(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185275
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】遠心送風機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/30 20060101AFI20221207BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
F04D29/30 C
F04D29/66 M
F04D29/30 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092832
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深田 麻里
(72)【発明者】
【氏名】駒田 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小田 修三
(72)【発明者】
【氏名】山岡 潤
(72)【発明者】
【氏名】川島 誠文
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB26
3H130AB46
3H130AC01
3H130BA10C
3H130BA13C
3H130CA04
3H130CB02
3H130CB09
3H130EA07A
3H130EA07C
3H130EA08A
3H130EA08C
3H130EB01C
3H130EB05A
3H130EB05C
(57)【要約】
【課題】騒音を低減することの可能な遠心送風機を提供する。
【解決手段】遠心送風機1は、主板10とシュラウド20と複数の翼30を備える。翼30の前縁31は、シュラウド20の開口部21の内周壁211よりも径方向内側に設けられている。その前縁31のうち主板10とは反対側を向く面には、低位部71と高位部72とが設けられている。低位部71は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73より径方向内側においてその接続箇所73よりも主板10側に位置し、且つ、軸心CLに対して垂直な面に沿うように設けられる部位である。高位部72は、低位部71よりも径方向内側において低位部71に対して主板10とは反対側に位置する部位である。そして、低位部71と高位部72により、前縁31のうち主板10とは反対側を向く面に凹み形状70が形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心送風機において、
回転可能に設けられる主板(10)と、
前記主板に対向して設けられ、中央に空気が流入する開口部(21)を有する環状のシュラウド(20)と、
前記シュラウドと前記主板との間で、回転中心となる軸心(CL)の周りに所定の間隔で配置され、前記シュラウドおよび前記主板に接続される複数の翼(30)と、を備え、
前記軸心に垂直な仮想平面上において前記軸心を中心とした仮想円を定義し、前記仮想円における径方向の前記軸心に近い側を径方向内側といい、その反対側を径方向外側というとき、
前記翼の前縁(31)は、前記シュラウドの前記開口部の内周壁(211)よりも径方向内側に設けられており、
前記前縁のうち前記主板とは反対側を向く面には、前記開口部の内周壁と前記翼との接続箇所(73)より径方向内側において前記接続箇所よりも前記主板側に位置し、且つ、前記軸心に対して垂直な面に沿うように設けられる低位部(71)と、前記低位部よりも径方向内側において前記低位部に対して前記主板とは反対側に位置する高位部(72)とが設けられており、
前記低位部と前記高位部により、前記前縁のうち前記主板とは反対側を向く面に凹み形状(70)が形成されている、遠心送風機。
【請求項2】
前記シュラウドのうち前記主板とは反対側の面を覆う上ケース本体部(56)と、前記上ケース本体部において前記開口部に対応する位置に設けられる空気吸込口(51)と、前記空気吸込口の内周縁から前記主板側に向かって筒状に延びるベルマウス(57)とを有する上ケース(53)をさらに備え、
前記ベルマウスの外径をDc、複数の前記翼に設けられた前記低位部のうち前記主板に最も近い点または面を回転方向に結んだ円の外径をDwとすると、Dc<Dw の関係を有している、請求項1に記載の遠心送風機。
【請求項3】
前記低位部のうち径方向内側の箇所(75、751)は曲面となっている、請求項1または2に記載の遠心送風機。
【請求項4】
前記低位部のうち径方向内側の箇所および径方向外側の箇所(391)はいずれも曲面となっている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の遠心送風機。
【請求項5】
前記低位部と前記高位部とが接続されている箇所は、前記高位部における前記低位部側で前記主板とは反対側に凸の曲面である第1曲面(74)と、前記第1曲面よりも径方向外側で前記主板側に凸の曲面である第2曲面(75)とを有しており、
前記翼の回転方向から前記前縁を見たとき、前記第1曲面の曲率半径をR1、前記第2曲面の曲率半径をR2とすると、R1>R2 の関係を有している、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の遠心送風機。
【請求項6】
前記低位部と前記高位部とが接続されている箇所は、前記高位部における前記低位部側で前記主板とは反対側に凸の曲面である第1曲面(74)と、前記第1曲面よりも径方向外側で前記主板側に凸の曲面である第2曲面(75)とを有しており、前記翼の回転方向から前記前縁を見たとき、前記第1曲面の曲率半径をR1、前記第2曲面の曲率半径をR2とし、
さらに、前記低位部を、前記翼が前記前縁から後縁に延びる方向に対して垂直な断面で見たとき、前記低位部の負圧面(35)側のコーナー部(36)の曲率半径をR3、前記低位部の正圧面(37)側のコーナー部(38)の曲率半径をR4とすると、R1>R3>R4、および、R2>R3>R4 の関係を有している、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の遠心送風機。
【請求項7】
前記低位部のうち前記主板に最も近い点または面と前記高位部のうち前記主板から最も遠い点または面との距離をDa、前記翼の後縁側における前記主板と前記シュラウドとの間の距離をDbとすると、0<Da≦Db×0.09 の関係を有している、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の遠心送風機。
【請求項8】
前記シュラウドは、前記開口部側の内周縁から前記主板とは反対側に向かって筒状に延びるシュラウド筒部(22)を有しており、
前記翼は、前記開口部の内周壁と前記翼との接続箇所から前記シュラウドの前記開口部の内周壁211と平行に前記主板側に延びる立壁部(39)を有している、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の遠心送風機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車の回転の軸心方向の一方から取り込んだ空気を軸心から遠ざかる方向へ吹き出す遠心送風機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ケースの内側に、主板とシュラウドと複数の翼とを有する羽根車が回転可能に設けられた遠心送風機が知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載の遠心送風機の羽根車は、シュラウドの中央に設けられた開口部の内周壁よりも回転の軸心に近い側に翼の前縁が設けられている。そして、その前縁のうち主板とは反対側を向く面は、軸心に対して垂直に延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの検討によれば、遠心送風機は、ケースに設けられた空気吸込口から複数の翼同士の間に形成される流路(以下、「翼間流路」という)に流入する空気が主板側に流れ、シュラウドのうち翼間流路側の面(以下「シュラウド裏面」という)に沿って流れにくいといった特性を有する。そのため、空気吸込口から翼間流路に流入する空気がシュラウド裏面から剥離し、その剥離により生じる渦(以下「剥離渦」という)が大きくなると、騒音が増大するといった問題が発生する。そのような問題に対し、上述した特許文献1に記載の遠心送風機は、翼形状に関して改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、遠心送風機において、騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明によると、遠心送風機において、
回転可能に設けられる主板(10)と、
主板に対向して設けられ、中央に空気が流入する開口部(21)を有する環状のシュラウド(20)と、
シュラウドと主板との間で回転中心となる軸心(CL)の周りに所定の間隔で配置され、シュラウドおよび主板に接続される複数の翼(30)と、を備え、
軸心に垂直な仮想平面上において軸心を中心とした仮想円を定義し、仮想円における径方向の軸心に近い側を径方向内側といい、その反対側を径方向外側というとき、
翼の前縁(31)は、シュラウドの開口部の内周壁(211)よりも径方向内側に設けられており、
前縁のうち主板とは反対側を向く面には、シュラウドの開口部の内周壁と翼との接続箇所(73)より径方向内側においてその接続箇所よりも主板側に位置し、且つ、軸心に対して垂直な面に沿うように設けられる低位部(71)と、その低位部よりも径方向内側において低位部に対して主板とは反対側に位置する高位部(72)とが設けられており、
低位部と高位部により、前縁のうち主板とは反対側を向く面に凹み形状(70)が形成されている。
【0007】
これによれば、シュラウドの開口部から翼間流路に流入する空気は、翼の前縁に形成された凹み形状に沿って空気が流れるコアンダ効果により、その気流の向きが、シュラウド裏面の形状に近くなる。そのため、シュラウドの開口部から翼間流路に流入する空気がシュラウド裏面から剥離することが抑制され、剥離渦が低減するので、騒音を低減することができる。
【0008】
さらに、シュラウド裏面からの空気の剥離が抑制されることで、送風機の効率が向上する。したがって、同一風量の条件において、送風機の回転数を下げることが可能となり、回転による振動が低減するので、騒音を低減することができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る遠心送風機の平面図である。
【
図3】
図1のIII―III線の断面において羽根車の一部と上ケースの一部を示す図である。
【
図4】
図3に示した翼の前縁とその近傍の拡大図である。
【
図7】
図4と同一の箇所にて空気吸込口から翼間流路への空気の流れを説明するための説明図である。
【
図8】第1実施形態に係る遠心送風機において、凹み形状の深さと騒音との関係を示す実験結果である。
【
図9】第2実施形態に係る遠心送風機において
図4に対応する箇所の拡大図である。
【
図10】第3実施形態に係る遠心送風機において
図4に対応する箇所の拡大図である。
【
図11】比較例の遠心送風機において
図4に対応する箇所の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態の遠心送風機について説明する。以下、遠心送風機を単に「送風機」という。
図1~
図3に示すように、第1実施形態の送風機1は、主板10、シュラウド20、複数の翼30などにより構成される羽根車2と、その羽根車2を回転させるモータ40と、羽根車2およびモータ40を収容するケース50とを備えている。この送風機1は、例えば、車両用シート空調装置、空調装置または換気装置など、種々の用途に用いられる。
【0013】
なお、以下の説明では、羽根車2の回転の軸心CLに垂直な仮想平面上において軸心CLを中心とした仮想円を定義し、その仮想円における径方向の軸心CL側を「径方向内側」といい、その仮想円における径方向の軸心CLとは反対側を「径方向外側」という。また、軸心CLが延びる方向を「軸心方向」という。
【0014】
羽根車2の構成について説明する。羽根車2の主板10は、モータ40の出力するトルクにより回転可能に設けられている。主板10は、モータ40の回転軸41に固定される中央部11と、その中央部11の径方向外側の外壁に固定される固定部12と、その固定部12より径方向外側に設けられて複数の翼30に接合される環状部13とを有している。主板10の中央部11は、回転軸41側から径方向外側に向かって上ケース53の空気吸込口51から次第に遠ざかる山型に形成されている。そのため、主板10の中央部11は、上ケース53の空気吸込口51から吸い込まれた空気を、複数の翼30同士の間に形成される流路(以下、「翼間流路」という)に導くガイド面として機能する。なお、主板10の中央部11は、後述するモータロータ42の一部を構成している。また、主板10の固定部12は、その固定部12と一体に成形された複数の翼30およびシュラウド20と、モータロータ42との固定に用いられる。
【0015】
シュラウド20は、主板10に対して軸心方向に対向するように設けられている。シュラウド20は、中央に空気が流入する開口部21を有している。そのため、シュラウド20は、環状に形成されている。シュラウド20は、開口部21側の内周縁から主板10とは反対側に向かって筒状に延びるシュラウド筒部22を有している。また、シュラウド20は、シュラウド筒部22よりも径方向外側の位置に、主板10とは反対側に向かって筒状に延びる複数のシュラウド側突起23を有している。本実施形態では、3個のシュラウド側突起23が設けられている。
【0016】
複数の翼30は、シュラウド20と主板10との間に設けられ、羽根車2の回転中心となる軸心CLの周りに所定の間隔で配置されている。複数の翼30は、前縁31から後縁32に向かって回転方向後向きに延びている。すなわち、本実施形態の羽根車2は、ターボファンである。翼30のうち軸心方向シュラウド20側の端部33は、シュラウド20に接続されている。翼30のうち軸心方向主板10側の端部34は、主板10の固定部12および環状部13に接続されている。したがって、本実施形態の羽根車2は、クローズドファンである。
【0017】
本実施形態では、翼30の前縁31が、シュラウド20の開口部21の内周壁211よりも径方向内側に設けられている。以下の説明では、翼30の前縁31を「翼前縁31」ということがある。その翼前縁31の形状については、後に詳細に説明する。
【0018】
ケース50は、上ケース53と下ケース54とを有している。上ケース53は、羽根車2のシュラウド20側を覆う部材である。下ケース54は、羽根車2の主板10側を覆うと共に、モータ40および回路基板60を収容する部材である。上ケース53と下ケース54とは、図示しない支柱およびねじなどにより、所定の間隔をあけて固定されている。なお、
図1では、上ケース53と下ケース54との間に支柱などが設けられる位置を、符号55を付した円形で示している。
【0019】
上ケース53は、シュラウド20のうち主板10とは反対側の面を覆う上ケース本体部56と、上ケース本体部56においてシュラウド20の開口部21に対応する位置に設けられる空気吸込口51と、空気吸込口51の内周縁から主板10側に向かって筒状に延びるベルマウス57とを有している。ベルマウス57は、外部から羽根車2に空気を導入する部位である。そのため、ベルマウス57のうち主板10とは反対側のコーナー部は曲面状となっており、ベルマウス57のうち主板10側の端部も曲面状となっている。
【0020】
また、上ケース53は、ベルマウス57よりも径方向外側の位置に、シュラウド20側に向かって筒状に延びる複数のケース側突起52を有している。本実施形態では、2個のケース側突起52が設けられている。2個のケース側突起52は、シュラウド20に設けられた3個のシュラウド側突起23同士の間に設けられている。そのため、上ケース53とシュラウド20との間の隙間流路25には、ケース側突起52とシュラウド側突起23により、ラビリンス部26が形成されている。
【0021】
下ケース54は、羽根車2の主板10側を覆う下ケース本体部58と、その下ケース本体部58の中央に設けられる中央筒部59とを有している。その中央筒部59に対して、モータ40の回転軸41およびモータステータ43が取り付けられている。なお、本実施形態では、モータ40として、例えば、アウターロータ型ブラシレスDCモータが採用されている。
【0022】
モータ40の回転軸41は、中央筒部59の内側に軸受44を介して回転可能に設けられている。モータ40の回転軸41のうち軸心方向の端部には、モータロータ42の中央部11が固定されている。モータロータ42は、上述した主板10の中央部11と、その主板10の中央部11の外縁から軸心方向のシュラウド20とは反対側に延びる磁石保持部14と、磁石保持部14の径方向内側に設けられる磁石45とを有している。磁石保持部14の径方向外側の外壁に対して主板10の固定部12が圧入などにより固定されている。これにより、モータロータ42と羽根車2とが接合される。磁石保持部14の径方向内側に設けられる磁石45は、磁石保持部14の周方向に異種の磁極が交互に配置されている。
【0023】
磁石45の径方向内側には、モータステータ43が設けられている。モータステータ43は、中央筒部59の径方向外側の面に固定されている。モータステータ43は、例えばY結線またはΔ結線などにより構成された三相コイル46とステータコア461とを有している。三相コイル46には、回路基板60から三相交流電流が供給されるようになっている。
【0024】
上述した構成において、コネクタ47から回路基板60に電力および駆動信号が供給されると、その回路基板60からモータステータ43の三相コイル46に三相交流電流が供給され、回転軸41とモータロータ42と共に羽根車2が回転する。羽根車2が回転すると、
図2に矢印AF1に示すように、上ケース53の空気吸込口51から流入する空気は、翼間流路を通り、上ケース53と下ケース54との間から径方向外側に吹き出される。
【0025】
次に、翼前縁31の形状について詳細に説明する。
【0026】
図4に示すように、翼前縁31は、翼30のうちシュラウド20の開口部21の内周壁211より径方向内側に設けられている部位である。その翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面には、凹み形状70が形成されている。凹み形状70は、低位部71および高位部72により形成されている。
【0027】
低位部71は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73より径方向内側において、その接続箇所73よりも主板10側に位置する部位である。そして、低位部71は、軸心CLに対して垂直な面に沿うように設けられている。なお、本明細書において「低位部71は、軸心CLに対して垂直な面に沿うように設けられている」とは、翼30の回転方向から低位部71を見たとき、軸心CLに対して垂直な仮想面と低位部71とが平行である状態に加え、その仮想面に対して低位部71が僅かに湾曲または傾いている状態も含むものである。
【0028】
高位部72は、低位部71よりも径方向内側において、低位部71に対して主板10とは反対側に位置する部位である。高位部72は、軸心方向において、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73とほぼ同じ高さとなっている。なお、高位部72は、軸心方向において、その接続箇所73よりも主板10側に位置していてもよく、または、その接続箇所73よりも主板10とは反対側に位置していてもよい。
【0029】
低位部71と高位部72とは、滑らかな曲面によって接続されている。具体的には、
図4のV部分を拡大した
図5に示すように、低位部71と高位部72とが接続されている箇所は、第1曲面74と第2曲面75とを有している。第1曲面74とは、高位部72における低位部71側で空気吸込口51側(すなわち、主板10とは反対側)に凸の曲面である。第2曲面75とは、第1曲面74よりも径方向外側(すなわち、第1曲面74よりも低位部71側)で主板10側に凸の曲面である。
【0030】
図5では、第1曲面74より径方向内側の部位の円弧と第1曲面74の円弧との接点を符号P1で示し、第1曲面74の円弧と第2曲面75の円弧との接点を符号P2で示し、第2曲面75より径方向外側の部位の円弧と第2曲面75の円弧との接点を符号P3で示している。ここで、翼30の回転方向から翼前縁31を見たとき、第1曲面74の曲率半径をR1、第2曲面75の曲率半径をR2とする。このとき、第1曲面74の曲率半径R1と、第2曲面75の曲率半径R2とは、R1>R2 の関係を有している。なお、図示は省略するが、第1曲面74と第2曲面75との間に平面が設けられていてもよく、または、第1曲面74および第2曲面75はその一部に平面を有していてもよい。
【0031】
また、
図6は、
図4のVI-VI線の断面図である。すなわち、
図6は、翼前縁31の低位部71を、翼30が前縁31から後縁32に延びる方向に対して垂直な面で切断した断面図である。
図6に示した断面において、低位部71の負圧面35側のコーナー部36の曲率半径をR3、低位部71の正圧面37側のコーナー部38の曲率半径をR4とする。このとき、第1曲面74の曲率半径R1と、第2曲面75の曲率半径R2と、低位部71の負圧面35側のコーナー部36の曲率半径R3と、低位部71の正圧面37側のコーナー部38の曲率半径R4とは、R1>R3>R4、および、R2>R3>R4 の関係を有している。
【0032】
また、
図4に示すように、翼30は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73と、低位部71との間に、立壁部39を有している。立壁部39は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と平行に設けられている。立壁部39と低位部71とが接続されている箇所391は曲面となっている。すなわち、低位部71のうち径方向外側の箇所391と、低位部71のうち径方向内側の箇所(すなわち、第2曲面75)とは、いずれも曲面となっている。
【0033】
図4に示すように、本実施形態では、低位部71のうち主板10に最も近い点または面と高位部72のうち主板10から最も遠い点または面との距離Daを「凹み形状70の深さDa」ということとする。また、
図3に示すように、翼30の後縁32側における主板10とシュラウド20との間の距離Dbを、「翼出口高さDb」ということとする。凹み形状70の深さDaと、翼出口高さDbとは、0<Da≦Db×0.09 の関係を有している。すなわち、凹み形状70の深さDaは、0より大きく、翼出口高さDbの9%以下に設定されている。これは、本発明の発明者らが行った実験の結果に基づくものであり、その実験の結果については後述する。
【0034】
さらに、
図3に示すように、本実施形態では、ベルマウス57のうち主板側の端部の外径をDc、複数の翼30に設けられた低位部71のうち主板10に最も近い点または面を回転方向に結んだ円の外径をDwとする。このとき、ベルマウス57のうち主板側の端部の外径Dcと、低位部71のうち主板10に最も近い点または面の外径Dwとは、Dc<Dw の関係を有している。これにより、羽根車2の回転時に、ベルマウス57の内周壁571に沿って翼間流路に流入する空気が、翼前縁31に形成された凹み形状70に当たるので、その空気は、凹み形状70に沿って空気が流れるコアンダ効果の影響を受けやすくなる。
【0035】
なお、ベルマウス57の外径Dcの最小値は特に規定しないが、ベルマウス57の外径Dcを高位部72の内径よりも大きくすることで、ベルマウス57の内周壁571に沿って翼間流路に流入する空気が凹み形状70に当るので、コアンダ効果の影響を受けやすくなる。
【0036】
なお、翼30の前縁31のうち径方向内側を向く面には、凹部80と凸部81とが軸心方向に交互に配置された段差部82が設けられている。段差部82は、セレーション部とも呼ばれる。段差部82は、翼前縁31のうち主板10から所定距離離れた位置に設けられている。
【0037】
ここで、上述した第1実施形態の送風機1と比較するため、比較例の送風機100について説明する。
【0038】
図11に示すように、比較例の送風機100においても、翼前縁31が、シュラウド20の開口部21の内周壁211よりも径方向内側に設けられている。ただし、比較例の送風機100では、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面101に凹み形状が形成されていない。すなわち、比較例の送風機100では、翼30の回転方向から翼前縁31を見たとき、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面101は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73から径方向内側に向かって、軸心CLに対して垂直な面となっている。
【0039】
比較例の送風機100では、羽根車2が回転すると、
図11の矢印AF2に示すように、上ケース53の空気吸込口51から翼間流路に流入する空気は、主板10側に向かって流れ、シュラウド20のうち翼間流路側の面(以下「シュラウド裏面201」という)に沿って流れにくいといった特性を有する。そのため、シュラウド20の開口部21から翼間流路に流入する空気がシュラウド裏面201から剥離し、その剥離により生じる剥離渦SVが大きくなると、騒音が増大するといった問題が発生する。
【0040】
それに対し、第1実施形態の送風機1は、
図7に示すように、次のような効果を奏する。すなわち、第1実施形態の送風機1では、羽根車2が回転すると、
図7の矢印AF3に示すように、上ケース53の空気吸込口51から翼間流路に流入する空気は、翼前縁31に形成された凹み形状70に沿って空気が流れるコアンダ効果により、その気流の向きが、シュラウド裏面201の形状に近くなる。凹み形状70は、空気吸込口51から翼間流路に流入する空気に対してコアンダ効果を発生させるのに有効な形状とされている。そのため、凹み形状70に沿って流れた後に翼間流路に流入する空気は、シュラウド裏面201から剥離することが抑制される。したがって、第1実施形態の送風機1は、シュラウド裏面201付近の剥離渦SVが低減するので、騒音を低減することができる。
【0041】
また、
図3に示すように、第1実施形態の送風機1は、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面に凹み形状70を形成したことで、シュラウド筒部22のうち主板10とは反対側の端部221と凹み形状70の低位部71との距離Dhが、比較例の送風機100に比べて遠くなっている。そのため、羽根車2の径方向外側の空気出口24から上ケース53とシュラウド20との隙間流路25を通ってシュラウド20の開口部21側に逆流する空気(以下、「逆流空気」という)が、凹み形状70の低位部71に衝突するときの流速を遅くすることができる。一般に、騒音の大きさは流速の6乗に比例するので、その流速を遅くすることで、騒音を低減することができる。
【0042】
次に、第1実施形態に係る送風機1において、凹み形状70の深さと騒音との関係について行った実験の結果を
図8に示す。
【0043】
図8のグラフの横軸は、凹み形状70の深さDaを、翼出口高さDbに対する割合として示している。なお、凹み形状70の深さDaが0%とは、上述した比較例の送風機100の構成と同じである。一方、
図8のグラフの縦軸は、騒音レベル(すなわち、A特性音圧レベル)を示している。なお、この実験では、翼出口高さDbが4mmの送風機を使用し、モータ40に通電して羽根車2を一定の回転数で回転させたときの騒音レベルを測定した。
【0044】
図8のグラフに示すように、この実験により、凹み形状70の深さDaが0より大きく、9%以下の範囲で、騒音レベルを低下できる結果が得られた。すなわち、実験により、凹み形状70の深さDaと、翼出口高さDbとは、0<Da≦Db×0.09 の関係において、騒音低減効果が得られることがわかった。また、凹み形状70の深さDaを、翼出口高さDbの1~8%、より好ましくは2~7%とすることで、より大きな騒音低減効果が得られることがわかった。具体的には、実験に使用した送風機では、凹み形状70の深さDaを翼出口高さDbの5%としたとき、比較例の送風機100に比べて、騒音レベルを0.4dBA低下できる結果が得られた。
【0045】
以上説明した第1実施形態の送風機1は、次の作用効果を奏するものである。
【0046】
(1)第1実施形態の送風機1は、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面に、低位部71と高位部72により、凹み形状70が形成されている。これによれば、上ケース53の空気吸込口51からシュラウド20の開口部21を通って翼間流路に流入する空気は、翼前縁31に形成された凹み形状70に沿って空気が流れるコアンダ効果により、その気流の向きが、シュラウド裏面201の形状に近くなる。そのため、シュラウド20の開口部21から翼間流路に流入する空気がシュラウド裏面201から剥離することが抑制され、剥離渦SVが低減するので、騒音を低減することができる。
【0047】
また、翼30のうち主板10とは反対側を向く面に凹み形状70を形成することで、シュラウド筒部22のうち主板10とは反対側の端部221と凹み形状70の低位部71との距離Dhが遠くなる。そのため、羽根車2の径方向外側の空気出口24から隙間流路25を通ってシュラウド20の開口部21側に逆流する逆流空気が、凹み形状70の低位部71に衝突するときの流速を遅くすることができる。一般に、騒音の大きさは流速の6乗に比例するので、その流速を遅くすることで、騒音を低減することができる。
【0048】
さらに、シュラウド裏面201からの空気の剥離が抑制されることで、送風機1の効率が向上する。したがって、同一風量の条件下において、送風機1の回転数を下げることが可能となり、回転による振動が低減するので、騒音を低減することができる。
【0049】
(2)第1実施形態では、上ケース53の有するベルマウス57の外径Dcと、低位部71のうち主板10に最も近い点または面の外径Dwとは、Dc<Dw の関係を有している。
これによれば、ベルマウス57の内周壁571に沿って翼間流路に流入する空気が、翼前縁31に形成された凹み形状70に当たるので、凹み形状70に沿って空気が流れるコアンダ効果の影響を受けやすくなる。したがって、シュラウド裏面201から空気が剥離することが抑制され、剥離渦SVが低減するので、騒音を低減できる。
また、逆流空気が凹み形状70の低位部71に衝突するときの流速を遅くすることによっても、騒音を低減することができる。
【0050】
(3)第1実施形態では、低位部71と高位部72との接続箇所(すなわち、第2曲面75および第1曲面74)は曲面となっている。
これによれば、低位部71と高位部72との接続箇所における気流の乱れを抑制し、騒音を低減できる。
【0051】
(4)第1実施形態では、低位部71のうち径方向内側の箇所(すなわち、第2曲面75)および径方向外側の箇所391は、いずれも曲面となっている。
これによれば、低位部71のうち径方向内側の箇所(すなわち、第2曲面75)および径方向外側の箇所391における気流の乱れを抑制し、騒音を低減できる。
【0052】
(5)第1実施形態では、低位部71と高位部72とを接続している第1曲面74の曲率半径R1と、第2曲面75の曲率半径R2とは、R1>R2 の関係を有している。
これによれば、上ケース53の空気吸込口51から流入する空気が径方向外側に流れることを促す第1曲面74の曲率半径R1を大きくすることで、コアンダ効果による径方向の流れ成分が増大するので、翼間流路におけるシュラウド裏面201からの空気の剥離を抑制できる。
【0053】
(6)第1実施形態では、第1曲面74の曲率半径R1と、第2曲面75の曲率半径R2と、低位部71の負圧面35側のコーナー部36の曲率半径R3と、低位部71の正圧面37側のコーナー部38の曲率半径R4は、R1>R3>R4、および、R2>R3>R4の関係を有している。
これによれば、翼前縁31に形成された凹み形状70にあたる気流は、曲率半径の大きい順に流れ込みやすくなる。そのため、第1曲面74の曲率半径R1と第2曲面75の曲率半径R2により径方向の流れ成分を増大してシュラウド裏面201からの剥離を抑制できる。さらに、低位部71の負圧面35側のコーナー部36の曲率半径R3を、低位部71の正圧面37側のコーナー部38の曲率半径R4よりも大きくすることで、翼30の負圧面35側に流れ込む気流がその負圧面35から剥離することも抑制できる。したがって、翼30の回転方向の速度バラツキを低減することで、騒音を低減することができる。
【0054】
(7)第1実施形態では、凹み形状70の深さDaと、翼出口高さDbとは、0<Da≦Db×0.09 の関係を有している。
これによれば、発明者らが行った実験の結果により、凹み形状70の深さDaを、翼出口高さDbの9%以下とすることで、騒音低減効果が得られることが判った。
【0055】
(8)第1実施形態では、シュラウド20は、開口部21側の内周縁から主板10とは反対側に向かって筒状に延びるシュラウド筒部22を有している。また、翼30は、シュラウド20の開口部21の内周壁211と翼30との接続箇所73から、シュラウド20の開口部20の内周壁211と平行に主板10側に延びる立壁部39を有している。
これによれば、翼前縁31に形成された凹み形状70に沿って流れる気流がシュラウド裏面201に流れやすくなる。そのため、シュラウド裏面201からの空気の剥離を抑制できる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して凹み形状70の一部を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
図9に示すように、第2実施形態の送風機1においても、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面に凹み形状70が形成されている。凹み形状70は、低位部71および高位部72により形成されている。第2実施形態では、低位部71と高位部72とが接続されている箇所に、第1実施形態で説明した第1曲面74が設けられていない。高位部72のうち径方向外側の部位はほぼ直角になっている。しかし、第2実施形態においても、低位部71のうち径方向内側の箇所751および径方向外側の箇所391は、いずれも曲面となっている。これにより、第2実施形態では、低位部71のうち径方向内側の箇所751および径方向外側の箇所391における気流の乱れを抑制し、騒音を低減できる。
【0058】
なお、第2実施形態の送風機1も、上記で説明した構成を除き、第1実施形態と同様の構成を備えることで、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態も、第1実施形態等に対して凹み形状70の一部を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
図10に示すように、第3実施形態の送風機1においても、翼前縁31のうち主板10とは反対側を向く面に凹み形状70が形成されている。凹み形状70は、低位部71および高位部72により形成されている。そして、第3実施形態では、第1実施形態と同じく、低位部71と高位部72とが接続されている箇所は、第1曲面74と第2曲面75とを有している。その第1曲面74の曲率半径R1と、第2曲面75の曲率半径R2とは、R1>R2 の関係を有している。なお、第3実施形態では、低位部71と立壁部39とが接続されている箇所391は、ほぼ直角になっている。
【0061】
第3実施形態の送風機1においても、シュラウド20の開口部21から流入する空気が径方向外側に流れることを促す第1曲面74の曲率半径R1を大きくすることで、コアンダ効果による径方向の流れ成分が増大するので、シュラウド裏面201からの空気の剥離を抑制できる。
【0062】
なお、第3実施形態の送風機1も、第1実施形態と同様の構成を備えることで、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0063】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、送風機1の備える羽根車2をターボファンとして説明したが、これに限らず、例えばシロッコファン、ラジアルファン、または、斜流ファンなどとしてもよい。
【0064】
(2)上記各実施形態では、モータ40をアウターロータ型ブラシレスDCモータとして説明したが、これに限らず、例えばインナーロータ型ブラシレスDCモータ、または、ACモータなどとしてもよい。
【0065】
(3)上記各実施形態では、シュラウド20は、シュラウド筒部22、シュラウド側突起23などを有するものとして説明したが、これに限らず、シュラウド20は、それらの構成を有していなくてもよい。
【0066】
(4)上記各実施形態では、主板10は、中央部11、固定部12および環状部13などを有するものとして説明したが、これに限らず、主板10は、例えば、中央部11、固定部12および環状部13などが一体に構成されたものであってもよい
【0067】
(5)上記各実施形態では、送風機1は、ケース50を備えるものとして説明したが、これに限らず、送風機1はケース50を備えていなくてもよい。
【0068】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
1 遠心送風機
10 主板
20 シュラウド
21 開口部
30 翼
70 凹み形状
71 低位部
72 高位部
73 接続箇所
211 内周壁