(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185293
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】監視システムおよびこれを備えた作業機械、監視方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/93 20200101AFI20221207BHJP
B66C 13/00 20060101ALI20221207BHJP
H04N 7/18 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01S17/93
B66C13/00 D
H04N7/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092872
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】三浦 純
(72)【発明者】
【氏名】川崎 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】臼本 翔汰
(72)【発明者】
【氏名】田中 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 和之
(72)【発明者】
【氏名】黒津 仁史
【テーマコード(参考)】
5C054
5J084
【Fターム(参考)】
5C054CA04
5C054CC02
5C054FC12
5C054HA30
5J084AA01
5J084AA04
5J084AA05
5J084AB07
5J084AB17
5J084AC02
5J084BA03
5J084BA16
5J084BA49
5J084BB26
5J084CA65
5J084EA04
5J084EA22
5J084EA29
(57)【要約】
【課題】他の物体が監視対象物に近づくことを精度良く監視することが可能な、監視システムおよびこれを備えた作業機械、監視方法を提供する。
【解決手段】監視システム50は、監視領域設定部504と、2次元LIDAR52と、回転台53と、走査条件設定部505と、物体抽出部503と、指令信号入力部506とを備える。走査条件設定部505は、監視領域の一端部からマージン領域MAに進入した物体が危険領域DAに到達するまでの間に、物体が2次元LIDAR52のスキャン平面SPに含まれるように、マージン領域MAの幅と、回転台53によるスキャン平面SPの移動速度とをそれぞれ設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が監視対象物に相対的に接近することを監視する監視システムであって、
前記監視対象物に応じて当該監視対象物を包含するように配置されるメイン監視領域と所定の幅を有し前記メイン監視領域を囲むように配置されるサブ監視領域とを含む監視領域を設定する監視領域設定部であって、前記幅に関連する信号である幅指令信号を受け付け当該幅指令信号に応じて前記サブ監視領域の幅を調整する監視領域設定部と、
平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点を基準として、予め設定されたセンシング範囲内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能な距離センサと、
前記基準点から見た前記監視領域の一端部と当該一端部とは反対側の他端部との間で前記距離センサの前記センシング範囲が前記監視領域を走査するように前記センシング範囲を往復移動させることが可能な走査部であって、前記センシング範囲の移動速度に関連する信号である速度指令信号を受け付け当該速度指令信号に応じて前記移動速度を調整する走査部と、
前記監視領域の前記一端部から前記サブ監視領域に進入した前記物体が前記メイン監視領域に到達するまでの間に、少なくとも前記物体の一部が前記センシング範囲に含まれるように、前記サブ監視領域の前記幅と、前記走査部による前記センシング範囲の移動速度とをそれぞれ設定するとともに、設定した前記幅および前記移動速度に応じて前記監視領域設定部および前記走査部に前記幅指令信号および前記速度指令信号をそれぞれ入力する走査条件設定部と、
前記走査部が前記センシング範囲を前記移動速度で移動させることに伴って前記距離センサが取得した前記距離情報から前記物体を抽出する物体抽出部と、
前記物体抽出部が前記物体を抽出することに伴って警告指令信号を出力する出力部と、
を備える、監視システム。
【請求項2】
前記監視領域設定部は、前記メイン監視領域を前記監視対象物と交差する鉛直線を中心線とする円柱形状に設定するとともに、前記サブ監視領域を前記メイン監視領域と同心状で前記メイン監視領域を囲む円筒形状となるように設定し、
前記距離センサの前記センシング範囲は、前記基準点を含み上下方向に延びる平面からなり、
前記走査部は、平面視において前記センシング範囲の軌跡が前記基準点を中心とする扇形形状となるように前記センシング範囲を往復移動させる、請求項1に記載の監視システム。
【請求項3】
前記走査部が前記基準点を中心に前記平面を移動させる速度である角速度をωs、前記距離センサが前記距離情報を取得する周波数であるスキャン周波数をf、前記基準点から見た前記物体の幅をt、前記物体が前記サブ監視領域に近づく速度をvp、平面視における前記基準点から前記監視対象物までの距離をLd、前記基準点と前記監視対象物とを結ぶ直線と前記基準点を通り前記メイン監視領域の外周縁に接する接線とが平面視でなす角度をθrとすると、
前記走査条件設定部は、
ωs<(f×t-vp)/(Ld×cosθr)
を満たすように、前記角速度ωsを設定する、請求項2に記載の監視システム。
【請求項4】
前記基準点から見た前記物体の前記監視対象物に対する相対的な角速度をωp、前記中心線を中心とする半径方向における前記サブ監視領域の幅をLmとすると、
前記走査条件設定部は、
ωs>3ωp、かつ、
Lm=(4×vp×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3vp)
を満たすように、前記角速度ωsおよび前記サブ監視領域の幅Lmを設定する、請求項3に記載の監視システム。
【請求項5】
機体と、
前記機体に起伏方向に回動可能に支持された基端部と前記基端部とは反対の先端部とを含む起伏体と、
前記起伏体の前記先端部から垂下され吊り荷に接続されるロープと、
物体が監視対象物としての前記吊り荷に相対的に接近することを監視する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の監視システムと、
を備える、作業機械。
【請求項6】
下部走行体と、
前記下部走行体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部旋回体と、
前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持された基端部と前記基端部とは反対の先端部とを含む起伏体と、
前記起伏体の前記先端部から垂下され吊り荷に接続されるロープと、
物体が監視対象物としての前記吊り荷に相対的に接近することを監視する、請求項2に記載の監視システムと、
を備え、
前記距離センサの前記基準点は、前記起伏体上に設定されており、
前記走査部が前記基準点を中心に前記平面を移動させる速度である角速度をωs、前記距離センサが前記距離情報を取得する周波数であるスキャン周波数をf、前記基準点から見た前記物体の幅をt、前記上部旋回体の旋回動作における旋回角速度をωb、前記起伏体の長さをLb、平面視における前記基準点から前記監視対象物までの距離をLd、前記基準点と前記監視対象物とを結ぶ直線と前記基準点を通り前記メイン監視領域の外周縁に接する接線とが平面視でなす角度をθrとすると、
前記走査条件設定部は、
ωs<(f×t-ωb×Lb)/(Ld×cosθr)
を満たすように、前記角速度ωsを設定する、作業機械。
【請求項7】
前記中心線を中心とする半径方向における前記サブ監視領域の幅をLm、少なくとも前記上部旋回体の旋回動作に伴う前記物体に対する前記吊り荷の相対速度をvbとすると、
前記走査条件設定部は、
ωs>3vb/(Ld×cosθr)、かつ、
Lm=(4×ωb×Lb×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3ωb×Lb)
を満たすように、前記角速度ωsおよび前記サブ監視領域の幅Lmを設定する、請求項6に記載の作業機械。
【請求項8】
物体が監視対象物に相対的に接近することを監視する監視方法であって、
前記監視対象物に応じて当該監視対象物を包含するように配置されるメイン監視領域と所定の幅を有し前記メイン監視領域を囲むように配置されるサブ監視領域とを含む監視領域を設定することと、
平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点を基準として予め設定されたセンシング範囲内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能な距離センサと、前記基準点から見た前記監視領域の一端部と当該一端部とは反対側の他端部との間で前記距離センサの前記センシング範囲が前記監視領域を走査するように前記センシング範囲を往復移動させることが可能な走査部とをそれぞれ準備することと、
前記監視領域の前記一端部から前記サブ監視領域に進入した前記物体が前記メイン監視領域に到達するまでの間に、前記物体が前記センシング範囲に含まれるように、前記サブ監視領域の前記幅と、前記走査部による前記センシング範囲の移動速度とをそれぞれ設定することと、
前記走査部によって前記センシング範囲を前記移動速度で移動させ、前記距離センサが取得した前記距離情報から前記物体を抽出することと、
前記物体を抽出することに伴って警告指令信号を出力することと、
を備える、監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視システムおよびこれを備えた作業機械、監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業現場における作業者等の安全を確保するための監視システムが知られている。特許文献1には、製鉄所内の作業現場に設置される監視システムが開示されている。当該作業現場では、高炉から溶鉄が溶鉄鍋に取り出されると、当該溶鉄鍋が移動しながら前記溶鉄を転炉に運ぶ。監視システムは、作業現場の一部に設置されたライダー(Lidar:Light Detection And Ranging)を有する。ライダーは、監視対象である溶鉄鍋を含む空間に向けてレーザー光を走査してその反射光によって、前記空間内に存在する物体までの距離を計測する。得られた距離値の分布は点群データと称され、当該点群データに基づいてライダーの設置位置から物体までの距離および物体の大きさや形が識別される。前記空間内に新たに検出される物体があると、作業者が溶鉄鍋に接近している可能性があるものとして、警告が発せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、ライダーがレーザー光を走査する速度と作業者が監視対象に近づく速度との組み合わせによっては、ライダーが作業者を検出できないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、他の物体が監視対象物に近づくことを精度良く監視することが可能な、監視システムおよびこれを備えた作業機械、監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるのは、物体が監視対象物に相対的に接近することを監視する監視システムである。当該監視システムは、監視領域設定部と、距離センサと、走査部と、走査条件設定部と、物体抽出部と、出力部とを備える。前記監視領域設定部は、前記監視対象物に応じて当該監視対象物を包含するように配置されるメイン監視領域と所定の幅を有し前記メイン監視領域を囲むように配置されるサブ監視領域とを含む監視領域を設定する監視領域設定部であって、前記幅に関連する信号である幅指令信号を受け付け当該幅指令信号に応じて前記サブ監視領域の幅を調整する。前記距離センサは、平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点を基準として、予め設定されたセンシング範囲内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能である。前記走査部は、前記基準点から見た前記監視領域の一端部と当該一端部とは反対側の他端部との間で前記距離センサの前記センシング範囲が前記監視領域を走査するように前記センシング範囲を往復移動させることが可能であり、前記センシング範囲の移動速度に関連する信号である速度指令信号を受け付け当該速度指令信号に応じて前記移動速度を調整する。前記走査条件設定部は、前記監視領域の前記一端部から前記サブ監視領域に進入した前記物体が前記メイン監視領域に到達するまでの間に、少なくとも前記物体の一部が前記センシング範囲に含まれるように、前記サブ監視領域の前記幅と、前記走査部による前記センシング範囲の移動速度とをそれぞれ設定するとともに、設定した前記幅および前記移動速度に応じて前記監視領域設定部および前記走査部に前記幅指令信号および前記速度指令信号をそれぞれ入力する。前記物体抽出部は、前記走査部が前記センシング範囲を前記移動速度で移動させることに伴って前記距離センサが取得した前記距離情報から前記物体を抽出する。前記出力部は、前記物体抽出部が前記物体を抽出することに伴って警告指令信号を出力する。
【0007】
本構成によれば、監視領域設定部が、監視対象物に対応するメイン監視領域に加え、当該メイン監視領域を囲むようにサブ監視領域を設定し、走査条件設定部が所定の条件を満たすように、サブ監視領域の幅と、走査部によるセンシング範囲の移動速度とをそれぞれ設定する。前記条件は、監視領域の一端部からサブ監視領域に進入した物体がメイン監視領域に到達するまでの間に物体の一部がセンシング範囲に含まれるように設定されている。この結果、物体がメイン監視領域に到達する前に当該物体を距離センサによって検出する確率を高め、他の物体が監視対象物に近づくことを精度良く監視することが可能となる。
【0008】
上記の構成において、前記監視領域設定部は、前記メイン監視領域を前記監視対象物と交差する鉛直線を中心線とする円柱形状に設定するとともに、前記サブ監視領域を前記メイン監視領域と同心状で前記メイン監視領域を囲む円筒形状となるように設定し、前記距離センサの前記センシング範囲は、前記基準点を含み上下方向に延びる平面からなり、前記走査部は、平面視において前記センシング範囲の軌跡が前記基準点を中心とする扇形形状となるように前記センシング範囲を往復移動させることが望ましい。
【0009】
本構成によれば、監視領域設定部がメイン監視領域およびサブ監視領域を円筒形状に設定し、走査部がセンシング範囲を扇形状に往復移動させることで、監視領域内を容易に走査することが可能となる。また、走査部に対して汎用的な回転系の駆動機構を用いることができる。
【0010】
上記の構成において、前記走査部が前記基準点を中心に前記平面を移動させる速度である角速度をωs、前記距離センサが前記距離情報を取得する周波数であるスキャン周波数をf、前記基準点から見た前記物体の幅をt、前記物体が前記サブ監視領域に近づく速度をvp、平面視における前記基準点から前記監視対象物までの距離をLd、前記基準点と前記監視対象物とを結ぶ直線と前記基準点を通り前記メイン監視領域の外周縁に接する接線とが平面視でなす角度をθrとすると、前記走査条件設定部は、ωs<(f×t-vp)/(Ld×cosθr)を満たすように、前記角速度ωsを設定することが望ましい。
【0011】
本構成によれば、距離センサが取得する距離情報の中に、移動する物体をより高い確率で含め、物体抽出部が前記物体を抽出することができる。
【0012】
上記の構成において、前記基準点から見た前記物体の前記監視対象物に対する相対的な角速度をωp、前記中心線を中心とする半径方向における前記サブ監視領域の幅をLmとすると、前記走査条件設定部は、ωs>3ωp、かつ、Lm=(4×vp×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3vp)を満たすように、前記角速度ωsおよび前記サブ監視領域の幅Lmを設定することが望ましい。
【0013】
本構成によれば、移動する物体が距離センサの走査をすり抜けてメイン監視領域に到達することを、より高い確率で防ぐことができる。
【0014】
また、本発明によって提供されるのは作業機械であって、当該作業機械は、機体と、前記機体に起伏方向に回動可能に支持された基端部と前記基端部とは反対の先端部とを含む起伏体と、前記起伏体の前記先端部から垂下され吊り荷に接続されるロープと、物体が監視対象物としての前記吊り荷に相対的に接近することを監視する、上記の何れかに記載の監視システムと、を備える。
【0015】
本構成によれば、作業機械において、物体がメイン監視領域に到達する前に当該物体を距離センサによって検出する確率を高め、他の物体が吊り荷に近づくことを精度良く監視することが可能となる。
【0016】
また、本発明によって提供される他の作業機械は、下部走行体と、前記下部走行体に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に起伏方向に回動可能に支持された基端部と前記基端部とは反対の先端部とを含む起伏体と、前記起伏体の前記先端部から垂下され吊り荷に接続されるロープと、物体が監視対象物としての前記吊り荷に相対的に接近することを監視する、上記に記載の監視システムと、を備える。前記距離センサの前記基準点は、前記起伏体上に設定されている。前記走査部が前記基準点を中心に前記平面を移動させる速度である角速度をωs、前記距離センサが前記距離情報を取得する周波数であるスキャン周波数をf、前記基準点から見た前記物体の幅をt、前記上部旋回体の旋回動作における旋回角速度をωb、前記起伏体の長さをLb、平面視における前記基準点から前記監視対象物までの距離をLd、前記基準点と前記監視対象物とを結ぶ直線と前記基準点を通り前記メイン監視領域の外周縁に接する接線とが平面視でなす角度をθrとすると、前記走査条件設定部は、ωs<(f×t-ωb×Lb)/(Ld×cosθr)を満たすように、前記角速度ωsを設定する。
【0017】
本構成によれば、作業機械における上部旋回体の旋回動作に伴って、物体がメイン監視領域に到達する前に当該物体を距離センサによって検出する確率を高め、他の物体が吊り荷に近づくことを精度良く監視することが可能となる。特に、距離センサが取得する距離情報の中に、吊り荷に近づく物体をより高い確率で含め、物体抽出部が前記物体を抽出することができる。
【0018】
上記の構成において、前記中心線を中心とする半径方向における前記サブ監視領域の幅をLm、少なくとも前記上部旋回体の旋回動作に伴う前記物体に対する前記吊り荷の相対速度をvbとすると、前記走査条件設定部は、ωs>3vb/(Ld×cosθr)、かつ、Lm=(4×ωb×Lb×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3ωb×Lb)を満たすように、前記角速度ωsおよび前記サブ監視領域の幅Lmを設定することが望ましい。
【0019】
本構成によれば、上部旋回体の旋回動作に伴って物体が距離センサの走査をすり抜けてメイン監視領域に到達することを、より高い確率で防ぐことができる。
【0020】
更に、本発明によって提供されるのは、物体が監視対象物に相対的に接近することを監視する監視方法である。当該監視方法は、前記監視対象物に応じて当該監視対象物を包含するように配置されるメイン監視領域と所定の幅を有し前記メイン監視領域を囲むように配置されるサブ監視領域とを含む監視領域を設定することと、平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点を基準として予め設定されたセンシング範囲内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能な距離センサと、前記基準点から見た前記監視領域の一端部と当該一端部とは反対側の他端部との間で前記距離センサの前記センシング範囲が前記監視領域を走査するように前記センシング範囲を往復移動させることが可能な走査部とをそれぞれ準備することと、前記監視領域の前記一端部から前記サブ監視領域に進入した前記物体が前記メイン監視領域に到達するまでの間に、前記物体が前記センシング範囲に含まれるように、前記サブ監視領域の前記幅と、前記走査部による前記センシング範囲の移動速度とをそれぞれ設定することと、前記走査部によって前記センシング範囲を前記移動速度で移動させ、前記距離センサが取得した前記距離情報から前記物体を抽出することと、前記物体を抽出することに伴って警告指令信号を出力することと、を備える。
【0021】
本方法によれば、物体がメイン監視領域に到達する前に当該物体を距離センサによって検出する確率を高め、他の物体が監視対象物に近づくことを精度良く監視することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、他の物体が監視対象物に近づくことを精度良く監視することが可能な、監視システムおよびこれを備えた作業機械、監視方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る監視システムを備えた作業機械のブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る監視システムのセンシング装置の斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る監視システムのメイン監視領域およびサブ監視領域を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る監視システムのパラメータを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る監視システム50を備えたクレーン100(作業機械)の側面図である。なお、
図1には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るクレーン100の構造を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの使用態様などを限定するものではない。
【0025】
クレーン100は、地面上で走行可能な下部走行体1と、下部走行体1の上方に配置される上部旋回体2(機体)と、起伏体としてのブーム3とを備える。上部旋回体2は、上下方向に延びる旋回中心軸CL回りに旋回可能なように下部走行体1に搭載されている。上部旋回体2は、基台としての旋回フレーム21(ベース)と、キャブ22と、ガード23と、を備える。キャブ22は、上部旋回体2の前端部に備えられており、クレーンの運転席に相当する。ガード23は、後記のブーム起伏ウインチ10および巻上げドラム15や、不図示のエンジンなどを内部に収容する。
【0026】
ブーム3は、上部旋回体2の旋回フレーム21に起伏方向に回動可能に支持された基端部と前記基端部とは反対の先端部とを含む。ブーム3の回動における中心軸(回動中心軸)は、上部旋回体2の左右方向に延びるように配置されている。ブーム3が旋回フレーム21から延びる方向をブーム3の長手方向という。
【0027】
クレーン100は、ガントリ4と、カウンタウエイト5と、ブームガイライン6と、上部スプレッダ7と、下部スプレッダ8と、ブーム起伏ロープ9と、ブーム起伏ウインチ10と、ブームポイントシーブ11と、アイドラシーブ12と、フック13と、巻上げロープ14と、巻上げドラム15と、を更に備える。
【0028】
ガントリ4は、上部旋回体2の旋回フレーム21の後部に装着されている。詳しくは、ガントリ4は、ブーム3の後方で旋回フレーム21に支持され、ブーム3の起伏動作においてブーム3を支持する支柱として機能する。
【0029】
カウンタウエイト5は、ガントリ4の後方で旋回フレーム21に装着されており、クレーンが吊り荷を吊りあげる際にクレーンのバランスを保つ機能を備えている。
【0030】
上部スプレッダ7および下部スプレッダ8は、それぞれ複数のシーブを含む。また、上部スプレッダ7は、ブームガイライン6によってブーム3の先端部に接続されている。ブーム起伏ロープ9は、ブーム起伏ウインチ10から引き出され、ガントリ4の先端部の不図示のシーブに掛けられた後、下部スプレッダ8と上部スプレッダ7との間で複数回掛け回される。ブーム起伏ウインチ10は、旋回フレーム21の後部に固定されている。なお、引き出されたブーム起伏ロープ9の先端は、ガントリ4に固定される。ブーム起伏ウインチ10は、ブーム起伏ロープ9の巻き取りおよび繰り出しを行うことで、上部スプレッダ7と下部スプレッダ8との間の距離を変化させ、ブーム3をガントリ4に対して相対的に回動させながらブーム3を起伏させる。
【0031】
巻上げドラム15は、旋回フレーム21の中央部に固定されている。また、ブームポイントシーブ11およびアイドラシーブ12は、ブーム3の先端部に回転自在に支持されている。巻上げドラム15から引き出された巻上げロープ14の先端部には、吊荷用のフック13が備え付けられる。すなわち、巻上げロープ14は、ブーム3の前記先端部から垂下され吊り荷に接続される。そして、巻上げロープ14の一端は、ブーム3の先端部のブームポイントシーブ11と、フック13に設けられた不図示のシーブブロックのシーブとの間に掛け回された後、ブーム3の先端部に固定される。一方、巻上げロープ14の他端は、ブームポイントシーブ11、アイドラシーブ12を経由して巻上げドラム15に巻きつけられている。従って、巻上げドラム15が巻上げロープ14の巻き取りや繰り出しを行うと、ブームポイントシーブ11とフック13のシーブとの間の距離が変わって、ブーム3の先端部から垂下されたフック13の巻上げ及び巻下げが行われる。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態に係る監視システム50を備えたクレーン100のブロック図である。本実施形態に係る監視システム50は、フック13によって吊り上げられる吊り荷を監視対象として、当該吊り荷に作業者や障害物(いずれも物体)が接近することを監視し、必要に応じて警告する。
【0033】
クレーン100は、操作部31と、入力部32と、ブーム起伏角検出部33と、旋回駆動部34と、ブーム起伏駆動部35とを更に備える。
【0034】
操作部31は、キャブ22内に配置され、作業者によって操作される。操作部31は、不図示の操作レバー、操作ボタン、操作スイッチなどを含む。操作部31は、クレーン100を動かすための各種の操作を受け付ける。一例として、操作部31は、下部走行体1の走行動作、上部旋回体2の旋回動作、ブーム3の起伏動作、フック13(吊り荷)の巻上げ・巻下げ動作などの操作を受け付ける。
【0035】
入力部32は、操作部31と同様にキャブ22内に配置され、作業者によって操作される。一例として、入力部32は、タッチパネルやテンキーなどを含む。作業者は、入力部32を通じて、監視システム50における指令や各種のパラメータを入力することができる。
【0036】
ブーム起伏角検出部33は、ブーム3の基端部に設けられた角度計であり、ブーム3の起伏角(対地角、地面または水平方向に対するブーム3の中心線(長手方向)の角度)を検出する。ブーム起伏角検出部33によって検出されたブーム3の角度は、監視システム50によって参照される。
【0037】
旋回駆動部34は、操作部31に入力される旋回操作に応じて、上部旋回体2を下部走行体1に対して旋回させる。旋回駆動部34は、前記操作に応じて上部旋回体2の旋回方向および旋回速度を変化させる。旋回駆動部34は、不図示の油圧ポンプ、油圧モータ、パイロットバルブなどを含む油圧回路から構成される。
【0038】
ブーム起伏駆動部35は、操作部31に入力されるブーム起伏操作に応じて、ブーム3を上部旋回体2に対して起伏させる。ブーム起伏駆動部35は、前記操作に応じてブーム3の起伏方向および起伏速度を変化させる。ブーム起伏駆動部35は、旋回駆動部34と同様に油圧回路から構成される。
【0039】
なお、クレーン100は、旋回駆動部34、ブーム起伏駆動部35以外に、下部走行体1を走行させるための走行駆動部、巻上げドラム15を回転させるための巻上げ駆動部を更に備える。これらの駆動部も、旋回駆動部34と同様の油圧回路から構成される。
【0040】
クレーン100は、物体が監視対象物(吊り荷Z)に相対的に接近することを監視する監視システム50を更に備える。クレーン100の作業現場では、建物などの建設にクレーン100が用いられる。クレーン100の操作は、キャブ22内の操縦席に座る作業者(オペレータ)によって行われる。キャブ22内の作業者が吊り荷Zの周囲の障害物に気づかないことや、キャブ22からの視野に死角が存在する場合がある。また、吊り荷Zを移動させるにあたって、作業者が誤って危険なルートを選んでしまう可能性がある。本実施形態に係る監視システム50は、これらの問題を解決するために、クレーン100の周囲の広範囲な領域を認識し、安全な操作を実現する。
【0041】
監視システム50は、センシング装置51と、表示部54と、報知部55と、制御部500とを有する。
図3は、本実施形態に係る監視システム50のセンシング装置51の斜視図である。
図4は、本実施形態に係る監視システム50の危険領域DA(メイン監視領域)およびマージン領域MA(サブ監視領域)を示す斜視図である。
図5は、監視システム50のパラメータを説明するための模式図である。
図6は、
図5の一部を拡大した模式図である。本実施形態では、危険領域DAおよびマージン領域MAを含む領域が監視領域と定義される。
【0042】
センシング装置51は、2次元LIDAR52(距離センサ)および回転台53を有する。2次元LIDAR52は、レーザー光を対象物に照射してその散乱や反射光を観測することで、対象物までの距離を計測する。回転台53は、所定の回転中心軸を有し、2次元LIDAR52を前記回転中心軸回りに回転させることが可能である。2次元LIDAR52は、前記回転中心軸を含むスキャン平面SP(
図4)(センシング範囲)を有する。回転台53が2次元LIDAR52を
図3の矢印のように回転させると、
図4のスキャン平面SPが前記回転中心軸回りに回転することで、3次元の距離情報(3次元点群データ)が取得される。本実施形態では、一例として、2次元LIDAR52として、SICK社製のLD-LRS3611(最大検知距離250m)を用いることができる。このように、最大検知距離が大きい2次元LIDAR52を用いることで、吊り荷Zの周囲の広い範囲の情報を取得することができる。
【0043】
なお、上記の2次元LIDAR52について換言すると、2次元LIDAR52は、平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点RP(
図5参照)を基準として、予め設定されたセンシング範囲(スキャン平面SP)内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能である。本実施形態では、基準点RPは、センシング装置51の2次元LIDAR52に設けられているが、他の実施形態において、基準点RPは2次元LIDAR52とは異なる位置に設けられてもよい。すなわち、本実施形態における2次元LIDAR52の位置に、多面鏡からなる回転ミラーが配置されるとともに、当該回転ミラーから離間した位置に2次元LIDAR52と同様のスキャン光を照射する照射部が備えられてもよい。基準点RPは、回転ミラーに配置される。照射部から照射されたスキャン光は、回転ミラーによって、監視領域に向かって偏向される。この場合、発光部とは異なる位置に、監視領域からのスキャン光を受光する受光部が設けられれば良い。
【0044】
また、回転台53は、基準点RPから見た前記監視領域の一端部(
図5の点A)と当該一端部とは反対側の他端部(
図5の点C)との間で2次元LIDAR52のスキャン平面SPが前記監視領域を走査するように、スキャン平面SPを往復移動させることが可能である。そして、回転台53は、スキャン平面SPの移動速度に関連する信号である速度指令信号を受け付け、当該速度指令信号に応じてスキャン平面SPの移動速度(角速度)を調整する。また、回転台53は、マージン領域MAの大きさ(幅)に応じて、スキャン平面SPが危険領域DAおよびマージン領域MAを漏れなく走査するように、スキャン平面SPの回転角度(基準点RPを通るマージン領域MAの2つ接線間の角度)を調整する。回転台53は、当該回転角度の調整についても、所定の指令信号を受け付ける。
【0045】
なお、本実施形態では、回転台53として、オリオン技研製の1軸回転台を用いることができる。本実施形態では、上記のように、2次元LIDAR52を回転台53によって高速で回転させることで、3次元LIDARよりも計測範囲を広く設定することが可能となるため、大型のクレーン100の周囲の広範囲における情報を取得することができる。
【0046】
なお、2次元LIDAR52は、スキャン平面SPにおいて取得した距離情報(2次元距離情報)を連続的に制御部500に入力する。一方、回転台53は、回転台角度検出部53Sを有する。回転台角度検出部53Sは、所定の基準角度に対する回転台53の回転角度(回転位置)を検出し、当該回転角度に応じた信号を制御部500に入力する。
【0047】
表示部54は、キャブ22内に配置され、作業者が視認可能な各種の情報を表示する。特に、表示部54は、センシング装置51が取得する吊り荷Zの周囲の3次元情報を画像として表示する。
【0048】
報知部55は、キャブ22内に配置され、ブザー音やランプによって、作業者に対して警告情報を報知する。前記警告情報は、クレーン100の周囲の作業者が、危険領域DAまたはマージン領域MAに進入した情報を含む。また、報知部55は、キャブ22の外部や作業現場の一部に設けられてもよい。
【0049】
制御部500は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。また、
図2に示すように、制御部500には、操作部31、入力部32、2次元LIDAR52、ブーム起伏角検出部33、回転台角度検出部53S、旋回駆動部34、ブーム起伏駆動部35、回転台53、表示部54および報知部55が、各種信号の入出力先として接続されている。
【0050】
制御部500は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部501、3D情報取得部502、物体抽出部503、監視領域設定部504、走査条件設定部505、指令信号入力部506(出力部)および記憶部507を備えるように機能する。
【0051】
駆動制御部501は、操作部31が受け付けた操作に応じて、旋回駆動部34、ブーム起伏駆動部35に駆動指令信号を入力する。この結果、旋回駆動部34の駆動力を受けて上部旋回体2が旋回し、ブーム起伏駆動部35の駆動力を受けてブーム3が起伏する。また、駆動制御部501は、走査条件設定部505が設定する走査条件に応じて、回転台53に回転指令信号を入力する。この結果、回転台53の回転速度(角速度)、回転角度(首振り角度)が制御される。この際、回転台角度検出部53Sの出力に応じて、回転台53の回転位置が精度良く制御される。
【0052】
3D情報取得部502は、2次元LIDAR52から入力された2次元情報を時系列かつ連続的にグループ化し、クレーン100の周囲、特に吊り荷Zの周辺の3次元情報を取得する。すなわち、当該3次元情報は、回転台53が2次元LIDAR52のスキャン平面SPを所定の移動速度で移動させることに伴って、2次元LIDAR52が取得した距離情報に基づく情報である。なお、3D情報取得部502は、2次元LIDAR52の一部に含まれるものでもよい。この場合、前記3次元情報は、2次元LIDAR52から制御部500に入力される。
【0053】
物体抽出部503は、3D情報取得部502が取得する3次元情報における時系列の変化から、マージン領域MAまたは危険領域DAに進入した新たな物体(作業者など)を抽出する。たとえば、物体抽出部503は3次元情報を複数の領域に細分化し、各領域の座標(形状)の変化量が予め設定された閾値を超えた場合に、各領域に前記新たな物体が現れたとみなすことができる。
【0054】
監視領域設定部504は、吊り荷Zの大きさ、上部旋回体2の旋回動作などに応じて、吊り荷Zの周囲に仮想的な監視領域を設定する。特に、監視領域設定部504は、吊り荷Zに応じて当該吊り荷Zを包含するように配置される危険領域DA(メイン監視領域)と、所定の幅を有し危険領域DAを囲むように配置されるマージン領域MA(サブ監視領域)とを含む前記監視領域を設定する。本実施形態では、危険領域DAの外周面は、マージン領域MAの内周面に密接している。マージン領域MAの外周面は、マージン領域MAの内周面に対して前記幅だけ径方向外側に配置されている。なお、監視領域設定部504は、前記幅に関連する信号である幅指令信号を受け付け、当該幅指令信号に応じてマージン領域MAの大きさ(幅)を調整する。
【0055】
走査条件設定部505は、2次元LIDAR52が危険領域DAを含む領域を走査するにあたって、所定の走査条件を設定する。具体的に、走査条件設定部505は、前記監視領域の一端部からマージン領域MAに進入した物体が危険領域DAに到達するまでの間に、前記物体が2次元LIDAR52のスキャン平面SPに含まれ検出されるように、マージン領域MAの前記幅と、回転台53によるスキャン平面SPの移動速度(角速度)とをそれぞれ設定する。本実施形態では、前記物体が最短時間で危険領域DAに到達することを最悪条件として想定するために、前記物体は半径方向に沿って吊り荷Zに向かうものとする。そして、走査条件設定部505は、上記のように設定した前記幅および前記移動速度に応じて監視領域設定部504および回転台53に前記幅指令信号および前記速度指令信号をそれぞれ入力する。上記の走査条件の設定については、後記で詳述する。
【0056】
指令信号入力部506は、物体抽出部503が抽出した物体の情報に応じて、表示部54および報知部55に指令信号(警告指令信号)を入力する。具体的に、指令信号入力部506は、予め表示部54に表示された3次元情報上に、前記物体の情報を新たに表示するための指令信号を入力する。この際、表示部54では、前記物体の大きさが誇張されるとともに、作業者によって視認されやすい色を施して表示することが望ましい。また、指令信号入力部506は、報知部55に対して、ブザー音やランプの点灯によって、前記物体の存在、危険状態を報知するための指令信号を入力する。
【0057】
なお、上部旋回体2の旋回動作に伴って、物体抽出部503が物体を抽出することで指令信号入力部506が出力する指令信号(警告指令信号)は、旋回駆動部34に入力されてもよい。この場合、操作部31、駆動制御部501を通じて旋回駆動部34に入力される本来の駆動指令信号に関わらず、吊り荷Zと物体との衝突を回避するように旋回駆動部34が強制的に上部旋回体2の旋回動作を停止させる。
【0058】
記憶部507は、監視システム50が実行する監視処理のための各種のパラメータ、閾値などを予め格納する。これらの情報については、後記で詳述する。
【0059】
次に、監視システム50が実行する監視処理の詳細について説明する。
【0060】
キャブ22内の作業者は、吊り荷Zの吊り上げ、上部旋回体2の旋回動作に伴う吊り荷Zの移動などを行なうにあたって、入力部32に含まれる監視システム50の起動スイッチを押す。この結果、監視システム50による監視処理が開始される。
【0061】
前記監視処理が開始されると、監視領域設定部504(
図2)が危険領域DAを設定する。本実施形態では、危険領域DAは、ブーム3の先端を通る鉛直線を中心線とする円柱形状からなる。すなわち、巻上げロープ14に振れがないとすると、吊り荷Zは前記中心線上に位置する。なお、監視領域設定部504は、予め作業者が入力部32から入力する吊り荷Zの大きさに応じて、危険領域DAの円柱半径を設定してもよい。この場合、監視領域設定部504は、吊り荷Zの大きさが大きいほど、前記円柱半径を大きく設定する。
また、ブーム3の先端部に巻上げロープ14の振れ角度を検出する角度計が設置されている場合、監視領域設定部504は、検出された振れ角度に応じて危険領域DAの円柱半径を設定してもよい。この場合、監視領域設定部504は、前記振れ角度が大きいほど、前記円柱半径を大きく設定する。
【0062】
監視システム50は、上記のように設定された危険領域DAに人(作業者)や障害物が進入することを検知するために、危険領域DAの周囲にマージン領域MAを設定し、このマージン領域MAを含めた広い領域を監視する。マージン領域MAは、危険領域DAを囲むように危険領域DAと同心状に形成された円筒形状からなる。このマージン領域MAにおいて人や障害物を高い確率で検知するために、走査条件設定部505が、マージン領域MAの大きさ(幅)と、スキャン平面SP(回転台53)の角速度ωsとをそれぞれ設定する。以下に、その詳細について説明する。
【0063】
吊り荷Zが静止していると仮定した場合に、
図4に示すように吊り荷Zに向かって進む人を検知するための回転台53の角速度ωsを求める。この角速度ωsは、回転台53が基準点RPを中心にスキャン平面SPを移動させる速度であり、人(物体)が監視システム50によって検知されずにマージン領域MAをすり抜けてはならないという条件に基づいて設定される。
【0064】
図5を参照して、危険領域DAの半径をr、平面視におけるセンシング装置51(基準点RP)から吊り荷Zまでの距離をLdとすると、センシング装置51を通り危険領域DAの外周縁に接する接線と、センシング装置51と吊り荷Zとを結ぶ直線とが平面視でなす角度θrは、以下の式1によって表すことができる。なお、距離Ldは、ブーム起伏角検出部33によって検出されるブーム3の起伏角の余弦(COS)に、既知であるセンシング装置51(基準点RP)とブーム3の基端部との距離を乗じて算出可能である。
【数1】
【0065】
また、
図6に示すように、基準点RPから見た人(物体)の厚み(幅)をt、人がマージン領域MAに対してセンシング装置51を通る接線に対して垂直に進入したときの、センシング装置51と前記接線との距離をLp(
図5)、人の厚みをセンシング装置51から見たときの角度をθt(
図6)、人がマージン領域MAに近づく速度をvp、当該人の速度に対応するセンシング装置51から見た人の角速度をωpとすると、次の式2、式3、式4が成立する。なお、各式ではθt、ωpが充分に小さいとして近似している。また、θmは0に限りなく近いとみなすことができるため、θr+θmをθrと近似している。
【数2】
【数3】
【数4】
【0066】
次に、センシング装置51において2次元LIDAR52が距離データを取得する周波数(単位時間あたりの取得回数)をスキャン周波数fとすると、2つの距離データが取得されるタイミング間に回転台53が回転する角速(スキャン速度)は、ωs/fで表すことができる。前記条件が満たされるためには、この角速が人の厚み角度θtよりも小さくなければならない。換言すれば、あるスキャン(走査)とその次のスキャンとの間に人がいた場合、少なくとも一方のスキャンにおけるスキャン平面SPに人が含まれる(検知される)必要がある。上記は、式5によって表すことができる。
【数5】
【0067】
式5を変形し、基準点RPから見た人の角速度ωpの項を加えると、式6が導出される。
【数6】
【0068】
次に、式2、式3、式4をそれぞれ式6に代入すると、式7を得ることができる。
【数7】
【0069】
上記の式7は、回転台53の回転速度(角速度)の最大値を決定する式ということができる。本実施形態では、一例として、回転台53の角速度ωsは1以上10以下の整数値で設定されるため、走査条件設定部505は、式7を満たす最大の整数値(10以下)をωsとして設定する。
【0070】
次に、走査条件設定部505が、前記中心線を中心とする半径方向におけるマージン領域MAの幅Lmを設定する手順について説明する。
図5に示すように、人がマージン領域MAに進入しようとする側において、センシング装置51を通るマージン領域MAの外周縁の接線とマージン領域MAとの接点をA、当該接点Aに隣接する点であって、センシング装置51を通る危険領域DAの接線と危険領域DAとの接点をB、接点Aとは反対側の接点であって、センシング装置51を通るマージン領域MAの外周縁の接線とマージン領域MAとの接点をCと仮定する。
【0071】
吊り荷Zが静止して、マージン領域MAの幅Lmが最大となる場合を考慮するために、次のような場面を検討する。すなわち、人が接点Aを通じてマージン領域MAに進入しようとした瞬間に、スキャン平面SPが点Aを折り返したと仮定する。この場合、2次元LIDAR52が人を検出するためには、人がマージン領域MA内を進み接点Bに到達するまでに、スキャン平面SPが接点Cを折り返して接点Bまで戻る必要がある。なお、以下、スキャン平面SPが接点Aから接点B、Cを経由して再び接点Bまで戻る動作を戻り動作と称する。
【0072】
上記の戻り動作に要する時間をΔtとすると、人が角速度ωpで時間Δtだけ歩くことで進む角度をθmとすると、θmは、式8によって表すことができる。
【数8】
なお、式8のカッコ内は、上記の戻り動作に
図5のθmが3回、θrが4回含まれることに基づく。
【0073】
ここで、式2、式4を式8に代入し、θmについて整備すると、式9が導出される。
【数9】
【0074】
また、式8を変形すると、式10を得ることができる。
【数10】
【0075】
【0076】
式11から、回転台53の角速度ωsは、センシング装置51から見た人の角速度ωp(歩く速度)の3倍よりも大きい必要があるということができる。したがって、式9を用いるためには、式11を満たすことが必要となる。ここで、式2、式4から、上記の式11は、式9で表されるθmが正の値をとることを規定する、下記の式12と同じといえる。
【数12】
【0077】
ここで、θmが充分に小さいとして、θmを式13のように定める。
【数13】
上記の式13は、
図5において点A、点Bおよび基準点RPを頂点とする三角形において、tanθm=Lm/Lp=Lm/(Ld×cos(θr+θm))が成立するため、θmが限りなく0に近いとみなすことで、導出することができる。
【0078】
式13に式9を代入すると、下記の式14を得ることができる。
【数14】
【0079】
上記の式14は、式11の条件が満たされる場合のマージン領域MAの幅を決定する式ということができる。したがって、走査条件設定部505は、式14に基づいて、マージン領域MAの幅Lmを設定することができる。なお、幅Lmが設定されると、マージン領域MAおよび危険領域DAを含む監視領域全体の大きさ(半径)が決定されるため、走査条件設定部505は当該半径に応じた信号を回転台53に入力することで、回転台53がスキャン平面SPを往復移動させるための回転角度が設定される。
【0080】
なお、上記の説明では、吊り荷Zが静止し、人がマージン領域MAに進入する場合について説明したが、
図5に示されるモデルは、クレーン100の周囲に静止した障害物が存在し、上部旋回体2の旋回動作によって吊り荷Zが前記障害物に向かって移動する、すなわち、マージン領域MAが相対的に障害物に近づく場合にも適用可能である。この場合、上部旋回体2とともにブーム3が旋回しているときの吊り荷Zと障害物との衝突を検知するために、走査条件設定部505が、回転台53の角速度ωsと、マージン領域MAの幅Lmとをそれぞれ設定する。
【0081】
ブーム3が旋回している場合、吊り荷Zから見ると障害物が吊り荷Zに近づいていることになる。このため、先の式7および式14におけるvp(人の移動速度)を吊り荷Zから見た障害物の移動速度に置き換えることで、ωsおよびLmをそれぞれ求めることができる。ここで、ブーム3(上部旋回体2)の旋回動作における旋回角速度をωb、ブーム3の旋回動作による障害物に対する吊り荷Zの相対的な接近速度をvb、ブーム3の長さをLbと定義する。
【0082】
まず、ブーム3の旋回角速度ωbは、ブーム3の旋回角速度が充分に小さいと仮定すると、式15のように定義することができる。
【数15】
【0083】
式15をvbについての式に整備し、式9および式14のvpを式15のvbに置き換えることで、式16、式17を得ることができる。
【数16】
【数17】
【0084】
また、式14を使うための条件である式11に、式2、式4をそれぞれ代入し、vpを式15のvbに置き換えると、式18を得ることができる。
【数18】
【0085】
式16は、障害物がセンシング装置51のスキャンをすり抜ける可能性があるほど小さい場合に、障害物の厚みをtとして、回転台53の回転角速度の最大値を決定する式に相当する。ただし、衝突する可能性のある障害物として壁などのように充分に大きい物体を想定する場合には、ωsがいくら速くてもスキャン平面SPから物体が外れることはないため、ωsは設定可能な最大値とすることができる。式17は、式18の条件が満たされる場合のマージン領域MAの幅を決定する式ということができる。したがって、走査条件設定部505は、式17に基づいて、マージン領域MAの幅Lmを設定することができる。
【0086】
なお、ブーム3(上部旋回体2)が旋回するとともに人(障害物)が所定の速度で移動する場合には、上記の2つのケースが組み合わされることに相当する。このため、走査条件設定部505は、吊り荷Zと物体との相対速度に基づいて、回転台53の角速度ωおよびマージン領域MAの幅Lmを設定することができる。
【0087】
以上のように、本実施形態では、監視システム50の監視領域設定部504が、吊り荷Z(監視対象物)に対応する危険領域DAに加え、当該危険領域DAを囲むようにマージン領域MAを設定し、走査条件設定部505が所定の条件を満たすように、マージン領域MAの幅と、回転台53によるスキャン平面SPの移動速度(角速度)とをそれぞれ設定する。前記条件は、監視領域の一端部からマージン領域MAに進入した物体が危険領域DAに到達するまでの間に少なくとも物体の一部がスキャン平面SPに含まれるように設定されている。この結果、物体が危険領域DAに到達する前に当該物体を2次元LIDAR52によって検出する確率を高め、物体が吊り荷Zに近づくことを精度良く監視することが可能となる。
【0088】
また、本実施形態では、監視領域設定部504は、危険領域DAを吊り荷Zと交差する鉛直線を中心線とする円柱形状に設定するとともに、マージン領域MAを危険領域DAと同心状で危険領域DAを囲む円筒形状となるように設定する。また、2次元LIDAR52のスキャン平面SPは、基準点RPを含み上下方向に延びる平面からなり、回転台53は、平面視においてスキャン平面SPの軌跡が基準点RPを中心とする扇形形状となるようにスキャン平面SPを往復移動させる。
【0089】
このような構成によれば、監視領域設定部504が危険領域DAおよびマージン領域MAを円柱形状および円筒形状に設定し、回転台53がスキャン平面SPを扇形状に往復移動させることで、監視領域内を容易に走査することが可能となる。また、走査部(回転台53)に対して汎用的な回転系の駆動機構を用いることができる。
【0090】
また、本実施形態では、走査条件設定部505は、前述の式7を満たすように、回転台53の角速度ωsを設定する。
【0091】
このような構成によれば、2次元LIDAR52が取得する距離情報の中に、移動する物体をより高い確率で含めることができる。
【0092】
更に、本実施形態では、走査条件設定部505は、前述の式11、式14を満たすように、前記角速度ωsおよびマージン領域MAの幅Lmを設定する。
【0093】
このような構成によれば、移動する物体が2次元LIDAR52の走査をすり抜けて危険領域DAに到達することを、より高い確率で防ぐことができる。
【0094】
また、本実施形態では、上部旋回体2の旋回動作が行われる場合、走査条件設定部505は、前述の式16を満たすように、前記角速度ωsを設定する。
【0095】
このような構成によれば、クレーン100における上部旋回体2の旋回動作に伴って、物体が危険領域DAに到達する前に当該物体を2次元LIDAR52によって検出する確率を高め、物体が吊り荷Zに近づくことを精度良く監視することが可能となる。特に、2次元LIDAR52が取得する距離情報の中に、吊り荷Zに近づく物体をより高い確率で含めることができる。
【0096】
また、本実施形態では、上部旋回体2の旋回動作が行われる場合、走査条件設定部505は、前述の式17、18を満たすように、前記角速度ωsおよびマージン領域MAの幅Lmを設定する。
【0097】
このような構成によれば、上部旋回体2の旋回動作に伴って物体が2次元LIDAR52の走査をすり抜けて危険領域DAに到達することを、より高い確率で防ぐことができる。
【0098】
また、上記の監視システム50が実行する監視方法は、物体が吊り荷Z(監視対象物)に相対的に接近することを監視する方法である。
当該監視方法は、
吊り荷Zに応じて当該吊り荷Zを包含するように配置される危険領域DAと所定の幅Lmを有し危険領域DAを囲むように配置されるマージン領域MAとを含む監視領域を設定することと、
平面視において前記監視領域から離れた位置に配置される基準点RPを基準として予め設定されたスキャン平面SP内の複数の測定点までの距離情報をそれぞれ取得することが可能な2次元LIDAR52と、前記基準点RPから見た前記監視領域の一端部と当該一端部とは反対側の他端部との間で2次元LIDAR52のスキャン平面SPが前記監視領域を走査するようにスキャン平面SPを往復移動させることが可能な回転台53とをそれぞれ準備することと、
前記監視領域の前記一端部からマージン領域MAに進入した物体が危険領域DAに到達するまでの間に、前記物体がスキャン平面SPに含まれるように、マージン領域MAの前記幅Lmと、回転台53によるスキャン平面SPの移動速度(角速度)とをそれぞれ設定することと、
回転台53によってスキャン平面SPを前記移動速度で移動させ、2次元LIDAR52が取得した前記距離情報から前記物体を抽出することと、
前記物体を抽出することに伴って警告指令信号を出力することと、を備える。
【0099】
このような方法によれば、物体が危険領域DAに到達する前に当該物体を2次元LIDAR52によって検出する確率を高め、物体が吊り荷Zに近づくことを精度良く監視することが可能となる。
【0100】
なお、上記の監視方法は、危険領域DAを吊り荷Zと交差する鉛直線を中心線とする円柱形状に設定するとともに、マージン領域MAを危険領域DAと同心状で危険領域DAを囲む円筒形状となるように設定することと、2次元LIDAR52のスキャン平面SPを、前記基準点RPを含み上下方向に延びる平面(SP)とすることと、平面視においてスキャン平面SPの軌跡が前記基準点RPを中心とする扇形形状となるようにスキャン平面SPを往復移動させることと、を更に備える。
【0101】
また、上記の監視方法は、前記基準点RPを中心にスキャン平面SPを移動させる速度である角速度をωs、2次元LIDAR52が前記距離情報を取得する周波数であるスキャン周波数をf、前記基準点RPから見た前記物体の幅をt、前記物体がマージン領域MAに近づく速度をvp、平面視における前記基準点RPから吊り荷Zまでの距離をLd、前記基準点RPと吊り荷Zとを結ぶ直線と前記基準点RPを通り危険領域DAの外周縁に接する接線とが平面視でなす角度をθrとすると、ωs<(f×t-vp)/(Ld×cosθr)を満たすように、前記角速度ωsを設定することを更に備える。
【0102】
また、上記の監視方法は、前記基準点RPから見た前記物体の吊り荷Zに対する相対的な角速度をωp、前記中心線を中心とする半径方向におけるマージン領域MAの幅をLmとすると、ωs>3ωp、かつ、Lm=(4×vp×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3vp)を満たすように、前記角速度ωsおよび前記サブ監視領域の幅Lmを設定することを更に備える。
【0103】
また、上記の監視方法は、上部旋回体2の旋回動作における旋回角速度をωb、ブーム3の長さをLbとすると、上部旋回体2の旋回動作が行われる場合、ωs<(f×t-ωb×Lb)/(Ld×cosθr)を満たすように前記角速度ωsを設定することを更に備える。
【0104】
また、上記の監視方法は、少なくとも上部旋回体2の旋回動作に伴う前記物体に対する吊り荷Zの相対速度をvbとすると、ωs>3vb/(Ld×cosθr)、かつ、Lm=(4×ωb×Lb×Ld×θr×cosθr)/(ωs×Ld×cosθr-3ωb×Lb)を満たすように、前記角速度ωsおよびマージン領域MAの幅Lmを設定することを更に備える。
【実施例0105】
次に、本発明に係る監視システム(衝突警告システムともいう)が実行する監視処理について、実施例をもとに更に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
<シミュレーション結果>
監視領域設定部504および走査条件設定部505を含む監視システム50をシミュレーターに実装し、人や障害物を検知することができるか否かについて評価を行った。
【0107】
まず、吊り荷Zが静止しており人が前記吊り荷Zに向かって移動する場合について検証を行った。人の厚さt、危険領域DAの半径r、スキャン周波数fをそれぞれ固定し、ブーム長さLb、人の速度vpを変化させた場合のスキャン平面SP(回転台53)の角速度ωs、マージン領域MAの幅Lmの計算結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
なお、ωsは式7によって計算され、Lmは式14によって計算される。また、Ldは、ブーム3の起伏角が60度でセンシング装置51がブーム3の長手方向の中央部に取り付けられていることを想定し、Ld=Lb/4として計算している。なお、t=28.0cm、r=5.0m、f=8.0Hzである。また、ブーム長さLbとして、コベルコ建機社製の複数のブーム長を想定して、31.5m、96.0m、150.0mの3水準でそれぞれ計算を行った。なお、前述の式11を満たすように、各Lbに対してvpを設定している。そして、表1の各条件において、人がマージン領域MAに進入しようとした場合、回転台53の回転に伴って2次元LIDAR52のスキャン平面SPが吊り荷Zの周囲を走査すると、前記人がマージン領域MAにおいてそれぞれ検知されることが確認された。
【0110】
同様に、ブーム3(上部旋回体2)の旋回に伴って吊り荷Zが障害物に近づく場合について検証を行った。障害物の厚さt、危険領域DAの半径r、スキャン周波数fをそれぞれ固定し(t=28.0cm、r=5.0m、f=8.0Hz)、ブーム長さLb、ブームの角速度ωbを変化させた場合のスキャン平面SP(回転台53)の角速度ωs、マージン領域MAの幅Lmの計算結果を表2に示す。
【0111】
【0112】
なお、ωsは式16によって計算され、Lmは式17によって計算される。LbおよびLdは、表1の場合と同様に設定される。なお、前述の式18を満たすように、各Lbに対してvpを設定している。表2の各条件において、ブーム3が旋回しマージン領域MAが障害物に接近する場合、回転台53の回転に伴って2次元LIDAR52のスキャン平面SPが吊り荷Zの周囲を走査すると、前記障害物がマージン領域MAにおいてそれぞれ検知されることが確認された。
【0113】
<実環境での人物検知実験>
上記のシミュレーション結果を確認するために、実環境での人物検知実験を行った。具体的に、実環境上に危険領域DAを予め設定し、表1で求めた回転台53の回転角速度ωsおよびマージン領域MAの幅Lmにおいて、歩行する人物を検知できるか否かを実験した。実験環境として、豊橋技術科学大学のキャンパスで行った。
【0114】
実験における各パラメータは、t=28.0cm、r=3.0m、Ld=42.0m、f=8.0Hzである。この条件で、vpを変化させた場合のωs、Lmの計算結果を表3に示す。なお、前述の式11を満たすために、vp<0.49を前提としている。
【0115】
【0116】
表3から0.25<vpの場合には、マージン領域MAの幅Lmが大きくなりすぎるため、vp=0.15、0.25の条件において実験を行った。各条件において監視システム50が人を検知した結果を表4に示す。
【0117】
【0118】
表4に示すように、vpが0.15、0.25のいずれの場合においても、50%以上の確率でマージン領域MAにおいて人を検知し、100%の確率でマージン領域MAおよび危険領域DAにおいて人を検知することができる結果となった。なお、実際の作業現場では、作業者が吊り荷Zに向かって意識して歩いていくという状況は起こりにくく、意識せずに吊り荷Zに近づいてしまうという状況が多いものと推定される。このため、上記の実験の場合よりも実際の人の歩く速さは遅くなり、マージン領域MAでの検知率も高くなると考えられる。
【0119】
上記のように、実環境での人物検知実験においても、マージン領域MAおよび危険領域DAを含む領域において、監視対象物に接近する物体を高い確率で検出することができた。なお、マージン領域MAでの検知率を更に高めるために、監視システム50が他のカメラや3次元LIDAR 等の別のセンサと組み合わされてもよい。
【0120】
以上、本発明の一実施形態に係る監視システム50およびこれを備えるクレーン100(作業機械)、監視方法について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明では、以下のような変形実施形態が可能である。
【0121】
(1)上記の実施形態では、本発明の距離センサとして2次元LIDAR52を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。距離センサは、3次元LIDARでもよい。この場合、スキャン平面SPに対応するセンシング範囲は所定の3次元空間となるが、回転台53などの走査部が当該センシング範囲を往復移動(走査)させてもよい。なお、この場合も、前述の各式に基づいてセンシング範囲の移動速度が設定されれば、マージン領域MA内で物体を確実に検出することができる。
【0122】
(2)また、上記の実施形態では、危険領域DAおよびマージン領域MAが円柱形状および円筒形状から構成される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。吊り荷Zが直方体形状の物体の場合、危険領域DAは当該吊り荷Zを包含するような直方体形状からなり、マージン領域MAは所定の幅Lmを有し危険領域DAを囲むような直方体形状からなるものでもよい。
【0123】
(3)また、上記の実施形態では、監視対象物が吊り荷Zである場合に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。クレーン100において衝突などから守る必要性が高い部材を監視対象物として設定し、同様に監視するものでもよい。また、監視システム50が監視する対象は、クレーン100などの作業機械に限定されるものではなく、その他のものを監視する態様でもよい。