(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185510
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】腸管感染症の予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20221207BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221207BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221207BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20221207BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20221207BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P31/04
A61P1/04
C12N1/20 E
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093250
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 友基
(72)【発明者】
【氏名】藤井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 早和子
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 慶彦
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME09
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF14
4B065AA01X
4B065BD11
4B065BD15
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC50
4C087CA09
4C087CA10
4C087MA13
4C087MA16
4C087MA31
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4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
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4C087MA55
4C087MA56
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA68
4C087ZB35
(57)【要約】
【課題】サルモネラ菌による腸管感染を抑制し、腸管感染症の予防又は改善に有用な素材を提供する。
【解決手段】ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制剤。
【請求項2】
ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善剤。
【請求項3】
ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制用食品。
【請求項4】
ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善用食品。
【請求項5】
腸管感染がサルモネラ菌による腸管感染である、請求項1又は2記載の剤又は請求項3又は4記載の食品。
【請求項6】
サルモネラ菌が薬剤耐性サルモネラ菌である、請求項1若しくは5記載の剤、又は請求項3若しくは5記載の食品。
【請求項7】
菌体培養物が、ナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養した培養物であるか、又はナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養し、菌体及び培地成分を除去したEPS含有培養物である、請求項1、2、5及び6のいずれか1項記載の剤、又は請求項3、4、5及び6のいずれか1項記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管感染症の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ(Salmonella enterica)は、ヒトや動物に対して病原性を持つ代表的な食中毒原因菌である(非特許文献1)。サルモネラによる感染は、健康な成人ではその症状が急性胃腸炎にとどまるが、小児や高齢者では重篤となることがある。サルモネラ感染による胃腸炎は、まず悪心および嘔吐で始まり、数時間後に腹痛および下痢を起こす。小児では意識障害、痙攣および菌血症、高齢者では急性脱水症および菌血症を起こすなど重症化しやすく、回復も遅れる傾向がある。
【0003】
一般に、細菌性胃腸炎では、発熱と下痢による脱水の補正と腹痛など胃腸炎症状の緩和を中心に、対症療法を行うのが原則である。抗菌薬は軽症例では使用しないのが原則であるが、重症例では、アンピシリン、ホスホマイシン及びニューキノロン薬が使用される。
しかしながら、抗菌薬の投与によって腸内細菌叢が撹乱され、除菌が遅れるうえ、耐性菌の誘発、サルモネラに対する易感染性を高めるなどの理由から、投与には注意が必要である。
【0004】
一方、ナイセリア・ムコサ、ナイセリア・シッカ、ナイセリア・フラバ、ナイセリア・サブフラバ、ナイセリア・フラべセンス、ナイセリア・エロンガータ等のナイセリア属細菌は、口腔内における非病原性の常在菌としてその存在が知られているが、それらの機能については明らかとなっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shu-Kee Eng, Priyia Pusparajah, Nurul-Syakima Ab Mutalib, Hooi-Leng Ser, Kok-Gan Chan & Learn-Han Lee (2015) Salmonella: A review on pathogenesis, epidemiology and antibiotic resistance, Frontiers in Life Science, 8:3, 284-293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、サルモネラ菌による腸管感染を抑制し、腸管感染症の予防又は改善に有用な素材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非病原性の口腔常在菌として知られるナイセリア・ムコサの菌体培養物が、サルモネラ菌による細胞感染を抑制し、腸管感染症の予防又は治療剤として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制剤。
2)ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善剤。
3)ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制用食品。
4)ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善用食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のナイセリア・ムコサは、非病原性の口腔常在菌であることから、健常者はもとより、老齢者、病後の人でも長期間に亘って摂取可能な、腸管感染症の予防又は改善剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ナイセリア・ムコサ菌体培養物のサルモネラ・エンテリカに対する感染阻害効果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において用いられるナイセリア・ムコサ(Neisseria mucosa)は、ナイセリア(Neisseria)科ナイセリア属に属するグラム陰性球菌であり、非病原性の口腔常在菌である。
ナイセリア・ムコサは、ヒトの唾液や歯垢等から単離することができる。また、JCMより入手(ナイセリア・ムコサ JCM12992株(ATCC19696株))することができる。
【0012】
本発明において、ナイセリア・ムコサの「菌体培養物」としては、培地成分、菌体及び菌体外高分子物質(Extracellular Polymeric Substances;EPS)等を含む培養物の他、培養物から培地成分を除去した菌体及びEPSを含む培養物、培養物から菌体を除去した培地成分及びEPSを含む培養物、又は培養物から培地成分と菌体を除去したEPSを含む培養物等が挙げられる。
ナイセリア・ムコサの菌体培養物に含まれる「菌体」としては、ナイセリア・ムコサの生菌体、湿潤菌体、乾燥菌体のいずれでもよい。また、生菌体のみならず死菌体であってもよい。また、菌体には、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分等の菌体成分も包含される。
本発明の菌体培養物は、所望により凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、液体への懸濁等、使用目的に応じて任意の形態に調製することができる。
【0013】
本発明のナイセリア・ムコサを培養する培地には、栄養源として、ペプトン等を含んでいるものであれば特に限定されず、例えば、BHI培地(日本BD社製)等を例示することができる。
培養方法は、ナイセリア・ムコサの菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はないが、例えば20~40℃、好ましくは35~38℃で、好気条件下、より好ましくはCO2濃度5%下若しくは微好気条件下で16~72時間、培養することが挙げられる。
【0014】
なお、本発明において、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を用いる場合、ナイセリア・ムコサの培養は、歯周病原菌(例えば、ポルフィロモナス・ジンジヴァリス(Porphyromonas gingivalis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、セレノモナス・スプチゲナ(Selenomonas sputigena)等)の培養上清、好ましくはポルフィロモナス・ジンジヴァリスを嫌気存在下で培養し、得られた培養液から遠心分離等により菌体を除去して得られる培養上清を添加した。添加後の培養方法は、EPSが十分量産生される条件であれば、特に制限はないが、EPS産生の観点から20~40℃が好ましく、さらに35~38℃がより好ましく、好気条件下、より好ましくはCO2濃度5%下若しくは微好気条件下で24時間以上行われるのが好ましい。
また、EPS中にポルフィロモナス・ジンジヴァリス菌体及び菌体破砕物の混入を防ぐという観点から、培養上清をフィルター滅菌等で滅菌した後に添加し、35~38℃、CO2濃度5%下若しくは微好気条件下で24時間以上行われるのがより好ましい。
歯周病原菌の培養上清の添加量は、EPS産生誘導効果の観点から0.05v/v%以上、更に0.5v/v%以上、更に5v/v%以上であるのが好ましく、また、EPS回収量の観点から、50v/v%以下、更に30v/v%以下、更に10v/v%以下であるのが好ましい。
【0015】
後記実施例に示すように、ナイセリア・ムコサの菌体培養物は、サルモネラ菌のHeLa細胞への感染阻害効果を有する。
従って、ナイセリア・ムコサの菌体培養物はサルモネラ菌感染抑制剤、腸管感染症の予防又は改善剤となり得、ナイセリア・ムコサの菌体培養物はサルモネラ菌感染抑制剤、腸管感染症の予防又は改善剤を製造するために使用できる。
また、ナイセリア・ムコサの菌体培養物は、サルモネラ菌感染を抑制するため、腸管感染症を予防又は改善するために使用できる。ここで、当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物、両生類、及び軟骨魚類が挙げられ、非ヒト哺乳動物としては、例えば類人猿、その他霊長類、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ハムスター、及びコンパニオン動物等が挙げられる。
【0016】
本発明において、「腸管感染症」とは、主としてサルモネラ菌によってひき起こされる腸管感染症を意味し、その病態は主として、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等を伴う胃腸炎が挙げられる。
本発明において、サルモネラ菌とは、グラム陰性の通性嫌気性桿菌であるSalmonella entericaを意味し、薬剤耐性のサルモネラ菌を包含する。
また、「サルモネラ菌感染抑制」とは、サルモネラ菌の動物細胞への感染を抑制することを意味し、感染阻害を包含する。
【0017】
本発明において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
また、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延を意味し、所謂「治療」の概念が包含される。
【0018】
本発明のサルモネラ菌感染抑制剤、腸管感染症の予防又は改善剤は、それ自体で、サルモネラ菌感染抑制のため、腸管感染抑症の予防又は改善のための医薬品、医薬部外品、食品となり、また当該医薬品、医薬部外品、食品に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
なお、食品には、腸管感染症の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、サプリメントが包含される。
【0019】
医薬品(医薬部外品を含む)として用いる場合の形態としては経口投与及び非経口投与の何れであってもよいが、経口投与の形態が好ましく、その剤型は、例えば、液剤;錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレット等の固形剤;或いは当該液剤又は固形剤を封入したカプセル剤、口腔用スプレー、トローチ等の様々な形態が挙げられる。非経口投与のための剤型としては、外用、経皮、経粘膜、貼付、経鼻、経腸、坐剤、注射、吸入等の各製剤が挙げられる。このような種々の剤型の医薬製剤は、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の作用を妨げない範囲で、他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0020】
食品として用いる場合の形態としては、果汁又は野菜汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、乳飲料、発酵乳、発酵果汁、発酵野菜汁、アルコール飲料、清涼飲料等の飲料や、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ジャム、パン、ガム、飴、スープ類、漬物、佃煮等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)のサプリメント等が挙げられる。当該食品は、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は食品に許容される添加物(例えば溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤等)等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0021】
上記医薬品(医薬部外品を含む)又は食品へのナイセリア・ムコサの菌体培養物の含有量は、特に限定されないが、一日投与量等に合わせて適宜調節すれば良い。
【0022】
上記医薬品(医薬部外品を含む)又は食品において、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができるが、例えば、成人一人、一日当たり、乾燥重量として好ましくは1mg以上、より好ましくは100mg以上、さらに好ましくは500mg以上、且つ、好ましくは5000mg以下、より好ましくは2500mg以下、さらに好ましくは1000mg以下が挙げられる。
【0023】
本発明のサルモネラ菌感染抑制剤、サルモネラ菌感染抑制用食品、腸管感染症の予防又は改善剤、腸管感染症の予防又は改善用食品の投与又は摂取対象としては、好ましくは腸管感染症を発症しているヒト、腸管感染症の発症予防を望むヒト等が挙げられる。
【0024】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制剤。
<2>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善剤。
<3>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とするサルモネラ菌感染抑制用食品。
<4>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を有効成分とする腸管感染症の予防又は改善用食品。
【0025】
<5>サルモネラ菌感染抑制剤を製造するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の使用。
<6>腸管感染症の予防又は改善剤を製造するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の使用。
<7>サルモネラ菌感染抑制用食品を製造するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の使用。
<8>腸管感染症の予防又は改善用食品を製造するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の使用。
【0026】
<9>サルモネラ菌感染抑制に使用するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物。
<10>腸管感染症の予防又は改善に使用するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物。
【0027】
<11>サルモネラ菌感染を抑制するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の非治療的使用。
<12>腸管感染症を予防又は改善するための、ナイセリア・ムコサの菌体培養物の非治療的使用。
【0028】
<13>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取するサルモネラ菌感染抑制方法。
<14>ナイセリア・ムコサの菌体培養物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取する腸管感染症の予防又は改善方法。
【0029】
<15><2>、<4>、<6>、<8>、<10>、<12>及び<14>において、腸管感染はサルモネラ菌による腸管感染である。
<16><1>、<3>、<5>、<7>、<9>、<11>、<13>及び<15>において、サルモネラ菌は薬剤耐性サルモネラ菌である。
<17><1>~<14>において、菌体培養物は、好ましくは、ナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養した培養物であるか、又はナイセリア・ムコサの培養液に、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの培養上清を添加して培養し、菌体及び培地成分を除去したEPS含有培養物である。
【0030】
実施例1 ナイセリア・ムコサの菌体培養物のサルモネラ菌感染に対する阻害効果
(1)細胞培養条件
HeLa細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC)より入手した。
DMEM/F12(Gibco,containing 10v/v% FBS,1v/v% Penicillin-Streptomycin)を用いて、温度37℃、CO2濃度5%にてHeLa細胞を培養した。
【0031】
(2)細菌培養条件
使用したサルモネラ・エンテリカ及びナイセリア・ムコサは独立行政法人製品評価技術基盤機構、若しくは国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソース研究センターより入手した(表1)。いずれの細菌もコロニー培養はBrain Heart Infusion(BHI)Agar培地(日本ベクトンディッキンソン(以下、日本BD))を用い、液体培養はBHI培地(日本BD)を用いて培養を行った。サルモネラ・エンテリカは温度37℃で好気培養し、ナイセリア・ムコサは温度37℃、CO2濃度5%条件下で培養した。
サルモネラ・エンテリカは24時間液体培養した後に、1,000倍希釈でさらに24時間液体培養した菌体を使用し、ナイセリア・ムコサは24時間液体培養した後に、100倍希釈でさらに48時間液体培養した菌体を使用した。
【0032】
【0033】
(3)ナイセリア・ムコサ菌体培養物の調製
ナイセリア・ムコサはBHI培地300mLを用いて温度37℃、CO2濃度5%で48時間培養することで、培養液を準備した。
ナイセリア・ムコサ培養液に、終濃度5v/v%となるように調製したポルフィロモナス・ジンジヴァリス培養上清を添加し、温度37℃、CO2濃度5%で48時間培養した後に、培養液20mLを50mL tubeに回収した。
なお、ポルフィロモナス・ジンジヴァリス培養上清は、ATCCより入手したポルフィロモナス・ジンジヴァリス(ATCC 33277株)をアネロコロンビア寒天培地(日本BD)上で37℃、嫌気条件で24時間以上培養することで生えてきたコロニーを、GAMブイヨン培地(日水製薬,5.0μg/mL Hemin,17.4μg/mL K2HPO4,1.0μg/mL Vitamin K含有)に懸濁し、同様に37℃、嫌気条件で24時間培養することで得られた液体培養液を、新しいGAMブイヨン培地に終濃度1v/v%で添加し、嫌気条件下、37℃、24時間の培養後に得られた培養液を13,000g、4℃、15分間の遠心分離して菌体を除去し、上清画分を0.22μmのフィルターでろ過滅菌することにより調製した。
ポルフィロモナス・ジンジヴァリス培養上清を添加して培養したナイセリア・ムコサの培養液から培地成分を除去するために16,000g、4℃、30分間の遠心分離の後に上清を捨て、超純水を20mL添加、ボルテックスで激しく懸濁して洗浄した。この洗浄を6回繰り返した。洗浄後、同様に遠心分離を行い、沈殿した菌体・EPSを含む菌体培養物を超純水に分散させ、超音波処理を行った。超音波処理は、BRANSON SONIFIER 150を使用し、パワー4、破砕20秒→冷却20秒を5セットの条件で超音波処理後、16,000g、4℃、30分間にて菌体を沈殿させ、上清を新しい50mL tubeへ回収した。
菌体を完全に除去するため、回収した上清を再度16,000g、4℃、30分の遠心分離を行い、上清を回収した。
回収した上清を凍結乾燥することで、菌体及び培地成分を除去し、EPSを含むナイセリア・ムコサの菌体培養物を得た。
【0034】
(4)試薬
標識試薬であるCarboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester(CFSE)は同仁化学より購入しDMSOに溶解後、終濃度10μMで用いた。
【0035】
(5)菌体の蛍光標識方法
サルモネラ・エンテリカ培養液を22℃、4,500g、10分間の遠心を行い沈殿した菌体を回収した。回収した菌体は、PBS(-)、続いてDMEM/F12(Gibco)を用いて22℃、4,500g、5分間の遠心で洗浄後、OD600=2.0に調整し、10μM CFSE溶液(dissolving DMEM/F12)中で37℃、暗所下で30分間インキュベートし、蛍光標識を行った。蛍光標識した菌体をDMEM/F12(Gibco)を用いて22℃、4,500g、5分間の遠心で2回洗浄後、菌体懸濁液の濁度を調整することでCFSE標識された菌体溶液を作製した。
【0036】
(6)感染方法
12ウェルプレートにコンフルエントとなったHeLa細胞から培地を除去後、PBS(-)を用いて洗浄した。(3)で調製したナイセリア・ムコサの菌体培養物は、評価時に終濃度0.00625w/v%、0.025w/v%、0.1w/v%となるようにDMEM/F12(Gibco)に溶解して評価培地とした。CFSE標識菌体はMultiplicity of Infection(MOI)=500で細胞に感染されるようDMEM/F12(Gibco)に懸濁し、各濃度のナイセリア・ムコサ菌体培養物含有培地で2時間共培養することにより細胞へと感染させた。
ナイセリア・ムコサ菌体培養物のサルモネラ・エンテリカに対する感染阻害効果を
図1に示す。
【0037】
(7)感染細胞の解析方法
CFSE標識されたサルモネラ・エンテリカを感染させたHeLa細胞から培地を除去し、PBS(-)を用いて2回洗浄した後に、400μL 0.25% Trypsin-EDTA(Gibco)を用いて感染細胞を剥離した。750μL DMEM/F12(Gibco,containing 10v/v%FBS)を添加し、溶液全量を1.5mL tubeに回収後、4℃、400g、5分間の遠心を行うことで感染細胞を回収した。上清を捨て、400μLの4% パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(Wako)を加えてピペッティングし、4℃にて10分間固定処理を行った。800μL PBS(containing 2v/v%FBS)を加えてピペッティング後、4℃、600g、5分間の遠心を行い、200μL PBS(containing 2v/v%FBS)に懸濁することで、解析サンプルとした。
解析には、Flow cytometry(BD,FACSVerse)を使用した。forward scatter(FSC),side scatter(SSC)に基づいてgatingした細胞20,000個のFITC channelで得られる蛍光強度からMean fluorescence intensity(MFI)を算出し、蛍光標識したサルモネラ・エンテリカが付着・感染した細胞を検出することで細胞感染能を評価した。結果を
図1に示す。
【0038】
(8)統計解析
得られた結果は、各サンプルのMFIをドットで示すとともに、各群の平均値±標準偏差(Mean±standard deviation (SD))を棒グラフで表した。平均値の差の検定は、統計解析ソフトSPSS(IBM)を用いて、Dunnett’s testを行い、P値が0.05未満(*p<0.05)、0.01未満(**p<0.01)、0.001未満(***p<0.001)の場合は、統計学的有意な差とした。
【0039】
(9)結果
細胞感染能の評価において、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を溶解していない対照(0)と比較して、ナイセリア・ムコサの菌体培養物を溶解させた群(終濃度0.00625w/v%(0.00625%)、0.025w/v%(0.025%)、及び0.1w/v%(0.1%))でMean fluorescence intensity(細胞感染能)の有意な低下が認められた(
図1)。