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特開2022-185395円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185395
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
G01N22/00 Y
G01N22/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093051
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】512307000
【氏名又は名称】住ベリサーチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】馬路 哲
(57)【要約】
【課題】高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の円板共振器は、第1導体試料を支持する第1支持体と、前記第1支持体と対向して設けられ、第2導体試料を支持する第2支持体と、前記第1導体試料と第3導体試料との間、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間にそれぞれ隙間ができるように、前記第3導体試料を支持する第3支持体と、前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料に信号を送受信する信号送受信部と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導体試料を支持する第1支持体と、
前記第1支持体と対向して設けられ、第2導体試料を支持する第2支持体と、
前記第1導体試料と第3導体試料との間、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間にそれぞれ隙間ができるように、前記第3導体試料を支持する第3支持体と、
前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料に信号を送受信する信号送受信部と、
を有することを特徴とする円板共振器。
【請求項2】
前記第1導体試料と前記第3導体試料との第1距離d1、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との第2距離d2を変更する距離変更部を有する請求項1に記載の円板共振器。
【請求項3】
前記距離変更部は、
側面に設けられているネジを有し、回転軸まわりに回転するシャフトと、
前記シャフトを回転可能な状態で支持するスタンドと、
を備え、
前記第1支持体、前記第2支持体および前記第3支持体のうちのいずれか2つが、前記シャフトの回転によって移動する請求項2に記載の円板共振器。
【請求項4】
前記ネジは、前記第1支持体を移動させる第1部分と、前記第2支持体を移動させる第2部分と、を有し、
前記第1部分のネジの進行方向および前記第2部分のネジの進行方向が、互いに反対である請求項3に記載の円板共振器。
【請求項5】
前記ネジは、前記第2支持体を移動させる第3部分と、前記第3支持体を移動させる第4部分と、を有し、
前記第3部分のネジの進行方向および前記第4部分のネジの進行方向が、互いに同じであり、
前記第3部分のネジのピッチが、前記第4部分のネジのピッチより大きい請求項3に記載の円板共振器。
【請求項6】
前記距離変更部は、
前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線と平行に延在するレールと、
前記レールに沿って移動する第1スライダーおよび第2スライダーと、
を備え、
前記第1支持体、前記第2支持体および前記第3支持体のうちの2つが、前記第1スライダーおよび前記第2スライダーに接続されている請求項2に記載の円板共振器。
【請求項7】
前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線と平行に延在し、前記第1支持体を貫通する第1貫通孔を有し、
前記信号送受信部は、前記第1貫通孔に挿入されている第1貫通励振線を備える請求項1ないし6のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項8】
前記直線と平行に延在し、前記第2支持体を貫通する第2貫通孔を有し、
前記信号送受信部は、前記第2貫通孔に挿入されている第2貫通励振線を備える請求項7に記載の円板共振器。
【請求項9】
前記信号送受信部は、前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線に交差する方向から、前記第1導体試料と前記第2導体試料との間に挿入されている側方励振線を備える請求項1ないし6のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項10】
前記第3支持体は、
枠状をなす第1フレームと、
前記第1フレームの内側に設けられ、前記第1フレームと前記第3導体試料とを連結する誘電体部材と、
を備える請求項1ないし9のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項11】
前記第3支持体は、
前記第1フレームの外側に設けられている第2フレームと、
前記第2フレームに対する前記第1フレームの位置を調整する位置調整部と、
を備える請求項10に記載の円板共振器。
【請求項12】
前記第3支持体は、前記第1支持体および前記第2支持体から構造的に独立しており、
前記距離変更部は、前記第1支持体および前記第2支持体の少なくとも一方を移動させ、前記第1支持体と前記第2支持体との離間距離を変更することにより、前記第1距離d1および前記第2距離d2の少なくとも一方を変更する請求項2に記載の円板共振器。
【請求項13】
前記距離変更部は、前記第1導体試料に対する前記第2導体試料の姿勢を維持しながら、前記第1距離d1および前記第2距離d2を変更する請求項2、6または12に記載の円板共振器。
【請求項14】
前記第3支持体は、それぞれ貫通する空隙部を備え、互いに厚さが等しい第3a部材および第3b部材を有し、前記第3a部材、前記第3導体試料および前記第3b部材がこの順で積層されるとともに、前記第1支持体と前記第2支持体との間に挟持されることにより、前記第3導体試料を支持するように構成されており、
前記第3支持体によって前記第3導体試料が支持されているとき、
前記第3a部材が備える前記空隙部は、前記第1導体試料と前記第3導体試料との間に位置し、
前記第3b部材が備える前記空隙部は、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間に位置する請求項2に記載の円板共振器。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1項に記載の円板共振器を備えることを特徴とする導電率測定装置。
【請求項16】
第1導体試料、第2導体試料および第3導体試料の導電率を平衡型円板共振器法により測定する導電率測定方法であって、
前記第1導体試料と前記第3導体試料との間、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間、にそれぞれ隙間ができるように、前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料を配置する試料配置工程と、
前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料に信号を送信し、前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料からの信号を受信する測定工程と、
受信した前記信号を解析して、前記導電率を算出する演算工程と、
を有することを特徴とする導電率測定方法。
【請求項17】
送信する前記信号は、周波数300MHz以上の高周波信号である請求項16に記載の導電率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波帯よりも周波数が高いミリ波帯の電磁波を活用する取り組みが進んでいる。ミリ波帯の電磁波を利用する電子機器では、ミリ波帯に対応した高周波回路基板が用いられる。このような高周波回路基板では、高周波の伝送損失の低減が課題となっている。
【0003】
このような背景から、ミリ波帯のような高周波域に対応する低損失材料の開発が進められている。また、そのために必要な、低損失材料の高周波域における導電率を高精度に計測する技術が求められている。このような技術の1つとして、円板共振器法が知られている。
【0004】
特許文献1には、円板共振器を用いて20GHzを超えるような高周波域における導体平板や銅箔の比導電率を測定する方法が開示されている。特許文献1に記載の円板共振器は、具体的には、円形の銅箔と、銅箔を挟む第1の誘電体平板および第2の誘電体平板と、これらを挟むように設けられた第1の導体平板および第2の導体平板と、を備える。各導体平板には中心部に孔が設けられ、その孔には励振線が挿入されている。
【0005】
ネットワークアナライザーから所定の周波数を送信すると、励振線を介して共振器内が励振される。そして、共振器から受信した信号を解析することにより、導体平板や銅箔の比導電率を求めることができる。
【0006】
また、特許文献1に記載の方法では、第1の誘電体平板および第2の誘電体平板として、それぞれ厚さの異なる部材を用意する。具体的には、まず、厚さがtである第1の誘電体平板および第2の誘電体平板を用いて、第1の出力結果を得る。次に、厚さがtである第1の誘電体平板および第2の誘電体平板を用いて、第2の出力結果を得る。そして、第1の出力結果と第2の出力結果とに基づいて、最終的に比導電率を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-180807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、厚さの異なる誘電体平板で、それぞれ測定結果を得る必要があるため、測定作業は少なくとも2回必要である。このため、特許文献1に記載の方法では、測定作業の効率が低いという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(17)の本発明により達成される。
(1) 第1導体試料を支持する第1支持体と、
前記第1支持体と対向して設けられ、第2導体試料を支持する第2支持体と、
前記第1導体試料と第3導体試料との間、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間にそれぞれ隙間ができるように、前記第3導体試料を支持する第3支持体と、
前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料に信号を送受信する信号送受信部と、
を有することを特徴とする円板共振器。
【0011】
(2) 前記第1導体試料と前記第3導体試料との第1距離d1、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との第2距離d2を変更する距離変更部を有する上記(1)に記載の円板共振器。
【0012】
(3) 前記距離変更部は、
側面に設けられているネジを有し、回転軸まわりに回転するシャフトと、
前記シャフトを回転可能な状態で支持するスタンドと、
を備え、
前記第1支持体、前記第2支持体および前記第3支持体のうちのいずれか2つが、前記シャフトの回転によって移動する上記(2)に記載の円板共振器。
【0013】
(4) 前記ネジは、前記第1支持体を移動させる第1部分と、前記第2支持体を移動させる第2部分と、を有し、
前記第1部分のネジの進行方向および前記第2部分のネジの進行方向が、互いに反対である上記(3)に記載の円板共振器。
【0014】
(5) 前記ネジは、前記第2支持体を移動させる第3部分と、前記第3支持体を移動させる第4部分と、を有し、
前記第3部分のネジの進行方向および前記第4部分のネジの進行方向が、互いに同じであり、
前記第3部分のネジのピッチが、前記第4部分のネジのピッチより大きい上記(3)に記載の円板共振器。
【0015】
(6) 前記距離変更部は、
前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線と平行に延在するレールと、
前記レールに沿って移動する第1スライダーおよび第2スライダーと、
を備え、
前記第1支持体、前記第2支持体および前記第3支持体のうちの2つが、前記第1スライダーおよび前記第2スライダーに接続されている上記(2)に記載の円板共振器。
【0016】
(7) 前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線と平行に延在し、前記第1支持体を貫通する第1貫通孔を有し、
前記信号送受信部は、前記第1貫通孔に挿入されている第1貫通励振線を備える上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の円板共振器。
【0017】
(8) 前記直線と平行に延在し、前記第2支持体を貫通する第2貫通孔を有し、
前記信号送受信部は、前記第2貫通孔に挿入されている第2貫通励振線を備える上記(7)に記載の円板共振器。
【0018】
(9) 前記信号送受信部は、前記第1導体試料と前記第2導体試料の双方を通過する直線に交差する方向から、前記第1導体試料と前記第2導体試料との間に挿入されている側方励振線を備える上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の円板共振器。
【0019】
(10) 前記第3支持体は、
枠状をなす第1フレームと、
前記第1フレームの内側に設けられ、前記第1フレームと前記第3導体試料とを連結する誘電体部材と、
を備える上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の円板共振器。
【0020】
(11) 前記第3支持体は、
前記第1フレームの外側に設けられている第2フレームと、
前記第2フレームに対する前記第1フレームの位置を調整する位置調整部と、
を備える上記(10)に記載の円板共振器。
【0021】
(12) 前記第3支持体は、前記第1支持体および前記第2支持体から構造的に独立しており、
前記距離変更部は、前記第1支持体および前記第2支持体の少なくとも一方を移動させ、前記第1支持体と前記第2支持体との離間距離を変更することにより、前記第1距離d1および前記第2距離d2の少なくとも一方を変更する上記(2)に記載の円板共振器。
【0022】
(13) 前記距離変更部は、前記第1導体試料に対する前記第2導体試料の姿勢を維持しながら、前記第1距離d1および前記第2距離d2を変更する上記(2)、(6)または(12)に記載の円板共振器。
【0023】
(14) 前記第3支持体は、それぞれ貫通する空隙部を備え、互いに厚さが等しい第3a部材および第3b部材を有し、前記第3a部材、前記第3導体試料および前記第3b部材がこの順で積層されるとともに、前記第1支持体と前記第2支持体との間に挟持されることにより、前記第3導体試料を支持するように構成されており、
前記第3支持体によって前記第3導体試料が支持されているとき、
前記第3a部材が備える前記空隙部は、前記第1導体試料と前記第3導体試料との間に位置し、
前記第3b部材が備える前記空隙部は、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間に位置する上記(2)に記載の円板共振器。
【0024】
(15) 上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の円板共振器を備えることを特徴とする導電率測定装置。
【0025】
(16) 第1導体試料、第2導体試料および第3導体試料の導電率を平衡型円板共振器法により測定する導電率測定方法であって、
前記第1導体試料と前記第3導体試料との間、および、前記第2導体試料と前記第3導体試料との間、にそれぞれ隙間ができるように、前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料を配置する試料配置工程と、
前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料に信号を送信し、前記第1導体試料、前記第2導体試料および前記第3導体試料からの信号を受信する測定工程と、
受信した前記信号を解析して、前記導電率を算出する演算工程と、
を有することを特徴とする導電率測定方法。
【0026】
(17) 送信する前記信号は、周波数300MHz以上の高周波信号である上記(16)に記載の導電率測定方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる円板共振器および導電率測定装置が得られる。
【0028】
また、本発明によれば、高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる導電率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
図2】第3支持体の第2構成例を示す斜視図である。
図3図2に示す第3支持体の平面図である。
図4】第3支持体の第3構成例を示す平面図である。
図5】第3支持体の第4構成例を示す平面図である。
図6】直交座標系の横軸に隙間の距離の逆数をとり、縦軸にQ値の逆数をとったとき、測定結果をプロットして作成されるグラフである。
図7】円板共振器を用いた導電率の測定手順を説明するための断面図である。
図8】円板共振器を用いた導電率の測定手順を説明するための断面図である。
図9】第2実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
図10】第3実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
図11】第4実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
図12】第5実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
図13】第6実施形態に係る導電率測定装置を示す図である。
図14】第7実施形態に係る導電率測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0031】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る円板共振器について説明する。
【0032】
図1は、第1実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。なお、本願の各図では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定し、矢印で示している。そして、矢印の基端側を各軸の「マイナス側」、矢印の先端側を各軸の「プラス側」という。
【0033】
図1に示す円板共振器1は、平衡型円板共振器法により、導体試料91、92、93の導電率を測定するために用いられる治具である。
【0034】
図1に示す円板共振器1は、測定対象である第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93を互いに隙間を介した状態で保持する。そして、第1導体試料91と第2導体試料92との間に、第3導体試料93を配置した状態で、円板共振器1に高周波の信号を送信すると、特定の共振モードのみが選択的に励振される。この共振特性をネットワークアナライザー等の測定装置によって測定することにより、各共振周波数での導電率を求めることができる。
【0035】
第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93は、それぞれ平面視形状が円形の平板状をなしている。そして、第1導体試料91および第2導体試料92は、互いに直径が同じであり、かつ、第3導体試料93よりも直径が大きい。なお、互いに直径が等しいとは、製造誤差程度のずれを許容する概念である。また、本明細書において「平面視」とは、Z軸上の位置から見ることをいう。第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93は、互いに同じ導体で構成された試料である。
【0036】
円板共振器1を用いると、高周波域における導電率を測定することができる。導電率は、周波数依存性を有する場合があるため、高周波域における導電率を正確に測定することは、例えば高周波電波を利用する回路(高周波回路)等の開発において重要である。
【0037】
以下、円板共振器1の構造についてさらに説明する。円板共振器1は、第1支持体21と、第2支持体22と、第3支持体23と、信号送受信部5と、距離変更部6と、を有する。
【0038】
1.1.支持体
第1支持体21は、第1支持導体板212と、第1固定板214と、を備える。
【0039】
第1支持導体板212は、測定対象である第1導体試料91がX-Y面に沿って広がるように支持する部材であり、本実施形態ではX-Y面に沿って広がる板状をなしている。第1支持導体板212は、測定対象である第1導体試料91と電気的に結合している。第1支持導体板212の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では四角形である。第1支持導体板212の平面視における大きさは、第1導体試料91より大きく設定される。
【0040】
第1固定板214は、X-Y面に沿って広がる板状をなしている。第1固定板214は、第1支持導体板212を支持している。第1固定板214の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では四角形である。
【0041】
第2支持体22は、第1支持体21と対向して設けられ、第2支持導体板222と、第2固定板224と、を備える。
【0042】
第2支持導体板222は、測定対象である第2導体試料92がX-Y面に沿って広がるように支持する部材であり、本実施形態ではX-Y面に沿って広がる板状をなしている。第2支持導体板222は、測定対象である第2導体試料92と電気的に結合している。第2支持導体板222の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では四角形である。第2支持導体板222の平面視における大きさは、第2導体試料92より大きく設定される。
【0043】
第2固定板224は、X-Y面に沿って広がる板状をなしている。第2固定板224は、第2支持導体板222を支持している。第2固定板224の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では四角形である。
【0044】
第1支持導体板212および第2支持導体板222の各構成材料は、十分な導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、銅単体または銅合金、アルミニウム単体またはアルミニウム合金、銀合金、ニッケル合金等が挙げられる。また、第1支持導体板212および第2支持導体板222には、絶縁性の基材の表面に前述した導電性を有する材料の被膜、例えばめっき膜等を設けた複合材料を用いるようにしてもよい。なお、第1支持導体板212の構成材料および第2支持導体板222の構成材料は、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであるのが好ましい。
【0045】
第1固定板214および第2固定板224の各構成材料は、十分な機械的強度を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、機械構造用合金鋼のようなFe系合金、真鍮のようなCu系合金、アルミニウム合金等の金属材料、アルミナ、ジルコニアのようなセラミックス材料等が挙げられる。なお、第1固定板214の構成材料および第2固定板224の構成材料は、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであるのが好ましい。また、第1固定板214および第2固定板224は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0046】
第1支持導体板212と第1固定板214との間の接合、および、第2支持導体板222と第2固定板224との間の接合は、それぞれ単に密着しているだけでもよく、接着剤等を介した接着であってもよい。
【0047】
なお、第1導体試料91が後述の第1スライダー65に対して自立する場合には、第1支持体21を省略してもよい。同様に、第2導体試料92が後述の第2スライダー66に対して自立する場合には、第2支持体22を省略してもよい。
【0048】
第3支持体23は、第1フレーム232と、誘電体部材234と、を備える。
第1フレーム232は、測定対象である第3導体試料93よりも大きい枠状をなしている。第1フレーム232は、後述する誘電体部材234を介して第3導体試料93を支持する。
【0049】
誘電体部材234は、X-Y面に沿って広がる板状をなしており、中央部には貫通孔235を有している。そして、第3導体試料93は、この貫通孔235を塞ぐように固定されている。これにより、第3導体試料93は、誘電体部材234を介して第1フレーム232に支持されている。
【0050】
誘電体部材234の厚さは、特に限定されないが、0.001mm以上1.00mm以下であるのが好ましく、0.02mm以上0.50mm以下であるのがより好ましい。このような厚さであれば、面内における誘電体部材234の単位長さ当たりの電気抵抗値が高くなるため、第3導体試料93と第1フレーム232との間の絶縁性を確保することができる。
【0051】
第1フレーム232の構成材料は、十分な機械的強度を有する材料であれば、特に限定されない。
【0052】
誘電体部材234の構成材料は、誘電率および誘電正接が低い材料であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマー、フッ素樹脂、石英等が挙げられる。
【0053】
第3支持体23は、第1支持体21および第2支持体22との間で隙間を隔てるように配置されている。この隙間は、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間、をそれぞれ電気的に絶縁する。
【0054】
以上のように、図1に示す第3支持体23は、枠状をなす第1フレーム232と、誘電体部材234と、を備える。誘電体部材234は、第1フレーム232の内側に設けられ、第1フレーム232と第3導体試料93とを連結する。
【0055】
このような構成によれば、第1フレーム232と第3導体試料93との間が空気である場合の電磁界との変化を十分に小さくすることができ、かつ、第3導体試料93を簡単に保持することができる。また、第1フレーム232の剛性を高めることで、第3支持体23の取り扱いが容易になる。
【0056】
図2は、第3支持体の第2構成例を示す斜視図である。図3は、図2に示す第3支持体23の平面図である。なお、図2では、第1フレーム232の図示を省略している。
【0057】
前述した図1に示す第3支持体23では、誘電体部材234に設けた貫通孔235に対し、それとほぼ同じ大きさの第3導体試料93が嵌められている。このような第3支持体23の構成例を「第1構成例」とするとき、図2および図3は、第1構成例とは別の第2構成例を示している。
【0058】
図2および図3に示す第3支持体23Aでは、貫通孔235の大きさが第3導体試料93よりも小さく設定されている。これにより、第3導体試料93の外周部と誘電体部材234とが重なっている。このため、重なっている2つの部材同士を粘着剤や接着剤を用いて固定することができ、固定作業をより容易に行うことができる。
【0059】
図4は、第3支持体の第3構成例を示す平面図である。
図4に示す第3支持体23Bは、第1フレーム232および誘電体部材234に加え、第2フレーム238と、2つのマイクロメーターヘッド242X、242Yと、2つのコイルばね246X、246Xと、2つのコイルばね246Y、246Yと、を備える。
【0060】
第2フレーム238は、枠状をなし、第1フレーム232の外側に設けられている。そして、第1フレーム232と第2フレーム238との間には隙間が空いており、その隙間には、コイルばね246X、246X、246Y、246Yが設けられている。
【0061】
コイルばね246X、246Xは、第1フレーム232と第2フレーム238とを接続し、X軸に沿って伸縮する。コイルばね246Y、246Yは、第1フレーム232と第2フレーム238とを接続し、Y軸に沿って伸縮する。
【0062】
マイクロメーターヘッド242X、242Yは、それぞれ、スリーブ243とスピンドル244とを備える。スピンドル244は、スリーブ243に対して挿抜可能になっており、かつ、スリーブ243に対する挿入長さが微調整可能になっている。そして、スリーブ243は、第2フレーム238に接続され、スピンドル244は、第1フレーム232に接続されている。
【0063】
マイクロメーターヘッド242Xのスリーブ243に対してスピンドル244を挿抜すると、第2フレーム238に対し、第1フレーム232のX軸に沿った位置を微調整することができる。マイクロメーターヘッド242Yのスリーブ243に対してスピンドル244を挿抜すると、第2フレーム238に対し、第1フレーム232のY軸に沿った位置を微調整することができる。したがって、マイクロメーターヘッド242X、242Yは、第2フレーム238に対する第1フレーム232の位置を調整する位置調整部として機能する。
【0064】
位置調整部の作用により、第3支持体23Bでは、第3導体試料93のX-Y面内における位置を微調整することができる。これにより、第1導体試料91や第2導体試料92の位置に対する第3導体試料93の位置を最適化することができ、導電率の測定精度をより高めることができる。
【0065】
なお、コイルばね246X、246Yは、任意の弾性部材、例えばゴムやエラストマー、コイルばね以外のばね等で代替可能である。
【0066】
図5は、第3支持体の第4構成例を示す平面図である。
図5に示す第3支持体23Cは、誘電体部材の構成が異なる以外、図3に示す第3支持体23Aと同様である。すなわち、第3支持体23Cは、図3に示す誘電体部材234に代えて、図5に示す3つの誘電体部材234Cを備える。誘電体部材234Cは、帯状をなし、互いに等しい角度間隔で第3導体試料93の周りに配置されている。これにより、誘電体部材234Cの面積を誘電体部材234よりも小さくすることができる。その結果、第3支持体23Cと第3導体試料93との間が空気である場合の電磁界との変化をより小さくすることができるため、導電率の測定精度をさらに高めることができる。
【0067】
1.2.信号送受信部
図1に示す信号送受信部5は、第1貫通励振線51およびホルダー53を有する送信アンテナ55と、第2貫通励振線52およびホルダー54を有する受信アンテナ56と、を備える。
【0068】
第1貫通励振線51には、図示しない送信ケーブルの一端が接続される。この送信ケーブルの他端は、図示しないネットワークアナライザー等の測定装置の出力ポートに接続される。
【0069】
第2貫通励振線52には、図示しない受信ケーブルの一端が接続される。この受信ケーブルの他端は、図示しないネットワークアナライザー等の測定装置の入力ポートに接続される。
【0070】
ネットワークアナライザーから送信アンテナ55に供給された電磁波(信号)は、円板共振器1に送信されると、導体試料91、92、93に由来する共振モードが励振する。そして、導体試料91、92、93からなる共振器を透過した電磁波を、受信アンテナ56から取り出し、ネットワークアナライザーで検出する。検出した電磁波から共振特性を解析することにより、共振特性の鋭さを表すQ値(共振の品質係数)を算出することができる。そして、このQ値から、第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93の導電率を算出することができる。
【0071】
第1貫通励振線51は、図1に示す第1軸AX1に沿って延在している。第1軸AX1は、Z軸と平行で、第1導体試料91の平面視における中心を通過するとともに、第1導体試料91よりもZ軸プラス側に位置する軸である。第1導体試料91、第1支持導体板212および第1固定板214には、それぞれ第1軸AX1に沿って延在する第1貫通孔216が設けられている。第1貫通励振線51は、その第1貫通孔216に挿通されている。これにより、第1貫通励振線51から第1導体試料91に向けて高周波の信号を供給することができる。
【0072】
ホルダー53は、第1固定板214のZ軸プラス側に配置されている。ホルダー53にも、第1貫通励振線51が挿通する貫通孔532が設けられている。これにより、ホルダー53は、第1貫通励振線51を保持することができる。
【0073】
第2貫通励振線52は、図1に示す第2軸AX2に沿って延在している。第2軸AX2は、Z軸と平行で、第2導体試料92の平面視における中心を通過するとともに、第2導体試料92よりもZ軸マイナス側に位置する軸である。第2導体試料92、第2支持導体板222および第2固定板224には、それぞれ第2軸AX2に沿って延在する第2貫通孔226が設けられている。第2貫通励振線52は、その第2貫通孔226に挿通されている。これにより、第2導体試料92からの信号を第2貫通励振線52で受信することができる。
【0074】
ホルダー54は、第2固定板224のZ軸マイナス側に配置されている。ホルダー54にも、第2貫通励振線52が挿通する貫通孔542が設けられている。これにより、ホルダー54は、第2貫通励振線52を保持することができる。
【0075】
第1貫通励振線51および第2貫通励振線52には、同軸線路、平面回路型線路、導波管、誘電体導波路など、測定周波数の電磁波を伝搬する各種導波路を用いることができる。
【0076】
なお、本実施形態では、信号送受信部5が送信アンテナ55と受信アンテナ56とを備えているが、アンテナはいずれか一方のみであってもよい。つまり、1つのアンテナで信号の送受信を行うようにしてもよい。
【0077】
1.3.距離変更部
図1に示す距離変更部6は、スタンド61と、シャフト62と、ハンドル63と、レール64と、第1スライダー65および第2スライダー66と、台座67と、を備える。距離変更部6は、第3支持体23に対して、第1支持体21および第2支持体22をそれぞれ近づけたり、遠ざけたりする機能を有する。このような機能により、第1導体試料91と第3導体試料93との距離(第1距離d1)、および、第2導体試料92と第3導体試料93との距離(第2距離d2)をそれぞれ変更することができる。
【0078】
スタンド61は、基部612と、壁部614、616と、を備える。基部612は、Z軸に沿って延在する部位である。壁部614は、基部612のZ軸プラス側の端からY軸プラス側に向かって延びる部位である。壁部616は、基部612のZ軸マイナス側の端からY軸プラス側に向かって延びる部位である。壁部614には、挿通孔615が設けられている。壁部616には、挿通孔617が設けられている。
【0079】
シャフト62は、円柱状をなし、Z軸に沿って延在している。シャフト62のZ軸プラス側の端部は、挿通孔615に挿通されている。シャフト62のZ軸マイナス側の端部は、挿通孔617に挿通されている。シャフト62は、挿通孔615、617に対し、Z軸と平行な回転軸AX3まわりに回転可能になっている。
【0080】
シャフト62は、側面に設けられているネジ620を有する。ネジ620は、雄ネジである。
【0081】
ハンドル63は、シャフト62のZ軸プラス側の端に接続されている。ハンドル63は、回転軸AX3まわりに回転させる回転力をシャフト62に加える力点となる。なお、ハンドル63は、電動モーター等の動力源で代替可能である。
【0082】
レール64は、Z軸に沿って延在する部位である。第1スライダー65および第2スライダー66は、レール64に案内され、Z軸に沿って移動可能になっている。前述した第1支持体21は、第1スライダー65に固定されている。第1スライダー65には、シャフト62が挿通される挿通孔652が設けられている。第2支持体22は、第2スライダー66に固定されている。第2スライダー66には、シャフト62が挿通される挿通孔662が設けられている。挿通孔652、662には、それぞれ図示しない雌ネジが設けられている。
【0083】
なお、スタンド61、シャフト62、ハンドル63、レール64、ならびに、第1スライダー65および第2スライダー66のうちの一部または全部は、リニアスライダーのような電動アクチュエーターで代替可能である。
【0084】
前述したネジ620は、その進行方向が互いに反対である第1部分621および第2部分622を有する。第1部分621は、挿通孔652に設けられた雌ネジと螺合し、第2部分622は、挿通孔662に設けられた雌ネジと螺合する。このため、ハンドル63を回してシャフト62が回転軸AX3まわりに回転すると、第1スライダー65および第2スライダー66は、互いに反対方向に移動する。これにより、ハンドル63を回すだけで、第1距離d1および第2距離d2を互いに連動させつつ変更することができる。
【0085】
台座67は、スタンド61と第3支持体23とを接続する部位である。台座67には、シャフト62が挿通される挿通孔672が設けられている。図1に示す距離変更部6では、ネジ620が挿通孔672に螺合していない。
【0086】
1.4.測定原理
次に、導体試料91、92、93の導電率を測定する原理について説明する。
【0087】
円板共振器1を用いると、導体試料91、92、93の導電率を測定することができるが、特に、高周波の信号を送信することで、高周波域における導電率を測定することができる。
【0088】
高周波域における導電率を測定する意義の1つとして、高周波回路における伝送損失を低減することが挙げられる。高周波回路において伝送損失の低減を図ることにより、高周波回路を用いたデバイスの小型化、高機能化、省電力化に貢献することができる。
【0089】
伝送損失は、主に誘電体損失と導体損失とに分けられる。このうち、円板共振器1で測定される導電率は、導体損失に影響を及ぼす。具体的には、導体損失は、高周波回路で用いられる信号の周波数、導体の導電率、および回路形状に依存し、周波数が高くなると導体損失が増大することは避けられない。このため、高周波域では、導電率をできるだけ上げることが求められる。
【0090】
高周波域では、表皮効果により、導体の表面近傍を電流が流れやすくなる。導体の表面が粗面である場合、導電率が低下する。また、導体と絶縁基板との接着力を高めるため、あえて導体の表面を粗面化することがある。このため、円板共振器1を用いて導電率を測定するときには、表皮効果の影響が反映した導電率を測定することが求められる。
【0091】
そこで、円板共振器1に導体試料を取り付けるときには、導体試料の種類に応じて取り付け方を選択する。
【0092】
測定対象の導体試料に表裏の区別がない場合、例えば測定対象の導体試料が圧延金属箔である場合には、導体試料91、92、93は、いずれも同じ試料でよい。
【0093】
これに対し、測定対象の導体試料に表裏の区別がある場合、例えば測定対象の導体試料が電解金属箔である場合には、第1導体試料91および第2導体試料92に電解金属箔を用い、第3導体試料93には圧延金属箔を用いる。そして、第1導体試料91および第2導体試料92を配置するときには、測定対象の表面、例えば粗面化処理が施された表面を第3導体試料93側に向けて配置する。
【0094】
上記のような導体試料91、92、93を円板共振器1に取り付けて測定を行うと、前述したように、円板共振器1の共振特性の鋭さを表すQ値(共振の品質係数)が得られる。このQ値は、下記式(1)で表される。
【0095】
【数1】
【0096】
上記式(1)において、Qは、誘電体損失による誘電体Q値であり、Qは、導体損失による導体Q値である。このうち、Qは、下記式(2)の関係を有する。
【0097】
【数2】
【0098】
上記式(2)において、tanδは、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間、にそれぞれ設けられる誘電体の誘電正接である。
【0099】
一方、上記式(1)のQは、第1距離d1と第2距離d2とが等しい円板共振器、すなわち平衡型円板共振器の場合、下記式(3)の関係を有する。
【0100】
【数3】
【0101】
上記式(3)において、σは、導体試料91、92、93の導電率であり、dは、隙間の距離、すなわち、互いに等しい距離である第1距離d1および第2距離d2であり、ωは、円板共振器1に送信する信号の角周波数であり、μは、真空の透磁率である。
そうすると、上記式(1)~(3)から、下記式(4)が導かれる。
【0102】
【数4】
【0103】
本実施形態では、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間、にそれぞれ隙間を設けている。このため、上記式(2)のtanδは、外気(空気)の誘電正接となり、ゼロである。その結果、上記式(4)は、下記式(5)のように簡単化される。
【0104】
【数5】
【0105】
なお、第1距離d1と第2距離d2とが異なる円板共振器、すなわち非平衡型円板共振器の場合、式(5)は下記式(6)のように補正される。
【0106】
【数6】
【0107】
上記式(6)において、αは1以上の補正係数であり、daveは第1距離d1と第2距離d2の平均値、すなわちdave=(d1+d2)/2である。
【0108】
ここで、上記式(5)では、円板共振器1のQ値の逆数が、隙間の距離の逆数に比例する関係が成り立っている。
【0109】
図6は、直交座標系の横軸に隙間の距離dの逆数をとり、縦軸にQ値の逆数をとったとき、測定結果をプロットして作成されるグラフである。前述の比例関係を利用することにより、比例係数に含まれる導電率を算出することができる。つまり、グラフのプロットマークPと直交座標系の原点とを結ぶ直線の傾きから、導電率を算出することができる。
【0110】
また、この直線は、プロットマークPが少なくとも1つあれば引くことができる。従来の測定方法には、少なくとも2つのプロットマークを必要とする方法、つまり、少なくとも2回の測定作業を必要とする方法もあるが、本実施形態では、1回の測定作業で導電率が求められる。したがって、円板共振器1を用いることで、測定作業の効率を高めることができる。
【0111】
なお、直線の傾きから求められる導電率は、導体試料91、92、93の導電率が平均化されたものである。したがって、測定対象の導体試料が例えば前述した電解金属箔である場合、電解金属箔の導電率と圧延金属箔の導電率との平均値が求められる。この場合、圧延金属箔として導電率が既知のものを用いることにより、最終的に、測定対象の電解金属箔の導電率を算出することができる。
【0112】
また、プロットマークPの数は、1つに限定されず、複数であってもよい。複数のプロットマークPに近似する直線を導き、その傾きを求めることで、導電率をより精度よく算出することができる。なお、本実施形態に係る円板共振器1によれば、第1距離d1と第2距離d2を変更する作業を容易に行うことができるので、複数のプロットマークPに必要な測定を効率よく行うことができる。
【0113】
以上のように、本実施形態に係る円板共振器1は、第1支持体21と、第2支持体22と、第3支持体23と、信号送受信部5と、を有する。第1支持体21は、第1導体試料91を支持する。第2支持体22は、第1支持体21と対向して設けられ、第2導体試料92を支持する。第3支持体23は、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間に、それぞれ隙間ができるように、第3導体試料93を支持する。信号送受信部5は、第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93に信号を送受信する。
【0114】
このような構成によれば、少なくとも1回の測定作業で、導体試料の導電率を求めることができる。このため、円板共振器1によれば、高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる。
【0115】
また、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間に、それぞれ隙間を設けることにより、それらの間を誘電体で埋める必要がなくなる。このため、円板共振器1の部品点数を削減することができ、取り扱いが容易になる。
【0116】
さらに、円板共振器1によれば、誘電体との接触に伴う導体試料の傷つきや凹み等の変形が生じない。このため、表皮効果の影響を含む導体試料の導電率をより精度よく測定することができる。
【0117】
また、円板共振器1によれば、隙間に入り込む気体を選択することができるので、例えば、導電率に対する湿度や気体組成の影響を調査することもできる。これにより、導電率と様々な環境因子との関係を評価することができる。
【0118】
本実施形態に係る円板共振器1は、前述したように、距離変更部6を有する。距離変更部6は、第1導体試料91と第3導体試料93との第1距離d1、および、第2導体試料92と第3導体試料93との第2距離d2、を変更する機能を有する。
【0119】
このような構成によれば、円板共振器1に送信する信号の周波数に応じて、第1距離d1および第2距離d2を容易に調整することができる。具体的には、第1距離d1および第2距離d2が大きい場合、高い周波数で所望の共振ピークを得ることができない。一方、第1距離d1および第2距離d2が小さい場合、Q値が低下するため、精度よく算出可能な範囲から逸脱する場合がある。このため、信号の周波数や測定精度に応じて第1距離d1および第2距離d2を容易に調整することができれば、導電率の測定操作が容易になるという点で有用である。また、複数のプロットマークPを特定するために必要な測定を、容易に行うことができる。
【0120】
第1距離d1および第2距離d2は、互いに異なっていてもよいが、好ましくは互いに等しくなるように設定される。これにより、Q値が精度よく求められるため、導電率をより精度よく算出することができる。なお、第1距離d1と第2距離d2との差|d1-d2|は、第1距離d1と第2距離d2のうち短い方の30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましい。この程度の差であれば、測定結果を補正することにより、比較的精度よく導電率を求めることができる。
【0121】
第1距離d1および第2距離d2は、円板共振器1に送信する信号の周波数に応じて設定されるが、一例として、それぞれ100μm以上500μm以下であるのが好ましく、200μm以上400μm以下であるのがより好ましい。
【0122】
図1に示す距離変更部6は、前述したように、シャフト62と、スタンド61と、を備える。シャフト62は、側面に設けられているネジ620を有し、回転軸AX3まわりに回転する。スタンド61は、シャフト62を回転可能な状態で支持する。そして、第1支持体21、第2支持体22および第3支持体23のうちのいずれか2つは、シャフト62の回転によって移動するように構成されている。本実施形態では、特に、第1支持体21および第2支持体22が、シャフト62の回転によって移動する。
【0123】
このような構成によれば、第1距離d1および第2距離d2を互いに連動させつつ、調整することができる。これにより、導電率を測定する周波数や必要なQ値の測定精度に応じて、第1距離d1および第2距離d2を変更するとき、その変更操作を容易かつ高精度に行うことができる。
【0124】
図1に示すネジ620は、前述したように、第1部分621と第2部分622とを有する。第1部分621は、シャフト62の回転によって第1支持体21を移動させる部分であり、第2部分622は、シャフト62の回転によって第2支持体22を移動させる部分である。そして、第1部分621のネジの進行方向および第2部分622のネジの進行方向は、互いに反対である。
【0125】
このような構成によれば、シャフト62を回転させたとき、第1支持体21および第2支持体22は、互いに近づいたり、互いに遠ざかったりする。つまり、第1距離d1および第2距離d2が互いに等しいという関係を維持しながら、距離を調整する操作を容易に行うことができる。これにより、導電率を測定する周波数を変更する操作を、より容易に行うことができる。また、シャフト62の回転数と距離の変更量とが対応しているので、その観点でも変更操作が容易である。
【0126】
なお、上記関係を維持するためには、第1部分621と第2部分622とで、ネジのピッチを等しくすればよい。ネジのピッチが等しいとは、製造誤差程度のずれを許容する概念である。
【0127】
図1に示す距離変更部6は、前述したように、レール64と、第1スライダー65および第2スライダー66と、を備える。レール64は、第1導体試料91と第2導体試料92の双方を通過する直線と平行に延在する。つまり、図1のレール64は、Z軸と平行に延在する。第1スライダー65および第2スライダー66は、レール64に沿って移動するように構成されている。そして、第1支持体21、第2支持体22および第3支持体23のうちの2つが、第1スライダー65および第2スライダー66に接続されている。本実施形態では、特に、第1支持体21が第1スライダー65に接続され、第2支持体22が第2スライダー66に接続されている。
【0128】
このような構成によれば、レール64に沿って第1スライダー65および第2スライダー66を移動させることにより、第1支持体21および第2支持体22を精度よく移動させることができる。これにより、第1距離d1および第2距離d2の調整を特に容易かつ高精度に行える。
【0129】
図1に示す円板共振器1は、第1支持体21を貫通する第1貫通孔216を有する。第1貫通孔216は、第1導体試料91と第2導体試料92の双方を通過する直線と平行に延在する。そして、信号送受信部5は、第1貫通孔216に挿入されている第1貫通励振線51を備える。
【0130】
このような構成によれば、例えば、第1導体試料91と第2導体試料92との間に励振線を挿入する構成と異なり、第1導体試料91と第2導体試料92との距離を自由に設定することができる。つまり、励振線の太さが隙間の距離に影響を及ぼさない。このため、図1に示す円板共振器1によれば、十分な太さを有し、伝送損失の少ない第1貫通励振線51を用いることができる。加えて、第3導体試料93の平面視における中心付近に電磁波を送受信するため、例えばTM0n0(nは整数)モード等、特定のモードを選択的に励振、検出可能となり、不要モードの影響が少なく高次モードを測定に使用することができる。その結果、より広い周波数域で、導電率を正確に測定することができる。
【0131】
図1に示す円板共振器1は、第2支持体22を貫通する第2貫通孔226を有する。第2貫通孔226は、第1導体試料91と第2導体試料92の双方を通過する直線と平行に延在する。そして、信号送受信部5は、第2貫通孔226に挿入されている第2貫通励振線52を備える。
【0132】
このような構成によれば、例えば、第1導体試料91と第2導体試料92との間に励振線を挿入する構成と異なり、第1導体試料91と第2導体試料92との距離を自由に設定することができる。つまり、励振線の太さが隙間の距離に影響を及ぼさない。このため、図1に示す円板共振器1によれば、十分な太さを有し、伝送損失の少ない第2貫通励振線52を用いることができる。加えて、第3導体試料93の平面視における中心付近に電磁波を送受信するため、例えばTM0n0(nは整数)モード等、特定のモードを選択的に励振、検出可能となり、不要モードの影響が少なく高次モードを測定に使用することができる。その結果、より広い周波数域で、導電率を正確に測定することができる。
【0133】
図1に示す円板共振器1では、レール64に沿って第1スライダー65および第2スライダー66が移動することにより、第1距離d1および第2距離d2を変更する。このとき、距離変更部6は、第1導体試料91に対する第2導体試料92の姿勢を維持しながら距離の変更を行うことができる。これにより、第1距離d1および第2距離d2を変更したとしても、円板共振器1では、構造の対称性が維持される。その結果、構造が変わることによる共振モードへの影響を低減することができ、再現性の高い測定を行うことができる。これにより、第1距離d1および第2距離d2を変更した場合でも、導電率を正確に測定することができる。
【0134】
なお、第1導体試料91に対する第2導体試料92の姿勢を維持するとは、例えば、第1導体試料91および第2導体試料92を互いに平行な状態で維持することが挙げられる。
【0135】
1.5.測定手順
次に、円板共振器1を用いた導電率の測定手順について説明する。
【0136】
図7および図8は、それぞれ円板共振器1を用いた導電率の測定手順を説明するための断面図である。
【0137】
まず、円板共振器1に導体試料91、92、93を取り付けた後、図7に示すように、第1導体試料91と第3導体試料93とが接触または近接し、かつ、第2導体試料92と第3導体試料93とが接触または近接する位置まで、第1スライダー65および第2スライダー66を移動させる。この時点で、第1距離d1および第2距離d2は、それぞれ、ほぼゼロになり、ゼロ点の設定が完了する。なお、例えば、第1距離d1がゼロでない場合には、第1スライダー65に対する第1固定板214の位置等をずらすことによって、第1距離d1を微調整することができる。
【0138】
図7および図8に示す円板共振器1は、さらに、壁部614と第1支持体21との距離を計測する測距装置71、および、壁部616と第2支持体22との距離を計測する測距装置72を備えている。これらの測距装置71、72は、光Lを計測プローブとして距離を計測する。このような測距装置71、72を備えることにより、壁部614と第1支持体21との距離および壁部616と第2支持体22との距離をそれぞれより正確に知ることができる。これにより、第1距離d1および第2距離d2の調整を、より正確に行うことができる。なお、測距装置71、72の計測原理は、これに限定されない。
【0139】
図7に示す状態から、ハンドル63を回すと、図8に示すように、第1支持体21および第2支持体22が互いに離れるように移動する。このとき、測距装置71、72を用いて、第1距離d1および第2距離d2の変化をモニターするようにしてもよい。そして、第1距離d1および第2距離d2が目的とする距離になったとき、移動を停止する。その後、円板共振器1に信号を送信し、受信した信号を解析することにより、導電率を求める。
【0140】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る円板共振器について説明する。
図9は、第2実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
【0141】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、各図において第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付している。
【0142】
図9に示す円板共振器1Dは、距離変更部の構成が異なる以外、図1に示す円板共振器1と同様である。
【0143】
前述した図1に示す距離変更部6は、側面にネジ620が設けられたシャフト62を備えている。図1に示すネジ620は、その進行方向が互いに反対である第1部分621および第2部分622を有する。
【0144】
これに対し、図9に示す距離変更部6Dが有するネジ620は、進行方向が同じでピッチが異なる第3部分623および第4部分624を有する。具体的には、第3部分623は、第2スライダー66の挿通孔662と螺合しており、シャフト62の回転によって第2支持体22を移動させる部分である。第4部分624は、第1スライダー65の挿通孔652Dと螺合しており、シャフト62の回転によって第3支持体23を移動させる部分である。なお、本実施形態では、第3支持体23が第1スライダー65に接続され、第1支持体21が台座67に接続されている。そして、本実施形態では、第3部分623のネジの進行方向および第4部分624のネジの進行方向が、互いに同じである。また、第3部分623のネジのピッチは、第4部分624のネジのピッチより大きくなっている。一方、台座67の挿通孔672Dは、ネジ620と螺合していない。
【0145】
このような構成によれば、シャフト62を回転させたとき、第2支持体22は、第3支持体23に比べて、より大きな変更量で第1支持体21に近づいたり、第1支持体21から遠ざかったりする。これにより、第1距離d1および第2距離d2が互いに等しいという関係を維持しながら、距離を調整する操作を容易に行うことができる。その結果、様々な隙間の距離に対するQ値を測定する操作を、より再現性高く行うことができる。
【0146】
なお、上記関係をより厳密に維持するためには、第3部分623のネジのピッチを、第4部分624のネジのピッチの2倍にすればよい。ネジのピッチが2倍であるとは、製造誤差程度のずれを許容する概念である。
【0147】
以上のように、図9に示す距離変更部6Dでは、第2支持体22および第3支持体23が、シャフト62の回転によって移動する。
【0148】
このような構成によれば、第1距離d1および第2距離d2を互いに連動させつつ、調整することができる。これにより、導電率を測定する周波数に応じて、第1距離d1および第2距離d2を変更するとき、その変更操作を容易かつ高精度に行うことができる。
【0149】
また、図9に示す距離変更部6Dでは、第2支持体22が第2スライダー66に接続され、第3支持体23が第1スライダー65に接続されている。
【0150】
このような構成によれば、レール64に沿って第1スライダー65および第2スライダー66を移動させることにより、第2支持体22および第3支持体23を精度よく移動させることができる。これにより、第1距離d1および第2距離d2の調整を特に容易かつ高精度に行える。
【0151】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る円板共振器について説明する。
図10は、第3実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
【0152】
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、各図において第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付している。なお、図10では、一部の構成の図示を省略している。
【0153】
図10に示す円板共振器1Eは、第1支持体21と、第2支持体22と、第3支持体23Eと、図示しない信号送受信部と、距離変更部6Eと、を有する。
【0154】
図10に示す第3支持体23Eは、吊り下げ糸236を有する。吊り下げ糸236は、第3導体試料93の上方から垂らされており、その下端に第3導体試料93が取り付けられている。
【0155】
図10に示す距離変更部6Eは、ボルト682、682と、ナット684、684と、第3固定板686と、マイクロメーターヘッド687と、コイルばね688、688と、を備えている。ボルト682、682は、それぞれ、第1固定板214と第2固定板224の双方を貫通するように設けられた全ネジボルトである。そして、ボルト682、682のZ軸マイナス側の端部には、ナット684、684が螺合している。一方、ボルト682、682のZ軸プラス側の端部には、第3固定板686が螺合している。これにより、第1支持体21および第2支持体22は、ナット684、684と第3固定板686との間に挟まれた状態となる。なお、ボルト682、682は、前述した全ネジボルトに限定されず、一部に雄ネジが設けられた棒状部材であってもよく、ネジ以外の手段でナット684、684またはそれに代わる部材や第3固定板686と結合可能な任意の棒状部材であってもよい。
【0156】
マイクロメーターヘッド687のスリーブ243は、第3固定板686に接続され、スピンドル244は、第1固定板214に接続されている。これにより、第3固定板686に対する第1支持体21の距離を、マイクロメーターヘッド687によって微調整することができる。
【0157】
コイルばね688、688の内側には、ボルト682、682が挿通されている。そして、コイルばね688、688は、第1固定板214と第2固定板224との間に配置されている。
【0158】
このような距離変更部6Eでは、マイクロメーターヘッド687によって第3固定板686をZ軸マイナス側に押圧する力(押圧力)と、コイルばね688、688の復元力と、が釣り合っている。つまり、コイルばね688、688は、第1固定板214をマイクロメーターヘッド687に押し付けるとともに、第2固定板224をナット684、684に押し付けるように、復元力を発生する。これにより、マイクロメーターヘッド687の操作によって、第3固定板686に対する第1支持体21および第2支持体22の位置を一意に決定することができる。つまり、距離変更部6Eによれば、第1導体試料91と第2導体試料92との離間距離を精度よく容易に調整することができる。
【0159】
したがって、導電率を測定するときには、まず、第3支持体23Eの位置に対して、第1支持体21、第2支持体22および距離変更部6Eを有する構造体全体の位置を調整する。具体的には、吊り下げ糸236によって吊り下げられた第3導体試料93が、第1導体試料91と第2導体試料92との中間点に配置されるようにする。このとき、距離変更部6Eにより、第1距離d1を変更することができる。
【0160】
以上のように、本実施形態に係る第3支持体23Eは、第1支持体21および第2支持体22から構造的に独立している。そして、距離変更部は、第1支持体21および第2支持体22の少なくとも一方を移動させ、第1支持体21と第2支持体22との離間距離を変更することにより、第1距離d1および第2距離d2の少なくとも一方を変更するように構成されている。本実施形態に係る距離変更部6Eでは、一例として、第2支持体22に対して第1支持体21を相対的に移動させることにより、第1距離d1を変更する。
【0161】
このような構成によれば、第1支持体21および第2支持体22と、第3支持体23Eと、が構造的に独立しているため、円板共振器1Eの構造がより簡単になる。このため、円板共振器1Eの製造コストを削減することができる。また、かかる構成によれば、第1導体試料91と第2導体試料92との間の距離および第1導体試料91と第3導体試料93との間の距離が、それぞれマイクロメーターヘッド687によって調整され、それに伴って、第1支持体21の移動量、すなわち、第3固定板686に対する第1支持体21の距離から規定される。したがって、本実施形態によれば、測距装置71の省略が可能になる。
以上のような第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0162】
なお、コイルばね688は、任意の弾性部材、例えばゴムやエラストマー、コイルばね以外のばね等で代替可能である。また、吊り下げ糸236も、第3導体試料93を保持可能な任意の保持部材で代替可能である。
【0163】
4.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る円板共振器について説明する。
図11は、第4実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
【0164】
以下、第4実施形態について説明するが、以下の説明では、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、各図において第2実施形態と同様の構成には、同一の符号を付している。なお、図11では、一部の構成の図示を省略している。
【0165】
図11に示す円板共振器1Fは、第1支持体21と、第2支持体22と、第3支持体23Fと、図示しない信号送受信部と、距離変更部6Eと、を有する。
【0166】
図11に示す第3支持体23Fは、互いに厚さが等しい第3a部材237aおよび第3b部材237bを有する。第3a部材237aは、第1導体試料91と第3導体試料93との間に配置され、Z軸方向に貫通する空隙部238aを備える。第3b部材237bは、第2導体試料92と第3導体試料93との間に配置され、Z軸方向に貫通する空隙部238bを備える。
【0167】
つまり、第3支持体23Fは、第3a部材237a、第3導体試料93および第3b部材237bがこの順で積層されるとともに、第1支持体21と第2支持体22との間に挟持されることにより、第3導体試料93を支持するように構成されている。
【0168】
そして、第3支持体23Fによって第3導体試料93が支持されているとき、第3a部材237aが備える空隙部238aは、第1導体試料91と第3導体試料93との間に位置している。また、第3b部材237bが備える空隙部238bは、第2導体試料92と第3導体試料93との間に位置している。
【0169】
このような構成によれば、互いに厚さが等しい第3a部材237aおよび第3b部材237bによって、空隙部238aの厚さと空隙部238bの厚さとを等しくすることができる。つまり、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間に、それぞれ厚さの等しい隙間を設けることができる。これにより、第1実施形態が有するスタンド61、シャフト62、レール64等が不要になるため、円板共振器1Fの構造がさらに簡単になる。
以上のような第4実施形態においても、第1、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0170】
5.第5実施形態
次に、第5実施形態に係る円板共振器について説明する。
図12は、第5実施形態に係る円板共振器を示す断面図である。
【0171】
以下、第5実施形態について説明するが、以下の説明では、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、各図において第2実施形態と同様の構成には、同一の符号を付している。なお、図12では、一部の構成の図示を省略している。
【0172】
図12に示す円板共振器1Gは、第1支持体21と、第2支持体22と、第3支持体23Eと、信号送受信部5Gと、距離変更部6Eと、を有する。
【0173】
図12に示す信号送受信部5Gは、側方励振線51Gと、側方励振線52Gと、を有する。
【0174】
側方励振線51Gは、第1導体試料91と第3導体試料93との間に挿入されている。また、側方励振線51Gは、第1導体試料91と第2導体試料92の双方を通過する直線に交差する方向から挿入されている。図12では、一例として、Y軸プラス側からY軸マイナス側に向かって側方励振線51Gが挿入されている。
【0175】
側方励振線52Gは、第2導体試料92と第3導体試料93との間に挿入されている。また、側方励振線52Gも、前述した直線に交差する方向から挿入されている。図12では、一例として、Y軸マイナス側からY軸プラス側に向かって側方励振線52Gが挿入されている。
【0176】
このような構成によれば、図1に示すホルダー53、54を設ける必要がないので、信号送受信部5Gの構造が簡単になる。また、信号送受信部5Gによれば、側方励振線51G、52Gを用いることにより、第1導体試料91および第2導体試料92にそれぞれ貫通孔を設ける必要がなくなる。このため、第1導体試料91や第2導体試料92の準備が容易になり、測定作業の効率をより高めることができる。
【0177】
以上のような第5実施形態においても、第1、第2実施形態と同様の効果が得られる。なお、側方励振線51G、52GのZ軸方向における位置は、上記の位置に限定されず、第1導体試料91と第2導体試料92との間であれば、どこでもよい。また、側方励振線51G、52Gのうちの一方は省略されていてもよい。つまり、側方励振線51G、52Gの一方で信号の送受信を担ってもよい。
【0178】
6.第6実施形態
次に、第6実施形態に係る導電率測定装置について説明する。
図13は、第6実施形態に係る導電率測定装置を示す図である。
【0179】
図13に示す導電率測定装置10は、前述した円板共振器1を備える。具体的には、図13に示す導電率測定装置10は、円板共振器1と、ネットワークアナライザー11と、パーソナルコンピューター12と、を備える。ネットワークアナライザー11と円板共振器1との間は、送信ケーブル13および受信ケーブル14を介して接続されている。
【0180】
ネットワークアナライザー11は、円板共振器1に電磁波を送信するとともに、円板共振器1から受信した電磁波をデジタル処理することによって、共振周波数、挿入損失、電力半値幅等の解析データを取得する。そして、ネットワークアナライザー11は、これらの解析データをパーソナルコンピューター12に出力する。
【0181】
パーソナルコンピューター12は、これらの解析データや試料に関する初期条件、円板共振器1に関する初期条件、温度、湿度等の環境条件等に基づいて、導体試料の導電率を算出する。
【0182】
このような導電率測定装置10によれば、前述した円板共振器1を備えているため、高周波域における導体試料の導電率を効率よく測定することができる。
【0183】
7.第7実施形態
次に、第7実施形態に係る導電率測定方法について説明する。
図14は、第7実施形態に係る導電率測定方法を示すフローチャートである。
【0184】
図14に示す導電率測定方法は、例えば、前述した円板共振器1を用い、第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93の導電率を平衡型円板共振器法により測定する方法である。具体的には、図14に示す導電率測定方法は、試料配置工程S102と、測定工程S104と、演算工程S106と、を有する。
【0185】
試料配置工程S102では、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間、にそれぞれ隙間ができるように、第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93を配置する。これにより、円板共振器1を得る。
【0186】
測定工程S104では、円板共振器1に信号を送信し、円板共振器1からの信号を受信する。具体的には、測定工程S104では、信号送受信部5から第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93に信号を送信し、第1導体試料91、第2導体試料92および第3導体試料93からの信号を信号送受信部5で受信する。
演算工程S106では、受信した信号を解析して、導電率を算出する。
【0187】
このような導電率測定方法によれば、少なくとも1回の測定作業で、導体試料の導電率を求めることができる。このため、この方法によれば、高周波域における導電率の測定を効率よく行うことができる。
【0188】
また、第1導体試料91と第3導体試料93との間、および、第2導体試料92と第3導体試料93との間に、それぞれ隙間を設けているので、それらの間を誘電体で埋める必要がなくなる。このため、円板共振器1の部品点数を削減することができ、測定作業の効率が高くなる。
【0189】
さらに、隙間を設けることにより、誘電体との接触に伴う導体試料の傷つきや凹み等の変形が生じない。このため、表皮効果の影響を含む導体試料の導電率をより精度よく測定することができる。
【0190】
測定工程S104において、円板共振器1に送信する信号は、例えば、マイクロ波やミリ波に相当する高周波の信号とされる。具体的には、周波数300MHz以上の高周波信号であるのが好ましく、周波数1GHz以上の高周波信号であるのがより好ましく、周波数10GHz以上の高周波信号であるのがさらに好ましい。このような高周波域における導電率を効率よく測定可能であるという点で、本実施形態に係る導電率測定方法は有用である。
【0191】
なお、円板共振器1に送信する信号の周波数の上限値は、特に限定されないが、一例として300GHz程度とされる。これを超える場合、導電率の測定精度が低下するおそれがある。
【0192】
以上、本発明の円板共振器、導電率測定装置および導電率測定方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0193】
例えば、本発明の円板共振器および導電率測定装置は、それぞれ、前記実施形態および前記各構成例の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態および前記各構成例に任意の構成物が付加されたものであってもよい。また、本発明の円板共振器は、前記各実施形態および前記各構成例のうち、少なくとも2つ以上が組み合わされたものであってもよい。
【0194】
また、本発明の導電率測定方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0195】
1 円板共振器
1D 円板共振器
1E 円板共振器
1F 円板共振器
1G 円板共振器
5 信号送受信部
5G 信号送受信部
6 距離変更部
6D 距離変更部
6E 距離変更部
10 導電率測定装置
11 ネットワークアナライザー
12 パーソナルコンピューター
13 送信ケーブル
14 受信ケーブル
21 第1支持体
22 第2支持体
23 第3支持体
23A 第3支持体
23B 第3支持体
23C 第3支持体
23E 第3支持体
23F 第3支持体
51 第1貫通励振線
51G 側方励振線
52 第2貫通励振線
52G 側方励振線
53 ホルダー
54 ホルダー
55 送信アンテナ
56 受信アンテナ
61 スタンド
62 シャフト
63 ハンドル
64 レール
65 第1スライダー
66 第2スライダー
67 台座
71 測距装置
72 測距装置
91 第1導体試料
92 第2導体試料
93 第3導体試料
212 第1支持導体板
214 第1固定板
216 第1貫通孔
222 第2支持導体板
224 第2固定板
226 第2貫通孔
232 第1フレーム
234 誘電体部材
234C 誘電体部材
235 貫通孔
236 吊り下げ糸
237a 第3a部材
237b 第3b部材
238 第2フレーム
238a 空隙部
238b 空隙部
242X マイクロメーターヘッド
242Y マイクロメーターヘッド
243 スリーブ
244 スピンドル
246X コイルばね
246Y コイルばね
532 貫通孔
542 貫通孔
612 基部
614 壁部
615 挿通孔
616 壁部
617 挿通孔
620 ネジ
621 第1部分
622 第2部分
623 第3部分
624 第4部分
652 挿通孔
652D 挿通孔
662 挿通孔
672 挿通孔
672D 挿通孔
682 ボルト
684 ナット
686 第3固定板
687 マイクロメーターヘッド
688 コイルばね
AX1 第1軸
AX2 第2軸
AX3 回転軸
L 光
P プロットマーク
S102 試料配置工程
S104 測定工程
S106 演算工程
d1 第1距離
d2 第2距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14