(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185277
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】ヒータ装置
(51)【国際特許分類】
H05B 3/03 20060101AFI20221207BHJP
H05B 3/84 20060101ALI20221207BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221207BHJP
B60J 1/20 20060101ALI20221207BHJP
B60S 1/02 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H05B3/03 ZNM
H05B3/84
B60J1/00 H
B60J1/20 C
B60S1/02 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092834
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 佳之
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小倉 太郎
(72)【発明者】
【氏名】三神 文宣
【テーマコード(参考)】
3D225
3K034
3K092
【Fターム(参考)】
3D225AA02
3D225AA03
3D225AC11
3D225AD02
3K034AA02
3K034AA05
3K034BB05
3K034BB08
3K034CA02
3K034HA09
3K034JA10
3K092PP15
3K092QA05
3K092QC31
3K092VV23
3K092VV33
(57)【要約】
【課題】ウィンドシールドを部分的に加熱することの可能なヒータ装置を提供する。
【解決手段】ヒータ装置1が備える透明導電膜10はウィンドシールド2の透光領域に配置されており、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50はウィンドシールド2の外縁部に配置されている。制御装置60が実行する複数の通電モードのうち第1モードは、上電極部20および下電極部30の一方を高電位とし、他方を低電位とするか、或いは、右電極部40および左電極部50の一方を高電位とし他方を低電位とする。複数の通電モードのうち第2モードは、上電極部20および下電極部30の少なくとも一方を高電位とし右電極部40および左電極部50の少なくとも一方を低電位とするか、或いは、上電極部20および下電極部30の少なくとも一方を低電位とし右電極部40および左電極部50の少なくとも一方を高電位とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のウィンドシールド(2)を加熱するヒータ装置において、
前記ウィンドシールドの透光領域に配置され、透明基材(11)の一方の面に導電性物質(12)が設けられた透明導電膜(10)と、
前記ウィンドシールドの外縁部のうち車両上下方向に対向して配置され、前記透明導電膜に電気的に接続される第1電極部(20)および第2電極部(30)と、
前記ウィンドシールドの外縁部のうち前記第1電極部と前記第2電極部とが対向する方向に対して交差する方向に対向して配置され、前記透明導電膜に電気的に接続される第3電極部(40)および第4電極部(50)と、
前記第1~第4電極部を、高電位、低電位または非通電状態として前記透明導電膜に通電する複数の通電モードを実行可能な制御装置(60)とを備え、
複数の前記通電モードのうち第1モードは、前記第1電極部および前記第2電極部の一方を高電位とし他方を低電位とするか、或いは、前記第3電極部および前記第4電極部の一方を高電位とし他方を低電位として前記透明導電膜に通電するモードであり、
複数の前記通電モードのうち第2モードは、前記第1電極部および前記第2電極部の少なくとも一方を高電位とし前記第3電極部および前記第4電極部の少なくとも一方を低電位とするか、或いは、前記第1電極部および前記第2電極部の少なくとも一方を低電位とし前記第3電極部および前記第4電極部の少なくとも一方を高電位として前記透明導電膜に通電するモードである、ヒータ装置。
【請求項2】
前記第1~第4電極部の少なくとも1つは、前記ウィンドシールドのうち当該電極部が配置された部位の外縁部が延びる方向に並ぶ複数の分割電極(21~23、31~33、41~43、51~53)により構成されており、
前記制御装置は、複数の前記分割電極に対して同時に通電するモードと、複数の前記分割電極の一部に対して通電するモードを実行することが可能である、請求項1に記載のヒータ装置。
【請求項3】
複数の前記通電モードのうち第3モードは、前記第1~第4電極部を構成する前記分割電極のうち前記ウィンドシールドの角部を挟んで隣接して配置されているものの一方を高電位とし他方を低電位として前記透明導電膜に通電するモードである、請求項2に記載のヒータ装置。
【請求項4】
複数の前記通電モードのうち第4モードは、前記第3電極部および前記第4電極部をそれぞれ構成する前記分割電極のうち車両下側に配置されているもの同士の一方を高電位とし他方を低電位として前記透明導電膜に通電するモードである、請求項2または3に記載のヒータ装置。
【請求項5】
前記透明導電膜を構成する前記導電性物質は、少なくとも前記ウィンドシールドの角部を挟んで隣接して配置されている一方の前記分割電極と他方の前記分割電極とを結ぶ方向に配向が揃っている、請求項2ないし4のいずれか1つに記載のヒータ装置。
【請求項6】
前記透明導電膜を構成する前記導電性物質は、車両上下方向および左右方向に対して斜めとなる方向に配向が揃っている、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のヒータ装置。
【請求項7】
車両のウィンドシールド(2)を加熱するヒータ装置において、
前記ウィンドシールドの透光領域に配置され、透明基材(11)の一方の面に導電性物質(12)が設けられた透明導電膜(10)と、
前記ウィンドシールドの外縁部のうち車両下側の部位に配置され、前記透明導電膜に電気的に接続される下電極部(30)と、
前記ウィンドシールドの外縁部のうち車両右側の部位に配置され、前記透明導電膜に電気的に接続される右電極部(40)と、
前記ウィンドシールドの外縁部のうち車両左側の部位に配置され、前記透明導電膜に電気的に接続される左電極部(50)と、
前記下電極部、前記右電極部および前記左電極部を、高電位、低電位または非通電状態として前記透明導電膜に通電する複数の通電モードを実行可能な制御装置(60)とを備え、
複数の前記通電モードのうち第1モードは、前記右電極部および前記左電極部の一方を高電位とし他方を低電位として前記透明導電膜に通電するモードであり、
複数の前記通電モードのうち第2モードは、前記右電極部および前記左電極部の少なくとも一方を高電位とし前記下電極部を低電位とするか、或いは、前記右電極部および前記左電極部の少なくとも一方を低電位とし前記下電極部を高電位として前記透明導電膜に通電するモードである、ヒータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のウィンドシールドに設けられるヒータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のウィンドシールドを加熱して冬季のデアイスまたは窓曇りの除去を行うヒータ装置が知られている。特許文献1に記載のヒータ装置は、ウィンドシールドの透光領域全体に配置される複数の抵抗加熱線と、ウィンドシールドの外縁部に配置されて抵抗加熱線に電気的に接続される複数の電極を備えている。なお、特許文献1では、電極はバスバーと呼ばれている。
【0003】
このヒータ装置は、ウィンドシールドを加熱する際、ウィンドシールドの外縁部のうち車両上側および左右両側の部位に配置される2本の電極を高電位(または低電位)とし、ウィンドシールドの外縁部のうち車両下側の部位に配置される2本の電極を低電位(または高電位)とする。これにより、このヒータ装置は、複数の抵抗加熱線に電流を流し、ウィンドシールド全体を加熱している。このヒータ装置は、ウィンドシールドの各領域において複数の抵抗加熱線同士の間隔、または複数の抵抗加熱線の線径を調整することで、ウィンドシールド全体を均一に加熱することを可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、車両のウィンドシールドの窓曇りは、主にコーナー部に発生しやすい。しかしながら、特許文献1に記載のヒータ装置は、常にウィンドシールド全体を加熱するものであり、窓曇りの発生しやすいウィンドシールドのコーナー部のみを加熱することはできない。そのため、特許文献1に記載のヒータ装置は、車両走行中などにウィンドシールドの窓曇りを防ぐ際にも、ウィンドシールドの全体を加熱するため、消費電力が増大するといった問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、ウィンドシールドを部分的に加熱することの可能なヒータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明によると、車両のウィンドシールド(2)を加熱するヒータ装置は、透明導電膜(10)、第1電極部(20)、第2電極部(30)、第3電極部(40)、第4電極部(50)および制御装置(60)を備える。透明導電膜は、ウィンドシールドの透光領域に配置され、透明基材(11)の一方の面に導電性物質(12)が設けられたものである。第1電極部と第2電極部は、ウィンドシールドの外縁部のうち車両上下方向に対向して配置され、透明導電膜に電気的に接続される。第3電極部と第4電極部は、ウィンドシールドの外縁部のうち第1電極部と第2電極部とが対向する方向に対して交差する方向に対向して配置され、透明導電膜に電気的に接続される。制御装置は、第1~第4電極部を、高電位、低電位または非通電状態として透明導電膜に通電する複数の通電モードを実行可能である。その複数の通電モードのうち第1モードは、第1電極部および第2電極部の一方を高電位とし他方を低電位とするか、或いは、第3電極部および第4電極部の一方を高電位とし他方を低電位として透明導電膜に通電するモードである。また、複数の通電モードのうち第2モードは、第1電極部および第2電極部の少なくとも一方を高電位とし第3電極部および第4電極部の少なくとも一方を低電位とするか、或いは、第1電極部および第2電極部の少なくとも一方を低電位とし第3電極部および第4電極部の少なくとも一方を高電位として透明導電膜に通電するモードである。
【0008】
これによれば、第1モードにより、ウィンドシールド全体を加熱し、ウィンドシールド全体の窓曇りの除去または冬季のデアイスを行うことが可能である。また、第2モードにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールドのコーナー部を主に加熱し、窓曇りを防ぐことが可能である。そのため、このヒータ装置は、窓曇りを防ぐ際に第2モードを使用し、消費電力を低減することができる。
【0009】
ところで、一般に、車両には車室内の空調を行う空調装置が搭載される。その空調装置は、主に冬季において、窓曇りを防ぐために外気導入および除湿運転を行う。そのような車両において、ヒータ装置を第2モードで動作させてウィンドシールドの窓曇りの発生を防ぐことで、空調装置において車室内空気の循環率を増加し、外気の導入量を少なくすることが可能となる。そのため、このヒータ装置は、空調装置による外気の加熱に消費される電力および除湿運転に消費される電力を低減できる。
【0010】
さらに、ヒータ装置によりウィンドシールドの窓曇りを防ぐことで、空調装置においてデフロスタ吹出口からの送風量を少なくするか、或いは、デフロスタ吹出口からの送風を停止することが可能となる。デフロスタ吹出口から温風を吹き出した場合、車室内上方の空気が温められることがある。また、デフロスタ吹出口から吹き出された風の一部が乗員の顔に当たると、乗員が煩わしさを感じることもある。それに対し、このヒータ装置を使用しつつ、デフロスタ吹出口からの送風量を少なくするか、或いは停止することで、車室内上方の空気の温度上昇が抑制されるので、乗員の頭寒足熱などによる車室内の快適性を向上することができる。
【0011】
また、請求項7に係る発明によると、車両のウィンドシールド(2)を加熱するヒータ装置は、透明導電膜(10)、下電極部(30)、右電極部(40)、左電極部(50)および制御装置(60)を備える。透明導電膜は、ウィンドシールドの透光領域に配置され、透明基材(11)の一方の面に導電性物質(12)が設けられたものである。下電極部は、ウィンドシールドの外縁部のうち車両下側の部位に配置され、透明導電膜に電気的に接続される。右電極部は、ウィンドシールドの外縁部のうち車両右側の部位に配置され、透明導電膜に電気的に接続される。左電極部は、ウィンドシールドの外縁部のうち車両左側の部位に配置され、透明導電膜に電気的に接続される。制御装置は、下電極部、右電極部および左電極部を、高電位、低電位または非通電状態として透明導電膜に通電する複数の通電モードを実行可能である。その複数の通電モードのうち第1モードは、右電極部および左電極部の一方を高電位とし、他方を低電位として透明導電膜に通電するモードである。また、複数の通電モードのうち第2モードは、右電極部および左電極部の少なくとも一方を高電位とし下電極部を低電位とするか、或いは、右電極部および左電極部の少なくとも一方を低電位とし下電極部を高電位として透明導電膜に通電するモードである。
【0012】
これによれば、請求項7に係る発明のようにウィンドシールドの3方に電極部を設けた場合でも、請求項1に係る発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係るヒータ装置が搭載される車両の一部の断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るヒータ装置が設けられたウィンドシールドの正面図である。
【
図3】第1実施形態に係るヒータ装置による第1モードの一例を説明するための図である。
【
図4】第1実施形態に係るヒータ装置による第1モードの別の例を説明するための図である。
【
図5】第1実施形態に係るヒータ装置による第2モードの一例を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係るヒータ装置による第2モードの別の例を説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係るヒータ装置が設けられたウィンドシールドの正面図である。
【
図8】第2実施形態に係るヒータ装置による第1モードの一例を説明するための図である。
【
図9】第2実施形態に係るヒータ装置による第1モードの別の例を説明するための図である。
【
図10】第2実施形態に係るヒータ装置による第3モードの一例を説明するための図である。
【
図11】第2実施形態に係るヒータ装置による第3モードの別の例を説明するための図である。
【
図12】第2実施形態に係るヒータ装置による第4モードを説明するための図である。
【
図13】第3実施形態に係るヒータ装置において透明導電膜を構成する導電性物質の配向を説明するための図である。
【
図14】透明導電膜を構成する導電性物質の配向度の算出方法の説明図である。
【
図15】透明導電膜を構成する導電性物質の配向度と透明導電膜の抵抗減少率との関係に関する実験結果を示したグラフである。
【
図16】第3実施形態の変形例1において透明導電膜を構成する導電性物質の配向の別の例を説明するための図である。
【
図17】第3実施形態の変形例2において透明導電膜を構成する導電性物質の配向のさらに別の例を説明するための図である。
【
図18】第4実施形態に係るヒータ装置が設けられたウィンドシールドの正面図である。
【
図19】第4実施形態に係るヒータ装置による第1モードを説明するための図である。
【
図20】第4実施形態に係るヒータ装置による第2モードを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。なお、各実施形態の説明で参照する図には、車両のウィンドシールドにヒータ装置が設けられた状態における車両の各方向を示す三次元座標を記載している。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。第1実施形態のヒータ装置1は、車両のフロントウィンドシールド(以下、単に「ウィンドシールド2」という)を加熱することで、冬季のデアイスまたは窓曇りの除去などを行うことが可能なものである。
【0017】
図1および
図2に示すように、ヒータ装置1は、透明導電膜10、上電極部20、下電極部30、右電極部40、左電極部50、および制御装置60などを備えている。第1~第3実施形態の説明において、上電極部10は、特許請求の範囲に記載の「第1電極部」に相当する。下電極部30は、特許請求の範囲に記載の「第2電極部」に相当する。右電極部40は、特許請求の範囲に記載の「第3電極部」に相当する。左電極部50は、特許請求の範囲に記載の「第4電極部」に相当する。ヒータ装置1が備える透明導電膜10、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50は、ウィンドシールド2を構成する合わせガラスを構成する車外側ガラス3と車内側ガラス4との間に挟まれた状態で設けられている。
【0018】
透明導電膜10は、例えば、薄膜状の透明基材11の一方の面に導電性物質12が設けられた薄膜である。透明基材11として、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂材料、または石英ガラスなどの無機材料を用いることが可能である。導電性物質12として、例えばCNT(カーボンナノチューブ)、AgNW(銀ナノワイヤ)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、または金属薄膜などを用いることが可能である。透明導電膜10は、ウィンドシールド2の透光領域(すなわち、ウィンドシールド2の全面)に設けられている。
【0019】
上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50は、例えば、銅などの金属の薄板で構成されるか、或いは、金属ペーストを焼結または硬化させたもので構成されている。上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50は、透明導電膜10に電気的に接続されている。
【0020】
上電極部20は、ウィンドシールド2の外縁部のうち車両上側の部位に配置されており、ウィンドシールド2の外縁部に沿って車両左右方向に延びている。下電極部30は、ウィンドシールド2の外縁部のうち車両下側の部位に配置されており、ウィンドシールド2の外縁部に沿って車両左右方向に延びている。上電極部20と下電極部30とは、ウィンドシールド2の外縁部において車両上下方向に対向して配置されている。
【0021】
また、右電極部40は、ウィンドシールド2の外縁部において車両右側の部位に配置されており、ウィンドシールド2の外縁部に沿って車両上下方向および車両前後方向に延びている。左電極部50は、ウィンドシールド2の外縁部において車両左側の部位に配置されており、車室内側から視て、ウィンドシールド2の外縁部に沿って車両上下方向および車両前後方向に延びている。右電極部40と左電極部50とは、ウィンドシールド2の外縁部において車両左右方向(すなわち、上電極部20と下電極部30とが対向する方向に対して交差する方向)に対向して配置されている。
【0022】
なお、本明細書において、ウィンドシールド2の外縁部とは、ウィンドシールド2の外周から内側へ所定の幅(例えば10~100mm程度)を有する範囲をいう。すなわち、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50は、その外縁部の範囲に設けられている。
図2では、ウィンドシールド2の外縁部の内側の境界を二点鎖線5で示しているが、その境界は概念的なものであり実際に区分されているものではない。なお、一般に、ウィンドシールド2の外縁部には、黒塗装などが施されていることがある。
【0023】
上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50はそれぞれ、制御装置60による通電制御により、高電位、低電位または非通電状態に切り替えられる。制御装置60は、プロセッサ、ROMおよびRAM等のメモリを含むマイクロコンピュータとその周辺回路で構成されたコントローラである。制御装置60のメモリは、非遷移的実体的記憶媒体で構成されている。制御装置60は、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を、高電位、低電位または非通電状態として、透明導電膜10に通電する複数の通電モードを実行可能に構成されている。
【0024】
なお、本明細書において、電極部を高電位にするとは、車両に搭載されている図示しないバッテリーの正極と電極部とを配線などを介して電気的に接続し、バッテリーから電極部に電力を供給することをいう。また、電極部を低電位にするとは、バッテリーの負極と電極部とを配線および車体などを介して電気的に接続し、電極部をグランド電位にすることをいう。また、電極部を非通電状態にするとは、バッテリーと電極部との電気的接続を遮断することをいう。
【0025】
以下、制御装置60が実行する複数の通電モードについて、
図3~
図6を参照して説明する。
【0026】
まず、複数の通電モードのうち第1モードについて説明する。第1モードは、ウィンドシールド2の全体を加熱するモードである。
図3は、第1モードの一例を示している。第1モードにおいて、制御装置60は、上電極部20を高電位とし、下電極部30を低電位として、透明導電膜10に通電する。
【0027】
図3では、透明導電膜10に電流が流れる方向を模式的に矢印Iで示している。また、高電位となる電極部を分かりやすく示すため、断面ではないがドットのハッチングで示している。また、低電位となる電極部を分かりやすく示すため、断面ではないが斜線のハッチングで示している。なお、これらのことは、後の説明で参照する図面についても同様である。
図3の矢印Iに示したように、第1モードでは、透明導電膜10の全体に略均一に電流が流れる。そのため、第1モードにより、ウィンドシールド2の全体を加熱することが可能である。
【0028】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第1モードにおいて、上電極部20を低電位とし、下電極部30を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図3に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0029】
また、
図4は、第1モードの別の例を示している。
図4に示すように、制御装置60は、第1モードにおいて、右電極部40を高電位とし、左電極部50を低電位として、透明導電膜10に通電してもよい。これによっても、透明導電膜10の全体に略均一に電流が流れる。
【0030】
なお、図示は省略するが、制御装置60は、第1モードにおいて、右電極部40を低電位とし、左電極部50を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図4に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0031】
ヒータ装置1は、第1モードを実行することにより、ウィンドシールド2の全体を加熱し、ウィンドシールド2の全体の窓曇りの除去または冬季のデアイスを行うことができる。
【0032】
次に、複数の通電モードのうち第2モードについて説明する。第2モードは、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱するモードである。なお、ウィンドシールド2のコーナー部とは、ウィンドシールド2の透光領域のうち角部に近い所定範囲の領域をいう。
図5は、第2モードの一例を示している。
図5に示すように、第2モードにおいて、制御装置60は、上電極部20および下電極部30を高電位とし、右電極部40および左電極部50を低電位として、透明導電膜10に通電する。これにより、
図5の矢印Iに示したように、第2モードでは、透明導電膜10のうちコーナー部に電流が多く流れる。これは、透明導電膜10を介して電極部同士間の距離が近いほど、その間の電気抵抗が小さくなり、電流が流れやすくなるからである。そのため、第2モードにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱することが可能である。
【0033】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第2モードにおいて、上電極部20および下電極部30を低電位とし、右電極部40および左電極部50を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図5に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0034】
また、
図6は、第2モードの別の例を示している。
図6に示すように、制御装置60は、第2モードにおいて、上電極部20を非通電状態とし、下電極部30を高電位とし、右電極部40および左電極部50を低電位として、透明導電膜10に通電してもよい。これにより、
図6の矢印Iに示したように、透明導電膜10のうち車両下側のコーナー部に電流が多く流れる。そのため、第2モードにより、ウィンドシールド2のうち窓曇りが最も発生しやすい車両下側のコーナー部を主に加熱することが可能である。
【0035】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第2モードにおいて、上電極部20を非通電状態とし、下電極部30を低電位とし、右電極部40および左電極部50を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図6に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0036】
ヒータ装置1は、第2モードを実行することにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱し、窓曇りを防ぐことができる。
【0037】
以上説明した第1実施形態のヒータ装置1は、次の作用効果を奏するものである。
(1)第1実施形態のヒータ装置1は、第1モードにおいて、
図3および
図4に示したように、上電極部20および下電極部30の一方を高電位とし他方を低電位とするか、或いは、右電極部40および左電極部50の一方を高電位とし他方を低電位とする。ヒータ装置1は、第1モードにより、ウィンドシールド2の全体を加熱し、ウィンドシールド2の全体の窓曇りの除去または冬季のデアイスを行うことが可能である。
【0038】
また、ヒータ装置1は、第2モードにおいて、
図5および
図6に示したように、上電極部20および下電極部30の少なくとも一方を高電位とし、右電極部40および左電極部50の少なくとも一方を低電位とする。或いは、ヒータ装置1は、第2モードにおいて、上電極部20および下電極部30の少なくとも一方を低電位とし、右電極部40および左電極部50の少なくとも一方を高電位とする。ヒータ装置1は、第2モードにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱し、窓曇りを防ぐことが可能である。そのため、ヒータ装置1は、窓曇りを防ぐ際に第2モードを使用し、消費電力を低減することができる。
【0039】
(2)また、
図1に示したように、第1実施形態のヒータ装置1が搭載される車両には車室内の空調を行う空調装置70も同時に搭載されている。その空調装置70は、主に冬季において、窓曇りを防ぐために外気導入および除湿運転を行うことが可能である。そのような車両において、ヒータ装置1を第2モードで動作させてウィンドシールド2の窓曇りの発生を防ぐことで、空調装置70において車室内空気の循環率を増加し、外気の導入量を少なくすることが可能となる。そのため、このヒータ装置1は、空調装置70による外気の加熱に消費される電力および除湿運転に消費される電力を低減できる。
【0040】
(3)さらに、第1実施形態のヒータ装置1によりウィンドシールド2の窓曇りを防ぐことで、空調装置70においてデフロスタ吹出口71からの送風量を少なくするか、或いは、デフロスタ吹出口71からの送風を停止することが可能となる。なお、
図1では、デフロスタ吹出口71から吹き出される風を破線Fで示している。デフロスタ吹出口71から温風を吹き出した場合、車室内上方の空気が温められることがある。また、デフロスタ吹出口71から吹き出された風の一部が乗員の顔に当たると、乗員が煩わしさを感じることもある。それに対し、第1実施形態では、デフロスタ吹出口71からの送風量を少なくするか、或いは停止することで、車室内上方の空気の温度上昇が抑制されるので、乗員の頭寒足熱などによる車室内の快適性を向上することができる。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して電極部の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
図7に示すように、第2実施形態では、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50がそれぞれ3個の分割電極によって構成されている。複数の分割電極は、ウィンドシールド2のうち当該電極部が配置された部位の外縁部が延びる方向に並ぶように設けられている。なお、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する複数の分割電極の数は、3個に限るものでなく、2個または4個以上としてもよい。また、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50は、少なくとも1つの電極部が複数の分割電極で構成されていてもよい。
【0043】
以下の説明では、上電極部20を構成する3個の分割電極を、車両右側から順に、上第1電極21、上第2電極22、上第3電極23という。下電極部30を構成する3個の分割電極を、車両右側から順に、下第1電極31、下第2電極32、下第3電極33という。右電極部40を構成する3個の分割電極を、車両上側から順に、右第1電極41、右第2電極42、右第3電極43という。左電極部50を構成する3個の分割電極を、車両上側から順に、左第1電極51、左第2電極52、左第3電極53という。
【0044】
上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する分割電極はそれぞれ、制御装置60による通電制御により、高電位、低電位または非通電状態に切り替えられる。制御装置60は、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する複数の分割電極に対して同時に通電するモードと、複数の分割電極の一部に対して通電するモードを実行することが可能である。
【0045】
以下、第2実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードについて、
図8~
図12を参照して説明する。
【0046】
まず、複数の通電モードのうち第1モードについて説明する。第2実施形態の第1モードは、上電極部20と下電極部30を構成する複数の分割電極に対して同時に通電するモードである。第2実施形態の第1モードも、第1実施形態で説明した第1モードと同じく、ウィンドシールド2の全体を加熱するモードである。
図8は、第1モードの一例を示している。第1モードにおいて、制御装置60は、上電極部20を構成する全ての分割電極を高電位とし、下電極部30を構成する全ての分割電極を低電位として、透明導電膜10に通電する。
図8の矢印Iに示したように、第1モードでは、透明導電膜10の全体に略均一に電流が流れる。そのため、第1モードにより、ウィンドシールド2の全体を加熱することが可能である。
【0047】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第1モードにおいて、上電極部20を構成する全ての分割電極を低電位とし、下電極部30を構成する全ての分割電極を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図8に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0048】
また、
図9は、第2実施形態の第1モードの別の例を示している。
図9に示すように、制御装置60は、第1モードにおいて、右電極部40を構成する全ての分割電極を高電位とし、左電極部50を構成する全ての分割電極を低電位として、透明導電膜10に通電してもよい。これによっても、透明導電膜10の全体に略均一に電流が流れる。
【0049】
なお、図示は省略するが、制御装置60は、第1モードにおいて、右電極部40を構成する全ての分割電極を低電位とし、左電極部50を構成する全ての分割電極を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図9に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0050】
ヒータ装置1は、第1モードを実行することにより、ウィンドシールド2の全体を加熱し、ウィンドシールド2の全体の窓曇りの除去または冬季のデアイスを行うことができる。
【0051】
次に、第2実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードのうち第3モードについて説明する。第2実施形態の第3モードは、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50構成する複数の分割電極の一部に対して通電するモードである。第2実施形態の第3モードは、第1実施形態で説明した第2モードの変形例であり、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱するモードである。
図10は、第3モードの一例を示している。
図10に示すように、第3モードにおいて、制御装置60は、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する分割電極のうちウィンドシールド2の角部を挟んで隣接して配置されているものの一方を高電位とし、他方を低電位とする。具体的に、
図10では、制御装置60は、上第1電極21、上第3電極23、下第1電極31および下第3電極33を高電位とし、右第1電極41、右第3電極43、左第1電極51および左第3電極53を低電位として、透明導電膜10に通電する。なお、制御装置60は、それ以外の分割電極を非通電状態とする。これにより、
図10の矢印Iに示したように、第3モードでは、透明導電膜10のうちコーナー部に電流が多く流れる。これは、透明導電膜10を介して分割電極同士間の距離が近いほど、その間の電気抵抗が小さくなり、電流が流れやすくなるからである。そのため、第3モードにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱することが可能である。
【0052】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第3モードにおいて、上第1電極21、上第3電極23、下第1電極31および下第3電極33を低電位とし、右第1電極41、右第3電極43、左第1電極51および左第3電極53を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図10に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0053】
また、
図11は、第2実施形態の第3モードの別の例を示している。
図11に示すように、制御装置60は、第3モードにおいて、下第1電極31および下第3電極33を高電位とし、右第3電極43および左第3電極53を低電位として、透明導電膜10に通電してもよい。なお、制御装置60は、それ以外の分割電極を非通電状態とする。これにより、
図11の矢印Iに示したように、透明導電膜10のうち車両下側のコーナー部に電流が多く流れる。そのため、第3モードにより、ウィンドシールド2のうち窓曇りが最も発生しやすい車両下側のコーナー部を主に加熱することが可能である。
【0054】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第2実施形態の第3モードにおいて、下第1電極31および下第3電極33を低電位とし、右第3電極43および左第3電極53を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図11に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0055】
ヒータ装置1は、第3モードを実行することにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱し、窓曇りを防ぐことができる。
【0056】
次に、第2実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードのうち第4モードについて説明する。第2実施形態の第4モードは、運転者のアイポイント(すなわち、運転者の目の高さの位置)に対して視野を確保するために有効な領域であるウィンドシールド2のうち車両下側の領域を加熱するモードである。
図12は、第4モードの一例を示している。
図12に示すように、第4モードにおいて、制御装置60は、右第3電極43を高電位とし、左第3電極53を低電位として、透明導電膜10に通電する。なお、制御装置60は、それ以外の分割電極を非通電状態とする。これにより、
図12の矢印Iに示したように、第4モードでは、透明導電膜10のうち車両下側の領域に電流が多く流れる。そのため、第4モードにより、ウィンドシールド2のうち車両下側の領域を主に加熱することが可能である。
【0057】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第4モードにおいて、右第3電極43を低電位とし、左第3電極53を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図12に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0058】
以上説明した第2実施形態のヒータ装置1は、次の作用効果を奏するものである。
(1)第2実施形態のヒータ装置1は、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50がそれぞれ複数の分割電極によって構成されている。そして、制御装置60は、複数の分割電極に対して同時に通電するモードと、複数の分割電極の一部に対して通電するモードを実行することが可能である。これによれば、ウィンドシールド2のうち加熱が必要な部位のみを加熱することが可能となり、消費電力をより低減できる。
【0059】
(2)第2実施形態のヒータ装置1は、第3モードにおいて、
図10および
図11に示したように、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する分割電極のうちウィンドシールド2の角部を挟んで隣接して配置されているものの一方を高電位とし、他方を低電位とする。これによれば、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を構成する分割電極のうち、ウィンドシールド2のコーナー部の窓曇りを防ぐために必要な分割電極のみに通電することで、消費電力を低減することができる。
【0060】
(3)第2実施形態のヒータ装置1は、第4モードにおいて、
図12に示したように、右電極部40および左電極部50をそれぞれ構成する分割電極のうち車両下側に配置されているもの同士の一方を高電位とし、他方を低電位とする。これによれば、運転者のアイポイントに対して視野を確保するために有効な領域であるウィンドシールド2のうち車両下側の領域の窓曇りを防ぐことができる。
【0061】
なお、第2実施形態のヒータ装置1においても、上記第1実施形態と同様の構成から、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、第2実施形態のヒータ装置1においても、第1実施形態で説明した第1モードおよび第2モードを実施可能である。
【0062】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第1実施形態等に対し、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0063】
図13に示すように、第3実施形態では、透明導電膜10を構成する導電性物質12は、車両上下方向および車両左右方向に対して斜めとなる方向に配向が揃っている。
図13では、導電性物質12の配向が揃っている方向を、複数本の破線が延びている向きにより示している。なお、このことは、後述する第3実施形態の変形例1、2で参照する
図16および
図17でも同じである。
【0064】
具体的に、
図13では、導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の右上側から左下側(または、左下側から右上側)に傾斜するように揃っている。これにより、透明導電膜10において導電性物質12の配向が揃っている方向(以下、「配向方向」という)の電気抵抗値を効果的に下げることが可能である。導電性物質12の配向方向の電気抵抗値を下げることで、その導電性物質12の配向方向の電流量が増加し、それに伴って発熱量も増加する。したがって、
図13に示した形態では、ウィンドシールド2の右下コーナー部および左上コーナー部の発熱量を高めることができる。
【0065】
なお、図示は省略するが、導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の左上側から右下側(または、右下側から左上側)に傾斜するように揃えてもよい。そのような形態では、ウィンドシールド2の左下コーナー部および右上コーナー部の発熱量を高めることができる。
【0066】
以上説明した第3実施形態では、透明導電膜10を構成する導電性物質12は、車両上下方向および左右方向に対して斜めとなる方向に配向が揃っている。そのため、第3実施形態のヒータ装置1は、透明導電膜10のうちウィンドシールド2のコーナー部の電気抵抗を小さくし、発熱量を高めることで、ウィンドシールド2のコーナー部の窓曇りを防ぐ効果を高めることができる。
【0067】
なお、本明細書において、「配向が揃っている」とは、導電性物質12の配向度が15%以上をいい、より好ましくは24%以上をいう。これにより、透明導電膜10の電気抵抗を下げ、ウィンドシールド2のコーナー部の窓曇りを防ぐ効果を高めることができる。
【0068】
ここで、導電性物質12の配向度の算出方法について、
図14を参照しつつ説明する。
導電性物質12の配向度を算出するには、走査電子顕微鏡を用いて透明導電膜10を観察し、画像解析を行う。
図14の上側の図では、導電性物質12の一例としてCNT(カーボンナノチューブ)を模式的に示している。具体的には、走査電子顕微鏡により得られた画像を2値化し、フーリエ変換することで、
図14の下側に示すようなパワースペクトルのグラフをつくる。そして、そのグラフの半値幅Wを用いて下記の(式1)から配向度を算出する。
【数1】
【0069】
次に、透明導電膜10を構成する導電性物質12の一例としてのCNTの配向度と、透明導電膜10の電気抵抗減少率との関係について、
図15を参照しつつ説明する。
図15は、発明者らが行った実験の結果を示すグラフである。
【0070】
図15に示すように、配向度を約7%(すなわち完全ランダム、無配向)から約24%に高めることで、透明導電膜10の抵抗減少率が20%以上となることがわかる。したがって、透明導電膜10は、導電性物質12の配向度を高めることで、電気抵抗値を下げることが可能である。
【0071】
(第3実施形態の変形例1)
第3実施形態の変形例1ついて説明する。この変形例1は、第3実施形態に対し、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向を変更したものである。
【0072】
図16に示すように、第3実施形態の変形例1では、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の中央より右半分の領域と、左半分の領域とで異なっている。具体的に、導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の中央より右半分の領域において、ウィンドシールド2の右上側から左下側(または、左下側から右上側)に傾斜するように揃っている。また、導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の中央より左半分の領域において、ウィンドシールド2の左上側から右下側(または、右下側から左上側)に傾斜するように揃っている。これにより、第3実施形態の変形例1では、ウィンドシールド2の右下コーナー部および左下コーナー部の窓曇りを防ぐ効果を高めることができる。
【0073】
(第3実施形態の変形例2)
第3実施形態の変形例2ついて説明する。この変形例2も、第3実施形態に対し、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向を変更したものである。
【0074】
図17に示すように、第3実施形態の変形例2では、透明導電膜10を構成する導電性物質12は、ウィンドシールド2の4つのコーナー部と中央領域とでそれぞれ配向が異なっている。具体的に、導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の中央領域において、車両上下方向に平行となっている。
【0075】
また、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向は、ウィンドシールド2の各コーナー部において、ウィンドシールド2の角部を挟んで隣接して配置されている一方の分割電極と他方の分割電極とを結ぶ方向に配向が揃っている。詳細には、ウィンドシールド2の右上コーナー部に配置された導電性物質12は、上第1電極21と右第1電極41とを結ぶ方向に配向が揃っている。ウィンドシールド2の左上コーナー部に配置された導電性物質12は、上第3電極23と左第1電極51とを結ぶ方向に配向が揃っている。ウィンドシールド2の右下コーナー部に配置された導電性物質12は、下第1電極31と右第3電極43とを結ぶ方向に配向が揃っている。ウィンドシールド2の左下コーナー部に配置された導電性物質12は、下第3電極33と左第3電極53とを結ぶ方向に配向が揃っている。これにより、第3実施形態の変形例2では、ウィンドシールド2の4つのコーナー部の窓曇りを防ぐ効果を高めることができる。
【0076】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。第4実施形態は、第1実施形態等に対して電極部の構成の一部を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0077】
図18に示すように、第4実施形態のヒータ装置1が備える電極部は、ウィンドシールド2のうち車両右側、左側および下側の3方に設けられている。具体的に、第4実施形態のヒータ装置1は、透明導電膜10、下電極部30、右電極部40、左電極部50、および制御装置60などを備えており、上電極部20を備えていない。制御装置60は、下電極部30、右電極部40および左電極部50を、高電位、低電位または非通電状態として、透明導電膜10に通電する複数の通電モードを実行可能に構成されている。
【0078】
以下、第4実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードについて、
図19および
図20を参照して説明する。
【0079】
まず、第4実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードのうち第1モードについて説明する。第1モードは、ウィンドシールド2の全体を加熱するモードである。
図19に示すように、制御装置60は、第1モードにおいて、右電極部40を高電位とし、左電極部50を低電位として、透明導電膜10に通電する。
図19の矢印Iに示したように、第1モードでは、透明導電膜10の全体に略均一に電流が流れる。そのため、第1モードにより、ウィンドシールド2の全体を加熱することが可能である。
【0080】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第1モードにおいて、右電極部40を低電位とし、左電極部50を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図19に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0081】
ヒータ装置1は、第1モードを実行することにより、ウィンドシールド2の全体を加熱し、ウィンドシールド2の全体の窓曇りの除去または冬季のデアイスを行うことができる。
【0082】
次に、第4実施形態の制御装置60が実行する複数の通電モードのうち第2モードについて説明する。第2モードは、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱するモードである。
図20に示すように、制御装置60は、第2モードにおいて、下電極部30を高電位とし、右電極部40および左電極部50を低電位として、透明導電膜10に通電する。これにより、
図20の矢印Iに示したように、第2モードでは、透明導電膜10のうちコーナー部に電流が多く流れる。これは、透明導電膜10を介して電極部同士間の距離が近いほど、その間の電気抵抗が小さくなり、電流が流れやすくなるからである。そのため、第2モードにより、ウィンドシールド2のうち窓曇りが最も発生しやすい車両下側のコーナー部を主に加熱することが可能である。
【0083】
なお、図示は省略するが、制御装置60は第2モードにおいて、下電極部30を低電位とし、右電極部40および左電極部50を高電位として、透明導電膜10に通電してもよい。その場合、
図20に示した矢印Iの向きとは反対向きに電流が流れることになる。
【0084】
ヒータ装置1は、第2モードを実行することにより、窓曇りの発生しやすいウィンドシールド2のコーナー部を主に加熱し、窓曇りを防ぐことができる。
【0085】
以上説明した第4実施形態のヒータ装置1においても、上記第1実施形態と同様の構成から、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0086】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、ヒータ装置は、車両のフロントウィンドシールドに設けられるものとして説明したが、これに限らず、例えばサイドウィンドシールドまたはリヤウィンドシールドなどに設けてもよい。なお、ヒータ装置をサイドウィンドシールドに設ける場合、特許請求の範囲に記載の第3電極部は、具体的に、「サイドウィンドシールドの外縁部において車両前側の部位に配置される前電極部」に相当する。また、第4電極部は、具体的に、「サイドウィンドシールドの外縁部において車両後側の部位に配置される後電極部」に相当する。
【0087】
(2)上記第2実施形態では、ヒータ装置1は、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50の全てが分割電極で構成されるものとして説明したが、これに限らず、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50の少なくとも1つを分割電極で構成してもよい。
【0088】
(3)上記第3実施形態の変形例1、2では、透明導電膜10を構成する導電性物質12の配向を揃える領域を2~5個の領域に分けたが、それに限らず、その領域の数は、任意に設定することが可能である。
【0089】
(4)上記第1~第3実施形態では、ヒータ装置1は、電極部として、上電極部20、下電極部30、右電極部40および左電極部50を備えるものとして説明したが、それに限らず、ウィンドシールド2の形状によっては、それ以外の電極部を含んでいてもよい。
【0090】
(5)第4実施形態のヒータ装置1においても、下電極部30、右電極部40および左電極部50の少なくとも1つを分割電極で構成してもよい。
【0091】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
1 ヒータ装置
2 ウィンドシールド
10 透明導電膜
11 透明基材
12 導電性物質
20 上電極部
30 下電極部
40 右電極部
50 左電極部
60 制御装置