(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185228
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】フィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 29/48 20060101AFI20221207BHJP
B01D 29/07 20060101ALI20221207BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B01D29/48 Z
B01D29/06 510C
B01D39/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092755
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】白井 貴章
【テーマコード(参考)】
4D019
4D116
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB05
4D019BB10
4D019BD03
4D019CA02
4D019CA03
4D019CB01
4D019CB06
4D019CB07
4D116AA16
4D116BB01
4D116BC11
4D116BC13
4D116BC23
4D116BC27
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4D116BC45
4D116BC46
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4D116FF12B
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4D116FF16B
4D116GG12
4D116GG13
4D116HH09B
4D116HH30B
4D116QB34
4D116ZZ01
4D116ZZ21
(57)【要約】
【課題】性能を向上できるフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタ1は、多孔筒7の外側に濾材10が筒状に配置されたフィルタエレメント2を備え、濾材10は、表面に形成されたエンボス部21を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔筒の外側に濾材が筒状に配置されたフィルタエレメントを備え、
前記濾材は、表面に形成されたエンボス部を有する、フィルタ。
【請求項2】
前記濾材がシート状であり、前記多孔筒に巻回されている、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記フィルタエレメントでは、前記濾材、及びネット状の基材の積層シートが巻回されている、請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記フィルタエレメントでは、径方向に前記濾材が連続して積層される、請求項2に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記フィルタエレメントでは、複数の通気抵抗の異なる前記濾材が径方向に積層されるように巻回されている、請求項2~4の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記濾材が孔を有している、請求項2~5の何れか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
プリーツ状に折り畳まれた前記濾材が前記多孔筒の外側に配置されている、請求項1に記載のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルタとして、特許文献1に記載されたものが知られている。このフィルタは、多孔筒の外側に濾材が筒状に配置されたフィルタエレメントを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなフィルタは、フィルタエレメントの濾材に液体を通過させることで、液体に含まれる粒子を除去する。ここで、フィルタの性能を向上するために、濾材の全面を圧縮して押しつぶすカレンダー加工が行われる場合がある。しかし、このようなフィルタよりも、更にフィルタの性能を向上することが求められていた。
【0005】
従って、本発明は、性能を向上できるフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るフィルタは、多孔筒の外側に濾材が筒状に配置されたフィルタエレメントを備え、濾材は、表面に形成されたエンボス部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、性能を向上できるフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るフィルタ1を示す斜視図である。
【
図3】フィルタエレメントの積層態様を示す拡大図である。
【
図4】フィルタエレメントの積層態様を示す拡大図である。
【
図6】
図5に示すVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】積層シートを製造する製造装置を示す概略図である。
【
図8】不織布の繊維と開孔の挙動を説明するための模式図である。
【
図9】第2実施形態に係るフィルタのフィルタエレメントを示す斜視図である。
【
図10】フィルタエレメントの積層態様を示す拡大図である。
【
図11】第3実施形態に係るフィルタのフィルタエレメントを示す拡大図である。
【
図12】試験に用いられた濾材の条件を示す表である。
【
図13】各濾材の条件、及び試験結果を示す表である。
【
図14】流量特性と除去性能との関係を示すグラフである。
【
図15】各濾材の条件、及び試験結果を示す表である。
【
図16】流量特性と除去性能との関係を示すグラフである。
【
図17】厚みと通気抵抗との関係を示すグラフである。
【
図18】各濾材の条件、及び試験結果を示す表である。
【
図19】各濾材の条件、及び試験結果を示す表である。
【
図21】濾材の厚みとフィルタエレメントの外径との関係を示すグラフである。
【
図22】流量と流量特性との関係を示すグラフである。
【
図23】フィルタエレメントの外径と流量特性との関係を示すグラフである。
【
図24】フィルタエレメントの外径と除去性能との関係を示すグラフである。
【
図25】フィルタエレメントの外径と剛性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るフィルタ1を示す斜視図である。
図1に示すように、フィルタ1は、フィルタエレメント2と、ガスケット3,4と、を備える。フィルタエレメント2は、円筒状の部材であって、液体に含まれる粒子を除去する部材である。なお、以降の説明では、フィルタエレメント2の中心軸CL1が延びる方向を「軸方向」と称する。また、中心軸CL1と直交する方向を「径方向」と称する。径方向のうち中心軸CL1に近付く側を「内側」と称し、中心軸CL1から遠ざかる側を「外側」と称する。中心軸CL1周りの方向を「周方向」と称する。
【0011】
フィルタエレメント2は、中心軸CL1付近に形成された円柱状の内部空間6を有する。フィルタエレメント2は、外周面2aから液体が内部空間6に導入されるときに、フィルタエレメント2において液体を径方向の外側から内側へ通過させることで、液体中の粒子を除去する。または、フィルタエレメント2は、内部空間6に導入された液体が外周面2aから排出されるときに、フィルタエレメント2において液体を径方向の内側から外側へ通過させることで、液体中の粒子を除去する。ガスケット3は、フィルタエレメント2の軸方向における一方の端面を覆うように設けられる円板状の部材である。ガスケット4は、フィルタエレメント2の軸方向における他端を覆うように設けられる円板状の部材である。
【0012】
図2~
図4を参照して、フィルタエレメント2の具体的な構造について説明する。
図2に示すように、フィルタエレメント2は、多孔筒7の外側に濾材10が筒状に配置されることによって構成される。多孔筒7は、フィルタエレメント2の芯材を構成する円筒状の部材である。多孔筒7は、液体を外周面から内周面へ、または内周面から外周面へ径方向に透過させるための多数の孔を有している。
【0013】
濾材10は、多孔筒7の外周面を外側から取り囲むような筒状をなした状態にて、多孔筒7の外側に配置される。本実施形態では、濾材10がシート状に構成される。そして、濾材10が、多孔筒7に巻回されている。また、フィルタエレメント2では、濾材10、及びネット状の基材11の積層シート12が巻回されている。ネット状の基材11は、互いに交差する複数の線材11a,11bによって構成される(
図4(a)(b)参照)。なお、線材11aと線材11bとは上下に積層されてもよく(
図4(a)参照)、線材11aと線材11bとが同一面に配置されてもよい(
図4(b)参照)。
図2では、最外周の積層シート12が巻き戻されて展開された様子が示されている。積層シート12は、長尺な帯状の基材11の一方の主面に、シート状の濾材10を配置することによって構成される。基材11には、長手方向(巻回方向)に複数枚の濾材10が並べられるように配置されてよい。あるいは、濾材10は、基材11と同様に長尺な帯状に形成されていてもよい。
【0014】
上述のような積層シート12を巻回した後の状態の拡大図を
図3(a)に示す。
図3(a)は、フィルタエレメント2の軸方向の端面における積層シート12の積層態様を示している。
図3(a)に示すように、フィルタエレメント2では、径方向において、濾材10と基材11が交互に積層される。具体的には、中心軸から「n層目」の積層シート12の基材11の外周面に、「n+1層目」の積層シート12の濾材10の内周面が接するように巻き付けられる。また、「n+1層目」の積層シート12の基材11の外周面に、「n+2層目」の積層シート12の濾材10の内周面が接するように巻き付けられる。なお、一つあたりの積層シート12には、基材11及び濾材10以外の部材が積層されていてもよい。また、一つあたりの積層シート12の基材11に対して、複数枚の濾材10が積層されてもよい。例えば、基材11の両方の主面に濾材10が積層されてもよい。
【0015】
ここで、フィルタエレメント2では、複数の通気抵抗の同じ濾材10が径方向に積層されるように巻回されてよい。あるいは、フィルタエレメント2では、複数の通気抵抗の異なる濾材10が径方向に積層されるように巻回されてよい。例えば、
図3(b)(c)に示すように、径方向の内側に配置される濾材10Aの通気抵抗と、径方向の外側に配置される濾材10Bの通気抵抗とが、互いに異なっていてよい。例えば、
図3(b)に示すように、一層あたりの積層シート12の中に、互いに通気抵抗が異なる濾材10A,10Bが含まれてよい。このとき、積層シート12は、巻回前に、通気抵抗が互いに異なる濾材10A,10Bを基材11に重ねることによって構成される。あるいは、
図3(c)に示すように、径方向の内側の積層シート12の濾材10Aの通気抵抗と、外側の積層シート12の濾材10Bの通気抵抗とが、互いに異なっていてもよい。なお、径方向の外側から内側に向かって、徐々に通気抵抗が小さくなるように勾配が付けられてよい。あるいは、径方向の外側から内側に向かって、徐々に通気抵抗が大きくなるように勾配が付けられてよい。なお、
図3(b)(c)に示す例では、「濾材10A」として示されている領域は、一層の濾材10Aのシートのみによって構成されている場合に限定されず、濾材10Aとして同一の通気抵抗を有するシートを複数層重ねることによって形成されていてもよい。「濾材10B」として示される領域も同様である。
【0016】
また、
図4(a)に示すように、濾材10は、孔16を有してよい。孔16は、濾材10の径方向における内側の表面と外側の表面との間で貫通するように形成される。特に孔16の大きさや配置が限定されるものでは無いが、孔16の直径は約3.97mm(5/32インチ)に設定されてよい。また、孔16は、約30.5mm(1.2インチ)の間隔で直線列で配置されてよい。更に、各直線列における孔16の配置は、隣の直線列における孔16と互い違いになるように配置されてよい。直線列同士の間隔は約15.2mm(0.6インチ)に設定されてよい。
【0017】
次に、濾材10の材料について説明する。濾材10の材料として液体を透過させると共に、透過させた液体から粒子を除去可能な材料が採用される。濾材10の材料として、例えば、不織布が採用される。不織布の目付は、10~1000gsmに設定されてよい。不織布材質として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂が採用されてよい。その他、濾材10の材料として、繊維からなる空隙によって濾過が可能となる材料(例えば、織布、紙など)が採用されてよい。
【0018】
次に、
図5及び
図6を参照して、濾材10の詳細な構成について説明する。
図5は、濾材10の表面の様子を示す拡大平面図である。
図6は、
図5(a)のVI-VI線に示す断面図である。
図5(a)(b)に示すように、濾材10は、表面に形成されたエンボス部21(圧着部)を有する。なお、エンボス部21以外の箇所を非エンボス部22(非圧着部)と称する。
【0019】
図5に示すように、エンボス部21は、濾材10の母材(加工前の不織布)の一部に対して、部分的に厚みが薄くなる加工を施された部分である。このようなエンボス部21は、濾材10の母材をエンボスロールなどで熱圧着することによって形成される。濾材10は、厚み方向の両側の表面にエンボス部21を有している。特に限定されないが、非エンボス部22の厚みT1(すなわち濾材10の厚み)を100%とした場合、エンボス部21の厚みT2は1%以上、5%以上、10%以上、20%以上に設定されてよい。また、エンボス部21の厚みT2は70%以下、65%以下、60%以下、50%以下に設定されてよい。なお、濾材10の厚みT1は、特に限定されないが、0.1~15mmに設定されてよい。
【0020】
エンボス部21によるエンボスパターンとして、
図5(a)に示す種類と、
図5(b)に示す種類が例示される。
図5(a)のエンボスパターンでは、非エンボス部22が閉領域を形成するような所定形状を有し、非エンボス部22同士の隙間の領域にエンボス部21が形成される。
図5(a)に示す例では、非エンボス部22の形状として、正方形が採用されている。また、非エンボス部22の正方形の一辺と、隣の非エンボス部22の一辺との間にエンボス部21が形成される。エンボス部21は、複数の非エンボス部22に亘って直線状に形成される。このようなエンボスパターンは、一定のピッチで離間するように配列された直線状の第1のエンボス部21Aと、第1のエンボス部21Aと直交して一定のピッチで離間するように配列された直線状の第2のエンボス部21Bと、を有する。なお、寸法は特に限定されないが、エンボス部21の幅L1は、0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上に設定されてよい。また、エンボス部21の幅L1は、5mm以下、3mm以下、1mm以下に設定されてよい。また、非エンボス部22の一辺の長さL2は、0.5mm以上、1.0mm以上、1.5mm以上、2.0mm以上に設定されてよい。また、非エンボス部22の一辺の長さL2は、99.9mm未満、50mm以下、30mm以下、10mm以下に設定されてよい。なお、非エンボス部22の形状は特に限定されず、三角形または五角形以上の多角形であってもよく、長方形などの長手方向を有する形状であってもよい。
【0021】
図5(b)のエンボスパターンでは、エンボス部21が閉領域を形成するような所定形状を有し、エンボス部21同士の隙間の領域に非エンボス部22が形成される。
図5(b)に示す例では、エンボス部21の形状として、円が採用されている。また、エンボス部21と、隣のエンボス部21との間に非エンボス部22が形成される。なお、寸法は特に限定されないが、エンボス部21の直径L3は、0.1mm以上、0.3mm以上、0.5mm以上、1mm以上に設定されてよい。エンボス部21の直径L3は、20mm以下、15mm以下、10mm以下、5mm以下に設定されてよい。また、エンボス部21のピッチL4(すなわち非エンボス部22の幅)は、0.5mm以上、1mm以上、2mm以上に設定されてよい。エンボス部21のピッチL4は、10mm以下、8mm以下、5mm以下に設定されてよい。エンボス部21は、所定の配列パターンに従って配列される。エンボス部21の形状は特に限定されず、多角形であってもよく、長円、楕円などの長手方向を有する形状であってもよい。
【0022】
濾材10の単位面積あたりのエンボス部21の合計の面積の割合は、0%より大きく、44%未満であってよい。より好ましくは、濾材10の単位面積あたりのエンボス部21の面積の割合は、0%より大きく、2%以上、5%以上、また、35%以下、25%以下、16%以下であってよい。なお、
図2に示すように単位領域SEを(仮想的に)設定する。単位領域SEは、例えば一辺100mmの矩形に設定することができる。単位領域SEを濾材10の任意の位置に設定した場合、当該単位領域SE内には、所定のエンボスパターンにて複数のエンボス部21及び非エンボス部22が存在しており、エンボス部21の面積の割合が前述の範囲内に収まっている。このような関係性は、単位領域SEを濾材10内のどの位置に(仮想的に)移動させたとしても成り立っていることが好ましい。例えば、濾材10の一部に広い面積のエンボス部21が形成され、他の部分に広い範囲の非エンボス部22が形成されているような場合も、単位面積あたりのエンボス部21の面積の割合が上述の範囲内に結果的に入ることもあり得る。しかし、このようなエンボス部21が偏った構成では、単位領域SEを移動させた場合に、単位領域SEの全域がエンボス部21、又は非エンボス部22になる部分が存在する。このようにエンボス部21が一部に偏っている場合、濾材10の濾過性能にムラができてしまう。これに対し、エンボス部21が所定のエンボスパターンにて形成されている場合、濾材10の濾過性能のムラを抑制することができる。
【0023】
次に、
図7を参照して、フィルタエレメント2の製造方法について説明する。
図7は、フィルタエレメント2の製造装置50を示す。製造装置50は、基材11を供給する供給ローラ51と、積層シート12を巻き取る巻取部52と、巻き取った積層シート12を圧縮する圧縮部53と、を備える。まず、供給ローラ51は、巻取部52へ基材11を供給する。搬送路の中途位置において、濾材10が基材11上に配置される。巻取部52は、多孔筒7を回転方向R1に回転して、積層シート12を多孔筒7で巻き取る。このとき、圧縮部53は、巻き取られる積層シート12に対して外側から圧力Pを付与する。これにより、多孔筒7に積層シート12が所定回数巻き付けられることで、フィルタエレメント2が完成する。
【0024】
次に、本実施形態に係るフィルタ1の作用・効果について説明する。
【0025】
不織布などを濾材とするフィルタにおいて、粒子の除去性能を向上させるための方法として、より細い繊維径を有する不織布を用いる方法が採用される場合がある。例えば、
図8(a)に示すような不織布30では、複数の繊維31の間に開孔32が形成される。なお、
図8では、説明のための開孔32にグレースケールが付され、当該開孔32を形成する繊維31が太線で示されている。このような不織布では、繊維31を細くすることで開孔32を小さくすることができる。しかしながら、このような方法は、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)などによる微細繊維不織製造を採用する必要があり、生産性及びコストの点で問題が生じる。
【0026】
また、粒子の除去性能を向上させるための他の方法として、濾材の全面を圧縮するカレンダー加工にて不織布をつぶすことで開孔32を小さくする方法が採用される場合がある。しかし、このような方法は、流量特性が低下するという問題が生じる。また、カレンダー加工された不織布の位置は保持されず、繊維31に流動性がある状態である。そのため、
図8(b)に示すように、開孔32は、流体が通過する際に発生する応力によって拡大する可能性がある。その場合、粒子が開孔32を通過し、除去性能が低下する可能性がある。これに対し、高温条件にてカレンダー処理を行うことで密な開孔32を作ろうとした場合、不織布の表面が溶融し、開孔32が過度に密になり、または開孔32が無くなってしまうため、不織布がフィルタとして機能しなくなってしまう。
【0027】
これに対し、本実施形態に係るフィルタ1は、多孔筒7の外側に濾材10が筒状に配置されたフィルタエレメント2を備え、濾材10は、表面に形成されたエンボス部21を有する。
【0028】
この場合、
図8(c)に示すように、不織布の繊維31の位置は、不織布30全体にわたって形成されたエンボス部21によって保持される。従って、繊維31の移動度は、カレンダ加工された不織布と比較して小さく抑制することができる。従って、濾材10に流体を通過させるとき、当該流体の応力に対して開孔32の孔径を良好に維持することができる。従って、カレンダ加工された不織布と比較して、フィルタエレメントの除去性能を高くすることができる。また、カレンダ加工された不織布と比較して、流量特性も向上させることができる。
【0029】
濾材10がシート状であり、多孔筒7に巻回されてよい。この場合、多孔筒7に巻回された濾材10に液体を透過させることによって、濾過を行うことが可能となる。
【0030】
フィルタエレメント2では、濾材10、及びネット状の基材11の積層シート12が巻回されてよい。この場合、基材11で濾材10を支持することができる。このような基材11は、積層シート12に濾材10以外の部材を含ませるときに、効果的に強度を確保することができる。
【0031】
フィルタエレメント2では、複数の通気抵抗の異なる濾材10が径方向に積層されるように巻回されてよい。この場合、液体に含まれる異なる粒径の異物が効率的に捕捉され、広い粒度分布をもった液体の異物除去に対して有効となり、フィルター寿命の改善が可能となる。
【0032】
濾材10が孔16を有してよい。この場合、液体の一部が濾材10の孔16を通ることで、濾材10全面に対する液体の分配性能が改善され、フィルター寿命の改善が可能となる。
【0033】
[第2実施形態]
図9を参照して、第2実施形態に係るフィルタ1について説明する。第2実施形態に係るフィルタ1は、フィルタエレメント2が基材11を有していない点で、第1実施形態に係るフィルタ1と相違する。なお、第2実施形態のフィルタエレメント2は、基材11を有していない点以外は、第1実施形態のフィルタエレメント2と同様な構成を有している。従って、第2実施形態のフィルタエレメント2においても、第1実施形態で説明した濾材10及び多孔筒7を同様に採用することができる。
【0034】
図9に示すように、フィルタエレメント2の濾材10は、シート状であり、多孔筒7に巻回されている。ここで、濾材10は、長尺な帯状に構成されており、単独で多孔筒7に巻回される。
【0035】
上述のような濾材10を巻回した後の状態の拡大図を
図10に示す。
図10は、フィルタエレメント2の軸方向の端面における濾材10の積層態様を示している。
図10(a)に示すように、フィルタエレメント2では、径方向に濾材10が連続して積層される。具体的には、中心軸から「n層目」の濾材10の外周面に、「n+1層目」の濾材10の内周面が接するように巻き付けられる。また、「n+1層目」の濾材10の外周面に、「n+2層目」の濾材10の内周面が接するように巻き付けられる。
【0036】
ここで、
図10(a)に示すように、フィルタエレメント2では、複数の通気抵抗の同じ濾材10が径方向に積層されるように巻回されてよい。あるいは、フィルタエレメント2では、複数の通気抵抗の異なる濾材10が径方向に積層されるように巻回されてよい。例えば、
図10(b)(c)に示すように、径方向の内側に配置される濾材10の通気抵抗と、径方向の外側に配置される濾材10の通気抵抗とが、互いに異なっていてよい。例えば、
図10(b)に示すように、互いに通気抵抗が異なる濾材10A,10Bの組み合わせが、径方向に連続していてよい。このとき、巻回前に、通気抵抗が互いに異なる濾材10A,10Bを重ねておき、当該重ね合わせられた濾材10A,10Bを多孔筒7に巻回する。あるいは、
図10(c)に示すように、径方向の位置によって通気抵抗が他の位置と異なるものとなるように、互いに通気抵抗が異なる濾材10A,10B,10C,10Dが巻回されてよい。このとき、巻回前に、互いに通気抵抗が異なる濾材10A,10B,10C,10Dを長手方向につなぎ合わせることで、長尺な帯状の濾材10を構成すればよい。なお、
図10(b)(c)に示す例では、「濾材10A」として示されている領域は、一層の濾材10Aのシートのみによって構成されている場合に限定されず、濾材10Aとして同一の通気抵抗を有するシートを複数層重ねることによって形成されていてもよい。「濾材10B,10C,10D」として示される領域も同様である。
【0037】
ここで、従来のエンボス加工やカレンダー加工がなされていない不織布を用いて、ネット状の基材11を省略してフィルタエレメントを作成した場合について説明する。このとき、高温中高流量などのように、フィルタへの負荷がの高い条件でフィルタエレメントを使用すると、フィルタエレメントの剛性及び最外層表面の耐久性が不十分で、フィルタエレメントの変形によって流量特性が低下するという問題や、表面不織布が崩れてしまうなどの問題が生じる。このような問題を解決するために、不織布にカレンダー加工を行うことで、フィルタエレメントの剛性及び耐久性を向上させる場合がある。しかし、このような方法を採用した場合、剛性及び耐久性が向上したとしても、不織布がつぶれて密度が上がることによる流量特性低下が生じ、且つ、フィルタエレメントの外径が縮小し、所望のフィルタの除去性能及び流量特性のバランスが崩れてしまうという問題が生じる場合がある。
【0038】
これに対し、第2実施形態に係るフィルタ1は、基材11が省略されて径方向に濾材10が連続して積層されているものに対し、濾材10がエンボス部21を有している。従って、エンボス部21が濾材10を補強してフィルタエレメントの剛性及び耐久性を向上させることができる。また、第1実施形態で説明したように、流量特性及び除去性能を向上することもできる。
【0039】
[第3実施形態]
図11(a)(b)を参照して、第3実施形態に係るフィルタ1について説明する。第3実施形態に係るフィルタ1は、シート状の濾材10が多孔筒7に巻回されていない点で、第1実施形態に係るフィルタ1と相違する。なお、第3実施形態のフィルタエレメント2は、濾材10の形状が第1実施形態と異なっている。第3実施形態に係るフィルタ1では、濾材10の外周に多孔を有したケージが設置されていてもよい。濾材10は、補強材として基材11のようなネット材、剛性の高いその他の不織布材料等と重ねて使用されてよい。従って、第3実施形態のフィルタエレメント2においても、材料としての濾材10は、第1実施形態で説明したものと同様な濾材10が採用されてよく、第1実施形態で説明したものと同様な多孔筒7を採用することができる。
【0040】
図11(a)(b)に示すように、第3実施形態に係るフィルタ1では、プリーツ状に折り畳まれた濾材10が多孔筒7の径方向の外側に配置されている。
図11(a)(b)は、フィルタ1を軸方向から見たときの様子を示す図であり、フィルタ1の周方向における一部を拡大して示している。プリーツ状とは、
図11(a)(b)においてフィルタエレメント2の一部を拡大した「A」に示すように、シート状の濾材10が軸方向から見て波打つように折り畳まれた状態である。濾材10は、径方向における外側へ延びると共に、折り返されて内側へ延び、折り返されて再び外側へ延びる。このような折りたたみの形状が周方向の全周にわたって繰り返される。その結果、濾材10は、径方向に所定の厚みを有した円筒状のフィルタエレメント2として構成される。このようなフィルタエレメント2の中央の空間に多孔筒7が挿入されることで、多孔筒7の外側に濾材10が配置される構成となる。なお、濾材10の折り畳み態様は特に限定されず、
図11(a)に示すように濾材10がランダムに折り畳まれた部分を含んでよく、
図11(b)に示すように濾材10が全体にわたって規則的に折り畳まれてもよい。
【0041】
[実施例]
次に、実施例について説明する。まず、実施例に用いるための濾材として、エンボス部及び非エンボス部によるエンボスパターンが形成された不織布の濾材を六種類準備した。六種類の濾材のエンボスパターンを
図12に「エンボス1~エンボス6」として示す。「エンボスパターン」の項目の最上段には、エンボスパターンの形状が記載されている。エンボス1,2,5,6は、多角形の非エンボス部を有するパターンである。エンボス3,4は、円形のエンボス部を有するパターンである。なお、「圧着エリア」には、単位面積当たりのエンボス部の総面積の割合が示されている。なお、エンボス1~6の他の特徴については、
図13に記載されている。例えば「Temp.」にはエンボス加工時のエンボスロールの加熱温度が記載されている。「目付」には濾材としての単位面積当たりの質量が記載されている。なお、「厚み」の測定方法として次の方法を採用した。サンプルを25cm×20cmに切り出し、1時間平静に静置した。その後、上からの荷重が合計で14グラムとなるように力をかけて平坦なプレートに挟み、ダイヤルインジケータを使用してプレート間の距離を測定し厚みとした。「目付」の測定方法として次の方法を採用した。25cm×20cmに切り出したサンプルを質量計で測定し、1平方メートル辺りの重量を計算し目付とした。
【0042】
また、比較例に用いるための濾材として、カレンダー処理がなされた不織布の濾材を三種類準備した。これらの濾材の特徴を
図13の「カレンダー1~カレンダー3」に示す。また、比較例に用いるための濾材として、カレンダー処理もエンボス加工もなされていない不織布を準備した。この濾材の特徴を
図13の「処理無し」に示す。
【0043】
まず、各濾材を用いてフィルタを組み立てる前に、濾材単体としての性能を評価した。「通気抵抗」には、通気抵抗の評価結果が示されている。当該評価試験は、32L/minの空気流量で濾材のサンプルに空気を流し、ASTM F778-88に示される評価試験方法により測定した。「引張強度」には、引っ張り試験を行った結果が示されている。「MD」には不織布製造時のロール巻き方向の引張強度評価結果が示され、「CD」には、不織布製造時のロール幅方向の引張強度評価結果が示されている。当該引張強度試験は、次のように行われた。まず、不織布のサンプルを5cm×25cmに切り出した。サンプルをチャック間が20cmになるようチャックした。次に、サンプルを引張試験機で200mm/minの引張速度で引っ張りそのときの最大破断強度を引張強度とした。
【0044】
図13の「流量特性」には、各サンプルの通液抵抗を求め、それを流量特性として評価した結果が示されている。また、
図13の「除去性能」には、濾過精度の評価結果が示されている。これらの評価結果の測定のために、「(1)ディスクサンプル準備とハウジングへのセット」、「(2)親水処理」、「(3)流量特性(通液抵抗)測定」、「(4)除去性能測定」という四つの手順が連続して操作された。「(1)ディスクサンプル準備とハウジングへのセット」では、濾材の不織布をφ47mmのディスク状に打ち抜いた。ディスクサンプル合計質量が1.7~1.9mmになるようにディスクサンプルを重ねた。重ね合わせたディスクサンプルをディスクホルダーにセットした。「(2)親水処理」では、親水処理として超純水をディスクホルダー内に通液し、通液工程における出口側を封止したのち、0.1MPaで加圧したまま10分間維持した。その後、通液工程における出口側を開放し、0.1MPaにて5分間通液した。「(3)流量特性(通液抵抗)測定」では、親水処理後に超純水を10~100mL/minの範囲の流量で通液し、そのときの差圧と流量の関係から100mL/min通液時換算値の通液抵抗を求め、それを流量特性とした。「(4)除去性能測定」では、コロイダルシリカ溶液(PL2、扶桑化学工業社製)にフュームドシリカ(OX50、Evonik社製)を100ppmの濃度で添加しチャレンジ液を調整した。100mL/minの流量でチャレンジ液をディスクサンプルに通液し、210秒後に濾液をサンプリングした。パーティクルカウンターAccusizer(登録商標)FX-Nano(日本インテグリス社製)にて、原液と濾液サンプルの含有粒子数を測定し、除去性能を測定した。なお、「除去性能=[(原液サンプルの含有粒子数-濾液サンプルの含有粒子数)/原液サンプルの含有粒子数]×100」として計算している。以降、除去性能の測定について説明した部分は、同様の計算がなされるものとする。
【0045】
流量特性と除去性能との関係を
図14に示す。エンボス部の面積割合が44%未満のエンボス1~4については、通液抵抗が同程度である「処理無し」「カレンダー」に比して、除去性能が高い。当該結果から、上述の第1~3実施形態のいずれのフィルタについても、エンボス部を有する濾材を用いることで、除去性能が向上することが確認された。
【0046】
次に、
図2に示すような第1実施形態に対応するタイプのフィルタを作成した。「処理無し」の濾材を用いたものを比較例1とし、「カレンダー1~3」の濾材を用いたものを比較例2~4とし、「エンボス1~4」の濾材を用いたものを実施例1~4とした。なお、いずれの比較例及び実施例においても、
図7に示すフィルタエレメントの製造装置を用いた。このとき、用いる濾材以外の条件はすべて同一とした。積層シートの送り速度は120(mm/sec)とし、巻回時のニップ圧は0.2(MPa/10inch)とした。なお、ネット状の基材に対して、長手方向に10枚の濾材を並べた。具体的には、多孔筒7に近い側の1枚目~9枚目には各エンボス1~4の濾材を並べ、多孔筒7から最も遠い1枚(つまり、10枚目)には目付が100gsm、通気抵抗が4.5mmH
2Oの不織布からなる濾材を並べた。このように並べ、巻回することで、フィルターエレメント内側から9枚までにエンボス1~4の濾材が存在し、外側の1枚に上記不織布の濾材が存在するフィルタエレメントを得た。熱溶着にて巻回終端を溶着した。これらのフィルタエレメントの直径は、
図15の「外径」の欄に示される。
【0047】
図15の「流量特性」には、各フィルタエレメントの流量特性の評価結果が示されて、「除去性能」には、各フィルタの除去性能の評価結果が示されている。これらの評価結果の測定のために、「(1)2インチカートリッジサンプル準備とハウジングへのセット」、「(2)親水処理」、「(3)流量特性(通液抵抗)測定」、「(4)除去性能測定」という四つの手順が連続して操作された。「(1)2インチカートリッジサンプル準備とハウジングへのセット」では、フィルタエレメントを2インチ長に切断し、2インチカートリッジに組み立てた。カートリッジをハウジングにセットした。「(2)親水処理」では、親水処理として超純水を充填した。次に、通液工程における出口側を封止したのち、0.1MPaで加圧したまま10分間維持した。その後、通液工程における出口側を開放し、0.1MPaにて5分間通液した。「(3)流量特性(通液抵抗)測定」では、親水処理後に超純水を100~500mL/minの範囲の流量で通液し、そのときの差圧と流量の関係から1L/min通液時換算値の通液抵抗を求め、流量特性とした。その後、「(4)除去性能測定」では、超純水で10倍に希釈したコロイダルシリカ溶液(PL2、扶桑化学工業社製)にフュームドシリカ(OX50、Evonik社製)を100ppmの濃度で添加しチャレンジ液を調整した。350mL/minの流量でチャレンジ液をカートリッジに通液し、210秒後に濾液をサンプリングした。パーティクルカウンターAccusizer(登録商標)FX-Nano(日本インテグリス社製)にて、原液と濾液サンプルの含有粒子数を測定し、除去性能を測定した。なお、
図15において、粒径について、>0.3μm、>0.4μm、>0.5μmの場合分けがあるが、これは、それぞれ、>0.3μm、>0.4μm、>0.5μmの粒子サイズに関する除去性能が示されている。エンボスしたサンプルはカレンダのサンプルに比べて、小さいサイズの粒子も除去できている。
【0048】
流量特性と除去性能との関係を
図16に示す。いずれの実施例についても、比較例に基づく近似線よりも高い除去性能が得られている。すなわち、いずれの実施例も、同程度の流量特性を有する比較例に比べて、高い除去性能が得られている。濾材の厚みと通気抵抗との関係を
図17に示す。エンボス1~4は、同程度の厚みのカレンダー加工の濾材よりも、不織布単品の通気抵抗が高くなっている。
【0049】
次に、
図9に示すような第2実施形態に対応するタイプのフィルタを作成した。まず、
図18に示すような「処理無し」の濾材と、四種類のカレンダー加工の濾材と、二種類のエンボス加工の濾材を準備した。なお、「カレンダー4」及び「エンボス7」以外の濾材は、
図13に示すものと同様である。カレンダー4は、厚み以外はカレンダー1と同じである。また、エンボス7は、厚み以外はエンボス1と同じである。
図18に示すように、エンボス加工の濾材は、カレンダー加工の濾材よりも引張強度が強い。
【0050】
図19に示すように、各濾材を用いて第2実施形態に対応するタイプのフィルタを作成した。「処理無し」の濾材を用いたものを比較例4とし、「カレンダー4、1~3」の濾材を用いたものを比較例5~8とし、「エンボス7、1」の濾材を用いたものを実施例5、6とした。なお、いずれの比較例及び実施例においても、3750mmの長さの濾材を用いた。濾材の送り速度は200(mm/min)とし、巻回時のニップ圧は0.2(MPa/10inch)とした。熱溶着によって巻回終端を溶着した。これらのフィルタエレメントの直径は、
図19の「外径」の欄に示される。
【0051】
濾材の厚みとフィルタエレメントの外径との関係を
図21に示す。「処理無し」、カレンダー4、エンボス7、エンボス1を適用したフィルタエレメントは、外径の目標仕様(58mm~62mm)に達した。しかし、カレンダー1、カレンダー2、カレンダー3は対象外であった。
【0052】
次に、フィルタエレメントのつぶれの確認のために、以下の耐久性試験を行った。まず、フィルタエレメントが設けられた10インチのフィルタカートリッジをハウジングにセットした。なお、試験内容を説明する際にフィルタカートリッジという語を用いることがあるが、当該フィルタカートリッジは、前述の第1~3実施形態における「フィルタ」に相当するものである。次に、90℃の熱水を0.15MPaで15分間フィルタカートリッジに通液した。次に、25℃の水道水を0.15MPaで5分間フィルタカートリッジに通液した。熱水及び水道水の通液サイクルを5サイクル繰り返し、高負荷条件での通液試験を行った。その後、フィルタエレメントの表面状態を観察した。試験前の外観を
図19の「外観」に示し、試験後の外観の観察結果を
図20(a)の「耐久試験後外観」に示す。
図20(a)に示すように、エンボス加工の濾材を用いたフィルタエレメントは、「処理無し」及びカレンダー4の濾材を用いたフィルタエレメントよりも、崩れや表面のほつれもなく、良好な外観が維持された。
【0053】
ここで、上述のような高負荷条件で通液を行った後では、フィルタエレメントが変形することで、流量特性に影響が及ぼされる可能性がある。従って、耐久試験前後のフィルタエレメントの状態を比較する流量試験を行った。まず、25℃の水道水を2、6、10、14L/minでフィルタカートリッジに流して通液抵抗を求め、流量特性とした。各濾材を用いたフィルタエレメントの流量と流量特性との関係を
図22に示す。14L/minでの流量特性の変化率を
図20(b)に示す。エンボス1のフィルタエレメントは、「処理無し」及び「カレンダー4」のフィルタエレメントより流量特性変化率が抑制されていた。なお、流量特性の変化率は、耐久試験前の流量特性を100%として求める値であり、具体的には「(耐久試験後の通液抵抗/耐久試験前の通的抵抗)-100」(%)で求められる。
【0054】
次に、耐久試験前後のフィルタエレメントの外径を比較する試験を行った。ここでは、耐久試験前後でフィルタエレメントの外径を計測し、外径の変化率を計算した。変化率を
図20(c)に示す。なお、
図20(c)には、耐久試験前後の外径も記載されている。エンボス7、1の濾材を用いたフィルタエレメントは、他のフィルタエレメントよりも変化率が小さく抑えられていた。
【0055】
フィルタエレメントの外径と流量特性との関係を
図23に示す。「処理無し」、カレンダー4及びエンボス7、1のフィルタエレメントは許容可能な差圧性能(差圧が80kPaより小さく、外径が58~62mm)を得ることができた。その他の濾材のフィルタエレメントは許容可能な範囲から外れていた。このように、フィルタエレメントの外径が細すぎると、流量特性が低下する。
【0056】
各フィルタエレメントの除去性能の評価試験を行った。除去性能の測定のために、「(1)2インチカートリッジサンプル準備とハウジングへのセット」、「(2)親水処理」、「(3)流量特性(通液抵抗)測定」、「(4)除去性能測定」という四つの手順が連続して操作された。「(1)2インチカートリッジサンプル準備とハウジングへのセット」では、まず、フィルタエレメントを2インチ長に切断し、2インチカートリッジに組み立てた。カートリッジをハウジングにセットした。「(2)親水処理」では、親水処理として超純水を充填し、通液工程における出口側を封止した後、0.1MPaで加圧したまま10分間維持した。その後、通液工程における出口側を開放し、0.1MPaにて5分間通液した。「(3)流量特性(通液抵抗)測定」では、親水処理後に超純水を100~500mL/minの範囲の流量で通液し、そのときの差圧と流量の関係から1L/min通液時換算値の通液抵抗を求め、流量特性とした。「(4)除去性能測定」では、超純水で10倍に希釈したコロイダルシリカ溶液(PL2、扶桑化学工業社製)にフュームドシリカ(OX50、Evonik社製)を1ppmの濃度で添加しチャレンジ液を調整した。330mL/minの流量でチャレンジ液をカートリッジに通液し、210秒後に濾液をサンプリングした。パーティクルカウンターAccusizer(登録商標)FX-Nano(日本インテグリス社製)にて、原液と濾液サンプルの含有粒子数を測定し、除去性能を測定した。
【0057】
フィルタエレメントの外径と除去性能との関係を
図24に示す。外径及び流量特性の許容範囲内では、エンボス7、1の濾材のフィルタエレメントの方が、他の濾材のフィルタエレメントよりも高い除去性能が得られていた。
【0058】
フィルタエレメントの剛性試験を行った。まず、フィルタエレメントを軸方向に25mm幅で切断し、円環状のサンプルを得た。サンプルの径方向外側の両端部を一対の平板で挟むようにセットした。サンプルを剛性試験機によって10mm/minで圧縮し、3mm圧縮変形時点の応力を測定し、剛性とした。フィルタエレメントの外径と剛性との関係を
図25に示す。外径及び流量特性の許容範囲内では、エンボス7、1の濾材のフィルタエレメントの方が、他の濾材のフィルタエレメントよりも高い除去性能が得られていた。
【符号の説明】
【0059】
1…フィルタ、2…フィルタエレメント、7…多孔筒、10…濾材、11…基材、12…積層シート、16…孔。