IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

特開2022-185365車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法
<>
  • 特開-車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法 図1
  • 特開-車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法 図2
  • 特開-車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法 図3
  • 特開-車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185365
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
B62D25/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093001
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203BB59
3D203BB63
3D203CB07
3D203CB24
(57)【要約】
【課題】ルーフパネルとルーフメンバとの接触による金属音の発生を防止した車両のルーフを提供する。
【解決手段】 車両のルーフ10は、車体のルーフパネル13と、ルーフパネル13の車両前後方向の中間部に車幅方向に沿って固定されルーフパネル13を車体の内部側から補強するルーフメンバ11と、ルーフメンバ11の長手方向に沿ってメンバ表面11aに延在して設けられる凸条部14と、凸条部14の頂面において長手方向に沿って点在する窪み部18と、窪み部18の外周縁を形成してルーフパネル13の裏面に向かって突出する突出輪郭部19と、窪み部18に設けられて突出輪郭部19の頂部を覆う複数の第1のマスチックシーラ12aと、メンバ表面11aに設けられてルーフパネル13の裏面にルーフメンバ11を接合する複数の第2のマスチックシーラ12bと、を備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のルーフパネルと、
前記ルーフパネルの車両前後方向の中間部に車幅方向に沿って固定され前記ルーフパネルを前記車体の内部側から補強するルーフメンバと、
前記ルーフメンバの長手方向に沿ってメンバ表面に延在して設けられる凸条部と、
前記凸条部の頂面において前記長手方向に沿って点在する窪み部と、
前記窪み部の外周縁を形成して前記ルーフパネルの裏面に向かって突出する突出輪郭部と、
前記窪み部に設けられて前記突出輪郭部の頂部を覆う複数の第1のマスチックシーラと、
前記メンバ表面に設けられて前記ルーフパネルの裏面に前記ルーフメンバを接合する複数の第2のマスチックシーラと、を備えることを特徴とする車両のルーフ。
【請求項2】
前記第1のマスチックシーラは前記突出輪郭部の頂部において前記ルーフパネルの裏面と所定間隔を空けて設けられている請求項1に記載の車両のルーフ。
【請求項3】
前記パネル表面と前記ルーフパネルとの間隔よりも、前記突出輪郭部の頂部とルーフとの間隔が小さい請求項1又は請求項2に記載の車両のルーフ。
【請求項4】
前記突出輪郭部は円形状をしており、
前記窪み部から前記突出輪郭部の頂部にかけて傾斜する内側傾斜面が設けられる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両のルーフ。
【請求項5】
前記第2のマスチックシーラは前記車幅方向に長手方向を沿わせて設けられ、
前記窪み部は前記第2のマスチックシーラに前記車両前後方向から挟まれる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両のルーフ。
【請求項6】
車体のルーフパネルを補強するルーフメンバのメンバ表面に突出して形成された凸条部の窪み部に第1のマスチックシーラを付与するステップと、
前記メンバ表面に設けられた溝部に第2のマスチックシーラを付与するステップと、
前記ルーフメンバに前記ルーフパネルを押圧して前記窪み部に設けられた突出輪郭部の頂部を前記第1のマスチックシーラで覆わせるステップと、
前記ルーフパネルの押圧により前記第2のマスチックシーラを前記ルーフパネルの裏面に接着させるステップと、
前記第2のマスチックシーラと前記ルーフパネルとの接着を維持したまま前記第1のマスチックシーラ及び前記第2のマスチックシーラを乾燥させて硬化させるステップと、を含むことを特徴とする車両のルーフの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフパネルは、マスチックシーラと呼ばれる熱硬化型の弾性接着剤を用いてルーフメンバが接合されることで剛性を確保される。マスチックシーラは、未硬化な状態では緩く練られて混練体状又はゲル状をしており、塗装工程での焼き付け乾燥で硬化することでゴムのような接着力を発揮するものである。
マスチックシーラの一部は、未硬化な状態でルーフパネルに押し潰されて塗布された面積が広がった状態でルーフパネルに接着される。
【0003】
ところで、ルーフパネルは、マスチックシーラの未硬化な段階で発生する、電着塗装工程での純水洗浄、電着塗装槽内での電着液流又は塗装工程への搬送中における振動により、上下に振動する。未硬化なマスチックシーラもある程度の粘着性を有し引張や圧縮に対する追従性を有するため、ルーフパネルのこの上下振動に追従して伸縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63-54590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ルーフパネルの上下振動により、一度押し潰された未硬化なマスチックシーラが繰り返し上下に伸びる変形をしてルーフパネル又はルーフメンバから剥離することがある。
マスチックシーラが剥離すると、走行時やドア開閉時にルーフパネルが振動する際、緩衝材と接触するため、金属同士の接触による不快な金属音が発生してしまう。
このような剥離による金属音の発生を防止するために塗布量又は塗布点数を増加させると、車体重量、タクトタイム及び塗布機への材料補給頻度が増加する。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、ルーフパネルとルーフメンバとの接触による金属音の発生を防止した車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る車両のルーフは、車体のルーフパネルと、前記ルーフパネルの車両前後方向の中間部に車幅方向に沿って固定され前記ルーフパネルを前記車体の内部側から補強するルーフメンバと、前記ルーフメンバの長手方向に沿ってメンバ表面に延在して設けられる凸条部と、前記凸条部の頂面において前記長手方向に沿って点在する窪み部と、前記窪み部の外周縁を形成して前記ルーフパネルの裏面に向かって突出する突出輪郭部と、前記窪み部に設けられて前記突出輪郭部の頂部を覆う複数の第1のマスチックシーラと、前記メンバ表面に設けられて前記ルーフパネルの裏面に前記ルーフメンバを接合する複数の第2のマスチックシーラと、を備えるものである。
【0008】
また、本実施形態に係る車両のルーフの製造方法は、車体のルーフパネルを補強するルーフメンバのメンバ表面に突出して形成された凸条部の窪み部に第1のマスチックシーラを付与するステップと、前記メンバ表面に設けられた溝部に第2のマスチックシーラを付与するステップと、前記ルーフメンバに前記ルーフパネルを押圧して前記窪み部に設けられた突出輪郭部の頂部を前記第1のマスチックシーラで覆わせるステップと、前記ルーフパネルの押圧により前記第2のマスチックシーラを前記ルーフパネルの裏面に接着させるステップと、前記第2のマスチックシーラと前記ルーフパネルとの接着を維持したまま前記第1のマスチックシーラ及び前記第2のマスチックシーラを乾燥させて硬化させるステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ルーフパネルとルーフメンバとの接触による金属音の発生を防止した車両のルーフ及び車両のルーフの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)実施形態に係る車両のルーフを車内側から内装を除いて見た概略構成図、(B)ルーフメンバの図1(A)に示すΩ範囲の拡大上面図。
図2】(A)ルーフメンバの図1(A)に示すΩ範囲の拡大斜視図、(B)図2(A)においてマスチックシーラを図示した拡大斜視図。
図3】ルーフメンバを図1(B)又は図2(B)のI-I線で切断した断面図。
図4】(A)~(D) マスチックシーラの形成工程を中心とする車両のルーフの製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、実施形態では、各部材の「上下」方向の基準は、その部材を車両に設置したときの車両の上下方向とする。
【0012】
図1(A)は、実施形態に係る車両のルーフ10を車内側から内装を除いて見た概略構成図である。図1(B)は、ルーフメンバ11の図1(A)に示すΩ範囲の拡大上面図である。
また、図2(A)は、ルーフメンバ11の図1(A)に示すΩ範囲の拡大斜視図である。図2(B)は、図2(A)においてマスチックシーラ12a,12bを図示した拡大斜視図である。
また、図3は、ルーフメンバ11を図1(B)又は図2(B)のI-I線で切断した断面図である。
【0013】
車両のルーフ10は、図1(A)に示されるように、車体フレームに固定されたルーフパネル13が、ルーフメンバ11で車内側から補強されて構成されている。
ルーフメンバ11は、ルーフパネル13の上下方向の振動が大きくなる位置、すなわち車両前後方向の中間部に車幅方向に沿って固定される。ここでいう「中間部」とは、ルーフパネル13を車両前後方向に3等分した領域のうちの真ん中領域のことである。ルーフメンバ11は、多くは複数本がルーフパネル13に設けられる。
ルーフメンバ11のメンバ表面11aには、図1(B)~図3に示されるように、ルーフメンバ11の長手方向に沿って延在する凸条部14が設けられる。凸条部14には、メンバ表面11aと概ね同じ高さで所定の幅を有する頂面14aが成形されている。
【0014】
凸条部14の両側の裾部には、長手方向に沿ってメンバ表面11aを掘り込んだ掘り込み部17が設けられる。つまり、ルーフメンバ11の短手方向の断面は、図3に示されるように、順に、メンバ表面11a、掘り込み部17による凹形状、凸条部14の頂面14a、掘り込み部17による凹形状、及びメンバ表面11aが滑らかに接続された断面形状を有する。
【0015】
そして、凸条部14の頂面14aには長手方向に沿って窪み部18が複数点在する。
この窪み部18には、外周縁を形成してルーフパネル13の裏面に向かって突出する突出輪郭部19が設けられている。
突出輪郭部19の輪郭形状は窪み部18の輪郭に合わせた例えば非真円を含む円形状である。
【0016】
この窪み部18には、第1のマスチックシーラ(以下、「第1シーラ」という)12aが突出輪郭部19の頂部を覆って設けられる。第1シーラ12aは、自らの接着力により窪み部18及び突出輪郭部19に接着されている。
この第1シーラ12aは、ルーフパネル13に対しては接着されている場合と接着されていない場合とがあり得る。ルーフパネル13に接着されている第1シーラ12aは、ルーフパネル13とルーフメンバ11とを接着する接着材としての機能を発揮する。
【0017】
一方、ルーフパネル13に接着していない第1シーラ12aは、ルーフパネル13の振動でルーフパネル13がルーフメンバ11に接触した際の緩衝材として機能する。
第1シーラ12aは凸条部14がメンバ表面11aよりも高く成形されていること及び突出輪郭部19による突出により、ルーフパネル13の裏面に最も近い距離に例えば所定間隔を空けて配置されることになる。例えば、メンバ表面11aとルーフパネル13との間隔が3mm程度で、突出輪郭部19の頂部との間隔が1mm程度に設定される。
よって、ルーフパネル13が上下に振動した際、第1シーラ12aは、ルーフパネル13に先当たりし、ルーフパネル13とルーフメンバ11との間で発生する不快な金属音の発生を防止する。
【0018】
また、ルーフメンバ11のメンバ表面11a上には、溝部15が車幅方向(すなわちルーフメンバ11の長手方向)に自らの長手方向を沿わせて複数点在して設けられる。
この溝部15には、第2のマスチックシーラ(以下、「第2シーラ」という)12bが設けられる。この第2シーラ12bと第1シーラ12aとは同一成分であっても異種成分であってもよい。
第2シーラ12bは、ルーフパネル13の裏面にルーフメンバ11を接合する。
【0019】
第1シーラ12aと第2シーラ12bとの配置関係は、第1シーラ12aが第2シーラ12bに車両前後方向から挟まれるように設計されることが望ましい。
つまり、窪み部18を通りルーフメンバ11の短手方向に沿う直線上に溝部15が2つ窪み部18を挟むように設けられ、これら窪み部18及び溝部15にマスチックシーラ12a,12bが設けられることが望ましい。第1シーラ12aがルーフパネル13に先当たりしてルーフパネル13の振動を抑制するため、第2シーラ12bを第1シーラ12aの近傍に配置すると第2シーラ12b上方でのルーフパネル13の振幅も小さくなる。よって、第1シーラ12aのこのような振動緩衝機能により第1シーラ12a近傍の第2シーラ12bの剥離も抑制される。
【0020】
次に、図4(A)~(D)を用いて、マスチックシーラ12a,12bの形成工程を中心とする車両のルーフ10の製造方法について説明する。
まず、図4(A)に示されるように、ルーフメンバ11の凸条部14の窪み部18及びメンバ表面11aの溝部15にマスチックシーラ12a,12bが付与される。未硬化なため緩く練られた混練体状又はゲル状をしているマスチックシーラ12a,12bが自動の塗布機で塗布される。
窪み部18には、窪み部18から突出輪郭部19の頂部にかけて傾斜する内側傾斜面18aが設けられていることが望ましい。窪み部18に付与された第1シーラ12aが、この内側傾斜面18aに沿って、効率よく突出輪郭部19の頂部に流動するためである。
【0021】
マスチックシーラ12a,12bが付与された後、図4(B)に示されるように、ルーフパネル13をルーフメンバ11へ押圧する。ルーフパネル13は、凸条部14の頂面14aに設けられた窪み部18に最初に当たる。窪み部18に付与された第1シーラ12aは、薄く広がり窪み部18に隈なく密着するとともに、突出輪郭部19の頂部を被覆する。そして、第1シーラ12aは、薄く広がった状態でルーフパネル13に弱く接着する。また、第2シーラ12bも、第2シーラ12bの頂部がルーフパネル13に接触して弱く接着する。
【0022】
その後、図4(C)に示されるように、電着塗装工程中や、後続する工程への搬送、塗装工程での洗浄、又は塗装槽内での水流等の影響を受けて、ルーフパネル13の上下振動が発生する。薄く広がった第1シーラ12aは、上下に伸びてルーフパネル13に追従しようとする。しかし、薄く広がった第1シーラ12aは変位に対する許容度合が低下しているため、一部の第1シーラ12aがルーフパネル13から剥離する。一方、窪み部18及び突出輪郭部19の形状により、ルーフパネル13から剥離したこれらの第1シーラ12aは窪み部18及び突出輪郭部19の頂部に剥離せずに留まる。
【0023】
また、第2シーラ12bは、上述のように、第1シーラ12aよりもルーフパネル13からの距離が僅かに長い。また、第1シーラ12aによりルーフパネル13の上限振動の振幅も小さく抑制された位置に配置されている。よって、第2シーラ12bは、ルーフパネル13から剥離せずに接着状態を維持する。
【0024】
そして、図4(D)に示されるように、マスチックシーラ12a,12bは、電着乾燥工程で焼き付けにより乾燥して硬化する。硬化した第2シーラ12bはルーフパネル13に強固に接着して、ルーフパネル13とルーフメンバ11との接着剤として機能する。また、ルーフパネル13との接着状態を維持して硬化した第1シーラ12aも、同様にこれらを接着する接着剤として機能する。一方、ルーフパネル13から剥離して窪み部18に留まった第1シーラ12aは、ルーフパネル13がルーフメンバ11に接触したときに突出輪郭部19で先当たりする緩衝材として機能する。
【0025】
以上のように、実施形態によれば、ルーフメンバ11の形状又はマスチックシーラ12a,12bの塗布態様を工夫することで、ルーフパネル13とルーフメンバ11との接触による金属音の発生を防止することができる。
また、突出輪郭部19により、このときのマスチックシーラ12a,12bの塗布量を抑制することができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0027】
例えば、マスチックシーラを緩衝材として機能させる本発明の各構造は自動車のフードやドアにも適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10…ルーフ、11(11a)…ルーフメンバ(メンバ表面)、12(12a,12b)…マスチックシーラ(第1シーラ,第2シーラ)、13…ルーフパネル、14(14a)…凸条部(頂面)、15…溝部、17…掘り込み部、18(18a)…窪み部(内側傾斜面)、19…突出輪郭部。
図1
図2
図3
図4