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特開2022-185518プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板
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  • 特開-プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板 図1
  • 特開-プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板 図2
  • 特開-プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185518
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20221207BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221207BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093260
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 哲也
(57)【要約】
【課題】板厚が4mm以下の薄板であっても、高いプレス成形性を有するとともに、例えば自動車パネルとした場合の耐デント性に優れ、特にアウタパネルに適した、Al-Fe系アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】質量%で、Fe:1.0~1.5%、Mn:0.05~0.5%を含有し、残部がAl及び不純物からなり、板厚が0.5~3mmであるアルミニウム合金板であって、アルミニウム合金板の板厚中央部における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡により測定した場合の転位密度が、平均で0.8×1010~1.4×1010(/m)である、プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Fe:1.0~1.5%、Mn:0.05~0.5%を含有し、残部がAl及び不純物からなり、板厚が0.5~4mmであるアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の板厚中央部における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡により測定した場合の転位密度が、平均で0.8×1010~1.4×1010(/m)であることを特徴とする、プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項2】
さらに、質量%で、Cu:0.05~0.5%、Cr:0.05~0.5%のいずれか一方若しくは両方を含有することを特徴とする、請求項1に記載のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項3】
自動車のアウタパネル用であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタパネルなどの自動車用外装材等に好適である、プレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車からの排出ガスによる地球環境問題に対して、自動車等の輸送機器による燃費向上が求められている。特に、自動車の車体に対しては、従来から使用されている鋼材に替わって、より軽量なアルミニウム合金材が適用されている。このうち、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフなどのアウタパネル材(外装材)の素材として、アルミニウム合金板(素材圧延板)の需要が高まっている。
【0003】
これら自動車用パネル材には一般にプレス成形が施されることから、適用されるアルミニウム合金板には優れた成形性が求められる。近年には、車体デザインやキャラクタラインの多様化や先鋭化、複雑化に伴い、プレス成形加工が複雑で、加工条件が厳しくなる事例が増えており、プレス成形性をより向上させることが必要となっている。
【0004】
従来から、自動車用アウタパネル材の素材としては、時効硬化性や耐食性に優れたAl-Mg-Si系の6000系アルミニウム合金板が使用されている。しかし、近年は、特に優れた外観デザインの要求が高まっており、この6000系アルミニウム合金板でも成形できないような、難成形性のアウタパネルも増加している。
【0005】
このような難成形性のアウタパネルに対しては、6000系アルミニウム合金板よりも強度は低いものの、より成形性に優れたAl-Fe系アルミニウム合金板が注目される。
これまでも、Al-Fe系アルミニウム合金板のプレス成形性を向上させるために、化学組成や組織などを制御することが、従来から種々提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、Al-Fe系アルミニウム合金板が、鋼板並みの成形性を得るために、3方向の引張試験で引張強さが90N/mm以上、耐力45N/mm以上で、全伸び40%以上であり、かつ局部伸びが10%以上を有することが提案されている。
【0007】
特許文献2では、不可避不純物としてのTi含有量が0.01質量%以下に制限されたアルミニウム合金板であって、平均結晶粒径が20μm以下、{110}方位結晶の面積率が25%以上に調整された組織を有することが提案されている。
【0008】
特許文献3では、耐食性及び成形性に優れたものとするために、マトリックス中に分散するAl-Fe系化合物の最大円相当直径が10μm以下、円相当直径0.2~10μmのAl-Fe系化合物の分散密度が1×10~1×10個/mmであり、冷間圧延方向に対して、0°方向、45°方向、90°方向の全伸びを[L]、板厚を[T]と表したとき、[L]≧5×LN[T]+40を満足させることが提案されている(LN:自然対数)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3791337号公報
【特許文献2】特許第5233607号公報
【特許文献3】特許第5276368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これら従来のAl-Fe系アルミニウム合金板は、各々、自動車用の燃料タンクやタンクカバー、電子機器のケースや自動車の部材、ヒートインシュレーターなどのプレス成形品を意図しているのみである。したがって、いずれのアルミニウム合金板についても、プレス成形後に塗装焼付け処理して使用される、アウタパネルなどの外装材への使用を意図していない。
【0011】
このため、従来の組織制御によって、アルミニウム合金板のプレス成形性自体を向上させることはできるが、近年多用されている低温短時間条件下での塗装焼付け処理を行った場合に、十分な強度が得られないという問題点がある。特に、板厚が4mm以下であるアウタパネルなどの薄板の自動車パネル材に従来のAl-Fe系アルミニウム合金板を用いた場合には、耐デント性が不足する問題を有する。
【0012】
また、従来の自動車用の燃料タンクやタンクカバー電子機器のケースや自動車の部材、ヒートインシュレーターなどのプレス成形に比して、アウタパネルなどのプレス成形は特に成形条件が厳しくなっており、優れたプレス成形性が求められる。
【0013】
本発明では、このような従来のAl-Fe系アルミニウム合金板のプレス成形性に着目してなされてなされたものであり、板厚が4mm以下の薄板であっても、高いプレス成形性を有するとともに、耐デント性に優れたアルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板は、質量%で、Fe:1.0~1.5%、Mn:0.05~0.5%を含有し、残部がAl及び不純物からなり、板厚が0.5~4mmであるアルミニウム合金板であって、前記アルミニウム合金板の板厚中央部における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡により測定した場合の転位密度が、平均で0.8×1010~1.4×1010(/m)であることを特徴とする。
【0015】
本発明のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板は、さらに、質量%で、Cu:0.05~0.5%、Cr:0.05~0.5%のいずれか一方若しくは両方を含有することが好ましい。
また、本発明のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板は、自動車のアウタパネル用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミニウム合金板中のFe、Mnの含有量を適切に調整するとともに、アルミニウム合金板の板厚中央部における組織の転位密度を所定範囲に限定しているので、板厚が4mm以下であっても、高いプレス成形性を有するとともに、耐デント性に優れたアルミニウム合金板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例で作製したアルミニウム合金の転位密度を測定する際の、TEM試料の膜厚を算出する方法を示す図である。
図2図2は、実施例で作製したアルミニウム合金板における、相当ひずみとAB耐力の関係、及び、相当ひずみとAs伸びの関係を示すグラフである。
図3図3は、実施例で作製したアルミニウム合金板における、相当ひずみと転位密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態(本実施形態)に係るアルミニウム合金板の化学組成及び転位密度の限定理由、並びにアルミニウム合金板の製造方法における数値限定理由などについて、要件ごとに具体的に説明する。
なお、本実施形態において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0019】
(板厚)
本実施形態のアルミニウム合金板は、例えば、アウタパネルなどの自動車用パネル(パネル材)に用いる場合は、板厚が0.5~4mmの圧延薄板が好適であり、板厚が0.5mm未満では、自動車パネルとしての強度や剛性が不足する。一方で、板厚が4mmを超えた場合には、板厚が厚すぎるため、自動車パネルへのプレス成形が困難となる。また、鋼板や鋼材に代替されるべき、アルミニウム合金の使用による軽量化の効果も損なわれる。
【0020】
(アルミニウム合金板の化学組成)
本実施形態のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板の化学組成について、以下に説明する。
本実施形態は、上記アウタパネルなどの自動車パネル用として好適であるアルミニウム合金板であって、例えばプレス成形性と、プレス成形され自動車パネル等に利用した際に必要な耐デント性などの要求特性を、Al-Fe系アルミニウム合金板の化学組成の面から満たすようにする。ただし、この場合でも、従来の化学組成や、圧延による板の製造工程自体を大きくは変えないことを前提とする。
【0021】
このような課題や特性を化学組成の面から満たすようにするため、本実施形態のプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板の化学組成は、質量%で、Fe:1.0~1.5%、Mn:0.05~0.5%を含有し、残部がAl及び不純物からなる化学組成とする。
上記化学組成に加え、本実施形態のアルミニウム合金板は、質量%で、Cu:0.05~0.5%、Cr:0.05~0.5%のいずれか一方若しくは両方を含有するものであってもよい。
【0022】
本実施形態におけるプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は、全て質量%の意味である。
【0023】
<Fe:1.0~1.5%>
Feは、平均粒径を微細化させ、塗装焼付け処理前の強度及び伸び(以下、As伸び)を付与し、プレス成形性と、塗装焼付け処理後におけるアウタパネル等の外装材などの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Feが1.0%未満では十分な効果を得ることができず、強度や耐デント性が低下する。一方で、Feが1.5%を超えると、第2相粒子が粗大化することで、As伸びが低下し、プレス成形性が損なわれる。したがって、Feの含有量は1.0~1.5%の範囲とする。
【0024】
<Mn:0.05~0.5%>
Mnも、平均粒径を微細化させ、強度及びAs伸びを付与し、プレス成形性と、塗装焼付け処理後におけるアウタパネル等の外装材などの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Mnが0.05%未満では十分な効果を得ることができず、結晶粒が粗大化して、強度や耐デント性が低下する。一方で、Mnが0.5%を超えると、第2相粒子が粗大化することで、伸びが低下し、プレス成形性が損なわれる。したがって、Mnの含有量は0.05~0.5%の範囲とする。
【0025】
<Cu:0.05~0.5%>
Cuは、固溶強化により、塗装焼付け処理後におけるアウタパネル等の外装材などの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、本実施形態のアルミニウム合金板は、必要により上記範囲でCuを選択的に含有することが好ましい。
Cuが0.05%未満では、Cuを添加することによる強度、耐デント性の向上効果を十分に得ることができない。一方で、Cuが0.5%を超えると、強度が高くなる反面、As伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、本実施形態のアルミニウム合金板がCuを含有する場合、その含有量は0.05~0.5%の範囲とする。
【0026】
<Cr:0.05~0.5%>
Crは、Cuと同じく固溶強化により、塗装焼付け処理後におけるアウタパネル等の外装材などの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、本実施形態のアルミニウム合金板は、必要により上記範囲でCrを選択的に含有することが好ましい。
Crが0.05%未満ではその効果を十分に得ることができない。一方、Crが0.5%を超えると、As伸びが低下し、プレス成形性が損なわれる。したがって、本実施形態のアルミニウム合金板がCrを含有する場合、その含有量は0.05~0.5%の範囲とする。
【0027】
<その他の元素>
上記以外のその他の元素(Si、Mg、Ti及びBなど)は、基本的に不純物であり、含有してもできるだけ少ない方が好ましい。Siは晶出物を形成して局部伸びを阻害し、0.10%以下までの含有は許容する。Mgは固溶強化の効果もあり、0.3%までの含有は許容する。Ti及びBは、鋳塊の鋳造組織を微細化し鋳造割れを防止する効果もあり、Tiは0.10%まで、Bは0.002%までの含有は許容する。なお、この範囲内であれば、不可避的不純物として含有される場合だけでなく、積極的に添加された場合であっても本実施形態の効果を妨げない。
【0028】
(転位密度ρ:0.8×1010~1.4×1010/m
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アウタパネル等の外装材にも適用することができる所望の成形性と耐デント性を有するアルミニウム合金材を得るためには、最終焼鈍後の塑性加工で導入される転位の量を制御することが重要であることを新たに知見した。
よって、アルミニウム合金板が上述の化学組成(合金組成)であることを前提として、本実施形態では、アルミニウム合金板の組織を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)により測定した場合の転位密度の範囲を規定する。
【0029】
すなわち、上述の塑性加工にて導入される転位密度ρを0.8×1010~1.4×1010/mの範囲とすることにより、2%のひずみ付与後170℃-20分などの人工時効処理後(塗装焼付け硬化処理後、After Bake:以下、「AB」ともいう)に要求される、0.2%耐力(以下、「耐力」という)及びAs伸びを確保することができる。
転位密度ρが0.8×1010/m未満であると、加工硬化量が不十分となり75MPa以上のAB耐力を確保することができない。一方、転位密度ρが1.4×1010/mを超えると、加工硬化し過ぎてしまい、30%以上の十分なAs伸びを得ることができない。
上述の範囲で規定される転位密度ρは、後述するように、アルミニウム合金板の製造条件を適切に調整することにより得ることができる。
【0030】
<転位密度ρの測定方法>
上記転位密度ρは、アルミニウム合金板の板厚中央部における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)により、電子線入射方位が(001)方向となるように傾斜させて測定する。測定に供する試料は、最終焼鈍を施した冷延板冷延板から採取し、観察部が板厚中央部となるように機械研磨、電解研磨してTEM用の薄膜試料を作製した上で、2万倍の倍率のTEMによって転位組織を撮影する。
【0031】
転位密度ρは、このTEMにより撮影した組織写真をもとに、Hamの方法にて算出する。つまり、撮影した転位組織写真に縦横数十本ずつの平行線を引き、各線と転位が交差する交点の数Nを測定する。そして、平行線の合計の長さL(μm)、TEM試料の膜厚をt(μm)とし、下記式(1)を用いて各観察視野における転位密度ρを算出する。
【0032】
【数1】
【0033】
上記手法にて、任意の5視野程度の転位密度ρを測定し、その平均値をその板材における転位密度と定義する。
【0034】
本実施形態のアルミニウム合金板を用いることにより、2%のひずみ付与後170℃-20分などの人工時効処理(塗装焼付け硬化処理)した場合に、AB耐力を75MPa以上に高強度化でき、自動車パネルの耐デント性を併せて向上させることができる。
【0035】
(アルミニウム合金板の製造方法)
上述のとおり、Al-Fe合金系は高延性の材料であり、O材調質の場合にはAs伸び特性、すなわち成形性は確保されるが、十分なAB耐力を得ることができない。AB耐力を確保するためにはO材調質に代わり、H1nやH2n調質とする必要がある。一方で、H1n調質とすると、焼鈍温度を低温化することができるが、低温焼鈍とすると引張特性が急激に変化しやすいため、量産安定性が確保されず、生産性の悪化が懸念される。
【0036】
そこで、本発明者らはH2n調質に着目し、最終焼鈍後に冷間圧延(スキンパス)やテンションレベラーなどの塑性加工(軽度の加工硬化を導入)を施し、適切な相当ひずみ量を付与(転位密度の最適化)することで、AB耐力増加とAs伸び低下抑制の両方を満足させることができることを見出した。
【0037】
本実施形態のアルミニウム合金板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
【0038】
本実施形態に係るプレス成形性及び耐デント性に優れたアルミニウム合金板の製造方法の一形態は、質量%で、Fe:1.0~1.5%、Mn:0.05~0.5%を含有し、残部がAl及び不純物からなるアルミニウム合金を鋳造する工程と、均質化熱処理する工程と、熱間圧延する工程と、冷間圧延する工程と、焼鈍する工程と、ひずみを付与する工程と、を有するアルミニウム合金板の製造方法であって上記均質化熱処理する工程における熱処理温度を460~620℃とし、上記熱間圧延する工程における、かつ、上記冷間圧延する工程における圧延率を好ましくは50%以上とし、上記ひずみを付与する工程におけるひずみ量を、相当ひずみ換算で3.0~7.5%とする。
【0039】
さらに、各工程について詳細に説明する。
[溶解、鋳造]
上述の化学組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されず、常法あるいは公知の方法を用いればよい。
【0040】
[均質化熱処理]
次いで、鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立ち、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理温度は、460℃~620℃とし、好ましくは500℃~600℃、より好ましくは560℃~590℃である。また、保持時間は、3~24時間とすることが好ましい。
【0041】
均質化熱処理温度が460℃未満であると、初晶粒子が微細化し、最終焼鈍時の再結晶粒が粗大化するため、AB耐力が低下する。
一方、均質化熱処理温度が620℃を超える場合には、鋳塊のバーニングが生じ、製造することができない。
【0042】
[冷間圧延]
次に、熱間圧延後の冷間圧延を常用の手法にて行い、アルミニウム合金板を得る。本実施形態においては、冷間圧延時の圧延率を50%以上とすることが望ましい。冷間圧延率が50%未満であると、焼鈍時の結晶粒径が大きくなり、焼鈍後にひずみを付与しても所望のAB耐力を得ることができない。
【0043】
[焼鈍]
上記冷間圧延を施したアルミニウム合金板に対して、最終焼鈍処理を行い、O材調質とする。この最終焼鈍処理は、バッチ焼鈍炉でもよいが、より好ましくは連続焼鈍炉にて300~550℃、更に好ましくは400~500℃で、0秒~10分保持することが望ましい。
連続焼鈍炉にて焼鈍処理することで、結晶粒が等軸化し、As伸びが確保されやすい。上記最終焼鈍処理の焼鈍温度が300℃より低いと、再結晶しづらくなり、等軸粒ではなく圧延方向に伸長した圧延組織が残留して、ひずみ付与後のAs伸びが低下する。一方で、上記各最終焼鈍処理が550℃より高いと、再結晶粒が粗大化し、強度が低下する。
【0044】
[ひずみ付与]
上述のとおり、本実施形態では、焼鈍後にひずみを付与する工程を有する。この付与するひずみ量を適切に調整することにより、本実施形態において規定する転位密度を有するアルミニウム合金板を得ることができる。ひずみの付与は、相当ひずみ換算で3.0~7.5%とする。
相当ひずみ量が3.0%未満であると、必要とする加工硬化量をこの工程において得ることができず、所望のAB耐力を得ることができない。一方、相当ひずみ量が7.5%を超えると、この工程により加工硬化し過ぎてしまい、As伸びが30%以上の所望の成形性が得られなくなる。
なお、ひずみを付与する方法については特に限定せず、例えば、冷間圧延(スキンパス)、テンションレベラー等の方法を用いることができる。
【0045】
上述した本実施形態のアルミニウム合金板は、プレス成形性が優れており、耐デント強度が優れているので、成形後に良好な美観を得ることができ、自動車のアウタパネルなどに好適に用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記及び後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
表1に示す化学組成のアルミニウム合金板を用いて下記の均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍及びひずみ付与を行った。ここで、表1中の「-」は、化学組成が0.05質量%未満であったことを示す。
【0048】
【表1】
【0049】
以下に、アルミニウム合金板の具体的な製造条件を説明する。表1に示す化学組成の鋳塊を560℃で4時間の条件にて均質化熱処理した後、熱間圧延を実施した。
次いで、熱間圧延後のアルミニウム合金板に対して、圧延率を84%として冷間圧延を実施し、板厚を1.32mmとした後に、450℃で1分保持の最終焼鈍を実施した。
【0050】
続いて、相当ひずみを付与するため、最終焼鈍後のアルミニウム合金板に対し、表2に示す相当ひずみを冷間圧延にて加え(番号1~5)、最終板厚を1.18~1.32mmとした。そして、ひずみ付与後のアルミニウム合金板から供試板を採取し、各供試板の組織と機械的特性を調査した。それぞれの測定結果を表2に示す。ここで、表2中の「-」は、測定未実施であることを示す。なお、相当ひずみの値は、ひずみを加えるための冷間圧延の前後の板厚を測定し、それを下記式(2)に代入して算出した。
【0051】
【数2】
【0052】
(転位密度の測定方法)
上記供試板の表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率のTEMとして、日本電子社製の透過電子顕微鏡:JEM-2100を用いて、加速電圧200kVの条件の下、転位密度ρを算出した。本実施例においては、転位組織写真上に、1本の長さ4000μmの直線を縦横21本ずつ作成し、転位との交点Nを測定し、上述のHamの方法にて転位密度ρを算出した。TEM試料の膜厚tは、転位組織を取得した領域の任意の1点に電子線を照射し、照射点の表面と裏面に炭化物(コンタミネーション)を形成させ、TEM試料を一方向にθ°傾斜させて生じた、表面と裏面のコンタミネーションの間隔xから、図1に示す幾何学的関係をもとに算出した。
【0053】
(機械的性質)
機械的性質の測定に供する引張試験片は、上記相当ひずみ付与後の供試板から、引張方向が圧延方向に垂直となるように、JIS Z 2241の5号試験片(幅25mm×標点距離50mm×板厚1.18~1.32mm)を採取及び作製し、室温にて引張試験を行った。引張試験の速度は、ひずみ0.5%までを3mm/min、ひずみ0.5%以降を30mm/minとした。なお、上記相当ひずみ付与後の供試板から2枚の試験片を詐取し、各引張特性は2本の平均値とした。
ここで、自動車アウタパネルへのプレス成形性としては、0.2%As耐力(塗装焼付け処理前の耐力)は45MPa以上、As伸び(突合せ伸び)が30%以上で合格とした。突合せ伸びは、JIS Z 2241に準拠して測定した。なお、この45MPa以上のAs耐力は、2%のひずみ付与後170℃-20分の人工時効処理で、75MPa以上の0.2%AB耐力を確実に得るためにも好ましい。
【0054】
(塗装焼付け処理後の強度)
塗装焼付け処理後の強度(AB耐力)は、最終焼鈍後の板の圧延方向に対して垂直方向に2%のひずみの引張変形を予め付与した後で、自動車アウタパネルの人工時効処理(塗装焼き付け処理)を模擬して、170℃-20分の人工時効処理をした。この人工時効処理後の板から、圧延方向に対して垂直方向となる引張試験片を採取し、上記要領にて引張試験を行って、AB耐力を各々測定した。
ここで、自動車アウタパネルとして、耐デント性に必要なAB耐力は75MPa以上で合格とした。
また、プレス成形後の耐デント強度Pについて、本実施形態では上述のAB耐力をσ(MPa又はP/mm)、引張試験片の板厚をt(mm)とし、下記式(3)を用いて算出した。
【0055】
【数3】
【0056】
【表2】
【0057】
また、図2において、実施例で作製したアルミニウム合金板における、相当ひずみとAB耐力の関係、及び、相当ひずみとAs伸びの関係を示すグラフを示し、図3において、当該アルミニウム合金板における、相当ひずみと転位密度の関係を示すグラフを示す。表2、図2及び図3に示すように、転位密度が平均で0.8×1010~1.4×1010/mであると、As伸びが30%以上であり、耐デント性に優れることがわかる。
【0058】
また、相当ひずみが3.0~7.5%の範囲であれば、AB耐力が75MPa以上で、As伸びが30%以上であり、更には転位密度が0.8×1010~1.4×1010/mの範囲を満足する。
【0059】
したがって、以上の実施例の結果から、本発明に係るアルミニウム合金板を得るための、本発明において規定する化学組成や転位密度の要件を全て満たすことの意義が裏付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、板厚が4mm以下の薄板であっても、高いプレス成形性を有するとともに、耐デント性に優れたアルミニウム合金板を提供することができる。本発明のアルミニウム合金板は、成形後の美観が優れているため、自動車のアウタパネル用として好適に用いることができる。
図1
図2
図3