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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185498
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】皮膚細菌感染症の予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20221207BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221207BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20221207BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P31/04
A61P17/00 101
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093234
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 友基
(72)【発明者】
【氏名】藤井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 早和子
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 慶彦
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME09
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF14
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC50
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZA90
4C087ZB35
(57)【要約】
【課題】スタフィロコッカス・アウレウスによる皮膚感染を抑制し、皮膚細菌感染症の予防又は改善に有用な素材を提供する。
【解決手段】ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤。
【請求項2】
ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善剤。
【請求項3】
ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制用食品。
【請求項4】
ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善用食品。
【請求項5】
ナイセリア属細菌が、ナイセリア・ムコサ、ナイセリア・シッカ、ナイセリア・フラバ、ナイセリア・サブフラバ、ナイセリア・フラべセンス及びナイセリア・エロンガータから選ばれる1種以上である、請求項1又は2記載の剤又は請求項3又は4記載の食品。
【請求項6】
皮膚細菌感染がスタフィロコッカス・アウレウスによる皮膚感染である、請求項2若しくは5記載の剤又は請求項4若しくは5記載の食品。
【請求項7】
スタフィロコッカス・アウレウスが薬剤耐性スタフィロコッカス・アウレウスである、請求項1、5及び6のいずれか1項記載の剤又は請求項3、5及び6のいずれか1項記載の食品。
【請求項8】
菌体培養物が、ナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養した培養物であるか、又はナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養し、菌体及び培地成分を除去したEPS含有培養物である、請求項1、2、5、6及び7のいずれか1項記載の剤、又は請求項3、4、5、6及び7のいずれか1項記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚細菌感染症の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、細菌感染を防ぐバリアとしての役目を果たしており、正常な状態では細菌感染が成立することはない。しかしながら、熱傷、ひび割れ、外科的創傷、カテーテル挿入等による皮膚損傷部位の他、アトピー性皮膚炎、糖尿病又は免疫疾患の罹患者においては、しばしば細菌感染が起こり、皮膚の表皮、真皮又は皮下層に重症な炎症を引き起こす。斯かる皮膚感染を齎す原因菌は、主としてブドウ球菌(Staphylococcus)とレンサ球菌(Streptococcus)が知られ、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、以下、スタフィロコッカス・アウレウスという。)による感染が多い。
【0003】
例えば、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚では、健常者と比べてスタフィロコッカス・アウレウスのコロニー形成が増大することが報告され(非特許文献1、2)、スタフィロコッカス・アウレウスの皮膚における存在密度(the average density of S.aureus)と重症度(Skin grade of AD patients)が相関することが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
また、スタフィロコッカス・アウレウスによる皮膚感染が皮膚バリアの破壊・損傷を引き起こし、炎症を促進することも報告されている(非特許文献3)。さらに、スタフィロコッカス・アウレウスによる感染が、内因性プロテアーゼkallikreins(KLKs)の活性を促進させ、皮膚バリア機能を構成するタンパク質であるdesmoglein-1とfilaggrinタンパク質分解を促進し、皮膚バリアの破壊を引き起こすことも報告されている(非特許文献4)。アトピー性皮膚炎の患者においても、スタフィロコッカス・アウレウスが皮膚バリア機能低下を引き起こすことで表皮バリアを通過し真皮内へ侵入し、アトピーの重症化を招くことが報告されている(非特許文献5)。
【0005】
したがって、スタフィロコッカス・アウレウスによる感染を抑制することは、皮膚細菌感染症の予防又は治療に重要である。皮膚細菌感染症の予防又は治療には、原因菌に対する殺菌剤や抗生物質が挙げられるが、これらの技術は強い殺菌効果、静菌効果のため、正常な皮膚細菌叢を破壊してしまう可能性の他、耐性菌の出現の原因となり、重大な疾患を招く恐れがある。
【0006】
一方、ナイセリア・ムコサ、ナイセリア・シッカ、ナイセリア・フラバ、ナイセリア・サブフラバ、ナイセリア・フラべセンス、ナイセリア・エロンガータ等のナイセリア属細菌は、口腔内における非病原性の常在菌としてその存在が知られているが、それらの機能については明らかとなっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Park HY, Kim CR, Huh IS, et al. Staphylococcus aureus Colonization in Acute and Chronic Skin Lesions of Patients with Atopic Dermatitis. Ann Dermatol. 2013;25(4):410-416.
【非特許文献2】Higaki S, Morohashi M, Yamagishi T, Hasegawa Y. Comparative study of staphylococci from the skin of atopic dermatitis patients and from healthy subjects. Int J Dermatol. 1999 Apr;38(4):265-9.
【非特許文献3】Williams MR, Costa SK, Zaramela LS, Khalil S, Todd DA, Winter HL, Sanford JA, O'Neill AM, Liggins MC, Nakatsuji T, Cech NB, Cheung AL, Zengler K, Horswill AR, Gallo RL. Quorum sensing between bacterial species on the skin protects against epidermal injury in atopic dermatitis. Sci Transl Med. 2019 May 1;11(490):eaat8329.
【非特許文献4】Williams MR, Nakatsuji T, Sanford JA, Vrbanac AF, Gallo RL. Staphylococcus aureus Induces Increased Serine Protease Activity in Keratinocytes. J Invest Dermatol. 2017 Feb;137(2):377-384.
【非特許文献5】Nakatsuji T, Chen TH, Two AM, Chun KA, Narala S, Geha RS, Hata TR, Gallo RL. Staphylococcus aureus Exploits Epidermal Barrier Defects in Atopic Dermatitis to Trigger Cytokine Expression. J Invest Dermatol. 2016 Nov;136(11):2192-2200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、スタフィロコッカス・アウレウスによる皮膚感染を抑制し、皮膚細菌感染症の予防又は改善に有用な素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非病原性の口腔常在菌として知られるナイセリア属細菌の菌体又はその培養物が、スタフィロコッカス・アウレウスによる細胞感染を抑制し、皮膚細菌感染症の予防又は治療剤として有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤。
2)ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善剤。
3)ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制用食品。
4)ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善用食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のナイセリア属細菌は、非病原性の口腔常在菌であることから、健常者はもとより、老齢者、病後の人でも長期間に亘って摂取可能な、皮膚細菌感染症の予防又は改善剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ナイセリア属細菌のスタフィロコッカス・アウレウス感染阻害効果。
図2】ナイセリア・ムコサ菌体培養物のスタフィロコッカス・アウレウス感染阻害効果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において用いられるナイセリア属細菌としては、ナイセリア(Neisseria)科ナイセリア属に属するグラム陰性球菌が挙げられ、具体的には、ナイセリア・ムコサ(Neisseria mucosa)、ナイセリア・シッカ(Neisseria sicca)、ナイセリア・フラバ(Neisseria flava)、ナイセリア・サブフラバ(Neisseria subflava)、ナイセリア・フラべセンス(Neisseria flavescens)、ナイセリア・エロンガータ(Neisseria elongata)等が挙げられ、好ましくはナイセリア・ムコサである。
これらは、いずれも非病原性の口腔常在菌として知られており、ヒトの唾液や歯垢等から単離することができる。
また、公的な微生物寄託機関より所定の微生物株を入手することができる(Neisseria mucosa:JCM12992株、Neisseria sicca:ATCC29256株、Neisseria elongata:ATCC25295株、Neisseria flava :ATCC14221株、Neisseria subflava:ATCC49275株、Neisseria flavescens:ATCC13120株)。
【0014】
本発明において、ナイセリア属細菌の「菌体」としては、ナイセリア属細菌の生菌体、湿潤菌体、乾燥菌体のいずれでもよい。また、生菌体のみならず死菌体であってもよい。また、菌体には、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分等の菌体成分も包含される。
ナイセリア属細菌の「菌体培養物」としては、培地成分、菌体及び菌体外高分子物質(Extracellular Polymeric Substances;EPS)等を含む培養物の他、培養物から培地成分を除去した菌体及びEPSを含む培養物、培養物から菌体を除去した培地成分及びEPSを含む培養物、又は培養物から培地成分と菌体を除去したEPSを含む培養物等が挙げられる。
本発明の菌体又は菌体培養物は、所望により凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、液体への懸濁等、使用目的に応じて任意の形態に調製することができる。
【0015】
本発明のナイセリア属細菌を培養する培地には、栄養源として、ペプトン等を含んでいるものであれば特に限定されず、例えば、BHI培地(日本BD社製)等を例示することができる。
培養方法は、ナイセリア属細菌の菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はないが、例えば20~40℃、好ましくは35~38℃で、好気条件下、より好ましくはCO濃度5%下若しくは微好気条件下で16~72時間、培養することが挙げられる。
【0016】
なお、本発明において、ナイセリア属細菌の菌体培養物を用いる場合、ナイセリア属細菌の培養は、歯周病原菌(例えば、ポルフィロモナス・ジンジヴァリス(Porphyromonas gingivalis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、セレノモナス・スプチゲナ(Selenomonas sputigena)等)の培養上清、好ましくはポルフィロモナス・ジンジヴァリスを嫌気存在下で培養し、得られた培養液から遠心分離等により菌体を除去して得られる培養上清を添加した。添加後の培養方法は、EPSが十分量産生される条件であれば、特に制限はないが、EPS産生の観点から20~40℃が好ましく、さらに35~38℃がより好ましく、好気条件下、より好ましくはCO濃度5%下若しくは微好気条件下で24時間以上行われるのが好ましい。
また、EPS中にポルフィロモナス・ジンジヴァリス菌体及び菌体破砕物の混入を防ぐという観点から、培養上清をフィルター滅菌等で滅菌した後に添加し、35~38℃、CO濃度5%下若しくは微好気条件下で24時間以上行われるのがより好ましい。
歯周病原菌の培養上清の添加量は、EPS産生誘導効果の観点から0.05v/v%以上、更に0.5v/v%以上、更に5v/v%以上であるのが好ましく、また、EPS回収量の観点から、50v/v%以下、更に30v/v%以下、更に10v/v%以下であるのが好ましい。
【0017】
本発明において、ナイセリア属細菌の菌体培養物としては、ナイセリア・ムコサの菌体培養物であるのが好ましく、ナイセリア・ムコサを、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスを嫌気存在下で培養した培養液を添加して、培養した培養物であるのがより好ましい。
【0018】
後記実施例に示すように、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物は、スタフィロコッカス・アウレウスのHeLa細胞への感染阻害効果を有する。
従って、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物はスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤、皮膚細菌感染症の予防又は改善剤となり得、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物はスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤、皮膚細菌感染症の予防又は改善剤を製造するために使用できる。
また、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物は、スタフィロコッカス・アウレウス感染を抑制するため、皮膚細菌感染症を予防又は改善するために使用できる。ここで、当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物、両生類、及び軟骨魚類が挙げられ、非ヒト哺乳動物としては、例えば類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ハムスター、及びコンパニオン動物等が挙げられる。
【0019】
本発明において、「皮膚細菌感染症」とは、主としてスタフィロコッカス・アウレウスによってひき起こされる皮膚感染症を意味し、蜂窩織炎、丹毒、伝染性膿痂疹、毛包炎、深在性皮膚感染症、せつ、よう、化膿性爪囲炎等が挙げられる。
本発明において、スタフィロコッカス・アウレウスとは、通性嫌気性のグラム陽性球菌であるStaphylococcus aureusを意味し、薬剤耐性のスタフィロコッカス・アウレウス(例えば、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(VRSA)等)を包含する。
また、「スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制」とは、スタフィロコッカス・アウレウスの動物細胞への感染を抑制することを意味し、感染阻害を包含する。
【0020】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
また、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延を意味し、所謂「治療」の概念が包含される。
【0021】
本発明のスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤、皮膚細菌感染症の予防又は改善剤は、それ自体で、スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制のため、皮膚細菌感染抑症の予防又は改善のための医薬品、医薬部外品、食品となり、また当該医薬品、医薬部外品、食品に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
なお、食品には、皮膚細菌感染症の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、サプリメントが包含される。
【0022】
医薬品(医薬部外品を含む)として用いる場合の形態としては経口投与及び非経口投与の何れであってもよい。経口投与のための剤型としては、例えば、液剤;錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレット等の固形剤;或いは当該液剤又は固形剤を封入したカプセル剤、口腔用スプレー、トローチ等の様々な形態が挙げられる。非経口投与のための剤型としては、皮膚外用、経皮、経粘膜、貼付、経鼻、経腸、坐剤、注射、吸入等の各製剤が挙げられる。このうち、好適な製剤形態は皮膚外用剤であり、具体的には、軟膏、乳化液、クリーム、乳液、ローション、ジェル、エアゾール等の形態が挙げられる。このような種々の剤型の医薬製剤は、ナイセリア・ムコサの菌体又は菌体培養物の作用を妨げない範囲で、他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0023】
食品として用いる場合の形態としては、果汁又は野菜汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、乳飲料、発酵乳、発酵果汁、発酵野菜汁、アルコール飲料、清涼飲料等の飲料や、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ジャム、パン、ガム、飴、スープ類、漬物、佃煮等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)のサプリメント等が挙げられる。当該食品は、ナイセリア・ムコサの菌体又は菌体培養物を、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は食品に許容される添加物(例えば溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤等)等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0024】
上記医薬品(医薬部外品を含む)又は食品へのナイセリア属細菌の菌体の含有量は、特に限定されないが、一日投与量等に合わせて適宜調節すれば良い
【0025】
上記医薬品(医薬部外品を含む)又は食品において、ナイセリア属細菌の菌体投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができるが、例えば、ナイセリア属細菌の菌数で表すと、一日当たりの服用量としては好ましくは5×10個以上、より好ましくは1×1010個以上、さらに好ましくは1×1011個以上、且つ、好ましくは1×1014個以下、より好ましくは、1×1013個以下、さらに好ましくは、1×1012個以下を挙げることができる。また、ナイセリア属細菌の菌体培養物の投与量は、成人一人、一日当たり、乾燥重量として好ましくは1mg以上、より好ましくは100mg以上、さらに好ましくは500mg以上、且つ、好ましくは5000mg以下、より好ましくは2500mg以下、さらに好ましくは1000mg以下が挙げられる。
【0026】
本発明のスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤、スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制用食品、皮膚細菌感染症の予防又は改善剤、皮膚細菌感染症の予防又は改善用食品の投与又は摂取対象としては、好ましくは皮膚細菌感染症を発症しているヒト、皮膚細菌感染症の発症予防を望むヒト、例えば、皮膚細菌感染症を併発するリスクのあるアトピー性皮膚炎患者、皮膚細菌感染による皮膚バリア機能の低下又は脆弱化の抑制を望むヒト等が挙げられる。
【0027】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤。
<2>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善剤。
<3>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とするスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制用食品。
<4>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を有効成分とする皮膚細菌感染症の予防又は改善用食品。
【0028】
<5>スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制剤を製造するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の使用。
<6>皮膚細菌感染症の予防又は改善剤を製造するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の使用。
<7>スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制用食品を製造するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の使用。
<8>皮膚細菌感染症の予防又は改善用食品を製造するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の使用。
【0029】
<9>スタフィロコッカス・アウレウス感染抑制に使用するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物。
<10>皮膚細菌感染症の予防又は改善に使用するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物。
【0030】
<11>スタフィロコッカス・アウレウス感染を抑制するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の非治療的使用。
<12>皮膚細菌感染症を予防又は改善するための、ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物の非治療的使用。
【0031】
<13>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取するスタフィロコッカス・アウレウス感染抑制方法。
<14>ナイセリア属細菌の菌体又は菌体培養物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取する皮膚細菌感染症の予防又は改善方法。
【0032】
<15><1>~<14>において、ナイセリア属細菌は、ナイセリア・ムコサ、ナイセリア・シッカ、ナイセリア・フラバ、ナイセリア・サブフラバ、ナイセリア・フラべセンス及びナイセリア・エロンガータから選ばれる1種以上であり、好ましくはナイセリア・ムコサである。
<16><2>、<4>、<6>、<8>、<10>、<12>及び<14>において、皮膚細菌感染はスタフィロコッカス・アウレウスによる皮膚感染である。
<17><1>、<3>、<5>、<7>、<9>、<11>、<13>及び<16>において、スタフィロコッカス・アウレウスは薬剤耐性スタフィロコッカス・アウレウスである。
<18><1>~<14>において、菌体培養物は、好ましくは、ナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養した培養物であるか、又はナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養し、菌体及び培地成分を除去したEPS含有培養物である。
【実施例0033】
実施例1 ナイセリア属細菌のスタフィロコッカス・アウレウス感染に対する阻害効果
(1)細胞培養条件
HeLa細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC)より入手した。
DMEM/F12 (Gibco,containing 10v/v% FBS,1v/v% Penicillin-Streptomycin)を用いて、温度37℃、CO濃度5%にてHeLa細胞を培養した。
【0034】
(2)細菌培養条件
スタフィロコッカス・アウレウスは独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手し、ナイセリア属の細菌はATCC若しくは国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソース研究センターより6菌種を入手した(表1)。いずれの細菌もコロニー培養はBrain Heart Infusion(BHI)Agar培地(日本ベクトンディッキンソン(以下、日本BD))を用い、液体培養はBHI培地(日本BD)を用いて培養を行った。スタフィロコッカス・アウレウスは温度37℃で好気培養し、ナイセリア属細菌は温度37℃、CO濃度5%条件下で培養した。
スタフィロコッカス・アウレウスは24時間液体培養した後に、1,000倍希釈でさらに24時間液体培養した菌体を使用し、ナイセリア属の細菌は24時間液体培養した後に、100倍希釈でさらに48時間液体培養した菌体を使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
(3)試薬
標識試薬であるCarboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester(CFSE)は同仁化学より購入しDMSOに溶解後、終濃度10μMで用いた。
【0037】
(4)菌体の蛍光標識方法
スタフィロコッカス・アウレウス培養液を22℃、4,500g、10分間の遠心を行い沈殿した菌体を回収した。回収した菌体は、PBS(-)、続いてDMEM/F12(Gibco)を用いて22℃、4,500g、5分間の遠心で洗浄後、OD600=2.0に調整し、10μM CFSE溶液(dissolving DMEM/F12)中で37℃、暗所下で30分間インキュベートし、蛍光標識を行った。蛍光標識した菌体をDMEM/F12(Gibco)を用いて22℃、4,500g、5分間の遠心で2回洗浄後、菌体懸濁液の濁度を調整することでCFSE標識されたスタフィロコッカス・アウレウス菌体溶液を作製した。
【0038】
(5)感染方法
12ウェルプレートにコンフルエントとなったHeLa細胞から培地を除去後、PBS(-)を用いて洗浄し、各種ナイセリア属細菌及びCFSE標識されたスタフィロコッカス・アウレウスをDMEM/F12(Gibco)に懸濁して、それぞれMultiplicity of Infection(MOI)=500で添加し、2時間共培養することにより細胞へと感染させた。対照群として、ナイセリア属細菌を添加しない群(Control)も準備した。
【0039】
(6)感染細胞の解析方法
CFSE標識されたスタフィロコッカス・アウレウスを感染させたHeLa細胞から培地を除去し、PBS(-)を用いて2回洗浄した後に、400μL 0.25% Trypsin-EDTA(Gibco)を用いて感染細胞を剥離した。750μL DMEM/F12(Gibco,containing 10v/v% FBS)を添加し、溶液全量を1.5mL tubeに回収後、4℃、400g、5分間の遠心を行うことで感染細胞を回収した。上清を捨て、400μLの4% パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(Wako)を加えてピペッティングし、4℃にて10分間固定処理を行った。800μL PBS(containing 2v/v%FBS)を加えてピペッティング後、4℃、600g、5分間の遠心を行い、200μL PBS(containing 2v/v% FBS)に懸濁することで、解析サンプルとした。
解析には、Flow cytometry(BD,FACSVerse)を使用した。forward scatter(FSC),side scatter(SSC)に基づいてgatingした細胞20,000個のFITC channelで得られる蛍光強度からMean fluorescence intensity(MFI)を算出し、蛍光標識したスタフィロコッカス・アウレウスが付着・感染した細胞を検出することで細胞感染能を評価した。結果を図1に示す。
【0040】
(7)統計解析
得られた結果は、各サンプルのMFIをドットで示すとともに、各群の平均値±標準偏差(Mean±standard deviation (SD))を棒グラフで表した。平均値の差の検定は、統計解析ソフトSPSS(IBM)を用いて、Dunnett’s testを行い、P値が0.05未満(*p<0.05)、0.01未満(**p<0.01)、0.001未満(***p<0.001)の場合は、統計学的有意な差とした。
【0041】
(8)結果
細胞感染能の評価において、対照(Control)と比較して、Neisseria mucosa(N.mucosa)、Neisseria sicca(N.sicca)、Neisseria elongata(N.elongata)、Neisseria flava(N.flava)、Neisseria subflava(N.subflava)、及びNeisseria flavescens(N.flavescens)でMean fluorescence intensity(細胞感染能)の有意な低下が認められた(図1)。
【0042】
実施例2 ナイセリア・ムコサの菌体培養物のスタフィロコッカス・アウレウス感染に対する阻害効果
(1)ナイセリア・ムコサ菌体培養物の調製
ナイセリア・ムコサはBHI培地300mLを用いて温度37℃、CO濃度5%で48時間培養することで、培養液を準備した。
ナイセリア・ムコサ培養液に、終濃度5v/v%となるように調製したポルフィロモナス・ジンジヴァリス培養上清を添加し、温度37℃、CO濃度5%で48時間培養した後に、培養液20mLを50mL tubeに回収した。なお、ポルフィロモナス・ジンジヴァリス培養上清は、ATCCより入手したポルフィロモナス・ジンジヴァリス(ATCC 33277株)をアネロコロンビア寒天培地(日本BD)上で37℃、嫌気条件で24時間以上培養することで生えてきたコロニーを、GAMブイヨン培地(日水製薬,5.0μg/mL Hemin,17.4μg/mL KHPO,1.0μg/mL Vitamin K含有)に懸濁し、同様に37℃、嫌気条件で24時間培養することで得られた液体培養液を、新しいGAMブイヨン培地に終濃度1v/v%で添加し、嫌気条件下、37℃、24時間の培養後に得られた培養液を13,000g、4℃、15分間の遠心分離して菌体を除去し、上清画分を0.22μmのフィルターでろ過滅菌することにより調製した。
ナイセリア・ムコサ菌体培養物を含んだ培養液から培地成分を除去するために16,000g、4℃、30分間の遠心分離の後に上清を捨て、超純水を20mL添加、ボルテックスで激しく懸濁して洗浄した。この洗浄を6回繰り返した。洗浄後、同様に遠心分離を行い、沈殿した菌体・EPSを含む菌体培養物を超純水に分散させ、超音波処理を行った。
超音波処理は、BRANSON SONIFIER 150を使用し、パワー4、破砕20秒→冷却20秒を5セットの条件で超音波処理後、16,000g、4℃、30分間にて菌体を沈殿させ、上清を新しい50mL tubeへ回収した。
菌体を完全に除去するため、回収した上清を再度16,000g、4℃、30分の遠心分離を行い、上清を回収した。
回収した上清を凍結乾燥することで、菌体及び培地成分を除去し、EPSを含むナイセリア・ムコサの菌体培養物を得た。
【0043】
(2)感染ならびに感染細胞の評価
(1)で調製したナイセリア・ムコサの菌体培養物は、DMEM/F12(Gibco)に終濃度0.00625w/v%、0.025w/v%、0.1w/v%で溶解させ、実施例1と同様の方法により、スタフィロコッカス・アウレウスのHeLa細胞への感染に対する阻害効果を評価した。結果を図2に示す。
【0044】
(4)結果
細胞感染能の評価において、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を溶解していない対照(0)と比較して、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を溶解させた群(終濃度0.00625w/v%(0.00625%)、0.025w/v%(0.025%)、及び0.1w/v%(0.1%))でMean fluorescence intensity(細胞感染能)の有意な低下が認められた(図2)。
図1
図2