(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018552
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】車両用回転電機のステータコイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20220120BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
H02K3/04 J
H02K15/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121730
(22)【出願日】2020-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】湯 飛
(72)【発明者】
【氏名】中村 将也
(72)【発明者】
【氏名】西田 将成
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】池谷 岳則
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA03
5H603AA09
5H603CA01
5H603CB04
5H603CE01
5H603EE01
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP15
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】複数個の導体セグメントのリード部の隣接する端部同士がレーザ溶接により接合されて形成される車両用回転電機のステータコイルにおいて、リード部の端部の接合面における強度不足を抑制できる構造を提供する。
【解決手段】リード部54の互いに隣接する端部55の接合面58間に開先62が形成されているため、レーザ溶接時には開先62が埋まるまでレーザ光を照射することで、溶接後の接合面58における溶融断面積Saを確保することができる。その結果、レーザ溶接される接合面58の溶融断面積Saが不足することによる接合部64の強度不足を抑制することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアの内周部に形成されるスロットに複数個の導体セグメントが挿通され、前記ステータコアから突き出す前記導体セグメントのリード部の互いに隣接する端部同士がレーザ溶接によって接合されて形成される、車両用回転電機のステータコイルであって、
レーザ溶接前において、前記リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成されている
ことを特徴とする車両用回転電機のステータコイル。
【請求項2】
前記開先は、前記リード部の互いに隣接する端部の少なくとも一方に形成される切欠によって形成され、
前記切欠の面積は、前記開先が埋まった状態において、前記リード部の互いに隣接する端部の前記接合面における溶接後の溶融断面積が、予め設定されている規定値以上となる値に設定されている
ことを特徴とする請求項1の車両用回転電機のステータコイル。
【請求項3】
ステータコアの内周部に形成されるスロットに複数個の導体セグメントが挿通され、前記ステータコアから突き出す前記導体セグメントのリード部の互いに隣接する端部同士がレーザ溶接によって接合されて形成される、車両用回転電機のステータコイルの製造方法であって、
前記リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成された状態で、前記開先が埋まるまでレーザ光を照射することで、前記端部同士を接合する工程を含む
ことを特徴とする車両用回転電機のステータコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用回転電機のステータコイルの構造およびステータコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用回転電機のステータを構成するステータコアに複数個の導体セグメントが挿通され、ステータコアから突き出す各導体セグメントのリード部の互いに隣接する端部同士がレーザ溶接によって接合されて形成される、車両用回転電機のステータコイルが知られている。特許文献1に記載のステータコイルがそれである。特許文献1には、レーザ溶接により形成された溶融池の跡に、残留ボイドを内蔵することで、リード部の端部に形成される接合部の表面積を増加して、ステータコイルの通電時における接合部の放熱性を向上させる技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来では、導体セグメントのリード部の端部同士が平らな面で接触した状態でレーザ溶接されるため、レーザ溶接時においてリード部の互いに隣接する端部の接合面がどの程度まで溶接されたかがわからず、接合面の溶融断面積が不足する場合には、接合面における強度不足が発生する虞がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、複数個の導体セグメントのリード部の隣接する端部同士がレーザ溶接により接合されて形成される車両用回転電機のステータコイルにおいて、リード部の端部の接合面における強度不足を抑制できる構造および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)ステータコアの内周部に形成されるスロットに複数個の導体セグメントが挿通され、前記ステータコアから突き出す前記導体セグメントのリード部の互いに隣接する端部同士がレーザ溶接によって接合されて形成される、車両用回転電機のステータコイルであって、(b)レーザ溶接前において、前記リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明の車両用回転電機のステータコイルにおいて、(a)前記開先は、前記リード部の互いに隣接する端部の少なくとも一方に形成される切欠によって形成され、(b)前記切欠の面積は、前記開先が埋まった状態において、前記リード部の互いに隣接する端部の前記接合面における溶接後の溶融断面積が、予め設定されている規定値以上となる値に設定されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、(a)ステータコアの内周部に形成されるスロットに複数個の導体セグメントが挿通され、前記ステータコアから突き出す前記導体セグメントのリード部の互いに隣接する端部同士がレーザ溶接によって接合されて形成される、車両用回転電機のステータコイルの製造方法であって、(b)前記リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成された状態で、前記開先が埋まるまでレーザ光を照射することで、前記端部同士を接合する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明の車両用回転電機のステータコイルによれば、リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成されているため、レーザ溶接時には開先が埋まるまでレーザ光を照射することで、溶接後の接合面における溶融断面積を確保することができる。これより、レーザ溶接される接合面の溶融断面積が不足することによる接合面の強度不足を抑制することができる。
【0010】
第2発明の車両用回転電機のステータコイルによれば、切欠の面積が、開先が埋まった状態において、リード部の互いに隣接する端部の接合面における溶接後の溶融断面積が規定値以上になる値に設定されているため、開先が埋まるまでレーザ溶接を行うことで、溶接後の溶融断面積を規定値以上とすることができる。
【0011】
第3発明の車両用回転電機のステータコイルの製造方法によれば、リード部の互いに隣接する端部の接合面間に開先が形成された状態で、その開先が埋まるまでレーザ光を照射する工程を含むため、溶接後の接合面における溶融断面積を確保することができる。これより、レーザ溶接される接合面の溶融断面積が不足することによる接合面の強度不足を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用された車両に備えられる車両用駆動装置の一部を示す断面図である。
【
図2】
図1のステータコアを矢印A方向から見た図である。
【
図3】ステータコアにステータコイルが巻き掛けられている状態で、周方向の一部を平面に展開した展開図である。
【
図4】ステータの製造工程の一部を簡略的に示す図である。
【
図5】ステータコアから突き出す各リード部が倒し込まれた状態を示す斜視図である。
【
図6】一対のリード部の互いに隣接する端部をステータコアの周方向に沿って見た図である。
【
図7】
図6においてリード部の端部を矢印C方向から見た図である。
【
図8】溶接後における一対のリード部の端部を示す図である。
【
図9】
図8において切断線Eで切断した断面図である。
【
図10】ステータの製造工程のうちステータコアに巻き掛けられるステータコイルを製造する製造工程を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0014】
図1は、本発明が適用された車両に備えられる車両用駆動装置10(以下、駆動装置10)の一部を示す断面図である。駆動装置10は、例えば電気自動車またはハイブリッド車両に備えられる。駆動装置10は、非回転部材であるケース12内において、車両の走行用駆動源として機能する車両用回転電機MG(以下、回転電機MG)を備えている。
【0015】
ケース12内には、隔壁16によって仕切られたモータ室18が形成され、このモータ室18内に回転電機MGが収容されている。回転電機MGは、回転軸線CLを中心にして回転可能に配置されている。回転電機MGは、ケース12に回転不能に固定されている円筒状のステータ20と、ステータ20の内周側に配置されているロータ24と、を備えている。
【0016】
ステータ20は、円筒状のステータコア22と、そのステータコア22に巻き掛けられているステータコイル28と、を備えている。ステータコイル28は、断面が矩形の平角線の銅線が使用されている。
【0017】
図2は、
図1のステータコア22を矢印A方向から見た図である。ステータコア22は、環状のヨーク30と、ヨーク30の内周面から径方向内側に向かって突き出す複数個のティース32と、を備えている。ステータコア22は、複数枚の電磁鋼板34が積層されることにより構成されている。複数個のティース32は、ステータコア22の周方向で等角度間隔に配置されている。これに関連して、ステータコア22の内周部であって、ステータコア22の周方向で各ティース32の間には、径方向に沿って形成された空間である複数個のスロット35が形成される。各スロット35には、ステータコイル28を構成する複数個の導体セグメント48(
図4参照)が挿通される。ステータコア22は、複数本のボルト26によってケース12に回転不能に固定されている。
【0018】
図1に戻り、ロータ24は、ステータコア22の内周側に配置されているロータコア36と、ロータコア36の回転軸線CL方向(軸方向)でロータコア36の両端に隣接する一対のエンドプレート38a、38bと、ロータコア36および一対のエンドプレート38a、38bの内周側に配置されているロータシャフト40と、を備えている。ロータコア36は、複数枚の電磁鋼板42が積層されて構成されている。ロータコア36には、複数個の永久磁石44が内蔵されている。
【0019】
一対のエンドプレート38a、38bは、回転軸線CL方向でロータコア36の両端を挟むようにして配置されている。一対のエンドプレート38a、38bは、所定の厚みを有する円板形状に形成されている。一対のエンドプレート38a、38bは、例えばステンレス(SUS)等の非磁性金属板から形成されている。
【0020】
ロータシャフト40は、円筒状に形成され、軸方向(回転軸線CL方向)の両側に配置されている一対の軸受46a、46bによって、回転軸線CLを中心にして回転可能に支持されている。ロータシャフト40の外周面に、ロータコア36および一対のエンドプレート38a、38bが相対回転不能に固定されることで、ロータ24が、回転軸線CLを中心にして一体的に回転させられる。
【0021】
図3は、ステータコア22にステータコイル28が巻き掛けられている状態で、ステータコア22の周方向の一部を平面に展開した展開図である。また、
図4は、ステータコア22にステータコイル28を構成する導体セグメント48を挿通する工程を簡略的に示す図である。
図3および
図4において、紙面左右方向がステータコア22の周方向(回転方向)に対応し、紙面上下方向が回転軸線CL方向に対応している。
【0022】
図4に示すU字状の部材は、ステータコイル28を構成する導体セグメント48に対応している。導体セグメント48は、互いに平行な一対の脚50a、50bと、これら一対の脚50a、50bを繋ぐ連結部52とからなる。ステータコア22に導体セグメント48を挿通する工程では、導体セグメント48の脚50a、50b(以下、区別しない場合には脚50と称す)の先端が、ステータコア22に向かい合う姿勢でステータコア22に向かって移動させられる。このとき、導体セグメント48の一対の脚50が、ステータコア22の異なるスロット35にそれぞれ挿し通され、一対の脚50の一部がステータコア22から突き出した状態になる。ここで、各スロット35においてステータコア22の周方向の間隙(隙間)の寸法が、導体セグメント48の脚50の幅よりも僅かに大きい寸法とされている。従って、各導体セグメント48がステータコア22の各スロット35に挿し通された状態では、導体セグメント48の各脚50が、スロット35の径方向に一列に並ぶようにして配置される。
【0023】
次いで、
図3に示すように、各導体セグメント48の脚50のうちステータコア22から突き出した部位(以下、リード部54)が、それぞれステータコア22の周方向に沿って倒し込まれる。
【0024】
ここで、ステータコア22の各スロット35内には、各導体セグメント48の各脚50が径方向で一直線に並んで配置されていることから、ステータコア22から突き出す各リード部54についても、ステータコア22の径方向で一直線に並んだ状態で、ステータコア22から突き出すこととなる。ステータコア22の各スロット35において径方向に並んで配置される各リード部54は、交互に反対方向に倒し込まれる。
【0025】
例えば、各スロット35においてステータコア22の径方向で最も外側に位置するリード部54が、ステータコア22の周方向で反時計回りの方向に倒し込まれると、その反時計回りの方向に倒し込まれたリード部54に隣り合うリード部54が、ステータコア22の周方向で時計回りの方向に倒し込まれる。さらに、時計回り方向に倒し込まれたリード部54に隣り合い、且つ、そのリード部54よりもステータコア22の径方向内側に位置するリード部54が、ステータコア22の周方向で反時計回りの方向に倒し込まれる。
【0026】
図5は、ステータコア22から突き出す各リード部54が倒し込まれた状態を示す斜視図である。
図5において、各リード部54が交互に重なる方向が、ステータコア22の径方向に対応し、各リード部54の倒し込まれている方向が、ステータコア22の周方向に対応している。
図5に示すように、各スロット35においてステータコア22の径方向で隣り合うリード部54が、交互に反対方向に倒し込まれることで、各リード部54の端部55同士が、対になってステータコア22の径方向に隣接させられた状態になる。導体セグメント48の各リード部54のステータコア22の径方向で互いに隣接する端部55同士がレーザ溶接によって接合されることで、各導体セグメント48が互いに接続されて成るステータコイル28が形成される。
【0027】
次に、導体セグメント48のリード部54の端部55同士を接合するレーザ溶接による接合方法(すなわちステータコイル28の製造方法)について説明する。
図6および
図7は、互いに溶接される一対のリード部54の端部55の形状を説明する図である。
図6および
図7は、一対のリード部54の端部55が溶接される前の形状を示している。
図6において、一対のリード部54を区別するため、
図6において紙面右側に位置するリード部54には符号54aを付し、
図6において紙面左側に位置するリード部54には符号54bを付した。また、リード部54aの端部55には符号55aを付し、リード部54bの端部55には符号55bを付した。また、
図6のリード部54aが、
図7の紙面右側に位置するリード部54aに対応し、
図6のリード部54bが、
図7の紙面左側に位置するリード部54bに対応している。
【0028】
図6は、一対のリード部54の端部55をステータコア22の周方向に沿って見た図であり、
図7において切断線Dで切断した場合の図に対応している。
図6において紙面左右方向が、ステータコア22の径方向に対応している。各リード部54a、54bは、それぞれ絶縁体56によって被覆されている。また、リード部54aの端部55aが、絶縁体56から露出するとともに、リード部54bの端部55bが、絶縁体56から露出している。従って、リード部54aの端部55aおよびリード部54bの端部55bは、それぞれ銅線から構成される。
【0029】
リード部54aの端部55aおよびリード部54bの端部55bの互いに隣接する部位が、レーザ溶接によって接合される。レーザ溶接では、リード部54aの端部55aとリード部54bの端部55bとの互いに隣接する接合面58(合わせ面)に向かって、図示しないレーザ発振器からのレーザ光を照射し、レーザ光からのエネルギを熱源として互いの端部55を溶接する。
【0030】
レーザ溶接では、接合面58の深部まで溶接できることが知られている。しかしながら、端部55aおよび端部55bの接合部64(
図8参照)の外観と、接合面58間で実際に溶接される面積である溶融断面積Sa(
図9参照)との間に相関がなく、溶融断面積Saが予め設定されている規定値α以上になったかを判断するには、破壊試験による検査が必要になっていた。これに対して、互いに隣接する端部55aおよび端部55bの接合面58間に、開先62が形成されている。開先62は、互いに隣接する端部55aと端部55bとの間の接合面58間に形成される溝状の空間に対応している。開先62は、リード部54aの端部55aに形成されるテーパ状の切欠60によって形成される。すなわち、リード部54aの端部55aにテーパ状の切欠60が形成されることで、隣接する端部55aと端部55bとの接合面58間に溝状の開先62が形成される。切欠60は、例えば切断加工によって形成される。
【0031】
接合面58間に開先62が形成されることで、レーザ溶接によって端部55aおよび端部55bの接合面58に向かってレーザ光が照射されると、開先62の底から溶融池が生成される。さらに、レーザ溶接において開先62が埋まるまでレーザ光が照射されることで、接合面58において互いに接合される面積に相当する溶融断面積Saが確保される。
【0032】
図7は、
図6においてリード部54aの先端部を矢印C方向から見た図である。なお、
図7において、リード部54aに接合されるリード部54bを二点鎖線(想像線)で示した。
図7のリード部54aの端部55aにおいて斜線の施されている部位が切欠60に対応している。この斜線が施されている切欠60の面積Sbは、レーザ溶接によって開先62が埋まった状態において、一対のリード部54a、54bの互いに隣接する端部55a、55bの接合面58における溶接後の溶融断面積Saが、予め設定されている規定値α以上となる値に設定されている。また、前記規定値αは、溶接後のリード部54aの端部55aとリード部54bの端部55bとの間の接合面58間で破断することのない強度が確保される値に設定されている。
【0033】
図8は、溶接後におけるリード部54aの端部55aおよびリード部54bの端部55bの接合部64を示す図であり、その接合部64をステータコア22の径方向外側から見た図である。
図8において、斜線が施された部位が、端部55aと端部55bとの接合部64に対応している。接合部64が平坦または盛り上がった形状になると、開先62が埋まったと判断される。
【0034】
図9は、
図8の接合部64を切断線Eで切断した断面図である。
図9において、破線が切欠60の底との境界線に対応し、斜線が施されている部位がレーザ溶接による溶融断面積Saに対応している。
図9に示すように、開先62が埋まるまでレーザ光が照射されると、少なくても破線で示す切欠60の底よりも深い部位まで溶接され、その結果、溶融断面積Saが規定値α以上になる。
【0035】
このように、リード部54aの端部55aとリード部54bの端部55bとの接合面58間に形成される開先62が埋まるまでレーザ溶接を施すことで、接合面58の溶融断面積Saが規定値α以上になり、端部55aと端部55bとの接合部64での強度を確保することができる。また、接合面58での溶融断面積Saが規定値α以上になったかは、開先62が埋まるまで溶接されたかを外観検査することで判断される。すなわち、破壊検査を行うことなく、接合面58での溶融断面積Saが規定値α以上であるかを判断することができる。
【0036】
図10は、ステータ20の製造工程のうちステータコア22に巻き掛けられるステータコイル28を製造する製造工程を説明するフローチャートである。
図10のフローチャートのステップST1~ST5の各工程が、本発明におけるステータコイル28の製造方法に対応している。
【0037】
先ず、ステップST1では、ステータコア22の各スロット35に複数個のU字状の導体セグメント48を脚50側から挿し通す挿通工程を実行する。
【0038】
次いで、ステップST2では、ステータコア22から突き出した導体セグメント48のリード部54をステータコア22の周方向に倒し込む倒し込み工程を実行する。このとき、ステータコア22のスロット35内において径方向で隣り合うリード部54が交互に異なる方向に倒し込まれる。
【0039】
次いで、ステップST3では、ステータコア22の径方向に隣接するリード部54の端部55の接合面58間に向かってレーザ光を照射することで、一対のリード部54の端部55同士をレーザ溶接によって接合する接合工程を実行する。このとき、溶接前のリード部54の端部55の接合面58間には、それぞれ開先62が形成されており、その開先62が埋まるまでレーザ光が照射される。
【0040】
次いで、ステップST4では、各リード部54の接合部64が、開先62が埋まるまで溶接されたかを検査する検査工程を実行する。検査工程では、例えばカメラに映し出される各接合部64が画像解析によって解析され、各接合部64の開先62が埋まったか、すなわち各接合部64が平坦または盛り上がった形状になったかが検査される。
【0041】
次いで、ステップST5では、各リード部54の端部55に絶縁樹脂を塗布する塗布工程を実行する。このように、ステータコイル28の製造工程において、導体セグメント48においてレーザ溶接されるリード部54の端部55の溶接面58間に開先62が形成された状態で、開先62が埋まるまでレーザ光を照射し、リード部54の端部55同士を接合することで、破壊検査を実施することなく、接合面58での溶融断面積Saを規定値α以上にすることができる。
【0042】
上述のように、本実施例によれば、リード部54の互いに隣接する端部55の接合面58間に開先62が形成されているため、レーザ溶接時には開先62が埋まるまでレーザ光を照射することで、溶接後の接合面58における溶融断面積Saを確保することができる。これより、レーザ溶接される接合面58の溶融断面積Saが不足することによる接合部64の強度不足を抑制することができる。また、切欠60の面積Sbが、開先62が埋まった状態において、リード部54の互いに隣接する端部55の接合面58における溶接後の溶融断面積Saが規定値α以上になる値に設定されているため、開先62が埋まるまでレーザ溶接を行うことで、溶接後の溶融断面積Saを規定値α以上とすることができる。
【0043】
また、本実施例によれば、ステータコイル28の製造に際して、リード部54の互いに隣接する端部55の接合面58間に開先62が形成された状態で、その開先62が埋まるまでレーザ光を照射する工程を含むため、溶接後の接合面58における溶融断面積Saを確保することができる。これより、レーザ溶接される接合面58の溶融断面積Saが不足することによる接合面58の強度不足を抑制することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0045】
例えば、前述の実施例では、一対のリード部54a、54bのうちリード部54aの端部55aに切欠60が形成されることで、接合面58間に開先62が形成されるものであったが、リード部54bの端部55bに切欠が形成されることで接合面58間に開先が形成されるものであってもよく、リード部54aの端部55aおよびリード部54bの端部55bの両方に切欠が形成されることで接合面58間に開先が形成されるものであっても構わない。
【0046】
また、前述の実施例では、リード部54aの端部55aにテーパ状の切欠60が形成されることで、一対のリード部54a、54bの接合面58間に開先62が形成されるものであったが、切欠60の形状は必ずしもテーパ状に限定されない。例えば、切欠が段付状に形成されることで、開先が凹状に形成されるものであっても構わない。要は、一対のリード部54a、54bの接合面58間に開先(空間)が形成される形状であれば、切欠の形状を適宜変更することができる。
【0047】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。