(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185218
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ケトン体測定用バイオセンサ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20221207BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20221207BHJP
C12N 11/14 20060101ALI20221207BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20221207BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20221207BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20221207BHJP
C12Q 1/00 20060101ALN20221207BHJP
C12Q 1/26 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C12M1/34 E ZNA
C12N15/53
C12N11/14
C12N9/04 Z
G01N27/327 353R
G01N27/416 336G
C12Q1/00 B
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092739
(22)【出願日】2021-06-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋平
(72)【発明者】
【氏名】川南 裕
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB16
4B029BB20
4B033NA23
4B033NB22
4B033NC18
4B033ND16
4B033NG09
4B033NH10
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF14E
4B050GG10
4B050KK03
4B050LL03
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ24
4B063QQ83
4B063QR04
4B063QR72
4B063QS39
4B063QX05
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れた、特にセンサの作製時において、乾燥処理の温度によらず応答値が安定している、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いた血中ケトン体測定用のバイオセンサを提供する。
【解決手段】ゲオバチルス(Geobacillus)属の微生物に由来する3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素および電子受容体を含む反応層を具備する、ケトン体測定センサ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の基板上に形成された作用極および対極を有する電極系を有してなり、該電極系にはゲオバチルス(Geobacillus)属の微生物に由来する3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素および電子受容体を含む反応層を具備する構成を有する、ケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項2】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が以下の(a)から(g)の理化学的性質を有する、請求項1に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
(a)作用:下記の反応を触媒する。
【数1】
(b)至適温度:55℃以上
(c)熱安定性:30分処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が65℃以下
(d)至適pH:6.0~9.0
(e)pH安定性:25℃で20時間処理後の残存活性率が80%以上を示す範囲が5.0~10.0
(f)分子量:約28kDa(SDS-PAGE)
(g)Km値:3-ヒドロキシ酪酸に対するKm値が0.6mM以下
【請求項3】
(b)至適温度:65℃以上である、請求項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項4】
(c)熱安定性:16時間処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が55℃以下である、請求項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項5】
(c)熱安定性:30分処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が65℃以下であり、かつ、16時間処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が55℃以下である、請求項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項6】
(d)至適pH:7.5~8.5である、請求項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項7】
(e)pH安定性:25℃で20時間処理後の残存活性率が80%以上を示す範囲が5.2~9.4である、請求項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項8】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が遺伝子組換え酵素である、請求項1~7のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項9】
ゲオバチルス属の微生物がゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Gepbacillus stearophermophilus)である、請求項1~8のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項10】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなる、請求項1~9のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項11】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなる、請求項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項12】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1において、1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、請求項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項13】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる、請求項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項14】
電子受容体がルテニウム化合物である、請求項1~13のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項15】
ルテニウム化合物が、塩化ヘキサアミンルテニウム(III)、(ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、および、(5,5’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)からなる群から選択された少なくとも一種である、請求項14に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項16】
電子受容体がフェリシアン化化合物である、請求項1~13のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
【請求項17】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を保持する電極系を30℃以上の温度で乾燥する工程を含む、ケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
【請求項18】
40℃以上の温度で乾燥する工程を含む、請求項18に記載のケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
【請求項19】
50℃以上の温度で乾燥する工程を含む、請求項18に記載のケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
【請求項20】
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を含む組成物のpHを、pH6.0~9.0にする工程を含む、ケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトン体測定用バイオセンサに関する。詳しくは、ゲオバチルス(Geobacillus)属の微生物に由来する3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を使用したケトン体測定用バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査分野において、血中ケトン体は糖尿病患者の内、インスリン作用の不足の程度を反映する代謝指標として使用されている。ケトン体とは、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyric acid)およびアセトンの総称であるが、血中ケトン体のほとんどはアセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸で占められる。ケトン体は脂肪の合成や分解における中間代謝産物であるため、通常、血液中にはほとんど存在しないが、糖尿病や糖質制限、絶食など、脳や筋肉のエネルギー源である糖質(グルコース)が利用できない時に代わりのエネルギー源として用いられる。何らかの理由で体内のグルコース供給が減少すると、血糖値を維持するために肝臓に蓄えられているグリコーゲンがグルコースに分解され、利用される。しかし、肝臓のグリコーゲンは18~24時間程度で枯渇してしまうため、グルコースが枯渇すると次に筋肉(タンパク質)や脂肪細胞に蓄えられている脂肪(脂肪酸)がエネルギー源となる。
【0003】
ケトン体は主として肝臓で脂肪酸の酸化過程で代謝物として生産されるが、糖質がエネルギー源として適切に利用されているか否かの指標にもなる。糖尿病患者における過度のケトンレベルは、治療しなければ死亡することがある急を要する病状である糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)をも引き起こす。DKAは、糖尿病(ペットボトル症候群)や脱水によって総ケトン体が7000μmol/L以上となり、脱水症状や意識障害などに陥り、ひどい場合には死に至る危険な状態をいう。ケトン体の定量には、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いられている。
【0004】
体液サンプル中の選択された分析物を分析するための一般化された手段としては、バイオセンサが挙げられる。例えば、糖尿病患者は、血糖濃度をセルフモニタリングするためにグルコースセンサを常用しており、血糖濃度の測定結果に応じた是正処置をとって許容可能な範囲内に維持している。その患者数の多さからグルコースセンサ市場は世界規模であり、各国企業はそれを構成する酵素(特許文献1)やメディエーター(特許文献2)、補酵素(特許文献3)等の開発に従事している。
【0005】
しかしながら、ゲルコースセンサに関する開発が盛んな一方、糖尿病患者におけるDKA経過診断として利用されるケトン体を測定するためのセンサについては改善の余地がある。それは例えば3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素で、微生物由来としてロドスピリラム・ルブラム(Rhodospirillum rubrum)(非特許文献1)やシュードモナス・レミオグネイ(Pseudomonas lemoignei)(非特許文献2)、リゾビウム・メリオティアルカ(Rhizobium meliloti)(非特許文献3)、アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)(特許文献1)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)(特許文献2)等から生産されることが知られているが、微生物由来の当該酵素は不安定であるものが殆どである。酵素の安定性はセンサとしての調製工程や耐用期間、輸送条件に影響するため、センサに用いた場合に、これらの要因により影響を受けることの少ない、安定性の優れた3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-227755号公報
【特許文献2】特表2001-520367号公報
【特許文献3】特開2017-104101号公報
【特許文献4】特開平8-70856号公報
【特許文献5】特開平11-318438号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Biol.Chem.(1962),237:603-607.
【非特許文献2】J.Biol.Chem.(1965),240:4023-4028.
【非特許文献3】1622589942388_0.(1999),81(3):849-857.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、耐熱性に優れた、特にケトン体を測定用のセンサの作製時において、乾燥処理の温度によらず応答値が安定している、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いた血中ケトン体を測定するためのバイオセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ゲオバチルス属の微生物由来の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いることが有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。代表的な本発明の態様は、以下の通りである。
【0010】
項1.
電気絶縁性の基板上に形成された作用極および対極を有する電極系を有してなり、該電極系にはゲオバチルス(Geobacillus)属の微生物に由来する3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素および電子受容体を含む反応層を具備する構成を有する、ケトン体測定用バイオセンサ。
項2.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が以下の(a)から(g)の理化学的性質を有する、項1に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
(a)作用:下記の反応を触媒する。
【数1】
(b)至適温度:55℃以上
(c)熱安定性:30分処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が65℃以下
(d)至適pH:6.0~9.0
(e)pH安定性:25℃で20時間処理後の残存活性率が80%以上を示す範囲が5.0~10.0
(f)分子量:約28kDa(SDS-PAGE)
(g)Km値:3-ヒドロキシ酪酸に対するKm値が0.6mM以下
項3.
(b)至適温度:65℃以上である、項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項4.
(c)熱安定性:16時間処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が55℃以下である、項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項5.
(c)熱安定性:30分処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が65℃以下であり、かつ、16時間処理後の残存活性率が90%以上を示す範囲が55℃以下である、項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項6.
(d)至適pH:7.5~8.5である、項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項7.
(e)pH安定性:25℃で20時間処理後の残存活性率が80%以上を示す範囲が5.2~9.4である、項2に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項8.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が遺伝子組換え酵素である、項1~7のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項9.
ゲオバチルス属の微生物がゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Gepbacillus stearophermophilus)である、項1~8のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項10.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなる、項1~9のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項11.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなる、項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項12.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1において、1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項13.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる、項10に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項14.
電子受容体がルテニウム化合物である、項1~13のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項15.
ルテニウム化合物が、塩化ヘキサアミンルテニウム(III)、(ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、および、(5,5’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)からなる群から選択された少なくとも一種である、項14に記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項16.
電子受容体がフェリシアン化化合物である、項1~13のいずれかに記載のケトン体測定用バイオセンサ。
項17.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を保持する電極系を30℃以上の温度で乾燥する工程を含む、ケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
項18.
40℃以上の温度で乾燥する工程を含む、項18に記載のケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
項19.
50℃以上の温度で乾燥する工程を含む、項18に記載のケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
項20.
3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を含む組成物のpHを、pH6.0~9.0にする工程を含む、ケトン体測定用バイオセンサの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のケトン体測定用バイオセンサは熱安定性に優れるため、特に熱処理等の負荷を掛ける工程を伴う効率的なセンサストリップの製造を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ゲオバチルス属由来の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いたケトン体測定用バイオセンサ作製時の乾燥温度を30℃~50℃に設定した際の電極応答値への影響を示したグラフである。
【
図2】シュードモナス属由来の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を用いたケトン体測定用バイオセンサ作製時の乾燥温度を30℃~50℃に設定した際の電極応答値への影響を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において用いられる、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)は、ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)の存在下3-ヒドロキシ酪酸を酸化してアセト酢酸と還元型NADを生じる反応を可逆的に触媒する理化学的性質を有する酵素である。本発明においては、この理化学的性質を3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性といい、特に断りが無い限り、「酵素活性」又は「活性」とは、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を意味する。
【0014】
本発明において、ケトン体とは、カルボニル基と2個の炭化水素が結合した化合物の総称である。体内に存在するケトン体にはアセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンなどがある。
【0015】
以下に、本発明で好適に用いられる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の有する性質について述べる。
【0016】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、下記の反応を触媒する。
【0017】
【0018】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)に対して特異的に作用する基質特異性を有している。特には、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-Hydroxypropionate)、乳酸(Lactate)、グリセリン酸(Glycerate)、2-ヒドロキシ酪酸(2-Hydroxybutyrate)、L-リンゴ酸(L-Malate)、D,L-リンゴ酸(D,L-Malate)、2-ブタノール(sec-Butyl alcohol)、グルコン酸(Gluconate)、グリコール酸(Glycolate)などに対する反応性が低いことを特徴とする。また、補酵素としては、NAD+に対する特異性に優れ、NADP+に対する反応性は低い。
【0019】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の至適温度は、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは65℃以上である。
【0020】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の熱安定性は、pH6.5において、30分の熱処理後の残存活性率により評価するものとし、残存活性率が90%以上である場合には、熱安定性を有するものとする。より好ましくは、残存活性率が95%以上である。このような熱安定性を示す範囲としては、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは60℃以下、特に好ましくは65℃以下である。
【0021】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の熱安定性は、また、pH6.5において、16時間の熱処理後の残存活性率により評価することができる。残存活性率が90%以上である場合には、熱安定性を有するものとする。より好ましくは、残存活性率が95%以上である。16時間の熱処理後に、このような熱安定性を示す範囲は好ましくは45℃以下であり、より好ましくは50℃以下、特に好ましくは55℃以下である。
【0022】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の至適pHは、pH6.0~9.0の範囲内にあることが好ましい。より好ましくはpH6.5~8.5の範囲であり、特に好ましくはpH7.5~8.5の範囲である。
【0023】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のpH安定性は、25℃、20時間の処理後の残存活性率により評価するものとし、残存活性率が80%以上である場合には、pH安定性を有するものとする。pH安定性の範囲は、好ましくはpH5.0~10.0の範囲であり、より好ましくはpH5.2~9.4の範囲である。3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素が安定性を示すpHの範囲が広いことから、ケトン体測定用センサを作製する際に用いる緩衝液の種類が制限されることが少なくなる点で、非常に有用である。
【0024】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の分子量は、SDS-PAGEで求めた場合に、好ましくは25~30kDa程度、より好ましくは27~29kDa程度、特に好ましくは28kDa程度である。
【0025】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の3-ヒドロキシ酪酸に対するKm値は、好ましくは0.6mM以下、より好ましくは0.5mM以下である。
【0026】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、様々な共存物質による酵素活性阻害の影響を受けることが少ないものを用いるのが、ケトン体の測定に用いられる反応条件に関して制約を受けることが少なく、汎用性の点で有利である。また、保存性の観点でも有利である。上記のような阻害を受けない共存物質としては、金属塩化物など様々な金属塩、防腐剤、キレート剤、界面活性剤などの化学物質が挙げられる。
【0027】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素に対して阻害を受けない共存物質として、具体的に例示されるものとして、金属塩化物としては、例えば、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化マンガン、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄(III)などが挙げられる。その他の金属塩としては、例えば、硫酸亜鉛などが挙げられる。好ましくは、これら金属塩化物またはその他の金属塩が2mMの濃度で、25℃、1時間処理後の残存活性率が70%以上を示す。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0028】
防腐剤としては、例えば、モノヨード酢酸(MIA;Monoiodoacetate)、アジ化ナトリウム、フッ化ナトリウムなどが挙げられる。好ましくは、これらの防腐剤が2mM~20mMの濃度で、25℃、1時間処理後の残存活性率が70%以上を示す。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0029】
キレート剤としては、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、フェナントロリン、α,α'-ジピリジルなどが挙げられる。本発明に用いられる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素にあっては、これらキレート剤が1mM~50mMの濃度で、25℃、1時間処理後の残存活性率が70%以上を示すことが好ましい。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の残存活性率を示すものである。また、その他の化学物質として、ホウ酸塩、ヒドロキシルアミン、ヨードアセテートアミド(IAA)等が挙げられる。
【0030】
界面活性剤としては、例えば、Triton X-100(ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル)、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)、Brij35(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、コール酸ナトリウム、Span20(ソルビタンモノラウラート)などが挙げられる。本発明の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素にあっては、これら界面活性剤が0.1%の濃度で、25℃、1時間処理後の残存活性率が70%以上を示すことが好ましい。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。このような界面活性剤の共存下においても阻害を受けない酵素を用いることは、ケトン体測定用センサを作製するうえで、非常に有用である。
【0031】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の好ましい態様の一つとしては、ゲオバチルス属の微生物に由来する、以下(a)から(g)の理化学的性質を有するものが挙げられる。
(a)作用:下記の反応を触媒する。
【0032】
【0033】
(b)至適温度:65℃以上
(c)熱安定性:65℃以下
(d)至適pH:8.5
(e)pH安定性:5.2~9.4
(f)分子量:約28kDa(SDS-PAGE)
(g)Km値:3-ヒドロキシ酪酸に対するKm値が0.6mM
【0034】
上記のような理化学的性質を有する3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素としては、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素生産微生物、例えばゲオバチルス属の微生物が生産する酵素が挙げられる。このような微生物としては、好ましくは、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearophermophilus)、ゲオバチルス・アナトリカス(Geobacillus anatolicus)、ゲオバチルス・ボアジチ(Geobacillus bogazici)、ゲオバチルス・サーモグリコシダウス(Geobacillus galactosidasius)、ゲオバチルス・ゲノモスプ(Geobacillus genomosp.)、ゲオバチルス・ジュラシクス(Geobacillus jurassicus)、ゲオバチルス・カウエ(Geobacillus kaue)、ゲオバチルス・マハディア(Geobacillus mahadia)、ゲオバチルス・プロテイニフィラス(Geobacillus proteiniphilus)、ゲオバチルス・サブテラネウス(Geobacillus subterraneus)、ゲオバチルス・(Geobacillus thermodenitrificans)、ゲオバチルス・コーストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、ゲオバチルス・リトアニカス(Geobacillus lituanicus)、ゲオバチルス・サーモカテニュロータス(Geobacillus thermocatenulatus)、ゲオバチルス・サーモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)、ゲオバチルス・ブルカニ(Geobacillus vulcani)、ゲオバチルス・サーモパラフィニボランス(Geobacillus thermoparaffinivorans)、ゲオバチルス・トロピカリス(Geobacillus tropicalis)、ゲオバチルス・ウラリカス(Geobacillus uralicus)、ゲオバチルス・ウゼネンシス(Geobacillus uzenensis)、ゲオバチルス・ユムタンジェネシス(Geobacillus yumthangensis)などが挙げられる。本発明に用いられる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、これらのゲオバチルス属の微生物を培養して得られる培養液から抽出、精製することにより単離することもできるが、生産効率の観点から、遺伝子組換え技術を用いた組換え酵素であることが好ましい。
【0035】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質で、または、配列番号1において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を有するタンパク質も含まれる。また、配列番号1に記載のアミノ酸配列との同一性が、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。本発明の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする遺伝子は、ゲオバチルス属の微生物のゲノムから直接取得しても良く、または人工的に合成することもできる。
【0036】
上記遺伝子としては、例えば配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、または配列番号1において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAがある。具体的には、配列番号2に記載される塩基配列からなるDNAが挙げられる。DNAの欠失、置換、付加の程度については、基本的な特性を変化させることなく、あるいはその特性を改善するようにしたものを含む。また、配列番号2に記載の塩基配列との同一性が、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。
【0037】
本発明で用いる3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、単離又は精製された3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素であることが好ましい。また、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素は、上記保存に適した溶液中に溶解した状態又は凍結乾燥された状態(例えば、粉末状)で用いてもよい。あるいは、保存又は酵素活性の測定に適した溶液(例えば、バッファー)中に存在する形で用いてもよい。
【0038】
ケトン測定用バイオセンサ
本発明のケトン測定用バイオセンサの電極としては、例えば、カーボン電極、金電極、白金電極などを用いることができる。より具体的には、特に限定されるものではないが、作用極としては、電子伝達体を酸化する際にそれ自身が酸化されない導電性材料であれば、特に限定されることなく用いることができる。対極としては、パラジウム、金、白金、カーボン等の一般的に用いられる導電性材料を用いることができる。この電極上に3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはヘキサアミンルテニウムあるいはその誘導体に代表される電子受容体とともに、ポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。また、ケトン体濃度の測定に際しては、恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する条件下で行ってもよい。
【0039】
電子受容体としては、例えばヘキサアミンルテニウム、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェート、p-ベンゾキノン、メチレンブルー、フェロセン誘導体などを用いることができる。フェリシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム)を電子受容体として用いる場合、終濃度として、好ましくは0.5~200mM、より好ましくは1~100mM,更に好ましくは2~50mMである。
【0040】
あるいは、電子受容体として、塩化ヘキサアミンルテニウム(III)、(ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)、(4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(4,4’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジメチル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジフェニル-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジアミノ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジヒドロキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジカルボキシ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ルテニウム(II)、(5,5’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)などのルテニウム化合物を、好適に用いることができる。これらの中から1種を選択して用いてもよいし、または2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0041】
本発明のケトン体測定用バイオセンサの具体的な態様として、例えば作用電極として上述のような3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いるものが好適な例として挙げられる。一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、ケトン体を含む試料を加えて電流の増加を測定することができる。標準濃度のケトン体標準溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のケトン体濃度を計算することができる。
【0042】
本発明のケトン体測定用バイオセンサは、電極系において、酵素として3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を含む反応層に有することが好ましい。例えば、絶縁性基板上にスクリーン印刷などの方法を利用して作用極、その対極および参照極からなる電極系を形成し、この電極系上に接して親水性高分子、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素と電子受容体とを含む反応層を形成することによって作製される。このケトン体測定用バイオセンサの反応層上にケトン体を含む試料液を滴下すると、反応層が溶解して3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素とケトン体が反応し、これに伴い電子受容体が還元される。酵素反応終了後、還元された電子受容体を電気化学的に酸化させ、得られる酸化電流値から試料液中の基質濃度を測定することが可能である。
【0043】
本発明のケトン体測定用バイオセンサは、作用極を有する第1の絶縁性基板、前記作用極と対向させた対極を有する第2の絶縁性基板、少なくとも3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素を含む試薬層、並びに第1および第2の絶縁性基板の間に形成された試料供給路を具備する態様が例示される。前記試料供給路内に前記作用極、対極および試薬層が露出し、かつ前記作用極と前記対極との距離が50μm~200μm、好ましくは40μm~150μm、より好ましくは30μm~100μm程度であることが好ましい。ここで、対極の試料供給路に露出している部分の面積は、作用極の試料供給路に露出している部分の面積と同じかそれ以下であり、かつ前記作用極の直上に前記対極が位置することが好ましい。
【0044】
作用極は、試料供給路に露出している部分の面積S1が0.01~20mm2、より好ましくは0.1~2.0mm2、対極の試料供給路に露出している部分の面積S2が0.005~20mm2、より好ましくは0.05~2.0mm2であり、S2≦S1であることが好ましい。ここで、第1および第2の基板の間にスペーサ部材を挟んだ構成をとることが、より好ましい。
【0045】
本発明のケトン体測定用バイオセンサは、前記試料供給路内に毛管作用により収容される試料液量が10nl~500nlであるのが好ましく、より好ましくは5~100nl、特に好ましくは1nl~20μlである。
【0046】
作用極が第1の絶縁性基板上に形成され、対極が第2の絶縁性基板上に形成されていることが好ましい。さらには、第1の基板と第2の基板とが、スペーサ部材を挟む構造であることが好ましい。第1および第2の基板としては、電気絶縁性を有するもので、保存および測定時に充分な剛性を有する材料であれば用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。電極との密着性の点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0047】
スペーサ部材としては、電気絶縁性を有し、保存および測定時に充分な剛性を有する材料であれば用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0048】
本発明のケトン体測定用バイオセンサには、試薬層に親水性高分子が含まれることが好ましい。親水性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタアクリル酸およびその塩、スターチおよびその誘導体、無水マレイン酸またはその塩の重合体が挙げられる。カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。
【0049】
本発明のケトン体測定用バイオセンサの製造においては、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を保持する電極系を30℃以上の温度で乾燥する工程を含むことが好ましい。40℃以上の温度で乾燥する工程を含むのがより好ましく、50℃以上の温度で乾燥する工程を有することがさらに好ましい。
【0050】
また、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を含む組成物のpHを6.0~9.0とする工程を含むことが好ましい。pH7.0~9.0とする工程を含むのがより好ましく、pH7.5~8.5とする工程を含むのがさらに好ましい。
【0051】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、実施例により本発明が特に限定されるものではない。
【0052】
実施例1 3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のクローニング
配列番号1に、Geobacillus stearothermophilus由来の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(以下、「HBDH-GS」と略す)のアミノ酸配列を示す。配列番号1に基づいて、大腸菌K-12株のコドンユーゼージに最適化された、配列番号2に記載の人工合成遺伝子を作製した。同様に、Pseudomonas aeruginosa由来の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素のアミノ酸配列を配列番号3(以下、「HBDH-PA」と略す)に示す。配列番号3に基づいて、配列番号4に記載の人工合成遺伝子をそれぞれ作製した。
【0053】
これらの人工合成遺伝子を鋳型として、表1に記載のプライマーを用いて、各種3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を増幅した(表1において、Fwはフォワードプライマー、Rvはリバースプライマーを表す)。具体的には、フォワードプライマーは、各種3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素をコードする遺伝子の5’上流側に開始コドンを加え、開始コドンの後にヒスチジンタグが繋がるように設計した。リバースプライマーは、各種3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の3’末端の終始コドンを含む形で増幅するように設計した。His-HBDH-GSをコードする遺伝子の増幅には、配列番号5、配列番号6のプライマーを使用した。同様に、His-HBDH-PAをコードする遺伝子の増幅には、配列番号7及び配列番号8のプライマー対を使用した。
【0054】
【0055】
なお、本プライマーのN末端側には制限酵素サイトNdeIが、C末端側には制限酵素サイトBamHIが、それぞれ付加されている。このDNA断片を制限酵素NdeIとBamHIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBluescriptII KSN+と混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにして、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSK-His-HBDH-GS、pBSK-His-HBDH-PAを取得した。
【0056】
実施例2 3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素遺伝子のE.coliにおける発現及び精製
実施例1で構築した各種のプラスミドを用いて、E.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡製コンピテントハイJM109)を当製品に添付のプロトコールに従って形質転換し、形質転換体を取得した。得られた各形質転換体のコロニーを、試験管内にて滅菌した5mLのLB液体培地(50μg/mL アンピシリンを含む)に植菌後、30℃で16時間振とうして好気的に培養した。
【0057】
得られた培養液を種培養液とし、500mlの坂口フラスコに入った100mLのTB培地(1mM IPTG、50μg/mL アンピシリンを含む)に植菌し、振とう数180rpmで37℃、22時間培養した。このようにして得られた菌体を遠心分離で集菌し、25mM リン酸緩衝溶液(pH7.5)に懸濁し、ガラスビーズを用いて破砕し、得られた粗酵素の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を測定したところ、His-HBDH-GS、HBDH-PAは高発現が認められた。2種の破砕液を、20mM イミダゾールを含む25mM リン酸緩衝溶液(pH7.5)で平衡化したHisTrap HP1mL(Cytiva製)に供し、500mM イミダゾールを含む25mM リン酸緩衝溶液(pH7.5)で溶出することで、高い純度の3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素溶液を得た。
【0058】
実施例3 各種3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の熱安定性評価
実施例2で取得したHis-HBDH-GS、His-HBDH-PA及びHis-HBDH-HT酵素溶液を1U/mLに50mM KPB(pH6.5)で調製後、50℃で15分間加温処理し、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素活性を測定し、残存活性により熱安定性を評価した。His-HBDH-GSは99.8%、His-HBDH-PAは38.0%の残存率であった。
【0059】
実施例4 3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素の電極評価
電極ストリップ上に以下の順で所定量の化合物を滴下、乾燥させてケトン体測定用センサを作製した。カルボキシメチルセルロース(以下、CMC)0.1mg、NAD 0.0015mg、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素0.5U、ヘキサアミンルテニウム0.00175mg。3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素には、実施例2で取得したHis-HBDH-GS、His-HBDH-PAを使用し、乾燥温度を30℃または50℃に設定・調製したストリップをそれぞれ用意した。
【0060】
上記のようにして得られたストリップに対し、0.9%NaClに溶解した0、0.2、1.0、5.0、10.0mMの3-HBを滴下し、600mVの印加電圧から2秒後の電流値を測定した。この電流値は、生成した電子受容体の還元体の濃度、すなわち試料液内基質濃度に比例するので、この電流値を測定することにより、試料液内の3-HB濃度を求めることができる。結果を表2、表3に示した。得られた応答電流値と3-HB濃度との間には一定の相関性が認められたが、対照としたHis-HBDH-PAにおいて50℃乾燥時の応答値が30℃で乾燥時の75%しか得られなかった(
図2)。それに対し、本発明のHis-HBDH-GSでは、50℃で乾燥時の応答値が30℃乾燥時に比して116%と同等であった(
図1)。
【0061】
【0062】
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上の通り、本発明のケトン体測定用バイオセンサは熱安定性に優れるため、熱処理等を伴う効率的なセンサストリップの製造を可能にするものである。これにより、医療・診断の分野はもとより、ケトジェニックダイエット(ケトンダイエット)における指標としてのケトン体測定においても広く用いられることが期待される。
【配列表】