(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185213
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】変位抑制装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
F16F15/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092730
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD14
3J048BC08
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】少ない設置箇所で、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる変位抑制装置を提供する。
【解決手段】変位抑制装置1は、下部構造体11と下部構造体11に対して相対的に移動可能な上部構造体16との間に設置される変位抑制装置であって、ゴム被覆体30と、ゴム被覆体30の内部に埋め込まれ、複数のリング21が連結されたチェーン本体部20と、を備え、チェーン本体部20は、下部構造体11及び上部構造体16に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と該下部構造体に対して相対的に移動可能な上部構造体との間に設置される変位抑制装置であって、
ゴム被覆体と、
該ゴム被覆体の内部に埋め込まれ、複数のリングが連結されたチェーン本体部と、を備え、
前記チェーン本体部は、前記下部構造体及び前記上部構造体に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている変位抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、設計で考慮すべき地震動が大きくなる傾向があり、免震建物は従来通りの設計では擁壁に衝突する虞がある。そこで、擁壁への衝突を避けるために様々な技術が考案されている。
【0003】
例えば、免震層変形を抑制するために設置されるオイルダンパーの中には、変形が大きくなるほど減衰力が大きくなるように、変形によって減衰力が変化する可変減衰型のものがある。しかし、オイルダンパーは水平面に沿う1方向にしか効果がないため、擁壁への衝突をあらゆる方向で避けるためには、水平面に沿う2方向に可変減衰型のオイルダンパーを設置する必要がある。
【0004】
また、下記の特許文献1では、下部構造体に設けられた変位規制本体部(擁壁)と上部構造体の梁等の上部構造体の一部との間に、擁壁よりも柔らかいゴム等の素材からなる緩衝部を設置して、上部構造体の一部を擁壁に衝突させるのではなく緩衝部に衝突させて、衝撃を和らげる技術が提案されている(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、緩衝部の厚さ(擁壁からの水平方向の突出長さ)の分だけ、免震クリアランスが減少するという問題点がある。また、水平面に沿う多方向への衝突を避けるためには、擁壁に対して様々が方向に緩衝部を設置する必要があり、設置点数が多くなってしまうという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、少ない設置箇所で、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる変位抑制装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る変位抑制装置は、下部構造体と該下部構造体に対して相対的に移動可能な上部構造体との間に設置される変位抑制装置であって、ゴム被覆体と、該ゴム被覆体の内部に埋め込まれ、複数のリングが連結されたチェーン本体部と、を備え、前記チェーン本体部は、前記下部構造体及び前記上部構造体に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている。
【0009】
このように構成された変位抑制装置では、地震時に免震層の変位が大きくなると、複数のリングが連結されたチェーン本体部が伸びる。チェーン本体部はゴム被覆体の内部に埋め込まれているため、チェーン本体部が伸びる際にゴム被覆体が抵抗となる。また、チェーン本体部は任意の方向に伸びることができる。よって、少ない設置箇所で、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる。
また、チェーン本体部は、下部構造体及び上部構造体に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている。よって、地震時には、チェーン本体部を任意の方向に円滑に向けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る変位抑制装置によれば、少ない設置箇所で、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す模式的な図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の荷重と変形との関係を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置のチェーン本体部の下部構造体への固定を示す図である。
【
図4】免震層変形が大きくなり、本発明の一実施形態に係る変位抑制装置が伸びている状態を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の解析における擁壁の特性を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の解析における緩衝チェーンの特性を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の解析結果であり、最大応答加速度分布を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の解析結果であり、最大応答層せん断力分布を示す。
【
図9】本発明の一実施形態に係る変位抑制装置の解析結果であり、免震層変形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る変位抑制装置について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る変位抑制装置を示す模式的な図である。
図1に示すように、基礎(下部構造体)11と建物(上部構造体)16との間に、免震装置(不図示)及び変位抑制装置の一例である緩衝チェーン1が設置されている。基礎11と建物16との間は、免震層12とされている。
【0013】
免震装置の下部は基礎11の上部に固定され、免震装置の上部は建物16の下部に固定されている。免震装置は、積層ゴムは滑り支承等の周知の構成である。基礎11と建物16とは、相対的に水平方向に移動可能とされている。
【0014】
緩衝チェーン1は、免震層12の水平方向の過大な変位を抑制するものである。緩衝チェーン1は、チェーン体2と、第一固定部4と、第二固定部5と、を備えている。
【0015】
チェーン体2は、橋梁の落橋防止装置として市販されている周知の構成の製品である。チェーン体2は、チェーン本体部20と、ゴム被覆体30と、を有する。
【0016】
チェーン本体部20は、複数のリング21を有している。リング21は、例えば鋼材からなる棒材が長円形状に加工されたものである。チェーン本体部20は、隣り合うリング21の軸どうしが直交するように連結された形状である。
図1に示す通常の状態では、隣り合うリング21どうしは、その間隔を短くしたり長くしたり変形可能とされている。換言すると、通常の状態では、チェーン本体部20は、伸びきっておらず弛んだ状態とされている。
【0017】
ゴム被覆体30は、チェーン本体部20の長手方向の少なくとも一部を被覆している。本実施形態では、ゴム被覆体30は、チェーン本体部20における第一固定部4側の端部を被覆している。なお、ゴム被覆体30は、チェーン本体部20における第二固定部5側の端部を被覆していてもよいし、チェーン本体部20の長手方向の中央を被覆していてもよい。
【0018】
本実施形態では、ゴム被覆体30は、抵抗力及び反発力を有する天然ゴムや合成ゴム等のゴム材から形成されている。ゴム被覆体30は、略円柱状に形成されている。ゴム被覆体30の形状は、円柱状に限られず、角柱状や断面十字状などであってもよい。ゴム被覆体30は、隣り合うリング21どうしが隙間D(
図3参照)をあけた状態で固化している。ゴム被覆体30の内部には、チェーン体2の少なくとも一部が埋め込まれている。
【0019】
チェーン本体部20が伸びきる際に、チェーン本体部20がゴム被覆体30と接触する。チェーン本体部20の伸びと荷重との静的引張試験結果を
図3に示す。
図3に示すように、チェーン本体部20の伸びとともに、荷重が緩やかに上昇する。
【0020】
基礎11の上部には、下側取付部13が設けられている。下側取付部13は、基礎11の上部から上方に突出している。建物16の下部には、上側取付部18が設けられている。上側取付部18は、建物16の下部から下方に突出している。
【0021】
第一固定部4は、チェーン本体部20の一端部(下側)を下側取付部13に固定する固定手段である。第二固定部5は、チェーン本体部20の他端部(上側)を上側取付部18に固定する固定手段である。
【0022】
図3は、チェーン本体部20の下側取付部13への固定を示す図である。
図3に示すように、チェーン本体部20の一端部では、リング21aは、半環状に形成されている。リング21aの端部には、半環状に形成されたリング21aを閉じるように端部板22が設けられている。端部板は、例えば鋼材で形成されている。
【0023】
図1に示すように、第一固定部4は、第一固定板41と、第一ピン部材42と、を有している。第一固定板41は、端部板22に連結されている。第一固定板41は、下側取付部13の上側に設置されている。第一固定板41は、板状に形成されている。第一固定板41の板面は、鉛直方向を向いている。第一固定板41は、例えば鋼材で形成されている。
【0024】
第一固定板41には、不図示の取付孔が形成されている。第一ピン部材42は、第一固定板41の取付孔に挿通されて、下側取付部13に固定されている。第一ピン部材42は、鉛直方向を向いている。第一固定板41は、第一ピン部材42の軸方向(鉛直方向)回りに回動可能とされている。
【0025】
チェーン本体部20の他端部は、一端部と同様に構成されていて、説明を省略する。第二固定部5は、第二固定板51と、第二ピン部材52と、を有している。第二固定板51は、チェーン本体部20の他端部の端部板22に連結されている。第二固定板51は、上側取付部18の下側に設置されている。第二固定板51は、板状に形成されている。第二固定板51の板面は、鉛直方向を向いている。第二固定板51は、例えば鋼材で形成されている。
【0026】
第二固定板51には、不図示の取付孔が形成されている。第二ピン部材52は、第二固定板51の取付孔に挿通されて、上側取付部18に固定されている。第二ピン部材52は、鉛直方向を向いている。第二固定板51は、第二ピン部材52の軸方向(鉛直方向)回りに回動可能とされている。
【0027】
このように、チェーン本体部20は、基礎11及び建物16に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている。
【0028】
地震時には、建物16が水平面上を任意の方向に動く。緩衝チェーン1の両端部は、建物16の挙動に追従できるように、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能である。
【0029】
図4は、免震層12の変形が大きくなり、緩衝チェーン1が伸びている状態を示す図である。
図4に示すように、地震時に免震層12の変形がおおきくなると、チェーン本体部20の隣り合うリング21どうしの間の隙間Dがなくなるように、チェーン本体部20は伸びる。下側取付部13と上側取付部18との鉛直方向の離間距離(設置鉛直距離)H1は、なるべく近い方が、純粋なせん断力のみが第一固定部4及び第二固定部5に作用するから好ましい。
【0030】
次に、本実施形態の緩衝チェーン1について、解析による効果検証を行った。
解析手法は、免震建物を質点系にモデル化し、熊本地震にて観測された西原村の観測波を入力して応答値を確認する。解析ケースは、1.通常免震架構、2.擁壁のみ設置、3.緩衝チェーン(本実施形態)を接続し擁壁を設置の3つである。
図7~
図9に示す解析結果では、「1.通常免震架構」を「通常」と表し、「2.擁壁のみ設置」を「擁壁」と表し、「3.緩衝チェーン(本実施形態)を接続し擁壁を設置」を「本実施形態」と表している。
【0031】
対象建物は、地上11階建てのRC造建物、地上3階部に免震層がある中間層免震建物とする。基礎固定1次固有周期:1.8秒、免震1次周期:3.9秒、建物全重量:7193[t]、免震層減衰定数:20%と設定した。
【0032】
擁壁は、免震層変形750mmの位置に配置し、擁壁剛性は片持コンクリート壁の剛性として計算し、2400kN/mmと設定した。
図5に擁壁の特性を示す。
【0033】
緩衝チェーンは、免震層変形600mmから作動するように設置する。緩衝チェーン1本当たりの剛性の特性を、
図6に示す。緩衝チェーンの第1次剛性:1kN/mm、第2次剛性:10kN/mm、第3次剛性:30kN/mmと設定した。
【0034】
緩衝チェーンを、全建物重量の7%の耐力となる量を設置する。すなわち対象建物では、7193[t]の7%となるため、503.5[t]=4934.3[kN]である。600mmから緩衝チェーンが作動し、750mmに達した段階で擁壁との直列剛性となり抵抗することとなる。
【0035】
入力地震動は、西原村とする。100%を入力すると、建物の免震装置である高減衰ゴムが400%を超えて解析が続行できないため、65%の倍率とした。
【0036】
図7~9に解析結果の1例を示す。擁壁がない場合、対象建物の免震層変形は830mmまで変形する(
図9参照)。この建物に対して、750mmの位置に擁壁がある場合に衝突するために、応答加速度は2倍以上の1400cm/s
2となった(
図7参照)。これに対し、緩衝チェーンを600mm位置から効果がでるように設置することにより、免震層変形は750mm以下となり(
図9参照)、応答加速度も800cm/s
2と(
図7参照)、擁壁へ衝突するよりも40%以上低減できている。しかし、
図8に示すように、層せん断力に関しては、擁壁衝突時とほぼ変わらない。緩衝チェーンにより、免震層変形と応答加速度について低減が可能であることが分かる。
【0037】
緩衝チェーン1本で1500kNまだ抵抗できるため、免震装置としては高耐力である。緩衝チェーン1本で水平面上任意の方向に効果があるため、設置箇所を少なくすることができる。荷重の上昇は
図2の通り緩やかであり、擁壁に衝突するよりも応答加速度を低減可能となる。チェーンの長さを調整することにより、任意の免震層変形で止めることが可能である。
【0038】
このように構成された緩衝チェーン1では、地震時に免震層12の変位が大きくなると、複数のリング21が連結されたチェーン本体部20が伸びる。チェーン本体部20はゴム被覆体30の内部に埋め込まれているため、チェーン本体部20が伸びる際にゴム被覆体30が抵抗となる。また、チェーン本体部20は任意の方向に伸びることができる。よって、少ない設置箇所で、水平面内の任意の方向に対して過大な変位を抑制することができる。
【0039】
また、1つの緩衝チェーン1で任意の方向に効果があることため、設置箇所は先行技術(特許第6327447号公報)の1/8となり、設置場所の省スペース化及びコストも安価となる。
【0040】
また、チェーン本体部20は、基礎11及び建物16に、鉛直方向を軸方向として軸回りに回動可能に連結されている。よって、地震時には、チェーン本体部20を任意の方向に円滑に向けることができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
例えば、緩衝チェーン1は、新築の構造物だけでなく、既存免震構造物にも適用でき、既存免震構造物の免震層に設置することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1…緩衝チェーン(変位抑制装置)
2…チェーン体
4…第一固定部
5…第二固定部
11…基礎(下部構造体)
16…建物(上部構造体)
20…チェーン本体部
21…リング
30…ゴム被覆体