電力)を、推進装置6および周辺機器11に供給する補助電源として機能する。このように、蓄電池システム5が補助電源として機能することにより、燃料電池システム3から推進装置6等への電力の供給不足を補うことができる。なお、蓄電池システム5は、制御装置12に電力を供給してもよい。
【0015】
推進装置6は、燃料電池システム3の後述する燃料電池31(図2参照)から供給される電力によって駆動され、船体1に推進力を発生させる。つまり、燃料電池船SHは、燃料電池31から供給される電力によって、船体1に推進力を発生させる推進装置6を備える。
【0016】
なお、推進装置6は、蓄電池システム5が有する蓄電池から供給される電力のみによって駆動されてもよいし、燃料電池31および蓄電池の両方から供給される電力によって駆動されてもよい。つまり、推進装置6は、燃料電池および蓄電池の少なくとも一方から供給される電力によって駆動されて、船体1に推進力を発生させてもよい。
【0017】
推進装置6は、電力変換装置6aと、推進モータ6bと、プロペラ6cとを有する。電力変換装置6aは、燃料電池システム3から供給される電力を、推進モータ6bの規格に応じた電力に変換する。例えば、電力変換装置6aは、直流電力を交流電力に変換する。この場合、電力変換装置6aは、例えばインバータを有する。推進モータ6bは、電力変換装置6aから供給される電力(例えば交流電力)によって駆動される。推進モータ6bが駆動されると、推進モータ6bの回転力がプロペラ6cに伝達される。その結果、プロペラ6cが回転して、船体1に推進力が発生する。なお、推進モータ6bとプロペラ6cとの間にマリンギアを有する構成としても良い。
【0018】
周辺機器11としては、例えば、コンプレッサ、電磁弁、ポンプなどが含まれる。なお、周辺機器11には、照明機器、空調機器などの電気機器も含まれるが、周辺機器11の種類は特に限定されない。
【0019】
制御装置12は、燃料電池システム3、燃料ガス貯留部4、蓄電池システム5、推進装置6、冷却システム7、および複数の周辺機器11を制御する。制御装置12は、例えば、1つまたは2以上のコンピュータによって構成される。コンピュータは、例えば、PLC(Programable Logic Controller)であるが、ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。制御装置12には、図示しないバッテリ(例えば鉛電池)、または蓄電池システム5の蓄電池から電力が供給される。
【0020】
制御装置12は、制御部12aと、記憶部12bと、を有する。制御部12aは、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサを含む。記憶部12bは、記憶装置を含み、データおよびコンピュータプログラムを記憶する。具体的には、記憶部12bは、半導体メモリのような主記憶装置と、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ、および/または、ハードディスクドライブのような補助記憶装置と、を含む。記憶部12bは、リムーバブルメディアを含んでいてもよい。記憶部12bは、非一時的コンピュータ読取可能記憶媒体の一例に相当する。
【0021】
制御部12aのプロセッサは、記憶部12bの記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、燃料電池システム3、燃料ガス貯留部4、蓄電池システム5、推進装置6、冷却システム7および複数の周辺機器11を制御する。
【0022】
冷却システム7は、燃料電池システム3、特に燃料電池31を冷却する機能を有する。つまり、本実施形態の燃料電池船SHは、燃料電池31を冷却する冷却システム7を備える。なお、冷却システム7の詳細については後述する。
【0023】
〔2.燃料電池システムの詳細について〕
次に、燃料電池システム3の詳細について説明する。図2は、燃料電池船SHの内部構造を模式的に示す説明図である。
【0024】
燃料電池船SHは、機関室13と、燃料室14と、を備える。機関室13および燃料室14は、船体1の甲板1aの下部に配置される。言い換えると、機関室13および燃料室14は、船体1の甲板1aと底板1bとの間に配置される。なお、底板1bは、甲板1aと船底部1c(図1参照)との間に位置する。
【0025】
機関室13は燃料室14に対して船首側に位置する。機関室13および燃料室14は、隔壁(図示せず)によって仕切られている。上記隔壁は、例えば繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で構成されるが、鉄板であってもよい。上記した燃料ガス貯留部4の燃料タンク41は、燃料室14内に位置する。このように、燃料電池船SHは、燃料を収容する燃料タンク41を備える。
【0026】
燃料電池船SHの燃料電池システム3は、機関室13内に位置する。燃料電池システム3は、燃料電池31と、燃料ガス供給配管32と、燃料電池側遮断弁33と、を有する。燃料電池側遮断弁33は、周辺機器11(図1参照)の一例である。
【0027】
燃料電池31は、燃料の一例である燃料ガスと、酸化剤ガスとの電気化学反応により電力(具体的には直流電力)を発生させる。典型的には、酸化剤ガスは、空気であり、酸化剤は、酸素である。つまり、燃料電池船SHは、燃料の電気化学反応により発電を行う燃料電池31を備える。
【0028】
図3は、燃料電池31の概略の構成を模式的に示す説明図である。燃料電池31は、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)であり、複数のセル310を積層して構成される燃料電池スタックである。図3では、簡略的に、セル310の枚数を2枚として燃料電池31を示している。燃料電池31の各セル310は、固体高分子電解質膜311と、アノード極312と、カソード極313と、一対のセパレータ314aおよび314bと、を有する。
【0029】
アノード極312とカソード極313とは、固体高分子電解質膜311を挟む。アノード極312は、負極(燃料極)である。アノード極312は、アノード触媒層およびガス拡散層を含む。カソード極313は、正極(空気極)である。カソード極313は、カソード触媒層およびガス拡散層を含む。アノード極312と固体高分子電解質膜311とカソード極313とは、膜-電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を構成する。一対のセパレータ314aおよび314bは、膜-電極接合体を挟む。
【0030】
各セパレータ314aおよび314bは、例えばSUS(stainless steel)からなり、両面に複数の溝を形成する凹凸形状のリブを有する。セパレータ314aの一方の面側(アノード極312と対向する側)に位置する各溝は、燃料ガスの流路CH1を形成する。セパレータ314bの一方の面側(カソード極313と対向する側)に位置する各溝は、酸化剤ガスの流路CH2を形成する。また、任意のセル310(例えばセル310Bとする)のセパレータ314bの他方の面側の各溝と、隣り合うセル310(例えばセル310Aとする)のセパレータ314aの他方の面側の各溝とは、後述する冷却媒体の流路CH3を形成する。なお、流路CH1および流路CH3には、各種の検知器(圧力センサ、温度センサ等)が設けられているが、この点については後述する。
【0031】
なお、図3では、隣り合うセル310の間に冷却媒体の流路CH3を設けているが、必ずしも各セル310の間に流路CH3を挟む必要はない。各セル310を適温に冷却することができるのであれば、数セル積層毎に冷却媒体の流路CH3を挟む構成も可能である。
【0032】
燃料電池31の上記構成において、例えばセル310Bのアノード極312側では、流路CH1を流れる燃料ガスに含まれる水素が触媒によって水素イオンと電子とに分解される。水素イオンは固体高分子電解質膜311を透過してカソード極313側に移動する。セル310Bのセパレータ314aの凹凸形状のリブは、流路CH1を挟んでアノード極312に接触しているため、アノード極312で発生した電子は、セパレータ314aに移動する。セル310Bのセパレータ314aと冷却媒体の流路CH3を挟むセパレータ314bは、互いのリブで接触しているため、上記の電子は、セパレータ314aからセパレータ314bに移動する。セパレータ314bまで移動した電子は、外部回路315を通り、積層方向の反対側の端部のセパレータ314aに移動する。これにより、電流が発生する(発電する)。
【0033】
セパレータ314aと冷却媒体の流路CH3を挟むセル310Aのセパレータ314bは、互いのリブで接触しているため、上記の電子は、セパレータ314aからセル310Aのセパレータ314bに移動する。セパレータ314bの凹凸形状のリブは、酸化剤ガスの流路CH2を挟んでカソード極313に接触しているため、セパレータ314bに移動した電子は、カソード極313に移動する。カソード極313側では、流路CH2を流れる酸化剤ガスに含まれる酸素が、上記の電子と、固体高分子電解質膜を通過した水素イオンと結合して、水を生成する。生成された水は、排出配管31a(図2参照)を介して船外に排出される。
【0034】
燃料電池31は、発電した電力を、図1で示した推進装置6および周辺機器11に供給する。なお、燃料電池31は、発電した電力を、DC/DCコンバータ等の回路を介して間接的に、推進装置6および周辺機器11に供給してもよい。
【0035】
図2で示した燃料ガス供給配管32は、燃料ガス貯留部4の燃料タンク41に収容された燃料ガスを、燃料電池31のアノード極312(図3参照)に供給するための燃料供給配管である。つまり、燃料電池船SHは、燃料タンク41から燃料電池31に燃料を供給する燃料供給配管としての燃料ガス供給配管32を備える。
【0036】
燃料電池側遮断弁33は、燃料ガス供給配管32の流路を開放または閉塞する遮断弁である。燃料電池側遮断弁33の開閉は、制御部12a(図1参照)によって制御される。具体的には、燃料電池側遮断弁33は、制御部12aの制御に基づき、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給と供給停止とを切り替える。燃料電池側遮断弁33は、後述する燃料電池区画30内で、燃料ガス供給配管32に1つだけ設けられているが、2つ以上設けられてもよい。
【0037】
燃料電池船SHは、燃料電池区画30をさらに備える。燃料電池区画30は、燃料電池31を収容する収容体であり、機関室13に配置される。
【0038】
燃料電池区画30は、中空の形状を有する。例えば、燃料電池区画30は、中空の略直方体形状を有する。この場合、燃料電池区画30を構成する外壁は、例えば、天壁30a、底壁30b、正面壁(不図示)、背面壁(不図示)、側壁30c、および側壁30dを有する。ただし、燃料電池区画30の天面、底面、正面、背面、および側面は、任意に定めることができる。また、燃料電池区画30の形状は、燃料電池31を収容できる空間を有する限り、特に限定されない。燃料電池区画30は、燃料電池31を収容する、容器、チャンバー、またはボックスと捉えることもできる。燃料電池区画30の外壁の素材は、例えばFRPであるが、鉄板であってもよい。
【0039】
燃料電池区画30の側壁30dには、電池区画給気口30eが開口して設けられている。電池区画給気口30eは、電池区画給気管35と接続される。電池区画給気管35は、電池区画給気口30eから甲板1aまで延び、甲板1aの上面から露出する。なお、電池区画給気口30eは、燃料電池区画30において、側壁30d以外の外壁に設けられてもよい。
【0040】
一方、燃料電池区画30の側壁30cには、電池区画排気口30fが開口して設けられている。電池区画排気口30fは、連通部36と接続される。連通部36は、排気の通路を形成するダクト区画(図示せず)と連通する。また、ダクト区画は、船外と通じるベント管(図示せず)と連通する。これにより、電池区画給気管35から電池区画給気口30eを介して燃料電池区画30の内部に侵入した空気は、電池区画排気口30f、連通部36、ダクト区画およびベント管を介して船外に排出される。その結果、燃料電池区画30の内部が換気される。
【0041】
燃料電池区画30は、電池区画給気口30eおよび電池区画排気口30fを除いて密閉された空間を内部に有する。
【0042】
燃料電池区画30内には、前述した燃料ガス供給配管32の一部と、燃料電池側遮断弁33と、が収容される。また、燃料電池区画30内には、さらに、電池区画内部ガス検知器34aと、電池区画内部火災検知器34bと、が収容される。
【0043】
電池区画内部ガス検知器34aは、燃料電池区画30の内部に配置される燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、電池区画内部ガス検知器34aは、水素ガス検知センサで構成される。
【0044】
電池区画内部ガス検知器34aは、燃料電池区画30の上部に位置する天壁30aの内面に配置される。燃料ガスとしての水素ガスは、空気よりも軽く、上昇する。このため、燃料電池区画30の天壁30aに電池区画内部ガス検知器34aが配置されることにより、燃料電池区画30内で燃料ガスが漏れた場合でも、漏れた燃料ガスを電池区画内部ガス検知器34aによって確実に検知することができる。なお、電池区画内部ガス検知器34aの設置位置は、燃料電池区画30内で燃料ガスが漏れたときに、上記燃料ガスが流れる流路の最も下流側に位置する構成でも良い。
【0045】
電池区画内部ガス検知器34aが燃料電池区画30内で燃料ガスを検知したとき、その検知信号は、電池区画内部ガス検知器34aから制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、燃料ガス供給配管32に設けられた燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。
【0046】
電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の内部に配置される火災検知器である。電池区画内部火災検知器34bは、例えば、煙を検知する煙センサ、熱を検知する熱センサ、炎を検知する炎センサのうち、1つ以上のセンサを含む。電池区画内部火災検知器34bは、熱電対式の火災検知器で構成されてもよい。
【0047】
電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の上部に位置する天壁30aの内面に配置される。電池区画内部火災検知器34bは、燃料電池区画30の内部で火災が万が一発生したときに、その火災を検知して、火災が発生したことを示す検知信号を制御部12aに出力する。この場合、制御部12aは、燃料電池側遮断弁33を制御して、燃料タンク41から燃料電池31への燃料ガスの供給を停止させることができる。これにより、燃料電池区画30において、上記燃料ガスへの引火による爆発の危険性を極力低減することができる。
【0048】
上記の燃料電池システム3について、さらに説明を加える。燃料電池システム3は、酸化剤ガス流量調整部321と、オフガス循環部322と、気液分離部323と、排出部324と、を有する。酸化剤ガス流量調整部321、オフガス循環部322、および排出部324は、周辺機器11の一例である。制御部12aは、酸化剤ガス流量調整部321、オフガス循環部322、および排出部324を制御する。また、燃料電池システム3は、排出配管31aと、酸化剤ガス配管31bと、オフガス循環配管31cと、接続配管31dと、をさらに有する。なお、燃料電池31の内部には、燃料ガス、酸化剤ガス、および、後述する冷却媒体を流通させるためのマニホールドが形成されている。
【0049】
酸化剤ガス流量調整部321は、燃料電池31のカソード極313(図3参照)に対して酸化剤ガスを供給する。具体的には、酸化剤ガス流量調整部321は、燃料電池31に供給する酸化剤ガスの流量を調整する。典型的には、酸化剤ガス流量調整部321は、酸化剤ガスを圧縮するエアコンプレッサである。
【0050】
酸化剤ガス配管31bは、酸化剤ガス流量調整部321から供給される酸化剤ガスを、燃料電池31のカソード極313へ案内する。
【0051】
上記した排出配管31aは、燃料電池31の内部に設けられた、カソード極313側の排出マニホールドに接続される。排出配管31aは、燃料電池31から排出される酸化剤オフガスおよび水を、大気へ案内する。酸化剤オフガスは、カソード極313からの排気を示す。つまり、酸化剤オフガスは、カソードオフガスである。
【0052】
気液分離部323は、燃料電池31から排出された燃料オフガスに含まれる水を分離し、上記水を接続配管31dに排出する。加えて、気液分離部323は、水が分離された後の燃料オフガスである余剰燃料ガスを、オフガス循環配管31cに排出する。典型的には、気液分離部323は、気液分離器である。燃料オフガスは、燃料電池31のアノード極312(図3参照)からの排気を示す。つまり、燃料オフガスは、アノードオフガスである。
【0053】
オフガス循環部322は、オフガス循環配管31cに配置される。オフガス循環部322は、気液分離部323から排出された余剰燃料ガスを、燃料ガス供給配管32に排出する。そして、燃料ガス供給配管32は、余剰燃料ガスを燃料電池31に供給する。典型的には、オフガス循環部322は、ポンプである。なお、例えば、オフガス循環部322は、エジェクタであってもよい。
【0054】
排出部324は、接続配管31dに配置される。排出部324は、気液分離部323によって分離された水を排出する。加えて、排出部324は、燃料電池31から排出された燃料オフガスの一部、つまり、オフガス循環配管31cに供給されなかった残りのガスおよび水を排出する。典型的には、排出部324は、パージ弁である。
【0055】
排出部324から排出された水および燃料オフガスは、接続配管31dを通って排出配管31aに排出され、燃料電池31から排出される酸化剤オフガス(カソードオフガス)とともに、排出配管31aから大気へ案内される。
【0056】
〔3.冷却システムの詳細について〕
次に、冷却システム7の詳細について、引き続き図2を参照しながら説明する。冷却システム7は、冷却媒体タンク71と、冷却媒体循環用配管72と、冷却タンク内部ガス検知器73と、冷却タンク内部ガス放出配管74と、冷却タンク内部ガス放出バルブ75と、を有する。
【0057】
冷却媒体タンク71は、冷却媒体を収容する容器である。冷却媒体は、例えば電気伝導率の低い不凍液である。不凍液は、例えば純水とエチレングリコールとを所定割合で混合した液体である。
【0058】
冷却媒体タンク71は、機関室13内で、燃料電池区画30の外部に設置される。このように、機関室13に冷却媒体タンク71が設置されることから、機関室13は冷却媒体設置区画を構成しているとも言える。したがって、燃料電池船SHは、冷却媒体タンク71が設置される冷却媒体設置区画(機関室13)を備える、と言える。
【0059】
上述した燃料ガス供給配管32は、燃料室14から機関室13にわたって延び、燃料電池区画30の燃料電池31と接続される。つまり、燃料ガス供給配管32は、冷却媒体設置区画を通る。
【0060】
また、冷却媒体設置区画である機関室13は、船外と連通する換気口13aを有する。換気口13aは、機関室13の上壁となる甲板1aを貫通して形成される給排気口である。本実施形態では、換気口13aは、船体1の右舷側および左舷側にそれぞれ設けられている。機関室13内にあるエアコンプレッサ(図示せず)が駆動していない状態では、例えば右舷側の換気口13aから機関室13の内部に船外の空気が取り込まれる。そして、機関室13の内部の空気は、左舷側の換気口13aから船外に排出される。逆に、左舷側の換気口13aから機関室13の内部に船外の空気が取り込まれ、右舷側の換気口13aから船外に排出される場合もある。上記いずれの空気の流れであっても、機関室13の内部が換気される。また、右舷側の換気口13aだけで吸排気が行われる場合もあるし、左舷側の換気口13aだけで吸排気が行われる場合もある。一方、機関室13内のエアコンプレッサが駆動している状態では、右舷側および左舷側の換気口13aを通じてエアコンプレッサが機関室13の内部に空気を吸入する。
【0061】
冷却媒体循環用配管72は、燃料電池31と冷却媒体タンク71との間で冷却媒体を循環させるための配管である。冷却媒体循環用配管72の途中には、冷却媒体循環部76および熱交換器77が配置されている。冷却媒体循環部76は、例えばポンプで構成される。冷却媒体循環部76の駆動により、冷却媒体循環用配管72を冷却媒体が流れ、燃料電池31と冷却媒体タンク71との間で冷却媒体が循環する。燃料電池31に冷却媒体が供給されることにより、燃料電池31が冷却される。燃料電池31の冷却に供された冷却媒体は、冷却媒体循環用配管72を通り、熱交換器77にて熱交換が行われて冷却された後、冷却媒体タンク71に戻される。なお、熱交換器77は、冷却媒体循環用配管72において、冷却媒体タンク71と冷却媒体循環部76との間に設置されていてもよい。
【0062】
なお、図2では、冷却媒体循環部76は燃料電池区画30内に配置されているが、機関室13内で、燃料電池区画30の外部に配置されてもよい。
【0063】
このように、冷却システム7は、冷却媒体を収容する冷却媒体タンク71と、燃料電池31と冷却媒体タンク71との間で冷却媒体を循環させる冷却媒体循環用配管72と、を有する。
【0064】
冷却タンク内部ガス検知器73は、冷却媒体タンク71の内部上方に設置され、冷却媒体タンク71の内部に存在する燃料ガスを検知する燃料ガス検知器である。例えば、燃料ガスが水素ガスである場合、冷却タンク内部ガス検知器73は、水素ガス検知センサで構成される。
【0065】
冷却媒体タンク71内に存在する燃料ガスとしては、例えば、燃料電池31で漏洩し、冷却媒体循環用配管72を介して冷却媒体タンク71内に侵入した燃料ガスが考えられる。冷却タンク内部ガス検知器73による燃料ガスの検知結果(例えば燃料ガスの濃度の情報)は、制御部12aに送られる。これにより、制御部12aは、冷却タンク内部ガス検知器73での検知結果に基づいて、燃料電池31での燃料ガスの漏洩の有無を判断し、漏洩ありの場合には、例えば燃料電池31での発電を停止させる制御を行うことができる。
【0066】
冷却タンク内部ガス放出配管74は、冷却媒体タンク71に接続され、冷却媒体タンク71の内部に存在する燃料ガスを外部に放出するための配管である。冷却タンク内部ガス放出配管74の出口、つまり、冷却タンク内部ガス放出配管74において冷却媒体タンク71との接続側とは反対側の端部は、燃料ガスを放出するガス放出口74aを構成する。
【0067】
ガス放出口74aは、冷却媒体設置区画(機関室13)内の電気機器EMよりも上方に位置する。また、機関室13の上記した換気口13aは、ガス放出口74aの上方に位置する。なお、このような位置関係を規定した理由については後述する。電気機器EMは、周辺機器11を構成する機器である。電気機器EMの具体例としては、例えば空気コンプレッサ、燃料電池31の発電電力を電力変換装置6a(図1参照)との間で中継するジャンクションボックス、インバータ、コンバータなどを考えることができる。
【0068】
冷却タンク内部ガス放出バルブ75は、冷却タンク内部ガス放出配管74に設置され、冷却タンク内部ガス放出配管74を流れる燃料ガスの流路を開放または閉塞する。冷却タンク内部ガス放出バルブ75の開閉は、制御部12aによって制御される。
【0069】
このように、冷却システム7は、冷却媒体タンク71内に設置される冷却タンク内部ガス検知器73と、冷却媒体タンク71に接続される冷却タンク内部ガス放出配管74と、冷却タンク内部ガス放出配管74に設置される冷却タンク内部ガス放出バルブ75と、を有する。そして、燃料電池船SHは、冷却タンク内部ガス放出バルブ75の開閉を制御する制御部12aを備える。
【0070】
次に、制御部12aによる冷却タンク内部ガス放出バルブ75の開閉制御の詳細について、図4を参照しながら説明する。図4は、冷却タンク内部ガス放出バルブ75の開閉制御による処理の流れを示すフローチャートである。
【0071】
冷却タンク内部ガス検知器73が、冷却媒体タンク71内での燃料ガス(例えば水素ガス)の濃度が規格値以上であることを検知すると(S1にてYes)、制御部12aは、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を開放する(S2)。この場合、冷却媒体タンク71内に存在する燃料ガスは、冷却タンク内部ガス放出配管74を通り、ガス放出口74aから放出される。燃料ガスは軽いため、機関室13内でガス放出口74aから放出された燃料ガスは上昇し、機関室13の換気口13aを介して船外に排出される。
【0072】
なお、上記規格値としては、例えば40%LELを考えることができるが、実験または経験に基づいて適宜定められればよい。
【0073】
一方、冷却タンク内部ガス検知器73が、冷却媒体タンク71内での燃料ガスの濃度が規格値未満であることを検知すると(S1にてNo)、制御部12aは、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を閉塞させる(S3)。これにより、冷却媒体タンク71内は、密閉状態が維持される。
【0074】
以上のように、制御部12aは、冷却媒体タンク71内での燃料ガス(燃料の気体状態)の濃度が予め定められた規格値以上であることを冷却タンク内部ガス検知器73が検知したときに、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を開放する(S1、S2)。これにより、燃料電池31において何らかの原因で燃料ガス漏れが発生し、漏れた燃料ガスが冷却媒体循環用配管72を介して冷却媒体タンク71に侵入したとしても、その燃料ガスは、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を介して、冷却タンク内部ガス放出配管74から放出される。したがって、漏れた燃料ガスが冷却媒体タンク71内で滞留する事態を低減することができる。
【0075】
また、冷却タンク内部ガス放出配管74のガス放出口74aは、上述のように、冷却媒体タンク71が設置される機関室13内の電気機器EMよりも上方に位置する(図2参照)。この場合、燃料電池31から漏洩して冷却媒体タンク71内に侵入した燃料ガスが、冷却タンク内部ガス放出配管74のガス放出口74aから放出されたときに、比重の軽い燃料ガス(例えば水素ガス)は上昇するため、上記燃料ガスが下方位置の電気機器EMに触れにくくなる。これにより、放出される燃料ガスが電気機器EMによって着火する危険性を低減することができる。
【0076】
また、機関室13の換気口13aは、ガス放出口74aの上方に位置する(図2参照)。これにより、ガス放出口74aから放出された比重の軽い燃料ガスは、ガス放出口74aからそのまま上昇し、換気口13aを介して機関室13の外部に迅速に(効率よく)放出される。したがって、機関室13内での燃料ガスの電気機器EMによる着火の危険性を確実に低減することができる。
【0077】
また、燃料ガス供給配管32は、燃料ガスが通る配管であることから、何らかの原因で燃料ガス供給配管32から燃料ガスが漏れる可能性はある。一方、冷却媒体タンク71には、燃料電池31で漏洩した燃料ガスが冷却媒体循環用配管72を介して侵入して集まる可能性がある。このため、冷却媒体タンク71に集まった燃料ガスが何らかの原因で冷却媒体タンク71から漏れる可能性も否定できない。
【0078】
本実施形態のように、燃料ガス供給配管32が、冷却媒体タンク71が設置される機関室13を通って位置することにより、船体1において、燃料ガスが漏洩する可能性のある部位(燃料ガス供給配管32、冷却媒体タンク71)が同じスペース(機関室13)に集約される。これにより、例えば冷却媒体タンク71を機関室13以外の場所に設置する場合に比べて、燃料ガスが漏洩するリスクのある範囲が狭くなる。したがって、上記範囲の外側に電気機器を設置するときの、設置の自由度を増大させることができる。例えば、機関室13内の換気を積極的に行うために、機関室13の換気口13aの外部に給気ファンを設置する場合でも、その給気ファンを設置できる範囲が広くなるため。その設置の自由度を増大させることができる。
【0079】
ところで、本実施形態では、図2に示すように、冷却媒体タンク71は、冷却媒体循環用配管72の最上部と接続されている。つまり、冷却媒体タンク71は、冷却媒体循環用配管72を流れる冷却媒体の循環経路の最上部に位置している。このように冷却媒体タンク71と冷却媒体循環用配管72との位置関係(接続関係)を規定することにより、以下の効果を得ることができる。
【0080】
例えば、冷却媒体タンク71が冷却媒体循環用配管72の最上部以外の部位(例えば最下部)と接続されていると、制御部12aが冷却タンク内部ガス検知器73での燃料ガスの検知結果に基づいて、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を開放したときに、冷却媒体循環用配管72内の冷却媒体が自重によって冷却媒体タンク71に流れ込み、冷却タンク内部ガス放出配管74のガス放出口74aから流れ出す、「冷却媒体漏れ」が発生する可能性がある。
【0081】
冷却媒体タンク71が冷却媒体循環用配管72の最上部と接続されて、冷却媒体の循環経路の最上部に位置することにより、制御部12aが冷却タンク内部ガス放出バルブ75を開放した場合でも、冷却媒体循環用配管72内の冷却媒体が自重によって冷却媒体タンク71に流れ込むことを防止することができる。これにより、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を開放したときの冷却媒体漏れを防止することができる。
【0082】
また、制御部12aは、冷却媒体タンク71内での燃料ガスの濃度が予め定められた規格値未満であることを冷却タンク内部ガス検知器73が検知したときに、冷却タンク内部ガス放出バルブ75を閉塞して冷却媒体タンク71を密閉する(S3)。
【0083】
燃料電池31の動作温度が高温となったとき、燃料電池31の迅速な冷却のために、加圧水(加圧した冷却媒体)を燃料電池31に供給することが要求される場合があり得る。例えば、燃料電池31の動作温度が100℃を超えると、加圧した冷却媒体でなければ、液体状態(熱伝達率が気体状態よりも10倍以上高い)を維持することができない。冷却媒体タンク71への燃料ガスの漏洩がない場合に、冷却媒体タンク71を密閉することにより、そのような加圧水の供給に容易に対応することが可能となる。つまり、冷却媒体タンク71内で冷却媒体を加圧して燃料電池31に供給することが可能となる。また、冷却媒体タンク71が密閉されるため、冷却媒体タンク71の上部が常時開放されている場合に生じるような問題を回避することもできる。例えば、燃料電池船SHの航行時の揺れによる冷却媒体のタンク外部への流出、および冷却媒体タンク71内の冷却媒体への不純物の混入を回避することもできる。
【0084】
特に、固体高分子形の燃料電池31では、その最適な動作温度は80℃前後であるが、高負荷の駆動を続けると、燃料電池31の動作温度は100℃以上になる場合がある。したがって、冷却媒体タンク71への燃料ガスの漏洩がない場合に冷却媒体タンク71を密閉して加圧水の供給を可能にする上記の制御は、燃料電池31の動作温度が100℃以上である場合に非常に有効となる。つまり、燃料電池31に供給される冷却媒体の温度、および燃料電池31から排出される冷却媒体の温度の少なくとも一方が100℃以上である場合に、冷却媒体タンク71を密閉して加圧水の供給を可能にする上記の制御が非常に有効となる。
【0085】
なお、燃料電池31に供給される冷却媒体の温度は、図5および図6に示す供給側冷却媒体温度検知部331aによって監視することが可能である。一方、燃料電池31から排出される冷却媒体の温度は、排出側冷却媒体温度検知部331bによって監視することが可能である。供給側冷却媒体温度検知部331aおよび排出側冷却媒体温度検知部331bは、例えばサーミスタなどの温度センサによって構成される。
【0086】
〔4.燃料電池での燃料ガスの漏洩を防止するための制御について〕
図5は、燃料電池船SHの主要部の構成を模式的に示す説明図である。燃料電池船SHは、供給側燃料ガス圧力検知部332aと、供給側冷却媒体圧力検知部333aと、を備えていてもよい。供給側燃料ガス圧力検知部332aは、(燃料タンク41から)燃料電池31に供給される燃料(例えば燃料ガス)の圧力P1(MPa)を検知する供給側燃料圧力検知部である。供給側冷却媒体圧力検知部333aは、(冷却媒体タンク71から)燃料電池31に供給される冷却媒体の圧力P2(MPa)を検知する。供給側燃料ガス圧力検知部332aおよび供給側冷却媒体圧力検知部333aは、いずれも圧力センサで構成される。
【0087】
制御部12aは、供給側燃料ガス圧力検知部332aおよび供給側冷却媒体圧力検知部333aの検知結果に基づき、燃料(例えば燃料ガス)の圧力P1が冷却媒体の圧力P2よりも大きくなったときに、燃料電池31の発電を停止させることが望ましい。
【0088】
P1>P2の場合、燃料電池31における燃料ガスの供給側(アノード入口側)で、燃料が冷却媒体側に漏れて混入する可能性がある。P1>P2の場合に、燃料電池31の発電を停止させることにより、燃料電池31における燃料の供給側における、燃料の冷却媒体側への漏洩を抑制することができる。
【0089】
図6は、燃料電池船SHの主要部の他の構成を模式的に示す説明図である。燃料電池船SHは、図5で示した供給側燃料ガス圧力検知部332aおよび供給側冷却媒体圧力検知部333aに加えて、排出側燃料ガス圧力検知部332bおよび排出側冷却媒体圧力検知部333bをさらに備えていてもよい。排出側燃料ガス圧力検知部332bは、燃料電池31から排出される燃料(例えば燃料ガス)の圧力P3(MPa)を検知する排出側燃料圧力検知部である。排出側冷却媒体圧力検知部333bは、燃料電池31から排出される冷却媒体の圧力P4(MPa)を検知する。排出側燃料ガス圧力検知部332bおよび排出側冷却媒体圧力検知部333bは、いずれも圧力センサで構成される。
【0090】
ここで、供給側燃料ガス圧力検知部332aによって検知される燃料(例えば燃料ガス)の圧力P1と、供給側冷却媒体圧力検知部333aによって検知される冷却媒体の圧力P2との差を、第1圧力差Pd1(MPa)とする。また、排出側燃料ガス圧力検知部332bによって検知される燃料(例えば燃料ガス)の圧力P3と、排出側冷却媒体圧力検知部333bによって検知される冷却媒体の圧力P4との差を、第2圧力差Pd2(MPa)とする。
【0091】
制御部12aは、第1圧力差Pd1と第2圧力差Pd2とのうちの少なくとも一方が所定値Pth(MPa)以上になったときに、燃料電池31の発電を停止させることが望ましい。
【0092】
Pd1≧Pthのとき、つまり、例えば(P1-P2)≧Pthのとき、燃料の供給圧力が冷却媒体の供給圧力よりも高すぎるために、燃料電池31における燃料の供給側(アノード入口側)で、燃料が冷却媒体側に漏れて混入する可能性がある。一方、Pd2≧Pthのとき、つまり、例えば(P3-P4)≧Pthのとき、燃料の排出圧力が冷却媒体の排出圧力よりも高すぎるために、燃料電池31における燃料の排出側(アノード出口側)で、燃料が冷却媒体側に漏れて混入する可能性がある。
【0093】
Pd1≧Pth、Pd2≧Pthの少なくとも一方の条件を満足したときに、燃料電池31の発電を停止させることにより、燃料電池31における燃料の供給側および排出側の少なくとも一方において、燃料が冷却媒体側に漏洩する事態を抑制することができる。
【0094】
以上、本実施形態では、燃料タンク41から燃料電池31に供給する燃料として、気体の燃料ガスを用いているが、上記燃料は気体に限定されず、液体であってもよい。液体燃料を用いた場合、配管から液体燃料が漏れると、漏れた液体燃料は気化して気体(燃料ガス)となる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、例えば燃料電池船に利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 船体
6 推進装置
7 冷却システム
12a 制御部
13 機関室(冷却媒体タンク設置区画)
13a 換気口
31 燃料電池
32 燃料ガス供給配管(燃料供給配管)
41 燃料タンク
71 冷却媒体タンク
72 冷却媒体循環用配管
73 冷却タンク内部ガス検知器
74 冷却タンク内部ガス放出配管
74a ガス放出口
75 冷却タンク内部ガス放出バルブ
332a 供給側燃料ガス圧力検知部(供給側燃料圧力検知部)
333a 供給側冷却媒体圧力検知部
332b 排出側燃料ガス圧力検知部(排出側燃料圧力検知部)
333b 排出側冷却媒体圧力検知部
EM 電気機器
SH 燃料電池船
図1
図2
図3
図4
図5
図6