(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185381
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】換気制御装置
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20221207BHJP
F24F 11/77 20180101ALI20221207BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F11/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093033
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 ミゲイル
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
【テーマコード(参考)】
3L056
3L260
【Fターム(参考)】
3L056BD01
3L056BD07
3L056BE01
3L056BF06
3L260AB15
3L260BA12
3L260CA03
3L260CA17
3L260FC01
3L260HA01
(57)【要約】
【課題】 対象空間内のCO
2濃度に基づきより感染リスクを低減することができる換気制御装置を提供する。
【解決手段】 感染症のリスクを低減すべく対象空間における換気を制御するための換気制御装置1であって、対象空間内の滞在者の人数に基づいてCO
2濃度基準値を決定し、前記対象空間のCO
2濃度が前記CO
2濃度基準値以下となるように制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症のリスクを低減すべく対象空間における換気を制御するための換気制御装置であって、
対象空間内の滞在者の人数に基づいてCO2濃度基準値を決定し、前記対象空間のCO2濃度が前記CO2濃度基準値以下となるように制御する
ことを特徴とする換気制御装置。
【請求項2】
前記滞在者の人数、想定される前記滞在者が前記対象空間に滞在する代表滞在時間、前記対象空間内の感染者数、前記滞在者の呼気のCO2濃度、及び前記感染者の飛沫核による感染性粒子発生量から前記対象空間内の感染確率が一定以下又は基本再生産数が一定以下となる前記CO2濃度基準値Csを求める
ことを特徴とする請求項1に記載の換気制御装置。
【請求項3】
外気のCO2濃度をさらに入力とし、
前記滞在者の人数、前記外気のCO2濃度、想定される前記滞在者が前記対象空間に滞在する代表滞在時間、前記対象空間内の感染者数、前記滞在者の呼気のCO2濃度、及び、前記感染者の飛沫核による感染性粒子発生量から前記対象空間内の感染確率が一定以下又は基本再生産数が一定以下となる前記CO2濃度基準値Csを求める
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の換気制御装置。
【請求項4】
前記対象空間内の感染確率が一定以下となるCO
2濃度を感染確率基準CO
2濃度C
pとし、
前記基本再生産数が一定以下となるCO
2濃度を基本再生産数基準CO
2濃度C
Rとし、
前記感染確率基準CO
2濃度C
pは、以下の式(1)から求め、前記基本再生産数基準CO
2濃度C
Rは、以下の式(2)から求める
ことを特徴とする請求項3に記載の換気制御装置。
【数1】
ここで、
n:対象空間の人数[人]、
C
o:外気CO
2濃度[ppm]、
t:滞在時間[h]、
C
p:感染確率基準CO
2濃度[ppm]、
P
a:目標感染確率、
C
R:基本再生算数基準CO
2濃度[ppm]、
R
Aa:目標基本再生産数[人]
C
a:呼吸時に呼気に加えられる呼気CO
2濃度[ppm]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
である。
【請求項5】
前記CO
2濃度基準値C
sを用いてCO
2濃度制御比例帯の設定を以下の式(3)によって変更する
ことを特徴とする請求項4に記載の換気制御装置。
【数2】
ここで、
B:補正比例帯[ppm]、
C
b:初期CO
2濃度基準値[ppm]、
α:初期比例帯[ppm]
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間内の目標とするCO2濃度基準値を求める換気制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内環境を良好に維持するための指標として、CO2濃度が用いられている。建築衛生法の「建築物環境衛生管理基準」は、室内空気のCO2濃度を1000ppm以下にすることを求めている。室内のCO2濃度を1000ppm以下に抑えるためには、一人当たりの換気量は、30CMH(cubic meter per hour)程度必要とされている。
【0003】
一般に、空調設備の設計において、外気導入量及び外調機の能力は、室内に滞在する最大人員密度を仮定して、「30CMH/人×最大人員密度×室面積」という計算式に基づいて決定する。したがって、人員密度が少ない時、外調機の定格運転は、必要以上に外気を導入する。つまり、人員密度が少ない時、空調設備による室内空気の温度調節は、大きなエネルギーを消費する。
【0004】
従来、外気のCO2濃度の測定結果に基づいて室内空気のCO2濃度の閾値を補正して、外気導入量を決定する換気装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/053946号
【非特許文献1】Rudnick, S.N., Milton, D.K., Risk of indoor airborne infection transmission estimated from carbon dioxide concentration. Indoor Air 13(3), 237-245., 2003
【非特許文献2】Brent Stephens: HVAC filtration and the Wells-Riley approach to assessing risks of infectious airborne diseases, Final Report, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された換気装置は、CO
2濃度を閾値以下に維持することはできるが、COVID-19等のウイルスに対する感染リスクに対して有効とは限らない。
図1及び
図2にCO
2濃度に基づいて換気装置が制御された室内における人員密度と感染性粒子濃度のイメージを示す。
図1は感染リスクが低い場合、
図2は感染リスクが高い場合である。
【0007】
図1及び
図2に示す室内は、CO
2濃度が一定に維持されている。CO
2は室内に滞在する全ての人が発生源となるが、感染性粒子は感染者のみが発生源となる。したがって、人員密度は低くなるにつれて室内におけるCO
2の総量に対する感染者が発生源となるCO
2の割合が高くなる。言い換えると、人員密度は低くなるにつれて室内に滞流する感染者の呼気の量、つまり感染性粒子が多くなる。そのため、CO
2濃度を人員密度によらず一定に制御した場合、
図1に示す人員密度が高い室内に感染者がいるときよりも、
図2に示す人員密度が低い室内に感染者がいるときの方が、感染リスクは高くなる。
【0008】
従来の室内環境を良好に維持するためのCO2濃度に基づいた管理手法は、在室者から発生する室内の汚染物質の総量が所定以下となるように管理していた。このため、在室者のうち一部の感染者から感染性粒子が放出される状態においては、感染リスクを低減させるには不十分な場合もあった。そこで本発明は、対象空間内の目標とするCO2濃度を求め、求めたCO2濃度に基づき、より感染リスクを低減することのできる換気制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる換気制御装置は、
感染症のリスクを低減すべく対象空間における換気を制御するための換気制御装置であって、
対象空間内の滞在者の人数に基づいてCO2濃度基準値を決定し、前記対象空間のCO2濃度が前記CO2濃度基準値以下となるように制御する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる換気制御装置によれば、対象空間内のCO2濃度に基づきより感染リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】CO
2濃度制御された室内の人員密度と感染性粒子濃度のイメージであって、感染リスクが小さい場合を示す。
【
図2】CO
2濃度制御された室内の人員密度と感染性粒子濃度のイメージであって、感染リスクが大きい場合を示す。
【
図3】本実施形態の換気制御装置のシステム構造の一例を示す。
【
図4】本実施形態の換気制御装置の制御設定変更のイメージを示す。
【
図5】本実施形態の換気制御のフローチャートの一例を示す。
【
図6】会議室を想定した滞在人数に対する基準CO
2濃度を示す。
【
図7】執務室を想定した滞在人数に対する基準CO
2濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明にかかる一実施形態の換気制御装置1を説明する。本実施形態の換気制御装置1は、室内の滞在人数(滞在者の人数)と外気CO2濃度を基に対象空間で感染症に感染する危険を減らすように制御する。ここで、本実施形態の換気制御装置1は、空気感染を対象とし、動沈降により空気中に感染粒子が滞留しない飛沫感染や接触感染を対象としない。感染粒子は、例えば、カビ、細菌、又はウイルス等である。
【0013】
飛沫核を対象とした感染粒子は、空気中に長期間浮遊すると仮定する。このような感染粒子は、くしゃみ又は咳等を含む呼気が媒体となり、室内に拡散する。人の呼気に含まれるCO2濃度は、人の運動量によって変化するが、一般に、外気の350ppm~400ppmに対して、10,000ppm~90,000ppm程度まで変化する。また、ほとんどの建物の室内において、CO2の発生源は人の呼気なので、CO2は、呼気曝露のマーカーとして有効である。
【0014】
本実施形態の換気制御装置1は、対象空間のCO2濃度基準値が変更される仕様である。したがって、対象空間内の人の情報を取得できさえすれば、既存の空調システムに適用することができる。人の情報は、対象空間内に滞在する人数がわかればよい。
【0015】
なお、本実施形態の換気制御装置1は、1つの換気制御装置1が担当する対象空間内のCO2濃度制御について述べる。1つの室内には、複数の対象空間があってもよい。
【0016】
図3は、本実施形態の換気制御装置1のシステム構造の一例を示す。
【0017】
本実施形態の換気制御装置1は、少なくとも、対象空間内外の状態を検知する検知部10と、予め定めたパラメータを入力する入力部20と、検知部10と入力部20の情報から換気制御の設定を変更する制御部30と、を備える。
【0018】
検知部10は、対象空間内の滞在人数を検知する人検知センサ11と、外気のCO2の濃度を測定する外気CO2濃度センサ12と、を有する。
【0019】
人検知センサ11は、所定の室内等の対象空間内に滞在する人数を検知し、制御部30へ入力する。人検知センサ11は、予め配布した無線タグを入室時に検知するもの、カメラ等による画像を解析するもの、レーザスキャン等によって人を認識するもの、及び、赤外線等により温度を検知するもの等でよい。
【0020】
外気CO2濃度センサ12は、外気に設置されてCO2の濃度を計測し、制御部30へ入力する。外気CO2濃度センサ12は、NDIR(Non Dispersive Infrared Gas Anaryzer)等の光学式、電気化学反応を利用した電気化学式、酸化スズのような半導体を使用した半導体式等でよい。
【0021】
入力部20は、対象空間内に人が滞在する想定時間を入力する属性入力部21と、感染症に関する情報を入力する感染症パラメータ入力部22と、を少なくとも有する。
【0022】
属性入力部21は、管理者が予め設定した対象空間の代表滞在時間tを制御部30へ入力する。代表滞在時間tは、対象空間の使途等に鑑み、対象空間の滞在者が対象空間に滞在する時間を管理者が想定し、対象空間毎に管理者が設定する時間である。例えば、対象空間が会議室の場合、管理者は、滞在時間を1~2時間程度と想定し、属性入力部21に代表滞在時間tを2時間と設定する。また、対象空間が執務室の場合、管理者は、滞在時間を8時間程度と想定し、属性入力部21に代表滞在時間tを8時間と設定する。
【0023】
感染症パラメータ入力部22は、管理者が予め設定した一定値を持つ複数の感染症パラメータを制御部30へ入力する。感染症パラメータは、感染者数I、感染者を含む建物利用者(滞在者)の呼気のCO2濃度Ca、感染者から発せられる飛沫核による感染性粒子発生量q、の3つのパラメータが挙げられる。建物利用者の呼気のCO2濃度Caは建物によって変わる他、感染者数Iは建物利用者の感染状況によりが変わる。また、感染性粒子発生量qは感染症によっても異なる。このため、感染症パラメータとして挙げた、感染者数I、呼気のCO2濃度Ca、感染性粒子発生量qは、管理者が感染症の特性、建物利用者の感染状況、建物の使途等に基づき設定すればよい。本実施形態の各感染症パラメータの詳細については、後述する。
【0024】
制御部30は、対象空間内の感染確率が一定以下となる感染確率基準CO2濃度Cp又は基本再生産数が一定以下となる基本再生産数基準CO2濃度CRのうち少なくとも一つを算出するCO2濃度算出部31と、CO2濃度算出部31が算出したCO2濃度を比較し低い方を選択するCO2濃度基準値選択部32と、を少なくとも有する。また、CO2濃度基準値選択部32が選択した選択したCO2濃度基準値を用いてCO2濃度制御比例帯の設定を変更する制御設定変更部33と、を有してもよい。なお、基本再生産数基準CO2濃度CRを比較する際に、算出した基準CO2濃度を設定してもよい。
【0025】
まず、CO2濃度算出部31が算出する感染確率基準CO2濃度Cpについて説明する。
【0026】
感染確率は、非特許文献1に示される Rudnick と Milton によって提案された修正 Wells-Riley モデルを用いて評価を行う。以下の式(A-1)及び式(A-2)は、人検知センサ11が検知した対象空間の人数n、外気CO
2濃度センサ12が検知した外気CO
2濃度C
o、属性入力部21が設定した代表滞在時間t、及び、感染症パラメータ入力部22が設定した感染症パラメータを入力することで、算出することができる。
【数1】
ここで、
V:拡散される室内空気の容積[m
3]、
V
e:室内空気に含まれる呼気の体積 [m
3]、
C:対象空間内CO
2濃度[ppm]、
C
o:外気CO
2濃度[ppm]、
C
a:呼気のCO
2濃度[ppm]、
I:感染者数[人]、
q:飛沫核による感染性粒子発生量[quanta/h]、
n:対象空間の人数[人]、
t:滞在時間[h]、
P:感染確率、
D:新規感染者数[人]、
S:対象空間内において感染する可能性がある人の総数[人]、
である。
また、呼気割合fは、室内の容積に対する呼気の体積の割合である。感染確率Pを求める際に、呼気割合fの値は瞬時的な値、又は、一定時間の平均値のどちらを用いてもよい。
さらに、感染性粒子発生量qは、非特許文献2等を参考に決定すればよい。
【0027】
軽作業時の呼気CO2濃度Caは約38000ppm程度であり、外気CO2濃度Coは約350-400ppm程度である。呼気CO2濃度Caを一定の値として設定することで人の作業強度を、また外気CO2濃度Coを一定の値として設定することで検知部12の出力を用いることなく外気状況を、一定条件と仮定して感染リスク分布を算出することもできる。
【0028】
式(A-1)及び式(A-2)から感染確率基準CO
2濃度C
pは、以下の式(1)となる。
【数2】
ここで、
C
p:感染確率基準CO
2濃度[ppm]、
P
a:目標感染確率、
である。
【0029】
感染確率は、特定の空間において感染者が非感染者に感染させる確率であり、0~1の数値となる感染確率に関し、管理者(施設管理者)が対象空間における感染リスクを低減する観点から目標値として目標感染確率Paを決定する。例えば、対象空間内に1名の感染者がおり、各非感染者の感染確率が30%以下としたい場合に、管理者は目標感染確率Paを0.3に設定する。なお、後述する基本再生産数基準CO2濃度CRとあわせるため、常に対象空間内の感染者数I=1を前提とする。
【0030】
このように、CO2濃度算出部31は、目標感染確率Paを決定することで、感染確率が一定以下となる感染確率基準CO2濃度Cpを算出することができる。
【0031】
続いて、CO2濃度算出部31が算出する集団としての基本再生産数が一定以下となる基本再生産数基準CO2濃度CRについて説明する。基本再生産数が1以下となることで、集団としての感染拡大は、終息に向かうこととなる。基本再生産数は、式(A-2)における感染者I=1に対する新規感染者数Dの人数で考えることができる。
【0032】
そこで、 式(A-2)にI=1、S=n-1を代入して、以下の式(B)から基本再生産数を求める。
【数3】
ここで、R
A0:基本再生産数[人]である。
【0033】
また、式(B)から基本再生産数基準CO
2濃度C
Rは、以下の式(2)から算出される。
【数4】
ここで、
C
R:基本再生算数基準CO
2濃度[ppm]、
R
Aa:目標基本再生産数[人]
である。
【0034】
このように、1人の感染者が何人に感染を広げる可能性があるかを示す基本再生産数に関し、管理者(施設管理者)が対象空間における感染リスクを低減する観点から目標値として目標基本再生産数RAaを決定する。CO2濃度算出部31は、目標基本再生産数RAaに基づいて基本再生算数基準CO2濃度CRを算出することができる。
【0035】
CO
2濃度基準値選択部32は、式(1)で求めた感染確率基準CO
2濃度C
pと式(2)で求めた基本再生産数基準CO
2濃度C
Rを比較し、式(C)で示すように、低い方のCO
2濃度をCO
2濃度基準値C
sとして選択する。
【数5】
ここで、C
s:CO
2濃度基準値[ppm]である。
【0036】
図4は、本実施形態の換気制御装置の制御設定変更のイメージを示す。
図4に示すグラフの横軸はCO
2濃度基準値C
sであり、縦軸は外気導入部40としての外気導入ファンのインバータ出力である。
【0037】
制御設定変更部33は、選択したCO2濃度基準値Csを用いてCO2濃度制御比例帯の設定を変更する。一般的なCO2濃度制御は、CO2濃度基準値Csに対して比例帯を有する比例制御を行って換気システム100の外気導入部40のインバータ出力を調整する。初期比例帯αは、一定の大きさで設定されている。そのため、感染リスクに配慮してCO2濃度基準値Csを変更した場合、人が少ないのに風量が極端に大きくなる等の問題が生じる可能性が考えられる。
【0038】
制御設定変更部33は、CO
2濃度基準値C
sの変更に応じて初期比例帯αの大きさを変更する。補正比例帯Bの大きさは、以下の式(3)によって変更する。
【数6】
ここで、
B:補正比例帯[ppm]、
C
b:初期CO
2濃度基準値[ppm]、
α:初期比例帯[ppm]
である。
【0039】
例えば、
図4に示す例で考えると、初期CO
2濃度基準値C
bは900ppmに設定されており、初期比例帯αは200ppmである。外気のCO
2濃度C
Oは400ppm、CO
2濃度基準値C
sは500ppm、と仮定すると、補正比例帯Bは40ppmとなる。
【0040】
このように、外気CO2濃度COに近いCO2濃度基準値Csが設定されることで、補正比例帯Bが小さくなるので、制御精度は向上する。また、外気CO2濃度COに近いCO2濃度基準値Csが設定された場合に、比例帯の下限が外気CO2濃度COよりも低くなることを避けることができる。
【0041】
次に、本実施形態の換気制御装置1の制御設定変更方法について説明する。
【0042】
図5は、本実施形態の換気制御装置1の制御設定変更フローチャートを示す。
【0043】
まず、ステップ1で、換気制御装置1は、検知器10が検知した値及び入力部20から入力された感染症パラメータを制御部30へ入力する(ST1)。
【0044】
続いて、ステップ2で、CO2濃度算出部31は、感染確率基準CO2濃度Cp及び基本再生産数基準CO2濃度CRのうち少なくとも1つを算出する(ST2)。
【0045】
次に、ステップ3で、CO2濃度基準値選択部32は、ステップ2において算出した感染確率基準CO2濃度Cpと基本再生産数基準CO2濃度CRを比較し、低い方のCO2濃度をCO2濃度基準値Csとして採用する(ST3)。
【0046】
次に、ステップ4で、制御設定変更部33は、選択したCO2濃度基準値Csを用いてCO2濃度制御比例帯の設定を変更する(ST4)。
【0047】
このように、換気制御装置1の制御設定を変更するので、感染リスクを減らすことができる。なお、このフローチャートは、一定時間毎に開始させると好ましい。
【0048】
次に、表1に示したパラメータの例に基づいて制御設定の変更例を示す。
【表1】
【0049】
検討対象空間は、会議室と執務室を想定し、滞在人数によってCO2濃度基準値Csを変更する。
【0050】
図6は、会議室を想定した滞在人数に対する基準CO
2濃度を示す。
【0051】
図6に示すように、感染確率基準CO
2濃度C
pは、滞在人数に比例して増加する。これは、滞在人数が増加するほど、非感染者によるCO
2排出量が増加することに起因している。一方、基本再生産数基準CO
2濃度C
Rは、室内の滞在人数が増加するほど、減少する。
【0052】
会議室のCO2濃度基準値Csは、滞在人数が4人以下の場合、感染確率基準CO2濃度Cpを適用し、滞在人数が5人以上の場合、基本再生産数基準CO2濃度CRを適用する。この例の場合、滞在人数が増加しても基本再生産数基準CO2濃度CRは約600ppmを下回らない。このように基本再生産数基準CO2濃度CRの変化が予め行った検証などにより把握できている場合、会議室の滞在人数と照らし合わせて基本再生産数基準CO2濃度CRと固定してもよい。
【0053】
図7は、執務室を想定した滞在人数に対する基準CO
2濃度を示す。
【0054】
図7に示すように、会議室と同様に、感染確率基準CO
2濃度C
pは滞在人数に比例して増加し、基本再生産数基準CO
2濃度C
Rは減少する。しかしながら、執務室は、会議室と比較して、人の滞在時間が長いと仮定しているので、基準CO
2濃度C
p,C
Rはどちらも低い。
【0055】
執務室のCO2濃度基準値Csは、滞在人数が4人以下の場合、感染確率基準CO2濃度Cpを適用し、滞在人数が5人以上の場合、基本再生産数基準CO2濃度CRを適用する。
【0056】
本実施形態に記載された換気制御装置1は、対象空間内の換気を行う換気システム100に用いられると好ましい。換気システム100は、換気制御装置1と、換気制御装置1が設定した対象空間内のCO2濃度基準値Csに応じて外気を対象空間内に導入する外気導入部40と、を備える。また、対象空間から空気を排出する排出部を備えてもよい。外気導入部40は、既存の空調装置に含まれる構造でもよい。
【0057】
以上、本実施形態の換気制御装置1は、感染症のリスクを低減すべく対象空間における換気を制御するための換気制御装置1であって、対象空間内の滞在者の人数に基づいてCO2濃度基準値を決定し、前記対象空間のCO2濃度が前記CO2濃度基準値以下となるように制御する。したがって、本実施形態の換気制御装置1によれば、対象空間内のCO2濃度に基づきより感染リスクを低減することができる。
【0058】
また、本実施形態の換気制御装置1は、滞在者の人数n、想定される滞在者が対象空間に滞在する代表滞在時間t、対象空間内の感染者数I、感染者を含む建物利用者(滞在者)の呼気のCO2濃度Ca、及び、感染者から発せられる飛沫核による感染性粒子発生量qから対象空間内の感染確率が一定以下又は基本再生産数が一定以下となるCO2濃度基準値Csを求める。したがって、本実施形態の換気制御装置1によれば、対象空間内のCO2濃度に基づきさらに大きく感染リスクを低減することができる。
【0059】
また、本実施形態の換気制御装置1は、外気のCO2濃度をさらに入力とし、滞在者の人数n、外気のCO2濃度Co、想定される滞在者が対象空間に滞在する代表滞在時間t、及び、対象空間内の感染者数I、感染者を含む建物利用者(滞在者)の呼気のCO2濃度Ca、及び、感染者の飛沫核による感染性粒子発生量qから対象空間内の感染確率が一定以下又は基本再生産数が一定以下となるCO2濃度基準値Csを求める。したがって、本実施形態の換気制御装置1によれば、対象空間内のCO2濃度に基づきさらに大きく感染リスクを低減することができる。
【0060】
また、本実施形態の換気制御装置1は、対象空間内の感染確率が一定以下となるCO2濃度を感染確率基準CO2濃度Cpとし、基本再生産数が一定以下となるCO2濃度を基本再生産数基準CO2濃度CRとし、感染確率基準CO2濃度Cpは、上記の式(1)から求め、基本再生産数基準CO2濃度CRは、上記の式(2)から求める。したがって、本実施形態の換気制御装置1によれば、対象空間内のCO2濃度に基づきさらに大きく感染リスクを低減することができる。
【0061】
また、本実施形態の換気制御装置1は、CO2濃度基準値Csを用いてCO2濃度制御比例帯の設定を上記の式(3)によって変更する。したがって、本実施形態の換気制御装置1によれば、対象空間内のCO2濃度に基づき、さらに大きく感染リスクを低減することができる。
【0062】
なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、当業者であれば、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…換気制御装置
10…検知部、11…人検知センサ、12…外気CO2センサ
20…入力部、21…属性入力部、22…感染症パラメータ入力部
30…制御部、31…CO2濃度算出部、32…CO2濃度基準値選択部、33…制御設定変更部
40…外気導入部