(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185232
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電力増幅器および物標探知装置
(51)【国際特許分類】
H03F 3/217 20060101AFI20221207BHJP
H03F 1/02 20060101ALI20221207BHJP
H03K 17/13 20060101ALI20221207BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20221207BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20221207BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H03F3/217
H03F1/02
H03K17/13
H03K17/16 F
H03K17/687 A
H04R3/00 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092763
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】笠井 浩二
【テーマコード(参考)】
5D019
5J055
5J500
【Fターム(参考)】
5D019EE06
5D019FF01
5J055AX12
5J055AX25
5J055AX34
5J055AX55
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5J055EY05
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5J500AA01
5J500AA24
5J500AA41
5J500AA66
5J500AC36
5J500AC42
5J500AC56
5J500AH10
5J500AH19
5J500AH29
5J500AH33
5J500AH35
5J500AK42
5J500AT01
(57)【要約】
【課題】容量性負荷に好適な、高効率で、かつ、低EMIが実現可能な電力増幅器と、この電力増幅器を利用した物標探知装置とを提供する。
【解決手段】交互にオン・オフされる第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2と、スイッチング出力端Nに接続されている出力平滑回路2とを備え、出力平滑回路2に容量性負荷TDが接続されている電力増幅器1であって、スイッチング出力端Nに補償用インダクタLpを並列に接続し、オン状態の第1のスイッチング素子SW1または第2のスイッチング素子SW2に流れる電流Isw1、Isw2が正、またはゼロクロスしたタイミングで、オン状態の第1のスイッチング素子SW1または第2のスイッチング素子SW2をオフにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と接地部との間に直列に接続され、入力信号波が変調された制御信号によって交互にオン・オフされる第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との間に接続されたスイッチング出力端に接続されている出力平滑回路と、を備え、前記出力平滑回路に容量性負荷が接続されている電力増幅器であって、
前記スイッチング出力端に補償用インダクタを並列に接続し、オン状態の前記第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子に流れる電流が正、またはゼロクロスしたタイミングで、前記オン状態の第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子をオフにすることを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
オン状態の前記第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子に流れる電流が正、またはゼロクロスしたタイミングで、前記オン状態の第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子がオフするように、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子の最小オン時比率、及び最大オン時比率を設定したことを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器。
【請求項3】
前記最小オン時比率は、前記制御信号の1周期の5~30パーセントであり、前記最大オン時比率は、前記制御信号の1周期から前記最小オン時比率を差し引いた値であることを特徴とする請求項2に記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記容量性負荷と、前記出力平滑回路を構成する平滑用キャパシタとにより生じる容量性リアクタンスを、前記補償用インダクタと、前記出力平滑回路を構成する平滑用インダクタとにより生じる誘導性リアクタンスにより小さくし、またはゼロにしたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子によるスイッチング動作の開始時または、変調開始時に入力される前記入力信号波の位相を90°、または270°にしたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項6】
前記補償用インダクタとして、トランスの励磁インダクタンスを用いたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項7】
超音波を出射し、物標によって反射された超音波を受信して前記物標を探知する物標探知装置であって、
前記超音波を出射するためのトランスデューサを駆動する駆動手段として、請求項1~6のいずれか1項に記載の前記電力増幅器を用い、前記出力平滑回路は、カットオフ周波数以下の振幅、及び位相に変調された信号周波数を出力することを特徴とする物標探知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量性負荷に適したD級の電力増幅器、および、この電力増幅器を利用した物標探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力増幅器として、パルス幅変調(以下、PWM変調ともいう)などを利用したD級の電力増幅器が知られている(例えば、特許文献1、2)。
図10は、一般的なハーフブリッジ型のD級電力増幅器100を示している。この電力増幅器100は、電源Eと接地部との間に直列に接続され、変調された入力信号波によって交互にオン・オフされる第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2と、第1のスイッチング素子SW1と第2のスイッチング素子SW2との間に接続されたスイッチング出力端Nに接続されている出力平滑回路101と、を備えている。出力平滑回路101には、圧電素子(以下、トランスデューサともいう)などの容量性負荷TDが接続されている。
【0003】
第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2には、例えば、MOSFETが用いられている。
図10では、MOSFETをその機能的な構成であるスイッチ、ダイオード及びコンデンサによって表している。出力平滑回路101は、スイッチング出力端Nに直列に接続された平滑用インダクタLsと、スイッチング出力端Nに並列に接続された平滑用キャパシタCpとを備えており、いわゆるLPF(Low pass filter)を構成している。図中、Isw1で示す矢印は、第1のスイッチング素子SW1を流れる順方向の電流を示し、Isw2で示す矢印は、第2のスイッチング素子SW2を流れる順方向の電流を示している。また、Iswで示す矢印は、スイッチング出力端Nから出力される電流を示し、Voは出力電圧を示している。
【0004】
このような電力増幅器100は、正弦波の入力波信号を図示しないパルス変調器によりパルス変調して第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2に入力し、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2を交互にオン・オフさせることによって、電力の増幅を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009-507403号公報
【特許文献2】特開昭62-243407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、MOSFETからなる第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2は、その機能的構成としてダイオードを備えている。このダイオードは、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2がオン状態からオフ状態へと遷移する際に、スイッチング素子の電流が順方向の場合オフするが、スイッチング素子の電流が逆方向の場合、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2のスイッチがオフになっても、機能的に含まれるダイオードの存在によってすぐにはオフされず、導通状態が維持され、電流Isw1、Isw2が逆方向に流れ続けてしまう(以下、逆電流ともいう)。このような状態で、Iswが流れていないもう片方のスイッチング素子をオンすると、オンしているダイオードに逆バイアスが加わり、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2のダイオードがオフする。このダイオードがオンからオフするまでの時間を逆回復時間というが、この逆回復時間中に
過大なスパイク状の電流Isw1、Isw2がダイオードの逆方向に流れてしまうと、電力損失が大きくなるとともに、EMI(Electromagnetic Interference)が発生するという問題があった。このような問題は、出力平滑回路101に接続されている負荷が容量性負荷である場合に、より顕著に発生する。
【0007】
特許文献1に開示されている技術では、電力損失を低減するために、負荷時に負のインダクタ電流が生じるように、負荷電流よりも平滑用インダクタのリップル電流を大きくしている。しかしながら、特許文献1では、平滑用インダクタのリップル電流を負荷電流よりも大きくすると、伝導損失が大きくなるとともに、出力電圧に不要なリップル電圧が発生してしまう。また、特許文献2に開示されている技術では、スイッチング出力端に補償用コイルを並列に接続することにより、スイッチング素子に流れる逆電流を打ち消して電力効率を改善している。しかしながら、特許文献2は、信号波周波数とスイッチング周波数が同一であることを想定しており、出力信号波形の振幅、位相を制御するために信号波周波数とスイッチング周波数とが異なるPWMなどの変調をした場合に起きる諸問題については考えられていないため、入力波信号の変調状態によっては、逆電流を打ち消すことはできない。
【0008】
そこで本発明は、容量性負荷に好適な、高効率で、かつ、低EMIが実現可能な電力増幅器と、この電力増幅器を利用した物標探知装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電源と接地部との間に直列に接続され、入力信号波が変調された制御信号によって交互にオン・オフされる第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との間に接続されたスイッチング出力端に接続されている出力平滑回路と、を備え、前記出力平滑回路に容量性負荷が接続されている電力増幅器であって、前記スイッチング出力端に補償用インダクタを並列に接続し、オン状態の前記第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子に流れる電流が正、またはゼロクロスしたタイミングで、前記オン状態の第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子をオフにすることを特徴とする電力増幅器である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電力増幅器において、オン状態の前記第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子に流れる電流が正、またはゼロクロスしたタイミングで、前記オン状態の第1のスイッチング素子または前記第2のスイッチング素子がオフするように、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子の最小オン時比率、及び最大オン時比率を設定したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電力増幅器において、前記最小オン時比率は、前記制御信号の1周期の5~30パーセントであり、前記最大オン時比率は、前記制御信号の1周期から前記最小オン時比率を差し引いた値であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力増幅器において、前記容量性負荷と、前記出力平滑回路を構成する平滑用キャパシタとにより生じる容量性リアクタンスを、前記補償用インダクタと、前記出力平滑回路を構成する平滑用インダクタとにより生じる誘導性リアクタンスにより小さくし、またはゼロにしたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載の電力増幅器において、前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子によるスイッチング動作の開始時、または無変調状態から変調開始時に入力される前記入力信号波の位相を90°、
または270°にしたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力増幅器において、前記補償用インダクタとして、トランスの励磁インダクタンスを用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、超音波を出射し、物標によって反射された超音波を受信して前記物標を探知する物標探知装置であって、前記超音波を出射するためのトランスデューサを駆動する駆動手段として、請求項1~6のいずれか1項に記載の前記電力増幅器を用い、前記出力平滑回路は、カットオフ周波数以下の振幅、及び位相に変調された信号周波数を出力することを特徴とする物標探知装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、第1のスイッチング素子または第2のスイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移し、もう片方のスイッチング素子がオフ状態からオン状態へと遷移する際に、スイッチング素子に機能的に含まれるダイオードがオフするまでの逆回復時間中に、過大なスパイク状の電流が逆方向に流れることがなくなるので、電力損失を小さくし、かつ、EMIの発生を抑制することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、オン状態の第1のスイッチング素子または第2のスイッチング素子に流れる電流が正、またはゼロクロスしたタイミングで、オン状態の第1のスイッチング素子または第2のスイッチング素子がオフするように、第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子の最小オン時比率、及び最大オン時比率を設定したので、逆回復時間中に、過大なスパイク状の電流が逆方向に流れることがなくなるので、電力損失を小さくし、かつ、EMIの発生を抑制することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、最小オン時比率は、制御信号の1周期の5~30パーセントであり、最大オン時比率は、制御信号の1周期から最小オン時比率を差し引いた値としたので、制御信号の周期に応じて最適な最小オン時比率および最大オン時比率を設定することが可能である。
【0019】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、容量性負荷と、出力平滑回路を構成する平滑用キャパシタとにより生じる容量性リアクタンスを、補償用インダクタと、出力平滑回路を構成する平滑用インダクタとにより生じる誘導性リアクタンスにより小さくし、またはゼロにしたので、第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子に流れる電流の実効電流値を小さくし、電力損失を小さくすることができる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明によれば、第1のスイッチング素子及び第2のスイッチング素子によるスイッチング動作の開始時または、無変調状態からの変調開始時に入力される入力信号波の位相を90°、または270°にしたので、補償用インダクタに過渡的な大電流が流れなくなる。これにより、補償用インダクタを選定するに際し、補償用インダクタの大型化、および出力信号波形に含まれる過渡的な電圧変動を抑制することが可能となる。
【0021】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、補償用インダクタとして、トランスの励磁インダクタンスを用いたので、部品点数を増やすことなく、トランスによる電圧変換機能と、入出力間での絶縁機能とを備えることができる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明によれば、出力平滑回路により、カットオフ周波数以下の振幅、及び位相に変調された信号周波数を出力するので、物標探知装置の信号波帯域では
、出力平滑回路のカットオフ周波数以下の利得、および位相変化の小さい領域を使用することができ、物標探知装置において使用する振幅・周波数変調波への影響が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の第1の実施の形態に係る電力増幅器の構成を示す回路図である。
【
図2】
図1に示す電力増幅器の各部の波形を示す図である。
【
図3】
図1に示す第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子に入力される制御信号の波形を示す図である。
【
図4】
図1に示す電力増幅器において、誘導性リアクタンスにより容量性リアクタンスを打ち消すための調整を行っていない場合の各部の波形を示す図である。
【
図5】この発明の第2の実施の形態に係る電力増幅器の各部の波形を示す図である。
【
図6】この発明の第3の実施の形態に係る電力増幅器の構成を示す回路図である。
【
図7】この発明の第4の実施の形態に係る物標探知装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図8】
図7に示す送受波器の駆動手段として、従来の電力増幅器を使用した場合の入出力特性を示すグラフである。
【
図9】
図7に示す送受波器の駆動手段として、第1~第3の実施の形態の電力増幅器を使用した場合の入出力特性を示すグラフである。
【
図10】従来の電力増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
図1~
図3は、この発明の第1の実施の形態を示し、
図1は、この第1の実施の形態に係るハーフブリッジ型のD級電力増幅器1を示している。この電力増幅器1は、電源Eと接地部との間に直列に接続され、入力信号波が変調された制御信号によって交互にオン・オフされる第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2と、第1のスイッチング素子SW1と第2のスイッチング素子SW2との間に接続されたスイッチング出力端Nに接続されている出力平滑回路2と、スイッチング出力端Nに並列に接続された補償用インダクタLPと、を備えている。出力平滑回路2には、圧電素子(以下、トランスデューサともいう)などの容量性負荷TDが接続されている。
【0026】
第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2には、例えば、MOSFETが用いられている。
図1では、MOSFETをその機能的な構成であるスイッチ、ダイオード及びコンデンサによって表している。出力平滑回路2は、スイッチング出力端Nに直列に接続された平滑用インダクタLsと、スイッチング出力端Nに並列に接続された平滑用キャパシタCpとを備えており、いわゆるLPF(Low pass filter)を構成している。図中、Isw1で示す矢印は、第1のスイッチング素子SW1を流れる順方向の電流を示し、Isw2で示す矢印は、第2のスイッチング素子SW2を流れる順方向の電流を示している。また、Iswで示す矢印は、スイッチング出力端Nから出力される電流を示し、Voは出力電圧を示している。さらに、Vswで示す矢印は、スイッチング出力端Nから出力される電圧を示している。
【0027】
このような電力増幅器1は、正弦波の入力波信号を図示しないパルス変調器(例えば、PWM変調回路など)によりパルス変調して得られたデジタルの制御信号を第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2に入力し、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2を交互にオン・オフさせることによって、電力の増幅を行う。
【0028】
図2は、
図1に示す電力増幅器1の各部の波形を示す図である。ILp及びILsは、補償用インダクタLP及び平滑用インダクタLsに流れる電流を示している。本実施形態に係る電力増幅器1は、オン状態の第1のスイッチング素子SW1に流れる電流Isw1、または第2のスイッチング素子SW2に流れる電流Isw2が正、またはゼロクロスしたタイミングで、オン状態の第1のスイッチング素子SW1または第2のスイッチング素子SW2をオフにするように制御している。すなわち、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2がゼロボルトスイッチングを行うように制御している。
【0029】
具体的には、電力増幅器1は、
図2の電流Isw1、Isw2において示すように、電流Isw1、Isw2が正となるタイミングT1a、T2aと、電流Isw1、Isw2がゼロクロスするタイミングT1b、T2bとでオン状態の第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2をオフにしている。
【0030】
これによれば、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2がオン状態からオフ状態へと遷移する際に、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2のダイオードに電流が流れていないために逆回復現象が起きず、もう片方のスイッチング素子がオフ状態からオン状態に遷移する際に、過大なスパイク状の電流Isw1、Isw2がダイオードの逆方向に流れることがなくなるので、電力損失を小さくし、EMIが発生するのを抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る電力増幅器1は、オン状態の第1のスイッチング素子SW1または第2のスイッチング素子SW2に流れる電流Isw1、Isw2が正、またはゼロクロスしたタイミングで、オン状態の第1のスイッチング素子SW1または第2のスイッチング素子SW2を適切にオフにするために、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2の最小オン時比率、及び最大オン時比率を設定(制限)している。
【0032】
具体的には、
図2において、スイッチング出力端Nから出力される電圧Vswで示すように、最小オン時比率Dsと最大オン時比率Dmとを設定(制限)することにより、電流Isw1、Isw2が正となるタイミングT1a、T2aと、電流Isw1、Isw2がゼロクロスするタイミングT1b、T2bとでオン状態の第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2が適切にオフするようにしている。これは、スイッチング素子を流れる電流の極性が負からゼロクロス、または正に変化するためには、スイッチング出力端Nに出力されるVswに、ある一定の正電圧の時間、または負電圧の時間を必要とすることによる。その時間を管理する必要からDs、Dmを設定する。
【0033】
図3に示すように、第1のスイッチング素子SW1および第2のスイッチング素子に入力される制御信号Vg1およびVg2は、正負が反転した信号となっている。最小オン時比率Dsは、制御信号Vg1、Vg2の最小ターンオン時間Ton(min)を制御信号Vg1、Vg2の1周期Tで除算した値となっている。また、最大オン時比率Dmは、制御信号Vg1、Vg2の最大ターンオン時間Ton(max)を制御信号Vg1、Vg2の1周期Tで除算した値となっている。最小オン時比率Dsは、例えば、制御信号Vg1、Vg2の1周期Tの5~30パーセント、好ましくは10~20パーセントである。また、最大オン時比率Dmは、制御信号Vg1、Vg2の1周期から最小オン時比率Dsを差し引いた値となる。なお、最小オン時比率Ds及び最大オン時比率Dmは、回路シミュレータを用いたシミュレーション結果や、実際に電力増幅器1を作製して調整を行うことにより、最適な値に設定されている。
【0034】
また、本実施形態に係る電力増幅器1は、平滑用インダクタLsと補償用インダクタLpとによる誘導性リアクタンスを適切に設定することにより、信号波周波数において、容量性負荷TDと平滑用キャパシタCpとによる容量性リアクタンスを打ち消し、容量性リ
アクタンスを小さくし、またはゼロにしている。
【0035】
図4は、
図1に示す電力増幅器1において、平滑用インダクタLs及び補償用インダクタLpによる誘導性リアクタンスにより、容量性負荷TDと平滑用キャパシタCpとによる容量性リアクタンスを打ち消すための調整を行っていない場合の各部の波形を示している。この
図3の電流Isw1及びIsw2と、
図2の電流Isw1及びIsw2とを比較すると明らかなように、平滑用インダクタLs及び補償用インダクタLpによる誘導性リアクタンスによって、容量性負荷TDと平滑用キャパシタCpとによる容量性リアクタンスを打ち消さない場合には、電流Isw1及びIsw2の実効電流値が大きくなり、この例では、
図2のIsw1,Isw2に対して、
図4のIsw1,Isw2は約1.7倍に増大している。このように、本実施形態の電力増幅器1によれば、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2に流れる電流Isw1及びIsw2の実効電流値を小さくすることにより、電力損失を小さくすることができる。
【0036】
[第2の実施の形態]
図5は、この発明の第2の実施の形態における電力増幅器の各部の波形を示す図である。本実施の形態の電力増幅器の構成は、第1の実施の形態の電力増幅器1と同一であるが、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2によるスイッチング動作の開始時または、変調開始時に入力される入力信号波の位相を90°、または270°に設定している点で、第1の実施の形態と異なっている。
【0037】
電力増幅器1は、アナログの正弦波からなる入力波信号とクロック信号とを図示しないパルス変調器(例えば、PWM変調回路など)に入力し、パルス変調器から出力されたデジタルの制御信号を第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2に入力して交互にオン・オフさせている。ここで、
図1に示す電力増幅器1において、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2によるスイッチング動作の開始時または、無変調状態からの変調開始時に入力される入力信号波Viの位相が、
図5(B)に示すように、0°からスタートしたとする。この場合、補償用インダクタLpには、入力信号波Viの電圧の積分値に相当する大きな電流ILpが過渡的に流れてしまう。そのため、補償用インダクタLpを選定する際に、この過渡的な大電流に基づいて許容電流を考慮する必要が生じるため、補償用インダクタLpが大型化してしまう。
【0038】
これに対し、本実施の形態の電力増幅器は、
図5(A)に示すように、第1のスイッチング素子SW1及び第2のスイッチング素子SW2によるスイッチング動作の開始時または、無変調状態からの変調開始時に入力される入力信号波Viの位相を90°、または270°に設定している。この
図5(A)の電流ILpと、
図5(B)の電流ILpとを比較すると明らかなように、入力信号波Viの位相を90°、または270°にすることにより、過渡的な大電流が流れなくなる。そのため、補償用インダクタLpを選定するに際し、不要な大型化を抑制することが可能となる。また、出力信号波形に含まれる過渡的な電圧変動も同時に抑制することが可能になる。そして、無変調状態から変調開始する際も同様に有効である。
【0039】
[第3の実施の形態]
図6は、この発明の第3の実施の形態に係る電力増幅器1Aを示している。なお、本実施の形態の電力増幅器1Aにおいて、第1の実施の形態の電力増幅器1と同じ構成については、同符号を用いて詳しい説明は省略する。本実施形態に係る電力増幅器1Aは、励磁インダクタンスを有するトランスTによって、補償用インダクタを構成している。これにより、本実施形態に係る電力増幅器1Aは、部品点数が第1の実施形態に係る電力増幅器1と同じでありながら、トランスTによる電圧変換機能と、入出力間での絶縁機能とを備えることができる。
【0040】
[第4の実施の形態]
図7は、この発明の第4の実施の形態に係る物標探知装置10の概略構成を示すブロック図である。物標探知装置10は、例えば、魚群探知装置であり、送受波部11と、本体部12と、操作部13と、モニタ14とを備えている。送受波部11は、複数個の送受波器111を備えている。送受波器111は、超音波を出射するためのトランスデューサであり、上記の第1~第3実施形態で説明した圧電素子(容量性負荷)TDに相当する。送受波器111は、水中に向けて超音波を出射し、魚群などの物標によって反射された反射波を受信して受信電圧に変換する。
【0041】
本体部12は、送受波器111にそれぞれ接続された複数の送受波回路121と、送受波回路121と接続された制御回路122とを備えている。送受波回路121は、送波部121aと、受波部121bとを備えている。送波部121aは、送受波器111を駆動して超音波を出射させるための回路である。送波部121aには、上記の電力増幅器1または電力増幅器1Aが用いられている。受波部121bは、送受波器111から出力された受信電圧を増幅し、A/D変換した探知信号を制御回路122へ出力する回路である。制御回路122は、ユーザによる操作部13への操作に応じて送受波回路121を制御する送受波制御機能と、受波部121bから出力された探知信号に基づいて探知画像を生成し、モニタ14に表示する信号処理機能とを備えている。本実施形態においては、送波部121aとして利用される電力増幅器1または電力増幅器1Aの出力平滑回路2は、カットオフ周波数以下の振幅、及び位相に変調された信号周波数を出力するように構成されている。
【0042】
図8は、送受波器111の駆動手段として、
図10に示す従来の電力増幅器100を使用した場合の電力増幅器100の入出力特性を示すグラフであり、入力電流の振幅及び位相と、出力電圧の振幅及び位相の特性曲線が描かれている。物標探知装置10では、図中の矩形枠で示す周波数が、トランスデューサから超音波を出射させるための信号波帯域となっている。この信号波帯域は、出力平滑回路101のカットオフ周波数と重なっている。電力増幅器100は、平滑用インダクタLsのみで容量性リアクタンスを削減しているため、出力電圧の周波数に対する振幅・および位相の変化が非常に大きくなり、物標探知装置10において使用する際に、振幅・周波数変調波への影響が大きくなる。特に複数の送受波器を使用し、各々の音波出力を合成して、特定方向に音波の指向性を持たせる場合、調整が難しいという問題があった。
【0043】
これに対し、
図9は、送受波器111の駆動手段として、第1~第3実施形態で説明した電力増幅器1または電力増幅器1Aを使用した場合の電力増幅器1または電力増幅器1Aの入出力特性を示すグラフであり、入力電流の振幅及び位相と、出力電圧の振幅及び位相の特性曲線が描かれている。本実施形態では、出力平滑回路2により、カットオフ周波数以下の振幅、及び位相に変調された信号周波数を出力するので、入力電流及び出力電圧のピークは信号波帯域外となる。そのため、物標探知装置10の信号波帯域では、出力平滑回路2のカットオフ周波数以下の利得および、位相変化の小さい領域を使用することができ、物標探知装置10において使用する振幅・周波数変調波への影響が小さくなる。
【0044】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、変調方式としてPWM変調を例に説明したが、他の変調方式を利用した電力増幅器にも適用可能である。また、電力増幅器を利用する装置として、物標探知装置を例示したが、それ以外の装置への適用も可能である。
【符号の説明】
【0045】
1、1A 電力増幅器
2 出力平滑回路
10 物標探知装置
11 送受波部
111 送受波器
12 本体部
13 操作部
14 モニタ
SW1 第1のスイッチング素子
SW2 第2のスイッチング素子
N スイッチング出力端
Ls 平滑用インダクタ
Cp 平滑用キャパシタ
TD 容量性負荷
Lp 補償用インダクタ