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特開2022-185340熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185340
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/04 20060101AFI20221207BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B21D24/04 Z
B21D22/20 H
B21D24/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092953
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】栗田 僚
(72)【発明者】
【氏名】福田 彩乃
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA08
4E137AA10
4E137AA11
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC06
4E137BC07
4E137CA09
4E137CA24
4E137DA03
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA36
4E137EA40
4E137GA03
4E137GB03
4E137HA07
4E137HA10
(57)【要約】
【課題】熱間プレス製品に割れ又はシワが発生することを抑制し、また、熱間プレス製品の寸法精度の低下を抑制し、高い生産性を得る。
【解決手段】内部に冷媒流路15,16を有する上型及び下型と、ブランクホルダー14とを用いて、加熱された被成形材20Aを熱間プレス成形することにより熱間プレス製品を製造する。上型と下型とを接近させて、上型の外周押え面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gを被成形材20Aの厚さよりも大きい所定間隔に維持した状態で、被成形材20Aを上型と下型との間において絞り成形する。成形下死点に到達する前に、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、上型の外周押え面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gから抜ける。成形下死点に到達したときに、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、上型の外周押え面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gに残らず、上型と下型との間に挟まれる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷媒流路を有する上型及び下型と、ブランクホルダーとを用いて、加熱された被成形材を熱間プレス成形することにより熱間プレス製品を製造する方法であって、
前記上型と前記下型とを接近させて、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間を前記被成形材の厚さよりも大きい所定間隔に維持した状態で、前記被成形材を前記上型と前記下型との間において絞り成形し、
成形下死点に到達する前に、前記被成形材の外周の絞り上り部が、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間から抜け、
前記成形下死点に到達したときに、前記被成形材の外周の絞り上り部が、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間に残らず、前記上型と前記下型との間に挟まれる、
熱間プレス製品の製造方法。
【請求項2】
前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間を、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との間に設けられる隙間維持部を用いて前記所定間隔に維持する、
請求項1に記載の熱間プレス製品の製造方法。
【請求項3】
内部に冷媒流路を有する上型及び下型と、ブランクホルダーと、を備え、
前記上型と前記下型とが接近されて、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間が被成形材の厚さよりも大きい所定間隔に維持された状態で、前記被成形材が前記上型と前記下型との間において絞り成形され、
成形下死点に到達する前に、前記被成形材の外周の絞り上り部が、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間から抜け、
前記成形下死点に到達したときに、前記被成形材の外周の絞り上り部が、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間に残らず、前記上型と前記下型との間に挟まれる、
熱間プレス成形装置。
【請求項4】
前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との間に設けられ、前記上型の外周押え面と前記ブランクホルダーの上面との隙間を前記所定間隔に維持する隙間維持部を備える、
請求項3に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項5】
前記隙間維持部は、前記上型の外周押え面及び前記ブランクホルダーの上面の少なくとも一方に設けられる、
請求項4記載の熱間プレス成形装置。
【請求項6】
前記ブランクホルダーを弾性支持する弾性支持部を備え、
前記隙間維持部と前記弾性支持部とが平面視において重なる位置にある、
請求項4又は5に記載の熱間プレス成形装置。
【請求項7】
前記上型の外周押え面近傍の部位、及び前記ブランクホルダーには、前記冷媒流路が設けられていない、
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の熱間プレス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上のために、ピラー、サイドシル、ルーフレール等の自動車骨格部品のより一層の軽量化が望まれており、薄板超高張力鋼板を用いた熱間プレス成形が多く用いられている。
【0003】
熱間プレス成形は、ホットスタンプ、ホットプレス、熱間成形とも称されるものである。この熱間プレス成形は、高温に加熱された被成形材(ブランク材)をプレス成形し、さらに下死点において冷媒により冷却された金型内において急冷して抜熱し、焼き入れることにより高強度の成形品を得る技術である。
【0004】
熱間プレス成形後(焼き入れ後)の製品は延性に乏しく、後工程でプレス成形することは困難であるため、熱間プレスにおける曲げ加工のみでは成形できないような複雑な形状の製品の場合、熱間プレスにおいて絞り加工を用いた成形が実施される。
【0005】
しかし、熱間プレスにおける絞り成形では、冷間プレスの絞り成形のようにダイ(ダイフェース面)とブランクホルダーとで被成形材を強固にクランプ(挟持)すると、被成形材の被クランプ部が冷媒により冷却された金型による抜熱で急激に冷却され、絞り成形時に材料流動が起こらずに、局所的な減肉(板厚減少)が起こり得る。このため、被成形材に割れが発生する可能性が増し、複雑な形状のプレス成形が困難になる。また、その反面、熱間プレス成形ではその成形性及び強度保持のために、下死点に保持された被成形品を、冷媒により冷却された金型により急速に冷却したいのが実情である。
【0006】
熱間プレスにおける絞り成形方法として、特許文献1には、シワ押え部(ブランクホルダー)の上部をアブソーバーで保持し、シワ押え部の下部を弾性部材で保持し、プレス成形過程で突出面(ダイフェース面)とシワ押え面との隙間を維持した状態で被成形材が成形され、下死点到達後に突出部とシワ押え部とを近接させて、被成形材を挟み込むようにした成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-147970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、ブランクホルダー(シワ押え部)の下面と下型の支持部の上面との間に設けられた弾性部材でブランクホルダーを保持した状態で熱間プレスが開始され、上型のダイフェース面(突出部の下面)とブランクホルダーの上面との隙間管理をアブソーバーで行っている。すなわちアブソーバーのバネ定数が弾性部材のバネ定数よりも大きいため、熱間プレス成形の途中(ブランクホルダーが下降している間)はアブソーバーにより隙間を維持し、下死点ではアブソーバーが縮むことにより隙間がなくなるように構成されている。すなわち熱間プレスのための金型のダイフェース面は、成形過程では被成形材の温度を維持するための隙間管理が必要となり、下死点では被成形品を急冷するために均等な面接触が必要となっている。
【0009】
しかしながら、このような上下の圧力源(アブソーバー及び弾性部材)を用いた隙間管理方法では、成形過程の被成形材の形状により圧力バランスの調整が難しく、ダイとブランクホルダーとの隙間がばらつき、被成形品に割れ又はシワが発生しやすくなる。
【0010】
また、下死点においてダイに対するポンチとブランクホルダーとの隙間を均一にするための高さ調整が極めて困難で、ダイフェース面上の被成形品の板厚変化部への均等な面接触が難しく、冷却性の低下及び冷却ムラという不具合が生じるおそれがある。
【0011】
また、被成形品の冷却性の低下により、被成形材の焼き入れ時間が長くなり被成形材の金型内保持時間を短縮することが妨げられ、生産性の低下を招いてしまう。
【0012】
また、被成形品に冷却ムラが生じると、焼き入れ硬度がばらつき、熱間プレス製品の寸法精度が低下するおそれがある。
【0013】
さらに、隙間を担保するアブソーバーは大きなガススプリング等を用いたものが必要であり、金型構造の大型化及び複雑化を招き、非常に高価な熱間プレス成形装置となっていた。
【0014】
そこで、本発明は、熱間プレス製品に割れ又はシワが発生することを抑制し、また、熱間プレス製品の寸法精度の低下を抑制し、高い生産性を得ることができる熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様に係る熱間プレス製品の製造方法は、内部に冷媒流路を有する上型及び下型と、ブランクホルダーとを用いて、加熱された被成形材を熱間プレス成形することにより熱間プレス製品を製造する方法である。上型と下型とを接近させて、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間を被成形材の厚さよりも大きい所定間隔に維持した状態で、被成形材を上型と下型との間において絞り成形する。成形下死点に到達する前に、被成形材の外周の絞り上り部が、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間から抜ける。成形下死点に到達したときに、被成形材の外周の絞り上り部が、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間に残らず、上型と下型との間に挟まれる。
【0016】
本発明の一態様に係る熱間プレス成形装置は、内部に冷媒流路を有する上型及び下型と、ブランクホルダーと、を備える。上型と下型とが接近されて、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間が被成形材の厚さよりも大きい所定間隔に維持された状態で、被成形材が上型と下型との間において絞り成形される。成形下死点に到達する前に、被成形材の外周の絞り上り部が、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間から抜ける。成形下死点に到達したときに、被成形材の外周の絞り上り部が、上型の外周押え面とブランクホルダーの上面との隙間に残らず、上型と下型との間に挟まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置によれば、熱間プレス製品に割れ又はシワが発生することを抑制し、また、熱間プレス製品の寸法精度の低下を抑制し、高い生産性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】熱間プレス成形装置における下型を示す斜視図である。
図2】熱間プレス成形装置における下型及びブランクホルダーを示す斜視図である。
図3】熱間プレス成形装置の金型の模式的な断面図である。
図4A】熱間プレス製品の製造方法の加工工程を示す図である。
図4B】熱間プレス製品の製造方法の加工工程を示す図である。
図4C】熱間プレス製品の製造方法の加工工程を示す図である。
図4D】熱間プレス製品の製造方法の加工工程を示す図である。
図5A】絞り深さが深い場合の被成形材長さ及び金型断面形状を示す図である。
図5B】絞り深さが深い場合の被成形品形状を示す図である。
図6A】絞り深さが浅い場合の被成形材長さ及び金型断面形状を示す図である。
図6B】絞り深さが浅い場合の被成形品形状を示す図である。
図7A】絞り上り部が長い場合の被成形材長さ及び金型断面形状を示す図である。
図7B】絞り上り部が長い場合の被成形品形状を示す図である。
図8A】絞り上り部が短い場合の被成形材長さ及び金型断面形状を示す図である。
図8B】絞り上り部が短い場合の被成形品形状を示す図である。
図9A】外周に縦壁がある場合の被成形材長さ及び金型断面形状を示す図である。
図9B】外周に縦壁がある場合の被成形品形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0020】
以下、実施形態を説明するにあたり、熱間プレス成形装置の駆動側に取り付けられた上型ダイをプレス駆動により下降させ、加熱した被成形材を熱間プレス装置の固定側に取り付けられた下型ポンチで、上向き方向にプレス成形する熱間プレス成形方法で説明を行う。
【0021】
(熱間プレス成形装置の構成)
図1から図3に示すように、熱間プレス成形装置10の金型11は、上型であるダイ12と、下型であるポンチ13と、シワ押えのためのブランクホルダー14とを有しており、熱間プレス機を用いて絞り成形を行うことができる。金型11の基本構成は冷間プレス成形装置のものと同様であるが、ダイ12及びポンチ13の内部には、熱間プレス成形で熱せられた金型11を冷やすために、水等の冷媒を流す水冷管(冷媒流路)15,16が複数設けられている(図3参照)。ブランクホルダー14にも水冷管15,16を設ける場合があるが、本実施形態のブランクホルダー14には水冷管15,16は設けられていない。また、ブランクホルダー14は、一般的な鋳物製ではなく、鋼材プレート製である。
【0022】
ブランクホルダー14は、ポンチホルダー17(図1参照)に取り付けられた複数のガススプリング(弾性支持部)18により保持されている。ブランクホルダー14の上面には、固定タイプ(非可動タイプ)の、おおよそ直径70mmの隙間管理ブロック(隙間維持部)21が300mm~400mm間隔でボルト等を用いて取り付けられている。取り付ける位置に応じて、円柱形状の隙間管理ブロック21と、角柱形状の隙間管理ブロック21とが配置されている(図2参照)。
【0023】
ガススプリング18の中心と隙間管理ブロック21の中心との位置は、ほぼ同じ場所に設けられる。すなわち、ガススプリング18と隙間管理ブロック21とは、平面視において重なる位置にあって、同心上に配置される。このため、隙間管理ブロック21と同様に、ポンチホルダー17にはガススプリング18が300mm~400mm間隔でボルト等を用いて取り付けられている。このようにガススプリング18と隙間管理ブロック21とを配置することにより、ダイ12によって隙間管理ブロック21を押し下げたときに、ブランクホルダー14がバランスよく押し下げられる。このため、成形工程中、被成形材20Aの全周に渡り常に設定した隙間G(図4B図4C参照)が得られる。
【0024】
本実施形態では、隙間管理ブロック21がブランクホルダー14の上面に装着された例を示すが、ダイ12のダイフェース面22の外周部(座面23)に装着されてもよい。さらには、隙間管理ブロック21をダイ12に鋳物で一体に設けておき、切削で面だしをして形成してもよい。要するに、隙間管理ブロック21によりダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gが正しく得られればいずれでもよい。前述のように隙間管理ブロック21がブランクホルダー14の上面に装着されているのは、隙間Gの最終調整がシム(スペーサー)等を用いて金型11内で実施しやすいためである。
【0025】
ダイ12のダイフェース面22には、プレス成形時に隙間管理ブロック21が当接する位置に座面(凹部)23が設けられている。また、ダイ12のダイフェース面22近傍の部位には、水冷管15,16は設けられていない。ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gは、隙間管理ブロック21の高さにより調整され、熱間プレス成形時に、被成形材20Aの板厚+0.5mmとなるように設定されている。この隙間Gは、必ずしも被成形材20Aの板厚+0.5mmとは限らない。被成形材20Aの板厚+0.5mm~2.0mmの隙間Gが想定され、被成形材20Aの素材及び板厚、被成形品20Bの形状、さらには金型11のプロファイル(断面形状)等により決定される。
【0026】
(熱間プレス成形方法)
先ず、通常の冷間加工で、パイロットピンのガイド穴等を含んだ外形加工が予め施された被成形材20Aが用意される。被成形材20Aは、焼入性向上元素であるマンガン、ボロン等が添加されたアルミニウムめっき鋼板又は亜鉛めっき鋼板等の熱間プレス用の薄板鋼板により構成される。
【0027】
加熱炉内で加熱された被成形材20Aが、熱間プレス機の上死点で、図示しない搬送ジョー(搬送ロボット)等を用いて金型11内のブランクホルダー14上に投入される(図4A参照)。
【0028】
このとき、被成形材20Aの位置決めは、位置決めピン(図示せず)及びネスト(図示せず)により実施される。
【0029】
熱間プレス機の駆動によりダイ12が下降し、ダイフェース面22に設けられた隙間管理ブロック当接部(座面23)に、ブランクホルダー14上に取り付けられた隙間管理ブロック21の上面が当接する(図4B参照)。
【0030】
熱間プレス機の駆動によるダイ12のさらなる下降により、ダイフェース面22に設けられた座面23がブランクホルダー14上に取り付けられた隙間管理ブロック21を押すことによりブランクホルダー14が押し下げられる。このとき、ブランクホルダー14に連動してガススプリング18も押し下げられて縮む。これにより、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gが被成形材20Aの板厚+0.5mmのまま、被成形材20Aはダイ12とポンチ13とにより熱間プレス成形(絞り成形)される(図4C参照)。
【0031】
また、熱間プレス機の駆動によるダイ12のさらなる下降に伴い、加熱された被成形材20Aはダイフェース面22とブランクホルダー14とにより緩く挟持されたまま、ダイ12とポンチ13とにより熱間プレス成形(絞り成形)される。
【0032】
さらに、熱間プレス機の駆動によるダイ12のさらなる下降に伴い、下死点より約5mm手前で被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ポンチ13によりダイ12の内側に引き込まれ、ブランクホルダー14上から抜ける(図4D参照)。
【0033】
下死点より約5mm手前まではブランクホルダー14上にあった被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ブランクホルダー14上から抜けるためには、被成形材20Aの形状(外形)及び絞り深さ、並びにポンチ13の断面形状が重要である。
【0034】
例えば、幅(又は径)が同じ形状の成形を行う場合、絞り深さが深い製品における被成形材(ブランク材)20Aの外形形状は、絞り深さが浅い製品における被成形材20Aの外形形状よりも大きめとなる(図5A及び図5B図6A及び図6B参照)。また、絞り深さが深い製品における被成形材20Aのクランプ代C1は、絞り深さが浅い製品における被成形材20Aのクランプ代C2よりも多くなる(図5A及び図5B図6A及び図6B参照)。
【0035】
同一製品上では、絞り深さが深い部位の外形形状は、絞り深さが浅い部位の外形形状よりも大きめとなる(図5A図6A参照)。また、同一製品上では、絞り深さが深い部位のクランプ代C1は、絞り深さが浅い部位のクランプ代C2よりも多くなる(図5A図6A参照)。
【0036】
絞り上り部24の長さ(幅)が長い場合、そのクランプ代C3は、絞り上り部24の長さ(幅)が短い場合のクランプ代C4よりも多くなる(図7A及び図7B図8A及び図8B参照)。
【0037】
被成形材20Aの外周の絞り上り部24が単にハット断面の様な形状ではなく縦壁25を設けたような場合、そのクランプ代C5は、絞り上り部24が単にハット断面の様な形状の場合のクランプ代C4よりも多くなる(図9A及び図9B図8A及び図8B参照)。
【0038】
前述のように、被成形材20Aの外形形状は、絞り深さ、絞り上り部24の長さ及び形状等により異なるが、それら以外にもポンチ13の角部のR形状等、ポンチ13の断面形状の調整を含め、試験及びシミュレーション等により決定される。もちろん使用する被成形材20Aの種類(鋼種)によっても外形形状が異なるため、実際の部材による種々の試験が実施され、シミュレーションに反映されて、被成形材20Aの外形形状が決定される。
【0039】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0040】
(1)本実施形態に係る熱間プレス製品の製造方法は、内部に水冷管15,16を有するダイ及びポンチ13と、ブランクホルダー14とを用いて、加熱された被成形材20Aを熱間プレス成形することにより熱間プレス製品を製造する方法である。ダイ12とポンチ13とを接近させて、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gを被成形材20Aの厚さよりも大きい所定間隔に維持した状態で、被成形材20Aをダイ12とポンチ13との間において絞り成形する。成形下死点に到達する前に、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gから抜ける。成形下死点に到達したときに、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gに残らず、ダイ12とポンチ13との間に挟まれる。
【0041】
(2)ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gを、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との間に設けられる隙間管理ブロック21を用いて所定間隔に維持する。
【0042】
(3)熱間プレス成形装置10は、内部に水冷管15,16を有するダイ12及びポンチ13と、ブランクホルダー14と、を備える。ダイ12とポンチ13とが接近されて、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gが被成形材20Aの厚さよりも大きい所定間隔に維持された状態で、被成形材20Aがダイ12とポンチ13との間において絞り成形される。成形下死点に到達する前に、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gから抜ける。成形下死点に到達したときに、被成形材20Aの外周の絞り上り部24が、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gに残らず、ダイ12とポンチ13との間に挟まれる。
【0043】
(4)熱間プレス成形装置10は、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との間に設けられ、ダイ12のダイフェース面22とブランクホルダー14の上面との隙間Gを所定間隔に維持する隙間管理ブロック21を備える。
【0044】
(5)隙間管理ブロック21は、ダイ12のダイフェース面22及びブランクホルダー14の上面の少なくとも一方に設けられる。
【0045】
(6)熱間プレス成形装置10は、ブランクホルダー14を弾性支持するガススプリング18を備える。隙間管理ブロック21とガススプリング18とが平面視において重なる位置にある。
【0046】
(7)ダイ12のダイフェース面22近傍の部位、及びブランクホルダー14には、水冷管15,16が設けられていない。
【0047】
本実施形態では、被成形材20Aをダイ12(ダイフェース面22)及びブランクホルダー14により挟持してから熱間プレス成形完了(熱間プレス機の下死点)まで、ダイフェース面22とブランクホルダー14との隙間Gが一定である。そして、下死点直前でその隙間Gから被成形材20Aの絞り上り部24が抜け、最終的に被成形材20Aの絞り上り部24はブランクホルダー14上に残らない。したがって、下死点において被成形材20Aをダイフェース面22とブランクホルダー14とで強く挟持する熱間プレス成形方法と比較して、急激な減肉(板厚減少)がないため、複雑な深絞り成形品においても割れの発生が抑制される。
【0048】
本実施形態においては、下死点直前までが絞り成形であり、下死点直前から下死点保持(成形完了)までがフォーム成形ということになる。被成形材20Aの絞り上り部24が下死点直前でダイフェース面22とブランクホルダー14との隙間Gから抜けるタイミングが、熱間プレス成形の下死点直前であり、フォーム成形期間が短いため、シワの発生も抑制される。
【0049】
以上要するに、本実施形態では、下死点では被成形品20Bがブランクホルダー14から既に抜けている。このため、下死点保持において、冷媒で冷却されたダイ12及びポンチ13のみで均等な面接触により被成形品20Bを急冷することができ、冷却性の低下を抑制することができる。
【0050】
冷却性の向上により、被成形材20Aの焼き入れ時間が短くなり、被成形材20Aの金型内保持時間を短縮することができ、生産性が向上する。また被成形品20Bの各部位における冷却ムラがなく、オーステナイトのマルテンサイト変態時において発生するベイナイトの量等のばらつきがないため、被成形品20Bに焼き入れ硬度のばらつきが少なく、熱間プレス製品の寸法精度が向上する。
【0051】
本実施形態では、被成形品20Bの熱間プレス成形時に被成形材20Aを挟持するダイフェース面22とブランクホルダー14との隙間Gを確保するために、固定の隙間管理ブロック21(一般的に、S45C材)を採用することが可能となる。このため、金型11の構造の簡略化を図ることができる。
【0052】
また、隙間管理ブロック21と当接するダイフェース面22の座面23においても、上型の作成時に合わせて平面加工すればよく、上型のダイ12も複雑な構造とならない。
【0053】
また、本実施形態では、下死点においてもブランクホルダー14は底突きする必要がないため、ブランクホルダー14の剛性を下げることができ、従来の鋳物構造から鋼材プレート構造に変更することができる。
【0054】
これら種々の構造変更等により、金型11の縮小化も図ることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、成形加工中のダイフェース面22とブランクホルダー14との隙間Gが常に一定に保持される。このため、ダイフェース面22及びブランクホルダー14は高熱にならず、ダイフェース面22近傍及びブランクホルダー14内に水冷管15,16等の冷却装置を用いる必要がない(図3参照)。
【0056】
本実施形態では、ダイ12のダイフェース面22近傍の部位、及びブランクホルダー14には、水冷管15,16が設けられていない。このため、下死点直前に前述の隙間Gから被成形材20Aの絞り上り部24を、冷媒にて冷却されたダイ12とポンチ13とにより被成形材20Aを急冷することができる。
【0057】
以上の内容により、より廉価な熱間プレス成形装置10を得ることができる。
【0058】
ところで、本発明の熱間プレス製品の製造方法、及び熱間プレス成形装置は前述の実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【0059】
前述のように、熱間プレス成形装置の駆動側に取り付けられた上型ダイをプレス駆動により下降させ、加熱した被成形材を熱間プレス装置の固定側に取り付けられた下型ポンチで、上向き方向にプレス成形する熱間プレス成形方法について実施形態を説明した。しかしながら、上型(ダイ)と下型(ポンチ)とは逆でもよい。すなわち、上型ポンチと下型ダイとによる下向き方向にプレス成形する熱間プレス成形方法でもよい。
【0060】
また、前述の熱間プレス成形方法において、その熱間プレス開始時、製品上面のシワ押えのため、先行パッドとポンチとで被成形材を予め押えてからダイで加工開始してもよい。この場合でも被成形材がブランクホルダーから抜けるので、被成形材の座屈対策のロッキング機構は必要なくなり、より廉価な熱間プレス成形装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 熱間プレス成形装置
11 金型
12 ダイ
13 ポンチ
14 ブランクホルダー
15 水冷管(冷媒流路)
16 水冷管(冷媒流路)
17 ポンチホルダー
18 ガススプリング
20A 被成形材
20B 被成形品
21 隙間管理ブロック(隙間維持部)
22 ダイフェース面(外周押え面)
23 座面(凹部)
24 絞り上り部
25 縦壁
C1~C5 クランプ代
G 隙間
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B