(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185296
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】衛星画像の位置合わせ方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
G01S13/90 176
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092880
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】岩城 英朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD17
5J070AE07
5J070AF08
5J070AH19
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】従来のSAR画像を用いた位置合わせよりも衛星画像の位置ずれ及び歪みを少なくする。
【解決手段】本発明に係る衛星画像の位置合わせ方法では、多偏波で観測された多偏波観測データに基づく衛星画像をマスター画像310とし、多偏波観測データから得た垂直偏波や水平偏波での送受信に関する各成分に基づき、共分散行列を用いて、2回散乱強度、体積散乱強度、ヘリックス散乱強度に関する情報を取得する。また、マスター画像310内で、2回散乱強度が所定強度よりも高い第1特徴点と、ヘリックス散乱強度が所定強度よりも高い第2特徴点と、を抽出し、各スレーブ画像330内で周囲よりも散乱波強度が高い類似点を選択する。また、第1特徴点及び第2特徴点の各座標と類似点の各座標との間の変換関数に基づいて、マスター画像310に対する複数のスレーブ画像330の位置合わせを行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成開口レーダを備えた人工衛星によって多偏波で観測された多偏波観測データに基づく衛星画像を位置合わせ元のマスター画像とし、前記多偏波観測データから、垂直偏波で送信し且つ垂直偏波で受信した観測データを表すVV成分と、垂直偏波で送信し且つ水平偏波で受信した観測データを表すVH成分と、水平偏波で送信し且つ水平偏波で受信した観測データを表すHH成分と、水平偏波で送信し且つ垂直偏波で受信した観測データを表すHV成分と、を取得する偏波別情報取得工程と、
前記VV成分、前記VH成分、前記HH成分、及び前記HV成分の4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて2回散乱強度を表すPd成分、体積散乱強度を表すPv成分、ヘリックス散乱強度を表すPc成分の少なくとも3つの成分に関する情報を取得する散乱強度情報取得工程と、
前記マスター画像内で前記2回散乱強度が所定強度よりも高い点を第1特徴点として抽出し、前記マスター画像内で前記ヘリックス散乱強度が所定強度よりも高い点を第2特徴点として抽出する特徴点抽出工程と、
位置合わせ対象の衛星画像をスレーブ画像として前記スレーブ画像内で周囲よりも散乱波強度が高い類似点を選択する類似点選択工程と、
前記第1特徴点の座標及び前記第2特徴点の各座標と前記類似点の座標との間の変換関数を算出し、前記変換関数に基づいて前記マスター画像に対する前記スレーブ画像の位置合わせを行う位置合わせ工程と、
を備える、
衛星画像の位置合わせ方法。
【請求項2】
前記特徴点抽出工程において、前記第1特徴点と前記第2特徴点の総数が所定数よりも少ない場合、及び前記第1特徴点と前記第2特徴点が偏在する場合の少なくとも何れかの場合は、
前記特徴点抽出工程において、
前記マスター画像内で前記体積散乱強度が所定強度よりも高い点を第3特徴点として抽出し、
位置合わせ工程において、
前記第1特徴点の座標、前記第2特徴点、及び前記第3特徴点の各座標と前記類似点の座標との間の変換関数を算出し、前記変換関数に基づいて前記マスター画像に対する前記スレーブ画像の位置合わせを行う、
請求項1に記載の衛星画像の位置合わせ方法。
【請求項3】
前記散乱強度情報取得工程において、
前記4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて表面散乱強度を表すPs成分を取得し、
前記Ps成分、前記Pd成分、及び前記Pv成分を合成し、前記マスター画像内の前記ヘリックス散乱強度の高低を算出して前記Pc成分に関する情報を取得する、
請求項1又は2に記載の衛星画像の位置合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星画像の位置合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地表の様子や変動を広範囲且つ高分解能で捉えるために、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)による観測が行われている。SARでは、レーダを搭載した人工衛星(以下、SAR衛星)や航空機の移動中に、地表へのマイクロ波の照射と地表からの反射波の受信とを行い、複数の情報を合成する。
【0003】
SARの観測データには、所定の軌道に対する衛星や航空機の実際の軌道のずれや、観測対象の地表近くの天候や水蒸気量等の影響によって、観測対象の地表に対する位置ずれや歪みが生じる。例えば、公知の差分干渉解析法や時系列干渉解析法を用いて地表において変位が生じている変位場所と変位量を推定する場合に、SAR画像の位置ずれや歪みを補正し、複数枚のSAR画像の位置合わせを行う必要がある。
【0004】
複数枚のSAR画像の位置合わせを行うためには、複数枚のSAR画像に共通する特徴点(Ground Control Point;GCP、対応点とも呼ばれる)を各々のSAR画像内で抽出する必要がある。また、1枚のSAR画像(マスター画像)で選択した複数のGCPの各々とそれに対応する残りのSAR画像(スレーブ画像)で検出したGCPとの座標変換式を求め、求めた座標変換式をスレーブ画像に適用することによって、マスター画像とスレーブ画像との位置合わせを行うことができる。
【0005】
複数枚のSAR画像の位置合わせを行う方法として、種々提案されており、例えば観測した地域のデジタル標高データ(Digital Elevation Model)を用いてSAR画像同士の位置ずれを補正する方法が提案されている。また、観測によって得た2枚以上のSAR画像において共通する複数のGCPを抽出し、それらの正規化相互関数を求め、求めた正規化相互関数をSAR画像に適用する方法(例えば、非特許文献1を参照)、位相限定相関法によってマスター画像及びスレーブ画像の対応点を探索し、ロバスト推定による画像の位置合わせを行い、変位ベクトルを算出し、SAR画像同士の位置ずれを補正する方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】飛田幹男,藤原智,村上亮,中川弘之:干渉SARのための高精度画像マッチング,測地学会誌,第45巻,第4号, pp. 297-314 (1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2枚以上のSAR画像(衛星画像)を高精度に位置合わせを行う際には、複数枚のSAR画像に共通するGCPを各々のSAR画像内でできる限り多く、且つ局所的なばらつきを少なくして平均的に抽出する必要がある。また、複数枚のSAR画像からGCPを実際に抽出するためには、1枚のマスター画像内で散乱波強度が高い複数の点を選択し、それらの点と類似する複数の点(即ち、散乱波強度が高い点)を検出し、これらの点をGCPとして座標変換式を求め、その座標変換値を各々のスレーブ画像に適用する。即ち、マスター画像とスレーブ画像との位置合わせの精度は、GCPの数及び相対配置に直接影響を受ける。
【0008】
しかしながら、マスター画像とスレーブ画像では観測条件が異なるため、上述のようにマスター画像内で単に散乱波強度が高い複数のGCPを選択したとしても、それらのGCPをスレーブ画像で参照可能かということ、及びマスター画像で選択した複数のGCPは時間経過によって変動しない点であるかということは不明確であった。そのため、従来のSAR画像を用いた位置合わせでは、前述の不明確さに起因してSARによる観測で得られた衛星画像の位置ずれ及び歪みが少なからず残っていた。
【0009】
また、GCPは、例えば大型の構造物、長大な橋梁、埋立地の護岸の角部、交差点、河川堤防の角部や道路の曲がりに対して設定されることが適切であるが、SAR画像内の散乱波強度の高低で地表の構造物等の形状を判別できるとは限らない。そのため、マスター画像内での散乱波強度の違いのみから地表における前述の構造物等の形状に適したGCPを効率良く抽出することは難しい。その場合、SAR衛星とは別の光学衛星により別途取得した光学画像や地図等を参照する必要性が生じる。つまり、従来では、光学画像や地図等との組み合わせや参照を行わないと、従来のSAR画像を用いた位置合わせでは、地上の特徴的な構造物に関する衛星画像の位置ずれや歪みがある程度発生する虞があった。
【0010】
本発明は、従来のSAR画像を用いた位置合わせよりも衛星画像の位置ずれ及び歪みを少なくする衛星画像の位置合わせ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る衛星画像の位置合わせ方法は、合成開口レーダを備えた人工衛星によって多偏波で観測された多偏波観測データに基づく衛星画像を位置合わせ元のマスター画像とし、前記多偏波観測データから、垂直偏波で送信し且つ垂直偏波で受信した観測データを表すVV成分と、垂直偏波で送信し且つ水平偏波で受信した観測データを表すVH成分と、水平偏波で送信し且つ水平偏波で受信した観測データを表すHH成分と、水平偏波で送信し且つ垂直偏波で受信した観測データを表すHV成分と、を取得する偏波別情報取得工程と、前記VV成分、前記VH成分、前記HH成分、及び前記HV成分の4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて2回散乱強度を表すPd成分、体積散乱強度を表すPv成分、ヘリックス散乱強度を表すPc成分の少なくとも3つの成分に関する情報を取得する散乱強度情報取得工程と、前記マスター画像内で前記2回散乱強度が所定強度よりも高い点を第1特徴点として抽出し、前記マスター画像内で前記ヘリックス散乱強度が所定強度よりも高い点を第2特徴点として抽出する特徴点抽出工程と、位置合わせ対象の衛星画像をスレーブ画像として前記スレーブ画像内で周囲よりも散乱波強度が高い類似点を選択する類似点選択工程と、前記第1特徴点の座標及び前記第2特徴点の各座標と前記類似点の座標との間の変換関数を算出し、前記変換関数に基づいて前記マスター画像に対する前記スレーブ画像の位置合わせを行う位置合わせ工程と、を備える。
【0012】
上述の衛星画像の位置合わせ方法では、多偏波観測データに基づくマスター画像において複数の偏波情報による絶対的且つ時間経過による変動の少ない安定的な特徴点(第1特徴点、第2特徴点)が抽出される。また、マスター画像において、単偏波観測データのみでは抽出が難しい、地表面の構造物等の情報をふまえた特徴点が抽出される。そのため、上述の衛星画像の位置合わせ方法によれば、多偏波観測データに基づくマスター画像を基にして位置合わせ対象の全てのスレーブ画像の位置を高精度に合わせることができる。したがって、多偏波観測データに基づくマスター画像を導入することによって、従来の単偏波観測データのみに基づくSAR画像を用いた位置合わせよりも位置合わせ対象のスレーブ画像の位置ずれ及び歪みを少なくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る衛星画像の位置合わせ方法では、前記特徴点抽出工程において、前記第1特徴点と前記第2特徴点の総数が所定数よりも少ない場合、及び前記第1特徴点と前記第2特徴点が偏在する場合の少なくとも何れかの場合は、前記特徴点抽出工程において、前記マスター画像内で前記体積散乱強度が所定強度よりも高い点を第3特徴点として抽出し、位置合わせ工程において、前記第1特徴点の座標、前記第2特徴点、及び前記第3特徴点の各座標と前記類似点の座標との間の変換関数を算出し、前記変換関数に基づいて前記マスター画像に対する前記スレーブ画像の位置合わせを行ってもよい。
【0014】
上述の衛星画像の位置合わせ方法では、所定数及び特徴点の偏在度が適切に設定されることによって、従来の単偏波観測データのみに基づくSAR画像を用いた位置合わせよりもマスター画像と複数のスレーブ画像の各々との位置合わせの精度がさらに高まる。
【0015】
また、本発明に係る衛星画像の位置合わせ方法では、前記散乱強度情報取得工程において、前記4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて表面散乱強度を表すPs成分を取得し、前記Ps成分、前記Pd成分、及び前記Pv成分を合成し、前記マスター画像内の前記ヘリックス散乱強度の高低を算出して前記Pc成分に関する情報を取得してもよい。
【0016】
上述の衛星画像の位置合わせ方法では、例えばPs成分、Pd成分、及びPv成分を光の3原色の階調値で定量的に表した画像情報とし、RGBの画像を合成することによって、合成画像内の白色の明度やカラーバランス等によってPc成分の情報を容易に把握可能である。したがって、マスター画像内のヘリックス散乱強度に関するPc成分の情報が容易に取得される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のSAR画像を用いた位置合わせよりも衛星画像の位置ずれ及び歪みを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法を実現するための衛星画像補正システムと関連する構成要素の概略図である。
【
図2】本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法の処理を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法を説明するための概念図である。
【
図4】本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法を説明するための概念図である。
【
図5】従来の衛星画像の位置合わせ方法を説明するための概念図である。
【
図6】従来の衛星画像の位置合わせ方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る衛星画像の位置合わせ方法について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、地表観測システム50は、本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法を用いて地表面G(即ち、地表)の観測を行う。地表観測システム50は、複数のSAR衛星(人工衛星)100と、複数のSAR衛星100の各々と通信可能な位置合わせシステム200と、を備える。
【0021】
複数のSAR衛星100の各々は、地表面Gの上空の所定の軌道上で周回している。
図1には、複数のSAR衛星100のうちの2つのSAR衛星101、102が示されている。複数のSAR衛星100のうち、少なくともSAR衛星100は、SAR(合成開口レーザ)を備え、地表面Gの観測領域Rを多偏波で観測可能に構成されている。SAR衛星100は、例えば地表面Gに対して水平なH偏波(水平偏波)を発信及び受信可能なアンテナと、地表面Gに対して垂直なV偏波(垂直偏波)を発信及び受信可能なアンテナと、H偏波及びV偏波に関する電波信号を前述の各アンテナに対して出入力可能に構成された信号処理部と、を備える。複数のSAR衛星100のうち、SAR衛星102は、観測領域Rを単偏波で観測可能に構成されている。
【0022】
位置合わせシステム200は、地表面Gに設けられた基地局等に設置され、次に説明する処理を行うプログラムを内蔵している計算機或いはパーソナルコンピュータ等で構成されている。前述の基地局には、位置合わせシステム200の他に、複数のSAR衛星100の制御や周回移動の軌道の調整等を行う制御システム、各システムを稼働させるための電源、及び複数のSAR衛星100の各々との各種信号の送受信を行うアンテナ等が設けられている。位置合わせシステム200は、複数のSAR衛星100の各々と無線で通信可能である。
【0023】
図2は、位置合わせシステム200が行う、本発明に係る一実施形態の衛星画像の位置合わせ方法のフローチャートである。本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法は、少なくとも偏波別情報取得工程と、散乱強度情報取得工程と、特徴点抽出工程と、位置合わせ工程と、を備える。以下に、各工程について説明する。
【0024】
<偏波別情報取得工程>
偏波別情報取得工程において、位置合わせシステム200は、SAR衛星101から多偏波で観測された多偏波観測データ151を受信し、多偏波観測データ151に基づいて多偏波SAR画像(多偏波で観測された衛星画像)を作成する(ステップS251)。多偏波観測データ151には、例えば偏波の向き(V/H)、電波の波長、SAR衛星101から出射した電波の進路の地表面Gに対する角度等が含まれる。位置合わせシステム200は、作成した多偏波SAR画像を位置合わせ元のマスター画像310(
図3参照)とする。
【0025】
位置合わせシステム200は、多偏波観測データ151を、VV成分、VH成分、HH成分、及びHV成分の4つの成分に分解し、各成分の情報を取得する(ステップS252)。VV成分は、V偏波で観測領域Rに送信し、且つV偏波で観測領域Rから受信した観測データを表す。VH成分は、V偏波で観測領域Rに送信し、且つH偏波で観測領域Rから受信した観測データを表す。HH成分は、H偏波で観測領域Rに送信し、且つH偏波で観測領域Rから受信した観測データを表す。HV成分は、H偏波で観測領域Rに送信し、且つH偏波で観測領域Rから受信した観測データを表す。
【0026】
<散乱強度情報取得工程>
散乱強度情報取得工程において、位置合わせシステム200は、VV成分、VH成分、HH成分、及びHV成分の4つの成分及びその情報から、共分散行列(所謂、coherency行列)を用いて少なくともPd成分、Pv成分、及びPc成分の3つの成分を算出し、これら3つの成分に関する情報を取得する(ステップS253)。
【0027】
Pd成分は、2回散乱強度を表し、例えば地表面Gの地面や海面と人工物の側面や木の幹等との直角構造から主に生じる。Pv成分は、体積散乱強度を表し、例えば地表面Gの植生等から主に生じる。Pc成分は、ヘリックス散乱強度を表し、直線偏波を円偏波に変える。例えば、多偏波の上述の4つの成分に対し、共分散行列に基づく4成分分解アルゴリズム等を適用することによって、少なくとも上述の3つの成分を算出でき、さらにPs成分を算出できる。Ps成分は、表面散乱強度を表し、例えば地表面Gの平坦な地面や海面から主に生じる。
【0028】
<特徴点抽出工程>
特徴点抽出工程において、位置合わせシステム200は、
図3に示すように、マスター画像310内で2回散乱強度(即ち、Pd成分)が所定強度よりも高い点を第1特徴点GCP1として抽出し(ステップS254)、マスター画像310内でヘリックス散乱強度(即ち、Pc成分)が所定強度よりも高い点を第2特徴点GCP2として抽出する(ステップS255)。例えば、2回散乱強度の高低を光の3原色のうち赤(R)の階調値で定量的に表して画像化したマスター画像(図示略)において、2回散乱強度が所定強度よりも高い点の座標(x
1-1,y
1-1)、(x
1-2,y
1-2)、…、(x
1-a,y
1-a)を記録し、マスター画像310に反映することによって第1特徴点GCP1-1,…,GCP1-aとして抽出できる。2回散乱強度に関する所定強度は、適宜設定することができる。aは、2回散乱強度に関する所定強度によって変化する自然数である。
【0029】
2回散乱強度と同様に、体積散乱強度(即ち、Pv成分)の高低を光の3原色のうち緑(G)の階調値で定量的に表して画像化したマスター画像(図示略)において、体積散乱強度が所定強度よりも高い点の座標(x3-1,y3-1)、(x3-2,y3-2)、…、(x3-b,y3-b)を記録し、マスター画像310に反映することによって第3特徴点GCP3-1,…,GCP3-bとして抽出できる。体積散乱強度に関する所定強度は、適宜設定することができる。bは、体積散乱強度に関する所定強度によって変化する自然数である。また、表面散乱強度(即ち、Ps成分)の高低を光の3原色のうち青(B)の階調値で定量的に表して画像化する。なお、従来用いられている単偏波観測でのSAR画像における散乱波強度に概ね相当するPs成分は、地表面Gの観測対象物がSAR衛星に正対していない限り、比較的低く、少なくとも表面散乱強度に関する所定強度に相当する閾値よりも低くなる。
【0030】
ヘリックス散乱強度のPc成分の高低は、Pd成分、Pv成分、及びPs成分の合成値に基づいて判別できる。具体的には、上述のPd成分に関する赤の画像、Pv成分に関する緑の画像、及びPs成分に関する青の画像の3画像を合成し、3原色の合成色、即ち白色の明度で表されるヘリックス散乱強度が所定強度よりも高い点の座標(x2-1,y2-1)、(x2-2,y2-2)、…、(x2-d,y2-d)を記録し、マスター画像310に反映することによって第2特徴点GCP2-1,…,GCP2-dとして抽出できる。ヘリックス散乱強度に関する所定強度は、適宜設定することができる。dは、ヘリックス強度に関する所定強度によって変化する自然数である。本明細書中では、第1、第2及び第3のうち何れかの特徴点GCP#-1、…、GCP#-(a、d、bのうちの何れか)について共通する内容を説明する際には、これらの特徴点をまとめてGCP#と記載する。
【0031】
マスター画像310内の特徴点としては、Pd成分に起因する第1特徴点GCP1とPc成分に起因する及び第2特徴点GCP2を抽出する。但し、第1特徴点GCP1の総数aと第2特徴点GCP2の総数dとの和(a+d)(第1特徴点と第2特徴点の総数)が所定数よりも少ない場合は、マスター画像310内の特徴点として、第1特徴点GCP1及び第2特徴点GCP2に加えて第3特徴点GCP3を抽出することが好ましい(ステップS256)。所定数は、観測データの取得時の環境及び条件等をふまえて、適宜設定される。
【0032】
また、第1特徴点GCP1及び第2特徴点GCP2の少なくとも一方の特徴点がマスター画像310において偏在する場合も、マスター画像310内の特徴点として、第1特徴点GCP1及び第2特徴点GCP2に加えて第3特徴点GCP3を抽出することが好ましい(ステップS257)。第1特徴点GCP1及び第2特徴点GCP2の各々の閾値となる偏在度は、観測データの取得時の環境及び条件等をふまえて、適宜設定される。
【0033】
<類似点選択工程>
類似点選択工程において、位置合わせシステム200は、SAR衛星102(あるいは、複数のSAR衛星100のうちのSAR衛星102以外の単偏波の観測を行うSAR衛星)から単偏波で観測された単偏波観測データ152を受信し、単偏波観測データ152に基づいて単偏波SAR画像を作成する(ステップS258)。単偏波観測データ152には、例えば偏波の向き(V/H)、電波の波長、SAR衛星102から出射した電波の進路の地表面Gに対する角度等が含まれる。位置合わせシステム200は、作成した単偏波SAR画像を位置合わせ対象のスレーブ画像331、332(
図3参照)とする。なお、
図3には、2つのスレーブ画像331、332のみを例示しているが、スレーブ画像の枚数(総数)は3以上であってもよく、特定数に限定されない。以降では、複数のスレーブ画像について共通する内容を説明する際には、これらのスレーブ画像をまとめてスレーブ画像330と記載する。スレーブ画像330の総数は、例えば10以上であり、20以上であることが好ましい。
【0034】
複数のスレーブ画像330の各々内で、必ずしも散乱強度が高くなくても見た目が似ている点、即ち周囲よりも散乱波強度が高い点を類似点APとして選択する(ステップS259)。例えば、
図3に示すようにスレーブ画像331内で周囲よりも散乱波強度が高い複数の類似点AP
1-1、AP
1-2、…、AP
1-eを選択し、各類似点の座標(x´
1-1,y´
1-1)、(x´
1-2,y´
1-2)、…、(x´
1-e,y´
1-e)の情報を取得する。また、スレーブ画像332内で周囲よりも散乱波強度が高い複数の類似点AP
2-1、AP
2-2、…、AP
2-eを選択し、各類似点の座標(x´
2-1,y´
2-1)、(x´
2-2,y´
2-2)、…、(x´
2-e,y´
2-e)の情報を取得する。eは、複数のスレーブ画像330で互いに同一の自然数であり、マスター画像310における第1特徴点GCP1、第2特徴点GCP2、及び必要に応じての第3特徴点GCP3の総数と同じであることが好ましい。本明細書中では、複数のスレーブ画像330の各々で選択された類似点AP
1-1、AP
1-2、…、AP
1-eについて共通する内容を説明する際には、これらの類似点をまとめてAPと記載する。
【0035】
<位置合わせ工程>
位置合わせ工程において、位置合わせシステム200は、第1特徴点GCP1、第2特徴点GCP2、及び必要に応じての第3特徴点GCP3の各座標(x,y)と類似点APの各座標(x´,y´)との間の変換関数f
nを算出する(ステップS260)。nは、複数のスレーブ画像330の番号を表す。つまり、マスター画像310に対するスレーブ画像331の変換関数は、f
1と表す。
図3に示すように、例えば、変換関数f
1を、第1特徴点GCP1-1の座標(x
1-1,y
1-1)と類似点AP
1-1の座標(x´
1-1,y´
1-1)との間、…、第2特徴点GCP2-1の座標(x
2-1,y
2-1)と類似点AP
1-3の座標(x´
1-3,y´
1-3)との間、…、第3特徴点GCP3-1の座標(x
3-1,y
3-1)と類似点AP
1-5の座標(x´
1-5,y´
1-5)との間の各々の変換変数として算出する。同様に、マスター画像310に対するスレーブ画像332の変換関数f
2を、第1特徴点GCP1-1の座標(x
1-1,y
1-1)と類似点AP
2-1の座標(x´
2-1,y´
2-1)との間、…、第2特徴点GCP2-1の座標(x
2-1,y
2-1)と類似点AP
2-3の座標(x´
2-3,y´
2-3)との間、…、第3特徴点GCP3-1の座標(x
3-1,y
3-1)と類似点AP
2-5の座標(x´
2-5,y´
2-5)との間の各々の変換変数として算出する。
【0036】
図3及び
図4に示すように、位置合わせシステム200は、変換関数f
nに基づいてマスター画像310とn番目のスレーブ画像330との位置合わせを行う(ステップS261)。以上の工程を行うことによって、多偏波観測されたマスター画像310に対して単偏波観測された複数のスレーブ画像330の各々を位置合わせできる。
【0037】
以上説明した本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法は、偏波別情報取得工程と、散乱強度情報取得工程と、特徴点抽出工程と、類似点選択工程と、位置合わせ工程と、を備える。偏波別情報取得工程では、SAR衛星(合成開口レーダを備えた人工衛星)によって多偏波で観測された多偏波観測データ151に基づくSAR画像(衛星画像)を位置合わせ元のマスター画像310とし、多偏波観測データ151から、V偏波で送信し且つV偏波で受信した観測データを表すVV成分と、V偏波で送信し且つH偏波で受信した観測データを表すVH成分と、H偏波で送信し且つH偏波で受信した観測データを表すHH成分と、H偏波で送信し且つV偏波で受信した観測データを表すHV成分と、を取得する。散乱強度情報取得工程では、VV成分、VH成分、HH成分、及びHV成分の4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて2回散乱強度を表すPd成分、体積散乱強度を表すPv成分、ヘリックス散乱強度を表すPc成分の少なくとも3つの成分に関する情報を取得する。本実施形態では、前述の3つの成分に加え、表面散乱強度を表すPs成分に関する情報も取得する。特徴点抽出工程では、マスター画像310内で2回散乱強度が所定強度よりも高い点を第1特徴点GCP1として抽出し、マスター画像310内でヘリックス散乱強度が所定強度よりも高い点を第2特徴点GCP2として抽出する。類似点選択工程では、従来の衛星画像の位置合わせと同様に、位置合わせ対象の衛星画像をスレーブ画像330として各スレーブ画像330内で周囲よりも散乱波強度が高い類似点APを選択する。位置合わせ工程では、第1特徴点GCP1又は第2特徴点GCP2の各座標と類似点APの各座標との間の変換関数fnを算出し、変換関数fnに基づいてマスター画像310に対する複数のスレーブ画像330の位置合わせを行う。
【0038】
本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法によれば、多偏波観測データ151に基づくマスター画像310を基準にするため、マスター画像310において複数の偏波(V/H)情報による絶対的且つ時間経過による変動の少ない安定的な特徴点(第1特徴点GCP1、第2特徴点GCP2)を抽出できる。また、マスター画像310において、単偏波観測データのみでは抽出が難しい、例えば、大型の構造物、長大な橋梁、埋立地の護岸の角部、交差点、河川堤防の角部や道路の曲がり等の情報をふまえて特徴点を抽出できる。そのため、本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法によれば、マスター画像310を基にして位置合わせ対象の全てのスレーブ画像330の位置を高精度に合わせることができる。一方、従来の衛星画像の位置合わせ方法では、
図5に示すように単偏波観測データに基づく複数のSAR画像のうちの1枚のSAR画像をマスター画像351とし、残りのSAR画像をスレーブ画像352、…とする(
図5には、スレーブ画像352のみを例示している)。マスター画像351内で周囲よりも散乱波強度が高い複数の点を類似点BP
1、…、BP
k(
図5及び
図6では、k=5)とし、スレーブ画像350の各々内で周囲よりも散乱波強度が高い複数の点を類似点AP
1、…、AP
kとする。類似点BP
1、…、BP
kの各座標(x,y)と類似点AP
1、…、AP
kの各座標(x´,y´)との間に変換関数fを求める。変換関数fに基づいて類似点BP
1、…、BP
kに類似点AP
1、…、AP
kを合わせようとすると、
図6に示すように、類似点BPと類似点APとが大きくずれてしまい、位置ずれや歪みが発生する。しかしながら、多偏波観測データ151に基づくマスター画像310を導入することによって、従来の単偏波観測データのみに基づくSAR画像を用いた位置合わせよりも位置合わせ対象のスレーブ画像(衛星画像)330の位置ずれ及び歪みを少なくすることができる。
【0039】
また、本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法では、特徴点抽出工程において、第1特徴点GCP1と第2特徴点GCP2の総数(a+d)が所定数よりも少ない場合、及び第1特徴点GCP1と第2特徴点GCP2が偏在する場合の少なくとも何れかの場合は、特徴点抽出工程において、マスター画像310内で体積散乱強度が所定強度よりも高い点を第3特徴点GCP3として抽出する。加えて、位置合わせ工程において、第1特徴点GCP1の座標、第2特徴点GCP2だけではなく、第3特徴点GCP3との各座標と前記類似点の座標との間の変換関fn数を算出し、変換関数fnに基づいてマスター画像310に対するスレーブ画像330の各々の位置合わせを行う。
【0040】
本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法では、マスター画像310内の特徴点の数及び偏在度を、マスター画像310と複数のスレーブ画像330の各々との位置合わせの精度を高められる数及び偏在度にするために、第1特徴点GCP1及び第2特徴点GCP2に加えて第3特徴点GCP3を導入できる。つまり、本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法によれば、従来の単偏波観測データのみに基づくSAR画像を用いた位置合わせよりもマスター画像310と複数のスレーブ画像330の各々との位置合わせの精度をさらに高めることができる。
【0041】
また、本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法では、散乱強度画像取得工程において、VV成分、VH成分、HH成分、及びHV成分の4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて表面散乱強度を表すPs成分を取得し、Ps成分、Pd成分、及びPv成分を合成し、マスター画像310内のヘリックス散乱強度の高低を算出してPc成分に関する情報を取得できる。
【0042】
本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法によれば、例えば多偏波観測データのPs成分、Pd成分、及びPv成分を光の3原色(RGB)の階調値で定量的に表した画像情報とし、RGBの画像を合成することによって、合成画像内の白色の明度やカラーバランスによってPc成分の情報を容易に把握できる。したがって、本実施形態の衛星画像の位置合わせ方法によれば、マスター画像310内のヘリックス散乱強度に関するPc成分の情報を容易に取得できる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0044】
例えば、上述の実施形態において、SAR衛星101とSAR衛星102が互いに同一のSAR衛星で構成されてもよく、当該SAR衛星が多偏波及び単偏波の両方で観測可能に構成されていてもよい。その場合、例えば複数のスレーブ画像330は、マスター画像310を観測した時期とは異なる時期に当該SAR衛星が観測領域Rに向けて周回した際に観測された単偏波でのデータに基づいてもよい。また、上述の実施形態において、スレーブ画像330は、1枚であってもよい。
【0045】
例えば、上述の実施形態において、多偏波観測データのPs成分、Pd成分、及びPv成分を光の3原色の階調値で定量的に表した画像情報とし、RGBの画像を合成することによって、ヘリックス散乱強度に関するPc成分の情報を取得できる旨を説明したが、多偏波観測データのVV成分、VH成分、HH成分、及びHV成分の4つの成分に関する情報から、共分散行列を用いて求めた4つの成分から、Pc成分の高低を定量的に直接確認することもできる。
【符号の説明】
【0046】
100、101、102…SAR衛星(人工衛星)
200…位置合わせシステム