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特開2022-185490降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラム
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  • 特開-降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185490
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/02 20060101AFI20221207BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01W1/02 A
G01W1/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093214
(22)【出願日】2021-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年5月27日研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI),第2021-UBI-70巻,第3号の第1~8頁にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】沖原 周佑
(72)【発明者】
【氏名】大越 匡
(72)【発明者】
【氏名】中澤 仁
(57)【要約】
【課題】 設置のためのコストを低減でき、また、リアルタイム性のある降水の計測を実現できる降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】計測者の腕に装着される降水検出装置10が、装着した計測者の腕の振動を検出し、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得し、装着した計測者の所在位置の情報を取得して、当該取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、降水情報処理装置20へ送出する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各計測者の腕にそれぞれ装着される降水検出装置と、
当該降水検出装置との間で通信する降水情報処理装置とを含む降水情報処理システムであって、
前記降水検出装置は、装着した計測者の腕の振動を検出し、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する降水情報取得手段と、
装着した計測者の所在位置の情報を取得する位置情報取得手段と、
当該取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、前記降水情報処理装置へ送出する送信手段と、を有し、
前記降水情報処理装置は、
前記降水検出装置から、位置情報と降水関係情報とを取得して、当該取得した位置情報と降水関係情報とを互いに関連付けて記録し、
当該記録が、所定の降水に関する情報処理に供される降水情報処理システム。
【請求項2】
計測者の腕に装着され、
装着した計測者の腕の振動を検出し、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する降水情報取得手段と、
装着した計測者の所在位置の情報を取得する位置情報取得手段と、
当該取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、降水情報処理装置へ送出する送信手段と、を有する降水検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の降水検出装置であって、
前記降水情報取得手段は、
前記計測者の腕の振動の情報と、降水に係る情報としての降水量の階級との関係を機械学習した状態にある分類器を用い、前記検出した振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水量の階級を、降水関係情報として取得する降水検出装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の降水検出装置であって、
降水検出装置の姿勢を検出する姿勢検出手段をさらに有し、
前記降水情報取得手段は、当該検出した姿勢が所定の条件を満足する間に検出した前記計測者の腕の振動の情報に基づいて、前記降水関係情報を取得する降水検出装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の降水検出装置であって、
前記降水情報取得手段は、装着した計測者の腕の振動を互いに直交する複数の軸方向に分けて計測し、当該複数の軸方向の振動のうちから選択した少なくとも一つの軸方向の振動の情報を用いて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する降水検出装置。
【請求項6】
計測者の腕にそれぞれ装着される降水検出装置から、当該降水検出装置が取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを受信する受信手段と、
前記受信した所在位置の情報と降水関係情報とを互いに関連付けて記録する記録手段と、
を有し、
当該記録が、所定の降水に関する情報処理に供される降水情報処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の降水情報処理装置であって、
前記降水関係情報と、降水に係る情報としての降水量の階級との関係を機械学習した状態にある分類器を用い、前記受信した降水関係情報に基づいて、計測者が所在する位置での降水量の階級の情報を取得する情報処理手段をさらに備え、
前記記録手段は、当該降水関係情報とともに受信した位置情報に関連付けて、当該取得した降水量の階級の情報を記録する降水情報処理装置。
【請求項8】
計測者の腕に装着されるデバイスを、
装着した計測者の腕の振動を検出し、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する降水情報取得手段と、
装着した計測者の所在位置の情報を取得する位置情報取得手段と、
当該取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、降水情報処理装置へ送出する送信手段と、
として機能させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
各地の降水を調査する方法として、従来より、転倒ます型雨量計(例えば特許文献1)を配置して、当該転倒ます型雨量計を配した位置での雨量を直接計測する方法が知られている。また、このように降水を直接的に計測する方法に代えて、マイクロ波レーダーを利用して、降水によるレーダーエコーを検出する、いわば間接的な計測方法も知られている。マイクロ波レーダーでは、比較的広範囲の雨量分布をリアルタイムに得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-197416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、マイクロ波レーダーを利用する方法では、レーダーの放射するマイクロ波の到達距離に限度があることに加え、地形や温度、湿度等による電波の屈折率の変化による測定誤差が生じるため、直接計測と組み合わせることが前提となっているのが現状である。
【0005】
一方、転倒ます型雨量計を利用する直接計測の方法では、10分間の降水で何回の転倒が発生したかをカウントして降水を調査するためリアルタイム性に欠けるという問題点がある。
【0006】
特に近年問題となっている局地的豪雨を発生させる積乱雲は、10分程度で急速に発達するので、リアルタイム性の欠如は大きな問題となる。また転倒ます型雨量計など、直接計測のための装置を固定的に設置しようとする場合、その設置コストや設置場所の選定も問題となる。例えば人が多く集まるようになった地域に設置しようとしても、すぐには設置できないこともある。
【0007】
このような状況の下、設置のためのコストを低減しつつ、リアルタイム性のある直接計測法が要望されている。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、設置のためのコストを低減し、リアルタイム性のある降水の計測を実現できる降水情報処理システム、降水検出装置、降水情報処理装置、及びプログラムを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決するための本発明の一態様は、計測者の腕に装着される降水検出装置であって、装着した計測者の腕の振動を検出し、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する降水情報取得手段と、装着した計測者の所在位置の情報を取得する位置情報取得手段と、当該取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、降水情報処理装置へ送出する送信手段と、を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、設置のためのコストを低減でき、また、リアルタイム性のある降水の計測を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る降水情報処理システムの構成例を表すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る降水検出装置の例を表す機能ブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る降水情報処理システムの動作例を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る降水情報処理システム1は、図1に例示するように、各地に所在する複数の計測者がそれぞれ所持する降水検出装置10と、これらの降水検出装置10との間で通信可能に接続される降水情報処理装置20とを含んで構成される。
【0013】
本実施の形態の一般的な例では、降水検出装置10は、いわゆるウェアラブル端末であり、計測者(ウェアラブル端末の利用者のうち、後に説明するアプリケーションをインストールした利用者)の腕(特に傘を保持したときに、傘に当たる降水による加速度の変化を計測しやすい肘関節より遠位にある手指側、例えば手首とすることが好適である)に装着されて用いられる。ここでウェアラブル端末は、携帯電話機との間で通信し、データを処理する機能を有するものを含む。このようなウェアラブル端末には、例えばFOSSIL社のTHE CARLYLE(登録商標)等のスマートウォッチや、ガーミン社のViVo(登録商標)等の活動量計のようなものを含む。
【0014】
以下の説明では、この降水検出装置10は、携帯電話機と通信しつつ情報を処理するものとする。このような降水検出装置10は、図1に例示するように、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、通信部15と、センサ部16とを含んで構成される。
【0015】
制御部11は、CPU等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムに従って動作する。本実施の形態の例では、この制御部11は、この降水検出装置10として機能するウェアラブル端末を装着した計測者の腕の振動(具体的には腕に加わる加速度)の情報をセンサ部16から受け入れ、当該振動の情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する。またこの制御部11は、降水検出装置10を装着した計測者の所在位置の情報を、センサ部16から受け入れる。そして制御部11は、取得した降水関係情報と、所在位置の情報とを、降水情報処理装置20へ送出する。この制御部11の動作については後に詳しく説明する。
【0016】
記憶部12は、メモリデバイス等であり、制御部11によって実行されるプログラムを保持する。このプログラムはコンピュータ可読かつ非一時的な記録媒体に格納されて提供されるもので、本実施の形態の例では通信部15を介してこの降水検出装置10として機能するウェアラブル端末に対して提供され、この記憶部12に格納される。またこの記憶部12は、制御部11のワークメモリとしても動作する。
【0017】
操作部13は、表示部14に重ね合わせて配されたタッチパネル等を含む。この操作部13は、装着者の操作を受け入れ、当該操作の内容を制御部11に対して出力する。表示部14は、ディスプレイ等であり、制御部11から入力される指示に従い、情報を表示する。
【0018】
通信部15は、ブルートゥース(登録商標)等の近接通信デバイスであり、予め登録された携帯電話機30との間で通信を行う。例えばこの通信部15は、携帯電話機30が接続している携帯電話通信網を介して、降水関係情報や所在位置の情報等を、降水情報処理装置20へ送出する。また、この通信部15は、当該携帯電話機30からプログラム等を受信して記憶部12に格納する。もっとも通信部15が直接、携帯電話通信網を介して降水情報処理装置20との間で通信可能になっている場合には、この携帯電話機30は必ずしも必要ではない。以下では例示として、携帯電話機30を利用する例を用いて説明する。
【0019】
センサ部16は、図1に例示するように、加速度センサ161や位置計測部162、ジャイロセンサ163などを含んで構成される。ここで加速度センサ161は、予め定められた軸方向、例えばウェアラブル端末の表示部14の面に平行で、表示部14の上下方向をX軸(例えば表示部14に向かって上方を正の方向とする)、表示部14の左右方向をY軸(例えば表示部14に向かって右方を正の方向とする)、表示部14の面に対する法線の方向をZ軸(例えば表示部14に向かって手前に向かう側を正の向きとする)とした、X,Y,Z軸の各軸方向の加速度をそれぞれ検出して、各軸の加速度の大きさを表す情報を繰り返し出力する。
【0020】
また位置計測部162は、GPS(Global Positioning System)衛星等を利用して所在位置の情報を取得する。ジャイロセンサ163は、重力の方向を推定し、降水検出装置10として機能するウェアラブル端末の姿勢の情報(例えば重力の方向を基準とした、表示部14の法線方向を表すオイラー角の情報など)を出力する。センサ部16はこれらのセンサデバイスのほかにも、種々のセンサデバイスを備えてよい。
【0021】
携帯電話機30は、降水検出装置10として機能するウェアラブル端末との間で近接通信を行い、このウェアラブル端末にて実行されるプログラム(降水検出装置10として機能させるためのプログラムを含む)を、ウェアラブル端末に対して送出してインストールさせる。またこの携帯電話機30は、降水検出装置10として機能するウェアラブル端末から受信した降水関係情報や所在位置の情報等を、携帯電話通信網を介して降水情報処理装置20へ送出する。
【0022】
次に、この降水検出装置10における制御部11の動作について説明する。この制御部11は、図2に例示するように、機能的に、振動検出部111と、降水関係情報取得部112と、位置情報取得部113と、送出処理部114とを含んで構成される。
【0023】
振動検出部111は、センサ部16の加速度センサ161から入力される、加速度を表す情報を受け入れる。既に説明したように、本実施の形態の例では、加速度センサ161は、降水検出装置10として機能するウェアラブル端末を装着した装着者(計測者)の腕の加速度を、上記X,Y,Z軸の各軸方向の成分の加速度に分けて検出し、各軸方向の加速度の大きさを表す情報(なお、公知の方法により重力加速度は除かれていてよい)を逐次的に出力している。
【0024】
降水関係情報取得部112は、振動検出部111が受け入れた加速度の情報を用い、当該加速度の情報(振動を表す情報)に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する。本実施の形態の一例において、降水関係情報は、降水量の階級を表す情報であり、例えば、「降水なし」、一時間雨量が10mm未満の「弱い雨」、10mm以上20mm未満の「やや強い雨」、20mm以上50mm未満の「強い雨」、50mm以上の「非常に激しい雨」の5段階のいずれかの段階を表す情報とする。
【0025】
例えば降水関係情報取得部112は、計測者の腕(傘を保持している腕)の振動の情報と、降水に係る情報としての降水量の階級との関係を機械学習した状態にある分類器等の機械学習モデルを用いて計測者が所持する傘に対する降水量の階級を、降水関係情報として取得する。
【0026】
具体的に機械学習した分類器を用いる場合、被験者の腕に降水検出装置10であるウェアラブル端末を装着し、既知の階級の降水があるときに、当該被験者に、降水検出装置10を装着した腕で傘を保持して立つ、歩く、走るなどの動作を行わせて、機械学習のためのデータを用意する。
【0027】
そしてこれらの被験者の動作中に、被験者が装着した降水検出装置10の加速度センサ161が出力する時系列の情報(例えば所定秒数の振動の変化を表す情報)を複数(例えばN回の計測分)得ておき、この時系列の情報を所定の数n(ただしnはNの約数であるとし、m=N/nとする)ごとに区切り、区切って得られたm個のn回の計測分の情報について、それぞれ統計量(分散、累計、平均等の少なくとも一種類を含む)と、当該情報の計測に要した時間などの情報を求め、m個の分類対象情報を生成する。
【0028】
次に、分類器となる決定木などの機械学習モデルに、この分類対象情報を入力し、当該分類器により降水量の階級を推論する。そして当該推論の結果と、正解(実際の既知の降水の階級)との関係に基づいて分類器を更新して、機械学習を行う。ここで分類器は、例えばランダムフォレストや、Ada Boost分類器などの決定木に基づくものだけでなく、SVM(Support Vector Machine)や、K近傍法を用いるものなど、公知の分類器を採用してよい。またその機械学習の方法も、各分類器ごとに広く知られた方法を採用すればよい。
【0029】
また、ここでは時系列の情報を所定の数ごとに区切って、それぞれの統計量を求め、当該求めた統計量をそれぞれ分類対象情報として機械学習処理に供したが、これは一例であり、所定の数ごとに区切らずに、N回の計測分の情報に基づいて統計量を求め、当該求めた統計量を分類対象情報として機械学習処理に供してもよい。
【0030】
降水関係情報取得部112は、振動検出部111が受け入れた複数N回の計測分の加速度の情報(振動の情報)の統計量(分散、累計、平均等の少なくとも一種類を含む)と、当該情報の計測に要した時間などの情報を、分類対象情報として生成する。そして降水関係情報取得部112は、当該生成した分類対象情報を、上記機械学習した状態にある分類器の入力として、当該分類器により、計測者が保持する傘に対する降水の階級の情報を推定して出力する。
【0031】
位置情報取得部113は、位置計測部162が取得した現在の所在位置の情報を得て、送出処理部114に出力する。送出処理部114は、降水関係情報取得部112が推定して取得した降水関係情報としての降水の階級の情報と、位置情報取得部113が得た現在の所在位置の情報とを、降水情報処理装置20へ送出する。一例として、この送出処理部114は、降水の階級の情報と所在位置の情報とを携帯電話機30へ送出して、携帯電話機30に対して、当該降水の階級の情報と所在位置の情報とを降水情報処理装置20へ送出するよう要求する。この例では、降水の階級の情報と所在位置の情報とは、携帯電話機30を介して送出される。
【0032】
降水情報処理装置20は、一般的なサーバ装置であり、各地に所在する計測者が装着している降水検出装置10から、各計測者の使用している傘に対する降水の階級の情報、及び所在位置の情報を取得して記録する。
【0033】
この記録は、現在の各地の降水の階級の情報として利用される。ここで降水検出装置10は、比較的短時間の振動の情報に基づいて降水の階級を推定しており、またこの降水検出装置10は、近年普及しているスマートウォッチ等のウェアラブル端末のアプリケーションとして実装できるので、設置のためのコストを低減しつつ、リアルタイム性のある直接計測を行うことが可能となる。
【0034】
[加速度以外の方法で振動を検出する例]
またここでは振動の情報は、加速度センサ161により検出される加速度の情報であるものとして説明したが、これは一例であり、振動の情報は、他の種類のセンサ、例えばジャイロセンサ163を用いて所定の軸(例えば上述のX,Y,またはZ軸)まわりの角速度の情報を用いてもよい。
【0035】
この例でも、降水関係情報取得部112は、振動検出部111が受け入れた上記角速度の情報を用い、当該角速度の情報を、振動を表す情報として、当該振動を表す情報に基づいて、計測者が所持する傘に対する降水に係る情報を、降水関係情報として取得する。この場合も降水関係情報取得部112は、角速度の情報と降水関係情報との関係を機械学習した状態にある機械学習モデルを利用して、降水関係情報を取得すればよい。
【0036】
このように振動の情報は、傘に落下した降水の影響を検出できるものであれば、どのようなものであっても(複数のセンサの情報を組み合わせたものであっても)構わない。
【0037】
[動作]
本実施の形態の降水情報処理システム1は、基本的に以上の構成を備えており、次のように動作する。以下の例では、スマートウォッチ等のウェアラブル端末を腕に装着した計測者が降水を感じたときに、降水検出装置10を機能的に実現するアプリケーションプログラムを起動して当該ウェアラブル端末を降水検出装置10として機能させ、当該降水検出装置10となったウェアラブル端末を装着した腕で傘を保持して降水の中を行動するものとする。
【0038】
図3に例示するように、各地の計測者のそれぞれが装着する降水検出装置10は、装着された腕(傘を保持している腕)にかかる加速度やジャイロセンサによる角速度など(以下、加速度等と呼ぶ)の情報を繰り返して取得する(S11)。そして降水検出装置10は、計測者の腕(傘を保持している腕)の振動の情報(具体的には当該振動の情報に基づく分類対象情報)と、降水に係る情報としての降水量の階級との関係を機械学習した状態にある分類器を用い、この分類器に、当該加速度等の情報(振動を表す情報)に基づく分類対象情報を入力して、計測者が所持する傘に対する降水量の階級の情報を推定して、降水関係情報として取得する(S12)。
【0039】
ここで、分類器へ入力する分類対象情報は、逐次的に得られた複数N回の測定分の加速度の情報に関する少なくとも一つの統計量(分散や累計など)等の情報とする。
【0040】
降水検出装置10は、また、GPS等により現在の所在位置の情報を得て(S13)、ステップS12で推定して取得した降水関係情報としての降水の階級の情報と、ステップS13で得た現在の所在位置の情報とを、降水情報処理装置20へ送出する(S14)。このステップS14では、計測者が所持する携帯電話機30を介して、上記降水関係情報や所在位置の情報を降水情報処理装置20へ送出することとしてもよい。
【0041】
降水情報処理装置20では、各地の計測者がそれぞれ装着する降水検出装置10から降水関係情報としての降水の階級の情報と、所在位置の情報とを得て、これらを互いに関連付けて記録し(S21)、降水の地域的分布を表す情報を得て分析処理に供する(S22)。
【0042】
本実施の形態のこの例によると、計測者の腕にかかる、降水による振動の情報を比較的短時間だけ計測して降水の階級を推定しており、またこの降水検出装置10は、近年普及しているスマートウォッチ等のウェアラブル端末のアプリケーションとして実装できるので、設置のためのコストを低減しつつ、リアルタイム性のある直接計測を行うことが可能となる。
【0043】
[傘の利用の有無の推定]
また本実施の形態の一例に係る降水検出装置10は、降水検出装置10の姿勢を検出し、当該検出した姿勢が所定の条件を満足する間に検出した前記計測者の腕の振動の情報に基づいて降水関係情報を取得することとしてもよい。
【0044】
すなわち降水検出装置10は、当該降水検出装置10が装着された腕で傘を保持していることが計測のための条件となる。ここまでの説明では、計測者が降水検出装置10を装着した腕で、常に傘を保持していることとしていたが、このような仮定が現実的でない場合がある。
【0045】
そこで、本実施の形態の一例に係る降水検出装置10は、検出した降水検出装置10自身の姿勢が、傘を保持しているときの姿勢となっていることを条件として、当該条件を満足する間に検出した前記計測者の腕の振動の情報に基づいて降水関係情報を取得する。
【0046】
具体的に、降水検出装置10がスマートウォッチ等のように計測者の手首の部分に装着される場合、その腕で傘を保持すると、表示部14の法線方向が水平方向に近い角度になると考えられる。そこでこの例の降水検出装置10は、ジャイロセンサ163の出力に基づいて表示部14の法線方向と、水平との角度の差を求める。ジャイロセンサ163の出力する、重力方向に対するオイラー角に基づいて、水平(重力方向に垂直な方向)との角度の差を求める方法は、広く知られているので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0047】
降水検出装置10は、ここで求めた角度の差が予め定めたしきい値を下回るときに、降水検出装置10自身の姿勢が、傘を保持しているときの姿勢となっている、つまり、計測者が降水検出装置10を装着した腕で傘を保持していると判断する。また、ここで求めた角度の差が予め定めたしきい値を下回らないときには、降水検出装置10は、計測者が降水検出装置10を装着した腕で傘を保持していないと判断する。
【0048】
降水検出装置10は、図3に例示した処理のステップS11において、上述の方法で計測者が降水検出装置10を装着した腕で傘を保持しているか否かを判断(条件判断)し、降水検出装置10を装着した腕で傘を保持していると判断したときに、装着された腕(傘を保持している腕)にかかる加速度等の情報を取得する処理(条件判断から加速度等の情報を取得する処理)を、繰り返して実行する。
【0049】
そして降水検出装置10は、予め定められた時間(例えば30秒)以内に、所定の回数だけ加速度等の情報が取得できたならば、上記処理の繰り返し実行を終了して、ステップS12に移行する。一方、予め定められた時間内に、所定の回数だけ加速度等の情報が取得できなかったときには、処理を中断し、それまでに取得した加速度等の情報を破棄して、ステップS11に戻って処理を続けることとしてもよい。
【0050】
これにより降水検出装置10は、傘を保持している間の、計測者の腕の振動の情報に基づいて降水関係情報を取得することとなる。
【0051】
[加速度の方向]
また、降水検出装置10は、降水関係情報取得部112としての動作において、振動検出部111が受け入れた加速度の情報に基づく分類対象情報を、当該分類器の入力として、計測者が保持する傘に対する降水の階級を推定することとしていたが、この場合の加速度の情報は、
(1)X,Y,Zの各軸方向の加速度の情報の二乗和
(2)X,Y,Zのいずれか一つの軸方向の加速度の情報の二乗値
(3)X,Y,Zのうちから選択した2つの軸方向の加速度の情報の二乗和、
(4)X,Y,Zの各軸方向の加速度の情報に基づいて得られる所定方向(例えば重力加速度の方向)の加速度の二乗和
のいずれかとしてよい。
【0052】
本実施の形態の一例として、降水検出装置10が計測者の手首に装着される場合、当該降水検出装置10を装着した腕で傘を保持すると、重力方向(降水の方向)がここでの例でのY軸方向に実質的に平行となる。この例では、降水検出装置10は、Y軸方向の加速度の情報の二乗和を用い、所定数回の計測分のY軸方向の加速度の情報の二乗和の統計値(分散や累計など)や計測に要した時間等の分類対象情報を入力として分類器を機械学習し、また当該機械学習した状態にある分類器に、計測されたY軸方向の加速度の情報の二乗和に基づく分類対象情報(機械学習に用いたものと同じ種類の情報)を入力して、当該計測の時点での降水の階級の情報を推定することとしてもよい。
【0053】
なお、ジャイロセンサ163を用いる場合も同様に、利用する振動の情報を、
(1)X,Y,Zの各軸まわりの角速度の情報の二乗和
(2)X,Y,Zのいずれか一つの軸まわりの角速度の情報の二乗値
(3)X,Y,Zのうちから選択した2つの軸のそれぞれの軸まわりの角速度の情報の二乗和、
(4)X,Y,Zの各軸の角速度の情報に基づいて得られる所定方向(例えば重力加速度の方向)の角速度の二乗和
のいずれかなどとしてよい。
【0054】
[降水検出装置以外の装置により降水の階級を取得する例]
またここまでの説明では、降水検出装置10が自ら検出した加速度の情報(振動の情報)に基づいて降水の階級の情報を得ていたが、本実施の形態はこれに限られない。
【0055】
本実施の形態のある例では、降水検出装置10は、検出した加速度の情報をそのまま降水関係情報として所在位置の情報とともに携帯電話機30に送出し、携帯電話機30が、当該降水関係情報である複数回の計測分の加速度の情報の統計値(分散や累計など)やその計測に要した時間等の分類対象情報(以下、降水関係情報に基づく分類対象情報と呼ぶ)を得る。そして携帯電話機30は、この降水関係情報に基づく分類対象情報を入力として、対応する降水の階級の情報を出力するよう機械学習した状態にある分類器を用い、降水検出装置10から受け入れた降水関係情報に基づく分類対象情報を入力して、降水の階級の情報を得てもよい。この場合、携帯電話機30は、当該得た降水の階級の情報と、降水検出装置10から受け入れた所在位置の情報とを、降水情報処理装置20に対して送出する。
【0056】
さらに本実施の形態の別の例では、降水検出装置10は、検出した加速度の情報をそのまま降水関係情報として、所在位置の情報とともに降水情報処理装置20に対して送出する。そしてこの例では、降水情報処理装置20が、降水関係情報に基づく分類対象情報を入力として、対応する降水の階級の情報を出力するよう機械学習した状態にある分類器を用いて、降水検出装置10から受け入れた降水関係情報に基づく分類対象情報を入力して、降水の階級の情報を得る。
【0057】
いずれの場合も、降水情報処理装置20は、受け入れた所在位置の情報と降水関係情報とを関連付けて記憶し、当該記憶した情報を、所定の降水に関する情報処理に供する。
【0058】
[分類器に代替する例]
また、降水検出装置10や降水情報処理装置20等において、降水検出装置10が検出した、傘を保持する計測者の腕に対する振動の情報(加速度の情報等)から、降水の階級など、降水量に関係する情報を得る方法は、ここまでに説明した分類器による例に限られない。
【0059】
例えば降水検出装置10等は、傘を保持する計測者の腕に対する振動の時系列の情報(複数回に亘って計測された加速度の情報等)あるいはその特徴量と、降水量の値との関係を機械学習した状態にあるニューラルネットワークを利用して、複数回に亘って計測された加速度の情報から降水量に関係する情報を得てもよい。
【0060】
さらに別の例では機械学習された状態にある機械学習モデルに代えて、加速度に関する特徴量等(例えば最大振幅や周波数等)から直接、降水量に関係する情報を得てもよい。
【0061】
[実施形態の効果]
本実施の形態の例によると、複数回に亘って計測された加速度の情報等、比較的短時間に計測できる情報に基づいて、位置情報や降水量に関する情報を得ることができ、またスマートウォッチ等のウェアラブル端末に実装し、降水情報処理装置にその位置情報や降水量に関する情報を収集して処理でき、設置のためのコストを低減しつつ、リアルタイム性のある直接計測を行うことが可能となる。
【実施例0062】
次に、本発明の降水検出装置に係る実施例について説明する。以下の例では、降水の階級を推定するための分類器を次のようにして生成しておく。
【0063】
すなわち、傘を保持したときに下方となる方向(Y軸方向とする)の加速度を計測可能なウェアラブル端末を装着した被験者が、既知の階級の降水があるときに、当該ウェアラブル端末を装着した腕で傘を保持した状態で、当該Y軸方向の加速度の計測結果を所定のタイミングごとに1000回取得する。ここで取得した計測結果を8回ずつに区切り、125個の情報のグループを得て、当該グループのそれぞれについて、8回の計測分の加速度の情報の分散と累計、及び、8回の計測に要する時間とを分類対象情報として生成する。
【0064】
そしてこの分類対象情報を、分類器であるランダムフォレスト分類器に入力し、分類結果を得る。この分類結果と、降水の既知の階級とを比較し、ランダムフォレスト分類器を更新して機械学習する。この機械学習処理を、互いに異なる既知の階級の降水についてそれぞれ複数回行って、ランダムフォレスト分類器を、分類対象情報を入力とし、対応する降水の階級の情報を出力するよう機械学習した状態としておく。
【0065】
そして計測者が降水検出装置10として機能させるためのアプリケーションをインストールしたウェアラブル端末を腕に装着し、当該腕で傘を保持して降水の中に立った状態とし、当該降水検出装置10として機能するウェアラブル端末が、Y軸方向の加速度の計測結果を所定のタイミングごとに複数回取得し、取得した複数回の計測分の加速度の情報の分散と累計、及び、その計測に要した時間とを分類対象情報として生成する。
【0066】
そして降水検出装置10として機能するウェアラブル端末が、上記機械学習した状態にあるランダムフォレスト分類器に、ここで生成した分類対象情報を入力して、分類結果である降水の階級を推定して取得する。
【0067】
この推定の結果を、種々の降水の状況について得て、人為的に判断した降水の階級と一致する確率を求めたところ、その確率は0.853となった。すなわち、本発明の実施例によると、傘を保持する計測者の、当該傘を保持している腕の振動を、ウェアラブル端末で計測し、当該計測結果に基づいて傘に対する降水量に関する情報を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1 降水情報処理システム、10 降水検出装置、11 制御部、12 記憶部、13 操作部、14 表示部、15 通信部、16 センサ部、20 降水情報処理装置、30 携帯電話機、111 振動検出部、112 降水関係情報取得部、113 位置情報取得部、114 送出処理部、161 加速度センサ、162 位置計測部、163 ジャイロセンサ。


図1
図2
図3