(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185458
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】カウルトップガーニッシュ
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20221207BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B62D25/08 H
B60J1/02 111Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093160
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒▲柳▼ 雄介
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203CA07
3D203DA19
3D203DA37
3D203DA38
(57)【要約】
【課題】フロントガラスを容易に嵌め込むことが可能なカウルトップガーニッシュを提供する。
【解決手段】 車幅方向に沿って車両に固定される本体プレート11と、本体プレート11の背面から分岐した後に略直角に屈曲して本体プレート11に平行になる車幅方向に沿って延在する支持壁12と、本体プレート11及び支持壁12で形成されるコの字形状の断面を有しコの字形状にフロントガラス50の下端辺を嵌め込ませる嵌込条溝13と、嵌込条溝13の溝底面12aを支持壁12よりも車両下後方に延長するダミー底面14aと、ダミー底面14aの後縁において車幅方向全域にわたって起立するダミー壁14bと、支持壁12とダミー底面14aとの連接角部に設けられる駄肉部16と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って車両に固定される本体プレートと、
前記本体プレートの背面から分岐した後に略直角に屈曲して前記本体プレートに平行になる前記車幅方向に沿って延在する支持壁と、
前記本体プレート及び前記支持壁で形成されるコの字形状の断面を有し前記コの字形状にフロントガラスの下端辺を嵌め込ませる嵌込条溝と、
前記嵌込条溝の溝底面を前記支持壁よりも車両下後方に延長するダミー底面と、
前記ダミー底面の後縁において車幅方向全域にわたって起立するダミー壁と、
前記支持壁と前記ダミー底面との連接角部に設けられる駄肉部と、を備えることを特徴とするカウルトップガーニッシュ。
【請求項2】
前記支持壁には、延在方向に所定間隔をおいて凹形状の調整間隙が複数個設けられる請求項1に記載のカウルトップガーニッシュ。
【請求項3】
前記調整間隙の下端辺までの深さは、前記支持壁の高さの半分よりも深く、前記支持壁の高さよりも浅い請求項2に記載のカウルトップガーニッシュ。
【請求項4】
前記ダミー壁の高さは、前記支持壁の高さの1/3~2/3である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカウルトップガーニッシュ。
【請求項5】
前記駄肉部の断面形状は、前記支持壁から円弧状に突出して前記ダミー底面に接続される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のカウルトップガーニッシュ。
【請求項6】
前記ダミー壁は、前記支持壁よりも厚い請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のカウルトップガーニッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントガラスを支持するカウルトップガーニッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
カウルトップガーニッシュは、車両のエンジンルームの後端部に車幅方向に沿って固定される装飾パネルである。カウルトップガーニッシュの車幅方向に沿う端辺には、フロントガラスを下方から支持するための嵌込条溝が形成されている。嵌込条溝は、フロントガラスを挟持するために本体プレートから分岐した支持壁と本体プレートとで形成されたコの字形状の断面を有する。
【0003】
このようなコの字断面を有する嵌込条溝の溝内部分においては、カウルトップガーニッシュを射出成形するための金型に冷却水路を造作することが容易でなく、造作するには費用がかかる。よって、射出成形の冷却工程では、嵌込条溝の溝外の金型に配設された冷却水路で嵌込条溝全体を冷却するため、嵌込条溝の溝外に比べて溝内が冷却されにくい。
【0004】
この結果、冷却工程において嵌込条溝内外の温度差で収縮差が発生し、嵌込条溝を構成する2枚の壁面は内側に倒れる変形をする。このような内倒れ変形はフロントガラスの嵌込条溝への嵌め込みの障害になるため、従来では、嵌込条溝のコの字断面内外にリブを設けて内倒れ変形を防止していた。
なお、嵌込条溝には、嵌込条溝に浸入した液体が溢れて嵌込条溝の下部に配置された部品が被水しないように、浸入した液体を適所に排出するための排水孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように嵌込条溝の内部にリブを設けると、局所的な剛性差により意匠面が波打ち意匠性を低下することがあるという課題があった。
また、リブと排水孔との位置関係によっては、液体の流れがリブに阻害され意図した箇所から液体を排出できないこともある。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、フロントガラスを容易に嵌め込むことが可能なカウルトップガーニッシュを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカウルトップガーニッシュは、車幅方向に沿って車両に固定される本体プレートと、前記本体プレートの背面から分岐した後に略直角に屈曲して前記本体プレートに平行になる前記車幅方向に沿って延在する支持壁と、前記本体プレート及び前記支持壁で形成されるコの字形状の断面を有し前記コの字形状にフロントガラスの下端辺を嵌め込ませる嵌込条溝と、前記嵌込条溝の溝底面を前記支持壁よりも車両下後方に延長するダミー底面と、前記ダミー底面の後縁において車幅方向全域にわたって起立するダミー壁と、前記支持壁と前記ダミー底面との連接角部に設けられる駄肉部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、フロントガラスを容易に嵌め込むことが可能なカウルトップガーニッシュが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るカウルトップガーニッシュが設けられた車両のカウルトップガーニッシュ周辺の構成の概略斜視図。
【
図2】実施形態に係るカウルトップガーニッシュを
図1のI-I線で切断した断面図。
【
図3】(A)~(C)実施形態に係るカウルトップガーニッシュを模擬した樹脂モデルの冷却開始から所定時間経過後の温度分布の解析結果を示す樹脂モデルの上面図。
【
図4】(A)~(C)実施形態に係るカウルトップガーニッシュを模擬した樹脂モデルの流動解析による反り解析の結果を示す樹脂モデルの斜視図、(D)~(F)
図4(A)~(C)の樹脂モデルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態において各部品の「上」又は「下」の向きは車両に当該部品を取り付けたときの向きで規定する。例えば、フロントガラスの「下端辺」とは、フロントガラスを車両に取り付けたときに下側にある端辺を指す。
【0012】
図1は、実施形態に係るカウルトップガーニッシュ(以下、単に「ガーニッシュ」という)10が設けられた車両100のガーニッシュ10周辺の構成の概略斜視図である。
図1では、ガーニッシュ10と接触関係にない例えばサイドドア、ルーフ及び車体下部の各種部品は省略されている。
【0013】
ガーニッシュ10は、
図1に示されるように、フロントガラス50とエンジンフード60との境界部において車幅方向に延在して車両100に固定される樹脂製のプレート部材である。ガーニッシュ10は、主に、フロントガラス50を伝う雨水等の液体のエンジンルームへの浸入を防ぐ役割を担う。また、ガーニッシュ10の本体プレート11の意匠面側にはワイパー70が設けられる。
【0014】
また、
図2は実施形態に係るガーニッシュ10を
図1のI-I線で切断した断面図である。
ガーニッシュ10の本体プレート11の意匠面とは反対側の背面には、
図2に示されるように、支持壁12が本体プレート11の自由端側の長手端辺11aに沿って一体形成されている。
支持壁12は、本体プレート11の背面から分岐した後に略直角に屈曲して本体プレート11に平行になった状態で車幅方向に沿って延在する。
ここで、「略直角」とは、直角から±10度以内のずれのことをいう。
【0015】
これら本体プレート11の自由端辺11a及び支持壁12によってコの字形状の断面を有する嵌込条溝13が形成される。この嵌込条溝13にフロントガラス50の下端辺が嵌め込まれる。つまり、ガーニッシュ10は、嵌込条溝13の本体プレート11の自由端辺11a及び支持壁12でフロントガラス50の下端辺を挟持して、支持壁12でフロントガラス50を車両下方向から支持する。
【0016】
また、実施形態に係るガーニッシュ10では、嵌込条溝13の溝底面12aが、ダミー底面14aにより、支持壁12よりも車両下後方に延長される。
そして、ダミー底面14aの後縁において、ダミー壁14bがガーニッシュ10の車幅方向全域にわたって起立している。これらダミー底面14a及びダミー壁14bにより、ガーニッシュ10の短手方向の断面には、支持壁12の背部にL字形状の断面を有するダミー部位14が形成されることになる。
このダミー部位14に熱をためることで、支持壁12の背部に熱がこもりやすくなる。よって、嵌込条溝13の支持壁12側の内外における温度差が縮小して、支持壁12による本体プレート11側への内倒れ変形が抑制される。
【0017】
なお、ダミー壁14bは、ガーニッシュ10の車幅方向全域にわたって設けられる。ダミー壁14bが配置された箇所のみ嵌込条溝13の内外で温度差が低減され、支持壁12が内倒れ変形をする箇所としない箇所とが発生して意匠面が波打つことを防止するためである。
【0018】
また、ダミー部位14側に支持壁12が内倒れしないだけの十分な熱をこもらせるために、ダミー壁14bは支持壁12よりも厚くすることが望ましい。
また、ダミー壁14bの高さは、支持壁12の高さの1/3~2/3に設計することが望ましい。ダミー壁14bの高さをこのように設計することで、同様にダミー底面14a付近に十分な熱をためる空間を確保しながらも、ダミー部位14の重量の増加を抑制することができる。
【0019】
また、支持壁12とダミー底面14aとの連接角部には、駄肉部16が設けられる。
駄肉部16の断面形状は、特に限定されないが、支持壁12から円弧状に突出してダミー底面14aに接続されることが好ましい。このように駄肉部16を円弧状に突出させることで、駄肉部16の表面積に対する体積を増加させることができるため、駄肉部16における蓄熱力が向上する。ダミー部位14の占有可能な空間が限られた場合であっても、駄肉部16を設けることで、支持壁12のダミー部位14側の収縮量を増加させ、嵌込条溝13の内外に発生する収縮差を低減させることができる。
このように、ダミー部位14に熱がこもりやすくなる種々の工夫を施すことで、嵌込条溝13内外の温度差を低減させ、支持壁12の内倒れ変形を防止することができる。
【0020】
また、
図3(A)~(C)はガーニッシュ10を模擬した樹脂モデル18(18a~18c)の冷却開始から所定時間経過後の温度分布の解析結果を示す樹脂モデル18の上面図である。
この温度分布の解析においては、ガーニッシュ10の嵌込条溝13の形状および材質を模擬した解析モデルに有限要素法を適用した。
図3(A)はガーニッシュ10の嵌込条溝13のみを模擬した樹脂モデル18a、
図3(B)は嵌込条溝13にさらにダミー部位14を追加した樹脂モデル18b、
図3(C)は
図3(B)の支持壁12に調整間隙17を設けた樹脂モデル18cである。
なお、
図3(A)~(C)中の符号は、樹脂モデル18が模擬したガーニッシュ10の各部材の符号に対応させている。
また、この解析では、嵌込条溝13の両側の外側のみに冷却水路を設けたことを仮定して解析を実施している。
【0021】
図3(A)~(C)において、色が濃いほど高温になっており冷めにくいことを示している。
図3(A)と
図3(B)とを比較してわかるように、ダミー部位14を設けた方が嵌込条溝13の温度は僅かに高くなっている。しかし、
図3(B)では、ダミー部位14を設けることでダミー部位14にも熱がためられていることが分かる。つまり、嵌込条溝13とダミー部位14との温度差はダミー部位14を設けない場合と比較して小さくなっていることがわかる。
よって、射出成形の冷却工程で発生する収縮は嵌込条溝13内にもダミー部位14にも略同等に発生し、支持壁12の本体プレート11側への内倒れ変形が抑制されることがわかる。
【0022】
また、支持壁12には、
図3(C)に示されるように、延在方向に所定間隔をおいて凹形状の調整間隙17が複数個設けられることが望ましい。
調整間隙17を設けることで、
図3(B)と
図3(C)とを比較してわかるように、嵌込条溝13内の温度を積極的に下げ、ダミー部位14内の温度との温度差を低減することができるためである。
【0023】
なお、調整間隙17の下端辺までの深さは、支持壁12の高さの半分よりも深く、支持壁12の高さよりも浅くすることが望ましい。
つまり、調整間隙17を設ける場合にも、調整間隙17の下端部には支持壁12を残すことで、支持壁12は車幅方向全域に連続して連なり、支持壁12全体の剛性を高めることができる。
支持壁12は、荷重が集中するフロントガラス50の下端辺でフロントガラス50を支持する。よって、支持壁12をガーニッシュ10の車幅方向全域にする支持壁12を残すことで、フロントガラス50の組み付け剛性を確保することができる。
【0024】
また、
図4(A)~(C)は、ガーニッシュ10を模擬した樹脂モデル18(18d~18f)の流動解析による反り解析の結果を示す樹脂モデル18の斜視図である。また、
図4(D)~(F)は、順に
図4(A)~
図4(C)の樹脂モデル18(18d~18f)の断面図である。
図4(A)~(F)中の符号は、樹脂モデル18が模擬したガーニッシュ10の各部材の符号に対応させている。
この流動解析においては、ガーニッシュ10を模擬した解析モデルを用いて、有限要素法この解析モデルに生じる反り変形を算出した。また、射出、保圧、ゲート、射出圧力、ソリ解析及び流動解析には、オートデスク社より市販されるMOLDFLOW(登録商標)を用いた。
【0025】
図4(A),(D)はガーニッシュ10の嵌込条溝13のみを模擬した樹脂モデル18d、
図4(B),(E)は嵌込条溝13にさらにダミー部位14を追加した樹脂モデル18e、
図4(C),(F)は
図4(B)の支持壁12に調整間隙17を設けた樹脂モデル18fである。
図4(A)~(F)において、色が薄いほど内倒れ変形が大きいことを示している。
なお、
図4(A)~(F)では、反り変形の変形スケールを2倍に拡大している。
また、
図4(D)~(F)では、反り変形量を比較しやすいように、本体プレート11の自由端辺11aをα破線に揃え、
図4(E)における支持壁12の端辺に基準線となるβ破線を記載している。
【0026】
図4(A),(D)と
図4(B),(E)とを比較すると、嵌込条溝13にダミー部位14を設けることで、支持壁12の反り変形量は低減されることが読み取れる。
また、
図4(B),(E)と
図4(C),(F)とを比較すると、調整間隙17を設けることで、支持壁12の反り変形量はより軽減されることが読み取れる。
以上
図3(A)~(C)及び
図4(A)~(F)に示される解析結果から、嵌込条溝13にダミー部位14を設けることで支持壁12の内倒れ変形が軽減されることが確認された。
またこの解析結果から、支持壁12に調整間隙17を設けることで、支持壁12の内倒れ変形がより軽減されることが確認された。
【0027】
以上のように、実施形態に係るガーニッシュ10によれば、支持壁12の嵌込条溝13内への内倒れ変形が抑制されるため、嵌込条溝13にフロントガラス50を容易に嵌め込むことができる。
また、嵌込条溝13の内部におけるリブの形成を不要とするため、局所的な剛性差で意匠面が波打ってしまい美観が損われることを防止することができる。同様に、リブが不要なため、浸入した液体を意図した箇所から円滑に排出することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0029】
例えば、ダミー部位の形状は図示したものに限定されない。例えば、ダミー壁のダミー底面への接続角度は直角に限定されない。また、ダミー壁の断面形状も矩形形状に限られない。
【符号の説明】
【0030】
10…ガーニッシュ、11(11a)…本体プレート(自由端側の長手端辺,自由端辺)、12(12a)…支持壁(溝底面)、13…嵌込条溝、14(14a,14b)…ダミー部位(ダミー底面,ダミー壁)、16…駄肉部、17…調整間隙、18(18a~18f)…樹脂モデル、50…フロントガラス、60…エンジンフード、70…ワイパー、100…車両。