(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185375
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】温度センサ及び温度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01K 7/32 20060101AFI20221207BHJP
G01K 7/12 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01K7/32 S
G01K7/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093016
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】永井 耕一
(72)【発明者】
【氏名】日野 直文
(57)【要約】
【課題】無線通信のためのアンテナ配置の制約によらず、必要な個所に熱電対を設置して信頼性の高い温度測定を可能とする温度センサ及び温度測定装置を提供する。
【解決手段】無線及び無給電で温度測定を行う圧電基板11、21の表面弾性波を利用した温度測定装置として、圧電基板上を伝播して圧電基板の温度情報を含んだ表面弾性波の周波数特性を分析するとともに、熱電対30の起電力によって変化する圧電基板の表面弾性波の伝播時間の変化を検出することで、熱電対先端部33の温度を正確に測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面弾性波を伝播する第一の圧電基板と、
前記第一の圧電基板上に設けられ、電気信号を受信して前記第一の圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記第一の圧電基板上を伝播して受け取った表面弾性波を電気信号に変換する第一の櫛歯状電極と、
前記第一の圧電基板上に前記第一の櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記第一の櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記第一の櫛歯状電極に向けて反射する第一の温度検出用反射器と、
表面弾性波を伝播する第二の圧電基板と、
前記第二の圧電基板上に設けられ、電気信号を受信して前記第二の圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記第二の圧電基板上を伝播して受け取った表面弾性波を電気信号に変換する第二の櫛歯状電極と、
前記第二の圧電基板上に前記第二の櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記第二の櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記第二の櫛歯状電極に向けて反射する第二の温度検出用反射器と、
前記第二の圧電基板上の表面弾性波が伝播する面の裏面に接合され、熱電対の起電力によって変形することにより前記第二の圧電基板上の表面弾性波の伝播経路の経路長を前記起電力による変形前の経路長に対して変化させる圧電体と、を有する温度センサ。
【請求項2】
表面弾性波を伝播する圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、無線信号を受信して前記圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記圧電基板上を伝播する表面弾性波を電気信号に変換する櫛歯状電極と、
前記圧電基板上に前記櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記櫛歯状電極に向けて反射する第一の温度検出用反射器と、
前記圧電基板上に前記櫛歯状電極と対向する位置でかつ前記櫛歯状電極を基準として前記第一の温度検出用反射器と反対側の位置に設けられ、前記櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記櫛歯状電極に向けて反射する第二の温度検出用反射器と、
前記圧電基板の前記櫛歯状電極と前記第二の温度検出用反射器との間の前記表面弾性波が伝播する面の裏面に接合され、熱電対の起電力によって変形することにより前記圧電基板上の前記表面弾性波の伝播経路の経路長を前記起電力による変形前の経路長に対して変化させる圧電体と、を有する温度センサ。
【請求項3】
前記第一の温度検出用反射器と前記第二の温度検出用反射器とは、表面弾性波を反射する減衰率に差がある請求項1又は請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の温度センサと、
電気信号を無線で送受信する計測部と、を備えた温度測定装置であって、
前記計測部は、前記第一の温度検出用反射器と前記第二の温度検出用反射器とで反射された表面弾性波から変換された電気信号の時間変化に基づいて、前記熱電対の先端部の温度を算出する温度算出手段を備える温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信によって表面弾性波を利用して温度を測定する温度センサ及び温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な工業製品もしくは家電の組み立て製造工程、又はそれらの製品の構成部品となる各種電子部品、各種の電池、もしくは、電子部品が実装された基板などのデバイス製造工程において、熱処理のための炉も多様化し、それぞれの機能が大幅に向上している。
【0003】
また、被加熱物の温度管理が製品の性能に大きく影響するようになって来ている。
【0004】
一般的に、小型の炉又は、被加熱物を搬送する速度が非常に遅い炉の場合は、被加熱物の温度推移について、炉内に熱電対を取り付けて、炉外の計測部と接続したまま計測することが可能な場合がある。しかし、搬送距離の長い大型の炉、搬送速度が著しく速い炉、又は搬送経路にシャッターなどの構造物がある場合などは、熱電対を炉外の計測部と接続した状態での温度測定が困難な場合が多い。このような炉で熱電対を使用する場合、短い熱電対を無線ユニットに接続して無線ユニットと共に炉内に投入し、熱電対の情報を無線で炉外の計測部に送信する方法、あるいは前記の無線ユニット内にデータ記憶装置を搭載しておいて、熱電対の情報等を記憶させておき、無線ユニットを炉外に搬出した後に、記憶装置からデータ情報を抜き出す方法もある。しかし、炉内の温度によっては無線で送信する際の送信器やデータの記憶装置等の駆動電源となる電池、送信器、又は記憶装置そのものの耐熱温度を超えてしまい、使用できない場合も非常に多い。そのため、耐熱温度の低い電池、送信器、又は記憶装置等を搭載しない無線計測センサとして、圧電基板の表面弾性波を利用して温度を測定するセンシング技術が用いられ、例えば特許文献1の方式が知られている。
【0005】
図11は特許文献1の従来の物理量測定装置についての説明図である。特許文献1には、圧電基板上に櫛歯状電極を設けた無線、無給電で、物理量として圧力を測定するSAWセンサの一例について記載されている。特許文献1のSAWセンサは、圧電基板60、櫛歯電極部61、圧力検出用反射器62、ダイヤフラム部63、及び温度補償用反射器64を有する。櫛歯電極部61は、外部からの無線信号を受信して圧電基板60上に表面弾性波を励振する一方で、圧電基板60上を伝搬する表面弾性波を受波して応答信号に変換する。圧力検出用反射器62は、櫛歯電極部61で励振された表面弾性波を反射する。ダイヤフラム部63は、櫛歯電極部61と圧力検出用反射器62との間に設けられ、圧電基板60内部の空洞部と外部との圧力差に応じて変形することにより表面弾性波の伝搬経路の経路長を変化させる。温度補償用反射器64は、表面弾性波の伝搬経路上にダイヤフラム部63を基準として櫛歯電極部61側に設けられ、櫛歯電極部61で励振された表面弾性波を反射する。この表面弾性波の特性について読み取り装置65で受信した情報をコンピュータ66で分析することで、SAWセンサが置かれた場所での圧力を測定するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の構成では、圧電基板60の周囲の圧力が圧電基板内部の空洞部の圧力よりも高い側あるいは低い側のどちらか一方のみに変化する場合は、ダイヤフラム部63の変形量によって表面弾性波の伝播距離の変化を検出して外部圧力の変化を算出することは出来るが、圧電基板60の周囲の圧力が基板内部の空洞部の圧力よりも高くなる場合と、周囲の圧力が基板内部の空洞部の圧力よりも低くなる場合とが共存する場合は、ダイヤフラム部63が凹になる方向と凸になる方向とに変形した際の変形方向を見分けることは困難である。そのため、ダイヤフラム部63の変形による表面弾性波が伝播する距離の変化だけでは、圧力の高低について見分けることは困難であるという課題を有している。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、物理量を検出するSAWセンサの圧電基板において、外部環境の物理量の変化によって生じる表面弾性波が伝播する状況の変化を正確に把握し、物理量の一つである温度について正確に測定することが可能な温度センサ及び温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0010】
本発明の1つの態様にかかる温度センサは、
表面弾性波を伝播する第一の圧電基板と、
前記第一の圧電基板上に設けられ、電気信号を受信して前記第一の圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記第一の圧電基板上を伝播して受け取った表面弾性波を電気信号に変換する第一の櫛歯状電極と、
前記第一の圧電基板上に前記第一の櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記第一の櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記第一の櫛歯状電極に向けて反射する第一の温度検出用反射器と、
表面弾性波を伝播する第二の圧電基板と、
前記第二の圧電基板上に設けられ、電気信号を受信して前記第二の圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記第二の圧電基板上を伝播して受け取った表面弾性波を電気信号に変換する第二の櫛歯状電極と、
前記第二の圧電基板上に前記第二の櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記第二の櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記第二の櫛歯状電極に向けて反射する第二の温度検出用反射器と、
前記第二の圧電基板上の表面弾性波が伝播する面の裏面に接合され、熱電対の起電力によって変形することにより前記第二の圧電基板上の表面弾性波の伝播経路の経路長を前記起電力による変形前の経路長に対して変化させる圧電体と、を有する。
【0011】
さらに本発明の別の態様にかかる温度センサは、
表面弾性波を伝播する圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、無線信号を受信して前記圧電基板上に表面弾性波を励振するとともに、前記圧電基板上を伝播する表面弾性波を電気信号に変換する櫛歯状電極と、
前記圧電基板上に前記櫛歯状電極と対向する位置に設けられ、前記櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記櫛歯状電極に向けて反射する第一の温度検出用反射器と、
前記圧電基板上に前記櫛歯状電極と対向する位置でかつ前記櫛歯状電極を基準として前記第一の温度検出用反射器と反対側の位置に設けられ、前記櫛歯状電極で励振された前記表面弾性波を前記櫛歯状電極に向けて反射する第二の温度検出用反射器と、
前記圧電基板の前記櫛歯状電極と前記第二の温度検出用反射器との間の前記表面弾性波が伝播する面の裏面に接合され、熱電対の起電力によって変形することにより前記圧電基板上の前記表面弾性波の伝播経路の経路長を前記起電力による変形前の経路長に対して変化させる圧電体と、を有する。
【0012】
また、本発明の態様にかかる温度測定装置は、
前記のいずれか1つに記載の温度センサと、
電気信号を無線で送受信する計測部と、を備えた温度測定装置であって、
前記計測部は、前記第一の温度検出用反射器と前記第二の温度検出用反射器とで反射された表面弾性波から変換された電気信号の時間変化に基づいて、前記熱電対の先端部の温度を算出する温度算出手段を備える。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の前記態様にかかる温度センサ及び温度測定装置によれば、圧電基板上を伝播して圧電基板の温度情報を含んだ表面弾性波の周波数特性を分析するとともに、熱電対の起電力によって変化する圧電基板の表面弾性波の伝播時間の変化を検出する。これにより、圧電基板の温度と、圧電基板に接続されている熱電対の起電力を利用して圧電基板の温度と熱電対の先端部が設置されている測定箇所の温度との温度差を検出することが可能となる。このため、任意の位置に設置した熱電対の先端部の温度について、無線及び無給電で圧電基板の表面弾性波を利用したセンシングが可能となる。
【0014】
よって、物理量を検出するSAWセンサの圧電基板において、外部環境の物理量の変化によって生じる表面弾性波が伝播する状況の変化を正確に把握し、物理量の一つである温度について正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における温度測定装置の説明図
【
図2】本発明の実施の形態における第一のSAWデバイスの説明図
【
図3】本発明の実施の形態における第二のSAWデバイスの説明図
【
図5】圧電体の分極の方向と電圧印加による変形方法についての説明図
【
図6】圧電基板の電位による変形と遅延の影響についての説明図
【
図7】圧電基板の電位による変形と遅延の影響についての説明図
【
図8】熱電対先端部の温度の算出方法について説明図
【
図9】圧電体の分極の方向と電圧印加による変形方法の変形例についての説明図
【
図10】本発明の実施の形態の変形例における温度測定装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施形態)
図1は、本発明の実施の形態における温度測定装置の説明図である。
【0018】
温度測定装置1は、温度センサ2と、計測部3とを備えている。
【0019】
温度センサ2は、第一のSAWデバイス10と、第二のSAWデバイス20と、複合圧電体29とを備えている。
【0020】
計測部3は、高周波の電気信号を無線で送受信する計測部アンテナ4に接続されている。
【0021】
さらに、温度測定装置1は、計測部3に接続された温度算出手段75を備えている。温度算出手段75は、計測部3内に配置されてもよいし、計測部3外に配置されてもよい。温度算出手段75は、後述する第一の温度検出用反射器13と第二の温度検出用反射器23とで反射された表面弾性波から変換された電気信号の時間変化に基づいて、熱電対30の先端部33の温度を算出する。言い換えれば、温度算出手段75は、圧電基板21、11上を伝播して圧電基板21、11の温度情報を含んだ表面弾性波の周波数特性を分析するとともに、熱電対30の起電力によって変化する圧電基板21の表面弾性波の伝播時間の変化を検出することで、熱電対30の先端部33の温度を正確に測定する。
【0022】
温度センサ2は、計測部アンテナ4から送信された電気信号を受信するための温度センサアンテナ5を備えている。
【0023】
また、第二のSAWデバイス20には熱電対30が接続されており、熱電対30は同一温度域36を超えて外部に延伸している。ここで、同一温度域36とは、第一のSAWデバイス10と第二のSAWデバイス20とを取り囲む空間でかつ同一温度の領域を意味する。また、第二のSAWデバイス20は、例えば直方体の第一の支持体6及び直方体の第二の支持体7によってその一端(すなわち、後述する複合圧電体29の一端)が挟持されて片持ち支持されている。
【0024】
図2は本発明の実施の形態における第一のSAWデバイス10の詳細な説明図である。
第一のSAWデバイス10は、第一の圧電基板11と、温度センサアンテナ5と、第一の櫛歯状電極12と、第一の温度検出用反射器13とを備えている。
【0025】
第一の圧電基板11には、計測部3と電気信号を送受信するための温度センサアンテナ5が設けられている。
温度センサアンテナ5は、第一の圧電基板11上に設けられた第一の櫛歯状電極12と電気的に接続されている。第一の櫛歯状電極12は、矩形板状の第一の圧電基板11の長手方向の一端部側の第一の圧電基板11上に配置されている。
【0026】
この第一の櫛歯状電極12と対向する位置の第一の圧電基板11の長手方向の他端部側に、第一の温度検出用反射器13が第一の圧電基板11上に配置されている。
【0027】
計測部3では、所定の周波数、例えば電波法で特定小電力となる420~430MHz、又は、RFIDの915~930MHzの範囲の周波数を含む高周波を掃引する形で電気信号を、計測部アンテナ4から無線で送信する。
【0028】
前記第一のSAWデバイス10の構成によれば、計測部3に接続されている計測部アンテナ4から送信される高周波の電気信号を温度センサアンテナ5で受信して、第一の圧電基板11上に第一の櫛歯状電極12で表面弾性波として励振する。励振したのち、励振された表面弾性波が第一の圧電基板11上を伝播して第一の温度検出用反射器13に到達して、第一の温度検出用反射器13から第一の櫛歯状電極12に向かって反射し、第一の櫛歯状電極12に到達して再び電気信号に変換されて、温度センサアンテナ5から送信する。温度センサアンテナ5から送信した、この電気信号を計測部3に接続されている計測部アンテナ4で受信する。計測部アンテナ4で受信した、この電気信号を計測部3の温度算出手段(温度算出部)75で分析することで第一の圧電基板11の温度を算出することが出来る。
【0029】
図3は本発明の実施の形態における第二のSAWデバイス20の詳細な説明図である。
図3(A)は第二のSAWデバイス20の平面図であり、
図3(B)は
図3(A)の第二のSAWデバイス20の平面図におけるC-C線に沿った断面図である。
【0030】
第二のSAWデバイス20は、第二の圧電基板21と、前記温度センサアンテナ5と、第二の櫛歯状電極22と、第二の温度検出用反射器23とを備えている。
【0031】
第二の圧電基板21には、計測部3と電気信号を送受信するための前記した温度センサアンテナ5が設けられている。温度センサアンテナ5は、第一のSAWデバイス10と第二のSAWデバイス20とで共用している。
【0032】
温度センサアンテナ5は、第二の圧電基板21上に設けられた第二の櫛歯状電極22と電気的に接続されている。第二の櫛歯状電極22は、矩形板状の第二の圧電基板21の長手方向の一端部側の第二の圧電基板21上に配置されている。
【0033】
この第二の櫛歯状電極22と対向する位置の第二の圧電基板21の長手方向の他端部側に、第二の温度検出用反射器23が第二の圧電基板21上に配置されている。
【0034】
前記第二のSAWデバイス20の構成によれば、前述の第一のSAWデバイス10と同様に、計測部3に接続されている計測部アンテナ4から送信される高周波の電気信号を温度センサアンテナ5で受信して、第二の圧電基板21上に第二の櫛歯状電極22で表面弾性波として励振する。励振したのち、励振された表面弾性波が第二の圧電基板21上を伝播して第二の温度検出用反射器23に到達して、第二の温度検出用反射器23から第二の櫛歯状電極22に向かって反射し、第二の櫛歯状電極22に到達して再び電気信号に変換されて、温度センサアンテナ5から送信する。温度センサアンテナ5から送信した、この電気信号を計測部3に接続されている計測部アンテナ4で受信する。計測部アンテナ4で受信した、この電気信号を計測部3の温度算出手段(温度算出部)75で分析することで、第二の圧電基板21によって熱電対30の先端部33と同一温度域36との温度差が温度算出手段75で算出できる。
【0035】
ここで、第二の圧電基板21の例えば下面は、第一の圧電体25と第二の圧電体27等とで構成される複合圧電体29に接合されている。複合圧電体29は、それぞれ板状からなる、第一の電極24と、第一の圧電体25と、第二の電極26と、第二の圧電体27と、第三の電極28とがそれぞれ接合されて構成されている。
【0036】
さらに、熱電対30は、第一の金属導体31と、第二の金属導体32とで構成され、一方の端子同士が溶接されて先端部33となっており、第一の金属導体31と第二の金属導体32とのそれぞれのもう一方の端子は、絶縁端子台34に接続されている。絶縁端子台34に接続された、これらのそれぞれの端子と、複合圧電体29の第一の電極24及び第三の電極28がそれぞれ配線35によって電気的に接続されている。
【0037】
なお、複合圧電体29は、第一の支持体6と第二の支持体7とによって挟持されつつ片持ち支持の状態となっている。
【0038】
上述した第二のSAWデバイス20の構成によれば、熱電対30における先端部33と絶縁端子台34との温度差によって、第一の金属導体31と第二の金属導体32との間に起電力が発生し、この起電力によって複合圧電体29は変形する。複合圧電体29の変形方法については、後述する。また、複合圧電体29が変形することによって、これに接合されている第二の圧電基板21も変形し、第二の圧電基板21上の表面弾性波の伝播経路の長さに影響を与えて、長さを長短に変化させることができる。この表面弾性波の伝搬経路の長さの変化は、表面弾性波の伝播の遅延時間として検出することが可能であり、この遅延時間について計測部3の温度算出手段75で分析することで、熱電対30の起電力と関連付けて、熱電対30の先端部33と、絶縁端子台34が含まれる同一温度域36との温度差を温度算出手段75で算出することが出来る。
【0039】
上述した温度センサ2の構成によれば、第一のSAWデバイス10の第一の圧電基板11と、第二のSAWデバイス20の第二の圧電基板21と、複合圧電体29とが同一温度域36にある場合、第一の圧電基板11で同一温度域36の温度が温度算出手段75で算出され、同時に、第二の圧電基板21によって熱電対30の先端部33と同一温度域36との温度差が温度算出手段75で算出できる。これらの温度と温度差とより、熱電対30の先端部33の温度を温度算出手段75で算出することが可能となる。
【0040】
ここで、複合圧電体29の電位による変形について
図4及び
図5を用いて説明する。
【0041】
図4は一般的な圧電体の分極についての説明図である。
図4において、圧電体の例としてセラミックスの拡大図を示しており、セラミックスは、強誘電体微結晶の集合体で、一般に1~5μm程度の結晶粒40から構成されている。
【0042】
このセラミックスの結晶粒40における分極方向41は、当初はあらゆる方向を向いており、このセラミックスに圧電性を持たせるためには、セラミックスに強い直流電界(数KV/mm)を印加して、分極方向41を同一方向に揃える必要がある。
【0043】
図4(A)は分極前、
図4(B)は強い直流電界を印加している様子、
図4(C)は分極を終えた状態を示している。
【0044】
図5は圧電体の分極の方向と電圧印加による変形方法とについての説明図である。分極方向41を揃えた第一の圧電体25と第二の圧電体27とを複合圧電体29の材料として用い、第一の圧電体25と第二の圧電体27との分極方向41を
図5のように互いに反対向きとなるように配置する。このような複合圧電体29の構成で、第一の電極24と第三の電極28とに対して、第一の電極24の方を第三の電極28よりも高電位になるように電圧を印加する。すると、この複合圧電体29の上面は伸びる方向に力が働き、複合圧電体29の下面は縮む方向に力が働く。第一の電極24と第三の電極28とに印加する電位を逆にし、複合圧電体29の構成は同様のままで、第三の電極28の方を第一の電極24よりも高電位になるように電圧を印加する。すると、複合圧電体29の上面は縮む方向に力が働き、複合圧電体29の下面は伸びる方向に力が働く。
【0045】
図6及び
図7は圧電基板の電位による変形と遅延の影響についての説明図である。
【0046】
図6(A)は温度差による熱電対30の起電力によって第二の金属導体32よりも第一の金属導体31の電位の方が高い場合(すなわち、起電力E1>E2)を示している。第二の金属導体32よりも第一の金属導体31の電位の方が高い場合は、複合圧電体29の上面は伸び、複合圧電体29の下面が縮まるために、複合圧電体29には下向きの力が働く。このとき、複合圧電体29に接合されている第二の圧電基板21が伸ばされ、これによって、第二の圧電基板21の表面弾性波が伝播する距離が延びるために、第二の圧電基板21上を表面弾性波が伝播するのにかかる時間が遅れることとなる。このとき、
図6(B)において、熱電対30に電位差が発生しない状態の基準の返信波50に対し、時間が遅延した場合は、返信波50よりもピークが遅延した返信波51のようになる。
【0047】
図7(A)は温度差による熱電対30の起電力によって第一の金属導体31よりも第二の金属導体32の電位の方が高い場合(すなわち、起電力E2>E1)を示している。第一の金属導体31よりも第二の金属導体32の電位の方が高い場合は、複合圧電体29の上面は縮み、複合圧電体29の下面が伸びるために、複合圧電体29には上向きの力が働く。このとき、複合圧電体29に接合されている第二の圧電基板21が縮められ、これによって、第二の圧電基板21の表面弾性波が伝播する距離が縮むために、第二の圧電基板21上を表面弾性波が伝播するのにかかる時間が短くなる。このとき、
図7(B)のように熱電対30に電位差が無い状態の基準の返信波50に対し、時間が短くなった場合は、返信波50よりもピークが早い返信波52のようになる。
【0048】
これらのような時間の変化について計測部3の温度算出手段75で分析することで、熱電対30の起電力と関連付け、熱電対30の先端部33の温度と同一温度域36の温度との温度差を温度算出手段75で算出することが可能となる。
【0049】
図8は、温度算出手段75による、熱電対先端部の温度の算出方法についての説明図である。同一温度域36の中にある第一のSAWデバイス10の第一の圧電基板11の温度の推移の例が、
図8の同一温度域36の温度54のグラフとなる。同一温度域36の中にある第二のSAWデバイス20の第二の圧電基板21の温度と熱電対30の先端部33の温度との温度差55は、熱電対30の先端部33の温度が同一温度域36の温度よりも低い場合は負の値、熱電対30の先端部33の温度が同一温度域36の温度よりも高い場合は正の値として、計測部3の温度算出手段75で算出される。このため、熱電対30の先端部33の温度は、熱電対先端部の温度53のように温度差55が加味されたグラフとなる。これが熱電対30の先端部33の温度の推移となる。
【0050】
なお、温度差の無い領域56は、同一温度域36の温度と熱電対30の先端部33の温度との温度差が無い場合で、熱電対30の熱起電力が0となる領域である。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、無線及び無給電で温度測定を行う圧電基板11、21の表面弾性波を利用した温度測定装置として、圧電基板11上を伝播して圧電基板11の温度情報を含んだ表面弾性波の周波数特性を分析するとともに、熱電対30の起電力によって変化する圧電基板21の表面弾性波の伝播時間の変化を検出する。これにより、圧電基板11の温度と、圧電基板21に接続されている熱電対30の起電力を利用して圧電基板21の温度と熱電対30の先端部33が設置されている測定箇所の温度との温度差とをそれぞれ検出することが可能となる。このため、任意の位置に設置した熱電対30の先端部33の温度について、無線及び無給電で圧電基板21の表面弾性波を利用したセンシングが可能となる。
【0052】
よって、物理量を検出するSAWセンサ20の圧電基板21において、外部環境の物理量の変化によって生じる表面弾性波が伝播する状況の変化を正確に把握し、物理量の一つである温度について正確に測定することが可能となる。
【0053】
(変形例)
図9は圧電体の分極の方向と電圧印加による変形方法との変形例についての説明図である。複合圧電体29を構成する第一の圧電体25と第二の圧電体27の分極方向41を
図9のように同じ方向となるように設定し、さらに第一の電極24と第三の電極28とを同電位とし、第二の電極26と、第一の電極24及び第三の電極28との間に電圧を印加する方法を用いることで、
図5の構成の場合と比較して、同じ電圧を印加した場合、複合圧電体29の電圧印加による伸縮が約2倍となるため、表面弾性波の伝播距離の変化も約2倍となり、表面弾性波の伝播の遅延時間を拡大させる方法として好適である。
(変形例)
図10は本発明の実施の形態の変形例における温度測定装置の説明図である。
【0054】
温度測定装置1Bは温度センサ2Bと計測部3とを備えている。
【0055】
温度センサ2Bの圧電基板57には、計測部3と計測部アンテナ4を介して電気信号を送受信するための温度センサアンテナ5が設けられている。温度センサアンテナ5は、圧電基板57上に設けられた櫛歯状電極58と電気的に接続されている。
【0056】
この櫛歯状電極58と対向する位置の矩形板状の圧電基板57の長手方向の一端部側と他端部側とに、櫛歯状電極58を挟んで第一の温度検出用反射器13と第二の温度検出用反射器23が圧電基板57上に配置されている。
【0057】
櫛歯状電極58と第二の温度検出用反射器23との間の表面弾性波が伝播する範囲の圧電基板57の裏面には、複合圧電体29が接合されている。複合圧電体29には、熱電対30の一端が同一温度域36の範囲内において配線されており、熱電対30の先端部33は同一温度域36の外部まで伸延して配置されている。
【0058】
また、複合圧電体29は、第一の支持体6及び第二の支持体7で一端が挟持されて片持ち支持されており、反対側の一端は自由端となっている。
【0059】
このような構成では、計測部3に接続されている計測部アンテナ4から送信される高周波の電気信号を温度センサアンテナ5で受信して、圧電基板57上に櫛歯状電極58で表面弾性波として励振する。励振された表面弾性波は、圧電基板57上を伝播して第一の温度検出用反射器13及び第二の温度検出用反射器23に到達し、それぞれの反射器13、23から櫛歯状電極58に向かって反射される。反射された表面弾性波は、櫛歯状電極58に到達して再び電気信号に変換されて、温度センサアンテナ5から送信される。この電気信号を、計測部3に接続されている計測部アンテナ4で受信する。このとき、同一温度域36にある圧電基板57の温度は、温度算出手段75により、第一の温度検出用反射器13による表面弾性波の反射波を分析して算出する。
【0060】
一方、第二の温度検出用反射器23による表面弾性波の反射波は、同一温度域36の温度と熱電対30の先端部33の温度に温度差がある場合には、圧電基板57の裏面に接合された複合圧電体29が熱電対30の起電力により変形するため、表面弾性波の伝播距離が変化する影響を受ける。この表面弾性波の遅延時間を計測部3の温度算出手段75で分析することで同一温度域36の温度と熱電対30の先端部33の温度との温度差が温度算出手段75で算出される。
【0061】
第一の温度検出用反射器13の反射波の分析による同一温度域36の温度と、第二の温度検出用反射器23の反射波の分析による同一温度域36の温度と熱電対30の先端部33の温度との温度差とによって、熱電対30の先端部33の温度が温度算出手段75で算出できる。
【0062】
なお、計測部3で受信した電気信号を温度算出手段75で分析する際、第一の温度検出用反射器13と第二の温度検出用反射器23による表面弾性波の反射波を区別する必要がある場合は、第一の温度検出用反射器13と第二の温度検出用反射器23との表面弾性波の減衰率に差を付けることで、両者を容易に区別することが出来る。例えば第一の温度検出用反射器13による表面弾性波の反射率を第二の温度検出用反射器23の表面弾性波の反射率よりも大きく設定することで、第一の温度検出用反射器による反射波の減衰のピークは第二の温度検出用反射器による反射波の減衰ピークよりも多きい値を取るため、容易に区別することが可能となる。
【0063】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の前記態様にかかる温度センサ及び温度測定装置は、無線通信のためのアンテナを有するSAWデバイスの温度だけでなく、SAWデバイスから延伸した熱電対の先端部の温度を検出することができ、無線通信のための制約条件によらず、必要な個所に熱電対を設置して温度を測定することが可能となる。このため、本発明の前記態様は、無線、無給電において高精度に温度を測定するシステムとして、搬送を伴う工業製品又は家電製品の製造工程又は各種電子部品の製造工程における乾燥炉、キュア炉、又はリフロー炉などの各種熱処理を行う熱処理方法及び装置に適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1、1B 温度測定装置
2、2B 温度センサ
3 計測部
4 計測部アンテナ
5 温度センサアンテナ
6 第一の支持体
7 第二の支持体
10 第一のSAWデバイス
11 第一の圧電基板
12 第一の櫛歯状電極
13 第一の温度検出用反射器
20 第二のSAWデバイス
21 第二の圧電基板
22 第二の櫛歯状電極
23 第二の温度検出用反射器
24 第一の電極
25 第一の圧電体
26 第二の電極
27 第二の圧電体
28 第三の電極
29 複合圧電体
30 熱電対
31 第一の金属導体
32 第二の金属導体
33 先端部
34 絶縁端子台
35 配線
36 同一温度域
40 結晶粒
41 分極方向
50 基準の返信波
51 返信波
52 返信波
53 熱電対先端部の温度
54 同一温度域の温度
55 温度差
56 温度差の無い領域
57 圧電基板
58 櫛歯状電極
60 圧電基板
61 櫛歯電極部
62 圧力検出用反射器
63 ダイヤフラム部
64 温度補償用反射器
65 読み取り装置
66 コンピュータ
75 温度算出手段