(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185511
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】状態判定装置、二次電池システム及び状態判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20221207BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221207BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20221207BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H02J7/00 X
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093251
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA21
2G216BA49
2G216CB13
2G216CB31
2G216CB51
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA11
5G503EA05
5G503GC04
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB03
5H030BB21
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】優れた精度で状態判定可能な二次電池システムを提供する。
【解決手段】二次電池システム400は、二次電池200と、二次電池200への定電流による充放電開始から終了までの、二次電池200に対して測定可能な応答関数の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの前記応答関数の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方の経時変化データに基づき、前記応答関数の緩和過程における時定数の分布状態を、二次電池200の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するパラメータ決定部を備える状態判定装置100と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池への定電流による充放電開始から終了までの、前記二次電池に対して測定可能な応答関数の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの前記応答関数の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方の経時変化データに基づき、前記応答関数の緩和過程における時定数の分布状態を、前記二次電池の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するパラメータ決定部を備える
ことを特徴とする状態判定装置。
【請求項2】
前記パラメータ決定部は、横軸を時間、縦軸を前記応答関数とするグラフの面積に基づき、前記パラメータを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項3】
前記第1関数は、前記時定数の分布状態を示す第2関数を含む所定の式である
ことを特徴とする請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項4】
前記第2関数は、微分可能な連続関数である
ことを特徴とする請求項3に記載の状態判定装置。
【請求項5】
前記第2関数は、ガウス関数、ガンマ分布を示す関数、又は、Levyの安定分布を示す関数の少なくとも何れか1つである
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の状態判定装置。
【請求項6】
前記パラメータ決定部は、前記経時変化データと、前記第1関数との比較により、前記パラメータを決定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の状態判定装置。
【請求項7】
前記パラメータ決定部は、前記パラメータとして予め定められた所定値を代入した前記第1関数と前記経時変化データとを比較し、前記第1関数と前記経時変化データとの差分が所定以下又は最小になる前記所定値を前記パラメータとして決定する
ことを特徴とする請求項6に記載の
【請求項8】
前記パラメータ決定部は、少なくとも前記第2経時変化データを使用して、前記パラメータを決定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の状態判定装置。
【請求項9】
前記応答関数は電圧であり、
前記パラメータ決定部により決定した前記パラメータに基づき、前記二次電池の適正使用電圧範囲を示す所定範囲に含まれるように前記二次電池の充放電電流又は充放電時間の少なくとも一方である充放電条件を決定する充放電条件決定部を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の状態判定装置。
【請求項10】
前記充放電条件決定部は、
前記パラメータの経時変化に関する第3関数に基づき、前記二次電池の電圧の経時変化に関する第4関数を作成するとともに、
前記第4関数に基づき算出された電圧が前記所定範囲に含まれるように前記充放電条件を決定する
ことを特徴とする請求項9に記載の状態判定装置。
【請求項11】
前記パラメータ決定部により決定した前記パラメータに基づき、前記二次電池の余寿命を予測する余寿命予測部を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の状態判定装置。
【請求項12】
前記応答関数は電圧であり、
前記余寿命予測部は、
前記パラメータの経時変化に関する第3関数に基づき、前記二次電池の電圧の経時変化に関する第4関数を作成するとともに、
所定の使用条件で前記二次電池を使用した場合に、前記第4関数に基づき算出された電圧が前記二次電池の適正電圧範囲を表す所定範囲から外れる時期を余寿命として決定する
ことを特徴とする請求項11に記載の状態判定装置。
【請求項13】
二次電池と、
前記二次電池への定電流による充放電開始から終了までの、前記二次電池に対して測定可能な応答関数の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの前記応答関数の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方の経時変化データに基づき、前記応答関数の緩和過程における時定数の分布状態を、前記二次電池の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するパラメータ決定部を備える状態判定装置と、を備える
ことを特徴とする二次電池システム。
【請求項14】
前記応答関数は電圧であり、
前記状態判定装置は、前記パラメータ決定部により決定した前記パラメータに基づき、前記二次電池の適正使用電圧範囲を示す所定範囲に含まれるように前記二次電池の充放電電流又は充放電時間の少なくとも一方である充放電条件を決定する充放電条件決定部を備え、
前記充放電条件決定部により決定した充放電条件で前記二次電池の充放電を行う充放電制御装置を備える
ことを特徴とする請求項13に記載の二次電池システム。
【請求項15】
二次電池への定電流による充放電開始から終了までの、前記二次電池に対して測定可能な応答関数の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの前記応答関数の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方の経時変化データに基づき、前記応答関数の緩和過程における時定数の分布状態を、前記二次電池の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するパラメータ決定ステップを含む
ことを特徴とする状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態判定装置、二次電池システム及び状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池が、航空機、船舶、車両の搭載用電源、スマートハウスの蓄電用電源、携帯通信端末等に使用され、効率的なエネルギ利用の取り組みが進められている。二次電池は充放電及び保管によって特性劣化を生じる。特に、上記用途では、電源としての利用期間が長期に及ぶことが想定される。このため、二次電池を搭載した製品を安定して使用し続けるには、二次電池の劣化状態を適切に判定することが好ましい。
【0003】
スマートフォン等の携帯通信端末では、充電時間の短縮を目的に、大電流で二次電池を充電する急速充電方式が採用される。こうした急速充電は、二次電池の特性を急速に劣化させる。そのため、二次電池の劣化状態を判定するには、急速充電による二次電池の特性劣化を適切に評価することが好ましい。
【0004】
二次電池の特性劣化は、二次電池の電極中に含まれる活物質の劣化に由来する。活物質は二次電池の電極を構成する材料の一つであり、イオンを貯蔵したり放出したりすることで二次電池の充放電反応を進行させる役割を担う。例えばリチウムイオン二次電池の場合、充電時には正極活物質からリチウムイオンが放出され、放出されたリチウムイオンが負極活物質に貯蔵されることで充電反応が進行する。放電反応はこの逆の過程をたどる。
【0005】
特許文献1の請求項1には、「充電可能なバッテリの状態推定方法であって、前記バッテリの電流からバッテリが充放電状態から充放電停止したことを判定し、前記充放電停止からの時間tにおける電圧低下の経時変化を計測し、計測した電圧の緩和挙動を近似曲線として緩和関数Fv(t)で表し、前記緩和関数Fv(t)から前記バッテリの充電状態量を推定し、前記緩和関数Fv(t)が、それぞれ前記バッテリで生じる異なる事象に係る複数の異なる時定数を有する指数関数の和で表されることを特徴とする充電可能なバッテリの状態推定方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極は、通常は、集電体表面に活物質が担持されることで構成される。充放電に伴い活物質が劣化するが、劣化の程度は、リチウムイオンの吸蔵及び放出の頻度によって変わる。例えば、吸蔵及び放出が高頻度で行われる電極表面側(集電体から遠い側)では劣化が進行し易いが、吸蔵及び放出が低頻度で行われる電極内側(集電体に近い側)では劣化が進行し難い。従って、電極内で劣化ムラが生じる。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、電極における劣化ムラについては考慮されていない。このため、二次電池の状態判定精度に課題がある。
本開示が解決しようとする課題は、優れた精度で状態判定可能な状態判定装置、二次電池システム及び状態判定方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の状態判定装置は、二次電池への定電流による充放電開始から終了までの、前記二次電池に対して測定可能な応答関数の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの前記応答関数の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方の経時変化データに基づき、前記応答関数の緩和過程における時定数の分布状態を、前記二次電池の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するパラメータ決定部を備える。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、優れた精度で状態判定可能な状態判定装置、二次電池システム及び状態判定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の状態判定装置を含む二次電池システムのブロック図である。
【
図4】劣化した二次電池における緩和時定数の分布状態をヒストグラム化して示したものである。
【
図5】未劣化の二次電池における緩和時定数の分布状態をヒストグラム化して示したものである。
【
図6】第2関数の一例としてのガウス関数の形状とパラメータとの関係を示すグラフである。
【
図7】第2関数の一例としてのLevyの安定分布を示す関数の形状とパラメータとの関係を示すグラフである。
【
図8】本開示の状態判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0013】
図1は、本開示の状態判定装置100を含む二次電池システム400のブロック図である。二次電池システム400は、状態判定装置100と、二次電池200と、充放電制御装置300とを備える。これらのうち、二次電池200は、例えばリチウムイオン二次電池等の単数又は複数の二次電池セルにより構成されるが、これに限定されない。また、二次電池200は、未劣化のもの(
図2)、又は劣化したもの(
図3)のいずれでもよい。
【0014】
状態判定装置100は、二次電池200の状態を判定する装置である。ここでいう状態は、例えば、二次電池200の電極201に担持された活物質の劣化ムラを考慮した、二次電池200の劣化の程度を含む。劣化ムラについて、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0015】
図2は、未劣化の二次電池200の電極201(正極又は負極)の模式図である。二次電池200の電極201は、例えば、集電箔11上に活物質12(正鵠活物質又は負極活物質)、導電助剤13等が担持される。そのため、電極201の内部には活物質12が充填される。
【0016】
図3は、劣化した二次電池200の電極の模式図である。二次電池200に対し急速充電のように大きな電流が充放電されると、活物質12の膨張収縮、ジュール発熱等によって、電極201で活物質12に劣化ムラが生じる。例えば、劣化が進行した活物質121に加え、劣化の進行が緩やかな活物質122位等、劣化状態の異なる活物質12が形成される。つまり、急速充電等の使用方法に応じて二次電池200(
図1)の電極201は不均一に劣化する。
【0017】
活物質12の劣化により、二次電池200の抵抗の増大、二次電池200の電池容量(貯蔵放出可能な電気量)の低下等、特性劣化が生じる。そのため、二次電池200の特性劣化を正確に把握するには、電極201内に形成された劣化状態の不均一性、即ち劣化ムラを高精度に評価することが好ましい。
【0018】
図1に戻って、状態判定装置100は、計測部110、判定部120、記憶部130、パラメータ決定部140、出力部150、充放電条件決定部160及び余寿命予測部170を備える。
【0019】
計測部110は、二次電池200での充放電開始の時刻t1から充放電終了の時刻t2まで、二次電池200の電圧、電流及び温度の経時変化(後記の第1経時変化データに対応)を計測して記憶部130に保存するものである。加えて、計測部110は、時刻t2から緩和時間である充放電再開の時刻t3まで、二次電池200の電圧、電流及び温度の経時変化(後記の第2経時変化データに対応)を計測して記憶部130に保存するものである。t1~t2の計測時間及びt2~t3の計測時間は特に制限されないが、それぞれ独立して例えば1分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。
【0020】
判定部120は、計測部110で取得した、充放電時(時刻t1から時刻t2まで。通電時と同義)の電圧及び温度の測定結果を、パラメータ決定部140での処理に使用するか否かを判定するものである。判定部120は、まず、充放電時に測定された電流値の経時変化データを用いて、充放電時の電流値の平均値μI及び分散値σIを計算する。続いて、判定部120は、充放電前後における二次電池200の充電率の変化を、ΔSOC=μI×(t2-t1)と近似する。そして、判定部120は、σI及びΔSOCのそれぞれを、事前に設定した所定値と比較する。所定値よりも大きい場合、判定部120は、パラメータ決定部140の処理には、非充放電時(時刻t2~t3)の計測結果のみを使用すると、判定する。逆に、所定値よりも小さい場合、判定部120は、パラメータ決定部140の処理には、充放電時又は非充放電時のうちの少なくとも一方の計測結果を使用すると、判定する。
【0021】
記憶部130は、計測部110で取得された電圧、電流及び温度の計時変化データ等の測定データを保存するものである。また、記憶部130には、下記第1関数、及び、測定データから電極201(
図1)の劣化ムラの情報を取得するための第2関数が少なくとも1種保存される。第2関数は後記する。
【0022】
パラメータ決定部140は、記憶部130に保存された経時変化データに基づき、電圧の緩和過程における時定数(緩和時定数τ)の分布状態を、二次電池200の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するものである。経時変化データは、二次電池200への定電流による充放電開始から終了までの電圧の第1計時変化データ、又は、定電流による充放電終了から電圧が定常状態に至るまでの電圧の第2経時変化データ、の少なくとも何れか一方である。電圧は、二次電池に対して測定可能な応答関数の一例である。緩和過程とは、充放電開始後、又は充放電終了後において、電圧挙動がオームの法則に寄らない状態になっている状態である。詳細は後記するが、決定したパラメータを使用した第1関数に基づき、例えば充放電状況、余寿命等を決定できる。
【0023】
第1関数は、緩和時定数τ(緩和過程における時定数)の分布状態を示す第2関数であるf(τ)を含む所定の式である。これにより、記憶部130に保存された第2関数を用いて、電圧の緩和過程における時定数の分布状態を決定できる。パラメータ決定部140による具体的な決定方法について、特許文献1に記載の技術との差異とともに説明する。
【0024】
上記のように、二次電池200の充放電時、電極201(
図2)内の活物質12(
図2)でイオンの吸蔵放出反応が行われる。吸蔵放出反応は瞬時に起きるわけではなく、吸蔵放出反応が進行するには一定の時間がかかる。この時間は緩和時間又は緩和時定数といわれ、緩和時定数τを用いると、二次電池200において充放電開始後又は充放電終了後から時間tが経過したときの二次電池200の電圧V(t)は、下記式(1)で表される。
V(t)=A+B×exp(-t/τ) …式(1)
ここで、A及びBは定数である。
【0025】
以下では、主として劣化ムラの生じた二次電池200が対象である。急速充電等によって電極201(
図3)に劣化ムラが生じると、緩和時定数τの値は電極201の劣化状態に応じて異なった値をとるようになる。例えば、電極201中で劣化の進行した部位に存在する活物質121(
図3)は、その表面に電解液(不図示)の分解物が厚く堆積している。通常は、堆積した分解物はイオンの運動を阻害するため、劣化が進行した活物質121では吸蔵放出反応に長い時間を要するようになる。このことは、電極201内の劣化が進行した部位では、緩和時定数τが増大することを意味する。反対に、電極201中で劣化の進行していない活物質122では緩和時定数τの値は変化し難い。
【0026】
このように、電極201の内部で劣化度がそれぞれ異なるn(2≦n)個の部位が形成された場合、各部位における緩和時定数はτ1、・・・、τnのように異なった値をとる。そのため、例えば、何らかの方法でこれらの緩和時定数τ1、・・・、τnを測定し、緩和時定数の分布状態を求めれば、二次電池200の劣化ムラを定量的に評価できる
【0027】
図4は、劣化した二次電池200における緩和時定数τの分布状態をヒストグラム化して示したものである。比較として、
図5は、未劣化の二次電池200における緩和時定数τの分布状態をヒストグラム化して示したものである。緩和時定数τの分布状態とは、測定した緩和時定数τ1、・・・、τnの値を横軸にしてヒストグラム化したものを指す。ヒストグラムの作成方法としては、例えば、緩和時定数τを所定の区間τa≦τ<τb、τb≦τ<τc、・・・に分割し、各区間に測定した緩和時定数τ1、・・・、τnがそれぞれ何個含まれるかを頻度として計算すればよい。
【0028】
ヒストグラムの形状と劣化ムラとを対応付けるには、例えば、
図4及び
図5において実線矢印で示す「ヒストグラムの広がり」に着目すればよい。この理由は、劣化ムラが増大すると複数の緩和時定数τが測定されるようになるためである。これに伴って緩和時定数τの分布状態(又は対応するヒストグラムの形状)は幅広い分布形状へと変化するためである。具体的には、劣化状態の二次電池200を示す
図4のヒストグラムの形状は、未劣化の二次電池200を示す
図5のヒストグラムの形状よりも幅広になっている。従って、緩和時定数τの広がりは、劣化ムラの程度に対応するといえる。
【0029】
このような違いは、以下の理由による。例えば、仮に活物質12(
図2)が均一に劣化すれば、抵抗が全体的に大きくなることで、
図5のグラフ形状が維持されたまま、グラフ全体がそのまま右方向に移動する。しかし、劣化ムラが存在することで、抵抗に分布が生じ、この結果、緩和時定数τにも分布が生じる。これにより、
図5に示すように、緩和時定数τのグラフに広がりが生じる。
【0030】
抵抗と緩和時定数τとは、リチウムイオン二次電池(LIB)の等価回路モデルにより対応付けることができる。即ち、抵抗Rを緩和時定数τ(緩和時間)=RCにより変換することで、抵抗Rを緩和時定数τに読み替えることができる。そして、緩和時定数τに読み替えることで、詳細は後記するが、電圧Vと緩和時定数τとの関係を、時間tの関数とする式(4)を導出できる。
【0031】
次に、二次電池200の特性量から緩和時定数τ1、・・・、τnを取得する方法を示す。そのために、充放電開始後又は充放電終了後から時間tが経過したときの、電圧V(t)の経時変化を考える。劣化ムラの生じた二次電池200の電圧V(t)は、劣化度の異なるn個の部位の電圧V1(t)、・・・、Vn(t)を足し上げることで算出でき、具体的には下記式(2)が成立する。
【0032】
V(t)=V1(t)+V2(t)+・・・+Vn(t) ・・・式(2)
=ΣmVm(t)
=ΣmAm+ΣmBm×exp(-t/τm)
ここで、数学記号ΣmはV1~Vnまでの和をとることを意味しており、V(t)をn個の多項式で近似することを意味する。なお、2行目から3行目への式変形では、上記式(1)に基づき、Vm(t)が定数Am、Bmを用いて下記式(3)で与えられることを用いた。
【0033】
Vm(t)=Am+Bm×exp(-t/τm) …式(3)
以上の式(2)及び式(3)が、劣化ムラの生じた二次電池200における電圧の経時変化を表す式である。電圧に関する類似の式は、特許文献2でも提示されている。
【0034】
電極201の内部に形成されたn個の劣化部位の緩和時定数τ1・・・τnの値を求めるには、電圧の計算値V(t)と計測部110(
図1)で測定された電圧の経時変化データとを比較し、両者が一致するように式(2)及び式(3)に含まれるパラメータA1、・・・、An、B1、・・・、Bn、τ1、・・・、τnの値を最適化すればよい。しかし、この方法を実行するには事前に劣化部位の個数nを測定しなくてはならない。そのためには二次電池200を解体して電極201を分析すればよい。しかし、解体した二次電池200は再度利用できないため、仮に劣化部位の個数nが求まったとしても、それを基にした二次電池200の状態判定は意味をなさない。
【0035】
また、二次電池200の劣化の進行状況に応じて劣化部位の個数nも刻々と変化するため、nの値を事前に定めることも困難である。以上の説明では、二次電池200の電圧V(t)を例に示したが、同様の困難性は、二次電池200に対して測定可能な応答関数(例えば電圧、電流等)をn個の多項式として表現する方法及び装置に対して当てはまる。
【0036】
そこで、本開示では、別方法による劣化ムラの評価方法を提案する。そもそも、劣化ムラを評価するには、各劣化部位における緩和時定数τ1・・・τnの値自体が必要ではなく、
図4及び
図5に示す緩和時定数τの分布状態(即ち、緩和時定数τに対して作成されたヒストグラムの形状)に関する情報が求まればよい。そこで、本開示では、二次電池200の状態を示す第1関数として、電圧V(t)の式としての上記式(2)に代えて、下記式(4)が使用される。
【0037】
V(t)=V0+∫f(τ)exp(-t/τ)dτ …式(4)
ここで、V0は開回路電圧(OCV)であり、数学記号∫dτ・・・はτについて積分することを示す。また、関数f(τ)は、上記のように緩和時定数τの分布状態を示す第2関数であり、以下では分布関数ということがある。第2関数は緩和時定数τに対して作成されたヒストグラムの形状を表す。
【0038】
本開示では、第2関数(分布関数)f(τ)において、緩和時定数τの分布状態に対応するパラメータが1つ以上存在する。このため、第1関数と経時変化データとを一致(所定の誤差内を含む)させるような緩和時定数τが存在し、パラメータを決定できる。このような第2関数は、微分可能な連続関数であることが好ましい。これにより、詳細は後記するが、積分によって第2関数の面積を算出し易くできる。
【0039】
以下、この条件を満たす関数をいくつか例示するが、本開示には下記で例示する関数に限定されない。また、第2関数は複数の関数の組み合わせによって構成されていてもよく、この場合、第2関数を構成する関数の少なくとも1つに緩和時定数τの分布状態に対応するパラメータが含まれていればよい。
【0040】
図6は、第2関数の一例としてのガウス関数の形状とパラメータとの関係を示すグラフである。第2関数は、例えばガウス関数である。上記のように、電極201(
図3)の緩和時定数τをヒストグラム化して示した場合、劣化ムラの増大に応じてヒストグラムの形状も幅広い構造へと変化していく。このような挙動を近似的に表す関数の一つとして、下記式(5)で定義されるガウス関数が挙げられる。
【0041】
f(τ)=αexp{-(τ-γ)
2/β} …式(5)
α、β、γは定数である。この内、βはヒストグラムの広がりを表すものであり、電圧の緩和過程における時定数の分布状態を表すパラメータ(二次電池の状態を示す第1関数のパラメータ)に相当する。
図6に示すように、βが大きいほど第2関数のグラフは広がりを持ち、二次電池200が劣化していることを表す。
【0042】
第2関数の別の例として、下記式(6)で示されるガンマ分布を示す関数(ガンマ関数)が挙げられる。
f(τ)={αβ/Γ(β)}τα-1exp(-β×τ) …式(6)
ここで、Γ(β)はガンマ関数である。式(6)では、ヒストグラムの広がりはα/β2によって表される。このため、α及びβが電圧の緩和過程における時定数の分布状態を表すパラメータ(二次電池の状態を示す第1関数のパラメータ)に相当する。
【0043】
図7は、第2関数としてのLevyの安定分布を示す関数の形状とパラメータとの関係を示すグラフである。第2関数の別の例として、下記式(7)で示されるLevyの安定分布を示す関数が挙げられる。
f(1/τ)=(1/τ)Σn{(-1)
n×τ
-βn}/{n!×Γ(-βn)} …式(7)
式(7)ではヒストグラムの広がりはβによって表される。このため、βが、電圧の緩和過程における時定数の分布状態を表すパラメータ(二次電池の状態を示す第1関数のパラメータ)に相当する。
図7に示すように、βが小さいほど第2関数のグラフは広がりを持ち、二次電池200が劣化していることを表す。
【0044】
図1に戻って、パラメータ決定部140の説明を続ける。ここでは二次電池200の電圧の時間変化V(t)に対するパラメータ決定部140の動作を説明するが、以下の手順は、電圧の代わりに電流の時間変化I(t)を用いた場合でも当てはまる。
【0045】
パラメータ決定部140は、記憶部130から、上記の第1経時変化データ又は第2経時変化データの少なくとも何れか一方の経時変化データを読み込む。ただし、パラメータ決定部140は、少なくとも第2経時変化データを使用して、パラメータを決定することが好ましい。これにより、外部要因を低減してパラメータの精度を向上できる。以下では、一例として、第1経時変化データ及び第2経時変化データの双方が使用される。
【0046】
パラメータ決定部140は、記憶部130から、第2関数を読み込む。第2関数は、上記のように予め記憶部130に保存される。第2関数が2種以上保存されている場合、それぞれの第2関数を使用して以降の計算を行い、最も精度の高い結果を使用してもよく、任意の1つの第2関数を使用して以降の計算を行ってもよい。また、記憶部130に保存された電圧、電流、温度等の情報を使用した第2関数が保存されている場合には、記憶部130に記憶された情報に対応する第2関数を使用してもよい。
【0047】
パラメータ決定部140は、横軸を時間t、縦軸を電圧V(t)(上記応答関数の一例)とするグラフの面積に基づき、パラメータを決定する。これにより、緩和時定数τの分布状態に関する情報を算出できる。
【0048】
具体的には、パラメータ決定部140は、読み込んだ第2関数及び上記式(4)に基づき、二次電池200の状態を示す第1関数として、電圧の経時変化V(t)calcを計算する。このとき、第2関数及び式(4)に含まれるパラメータの値は任意に設定してよい。例えば、初回の計算時には、便宜的に未劣化の二次電池200におけるパラメータの値を使用すればよい。また、2回目以降の計算時には、例えば、前回の計算で得られたパラメータの値を使用すればよい。更に、パラメータの値は第1経時変化データの使用時と第2経時変化データの使用時とで同じでもよく異なってもよい。
【0049】
パラメータ決定部140は、読み込んだ経時変化データと、計算で得られた第1関数であるV(t)calcとの比較により、パラメータを決定する。即ち、実測値と計算値との比較により、パラメータを決定できる。具体的には、パラメータ決定部140は、パラメータとして予め定められた所定値を代入したV(t)calc(第1関数)と経時変化データとを比較する。そして、パラメータ決定部140は、V(t)calcと経時変化データとの差分が所定以下又は最小になる所定値をパラメータとして決定する。
【0050】
即ち、パラメータ決定部140は、例えばVcalc(t)のグラフが経時変化データのグラフに近づくようにパラメータを最適化する。具体的には、パラメータ決定部140は、Vcalc(t)と経時変化データV(t)が所定の誤差(例えば1%以内)の範囲で一致するまで、計算を続ける。一致しない場合には、パラメータの値を変更してV(t)calcを再計算し、V(t)calcと経時変化データとが所定の誤差の範囲で一致するまで、又は、誤差の値が最小となるパラメータの組が見つかるまで、パラメータ値の変更を続ける。
【0051】
パラメータ決定部140は、決定したパラメータを出力部150に送信する。パラメータ決定部140は、他にも、決定したパラメータから得られる電圧の経時変化V(t)等の値も出力部150に送信する。送信されるパラメータには、少なくとも、緩和時定数τの分布状態に関するパラメータが含まれていればよい。また必要に応じて、パラメータ決定部140は、決定したパラメータの値を用いて、所定の負荷に対する二次電池200の応答特性を計算してもよい。
【0052】
出力部150は、パラメータ決定部140から受信した情報を、情報を使用する機器、装置等に送信する。ここでいう情報は、例えば、パラメータ決定部140により決定されたパラメータ、これらに基づいて計算した二次電池200の応答特性、例えばある任意の電流値を流した場合の二次電池200の電圧の経時変化等を含む。機器、装置等は、例えば、外部メモリ、外部モニタ(いずれも不図示)を含む。
【0053】
充放電条件決定部160は、パラメータ決定部140により決定したパラメータに基づき、二次電池200の適正使用電圧範囲を示す所定範囲に含まれるように二次電池200の充放電電流又は充放電時間の少なくとも一方である充放電条件を決定する。これにより、二次電池200の寿命が過度に短くなることを抑制できる。充放電条件決定部160は、上記応答関数が電圧である場合に備えられる。充放電条件決定部160は、決定した充放電条件を充放電制御装置300(後記)に送信する。
【0054】
充放電条件決定部160は、パラメータの経時変化に関する第3関数に基づき、二次電池200の電圧の経時変化に関する第4関数を作成する。これとともに、充放電条件決定部160は、第4関数に基づき算出された電圧が適正電圧範囲を示す所定範囲に含まれるように充放電条件を決定する。このようにすることで、二次電池200を適正電圧範囲で使用可能な充放電条件を決定できる。第4関数は、例えば、決定したパラメータを、上記の式(4)に代入することで作成できる。本実施形態では、充放電条件決定部160は、二次電池200の電圧が所定範囲の上下限値に達するときの充放電電流の上限値、充放電時間の上限のいずれかを決定する。
【0055】
余寿命予測部170は、パラメータ決定部140により決定したパラメータに基づき、二次電池200の余寿命を予測する。これにより、状態判定装置100に接続された二次電池200の余寿命を予測でき、所定の使用条件で予測した余寿命に応じて二次電池200を使用できる。余寿命予測部170は、上記応答関数が電圧である場合に備えられる。
【0056】
余寿命予測部170は、パラメータの経時変化に関する第3関数に基づき、二次電池200の電圧の経時変化に関する第4関数を作成する。第4関数は、上記のように、例えば、決定したパラメータを、上記の式(4)に代入することで作成できる。これとともに、余寿命予測部170は、所定の使用条件で二次電池200を使用した場合に、第4関数に基づき算出された電圧が二次電池200の適正電圧範囲を表す所定範囲から外れる時期を余寿命として決定する。以下、一例として、所定の第1期間に使用された二次電池200の余寿命を予測する方法を示す。
【0057】
この方法の前提として、第1期間において少なくとも2回、二次電池200の状態量が測定される。状態量とは、二次電池200の容量、抵抗等、対象とする二次電池から測定可能な量を指し、少なくとも緩和時定数τの分布状態に関するパラメータが含まれる。測定した状態量は、記憶部130に記憶される。これらの状態量が、第1期間内の時間t1、t2、・・・tn(n≧2)において測定されていた場合を考え、状態量に加えて各時間における二次電池の使用状況が計測されている場合を考える。ここで、二次電池の使用状況とは、例えば、使用期間、充放電サイクル数、累積充放電電気量、温度、電池電圧、電流、電極電位等が挙げられる。
【0058】
二次電池の余寿命を予測する手順としては、まず、各時刻t1、t2、・・・tnにおいて測定された、緩和時定数τの分布状態に関するパラメータの時間変化を再現できるように、余寿命予測部170は第3関数を構築する。第3関数は、記憶部130に記憶される。第3関数の変数には、二次電池の使用状況が含まれていることが好ましい。第3関数は、直線、二次関数、指数関数、対数関数等の事前に用意した関数であってもよいし、各時刻t1、t2、・・・tnにおける計測値を用いて構築された回帰モデルであってもよい。
【0059】
次に、余寿命予測部170は、構築した第3関数を用いて、第1期間よりも未来の時点におけるパラメータの値を計算する。さらに、余寿命予測部170は、計算したパラメータを基に、充放電時における二次電池200の電圧の経時変化に関する第4関数を予測する。そして、余寿命予測部170は、予測した第4関数と、事前に設定した適正電圧範囲の上下限値との大小関係を判定する。余寿命予測部170は、ある時点において電圧が所定上限値を上回る、又は所定下限値を下回る場合には、この時点を二次電池200の寿命と判定する。これにより、決定したパラメータに基づき、二次電池200の余寿命を予測できる。予測した余寿命により、二次電池200の使われ方を考慮した、二次電池200の適切な交換時期を把握できる。
【0060】
余寿命予測部170は、出力部150に、電圧が所定上限値を上回る時、所定下限値を下回る時、又は現在時刻からこれらの時までの時間の少なくともいずれか1つを出力する。余寿命予測部170は、現在時刻からこれらの時までの時間が所定の最短時間よりも短い場合には、出力部150に警告を出力する。
【0061】
状態判定装置100は、何れも図示はしないが、例えばCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えて構成される。状態判定装置100は、ROMに格納されている所定の制御プログラムがRAMに展開され、CPUによって実行されることにより具現化される。
【0062】
充放電制御装置300は、充放電条件決定部160により決定した充放電条件で二次電池200の充放電を行う。これにより、二次電池200の寿命が過度に短くなることを抑制でき、二次電池200を適正に使用できる。
【0063】
以上のように、状態判定装置100は、二次電池200の電圧等に基づき緩和時定数τの分布状態に関するパラメータを決定する。一例として、状態判定装置100は、所定の定電流値を用いて測定した電圧の時間変化(第1経時変化データ及び第2経時変化データ)を読み込む。そして、状態判定装置100は、緩和時定数τの分布状態に関するパラメータ(複数のパラメータを含むパラメータ群でもよい)を仮に設定し、仮のパラメータに基づく電圧の時間変化である第1関数を計算する。次いで、状態判定装置100は、仮のパラメータに基づき計算された第1関数と、測定した電圧の時間変化(第1経時変化データ及び第2経時変化データ)との比較に基づき、パラメータを決定する。これにより、二次電池200における緩和時定数τの分布状態に関するパラメータを非破壊で精度良く把握できる。
【0064】
図8は、本開示の状態判定方法を示すフローチャートである。本開示の状態判定方法は、状態判定装置100(
図1)により実行できる。そこで、
図8の説明は、適宜
図1を参照して行う。
【0065】
本開示の状態判定方法は、計測ステップS1と、判定ステップS2と、パラメータ決定ステップS3と、充放電条件決定ステップS4と、余寿命予測ステップS5とを含む。
【0066】
計測ステップS1は、二次電池200(
図1)での充放電開始の時刻t1から充放電終了の時刻t2まで、二次電池200の電圧、電流及び温度の経時変化(第1経時変化データに対応)を計測して記憶部130(
図1)に保存するステップである。計測ステップS1は計測部110(
図1)によって実行され、計測ステップS1においても、上記の計測部110において説明した内容を適用できる。
【0067】
判定ステップS2は、計測部110で取得した、充放電時(時刻t1から時刻t2まで)の電圧及び温度の測定結果を、パラメータ決定部140(
図1)での処理に使用するか否かを判定するステップである。判定ステップS2は判定部120(
図1)によって実行され、判定ステップS2においても、上記の判定部120において説明した内容を適用できる。
【0068】
パラメータ決定ステップS3は、記憶部130(
図1)に保存された経時変化データに基づき、電圧の緩和過程における時定数(緩和時定数τ)の分布状態を、二次電池200の状態を示す第1関数のパラメータとして決定するステップである。経時変化データは、上記の第1計時変化データ又は第2経時変化データの少なくとも何れか一方である。パラメータ決定ステップS3はパラメータ決定部140(
図1)によって実行され、パラメータ決定ステップS3においても、上記のパラメータ決定部140において説明した内容を適用できる。
【0069】
充放電条件決定ステップS4は、パラメータ決定ステップS3で決定したパラメータに基づき、二次電池200の適正使用電圧範囲を示す所定範囲に含まれるように充放電条件を決定するステップである。充放電条件は、二次電池200の充放電電流又は充放電時間の少なくとも一方である。充放電条件決定ステップS4は充放電条件決定部160(
図1)によって実行され、充放電条件決定ステップS4においても、上記の充放電条件決定部160において説明した内容を適用できる。
【0070】
余寿命予測ステップS5は、パラメータ決定ステップS3で決定したパラメータに基づき、二次電池200の余寿命を予測するステップである。余寿命予測ステップS5は余寿命予測部170(
図1)によって実行され、余寿命予測ステップS5においても、上記の余寿命予測部170において説明した内容を適用できる。
【0071】
本開示の状態判定方法によれば、状態判定装置100(
図1)と同様に、二次電池200における緩和時定数τの分布状態に関するパラメータを精度良く把握できる。
【0072】
以上の説明では、劣化した二次電池200を対象としたが、状態判定装置100及び状態判定方法は未劣化の二次電池200に対しても適用できる。以下にその理由を示す。特許文献1でも述べられているように、二次電池200の反応においては、活物質でのイオンの吸蔵放出反応のような早い反応の他に、活物質内部のイオン拡散の様な遅い反応など、複数の緩和時定数τの反応が寄与する。ゆえに、未劣化の二次電池200においても緩和時定数τには一定の分布状態が存在するため、上記のような緩和時定数τの分布状態を介した状態判定装置100及び状態判定方法を適用できる。
【0073】
また、上記のように、二次電池200は複数の電池セルにより構成できる。この場合、本開示を、電池セル間の劣化状態の差異を検知することにも使用できる。
【0074】
さらに、上記の例では、二次電池200に対して測定可能な応答関数の一例として、二次電池200に電圧(V(t))を使用した。しかし、本開示は、電圧の時間変化V(t)に対してのみ成り立つものではなく、二次電池200の例えば電流(I(t))二も適用できる。例えば、オームの法則V=IRなどを用いることで、上記式(4)の電圧V(t)を電流I(t)に置き換え、電流値I(t)に対しても本開示を適用できる。
【0075】
図9は、実施例1の結果を示すグラフである。劣化したリチウムイオン二次電池を用い、以下の方法に沿って、電圧の経時変化データと、計算した第1関数のグラフとを同じグラフに図示した。
【0076】
二次電池200(
図1)の負極には黒鉛、正極にはLiNiCoMnO
2(モル比でNi:Co:Mn=1:1:1)を用い、セパレータにはポリプロピレン性のセパレータを使用した。まず、この二次電池200に対して充放電を繰り返し、二次電池200の容量が未劣化の状態から20%程度するまで劣化させた。次に、劣化させた二次電池200を10℃の恒温槽内に設置して、二次電池200の電圧が3.6Vになるように充電率を調整した。続いて、この二次電池200に対して9CAの電流値で8秒間放電し、30分間休止させて(CA:電流値の単位。1CAが1時間で電池を満受電できる電流量)、二次電池200の電圧に関する第2経時変化データV(t)exp(実測値)を測定した。
【0077】
続いて、実施例1のグラフを以下のようにして決定した。測定したV(t)expに対に基づき、上記方法により上記式(4)に含まれるパラメータを決定した。第2関数には上記式(7)に示した関数を使用した。最後に、決定したパラメータを用いて式(4)から電圧の経時変化を求め、実施例1のグラフを得た。実施例1のグラフと測定値V(t)expとの誤差を評価した。
【0078】
比較例1としては、上記式(2)(特許文献1に記載の数式に類似)を用いて第2経時変化データV(t)expから式(2)中のパラメータを決定した。さらに、決定したパラメータを用いて電圧の経時変化を求め、比較例1のグラフとした。比較例1のグラフと測定値V(t)expとの誤差を評価した。なお、式(2)の計算においてはn=2及びn=3とした場合を検討したが、検討結果がほぼ一致したため、
図9には、n=2の結果のみを示した。
【0079】
図9に示すように、実施例1と実測値とはほぼ同様の傾向を示し、誤差が殆どない。しかし、比較例1と実測値とはずれが大きく誤差が大きい。このことは、比較例1の方法では、二次電池200の内部の状態を適切にパラメータ化して抽出できていないことを示している。つまり、比較例1の方法で抽出したパラメータを用いても、電圧、開回路電圧(OCV)等を精度よく予測できない。一方で、実施例1の方法では、電極の劣化ムラを考慮して、電圧の経時変化を高精度に予測できる。
【0080】
図10は、実施例2の結果を示すグラフである。未劣化のリチウムイオン二次電池を用い、以下の方法に沿って、電圧の経時変化データと、計算した第1関数V(t)のグラフと同じグラフに図示した。
【0081】
二次電池200の電極には黒鉛電極及び金属リチウム電極を用い、セパレータにはポリエチレンを使用した。この二次電池200を25℃の恒温槽内に設置して、二次電池200の開回路電圧が0.095Vになるように充電状態を調整した。この二次電池200に対して1CAの電流値で72秒間充電し、30分間休止させ、その間の電圧の時間変化V(t)を測定した。測定方法は上記実施例1と同様に行い、次いで、実施例1と同様にして、実施例2のグラフの作成及び誤差の評価を行った。
【0082】
また、上記比較例1と同様にして、比較例2のグラフの作成及び誤差の評価を行った。ただし、検討結果がほぼ一致したため、
図10には、n=2の結果のみを示した。
【0083】
図10に示すように、実施例2と実測値とはほぼ同様の傾向を示し、誤差が殆どない。しかし、比較例2と実測値とはずれが大きく誤差が大きい。従って、上記
図9を参照して説明した場合と同様に、未劣化の二次電池200についても、電極の劣化ムラを考慮して、電圧の経時変化を高精度に予測できる。従って、本開示は、二次電池200の劣化状態に寄らず、未劣化も含む二次電池200に対して広く適用できる。
【符号の説明】
【0084】
100 状態判定装置
11 集電箔
110 計測部
12 活物質
120 判定部
121 活物質
13 導電助剤
130 記憶部
140 パラメータ決定部
150 出力部
160 充放電条件決定部
170 余寿命予測部
200 二次電池
201 電極
300 充放電制御装置
400 二次電池システム
S1 計測ステップ
S2 判定ステップ
S3 パラメータ決定ステップ
S4 充放電条件決定ステップ
S5 余寿命予測ステップ