(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185294
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】シート装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/56 20060101AFI20221207BHJP
B60N 3/00 20060101ALI20221207BHJP
A47C 27/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B60N2/56
B60N3/00 Z
A47C27/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092876
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 康平
【テーマコード(参考)】
3B087
3B088
3B096
【Fターム(参考)】
3B087DE09
3B088CA03
3B096AC14
3B096AC15
(57)【要約】
【課題】着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って合理的に行えるシート装置を提供すること。
【解決手段】シート装置1は、着座者の身体を支える天板部2Aと、天板部2Aに設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置10とを有する。温感提示装置10は、着座者の皮膚表面に温度刺激を与える少なくとも1つの面状発熱体11と、面状発熱体11とは異なる位置で着座者の皮膚表面に振動刺激を与える複数の振動刺激部12と、これらを作動制御する制御部13とを有する。複数の振動刺激部12は、シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に配列される。制御部13は、面状発熱体11による温度刺激と同時に複数の振動刺激部12による振動刺激を行うことで、複数の振動刺激部12の間の振動刺激の強度比に応じたファントムセンセーションによる皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部と、該天板部に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置と、を有するシート装置であって、
前記温感提示装置が、
着座者の皮膚表面に温度刺激を与える少なくとも1つの温度刺激部と、
該温度刺激部とは異なる位置で着座者の皮膚表面に振動刺激を与える複数の振動刺激部と、
前記温度刺激部と複数の前記振動刺激部とを作動制御する制御部と、を有し、
複数の前記振動刺激部が、前記シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に配列され、前記制御部が、前記温度刺激部による温度刺激と同時に複数の前記振動刺激部による振動刺激を行うことで、複数の前記振動刺激部の間の振動刺激の強度比に応じたファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示するシート装置。
【請求項2】
着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部と、該天板部に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置と、を有するシート装置であって、
前記温感提示装置が、
着座者の皮膚表面に温度刺激を与える複数の温度刺激部と、
複数の前記温度刺激部を作動制御する制御部と、を有し、
複数の前記温度刺激部が、前記シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に配列され、前記制御部が、複数の前記温度刺激部による温度刺激を同時に行うことで、複数の前記温度刺激部の間の温度刺激の強度比に応じた熱ファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示するシート装置。
【請求項3】
請求項1に記載のシート装置であって、
前記シート座面が、シートバックの背凭れ面とされ、複数の前記振動刺激部が、前記背凭れ面上に高さ方向に並んで配置されるシート装置。
【請求項4】
請求項3に記載のシート装置であって、
複数の前記振動刺激部が、前記背凭れ面上におけるシート幅方向の対称位置に一対で設けられ、前記温度刺激部が、前記一対の間となるシート幅方向の中間部に設けられるシート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート装置に関する。詳しくは、着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部と、天板部に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置と、を有するシート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいて、「Thermal Referral」と呼ばれる錯覚現象を用いた温度感覚転写により着座者の身体に温覚提示を行う温感装置を備えた構成が知られている(特許文献1)。具体的には、温感装置は、ヒータによる温熱刺激と振動子による振動刺激とを着座者の身体に同時に与えることで、振動刺激を与えた箇所にも温覚を提示する構成とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温覚提示を広範囲に亘って行えるようにするには、ヒータ或いは振動子を皮膚分節毎に設定する必要があり、部品点数の増大に加え制御チャネルが複雑化する。そこで、本発明は、着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って合理的に行えるシート装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のシート装置は次の手段をとる。
【0006】
すなわち、本発明のシート装置は、着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部と、天板部に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置と、を有する。温感提示装置が、着座者の皮膚表面に温度刺激を与える少なくとも1つの温度刺激部と、温度刺激部とは異なる位置で着座者の皮膚表面に振動刺激を与える複数の振動刺激部と、温度刺激部と複数の振動刺激部とを作動制御する制御部と、を有する。
【0007】
複数の振動刺激部が、シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に配列される。制御部が、温度刺激部による温度刺激と同時に複数の振動刺激部による振動刺激を行うことで、複数の振動刺激部の間の振動刺激の強度比に応じたファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【0008】
上記構成によれば、温度刺激部から着座者の皮膚表面に温度感覚を提示することができる。加えて、ファントムセンセーションを利用して、複数の振動刺激部の間の振動刺激の強度比に応じた任意の知覚位置から、着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示することができる。したがって、温度刺激部を皮膚分節毎に数多く設定しなくとも、複数の振動刺激部を間隔を空けて配置する少ない部品点数による合理的な構成により、着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って行うことができる。
【0009】
また、本発明のシート装置は、次のように構成されていても良い。すなわち、シート装置は、着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部と、天板部に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置と、を有する。温感提示装置が、着座者の皮膚表面に温度刺激を与える複数の温度刺激部と、複数の温度刺激部を作動制御する制御部と、を有する。
【0010】
複数の温度刺激部が、シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に配列される。制御部が、複数の温度刺激部による温度刺激を同時に行うことで、複数の温度刺激部の間の温度刺激の強度比に応じた熱ファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【0011】
上記構成によれば、熱ファントムセンセーションを利用して、複数の温度刺激部の間の温度刺激の強度比に応じた任意の知覚位置から、着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示することができる。したがって、温度刺激部を皮膚分節毎に数多く設定しなくとも、複数の温度刺激部を間隔を空けて配置する少ない部品点数による合理的な構成により、着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って行うことができる。
【0012】
また、本発明のシート装置は、更に次のように構成されていても良い。シート座面が、シートバックの背凭れ面とされる。複数の振動刺激部が、背凭れ面上に高さ方向に並んで配置される。
【0013】
上記構成によれば、複数の振動刺激部をシートバックの背凭れ面上に高さ方向に並べる単純配置によって、着座者の背部の広範囲に亘って温度感覚の提示を適切に行うことができる。
【0014】
また、本発明のシート装置は、更に次のように構成されていても良い。複数の振動刺激部が、背凭れ面上におけるシート幅方向の対称位置に一対で設けられる。温度刺激部が、上記一対の間となるシート幅方向の中間部に設けられる。
【0015】
上記構成によれば、温度刺激部により、着座者の背部中央部に適切に温度刺激を与えることができる。なおかつ、温度刺激部のシート幅方向の両サイドに対称配置される複数の振動刺激部により、温度刺激部から近い位置で着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を適切に提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係るシート装置の概略構成を表す斜視図である。
【
図5】温度感覚転写の実験条件を表す模式図である。
【
図10】制御部の制御パターンの一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
《第1の実施形態》
(シート装置1の構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係るシート装置1の構成について、
図1~
図10を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。各図中における前方向は、自動車の進行方向を表している。また、以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に符号がない場合には、
図1~
図10のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係るシート装置1は、自動車用の座席として構成される。上記シート装置1は、着座者の背凭れ部となるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、頭凭れ部となるヘッドレスト4と、を有する。シートバック2は、着座者の背部をひと続きのシート座面で支える天板部2Aを備える構成とされる。
【0020】
シートバック2は、その左右両サイドの下端部が、シートクッション3の左右両サイドの後端部に対し、それぞれ図示しない電動式のリクライニング装置を介して連結されている。それにより、シートバック2は、図示しない電動スイッチの操作による各リクライニング装置の動作に伴い、シートクッション3に対する背凭れ角度をシート前後方向に自由に調節することができる構成とされる。
【0021】
図1~
図2に示すように、上記シート装置1は、更に、シートバック2の天板部2Aに設けられて、着座者の皮膚表面に温度感覚を提示することのできる温感提示装置10を備える。温感提示装置10は、フィルムヒータから成る4つの面状発熱体11と、4つの振動子12と、これらを作動制御する制御部13と、を備える(
図3参照)。ここで、各面状発熱体11が、本発明の「温度刺激部」に相当する。また、各振動子12が、本発明の「振動刺激部」に相当する。
【0022】
(ファントムセンセーションによる温感提示)
温感提示装置10は、上記制御部13による4つの面状発熱体11と4つの振動子12との各作動制御により、シートバック2の天板部2Aに凭れ掛かる着座者の背部を暖めるシートヒータとして機能する構成とされる。具体的には、温感提示装置10は、各面状発熱体11を発熱させることで、着座者の背部の対応する皮膚表面に温度刺激を与える。
【0023】
また、温感提示装置10は、各振動子12を振動させることで、着座者の背部の対応する皮膚表面に振動刺激を与える。この振動刺激により、温感提示装置10は、各面状発熱体11による温度刺激を同時に行うことで、振動刺激を与えた箇所に「Thermal Referral」と呼ばれる錯覚現象を用いた温度感覚転写を行う。「Thermal Referral」による温度感覚の転写は、各振動子12により振動刺激が与えられる箇所が各面状発熱体11により近い方が、より高い効果を得られやすい。
【0024】
それにより、温感提示装置10は、上記振動刺激を与えた箇所に、錯覚による温度感覚の提示を行う。詳しくは、温感提示装置10は、4つの振動子12のうちの上下2つの対の振動子12を同時に振動させることにより、ファントムセンセーションによる着座者の背部の対応する皮膚表面の知覚位置に、上記温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【0025】
「ファントムセンセーション」とは、人の触知覚において、互いに異なる皮膚分節Seg(
図4参照)上の2点に振動刺激を与えた場合、これらの振動刺激が融合し上記2点間の1箇所に錯覚による振動刺激が知覚される現象である。上記振動刺激の知覚位置は、2点の振動刺激の強度比に応じて、振動強度の高い方に偏ることが知られている。
【0026】
例えば、上記2点の振動強度を同一にした場合、その振動刺激の知覚位置は、これらの中間箇所となる。そして、どちらか一方の振動強度を他方よりも高くすることにより、その強度比に応じて、振動刺激の知覚位置が上記中間箇所より一方に変移する。
【0027】
したがって、上記2点間の振動刺激の強度比を変化させることで、振動刺激の知覚位置を上記2点間のいずれかの位置に適宜変化させることができる。そのようなことから、上記ファントムセンセーションによる振動刺激の知覚位置に、「Thermal Referral」による温度感覚転写を行うことが可能となる。
【0028】
ここで、
図4に示すように、皮膚分節Segとは、人の身体の1つ1つの脊髄神経根から伸びている感覚神経が支配する領域のことである。人の身体の背部では、1つ1つの皮膚分節Segは、背部中央の脊髄神経根から左右方向に伸びている。人の身体の背部では、このような左右方向に伸びる皮膚分節Segが、高さ方向に複数並ぶ配置となっている。
【0029】
これに対応して、温感提示装置10は、
図2に示すように、4つの面状発熱体11と4つの振動子12とが、それぞれ、人の背部の互いに異なる皮膚分節Seg(
図4参照)上に位置するように配置されている。以下、これらの具体的な配置や実験による温度感覚の提示結果について説明する。
【0030】
4つの面状発熱体11と4つの振動子12とは、それぞれ、シートバック2の天板部2A上のシート幅方向に離間した左右対称位置に上下2つずつ並んで配設されている。詳しくは、4つの面状発熱体11は、着座者の腰部辺りが当たる低位置の左右2箇所と、着座者の肩甲骨辺りが当たる高位置の左右2箇所と、に分かれて配設されている。
【0031】
4つの振動子12は、上記低位置の左右2箇所に横並び状に配設された2つの面状発熱体11のシート幅方向の両外側に並ぶ左右2箇所と、高位置の左右2箇所に横並び状に配設された2つの面状発熱体11のシート幅方向の両外側に並ぶ左右2箇所と、に分かれて配設されている。4つの面状発熱体11と4つの振動子12とは、それぞれ、制御部13に電気的に接続されている(
図3参照)。
【0032】
制御部13は、4つの面状発熱体11と4つの振動子12とをそれぞれPWM制御により作動制御する。具体的には、制御部13は、出力するパルス波のデューティ比を変化させて変調することで、各面状発熱体11における温度刺激の強度や各振動子12における振動刺激の強度を変化させる。
【0033】
(温度感覚の提示実験)
次に、温感提示装置10による温度感覚の提示実験を行った結果について説明する。実験条件は、次の通りである。すなわち、
図5に示すように、シートバック2の天板部2A上の1箇所の位置に、被験者が温度感覚を感知したかどうかを申告する感知部Pを設定する。
【0034】
感知部Pは、シートバック2の天板部2A上における着座者の左腰部と左肩甲骨との間の中程の部位が当たる位置に設定される。面状発熱体11は、上記感知部Pと横並びとなる高さ方向の中程の位置に、左右対称状に2つ並んで配設される。
【0035】
振動子12は、上記感知部Pを上下に挟む左側の上下2箇所の位置と、これらと左右対称配置となる右側の上下2箇所の位置と、の計4箇所の位置に配設される。これら4つの振動子12は、上述した横並び状に配設される2つの面状発熱体11よりもシート幅方向の外側にずれた位置に配設される。
【0036】
温度感覚の提示実験は、各面状発熱体11による温度刺激と同時に、左側の上下の振動子12のうちの一方あるいは両方を振動させることで、感知部Pにおいて錯覚による温度感覚が感知されるか否かを検証する。具体的には、
図6に示すような実験条件1~3の3つの実験を行い、その結果を
図7~
図9にまとめた。
【0037】
図6に示すように、実験条件1は、各面状発熱体11による温度刺激と同時に、左上側の振動子12のみを振動させるというものである。その他の振動子12は振動させない。実験条件2は、各面状発熱体11による温度刺激と同時に、左下側の振動子12のみを振動させるというものである。その他の振動子12は振動させない。
【0038】
実験条件3は、各面状発熱体11による温度刺激と同時に、左側の上下両方の振動子12のみを振動させるというものである。各振動子12は、互いに同一の振動強度で振動させるものとする。その他の振動子12は振動させない。
【0039】
実験条件1で実験を行った結果を
図7のグラフに示す。縦軸は、転写された温度感覚の強度を示す。このグラフから分かるように、実験条件1で実験を行った場合には、感知部Pでは温度感覚は感知されなかった。これは、各面状発熱体11による温度刺激と同時に左上側の振動子12のみが振動しても、「Thermal Referral」により左上側の振動子12の振動箇所では温度感覚転写は行われるものの、感知部Pには振動刺激が知覚されず、温度感覚の転写がされないためと考えられる。
【0040】
続いて、実験条件2で実験を行った結果を
図8のグラフに示す。このグラフから分かるように、実験条件2で実験を行った場合も、感知部Pでは温度感覚は感知されなかった。これは、各面状発熱体11による温度刺激と同時に左下側の振動子12のみが振動しても、「Thermal Referral」により左下側の振動子12の振動箇所では温度感覚転写は行われるものの、感知部Pには振動刺激が知覚されず、温度感覚の転写がされないためと考えられる。
【0041】
続いて、実験条件3で実験を行った結果を
図9のグラフに示す。このグラフから分かるように、実験条件3で実験を行った場合には、感知部Pにおいて温度感覚が感知された。これは、各面状発熱体11による温度刺激と同時に左側の上下両方の振動子12が振動することで、その中間部にある感知部Pにおいてファントムセンセーションによる振動刺激が提示され、それにより「Thermal Referral」による温度感覚の転写が行われたためと考えられる。
【0042】
したがって、上記の実験結果から分かるように、
図5で前述したように感知部Pのある位置に面状発熱体11や振動子12を設けなくても、感知部Pのある位置に温度感覚の提示を行うことができる。よって、少ない部品構成で広範囲に亘る温度感覚の提示を行うことが可能となる。また、それに伴い、制御部13による制御回路も少ないチャンネルに抑えることができ、装置全体の低コスト化を図ることができる。
【0043】
図10に制御部13による各振動子12の作動制御パターンの一例を示す。同図における横軸は、時間経過を示す。また、縦軸は、デューティ比の大きさを示す。CH1は、上側の振動子12の作動制御を示し、CH2は、下側の振動子12の作動制御を示す。
【0044】
上記の図に示すように、CH1の出力を時間経過と共に低くしていき、CH2の出力を時間経過と共に高くしていくことで、ファントムセンセーションによる振動刺激の知覚位置を上側の振動子12のある位置から下側の振動子12のある位置へと次第に変位させていくことができる。したがって、このような作動制御を行うことで、振動刺激の知覚位置を広範囲に亘って変化させることができ、「Thermal Referral」による温度感覚の転写を広範囲に亘って行うことができる。
【0045】
詳しくは、上記のような温度感覚の提示位置を所定時間間隔で変化させるような作動制御を行うことで、着座者の背部の対応する皮膚表面の温度を繰り返し上昇させたり下降させたりすることができる。このような作動制御を行うことで、着座者の皮膚表面に連続的な温感提示を行う構成と比べて、昇温時の皮膚表面の温度上昇速度を大きくすることができる。したがって、連続的な温感提示を行うものと比べて少ない消費電力であるにも関わらず、着座者に対してより温かみの感じられる温度感覚を提示することができる。
【0046】
(熱ファントムセンセーションによる温感提示)
図2に示すように、上述した温感提示装置10は、上述した「Thermal Referral」とファントムセンセーションとを組み合わせた温度感覚の転写に加えて、更に、熱ファントムセンセーションによる着座者の背部の対応する皮膚表面の知覚位置にも、温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示することができる構成とされる。
【0047】
「熱ファントムセンセーション」とは、人の触知覚において、互いに異なる皮膚分節Seg(
図4参照)上の2点に温度刺激を与えた場合、これらの温度刺激が融合し上記2点間の1箇所に錯覚による温度刺激が知覚される現象である。上記温度刺激の知覚位置は、2点の温度刺激の強度比に応じて、温度刺激の強度の高い方に偏ることが知られている。
【0048】
例えば、上記2点の温度刺激の強度を同一にした場合、その温度刺激の知覚位置は、これらの中間箇所となる。そして、どちらか一方の温度強度を他方よりも高くすることにより、その強度比に応じて、温度刺激の知覚位置が上記中間箇所より一方に変移する。
【0049】
したがって、上記2点間の温度刺激の強度比を変化させることで、温度刺激の知覚位置を上記2点間のいずれかの位置に適宜変化させることができる。具体的には、温感提示装置10は、着座者の背部の異なる皮膚分節Seg上の位置に温度刺激を与えるように配置された上下の各面状発熱体11の間で、温度刺激の知覚位置を変化させる構成とされる。
【0050】
なお、熱ファントムセンセーションによる温度刺激の知覚位置を変化させる制御は、上述したファントムセンセーションによる振動刺激の知覚位置を変化させる制御と同様に行うことができるため、具体的な説明は省略する。上記温感提示装置10は、各面状発熱体11や各振動子12の出力強度や出力タイミングを種々にコントロールすることで、シートバック2の天板部2A上の広範囲に亘って温度感覚の転写を適切に行うことができる
【0051】
(まとめ)
以上をまとめると、本実施形態に係るシート装置1は、次のような構成となっている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0052】
すなわち、シート装置(1)は、着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部(2A)と、天板部(2A)に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置(10)と、を有する。温感提示装置(10)が、着座者の皮膚表面に温度刺激を与える少なくとも1つの温度刺激部(11)と、温度刺激部(11)とは異なる位置で着座者の皮膚表面に振動刺激を与える複数の振動刺激部(12)と、温度刺激部(11)と複数の振動刺激部(12)とを作動制御する制御部(13)と、を有する。
【0053】
複数の振動刺激部(12)が、シート座面に沿った着座者の皮膚分節(Seg)の並び方向に配列される。制御部(13)が、温度刺激部(11)による温度刺激と同時に複数の振動刺激部(12)による振動刺激を行うことで、複数の振動刺激部(12)の間の振動刺激の強度比に応じたファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【0054】
上記構成によれば、温度刺激部(11)から着座者の皮膚表面に温度感覚を提示することができる。加えて、ファントムセンセーションを利用して、複数の振動刺激部(12)の間の振動刺激の強度比に応じた任意の知覚位置から、着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示することができる。したがって、温度刺激部(11)を皮膚分節(Seg)毎に数多く設定しなくとも、複数の振動刺激部(12)を間隔を空けて配置する少ない部品点数による合理的な構成により、着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って行うことができる。
【0055】
また、上記シート座面が、シートバック(2)の背凭れ面とされる。複数の振動刺激部(12)が、背凭れ面上に高さ方向に並んで配置される。上記構成によれば、複数の振動刺激部(12)をシートバック(2)の背凭れ面上に高さ方向に並べる単純配置によって、着座者の背部の広範囲に亘って温度感覚の提示を適切に行うことができる。
【0056】
また、複数の振動刺激部(12)が、背凭れ面上におけるシート幅方向の対称位置に一対で設けられる。温度刺激部(11)が、上記一対の間となるシート幅方向の中間部に設けられる。上記構成によれば、温度刺激部(11)により、着座者の背部中央部に適切に温度刺激を与えることができる。なおかつ、温度刺激部(11)のシート幅方向の両サイドに対称配置される複数の振動刺激部(12)により、温度刺激部(11)から近い位置で着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を適切に提示することができる。
【0057】
また、シート装置(1)は、着座者の身体をひと続きのシート座面で支える天板部(2A)と、天板部(2A)に設けられて着座者の皮膚表面に温度感覚を提示する温感提示装置(10)と、を有する。温感提示装置(10)が、着座者の皮膚表面に温度刺激を与える複数の温度刺激部(11)と、複数の温度刺激部(11)を作動制御する制御部(13)と、を有する。
【0058】
複数の温度刺激部(11)が、シート座面に沿った着座者の皮膚分節(Seg)の並び方向に配列される。制御部(13)が、複数の温度刺激部(11)による温度刺激を同時に行うことで、複数の温度刺激部(11)の間の温度刺激の強度比に応じた熱ファントムセンセーションによる着座者の皮膚表面の知覚位置に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示する。
【0059】
上記構成によれば、熱ファントムセンセーションを利用して、複数の温度刺激部(11)の間の温度刺激の強度比に応じた任意の知覚位置から、着座者の皮膚表面に温度感覚転写の錯覚による温度感覚を提示することができる。したがって、温度刺激部(11)を皮膚分節(Seg)毎に数多く設定しなくとも、複数の温度刺激部(11)を間隔を空けて配置する少ない部品点数による合理的な構成により、着座者の皮膚表面に対する温度感覚の提示を広範囲に亘って行うことができる。
【0060】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか、以下に示す様々な形態で実施することができるものである。
【0061】
1.本発明のシート装置は、自動車用の座席の他、鉄道等の自動車以外の車両や、航空機、船舶等の車両以外の乗物用の座席としても適用することができるものである。また、シート装置は、乗物の他、スポーツ施設や劇場、映画館、コンサート会場、イベント会場等の各種施設に設置される座席や、マッサージシート等の乗物用以外の座席にも適用することができるものである。また、シート装置は、1人掛け座席の他、2人掛け座席や3人掛け座席にも適用することができるものである。
【0062】
2.温感提示装置は、着座者の皮膚表面に温覚を提示するものの他、冷覚を提示するものであっても良い。温度刺激部は、フィルムヒータの他、輻射式や温風式等の各種のヒータを適用することができるものである。また、温感提示装置は、シートバックに設けられるものの他、シートクッションやオットマンに設けられるものであっても良い。
【0063】
温感提示装置がシートクッションやオットマンに設けられる場合、振動刺激部の並び方向は、着座者の対応する皮膚分節の並び方向に対応して、シート幅方向となる。すなわち、
図4に示すように、着座者の尻部や大腿部、それに下腿部では、皮膚分節の伸びる方向が足の伸びる方向となり、このような皮膚分節が左右に複数並ぶ配置となるためである。
【0064】
3.振動刺激部及び/又は温度刺激部は、必ずしもシート装置の天板部上に対称配置されていなくても良い。また、振動刺激部及び/又は温度刺激部は、シート座面に沿った着座者の皮膚分節の並び方向に3つ以上ずつ配列されて、各々の並びの間でファントムセンセーション或いは熱ファントムセンセーションによる温度感覚の転写が行われるものであっても良い。
【0065】
4.上記実施形態では、温感提示装置が、複数の振動刺激部を用いたファントムセンセーションによる温度感覚の転写と、複数の温度刺激部を用いた熱ファントムセンセーションによる温度感覚の転写と、の両方を行えるようになっていたが、どちらか一方のみで温度感覚の転写を行うようになっていても良い。すなわち、ファントムセンセーションによる温度感覚の転写を行う場合には、少なくとも1つの温度刺激部と、複数の振動刺激部と、が必要となる。
【0066】
しかし、熱ファントムセンセーションによる温度感覚の転写を行う場合には、温度刺激部があれば良く、振動刺激部は不要となる。したがって、温度刺激部の数を増やしたり設置領域を広げたりすることで、広範囲に亘って温度感覚の転写を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1 シート装置
2 シートバック
2A 天板部
3 シートクッション
4 ヘッドレスト
10 温感提示装置
11 面状発熱体(温度刺激部)
12 振動子(振動刺激部)
13 制御部
Seg 皮膚分節
P 感知部