(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185481
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】クレーンのフック移動制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/48 20060101AFI20221207BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
B66C13/48 J
B66C13/22 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093201
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000148380
【氏名又は名称】株式会社前田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】中園 豪気
(72)【発明者】
【氏名】常田 礎良
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204CA01
3F204DC01
3F204DC03
3F204DD09
(57)【要約】
【課題】フックの水平移動における動作速度、制御性の双方を良好に維持可能なクレーンのフック移動制御方法を提案すること。
【解決手段】移動式クレーン1のフック16の水平移動のフィードバック制御では、ブーム11の長さとロープ掛け数に基づき、水平移動モードの開始時におけるウインチ13の回転速度の初速度を設定して(ST7)、動作速度の低下、制御開始直後のハンチング発生による制御性の低下を防止している。逐次検出されるフック16の現在位置と揚程目標値との偏差の絶対値が予め設定した値よりも大きい場合には(ST9-2、10-2)、偏差の絶対値が大きいほど、ウインチ13の回転速度を初速度から減速または増速させ(ST9-3、10-3)、フィードバック制御の制御性を改善している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームの先端からワイヤロープによって吊り下げられているフックの移動制御を、コンピュータを中心に構成されるコントローラによって行うクレーンのフック移動制御方法であって、
外部からの入力操作に基づき、前記フックを水平移動させる制御を行う水平移動モードを動作モードに設定すると共に前記水平移動のための揚程目標値を設定し、
前記水平移動モードにおいて、外部からの入力操作に基づき行う前記ブームの起伏・伸縮動作に同期させて、前記フックの現在位置が前記揚程目標値を維持するように、前記ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行わせるフィードバック制御を行い、
前記水平移動モードのフィードバック制御においては、制御開始時の前記ブームの長さと、予め入力設定される前記ワイヤロープの掛け数に基づき、前記ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行うウインチの初速度を算出し、当該初速度で前記ウインチを回転駆動して前記ワイヤロープの巻き取り・繰り出し動作を開始することを特徴とするクレーンのフック移動制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記水平移動モードのフィードバック制御においては、前記フックの現在位置と前記揚程目標値との偏差の絶対値が予め設定した値よりも大きい場合には、前記偏差の絶対値が大きいほど、前記ウインチの回転速度を前記初速度から減速または増速させるクレーンのフック移動制御方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記偏差の絶対値として、予め定めた回数分の移動平均値を用いるクレーンのフック移動制御方法。
【請求項4】
請求項1、2または3において、
前記水平移動モードのフィードバック制御においては、
前記ブームの伏動作速度の上限値を、前記ブームの長さが長いほど低い値となるように規制し、
前記ブームの起動作速度の上限値を、予め設定されている起動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制するクレーンのフック移動制御方法。
【請求項5】
請求項1、2、3または4において、
前記水平移動モードのフィードバック制御においては、
予め定めた段数以下の段数において前記ブームの伸動作が段毎に順次に行われる場合、伸動作速度の上限値を、予め設定されている伸動作速度上限値に設定し、
予め定めた段数よりも上の段数において各段のブームの伸動作が同時に行われる場合、前記伸動作速度の上限値を、前記伸動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制するクレーンのフック移動制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項において、
前記コントローラは、更に、外部からの入力操作に基づき、制御モードを、前記フックを平行移動させる制御を行う平行移動モードに設定すると共に前記平行移動のための吊り下げ長さ目標値を設定し、
前記平行移動モードにおいて、外部からの入力操作により前記ブームの伸縮動作が行われると、前記フックの現在位置が前記吊り下げ長さ目標値を維持するように、前記ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行わせるフィードバック制御を行うクレーンのフック移動制御方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記平行移動モードのフィードバック制御においては、
予め定めた段数以下の段数において前記ブームの伸動作が段毎に順次に行われる場合、伸動作速度の上限値を、予め設定されている伸動作速度上限値に設定し、
予め定めた段数よりも上の段数において各段のブームの伸動作が同時に行われる場合、前記伸動作速度の上限値を、前記伸動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制するクレーンのフック移動制御方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちのいずれか一つの項において、
前記フィードバック制御に先立って、前記ワイヤロープの巻き出し・巻き取り量の校正を、前記ワイヤロープを前記ウインチから巻き出した状態で行うクレーンのフック移動制御方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のうちのいずれか一つの項において、
前記ブームが予め設定した角度で全縮の状態で、かつ、前記ブームの先端に取り付けたフック巻き過ぎ検出センサがオンの時に、前記フックの現在位置を示す検出値を予め設定されている値に一致させる自動揚程校正を実行するクレーンのフック移動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームの伸縮・起伏の操作入力をするだけで、フックが地面と水平に移動する水平移動、フックがブームと平行に移動する平行移動を行うクレーンのフック移動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン作業において、フックを地面と水平に移動させる水平移動、フックをブームと平行に移動させる平行移動を行うことがある。このような水平移動、平行移動によって吊り荷を移動させる場合の操作性を改善するための提案がなされている。例えば、特許文献1(特開平7-215680号公報)においては、ブームの俯仰角(起伏角)の変化に対してフックの揚程補正量を所定の割合で変化させる制御特性に基づき、現在のフックの揚程値から、フックの目標揚程値を算出し、この目標揚程値に基づいてウインチドラムの回転数を変化させて、フックを水平移動させるようにしている。特許文献2(特開昭63-60897号公報)に記載の水平移動制御方法では、ブームの長さ、およびブーム・フック間のロープ掛け数に応じて、俯仰駆動機構(起伏機構)に対する制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-215680号公報
【特許文献2】特開昭63-60897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、水平移動等の制御動作においてハンチングなどが最も発生しやすいのは制御開始直後の期間である。例えば、クレーンのブーム長さが長い場合、ロープの掛け数が多い場合等において、水平移動開始後に、ロープの巻き取り・繰り出し動作がブームの起伏動作に追い付かずに吊り荷を吊り下げたフックを水平に移動させることができないことがある。このため、水平移動の制御動作においては、最初からブームの伸縮速度、起伏速度を、通常のクレーン作業時の速度よりも低速に固定して、動作速度を犠牲にして制御性を確保している。
【0005】
また、水平移動の制御動作が開始された後においては、ロープの巻き取り・繰り出し用のウインチドラムの回転数が早すぎると、目標とする揚程値に対する実際のフックの揚程値との誤差が大きくなり、ハンチング等が発生して制御性が低下するおそれがある。
【0006】
さらに、多段のブームにおいてはブーム伸縮速度が異なるものがある。例えば、5段のブームの場合、2段目、3段目のブームが順次伸縮し、4段目、5段目のブームが同時伸縮するように構成されたものがある。この場合、4、5段目のブームの伸縮動作に追従して、ロープの巻き取り・繰り出しを行うことができず、水平移動の制御性が低下するおそれがある。
【0007】
これに加えて、水平移動、平行移動の制御性を高めるためには、ロープの巻き取り・繰り出し長さ(巻き取り量)、揚程を精度良く管理するために校正が必要になる。従来においては、ロープ長さの校正を、校正のために指定されたウインチドラム内ワイヤ層数の状態において行っている。この場合、層数を数えるのは大変であり、間違える可能性もある。揚程については、使用している間にドラム回転検出に誤差が蓄積していき、検出されたドラム回転数に基づき算出される揚程に誤差が生じる場合があるので、定期的に校正を行う必要がある。
【0008】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、フックの水平移動の動作速度および制御性の双方を良好に維持可能なクレーンのフック移動制御方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブームの先端からワイヤロープによって吊り下げられているフックの移動制御を、コンピュータを中心に構成されるコントローラによって行うクレーンのフック移動制御方法において、
外部からの入力操作に基づき、フックを水平移動させる制御を行う水平移動モードを制御モードとして設定すると共に水平移動のための揚程目標値を設定し、
水平移動モードにおいて、外部からの入力操作に基づき行うブームの起伏・伸縮動作に同期させて、フックの現在位置が揚程目標値を維持するように、ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行わせるフィードバック制御を行い、
水平移動モードのフィードバック制御においては、制御開始時のブームの長さと、予め入力設定されるワイヤロープの掛け数に基づき、ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行うウインチの初速度を算出し、当該初速度でウインチを回転駆動してワイヤロープの巻き取り・繰り出し動作を開始することを特徴としている。
【0010】
本発明の方法では、ブームの長さとワイヤロープの掛け数に基づき、水平移動モードの開始時におけるウインチの回転速度を設定している。ブームが長く、掛け数が多い場合等において、ブームの起伏・伸縮動作に、ワイヤロープの巻き取り・繰り出し動作が追い付かず、水平移動制御の開始直後の期間にハンチング等が発生して制御性が低下してしまう等の弊害を回避できる。
【0011】
また、本発明の方法は、水平移動モードのフィードバック制御において、逐次検出されるフックの現在位置と揚程目標値との偏差の絶対値が予め設定した値よりも大きい場合には、偏差の絶対値が大きいほど、ウインチの回転速度を初速度から減速または増速させるようにしている。これにより、フィードバック制御の制御性が改善される。
【0012】
この場合、ウインチの回転速度の変動に起因してハンチング等の不具合が発生することを回避するために、偏差の絶対値として、予め定めた回数分の偏差の絶対値の移動平均値を用いることが望ましい。
【0013】
さらに、水平移動モードのフィードバック制御においては、ブームの伏動作速度の上限値を、ブームの長さが長いほど低い値となるように規制し、ブームの起動作速度の上限値を、予め設定されている起動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制することが望ましい。
【0014】
次に、ブームの伸縮機構として、所定の段数までは各段のブームを順次伸縮させ、所定の段数以上の段数では各段のブームを同時伸縮させるものがある。この場合、同時伸縮する段のブームが伸縮する状態、すなわち、ブーム長さが所定以上に長い場合には、伸縮速度が速いので、ワイヤロープの巻き取り・繰り出し動作が追い付かず、水平移動の制御性が低下する。これを回避するために、水平移動モードのフィードバック制御においては、予め定めた段数以下の段数においてブームの伸動作が段毎に順次に行われる場合、伸動作速度の上限値を、予め設定されている伸動作速度上限値に設定し、予め定めた段数よりも上の段数において各段のブームの伸動作が同時に行われる場合、伸動作速度の上限値を、伸動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制すればよい。
【0015】
なお、本発明のクレーンのフック移動制御方法では、コントローラは、更に、外部からの入力操作に基づき、制御モードを、フックをブームに平行に移動させる平行移動を行う平行移動モードに設定すると共に平行移動のための吊り下げ長さ目標値を設定し、平行移動モードでは、外部からの入力操作に基づき行うブームの伸縮動作に同期させて、逐次検出されるフックの現在位置が吊り下げ長さ目標値を維持するように、ワイヤロープの巻き取り・繰り出しを行わせるフィードバック制御を行うように構成される。
【0016】
平行移動モードのフィードバック制御においても、ブームの伸動作が予め定めた段数以下の段数で行われる場合、伸動作速度の上限値を、予め設定されている伸動作速度上限値に設定し、ブームの伸動作が予め定めた段数よりも上の段数で行われる場合、伸動作速度の上限値を、伸動作速度上限値よりも一定の割合だけ低い値に規制することが望ましい。
【0017】
また、水平移動、平行移動のフィードバック制御を精度良く行うためには、ワイヤロープ長さ、揚程を精度良く検出する必要がある。このために、本発明では、フィードバック制御に先立って、ワイヤロープの巻き出し・巻き取り量の検出値の校正を、ワイヤロープをウインチから巻き出した状態で行うようにしている。また、ブームが予め設定した角度で全縮の状態で、かつ、ブームの先端に取り付けたフック巻き過ぎ検出センサがオンの時に、フックの現在位置を示す検出値を予め設定されている値に一致させる自動揚程校正を行うようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を適用した移動式クレーンの説明図、そのキャビン内の操作レバー等を示す説明図、およびロープ掛け数を示す説明図である。
【
図2】フックの水平移動を示す説明図およびフックの平行移動を示す説明図である。
【
図3】移動式クレーンの制御系および機構系を示す概略機能ブロック図である。
【
図4】フックの水平移動モードにおける制御動作を示す概略フローチャートである。
【
図5】フックの平行移動モードにおける制御動作を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明のクレーンのフック移動制御方法が適用された移動式クレーンの実施の形態を説明する。なお、本発明は以下に述べる実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
図1(A)に示すように、移動式クレーン1は、クローラ式の下部走行体2と、テレスコピック式ブーム3を架装した上部旋回体4とを備えており、作業現場内での自走による移動(走行)と、定格総荷重以内でのクレーン作業を行うことができる。
【0021】
下部走行体2は、トラックフレーム5の左右において走行モータ(図示せず)によって回転駆動されるスプロケット6に架け渡したクローラ8を備えている。上部旋回体4はトラックフレーム5に旋回可能に搭載されており、上部旋回体4に架装されたテレスコピック式ブーム3は、多段、本例では5段のブーム11であり、ブーム起伏シリンダ12、ウインチ13、ウインチ13から巻き出されるワイヤロープ14によってブーム先端から吊り下げられたフックブロック15等を備えている。
【0022】
ブーム11は、2段、3段目が順次伸縮のブームであり、4段、5段目が同時伸縮のブームである。ブーム11の先端からワイヤロープ14によって吊り下げられているフックブロック15は、
図1(C)に示すように、ロープ掛け数を6本、4本、2本、オプションの1本に切り換え可能である。
【0023】
上部旋回体4において、ブーム11の側方には、キャビン17が搭載されている。
図1(B)に示すように、キャビン17の内部には、安全ロックレバー21、左右一対の走行レバー22、23、左作業機操作レバー24、右作業機操作レバー25、アクセルペダル26、表示操作盤27等が配置されている。
【0024】
移動式クレーン1は、
図2(A)に示すように、フックブロック15のフック16の揚程Hを維持して地面Gと水平に移動させる水平移動モード、および
図2(B)に示すように、フック16の吊り下げ長さLを維持してブーム11と平行に移動させる平行移動モードを含む動作モードで動作可能である。移動式クレーン1の動作モードを、水平移動モード、平行移動モードに設定すると、操作者は、ブーム11の伸ばし、または縮み操作をするだけで、フック16を水平移動あるいは平行移動させることができる。
【0025】
図3は移動式クレーン1の主要部の機能ブロック図である。移動式クレーン1の制御系は、コンピュータを中心に構成されるメインコントローラ30および走行コントローラ31を備えている。移動式クレーン1の機構系は、ウインチ13(巻上げ装置)、ブーム伸縮装置32、ブーム起伏装置33、旋回装置34、走行装置35、油圧装置36、エンジン37等を備えている。各機構部分は、例えば次のように構成されている。ウインチ13はブレーキ内蔵2速油圧モータによりワイヤロープ14の巻き取り・繰り出しを行う。ブーム伸縮装置32は、順次伸縮用の油圧複動シリンダ3本および同時伸縮用のワイヤロープ伸縮装置を備えている。ブーム起伏装置33は、1本の複動油圧シリンダからなるブーム起伏シリンダ12を備えている。旋回装置34は、固定容量形ピストン式のものである。走行装置35は、油圧2速モータ、無段変速機、自動ブレーキ内蔵の遊星歯車減速機構を備えている。油圧装置36は、作動油タンクを備えた可変容量形ピストン式のものであり、各油圧駆動部分に対して作動油を供給する。油圧装置36の駆動源であるエンジン37は軽油を燃料としている。
【0026】
メインコントローラ30には、安全ロックレバー21、左右一対の走行レバー22、23、左作業機操作レバー24、右作業機操作レバー25、アクセルペダル26等からの操作信号が入力される。また、メインコントローラ30には、表示操作盤27から、入力操作信号が供給される。表示操作盤27には各種の操作ボタンが配置されている。操作ボタンには、動作モードを水平移動モード、平行移動モードに設定するモード選択ボタン27a、ロープ掛け数を設定入力する掛け数入力ボタン27bなどが含まれている。表示操作盤27の表示画面27cにはメインコントローラ30の制御の下で各種の情報を表示可能である。
【0027】
さらに、メインコントローラ30には、各種の検出部からの検出信号が入力される。検出信号には、揚程検出部41からの揚程検出信号、フック吊り下げ長さ検出部42からのフック吊り下げ長さ検出信号、ブーム11の起伏角を検出するブーム角度計43からの起伏角検出信号、ブーム長さ計44からのブーム長さ検出信号、旋回装置34に取り付けたポテンショメータ(旋回角度検出部)45からの旋回角度検出信号、ブーム先端に取り付けたフック巻き過ぎセンサ46(巻き過ぎ警報検出器)からの検出信号、ウインチドラムの回転数を検出する回転数センサ47からの検出信号などが含まれている。
【0028】
ここで、左作業機操作レバー24は、例えば、上部旋回体4の旋回操作とブーム11の伸縮操作をするときに使用される。旋回操作においては、右旋回時にはレバー24を右方向に引く操作を行い、左旋回時にはレバー24を左方向に押し出す操作を行う。また、ブーム伸縮操作においては、ブーム縮小時にはレバー24を後方に引く操作を行い、ブーム伸長時にはレバー24を前方に押す操作を行う。レバー24から手を離すと、レバー24は初期の中立位置に復帰して止まり、上部旋回体およびブーム長さは止まったままその位置を保持する。
【0029】
他方の右作業機操作レバー25は、例えば、ウインチ操作とブームの起伏操作をするときに使用される。ウインチ操作においては、巻上げ時には、レバー25を後方に引く操作を行い、巻下げ時にはレバー25を前方に押し出す操作を行う。ブーム起伏操作においては、ブーム伏せ時にはレバー25を右方向に押し出す操作を行い、ブーム起き時にはレバー25を左方向に引く操作を行う。レバー25を手から離すと、レバー25は初期の中立位置に復帰して止まり、フックブロックおよびブーム角度は、止まったままその位置を保持する。
【0030】
なお、本例では、遠隔操作もできるように、ラジコン50も用意されている。例えば、表示操作盤27のモード選択ボタン27aを用いて、遠隔操作モード切替信号を入力すると、メインコントローラ30は遠隔操作モードに切り替わり、送受信装置60を介して、ラジコン50からの操作入力信号を受け付けてクレーン動作等を行うことができる。ラジコン50の操作面には、表示部51、モード選択ボタン52、旋回操作スイッチ53、ブーム伸縮スイッチ54、ブーム起伏操作スイッチ55、ウインチ操作スイッチ56等が配置されている。
【0031】
メインコントローラ30は、コンピュータを中心に構成される制御部71、制御プログラム、各種の制御条件、設定値等が記憶保持される記憶部72等の部位を備えている。制御プログラムを実行することで、制御部71は、入力操作に基いてテレスコピック式ブーム3の動作モードを水平移動モード、平行移動モード等に設定する動作モード設定部73、操作入力に基づいて水平移動モードにおけるフィードバック制御の目標値である揚程目標値の設定、平行移動モードにおけるフィードバック制御の目標値であるフック吊り下げ長さ目標値の設定を行う目標値設定部74、検出された揚程、吊り下げ長さが目標値となるようにフィードバック制御を行うフィードバック制御部75等として機能する。
【0032】
(水平移動モード)
図4は、移動式クレーン1の水平移動モードにおける動作を示す概略フローチャートである。操作者が表示操作盤27のモード選択ボタン27aを操作することで、メインコントローラ30は、動作モードを水平移動モードに設定する(ステップST1:フック水平モードON)。また、揚程検出部41によって検出される現在の揚程を、水平を維持する揚程目標値に設定する(ステップST2)。また、設定した揚程目標値と、揚程検出部41によって逐次検出される現在の揚程との偏差を算出する(ステップST3)。
【0033】
水平移動モードが設定された後、起伏伸縮の操作入力を待つ(ステップST4)。操作入力が検知されるまでは、ウインチ13は駆動せず、ウインチ回転速度は0にされる(ステップST11)。また、本例では、フック水平移動中のソフト制御を簡略化するために、ニュートラル(中立)の状態から始めに操作されるいずれか一つの操作のみ操作可能とし、複数の操作はできないように制限している。そのために、水平移動モードが設定された後は、起伏伸縮のレバー操作入力を検知すると(ステップST4)、起伏伸縮のレバー操作入力のうち、最初に検知したレバー操作入力以外のレバー操作入力操作を、操作レバー24、25が中立位置に戻るまで止めるようにしている(ステップST5)。なお、ウインチ巻上げ下げと旋回は操作可能である。
【0034】
検出された起伏伸縮のレバー操作入力が、水平移動のフィードバック制御開始後の最初の入力である場合には(ステップST6)、ブーム長さとロープ掛け数に基いて、ウインチ13の初速度を計算してオフセット値として設定する(ステップST7)。例えば、次のようにウインチ初速度を設定する。ブーム長さをxとし、n本掛け時のウインチ初速度係数をan、bnとすると、ウインチ初速度を規定するウインチソレノイドバルブへの初期出力値を、anx+bnに設定する。ウインチ初速度係数an、bn(6本掛けa6、b6、4本掛けa4、b4、2本掛けa2、b2、1本掛けa1、b1)は試験的に決定した値である。また、ロープ掛け数に基いて、フィードバック制御の係数を振り分ける(ステップST8)。すなわち、ロープ掛け数が多いほど比例ゲインを高くする。この後は、メインコントローラ30は、フック16の水平移動のフィードバック制御を開始し、ブーム11の起伏伸縮動作が行われても、検出される揚程と揚程目標値との偏差が解消されるように、ウインチ13によるワイヤロープ14の巻き取り・繰り出し動作のフィードバック制御を行う。
【0035】
まず、ブーム11の起伏伸縮のうち、「起」あるいは「伸」のレバー操作入力を検知している間においては(ステップST9)、揚程目標値に対する現在の揚程の偏差をフィードバック値として、偏差0を目標値にしたウインチ13の巻き下げ速度のPI制御を行う(ステップST9-1)。フィードバック制御形態としてはPID制御を採用することも勿論可能である。本例の制御においては、偏差の絶対値が予め設定した値、例えば10cmよりも大きくなった場合、すなわち、ウインチ巻き下げ動作(ワイヤロープの繰り出し動作)においては、偏差(=揚程目標値-現在の揚程)が-10cmより小さい値になった場合に(ステップST9-2)、ウインチ13の回転速度を偏差に比例して減速または増速させるようにしている(ステップST9-3)。
【0036】
具体的に説明すると、本例では、偏差として、フィードバックしている偏差を10回移動平均した値を用いている。偏差の移動平均を用いることで、偏差の変動に起因するウインチの回転速度の減速制御における減速率の変動を滑らかにすることができ、これによって、ハンチング等の発生を防止でき、制御の安定性を確保できる。使用する偏差の移動平均は10回移動平均に限定されるものではないことは勿論である。
【0037】
また、偏差の移動平均が-10cmよりも小さくなった場合(絶対値が10cmよりも大きくなった場合)のウインチ13の減速制御(ステップST9-3)においては、例えば、目標の偏差「0」cmに対して、実際の偏差が10cm~60cmの場合には、初期設定されているウインチ回転速度を100%とすると、偏差が0~-10cmの間はそのまま100%とし、-10cm~-60cmまでの間は、当該偏差に比例して100%~0%に回転速度を低減する。-60cmを超える偏差の場合には、ウインチ回転速度を0%とし、ウインチ巻下げ動作を行わないようにする。
【0038】
同様に、ブーム11の起伏伸縮のうち、「伏」あるいは「縮」の操作入力を検知している間においても(ステップST10)、同様に、揚程目標値に対する現在の揚程の偏差をフィードバック値として、偏差0を目標値にしたウインチ13の巻き下げ速度のPI制御を行う(ステップS10-1)。また、偏差の絶対値が予め設定した値、例えば10cmよりも大きくなった場合、すなわち、ウインチ巻さ上げ動作(ワイヤロープの巻き取り動作)においては、偏差(=揚程目標値-現在の揚程)が+10cmより大きな値になった場合には(ステップST10-2)、ウインチ13の回転速度を偏差に比例して減速させる(ステップST10-3)。この場合においても、偏差として、フィードバックしている偏差を10回移動平均した値を用いている。また、偏差の移動平均が+10cmよりも大きくなった場合のウインチ13の減速制御(ステップST10-3)においては、目標の偏差「0」cmに対して、実際の偏差が+10cm~+60cmの場合には、初期設定されているウインチ回転速度を100%とすると、偏差が0~+10cmの間はそのまま100%とし、+10cm~+60cmまでの間は、当該偏差に比例して100%~0%に回転速度を低減する。+60cmを超える偏差の場合には、ウインチ回転速度を0%とし、ウインチ巻上げ動作を行わないようにする。
【0039】
次に、水平移動モードにおいては、ブーム11の伏操作中においては、ブーム11の長さに比例して、伏の動作速度の上限を規制している(ステップST12)。例えば、伏操作をしているとき、油圧装置36におけるウインチ駆動用の油圧モータへの作動油供給を制御する電磁切替弁の伏側のソレノイドへの出力値をブーム長に比例して、ブーム長が長いほど制限する。例えば、最大出力値を100%とすると、ブーム最縮の時には100%(出力可能な電流に対する出力上限の割合)とし、ブーム最伸の時には66%(出力可能な電流に対する出力上限の割合)に規制する。
【0040】
これに対して、ブーム11の起操作中においては、常に一定の規制値で起の動作速度の上限を規制している(ステップST13)。例えば、油圧装置36におけるブーム起伏シリンダへの作動油供給を制御する電磁切替弁の起側のソレノイドへの出力値を一定の割合で制限する。一例として、67.5%(出力可能な電流に対する出力上限の割合)に制限する。
【0041】
さらに、ブーム伸縮操作のうち、ブーム伸操作中においては、ブーム11が4段より長い時に、一定の規制値で伸の動作速度の上限を規制する(ステップST14)。すなわち、伸操作をしているブーム段数が、4段、5段のとき(同時伸縮する段数のとき)には、伸側のソレノイドへの出力値を一定の割合で制限する。例えば、ブーム長さ計44によってブーム長が12.36mより大きいときには、4段以上のブームの伸操作であると判断して、出力値を例えば72%(出力可能な電流に対する出力上限の割合)に制限する。
【0042】
以上説明した水平移動のためのフィードバック制御動作が、水平移動モードの設定が解除されるまで繰り返される。これにより、水平移動モードにおいては、操作者はブーム11の起伏・伸縮のレバー操作入力を行うだけで、フック16を水平移動させることができる。
【0043】
(平行移動モード)
次に、
図5は、移動式クレーン1の平行移動モードにおける動作を示す概略フローチャートである。操作者が表示操作盤27のモード選択ボタン27aを操作して平行移動モードを選択すると、メインコントローラ30は、制御モードを平行移動モードに設定する(ステップST21)。また、フック吊り下げ長さ検出部42によって検出される現在のフック吊り下げ長さ(ブーム先端からフック16の下端までの距離)を、平行を維持するための吊り下げ長さ目標値に設定する(ステップST22)。この後は、メインコントローラ30は、逐次、現在の吊り下げ長さを検出し、検出した現在の吊り下げ長さと吊り下げ長さ目標値との偏差を求め(ステップST23)、偏差が0になるように、平行移動のフィードバック制御を行う。
【0044】
平行移動のフィードバック制御においては、ブーム伸縮のレバー操作入力が検知されるまでの間は、ウインチ回転速度は0にされる(ステップST29)。ブーム伸縮のレバー操作入力が検知されると(ステップST24)、それがフィードバック制御開始後の最初の操作入力である場合には(ステップST25)、ロープ巻き取り・繰り出し用のウインチ13の初速度を予め定めた一定の値に設定する(ステップST26)。例えば、ウインチ初速度を規定するウインチソレノイドバルブへの初期出力値を、anx+bnに設定している。先に述べたように、xはブーム長さ(m)であり、anおよびbnは、n本掛け時のウインチ初速度係数である。
【0045】
ブーム伸縮レバー操作入力が、「伸」の操作入力である場合には(ステップST27)、吊り下げ長さ目標値に対する現在の吊り下げ長さの偏差をフィードバック値として、偏差0を目標値にしたウインチ13の巻き下げ速度のPI制御を行う(ステップST27-1)。フィードバック制御形態としてはPID制御を採用することも勿論可能である。
【0046】
同様に、ブーム伸縮レバー操作入力が「縮」の操作入力である場合には(ステップST28)、吊り下げ長さ目標値に対する現在の吊り下げ長さの偏差をフィードバック値として、偏差0を目標値にしたウインチ13の巻き上げ速度のPI制御を行う(ステップST28-1)。フィードバック制御形態としてはPID制御を採用することも勿論可能である。
【0047】
次に、ブーム11の伸操作中において、伸操作をしているブーム段数が、4段以上のとき(同時伸縮する段数のとき)には、伸側のソレノイドへの出力値を一定の割合で制限する(ステップST30)。例えば、ブーム長さ計44によってブーム長が12.36mより大きいときには、4段以上のブームの伸操作であると判断して、出力値を一例として72%(出力可能な電流に対する出力上限の割合)に制限する。
【0048】
以上説明した平行移動のためのフィードバック制御動作が、平行移動モードの設定が解除されるまで繰り返される。これにより、平行移動モードにおいては、操作者はブーム11の伸縮のレバー操作入力を行うだけで、フック16を平行移動させることができる。
【0049】
(ブーム長さの校正、揚程校正)
水平移動、平行移動のフィードバック制御においては、フック吊り下げ長さ、揚程を精度良く検出する必要がある。フック吊り下げ長さを精度良く検出するために、本例のメインコントローラ30では、ウインチドラムからロープを巻き出した状態でロープ長さの校正を行っている。例えば、表示操作盤27から校正を行うように操作入力を行うと、メインコントローラ30は、校正動作を開始し、表示画面27cに校正のブーム姿勢を表示し、ウインチ13を駆動制御して、ウインチドラムからロープを巻き出した状態にして、巻き取り量の校正を行う。
【0050】
一方、揚程の校正については、ブームが特定姿勢になった状態において自動揚程校正を実行している。例えば、メインコントローラ30は、クレーン作業等を行っていない無負荷状態において、ブームが全縮でブーム角度が予め設定されている角度の状態において、ブーム先端に取り付けたフック巻き過ぎセンサ46がオンになった場合に、自動揚程校正の割り込み処理を実行する。フック巻き過ぎセンサ46がオンした時点における揚程検出部41により検出される揚程が、予め設定されている当該特定姿勢の状態での揚程に一致するように、校正を掛ける。これにより、ウインチドラムの回転検出誤差に起因する揚程誤差を解消できる。
【符号の説明】
【0051】
1 移動式クレーン
2 下部走行体
3 テレスコピック式ブーム
4 上部旋回体
5 トラックフレーム
6 スプロケット
8 クローラ
11 ブーム
12 ブーム起伏シリンダ
13 ウインチ
14 ワイヤロープ
15 フックブロック
16 フック
17 キャビン
21 安全ロックレバー
22、23 走行レバー
24 左作業機操作レバー
25 右作業機操作レバー
26 アクセルペダル
27 表示操作盤
27a モード選択ボタン
27b 掛け数入力ボタン
27c 表示画面
30 メインコントローラ
31 走行コントローラ
32 ブーム伸縮装置
33 ブーム起伏装置
34 旋回装置
35 走行装置
36 油圧装置
37 エンジン
41 揚程検出部
42 フック吊り下げ長さ検出部
43 ブーム角度計
44 ブーム長さ計
45 ポテンショメータ(旋回角度検出部)
46 フック巻き過ぎセンサ
47 回転数センサ
50 ラジコン
51 表示部
52 モード選択ボタン
53 旋回操作スイッチ
54 ブーム伸縮スイッチ
55 ブーム起伏操作スイッチ
56 ウインチ操作スイッチ
60 送受信装置
71 制御部
72 記憶部
73 動作モード設定部
74 目標値設定部
75 フィードバック制御部