(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185385
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】化粧シート用UVインクジェットインキ、化粧シート、及び化粧板
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20221207BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C09D11/38
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093037
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田淵 恵里香
(72)【発明者】
【氏名】中山 由美
(72)【発明者】
【氏名】藪原 靖史
【テーマコード(参考)】
4F100
4J039
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AK02B
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4J039AD09
4J039BA06
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4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い輝度感と高い意匠性の両方を備えた化粧シート、及び化粧板、並びにその化粧シート及び化粧板を製造するために用いる環境に優しい化粧シート用インクジェットインキを提供する。
【解決手段】基材シート1の上に、塗布された印刷層に光輝性絵柄印刷層2を備えた化粧シート20において、前記光輝性絵柄印刷層2に用いるインキが、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂と、銀ナノ粒子と、リン酸エステル系分散剤とを、含むことを特徴とする化粧シート用UVインクジェットインキである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの上に、塗布された印刷層に光輝性絵柄印刷層を備えた化粧シートにおいて、前記光輝性絵柄印刷層に用いるインキが、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂と、銀ナノ粒子と、リン酸エステル系分散剤とを、含むことを特徴とする化粧シート用UVインクジェットインキ。
【請求項2】
前記銀ナノ粒子は、アミン化合物を主として含む保護分子により表面が保護された銀ナノ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート用UVインクジェットインキ。
【請求項3】
前記銀ナノ粒子のメジアン径(D50)は、1nm以上250nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート用UVインクジェットインキ。
【請求項4】
上記リン酸エステル系分散剤のリン酸エステル部位はポリオキシエチレン鎖を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の化粧シート用UVインクジェットインキ。
【請求項5】
前記基材シートが紙であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の化粧シート用UVインクジェットインキ。
【請求項6】
前記基材シートより上に、着色インキを用いて形成されたカラー絵柄印刷層をさらに備えることを特徴とする化粧シート。
【請求項7】
前記カラー絵柄印刷層或いは光輝性絵柄印刷層の最表層に、表面保護層を備えることを特徴とする請求項6に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記化粧シートと、前記化粧シートの前記基材シート側に配置された基板と、を備えることを特徴とする化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築物における壁材、天井材、床材、造作材等の内装材や建具、家具什器類、住設機器や家電製品の外装、自動車等の車両内装等に使用するための化粧シート用インクジェットインキ、化粧シート、及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明光を反射して光輝性を呈する特殊な意匠効果を得る目的で、鱗片状アルミニウム粉末(アルミフレーク)等の金属粉や、二酸化チタン被覆雲母等の真珠光沢顔料(パール顔料)等に代表される光輝性顔料を、適当なバインダー樹脂中に練り込んでなる光輝性インキを使用して、光輝性を有する絵柄等を基材上に印刷してなる光輝性印刷物が、各種の用途に広く使用されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
例えば、建材や家具、家電製品の筐体等の表面装飾において、天然木に特有の照り感や深み感、木肌感等を印刷技術によって再現する目的で、木目の絵柄に光輝性層を付加したものが使用されている。また、木目柄以外にも、石目柄、抽象柄等に例えば絹目調やパール調、メタリック調等、光輝性のある意匠感を表現した、各種の光輝性化粧シート及び化粧板(以下、単に「化粧シート」と称する)が広い分野で使用されている。
【0004】
ところで、光輝性顔料としては、粒径が数μm程度から100μm以上に及ぶ各種のものが市販されている。印刷技法を使用する光輝性化粧シートには、この光輝性顔料を練り込んだシルバーインキなどのメタリックインキ(粉の形状によってミラーインキ、リゲルインキ、ホログラムインキ、ステラインキと呼ばれることもある)や、パールインキの印刷適性上の制約のために、通常平均粒径が概ね30μm以下の光輝性顔料が使用されている。
【0005】
従来の化粧シートでは、グラビア印刷によって模様が印刷されていた。グラビア印刷によれば、高速度で大量の印刷を行えるという利点がある。しかしながら、グラビア印刷は、少量の印刷しか行わない場合には経済的ではなく、また、模様が複雑である場合には印刷品質の点で適さない場合がある。
【0006】
一方で、現在インクジェット印刷はさまざまな分野で、さまざまな用途に実用化がなされており、身近な存在となっている。例えば、一般家庭においても、パソコンの出力装置として或いは年賀状や写真のプリンターとして使用されることが多く、また産業用においてもバーコードプリンター、あるいは看板、POP、広告媒体など商業印刷物への利用例は多い。
【0007】
インクジェット印刷の利点は、プリンターが比較的安価で且つ高画質が得られる点が第一にある。また、印刷といっても印刷用の版を必要とせず、パソコンや専用の機器からのデータによって目的の印刷物を得ることができる。これは単に印刷用の版の価格が節約できるということにとどまらず、印刷までに要する時間を短縮し、校正刷りといわれる試作、試し刷りを簡略なものにできるなどの利点が多い。
【0008】
そのため、特許文献3に記載の技術では、化粧シートの印刷に、インクジェット印刷を用いることが提案されている。この際、例えば、化粧シートの意匠性を向上するために、インクジェットインキに光輝性顔料を混ぜて、インクジェット印刷層に光輝性を付与することが考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献4、5に見られるように、インクジェット印刷の問題点として、微小な液滴の吐出にはノズル内径を10μmオーダーまで小さくする必要がある。一方で光輝性顔料は粒径が大きいものが多いため、光輝性顔料を分散したインキにはノズル内での目詰まりの問題が生じ、安定な吐出が難しい場合がある。また、粒径が小さな光輝性顔料を用いると、紙のような目の粗い基材への印刷では光輝性が発現しにくい場合がある。以上の理由から、光輝性顔料を混ぜたインクジェットインキで印刷を行うことは一般に難しい、という問題があった。
【0010】
更に、インクジェット印刷の中でも、環境問題への対応の観点から、毒性の高い有機溶剤を含まない、環境に優しいインキを用いたインクジェット印刷が注目されている。そのため、水や、UV硬化樹脂を分散媒としたインキの使用が望ましいが、光輝性顔料を良好に分散させるために、適切な分散剤の選定が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4725226号公報
【特許文献2】特許第6107180号公報
【特許文献3】特開2001―71447号公報
【特許文献4】特開2004-299378号公報
【特許文献5】特許第4834981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題、状況を鑑みて発案されたものであり、その目的とするところは、高い輝度感と高い意匠性の両方を備えた化粧シート、及び化粧板、並びにその化粧シート及び化粧板を製造するために用いる環境に優しい化粧シート用インクジェットインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る化粧シート用インクジェットインキは、基材シートの上に、塗布された印刷層に光輝性絵柄印刷層を備えた化粧シートにおいて、前記光輝性絵柄印刷層に用いるインキが、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂と、銀ナノ粒子と、リン酸エステル系分散剤とを、含むことを特徴とする
前記銀ナノ粒子は、アミン化合物を主として含む保護分子により表面が保護された銀ナノ粒子であることを特徴とする。
【0014】
前記銀ナノ粒子のメジアン径(D50)は、1nm以上250nm以下の範囲内であることを特徴とする。
【0015】
前記リン酸エステル系分散剤のリン酸エステル部位はポリオキシエチレン鎖を有することを特徴とする。
【0016】
前記基材シートが紙であることを特徴とする。
【0017】
前記基材シートより上に、着色インキを用いて形成されたカラー絵柄印刷層をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
前記前記カラー絵柄印刷層或いは光輝性絵柄印刷層の最表層に、表面保護層を備えることを特徴とする化粧シートである。
【0019】
前記化粧シートと、前記化粧シートの前記基材シート側に配置された基板と、を備えることを特徴とする化粧板である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い輝度感と高い意匠性の両方を備えた化粧シート、及び化粧板、並びにその化粧シート及び化粧板を製造するために用いる、環境に優しい化粧シート用インクジェットインキが得られる。具体的には、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂、銀ナノ粒子、リン酸エステル系分散剤とを含んだ化粧シート用インクジェットインキを用いているため、光輝性を有する絵柄印刷層がインクジェット印刷法を用いて印刷でき、印刷版必要とすることなく、高い輝度感を有する化粧シート及び化粧板が得られる。銀ナノ粒子をUV硬化樹脂に分散させたインキを用いることから、溶剤を用いないため環境に優しく、かつ目の粗い紙基材等にも光輝性を付与しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の第1実施形態に係る化粧シートの構成を例示する模式断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る化粧シートの構成を例示する模式断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る化粧シートを備えた化粧板の構成を例示する模式断面図である。
【
図5】本発明の実施例1で得られた銀ナノ粒子のトルエン分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図6】本発明の実施例1で得られた銀ナノ粒子の粒度分布及び累積度数(%)を示す図である。
【
図7】本発明の実施例2で得られた銀ナノ粒子の1-ブタノール分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図8】本発明の実施例3で得られた銀ナノ粒子の1-ブタノール分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図9】本発明の実施例4で得られた銀ナノ粒子の1-ブタノール分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【
図10】本発明の実施例5で得られた銀ナノ粒子の1-ブタノール分散液を基板に塗布し乾燥させた後、観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る化粧シート及び化粧板の各構成について、図面を用いて説明する。同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。各図面において、見易さのため構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も減らして図示していることがある。また、本発明は以下の実施形態そのままに限定されるものではなく、主旨を逸脱しない限りにおいて、適宜の組み合わせ、変形によって具体化できる。
【0023】
本発明の実施形態に係る化粧シートは、いずれも、基材シートの上に、インクジェットインキを用いて形成されたインクジェット印刷層を少なくとも備え、そのインクジェットインキは、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂、銀ナノ粒子、リン酸エステル系分散剤を含む、という共通した特徴を有している。なお、銀ナノ粒子を含めることで光輝性を付与した印刷層である光輝性層がインクジェット印刷法により作製したものであるかどうかは、ルーペ等で例えばその印刷層に表現された木目柄等の絵柄を拡大観察したときに、茶色等で印刷されているか、赤青黄黒の多色で印刷されているかどうかにより容易に判別できる。
【0024】
本願発明者は、UV硬化樹脂、銀ナノ粒子、リン酸エステル系分散剤とを含んだインクジェットインキ(以下、単に「銀ナノ粒子インキ」とも称する)を光輝性層の印刷に用い、銀ナノ粒子の粒径や濃度を好適に選択することにより、輝度感が調節でき、意匠性と光輝性の両方が高くなり、例えば建材特有の細線やグラデーション、アルミを用いたインキでは表現の難しい淡い光沢を特徴とするパール調の意匠などを印刷、再現できることを見出した。
【0025】
以下、本発明の各実施形態に係る化粧シートの実施形態について説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態に係る化粧シート10の構成を例示する模式断面図である。第1実施形態に係る化粧シート10では、基材シート1上に、着色インキで形成されたパターンをカラー絵柄印刷層2’とし、銀ナノ粒子インキを用いたインクジェット印刷法によって、シルバー絵柄印刷層(光輝性絵柄印刷層)2が形成されている。銀ナノ粒子インキを用いて形成されたシルバー絵柄印刷層2は、同時に光輝性層K1となり、化粧シート10に輝度感を付与し、意匠性を高める機能を有する。ここで、本実施形態に係る「シルバー絵柄印刷層2」の色はシルバー(銀色)に限定されるものではない。これは、上述のように、含まれる銀ナノ粒子の大きさや形状、表面修飾、インキの濃度、基材上の粒子密度等によって、その色が変わるためである。本実施形態では、前記「カラー絵柄印刷層」と区別するために、銀ナノ粒子を含んで形成された光輝性絵柄印刷層を便宜的に「シルバー絵柄印刷層」と称する。
【0027】
なお、シルバー絵柄印刷層2は、
図2に示すように、カラー絵柄印刷層2’の表面の少なくとも一部を覆うように形成されていてもよいし、カラー絵柄印刷層2’の表面全部を覆うように形成されていてもよい。
【0028】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る化粧シート20の構成を例示する模式断面図である。第2実施形態に係る化粧シート20では、
図2示した第1実施形態に係る化粧シート10の表面を表面保護層3が被覆している。つまり、化粧シート20は、最表層に表面保護層3を備えた化粧シートである。
【0029】
図4は、本発明の第2実施形態に係る化粧シート20を備えた化粧板100の構成を例示する模式断面図である。
図4に示すように、本実施形態に係る化粧板100は、基板5の一面上に、
図3に示した化粧シート20を積層した積層構造になっている。そして、基板5と化粧シート20との間には接着層4が設けられており、接着層4により基板5と化粧シート20とが接着されている。
【0030】
以下、本実施形態で用いた銀ナノ粒子インキ、化粧シートの材料、構成について詳しく説明する。
【0031】
本実施形態で用いる銀ナノ粒子の表面は、アミン化合物を主成分として含む保護分子により覆われている。ここでいう「主成分」とは、銀ナノ粒子の表面を覆っている複数の保護分子のうち最も多い成分(分子)をいう。
【0032】
本実施形態に係る銀ナノ粒子は、例えば、メジアン径(D50)が1nm以上250nm以下の範囲内である。なお、銀ナノ粒子のメジアン径(D50)が1nmより小さいと視認性(光輝性)が低下し、銀ナノ粒子のメジアン径(D50)が250nmより大きいと分散性が低下することがある。また、平均一次粒子径は、Nanotrac UPA-
EX150粒度分布計(動的光散乱法、日機装社)を用い、0.1質量%分散液にて測定した粒度分布から求めた。
【0033】
銀ナノ粒子の形状としての制限はないが、球状、平板状、多角形状等のいずれか、又は複数の形状のものを含むことが好ましい。平板状の銀ナノ粒子は表面積が大きく、粒子が少量であっても視認性(光輝性)がよいことが期待される。また、銀ナノ粒子の形状が球状であると、大きさが均一になりやすく、銀ナノ粒子が隙間なく並ぶことが期待できる。このため、球状の銀ナノ粒子も視認性(光輝性)がよいことが期待される。
【0034】
銀ナノ粒子を構成する銀の原料としては、含銀化合物のうちで、加熱により容易に分解して金属銀を生成する銀化合物が好ましく使用される。このような銀化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸と銀が化合したカルボン酸銀の他、塩化銀、硝酸銀、炭酸銀等がある。そして、それらの銀化合物の中でも、分解により容易に金属を生成し、かつ、銀以外の不純物を生じにくい観点からシュウ酸銀が好ましく用いられる。
【0035】
シュウ酸銀は、銀含有率が高いとともに、加熱によりシュウ酸イオンが二酸化炭素として分解除去される。このために、還元剤を必要とせず熱分解により金属銀がそのまま得られ、不純物が残留しにくい点で有利といえる。
【0036】
銀化合物を加熱分解する際は、アルコールや脂肪酸、高分子等を添加してもよい。これらの添加により、粒径の調整や、良分散媒の変化、分散安定性の向上等が期待される。アルコールとしては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等、脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸等、高分子としては、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等が挙げられる。
【0037】
銀ナノ粒子の表面を保護するアミン化合物は、特に、その構造に制限はないが、銀原子への配位の容易さから、1級のアミノ基であるRNH2(Rは炭化水素基)を有することが好ましい。2級アミノ基も配位可能であるが、反応性は1級よりも低下する。また、アミノ基を複数有するジアミン化合物でもよい。ジアミン化合物の場合は、1級アミノ基と3級アミノ基とを備えると、1級アミノ基が選択的に銀原子に配位し、嵩高い3級アミノ基は外側を向くことになるため、銀ナノ粒子の表面が保護されやすい。
アミンとしては、例えば、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、1,2-ジメチルプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ノニルアミン、n-アミノデカン、n-アミノウンデカン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-オレイルアミン、等を挙げることができる。
【0038】
さらにジアミンとしては、例えば、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、N,N-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N-ジブチルアミノプロパン、N,N-ジイソブチル1,3-ジアミノプロパン、等が挙げられるが、この限りではない。また、複数の異なるアミンを同時に用いてもよい。
【0039】
このように、本実施形態で用いる銀ナノ粒子は、例えば、シュウ酸銀とアミンを混合して熱分解することにより、シュウ酸銀アミン錯体を経て製造された銀ナノ粒子であってもよい。シュウ酸銀とアミンとを熱分解して銀ナノ粒子を製造する技術としては、例えば、特開2012-162767号公報や特許第5574761号公報に記載されたものがある。上述の手法であれば、銀イオンを還元するための還元剤を混合する必要がなく、単純
な手法で銀ナノ粒子を製造することが可能である。また、上述の手法で得られた銀ナノ粒子は、主にアミン分子のアミノ基が銀粒子表面に配位しており、分散媒中での分散性が高い。また、製造する際の条件によって粒子の大きさや分散性を変更可能なことから、これらを用いた銀ナノ粒子インキは、用いる銀ナノ粒子やその濃度によって光輝性を調節した意匠を表現可能である。
【0040】
また、シュウ酸銀を熱分解させる際に、粒子の表面に配位する分子としてポリビニルピロリドンを用いて銀ナノ粒子を製造する方法もある(T.Togashi,S.Ojima,I.Sato,K.Kanaizuka,M.Kurihara,Chem.Lett.,2016,45,646-648)。前記方法で合成した銀ナノ粒子にはプレート状のものも含まれ、印刷時高い輝度感が期待される。
【0041】
塗液における銀ナノ粒子の添加量は、例えば、分散媒に対して1質量%以上50質量%以下の範囲内であることが好ましい。なお、金属光沢が強くなることから、銀ナノ粒子の添加量は、15質量%以上であることが特に好ましい。銀ナノ粒子の添加量が1質量%を下回ると印刷物としての視認性(光輝性)が低下し、50質量%を上回ると分散性が低下することがある。
【0042】
本実施形に係るUV硬化樹脂は、少なくとも1個以上の環状アルキルエーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有する。環状アルキルエーテル構造としては、エポキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキソラン、ジオキサン等が挙げられる。環状アルキルエーテル構造が適している理由は定かではないが、分散剤と相互作用することで、銀ナノ粒子の分散性を向上させると考えられる。また、インクジェットインキに用いることから、粘度20mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下が特に好ましい。粘度が20mPa・sより大きいと印刷時にうまくインキが吐出できないことがある。
【0043】
UV硬化樹脂としては、具体的に、ビスコート#150、#200、MEDOL-10(大阪有機化学工業社)、ライトアクリレートTHF-A(共栄社化学社)、SR-203、285(巴工業社)等が挙げられるが、その限りではなく、また、これらを複数組み合わせてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、電離放射線により重合開始種を発生する化合物、即ち重合開始剤を含んでいてもよい。電離放射線のうち紫外線を照射することにより重合する化合物(光重合開始剤)を使用する場合、その光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α-ヒドロキシケトン、ベンジルメチルケタール、α―アミノケトン、モノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイド等を単独或いは混合して用いる。具体的には、Irgacure 184、Irgacure 651、Irgacure 1173、Irgacure 907、Irgacure 369、Irgacure 819、Irgacure TPO(BASF社)、Esacure KIP-150、Esacure ONE(ランバルティ社)等を挙げることができるが、この限りではない。
【0045】
本実施形態に係る銀ナノ粒子を分散させるリン酸エステル系分散剤は、ポリオキシエチレンポリオキシエチレン鎖を有することが好ましい。他のポリオキシアルキレン鎖では、分散しない場合がある。ポリオキシエチレン鎖の鎖長を変えることで、樹脂への溶解性を調節可能である。またその添加量は、銀ナノ粒子の質量に対して1%以上30%以下で添加することが好ましい。より好ましくは5%~20%である。1%未満では、銀ナノ粒子が分散しない場合があり、30%を超えると銀ナノ粒子の光輝性がなくなってしまう場合がある。また、UV樹脂へ添加するため、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値HLB(Hydrophilic-Lipophilic
Balance)は8以下であることが好ましい。
【0046】
本発明に添加できるリン酸エステル分散剤は、具体例には、NIKKOL DDP-2、4、DDP-6(日光ケミカルズ社)、プライサーフAL、A207H、A208B、A208F、A208N、A208S、A210D、(第一工業製薬社)等を挙げることができるが、この限りではない。リン酸エステル系分散剤の化学構造式の例を
図1に示す。
【0047】
本実施形態に係る銀ナノ粒子インキは、上述した分散剤の他にも色素や消泡剤、レベリング剤等の添加剤を有してもよい。
【0048】
本実施形態に係る基材シート1としては、紙基材が好ましく、化粧シートに用いられることの多いチタン紙が特に好ましいが、用途に応じて適宜選択して良い。紙以外の基材では、インクが吸収されず、光輝性の付与が難しい場合がある。
【0049】
本実施形態に係る表面保護層3の材料としては、例えば、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含むものを用いることができる。熱硬化型樹脂としては、例えば、2液硬化型ウレタン樹脂等のウレタン結合を有する熱硬化型樹脂を用いることができる。また、電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、紫外線硬化型樹脂を用いることができる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂を使用できる。これらの材料を用いることで、表面保護層3の硬度を向上でき、耐摩耗性や、耐擦傷性、耐溶剤性等の表面物性を向上することができる。
【0050】
また、表面保護層3には、各種機能を付与するために、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤を添加してもよい。また、必要に応じて、表面保護層3に紫外線吸収剤や光安定化剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系を用いることができる。また、光安定化剤としては、例えば、ヒンダードアミン系を用いることができる。さらに、汚染防止性能やセロテープ(登録商標)離型性が求められる場合には、シリコーン骨格を持つ離型剤を添加することができる。この場合、離型剤の種類は特に限定されないが、樹脂組成物に対して反応性を有する末端官能基を持つシリコーン離型剤を用いることで、汚染防止性能やセロテープ(登録商標)離型性の耐久性を向上することができる。
【0051】
表面保護層3の厚さは、シルバー絵柄印刷層2(光輝性層K1)の全体を覆うことができれば特に制限されてないが、1μm以上100μm以下の範囲内であれば好ましく、10μm以上80μm以下の範囲内であればより好ましい。表面保護層3の厚さが上記数値範囲内であれば、シルバー絵柄印刷層2を効果的に保護することができ、且つ化粧シート20の柔軟性を維持することができる。
【0052】
本実施形態に係る化粧シートは、上記に挙げた構成以外にも、保護層の密着を良化するプライマー層、接着層等も設けてもよい。
【0053】
本実施形態に係る化粧板の基板5としては、例えば、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)、ハードボードなどの木質板や金属板を用いることができる。また、接着層4としては、例えば熱可塑性樹脂や、熱硬化型樹脂などを用いることができる。
【0054】
本実施形態に係る銀ナノ粒子インキを印刷した層(インクジェット印刷層)の色としては、銀由来のシルバー以外にも、銀ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴由来の青色、緑色、黄色、赤色、等の色が表現可能だが、これに限らない。銀ナノ粒子の大きさや形状、表面修飾、インキの濃度、基材上の粒子密度等が色に影響する。
【0055】
従来、光輝性顔料のインクジェットインキ化は難しく、吐出できる装置も存在するものの、限られたものとなっていた。また、輝度感も不十分であったり、過度であったりと、求める意匠性での印刷は難しい場合が多かった。
【0056】
本願発明者は、UV硬化樹脂、銀ナノ粒子、リン酸エステル系分散剤とを含んだインクジェッインキ(以下、単に「銀ナノ粒子インキ」とも称する)を光輝性層の印刷に用い、銀ナノ粒子の粒径や濃度を好適に選択することにより、輝度感が調節でき、意匠性と光輝性の両方が高くなり、例えば建材特有の細線やグラデーション、アルミを用いたインキでは表現の難しい淡い光沢を特徴とするパール調の意匠などを印刷、再現できることを見出した。また、銀ナノ粒子インキは、リン酸エステル系分散剤を用い、少なくとも1個以上の環状エーテル構造と1個以上の重合性不飽和結合を有するUV硬化樹脂に対し、銀ナノ粒子を分散させたインキであるため、溶剤を用いておらず、環境にも優しいインキとなっている他、目の粗い紙基材等にも光輝性を付与しやすい。
【実施例0057】
以下に示す材料構成及び工程によって、
図3に示した第2実施形態に係る化粧シート20を作製したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
〔シュウ酸銀の合成〕
シュウ酸二水和物(関東化学社)9.92gに蒸留水60mLを加え加温しながら溶解させ、110℃のオイルバス中で撹拌しながら、硝酸銀(関東化学社)26.7gに20mLの蒸留水を加え加温しながら溶解させたものを加え、1時間加熱撹拌を続けた。析出したシュウ酸銀を自然ろ過で回収し、さらに熱水200mL、メタノール(関東化学社)50mLでろ過洗浄した後、遮光デシケーター内で減圧しながら室温乾燥した。こうして得たシュウ酸銀の収量は、21.6g(収率90.4%)であった。
【0059】
〔銀ナノ粒子の合成〕
N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)3.26gにオレイン酸(関東化学社)0.13gを加えたところに、上述の工程で得たシュウ酸銀1.90gを加え、110℃のオイルバスで加熱撹拌した。1分以内で二酸化炭素の発泡が起こり、数分後に褐色の懸濁液に変化した。5分間加熱後、冷却したところにメタノール30mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を自然乾燥すると青色固形物である銀ナノ粒子1.48g(銀基準収率97.0%)を得た。
【0060】
得られた銀ナノ粒子を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社、SEM S-4800)を用いてS-TEMモード(加速電圧30kV)で観察したところ、粒子径が5~20nm程度の球状粒子が観察された。その結果を
図5に示す。より詳しくは、
図5は、実施例1で得た銀ナノ粒子のトルエン分散液を基板(銅メッシュ・マイクログリッド)に垂らし乾燥させた後に観察した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【0061】
次に、得られた銀ナノ粒子がトルエンに分散したことから、トルエン分散液の動的光散乱粒度測定(日機装社、Nanotrac UPA-EX150)を行った。その結果、銀ナノ粒子はメジアン径15nmで良好に分散していることがわかった。その結果を
図6に示す。また、
図6に示した実線は、累積度数(%)を示している。
【0062】
〔インキの調製〕
上述の工程で得た銀ナノ粒子0.20gと、ビスコート#150(大阪有機化学工業社
)2.0g、Esacure ONE(ランバルティ社)0.1g、プライサーフAL(第一工業製薬社)0.04gとを混合、撹拌して分散液とした。この場合、分散溶媒2.0gに対して銀ナノ粒子0.2gのため、銀ナノ粒子の質量%は8.5%となる。分散液をシリンジフィルター(Whatman社、25mmGD/Xシリンジフィルター(GF/B 1.0μm))に通し、インクジェット印刷用の銀ナノ粒子インキとした。
【0063】
〔化粧シート20の作製〕
基材シート1としては、チタン紙を用いた。次に、カラー絵柄印刷層2’として、光輝性顔料を含まないインクジェットインキ(イエロー、マゼンダ、シアン)を用い、インクジェット印刷機で木目を印刷した。続いて、光輝性絵柄印刷層2として、上記の銀ナノ粒子インキを用いてインクジェット印刷機で中間色の木目柄を印刷し、UV照射により硬化させた。さらに、表面保護層3として、熱硬化型多官能アクリルウレタン樹脂及びシリカの内添されたアクリディック(DICグラフィックス社製)を、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗工し、実施例1の化粧シートを作製した。模式断面を
図3に掲示した。
【0064】
[実施例2]
銀ナノ粒子の合成において、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)3.26gの代わりにn-ヘキシルアミン(東京化成工業社)1.43gとN,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)1.21gを混合したものを使用した以外は実施例1と同様に操作して銀ナノ粒子を得た。得られた銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を
図7に示した。得られた銀ナノ粒子を、ビスコート#150代わりに、ビスコート#200(大阪有機化学工業社)を分散媒として用いた以外は実施例1と同様に操作し、実施例2の化粧シートを作製した。
【0065】
[実施例3]
銀ナノ粒子の合成を以下の様に変更した。N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)6.51g、オレイン酸(関東化学社)0.25g、n1-ブタノール(関東化学社)9.60gを加えたところに、シュウ酸銀1.92gを加え、95℃のオイルバスで加熱撹拌した。加熱後、数分後に色が変わり始め、18分で二酸化炭素の発泡が起こり褐色の懸濁液に変化した。5分間加熱後、冷却したところにメタノール30mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を自然乾燥すると青色固形物である銀ナノ粒子1.29g(銀基準収率95.0%)を得た。得られた銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を
図8に示した。得られた銀ナノ粒子を用いて実施例1と同様に操作し、実施例3の化粧シートを作製した。
【0066】
[実施例4]
銀ナノ粒子の合成において、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)6.51gの代わりに1-ヘキシルアミン(東京化成工業社)1.47gとN,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(東京化成工業社)1.24gを混合したものを使用した以外は実施例3と同様に操作して銀ナノ粒子を得た。得られた銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を
図9に示した。得られた銀ナノ粒子を用いて実施例1と同様に操作し、実施例4の化粧シートを作製した。
【0067】
[実施例5]
銀ナノ粒子の合成において、1-ブタノール(関東化学社)の代わりに1-ヘキサノール(関東化学社)を使用した以外は実施例3と同様に操作して銀ナノ粒子を得た。得られた銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡像を
図10に示した。得られた銀ナノ粒子を用いて実施例2と同様に操作し、実施例5の化粧シートを作製した。
【0068】
[実施例6]
銀ナノ粒子として、大阪ソーダ社製(D50=70nm)の銀ナノ粒子を用いた以外は実施例1と同様に操作し、実施例6の化粧シートを作製した。
【0069】
[実施例7]
銀ナノ粒子として、大阪ソーダ社製の銀ナノ粒子(D50=265nm)を用いた以外は実施例1と同様に操作し、実施例7の化粧シートを作製した。
【0070】
[実施例8]
基材として、塩ビシートを用いた以外は実施例1と同様に操作し、実施例8の化粧シートを作製した。
【0071】
[比較例1]
絵柄印刷層として、光輝性顔料を含まないUVインキ(コニカミノルタ社製)を用いて木目柄をインクジェット印刷機で印刷した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の化粧シートを作製した。
【0072】
[比較例2]
絵柄印刷層として、銀ナノ粒子を含まないUVシルバーインキ(ミマキエンジニアリング社製)を用いて木目柄をインクジェット印刷機で印刷した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の化粧シートを作製した。
【0073】
[比較例3]
銀ナノ粒子インキを調製する際に、分散剤として、プライサーフALの代わりにポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸であるハイテノール18E(第一工業製薬社)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の化粧シートを作製した。
【0074】
[比較例4]
銀ナノ粒子インキを調製する際に、UV硬化樹脂として、環状アルキルエーテル構造を持たないビスコート#196(大阪有機化学工業社)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4の化粧シートを作製した。
【0075】
[比較例5]
銀ナノ粒子インキを調製する際に、分散剤としてプライサーフALの代わりにハイテノール18Eを用い、UV硬化樹脂としてビスコート#196を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5の化粧シートを作製した。
【0076】
[評価方法]
輝度感は、被験者100人のうち50人以上が、木目の輝きとして自然であり、天然木の自然な光沢が再現できていると評価したものを「○」と判定し、木目として不自然なほど輝きが強すぎるために、天然木の自然な光沢が再現できていないと評価したものや、木目として輝きが弱すぎるために、天然木の自然な光沢が再現できていないと評価したものを「×」と判定した。
【0077】
意匠性は、被験者100人のうち50人以上が、木目柄の細線(数μm幅)の輪郭がぼやけずにきちんと再現できていると感じたものを「○」と判定し、木目柄の細線(数μm幅)の輪郭がぼやけて再現できていないと感じたものを「×」、部分的に印刷ムラがあるものを「△」と判定した。なお、木目柄の細線の輪郭の確認には、拡大率100倍の顕微鏡を用いた。
【0078】
[評価結果]
実施例1~8、及び比較例1~5の評価結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
表1に示すように、本発明の条件を満たす実施例1~6の化粧シートでは、輝度感と意匠性の両方が良好であった。実施例7では輝度感は十分であったものの、印刷の一部にムラがみられたため、意匠性は△とした。実施例8では意匠性は十分であったが、輝度感不足していた。これは、基材として塩ビシートを用いたためで、塩ビシート基材は紙基材に比べて輝度感が出にくい傾向があるためである。一方、光輝性顔料を含まないUVインキをインクジェット印刷した比較例1では輝度感が不足する結果となった。また、銀ナノ粒子を含まないUVシルバーインキをインクジェット印刷した比較例2では輝度感が過剰な結果となった。分散剤がリン酸エステル系でない比較例3、UV硬化樹脂が環状アルキルエーテル構造を持たない比較例4、そのどちらでもある比較例5では、輝度感が不足し、意匠性も不十分であった。これは、銀ナノ粒子がインキ中に分散しなかったためである。