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特開2022-185444電気機器の有接点寿命診断方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185444
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】電気機器の有接点寿命診断方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H02B 3/00 20060101AFI20221207BHJP
   H01H 33/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
H02B3/00 M
H01H33/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093143
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】石橋 広脩
(72)【発明者】
【氏名】町田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】田口 貴裕
【テーマコード(参考)】
5G027
【Fターム(参考)】
5G027AA23
(57)【要約】
【課題】電気機器における有接点の寿命診断をより高精度に行なう。
【解決手段】電磁接触器1の有接点11を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーWarcを算出する(ステップS113)。また、アークエネルギーWarcに応じて一回の動作で消耗した有接点11の消耗量Mlossを算出し(ステップS114)、消耗量Mlossを累積することで累積消耗量RMlossを算出する(ステップS115)。そして、累積消耗量RMlossに応じて有接点11の寿命を診断する(ステップS116~S119)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の有接点を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーを算出する工程と、
前記アークエネルギーに応じて一回の動作で消耗した前記有接点の消耗量を算出する工程と、
前記消耗量を累積することで累積消耗量を算出する工程と、
前記累積消耗量に応じて前記有接点の寿命を診断する工程と、を含むことを特徴とする電気機器の有接点寿命診断方法。
【請求項2】
前記消耗量を算出する工程では、一回の動作で生じる前記アークエネルギー、及び一回の動作で消耗する前記消耗量の関係を示す特性データを参照し、前記アークエネルギーに応じて前記消耗量を算出することを特徴とする請求項1に記載の電気機器の有接点寿命診断方法。
【請求項3】
前記特性データは、前記電気機器の機種ごとに複数あり、
前記消耗量を算出する工程では、複数ある前記特性データのうち、診断対象となる前記電気機器の機種に対応した前記特性データを参照することを特徴とする請求項2に記載の電気機器の有接点寿命診断方法。
【請求項4】
前記アークエネルギーを算出する工程では、前記アーク放電におけるアーク電圧及びアーク電流の積を、放電時間で積分して算出することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の電気機器の有接点寿命診断方法。
【請求項5】
前記有接点における寿命の診断結果を表示する工程を含むことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の電気機器の有接点寿命診断方法。
【請求項6】
電気機器の有接点を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーを算出するアークエネルギー算出部と、
前記アークエネルギーに応じて一回の動作で消耗した前記有接点の消耗量を算出する消耗量算出部と、
前記消耗量を累積することで累積消耗量を算出する累積消耗量算出部と、
前記累積消耗量に応じて前記有接点の寿命を診断する寿命診断部と、を備えることを特徴とする電気機器の有接点寿命診断装置。
【請求項7】
前記消耗量算出部では、一回の動作で生じる前記アークエネルギー、及び一回の動作で消耗する前記消耗量の関係を示す特性データを参照し、前記アークエネルギーに応じて前記消耗量を算出することを特徴とする請求項6に記載の電気機器の有接点寿命診断装置。
【請求項8】
前記特性データは、前記電気機器の機種ごとに複数あり、
前記消耗量算出部では、複数ある前記特性データのうち、診断対象となる前記電気機器の機種に対応した前記特性データを参照することを特徴とする請求項7に記載の電気機器の有接点寿命診断装置。
【請求項9】
前記アークエネルギー算出部では、前記アーク放電におけるアーク電圧及びアーク電流の積を、放電時間で積分して算出することを特徴とする請求項6~8の何れか一項に記載の電気機器の有接点寿命診断装置。
【請求項10】
前記有接点における寿命の診断結果を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項6~9の何れか一項に記載の電気機器の有接点寿命診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の有接点の寿命を診断する有接点寿命診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の有接点には、開閉動作に伴って短時間のアーク放電が生じるため、周囲の絶縁物の劣化や、また有接点の溶融や蒸発による消耗・転移等を招き、徐々に電気的特性や動作特性が低下してゆく。有接点が寿命を迎える前に、交換や使用停止等の対策を取るために、例えば引用文献1では、開閉動作の度にアークエネルギーの累積値を求め、アークエネルギーの累積値から直接的に有接点の累積消耗量を求めている。そして、累積消耗量に応じて有接点の寿命を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-091945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有接点を開くとき又は閉じるとき、その一回あたりのアークエネルギーと一回あたりの接点消耗量との関係は線形にならない。したがって、アークエネルギーの累積値から直接的に有接点の累積消耗量を求めると、誤差が生じる可能性があり、寿命診断の精度に影響してしまう。
本発明の目的は、電気機器における有接点の寿命診断をより高精度に行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る電気機器の有接点寿命診断方法は、電気機器の有接点を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーを算出する工程と、アークエネルギーに応じて一回の動作で消耗した有接点の消耗量を算出する工程と、消耗量を累積することで累積消耗量を算出する工程と、累積消耗量に応じて有接点の寿命を診断する工程と、を含む。
【0006】
本発明の他の態様に係る電気機器の有接点寿命診断装置は、電気機器の有接点を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーを算出するアークエネルギー算出部と、アークエネルギーに応じて一回の動作で消耗した有接点の消耗量を算出する消耗量算出部と、消耗量を累積することで累積消耗量を算出する累積消耗量算出部と、累積消耗量に応じて有接点の寿命を診断する寿命診断部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一回の動作ごとにアークエネルギーから有接点の消耗量を算出し、それを累積することで累積消耗量を算出するので、誤差を抑制することができる。したがって、電気機器における有接点の寿命診断をより高精度に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電気機器の有接点寿命診断装置を示す図である。
図2】制御部のブロック図である。
図3】特性データを示す図である。
図4】診断機種設定処理を示すフローチャートである。
図5】寿命診断処理を示すフローチャートである。
図6】アーク放電について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
《第一実施形態》
《構成》
図1は、電気機器の有接点寿命診断装置を示す図である。
ここでは、有接点寿命診断装置3は、電磁接触器1(電気機器)と、電子式サーマルリレー2と、を備えている。電磁接触器1及び電子式サーマルリレー2は、電磁開閉器を構成し、例えば三相交流の電路において、電源4と電動機5との間に接続されている。電子式サーマルリレー2は、過負荷継電器である。
【0011】
電磁接触器1のケース内部には、固定鉄心と、この固定鉄心に対向して配置された可動鉄心と、固定鉄心の主脚外周に配置された励磁コイル6と、が収納されている。電磁接触器1には、電源4側の電路に接続する一次側端子部7a~7cと、電子式サーマルリレー2側の電路に接続する二次側端子部8a~8cと、が設けられている。一次側端子部7a及び二次側端子部8aの間には、固定接点9aを有する固定接触子9と、可動接点10aを有する可動接触子10と、が設けられている。固定接点9a及び可動接点10aは、電磁接触器1の有接点11である。また、他の一次側端子部7b及び二次側端子部8bの間及び一次側端子部7c及び二次側端子部8cの間にも、上述した構成の有接点11が設けられている。
【0012】
電磁接触器1の閉極動作では、励磁コイル6が励磁されると、可動鉄心が復帰スプリングに抗して固定鉄心に吸引される。そして、固定接点9aに対して可動接点10aが接触することで、有接点11が閉じた投入状態となる。一方、電磁接触器1の開極動作では、励磁コイル6が非励磁にされると、可動鉄心の吸引が停止されるため、可動鉄心が復帰スプリングによって押し戻される。そして、固定接点9aに対して可動接点10aが離間することで、有接点11が開いた遮断状態となる。このように、固定接点9aに対して可動接点10aが接触及び離間することで、有接点11が開閉される。
押しボタンスイッチ12は、電動機5を始動するためのスイッチであり、押しボタンスイッチ13は、電動機5を停止するためのスイッチである。
【0013】
電子式サーマルリレー2は、電流センサ15と、電圧センサ16と、制御部17と、を備えている。
電流センサ15は、電磁接触器1の二次側端子部8a~8cと電動機5との間に設けられ、電路18a~18cを流れる電流値Iを計測する。
電圧センサ16は、電源4と電磁接触器1の一次側端子部7a~7cとの間の電圧値Vin、及び電磁接触器1の二次側端子部8a~8cと電子式サーマルリレー2との間の電圧値Voutを入力することで、電磁接触器1の極間電圧Vを計測する。
【0014】
図2は、制御部のブロック図である。
制御部17は、処理演算部18と、遮断出力部19と、記憶部20と、入力部21と、表示部22と、を備えている。処理演算部18は、遮断部23と、診断機種設定部24と、寿命診断部25と、を備えている。
これら制御部17の構成装置は、具体的にはパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の情報処理装置によって実現されるものであり、例えばCPU、ROM、RAM等を主要構成部品としている。また、制御部17は、ネットワークに接続され、データのやり取りが可能に構成されている。
【0015】
遮断出力部19は、処理演算部18の遮断部23から電磁接触器1を開極動作させる指令が出力されたときに、電磁接触器1の励磁コイル6に対して、励磁電流の供給を停止する。
入力部21は、設定ダイヤルや押しボタン等、ユーザによって設定操作される入力部である。
表示部22は、ディスプレイやランプ等の表示手段である。
遮断部23は、電流センサ15からの電流値Iが入力され、電路18a~18cに過負荷電流IMAXが流れたときに、遮断出力部19に電磁接触器1を開極動作させる指令を出力する。
【0016】
診断機種設定部24は、入力部21から入力された電磁接触器1の機種情報に基づき、記憶部20に予め記憶されている複数の情報の中から、診断対象となる電磁接触器1の機種に対応した各種情報を選択して記憶する。具体的には、アークエネルギーWarc及び消耗量Mlossの関係を示す特性データDTCTと、累積消耗量RMlossに対する閾値M1及びM2と、を記憶する。
寿命診断部25は、電磁接触器1の有接点11を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとに、アーク放電による有接点11の消耗量を算出して、有接点11の寿命を診断する。
【0017】
電磁接触器1の有接点11の開閉動作時には、固定接点9a及び可動接点10aの間にアーク放電が生じる。電磁接触器1が長期に渡って使用されると、アーク放電の際に発生するアークエネルギーWarcにより、固定接点9a及び可動接点10aは溶融・蒸発などによって消耗量Mlossが増大してゆく。予め電磁接触器1の開閉を繰り返す実験により、一回の動作で生じるアークエネルギーWarc、及び一回の動作で消耗する消耗量Mlossの関係を示す特性データDTCTを取得する。特性データDTCT、及び閾値M1、M2は、電磁接触器1の機種CTごとに複数ある。
【0018】
図3は、特性データを示す図である。
図中の(a)は、記憶部20に記憶された一つの特性データDTCTである。横軸は、一回の動作で生じるアーク放電のアークエネルギーWarcであり、縦軸は、一回の動作で消耗する有接点11の消耗M量Mlossであり、アークエネルギーWarcが大きいほど、消耗量Mlossが大きくなる。アークエネルギーWarcと消耗量Mlossとの関係は、線形(比例関係)ではなく、指数関数のような非線形となり、アークエネルギーWarcが大きいほど、アークエネルギーWarcの変化量に対する消耗量Mlossの変化量が大きくなる。
図中の(b)は、記憶部20に記憶された複数の特性データDTCTnである。nは0を含まない自然数である(正の整数)。特性データDTCTは、電磁接触器1の機種CTごとに複数ある。すなわち、小型から大型まで電磁接触器1の機種CTによって、アークエネルギーWarcと消耗量Mlossとの関係が異なる。
【0019】
次に、診断機種設定部24で実行される診断機種設定処理について説明する。
図4は、診断機種設定処理を示すフローチャートである。
診断機種設定処理は、電磁接触器1が設置されたときの初期設定として実行される。
まずステップS101では、入力部21を介して入力された電磁接触器1の機種CTを読込み、記憶する。
続くステップS102では、記憶部20に記憶されているデータのうち、診断対象となる機種CTに対応した特性データDTCTを読込み、記憶する。
続くステップS103では、記憶部20に記憶されているデータのうち、診断対象となる機種CTにおける累積消耗量RMlossに対する閾値M1、M2を読込み、記憶してから終了する。閾値M1は、有接点11の速やかな交換が必要となる消耗量Mlossに相当する。閾値M2は、閾値M1よりも小さい値であり、有接点11を交換すべき時期が近いことを知らせる値である。
【0020】
次に、寿命診断部25で実行される寿命診断処理について説明する。
図5は、寿命診断処理を示すフローチャートである。
寿命診断処理は、電磁接触器1の有接点11を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとに実行される。
まずステップS111では、有接点11を開閉したときに電流センサ15で検出したアーク電流Iarcを読込む。
続くステップS112では、有接点11を開閉したときに電圧センサ16で検出した極間電圧をアーク電圧Varcとして読込む。
【0021】
続くステップS113では、下記の(1)式に示すように、アーク電流Iarc及びアーク電圧Varcに応じて、一回の動作で生じたアークエネルギーWarcを算出する。すなわち、アーク電流Iarcとアーク電圧Varcとの積を、放電時間tで積分することによって算出する。放電時間tは、有接点11を接触させる動作時間、又は有接点11を離間させる動作時間である。
arc=∫(Iarc×Varc)dt ………(1)
続くステップS114では、特性データDTCTを参照し、アークエネルギーWarcに応じて有接点11の消耗量Mlossを算出する。
【0022】
続くステップS115では、消耗量Mlossを累積することで累積消耗量RMlossを算出する。すなわち、現在記憶されている累積消耗量RMlossに今回算出された消耗量Mlossを加算することで、新たな累積消耗量RMlossを算出する。新設された電磁接触器1や有接点11を交換した直後は、累積消耗量RMlossが初期値のゼロにリセットされている。
続くステップS116では、累積消耗量RMlossが閾値M1より小さいか否かを判定する。ここで、累積消耗量RMlossが閾値M1より小さいときには(S116の判定が“Yes”)、有接点11の速やかな交換が必要ではないと判断してステップS117に移行する。一方、累積消耗量RMlossが閾値M1以上であるときには(S116の判定が“No”)、有接点11の速やかな交換が必要であると判断してステップS119に移行する。
【0023】
ステップS117では、累積消耗量RMlossが閾値M2より小さいか否かを判定する。ここで、累積消耗量RMlossが閾値M2より小さいときには(S117の判定が“Yes”)、有接点11を交換すべき時期が近くはないと判断して、そのまま終了する。一方、累積消耗量RMlossが閾値M2以上であるときには(S117の判定が“No”)、有接点11を交換すべき時期が近いと判断してステップS118に移行する。
ステップS118では、有接点11を交換すべき時期が近いことを示す注意情報を、表示部22に表示してから終了する。
ステップS119では、有接点11の速やかな交換が必要であることを示す交換情報を、表示部22に表示してから終了する。
【0024】
上記より、ステップS113の処理が「アークエネルギーを算出する工程」及び「アークエネルギー算出部」に対応し、ステップS114の処理が「消耗量を算出する工程」及び「消耗量算出部」に対応している。また、ステップS115の処理が「累積消耗量を算出する工程」及び「累積消耗量算出部」に対応し、ステップS116、S117の処理が「寿命を診断する工程」及び「寿命診断部」に対応している。また、ステップS118、S119の処理が「診断結果を表示する工程」に対応し、表示部22が「表示部」に対応している。
【0025】
《作用》
次に、実施形態の主要な作用効果について説明する。
図6は、アーク放電について説明した図である。
電磁接触器1の有接点11を離間させる開極動作では大きなアーク放電が生じるが、電磁接触器1の有接点11を接触させる閉極動作でもアーク放電が生じる。したがって、電磁接触器1の有接点11を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとに、有接点11の消耗状態を診断する必要がある。
【0026】
有接点11を開くとき又は閉じるとき、その一回あたりのアークエネルギーWarcと一回あたりの消耗量Mlossとの関係は線形ではなく、図3に示すように、指数関数のような非線形になる。
そこで、実施形態における電気機器の有接点寿命診断方法及び装置では、電磁接触器1の有接点11を閉じること及び開くことの夫々を一回の動作とし、一回の動作ごとにアーク放電のアークエネルギーWarcを算出する(ステップS113)。また、アークエネルギーWarcに応じて一回の動作で消耗した有接点11の消耗量Mlossを算出し(ステップS114)、消耗量Mlossを累積することで累積消耗量RMlossを算出する(ステップS115)。そして、累積消耗量RMlossに応じて有接点11の寿命を診断する(ステップS116~S119)。
【0027】
具体的には、累積消耗量RMlossと閾値M1とを比較し、累積消耗量RMlossが閾値M1以上であるときには(S116の判定が“No”)、有接点11の速やかな交換が必要であると判断する。一方、累積消耗量RMlossが閾値M1より小さいときには(S116の判定が“Yes”)、累積消耗量RMlossと閾値M2とを比較する。累積消耗量RMlossが閾値M2以上であるときには(S117の判定が“No”)、有接点11を交換すべき時期が近いと判断する。一方、累積消耗量RMlossが閾値M2より小さいときには(S117の判定が“Yes”)、有接点11を交換すべき時期が近くはないと判断する。
このように、一回の動作ごとにアークエネルギーWarcから有接点11の消耗量Mlossを算出し、それを累積することで累積消耗量RMlossを算出するので、誤差を抑制することができる。したがって、電磁接触器1における有接点11の寿命診断をより高精度に行なうことができる。
【0028】
また、消耗量Mlossを算出する際には、図3に示すように、一回の動作で生じるアークエネルギーWarc、及び一回の動作で消耗する消耗量Mlossの関係を示す特性データDTCTを参照し、アークエネルギーWarcに応じて消耗量Mlossを算出する。これにより、一回の動作で消耗する有接点11の消耗量Mlossを容易に算出することができる。
また、特性データDTCTは、電磁接触器1の機種CTごとに複数ある。そして、消耗量Mlossを算出する際には、複数ある特性データDTCTnのうち、診断対象となる電磁接触器1の機種CTに対応した特性データDTCTを参照する。これにより、電磁接触器1の機種CTに合った最適な特性データDTCTを参照することができ、消耗量Mlossの算出精度をさらに向上させることができる。
【0029】
また、アークエネルギーWarcを算出する際には、前述した(1)式に従って、アーク放電におけるアーク電圧Varc及びアーク電流Iarcの積を、放電時間tで積分して算出する。これにより、アークエネルギーWarcを容易に且つ正確に算出することができる。また、一般的な電子式サーマルリレー2の構成に、アーク電圧Varcを検出する電圧センサ16を追加するだけなので、コストの増大を抑制することもできる。なお、有接点11の温度を測定してアークエネルギーを推定する手法もあるが、有接点11の温度を測定すること自体が困難であるため、現実的ではなかった。
また、有接点11における寿命の診断結果を表示する。これにより、ユーザは有接点11の消耗状態を正確に把握することができる。
【0030】
具体的には、累積消耗量RMlossが閾値M2より小さいときには(S117の判定が“Yes”)、有接点11は良好な状態を保っているため、ユーザに対するお知らせは省略する(非表示)。これにより、ユーザに知らせるべき情報を最小限に抑制し、煩わしさを低減することができる。一方、累積消耗量RMlossが閾値M1より小さく(S116の判定が“Yes”)、且つ累積消耗量RMlossが閾値M2以上であるときには(S117の判定が“No”)、有接点11を交換すべき時期が近いことを示す注意情報を表示する(S118)。これにより、有接点11の速やかな交換が必要となる前に、ユーザに注意を喚起することができる。また、累積消耗量RMlossが閾値M1以上であるときには(S116の判定が“No”)、有接点11の速やかな交換が必要であることを示す交換情報を表示する(S119)。これにより、有接点11の速やかな交換をユーザに促すことができる。
【0031】
次に、比較例について説明する。
従来、まずアークエネルギーWarcの累積値RWarcを求め、その累積値RWarcから直接的に累積消耗量RMlossを求めることが考えられていた。しかしながら、前述したように、有接点11を開くとき又は閉じるとき、その一回あたりのアークエネルギーWarcと一回あたりの消耗量Mlossとの関係は線形ではない。そのため、まずアークエネルギーWarcの累積値RWarcから直接的に累積消耗量RMlossを求めると、累積消耗量RMlossに誤差が生じ、寿命診断の精度に影響する可能性があった。
【0032】
《変形例》
実施形態では、累積消耗量RMlossが閾値M2より小さいときには、表示部22を非表示にし、累積消耗量RMlossが閾値M2以上であるときだけ、表示部22に情報を表示する構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、表示部22には、有接点11の残量を常に表示してもよい。すなわち、新設又は交換した直後から有接点11の残量を表示し、累積消耗量RMlossが増加するほど、有接点11の残量が段階的に減ってゆくことを、図柄や数値によって表示してもよい。
【0033】
実施形態では、特性データDTCTを記憶部20から読込む構成について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ネットワーク通信により外部から取得してもよい。
実施形態では、ユーザが入力部21を設定操作し、電磁接触器1の機種情報を入力する構成について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ネットワーク通信により外部から入力できるようにしたり、また励磁コイル6の通電電流から電磁接触器1の機種情報を推定したりしてもよい。
実施形態では、ユーザへのお知らせを表示部22に表示する構成について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ネットワーク通信により外部へ通知するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…電磁接触器、2…電子式サーマルリレー、3…有接点寿命診断装置、4…電源、5…電動機、6…励磁コイル、7a…一次側端子部、7b…一次側端子部、7c…一次側端子部、8a…二次側端子部、8b…二次側端子部、8c…二次側端子部、9…固定接触子、9a…固定接点、10…可動接触子、10a…可動接点、11…電磁接触器、11…有接点、12…押しボタンスイッチ、13…押しボタンスイッチ、15…電流センサ、16…電圧センサ、17…制御部、18…処理演算部、19…遮断出力部、20…記憶部、21…入力部、22…表示部、23…遮断部、24…診断機種設定部、25…寿命診断部、CT…機種、DTCT…特性データ、I…電流値、Iarc…アーク電流、IMAX…過負荷電流、M1…閾値、M2…閾値、Mloss…消耗量、RMloss…累積消耗量、RWarc…累積値、t…放電時間、V…極間電圧、Varc…アーク電圧、Vin…電圧値、Vout…電圧値、Warc…アークエネルギー
図1
図2
図3
図4
図5
図6