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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185263
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20221207BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20221207BHJP
   C01B 21/04 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D61/58
C01B21/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092814
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 智英
(72)【発明者】
【氏名】印出 洋樹
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA02
4D006HA03
4D006HA18
4D006JA03A
4D006JA25A
4D006JA27A
4D006JA51Z
4D006JA52Z
4D006JA71
4D006KA12
4D006KA15
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA57
4D006KE07R
4D006KE14R
4D006KE30Q
4D006MA01
4D006MA34
4D006MB03
4D006MB04
4D006MB15
4D006MC03
4D006MC05
4D006MC11
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC59
4D006MC62
4D006MC65
4D006PA04
4D006PB17
4D006PB62
4D006PB63
4D006PC71
(57)【要約】
【課題】消費動力を抑えた上で、処理能力及び分離効率が向上した空気分離を実施すること。
【解決手段】ガス分離装置10は、第1圧縮機21と、第1分離膜ユニット11と、第2分離膜ユニット12とで構成される。第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜の酸素透過性が、第2分離膜ユニット12におけるガス分離膜の酸素透過性よりも高い。第2分離膜ユニット12におけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高い。第1分離膜ユニット11と第2分離膜ユニット12との間に、第1非透過ガスを昇圧して第2供給ガスとするための第2圧縮機22を備えることが好適である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を吸い込み原料空気を所定圧に圧縮することができる圧縮機と、
前記圧縮機により圧縮した前記原料空気を第1供給ガスとして取り込み、酸素が濃縮された第1透過ガスと窒素が濃縮された第1非透過ガスとに分離することができる第1分離膜ユニットと、
前記第1非透過ガスの全量を、第2供給ガスとして取り込み、酸素が濃縮された第2透過ガスと窒素が濃縮された第2非透過ガスとに分離することができる第2分離膜ユニットと、
で構成され
前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性が、前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性よりも高く、
かつ
前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高い、
ガス分離装置。
【請求項2】
前記第1分離膜ユニットと前記第2分離膜ユニットとの間に、前記第1非透過ガスを昇圧して前記第2供給ガスとするための圧縮機を備える、請求項1に記載のガス分離装置。
【請求項3】
前記第1供給ガスの圧力が0.1~3MPaGであり、前記第2供給ガスの圧力が、0.5~5MPaGである、請求項2に記載のガス分離装置。
【請求項4】
前記第1非透過ガスの酸素濃度が5~18mol%であり、前記第2非透過ガスの酸素濃度が0.1~5mol%である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガス分離装置。
【請求項5】
前記第1分離膜ユニットと前記第2分離膜ユニットとの間に、前記第2供給ガスの冷却装置を備える、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のガス分離装置。
【請求項6】
圧縮した原料空気を第1供給ガスとして第1分離膜ユニットに取り込み、酸素が濃縮された第1透過ガスと窒素が濃縮された第1非透過ガスとに分離し、
前記第1非透過ガスの全量を、第2供給ガスとして第2分離膜ユニットに取り込み、酸素が濃縮された第2透過ガスと窒素が濃縮された第2非透過ガスとに分離するガス分離方法であって、
前記第1分離膜ユニットとして、該第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性が、前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性よりも高いものを用い、
前記第2分離膜ユニットとして、該第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高いものを用いる、ガス分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気から酸素と窒素を分離するために用いられるガス分離装置及びガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる2種類以上のガスを含む原料ガスを各ガスに分離する方法として、膜に対するガスの透過速度の差を利用した膜分離法が知られている。この方法では、2種以上のガスを含む原料ガスをガス分離膜に供給し、高透過性ガスが富化された透過ガスと低透過性ガスが富化された非透過ガスとに分離する。一般にガス分離膜は、ガス入口、透過ガス排出口、非透過ガス排出口を備えた容器内に収容され、分離膜モジュールの形態で使用される。容器内においてガス分離膜は、ガス供給側とガス透過側の空間が隔離されるように装着されている。ガス分離装置においては、所要の膜面積とするために、一般に複数の分離膜モジュールは、これを複数に並列に組み合わせて使用される。
【0003】
目的とするガスを高純度かつ高回収率で回収することを目的として、ガス分離膜ユニットを多段階に備えたガス分離装置が種々知られている。例えば特許文献1には、空気から窒素を分離する方法として、ガス分離膜ユニットを直列に2段接続し、第1ガス分離膜ユニットの非透過ガスである窒素富化ガスを、第2ガス分離膜ユニットに供給して、窒素が更に富化された非透過ガスを得る方法が記載されている。第1ガス分離膜ユニットに用いられるガス分離膜、及び第2ガス分離膜ユニットに用いられるガス分離膜としては、同種のものが用いられている。
【0004】
特許文献2には、ガス分離膜ユニットを直列に2段接続したガス分離方法において、原料ガスの一部をガス分離膜ユニットに供給し、低透過性ガスを系外に排出するとともに、透過ガスを原料ガスと混合して、該透過ガスを製品ガスとして回収する方法が記載されている。
特許文献3には、圧縮空気から窒素ガスを分離する複数のガス分離装置を直列に配して圧縮空気を複数のガス分離装置へ順に供給する窒素ガス分離方法において、圧縮空気の高湿度による劣化を最初のガス分離装置で発生させることによって、他のガス分離装置で安定した窒素ガスを得るようにしている。つまりこの方法では、最初のガス分離装置を湿気のフィルター代わりに利用している。
特許文献4には、2段以上のガス分離膜ユニットを使用し、2段目以降の透過ガスを直前段のガス分離膜ユニットの供給ガスにリサイクルすることからなる、空気からの窒素の分離方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-194809号公報
【特許文献2】特開2001-62240号公報
【特許文献3】特開2001-89112号公報
【特許文献4】特開2011-184283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した各文献に記載の方法を含めた従来のガス分離方法において、透過速度の高い膜を用いた場合には、ガス分離選択性が低いため、システム全体としてのガス処理量が増えるのでガス圧縮の動力が大きくなる。一方、ガス分離選択性が高い膜を用いた場合には、ガス圧縮の動力が小さくて済むが、透過速度が低いため、膜面積を大きくする必要がある。このように、消費動力を抑えた上で、処理能力及び分離性能を向上させることは二律背反の関係にある。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るガス分離装置及びガス分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、原料空気を吸い込み原料空気を所定圧に圧縮することができる圧縮機と、
前記圧縮機により圧縮した前記原料空気を第1供給ガスとして取り込み、酸素が濃縮された第1透過ガスと窒素が濃縮された第1非透過ガスとに分離することができる第1分離膜ユニットと、
前記第1非透過ガスの全量を、第2供給ガスとして取り込み、酸素が濃縮された第2透過ガスと窒素が濃縮された第2非透過ガスとに分離することができる第2分離膜ユニットと、
で構成され
前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性が、前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性よりも高く、
かつ
前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高い、
ガス分離装置を提供するものである。
【0008】
本発明は、圧縮した原料空気を第1供給ガスとして第1分離膜ユニットに取り込み、酸素が濃縮された第1透過ガスと窒素が濃縮された第1非透過ガスとに分離し、
前記第1非透過ガスの全量を、第2供給ガスとして第2分離膜ユニットに取り込み、酸素が濃縮された第2透過ガスと窒素が濃縮された第2非透過ガスとに分離するガス分離方法であって、
前記第1分離膜ユニットとして、該第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性が、前記第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素透過性よりも高いものを用い、
前記第2分離膜ユニットとして、該第2分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、前記第1分離膜ユニットにおけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高いものを用いる、ガス分離方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消費動力を抑えた上で、処理能力及び分離効率が向上した空気分離を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のガス分離装置の一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、本発明のガス分離装置に用いられるガス分離膜ユニットの一例の構造を示す模式図である。
図3図3は、本発明のガス分離装置の別の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1に示す実施形態のガス分離装置10は、2つのガス分離膜ユニットである第1分離膜ユニット11及び第2分離膜ユニット12を備えている。
【0012】
各分離膜ユニット11,12としては、例えば、図2に示すとおり、中空糸膜等からなり、ガス選択透過性を有するガス分離膜30をケーシング31内に収容してなるモジュールを用いることができる。モジュールにおけるケーシング31は、対向する二面が開口して開口部32を形成している。この開口部32は、ガス分離膜30をケーシング31内に挿入するためのものであり、ガス分離膜30の開口部ではない点に留意すべきである。ガス分離膜30は、この開口部32を通じてケーシング31内に収容される。ガス分離膜30が中空糸膜束からなる場合、該ガス分離膜30はその収容状態において、ケーシング31の各開口部32の付近において中空糸膜の各端部が開口するように、ケーシング31内に収容される。
【0013】
ガス分離膜30がケーシング31内に収容された状態においては、中空糸膜の延びる方向であるY方向の両端部の位置において、ガス分離膜30が管板33,34によってケーシング31の内壁に固定されている。ケーシング31の各開口部32は、蓋体35,36によって閉塞されている。蓋体35にはガス入口37が設けられている。一方、蓋体36には非透過ガス排出口38が設けられている。分離対象となる原料ガスは、蓋体35のガス入口37からモジュール内に導入される。導入されたガスのうち、ガス分離膜30を透過したガスは、ケーシング31に設けられた透過ガス排出口39からユニット外に排出される。一方、ガス分離膜30を透過しなかった非透過ガスは、蓋体36の非透過ガス排出口38からモジュール外に排出される。また、場合によっては、ケーシング31にパージガスの供給口(図示せず)を設けてもよい。
【0014】
なお、各分離膜ユニット11,12として、図2に示すもの以外に、中空糸膜束の配糸形態が、交叉配列のもの、織物状のもの、スパイラル状のものなどを用いることができる。また、中空糸膜束の形態は円柱状、平板状、角柱状などの形態でもよい。これらの形態の中空糸膜束を、ケーシング内にその形態のままで、又はU字状に折り曲げたり、スパイラル状に巻き付けたりして収納してもよい。
【0015】
図1に戻ると、同図に示すとおり、第1分離膜ユニット11と、第2分離膜ユニット12とは直列に接続されている。具体的には、第1分離膜ユニット11と、第2分離膜ユニット12とは、第1分離膜ユニット11の非透過ガス排出口11bと、第2分離膜ユニット12のガス入口12aとを非透過ガス排出ライン14によって連結することで接続されている。
【0016】
第1分離膜ユニット11のガス入口11aには、原料ガスである空気を第1分離膜ユニット11へ供給するための原料ガス供給ライン16が連結されている。原料ガス供給ライン16の途中には、第1圧縮機21が介在配置されている。第1圧縮機21は、原料ガスを加圧する目的で設置されている。
【0017】
第2分離膜ユニット12においては、ガス入口12aを通じて、第1分離膜ユニット11から排出された非透過ガスが供給されるようになっている。この非透過ガスは、第2分離膜ユニット12によって分離されて、透過ガスが透過ガス排出口12cから排出されるようになっている。一方、非透過ガスは非透過ガス排出口12bから排出されるようになっている。
【0018】
以上の構成を有する本実施形態のガス分離装置10の動作について説明する。分離対象となる原料ガス(以下「第1供給ガス」ともいう。)、すなわち空気は、原料ガス供給ライン16を通じて第1分離膜ユニット11に供給される。供給に先立ち、第1供給ガスは、第1圧縮機21によって加圧され、その圧力が上昇する。したがって第1分離膜ユニット11は、第1供給ガスとしての圧縮空気を取り込むことになる。
第1圧縮機21としては、当該技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。第1圧縮機21としては、原料ガスを吸い込んで所定圧に圧縮できるものであれば、その種類に特に制限はない。
【0019】
第1分離膜ユニット11に供給される第1供給ガスの圧力は、0.1MPaG以上3.0MPaG以下に設定することが、第1分離膜ユニット11及び第2分離膜ユニット12における処理能力の向上の観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、第1分離膜ユニット11に供給される第1供給ガスの圧力は、0.3MPaG以上2.5MPaG以下に設定することが一層好ましい。
【0020】
第1供給ガスは、分離対象となる異なる2種類のガスである窒素及び酸素を含んでいる。本発明の分離装置及び分離方法による回収の対象となるガスは窒素富化ガスである。窒素富化ガスは例えば、レーザー切断機や乾燥機の使用時に併用されたり、油井への注入に利用されたり、はんだ付け時や樹脂成形時に併用されたり、タイヤに窒素を充填する目的で使用されたり、防爆の目的で使用されたりする。
【0021】
第1圧縮機21によって加圧された状態の第1供給ガスが第1分離膜ユニット11に供給されると、ガス分離膜に対する透過速度の相違に起因して、ガス分離膜を透過したガスである透過ガスと、ガス分離膜を透過しなかったガスである非透過ガスとに分離される。本実施形態の第1分離膜ユニット11に用いられているガス分離膜は、酸素の透過速度P'O2が、窒素の透過速度P'N2よりも高いので、酸素が透過ガスであり、窒素が非透過ガスである。したがって、第1分離膜ユニット11から排出された第1非透過ガスは、第1供給ガスに比べて窒素が濃縮されたものである。
【0022】
第1非透過ガスは、第1分離膜ユニット11の非透過ガス排出口11bから排出され、非透過ガス排出ライン14を通じて第2分離膜ユニット12に供給される。したがって、以下の説明では、第1非透過ガスのことを「第2供給ガス」ともいう。
一方、第1分離膜ユニット11のガス分離膜を透過した第1透過ガスは、原料ガスに比べて酸素が濃縮されたものである。第1透過ガスは、第1分離膜ユニット11の透過ガス排出口11cから排出され、透過ガス排出ライン15を通じて排出される。
【0023】
第1分離膜ユニット11の非透過ガス排出口11bから排出された第1非透過ガス、すなわち第2供給ガスは、その全量を、第2分離膜ユニット12に取り込んでもよいが、他の用途に使用するためにその一部を抜き出すこともできる。
【0024】
第2分離膜ユニット12に導入された第2供給ガスは、同ユニット12によって第2透過ガスと第2非透過ガスとに分離される。第2分離膜ユニット12に用いられているガス分離膜は、第1分離膜ユニット11に用いられているガス分離膜より、酸素の透過速度P'O2が、窒素の透過速度P'N2よりも高いので、第2非透過ガスは、第2分離膜ユニット12に導入された第1非透過ガスに比べて、窒素が更に濃縮富化されたものとなる。第2非透過ガスは、第2分離膜ユニット12の非透過ガス排出口12bから取り出される。一方、第2透過ガスは、第2分離膜ユニット12の透過ガス排出口12cから排出される。第2透過ガスは、第2分離膜ユニット12に導入された第1非透過ガスに比べて、酸素が更に濃縮富化されている。第2透過ガスの一部又は全部を、原料ガス供給ライン16に供給してもよい。
【0025】
本実施形態においては、第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜と、第2分離膜ユニット12におけるガス分離膜とは、(i)酸素透過性に相違がありかつ(ii)酸素と窒素の透過比に相違がある。以下、これら(i)及び(ii)について詳述する。なお以下の説明においては、簡便のために、第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜のことを「第1分離膜」といい、第2分離膜ユニット12におけるガス分離膜のことを「第2分離膜」という。
【0026】
第1分離膜と第2分離膜とでは、酸素透過性に相違がある。詳細には、第1ガス分離膜の酸素透過性は、第2分離膜の酸素透過性よりも高い。酸素透過性の高低は、酸素についてのガス透過速度を尺度として評価できる。ガス透過速度P’は、単位膜面積・単位時間・単位分圧差あたりのガスの透過体積のことであり、単位は、〔×10-5cm(STP)/(cm・sec・cmHg)〕で表される。すなわち、第1分離膜における酸素の透過速度は、第2分離膜における酸素の透過速度よりも大きい。
【0027】
第1分離膜と第2分離膜との酸素の透過速度の大小関係が上述のとおりであれば、酸素の透過速度の値そのものは特に制限されない。
【0028】
第1分離膜と第2分離膜とでは、酸素と窒素の透過比に相違がある。詳細には、第2ガス分離膜の酸素と窒素との透過比は、第1ガス分離膜の酸素と窒素との透過比よりも高い。この透過比の高低は、膜のガス分離選択性を尺度として評価できる。膜のガス分離選択性は〔高透過性ガスの透過速度/低透過性ガスの透過速度〕の比、つまり、〔酸素の透過速度/窒素の透過速度〕の比で表すことができる。
【0029】
第1分離膜と第2分離膜とのガス分離選択性の大小関係は上述のとおりであり、運転時の温度において第1分離膜のガス分離選択性Sの値そのものは、3.5以上であることが、省エネルギーの観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、第1分離膜のガス分離選択性Sの値は、4.5以上であることが更に好ましく、5.5以上であることが一層好ましい。
【0030】
一方、運転時の温度において第2分離膜のガス分離選択性Sの値そのものは、第1分離膜のガス分離選択性Sの値よりも大きいことを条件として、4.5以上であることが、省エネルギーの観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、第2分離膜のガス分離選択性Sの値は、5.5以上であることが更に好ましく、6.5以上であることが一層好ましい。
【0031】
後述する実施例と比較例との対比から明らかなとおり、酸素透過性が高いガス分離膜のみを用いて空気から窒素と酸素とを分離する場合、処理能力は高くなるが、分離効率に劣り、圧縮動力の低減が要望される場合には不向きなものになる。一方、窒素と酸素との分離性能が高いガス分離膜を用いて空気から窒素と酸素とを分離する場合、分離効率は向上し、圧縮動力は低減するが、処理能力の向上が要望される場合には不向きなものになる。
このこととは対照的に、本実施形態によれば、第1段目の分離膜ユニットに用いられるガス分離膜として、第2段目の分離膜ユニットに用いられるガス分離膜よりも、酸素透過性が高いものを用いること、及び第2段目の分離膜ユニットに用いられるガス分離膜として、第1段目の分離膜ユニットに用いられるガス分離膜よりもガス分離選択性の高いものを用いることで、圧縮動力を抑えた上で、処理能力及び分離効率が向上した空気分離が可能となる。
【0032】
ガス分離膜のガス透過速度及びガス分離選択性は、それぞれ、運転時の各分離膜ユニット11,12における温度条件において、上述の条件を満たしていればよい。
【0033】
運転時において分離膜ユニット11,12間でガス透過速度及び/又はガス分離選択性を異ならせる方法としては、使用するガス分離膜の種類を、第1分離膜ユニット11と第2分離膜ユニット12とで異ならせる方法が挙げられる。分離膜ユニット11,12間でガス分離膜の種類を異ならせるには、例えば分離膜ユニット11,12間で(1)異なる化学組成を有するガス分離膜を用いる、(2)同一の化学組成を有するガス分離膜であるが、製膜の条件、熱処理の温度といった製造条件が異なるガス分離膜を用いる、及び(3)同一の化学組成及び製造条件のガス分離膜であるが、コーティングその他の表面処理の条件が異なるガス分離膜を用いる等の手段を採用すればよい。
【0034】
なお、同一のガス分離膜を用いた場合であっても、その運転温度を相対的に低く設定した場合には運転温度を相対的に高く設定した場合に比べ、ガス透過速度が低くなることが、一般的に知られている。このことに基づき、各分離膜ユニット11,12の運転温度を異ならせて、2つの分離膜ユニット11,12間のガス透過速度を調整して、上述した関係を満たすようにしてもよい。
【0035】
分離膜ユニット12のガス透過速度及びガス分離選択性を調整するために、ガス分離装置10は、第1分離膜ユニット11と第2分離膜ユニット12との間に、第2供給ガスの冷却装置(図示せず)を備えてもよい。
【0036】
図3には、本発明の別の実施形態が示されている。同図に示す実施形態のガス分離装置10は、第1分離膜ユニット11と第2分離膜ユニット12との間に、第2圧縮機22を備えている。第2圧縮機22は、第1分離膜ユニット11から排出された第1非透過ガスを昇圧して第2供給ガスとするために用いられる。第2圧縮機22によって第2供給ガスを昇圧することで、第1圧縮機21による第1供給ガスの昇圧の程度を低くすることができる。その結果、第2非透過ガスの単位体積当たりの圧縮動力を、第2圧縮機22を用いない場合に比べて低くできるという利点がある。
【0037】
以上の利点を一層顕著なものとする観点から、第2分離膜ユニット12に供給される第2供給ガスの圧力は、0.5MPaG以上5.0MPaG以下に設定することが好ましく、0.7MPaG以上3.0MPaG以下に設定することが一層好ましい。
【0038】
本実施形態においては、第1圧縮機21に加えて、第2圧縮機22が用いられること、第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜の酸素透過性が高いこと、及び2分離膜ユニット12におけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比が、第1分離膜ユニット11におけるガス分離膜の酸素と窒素の透過比よりも高いことから、第1分離膜ユニット11に供給される第1供給ガスの圧力を高く設定しないことが好ましい。例えば、第1分離膜ユニット11に供給される第1供給ガスの圧力を、第2分離膜ユニット12に供給される第2供給ガスの圧力よりも低く設定することが好ましい。これによって、ガス分離装置10の全体の消費動力を抑えることが可能となる。
以上の観点から、第1分離膜ユニット11に供給される第1供給ガスの圧力は、第2分離膜ユニット12に供給される第2供給ガスの圧力よりも低いことを条件として、0.1MPaG以上3MPaG以下に設定することが好ましく、0.3MPaG以上2.5MPaG以下に設定することが一層好ましい。
【0039】
本実施形態のガス分離装置10が冷却装置を備える場合、該冷却装置を第2圧縮機22よりも上流側に設置してもよく、あるいは第2圧縮機22よりも下流側に設置してもよい。第2分離膜ユニット12の運転温度を調整するのが容易となるため、第2圧縮機22よりも下流側に冷却装置を設置することが好ましい。
【0040】
なお、図3に示す実施形態に関し特に説明しなかった点については、先に説明した図1に示す実施形態についての説明が適宜適用される。また、図3において、図1における部材と同じ部材には、同じ符号を付してある。
【0041】
以上の各実施形態のガス分離装置10では、第1分離膜ユニット11から排出される第1非透過ガスの酸素濃度が5mol%以上18mol%以下となるように、酸素と窒素とが分離されることが、窒素が富化された第1非透過ガスを効率的に得る観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、第1分離膜ユニット11から排出される第1非透過ガスの酸素濃度が10mol%以上15mol%以下となるように、酸素と窒素とが分離されることが一層好ましい。
【0042】
一方、第2分離膜ユニット12から排出される第2非透過ガスの酸素濃度が0.1mol%以上5mol%以下となるように、酸素と窒素とが分離されることが、窒素が一層富化された第2非透過ガスを効率的に得る観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、第2分離膜ユニット12から排出される第2非透過ガスの酸素濃度が0.5mol%以上5mol%以下となるように、酸素と窒素とが分離されることが一層好ましい。
【0043】
以上の各実施形態のガス分離装置10において用いられるガス分離膜としては、当該技術分野においてこれまで用いられているものと同様のものが挙げられる。例えばポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、セルロース系ポリマーなどの高分子材料、高分子材料を炭化又は部分炭素化した材料、ゼオライトなどのセラミックス材料などで形成されるガス分離膜を好適に挙げることができる。特に、高分子材料からなるガス分離膜、とりわけ非対称ポリイミドガス分離膜は、ガス分離性能が高いのみならず、耐熱性、耐久性及び耐溶剤性などの特性が優れているので好ましいものである。
【0044】
1つのガス分離膜ユニット内に備えられているモジュールは1本であってもよく、あるいは複数本であってもよい。1つのガス分離膜ユニット内に2本以上のモジュールが備えられているときは、複数本のモジュールがユニット内で並列に接続されていることが好ましい。各分離膜ユニット11,12がモジュールを複数本備えている場合、該モジュールの本数を変更することでユニット内の膜面積を容易に調整することができる。
【0045】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図3に示す実施形態においては、非透過ガス排出ライン14に第2圧縮機22を介在配置させていたが、これに代えて又はこれに加えて、第2分離膜ユニット12の透過側空間を真空ポンプ等によって大気圧以下に減圧して、圧縮動力を更に低減させてもよい。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0047】
〔実施例1A及び実施例2A〕
図1に示すガス分離装置10を用いて、空気からの窒素と酸素との分離を行った。第1及び第2分離膜ユニット11,12を構成するモジュールとして、運転温度におけるP'O2が9.7×10-5cm(STP)/(cm・sec・cmHg)であり、ガス分離選択性P'O2/P'N2が5.8であるガス分離膜を用いたモジュールA(第1分離膜ユニット11)、及びP'O2が2.7×10-5cm(STP)/(cm・sec・cmHg)であり、ガス分離選択性P'O2/P'N2が6.9であるガス分離膜を用いたモジュールB(第2分離膜ユニット12)の2種類のモジュールを用いた。これらのモジュールは、ポリイミド中空糸膜から構成されるガス分離膜をケース内に収容したものであり、圧縮空気を原料ガスとして用い、窒素富化空気を得る場合に、下記の表1に記載のとおりの応答を示すものであった。なお同表に示す値は、同サイズの1本のモジュールについてのものである。
【0048】
【表1】
【0049】
第1分離膜ユニット11(1段目)を構成するモジュールの本数、及び第2分離膜ユニット12(2段目)を構成するモジュールの本数を、以下の表2に示すとおりに設定した。なおモジュールを複数本用いる場合は並列に接続した。また、第2非透過ガスに含まれる酸素の濃度が5mol%となるように、同表に示す条件でガス分離装置10を運転した。
【0050】
〔比較例1A〕
第1分離膜ユニット11のみを用い、非透過ガスに含まれる酸素の濃度が5mol%となるように、表2に示す条件でガス分離装置10を運転した。それ以外は実施例1Aと同様にしてガス分離を行った。
【0051】
〔比較例2A〕
第2分離膜ユニット12のみを用い、非透過ガスに含まれる酸素の濃度が5mol%となるように、表2に示す条件でガス分離装置10を運転した。それ以外は実施例1Aと同様にしてガス分離を行った。
【0052】
【表2】
【0053】
〔実施例1B及び実施例2B〕
第1分離膜ユニット11を構成するモジュールの本数、及び第2分離膜ユニット12を構成するモジュールの本数を、以下の表3に示すとおりに設定した。また、第2非透過ガスに含まれる酸素の濃度が1mol%となるように、同表に示す条件でガス分離装置10を運転した。それ以外は実施例1Aと同様にしてガス分離を行った。
【0054】
〔比較例1B〕
第1分離膜ユニット11のみを用い、非透過ガスに含まれる酸素の濃度が1mol%となるように、表3に示す条件でガス分離装置10を運転した。それ以外は実施例1Aと同様にしてガス分離を行った。
【0055】
〔比較例2B〕
第2分離膜ユニット12のみを用い、非透過ガスに含まれる酸素の濃度が1mol%となるように、表3に示す条件でガス分離装置10を運転した。それ以外は実施例1Aと同様にしてガス分離を行った。
【0056】
【表3】
【0057】
〔実施例3A及び実施例4A〕
図3に示すガス分離装置10を用いて、空気からの窒素と酸素との分離を行った。第1分離膜ユニット11を構成するモジュールの本数、及び第2分離膜ユニット12を構成するモジュールの本数を、以下の表4に示すとおりに設定した。また、第2非透過ガスに含まれる酸素の濃度が5mol%となるように、同表に示す条件でガス分離装置10を運転した。なお表4には、比較を容易にする目的で、上掲した比較例1A及び比較例2Aの結果も併記した。
【0058】
【表4】
【0059】
〔実施例3B及び実施例4B〕
図3に示すガス分離装置10を用いて、空気からの窒素と酸素との分離を行った。第1分離膜ユニット11を構成するモジュールの本数、及び第2分離膜ユニット12を構成するモジュールの本数を、以下の表5に示すとおりに設定した。また、第2非透過ガスに含まれる酸素の濃度が1mol%となるように、同表に示す条件でガス分離装置10を運転した。なお表5には、比較を容易にする目的で、上掲した比較例1B及び比較例2Bの結果も併記した。
【0060】
【表5】
【0061】
〔評価〕
実施例及び比較例における、第2非透過ガスの量とモジュールの本数との関係、及び第2非透過ガスの量と圧縮動力との関係を、以下に示す表6に纏めた。
【0062】
【表6】
【0063】
以上の各表に示す結果から、以下のことが分かる。
図1に示すガス分離装置を用いた実施例1A及び実施例2Aと、比較例1A及び比較例2Aとの対比から、実施例1A及び実施例2Aにおけるガス量当たりのモジュールの本数は、比較例1A及び比較例2Aの中間の値であることが分かる。また、実施例1A及び実施例2Aにおけるガス量当たりの動力も、比較例1A及び比較例2Aの中間の値であることが分かる。したがって、図1に示すガス分離装置によれば、使用するモジュールの選択といった簡易な方法で、ガス分離条件の選択肢が増えることが分かる。
実施例1B及び実施例2Bと、比較例1B及び比較例2Bとの対比からも、同様の結論が導かれる。
【0064】
図3に示すガス分離装置を用いた実施例3A及び実施例4Aと、比較例1A及び比較例2Aとの対比から、実施例3A及び実施例4Aにおけるガス量当たりのモジュールの本数は、比較例2Aよりも改善されていることが分かる。また、実施例3A及び実施例4Aにおけるガス量当たりの動力も、比較例2Aよりも改善されていることが分かる。
実施例3B及び実施例4Bと、比較例2Bとの対比からも、同様の結論が導かれる。
【符号の説明】
【0065】
10 ガス分離装置
11 第1分離膜ユニット
11a ガス入口
11b 非透過ガス排出口
11c 透過ガス排出口
12 第2分離膜ユニット
12a ガス入口
12b 非透過ガス排出口
12c 透過ガス排出口
14 非透過ガス排出ライン
15 透過ガス排出ライン
16 原料ガス供給ライン
21 第1圧縮機
22 第2圧縮機
図1
図2
図3