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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185205
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】B含有鋼の連続鋳造鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20221207BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20221207BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20221207BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20221207BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221207BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20221207BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221207BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B22D11/00 A
B22D11/10 310Z
B22D11/16 Z
B22D1/00 K
C22C38/00 301Z
C22C38/06
C22C38/58
C21C7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092718
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 謙治
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 深央
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大輔
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB20
4E004NC04
4K013BA09
4K013CE01
(57)【要約】
【課題】連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れを防止するB含有鋼の連続鋳造鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)所定の組成を有する鋼の連続鋳造鋳片の製造方法であって、RHの脱ガス処理で真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度を2.0ppm未満とし、かつタンディッシュの耐火物温度が以下の(1)、(2)式の関係を満足することで鋳型内溶鋼水素濃度を2.0ppm以下に制御することを特徴とする
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150(℃) (1)
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm以上2.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150×真空脱ガス後の水素濃度(ppm)(℃) (2)
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01%以上0.25%以下、Si:0.01%以上1.20%以下、Mn:0.05%以上2.40%以下、P:0.020%以下、S:0.018%以下、Al:0.005%以上0.040%以下、N:0.0015%以上0.0060%以下、B:0.0014%以上0.0030%以下、残部がFeおよび不純物からなる組成を有する鋼の連続鋳造鋳片の製造方法であって、RHの脱ガス処理で真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度を2.0ppm未満とし、かつタンディッシュの耐火物温度が以下の(1)、(2)式の関係を満足することで鋳型内溶鋼水素濃度を2.0ppm以下に制御することを特徴とするB含有鋼の連続鋳造鋳片の製造方法。
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150(℃) (1)
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm以上2.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150×真空脱ガス後の水素濃度(ppm)(℃) (2)
【請求項2】
さらに質量%で、Nb:0.005%以上0.050%以下、V:0.005%以上0.050%以下、Cr:0.010%以上0.500%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、Ca:0.0001%以上0.0010%以下、Ni:0.005%以上0.05%以下、Cu:0.005%以上0.030%以下、Ti:0.010%%以上0.040%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のB含有鋼の連続鋳造鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B含有鋼について、鋳片表面に膨れの発生なく連続鋳造する技術に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途などの高張力鋼板の製造する上で、鋼の強度を確保するために、C,Si,Mnなどの添加が有効であると知られている。さらに、数十ppmのBを鋼に添加するだけで、変態温度が低下し、粒界の焼き入れ性が高まる。それゆえ、鋼材組織を制御し、鋼材強度を高められるため、鋼材設計において有用な元素の一つである。
【0003】
こうした鋼を効率的に生産するには、所定成分に溶製された鋼を、湾曲型あるいは垂直型連続鋳造機で一般的に鋳造される。B含有鋼を連続鋳造して得られた直後の鋳片表面に、図1に示すような膨れがしばしば発生した。
【0004】
この膨れがひどい場合には、連続鋳造後に続く圧延プロセスに供することはもちろんであるが、軽度の場合でも、二枚板や穴あき等の重大な欠陥を招く。
【0005】
特許文献1、特許文献2には、鋳片の膨れを防止する方法として、方向性けい素鋼板を対象とし、液相線温度+25℃以上の溶鋼を、電磁撹拌を付加しながら連続鋳造した鋳片を加熱し、それを防止する技術が開示されている。さらに特許文献3には、連続鋳造時の電磁撹拌を付加する際の鋳片中心部の未凝固厚みを規定し、連続鋳造鋳片の適正な加熱温度を規定した方向性けい素鋼板を対象とした鋳片膨れの防止技術が開示されている。
【0006】
これらの開示された技術においては、Siが質量%で2.5~4.5%を対象としたもので、汎用的な鋼でよく見られる1%以下のSi濃度を対象としていない上、さらに本願で対象とするBの影響についても示唆されていない。さらに、膨れ要因が過度な鋳片の中心偏析由来であることに着眼されており、溶鋼過熱度や電磁撹拌を規定した連続鋳造方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、中心偏析対策を必須としない「2次精錬条件や他の連続鋳造条件」の規定による回避策は示唆もされていない。加えて、従来技術では、高温加熱後の鋳片膨れを対象としたものが主で、加熱未実施の鋳造直後ですでに生じた鋳片膨れを防止する方法を導くことは、必ずしも容易とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3133868号公報
【特許文献2】特許第3538855号公報
【特許文献3】特許第3612717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れを防止するB含有鋼の連続鋳造鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
生産性等の観点から、鋼の連続鋳造においては、垂直曲げ型、あるいは湾曲型連鋳機が主流である。これらの連続鋳造機で得られた直後の鋳片の表面に、膨れがしばしば発生した。この膨れがひどい場合には、連続鋳造後に続く圧延プロセスに供することはもちろんであるが、軽度の場合でも、二枚板や穴あき等の重大な欠陥を招く。
【0011】
そこで発明者らは、鋳片の膨れの原因をさまざま調査した結果、Bを含有し、かつ鋼中水素との相関を知見し、従来技術に開示されていない視点として、B含有鋼について、溶鋼中の水素管理という新たなアプローチから、連続鋳造直後の鋳片表面の膨れを防止する鋼の連続鋳造法を見出した。
【0012】
上記課題を解決するため、
(1)質量%で、C:0.01%以上0.25%以下、Si:0.01%以上1.20%以下、Mn:0.05%以上2.40%以下、P:0.020%以下、S:0.018%以下、Al:0.005%以上0.040%以下、N:0.0015%以上0.0060%以下、B:0.0014%以上0.0030%以下、残部がFeおよび不純物からなる組成を有する鋼の連続鋳造鋳片の製造方法であって、RHの脱ガス処理で真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度を2.0ppm未満とし、かつタンディッシュの耐火物温度が以下の(1)、(2)式の関係を満足することで鋳型内溶鋼水素濃度を2.0ppm以下に制御することを特徴とする。真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150(℃) (1)
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm以上2.0ppm未満の場合は
タンディッシュ耐火物温度≧150×真空脱ガス後の水素濃度(ppm)(℃) (2)
【0013】
さらに、
(2)質量%で、Nb:0.005%以上0.050%以下、V:0.005%以上0.050%以下、Cr:0.010%以上0.500%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、Ca:0.0001%以上0.0010%以下、Ni:0.005%以上0.05%以下、Cu:0.005%以上0.030%以下、Ti:0.010%%以上0.040%以下の1種または2種以上を含有することも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、鋳片表面の膨れ発生を回避でき、連続鋳造プロセスにおける生産性や歩留まりを向上する方法が提供され、その技術的意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】B含有鋼を連続鋳造して得られた直後の鋳片表面に発生する膨れの状況を示す図である。
図2】連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れが、鋼中水素とBの影響を強く受けていることを示す図である。
図3】溶鋼中溶質元素と溶鋼中水素の間の相互作用力(熱力学な物性値)を示す図である。
図4】鋳型内の溶鋼中水素濃度(または鋳片膨れ発生有無)に対して、タンディッシュ底面から上方へ300mm位置におけるタンディッシュの鉄皮と接触する耐火物温度とRH処理後の水素濃度の相関を示す図である。
図5】真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度とタンディッシュ耐火物温度について、連続鋳造後の鋳片における膨れ発生有無別の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に発明を実施するための形態を示す。まず本発明に係るB添加鋼の成分について、以下に説明する。尚、以降の説明で%,ppmは全て質量%、質量ppmである。
【0017】
C:0.01以上0.25%以下
Cは、鋼の焼き入れ性と強度を制御する最も基本的な元素であり、且つ残留オーステナイトを確保するために必須の元素である。詳細には、オーステナイト相中に十分なCを固溶させ、室温でも所望のオーステナイト相を残留させる為に重要な元素であり、強度-伸びフランジ性のバランスを高めるのに有用である。このCが0.01%未満では、組織強化鋼板として必要となる残留オーステナイト組織を確保することが困難となる。これに対してCが0.25%を超えると、その効果が飽和するのみならず、溶接性も低下してしまう。
【0018】
Si:0.01以上1.20% 以下
Siは、脱酸及び強度増加に有効な元素であって、このような効果を得るには0.01%以上を添加することが必要である。一方、Si含有量が1.20%を超えると、靭性劣化を起す場合がある。
【0019】
Mn:0.05以上2.40%以下
Mnは、母材の強度上昇の役割を有し、また安価であることからCに次いで活用される元素である。このMnが0.05%未満では、強度上昇の効果を得ることができない。これに対してMnが2.40%を超えると、鋳片に割れが生じやすくなり、またスポット溶接性も劣化してしまう。
【0020】
P:0.020%以下
Pは鋼中に不可避的に含有する不純物元素の一つであり低い方が好ましい。Pは凝固時の固液界面における平衡分配係数が小さいため著しく偏析する。このため、種々の製品特性に悪影響を与えることが懸念される。偏析部では融点も著しく低下するため、圧延時には濃化部が溶融し製品疵につながることもある。そのため、含有量の上限を0.020%とした。偏析部における種々の問題を防止するために、0.016%未満が好ましい。
【0021】
S:0.018%以下
Sも鋼中に不可避的に含有する不純物元素の一つでありできるだけ低い方が好ましい。Sも凝固後の固液界面における平衡分配係数が小さいため著しく偏析する元素であるばかりでなく、偏析部ではPと同様に融点を低下させ、特に圧延時には表面疵の発生原因となる。このため、0.018%を上限とした。高強度鋼などより要求レベルの厳しい条件では、S含有量の上限を0.015%とすることが好ましい。
【0022】
Al:0.005以上0.040%
Alも脱酸元素として鋼中の酸素濃度を低減するために有効な元素の一つである。脱酸のために必要となる含有量は0.005%以上となる。それ以下となると、製錬工程における十分な脱硫も困難になる。過剰に添加するとAlNが生成しやすく、鋳片表面割れの原因となることから、本発明の目的とは相反するようになるため、0.040%以下とすることが好ましい。
【0023】
B:0.0014%以上0.0030%以下
Bは粒界の焼き入れ性を高め、鋼材の組織を制御し、鋼材の強度を高める成分として添加され、効果の発現には、0.0014%以上が必要である。一方、0.0030%以上を添加しても、その効果が飽和するばかりでなく、鋼中でBNを生成し、鋳片表面欠陥の原因となる。
【0024】
N:0.0015%以上0.0060%以下
Nは転炉などの大気雰囲気で溶製する場合には鋼中に不可避的に浸入する元素である。鋼材中ではTiなどと窒化物を形成する元素であり、これらの窒化物は熱間加工の過程でピン留め粒子として結晶粒を微細化する効果を有することから鋼材の機械特性に影響を与える。このため0.0015%以上の濃度とする必要がある。一方で前述のようにこれらの窒化物が連続鋳造時にオーステナイト粒界に動的析出することにより鋳片表面割れの原因となることから上限は0.0060%とする。組織のピン留め効果を確実に発揮するとともに、鋳片の中心部などにおける粗大な炭・窒化物の生成に伴う靱性低下を防止する観点からは0.0020%以上0.0040%以下とすることが好ましい。
【0025】
また、耐候性など他の特性を発現させるには、以下の元素の一種以上を添加しても構わない。
【0026】
Nb:0.005%以上0.050%以下
Nbは鋼中で炭窒化物を形成し鋼の強度を高めるとともに靱性の向上にも有効な元素である。そのためには0.005%以上添加する必要がある。また特にTMCP(Thermo-Mechanical Control Process)において固溶および析出を制御することにより鋼板のミクロ組織制御するために使用される。この効果を得るためにも0.005%以上添加する必要がある。しかし、0.050%以上含有すると加熱時にも固溶せず、組織制御ができなくなる。また過剰に添加すると鋳片内部にNbCとして析出し、鋳片表面割れの原因となる。このため、Nbの濃度は0.005~0.050%と規定した。
【0027】
V:0.005%以上0.050%以下
Vは鋼中でフェライト中への固溶ならびに炭窒化物を形成し、鋼の強度を高めるために有効な元素である。そのためには0.005%以上添加する必要がある。しかし、Vの含有量が0.050%を超えると、靭性に悪影響を与える。また過剰に添加すると鋳片内部にVNとして析出し、鋳片表面割れの原因となる。
【0028】
Cr:0.010%以上0.500%以下
Crには鋼の強度、靭性を高める効果がある。そのためには0.010%以上の添加が必要である。一方、0.500%を超えて添加しても、効果が飽和する。
【0029】
Mo:0.01%以上0.50%以下
Mo、熱延での組織制御を通じた高強度化をもたらす。この効果は、0.01%以上添加することで顕著になることから、0.01%以上添加する必要がある。また、0.50%を超えて添加しても効果が飽和するだけでなく、溶接性、熱間加工性がかえって悪化してしまう。
【0030】
Ca:0.0001%以上0.0010%以下
Caは他の成分元素と異なり、鋼の材料特性には大きな影響を与えないが、連続鋳造時のノズル閉塞を防止する効果があり、このために添加されることがある。また、鋼中にCaを添加するとS濃度を低減させ、MnSの生成を防止する効果が得られることから、硫化物の形態制御のために添加されることもある。上記の効果を得るためには、Caは0.0001%以上添加することが必要である。0.0010%を超えて添加してもその効果は飽和し製造コストの増加を招くばかりでなく、かえってノズル閉塞を助長する場合もある。
【0031】
Ni:0.005%以上0.050%以下
Niには固溶強化によって鋼の強度を向上させるとともに、靭性を改善する効果もある。これらの効果を得るためには0.005%以上添加する必要があるが、0.050%以上添加しても製造コストが増すというデメリットもある。
【0032】
Cu:0.005%以上0.030%以下
Cuは鋼の焼き入れ性を向上させる。そのためには0.005%以上の添加が必要であるが、0.030%を超えると、その効果享受に加え、鋼材の熱間加工性が低下するデメリットもある。
【0033】
Ti:0.010%以上0.040%以下
Tiは鋼の強度を向上させるとともに、鋼中のNをTiNとして固定するため、連続鋳造鋳片の曲げ・矯正時の鋳片表面割れを防止する効果もある。このような効果を得るためには0.010%以上の添加が必要である。しかし、0.040%を超えて含有すると炭化物が多数生成し、材料の靭性低下を招く。
【0034】
連続鋳造後の鋳片の表面に生じた膨れについて、以下の(A)~(C)の調査・解析を実施し、鋳片表面の膨れを防止する鋼の連続鋳造方法を防止する要因を見出し、それを達成する鋼の連続鋳造方法を導いた。
【0035】
(A)鋳片の膨れの発生要因の特定
転炉から出鋼された鋼を、RHの真空脱ガス装置を用いて成分調整した0.04%C-0.01%Si-0.21%Mn-0.01%P-0.009%S-0.03%Ti-0.015%Al-0.0017%B-0.0015%N、残Fe及び不可避的不純物を有する鋼において、連続鋳造後の鋳片に膨れが生じた。その鋳片を対象に、膨れ部を専用のドリルで掘削して内部に包含するガスを回収した。ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、回収ガスを分析した結果、水素および炭化水素系ガスが主であることが明らかになった。それゆえ、鋼中水素濃度が大きくなるにつれ、鋳片の膨れを助長している可能性に着眼した。
【0036】
(B)鋳片の膨れに及ぼす水素およびBの影響
鋳片の膨れに及ぼす鋼中水素の影響を整理したが、明確な相関を見出せなかった。そこで、Bを0.0003%~0.0025%を含み、0.04%C-0.01%Si-0.21%Mn-0.01%P-0.009%S-0.03%Ti-0.015%Al-0.0015%Nを基本組成とする鋼を対象として、試行錯誤による解析の結果、図1に示すように、連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れが、鋼中水素とBの影響を強く受けていることを知見した。その結果を図2に示す。尚、図2の縦軸に示す鋼中水素濃度は、鋳造時に鋳型内の溶鋼に対して、ピンサンプラーを、鋳型の幅中央から300~500mmの位置かつ溶鋼表面から30mm程度の深さに浸漬して採取したサンプルを分析した値であり、取鍋内の溶鋼量がおおよそ半分に至ったタイミングで採取した。Bを14ppm以上を含み、かつ鋳型内溶鋼の水素濃度が2.0ppm以上のときに、連続鋳造後の鋳片表面に、膨れが発生することを見出した。
【0037】
また鋼中B濃度が14ppm以上の領域において、鋼中水素の影響を受けるのは、鋼中のBと水素の間に作用する熱力学的相互作用が強い斥力であることに起因する。図3に、溶鋼中水素と溶鋼中溶質元素の間の相互作用力(熱力学な物性値)を示すが、他の元素に比べて、Bが水素に及ぼす影響が大きいことがわかる。したがって、Bが共存する場合、鋼中の水素溶解度が下がりやすく、固溶水素がガス化し、膨れを発生しやすいことを示唆している。
【0038】
しかしながら、例えば、5ppmと18ppmのB含有量の差によって、定量的な差が生じることにはやや疑問が残る。そこで、5,11,13,14,18および22ppmの、B含有量が異なる6種の鋼において、旧オーステナイト粒界上のB濃度を、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)によって分析した。
【0039】
その結果、14,18および22ppmのBを含有した鋼においてのみ旧オーステナイト粒界上に、バルクの5~30倍程度のBが偏析して濃化していることがわかった。一方、5,11または13ppmのBを含有する場合には、旧オーステナイト粒界上へのBの偏析は最大でも2倍程度の濃化しか認められなかった。したがって、鋼中B濃度が14ppm以上のとき、旧オーステナイト粒界へのB偏析が現れやすく、その影響下で水素が2.0ppm以上で、連続鋳造後の鋳片表面に、膨れが生じた。
【0040】
この様にB含有鋼において、水素に起因した連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れを防止するには、鋼中水素の厳格管理が重要である。高炉-転炉法によって鋼を生産する場合には、転炉から出鋼された鋼を、RH(Ruhrstahl-Heraeus、真空脱ガス設備)等に代表される真空脱ガス装置を用いて減圧処理下で脱水素処理が行われる。脱水素処理以降に水素を取り除く処理はなく、この脱水素処理後において、水素を少なくとも2ppm未満に制御しなければならない。
【0041】
また、真空脱ガス装置を用いた処理プロセスは、連続鋳造直前のプロセスでもあるため、所定の鋼成分に調整する機能も有する。成分調整に用いられる、例えば、フェロマンガン、フェロシリコン、あるいは金属シリコンなどのさまざまな成分調整用原料には、付着水などの水分を含むため、溶鋼中にそれらを添加した際、溶鋼中の水素濃度が上昇してしまう場合もある。それゆえ、RHで脱水素処理後に、原料を投入した成分調整を行うことは、水素ピックアップの観点からは厳格には好ましくなく、RH処理後の水素制御も重要となる。
【0042】
さらに、RHでの脱水素処理によって、2ppm未満に制御したとしても、以降のプロセスにおいて溶鋼中への水素のピックアップが発生し得る。水素のピックアップの発生源は、主に鋼と接触する耐火物である。連続鋳造プロセスにおいては、取鍋からタンディッシュへ、さらにタンディッシュから鋳型へ溶鋼を注入するが、そのタンディッシュは、外壁が鉄皮で構成され、その内側には3層から4層かなる耐火物が施工されている。
【0043】
この耐火物中が水分を含み、特にタンディッシュ内での溶鋼の滞留時間が数分間であることを踏まえると、溶鋼中への水素ピックアップの要因になると考えた。そこで、鋳型内の溶鋼中水素濃度(または鋳片膨れ発生有無)に対して、タンディッシュ底面から上方へ300mm位置におけるタンディッシュの鉄皮と接触する耐火物温度とRH処理後の水素濃度の相関を図4に示す。
【0044】
図4は、真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度とタンディッシュ耐火物温度について、連続鋳造後の鋳片における膨れ発生有無別の分布を示している。連続鋳造鋳片の膨れを防止するには、前述の様に鋳型内溶鋼水素濃度を2.0ppm未満に制御する必要があるが、そのためにはタンディッシュの耐火物温度と真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度を図4に示すように、RHの脱ガス処理で真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度を2.0ppm未満に制御し、かつ、タンディッシュの耐火物温度が以下の(1)、(2)式の関係を満足することは必要である。
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm未満の場合はタンディッシュ耐火物温度≧150(℃)、 (1)
真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度が1.0ppm以上2.0ppm未満の場合はタンディッシュ耐火物温度≧150×真空脱ガス後の水素濃度(ppm)(℃) (2)
【0045】
この条件を満たす時に連続鋳造後の鋳片表面に生じる膨れを防止できる。尚、タンディシュ底面から300mm位置における温度で規定した理由は、あらかじめタンディッシュ底面から上方へ100mm,200mm,300mm,400mm位置で測温したところ、タンディッシュ底面から上方へ300mm位置は、他より最大で40℃低く、いずれにしてももっとも低温であっためである。
【実施例0046】
取鍋内の270tonの溶鋼において、表1に示す組成を有する鋼を、垂直曲げ型連続鋳造機により鋳造して、鋳片を製造した。連鋳機の鋳型サイズは、厚み250mm、幅1600mmとし、鋳造速度は1.2m/minとした。鋳造中の鋳型オシレーションは、振動数2.58Hz,ストローク2.07mmである。また、粘度1.5Pa・s(1300℃)、凝固点1230℃、およびCaOの質量%濃度をSiO2の質量%で除した値で定義した塩基度1.3のモールパウダーを使用した。さらに、鋳型下方では、鋳片重量1kgあたり比水量1.1リットルでスプレー冷却をした。
【0047】
【表1】
【0048】
鋳造した鋳片に膨れが生じ、連続鋳造後に続く圧延プロセスに供することができない場合が、本発明の比較例に相当し、一方、鋳片に膨れが見らずれ、圧延プロセスに供しても、二枚板や穴あき等の欠陥を発生しなかった場合が、本発明の実施例に相当する。表1に記載の実施例、比較例について、真空脱ガス処理直後の溶鋼中水素濃度とタンディッシュ耐火物温度の相関図を図5に示す。比較例1~5は、真空脱ガス処理後の水素が2.0ppm以上で、タンディッシュの耐火物温度が十分であったとしても、(1)式の関係を満足していない例である。比較例6~13は、真空脱ガス処理後の水素が2.0ppm未満に制御できているものの、タンディッシュ内での吸水素が生じ、適正以下に制御できず、膨れが発生した例である。
図1
図2
図3
図4
図5