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特開2022-185413車両駆動ユニットの制御装置及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185413
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】車両駆動ユニットの制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20221207BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221207BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20221207BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20221207BHJP
   B60W 20/11 20160101ALI20221207BHJP
   B60W 20/19 20160101ALI20221207BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20221207BHJP
   F16H 59/48 20060101ALI20221207BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B60W10/00 104
B60W10/06
B60W10/08
B60K6/445 ZHV
B60W20/11
B60W20/19
F16H59/18
F16H59/48
F16H63/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093089
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 浩詩
【テーマコード(参考)】
3D202
3D241
3J552
【Fターム(参考)】
3D202AA05
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB11
3D202CC02
3D202DD02
3D202DD05
3D202DD32
3D202DD34
3D241AA01
3D241AA32
3D241AC01
3D241AD02
3D241AD10
3D241AD31
3D241AD51
3D241AE02
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB08
3J552NB09
3J552PA70
3J552RB15
3J552RB18
3J552TA01
3J552UA08
3J552VA74Z
3J552VB04W
3J552VB08W
3J552VC02Z
3J552VD02W
(57)【要約】
【課題】適合工数を低減しつつ、車両前後加速度の振動抑制と車両加減速性能とを両立できるようにする。
【解決手段】
車両駆動ユニットの制御装置は、1つ以上の動力源を有する車両駆動ユニットを車両の運転状態に基づいて制御する。制御装置は、プロセッサと、記憶装置と、を備える。記憶装置は、車両駆動ユニットに指令される車両駆動トルクである指令トルクを入力とし車両前後加速度の予測値である予測加速度を出力とする機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを記憶している。プロセッサは、車両前後加速度予測モデルを用いて予測加速度を算出する予測加速度算出処理と、運転状態に基づく車両駆動トルクの目標値である目標トルクに対する指令トルクの偏差を低減しつつ目標トルクに応じた目標車両前後加速度に対する予測加速度の偏差を最小化する評価関数を最小とする指令トルクを算出する指令トルク算出処理と、を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の動力源を有する車両駆動ユニットを車両の運転状態に基づいて制御する制御装置であって、
プロセッサと、
前記車両駆動ユニットに指令される車両駆動トルクである指令トルクを入力とし車両前後加速度の予測値である予測加速度を出力とする機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを記憶する記憶装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
前記車両前後加速度予測モデルを用いて前記予測加速度を算出する予測加速度算出処理と、
前記運転状態に基づく前記車両駆動トルクの目標値である目標トルクに対する前記指令トルクの偏差を低減しつつ前記目標トルクに応じた目標車両前後加速度に対する前記予測加速度の偏差を最小化する評価関数を最小とする前記指令トルクを算出する指令トルク算出処理と、
を実行する
ことを特徴とする車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記指令トルクに応じた車両駆動トルクが前記車両駆動ユニットから出力されることに伴って生じる実車両前後加速度に対する前記予測加速度の差に基づいて、前記車両前後加速度予測モデルから出力される前記予測加速度を補正する加速度補正処理をさらに実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、現在の時間ステップからの所定期間である予測期間に含まれる複数の時間ステップでの前記目標トルク、前記指令トルク、前記目標車両前後加速度、及び前記予測加速度のデータを対象として、前記予測加速度算出処理及び前記指令トルク算出処理を時間ステップ毎に実行する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項4】
前記予測期間は、前記車両のドライブシャフトのねじれに起因する実車両前後加速度の振動、及び、前記1つ以上の動力源から前記ドライブシャフトまでの動力伝達経路に位置するギアのバックラッシュが詰まることに起因する実車両前後加速度の振動のうちの少なくとも一方の予測に必要とされる最小の期間である
ことを特徴とする請求項3に記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記予測期間に含まれる前記複数の時間ステップのそれぞれにおける前記目標トルクを、前記現在の時間ステップにおける前記目標トルクの値で一定とする
ことを特徴とする請求項4に記載の車両駆動ユニットの制御装置。
【請求項6】
1つ以上の動力源を有する車両駆動ユニットを車両の運転状態に基づいて制御する制御方法であって、
前記車両駆動ユニットに指令される車両駆動トルクである指令トルクを入力とし車両前後加速度の予測値である予測加速度を出力とする機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを用いて、前記予測加速度を算出する予測加速度算出処理と、
前記運転状態に基づく前記車両駆動トルクの目標値である目標トルクに対する前記指令トルクの偏差を低減しつつ前記目標トルクに応じた目標車両前後加速度に対する前記予測加速度の偏差を最小化する評価関数を最小とする前記指令トルクを算出する指令トルク算出処理と、
を含む
ことを特徴とする車両駆動ユニットの制御方法。
【請求項7】
前記制御方法は、前記指令トルクに応じた車両駆動トルクが前記車両駆動ユニットから出力されることに伴って生じる実車両前後加速度に対する前記予測加速度の差に基づいて、前記車両前後加速度予測モデルから出力される前記予測加速度を補正する加速度補正処理をさらに含む
ことを特徴とする請求項6に記載の車両駆動ユニットの制御方法。
【請求項8】
前記制御方法は、現在の時間ステップからの所定期間である予測期間に含まれる複数の時間ステップでの前記目標トルク、前記指令トルク、前記目標車両前後加速度、及び前記予測加速度のデータを対象として、前記予測加速度算出処理及び前記指令トルク算出処理を時間ステップ毎に実行することを含む
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の車両駆動ユニットの制御方法。
【請求項9】
前記予測期間は、前記車両のドライブシャフトのねじれに起因する実車両前後加速度の振動、及び、前記1つ以上の動力源から前記ドライブシャフトまでの動力伝達経路に位置するギアのバックラッシュが詰まることに起因する実車両前後加速度の振動のうちの少なくとも一方の予測に必要とされる最小の期間である
ことを特徴とする請求項8に記載の車両駆動ユニットの制御方法。
【請求項10】
前記制御方法は、前記予測期間に含まれる前記複数の時間ステップのそれぞれにおける前記目標トルクを、前記現在の時間ステップにおける前記目標トルクの値で一定とする処理を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の車両駆動ユニットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両駆動ユニットの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関と変速機を有する駆動系とを搭載した車両に適用された車両制御装置が開示されている。この車両制御装置は、車両に関する各種状態量を検出する検出手段の検出結果に基づいて予め用意された複数種類の駆動トルク出力パターンの中から1つの出力パターンを選択する制御パターン選択手段と、制御パターン選択手段によって選択された出力パターンに基づいて内燃機関及び駆動系を制御する制御手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-119359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の加速時又は減速時には、車両のドライブシャフトのねじれに起因する車両前後振動(車両前後加速度の振動)が生じたり、車両の1つ以上の動力源からドライブシャフトまでの動力伝達経路に位置するギアのバックラッシュが詰まることに起因する車両前後振動が生じたりする。
【0005】
車両前後振動の抑制と車両運動性能(応答性)とをバランス良く成立させるために、特許文献1に記載の車両制御装置は、上述のように複数種類の駆動トルク出力パターンを備えている。そして、これらの駆動トルク出力パターンは、車両に関する各種状態量の検出結果に応じて異なるように設定されている。このような特許文献1に記載のトルク制御手法では、車両の運転状態に応じて多くの適合値が必要となる。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、適合工数を低減しつつ、車両前後振動抑制と車両加減速性能とを両立できるようにした車両駆動ユニットの制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る車両駆動ユニットの制御装置は、1つ以上の動力源を有する車両駆動ユニットを車両の運転状態に基づいて制御する。制御装置は、プロセッサと、記憶装置と、を備える。記憶装置は、車両駆動ユニットに指令される車両駆動トルクである指令トルクを入力とし車両前後加速度の予測値である予測加速度を出力とする機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを記憶している。プロセッサは、車両前後加速度予測モデルを用いて予測加速度を算出する予測加速度算出処理と、運転状態に基づく車両駆動トルクの目標値である目標トルクに対する指令トルクの偏差を低減しつつ目標トルクに応じた目標車両前後加速度に対する予測加速度の偏差を最小化する評価関数を最小とする指令トルクを算出する指令トルク算出処理と、を実行する。
【0008】
プロセッサは、指令トルクに応じた車両駆動トルクが車両駆動ユニットから出力されることに伴って生じる実車両前後加速度に対する予測加速度の差に基づいて、車両前後加速度予測モデルから出力される予測加速度を補正する加速度補正処理をさらに実行してもよい。
【0009】
プロセッサは、現在の時間ステップからの所定期間である予測期間に含まれる複数の時間ステップでの目標トルク、指令トルク、目標車両前後加速度、及び予測加速度のデータを対象として、予測加速度算出処理及び指令トルク算出処理を時間ステップ毎に実行してもよい。
【0010】
予測期間は、車両のドライブシャフトのねじれに起因する実車両前後加速度の振動、及び、1つ以上の動力源からドライブシャフトまでの動力伝達経路に位置するギアのバックラッシュが詰まることに起因する実車両前後加速度の振動のうちの少なくとも一方の予測に必要とされる最小の期間であってもよい。
【0011】
プロセッサは、予測期間に含まれる複数の時間ステップのそれぞれにおける目標トルクを、現在の時間ステップにおける目標トルクの値で一定としてもよい。
【0012】
本開示の他の態様に係る車両駆動ユニットの制御方法は、1つ以上の動力源を有する車両駆動ユニットを車両の運転状態に基づいて制御する。制御方法は、車両駆動ユニットに指令される車両駆動トルクである指令トルクを入力とし車両前後加速度の予測値である予測加速度を出力とする機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを用いて、予測加速度を算出する予測加速度算出処理と、運転状態に基づく車両駆動トルクの目標値である目標トルクに対する指令トルクの偏差を低減しつつ目標トルクに応じた目標車両前後加速度に対する予測加速度の偏差を最小化する評価関数を最小とする指令トルクを算出する指令トルク算出処理と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る車両駆動ユニットの制御装置又は制御方法によれば、評価関数を最小とする指令トルクが算出される。この評価関数は、目標車両前後加速度に対する予測加速度の偏差を最小化するものである。このため、評価関数を最小とする指令トルクによれば、車両前後振動を良好に抑制できる。そして、この指令トルクの算出に用いられる予測加速度は、機械学習モデルである車両前後加速度予測モデルを用いて算出される。これにより、車両駆動トルクの制御に用いられる適合値の数を減らすことができる。また、上記評価関数によれば、目標車両前後加速度に対する予測加速度の偏差を最小化するだけでなく、目標トルクに対する指令トルクの偏差をも低減する指令トルクが算出される。このため、車両前後振動を抑制しつつ、目標トルクを良好に満たせるように指令トルクを決定できるようになる。このように、本開示に係る制御装置又は制御方法によれば、適合工数を低減しつつ、車両前後振動の抑制と車両加減速性能とを両立できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係る車両駆動ユニットを搭載する車両のシステム構成の一例を示す図である。
図2】実施の形態1に係る車両駆動トルクの制御構造の概要を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係る車両駆動トルク制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】予測期間tp中の目標トルクTpfrqの予測手法を説明するためのタイムチャートである。
図5図2に示す目標値変換部によって算出される予測期間tpの目標車両前後加速度Greqの一例を表したタイムチャートである。
図6】実施の形態2に係る車両駆動トルクの制御構造の概要を示すブロック図である。
図7図6に示すモデル補正部及びモデル再学習部に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図7中のステップS200の判定手法の一例を説明するためのタイムチャートである。
図9図6に示すモデル補正部による予測加速度Gpreの時間遅れ及び振幅の補正手法の一例を説明するための図である。
図10図6に示すモデル再学習部による予測加速度Gpreの再学習が行われる条件における予測加速度Gpre及び実加速度Gactの波形の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明される各実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造やステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0016】
1.実施の形態1
1-1.車両のシステム構成例
図1は、実施の形態1に係る車両駆動ユニット10を搭載する車両100のシステム構成の一例を示す図である。車両100は、車両駆動ユニット10を備えている。車両駆動ユニット10は、車両100(車輪102)を駆動する。車両駆動ユニット10は、第1モータジェネレータ(MG)1、第2モータジェネレータ(MG)2、及び内燃機関3を動力源として備えている。MG1は主に発電機として用いられ、MG2は主に車輪102を駆動する電動機として用いられる。また、車両駆動ユニット10は、一例として動力分割機構12を備えている。
【0017】
動力分割機構12は、第1プラネタリギアユニット14、第2プラネタリギアユニット16、低速用クラッチ18、高速用クラッチ20、及び減速機構22を含む。第1プラネタリギアユニット14は、第1サンギア14aと第1キャリア14bと第1リングギア14cとを含む。第2プラネタリギアユニット16は、第2サンギア16aと第2キャリア16bと第2リングギア16cとを含む。第1サンギア14aはMG1に連結され、第1キャリア14bは内燃機関3に連結されている。第1リングギア14cは、第2サンギア16aに連結されている。
【0018】
低速用クラッチ18は、第2サンギア16aと第2キャリア16bとを連結可能に構成されている。高速用クラッチ20は、第2キャリア16bと第2リングギア16cとを連結可能に構成されている。減速機構22は、第2リングギア16cの回転軸線及びMG2の回転軸2aと平行なカウンタ軸(以下、「ペラ軸」とも称される)24と、ディファレンシャルギア26とを含む。ペラ軸24は、第2リングギア16c及びMG2のそれぞれにギアを介して連結されている。すなわち、ペラ軸24は、第2リングギア16cからのトルク(主に、内燃機関3からのトルク)にMG2のトルクを付加できるように配置されている。また、ペラ軸24は、ギアを介してディファレンシャルギア26と連結されている。したがって、第2リングギア16cからのトルク、及びMG2のトルクは、減速機構22及びドライブシャフト104を介して車輪102に伝達される。なお、車両駆動ユニット10は、ディファレンシャルギア26を内蔵していてもよいし、ディファレンシャルギア26を内蔵していなくてもよい。
【0019】
上述した車両駆動ユニット10によれば、クラッチ18及び20の係合/解放を制御することにより変速を行うことができる。具体的には、車両駆動ユニット10の駆動モードは、車両100の高速時に適した高速モードと、低速時に適した低速モードとを含む。動力分割機構12によれば、低速用クラッチ18を解放しつつ高速用クラッチ20を係合することによって高速モードを選択でき、高速用クラッチ20を解放しつつ低速用クラッチ18を係合することによって低速モードを選択できる。
【0020】
上述のように、車両100は、一例として動力分割方式の車両駆動ユニット10を備えるハイブリッド車両である。ただし、本開示に係る「車両」は、動力分割方式以外の方式の車両駆動ユニットを備えるハイブリッド車両であってもよい。また、車両は、例えば、動力源として電動モータのみを有する車両駆動ユニットを備える車両(例えば、バッテリ電気自動車又は燃料電池自動車)であってもよく、又は動力源として内燃機関のみを有する車両駆動ユニットを備える車両であってもよい。
【0021】
また、車両100は、電子制御ユニット(ECU)30を備えている。ECU30は、車両100に関する各種処理を実行するコンピュータであり、車両駆動ユニット10を制御する「制御装置」に相当する。具体的には、ECU30によって実行される処理は、MG1、MG2及び内燃機関3の制御に関する処理、並びに、クラッチ18及び20の制御(変速制御)に関する処理を含む。ECU30は、プロセッサ30a及び記憶装置30bを備えている。プロセッサ30aは、記憶装置30bに格納されているプログラムを読み出して実行する。これにより、プロセッサ30aによる上述の各種処理が実現される。なお、ECU30は複数であってもよい。ECU30は、例えば、車両駆動ユニット10を統括的に制御するECUと、MG1及びMG2をそれぞれ制御するECUと、内燃機関3を制御するECUと、クラッチ18及び20を制御するECUとを含むように構成されていてもよい。
【0022】
ECU30は、上述の各種処理に用いられるセンサ類32からセンサ信号を取り込む。ここでいうセンサ類32は、例えば、車両加速度センサ、車速センサ、アクセルポジションセンサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、クランク角センサ、及びシフトポジション(変速モード)センサを含む。また、記憶装置30bは、図2を参照して後述される車両前後加速度予測モデル38を記憶している。
【0023】
1-2.車両駆動トルク制御
図2は、実施の形態1に係る車両駆動トルクの制御構造の概要を示すブロック図である。ECU30は、車両100を駆動するために「車両駆動トルク制御」を実行する。図2は、この車両駆動トルク制御に関連するECU30の機能構成を示している。ECU30は、目標トルク算出部34と、目標値変換部36と、車両前後加速度予測モデル38と、駆動力最適化器40と、を備えている。これらの目標トルク算出部34、目標値変換部36、車両前後加速度予測モデル38、及び駆動力最適化器40は、記憶装置30bに格納されたプログラムがプロセッサ30aによって実行されたときにソフトウェア的に実現される。
【0024】
本実施形態の車両駆動トルク制御の対象となる車両駆動トルクは、一例として、ペラ軸24のトルク(ペラ軸トルク)Tpである。以下、ペラ軸トルクTpの目標値(要求値)は、「目標トルクTpfrq」と称される。また、車両駆動ユニット10に指令される車両駆動トルクである「指令トルク」は、一例として、ペラ軸トルクTpの指令値である「指令トルクTpcm」である。
【0025】
なお、車両駆動トルク制御に用いられる「車両駆動トルク」は、車両駆動トルク制御内で統一して使用されるものであれば、ペラ軸トルクTp(すなわち、ディファレンシャルギア26の入力側のトルク)に限られない。すなわち、例えば、ディファレンシャルギア26による最終減速後のトルク(すなわち、ドライブシャフト104のトルク)が車両駆動トルクとして用いられてもよい。
【0026】
目標トルク算出部34は、目標トルクTpfrqを算出する。目標トルクTpfrqの算出は、例えば次のように行うことができる。すなわち、目標トルク算出部34は、アクセルポジション(アクセル開度)と車速とに基づいてペラ軸回転数を算出する。次いで、目標トルク算出部34は、アクセル開度、ペラ軸回転数、及びシフトポジションと目標トルクTpfrqとの関係を定めたマップ(図示省略)から、アクセル開度、ペラ軸回転数、及びシフトポジションに応じた目標トルクTpfrqを算出する。この目標トルクTpfrqの算出に用いられるアクセル開度、車速、及びシフトポジションは、例えば、上述のセンサ類32を用いて取得される。
【0027】
目標トルク算出部34によって算出された目標トルクTpfrqは、目標値変換部36と駆動力最適化器40に入力される。目標値変換部36は、車両前後加速度Gの目標値(要求値)である「目標車両前後加速度(又は、単に「目標加速度」)Greqを算出する。目標加速度Greqの具体的な算出手法は、図3を参照して後述される。目標値変換部36によって算出された目標加速度Greqは、駆動力最適化器40に入力される。
【0028】
車両前後加速度予測モデル(又は、単に「加速度予測モデル」)38は、ある指令トルクTpcmが車両駆動ユニット10に指令されたことに伴って車両100に生じる車両前後加速度Gを予測するものである。すなわち、加速度予測モデル38は、指令トルクTpcmを入力とし、車両前後加速度Gの予測値である「予測加速度Gpre」を出力として構築された機械学習モデルである。具体的には、加速度予測モデル38には、駆動力最適化器40から出力された指令トルクTpcmが入力される。また、加速度予測モデル38には、指令トルクTpcmとともに、車両の運転状態を示す任意の変数xが入力される。変数xは、例えば、MG2のトルクと車速である。
【0029】
加速度予測モデル38は、例えばディープニューラルネットワークを用いて構築されている。加速度予測モデル38の学習は、説明変数(入力)である指令トルクTpcm及び変数xの時系列データと目的変数(出力)である車両前後加速度G(実車両前後加速度Gact)の時系列データとの組み合わせである学習データを用いて事前に行われている。学習データは、車両100の加速時及び減速時における所定のデータ取得期間を対象として取得される。付け加えると、加速度予測モデル38は、車両100上で更新可能に構築されている。
【0030】
付け加えると、学習データは、車両駆動ユニット10を備える車両100を実際に用いて取得されるものである。したがって、加速度予測モデル38は、車両100の特性に良好に適合した機械学習モデルとして構築される。このように、本開示に係る「車両前後加速度予測モデル」によれば、学習データの取得のために用いられた車両の特性を良好に反映しつつ、入力された指令トルクに応じた車両前後加速度Gの予測を行えるようになる。
【0031】
駆動力最適化器40には、目標トルクTp及び目標加速度Greqとともに、加速度予測モデル38によって予測された予測加速度Gpreが入力される。駆動力最適化器40は、これらの入力に対し、評価関数J(後述の図3参照)を最小とする指令トルクTpcmを算出する。
【0032】
駆動力最適化器40によって算出された指令トルクTpcmが加速度予測モデル38に入力されると、加速度予測モデル38は、入力された最新の指令トルクTpcmに応じた最新の予測加速度Gpreを算出し、駆動力最適化器40に出力する。評価関数Jの値が所定の最適性基準を満たさない間は、駆動力最適化器40は、加速度予測モデル38から最新の予測加速度Gpreを受け取りながら、指令トルクTpcmを繰り返し算出(修正)する。一方、評価関数Jの値が最適性基準を満たした場合には、駆動力最適化器40は、最新の指令トルク(修正トルク)Tpcmを最終的なペラ軸トルクTpの指令値(最終指令トルクTpcmf)として車両駆動ユニット10に出力(指令)する。
【0033】
ここで、車両100では、加速時又は減速時に目標トルクTpが車両駆動ユニット10に与えられると、ドライブシャフト104のねじれに起因する車両前後振動、及び、車両駆動ユニット10の各部のギアのバックラッシュが詰まることに起因する車両前後振動が生じ得る。このような車両前後振動(より詳細には、車両前後加速度Gの振動)の波形を評価するために、予測加速度Gpreの波形(より詳細には、時系列データ)を取得することが必要とされる。以下。予測加速度Gpreの波形(時系列データ)を取得する期間は、「予測期間tp」と称される。予測期間tp(例えば、後述の図4参照)は、現在の時間ステップからの所定期間である。
【0034】
予測加速度Gpreの予測精度の確保と予測に要する演算負荷の低減のためには、予測期間tpは、短い方が望ましい。その一方で、車両前後振動の波形を適切に評価するためには、少なくとも当該車両前後振動の半周期分の予測加速度Gpreの時系列データを取得することが必要とされる。これは、当該車両前後振動の振幅を取得できるようにするためである。そして、車両前後振動の半周期分の予測加速度Gpreの時系列データを取得するためには、予測期間tpは、0.3秒以上必要となる。そこで、本実施形態では、予測期間tpの一例として、0.3秒が用いられている。なお、0.3秒より長い予測期間tpが用いられてもよい。
【0035】
上述の理由により、本実施形態では、図2に示す車両駆動トルク制御における目標加速度Greq、指令トルクTpcm、及び予測加速度Gpreは、以下に図3を参照して詳述されるように予測期間tp分の時系列データとして取得される。
【0036】
次に、図3は、実施の形態1に係る車両駆動トルク制御に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両100の運転中に、所定の制御周期で(換言すると、時間ステップ毎に)繰り返し実行される。したがって、予測期間tpは、時間ステップ毎に、1時間ステップ分だけ進行する。
【0037】
図3では、ECU30(プロセッサ30a)は、まずステップS100において、目標トルクTpfrqに基づいて、予測期間tpの目標車両前後加速度Greqを算出する。このステップS100の処理は、目標値変換部36の処理に該当する。
【0038】
図4は、予測期間tp中の目標トルクTpfrqの予測手法を説明するためのタイムチャートである。なお、図4は、加速時の目標トルクTpの波形を示している。減速時の目標トルクTpの波形は、図4に示すものと正負が逆となる。
【0039】
ステップS100における予測期間tpの目標加速度Greqの算出の基礎となる目標トルクTpfrqは、図4に示すように、現時刻(現在の時間ステップ)の値で一定であると予測される。既述したように、目標トルク算出部34における目標トルクTpfrqの算出では、車両100の運転状態を示すパラメータであるアクセル開度、車速、ペラ軸回転数、及びシフトポジションが用いられる。予測期間tpの目標トルクTpfrqが一定で続くものとして扱うことにより、予測期間tpのアクセル開度等のパラメータを予測する必要なしに当該予測期間tpの目標トルクTpfrqを取得できる。すなわち、この法は、予測期間tpにおけるドライバーのアクセルペダルの操作を予測することを必要としない。
【0040】
ステップS100において、目標加速度Greqは、車両駆動トルク制御の対象となる車両100の運動方程式に基づく次の(1)式を用いて算出することができる。
【数1】
【0041】
(1)式を用いた目標加速度Greqの算出では、目標トルクTpfrqがそのまま用いられるのではなく、次のように変換された後の目標トルクTpfrq_dが用いられる。目標値変換部36は、例えば、次のようなトルク予測モデルを含んで構成されている。このトルク予測モデルは、通信遅れ、むだ時間、及び一次遅れを模擬してペラ軸トルクTpの応答特性を予測するように構成されている。目標トルクTpfrq_dは、現時刻の目標トルクTpfrqをこのようなトルク予測モデルに入力することによって算出される。また、(1)式において、ディファレンシャルギア26における最終減速比DR、車輪102のタイヤ半径r、及び、車両重量VMは既知である。走行抵抗RLは、別途算出又は検出される。(1)式中の数値「9.81」は重力加速度である。
【0042】
図5は、図2に示す目標値変換部36によって算出される予測期間tpの目標車両前後加速度Greqの一例を表したタイムチャートである。ステップS100では、上述のように変換された後の目標トルクTpfrq_dを(1)式に代入することにより、図5に示すように予測期間tpの目標加速度Greqの波形(時系列データ)が算出される。なお、図5は、加速時の目標加速度Greqの波形を示しており、減速時の目標加速度Greqの波形は、図5に示すものと正負が逆となる。
【0043】
ステップS100に続くステップS102の処理は、駆動力最適化器40の処理に該当する。ステップS102では、ECU30は、予測期間tpの指令トルクTpcmの探索初期点を、乱数を用いてランダムに決定する。制御周期が例えば20ミリ秒であるとすると、0.3秒の予測期間tpには、現在の時間ステップに続く15個の時間ステップが含まれることになる。したがって、本ステップS102では、予測期間tpの指令トルクTpcmの探索初期点として、15点の指令トルクTpcmが決定される。これらの指令トルクTpcmは、所定の上下限値の範囲内で決定される。付け加えると、上限値は、例えば、ステップS100において一定値として扱われた目標トルクTpfrqである。
【0044】
ステップS102に続くステップS104の処理は、駆動力最適化器40の処理と、加速度予測モデル38の処理とに該当する。後者の処理は、本開示に係る「予測加速度算出処理」の一例に相当する。
【0045】
具体的には、ステップS104では、ECU30(駆動力最適化器40)は、ステップS102で決定した探索初期点、又は後述のステップS110において修正した探索点を加速度予測モデル38に入力する。ECU30(加速度予測モデル38)は、入力された探索初期点又は修正後の探索点(すなわち、予測期間tpの指令トルク(修正トルク)Tpの時系列データ)に応じた予測期間tpの予測加速度Gpreの時系列データを生成(算出)する。生成された予測加速度Gpreの時系列データは、駆動力最適化器40に入力される。
【0046】
ステップS104に続くステップS106の処理は、駆動力最適化器40の処理に該当する。ステップS106では、ECU30は、予測期間tpの目標トルクTpfrq(一定値)、目標加速度Greq(時系列データ)、及び予測加速度Gpre(時系列データ)を用いて評価関数Jの値を算出する。
【0047】
評価関数Jは、車両100の運転状態に基づく目標トルクTpfrq(一定値)に対する指令トルクTpcm(探索点)の偏差を低減しつつ目標加速度Greqに対する予測加速度Gpreの偏差を最小化する評価関数であり、次の(2)式のように定式化される。
【数2】
【0048】
(2)式において、tは時間であり、wt及びwgは任意の重みである。(2)式の右辺は、目標トルクTpfrq(一定値)に対する指令トルクTpcm(t)の偏差の2乗とwt/2との積と、目標加速度Greq(t)に対する予測加速度Gpre(t)の偏差の2乗とwg/2との積との和の定積分である。(2)式の積分区間を特定する時刻tから時刻tまでの期間は、上述の予測期間tpに対応している。付け加えると、(2)式によれば、重みwt及びwgの大きさを調整することで、評価関数Jの最小化に対する上記2つの偏差のそれぞれの影響の度合いを任意に設定することができる。
【0049】
ステップS106に続くステップS108及びS110の処理は、駆動力最適化器40の処理に該当する。これらのステップS108及びS110の処理は、駆動力最適化器40による駆動力(指令トルクTpcm)の最適化(最小化)の具体的な手法の1つである粒子群最適化手法のアルゴリズムに従って実行される処理である。なお、当該最適化のために、シューティング法等の他の最適化手法が用いられてもよい。
【0050】
ステップS108では、ECU30は、評価関数Jの最適解への収束条件が満たされるか否かを判定する。具体的には、ECU30は、ステップS106において算出した評価関数Jの値が、粒子群最適化手法によって導き出される最適性の基準値(例えば、評価関数Jの絶対値)を満たすか否かを判定する。
【0051】
ステップS108において収束条件が満たされない場合には、処理はステップS110に進む。ステップS110では、ECU30は、ステップS106において算出した評価関数Jの値に応じて、探索点(すなわち、予測期間tpの指令トルクTpcmの時系列データ)を修正する。より具体的には、粒子群最適化手法を用いる例では、修正後の探索点の座標が、粒子群最適化手法のアルゴリズムに従って計算される。
【0052】
ステップS110において探索点が修正されると、処理はステップS104に戻る。ECU30(駆動力最適化器40)は、ステップS108の収束条件が満たされない間は、ステップS104、S106、及びS110の処理を繰り返し実行する。これにより、評価関数Jの値が徐々に小さくなっていく。
【0053】
一方、ステップS108において収束条件が満たされた場合、つまり、評価関数Jを最小とする指令トルク(修正トルク)Tpcmが算出された場合には、処理はステップS112に進む。ステップS112では、ECU30(駆動力最適化器40)は、最新の(すなわち、最適化された)指令トルクTpcmの時系列データに含まれる次回の時間ステップの指令トルクTpcmの値を、最終指令トルクTpcmfとして車両駆動ユニット10に出力(指令)する。
【0054】
なお、ステップS102~S110の処理(ただし、ステップS104中の加速度予測モデル38の処理を除く)は、本開示に係る「指令トルク算出処理」の一例に相当する。
【0055】
1-3.効果
以上説明したように、本実施形態の車両駆動トルクの制御構造は、車両前後加速度予測モデル38と駆動力最適化器40とを組み合わせて構成されている(図2参照)。具体的には、車両駆動トルク制御によれば、評価関数Jを最小とする指令トルクTpcmが算出される。この評価関数Jは、目標加速度Greqに対する予測加速度Gpreの偏差(加速度偏差)を最小化するものである。より詳細には、図5に示すように目標加速度Greqの波形は振動していないため、評価関数Jに含まれる上記加速度偏差が小さくなると、車両前後振動(車両前後加速度Gの振動)が低減される。このため、評価関数Jを最小とする指令トルクTpcmによれば、車両前後振動を良好に抑制できる。そして、この指令トルクTpcmの算出に用いられる予測加速度Gpreは、機械学習モデルである加速度予測モデル38を用いて算出される。これにより、車両駆動トルク制御に用いられる適合値の数を大幅に減らすことができる。
【0056】
また、評価関数Jは、目標車両前後加速度Greqに対する予測加速度Gpreの加速度偏差だけでなく、目標トルクTpfrqに対する指令トルクTpcmの偏差(トルク偏差)をも低減可能な指令トルクTpcmを算出できるように設定されている。このため、車両前後振動を抑制しつつ、目標トルクTpfrqを良好に満たせるように指令トルクTpcm(最終指令トルクTpcmf)を決定できるようになる。
【0057】
したがって、本実施形態の車両駆動トルク制御によれば、適合工数を低減しつつ、車両前後振動の抑制と車両加減速性能とを両立できるようになる。付け加えると、評価関数J((2)式参照)によれば、重みwt及びwgの大きさを調整することで、車両前後振動の抑制と車両加減速性能の確保とのバランスを調整することができる。
【0058】
また、本実施形態の車両駆動トルク制御では、現在の時間ステップからの所定期間である予測期間tpに含まれる複数の時間ステップでの目標トルクTpfrq、指令トルクTpcm、目標車両前後加速度Greq、及び予測加速度Gpreのデータを対象として、加速度予測モデル38による予測加速度Gpreの算出(予測加速度算出処理)、及び、駆動力最適化器40による指令トルクTpcmの算出(指令トルク算出処理)が時間ステップ毎に実行される。これにより、予測加速度Gpreの波形(時系列データ)を利用して予測加速度Gpreを評価しつつ、指令トルクTpcmの算出を行えるようになる。
【0059】
そして、予測期間tpは、ドライブシャフト104のねじれに起因する車両前後振動、及び、車両駆動ユニット10のギアのバックラッシュが詰まることに起因する車両前後振動の予測に必要とされる最小の期間(車両前後振動の半周期分に相当する期間(例えば、0.3秒))として設定されている。このように、予測期間tpを出来るだけ短い期間として設定することにより、予測の精度確保と予測に要する演算負荷の低減を図りつつ、車両前後振動の抑制と車両加減速性能との両立が可能な指令トルクTpcm(最終指令トルクTpcmf)の算出を行えるようになる。なお、本開示に係る「予測期間」は、ドライブシャフトのねじれに起因する実車両前後加速度の振動、及び、1つ以上の動力源からドライブシャフトまでの動力伝達経路に位置するギアのバックラッシュが詰まることに起因する実車両前後加速度の振動のうちの「何れか一方」の予測に必要とされる最小の期間であってもよい。
【0060】
さらに、本実施形態では、予測期間tpに含まれる複数の時間ステップのそれぞれにおける目標トルクTpfrqは、現在の時間ステップ(予測期間tpの始点)における目標トルクTpfrqの値で一定とされている。このような例に代え、予測期間tpの目標トルクTpfrqは、予測期間tpのドライバーのアクセルペダル操作等、予測期間tpの目標トルクTpfrqの算出に必要とされるパラメータの予測を任意の手法で行いつつ算出されてもよい。これに対し、本実施形態のように予測期間tpの目標トルクTpfrqを一定値として予測することにより、ドライバーのアクセルペダル操作等のパラメータの予測を必要とせずに、予測期間tpの目標トルクTpfrqを設定できるようになる。このことも、車両駆動トルク制御に用いられる適合値の低減につながる。
【0061】
2.実施の形態2
実施の形態2は、以下に説明される車両駆動トルクの制御構造において、実施の形態1と相違している。
【0062】
図6は、実施の形態2に係る車両駆動トルクの制御構造の概要を示すブロック図である。図6に示す制御構造は、加速度予測モデル38に代えて加速度予測モデル50を備えるとともに、モデル補正部52を追加的に備える点において、実施の形態1の制御構造(図2参照)と相違している。
【0063】
具体的には、加速度予測モデル50は、モデル再学習部50aを含む点を除き、加速度予測モデル38と同じである。
【0064】
モデル補正部52(プロセッサ30a)は、指令トルクTpcm(最終指令トルクTpcmf)に応じたペラ軸トルクTpが車両駆動ユニット10から出力されることに伴って生じる実車両前後加速度(以下、単に「実加速度」とも称する)Gactに対する予測加速度Gpreの差に基づいて、加速度予測モデル50から出力される予測加速度Gpreを補正する。このような予測加速度Gpreの補正が行われた後、モデル補正部52は、加速度予測モデル50の出力である予測加速度Gpreに代え、補正後の予測加速度Gpre’を駆動力最適化器40に出力する。この補正は、本開示に係る「加速度補正処理」の一例に相当する。実加速度Gactは、センサ類32に含まれる車両加速度センサ(Gセンサ)によって検出される。
【0065】
図7は、図6に示すモデル補正部52及びモデル再学習部50aに関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両駆動トルク制御の実行中に(すなわち、図3に示すフローチャートの処理と並行して)繰り返し実行される。なお、以下の説明は、加速時を例に挙げて行われるが、減速時に行われる処理も同様である。
【0066】
図7では、ECU30(プロセッサ30a)は、まずステップS200において、実加速度Gactに対する予測加速度Gpreの差(すなわち、予測誤差)が、所定の閾値以上であるか否かを判定する。より具体的には、この判定は、例えば、所定の判定期間td中の実加速度Gact及び予測加速度Gpreの波形(時系列データ)を用いて行われる。
【0067】
図8は、図7中のステップS200の判定手法の一例を説明するためのタイムチャートである。図8は、車両100の加速時に実加速度Gact(実線)と予測加速度Gpre(破線)との間に差が生じている状況を示している。図8において、Aa及びApは、それぞれ、実加速度Gact及び予測加速度Gpreの振幅であり、Fa及びFpは、それぞれ、実加速度Gact及び予測加速度Gpreの振動の半周期である。判定期間tdは、一例として、駆動力最適化器40において用いられる上述の予測期間tpと同じである。ただし、判定期間tdは、予測期間tpよりも長い所定期間であってもよい。判定期間tdを予測期間tpよりも長く設定する場合には、本ステップS200の予測誤差の判定のために、判定期間td分の予測加速度Gpreの時系列データが加速度予測モデル50を用いて算出されてもよい。
【0068】
ステップS200では、図8に示すように、ECU30は、所定の判定期間td中の実加速度Gactの波形と予測加速度Gpreの波形との間に囲まれた領域の面積(積分値)を、上記予測誤差として算出する。そして、ECU30は、算出した予測誤差が閾値以上であるか否かを判定する。この閾値は、例えば、車両100に乗っている人が知覚可能な加速度の最小値相当の値として事前に設定されている。
【0069】
ステップS200において、算出された予測誤差が閾値未満である場合(つまり、人が知覚可能な加速度よりも小さな予測誤差しか生じていない場合)には、ECU30は、今回の処理サイクルを終了する。一方、算出された予測誤差が閾値以上である場合には、処理はステップS202に進む。
【0070】
ステップS202では、ECU30は、予測加速度Gpreの波形に振動が発生しているか否かを判定する。この判定は、例えば、加速開始後の予測加速度Gpreの波形の振幅Ap(例えば、図8参照)が所定の閾値以上であるか否かに基づいて行うことができる。
【0071】
ステップS202の判定結果が肯定的である場合(すなわち、図8に示す予測加速度Gpreの波形の例のように振動が生じている場合)には、処理はステップS204に進む。ステップS204では、ECU30は、予測加速度Gpre及び実加速度Gactのそれぞれの波形について、半周期Fp、Fa及び振幅Ap、Aaを取得する。なお、振幅Apは、ステップS202で取得されたものと同じである。
【0072】
ステップS204に続くステップS206では、ECU30は、実加速度Gactの半周期Faに対する予測加速度Gpreの半周期Fpの誤差(実加速度Gactの波形に対する予測加速度Gpreの波形の時間遅れ)があるか否かを判定する。この判定は、例えば、半周期Faと半周期Fpとの差の絶対値が所定の閾値以上であるか否かに基づいて行うことができる。その結果、半周期Fpに誤差がある場合には処理はステップS208に進み、半周期Fpに誤差がない場合には処理はステップS210に進む。
【0073】
ステップS208では、ECU30は、実加速度Gactの波形に対する予測加速度Gpreの波形の時間遅れを補正するための補正ゲインGfを算出し、予測加速度Gpreの時間遅れを補正する。この補正ゲインGfは、半周期Faに基づいて算出される。例えば、ECU30は、ステップS204にて取得された半周期Fa及びFpの値を用いて、半周期Faを半周期Fpで除して得られる値を補正ゲインGfとして算出する。
【0074】
図9(A)及び図9(B)は、図6に示すモデル補正部52による予測加速度Gpreの時間遅れ及び振幅の補正手法の一例を説明するための図である。図9(A)は、加速度予測モデル50の出力である予測加速度Gpreの波形(すなわち、モデル補正部52による補正前の波形)を表している。図9(B)は、モデル補正部52による補正後の予測加速度Gpre’の波形を表している。図9(B)に示す例では、時間遅れ及び振幅の双方の補正が行われている。
【0075】
ステップS208では、ECU30は、上述のように補正ゲインGfを算出したうえで、算出した補正ゲインGfを補正前の予測加速度Gpreの波形(時系列データ)に反映させることにより、予測加速度Gpreの波形の時間遅れを補正する。具体的には、加速度予測モデル50から出力される補正前の予測加速度Gpreに対し、補正ゲインGfが乗算される。その結果、加速度予測モデル50の出力である予測加速度Gpreの波形の半周期Fpが、図9(B)中に示す半周期Fp’のように補正される。このような補正ゲインGfを用いた時間遅れの補正は、補正ゲインGfの算出後に加速度予測モデル50から出力される予測加速度Gpreに対して継続的に反映される。
【0076】
ステップS208に続くステップS210では、ECU30は、実加速度Gactの振幅Aaに対する予測加速度Gpreの振幅Apの誤差があるか否かを判定する。この判定は、例えば、振幅Aaと振幅Apとの差の絶対値が所定の閾値以上であるか否かに基づいて行うことができる。その結果、振幅Apに誤差がある場合には処理はステップS212に進む。一方、振幅Apに誤差がない場合には、ECU30は、今回の処理サイクルを終了する。
【0077】
ステップS212では、ECU30は、実加速度Gactの波形に対する予測加速度Gpreの波形の振幅Apの誤差を補正するための補正ゲインGaを算出し、予測加速度Gpreの振幅Apの誤差を補正する。この補正ゲインGaは、振幅Aaに基づいて算出される。例えば、ECU30は、ステップS204にて取得された振幅Aa及びApの値を用いて、振幅Aaを振幅Apで除して得られる値を補正ゲインGaとして算出する。
【0078】
ステップS212では、ECU30は、上述のように補正ゲインGaを算出したうえで、算出した補正ゲインGaを補正前の予測加速度Gpreの波形(時系列データ)に反映させることにより、振幅Apを補正する。具体的には、加速度予測モデル50から出力される補正前の予測加速度Gpreに対し、補正ゲインGaが乗算される。その結果、加速度予測モデル50からの出力である予測加速度Gpreの波形の振幅Apが、図9(B)中に示す振幅Ap’のように補正される。このような補正ゲインGaを用いた振幅Apの補正は、補正ゲインGaの算出後に加速度予測モデル50から出力される予測加速度Gpreに対して継続的に反映される。
【0079】
なお、図7中のステップS200~S212の処理は、本開示に係る「加速度補正処理」の一例に相当する。
【0080】
次に、図10は、図6に示すモデル再学習部50aによる予測加速度Gpreの再学習が行われる条件における予測加速度Gpre及び実加速度Gactの波形の一例を示すタイムチャートである。図10に示す例における予測加速度Gpreの波形では、図8に示す予測加速度Gpreの波形と同様に、判定期間tdにおける実加速度Gactに対する予測加速度Gpreの誤差(予測誤差)が閾値(ステップS200参照)以上となっている。しかしながら、この予測加速度Gpreの波形には、振動は発生していない。このように振動が発生していない場合には、モデル補正部52による補正を行うことができない。その結果、ステップS202の判定結果が否定的となり、処理はステップS214に進む。
【0081】
ステップS214では、ECU30は、処理が本ステップS214に進んだ後に到来する加速時(及び減速時)において、加速度予測モデル50の再学習に用いられる学習データを取得する。具体的には、学習データは、事前に行われる学習で用いられるものと同様に、説明変数(入力)である指令トルクTpcm及び変数xの時系列データと目的変数(出力)である車両前後加速度G(実車両前後加速度Gact)の時系列データとの組み合わせである。
【0082】
ステップS214に続くステップS216では、ECU30は、加速度予測モデル50の再学習に十分な所定数の学習データの取得が完了したか否かを判定する。その結果、所定数の学習データの取得が完了した場合には、処理はステップS218に進む。
【0083】
ステップS218では、ECU30は、取得した学習データを用いて、加速度予測モデル50の再学習を実行する。具体的には、ステップS218では、ECU30は、再学習前の加速度予測モデル50の複製を作成して記憶装置30bに保存する。そして、複製された方の加速度予測モデル(説明の便宜上、「加速度予測モデルC」と称する)に学習データを与えることにより、当該加速度予測モデルCの学習を行う。なお、加速度予測モデルCの学習は、事前の学習に用いられた古い学習データとともにステップS214において取得された学習データを用いて行われてもよいし、古い学習データを用いずに行われてもよい。
【0084】
ステップS218に続くステップS220では、ECU30は、加速度予測モデルCによる予測加速度Gpreの算出精度が、現行の加速度予測モデル50のそれよりも高いか否かを判定する。具体的には、この判定は、例えば次のように行うことができる。すなわち、加速度予測モデルCの学習完了後に到来した車両100の加速時において、ECU30は、2つの加速度予測モデル50及びCのそれぞれを用いて、ステップS200と同様の処理によって予測加速度Gpreの予測誤差を算出する。そして、ECU30は、加速度予測モデルCの予測誤差が、現行の加速度予測モデル50の予測誤差より小さいか否かを判定する。
【0085】
ステップS220において現行の加速度予測モデル50の予測精度と比べて加速度予測モデルCの予測精度が良好である場合には、処理はステップS222に進む。ステップS222では、ECU30は、現行の加速度予測モデル50を削除し、加速度予測モデルCによって加速度予測モデル50を更新する。一方、ステップS220において現行の加速度予測モデル50の予測精度の方が加速度予測モデルCの予測精度より良好である場合には、ECU30は、加速度予測モデルCを削除しつつ、今回の処理サイクルを終了する(すなわち、加速度予測モデル50の更新を行わない)。
【0086】
以上説明したように、実施の形態2の車両駆動トルクの制御構造は、モデル補正部52を追加的に備えている。これにより、例えば、加速度予測モデル50が搭載される車両100の個体差に起因して予測加速度Gpreの精度が良好でない場合に、モデル補正部52を利用して予測精度を担保できるようになる。
【0087】
また、本実施形態の加速度予測モデル50は、モデル再学習部50aを有する。このため、予測加速度Gpreの波形に振動が発生していないためにモデル補正部52による補正を行うことができない場合であっても、モデル再学習部50aを利用して予測精度を担保できるようになる。
【0088】
付け加えると、ECU30は、図7に示すステップS200の処理において予測加速度Gpreの予測誤差が所定の閾値以上となる判定結果が所定回数継続して得られた場合に、ステップS202の処理に進んでもよい。これにより、ECU30は、予測加速度Gpreに継続的な予測誤差が生じた場合に、モデル補正部52又はモデル再学習部50aを利用して予測精度を担保できるようになる。
【符号の説明】
【0089】
1 第1モータジェネレータ
2 第2モータジェネレータ
3 内燃機関
10 車両駆動ユニット
12 動力分割機構
22 減速機構
24 カウンタ軸(ペラ軸)
26 ディファレンシャルギア
30 電子制御ユニット(ECU)
30a プロセッサ
30b 記憶装置
32 センサ類
34 目標トルク算出部
36 目標値変換部
38、50 車両前後加速度予測モデル
40 駆動力最適化器
50a 車両前後加速度予測モデルのモデル再学習部
52 モデル補正部
100 車両
102 車輪
104 ドライブシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10