IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 堀内鏡工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-小型鏡 図1
  • 特開-小型鏡 図2
  • 特開-小型鏡 図3
  • 特開-小型鏡 図4
  • 特開-小型鏡 図5
  • 特開-小型鏡 図6
  • 特開-小型鏡 図7
  • 特開-小型鏡 図8
  • 特開-小型鏡 図9
  • 特開-小型鏡 図10
  • 特開-小型鏡 図11
  • 特開-小型鏡 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185435
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】小型鏡
(51)【国際特許分類】
   A47G 1/16 20060101AFI20221207BHJP
【FI】
A47G1/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093129
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】599147414
【氏名又は名称】堀内鏡工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100376
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100143199
【弁理士】
【氏名又は名称】磯邉 毅
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 茂美
【テーマコード(参考)】
3B111
【Fターム(参考)】
3B111CA03
3B111CB04
3B111CC03
3B111CD04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】座位置や着座姿勢を大きく変えることなく、正対姿勢でも覗き込み姿勢でも、無理なく使用可能な小型鏡を提供する。
【解決手段】急斜面Fαと緩斜面Fβを有して卓上に載置可能に構成された支持円筒1と、急斜面Fαと緩斜面Fβの頂点ラインを回転中心として、支持円筒1に対して回動可能に保持された鏡体2と、を有する小型鏡であって、回転中心は、鏡体2の鏡面の水平方向の半径線から偏移した位置に設定され、支持円筒1を水平面で180度回転させることで、鏡体2が急斜面Fαに沿う第1姿勢、及び、緩斜面Fβに沿う第2姿勢で使用可能に構成されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時の鉛直線に対して第1鋭角(α)に傾斜する急斜面(Fα)、及び、前記鉛直線に対して第2鋭角(β)に傾斜する緩斜面(Fβ)を有して卓上に載置可能に構成された支持体(1)と、
前記急斜面(Fα)と前記緩斜面(Fβ)の頂点を形成する水平ラインを回転中心として、前記支持体(1)に対して回動可能に保持された鏡体(2)と、を有する小型鏡であって、
前記回転中心は、前記鏡体(2)の鏡面の水平方向の半径線から偏移した位置に設定され、
前記支持体(1)を水平面で180度回転させることで、前記鏡体(2)が前記急斜面(Fα)に沿う第1姿勢、及び、前記鏡体(2)が前記緩斜面(Fβ)に沿う第2姿勢で使用可能に構成されていることを特徴とする小型鏡。
【請求項2】
前記支持体(1)と前記鏡体(2)とは、任意の角度で停止可能なヒンジ機構を介して連結されている請求項1に記載の小型鏡。
【請求項3】
前記支持体(1)に固定された第1部材と、前記鏡体(2)に固定された第2部材とが、第1部材と第2部材を貫通するピン部材によって回動可能に連結されている請求項1に記載の小型鏡。
【請求項4】
前記鏡体(2)を、前記第1姿勢や前記第2姿勢に保持可能なロック機構が設けられている請求項3に記載の小型鏡。
【請求項5】
前記鏡体(2)において、前記水平ラインで区画される面積の小さい一方側には、
面積の大きい他方側との重量差に対応するウェイトが埋め込まれている請求項2又は3に記載の小型鏡。
【請求項6】
前記180度回転に拘わらず、前記支持体(1)と使用者の位置関係を共通に卓上配置した場合に、
前記第1姿勢における前記鏡体(2)の鏡中心から使用者に向かう第1法線と、前記第2姿勢における前記鏡中心から使用者に向かう第2法線との交点と、前記支持体(1)との水平離間距離が50~300mmである請求項1~4の何れかに記載の小型鏡。
【請求項7】
前記支持体は、容易に所持できる直径60mm以下の円筒形に形成されている請求項1~5の何れかに記載の小型鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卓上などに配置して使用される小型鏡であって、着座位置や着座姿勢を大きく変えることなく、正対姿勢でも覗き込み姿勢でも、無理なく使用できる小型鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
必要時に顔をチェックする卓上鏡として各種の物が提案されており、回転軸を設けて、鏡面を回転可能に支持する構成も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-061907号公報
【特許文献2】特開2021-041047号公報
【特許文献3】特開2021-023688号公報
【特許文献4】特開2010-082421号公報
【特許文献5】意匠登録第1468704号公報
【発明の概要】
【0004】
しかし、前後反転させて使用することで、使用者が正対姿勢で使用可能な鏡面第1姿勢と、覗き込み姿勢で使用可能な鏡面第2姿勢とを保持可能な構成は知られていない。
【0005】
すなわち、通常の構成では、使用者が対面状態で使用する鏡面を、回転軸を支点として遠方方向に回転させると、使用者が大きく姿勢を変えて深く覗き込まない限り、自分の顔を適切に鏡面に表示することはできない。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、着座位置や着座姿勢を大きく変えることなく、正対姿勢でも覗き込み姿勢でも、無理なく使用可能な小型鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る小型鏡は、使用時の鉛直線に対して第1鋭角(α)に傾斜する急斜面(Fα)、及び、前記鉛直線に対して第2鋭角(β)に傾斜する緩斜面(Fβ)を有して卓上に載置可能に構成された支持体(1)と、前記急斜面(Fα)と前記緩斜面(Fβ)の頂点を形成する水平ラインを回転中心として、前記支持体(1)に対して回動可能に保持された鏡体(2)と、を有する小型鏡であって、前記回転中心は、前記鏡体(2)の鏡面の水平方向の半径線から偏移した位置に設定され、前記支持体(1)を水平面で180度回転させることで、前記鏡体(2)が前記急斜面(Fα)に沿う第1姿勢、及び、前記鏡体(2)が前記緩斜面(Fβ)に沿う第2姿勢で使用可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
以下、本発明の原理を説明する。図1は、支持体(支持円筒)1と鏡体2とに区分される小型鏡を、卓上に配置した状態を図示したものである。ここでは、鏡面仰角が90°-αの第1姿勢の卓上鏡に、使用者が正対姿勢(a)をとる場合と、鏡面仰角が90°-βの第2姿勢の卓上鏡に、使用者が前傾する覗き込み姿勢(b)をとる場合とを示している。
【0009】
図示の通り、この卓上鏡では、鏡体2は、高さHの支持体1の頂点ラインを回転中心として、回転可能に構成されている。なお、図1(a)に示す鏡体の第1姿勢では、鏡中心からの法線の傾斜角がαであり、第2姿勢では、鏡中心からの法線の傾斜角がβとなる。
【0010】
図1(c)は、座高T’の使用者が正対姿勢(図1(a))をとった場合の視点位置と、傾斜角θの覗き込み姿勢(図1(b))をとった場合の視点位置と、鏡面中心と、の関係で図示したものである。
【0011】
ここで、椅子から視点位置までの高低差をTとすると(図1(a)参照)、使用者が傾斜角度θで前傾すると、水平方向にT*SIN(θ)だけ鏡に近づき、垂直方向に、T-T*COSN(θ)だけ降下することになる。なお、T=700mmと、T=800mmの場合の数値を具体的に示すと以下の通りである。
【0012】
【表1】
【0013】
一方、図1(a)から図1(b)の状態に、卓上鏡を回転させると、図5に関して後述する通り、鏡中心の位置は、
ΔL*(COS(α)+COS(β))・・・(式1)だけ下方に移動し、左方向に、
3/5*L-ΔL*(SIN(α)+SIN(β))・・・(式2)だけ移動する。
【0014】
ここで、ΔLは、鏡体の回転中心(ヒンジ位置)と、鏡中心と、の離間距離であり、Lは、支持体1(支持円筒の場合)の直径である。なお、以下の説明では、支持体1のうち、急傾斜面Fαを形成する部分の水平幅が、例えば、1/5*Lであり、緩傾斜面Fβを形成する部分の水平幅が、4/5*Lであるとする(図2参照)。
【0015】
上記の条件において、鏡中心との離間距離がWの使用者が、図1(a)の正対姿勢から図1(b)の覗き込み姿勢に変化した場合に、鏡中心を無理なく見ることができるためには、距離Wについて、以下の関係が必要となる。
【式1】
【0016】

・・・(式3)
【0017】
上記した(式3)に、一例として、急傾斜角α=20°、緩傾斜角β=40°、L=90mm、ΔL=45mmを代入すると、鏡中心と着座位置との水平距離Wが、表2の通りに算出される。そして、表2に示す水平距離Wの位置に着座すれば、原理的には、仰角90°-αと仰角90°-βの鏡を無理なく見ることができることになる。なお、水平距離Wは、XY座標系のX値とは相違し、XY座標系の水平値Xと、水平距離Wには、
W=X+L/5+ΔL*SIN(α)・・・(式11)の関係にある(図2(a)参照)。
【0018】
【表2】
【0019】
表2の内容を具体的に確認すると、例えば、視点高さ700mmの使用者が、鏡中心から478mmの位置に着座すれば、仰角90°-αの鏡を見た図1(a)の状態から、θ=20°の前傾姿勢(図1(b)参照)をとれば、仰角90°-βの鏡の中心を、無理なく見ることができることになる。
【0020】
本発明において、上記の効果を実現できる理由は、卓上鏡を図1(a)から図1(b)の状態に回転移動させると、鏡中心が下方にΔL*(COS(α)+COS(β))・・・(式1)だけ降下すると共に、鏡中心が左側に3/5*L-ΔL*(SIN(α)+SIN(β))・・・(式2)だけ遠ざかるためである。
【0021】
以下、(式1)~(式3)を含んで、本発明を特定する数式について説明する。図2は、鏡面が仰角90°-αの状態(図2(a)と、鏡面が仰角90°-βの状態(図2(b))と、を図示したものである。ここでは、支持円筒1の最前面であって、支持円筒1の頂点ラインを原点位置(0,0)として、鏡中心●からの法線(α線とβ線)を矢印で図示している。
【0022】
(式1)と(式2)については、後で図5に基づいて説明するので、最初に、図2に示すα線とβ線について説明する。図示のXY座標系では、図2(a)のY切片は、L/5*TAN(α)+ΔL/COS(α)であるので、法線を特定する直線式(α線)は、
【式2】
【0023】

・・・(式4)となる。
【0024】
一方、図2(b)のY切片は、L*4/5*TAN(β)-ΔL/COS(β)であるので、図2(b)の法線を特定する直線式(β線)は、
【式3】
【0025】

・・・(式5)となる。
【0026】
そして、2つの法線の交点のX座標値は、(式4)=(式5)より
【式4】
【0027】

・・・(式6)となる。
【0028】
図3(a)は、鏡体の回転中心(ヒンジ位置)と、鏡中心との離間距離ΔL=45mmの場合に、角度α=20°の法線ライン(α線)を実線で示し、角度β=40°の法線ライン(β線)を破線で示したものである。
【0029】
図示の通り、X=110mmあたりで、2本の法線が交差している。したがって、X=110mmより遠い位置に使用者が着座して、実線ライン上に視点がある図1(a)の状態で、その後、使用者が、適当な前傾姿勢をとれば、視点が、破線ラインに至ることになり、着座位置を移動することなく、鏡中心を見ることができることになる(図1(b)参照)。
【0030】
図3(b)と図3(c)は、ヒンジと鏡中心との離間距離ΔLを変えた場合の交点位置を示したものであり、離間距離ΔLが広がれば、これに対応して交点位置が遠ざかり(図3(b)参照)、離間距離ΔLが狭まれば、これに対応して交点位置が近づくことが確認される(図3(c))。
【0031】
ここで、鏡体2の回転中心であるヒンジと、鏡中心との離間距離ΔLについて、鏡体の重心との関係を検討すると、離間距離ΔLが大きいほど、鏡体2の重心位置が、回転中心(0,0)より高くなり、その分だけ、図1(a)や図2(a)に示す鏡体2の第1姿勢が不安定となる。
【0032】
この点を考慮すると、図2(a)の鏡姿勢を一時保持するロック機構をヒンジ部に設けるのが好ましい。なお、このロック機構に加えて、鏡体における回転中心から上部の重量と、下部の重量とを平衡化するウェイトWTを、鏡体の下辺に配置するのが好適である(図2参照)。
【0033】
何れにしても、離間距離ΔLが大きいほど、鏡体2のバランスが悪くなるので、ヒンジと、鏡中心との離間距離ΔLは可能な限り小さくすべきである。但し、図3(c)の状態では、2本の法線の交差点が60mm程度に近づくので、次に、交点位置と、傾斜角α,βとの関係について検討する。
【0034】
図4(a)に示す通り、例えば、α=25°、β=35°であって、傾斜角の差β-α=10°を小さくすると、交点位置は遠くなる。また、図4(b)に示す通り、同じ角度差10°でも、傾斜角度を低下させて、α=20°、β=30°とすると、交点位置は、更に遠ざかることが確認される。
【0035】
以上の通り、離間距離ΔLを小さくすれば交点位置が近づき(図3(c)参照)、傾斜角度α,βの差を小さくすると、交点位置は遠ざかることが確認される。図4(c)は、これらを考慮したものであり、α=15°、β=30°、ΔL=36mmに設定すると、交点位置が、図3(a)の場合と同程度の130mm程度となる。但し、図3(a)と比較すると、αとβが小さい分だけ、法線ラインが低くなるので、図4(c)の状態では、これに対応して、支持体1の高さHを高く設定する必要がある。
【0036】
表3は、急傾斜角αと緩傾斜角βを変更すると共に、ΔLの値を標準値45mmに対して60%~120%変化させた場合の交点のX座標値を示したものである。
【0037】
【表3】
【0038】
以上の点を総合考慮して、支持体1の高さHを含めて、具体的な寸法を決定する必要があるが、何れにしても、以下の理由から、2本の法線の交点は、50~300mmであるのが好適である。
【0039】
先ず、着座位置を維持して、使用者が正対姿勢から覗き込み姿勢に移行するには、交点位置より遠い位置に着座する必要があるところ、もし、交点位置が300mmを超えると、卓上鏡から離れ過ぎて、卓上鏡を回転操作できない可能性があり不適である。一方、2本の法線の交点が50mm未満の場合には、使用者が近づき過ぎて、顔全体を鏡面で確認できない恐れがあり不適である。
【0040】
続いて、(式1)と(式2)の算出手順を説明する。先ず、図5に基づいて、鏡中心と、XY座標の原点(0,0)と、の関係を検討する。図5(a)に示す通り、鏡面の仰角が90°-αの鏡において、鏡中心は、原点(0,0)よりL/5+ΔL*SIN(α)だけ後退し、原点(0,0)より、ΔL*COS(α)だけ上昇する。
【0041】
一方、図5(b)に示す通り、鏡面の仰角が90°-βの鏡では、鏡中心は、原点(0,0)より4*L/5-ΔL*SIN(β)だけ後退し、原点(0,0)より、ΔL*COS(β)だけ降下する。
【0042】
したがって、仰角90°-αの鏡面第1姿勢(図5(a)参照)から、仰角90°-βの鏡面第2姿勢(図5(b)参照)に、鏡体1を移動させると、鏡中心は、ΔL*COS(α)+ΔL*COS(β)=ΔL*(COS(α)+COS(β))・・・(式1)だけ降下することになり、前記した(式1)の成立が確認される。
【0043】
また、仰角90°-αの鏡面第1姿勢(図5(a)参照)から、仰角90°-βの鏡面第2姿勢(図5(b)参照)に、鏡体1を移動させると、鏡中心は、
4*L/5-ΔL*SIN(β)-(L/5+ΔL*SIN(α))=3/5*L-ΔL*(SIN(α)+SIN(β))・・・(式2)だけ後退することになり、この関係から、前記した(式2)の成立が確認される。
【0044】
以上を踏まえて、図1(c)に戻って説明を続ける。先ず、角度αの直角三角形(使用者は正対姿勢)を検討すると、鏡中心と視点との高低差は、W*TAN(α)である。
【0045】
一方、角度βの直角三角形が成立する状態では、鏡中心と視点との水平距離が
W-T*SIN(θ)+3/5*L-ΔL*(SIN(α)+SIN(β))・・・(式7)となり、鏡中心と視点との垂直距離は、
W*TAN(α)-(T-T*COS(θ))+ΔL*(COS(α)+COS(β))・・・(式8)となる。
【0046】
そして、(式7)の水平距離と、(式8)の垂直距離にはTAN(β)の関係が成立するので、下記の(式9)が成立する。
【式5】
【0047】

・・・(式9)
【0048】
そして、(式9)に基づいて鏡中心と使用者の着座位置との距離Wを求めることで、前記した(式3)が導出される。すなわち、
【式6】
【0049】

・・・(式3)が導出され、再掲する表2の数値が算出される。
【0050】
【表2】
【0051】
以上の関係から、例えば、急傾斜角α=20°、緩傾斜角β=40°、L=90mm、ΔL=45mmの場合には、鏡中心から250~560mm離れた位置に着座して鏡に正対した使用者(視点高さ700mm程度)は、5°~30°程度、前傾姿勢をとるだけで、図1(b)状態の鏡の中心を見ることができることになる。なお、上記した水平距離Wは、XY座標系のX値とは相違し、XY座標系の水平値Xと、水平距離Wに、
W=X+L/5+ΔL*SIN(α)・・・(式11)の関係があるのは前記の通りである。
【0052】
但し、上図のように算出される離間距離Wにおいて、使用者が着座する椅子の高さは、共通ではない。
【0053】
先ず、正対姿勢の鏡中心と椅子との高低差は、T-W*TAN(α)である。一方、鏡中心からXY座標の原点までに、ΔL*COS(α)の偏差があるので(図5(a))、結局、XY座標の原点位置と椅子との高低差ΔTは、
ΔT=T-W*TAN(α)-ΔL*COS(α)・・・(式10)となる。以下の表4は、前傾角θに対応する、椅子と原点との高低差ΔTの値を示しており、離間距離Wに対応して変化することが確認される。
【0054】
【表4】
【0055】
上記の点を踏まえて、図2図4に示すXY座標系に基づいて、更に一般的に説明する。例えば、視点高さT=700mmの使用者が、ヒンジ位置(Y座標値=0)と椅子頂点との高低差ΔT=450mmの椅子に座って鏡を見ているとする(図5(a)参照)。
【0056】
この場合には(式4)より
700-450=X*TAN(α)+L/5*TAN(α)+ΔL/COS(α)が成立し、
X=(250-L/5*TAN(α)-ΔL/COS(α))/TAN(α)
として、着座位置のX座標が特定される。因みに、この例では、着座位置のX座標は537.3mmである。なお、このX座標値を、鏡中心との距離Wに換算すると、図2に示す(式11)より、W=537.3+L/5+ΔL*SIN(α)となり、W≒570.7mmになる。
【0057】
次に、使用者の前傾姿勢に伴う円軌跡を、中心(X0,Y0)の円弧として特定すると、(X-X0)^2+(Y-Y0)^2=700^2より
Y=SQRT(700^2-(X-X0)^2)+Y0となる。なお、Y0=-ΔTである。
【0058】
ここで、Xo=537.3 Y0=-450であるので、円弧軌跡のY座標値は、
Y=SQRT(700^2-(X-537.3)^2)-450となる。
【0059】
図6は、仰角αの法線を特定するα線と、仰角βの法線を特定するβ線と、視点高さT=700mmの使用者が前傾する円弧軌跡を図示したものである。図示の通り、円弧とβ線は、X≒177mmの位置で交差することが確認される。
【0060】
なお、円弧とβ線の交点177mmは、SIN(θ)*700=537.3-177=360.3より、θ≒31°の傾斜角を意味する。先に説明した通り、水平距離WとX値との間には、W=X+L/5+ΔL*SIN(α)・・・(式11)の関係にあり、X=537.3mmは、W=570.7mmを意味するのは、先に説明した通りである。
【0061】
以上、視点高さT=700mmの使用者が、ヒンジ位置と椅子頂点との高低差ΔT=450mmの椅子に座った場合について、円弧軌跡を特定したが、使用者の描く円弧軌跡は、椅子の高さや、視点高さTに対応して変化することは勿論である。但し、使用者の視点高さや、椅子の高さに対応して、着座位置を変えることで、同様の覗き込み姿勢をとることができる。図7は、視点高さT=670mmの使用者が同じ椅子に座った場合を示している。円弧とβ線の交点は200mm程度である。
【0062】
以上の通り、実際には、覗き込み角度θの回転中心である臀部位置は、水平距離Wを維持した状態で、適宜に上下する必要がある。したがって、小型鏡のヒンジまでの高さH(図1参照)が固定である場合には、自分の好みの着座位置に対応して、椅子の高さを適宜に設定する必要がある。但し、人間は、必要に応じて背伸びしたり、背中を丸めたりできる上に、鏡面に映る自分の顔の中心が、多少ずれても許容できるので、実際には、特段の調整は不要である。
【発明の効果】
【0063】
以上の通り、本発明によれば、正対姿勢でも覗き込み姿勢でも、無理なく使用できる小型鏡を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】本発明の原理を説明する図面である。
図2】鏡面の中心から視点に至る直線式を説明する図面である。
図3】鏡面が第1姿勢の場合と第2姿勢の場合の直線式を図示したものである。
図4】鏡面が第1姿勢の場合と第2姿勢の場合の直線式を図示したものである。
図5】鏡面の中心から着座位置までの距離と、視点の高さとの関係を図示したものである。
図6】使用者が前傾姿勢をとった場合の移動軌跡を図示したものである。
図7】使用者が前傾姿勢をとった場合の移動軌跡を図示したものである。
図8】実施例の構成を説明する図面である。
図9】回動鏡体の構成を説明する図面である。
図10】トルクヒンジの装着方法を説明する図面である。
図11】変更例に係るヒンジを説明する図面である。
図12】変更例の動作状態を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図8は、支持円筒1と回動鏡体2とがヒンジ3を介して接続された小型鏡を説明する図面である。図8(a)は、使用者が正対姿勢をとる場合の第1姿勢に配置された小型鏡であり、図8(b)は、第1姿勢の回動鏡体2を跳ね上げて、120°回動させた第2姿勢を示している。
【0066】
また、図8(c)は、図8(b)は、第2姿勢の回動鏡体2を水平面上で180°回転された状態を示している。先に説明した通り、支持円筒1の最前面に接する垂直線がY軸であり、ヒンジ3の中心から水平に延びる水平線がX軸である。そして、図8では、X軸とY軸の交点を、原点(0,0)として示している。
【0067】
図8(d)に示す通り、この小型鏡は、直径Lが約88mmの中空円柱形状の支持円筒1と、直径Φが約203mmの円盤状の回動鏡体2とが、任意の回転角度を保持するトルクヒンジ3を介して接続されて構成されている。
【0068】
支持円筒1はプラスチック成形品であって、傾斜角β=40°の緩斜面Fβと、傾斜角α=20°の急斜面Fαとが形成されている。図8(a)や図8(c)に示す通り、緩斜面Fβに至る円柱高さが約67mm、急斜面Fαに至る円柱高さが約98mmに設定され、ヒンジ3までの高さが約150mmに設定されている。なお、直径L=88mmが4:1程度に内分されて、緩斜面Fβと急斜面Fαが形成されている。
【0069】
また、回動鏡体2とヒンジ3の位置関係は、図9(c)に示す通りであり、直径Φ(=203mm)が、ヒンジ3によって、短距離L1=64mmの部分と、長距離L2=139mmの部分と、に二分されている。したがって、ヒンジ3と鏡中心との距離ΔLは、本実施例では、ΔL=37.5mmとなる。
【0070】
上記の数値に基づいて、第1姿勢(図2(a))と第2姿勢(図2(c))における、鏡中心からの法線を特定する直線(α線とβ線)が特定される(式4及び式5参照)。そして、α線とβ線の交点の原点位置(0,0)からの距離は、(式6)に基づき76.17mmと算出される。
【0071】
また、座席から視点までの高低差T=700mmの使用者が、正対姿勢(図1(a))から20°だけ傾斜して前傾姿勢(図1(b))をとる場合を想定すると、第1姿勢の鏡中心から着座位置までの距離Wは、(式3)より、440.6mmとなる。
【0072】
ここで、第1姿勢の鏡中心と、原点との偏差は、L/5+ΔL*Sin(α)・・・(式11)であるので(図2参照)、原点位置から着座位置までの離間距離は、440.6-(L/5+ΔL*Sin(α))=410.2mmとなる。
【0073】
そして、原点位置と、椅子との高低差ΔTは、(式10)より、ΔT=T-W*TAN(α)-ΔL*COS(α)=700-440.6*TAN(α)-37.5*COS(α)=504.4mmとなる。
【0074】
すなわち、T=700mmの使用者が、原点位置から410mmの位置で、図1に示す高低差ΔT=504mmを実現する椅子に座って、第1姿勢の鏡面(図8(a))を見た後(図8(a))、20°前傾すれば、第2姿勢(図8(c))の鏡面を、無理なく見えることになる。
【0075】
次に、図9は、回動鏡体2の構成を示す図面である。図9(a)に示す通り、実施例の回動鏡体2は、ヒンジ3及び中間部材21を受入れる円盤状のベース部材20と、円板状の中間部材21と、ベース部材20よりやや小径の円形の裏面鏡である鏡面体22と、が積層されて構成されている。
【0076】
ここで、中間部材21は、プラスチック製の一体円板でもよいが、下方部に適宜なウェイトWTを配置しても良い。すなわち、回動鏡体2において、ヒンジ3の中心を通過する水平ラインHRで区画される上側と下側の重量を一致させるため、下側にウェイトWTを埋め込むもの好適である。
【0077】
図9(a)に示す通り、ベース部材20には、ヒンジ3を受入れる収容孔HOが、ヒンジ3の横幅にして横長に形成されている。また、ベース部材20には、中間部材21と同寸法の第1受入穴RV1と、鏡面体22と同寸法の第2受入穴RV2と、が形成されている。
【0078】
上記の構成に基づき、ベース部材20には、接着などによって中間部材21が固着され、その後、ベース部材20と中間部材21に、接着などによって鏡面体22が固着される。
【0079】
図10に示す通り、ヒンジ3の一方側の回動片32は、ベース部材20の収容孔HOに収容されて接着などによって固着される。また、ヒンジ3の他方側の回動片31は、支持円筒1の上部に形成されている装着穴INに収容されて接着などによって固着される。
【0080】
上記のように装着されるヒンジ3は、回動時に適度な回転トルクを必要とするトルクヒンジであるので、回動鏡体2は、第1姿勢や第2姿勢だけでなく、任意の回動状態で静止させることもできる。したがって、使用者の好みの傾斜角度で使用することもできる。なお、中間部材21は、必須ではなく、中間部材21の部分も含め、ベース部材20で一定的に構成しても良い。なお、この場合には、ウェイトWTは、ベース部材20にインサート成形される。
【0081】
以上、実施例について具体的に説明したが、具体的な記載内容は何ら本発明を限定するものではない。例えば、ヒンジ3は、必ずしも、金属製のトルクヒンジである必要はなく、ポリアセタール(POM:polyacetal)やポリアミド(PA:polyamide)など、滑り性のよい硬質プラスチックを使用した成形品であっても良い。
【0082】
図11は、プラスチック製のヒンジ3を説明する図面であり、このヒンジ3は、支持円筒1の成形時にインサート成形される第1部材HN1と、ベース部材20の成形時にインサート成形される第2部材HN2と、第1部材HN1と第2部材HN2を一体化させるピン部材PNと、で構成されている。
【0083】
図12(a)に示す通り、第2部材HN2は、平坦板PT2と、平坦板PT2の板面に沿う円筒体RG2とを有する一体成型品であり、円筒体RG2には、2カ所の凸条PRが軸方向に延びて形成されている。
【0084】
そして、平坦板PT2がベース部材20に埋め込まれる一方、円筒体RG2とベース部材20の接触部に凸条PRが露出するよう、ベース部材20と第2部材HN2が一体化されている。
【0085】
一方、第1部材HN1は、平坦板PT1と、平坦板PT1の上端面に連続する円筒体RG1と、を有する一体成型品である。そして、平坦板PT1が支持円筒1の頂部に埋め込まれることで、支持円筒1と第1部材HN1が一体化されている。
【0086】
ここで、円筒体RG1は、二カ所に分離して整列しているが(図11参照)、何れの円筒体RG1も、その外径と内径が、円筒体RG2の外径と内径に一致している。なお、円筒体RG1と円筒体RG2の内径寸法は、ピン部材PNの外径寸法よりやや大径に形成されている。但し、特に限定されるものではなく、円筒体RG1と円筒体RG2の内径寸法を、ピン部材PNの外径寸法にほぼ一致させることで、トルクヒンジの効果を発揮させることもできる。
【0087】
次に、支持円筒1と第1部材HN1との関係を確認すると、図12(a)に示す通り、第1部材HN1は、支持円筒1から円筒体RG1が露出するよう、インサート成形され、支持円筒1の断面台形状の最上部には、円筒体RG2の凸条PRを受入れる受入溝GVが2カ所形成されている。
【0088】
そして、第2部材HN2と一体化された回動鏡体2と、第1部材HN1と一体化された支持円筒1とは、二カ所に整列配置された円筒体RG1の間に、円筒体RG2を配置することで位置決めされ、この位置決め状態で、円筒体RG1と円筒体RG2に、ピン部材PNを打ち込むことで、回動鏡体2と、支持円筒1が一体化される。
【0089】
この一体化状態で、回動鏡体2を適宜に回動させると、回動限界位置において、第1姿勢と第2姿勢が実現される。図12(c)は、鏡面体22の第1姿勢を示しており、右側の凸条PRが、右側の受入れ溝GVに没入することで、凸条PRが一時ロック状態となって第1姿勢が安定化する。
【0090】
一方、図12(d)は、鏡面体22の第2姿勢を示しており、左側の凸条PRが、左側の受入れ溝GVに没入することで、凸条PRが一時ロック状態となって第2姿勢が安定化する。
【0091】
以上、直径Φが約203mmの回動鏡体2を有する小型鏡について説明したが、全体の形状を適宜に小型化するのも好適である。例えば、回動鏡体2を大幅に小型化して直径Φ=93mm程度(L1=73,L2=20)とし、支持円筒1の直径Lを48mm、ヒンジまでの高さHを100mm程度にした小型鏡も好適である。
【0092】
この小型鏡では、必要時に支持円筒1を把持できるので、回動鏡体2の小ささが問題にならない。すなわち、回動鏡体2が第1姿勢の場合には、α線上に視点をおくことで、卓上鏡として使用できる一方、支持円筒1を所持した状態で、第1姿勢又は第2姿勢の回動鏡体2を覗き込むことができ、化粧直しや顔の要部チェックに好適である。
【0093】
なお、この小型鏡の場合、α=20°、β=40°、ΔL=26.5mmとすると、α線とβ線の交点は、(式6)より、X=71.7mmとなる。また、α線は、(式4)より、Y=X*TAN(α)+L/5*TAN(α)+26.5/COS(α)となる
【符号の説明】
【0094】
α 第1鋭角
Fα 急斜面
β 第2鋭角
Fβ 緩斜面
1 支持体(支持円筒)
2 鏡体(回動鏡体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12